説明

ドライアイ処置の為のマクロライド化合物の使用

【課題】ドライアイの新しい処置剤の提供。
【解決手段】ドライアイの自覚症状、および涙液層破壊時間等の涙液評価において優れた改善効果を有する、下記マクロライド化合物を有効成分とする処置剤の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイの処置剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近年、関心が高まっている眼疾患症状の1つにドライアイがある。ドライアイとは「涙液の量の低下または質に異常をきたした状態で角結膜障害の有無は問わない」と定義されている(Yamada, M.ら、Folia Ophthalmol. Jpn., 43, 1289-1293 (1992))、具体的には涙液減少症、欠涙症、眼乾燥症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンズ−ジェンソン症候群、眼類天疱瘡、眼瞼縁炎症、糖尿病等の疾患にみられるドライアイ、白内障術後にみられるドライアイ、アレルギー性結膜炎等に伴われるドライアイ、さらにはVDT(visual display terminal)作業の増加、冷暖房による部屋の乾燥等によって生じる涙液減少疾患によるドライアイ等が挙げられる。
【0003】
ドライアイの原因は、不明のものを含めて様々であるが、現在の所、涙液分泌の促進といった抜本的な治療方法は確立していない。従って、問診による自覚的症状と、涙液評価検査(涙液層破壊時間、シルマーテスト、涙液クリアランス試験等)、角結膜の染色試験(フルオレセイン染色、ローズベンガル染色等)等の他覚的症状によりドライアイを診断している。例えば涙液評価検査の一つである涙液層破壊時間(BUT)は、涙液層の安定性を反映し、完全な瞬目から、角膜上皮上の涙液層が最初に破壊されるまでの時間(秒)をいう。BUTが低いほどドライアイ症状が重いと考えられ、重篤なドライアイでは瞬目の直後にすでに涙液層が破壊しているときがあり、これはBUTゼロ(0)秒とみなされる。
【0004】
現在、ドライアイの治療には、人工涙液の点眼によって結膜嚢内貯留涙液量の増加をはかり、患者の自覚症状の緩和を図る方法や、乾燥から眼を守る方法、および他の方法等が行われている。
上記治療には、コンドロイチン硫酸、メチルセルロース等の点眼や塩酸ブロムヘキシン、唾液腺ホルモン等の内服などが典型的に用いられているが、そのような治療効果は必ずしも満足できるものではない。また、乾燥から眼を守るために、人工涙液の点眼やゴーグルアイパッチ等が用いられているが、これらはあくまでも補助的な治療方法に過ぎない。
【発明の概要】
【0005】
発明の開示
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、意外にもマクロライド化合物が特にドライアイの自覚症状に対し、また、涙液層破壊時間等の涙液評価検査において、優れた改善効果を有し、ドライアイに対する優れた治療効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次のとおりである。
(1)マクロライド化合物を有効成分として含有する、ドライアイ処置剤。
(2)マクロライド化合物が、下記式のトリシクロ化合物(I)またはその医薬上許容され得る塩である、(1)記載の剤。
【0006】
【化1】

【0007】
「式中、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6の隣接するそれぞれの対は、各々独立して、
a)2つの隣接する水素原子からなるか(ここでR2は任意にアルキルである)、または
b)当該対のそれぞれに結合している炭素原子どうしの間でもうひとつの結合を形成し;
7は水素原子、ヒドロキシ、アルキルオキシ、または保護されたヒドロキシを表わすか、またはR1と共にオキソを形成してもよく;
8およびR9は各々独立して、水素原子またはヒドロキシを示し;
10は水素原子、アルキル、アルケニル、1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルキル、1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルケニル、またはオキソによって置換されたアルキルであり;
Xはオキソ、(水素原子、ヒドロキシ)、(水素原子、水素原子)、または式−CH2O−で表わされる基であり;
Yはオキソ、(水素原子、ヒドロキシ)、(水素原子、水素原子)、または式N−NR1112もしくはN−OR13で表わされる基であり;
11およびR12は各々独立して水素原子、アルキル、アリールまたはトシルを示し;
13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R22およびR23は各々独立して水素原子またはアルキルを示し;
24は、任意に置換されている、1またはそれ以上の複素原子を含んでいてもよい環であり;
nは1または2を表わす。
上記の意味に加え、さらにY、R10およびR23はそれらが結合している炭素原子と一緒になって飽和もしくは不飽和の5員もしくは6員環からなる窒素原子、硫黄原子および/もしくは酸素原子を含有する複素環基を形成してもよく、その複素環基は、アルキル、ヒドロキシ、アルキルオキシ、ベンジル、式−CH2Se(C65)で表わされる基、および1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルキルからなる群より選択される1またはそれ以上の基によって置換されていてもよい」。
(3)マクロライド化合物がFK506である、(1)または(2)記載の剤。
(4)眼局所投与用製剤の形態である、(1)〜(3)のいずれかに記載の剤。
(5)涙液層破壊時間の改善を目的とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の剤。
(6)ドライアイの処置を必要とする対象に対して有効量のマクロライド化合物を投与することを含む、ドライアイの処置方法。
(7)ドライアイの処置のための医薬組成物の製造のためのマクロライド化合物の使用。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明に使用されるマクロライド化合物の幾つかは、以下に示すように公知であり、またこれら公知のマクロライド化合物から公知の方法により新規マクロライド化合物を調製することもできる。それらの好ましい具体例としては、FK506、アスコマイシン誘導体、ラパマイシン誘導体等のマクロライド化合物が挙げられる。
【0009】
具体的なマクロライド化合物の例示としては、下記式のトリシクロ化合物(I)、およびその医薬上許容され得る塩が挙げられる。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6の隣接するそれぞれの対は、各々独立して、
a)2つの隣接する水素原子からなるか(ここでR2は任意にアルキルである)、または
b)当該対のそれぞれに結合している炭素原子どうしの間でもうひとつの結合を形成し;
7は水素原子、ヒドロキシ、アルキルオキシ、保護されたヒドロキシを表わすか、またはR1と共になってオキソを形成してもよく;
8およびR9は各々独立して、水素原子、ヒドロキシを示し;
10は水素原子、アルキル、アルケニル、1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルキル、1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルケニル、またはオキソによって置換されたアルキルであり;
Xはオキソ、(水素原子、ヒドロキシ)、(水素原子、水素原子)、または式−CH2O−で表わされる基であり;
Yはオキソ、(水素原子、ヒドロキシ)、(水素原子、水素原子)、または式N−NR1112もしくはN−OR13で表わされる基であり;
11およびR12は独立して水素原子、アルキル、アリールまたはトシルを示し;
13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R22およびR23は各々独立して水素原子またはアルキルを示し;
24は、任意に置換されている、1またはそれ以上の複素原子を含んでいてもよい環であり;
nは1または2を表わす。
上記の意味に加え、さらにY、R10およびR23はそれらが結合している炭素原子と一緒になって飽和もしくは不飽和の5員もしくは6員環からなる窒素原子、硫黄原子および/もしくは酸素原子を含有する複素環基を形成してもよく、その複素環基は、アルキル、ヒドロキシ、アルキルオキシ、ベンジル、式−CH2Se(C65)で表わされる基、および1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルキルからなる群より選択される1またはそれ以上の基によって置換されていてもよい)
【0012】
好ましいR24は、例えば以下のような適当な置換基を任意に有するシクロ(C5-7)アルキルを挙げることが出来る。
(a)3,4−ジオキソシクロヘキシル;
(b)3−R20−4−R21−シクロヘキシル、
{式中、R20はヒドロキシ、アルキルオキシ、または−OCH2OCH2CH2OCH3であり、
21はヒドロキシ、−OCN、アルキルオキシ、適当な置換基を任意に有するヘテロアリールオキシ、−OCH2OCH2CH2OCH3、保護されたヒドロキシ、クロロ、ブロモ、ヨード、アミノオキザリルオキシ、アジド、p−トリルオキシチオカルボニルオキシ、またはR2526CHCOO−(式中、R25は所望により任意に保護されているヒドロキシ、または保護されたアミノ、およびR26は水素原子またはメチルである)、
またはR20とR21は一緒になって、エポキシド環の酸素原子を形成する};または
(c)シクロペンチルであって、そのシクロペンチルは、メトキシメチル、所望により保護されたヒドロキシメチル、アシルオキシメチル(その中において、アシル部分は、所望により任意に4級化されているジメチルアミノまたは任意にエステル化されているカルボキシである)、1個またはそれ以上の任意に保護されているアミノおよび/またはヒドロキシ、またはアミノオキザリルオキシメチルで置換されている。好ましい例は、2−ホルミルシクロペンチルである。
【0013】
一般式(I)において使用されている各定義、その具体例、並びにその好ましい実施態様を以下に詳細に説明する。
「低級」とは特に指示がなければ、炭素原子1〜6個を有する基を意味する。
「アルキル」および「アルキルオキシ」のアルキル部分の好ましい例としては、直鎖もしくは分枝鎖脂肪族炭化水素残基が挙げられ、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等の低級アルキルが挙げられる。
「アルケニル」の好ましい例としては、1個の二重結合を含有する直鎖もしくは分枝鎖脂肪族炭化水素残基が挙げられ、例えばビニル、プロペニル(アリル等)、ブテニル、メチルプロペニル、ペンテニル、ヘキセニル等の低級アルケニルが挙げられる。
【0014】
「アリール基」の好ましい例としては、フェニル、トリル、キシリル、クメニル、メシチル、ナフチル等が挙げられる。
「保護されたヒドロキシ」および「保護されたアミノ」における保護基の好ましい例としては、例えばメチルチオメチル、エチルチオメチル、プロピルチオメチル、イソプロピルチオメチル、ブチルチオメチル、イソブチルチオメチル、ヘキシルチオメチル等の低級アルキルチオメチルのような1−(低級アルキルチオ)(低級)アルキル、さらに好ましいものとしてC1〜C4アルキルチオメチル、最も好ましいものとしてメチルチオメチル;
例えばトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリブチルシリル、第三級ブチルジメチルシリル、トリ第三級ブチルシリル等のトリ(低級)アルキルシリル、例えばメチルジフェニルシリル、エチルジフェニルシリル、プロピルジフェニルシリル、第三級ブチルジフェニルシリル等の低級アルキルジアリールシリル等のようなトリ置換シリル、さらに好ましいものとしてトリ(C1〜C4)アルキルシリルおよびC1〜C4アルキルジフェニルシリル、最も好ましいものとして第三級ブチルジメチルシリルおよび第三級ブチルジフェニルシリル;
カルボン酸、スルホン酸およびカルバミン酸から誘導される脂肪族アシル、芳香族アシルおよび芳香族基で置換された脂肪族アシルのようなアシル;等が挙げられる。
【0015】
脂肪族アシル基としては、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、カルボキシアセチル、カルボキシプロピオニル、カルボキシブチリル、カルボキシヘキサノイル等の、カルボキシのような適当な置換基を1個またはそれ以上任意に有する低級アルカノイル;
例えばシクロプロピルオキシアセチル、シクロブチルオキシプロピオニル、シクロヘプチルオキシブチリル、メンチルオキシアセチル、メンチルオキシプロピオニル、メンチルオキシブチリル、メンチルオキシペンタノイル、メンチルオキシヘキサノイル等の、低級アルキルのような適当な置換基を1個またはそれ以上を任意に有するシクロ(低級)アルキルオキシ(低級)アルカノイル、カンファースルホニル;
例えばカルボキシメチルカルバモイル、カルボキシエチルカルバモイル、カルボキシプロピルカルバモイル、カルボキシブチルカルバモイル、カルボキシペンチルカルバモイル、カルボキシヘキシルカルバモイル等のカルボキシ(低級)アルキルカルバモイル、ならびに例えばトリメチルシリルメトキシカルボニルエチルカルバモイル、トリメチルシリルエトキシカルボニルプロピルカルバモイル、トリエチルシリルエトキシカルボニルプロピルカルバモイル、第三級ブチルジメチルシリルエトキシカルボニルプロピルカルバモイル、トリメチルシリルプロポキシカルボニルブチルカルバモイル等のトリ(低級)アルキルシリル(低級)アルキルオキシカルボニル(低級)アルキルカルバモイル等の、カルボキシもしくは保護されたカルボキシのような適当な置換基を1個またはそれ以上有する低級アルキルカルバモイル等が挙げられる。
芳香族アシル基としては、例えばベンゾイル、トルオイル、キシロイル、ナフトイル、ニトロベンゾイル、ジニトロベンゾイル、ニトロナフトイル等の、ニトロのような適当な置換基を任意に有するアロイル;
例えばベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル、キシレンスルホニル、ナフタレンスルホニル、フルオロベンゼンスルホニル、クロロベンゼンスルホニル、ブロモベンゼンスルホニル、ヨードベンゼンスルホニル等の、ハロゲンのような適当な置換基を1個またはそれ以上任意に有するアレーンスルホニル等が挙げられる。
【0016】
芳香族基で置換された脂肪族アシル基としては、低級アルキルオキシまたはトリハロ(低級)アルキルのような適当な置換基を1個またはそれ以上任意に有するアル(低級)アルカノイル(ここで具体例はフェニルアセチル、フェニルプロピオニル、フェニルブチリル、2−トリフルオロメチル−2−メトキシ−2−フェニルアセチル、2−エチル−2−トリフルオロメチル−2−フェニルアセチル、2−トリフルオロメチル−2−プロポキシ−2−フェニルアセチル等である)が挙げられる。
【0017】
上記アシル基中、さらに好ましいアシルとしては、カルボキシを任意に有するC1〜C4アルカノイル、シクロアルキル部分に(C1〜C4)アルキルを2個有するシクロ(C5〜C6)アルキルオキシ(C1〜C4)アルカノイル、カンファースルホニル、カルボキシ(C1〜C4)アルキルカルバモイル、トリ(C1〜C4)アルキルシリル(C1〜C4)アルキルオキシカルボニル(C1〜C4)アルキルカルバモイル、ニトロを1個または2個任意に有するベンゾイル、ハロゲンを有するベンゼンスルホニル、およびC1〜C4アルキルオキシとトリハロ(C1〜C4)アルキルを有するフェニル(C1〜C4)アルカノイルが挙げられ、それらのうち、最も好ましいものとしては、アセチル、カルボキシプロピオニル、メンチルオキシアセチル、カンファースルホニル、ベンゾイル、ニトロベンゾイル、ジニトロベンゾイル、ヨードベンゼンスルホニル、2−トリフルオロメチル−2−メトキシ−2−フェニルアセチル等が挙げられる。
【0018】
「飽和もしくは不飽和の5員もしくは6員環からなる窒素原子、硫黄原子および/もしくは酸素原子を含有する複素環基」の好ましい例としては、ピロリル、テトラヒドロフリル等が挙げられる。
「適当な置換基を任意に有するヘテロアリールオキシ」の中の「適当な置換基を任意に有するヘテロアリール」部分とは、EP−A−532,088中の式Iで表される化合物の基R1として例示のものが挙げられるが、例えば、1−ヒドロキシエチルインドール−5−イルが好ましい。その開示を引用することによって明細書の一部とする。
【0019】
本発明において使用されるトリシクロ化合物(I)およびその医薬上許容され得る塩は免疫抑制作用、抗菌活性、およびその他の薬理活性を有し、その為、臓器あるいは組織の移植における拒絶反応、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、および感染症等の治療および予防に有用であることが、その製造法とともに、例えば、EP−A−184162、EP−A−323042、EP−A−423714、EP−A−427680、EP−A−465426、EP−A−480623、EP−A−532088、EP−A−532089、EP−A−569337、EP−A−626385、WO89/05303、WO93/05058、WO96/31514、WO91/13889、WO91/19495、WO93/5059等に示されており、それらの刊行物の全てを引用することによって明細書の一部とする。
【0020】
特に、FR900506(=FK506)、FR900520(アスコマイシン)、FR900523およびFR900525と呼称される化合物は、ストレプトミセス(Streptomyces)属、例えばストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)No.9993(寄託機関:日本国茨城県つくば市東1丁目1−3、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(旧名称:通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所)、寄託日:1984年10月5日、受託番号:FERM−BP927)もしくは、ストレプトミセス・ハイグロスコピカス・サブスペシース・ヤクシマエンシス(Streptomyces hygroscopicus subsp. yakushimaensis)No.7238(寄託機関:日本国茨城県つくば市町東1丁目1−3、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所、寄託日:1985年1月12日、受託番号:FERM−BP928)(EP−A−0184162)により産生される物質であり、特に下記式で示される化合物FK506(一般名:タクロリムス)は、代表的な化合物である。
【0021】
【化3】

【0022】
化学名:17−アリル−1,14−ジヒドロキシ−12−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルビニル]−23,25−ジメトキシ−13,19,21,27−テトラメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコス−18−エン−2,3,10,16−テトラオン
【0023】
トリシクロ化合物(I)のうち、より好ましいものは、R3およびR4、R5およびR6の隣接するそれぞれの対が、当該対のそれぞれに結合している炭素原子どうしの間で形成されたもう一つの結合をそれぞれ独立して形成しており、
8とR23はそれぞれ独立して水素原子、
9はヒドロキシ、
10はメチル、エチル、プロピルまたはアリル、
Xは(水素原子、水素原子)またはオキソ、
Yはオキソ、
14、R15、R16、R17、R18、R19とR22は各々独立してメチルを示し、
24は、3−R20−4−R21−シクロヘキシル、
(ここで、R20はヒドロキシ、アルキルオキシまたは−OCH2OCH2CH2OCH3、およびR21はヒドロキシ、−OCN、アルキルオキシ、適当な置換基を任意に有するヘテロアリールオキシ、−OCH2OCH2CH2OCH3、保護されたヒドロキシ、クロロ、ブロモ、ヨード、アミノオキザリルオキシ、アジド、p−トリルオキシチオカルボニルオキシ、またはR2526CHCOO−(式中、R25は所望により任意に保護されているヒドロキシ、または保護されたアミノ、およびR26は水素原子またはメチル)、またはR20とR21は一緒になって、エポキシド環の酸素原子を形成する)、そして
nは1または2である、
で示される化合物である。
【0024】
特に好ましいトリシクロ化合物(I)としては、FK506の他に、EP−A−427,680の実施例66aに記載のハロゲン化誘導体、33−エピ−クロロ−33−デスオキシアスコマイシン等のアスコマイシン誘導体が挙げられる。
【0025】
他の好ましいマクロライド化合物としては、メルク インデックス(MERCK INDEX)(12版)No.8288に記載のラパマイシンやその誘導体を挙げることが出来る。それらの好ましい例としては、WO95/16691の1頁に記載される式Aの40位のヒドロキシが−OR1(ここで、R1はヒドロキシアルキル、ヒドロアルキルオキシアルキル、アシルアミノアルキルおよびアミノアルキル)であるO−置換誘導体、例えば、40−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピルラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチルラパマイシンおよび40−O−(2−アセトアミノエチル)ラパマイシンが挙げられる。これらのO−置換誘導体は、好適な条件下でのラパマイシン(またはジヒドロまたはデオキソラパマイシン)と脱離基に結合した有機ラジカル(例えば、RX(ここで、Rは、アルキル、アリルまたはベンジル部分のようなO−置換基として望ましい有機ラジカルであり、XはCCl3C(NH)OまたはCF3SO3のような脱離基である))とを反応させることにより、製造することができる。条件は、XがCCl3C(NH)Oである場合、酸性または中性条件、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはそれらの対応するピリジニウムまたは置換ピリジニウム塩の存在下、またはXがCF3SO3である場合、ピリジン、置換ピリジン、ジイソプロピルエチルアミンまたはペンタメチルピペリジンのような塩基の存在下であり得る。最も好ましいラパマイシン誘導体は、WO94/09010に記載のような40−O−(2−ヒドロキシ)エチル ラパマイシンであり、前記文献の内容を引用することにより明細書の一部とする。
【0026】
トリシクロ化合物(I)、ラパマイシンおよびその誘導体の医薬上許容し得る塩とは、無毒の、医薬として許容される慣用の塩であり、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、例えばトリエチルアミン塩、N−ベンジル−N−メチルアミン塩等のアミン塩のような無機または有機塩基との塩が挙げられる。
【0027】
本発明のマクロライド化合物においては、コンホーマーあるいは不斉炭素原子および二重結合に起因する光学異性体および幾何異性体のような1対またはそれ以上の対の立体異性体が存在することがあり、そのようなコンホーマーおよび異性体も本発明の範囲に包含される。また、マクロライド化合物は溶媒和物を形成することも出来るが、その場合も本願発明の範囲に含まれる。好ましい溶媒和物としては、水和物およびエタノレートが挙げられる。
【0028】
本発明において、ドライアイが認められる疾患としては上述のごとく、涙液減少症、欠涙症、眼乾燥症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンズ−ジェンソン症候群、眼類天疱瘡、眼瞼縁炎症、糖尿病等の疾患、白内障術後に観察されるドライアイやアレルギー性結膜炎に伴うドライアイ等が挙げられる。さらにはVDT作業や冷暖房による部屋の乾燥等によっても涙液減少症類似のドライアイが観察される。
本発明の処置剤は上記ドライアイに対して有効であり、特にドライアイの自覚症状の改善に、および涙液層破壊時間(BUT)等の涙液の評価において有効である。
本発明でいう処置には、予防、治療、症状の軽減、症状の減退、進行停止等、あらゆる管理が含まれる。
【0029】
本発明で用いるマクロライド化合物は、ヒト及び動物用の薬剤として使用することができ、全身的あるいは局所的に経口投与、静脈内投与(点滴を含む)、皮下投与、直腸内・膣内投与、眼局所投与(眼軟膏を含む)によって投与することができるが、全身への影響、効果の発現の有意性等を考慮して眼局所投与用の形態で用いることが特に好ましい。
【0030】
マクロライド化合物の投与量は、ヒトまたは動物等の対象の種類、年齢、体重、処置されるべき症状、所望の治療効果、投与方法、処置期間等により変化するが、通常、1日1回用量あるいは2〜4分割用量または持続形態で全身投与する場合は、0.0001〜1000mg程度、好ましくは0.001〜500mg程度でよい。眼局所投与する場合は、有効成分を0.001〜10.0w/v%、好ましくは0.005〜5.0w/v%含有する製剤を、1日1眼あたり数回、好ましくは1〜6回点眼あるいは塗布すればよい。
【0031】
本発明において、有効成分であるマクロライド化合物を単独で、または他の薬理活性成分との併用剤として投与することができる。製剤化して投与する場合には、常套手段に従って製造した製剤として投与することができる。その剤形としては、例えば点眼剤、眼軟膏剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、注射剤、軟膏剤等が挙げられるが、特に点眼剤や眼軟膏剤の形態であることが好適である。かかる製剤は、常套手段に従って製造することができる。そのような製剤のうち、経口用製剤としては、EP−A−0240773に記載の製剤と同様の方法で製造した固溶体製剤とすることが好ましい。また、点眼剤が所望される場合には、EP−A−0406791に記載のような点眼剤とすることが好ましく、所望により等張化剤(例えば塩化ナトリウムなど)、緩衝剤(例えばホウ酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、保存剤(例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノールなど)、増粘剤(例えば乳糖、マンニトール、マルトース等の糖類、例えばヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム等のヒアルロン酸もしくはその塩、例えばコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、架橋ポリアクリル酸塩など)のような点眼剤に通常用いられる添加剤を加えてもよい。この点について前記文献の内容を引用することによって明細書の一部とする。
【0032】
以下、本発明を実施例に言及することにより、さらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1
本発明における有効成分として、FK506を用い、下記処方からなる0.06%点眼剤(懸濁液)を被験薬剤とした。
被験薬剤
EP−A−0406791(Example 6)と同様の方法で製造した下記処方からなる懸濁液
FK506 0.6 mg
ポリビニルアルコール 7.0 mg
リン酸水素2ナトリウム・12水和物 0.05mg
リン酸2水素ナトリウム・2水和物 0.76mg
リン酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
塩化ナトリウム 8.56mg
塩化ベンザルコニウム 0.1 mg
注射用水 適量
全量 1ml
ドライアイの自覚症状(乾燥感、異物感、ゴロゴロ感)を有する男性(44歳)に上記被験薬剤を1日2回2週間投与したところ、その自覚症状が消失した。
以上の結果より、被験薬剤はドライアイの自覚症状の改善に有効であることが確認された。
【0034】
実施例2
有効成分として、FK506を用い、実施例1と同様に処方し0.01%FK506点眼剤(懸濁液)および0.1%FK506点眼剤(懸濁液)を被験薬剤とした。なお、点眼剤基剤を対照薬剤として用いた。
健常人18名(1群6名)に被験薬剤および対照薬剤を1日4回(8:00、11:00、14:00および17:00)、7日間点眼投与した。
点眼開始前および点眼開始後8日目に右眼の涙液層破壊時間(秒)を測定し、点眼投与前後の差を求め、涙液層破壊時間の平均変化値とした。
涙液層破壊時間は、常法に従い測定した。フルオレセイン点眼後、瞬目させて眼表面に涙液層をつくり、その後瞬目させずに顕微鏡で眼表面を観察し、涙液層が破壊(表面張力ではじける)までの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
以上の結果より、被験薬剤はドライアイの涙液評価の検査の1つである涙液層破壊時間の改善に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
マクロライド化合物を有効成分とする本発明の処置剤は、ドライアイ、特にドライアイの自覚症状に対し、および涙液層破壊時間等の涙液評価における優れた改善効果を有する。従って、本発明の処置剤は、ドライアイ処置剤として有用であることが示唆される。
【0038】
本出願は、米国で出願された出願番号第60/132,009号を基礎としておりそれらの内容は引用により本明細書に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロライド化合物を有効成分として含有する、ドライアイ処置剤。
【請求項2】
マクロライド化合物が、下記式のトリシクロ化合物(I)またはその医薬上許容され得る塩である、請求項1記載の剤。
【化1】

「式中、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6の隣接するそれぞれの対は、各々独立して、
a)2つの隣接する水素原子からなるか(ここでR2は任意にアルキルである)、または
b)当該対のそれぞれに結合している炭素原子どうしの間でもうひとつの結合を形成し;
7は水素原子、ヒドロキシ、アルキルオキシ、または保護されたヒドロキシを表わすか、またはR1と共にオキソを形成してもよく;
8およびR9は各々独立して、水素原子またはヒドロキシを示し;
10は水素原子、アルキル、アルケニル、1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルキル、1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルケニル、またはオキソによって置換されたアルキルであり;
Xはオキソ、(水素原子、ヒドロキシ)、(水素原子、水素原子)、または式−CH2O−で表わされる基であり;
Yはオキソ、(水素原子、ヒドロキシ)、(水素原子、水素原子)、または式N−NR1112もしくはN−OR13で表わされる基であり;
11およびR12は各々独立して水素原子、アルキル、アリールまたはトシルを示し;
13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R22およびR23は各々独立して水素原子またはアルキルを示し;
24は、任意に置換されている、1またはそれ以上の複素原子を含んでいてもよい環であり;
nは1または2を表わす、
(ここで、Y、R10およびR23はそれらが結合している炭素原子と一緒になって飽和もしくは不飽和の5員もしくは6員環からなる窒素原子、硫黄原子および/もしくは酸素原子を含有する複素環基を任意に形成し、その複素環基は、アルキル、ヒドロキシ、アルキルオキシ、ベンジル、式−CH2Se(C65)で表わされる基、および1またはそれ以上のヒドロキシによって置換されたアルキルからなる群より選択される1またはそれ以上の基によって置換されていてもよい)。」
【請求項3】
マクロライド化合物がFK506である、請求項1または請求項2記載の剤。
【請求項4】
眼局所投与用製剤の形態である、請求項1〜3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
涙液層破壊時間の改善を目的とする請求項1〜4のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
ドライアイの処置を必要とする対象に対して有効量のマクロライド化合物を投与することを含む、ドライアイの処置方法。
【請求項7】
ドライアイの処置のための医薬組成物の製造のためのマクロライド化合物の使用。

【公開番号】特開2012−116857(P2012−116857A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22420(P2012−22420)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2000−615007(P2000−615007)の分割
【原出願日】平成12年4月26日(2000.4.26)
【出願人】(508259559)ラスク・インテレクチュアル・リザーブ・アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】RUSK Intellectual Reserve AG
【Fターム(参考)】