説明

ドラフトローラ、ドラフト装置、及び紡績機

【課題】中番手や細番手の糸のための繊維束のドラフトに最適なドラフトローラを提供する。
【解決手段】フロントトップローラ20は、径が略一定に形成されその外周面に繊維束8を接触させる繊維接触部30と、繊維接触部30の軸方向両端部において、繊維接触部30よりも径が小さく形成された縮径部31と、を有する。繊維接触部30と縮径部31とを合わせた軸方向の幅W4は30mm以上34mm以下である。そして、繊維接触部30の軸方向の幅W1は18mm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ドラフト装置が備えるドラフトローラの形状に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績機は、ドラフト装置によって繊維束(スライバ)をドラフト(繊維束を引き伸ばすこと)したうえで、当該繊維束に紡績装置で撚りを加えて紡績糸とするものである。この種のドラフト装置は、複数のドラフトローラを備え、繊維束をドラフトローラでニップ(挟み込むこと)して各ドラフトローラを回転駆動することにより、当該繊維束をドラフトする構成である。
【0003】
近年は紡績装置による紡績が高速化しているため、ドラフト装置が備えるドラフトローラの回転速度も速くなっている。ドラフトローラの回転速度が速くなると、当該ドラフトローラの表面に連れられて流れる空気の流れ(以下、随伴気流と呼ぶ)が大きくなる。従来から、この随伴気流によって繊維束の繊維が拡散され、生成される紡績糸の均整度が低下するという問題が指摘されていた。
【0004】
この点、特許文献1は、両端を大きく切除し、有効ローラ幅を標準の半分近くに狭めたドラフト装置のフロントトップローラ(ドラフトローラのうち一番下流側に配置されるトップローラ)を開示している。特許文献1は、これにより、フロントトップローラが高速回転する場合にも繊維束が随伴気流の影響を受けず、風綿がフロントトップローラの前方から両側へ殆ど飛散しないとしている。
【0005】
また特許文献2は、ローラ対を構成するローラ間端部に、ローラの回転に伴う随伴気流を挿通させるとともに、前記随伴気流がドラフトされて送り出される繊維束の拡がりを阻止する防止壁を形成する気流となる空気通路を形成する間隙を設けたドラフト装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−126926号公報
【特許文献2】特開2005−113274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
繊維機械においては各部品の寸法や形状が極めて重要であり、例えばドラフトローラのわずかな形状の違いが糸品質に多大な影響を及ぼすこともまれではない。これは、繊維束を構成する繊維は非常に細く軽いので、ドラフトローラ近傍の随伴気流のわずかな変化で繊維の拡散具合が大きく変化するからである。ドラフトローラの寸法及び形状をどのように設定するかには無数の選択肢があるから、公知のドラフトローラの寸法及び形状を改良して糸品質を向上させることが技術課題の1つである。
【0008】
しかしながら上記特許文献1は、フロントトップローラの有効ローラ幅を標準の半分近くに狭めた、としているだけで「半分近く」とはどの程度か記載されておらず、ちょうど半分の場合を含むのかどうかもわからない。このように、ドラフトローラを作るうえでは寸法が極めて重要であるにもかかわらず、「標準の半分近く」の有効ローラ幅がどの程度の範囲の寸法までを含むのか特許文献1の記載では不明確である。従って、特許文献1の記載に基づいてフロントトップローラを作ろうとする当業者としては、実施例に記載されている「両端を切除した後の有効ローラ幅は18mm」という寸法を参考にし得るだけである。
【0009】
また特許文献2は、段部の高さと幅に着目した発明であり、有効ローラ幅の重要性については記載も示唆もされておらず、フロントトップローラのニップ部の巾(特許文献1でいうところの有効ローラ幅)の一例として18mmを開示(図7)するにとどまる。また、特許文献2には、有効ローラ幅の長さをどのように設定すれば糸品質が向上するか、記載も示唆もされていない。従って、この特許文献2を見た当業者であれば、段部をいかに最適化するかに着目し、有効ローラ幅を最適化する余地があるとは考えない。
【0010】
一方、当業者の間では、ドラフト装置のフロントトップローラの有効ローラ幅を18mm未満とした場合に、有効ローラ幅から繊維束の繊維がハミ出し易くなり、糸の品質が不安定になることが知られている。もちろん、フロントトップローラの有効ローラ幅から実際に繊維がハミ出すか否かはドラフト条件によって異なるため、一概に言うことはできない。しかしながら、フロントトップローラの有効ローラ幅を18mm以上とすれば、たいていの条件で繊維のハミ出しを防止することができる。即ち、有効ローラ幅18mm以上のフロントトップローラは、汎用性の高いフロントトップローラであると言える。従って、フロントトップローラの有効ローラ幅は18mm以上にすべきというのが最近の当業者の技術常識である。この技術常識を持った当業者が特許文献1及び2に触れたとしても、フロントトップローラの有効ローラ幅は実施例に記載されている通り18mmにすれば良いと考えるだけで、例えば有効ローラ幅を18mm未満にするという発想に至ることはない。
【0011】
ところで、最近は測定器具が発達して糸品質の測定精度も向上した結果、ドラフトローラの形状が糸品質に与える影響を正確に評価することができるようになってきた。このような流れの中で本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、有効ローラ幅が18mm以上のフロントトップローラを採用したドラフト装置を備える紡績機において、太番手の糸を紡績した場合には確かに糸品質向上の効果が得られるものの、中番手や細番手の糸を紡績した場合には必ずしも期待通りに糸品質が向上しているわけではないことがわかった。即ち、有効ローラ幅18mm以上のフロントトップローラは、太番手より細い糸(中番手や細番手の糸)のための繊維束をドラフトするには必ずしも最適な形状ではないことが、本願発明者らの実験によって示唆された。
【0012】
この点、特許文献1や特許文献2には、糸の番手(太さ)等に応じてフロントトップローラの寸法・形状を最適化するという発想は、記載も示唆もされていない。そもそも、特許文献1や特許文献2の出願当時は糸品質の測定精度が今ほど高くなく、またドラフトローラの汎用性が重視されていたため、有効ローラ幅が18mm以外のフロントトップローラを用いる必要性に乏しかったのである。
【0013】
しかしながら、最近は上記のように糸品質の測定精度が向上した結果、特許文献1や特許文献2の出願当時よりも糸の品質を一層厳しく要求されるようになってきている。従って、汎用的なドラフトローラよりも、糸の番手(太さ)に応じて最適化されたドラフトローラを提供することがニーズに合致すると考えられる。
【0014】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、中番手や細番手の糸のための繊維束のドラフトに最適なドラフトローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0015】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0016】
本発明の第1の観点によれば、ドラフト装置のドラフトローラであって、以下の構成のドラフトローラが提供される。即ち、このドラフトローラは、径が略一定に形成されその外周面に繊維束を接触させる繊維接触部と、前記繊維接触部の軸方向両端部において、前記繊維接触部よりも径が小さく形成された縮径部と、を有する。前記繊維接触部と前記縮径部とを合わせた軸方向の幅は30mm以上34mm以下である。そして、前記繊維接触部の軸方向の幅は18mm未満である。
【0017】
このように、繊維接触部の両端部に縮径部を形成することにより、ドラフトローラの回転に伴って発生する随伴気流を逃がすことができるので、繊維束の拡散を抑制することができる。そして、繊維接触部の幅を18mm未満とすることにより、ドラフトする繊維束の幅が狭い場合(太番手より細い糸のための繊維束をドラフトする場合)に随伴気流の影響を低減することができるので、糸品質を向上させることができる。
【0018】
本発明の第2の観点によれば、以下のように構成されたドラフト装置が提供される。即ち、このドラフト装置は、上記のドラフトローラと、当該ドラフトローラに対向して配置され、当該ドラフトローラの前記繊維接触部との間で繊維束をニップする対向ローラと、を備える。そして、前記繊維接触部の軸方向の幅は、当該繊維接触部と前記対向ローラとの間においてニップされた状態の繊維束の幅よりも、7mm以上11mm以下の範囲で広い。
【0019】
このように、ニップされている繊維束の幅に対して繊維接触部の幅に余裕を持たせておくことにより、繊維接触部から繊維がハミ出してしまうことを防止できる。また、ニップされている繊維束の幅に対して繊維接触部の幅が広過ぎると、随伴気流の影響が大きくなって繊維束が拡がり易くなってしまう。この点、繊維束の幅に対する繊維接触部の幅の余裕を上記範囲内とすることにより、繊維束が随伴気流によって拡がることを抑制することができる。以上のように、ドラフトされる繊維束の幅に応じてドラフトローラの繊維接触部の幅を決定することにより、最適なドラフト装置を提供することができる。
【0020】
前記のドラフト装置は、前記繊維接触部と前記対向ローラとの間でニップされた状態の繊維束の幅が7mm以下となるように当該繊維束をドラフトすることが好ましい。
【0021】
即ち、本発明のドラフトローラは太番手より細い糸(中番手や細番手の糸)のための繊維束のドラフトに好適であるから、当該ドラフトローラでニップされた状態の繊維束の幅を7mm(中番手、ほぼ30番手の糸に相当)以下とすることにより特に良好な品質でドラフトを行うことができる。
【0022】
前記のドラフト装置において、前記ドラフトローラはフロントトップローラであることが好ましい。
【0023】
即ち、フロントトップローラは、ドラフト装置が備えるローラの中でも繊維束の送り方向の最下流側に配置され、最も高速に回転するので、随伴気流の影響が最も大きい。従って、このフロントトップローラに本発明のドラフトローラを採用することにより、随伴気流を逃がして繊維の拡散を抑制するという効果を最も顕著に発揮することができる。
【0024】
本発明の第3の観点によれば、上記のドラフト装置と、当該ドラフト装置によってドラフトされた繊維束を紡績して紡績糸を生成する紡績装置と、を備えた紡績ユニットを複数有する紡績機が提供される。
【0025】
即ち、本発明のドラフト装置は、中番手や細番手の糸のための繊維束のドラフトに特に好適である。従って、上記構成の紡績機によれば、紡績装置で生成される中番手や細番手の紡績糸の品質を向上させることができる。
【0026】
上記の紡績機において、前記紡績装置は、空気紡績装置であることが好ましい。
【0027】
即ち、空気紡績装置は高速紡績が可能であるから、ドラフトローラも高速回転となり随伴気流の影響が大きくなりがちである。そこで、上記随伴気流を逃がすことができる本発明のドラフトローラを採用することにより、糸の品質を向上させる効果を顕著に発揮することができる。
【0028】
上記の紡績機において、前記紡績装置は、ノズルホルダと、中空ガイド軸体と、前記ノズルホルダ及び前記中空ガイド軸体との間に形成される紡績室内に繊維束を案内する繊維案内部と、を備えることが好ましい。
【0029】
即ち、紡績室内に導入される繊維束の状態の精度が求められる空気紡績装置において、上記ドラフト装置によりドラフトされた繊維束が繊維案内部によって安定した状態で導入されるので、この紡績機は品質の安定した紡績糸を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示す正面図。
【図2】紡績ユニットの側面図。
【図3】紡績装置の断面図。
【図4】フロントローラ対の斜視図。
【図5】フロントローラ対の平面図。
【図6】フロントローラ対における繊維束のニップ幅が6mmのときに紡績された紡績糸の糸品質を測定した結果を示す図。
【図7】フロントローラ対における繊維束のニップ幅が10mmのときに紡績された紡績糸の糸品質を測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。図1に示す紡績機としての精紡機1は、並設された多数の錘(紡績ユニット2)を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0032】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸弛み取り装置(糸貯留装置)12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での繊維束及び糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。各紡績ユニット2は、ドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績して紡績糸10を生成し、この紡績糸10を巻取装置13で巻き取ってパッケージ45を形成するように構成されている。
【0033】
ドラフト装置7は精紡機1の筐体6の上端近傍に設けられている。ドラフト装置7は、図略のスライバケースからスライバガイドを介して供給される繊維束(スライバ)8を、所定の幅になるまでドラフト(繊維束を引き伸ばすこと)するものである。ドラフト装置7でドラフトされた繊維束8は、紡績装置9に供給される。
【0034】
紡績装置9は、ドラフト装置7から供給された繊維束8に撚りを加えて、紡績糸10を生成するためのものである。本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与える空気式の紡績装置を採用している。図3に示すように、紡績装置9は、ノズルホルダ34と、中空ガイド軸体23と、繊維ガイド(繊維案内部)22と、を主に備えている。
【0035】
ノズルホルダ34と中空ガイド軸体23の間には、紡績室26が形成されている。ノズルホルダ34には、紡績室26内に空気を噴出する空気噴出ノズル27が形成されている。繊維ガイド22には、紡績室26内に繊維束8を導入する糸導入口21が形成されている。空気噴出ノズル27は、紡績室26内に空気を噴出して旋回気流を発生させることができるように構成されている。この構成で、ドラフト装置7から供給された繊維束8は、糸導入口21を有する繊維ガイド22によって紡績室26内に案内される。紡績室26内において、繊維束8は、旋回気流によって中空ガイド軸体23の周囲を振り回されることにより、撚りが加えられて紡績糸10となる。撚りが加えられた紡績糸10は、中空ガイド軸体23の軸中心に形成された糸通路29を通って、下流側の糸出口(図略)から紡績装置9の外部に送出される。
【0036】
なお、前記糸導入口21には、その先端を紡績室内向けて配置された針状のガイドニードル22aが配置されている。糸導入口21から導入される繊維束8は、このガイドニードル22aに巻きかかるようにして紡績室26内に案内される。これにより、紡績室26内に導入される繊維束8の状態を安定させることができる。また、このようにガイドニードル22aに巻きかかるように繊維束8が案内されるので、紡績室26内で繊維に撚りが加えられても、繊維ガイド22よりも上流側に撚りが伝播することが防止される。これにより、紡績装置9による加撚がドラフト装置7に影響を与えることを防止できる。
【0037】
紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、図2に示すように、糸貯留ローラ14と、当該糸貯留ローラ14を回転駆動する電動モータ25と、を備えている。
【0038】
糸貯留ローラ14は、その外周面に一定量の紡績糸10を巻き付けて一時的に貯留することができるように構成されている。そして、糸貯留ローラ14の外周面に糸を巻き付けた状態で当該糸貯留ローラ14を所定の回転速度で回転させることにより、紡績装置9から紡績糸10を所定の速度で引き出して下流側に搬送することができる。
【0039】
巻取装置13は、支軸73まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0040】
また、前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0041】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記レール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0042】
また、紡績装置9と糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は、走行する紡績糸10を図略のセンサによって監視し、紡績糸10の糸欠点(糸の太さなどに異常がある箇所や糸に含まれる異物)を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するように構成されている。
【0043】
前記ユニットコントローラは、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させるとともに、巻取装置13における巻き取りも停止させる。また、ユニットコントローラは糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。糸継台車3は、サクションパイプ44及びサクションマウス46によって紡績装置9側の糸端とパッケージ45側の糸端をスプライサ43に案内し、当該スプライサ43において糸継動作を行う。以上の糸継動作により、糸欠点の箇所が除去され、パッケージ45への紡績糸10の巻き取りを再開できる。なお、カッタ57は省略して、巻取装置13の駆動を継続した状態でドラフト装置7の駆動を停止することにより、紡績糸10を引きちぎるように切断する構成でも良い。
【0044】
次に、ドラフト装置7について詳しく説明する。
【0045】
ドラフト装置は、複数のドラフトローラを備えている。また、各ドラフトローラは、2つ1組でドラフトローラ対を構成している。本実施形態のドラフト装置は、上流側から順に、ドラフトローラ16,66からなるバックローラ対、ドラフトローラ17,67からなるサードローラ対、ドラフトローラ19,69からなるミドルローラ対、及びドラフトローラ20,70からなるフロントローラ対、の4つのドラフトローラ対を備えた、いわゆる4線式のドラフト装置として構成されている。また、サードローラ対とミドルローラ対との間には、繊維束の幅を規制するためのコンデンサ28が配置されている。
【0046】
各ドラフトローラ対において、精紡機1の正面側のドラフトローラをトップローラ、精紡機1の背面側のドラフトローラをボトムローラと称する。トップローラは、上流側から順に、バックトップローラ16、サードトップローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルトップローラ19、及びフロントトップローラ20となっている。一方、ボトムローラは、上流側から順に、バックボトムローラ66、サードボトムローラ67、エプロンベルト68を装架したミドルボトムローラ69、及びフロントボトムローラ70となっている。
【0047】
各トップローラ16,17,19,20は、その外周面がゴム等の弾性部材から構成されているローラである。また各トップローラ16,17,19,20は、図略の軸受等を介して、その軸線を中心に回転自在に支持されている。一方、各ボトムローラ66,67,69,70は金属製のローラであり、図略の駆動源によって、その軸線を中心に回転駆動されるように構成されている。各ドラフトローラ対において、トップローラとボトムローラは対向するように配置されている。ドラフト装置7は、各トップローラ16,17,19,20を、それに対向するボトムローラ66,67,69,70に向かって付勢する付勢手段を有している。これにより、トップローラ16,17,19,20の外周面が,ボトムローラ66,67,69,70の外周面に弾性的に接触する。この構成で、ボトムローラ66,67,69,70を回転駆動することにより、これに対向して接触するトップローラ16,17,19,20も従動回転する。
【0048】
ドラフト装置7は、回転するトップローラ16,17,19,20とボトムローラ66,67,69,70の間で繊維束8をニップ(挟み込むこと)することにより、当該繊維束8を下流側に向けて搬送するように構成されている。そして、ドラフト装置7においては、下流側のドラフトローラ対ほど回転速度が速くなるように構成されている。従って、繊維束8は、ドラフトローラ対とドラフトローラ対との間で搬送される間に引き伸ばされ(ドラフトされ)、これに伴い、下流側にいくほど繊維束8の幅が細くなっていく。各ボトムローラ66,67,69,70回転速度、及びコンデンサ28による繊維規制幅等を適宜設定することにより、繊維束8がドラフトされる程度を変更できるので、所望の幅になるようにドラフトした繊維束8を紡績装置9に対して供給することができる。これにより、紡績装置9において、所望の番手(太さ)の紡績糸10を紡績することができる。
【0049】
上記のように、ドラフト装置7においては下流側のドラフトローラ対ほど回転速度が速くなっているので、最も下流側のドラフトローラ対であるフロントローラ対の回転速度は極めて高速となる。このため、フロントローラ対の近傍に発生する随伴気流が強力なものとなり、当該随伴気流が糸品質に与える影響も大きくなる。そこで、本実施形態のドラフト装置7においては、高速回転するフロントローラ対の近傍に発生する上記随伴気流の影響を低減させるため、フロントトップローラ20に縮径部31を形成している。
【0050】
以下、フロントトップローラ20の構成について詳しく説明する。図4及び図5に示すように、フロントトップローラ20は、径が略一定の円柱状に形成された繊維接触部30と、当該繊維接触部30の軸方向両端部において、繊維接触部30よりも径が小さい円柱状に形成された縮径部31と、を有している。
【0051】
フロントトップローラ20の繊維接触部30の外周面は、当該フロントトップローラ20に対向して配置されているフロントボトムローラ70の外周面に接触する。これにより、図5に示すように、繊維接触部30とフロントボトムローラ70との間で繊維束8をニップするように構成されている。一方、縮径部31とボトムローラ70との間には、隙間が形成される。
【0052】
次に、上記のように構成されたフロントトップローラ20の近傍に発生する随伴気流について説明する。前述のように、フロントトップローラ20は、これに対面するフロントボトムローラ70が回転駆動されることによって従動回転する。従って、フロントトップローラ20とフロントボトムローラ70は互いに逆方向に回転する。このため、図4に示すように、フロントトップローラ20の回転によって発生する随伴気流90と、フロントボトムローラ70の回転によって発生する随伴気流91は、互いに対向する気流となって、繊維束8のフロントローラ対への入口付近で衝突することなる。
【0053】
衝突した随伴気流90,91は、フロントトップローラ20及びフロントボトムローラ70のローラ軸と平行な方向(以下、単に軸方向と呼ぶ)に流れる気流となり、フロントトップローラ20及びフロントボトムローラ70の軸方向端部に向かって流れる(即ち、外に向かって拡がるように流れる)。そして前記随伴気流は、繊維接触部30の軸方向端部まで到達すると、縮径部31とフロントボトムローラ70との間に形成された隙間を通って、繊維束8の走行方向と平行な方向に流れる。このように、軸方向に流れる随伴気流の流れを、縮径部31とフロントボトムローラ70との間に形成された隙間を介して逃がすことができる。この結果、軸方向に流れる随伴気流の流れが弱まるので、繊維束8の繊維が随伴気流によって軸方向に拡がってしまうことを抑制することができる。
【0054】
従来から、上記のような随伴気流の制御には縮径部31の形状が重要であると考えられており、例えば特許文献2には、縮径部の幅や隙間の形状などをいかにして最適化するかが記載されている。また例えば特開2010−163702には、縮径部の形状を様々に工夫した例が記載されている。一方で、繊維接触部30の形状及び寸法はあまり重要視されていなかった。これは、繊維接触部30の幅は18mm以上にすべきという技術常識があり、当該繊維接触部30の寸法及び形状等を工夫する余地は無いと考えられていたことも一因である。
【0055】
しかしながら前述のように、本願発明者らが研究を重ねた結果、繊維接触部30の軸方向の幅を18mm以上とした従来のフロントトップローラ20を備えた紡績機では、中番手や細番手の糸を紡績する際には十分な糸品質向上の効果が得られないことが明らかになったのである。そこで本願発明者らは、繊維接触部30の形状が糸品質に及ぼす影響を調べるべく、以下の実験を行った。
【0056】
即ち、本願発明者らは、繊維接触部30のローラ軸方向の幅を18mm、17mm、16mmとしたフロントトップローラ20を作成し、それぞれのフロントトップローラ20を採用した精紡機1で紡績糸10を紡績する実験を行った。図6に、このときに生成された紡績糸10の糸品質を測定した結果を示す。なお、図6に記載のA1、A2というのは、公知のクラシマット分類によって分類された糸欠点である。図6には、それぞれの糸欠点が紡績糸10の100kmあたりに検出された数を記載している。検出された糸欠点の数が少ないほど、品質の高い紡績糸10であるといえる。なお、図6の実験を行った際、繊維接触部30がニップした状態の繊維束8の幅は6mm程度であった。これは、およそ30番手の紡績糸10に相当する繊維幅である。一般的に、30番手は中番手の糸とされる。
【0057】
図6に示すように、繊維接触部30の幅を18mmとした場合に比べ、17mmや16mmとした場合に糸欠点(特にクラシマットA1)が減少している。特に、繊維接触部30の幅を16mmとした場合に、糸欠点を減少させる効果が著しく大きいことがわかる。このように、繊維接触部30のローラ軸方向の幅が18mm未満(例えば17mmや16mm)のフロントトップローラ20を採用することにより、中番手の紡績糸10の品質が向上することが確認された。また、中番手の紡績糸10に対しては、繊維接触部30の幅を16mmとしたフロントトップローラ20が特に有効であることがわかった。
【0058】
前述のように、従来は、繊維接触部30の幅を18mm未満にすると繊維のハミ出しが発生し易くなると考えられていたため、繊維接触部30の幅が18mm未満のドラフトトップローラが用いられることは無かった。ところが今回、繊維接触部30の幅が18mm未満であっても繊維のハミ出しが発生しないばかりか、糸品質向上の効果が得られる場合があることがわかった。即ち、本願発明者等の実験により、繊維接触部30の幅を18mm未満としたフロントトップローラ20を実用化できる可能性が初めて明らかになったのである。
【0059】
そして本願発明者らは、更に実験を繰り返した結果、フロントトップローラ20の形状を最適化するためには、非ニップ部の幅が重要であることを見出した。ここで、非ニップ部とは、繊維接触部30のうち、繊維束8をニップしていない部分を指す。図5に示すように、繊維接触部30によってニップされている状態の繊維束8の幅をSW、繊維接触部30の軸方向の幅をW1とする。また、繊維束8の幅方向両端部よりも外側に形成された非ニップ部32,33の軸方向の幅をそれぞれW2,W3とする。このように、非ニップ部32,33は繊維束8の両端部に形成されているので、本明細書で単に「非ニップ部の幅」等と言った場合には、両端部の非ニップ部32,33の幅の合計(W2+W3)を指すものとする。
【0060】
以下、発明者らによって明らかにされた非ニップ部の幅の重要性について簡単に説明する。即ち、非ニップ部の幅(W2+W3)が広いということは、繊維接触部30にニップされている繊維束8と、縮径部31と、が軸方向で離れているということである。縮径部31は随伴気流を逃がすために形成されたものであるから、繊維束8と縮径部31が離れ過ぎていると、繊維束8の近傍の随伴気流を逃がすことができないため、当該随伴気流によって繊維束8が拡散し易くなってしまうと考えられる。そこで、非ニップ部の幅(W2+W3)を或る程度狭くすることにより、繊維束8近傍の随伴気流が縮径部31を介して逃げ易くなるので、繊維束8が拡散しにくくなり、糸品質が向上するのである。しかし一方で、非ニップ部の幅(W2+W3)を狭くし過ぎると、繊維接触部30から繊維束8がハミ出し易くなり、かえって糸品質が低下すると考えられる。
【0061】
図6に示した実験結果は繊維束8の幅SWが6mmの場合であるから、フロントトップローラ20の繊維接触部30の幅W1を18mmとした場合は、非ニップ部の幅(W2+W3)は12mmとなる。同様に、繊維接触部30の幅W1を17mmとした場合は、非ニップ部の幅(W2+W3)は11mm、繊維接触部30の幅W1を16mmとした場合は、非ニップ部の幅(W2+W3)は10mmとなる。図6の実験結果を非ニップ部の幅という観点から見れば、非ニップ部の幅を12mmとしたときに比べて、非ニップ部の幅を11mmとしたときに糸品質が向上しており、非ニップ部の幅を10mmとした場合に糸品質が特に向上していることがわかる。即ち、フロントトップローラの繊維接触部30の幅W1が17mm以下である場合に、糸品質が向上している。
【0062】
なお、図6に示しているのは繊維束8の幅SWが6mmの場合であるが、本願発明者らが実験を重ねた結果、当該繊維束の幅SWが7mm以下であれば、非ニップ部の幅を11mm以下とすることで糸品質が向上することが確認された。
【0063】
一方、繊維束8の幅SWが7mmよりも太い場合(太番手の糸、例えばSW=8mmの場合)は、本発明のフロントトップローラ(繊維接触部30の幅W1が18mm未満のフロントトップローラ)では繊維のハミ出しが発生し易くなり、糸品質が低下する場合があった。従って、本発明のフロントトップローラ20は、繊維束8の幅SWが7mm以下の場合(これは太番手よりも細い糸,即ち中番手や細番手の糸に相当する)に用いるのが好適である。なお、繊維束8の幅SWが7mmより太い場合(太番手の糸を紡績する場合)は、従来のフロントトップローラ(繊維接触部30の幅W1が18mm以上のフロントトップローラ)を用いれば良い。
【0064】
本願発明者らは、繊維のハミ出し易さと、非ニップ部の幅(W2+W3)と、の関係を調べるため、繊維束8の幅SWを10mmとして紡績糸10を紡績する実験を行った。この結果を図7に示す。この実験のように繊維束8の幅SWを10mmとした場合、(幅SWが7mmより太いので)本発明のフロントトップローラ20では繊維のハミ出しが発生し易くなり、糸品質が劣化する場合がある。従って、この実験における糸品質の劣化具合(糸欠点の数)と、非ニップ部の幅(W2+W3)と、の関係を見ることにより、繊維のハミ出し易さと非ニップ部の幅(W2+W3)との関係を明らかにすることができる。この観点から図7の実験結果を見れば、非ニップ部の幅(W2+W3)が7mm、8mmの場合には糸欠点の数は比較的少なく、非ニップ部の幅(W2+W3)が6mmの場合に糸欠点(特にクラシマットA2)が増大していることがわかる。この実験結果から、非ニップ部の幅(W2+W3)が6mmの場合には、繊維接触部30から繊維束8の繊維がハミ出し易くなるといえる。従って、非ニップ部の幅(W2+W3)を7mm以上とすれば、繊維のハミ出しを防止できると考えられる。
【0065】
以上をまとめると、フロントトップローラ20の非ニップ部の幅(W2+W3)が7mm以上11mm以下の範囲となるようにすれば、繊維束8が繊維接触部30からハミ出すことを防止できるとともに、当該繊維束8が随伴気流によって拡散しにくくなる結果、糸品質を向上させることができる。即ち、繊維接触部30の幅W1を以下に示す範囲とすることにより、良好な品質の紡績糸10を得ることができる:
SW+7mm ≦ W1 ≦SW+11mm
【0066】
フロントトップローラ20の繊維接触部30で繊維束8をニップしたときの幅SWは、ドラフト装置7の設定(各ドラフトローラ対の回転速度など)によって決まる。そこで、本実施形態の精紡機1では、繊維接触部30の幅W1を異ならせたフロントトップローラ20を複数用意しておき、ドラフト装置7で設定された繊維束8の幅SWに合わせてフロントトップローラ20を使い分けるようにしている。これによれば、前記設定が変更された場合でも繊維接触部30の幅W1を上記範囲内に収めることができるので好適である。なお、上記実施形態では中番手の糸を紡績する場合(具体的には繊維束8の幅SWが6mmである場合)について説明したが、本実施形態のフロントトップローラ20は細番手の糸を紡績する場合であっても同様の効果を奏する。即ち、本実施形態のフロントトップローラ20は、繊維束8の幅SWが7mm以下であれば(例えばSW=7mm,6mm,5mm,4mm,3mm,2mm等)、糸品質を向上させる効果を発揮することができる。
【0067】
ところでトップローラの表面はゴム等の弾性部材であるから、使用よって摩耗が発生する。このように、トップローラは消耗品であるため、ドラフト装置7においてトップローラは交換可能に構成されている。従って、ドラフト装置7の設定に応じてフロントトップローラ20を交換することは容易である。
【0068】
なお、フロントトップローラ20全体の幅W4(繊維接触部30と縮径部31とを合わせた軸方向の幅)が広過ぎると、ローラがたわんでしまい、ニップが不均一になる懸念がある。一方で、フロントトップローラ20全体の幅W4が狭過ぎると、縮径部31の幅を十分にとれないので、随伴気流を逃がす効果を十分に発揮することができない。この点、本願発明者らの実験によれば、ローラ全体の幅W4を30mm以上34mm以下の範囲内とすれば特に問題は発生しないことが確認された。そこで、本実施形態のフロントトップローラ20では、ローラ全体の幅W4を30mm以上34mm以下としている。なお、図6及び図7に示す実験結果は、全体の幅W4が32mmのフロントトップローラ20を用いて行った実験結果である。
【0069】
以上で説明したように、本実施形態のフロントトップローラ20は、径が略一定に形成されその外周面に繊維束8を接触させる繊維接触部30と、繊維接触部30の軸方向両端部において、繊維接触部30よりも径が小さく形成された縮径部31と、を有する。繊維接触部30と縮径部31とを合わせた軸方向の幅W4は30mm以上34mm以下である。そして、繊維接触部30の軸方向の幅W1は18mm未満である。
【0070】
このように、繊維接触部30の両端部に縮径部31を形成することにより、フロントトップローラ20の回転に伴って発生する随伴気流を逃がすことができるので、繊維束8の拡散を抑制することができる。そして、繊維接触部30の幅を18mm未満とすることにより、ドラフトする繊維束8の幅が狭い場合(太番手より細い糸のための繊維束8をドラフトする場合)に随伴気流の影響を低減することができるので、糸品質を向上させることができる。
【0071】
また本実施形態のドラフト装置7は、上記のフロントトップローラ20と、当該フロントトップローラ20に対向して配置され、当該フロントトップローラ20の繊維接触部30との間で繊維束8をニップするフロントボトムローラ70と、を備える。そして、繊維接触部30の軸方向の幅W1は、当該繊維接触部30とフロントボトムローラ70との間においてニップされた状態の繊維束8の幅SWよりも、7mm以上11mm以下の範囲で広い。
【0072】
このように、ニップされている繊維束8の幅SWに対して繊維接触部30の幅W1に余裕を持たせておくことにより、繊維接触部30から繊維がハミ出してしまうことを防止できる。また、ニップされている繊維束8の幅に対して繊維接触部30の幅が広過ぎると、随伴気流の影響が大きくなって繊維束8が拡がり易くなってしまう。この点、繊維束8の幅SWに対する繊維接触部30の幅W1の余裕(即ち、非ニップ部の幅)を上記範囲内とすることにより、繊維束8が随伴気流によって拡がることを抑制することができる。以上のように、ドラフトされる繊維束8の幅に応じてフロントトップローラ20の繊維接触部30の幅W1を決定することにより、最適なドラフト装置7を提供することができる。
【0073】
また本実施形態のドラフト装置7は、繊維接触部30とフロントボトムローラ70との間でニップされた状態の繊維束8の幅SWが7mm以下となるように当該繊維束8をドラフトすることが好ましい。
【0074】
即ち、本実施形態のフロントトップローラ20は太番手より細い糸(中番手や細番手の糸)のための繊維束8のドラフトに好適であるから、当該フロントトップローラ20でニップされた状態の繊維束8の幅SWを7mm(中番手、ほぼ30番手の糸に相当)以下とすることにより特に良好な品質でドラフトを行うことができる。
【0075】
また、フロントトップローラ20は、ドラフト装置7が備えるローラの中でも繊維束8の送り方向の最下流側に配置され、最も高速に回転するので、随伴気流の影響が最も大きい。従って、このフロントトップローラ20に本発明のドラフトローラを採用することにより、随伴気流を逃がして繊維の拡散を抑制するという効果を最も顕著に発揮することができる。
【0076】
また本実施形態の精紡機1は、上記のドラフト装置7と、当該ドラフト装置7によってドラフトされた繊維束を紡績して紡績糸を生成する紡績装置9と、を備えた紡績ユニット2を複数有する。
【0077】
即ち、本実施形態のドラフト装置7は、中番手や細番手の糸のための繊維束8のドラフトに特に好適である。従って、上記構成の精紡機1によれば、紡績装置9で生成される中番手や細番手の紡績糸10の品質を向上させることができる。
【0078】
また本実施形態の精紡機1において、紡績装置9は、空気紡績装置である。
【0079】
即ち、空気紡績装置は高速紡績が可能であるから、ドラフトローラも高速回転となり随伴気流の影響が大きくなりがちである。そこで、上記随伴気流を逃がすことができる本発明のドラフトローラを採用することにより、糸の品質を向上させる効果を顕著に発揮することができる。
【0080】
また、本実施形態の精紡機1において、紡績装置9は、ノズルホルダ34と、中空ガイド軸体23と、ノズルホルダ34及び中空ガイド軸体23との間に形成される紡績室26内に繊維束8を案内する繊維ガイド22と、を備えている。
【0081】
即ち、紡績室26内に導入される繊維束8の状態の精度が求められる空気紡績装置において、繊維束8が繊維ガイド22によって安定した状態で導入されるので、精紡機1は品質の安定した紡績糸10を生成することができる。
【0082】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0083】
本発明は、他の種類の紡績機(例えばリング紡績機)のドラフト装置にも適用することができる。
【0084】
上記実施形態では、回転する糸貯留ローラ14の周囲に紡績糸10を巻き付けることにより、紡績装置9から紡績糸10を引き出す構成としている。この点、糸貯留装置12の代わりに、回転するデリベリローラとニップローラを設け、当該デリベリローラとニップローラとで紡績糸10をニップすることにより紡績装置9から引き出す構成としても良い。この場合、デリベリローラとニップローラの下流側に糸貯留ローラ14を配置して、巻取作業や糸継作業時に発生する紡績糸10の緩みを吸収するようにすることもできる。
【0085】
繊維ガイド22が備える針状のガイドニードル22aは省略することもできる。この場合、繊維ガイド22の下流側端部のエッヂにより上記ガイドニードル22aの機能を実現するようにするようにしても良い。
【0086】
縮径部31の形状は、図4、5等に示したような円柱状に限らず、例えば特開2010−163702が開示しているように斜面状や曲面状に形成されていても良い。
【0087】
上記実施形態においては、本発明のドラフトローラをフロントトップローラに適用した構成について説明したが、これに限らず、フロントボトムローラに本発明の構成を適用しても良い。また、フロントローラ対に限らず、他のドラフトローラにも本発明の構成を適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 精紡機(紡績機)
7 ドラフト装置
8 繊維束
9 紡績装置
10 紡績糸
20 フロントトップローラ(ドラフトローラ)
30 繊維接触部
31 縮径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置のドラフトローラであって、
径が略一定に形成されその外周面に繊維束を接触させる繊維接触部と、
前記繊維接触部の軸方向両端部において、前記繊維接触部よりも径が小さく形成された縮径部と、
を有し、
前記繊維接触部と前記縮径部とを合わせた軸方向の幅は30mm以上34mm以下であり、
前記繊維接触部の軸方向の幅は18mm未満であることを特徴とするドラフトローラ。
【請求項2】
請求項1に記載のドラフトローラと、
当該ドラフトローラに対向して配置され、当該ドラフトローラの前記繊維接触部との間で繊維束をニップする対向ローラと、
を備え、
前記繊維接触部の軸方向の幅は、当該繊維接触部と前記対向ローラとの間においてニップされた状態の繊維束の幅よりも、7mm以上11mm以下の範囲で広いことを特徴とするドラフト装置。
【請求項3】
請求項2に記載のドラフト装置であって、
前記繊維接触部と前記対向ローラとの間でニップされた状態の繊維束の幅が7mm以下となるように当該繊維束をドラフトすることを特徴とするドラフト装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のドラフト装置であって、
前記ドラフトローラはフロントトップローラであることを特徴とするドラフト装置。
【請求項5】
請求項2から4までの何れか一項に記載のドラフト装置と、
当該ドラフト装置によってドラフトされた繊維束を紡績して紡績糸を生成する紡績装置と、
を備えた紡績ユニットを複数有することを特徴とする紡績機。
【請求項6】
請求項5に記載の紡績機であって、
前記紡績装置が空気紡績装置であることを特徴とする紡績機。
【請求項7】
請求項6に記載の紡績機であって、
前記紡績装置は、
ノズルホルダと、
中空ガイド軸体と、
前記ノズルホルダ及び前記中空ガイド軸体との間に形成される紡績室内に繊維束を案内する繊維案内部と、
を備えることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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