説明

ドライアイ障害を治療する医薬組成物および方法

【課題】ヤヌスキナーゼ−3(「Jak3」)の阻害剤は、ドライアイ障害および眼の湿潤を必要とする他の障害を治療するために有用である。
【解決手段】眼の障害を治療するのに有用なJak3阻害剤には、化合物3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリルがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容がここに参照により完全に組み込まれる、2007年7月11日出願の米国仮特許出願第60/949,216号、および2008年6月9日出願の米国仮特許出願第61/060,032号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
総称的に乾性角結膜炎としても知られているドライアイは、毎年何百万もの米国人に影響を与えている一般的な眼科障害である。ドライアイは、不快感、視力障害、および眼の表面への潜在的な損傷を伴う涙液膜不安定の症状をもたらす涙および眼の表面の多因子性疾患である。これは、涙液膜の浸透圧モル濃度の増大および眼の表面の炎症を伴う。
【0003】
ドライアイは、様々に異なる重症度で個々を苦しめ得る。ドライアイは、受精能力の停止後のホルモン変化を原因として、特に閉経後の女性の間で広まっている。軽症の場合、患者は、炎症、乾燥感、ならびに例えば眼瞼および目の表面の間にひっかかった小さな塊が原因であることが多い持続性の刺激を経験することがある。重症の場合、視力が実質的に損なわれることがある。シェーグレン病および瘢痕性類天疱瘡などの他の疾患は、ドライアイ合併症を発現する。
【0004】
ドライアイの原因病理論による分類(etiopathogenic classification)は、The National Eye Institute/Industry Dry Eye Workshopによって1995年に最初に策定され、2007年1月の定義でさらに更新された。The Ocular Surface、vol.5、no.2、75〜92(2007)。ドライアイの主要な分類には、水性涙液欠乏性ドライアイおよび蒸発性ドライアイがある。水性涙液欠乏性ドライアイには、2つの主要な下位分類、シェーグレン症候群ドライアイおよび非シェーグレン症候群ドライアイ(原発性および続発性涙腺不全、涙腺管の閉塞、反射分泌不全、反射運動遮断)が含まれる。正常な涙液分泌機能の存在下での露出した眼の表面からの過剰な水分損失の結果として生じる蒸発性ドライアイには、内因性原因(マイボーム腺機能障害、眼瞼裂および眼瞼/眼球障害、低瞬目速度)および外因性原因(眼の表面の障害および疾患、コンタクトレンズ摩耗、春季角結膜炎などのアレルギー性結膜炎)の下位分類が含まれる。
【0005】
ドライアイは、いくつかの関連性のない病原性の原因の結果として生じ得ると思われるが、合併症のすべての提示では、露出した外面の脱水および前述した多くの症状をもたらす前眼球涙液膜の破壊という共通した作用がある(Lemp、Report of the national Eye Institute/Industry workshop on Clinical Trials in Dry Eyes、the CLAO Journal、vol.21、no.4、221〜231頁(1995))。
【0006】
開業医は、ドライアイの治療に対していくつかの手法をとってきた。一般的な一手法は、いわゆる人工涙液を1日中滴下することによって眼の涙液膜を補充および安定させることであった。他の手法には、涙液代替物または内因性涙液分泌の刺激をもたらす眼用インサートの使用がある。
【0007】
涙液代替手法の例には、緩衝等張生理食塩水、溶液の粘性を高め、それによって目から容易に流れなくなる水溶性ポリマーを含有する水溶液の使用がある。涙液の再構成も、リン脂質および油など、涙液膜の1種または複数の成分を与えることにより試みられている。リン脂質組成物は、ドライアイを治療するのに有用であることがわかっている;例えばMcCulleyおよびShine、Tear film structure and dry eye、Contactologio、vol.20(4)、145〜9頁(1998)を参照のこと。リン脂質、噴射剤および活性物質に関与するリン脂質薬物送達システムも知られている、米国特許第5,174,988号参照。
【0008】
別の手法は、人工涙液の代わりに潤滑物質の供給を伴う。例えば、米国特許第4,818,537号(Guo)は、潤滑リポソーム系組成物の使用について開示しており、米国特許第5,800,807号(Huら)は、ドライアイを治療するためにグリセリンおよびプロピレングリコールを含有する組成物について開示している。
【0009】
これらの手法には成功したものもあるが、ドライアイの治療における問題がやはり残っている。涙液代替物の使用は、一時的に有効だが、一般に患者の起きている時間を通して繰り返し適用する必要がある。1日を通して10〜20回人工涙溶液を適用しなければならないことは患者にとって珍しいことではない。このような取り組みは面倒で、時間がかかるだけではなく、潜在的にとても費用がかかる。屈折手術に関連するドライアイの一過性の症状は、症例によっては、手術後6週間から6カ月、またはそれ以上続くことが報告されている。
【0010】
主にドライアイに関連する症状の緩和に対する努力とは別に、ドライアイ状態の治療に対する方法および組成物も追究されている。例えば、米国特許第5,041,434号(Lubkin)は、閉経後の女性のドライアイ状態を治療するための複合卵胞ホルモンなどの性ステロイドの使用について開示しており;米国特許第5,290,572号(MacKeen)は、前眼球涙液膜生成を刺激するための微粉砕したカルシウムイオン組成物の使用について開示しており;米国特許第4,966,773号(Gresselら)は、眼組織正常化のための1種または複数のレチノイドの極微小粒子の使用について開示している。
【0011】
いくつかの文献報告では、乾性眼症候群の患者は、涙腺およびマイボーム腺など関連する眼組織で過剰な炎症の特徴を偏って示すことを示唆している。ドライアイ患者を治療するための種々の化合物、例えばステロイド、例えば米国特許第5,968,912号;Marshら、Topical nonpreserved methylprednisolone therapty for keratoconjunctivitis sicca in Sjogren syndrome、Ophthalmology、106(5):881〜816(1999);Plugfelderら、米国特許第6,153,607号];サイトカイン放出阻害剤(Yanni,J.M.ら、WO0003705A1)、シクロスポリンA[Tauber、J.Adv.Exp.Med.Biol.1998、438、(Lacrimal Gland、Tear Fiom and Dry Eye Syndromes 2)、969]および15−HETE(Yanniら、米国特許第5,696,166号)の使用が開示されている。
【0012】
Jak3阻害剤は、ドライアイに加え、それだけには限らないが、緑内障、ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性を含む他の炎症に関連した眼障害の治療に有用であることがある。CNIB資金による研究から、炎症バイオマーカーである抗カルジオリピンを有する患者は、緑内障に進行する可能性が4倍高いことが判明した。Jak3阻害剤は、糖尿病の治療に既に提案されているが、とりわけ糖尿病性網膜症には提案されていないようである。Cetkovic−Cvrle,M.およびUckun,F.M.、Arch Immunol Ther Exp(Warsz)、52(2)、69〜82(2004)。Rodriguesは、網膜色素上皮(RPE)細胞およびドルーゼン中の免疫グロブリン、補体タンパク質、サイトカインおよび活性化小膠細胞の単離により、乾燥加齢性黄斑変性における炎症の役割の証拠がもたらされたことを見つけた。Rodrigues E.B.、Ophthalmologica、221(3):143〜52(2007)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、薬学的に許容できる担体および薬学的に有効な量のヤヌスキナーゼ−3(「Jak3」)阻害剤を含む組成物を哺乳動物に投与することを含む、ドライアイの治療のための方法を対象とする。一態様では、Jak3阻害剤は、式Iの化合物
【0015】
【化1】

[式中、
は、式
【0016】
【化2】

の基
(ここで、yは、0、1または2である)であり、
は、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキルスルホニル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニルからなる群から選択され、ここで、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、重水素、ヒドロキシ、アミノ、トリフルオロメチル、(C〜C)アルコキシ、(C〜C)アシルオキシ、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、シアノ、ニトロ、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニルもしくは(C〜C)アシルアミノによって置換されていてもよく、またはRは、(C〜C10)シクロアルキルであり、ここで、シクロアルキル基は、重水素、ヒドロキシ、アミノ、トリフルオロメチル、(C〜C)アシルオキシ、(C〜C)アシルアミノ、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、シアノ、シアノ(C〜C)アルキル、トリフルオロメチル(C〜C)アルキル、ニトロ、ニトロ(C〜C)アルキルもしくは(C〜C)アシルアミノによって置換されていてもよく、
は、(C〜C)ヘテロシクロアルキルであり、ここで、ヘテロシクロアルキル基は、1〜5個のカルボキシ、シアノ、アミノ、重水素、ヒドロキシ、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ、ハロ、(C〜C)アシル、(C〜C)アルキルアミノ、アミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ−CO−NH、(C〜C)アルキルアミノ−CO−、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C)アルキルアミノ、アミノ(C〜C)アルキル、ヒドロキシ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ(C〜C)アルキル、(C〜C)アシルオキシ(C〜C)アルキル、ニトロ、シアノ(C〜C)アルキル、ハロ(C〜C)アルキル、ニトロ(C〜C)アルキル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチル(C〜C)アルキル、(C〜C)アシルアミノ、(C〜C)アシルアミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ(C〜C)アシルアミノ、アミノ(C〜C)アシル、アミノ(C〜C)アシル(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキルアミノ(C〜C)アシル、((C〜C)アルキル)アミノ(C〜C)アシル、R1516N−CO−O−、R1516N−CO−(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキル−S(O)、R1516NS(O)、R1516NS(O)(C〜C)アルキル、R15S(O)16N、R15S(O)16N(C〜C)アルキルによって置換されてなければならず(ここで、mは、0、1または2であり、R15およびR16は、それぞれ独立に水素または(C〜C)アルキルから選択される)、または式
【0017】
【化3】

の基
(式中、aは、0、1、2、3または4であり、
b、c、e、fおよびgは、それぞれ独立に0または1であり、
dは、0、1、2、または3であり、
Xは、S(O)(ここで、nは、0、1または2である)、酸素、カルボニルまたは−C(=N−シアノ)−であり、
Yは、S(O)(ここで、nは、0、1または2である)、またはカルボニルであり、
Zは、カルボニル、C(O)O−、C(O)NR−またはS(O)(ここで、nは、0、1または2である)であり、
、R、R、R、R10およびR11は、それぞれ独立に水素または重水素、ヒドロキシ、アミノ、トリフルオロメチル、(C〜C)アシルオキシ、(C〜C)アシルアミノ、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、シアノ、シアノ(C〜C)アルキル、トリフルオロメチル(C〜C)アルキル、ニトロ、ニトロ(C〜C)アルキルもしくは(C〜C)アシルアミノによって置換されていてもよい(C〜C)アルキルからなる群から選択され、
12は、カルボキシ、シアノ、アミノ、オキソ、重水素、ヒドロキシ、トリフルオロメチル、(C〜C)アルキル、トリフルオロメチル(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ、ハロ、(C〜C)アシル、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、アミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ−CO−NH、(C〜C)アルキルアミノ−CO−、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C)アルキルアミノ、ヒドロキシ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ(C〜C)アルキル、(C〜C)アシルオキシ(C〜C)アルキル、ニトロ、シアノ(C〜C)アルキル、ハロ(C〜C)アルキル、ニトロ(C〜C)アルキル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチル(C〜C)アルキル、(C〜C)アシルアミノ、(C〜C)アシルアミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ(C〜C)アシルアミノ、アミノ(C〜C)アシル、アミノ(C〜C)アシル(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキルアミノ(C〜C)アシル、((C〜C)アルキル)アミノ(C〜C)アシル、R1516N−CO−O−、R1516N−CO−(C〜C)アルキル、R15C(O)NH、R15OC(O)NH、R15NHC(O)NH、(C〜C)アルキル−S(O)、(C〜C)アルキル−S(O)−(C〜C)アルキル、R1516NS(O)、R1516NS(O)(C〜C)アルキル、R15S(O)16N、R15S(O)16N(C〜C)アルキル(ここで、mは、0、1または2であり、R15およびR16は、それぞれ独立に水素または(C〜C)アルキルから選択される)である)であり、
およびRは、それぞれ独立に水素、重水素、アミノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、カルボキシ、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ、(C〜C10)シクロアルキルからなる群から選択され、ここで、アルキル、アルコキシもしくはシクロアルキル基は、ハロ、ヒドロキシ、カルボキシ、アミノ(C〜C)アルキルチオ、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、(C〜C)ヘテロアリール、(C〜C)ヘテロシクロアルキル、(C〜C)シクロアルキルもしくは(C〜C10)アリールから選択される1〜3個の基によって置換されていてもよく、またはRおよびRは、それぞれ独立に(C〜C10)シクロアルキル、(C〜C10)シクロアルコキシ、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、(C〜C10)アリールアミノ、(C〜C)アルキルチオ、(C〜C10)アリールチオ、(C〜C)アルキルスルフィニル、(C〜C10)アリールスルフィニル、(C〜C)アルキルスルホニル、(C〜C10)アリールスルホニル、(C〜C)アシル、(C〜C)アルコキシ−CO−NH−、(C〜C)アルキルアミノ−CO−、(C〜C)ヘテロアリール、(C〜C)ヘテロシクロアルキルもしくは(C〜C10)アリールであり、ここで、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルおよびアリール基は、1〜3個のハロ、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキル−CO−NH−、(C〜C)アルコキシ−CO−NH−、(C〜C)アルキル−CO−NH−(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ−CO−NH−(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ−CO−NH−(C〜C)アルコキシ、カルボキシ、カルボキシ(C〜C)アルキル、カルボキシ(C〜C)アルコキシ、ベンジルオキシカルボニル(C〜C)アルコキシ、(C〜C)アルコキシカルボニル(C〜C)アルコキシ、(C〜C10)アリール、アミノ、アミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシカルボニルアミノ、(C〜C10)アリール(C〜C)アルコキシカルボニルアミノ、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、(C〜C)アルキルアミノ(C〜C)アルキル、((C〜C)アルキル)アミノ(C〜C)アルキル、ヒドロキシ、(C〜C)アルコキシ、カルボキシ、カルボキシ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシカルボニル、(C〜C)アルコキシカルボニル(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシ−CO−NH−、(C〜C)アルキル−CO−NH−、シアノ、(C〜C)ヘテロシクロアルキル、アミノ−CO−NH−、(C〜C)アルキルアミノ−CO−NH−、((C〜C)アルキル)アミノ−CO−NH−、(C〜C10)アリールアミノ−CO−NH−、(C〜C)ヘテロアリールアミノ−CO−NH−、(C〜C)アルキルアミノ−CO−NH−(C〜C)アルキル、((C〜C)アルキル)アミノ−CO−NH−(C〜C)アルキル、(C〜C10)アリールアミノ−CO−NH−(C〜C)アルキル、(C〜C)ヘテロアリールアミノ−CO−NH−(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキルスルホニル、(C〜C)アルキルスルホニルアミノ、(C〜C)アルキルスルホニルアミノ(C〜C)アルキル、(C〜C10)アリールスルホニル、(C〜C10)アリールスルホニルアミノ、(C〜C10)アリールスルホニルアミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキルスルホニルアミノ、(C〜C)アルキルスルホニルアミノ(C〜C)アルキル、(C〜C)ヘテロアリールもしくは(C〜C)ヘテロシクロアルキルによって置換されていてもよい]、またはその薬学的に許容できる塩を有する。
【0018】
本発明はまた、式Iの化合物を有するJak3阻害剤を薬学的に有効な量含む組成物を哺乳動物に投与することを含む、緑内障、ブドウ膜炎、糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性の治療のための方法を対象とする。
【0019】
式Iの具体的な化合物には、前記化合物が
メチル−[4−メチル−1−(プロパン−1−スルホニル)−ピペリジン−3−イル]−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミン;
4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステル;
3,3,3−トリフルオロ−1−{4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−プロパン−1−オン;
4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−カルボン酸ジメチルアミド;
({4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−カルボニル}−アミノ)−酢酸エチルエステル;
3−{4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル;
3,3,3−トリフルオロ−1−{4−メチル−3−[メチル−(5−メチル−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−プロパン−1−オン;
1−{4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−ブト−3−イン−1−オン;
1−{3−[(5−クロロ−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−メチル−アミノ]−4−メチル−ピペリジン−1−イル}−プロパン−1−オン;
1−{3−[(5−フルオロ−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−メチル−アミノ]−4−メチル−ピペリジン−1−イル}−プロパン−1−オン;
N−シアノ−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−N’−プロピル−ピペリジン−1−カルボキサミジン;および
N−シアノ−4,N’,N’−トリメチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−カルボキサミジン
からなる群から選択されるものがある。
【0020】
特定の実施形態では、Jak3阻害剤は、構造
【0021】
【化4】

を有する、3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル(CP0690550)である。
【0022】
本発明の一態様では、Jak3阻害剤の投与により、未治療の涙液分泌量と比べて2日以内に涙液分泌量が著しく増加する。本発明の他の態様では、Jak3阻害剤の投与により、投与から最初の2日以内に、開始時涙液分泌と比較して涙液分泌量が少なくとも30%増加する。他の態様では、Jak3阻害剤の投与により、投与から最初の2日以内に、開始時涙液分泌と比較して涙液分泌量が少なくとも50%増加する。本発明の他の態様では、Jak3阻害剤の投与により、投与から最初の2日以内に、開始時涙液分泌と比較して涙液分泌量が少なくとも100%増加する。別の実施形態では、Jak3阻害剤により、正常な涙液分泌のものに匹敵するレベルまで涙液分泌量が増加する。この実施形態の他の態様では、Jak3阻害剤により、8日間の初期治療内で正常な涙液分泌のものに匹敵するレベルまで涙液分泌量が増加する。
【0023】
他の実施形態では、本発明は、哺乳動物に薬学的に許容できる担体および薬学的に有効な量のヤヌスキナーゼ−3(「Jak3」)阻害剤を含む組成物を投与することを含む、哺乳動物における正常な涙液分泌の回復を含む。この実施形態の一態様では、JAK3阻害剤は、3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル(CP0690550)である。
【0024】
本発明の別の態様では、Jak3阻害剤を、多くて1日2回投与する(BID)。他の態様では、Jak3阻害剤を毎日投与する(QD)。
【0025】
本発明の他の態様では、組成物を目に局所投与する。
【0026】
本発明の別の態様では、薬学的に有効な量のJak3阻害剤は、0.0001%〜1.0%(w/w)未満である。他の態様では、Jak3阻害剤の量は、0.0003%〜0.1%(w/w)未満である。本発明の別の態様では、Jak3阻害剤の量は、0.0003〜0.03%(w/w)である。さらに別の態様では、Jak3阻害剤の量は、0.003%〜0.005%(w/w)である。さらに別の態様では、Jak3阻害剤の量は、0.01%〜0.03%(w/w)である。さらに他の実施形態では、Jak3阻害剤の量は、約0.003%、0.005%、0.01%または0.03%(w/w)である。
【0027】
本発明の別の態様では、局所眼用組成物は、張度調節剤および緩衝液をさらに含む。本発明のさらに別の態様では、張度調節剤は、単糖または糖アルコールのいずれかである。本発明のさらに別の態様では、緩衝液は、リン酸塩またはクエン酸塩から選択される。
【0028】
本発明のさらに別の態様では、組成物は、界面活性剤をさらに含む。本発明の好ましい実施形態では、界面活性剤は、トリトンX114およびチロキサポールから選択される。この実施形態の他の態様では、組成物は、安定化ポリマーをさらに含む。本発明のさらに他の態様では、安定化ポリマーは、カルボマー974pである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明によれば、ヤヌスキナーゼ−3(Jak3)の阻害剤は、ドライアイの哺乳動物、およびとりわけ、ドライアイのヒト患者に投与する。一態様の本発明のJak3選択的な阻害剤は、他のタンパク質チロシンキナーゼ、特に密接な関係があるファミリーメンバーのJak2に比べてJak3の阻害に関して選択性がある。これは、Jak2がエリスロポエチン(EPO)、マクロファージコロニー−刺激因子(M−CSF)、顆粒球−マクロファージ(GM)_CSF、およびトロンボポエチン(TPO)受容体を介してシグナル伝達を制御するためである。さらに、Jak2欠損は、赤血球生成障害によって胚致死である。in vivoにおけるJak2の著しい薬理学的阻害は、貧血、血小板減少、および白血球減少をもたらすと予想され得る。Pesuら、Immunological Reviews 203、127〜142(2005)。酵素レベルでは、本発明のJak3阻害剤は、Jak2と比較してJak3に対して少なくとも10倍効力があり、他のキナーゼと比べて3000倍以上特異的である。
【0030】
本発明は、哺乳動物に薬学的に許容できる担体と式Iおよび/または上記の特定の実施形態を有する薬学的に有効な量のヤヌスキナーゼ−3(「Jak3」)阻害剤とを含む組成物を投与することを含む、ドライアイを治療する方法に関する。Jak3阻害剤は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,627,754号および第7,091,208号に開示されている。本発明の特定の実施形態は、患者に薬学的に有効な量の3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリルを投与することを含む。
【0031】
本明細書では、「アルキル」という用語は、特に指示がない限り、直鎖状もしくは分枝状部分またはその組合せを有する飽和一価炭化水素基を含む。
【0032】
本明細書では、「アルコキシ」という用語は、O−アルキル基を含み、その「アルキル」は上記で定義されている。
【0033】
本明細書では、「ハロ」という用語は、特に指示がない限り、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを含む。
【0034】
本発明の化合物は、二重結合を含有していてよい。かかる結合が存在する場合、本発明の化合物は、シスおよびトランス配置ならびにその混合物として存在する。
【0035】
特に指示がない限り、本明細書で言及しているアルキルおよびアルケニル基、ならびに本明細書で言及している他の基のアルキル部分(例えば、アルコキシ)は、直鎖状または分枝状であってよく、これらは、環状(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチル)であってもよく、または直鎖状もしくは分枝状で環状部分を含有していてもよい。特に指示がない限り、ハロゲンには、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素が含まれる。
【0036】
本明細書で使用する場合、「(C〜C)ヘテロシクロアルキル」は、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ピラニル、チオピラニル、アジリジニル、オキシラニル、メチレンジオキシル、クロメニル、イソオキサゾリジニル、1,3−オキサゾリジン−3−イル、イソチアゾリジニル、1,3−チアゾリジン−3−イル、1,2−ピラゾリジン−2−イル、1,3−ピラゾリジン−1−イル、ピペリジニル、チオモルホリニル、1,2−テトラヒドロチアジン−2−イル、1,3−テトラヒドロチアジン−3−イル、テトラヒドロチアジアジニル、モルホリニル、1,2−テトラヒドロジアジン−2−イル、1,3−テトラヒドロジアジン−1−イル、テトラヒドロアゼピニル、ピペラジニル、クロマニルなどを意味する。当業者は、前記(C〜C)ヘテロシクロアルキル環の結合が、炭素またはsp混成窒素ヘテロ原子を介して行われることを理解するであろう。
【0037】
本明細書で使用する場合、「(C〜C)ヘテロアリール」は、フリル、チエニル、チアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピロリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イミダゾリル、1,3,5−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,3,5−チアジアゾリル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、1,2,4−トリアジニル、1,2,3−トリアジニル、1,3,5−トリアジニル、ピラゾロ[3,4−b]ピリジニル、シンノリニル、プテリジニル、プリニル、6,7−ジヒドロ−5H−[1]ピリンジニル、ベンゾ[b]チオフェニル、5、6、7、8−テトラヒドロ−キノリン−3−イル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾイミダゾリル、チアナフテニル、イソチアナフテニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、イソインドリル、インドリル、インドリジニル、インダゾリル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンゾオキサジニルなどを意味する。当業者は、前記(C〜C)ヘテロシクロアルキル環の結合が、炭素またはsp混成窒素ヘテロ原子を介して行われることを理解するであろう。
【0038】
本明細書で使用する場合、(C〜C10)アリールは、フェニルまたはナフチルを意味する。
【0039】
好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが0であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが0であり、dが1であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが1であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xが−C(=N=シアノ)−であり、cが1であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。
【0040】
別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが0であり、cが0であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、gが1であり、またZが−C(O)−O−であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、XがS(O)であり、nが2であり、cが0であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、XがS(O)であり、nが2であり、cが0であり、dが2であり、eが0であり、fが1であり、gが1であり、またZがカルボニルであるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、XがS(O)であり、nが2であり、cが0であり、dが2であり、eが0であり、fが1であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが1であり、dが0であり、eが1であり、YがS(O)であり、nが2であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、XがS(O)であり、nが2であり、cが1であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが1であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが1であり、dが0であり、eが0であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、XがS(O)であり、cが0であり、dが1であり、eが1であり、YがS(O)であり、nが2であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、XがS(O)であり、cが0であり、dが1であり、eが1であり、YがS(O)であり、nが2であり、fが1であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xが酸素であり、cが0であり、dが1であり、eが1であり、YがS(O)であり、nが2であり、fが1であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xが酸素であり、cが0であり、dが1であり、eが1であり、YがS(O)であり、nが2であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが1であり、dが1であり、eが1であり、YがS(O)であり、fが0であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、aが0であり、bが1であり、Xがカルボニルであり、cが1であり、dが1であり、eが1であり、YがS(O)であり、nが2であり、fが1であり、またgが0であるものがある。別の好ましい式Iの化合物には、式中、R12が、シアノ、トリフルオロメチル、(C〜C)アルキル、トリフルオロメチル(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキルアミノ、((C〜C)アルキル)アミノ、(C〜C)アルキニル、シアノ(C〜C)アルキル、(C〜C)アルキル−S(O)であり、ここでmが0、1または2であるものがある。
【0041】
本発明に基づいて投与した組成物は、薬学的に有効な量の1種または複数の指定したJak3阻害剤を含む。本明細書では、「薬学的に有効な量」は、ドライアイまたは目の湿潤を必要とする他の障害の症状の徴候を低減または排除するのに十分なものである。有効な投与量は、1回または複数回投与で投与することができる。
【0042】
臨床状況で理解されているように、有効量の薬物、化合物、または医薬組成物は、別の薬物、化合物、または医薬組成物と併せて投与することも併せては投与しないこともある。したがって、「有効量」または「有効投与量」は、1種または複数の治療薬を投与することにおいて考慮でき、単一薬剤は、1種または複数の他の薬剤と併せると望ましい結果が達成できるまたは達成される場合に、有効量で与えると考えることができる。
【0043】
本明細書では、「治療」または「治療すること」は、臨床結果を含めた有益なまたは所望の結果を得るための手法である。本発明において、有益なまたは所望の臨床結果には、ドライアイまたは目の湿潤を必要とする他の障害の症状の徴候を低減および/または排除することが含まれるが、それだけには限定されない。
【0044】
ほとんどの臨床家は、症状のみに基づいて乾性眼症候群を診断および治療する(JAMA 2001;286:2114〜9)。McMonnies & Ho Dry Eye Questionnaireへの回答は、ドライアイの症状を評価するためのツールとして使用することができる(14.5より高いスコアは、ドライアイ診断と整合性がある)。それにもかかわらず、ドライアイに関する国立眼病研究所(National Eye Institute)の研究グループは、「眼の不快感の症状」を「ドライアイ」の一特徴としか定義していない。明白な涙液欠乏または過剰な涙液蒸発の可能性および露出した目の表面への損傷の分析から、「ドライアイ」診断の確認を得ることができる。
【0045】
本明細書では、「涙液分泌を著しく増加させる」は、標準的な眼の診療(practice)、すなわちシルマー試験またはフェノールレッド糸試験、フルオレセイン破壊時間、または後述の試験のいずれかによって測定した涙液分泌の統計的に有意な(すなわちp<0.05)増加を表す。
【0046】
ドライアイに関する最も一般的な試験は、涙液膜破壊時間、シルマー試験およびフルオレセイン染色であるが、これらの試験は完全ではない。以下は、ドライアイに関する既知の試験と、異常およびドライアイを示していると判断されるカットオフ値である:
【0047】
【表1】

【0048】
シルマーI試験
シルマーI試験では、目が生成した涙液の量を測定する:涙液を大体5分間くらい捕集して、生成した量が目の健康を維持するのに十分かどうか眼科医に判定させる。あまり多くの涙液が生成されていない場合、涙液欠乏性ドライアイと診断することができる。十分な涙液が生成されているが、患者が依然として目の不快感の症状がある場合、蒸発性ドライアイと診断することができる。
【0049】
シルマーI試験では、35mm×5mmサイズのろ紙細片を使用して、5分間にわたって生成された涙液の量を測定する。細片は、周辺光の下で、下眼瞼の中央と外側3分の1の接合部に挿入する。試験の過程中、患者は、前方を見て普通に瞬きするように指示される。陰性試験(5分でろ紙の濡れが10mm超)は、患者が涙液を正常な量生成することを表す。ドライアイの患者は、5分で5mm未満の濡れ値を有する。
【0050】
シルマー試験の重要な限界は、異なる時間および異なる医者によって行われた試験の結果に相当のばらつきがあり得ることである。その主な有用性は、実際には、重篤なドライアイの患者を診断することかもしれない。
【0051】
シルマーI試験について議論もある。麻酔点眼剤を使用しない場合、この試験は、基礎および反射性涙液分泌を測定すると考えられる。麻酔点眼剤を使用する場合、この試験は、基礎涙液分泌だけを測定すると考えられる。これら2つの異なる方法によって測定した涙液では、基礎および反射性涙液分泌を十分に区別できないと考えられる説得力のある理由がある。ほとんどの臨床家は、目を麻痺させるために麻酔点眼剤を用いた後、この試験を行う。しかし、ドライアイに関する国立眼病研究所の研究グループは、この試験を行う前に麻酔点眼剤を使用しないように推奨した。麻酔を使用してもしなくてもカットオフ値は同様である。反射性涙液分泌を測定するためには、シルマーII試験を行うことができる。シルマーII試験は、涙液分泌を測定する前に綿先端アプリケーター(cotton−tipped applicator)で鼻粘膜を刺激することによって行う。
【0052】
シルマーIまたはII試験に代わる方法として、一部の臨床家は、ひどく侵襲的であり、軽度から中程度のドライアイに対してほとんど価値がないと見なしているフェノールレッド糸試験(Quick Zone(登録商標))を使用することができる。フェノールレッド染料を含浸した木綿糸を使用する。フェノールレッドは、pH感受性であり、涙液で濡れると黄色から赤色に変化する。長さ70mmの糸の波状末端を下結膜円蓋に挿入する。15秒後、涙液で濡れた糸の長さを示す糸上の色変化の長さをミリメートルで測定する。濡れ長さは、通常9mm〜20mmのはずである。ドライアイの患者は、9mm未満の濡れ値を有する。
【0053】
涙液破壊時間(BUT)
ドライアイの患者の場合、涙液膜は不安定であり、より速く破壊される。したがってドライアイを有する患者の涙液破壊時間は、より短い。フルオレセイン破壊時間(FBUT)は、最も一般的に使用されている。フルオレセインの細片を下眼瞼円蓋に付け、次いで取り除く。患者は、3回瞬きをして、次いで瞬きせずにまっすぐ前方を見るように求められる。涙液膜は、細隙灯顕微鏡のコバルトブルーフィルターを通した光下で観察し、最後の瞬きと涙液膜の最初の亀裂(break)の出現との間に経過した時間をストップウォッチで記録する(亀裂は、一面の青の中に暗点として見られる)。10秒未満またはそれ以下のフルオレセインBUTは、ドライアイと整合性がある。
【0054】
FBUT試験の潜在的な侵襲性が原因である限界を克服するために、非侵襲的破壊時間(Non Invasive Break up time)(NIBUT)法が開発された。目に接触しないため、それらは非侵襲的と呼ばれる。角膜曲率計、手持ち型角膜鏡またはティアスコープなどの測定器は、NIBUTを測定するために必要とされる。涙液膜の実際の破壊に先行する破壊前段階も、いくつかの技術を用いて観察することができる。この破壊前段階は、涙液薄層化時間(Tear Thinning Time)(TTT)と呼ばれている。歪み(TTT)および/または角膜曲率計ミーア(角膜曲率計グリッドの反射像)の破壊(NIBUT)を観察することによって測定を達成する。臨床家は、くっきりしたミーアに焦点を合わせ、眺め、次いでミーア像が歪む(TTT)および/または破壊する(NIBUT)までにかかった時間を記録する。NIBUT測定は、フルオレセイン破壊時間よりも長い。15秒未満のNIBUT値は、ドライアイと整合性がある。TTT/NIBUTは、より患者にやさしく、繰り返し可能で正確であると考えられている。
【0055】
本明細書では、「併用(in conjunction)」投与には、同時投与および/または異なる時間における投与が含まれる。併用投与には、共通製剤としての投与または別々の組成物としての投与も包含される。本明細書では、併用投与は、同時および/または別々に起こり得る、Jak3阻害剤および別の薬剤を個体に投与するどんな状況も包含されることを表す。本明細書でさらに論じるように、Jak3阻害剤およびその他の薬剤は、異なる投与頻度または間隔で投与できることを理解されたい。例えば、Jak3阻害剤は、毎日投与してよいが、その他の薬剤は、投与頻度がより低くてもよい。Jak3阻害剤およびその他の薬剤は、同じ投与経路または異なる投与経路を用いて投与できることを理解されたい。
【0056】
「個体」(あるいは「対象」と呼ばれる)は、哺乳動物、より好ましくはヒトである。「哺乳動物」には、家畜(ウシなど)、娯楽動物、ペット(ネコ、イヌ、ウマなど)、霊長類、マウスおよびラットが含まれるが、それだけには限定されない。
【0057】
「正常な涙液分泌の回復」という単語は、標準的な眼の診療で説明したようなドライアイ症状の停止、例えばMcMonnies & Ho Dry Eye Questionnaireの回答スコア14.5未満および/または通常の変数範囲内の試験結果(すなわち表1に記載したシルマー、レッドフェノール、フルオレセインなどから)を意味する。
【0058】
本発明の方法によれば、局所眼投与または結膜嚢もしくは前眼房への移植のための1種または複数の指定したJak3阻害剤および薬学的に許容できる担体を含む組成物を、それを必要とする哺乳動物に投与する。組成物は、所望の特定の投与経路に関して当技術分野で周知の方法に基づいて製剤する。
【0059】
一般に、点眼剤または眼軟膏剤の形態で局所的に目に投与するものである組成物に関して、Jak3阻害剤の合計量は、約0.0001〜1.0%(w/w)未満になる。Jak3阻害剤の量の好ましい範囲は、0.0003%〜0.1%(w/w)未満であるが、Jak3阻害剤の量のさらにより好ましい範囲は、0.003〜0.03%(w/w)である。Jak3阻害剤の量の別の好ましい範囲は、0.005%〜0.05%(w/w)であり、さらにより好ましい範囲は、0.01%〜0.03%(w/w)である。
【0060】
好ましくは、本発明に基づいて投与する組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤および局所投与のための他の剤形に製剤することになる。製剤の容易さ、ならびに冒された目に液剤1〜2滴を滴下することによってかかる組成物を容易に投与する患者の能力に基づき、水性液剤が一般に好ましい。しかし、組成物は、懸濁剤、粘性もしくは半粘性ゲル剤、または他のタイプの固体もしくは半固体組成物であってもよい。懸濁剤は、水にやや溶けにくいJak3阻害剤にとって好ましいことがある。
【0061】
本発明に基づいて投与した組成物は、それだけには限らないが、張度調節剤、緩衝液、界面活性剤、安定化ポリマー、防腐剤、補助溶媒および粘度上昇剤を含めた種々の他の成分も含んでいてよい。本発明の好ましい医薬組成物は、張度調節剤および緩衝液と一緒に阻害剤を含む。本発明の医薬組成物は、界面活性剤および/または緩和剤および/または安定化ポリマーをさらに含んでいてもよい。
【0062】
種々の張度調節剤は、眼用組成物に関して、好ましくは天然の涙のものに組成物の張度を調節するために使用することができる。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、単糖、例えばデキストロース、フルクトース、ガラクトース、および/または単純ポリオール、例えば糖アルコール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルト、マルチトール、および水素化デンプン加水分解物を組成物に加えて生理学的張度に近づけることができる。加えるべき特定の薬剤に応じて、このような張度調節剤の量は異なるはずである。しかし、一般に、組成物は、眼が許容できる浸透圧重量モル濃度を最終組成物が有するようにするのに十分な量で張度調節剤を含むはずである(一般に約150〜450mOsm、好ましくは250〜350mOsm、最も好ましくは約290mOsm)。一般に、本発明の張度調節剤は、2〜4%w/wの範囲で存在することになる。本発明の好ましい張度調節剤には、単糖または糖アルコールがある。本発明の特定の実施形態は、D−マンニトールである。
【0063】
貯蔵条件下でのpH変動を防ぐために、適切な緩衝系(例えば、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムまたはホウ酸)を組成物に加えてもよい。特定の濃度は、使用する薬剤に応じて異なるはずである。しかし、好ましくは、pH5〜8の範囲内の標的pH、より好ましくはpH5〜7の標的pHを保持するために緩衝液を選択するはずである。
【0064】
界面活性剤は、より高濃度の阻害剤を送達するために使用してもよい。界面活性剤は、阻害剤を可溶化し、コロイド分散系、例えばミセル溶液、マイクロエマルジョン、乳濁液および懸濁液を安定させるために作用する。使用してもよい界面活性剤の例には、ポリソルベート、ポロキサマー、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシルヒマシ油、チロキサポール、トリトン、およびソルビタンモノラウレートがある。トリトンX114およびチロキサポールなど本発明で使用すべき好ましい界面活性剤は、12.4〜13.2の範囲の親水性/親油性/バランス「HLB」を有し、眼の使用に許容できる。
【0065】
ドライアイ型疾患および障害の治療のために製剤した組成物は、ドライアイ型状態に速効性の短期軽減をもたらすために設計した水性担体も含んでいてよい。かかる担体は、リン脂質担体または人工涙液担体、または両者の混合物として製剤することができる。本明細書では、「リン脂質担体」および「人工涙液担体」は:(i)潤滑し、「濡らし」、内因性涙液の稠度に近づけ、天然の涙の増加を助け、またはその他の方法で眼投与後のドライアイ症状および状態の一時的な軽減をもたらす、1種もしくは複数のリン脂質(リン脂質担体の場合)または他の化合物を含み;(ii)安全であり;かつ(iii)有効量の1種もしくは複数の特定のJak3阻害剤の局所投与のための適切な送達ビヒクルをもたらす水性組成物を意味する。人工涙液担体として有用な人工涙液組成物の例には、商品、例えばVisine Pure Tears(登録商標)、Visine Tears Natural Tears Formula(登録商標)(Johnson & Johnson)Tears Naturale(登録商標)、Tears Naturale II(登録商標)、Tears Naturale Free(登録商標)、Bion Tears(登録商標)(Alcon Laboratories,Inc.米国テキサス州Forth Worth)、Refresh Tears(登録商標)、Refresh Endura(登録商標)、Refresh Plus(登録商標)(Allergan Inc.)があるが、それだけには限定されない。リン脂質担体製剤の例には、米国特許第4,804,539号(Guoら)、第4,883,658号(Holly)、第4,914,088号(glonek)、第5,075,104号(Gresselら)、第5,278,151号(Korbら)、第5,294,607号(Glonekら)、第5,371,108号(Korbら)、第5,578,586号(Glonekら)に開示されているものがあり;前述の特許は、それらが本発明のリン脂質担体として有用なリン脂質組成物を開示する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
潤滑し、「濡らし」、内因性涙液の稠度に近づけ、天然の涙の増加を助け、またはその他の方法で眼投与後のドライアイ症状および状態の一時的な軽減をもたらすために設計された緩和化合物は、当技術分野で既知である。単量体ポリオール(グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール)などのかかる緩和剤は、場合によっては、張度調節剤として二元機能を供給し得る。緩和化合物は、組成物の粘性を高めることができ、それだけには限らないが:単量体ポリオール、高分子量ポリオール、例えばポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「HPMC」)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシルプロピルセルロース(「HPC」)、デキストラン、例えばデキストラン70;水溶性タンパク質、例えばゼラチン;およびビニルポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジノン、ポビドン、およびカルボマー、例えば、カルボマー941、カルボマー940、カルボマー971P、カルボマー974Pがある。
【0067】
本発明の眼用組成物に加えてもよい別の薬剤は、安定化ポリマーとして作用する粘滑剤である。安定化ポリマーは、局所眼使用に優先されるイオン性/帯電例、より具体的には物理的安定のために(−)10〜50mVのζ電位を示し得るその表面上に負電荷を持ち、水中で分散可能な(すなわち水溶性の)ポリマーであるべきである。本発明の好ましい安定化ポリマーは、0.1〜0.5%w/wの、カルボマーおよびPemulen(登録商標)、特にカルボマー974p(ポリアクリル酸)など、架橋ポリアクリレートのファミリー由来の高分子電解質または2種以上の場合複数の高分子電解質となる。上で述べたように、カルボマーは、緩和化合物としても作用し得る。
【0068】
担体の粘性を増大させるために、他の化合物も本発明の眼用組成物に加えることができる。粘性増強剤の例には、それだけには限らないが:多糖類、例えばヒアルロン酸およびその塩、硫酸コンドロイチンおよびその塩、デキストラン、セルロースファミリーの種々のポリマー;ビニルポリマー;およびアクリル酸ポリマーがある。一般に、リン脂質担体または人工涙液担体組成物は、1〜400センチポアズ(「cps」)の粘性を示すはずである。
【0069】
局所眼用生成物は、多回用量形態で通常包装される。したがって、使用中の微生物汚染を防ぐために防腐剤が必要とされる。適当な防腐剤には:塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、臭化ベンゾドデシニウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸二ナトリウム、ソルビン酸、ポリクオタニウム−1、または当業者に既知の他の薬剤がある。かかる防腐剤は、0.001〜1.0%w/vのレベルで通常使用する。本発明の組成物1回分は、無菌だが、通常保存処置がされないことになる。したがって、かかる組成物は、一般に防腐剤を含有しないことになる。
【0070】
本発明の好ましい組成物は、ドライアイまたはドライアイの症状に苦しんでいるヒト患者への投与を対象としている。かかる組成物は、局所的に投与することが好ましい。一般に、上記目的のために使用する用量は、異なるが、ドライアイ状態を排除または改善するのに有効な量となる。一般に、かかる組成物1〜2滴を1日当たり1回から何回も投与することになる。かかる組成物を毎日1回(QD)または2回(BID)投与することが好ましい。
【0071】
代表的な点眼剤は、以下の実施例2に示す。
【実施例1】
【0072】
1−{4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−エタノンおよび3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル。方法A:(1−ベンジル−4−メチル−ピペリジン−3−イル)−メチル−アミン
両方の参考文献を参照により完全に組み込む、Iorio,M.A.およびDamia,G.、Tetrahedron、26、5519(1970)とGriecoら、Journal of the American Chemical Society、107、1768(1985)の方法(補助溶媒として5%メタノールを用いて変更した)によって調製した、2Mメチルアミンのテトラヒドロフラン溶液23mLに溶解した1−ベンジル−4−メチル−ピペリジン−3−オン(2.3グラム、11.5mmol)の攪拌した溶液に、酢酸1.4mL(23mmol)を加え、得られた混合物を封管中に室温で16時間攪拌した。トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(4.9グラム、23mmol)を加え、新しい混合物を封管中に室温で24時間攪拌し、その時点で、1N水酸化ナトリウム(50mL)を添加して反応を停止させた。次いで反応混合物をエーテルで3×80mL抽出し、混合エーテル層を硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥させ、真空中で濃縮乾固させ、表題化合物1.7グラム(69%)を白色固体として生じた。LRMS:219.1(M+1)。
【0073】
方法B:(1−ベンジル−4−メチル−ピペリジン−3−イル)−メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミン
参照によりその全体を組み込む、Davoll、J.Am.Chem.Soc.、82、131(1960)の方法によって調製した4−クロロピロロ[2,3−d]ピリミジン(2.4グラム、15.9mmol)の溶液と、2当量のトリエチルアミン中に溶解させた方法Aからの生成物(1.7グラム、7.95mmol)を、封管中に100℃で3日間加熱した。室温まで冷却し、減圧下で濃縮した後、残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ;3%メタノールのジクロロメタン溶液)によって精製し、表題化合物1.3グラム(50%)を無色油として生じた。LRMS:336.1(M+1)。
【0074】
方法C:メチル−(4−メチル−ピペリジン−3−イル)−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミン
エタノール15mLに溶解させた方法Bからの生成物(0.7グラム、2.19mmol)に、2N塩酸1.5mLを加え、反応混合物を窒素パージによって脱ガスした。次いで反応混合物に20%水酸化パラジウム/炭素(50%水)(Aldrich)0.5グラムを加え、得られた混合物を50psi水素雰囲気下に室温で2日間振盪した(Parr振盪機)。セライトでろ過した反応混合物を真空中で濃縮乾固させ、残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ;5%メタノールのジクロロメタン溶液)によって精製し、表題化合物0.48グラム(90%)を生じた。LRMS:246.1(M+1)。
【0075】
方法D:1−{4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−エタノン
10:1ジクロロメタン/ピリジン5mLに溶解させた方法Cからの生成物(0.03グラム、0.114mmol)の攪拌した溶液に、アセチルクロリド(0.018グラム、0.228mmol)を加え、得られた混合物を室温で18時間攪拌した。次いで反応混合物をジクロロメタンと飽和重炭酸ナトリウム(NaHCO)の間で分割した。有機層を再度飽和NaHCOで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空中で濃縮乾固させた。残留物を分取薄層クロマトグラフィー(PTLC)(シリカ;4%メタノールのジクロロメタン溶液)によって精製し、表題化合物0.005mg(15%)を無色油として生じた。LRMS:288.1(M+1)。
【0076】
方法E:3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル(CP0690550)の合成
上記の方法A〜Dの通常の変更形態を用いて表題化合物3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル(CP0690550)を調製した。
【0077】
方法F:3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリルクエン酸塩の調製
WO2007/012953に記載されている方法を用いてクエン酸塩を調製した。清浄な、乾燥した、窒素パージした500ml反応器に、メチル−4(−メチル−ピペリジン−3イル)−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4イル)アミン(25.0g、0.102mol)および塩化メチレン(250ml)を充填した。混合物を室温で最低2.5時間攪拌した。清浄な、乾燥した、窒素パージした1L反応器に、シアノ酢酸(18.2g、0.214mol)、塩化メチレン(375ml)、およびトリエチルアミン(30.1ml、0.214mol)を充填した。混合物を1時間にわたって−15〜5.0℃まで冷却し、温度を0℃未満に保持する速度で塩化トリメチルアセチル(25.6ml、0.204mol)を加えた。反応を最低2.5時間持続させ、次いで温度を0℃未満に保持する速度でアミン溶液を加えた。1時間攪拌した後、混合物を室温まで温め、1M水酸化ナトリウム(125ml)を加えた。有機層を水(125ml)で洗浄した。500mlの体積および55〜65℃の温度に達するまで塩化メチレン溶液をアセトンで置換した。温度を55〜65℃に保持しながら水(75ml)を混合物に注入した。クエン酸(20.76g、0.107mol)の水(25.0)溶液を注入し、混合物を室温まで冷却した。反応器を最低5時間攪拌し、次いで得られた固体をろ過によって単離し、アセトン(2×75ml)で洗浄し、それをフィルターに送った。塩を2Bエタノール(190ml)および水(190ml)と一緒に清浄な、乾燥した、窒素パージした1L反応器中に充填した。スラリーを最低4時間75〜85℃まで加熱した。混合物を20〜30℃まで冷却し、さらに4時間攪拌した。固体をろ過によって単離し、2Bエタノール(190ml)で洗浄した。真空乾燥機中に50℃でわずかに窒素抽気しながら乾燥させた後、表題化合物34.6g(67.3%)を単離した。
H NMR(500MHz,d−DMSO):δ 8.14(s,1H,7.11(d,J=3.6Hz,1H)、6.57(d,J=3.6Hz,1H)、4.96(q,J=6.0Hz,1H)、4.00〜3.90(m,2H)、3.80(m,2H)、3.51(m,1H)、3.32(s,3H)、2.80(Ab,J=15.6Hz,2H)、2.71(Abq,J=15.6Hz,2H)、2.52〜2.50(m,qH)、2.45〜2.41(m,1H)、1.81(m,1H)、1.69〜1.65(m,1H)、1.04(d,J=6.9Hz,3H)。
【0078】
方法G:遊離塩基3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリルの調製
上記方法Fで調製した3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリルクエン酸塩を、ジクロロメタン中における1M水酸化ナトリウムで処理して、対応する遊離塩基を生じた。次いで遊離塩基をメタノールおよび水から結晶化させて、遊離塩基の結晶形を整えた。
【実施例2】
【0079】
医薬品製剤
実施例2a:製剤
以下の表2は、阻害剤CP0690550を含む種々の医薬品製剤を例示する。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例2b:調製
Jak3阻害剤CP0690550を3通りの投与量:0.001%、0.003%および0.01%w/wで含む上記製剤1から5のすべてを調製した。0.005%w/wの量のJak3阻害剤CP9690550を含む製剤5も調製した(図8参照)。0.03%w/wの量のJak3阻害剤を含む製剤6および7を調製した。
【0082】
必要量の張度調節剤(ヒプロメロース、または有する場合にはマンニトール)をフラスコに加え、最終体積の半分の緩衝液(指示された通りのリン酸塩またはクエン酸塩緩衝液)中で約50℃まで加熱することによって、上記製剤を調製した。バッチ量の阻害剤CP690550を加熱した後、追加の賦形剤(指示された場合、グリセリン、ポリエチレングリコール400)を計量し、溶解させた。バッチ量の、保存溶液としてのJak3阻害剤遊離塩基を測定し、加えた。精製水を十分量から100%まで加えた。混合物を5分間攪拌してホモジナイズし、次いで滅菌ろ過膜を通して無菌の容器中にろ過した。必要に応じて、1.0NaOHを混合することによってpHを調整した。
【0083】
製剤6および7は、より高い量の阻害剤CP690550(0.03%w/w)が含まれる眼用組成物を表す。張度調節剤および緩衝液に加えて、かかるより高濃度製剤は、界面活性剤および任意選択により安定化ポリマーも含むことになる。本発明の好ましい界面活性剤には、トリトンX114およびチロキサポールがある。好ましい安定化ポリマーには、カルボマー974pがある。
【0084】
製剤6および7の調製は、カルボマーをまず、それらの最終濃度の10倍で緩衝液を含有する界面活性剤中に分散させることによって調製した(例えば2.5%D−マンニトールおよび5%カルボマー974pを含むpH6.5における50mMリン酸塩緩衝液に溶かした3%チロキサポール)。Jak3阻害剤CP690550もその最終濃度の10倍で前濃縮物中に分散させた。次いで混合物をホモジナイズし、対応する緩衝液中でのろ過した前濃縮物の10倍希釈によって最終製剤を得た。
【実施例3】
【0085】
涙液分泌MRL/lpr(ドライアイ)マウスに対する選択的なJak3阻害剤の効果
終時的に涙液分泌量を研究するために、8週齢のMRL/lprマウス10匹および齢の一致するC57Black/6対照マウス5匹を、Jackson Laboratory(Bar Harbor、米国メイン州)から購入した。マウス系MRL/lprは、シェーグレン症候群に類似したドライアイに罹患しやすくなる変異を有する。
【0086】
C57マウスに比してMRL/lprマウスでドライアイが生じたことを証明するために、1週間にわたって涙液体積を4回測定することによってベースライン涙液体積を確立した。木綿糸(Quick Zone(登録商標))を鉗子で保持し、外眼角で眼の表面に15〜30秒間付けて涙液分泌を測定した。糸の濡れをミリメートル単位で測定した。C57対照マウスに比したMRL/lprマウスの涙液分泌測定を図1に示す。
【0087】
動物(5〜10マウス/グループ)を、2μlのビヒクル(0.05%トウィーン80を含有するリン酸緩衝溶液PBS)または0.1%(w/w)CP−690550のいずれかを用いて2週間の間1日2回処置した。C57マウスにもビヒクルを与えた。涙液体積を2、3、および6日目に測定した。MRL/lprマウスの涙液分泌に対するCP−690550の効果を図2に示す。
【0088】
図2に示す通り、CP0690550は、適用から最初の2日以内に涙液分泌量を著しく増加させることが可能であった。とりわけ、CP690550は、適用から最初の2日以内にドライアイマウスの開始時涙液分泌と比較して涙液分泌量を100%超増加させた。
【実施例4】
【0089】
CP−690550とRestasis(登録商標)を比較した比較データ
フェノールレッド含浸糸(Quick Zone(登録商標))を用いて涙液測定を行い、ベースライン測定を行ってから各薬物を適用した。薬物またはビヒクルを1日2回、2μlで適用した。
【0090】
ビヒクル処置正常C57black/6およびMRL/lprドライアイマウスを、それぞれ正常対照およびドライアイ対照として用いた。CP690550用のビヒクルは、0.05%トウィーン80を含有するリン酸緩衝溶液PBSであった。
【0091】
CP690550およびRestasis(登録商標)の有効性を比較するための実験は、30日間1日2回適用したRestasis(登録商標)(シクロスポリン0.05%)および0.01%のCP−690550を用いて行った。対照動物には、PBSビヒクルで処置した正常C57Black/6マウスおよびMRL/lprマウス、ならびにRefresh Endura(登録商標)(Restasis用のビヒクル)(5〜10マウス/グループ)で処置したMRL/lprマウスが含まれていた。CP−690550およびRestasis(登録商標)の比較涙液分泌を図3に示す。
【0092】
図3に示す通り、CP690550は、Restasis(登録商標)と比べてはるかに速い反応速度を有しており、Restasis(登録商標)に対して涙液分泌の体積の著しい改善を示した。
【0093】
さらに、図3も4も、CP690550の投与が、正常な涙液分泌に匹敵するレベル(「正常」C57マウスによる涙液分泌の5〜10%以内)まで涙液分泌量を究極的に増加させたことを示す。
【実施例5】
【0094】
MRL/lprマウスにおけるCP690550の用量反応速度
上記実施例4と同様に、ビヒクル処置正常C57black/6およびMRL/lprドライアイマウス(5〜10マウス/グループ)を、それぞれ正常対照およびドライアイ対照として用いた。CP690550用のビヒクルは、上記実施例2に示したように製剤1、3および4であった。Jak3阻害剤CP690550は、遊離塩基濃度について計算して、0.003%(w/w)、01%(w/w)および.03%(w/w)で適用した。製剤1のための処置は、2μlで1日2回、2週間続けた。製剤3および4のための処置は、1μlで1日1回、2週間続けた。
【0095】
図4は、0.01%(w/w)1日2回の製剤1ビヒクル中CP690550の投与は、8日以内に、正常な涙液分泌のものに匹敵するレベル(C57正常マウスによる涙液分泌の5〜10%以内)まで涙液分泌を増加させたことを示す。同様に、図5および6は、製剤3および4ビヒクル中CP690550の用量反応速度を示す。すべての比較において、処置の2日後に涙液分泌の著しい改善が示された。
【実施例6】
【0096】
誘発ドライアイマウスモデル
注射用生理食塩水(動物1匹当たり1〜1.5ml)中に2.5mg/mlスコポラミン(sigma)を含む注射液を調製した。正常C57マウスの場合、スコポラミン200〜250ulを2.5時間毎に後肢に交互に4回注射した。マウスを特別なケージ(前面および背面に穴が空いている)に入れ、フードで覆った。扇風機を各ケージの前に置き、5日間の間終夜16時間作動させた。
【0097】
測定を毎日行った。5日目の終わりに、すべての動物がドライ誘発(dry−induced)されたと見なした。
【0098】
上記実施例4および5と同様に、動物は、薬物またはビヒクルを用いて1μlで1日1回、2週間処置した。ビヒクル処置C57black/6およびドライ誘発マウス(5〜10マウス/グループ)を、上記実施例2で調製した製剤3および5で処置した。図7および8は、2日間の処置で涙液分泌の著しい増加が示されたことを示す。4日間の処置後、製剤3中に0.01%(w/w)のCP0690550阻害剤を含む製剤、および製剤5中に0.003%のCP690550阻害剤を含む製剤が、正常な涙液分泌値に近づいた。
【0099】
本発明は、いくつかの好ましい実施形態を参照することにより説明しているが、その特別なまたは不可欠な特徴から逸脱することなく他の具体的な形態またはその変形形態で具体化していてもよいことを理解されたい。上記で説明した実施形態は、したがってすべての点で例示的であり、限定的ではないと考えられ、本発明の範囲は、前述の説明よりもむしろ添付の特許請求の範囲によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】上記実施例1で論じたMRL/lprマウス(「ドライアイマウス」)対対照C57マウスの涙液分泌を示す図である。
【図2】選択的なJak3阻害剤、3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリル(CP0690550)を投与した場合のドライアイマウス対C57マウスの涙液分泌を示す図である。
【図3】主要なドライアイ治療薬Restasis(登録商標)と比べたJak3阻害剤CP0690550の涙液分泌を示す図である。
【図4】正常およびドライアイ対照と比べた製剤1ビヒクル中0.003%、0.01%、および0.03%(w/w)のCP690550の用量反応効果を示す図である。
【図5】正常およびドライアイ対照と比べた、製剤3ビヒクル中0.001%および0.003%(w/w)のCP690550の用量反応効果を示す図である。
【図6】正常およびドライアイ対照と比べた、製剤4ビヒクル中0.001%、0.003%および0.01%(w/w)のCP690550の用量反応効果を示す図である。
【図7】正常眼およびプラセボビヒクル対照と比べた、誘発ドライアイマウスモデルにおける製剤3ビヒクル中0.003%および0.01%(w/w)のCP690550の用量反応効果を示す図である。
【図8】正常眼およびプラセボビヒクル対照と比べた、誘発ドライアイマウスモデルにおける製剤5ビヒクル中0.003%および0.005%(w/w)のCP690550の用量反応効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物に薬学的に有効な量のヤヌスキナーゼ−3(「Jak3」)阻害剤を含む組成物を投与することを含む、ドライアイの治療のための方法。
【請求項2】
前記Jak3阻害剤が、
【化1】

の構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
未治療の涙液分泌量と比べて2日以内に涙液分泌量を著しく増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
開始時涙液分泌と比較して2日以内に涙液分泌量を少なくとも50%増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
正常な涙液分泌のものに匹敵するレベルまで涙液分泌量を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記Jak3阻害剤を多くて1日2回(BID)投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記Jak3阻害剤を毎日(QD)投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物に、薬学的に許容できる担体と薬学的に有効な量の構造3−{(3R,4R)−4−メチル−3−[メチル−(7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル)−アミノ]−ピペリジン−1−イル}−3−オキソ−プロピオニトリルを有するヤヌスキナーゼ−3(「Jak3」)阻害剤とを含む組成物を投与することを含む、哺乳動物における正常な涙液分泌の回復のための方法。
【請求項9】
薬学的に有効な量のJak3阻害剤と薬学的に許容できる担体とを含む、局所眼用組成物。
【請求項10】
Jak3阻害剤の前記薬学的に有効な量が0.0001〜0.1%(w/w)未満である、前記請求項のいずれかに記載の方法または組成物。
【請求項11】
Jak3阻害剤の前記薬学的に有効な量が0.003〜0.03%(w/w)である、前記請求項のいずれかに記載の方法または組成物。
【請求項12】
Jak3阻害剤の前記薬学的に有効な量が0.01〜0.03%(w/w)である、前記請求項のいずれかに記載の方法または組成物。
【請求項13】
張度調節剤およびリン酸塩またはクエン酸塩から選択された緩衝液をさらに含む、請求項9に記載の眼用組成物。
【請求項14】
界面活性剤をさらに含む、請求項13に記載の眼用組成物。
【請求項15】
前記界面活性剤がチロキサポールである、請求項14に記載の眼用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−46470(P2009−46470A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−178868(P2008−178868)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】