説明

ドライブケース用プレコート金属板

【課題】耐傷付き性に優れ、かつ、導電性に優れたドライブケース用プレコート金属板を提供する。
【解決手段】金属板の両面に形成した化成皮膜と、前記化成皮膜の一方の上に形成されベース樹脂と潤滑剤を含有する樹脂皮膜とを備えたドライブケース用プレコート金属板であって、前記樹脂皮膜表面において、最大高さの突出部を通り前記金属板の圧延方向に直交する一の直線上における算術平均粗さRa(μm)以上の突出部が1mm当たり19〜781個存在することを特徴とするドライブケース用プレコート金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビ、パソコン、DVDプレーヤー等の電気機器や電子機器のドライブケースに用いられるドライブケース用プレコート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
静電気や電磁波ノイズによる誤動作を防ぐ為、電気機器や電子機器のドライブケース材料に要求される重要な性能として導電性が挙げられる。導電性能を満足させる為に裸材の金属板を用いることが考えられる。裸材の金属板を使用する場合において、高粘度のプレス油を使用すると有機溶剤等による脱脂工程が必要であったが、環境問題への対応の観点から脱脂工程を省略するため、低粘度の揮発性プレス油を使用するようになってきている。
【0003】
しかしながら、低粘度の揮発性プレス油では潤滑性が劣る為に成形時に高加工部で割れが発生し、金型との磨耗で傷が付き易い問題が残った。これに対して金属板上に潤滑剤を含有する塗料を塗装すると成形性は良好になるが、得られる樹脂被膜は絶縁体であるので導電性が劣る欠点があった。このように相反する性能を満足させる為に工夫がなされ、成形性と導電性を有するプレコート金属板が提案されている。
【0004】
特許文献1には、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂及びウレタン系樹脂から成る群から選ばれる少なくとも1種を樹脂成分とし、水分1〜50質量%、潤滑剤0.1〜20質量%を含有し、かつ厚みが0.05〜5μmである樹脂被膜によって、金属板の表面が被覆されている電気電子機器用の金属板材が開示されている。
【特許文献1】:特開2002−275656号公報
【0005】
特許文献2には、中心線平均粗さが0.2〜0.6μmのアルミニウム素板の少なくとも片面に、素板側から耐食性皮膜及び樹脂皮膜が順次形成されたアルミニウム板が開示されている。ここで、耐食性皮膜はCrまたはZrを含有し、かつ、付着量がCrまたはZr換算で10〜50mg/mであり、樹脂皮膜は平均膜厚が0.05〜0.3μmで全樹脂皮膜量に対して1〜25質量%の潤滑剤を含有する。アルミニウム素板またはこの上に耐食性皮膜が形成された表面は、その微細な凸部が樹脂皮膜の表面に露出する。樹脂皮膜が形成された側の面に半径10mmの球状端子を0.4Nの荷重で押し付けた際に、前記球状端子とアルミニウム素板の間の表面抵抗値が10Ω以下とされる。
【特許文献2】:特開2003−313684号公報
【0006】
特許文献3には、アルミニウム合金板よりなる基板と、基板の片面又は両面に形成した化成皮膜と、化成皮膜上に形成した導電層とよりなる導電性プレコートアルミニウム合金板が開示されている。導電層は、Zr化合物を含有する導電性の合成樹脂塗膜よりなると共に、その膜厚が0.5μm以下である。
【特許文献3】:特開2004−068042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂皮膜の皮膜厚さが薄い程、成形性が劣る傾向がある。樹脂皮膜と金型が接触し擦れて、皮膜厚さが薄い程、樹脂皮膜に損傷が発生し易いからである。最近、ドライブケースの開発が進み、プレコート金属板に求められる成形性は従来よりも過酷になっている。特許文献1に開示された樹脂被膜では、水分を50質量%含む場合もある為、樹脂成分の存在しない部分が起点となって樹脂皮膜が破断し易くなることが容易に想定される。そのような場合、成形後に傷が残りドライブケースの外観品質が劣るという問題がある。
【0008】
特許文献2に開示された樹脂皮膜では、素材の表面粗度を中心線平均粗さで0.2μm〜0.6μmとし、樹脂皮膜の厚さを0.05〜0.3μmとしているが、樹脂皮膜表面の三次元表面形状に関する規定がない。その為、例えば、素材の表面粗度が中心線平均粗さ0.6μmで、かつ、樹脂皮膜の厚さ0.05μmとすると、素材の凸部が樹脂皮膜表面から露出し易くなるものと考えられ、素材の凸部が金型と擦れ易くなることは容易に想定される。そのような場合、成形後に傷が残りドライブケースの外観品質が劣るという問題がある。
【0009】
特許文献3に開示された樹脂皮膜中にはZr化合物が含まれている為に、それが破断起点となり、樹脂皮膜が破断し易くなることは容易に想定される。
本発明は以上の従来技術における問題に鑑み、耐傷付き性に優れ、かつ、導電性に優れたドライブケース用プレコート金属板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は請求項1において、金属板の両面に形成した化成皮膜と、前記化成皮膜の一方の上に形成されベース樹脂と潤滑剤を含有する樹脂皮膜とを備えたドライブケース用プレコート金属板であって、前記樹脂皮膜表面において、最大高さの突出部を通り前記金属板の圧延方向に直交する一の直線上における算術平均粗さRa(μm)以上の突出部が1mm当たり19〜781個存在することを特徴とするドライブケース用プレコート金属板とした。
【0011】
本発明は請求項2において、前記樹脂皮膜が界面活性剤を更に含有し、前記潤滑剤がポリエチレンワックス及びカルナウバワックスの少なくとも1種から成り、前記樹脂皮膜表面において、長さ100μmの任意の一の直線が切断する前記潤滑剤の粒子の長さの和を10〜80μmとした。
【0012】
本発明は請求項3において、前記ベース樹脂を、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種とした。更に、本発明は請求項4において、前記樹脂皮膜中の残留水分率を0.001〜2重量%とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプレコート金属板は、特定の表面形状を有するので、良好な耐傷付き性と良好な導電性を付与することができる。更に、特定の潤滑剤の表面占有率が特定の範囲にあるので、良好な耐傷付き性と導電性のバランスを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
A.金属板
本発明において用いる金属板の材質は、電気機器や電子機器の部品のドライブケースを形成するのに十分な強度を有し、かつ、十分な成形加工性を有するものであれば、特に限定されるものではない。純アルミニウム、5000系アルミニウム合金等のアルミニウム合金、亜鉛メッキ鋼、ステンレス鋼が、好適に用いられる。なお、通常、0.1〜2.0mmの厚さの金属板が用いられる。
【0016】
B.化成皮膜
前記金属板の両面上に化成皮膜が形成される。化成皮膜は、前記金属板の表面と後述する樹脂皮膜との間に介在して両者の密着性を高めるものであれば特に限定されるものでない。例えば、アルミニウム合金には、安価で浴液管理が容易なリン酸クロメート処理液で形成される化成皮膜や、環境問題に配慮したノンクロメート処理液で形成される化成皮膜を用いることができる。ノンクロメート処理としては、反応型のリン酸ジルコニウム処理、リン酸チタニウム処理の他、塗布型ジルコニウム処理などを用いることもできる。
【0017】
このような化成処理は、金属板に所定の化成処理液をスプレーしたり、金属板を処理液中に所定の温度で所定時間浸漬したりすることによって施される。金属板として亜鉛メッキ鋼やステンレス鋼を用いる場合には、クロメート処理の他にリン酸塩処理液で形成される化成皮膜も用いることができる。
【0018】
なお、化成処理を行なう前に、金属板表面の汚れを除去したり表面性状を調整したりするために、金属板を、硫酸、硝酸、リン酸等による酸処理(洗浄)、或いは、カセイソーダ、リン酸ソーダ、ケイ酸ソーダ等によるアルカリ処理(洗浄)を行なうのが望ましい。このような洗浄による表面処理も、金属板に所定の表面処理液をスプレーしたり、金属板を処理液中に所定温度で所定時間浸漬したりすることによって施される。
【0019】
C.樹脂皮膜
次いで、前記化成皮膜の一方の上に樹脂皮膜が形成される。樹脂皮膜は、ベース樹脂及び潤滑剤を必須成分とし、界面活性剤を任意成分として含有させ、適当な溶媒にこれらを溶解又は分散した塗料を焼付け塗装して形成される。このようにして得られる樹脂皮膜の表面は、所定の算術平均粗さRa(μm)以上の突出部が所定個数存在する表面粗度と、潤滑剤の所定の表面占有率を備え、更に、樹脂皮膜は所定の残留水分率を有する。
【0020】
C−1.ベース樹脂
ベース樹脂は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種が用いられる。アクリル系樹脂としては、例えばアクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ポリアクリルアミドなどを使用することができる。エポキシ系樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などを使用することができる。ウレタン系樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂などを使用することができる。ポリエステル系樹脂としては、フェノール変性ポリエステル樹脂、水分散型ポリエステル樹脂などを使用することができる。
【0021】
C−2.潤滑剤
潤滑剤は、プレコート金属板の表面に潤滑性を付与して、成形性を高めるための成分として用いられる。本発明では、ポリエチレンワックス又はカルナウバワックスの少なくとも1種が好適に用いられる。ポリエチレンワックスは、分子量が600〜12000であり70〜140℃の融点を有するものが用いられる。カルナウバワックスは、高級脂肪酸エステルを主成分とする植物ロウであり、78〜86℃の融点を有する。潤滑剤の含有量は、ベース樹脂に対して1〜15重量%、好ましくは、2〜12重量%である。
【0022】
これらの潤滑剤は、プレス成形等の成形加工時に樹脂皮膜表面に潤滑性を付与し、樹脂皮膜の耐傷付き性を向上させることに加え、成形加工後の皮膜表面にも潤滑性を付与し、被接触物と樹脂皮膜表面との間で発生する摩擦力を低減させる作用を有する。
【0023】
C−3.界面活性剤
更に本発明において樹脂皮膜は、界面活性剤を含有する。界面活性剤は、プレコート金属板表面の導電性を向上させるための成分である。本発明では、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、高級アルコールエチレンオキサイド付加物等のノニオン系、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等のアニオン系、高級アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン系を使用することができる。
【0024】
C−4.添加剤
また、樹脂皮膜には例えばその塗料に、塗装性能及びプレコート材としての一般的性能を確保するために通常の塗料において用いられる、顔料、顔料分散剤、流動性調節剤、レベリング剤、ワキ防止剤、防腐剤、安定化剤等を適宜添加してもよい。
【0025】
C−5.表面粗度
ア)測定方法
本発明において樹脂皮膜の表面粗度は、算術平均粗さRa(μm)以上の突出部が所定面積中に所定個数存在するものとして規定される。ここで、算術平均粗さRaとは、樹脂皮膜表面の任意面積において、最大高さの突出部を通り金属板の圧延方向に直交する一の直線上においてJIS B0601に規定される算術平均粗さとして定義される。具体的には、例えば以下のようにして測定される。レーザーテック(株)製コンフォーカル顕微鏡HD100を用いて、対物レンズ50倍で樹脂皮膜表面の3次元画像を測定し、任意に選んだ322μm角の面積の中で、最も高い山の部分を通り、金属板の圧延方向に対して直角方向の一の直線における算術平均粗さRaを測定する。次いで、前述した322μm角の表面積部分について、Ra以上の高さの突出部のみからなる3次元画像を作成し、その画像中に存在する突出部の個数を計測して1mm当りの個数に換算する。この際にメディアンフィルターのフィルターサイズは5*5に設定する。5回測定し、Raと1mm当りの突出部個数に関して平均値を算出する。なお、他の測定方法によって、算術平均粗さRa以上の突出部の個数を求めてもよい。
【0026】
(イ)表面粗度の限定
本発明においては、樹脂皮膜表面において、算術平均粗さRa以上の突出部の個数は1mm当たり19〜781個に規定される。突出部の数が19個未満であると、樹脂皮膜によって被覆されていない化成皮膜部分の露出割合が少なくなり、絶縁物(ベース樹脂や潤滑剤等)の占有率が多くなる。その結果、未導通部が分布する為に導電性が劣る。突出部の数が781個を超えると、化成皮膜の露出割合が多くなる為、導電性は良好となるが耐傷付き性が劣る。プレス成形時に、樹脂皮膜と金型が接触して樹脂皮膜の不連続部分を起点とした傷が発生し易い。更に、突出部中には表面に偏析する潤滑剤も含有されるので、潤滑剤部分が欠陥となって皮膜強度が低下して傷が発生し易い。輸送時に、樹脂皮膜と包装資材が接触する場合も同様な傷が発生し易い。
【0027】
C−6.表面における潤滑剤の占有率
(ア)観察方法
樹脂皮膜の断面状態は、塗装した金属板の金属を溶解して樹脂皮膜のみを採取し、採取した樹脂皮膜をルテニウム酸にて染色してからエポキシ樹脂に埋め込み、ウルトラミクロトームにて超薄片として透過型電子顕微鏡にて観察する。
このように樹脂皮膜断面の観察を行うと、図1に示すように、樹脂皮膜表面に存在する潤滑剤粒子は表面に平行な長い線として観察される。図1において、41及び42は、それぞれ一つの潤滑剤粒子を表わす。一般に潤滑剤の方が樹脂より表面エネルギーが低いので、潤滑剤は表面に浸出し易い傾向があり、浸出してきた潤滑剤は濡れ広がって平たくなるため断面では線状に観察される。
【0028】
(イ)潤滑剤の占有率
図1に示すように、樹脂皮膜表面において、任意の長さ100μmの一の直線5を描いた時に、その一の直線5がワックス粒子41、42を切断する。潤滑剤の粒子41は長さd1、d2及びd3に切断され、粒子42は長さd4、d5及びd6に切断される。そして、一の直線5が切断する潤滑剤粒子41及び42の長さの和(d1+d2+d3+d4+d5+d6)が、10〜80μmとなる。換言すれば、樹脂皮膜表面における潤滑剤の占有率が10〜80%となる。このように、本発明においては、所定長さにおいて切断された潤滑剤粒子の長さの和の当該所定長さに対する比率をもって、樹脂皮膜表面における潤滑剤の占有率とするものである。直線5によって切断される潤滑剤粒子の長さの和が10μm未満(表面占有率が10%未満)であると、潤滑性が不足して耐傷付き性が劣る。一方、直線5によって切断される潤滑剤粒子の長さの和が80μmを超える(表面占有率が80%を超える未満)と、絶縁物である潤滑剤が多量となるために導電性が劣る。
【0029】
C−7.樹脂皮膜中の残留水分率
(ア)測定方法
樹脂皮膜の残留水分率は、以下の方法にて測定した。塗装した金属板の樹脂皮膜の重量(M1)を計量する。ついで、これを温度105℃のオーブン中で1時間加熱したのちの樹脂皮膜の重量(M2)を計量し、(M1−M2)×100/M1を計算する。オーブン中での加熱過程で樹脂皮膜中の水分は全て逃散すると考えられ、(M1−M2)×100/M1を樹脂皮膜の残留水分率とすることができる。
【0030】
(イ)残留水分率
樹脂皮膜の残留水分率は0.001〜2重量%である。樹脂皮膜中に水分が含有されることにより、樹脂皮膜の導電性が向上する。残留水分率が0.001重量%未満では、導電性が劣る。残留水分率が2重量%を超えると、耐傷付き性が劣る。残留水分率は、後述する塗装後焼き付け工程の条件を適宜選択することにより調整することができる。
【0031】
C−8.樹脂皮膜厚さ
樹脂皮膜厚さは、焼付乾燥後において0.03〜1.0μmであるのが好ましい。
【0032】
C−9.樹脂皮膜形成
ベース樹脂及び潤滑剤を必須成分とし界面活性剤を任意成分とし、これに上記添加剤を適宜加え、適当な溶媒にこれらを溶解又は分散した塗料を、化成皮膜上に直接塗布し、所定温度のオーブン中で所定時間処理して焼付け乾燥する。溶媒としては、水、アルコール類、ケトン類等が用いられるが、水を用いるのが好ましい。
【0033】
(ア)樹脂皮膜表面の表面粗度の調整
樹脂皮膜表面において、算術平均粗さRa以上の突出部の個数が1mm当たり19〜781個となる表面粗度が得られるように、用いる金属板の平均表面粗さ及び樹脂皮膜の膜厚を調節し、更に焼付け後の冷却方法を調整する。まず、用いる金属板の平均表面粗さは0.13〜0.60μmとするのが好ましい。このような平均表面粗さを得るには、金属板の圧延工程にて適切な表面粗さに調整された圧延ロールを使用して圧延する方法や、適切な条件でエッチングや研磨を施す方法、ショットブラストを施す方法等が用いられる。また、焼付乾燥後における樹脂皮膜の膜厚を0.03〜1.0μm以下に調整するのが好ましい。なお、樹脂皮膜表面の算術平均粗さRaは0.10〜0.54μmとなるのが好ましい。Raが0.10μm未満では導電性が劣る傾向にあり、0.54μmを超えると樹脂皮膜についた傷が目立ち易くなるために耐傷付き性が劣る傾向があるからである。
【0034】
樹脂皮膜には潤滑剤が含有され、表面粗度に影響を及ぼす潤滑剤の分布は焼付け後の冷却方法によって影響を受ける。具体的には、室温の空気を吹き付けて4〜20秒間冷却することが必要である。常温の水をスプレーする方法では、潤滑剤が樹脂皮膜から分離して表層に浮き出てくる為、耐傷付き性が劣る。
【0035】
(イ)樹脂皮膜表面における潤滑剤占有率の調整
樹脂皮膜表面における長さ100μmの任意の一の直線が切断する潤滑剤粒子長さの和が10〜80μmとなるように、すなわち、潤滑剤の占有率が10〜80%となるように、予め潤滑剤の平均粒径、添加量を調節して塗料に添加する。この場合、具体的には、平均粒径が1.5〜7.0μmの大きさの潤滑剤を用い、係る潤滑剤をベース樹脂に対して1〜15重量%の範囲で添加して、以下に説明する方法にて焼付けることによって、所望の潤滑剤占有率を得ることができる。
【0036】
塗装後の焼き付けにおいて、塗料は加熱されると対流しながら温度が上昇するが、その際、塗料の温度が潤滑剤の融点を超えると潤滑剤は液体になり、塗料の対流によって攪拌され、塗料表面に浸出してきたものはベース樹脂より表面エネルギーが小さいことから表面に濡れ広がる。潤滑剤の平均粒径と比較して樹脂皮膜の厚さは著しく薄いことから、樹脂皮膜表面に大部分の潤滑剤粒子が浸出し易い。
【0037】
温度を更に上昇させるとベース樹脂の硬化反応が開始され、樹脂皮膜中に潤滑剤粒子が固定される。本発明における潤滑剤占有率を得るには、図2に示すように、TR(室温)から潤滑剤が完全に溶融する温度T1(潤滑剤の融点+6℃)までの過程(P1)においては、温度を早急に上昇させる。ここで、T1を潤滑剤の融点+6℃としたのは、潤滑剤はその融点より6℃高くすることにより十分な溶融状態となるからである。その後の過程(P2)においては、ベース樹脂がある程度硬化する温度であるT2まで、P1におけるよりも緩慢に温度を上昇させる。次の過程(P3)においては、ベース樹脂が十分に硬化する最終到達温度T3まで、P2におけるよりも更に緩慢に温度を上昇させて、温度T3の状態を所定時間維持する。
【0038】
また、図2においてTR〜T1に達するまでの過程P1の時間t1秒は10秒以下とするのが望ましい。t1秒が10秒を超えると塗料成分を溶解又は分散させている溶媒が蒸発して塗料粘度が上昇してしまい、樹脂が硬化しない温度で保持しても潤滑剤が表面に十分に浸出してこない場合があるからである。
【0039】
P2の過程において樹脂がある程度硬化して潤滑剤が固定される温度T2とは、最終到達温度より20℃低い温度である。焼付開始から最終到達温度より20℃低い温度であるT2に達するまでの時間をt2秒としたとき、すなわち過程P2の時間(t2−t1)は15秒以下とするのが望ましい。(t2−t1)が15秒を超えると潤滑剤粒子が会合して大きくなり過ぎる場合があるからである。ベース樹脂が十分に硬化する最終到達温度はベース樹脂の性能が最も良好に発揮されるように決定すればよく、通常170〜300℃である。
【0040】
なお、金属板に低コストにて塗装を行うには、コイルを用いロールコーターにて連続的に塗装する方法が最も適している。この方法にて塗装する場合、数ゾーンに分かれた焼付炉にて塗料を焼付けることになるので、図2に示すような温度と時間の関係になるようにする必要がある。また、全焼付時間t3は10〜60秒が好ましく、20〜45秒がより好ましい。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0042】
実施例1〜5、13〜17
金属板として、所定の平均表面粗さを有するアルミニウム合金板(材質:JIS
A5052、質別:H34、板厚:0.6mm)を用いた。このアルミニウム合金板の両面に、市販のアルカリ性脱脂液を用いて脱脂処理を施し、更に市販のリン酸クロメート処理液を用いて化成処理を施した。このアルミニウム合金板の片面に表1に示す組成の各種塗料をそれぞれの条件にて焼付けて試料とした。焼付は2ゾーンからなる熱風乾燥炉を使用し、表1に示す最終到達温度が得られるように各ゾーンの雰囲気温度は、図2に示す時間t1及びt2で規定した。最終到達温度は熱電対にて測定した。塗装後の冷却は、室温の空気を吹き付けて実施した。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例6〜10
実施例1〜5と同様のアルミニウム合金板を金属板に用いた。このアルミニウム合金板の両面に、市販のアルカリ性脱脂液を用いて脱脂処理を施して希硫酸で酸洗浄処理の後に、市販のジルコニウム処理液を用いて化成処理を施した。次いで、実施例1〜5と同様にして試料を作成した。
【0045】
実施例11〜12
実施例11においては金属板としてステンレス鋼板を用い、実施例12においては金属板として亜鉛鍍金鋼板を用いた。これら金属板の両面に、市販のアルカリ性脱脂液を用いて脱脂処理を施し、更に市販のリン酸クロメート処理液を用いて化成処理を施した。次いで、実施例1〜5と同様にして試料を作成した。
【0046】
比較例1〜11
実施例1と同様のアルミニウム合金板を金属板に用いた。このアルミニウム合金板の両面に、市販のアルカリ性脱脂液を用いて脱脂処理を施し、更に市販のリン酸クロメート処理液を用いて化成処理を施した。次いで、実施例1〜5と同様にして試料を作成した。なお、比較例10では、樹脂皮膜を形成していない。
【0047】
上述した方法で得られた化成皮膜の皮膜量を蛍光X線分析装置により測定した結果、クロム量は、30mg/mであり、ジルコニウム量は、10mg/mであった。
【0048】
実施例1〜17及び比較例1〜11で作製したプレコート金属板試料について、樹脂皮膜表面の算術平均粗さ(Ra)、1mm当たりにおけるRa以上の突出部の個数、樹脂皮膜表面における潤滑剤の占有率、樹脂皮膜中の残留水分率を下記の方法によって測定した。更に、プレコート金属板試料の導電性及び耐傷付き性を下記の方法で測定し、下記評価基準によって◎、○、○△を合格とし、△、×を不合格とした。
【0049】
<樹脂皮膜表面の表面粗度>
レーザーテック(株)製コンフォーカル顕微鏡HD100を用いて測定した。対物レンズ50倍で樹脂皮膜表面の3次元画像を測定し任意に選んだ322μm角の面積の中で、最大高さの突出部を通り圧延方向に対して直交する一の直線上に存在する算術平均粗さRaをJIS B0601に従って測定した。前述した322μm角の面積部分において、Ra以上の高さの突出部のみからなる3次元画像作成した。この際にメディアンフィルターのフィルターサイズは5*5に設定した。そして、その画像に存在する突出部の個数を計測し、1mm当りの個数に換算した。測定箇所を任意に5箇所選択して5回測定し、Raと1mm当りの山の個数に関して平均値を算出した。
【0050】
<樹脂皮膜表面における潤滑剤の占有率>
樹脂皮膜表面に対して垂直な断面を長さ100μmに渡って透過型電子顕微鏡にて観察し、樹脂皮膜表面に存在する潤滑剤粒子の長さの和を測定した。このような断面を任意に5カ所選択して観察した。各断面についての切断された潤滑剤粒子長さの和の算術平均を算出し、長さ100μmに対する割合を潤滑剤の占有率とした。
【0051】
<残留水分率>
樹脂皮膜の重量(M1)を計量した。ついで、温度105℃のオーブンの中で1時間加熱したのちの樹脂皮膜の重量(M2)を計量し、(M1−M2)×100/M1を計算し、樹脂皮膜の残留水分率を算出した。
【0052】
<導電性>
プレコート金属板試料に、先端部半径が5mmである鋼製プローブを荷重500gfで接触させた時の電気抵抗値を測定した。
◎ :2Ω以下
○ :2Ωを超えて10Ω以下
○△:10Ωを超えて100Ω以下
△ :100Ωを超えて200Ω以下
× :200Ωを超える
【0053】
<耐傷付き性>
プレコート金属板試料について、荷重500gで鋼球を10回摺動させてバウデン式摩擦試験を行い、試料外観を観察した。
◎ :極僅かではあるが、傷が認められる
○ :若干傷が認められる
○△:傷は認められるが、素材まで到達していない
△ :傷が認められ、素材まで到達している
× :著しい傷が認められる
【0054】
実施例1〜17及び比較例1〜11の上記試験結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例1〜17のプレコート金属板試料では、算術平均粗さRa(μm)以上の突出部の個数が1mm当たり19〜781個の範囲内にあり、導電性及び耐傷付き性は良好であった。
【0057】
実施例3〜6及び9〜12、14〜17のプレコート金属板試料では、潤滑剤の占有率が10〜80%の範囲内であるので、導電性及び耐傷付き性の両方の性能が特に優れていた。
【0058】
比較例1〜4のプレコート金属板試料では樹脂皮膜表面において、算術平均粗さRa(μm)以上の突出部の個数が1mm当たり19個未満であるため導電性が劣っていた。
比較例5〜8のプレコート金属板試料では樹脂皮膜表面において、算術平均粗さRa(μm)以上の突出部の個数が1mm当たり781個を超える為、耐傷付き性が劣っていた。
比較例9のプレコート金属板は樹脂皮膜中にZr化合物が含有される為、耐傷付き性が劣っていた。
比較例10の金属板は樹脂皮膜が形成されていない為、耐傷付き性が劣っていた。
比較例11のプレコート金属板は潤滑剤が添加されていない為、耐傷付き性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
樹脂皮膜において特定の表面粗度形状を有するドライブケース用プレコート金属板によって、良好な導電性と耐傷付き性が得られる。更に、樹脂皮膜表面における特定の潤滑剤占有率によって、良好な耐傷付き性と導電性のバランスを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は樹脂皮膜表面における潤滑剤粒子の存在状態を視覚的に示す模式図である。
【図2】図2は、本発明のドライブケース用プレコート金属板の製造工程における塗料焼き付け過程での温度変化と潤滑剤が溶融する過程、及びベース樹脂が硬化する温度の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1‥‥‥金属板
2‥‥‥化成皮膜
3‥‥‥樹脂皮膜
41、42‥‥‥潤滑剤粒子、
5‥‥‥長さ100μmの一の直線
d1、d2、d3、d4、d5、d6‥‥‥切断された潤滑剤の長さ
M1‥‥‥加熱前における樹脂皮膜の重量
M2‥‥‥加熱後における樹脂皮膜の重量
P1‥‥‥室温から温度T1に至る過程
P2‥‥‥温度T1から温度T2に至る過程
P3‥‥‥温度T2から焼付け終了までの過程
t1‥‥‥焼付け開始から温度T1に至るまでの時間
t2‥‥‥焼付け開始から温度T2に至るまでの時間
t3‥‥‥全焼付け時間
T1‥‥‥潤滑剤が完全に溶融する温度
T2‥‥‥ベース樹脂がある程度硬化する温度
T3‥‥‥焼付け最終到達温度
TR‥‥‥室温

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の両面に形成した化成皮膜と、前記化成皮膜の一方の上に形成されベース樹脂と潤滑剤を含有する樹脂皮膜とを備えたドライブケース用プレコート金属板であって、
前記樹脂皮膜表面において、最大高さの突出部を通り前記金属板の圧延方向に直交する一の直線上における算術平均粗さRa(μm)以上の突出部が1mm当たり19〜781個存在することを特徴とするドライブケース用プレコート金属板。
【請求項2】
前記樹脂皮膜が界面活性剤を更に含有し、前記潤滑剤がポリエチレンワックス及びカルナウバワックスの少なくとも1種から成り、
前記樹脂皮膜表面において、長さ100μmの任意の一の直線が切断する前記潤滑剤の粒子の長さの和が10〜80μmである、請求項1に記載のドライブケース用プレコート金属板。
【請求項3】
前記ベース樹脂が、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のドライブケース用プレコート金属板。
【請求項4】
前記樹脂皮膜中の残留水分率が0.001〜2重量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のドライブケース用プレコート金属板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−6234(P2009−6234A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168762(P2007−168762)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】