説明

ドライエッチング装置および方法ならびに膜付き水晶振動子

【課題】短時間でのドライエッチング作業を可能とし、しかも、許容誤差に関する厳格な要求にも十分応えることができるようにする。
【解決手段】ドライエッチング手段1を用意する。被エッチング材料5を、ドライエッチング手段1によってエッチングされるように配置する。水晶振動子2を、被エッチング材料5と同一条件でドライエッチング手段1によってエッチングされるように配置する。膜厚制御装置3を水晶振動子2に接続する。ドライエッチング手段1によって被エッチング材料5および水晶振動子2をエッチングする。エッチング作業中に膜厚制御装置3によって水晶振動子2の振動数をモニタリングし、振動数の変化に基づいて、水晶振動子2から除去された重量を求める。除去された重量を被エッチング材料5から減じられた厚みに換算し、その換算された値が所定値に達したときにドライエッチング手段1によるエッチング作用を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライエッチング装置および方法、ならびにこれらに用いられる膜付き水晶振動子に関する。
本発明は特に、薄膜磁気ヘッドのスライダーに溝を形成する技術に有用であるが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブの薄膜磁気ヘッドは、ディスクとの間に10ナノメーターレベルの間隙を維持することが求められている。そこで、薄膜磁気ヘッドに設けられたスライダーのディスク対向面側に複雑な形状の溝を形成し、そこで発生する空力特性を利用している。このスライダーの溝の形成は、例えば真空環境下のイオンミリング装置のようなドライエッチング手段により行われている。
【0003】
ヘッドとディスクとの間の間隙をより小さくしようという要求に伴い、スライダーの溝の深さに関する許容誤差範囲は非常に厳しいものになっている。従来、溝の形成に多く利用されているイオンミリング装置のエッチング量は、イオンエネルギー(電圧)とイオン電流密度(電流)とイオンの入射角度エッチング係数(物理特性)とエッチング時間との積でほとんど決まる。そこで、スライダーの溝の形成においては、時間以外のパラメーターは固定し、時間によりエッチング量の制御を行っている。
【0004】
しかしながら、実際のエッチング量は、環境要因によって毎回異なる誤差を伴う。また、所定以上の深さまでエッチングしてしまうと製品は全損となるため、過度のエッチングは許されない。
【0005】
そこで従来行われている方法は、所定のエッチング量に達する前にエッチング作用を停止し、真空環境を破ってスライダーを取り外し、エッチングされた深さを触針式の表面粗さ計などで測定した後、再び真空環境を形成して残りをエッチングするようにしていた。
【0006】
この方法は、再度真空環境を形成するための真空排気と作業途中でのエッチング量測定という、本来は不要な工程に全工程の約半分の時間を費やすため、改善が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上述した本来不要な工程を省略することにより短時間でのドライエッチング作業を可能とし、しかも、許容誤差に関する厳格な要求にも十分応えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
被エッチング材料をエッチングするためのドライエッチング手段と、
前記被エッチング材料と同一条件でエッチングされるように配置された水晶振動子と、
前記水晶振動子に接続された膜厚制御装置にして、前記水晶振動子の振動数をモニタリングすることによって前記被エッチング材料から減じられた厚みを求め、その減じられた厚みが所定値に達したときに前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止するための膜厚制御装置と、
を備えるドライエッチング装置が提供される。
【0009】
前記水晶振動子は、膜付き水晶振動子とすることができる。
前記膜厚制御装置は、単位時間当たりに前記被エッチング材料から減じられる厚みに基づき、所定の厚みが減じられるまでの時間の経過に応答して前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止させる機能を有するものとすることができる。
【0010】
本発明によればまた、
ドライエッチング手段を用意し、
被エッチング材料を、前記ドライエッチング手段によってエッチングされるように配置し、
水晶振動子を、前記被エッチング材料と同一条件で前記ドライエッチング手段によってエッチングされるように配置し、
膜厚制御装置を前記水晶振動子に接続し、
前記ドライエッチング手段によって前記被エッチング材料および前記水晶振動子をエッチングし、
エッチング作業中に前記膜厚制御装置によって前記水晶振動子の振動数をモニタリングし、前記振動数の変化に基づいて、前記水晶振動子から除去された重量を求め、前記除去された重量を前記被エッチング材料から減じられた厚みに換算し、その換算された値が所定値に達したときに前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止する、
ドライエッチング方法も提供される。
【0011】
この方法においても、前記水晶振動子を膜付き水晶振動子とすることができる。
また、単位時間当たりに前記被エッチング材料から減じられる厚みに基づき、所定の厚みが減じられるまでの時間の経過に応答して前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止させるようにすることもできる。
【0012】
本発明によればさらに、
ドライエッチング手段および膜厚制御装置とともに用いられる膜付き水晶振動子であって、
水晶母体と前記水晶母体に形成された膜体とを備えており、
前記膜厚制御装置に接続され、被エッチング材料と同一条件で前記ドライエッチング手段によって前記膜体をエッチングされ、前記膜厚制御装置によって振動数の変化をモニタリングされることにより除去された重量を求められ、この除去された重量が、前記被エッチング材料から減じられた厚みに換算されるようになされた、
膜付き水晶振動子も提供される。
【0013】
前記膜体は、被エッチング材料と同じ材質で作ることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被エッチング材料が実際にエッチングされている環境と同じ環境下でエッチング量を同時シミュレーションした結果に基づいて、エッチング作業を進めてゆくことができるので、高精度なエッチング作業を行うことができる。
【0015】
また、エッチング作業途中で真空環境を破ってエッチング量を測定する必要もないので、再度の真空環境形成のための真空排気や測定の工程を省略できるので、エッチング作業に要する時間は従来の約半分ですむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明によるドライエッチング装置の一実施態様を模式的に描いた図である。ドライエッチング装置は、イオンビームミリング装置1のようなドライエッチング手段と、水晶振動子2と、水晶振動子2に接続された膜厚制御装置3とから構成される。
【0017】
イオンビームミリング装置1は、公知のものを利用することができ、内部を真空状態にすることができるハウジング4を有している。
ハウジング4内には、イオンビームミリング装置1によってエッチングされるべき被エッチング材料5が複数配置されている。水晶振動子2は、被エッチング材料5と同一条件でエッチングされるよう配置される。例えば、複数の被エッチング材料5を均一にエッチングできるよう設置することのできるプラネタリーステージの1箇所に、被エッチング材料5に代えて水晶振動子2を配置するようにしてもよい。
【0018】
水晶振動子2は、水晶母体とこの水晶保体の振動面に付着(接合)されるようにして形成された膜体とで構成される膜付き水晶振動子とすることができる。膜体は、膜厚制御装置3が水晶振動子2の振動数を測定できる限界近くまで厚く形成される。膜体の材質は、被エッチング材料5の材質と同じであることが好ましい。しかしながら、エッチング特性に関して被エッチング材料5の材質との相関関係が明確なものであれば、他の材質の膜体を採用することもできる。
【0019】
また、被エッチング材料5と水晶母体とがエッチング特性に関して明確な相関関係を有する場合には、膜体が形成されていない水晶母体のみを水晶振動子2として利用することもできる。
【0020】
膜厚制御装置3としては、真空蒸着作業の際に蒸着される膜厚を制御するのに使用される公知のものを利用することができる。膜厚制御装置3は、イオンビームミリング装置1によってエッチングされる水晶振動子2の振動数の変化をモニタリングすることにより、水晶振動子2から除去された重量を知ることができる。その値は、同一条件下で被エッチング材料5から除去された重量値をシミュレートしたものであるから、膜厚制御装置3は水晶振動子2から除去された重量から被エッチング材料5から除去された重量、ひいては被エッチング材料5から減じられた厚みを換算して求めることができる。
【0021】
膜厚制御装置3はまた、単位時間当たりに被エッチング材料5から実際に減じられた厚み(減算レート)を知ることにより、この減算レートに基づき、被エッチング材料5から所定の厚みが減じられるまでの時間を求めることができる。
【0022】
膜厚制御装置3は、被エッチング材料5から減じられた厚みが所定の値になったとき、イオンビームミリング装置1のエッチング作用を停止させる信号を出力することができる。この場合、被エッチング材料5から所定の厚みが減じられるまでの時間が経過したことに応答して、イオンビームミリング装置1のエッチング作用を停止させる信号を発するようにしてもよい。
【0023】
本発明によるドライエッチング方法を説明する。ドライエッチング手段であるイオンビームミリング装置1に、被エッチング材料5と水晶振動子2とを同一条件下でエッチングされるように配置する。水晶振動子2は膜厚制御装置3に接続する。ハウジング4内を真空排気して真空環境を形成した後、イオンビームミリング装置1がエッチング作用を開始する。それと同時に、膜厚制御装置3は水晶振動子2の振動数のモニタリングを開始し、振動数の変化に基づいて、水晶振動子2から除去された重量を求める。膜厚制御装置3は、水晶振動子2から除去された重量の値を、被エッチング材料から減じられた厚みに換算する。被エッチング材料5のエッチング特性と、水晶振動子2のエッチングされる箇所の材質のエッチング特性との相関関係により、換算の計算式は異なる。被エッチング材料5と同じ材質でできた膜体が水晶振動子2の振動面に形成されている場合、より高精度の換算が行われるであろう。
【0024】
被エッチング材料5から減じられた厚み(換算値)が所定の値に達したとき、膜厚制御装置3はイオンビームミリング装置1にエッチング作用を停止させる信号を発する。モニタリングにより、単位時間当たりに被エッチング材料5から実際に減じられた厚み、すなわち減算レートを知り、これに基づいて、被エッチング材料5の所定の厚みが減じられるまでの時間が経過したことをもって、被エッチング材料5から減じられた厚みが所定の値に達したとみなしてもよい。
【0025】
イオンビームミリング装置1のエッチング作用を停止させるにあたっては、イオンビームミリング装置1の作動を停止させるようにしてもよいし、エッチング作用のレートをゼロにする、すなわち単位時間あたりのエッチング量がゼロとなるようにしてもよい。
【0026】
なお、ドライエッチング手段としては、イオンビームミリング装置以外の装置を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施態様によるドライエッチング装置を模式的に示した概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 イオンビームミリング装置(ドライエッチング手段)、2 水晶振動子、3 膜厚制御装置、4 ハウジング、5 被エッチング材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被エッチング材料をエッチングするためのドライエッチング手段と、
前記被エッチング材料と同一条件でエッチングされるように配置された水晶振動子と、
前記水晶振動子に接続された膜厚制御装置にして、前記水晶振動子の振動数をモニタリングすることによって前記被エッチング材料から減じられた厚みを求め、その減じられた厚みが所定値に達したときに前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止するための膜厚制御装置と、
を備えるドライエッチング装置。
【請求項2】
前記水晶振動子が膜付き水晶振動子である、請求項1に記載のドライエッチング装置。
【請求項3】
前記膜厚制御装置は、単位時間当たりに前記被エッチング材料から減じられる厚みに基づき、所定の厚みが減じられるまでの時間の経過に応答して前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止させる機能を有している、請求項1または2に記載のドライエッチング装置。
【請求項4】
ドライエッチング手段を用意し、
被エッチング材料を、前記ドライエッチング手段によってエッチングされるように配置し、
水晶振動子を、前記被エッチング材料と同一条件で前記ドライエッチング手段によってエッチングされるように配置し、
膜厚制御装置を前記水晶振動子に接続し、
前記ドライエッチング手段によって前記被エッチング材料および前記水晶振動子をエッチングし、
エッチング作業中に前記膜厚制御装置によって前記水晶振動子の振動数をモニタリングし、前記振動数の変化に基づいて、前記水晶振動子から除去された重量を求め、前記除去された重量を前記被エッチング材料から減じられた厚みに換算し、その換算された値が所定値に達したときに前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止する、
ドライエッチング方法。
【請求項5】
前記水晶振動子が膜付き水晶振動子である、請求項4に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
単位時間当たりに前記被エッチング材料から減じられる厚みに基づき、所定の厚みが減じられるまでの時間の経過に応答して前記ドライエッチング手段によるエッチング作用を停止させる、請求項4または5に記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
ドライエッチング手段および膜厚制御装置とともに用いられる膜付き水晶振動子であって、
水晶母体と前記水晶母体に形成された膜体とを備えており、
前記膜厚制御装置に接続され、被エッチング材料と同一条件で前記ドライエッチング手段によって前記膜体をエッチングされ、前記膜厚制御装置によって振動数の変化をモニタリングされることにより除去された重量を求められ、この除去された重量が、前記被エッチング材料から減じられた厚みに換算されるようになされた、
膜付き水晶振動子。
【請求項8】
前記膜体が被エッチング材料と同じ材質でできている、請求項5に記載の膜付き水晶振動子。

【図1】
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【公開番号】特開2007−115939(P2007−115939A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306768(P2005−306768)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】