ドライプリフォーム、複合材料からなる環状構造体、及びその製造方法
【課題】高強度且つ軽量で、形成が容易であり、且つ、設計の自由度の高い環状ドライプリフォーム及びこれを用いた複合材料からなる環状構造体を提供する。
【解決手段】マンドレル20の外周に捲回され、マンドレル20の環方向(0°方向)と交差する方向(+θ方向)と平行に引き揃えられ、マンドレル20の環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続した強化繊維からなる第1の強化繊維層11を設ける。
【解決手段】マンドレル20の外周に捲回され、マンドレル20の環方向(0°方向)と交差する方向(+θ方向)と平行に引き揃えられ、マンドレル20の環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続した強化繊維からなる第1の強化繊維層11を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のマンドレルの外周に配された中空環状のドライプリフォーム、これを用いた複合材料からなる環状構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機のリングフレームのような環状構造体は、高強度且つ軽量であることが求められるため、強化繊維に樹脂を含浸させてなる複合材料で形成されることがある。しかし、リングフレームは、通常、コの字型やT字型などの折れ曲がり部を有する異形断面を有しており、このような異形断面のリングフレームを複合材料で形成することは容易ではない。
【0003】
例えば特許文献1には、組物(ブレーディング)からなるドライプリフォームを用いて、断面L字形状の環状構造体を形成する方法が示されている。具体的には、まず、図14に示すように、長手方向に配向した繊維(中央糸)105bと、長手方向に対して±αの組角度で配向した繊維(組糸)105aとからなる3軸構造の繊維組織をなした長板状のドライプリフォーム105を形成する。この長板状のドライプリフォーム105を、図15に示すように短手方向中間部で屈曲して平板部121及び垂直部122からなる断面L字形状とし、これを垂直部122を内側にして円弧状に変形させる。そして、図16に示すように、複数の円弧状のドライプリフォーム105を連結することにより、断面L字形状の環状のドライプリフォーム102を形成している。
【0004】
しかし、図14に示すような組物からなるドライプリフォームは、組糸105aが波状にクリンプするため、直線状の強化繊維と比べると繊維方向の強度が低くなる。また、組糸105aを中央糸105bとクリンプさせるために、中央糸105bは隙間を開けて並べる必要があるため、中央糸105bの密度が低下して長手方向の強度が低下すると共に、中央糸105b間の隙間に樹脂が侵入することで重量増を招く。さらに、複数の円弧状のドライプリフォーム105を連結して環状のドライプリフォーム102を構成することで、強化繊維が環方向で不連続となるため、環方向の強度低下を招く。
【0005】
一方、特許文献2には、所定方向に強化繊維を配向させた複数の繊維層からなる環状構造体が示されている。具体的には、図17に示すように、第1の繊維方向(+45°)を有する繊維層210と、第2の繊維方向(−45°)を有する繊維層211と、第3の繊維方向(0°)を有する追加層212とを積層してシート状の繊維積層物209を形成し、この繊維積層物209折り曲げて断面L字形状のブランクを形成し、この断面L字形のブランクを環方向に湾曲させることにより、環状構造体が形成される。このように、繊維を一定の方向に引き揃えて繊維層を構成することで各繊維が直線状となるため、繊維がクリンプする組物と比べて繊維方向の強度が高められる。また、繊維をクリンプさせる必要がないため、繊維を隙間なく敷き詰めて密度を高めることができるため、環状構造体の強度がさらに高められると共に、繊維間に進入する樹脂が減じられて環状構造体の軽量化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−69166号公報
【特許文献2】特開2008−543670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献2の方法で製造された環状構造体は、設計の自由度が低い。すなわち、平板部(ベース部分)を一平面内で環方向に湾曲させるためには、第3の繊維方向(環方向)の繊維を配することはできないため、第1及び第2の繊維方向(±45°)の繊維層のみで構成する必要があり、平板部における環方向の強度が不足する恐れがある。また、繊維を引き揃えてなる繊維層を積層したシート状の繊維積層物209(図17参照)は、組物からなるドライプリフォーム105(図14参照)と比べて繊維の配向自由度が低いため、所望の形状に変形させにくい。特に、環状構造体の断面形状が環方向の一部で異なる場合、かかる形状にシート状の繊維積層物209を変形させることは非常に困難である。さらに、例えば航空機の胴体のリングフレームとして用いられる大径(例えば直径5m以上)の環状構造体の場合、上記のようにシート状の繊維積層物209を湾曲させて環状構造体を形成する作業は容易ではない。例えば、複数の円弧状のセグメントを連結して形成すれば作業が容易化されるが、この場合、上記と同様に環方向の強度低下を招く。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、高強度且つ軽量で、形成が容易であり、設計の自由度の高い中空環状のドライプリフォーム、及びこれを用いた複合材料からなる環状構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた本発明は、環状のマンドレルの外周に複数の強化繊維層を積層してなる中空環状のドライプリフォームであって、マンドレルは、後にドライプリフォームから分離されるものであり、マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を有することを特徴とするものである。
【0010】
このドライプリフォームは、以下のような利点を有する。(1)強化繊維を平行に引き揃えた強化繊維層を有することで、強化繊維をクリンプさせる組物と比べ、高強度化及び軽量化が図られる。(2)環状のマンドレルに強化繊維を螺旋状に捲回するだけで環状のドライプリフォームを形成することができるため、上記特許文献2に示された方法のようなシート状の繊維積層物を折り曲げる作業が不要となり、形成が容易化される。(3)強化繊維をマンドレルの外周に捲回しながら環方向で少なくとも一周連続させることにより、ドライプリフォームを環方向で連続して形成することができるため、複数の円弧状のドライプリフォームを連結する場合と比べて、高強度化が図られる。(4)強化繊維がマンドレルの外周形状に倣いながら捲回されるため、環状構造体の断面形状が環方向で異なる場合でも、ドライプリフォームの形状をマンドレルの形状に追従させることができる。
【0011】
上記のドライプリフォームは、第1の強化繊維層と異なる任意の方向の強化繊維層を設けることができるため、設計の自由度が広がる。例えば、マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は連続し、第1強化繊維層の強化繊維と環方向に関して対称な方向に引き揃えられた強化繊維からなる第2の強化繊維層や、環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を設けることができる。
【0012】
上記のドライプリフォームを用いれば、複合材料からなる環状構造体を容易に得ることができる。すなわち、上記の中空環状のドライプリフォームを環方向に沿って分割した複数の分割ドライプリフォームと、分割ドライプリフォームに含浸された樹脂とを有する複合材料からなる環状構造体を得ることができる。この環状構造体は、例えば航空機のリングフレームとして用いることができる。
【0013】
上記のようなドライプリフォームは、環状のマンドレルの外周に強化繊維を螺旋状に捲回することにより、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を形成するドライプリフォーム形成工程と、ドライプリフォームを環方向に沿って複数に分割し、ドライプリフォームとマンドレルとを分離する分離工程と、ドライプリフォームに樹脂を含浸させて複合材料を形成する樹脂含浸工程とを含む方法により製造することができる。
【0014】
この場合、複数本の強化繊維を平行に引き揃えてなる強化繊維束をマンドレルの外周に捲回させることにより第1の強化繊維層を形成すれば、強化繊維を効率よく捲回することができる。
【0015】
ドライプリフォームに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程は、ドライプリフォームとマンドレルとを分離する分離工程の後に行ってもよいし、分離工程の前に行ってもよい。また、ドライプリフォームが、環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を有する場合、環方向に引き揃えられた強化繊維をマンドレルの外周に供給すると共に、その外周に第1の強化繊維層の強化繊維を螺旋状に捲回すれば、第3の強化繊維層をマンドレルの外周に容易に固定することができる。この場合、強化繊維の表面に樹脂を付着させた後、この強化繊維を環方向に引き揃えてマンドレルの外周に供給して第3の強化繊維層を形成すれば、ドライプリフォーム形成工程と樹脂含浸工程とを同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、高強度且つ軽量で、形成が容易であり、且つ、設計の自由度の高い環状ドライプリフォーム及びこれを用いた複合材料からなる環状構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る環状構造体の正面図である。
【図2】図1のX−X断面図である。
【図3】上記環状構造体の強化繊維層の積層状態を示す断面図である。
【図4】上記環状構造体の製造方法のドライプリフォーム形成工程を示す正面図であり、第1の強化繊維層及び第3の強化繊維層を供給する様子を示す。
【図5】図4の拡大図である。
【図6】図5のY−Y断面図である。
【図7】上記環状構造体の製造方法のドライプリフォーム形成工程を示す正面図であり、第2の強化繊維層を供給する様子を示す。
【図8】中空環状のドライプリフォーム及びマンドレルの断面図である。
【図9】上記環状構造体の製造方法の分離工程を示す断面図である。
【図10】他の実施形態に係る環状構造体の断面図である。
【図11】他の実施形態に係る製造方法の分離工程を示す断面図である。
【図12】他の実施形態に係る環状構造体の断面図である。
【図13】他の実施形態に係る製造方法のドライプリフォーム形成工程を示す正面図であり、第1の強化繊維層の強化繊維を捲回する様子を示す。
【図14】組物からなる長板状のドライプリフォームの斜視図である(特許文献1の図4)。
【図15】図14の長板状のドライプリフォームを短手方向中間部で折り曲げた状態を示す斜視図である(特許文献1の図5)。
【図16】図15のドライプリフォームを連結してなる環状のドライプリフォームを示す斜視図である(特許文献1の図6)。
【図17】シート状の繊維積層物を示す平面図である(特許文献2の図3)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態に係る環状構造体1を示す。この環状構造体1は、航空機の胴体のリングフレームとして使用されるものであり、直径は約3〜10mである。環状構造体1は、図2に示すように断面コの字形状を成しており、具体的には、略平板状のウェブ2と、ウェブ2の内径端及び外径端から略垂直に立ち上がった筒状のフランジ3とからなる。環状構造体1は、環方向の一部で断面形状を若干異ならせている。具体的には、詳細な図示は省略するが、特に高強度が要求される箇所では、ウェブ2の短手方向寸法L2やフランジ3の短手方向寸法L3を若干大きくして強度向上を図り、要求される強度が比較的低い箇所では、ウェブ2の短手方向寸法L2やフランジ3の短手方向寸法L3を若干小さくして軽量化を図っている。
【0020】
環状構造体1は、複数の強化繊維層を積層してなるドライプリフォームに樹脂を含浸させた複合材料で構成される。強化繊維には、例えば炭素繊維やガラス繊維を使用できる。樹脂には、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を使用することができ、具体的には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド等が使用可能であり、熱可塑性樹脂としてポリエーテルエーテルケトン等が使用可能である。
【0021】
環状構造体1は、図3に示すように、所定の方向に強化繊維を引き揃えてなる複数の強化繊維層を有する。図示例では、環方向に対して所定の角度で交差した方向(+θ方向と言う)に強化繊維を配向させた第1の強化繊維層11と、第1の強化繊維層11の強化繊維と環方向に関して対称な方向(−θ方向と言う)に強化繊維を配向させた第2の強化繊維層12と、環方向(0°方向と言う)に強化繊維を配向させた第3の強化繊維層13とが積層されている。第1〜第3の強化繊維層11〜13は、隣接する層と繊維の配向方向が交差するように積層され、本実施形態では、第3の強化繊維層13(0°)、第1の強化繊維層11(+θ)、第2の強化繊維層12(−θ)・・・、という順番で繰り返して、例えばそれぞれ5〜10層ずつ積層される。第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12の配向角度θは、20〜70°の間で設定され、例えば60°に設定される。第1〜第3の強化繊維層11〜13は、ウェブ2及び一対のフランジ3に連続して設けられる。特に、第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12は、一方のフランジ3の端面3aから他方のフランジ3の端面3aまで強化繊維が継ぎ目なく連続し、且つ、一定の角度で配向している。
【0022】
上記の環状構造体1は、ドライプリフォーム形成工程、分離工程、及び樹脂含浸工程とを経て製造される。以下、各工程を順に説明する。
【0023】
ドライプリフォーム形成工程は、図4に示すように、環状のマンドレル20の外周に強化繊維を供給することにより、中空環状のドライプリフォームを形成する工程である。マンドレル20は、例えば断面矩形(本実施形態では正方形)であり、図1に示す環状構造体1と同様の環状を成している。図示例では、マンドレル20を中空として軽量化を図っている。上述のように、環状構造体1は環方向の一部で断面形状を若干異ならせているため、これに合わせて、マンドレル20も環方向の一部で断面形状を若干異ならせている。
【0024】
マンドレル20の外周面に強化繊維を供給する供給装置は、マンドレル20を環方向一方(図4では時計回り方向、矢印参照)に回転させる回転駆動部(図示省略)と、マンドレル20の外周面に環方向に沿って強化繊維を供給する環方向繊維供給部30と、マンドレル20の外周面に強化繊維を捲回する繊維捲回部40とを備える。
【0025】
環方向繊維供給部30から供給された複数本の強化繊維は、ガイド31を介してマンドレル20の外周面に配される。ガイド31には、強化繊維をガイドする複数のガイド穴(図示省略)が設けられ、このガイド穴で強化繊維をガイドすることにより、強化繊維が環方向に引き揃えられた状態でマンドレル20の外周面に配される。本実施形態では、断面矩形のマンドレル20の外周面の全周に均一な密度で環方向の強化繊維が配される。以上により、強化繊維を環方向(0°)に配向させた第3の強化繊維層13が、マンドレル20の外周面に供給される。
【0026】
これと同時に、繊維捲回部40から供給された複数本の強化繊維を、図5に示すように、ガイド41を介してマンドレル20の外周面に捲回する。ガイド41には、強化繊維をガイドする複数のガイド穴(図示省略)が設けられる。本実施形態では、ガイド穴が環方向に並べて配され、このガイド穴でガイドされた複数の強化繊維が環方向に並べて配列され、これによりシート状の繊維束Aが形成される。そして、図6に示すように、繊維捲回部40及びガイド41を共にマンドレル20周りで周回させることにより、シート状の繊維束Aがマンドレル20の外周に捲回される(図5参照)。このとき、マンドレル20を環方向一方(矢印参照)に回転させながら、繊維捲回部40及びガイド41を周回させることにより、環方向Cに対して所定の角度(+θ)で強化繊維を平行に引き揃えてなるシート状の繊維束Aが供給される。また、繊維捲回部40及びガイド41がマンドレル20の周りを一周する間に、シート状の繊維束Aの幅Wの分だけマンドレル20を環方向一方に回転させれば、繊維束Aがマンドレル20の外周に隙間なく敷き詰められる。尚、マンドレル20は、環方向の一部で断面形状が異なっているが、シート状の繊維束Aを捲回させることにより、繊維束Aを構成する各強化繊維がそれぞれマンドレル20の外周形状に倣うため、繊維束A全体をマンドレル20の外周形状に容易に倣わせることができる。以上により、環方向Cと交差する方向(+θ)に強化繊維を引き揃えてなる第1の強化繊維層11がマンドレル20の外周に供給される。以上のように、環方向繊維供給部30からガイド31を介してマンドレル20の外周面に供給された第3の強化繊維層13の外周を、繊維束Aで捲回することにより、第3の強化繊維層13がマンドレル20の外周に固定される。
【0027】
回転駆動部によるマンドレル20の環方向の回転が一周し、第1の強化繊維層の強化繊維が環方向に一周したら、回転駆動部、繊維捲回部40、及びガイド41を停止し、繊維捲回部40から供給された強化繊維、及び、環方向の強化繊維を一旦切断する。そして、図7に示すように、回転駆動部によりマンドレル20を環方向他方(図7では反時計周り方向、矢印参照)に上記と同速度で回転させると共に、繊維捲回部40及びガイド41を上記と同方向に同速度で周回させる。これにより、環方向Cに対して所定の角度(−θ)で強化繊維を引き揃えてなるシート状の繊維束Aがマンドレル20の外周面に捲回され、第2の強化繊維層12が第1の強化繊維層11の外周に積層される。以上を繰り返すことにより、第3の強化繊維層13、第1の強化繊維層11、及び第2の強化繊維層12が順に積層され(図3参照)、マンドレル20の外周に中空環状のドライプリフォーム50が形成される(図8参照)。尚、第2の強化繊維層12の形成方法は上記に限らず、例えば、回転駆動部によりマンドレル20を環方向一方(図5と同じ方向)に回転させながら、繊維捲回部40及びガイド41を図6の矢印と反対方向(時計周り方向)に回転させることにより、第2の強化繊維層12を形成することもできる。
【0028】
ドライプリフォーム50は、バインダー等により仮固定される。具体的には、例えば環方向繊維供給部30から供給される強化繊維、あるいは繊維捲回部40から供給される強化繊維に、熱融着性のバインダー繊維を混在させてドライプリフォーム50を形成した後、これを加熱してバインダー繊維を溶融し、これが固化することにより、ドライプリフォーム50を仮固定することができる。あるいは、ドライプリフォーム50を形成した後、その表面に溶着性のパウダー状あるいは霧状のバインダーを供給して仮固定を行うこともできる。尚、必要であれば、強化繊維の端部をマンドレル20の表面あるいは強化繊維層の表面にバインダー等で仮固定してもよい。
【0029】
こうして得られた中空環状のドライプリフォーム50は、図9に示すように、環方向に沿って複数(図示例では2個)に分割され、内部からマンドレル20が取り出される(分離工程)。これにより、図1に示す環状構造体1と同様の形状、すなわち、ウェブ52及びフランジ53からなる断面コの字形状を成した一対の分割ドライプリフォーム51が得られる。このとき、第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12の強化繊維の端部が、中空環状のドライプリフォーム50の分割面上に配されるようにすれば、分割ドライプリフォーム51のウェブ52やフランジ53の第1および第2の強化繊維層11,12に強化繊維の継ぎ目が全く形成されないため好ましい。
【0030】
樹脂含浸工程では、マンドレル20から分離された分割ドライプリフォーム51に樹脂を含浸させ、この樹脂を固化させることにより複合材料を形成する。樹脂を含浸固化させる方法は限定されず、例えば、RTM法(Resin Transfer Molding)により行うことができる。あるいは、環方向繊維供給部30から供給される強化繊維にディッピング等により予め樹脂を付着させ、この強化繊維を環方向に引き揃えてマンドレル20の外周に供給してもよい。この場合、環方向の強化繊維がマンドレル20の外周に供給されることにより、この強化繊維に付着した樹脂がドライプリフォーム50に含浸されるため、樹脂含浸工程とドライプリフォーム形成工程とを同時に行うことができ、その後に加熱することで複合材料からなる環状構造体1を得ることができる。以上により、複合材料からなる環状構造体1(図1参照)が完成する。
【0031】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0032】
上記の実施形態では、分離工程の後に樹脂含浸工程を行っているが、これとは逆に、図8に示す中空環状のドライプリフォーム50に樹脂を含浸させて中空環状の複合材料を形成した後、この複合材料を環方向に沿って分割して内部からマンドレル20を取り出してもよい。
【0033】
また、上記の実施形態では、断面コの字形状の環状構造体1を示しているが、これに限らず、例えば、図10に示すような断面H形状の環状構造体101を形成することもできる。この場合、断面コの字形状の一対の分割ドライプリフォーム51にそれぞれ樹脂を含浸させて環状構造体1を形成した後、これらを背面同士で固定することで、断面H形状の環状構造体101が得られる。あるいは、断面コの字形状の一対の分割ドライプリフォーム51の背面同士を合わせて配置し、この状態で樹脂を含浸させることにより、断面H形状の環状構造体1が得られる。
【0034】
また、上記の実施形態では、分離工程で、中空環状のドライプリフォーム50が2つに分割された場合を示しているが、これに限らず、例えば図11に示すように3つに分割してもよい。図示例では、円筒状の分割ドライプリフォーム61と、断面L字形状の一対の分割ドライプリフォーム62とに分割される。これらの分割ドライプリフォーム61,62に樹脂を含浸させることにより、環状構造体261,262が得られる。これらの環状構造体261,262は、それぞれ個別に使用することもできるし、図12のように組み合せて一体化することにより、断面H字形状の環状構造体201を構成することもできる。
【0035】
また、上記の実施形態では、繊維捲回部40から、環方向に強化繊維を並べてなるシート状の繊維束Aを供給する場合を示したが、これに限られない。例えば、図13に示すように、マンドレル20の外周に複数(図示例では8個)の繊維捲回部40を等間隔に配置してもよい。ガイド部41は、マンドレル20の外周を囲むように環状に設けられ、ガイド穴が等間隔に設けられる。この複数の繊維捲回部40及びガイド部41を共に矢印方向に回転させることにより、強化繊維がマンドレル20の外周に捲回される。この場合、マンドレル20の外周に供給された環方向の強化繊維(第3の強化繊維層13)を、複数の繊維捲回部40から供給された強化繊維で全周にわたってほぼ同時に押さえることができる。
【0036】
また、上記の実施形態では、マンドレル20の断面が矩形の場合を示したが、これに限らず、例えば断面台形や断面円形とすることもできる。
【0037】
また、上記の実施形態では、環方向に対して傾斜した方向(+θ方向、−θ方向)に配向した第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12と、環方向(0°方向)に配向した第3の強化繊維層13とを有する場合を示したが、これに限られず、要求される強度の方向の応じて適宜変更すればよい。例えば、第2の強化繊維層12及び第3の強化繊維層13の何れか又は双方を省略してもよい。あるいは、第1〜第3の強化繊維層11〜13に加えて、他の方向に傾斜した強化繊維層を加えてもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、環状構造体1を航空機のリングフレームとして用いる場合を示したが、これに限らず、例えば、自転車や自動車のリムなどに使用することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 環状構造体
2 ウェブ
3 フランジ
11 第1の強化繊維層
12 第2の強化繊維層
13 第3の強化繊維層
20 マンドレル
30 環方向繊維供給部
31 ガイド
40 繊維捲回部
41 ガイド
50 ドライプリフォーム
A シート状の繊維束
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のマンドレルの外周に配された中空環状のドライプリフォーム、これを用いた複合材料からなる環状構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機のリングフレームのような環状構造体は、高強度且つ軽量であることが求められるため、強化繊維に樹脂を含浸させてなる複合材料で形成されることがある。しかし、リングフレームは、通常、コの字型やT字型などの折れ曲がり部を有する異形断面を有しており、このような異形断面のリングフレームを複合材料で形成することは容易ではない。
【0003】
例えば特許文献1には、組物(ブレーディング)からなるドライプリフォームを用いて、断面L字形状の環状構造体を形成する方法が示されている。具体的には、まず、図14に示すように、長手方向に配向した繊維(中央糸)105bと、長手方向に対して±αの組角度で配向した繊維(組糸)105aとからなる3軸構造の繊維組織をなした長板状のドライプリフォーム105を形成する。この長板状のドライプリフォーム105を、図15に示すように短手方向中間部で屈曲して平板部121及び垂直部122からなる断面L字形状とし、これを垂直部122を内側にして円弧状に変形させる。そして、図16に示すように、複数の円弧状のドライプリフォーム105を連結することにより、断面L字形状の環状のドライプリフォーム102を形成している。
【0004】
しかし、図14に示すような組物からなるドライプリフォームは、組糸105aが波状にクリンプするため、直線状の強化繊維と比べると繊維方向の強度が低くなる。また、組糸105aを中央糸105bとクリンプさせるために、中央糸105bは隙間を開けて並べる必要があるため、中央糸105bの密度が低下して長手方向の強度が低下すると共に、中央糸105b間の隙間に樹脂が侵入することで重量増を招く。さらに、複数の円弧状のドライプリフォーム105を連結して環状のドライプリフォーム102を構成することで、強化繊維が環方向で不連続となるため、環方向の強度低下を招く。
【0005】
一方、特許文献2には、所定方向に強化繊維を配向させた複数の繊維層からなる環状構造体が示されている。具体的には、図17に示すように、第1の繊維方向(+45°)を有する繊維層210と、第2の繊維方向(−45°)を有する繊維層211と、第3の繊維方向(0°)を有する追加層212とを積層してシート状の繊維積層物209を形成し、この繊維積層物209折り曲げて断面L字形状のブランクを形成し、この断面L字形のブランクを環方向に湾曲させることにより、環状構造体が形成される。このように、繊維を一定の方向に引き揃えて繊維層を構成することで各繊維が直線状となるため、繊維がクリンプする組物と比べて繊維方向の強度が高められる。また、繊維をクリンプさせる必要がないため、繊維を隙間なく敷き詰めて密度を高めることができるため、環状構造体の強度がさらに高められると共に、繊維間に進入する樹脂が減じられて環状構造体の軽量化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−69166号公報
【特許文献2】特開2008−543670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献2の方法で製造された環状構造体は、設計の自由度が低い。すなわち、平板部(ベース部分)を一平面内で環方向に湾曲させるためには、第3の繊維方向(環方向)の繊維を配することはできないため、第1及び第2の繊維方向(±45°)の繊維層のみで構成する必要があり、平板部における環方向の強度が不足する恐れがある。また、繊維を引き揃えてなる繊維層を積層したシート状の繊維積層物209(図17参照)は、組物からなるドライプリフォーム105(図14参照)と比べて繊維の配向自由度が低いため、所望の形状に変形させにくい。特に、環状構造体の断面形状が環方向の一部で異なる場合、かかる形状にシート状の繊維積層物209を変形させることは非常に困難である。さらに、例えば航空機の胴体のリングフレームとして用いられる大径(例えば直径5m以上)の環状構造体の場合、上記のようにシート状の繊維積層物209を湾曲させて環状構造体を形成する作業は容易ではない。例えば、複数の円弧状のセグメントを連結して形成すれば作業が容易化されるが、この場合、上記と同様に環方向の強度低下を招く。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、高強度且つ軽量で、形成が容易であり、設計の自由度の高い中空環状のドライプリフォーム、及びこれを用いた複合材料からなる環状構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた本発明は、環状のマンドレルの外周に複数の強化繊維層を積層してなる中空環状のドライプリフォームであって、マンドレルは、後にドライプリフォームから分離されるものであり、マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を有することを特徴とするものである。
【0010】
このドライプリフォームは、以下のような利点を有する。(1)強化繊維を平行に引き揃えた強化繊維層を有することで、強化繊維をクリンプさせる組物と比べ、高強度化及び軽量化が図られる。(2)環状のマンドレルに強化繊維を螺旋状に捲回するだけで環状のドライプリフォームを形成することができるため、上記特許文献2に示された方法のようなシート状の繊維積層物を折り曲げる作業が不要となり、形成が容易化される。(3)強化繊維をマンドレルの外周に捲回しながら環方向で少なくとも一周連続させることにより、ドライプリフォームを環方向で連続して形成することができるため、複数の円弧状のドライプリフォームを連結する場合と比べて、高強度化が図られる。(4)強化繊維がマンドレルの外周形状に倣いながら捲回されるため、環状構造体の断面形状が環方向で異なる場合でも、ドライプリフォームの形状をマンドレルの形状に追従させることができる。
【0011】
上記のドライプリフォームは、第1の強化繊維層と異なる任意の方向の強化繊維層を設けることができるため、設計の自由度が広がる。例えば、マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は連続し、第1強化繊維層の強化繊維と環方向に関して対称な方向に引き揃えられた強化繊維からなる第2の強化繊維層や、環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を設けることができる。
【0012】
上記のドライプリフォームを用いれば、複合材料からなる環状構造体を容易に得ることができる。すなわち、上記の中空環状のドライプリフォームを環方向に沿って分割した複数の分割ドライプリフォームと、分割ドライプリフォームに含浸された樹脂とを有する複合材料からなる環状構造体を得ることができる。この環状構造体は、例えば航空機のリングフレームとして用いることができる。
【0013】
上記のようなドライプリフォームは、環状のマンドレルの外周に強化繊維を螺旋状に捲回することにより、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を形成するドライプリフォーム形成工程と、ドライプリフォームを環方向に沿って複数に分割し、ドライプリフォームとマンドレルとを分離する分離工程と、ドライプリフォームに樹脂を含浸させて複合材料を形成する樹脂含浸工程とを含む方法により製造することができる。
【0014】
この場合、複数本の強化繊維を平行に引き揃えてなる強化繊維束をマンドレルの外周に捲回させることにより第1の強化繊維層を形成すれば、強化繊維を効率よく捲回することができる。
【0015】
ドライプリフォームに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程は、ドライプリフォームとマンドレルとを分離する分離工程の後に行ってもよいし、分離工程の前に行ってもよい。また、ドライプリフォームが、環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を有する場合、環方向に引き揃えられた強化繊維をマンドレルの外周に供給すると共に、その外周に第1の強化繊維層の強化繊維を螺旋状に捲回すれば、第3の強化繊維層をマンドレルの外周に容易に固定することができる。この場合、強化繊維の表面に樹脂を付着させた後、この強化繊維を環方向に引き揃えてマンドレルの外周に供給して第3の強化繊維層を形成すれば、ドライプリフォーム形成工程と樹脂含浸工程とを同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、高強度且つ軽量で、形成が容易であり、且つ、設計の自由度の高い環状ドライプリフォーム及びこれを用いた複合材料からなる環状構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る環状構造体の正面図である。
【図2】図1のX−X断面図である。
【図3】上記環状構造体の強化繊維層の積層状態を示す断面図である。
【図4】上記環状構造体の製造方法のドライプリフォーム形成工程を示す正面図であり、第1の強化繊維層及び第3の強化繊維層を供給する様子を示す。
【図5】図4の拡大図である。
【図6】図5のY−Y断面図である。
【図7】上記環状構造体の製造方法のドライプリフォーム形成工程を示す正面図であり、第2の強化繊維層を供給する様子を示す。
【図8】中空環状のドライプリフォーム及びマンドレルの断面図である。
【図9】上記環状構造体の製造方法の分離工程を示す断面図である。
【図10】他の実施形態に係る環状構造体の断面図である。
【図11】他の実施形態に係る製造方法の分離工程を示す断面図である。
【図12】他の実施形態に係る環状構造体の断面図である。
【図13】他の実施形態に係る製造方法のドライプリフォーム形成工程を示す正面図であり、第1の強化繊維層の強化繊維を捲回する様子を示す。
【図14】組物からなる長板状のドライプリフォームの斜視図である(特許文献1の図4)。
【図15】図14の長板状のドライプリフォームを短手方向中間部で折り曲げた状態を示す斜視図である(特許文献1の図5)。
【図16】図15のドライプリフォームを連結してなる環状のドライプリフォームを示す斜視図である(特許文献1の図6)。
【図17】シート状の繊維積層物を示す平面図である(特許文献2の図3)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態に係る環状構造体1を示す。この環状構造体1は、航空機の胴体のリングフレームとして使用されるものであり、直径は約3〜10mである。環状構造体1は、図2に示すように断面コの字形状を成しており、具体的には、略平板状のウェブ2と、ウェブ2の内径端及び外径端から略垂直に立ち上がった筒状のフランジ3とからなる。環状構造体1は、環方向の一部で断面形状を若干異ならせている。具体的には、詳細な図示は省略するが、特に高強度が要求される箇所では、ウェブ2の短手方向寸法L2やフランジ3の短手方向寸法L3を若干大きくして強度向上を図り、要求される強度が比較的低い箇所では、ウェブ2の短手方向寸法L2やフランジ3の短手方向寸法L3を若干小さくして軽量化を図っている。
【0020】
環状構造体1は、複数の強化繊維層を積層してなるドライプリフォームに樹脂を含浸させた複合材料で構成される。強化繊維には、例えば炭素繊維やガラス繊維を使用できる。樹脂には、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を使用することができ、具体的には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド等が使用可能であり、熱可塑性樹脂としてポリエーテルエーテルケトン等が使用可能である。
【0021】
環状構造体1は、図3に示すように、所定の方向に強化繊維を引き揃えてなる複数の強化繊維層を有する。図示例では、環方向に対して所定の角度で交差した方向(+θ方向と言う)に強化繊維を配向させた第1の強化繊維層11と、第1の強化繊維層11の強化繊維と環方向に関して対称な方向(−θ方向と言う)に強化繊維を配向させた第2の強化繊維層12と、環方向(0°方向と言う)に強化繊維を配向させた第3の強化繊維層13とが積層されている。第1〜第3の強化繊維層11〜13は、隣接する層と繊維の配向方向が交差するように積層され、本実施形態では、第3の強化繊維層13(0°)、第1の強化繊維層11(+θ)、第2の強化繊維層12(−θ)・・・、という順番で繰り返して、例えばそれぞれ5〜10層ずつ積層される。第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12の配向角度θは、20〜70°の間で設定され、例えば60°に設定される。第1〜第3の強化繊維層11〜13は、ウェブ2及び一対のフランジ3に連続して設けられる。特に、第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12は、一方のフランジ3の端面3aから他方のフランジ3の端面3aまで強化繊維が継ぎ目なく連続し、且つ、一定の角度で配向している。
【0022】
上記の環状構造体1は、ドライプリフォーム形成工程、分離工程、及び樹脂含浸工程とを経て製造される。以下、各工程を順に説明する。
【0023】
ドライプリフォーム形成工程は、図4に示すように、環状のマンドレル20の外周に強化繊維を供給することにより、中空環状のドライプリフォームを形成する工程である。マンドレル20は、例えば断面矩形(本実施形態では正方形)であり、図1に示す環状構造体1と同様の環状を成している。図示例では、マンドレル20を中空として軽量化を図っている。上述のように、環状構造体1は環方向の一部で断面形状を若干異ならせているため、これに合わせて、マンドレル20も環方向の一部で断面形状を若干異ならせている。
【0024】
マンドレル20の外周面に強化繊維を供給する供給装置は、マンドレル20を環方向一方(図4では時計回り方向、矢印参照)に回転させる回転駆動部(図示省略)と、マンドレル20の外周面に環方向に沿って強化繊維を供給する環方向繊維供給部30と、マンドレル20の外周面に強化繊維を捲回する繊維捲回部40とを備える。
【0025】
環方向繊維供給部30から供給された複数本の強化繊維は、ガイド31を介してマンドレル20の外周面に配される。ガイド31には、強化繊維をガイドする複数のガイド穴(図示省略)が設けられ、このガイド穴で強化繊維をガイドすることにより、強化繊維が環方向に引き揃えられた状態でマンドレル20の外周面に配される。本実施形態では、断面矩形のマンドレル20の外周面の全周に均一な密度で環方向の強化繊維が配される。以上により、強化繊維を環方向(0°)に配向させた第3の強化繊維層13が、マンドレル20の外周面に供給される。
【0026】
これと同時に、繊維捲回部40から供給された複数本の強化繊維を、図5に示すように、ガイド41を介してマンドレル20の外周面に捲回する。ガイド41には、強化繊維をガイドする複数のガイド穴(図示省略)が設けられる。本実施形態では、ガイド穴が環方向に並べて配され、このガイド穴でガイドされた複数の強化繊維が環方向に並べて配列され、これによりシート状の繊維束Aが形成される。そして、図6に示すように、繊維捲回部40及びガイド41を共にマンドレル20周りで周回させることにより、シート状の繊維束Aがマンドレル20の外周に捲回される(図5参照)。このとき、マンドレル20を環方向一方(矢印参照)に回転させながら、繊維捲回部40及びガイド41を周回させることにより、環方向Cに対して所定の角度(+θ)で強化繊維を平行に引き揃えてなるシート状の繊維束Aが供給される。また、繊維捲回部40及びガイド41がマンドレル20の周りを一周する間に、シート状の繊維束Aの幅Wの分だけマンドレル20を環方向一方に回転させれば、繊維束Aがマンドレル20の外周に隙間なく敷き詰められる。尚、マンドレル20は、環方向の一部で断面形状が異なっているが、シート状の繊維束Aを捲回させることにより、繊維束Aを構成する各強化繊維がそれぞれマンドレル20の外周形状に倣うため、繊維束A全体をマンドレル20の外周形状に容易に倣わせることができる。以上により、環方向Cと交差する方向(+θ)に強化繊維を引き揃えてなる第1の強化繊維層11がマンドレル20の外周に供給される。以上のように、環方向繊維供給部30からガイド31を介してマンドレル20の外周面に供給された第3の強化繊維層13の外周を、繊維束Aで捲回することにより、第3の強化繊維層13がマンドレル20の外周に固定される。
【0027】
回転駆動部によるマンドレル20の環方向の回転が一周し、第1の強化繊維層の強化繊維が環方向に一周したら、回転駆動部、繊維捲回部40、及びガイド41を停止し、繊維捲回部40から供給された強化繊維、及び、環方向の強化繊維を一旦切断する。そして、図7に示すように、回転駆動部によりマンドレル20を環方向他方(図7では反時計周り方向、矢印参照)に上記と同速度で回転させると共に、繊維捲回部40及びガイド41を上記と同方向に同速度で周回させる。これにより、環方向Cに対して所定の角度(−θ)で強化繊維を引き揃えてなるシート状の繊維束Aがマンドレル20の外周面に捲回され、第2の強化繊維層12が第1の強化繊維層11の外周に積層される。以上を繰り返すことにより、第3の強化繊維層13、第1の強化繊維層11、及び第2の強化繊維層12が順に積層され(図3参照)、マンドレル20の外周に中空環状のドライプリフォーム50が形成される(図8参照)。尚、第2の強化繊維層12の形成方法は上記に限らず、例えば、回転駆動部によりマンドレル20を環方向一方(図5と同じ方向)に回転させながら、繊維捲回部40及びガイド41を図6の矢印と反対方向(時計周り方向)に回転させることにより、第2の強化繊維層12を形成することもできる。
【0028】
ドライプリフォーム50は、バインダー等により仮固定される。具体的には、例えば環方向繊維供給部30から供給される強化繊維、あるいは繊維捲回部40から供給される強化繊維に、熱融着性のバインダー繊維を混在させてドライプリフォーム50を形成した後、これを加熱してバインダー繊維を溶融し、これが固化することにより、ドライプリフォーム50を仮固定することができる。あるいは、ドライプリフォーム50を形成した後、その表面に溶着性のパウダー状あるいは霧状のバインダーを供給して仮固定を行うこともできる。尚、必要であれば、強化繊維の端部をマンドレル20の表面あるいは強化繊維層の表面にバインダー等で仮固定してもよい。
【0029】
こうして得られた中空環状のドライプリフォーム50は、図9に示すように、環方向に沿って複数(図示例では2個)に分割され、内部からマンドレル20が取り出される(分離工程)。これにより、図1に示す環状構造体1と同様の形状、すなわち、ウェブ52及びフランジ53からなる断面コの字形状を成した一対の分割ドライプリフォーム51が得られる。このとき、第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12の強化繊維の端部が、中空環状のドライプリフォーム50の分割面上に配されるようにすれば、分割ドライプリフォーム51のウェブ52やフランジ53の第1および第2の強化繊維層11,12に強化繊維の継ぎ目が全く形成されないため好ましい。
【0030】
樹脂含浸工程では、マンドレル20から分離された分割ドライプリフォーム51に樹脂を含浸させ、この樹脂を固化させることにより複合材料を形成する。樹脂を含浸固化させる方法は限定されず、例えば、RTM法(Resin Transfer Molding)により行うことができる。あるいは、環方向繊維供給部30から供給される強化繊維にディッピング等により予め樹脂を付着させ、この強化繊維を環方向に引き揃えてマンドレル20の外周に供給してもよい。この場合、環方向の強化繊維がマンドレル20の外周に供給されることにより、この強化繊維に付着した樹脂がドライプリフォーム50に含浸されるため、樹脂含浸工程とドライプリフォーム形成工程とを同時に行うことができ、その後に加熱することで複合材料からなる環状構造体1を得ることができる。以上により、複合材料からなる環状構造体1(図1参照)が完成する。
【0031】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0032】
上記の実施形態では、分離工程の後に樹脂含浸工程を行っているが、これとは逆に、図8に示す中空環状のドライプリフォーム50に樹脂を含浸させて中空環状の複合材料を形成した後、この複合材料を環方向に沿って分割して内部からマンドレル20を取り出してもよい。
【0033】
また、上記の実施形態では、断面コの字形状の環状構造体1を示しているが、これに限らず、例えば、図10に示すような断面H形状の環状構造体101を形成することもできる。この場合、断面コの字形状の一対の分割ドライプリフォーム51にそれぞれ樹脂を含浸させて環状構造体1を形成した後、これらを背面同士で固定することで、断面H形状の環状構造体101が得られる。あるいは、断面コの字形状の一対の分割ドライプリフォーム51の背面同士を合わせて配置し、この状態で樹脂を含浸させることにより、断面H形状の環状構造体1が得られる。
【0034】
また、上記の実施形態では、分離工程で、中空環状のドライプリフォーム50が2つに分割された場合を示しているが、これに限らず、例えば図11に示すように3つに分割してもよい。図示例では、円筒状の分割ドライプリフォーム61と、断面L字形状の一対の分割ドライプリフォーム62とに分割される。これらの分割ドライプリフォーム61,62に樹脂を含浸させることにより、環状構造体261,262が得られる。これらの環状構造体261,262は、それぞれ個別に使用することもできるし、図12のように組み合せて一体化することにより、断面H字形状の環状構造体201を構成することもできる。
【0035】
また、上記の実施形態では、繊維捲回部40から、環方向に強化繊維を並べてなるシート状の繊維束Aを供給する場合を示したが、これに限られない。例えば、図13に示すように、マンドレル20の外周に複数(図示例では8個)の繊維捲回部40を等間隔に配置してもよい。ガイド部41は、マンドレル20の外周を囲むように環状に設けられ、ガイド穴が等間隔に設けられる。この複数の繊維捲回部40及びガイド部41を共に矢印方向に回転させることにより、強化繊維がマンドレル20の外周に捲回される。この場合、マンドレル20の外周に供給された環方向の強化繊維(第3の強化繊維層13)を、複数の繊維捲回部40から供給された強化繊維で全周にわたってほぼ同時に押さえることができる。
【0036】
また、上記の実施形態では、マンドレル20の断面が矩形の場合を示したが、これに限らず、例えば断面台形や断面円形とすることもできる。
【0037】
また、上記の実施形態では、環方向に対して傾斜した方向(+θ方向、−θ方向)に配向した第1の強化繊維層11及び第2の強化繊維層12と、環方向(0°方向)に配向した第3の強化繊維層13とを有する場合を示したが、これに限られず、要求される強度の方向の応じて適宜変更すればよい。例えば、第2の強化繊維層12及び第3の強化繊維層13の何れか又は双方を省略してもよい。あるいは、第1〜第3の強化繊維層11〜13に加えて、他の方向に傾斜した強化繊維層を加えてもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、環状構造体1を航空機のリングフレームとして用いる場合を示したが、これに限らず、例えば、自転車や自動車のリムなどに使用することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 環状構造体
2 ウェブ
3 フランジ
11 第1の強化繊維層
12 第2の強化繊維層
13 第3の強化繊維層
20 マンドレル
30 環方向繊維供給部
31 ガイド
40 繊維捲回部
41 ガイド
50 ドライプリフォーム
A シート状の繊維束
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のマンドレルの外周に複数の強化繊維層を積層してなる中空環状のドライプリフォームであって、
前記マンドレルは、後に前記ドライプリフォームから分離されるものであり、
前記マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を有することを特徴とするドライプリフォーム。
【請求項2】
複数本の強化繊維を平行に引き揃えてなるシート状の強化繊維束を前記マンドレルの外周に捲回することにより、前記第1の強化繊維層を形成した請求項1記載のドライプリフォーム。
【請求項3】
前記マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は連続し、前記第1の強化繊維層の強化繊維と環方向に関して対称な方向に引き揃えられた強化繊維からなる第2の強化繊維層を有する請求項1又は2記載のドライプリフォーム。
【請求項4】
環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を有する請求項1〜3の何れかに記載のドライプリフォーム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のドライプリフォームを環方向に沿って分割した複数の分割ドライプリフォームと、前記分割ドライプリフォームに含浸された樹脂とを有する複合材料からなる環状構造体。
【請求項6】
航空機のリングフレームとして用いられる請求項5記載の環状構造体。
【請求項7】
環状のマンドレルの外周に強化繊維を螺旋状に捲回することにより、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を有するドライプリフォームを形成するドライプリフォーム形成工程と、
前記ドライプリフォームを環方向に沿って複数に分割し、前記ドライプリフォームと前記マンドレルとを分離する分離工程と、
前記ドライプリフォームに樹脂を含浸させて複合材料を形成する樹脂含浸工程とを含む環状構造体の製造方法。
【請求項8】
複数本の強化繊維を平行に引き揃えてなる強化繊維束を前記マンドレルの外周に螺旋状に捲回することにより、前記第1の強化繊維層を形成する請求項7記載の環状構造体の製造方法。
【請求項9】
前記分離工程の後、前記樹脂含浸工程を行う請求項7又は8記載の環状構造体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂含浸工程の後、前記分離工程を行う請求項7又は8記載の環状構造体の製造方法。
【請求項11】
前記ドライプリフォームが、環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を有し、
前記環方向に引き揃えられた強化繊維を前記マンドレルの外周に供給すると共に、その外周に前記第1の強化繊維層の強化繊維を螺旋状に捲回することにより、前記第3の強化繊維層を前記マンドレルの外周に固定する請求項7〜10の何れかに記載の環状構造体の製造方法。
【請求項12】
強化繊維の表面に樹脂を付着させた後、この強化繊維を環方向に引き揃えて前記マンドレルの外周に供給して前記第3の強化繊維層を形成することにより、前記ドライプリフォーム形成工程と前記樹脂含浸工程とを同時に行う請求項11記載の環状構造体の製造方法。
【請求項1】
環状のマンドレルの外周に複数の強化繊維層を積層してなる中空環状のドライプリフォームであって、
前記マンドレルは、後に前記ドライプリフォームから分離されるものであり、
前記マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を有することを特徴とするドライプリフォーム。
【請求項2】
複数本の強化繊維を平行に引き揃えてなるシート状の強化繊維束を前記マンドレルの外周に捲回することにより、前記第1の強化繊維層を形成した請求項1記載のドライプリフォーム。
【請求項3】
前記マンドレルの外周に螺旋状に捲回され、環方向で少なくとも一周は連続し、前記第1の強化繊維層の強化繊維と環方向に関して対称な方向に引き揃えられた強化繊維からなる第2の強化繊維層を有する請求項1又は2記載のドライプリフォーム。
【請求項4】
環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を有する請求項1〜3の何れかに記載のドライプリフォーム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のドライプリフォームを環方向に沿って分割した複数の分割ドライプリフォームと、前記分割ドライプリフォームに含浸された樹脂とを有する複合材料からなる環状構造体。
【請求項6】
航空機のリングフレームとして用いられる請求項5記載の環状構造体。
【請求項7】
環状のマンドレルの外周に強化繊維を螺旋状に捲回することにより、環方向で少なくとも一周は継ぎ目なく連続し、環方向と交差する方向に引き揃えられた強化繊維からなる第1の強化繊維層を有するドライプリフォームを形成するドライプリフォーム形成工程と、
前記ドライプリフォームを環方向に沿って複数に分割し、前記ドライプリフォームと前記マンドレルとを分離する分離工程と、
前記ドライプリフォームに樹脂を含浸させて複合材料を形成する樹脂含浸工程とを含む環状構造体の製造方法。
【請求項8】
複数本の強化繊維を平行に引き揃えてなる強化繊維束を前記マンドレルの外周に螺旋状に捲回することにより、前記第1の強化繊維層を形成する請求項7記載の環状構造体の製造方法。
【請求項9】
前記分離工程の後、前記樹脂含浸工程を行う請求項7又は8記載の環状構造体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂含浸工程の後、前記分離工程を行う請求項7又は8記載の環状構造体の製造方法。
【請求項11】
前記ドライプリフォームが、環方向で少なくとも一周は連続し、環方向に引き揃えられた強化繊維からなる第3の強化繊維層を有し、
前記環方向に引き揃えられた強化繊維を前記マンドレルの外周に供給すると共に、その外周に前記第1の強化繊維層の強化繊維を螺旋状に捲回することにより、前記第3の強化繊維層を前記マンドレルの外周に固定する請求項7〜10の何れかに記載の環状構造体の製造方法。
【請求項12】
強化繊維の表面に樹脂を付着させた後、この強化繊維を環方向に引き揃えて前記マンドレルの外周に供給して前記第3の強化繊維層を形成することにより、前記ドライプリフォーム形成工程と前記樹脂含浸工程とを同時に行う請求項11記載の環状構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−201002(P2012−201002A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67990(P2011−67990)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】
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