説明

ドライクリーニング用洗浄剤組成物およびそれを用いたドライクリーニング方法

【課題】 水溶性汚れおよび油性汚れの各種汚れが付着した衣料等を効率よく洗浄でき、且つ、衣料類の収縮を起こさず、高速に乾燥でき、さらに安全性も確保できるドライクリーニング用洗浄剤組成物およびそれを用いた衣料のドライクリーニング方法を提供する。
【解決手段】 ジエチレングリコールジエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、および水を含んでなる洗浄剤組成物で衣料を処理する。ジエチレングリコールジエチルエーテルおよび3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールの配合比は、夫々10〜99容量%、90〜1容量%が好ましく、洗浄剤組成物総量に対して水の含有量は15〜75容量%が好ましい。さらに、他の多価アルコール誘導体、エステル類、エーテル類等を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエチレングリコールジエチルエーテルと3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、および水を含んでなる非引火性のドライクリーニング用洗浄剤組成物およびそれを用いた衣料のドライクリーニング方法に関する。さらに詳しくは、衣料等のドライクリーニングにおいて、水溶性汚れおよび油性汚れに対する洗浄性、衣類等の収縮防止性、および乾燥性が高く、且つ、火災危険性が少なく、低臭気で、有害性の低いドライクリーニング用洗浄剤組成物およびそれを用いた衣料のドライクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライクリーニングに使用される洗浄剤は、パークロロエチレン、トリクロロエチレンなどの塩素系溶剤、ホワイトガソリン、n−デカン等の石油系溶剤、HCFC−225等のフッ素系溶剤に各種界面活性剤を配合したもの、あるいはそれらの溶剤に微量の水を可溶化したものが使用されてきた。
【0003】
しかし、パークロロエチレン等の塩素系溶剤は、地下水汚染や人体への有害性の問題があり、フッ素系溶剤は、オゾン層破壊や地球温暖化の問題がある。石油系溶剤は、それらの有害性や環境影響についての問題が少ないうえ、洗浄性、乾燥性、回収性に優れ、臭気も少ないことから、現在ドライクリーニング用溶剤の主流となっているが、引火性が高いため、防爆対策を施したドライクリーニング設備が必要となり、さらに、法規制によって使用場所が住宅・商業地域以外に限られる等、取り扱いが難しい問題がある。また、これら従来の洗浄剤では、水溶性汚れの除去に関して不十分である問題があった。
【0004】
これらの問題に対し、石油系洗浄剤の水溶性汚れに対する洗浄力を改善する目的で、種々の改良が提案されている。ジプロピレングリコール系の特定エーテルと水と織物柔軟材を含むドライクリーニング用組成物(例えば、特許文献1参照)、プロピレングリコール系の特定エーテルと水と織物柔軟材を含むドライクリーニング用組成物(例えば、特許文献2参照)、水溶性有機溶剤を含有し、水分含有率がそれぞれ特定範囲にある2種類のドライクリーニング溶液を用いたドライクリーニング方法(例えば、特許文献3参照)、特定の水溶性汚れ洗浄化合物および親水性を有する水系溶媒を特定比率で含むドライクリーニング用水性汚れ洗浄剤(例えば、特許文献4参照)、特定のポリオキシアルキレン・ジアルキル(またはアルケニル)エーテルを主成分としてなるドライクリーニング方法(例えば、特許文献5参照)が開示されている。また、フラックスの除去に適したものではあるが、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ノニオン界面活性剤または/およびアルキレングリコールジアルキルエーテルと水からなる洗浄剤組成物(例えば、特許文献6参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−518993公報
【特許文献2】特表2004−503663公報
【特許文献3】特開平8−113869号公報
【特許文献4】特開2003−41292公報
【特許文献5】特開平5−51598号公報
【特許文献6】特開平7−109493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで提案されてきたドライクリーニング用の洗浄剤は、いずれにおいても洗浄性、収縮性、乾燥性、安全性、有害性等の要求項目をすべて満たすことはなかった。
【0007】
本発明の目的は、水溶性汚れおよび油性汚れに対する洗浄性、衣類等の収縮防止、乾燥性、および火災危険性の少ない安全なドライクリーニング用洗浄剤組成物およびそれを用いたドライクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の問題点を解決すべく種々の検討を重ねた結果、ジエチレングリコールジエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールおよび水を含んでなる非引火性のドライクリーニング用洗浄剤組成物およびそれを用いたドライクリーニング方法が有用であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いる洗浄剤組成物は、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよび3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールからなる洗浄溶剤Aと、水を含んでなるものである。
【0011】
洗浄溶剤Aは、好ましくはジエチレングリコールジエチルエーテルの含有量が10〜99容量%、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールの含有量が90〜1容量%のものであり、特に好ましくはジエチレングリコールジエチルエーテルの含有量が20〜99容量%、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールの含有量が80〜1容量%のものであり、さらに好ましくはジエチレングリコールジエチルエーテルの含有量が25〜95容量%、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールの含有量が75〜5容量%のものである。
【0012】
本発明に用いる洗浄剤組成物の沸点は、組成により174〜186℃の範囲とすることが可能であり、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール(沸点174℃)に対するジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)の配合比の増加に従って上昇する。これらの配合によって沸点が低下することはなく、従って揮発性が高くなることもない。
【0013】
本発明の洗浄剤組成物の洗浄溶剤Aは、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールまたはジエチレングリコールジエチルエーテル単独の溶剤よりも乾燥性が高く、好ましく使用することができる。
【0014】
また、本発明に用いるジエチレングリコールジエチルエーテルあるいは3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールに代えて、他の多価アルコール誘導体、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等を使用しても、洗浄力、乾燥性、安全性、有害性等の要求項目をすべて満たすことはできない。
【0015】
洗浄溶剤Aおよび水を含んでなるドライクリーニング用洗浄剤組成物100容量%において、水の含有量は15〜75容量%であり、好ましくは水の含有量が15〜50容量%であり、さらに好ましくは水の含有量が17〜40容量%の範囲である。
【0016】
水の含有量が15容量%未満の場合は、引火性があるため、安全に使用することができない。また、水の含有量が75容量%を超えると、衣料の収縮が著しくなり、好ましく使用することができない。
【0017】
本発明に用いる洗浄剤組成物は、引火性がなく、乾燥性に優れるとともに、衣類に付着した水溶性汚れおよび油性汚れに対し優れた洗浄力を示す。
【0018】
すなわち、本発明のジエチレングリコールジエチルエーテルと3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、および水を含んでなる洗浄剤組成物を用いることにより、初めて顕著な効果が得られる。
【0019】
本発明の洗浄剤組成物は、本組成物の性能を損なわない範囲で、他の多価アルコール誘導体、エステル類、エーテル類等をさらに含んでも構わない。
【0020】
本発明に用いる洗浄剤組成物は、本組成物の性能を損なわない範囲で、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)、チモール、ピロカテキン等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール類、ベンゾチアゾール類等の銅、亜鉛の腐食防止剤、香料、消臭剤、色素、柔軟剤、蛍光染料、酵素、防腐剤、抗菌剤、殺菌剤、消毒剤、キレート剤、静電気除去剤等をさらに含んでも構わない。
【0021】
洗浄温度、時間等のドライクリーニング条件は、通常のドライクリーニングの条件が適用できる。特に液温が60℃を超える場合は、洗浄性、収縮防止および安全性の観点から、洗浄剤を冷却して洗浄することが望ましい。洗浄後は脱液して、そのまま乾燥することが可能である。
【0022】
本発明のドライクリーニング方法は、ドライクリーニング前の染み抜きとしても好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のドライクリーニング方法によれば、水溶性汚れおよび油性汚れの各種汚れが付着した衣料等を効率よく洗浄でき、且つ、衣料類の収縮を起こさず、高速に乾燥でき、さらに安全性も確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】洗浄溶剤成分の組成比と乾燥時間の関係を示す図である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1〜6、比較例1〜4
<引火点測定>
表1に示す各洗浄剤について、迅速平衡法(JIS K2265−2)およびクリーブランド開放法(JIS K2265−4)にて引火点を測定した。
【0027】
実施例7〜11、比較例5〜8
<引火性>
表2に示す各洗浄剤について、迅速平衡法(JIS K2265−2)で引火点を測定し、引火点が認められなかったものについて、クリーブランド開放法(JIS K2265−4)にて引火点を測定し、下記評価基準で引火性の評価を行なった。
【0028】
評価基準 〇:迅速平衡法およびクリーブランド開放法で引火点なし
×:迅速平衡法またはクリーブランド開放法で引火点あり
<洗浄試験>
表2に示す各洗浄剤について、洗浄剤1000mLが入った1Lビーカーを40℃に調整し、回転翼付きモーターで10分間、5枚の湿式人工汚染布((財)洗濯科学協会製)を洗浄した(回転数240rpm)。洗浄後の湿式人工汚染布を軽く絞り、新しい洗浄剤の入ったビーカーに移し、同条件にて3分間のすすぎを行った。すすぎ後の湿式人工汚染布を金網に並べ、80℃の温風乾燥機にて1分間乾燥させ、乾燥後の湿式人工汚染布について石油系ドライクリーニング洗浄剤の洗浄後の試験布を基準として、布の着色度を目視で評価し、下記評価基準で洗浄性の評価を行なった。
【0029】
石油系ドライクリーニング溶剤(溶剤D)組成:
n−デカン/ドライクリーニング用ソープ(ハーブドライ:(株)ゲンブ製)=99/1容量%
評価基準 〇: 溶剤Dより良好
△: 溶剤Dと同等
×: 溶剤Dより悪い
<収縮試験>
表2に示す各洗浄剤について、洗浄剤1000mLが入った5Lポリ容器に、被服実験用試料トロピカル(毛)を各1枚ずつ入れ、ドラム式回転機械を用い10分間洗浄した。洗浄後のトロピカル(毛)を軽く絞り、80℃の温風乾燥機で1分間乾燥させた。この洗浄、乾燥操作を6回繰り返し、洗浄前および洗浄、乾燥後の被服実験用試料トロピカル(毛)の対角線部分A−Bを計測し、下式により収縮率を算出した。
【0030】
収縮率 = (洗浄、乾燥後のA−B長さ) / (洗浄前のA−B長さ) ×100[%]
<乾燥試験>
アルミ板(15cmφ×0.4mmt)を25℃の洗浄剤に浸漬し、引き上げて30秒間静かに吊るして液切りを行い、その後、70℃の温風で乾燥を行い、乾燥する時間を測定した。乾燥性の評価基準は、次のとおりである。
【0031】
評価基準: ◎:60秒以下、○:60〜65秒未満、×:65秒以上
<総合評価>
++: 優
+ : 良
− : 不良
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチレングリコールジエチルエーテルの含有量が10〜99容量%、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールの含有量が90〜1容量%である組成物を洗浄溶剤Aとし、洗浄溶剤Aおよび水を含んでなるドライクリーニング用洗浄剤組成物100容量%において、水の含有量が15〜75容量%であることを特徴とする非引火性のドライクリーニング用洗浄剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄剤組成物で衣料を処理することを特徴とする衣料のドライクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1658(P2012−1658A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139214(P2010−139214)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】