説明

ドラフト装置及びこれを備える紡績機

【課題】スライバをドラフトするドラフト装置において、ドラフトローラに対して容易にアクセスできるコンパクトな構成を提供する。
【解決手段】精紡機のドラフト装置32は、駆動ローラ群10と、対向ローラ群20と、を備える。駆動ローラ群10は、両持ち支持される複数のドラフトローラ11〜14から構成される。対向ローラ群20は、駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14とそれぞれ対向するように両持ち支持される複数のドラフトローラ21〜24から構成される。駆動ローラ群10及び対向ローラ群20を構成するドラフトローラのローラ軸は、当該ローラ軸の水平面への平行投影である投影ローラ軸71,72が装置の前後方向を向くように配置される。ドラフト装置32は、前記投影ローラ軸71,72の向きを維持しつつ、2つのローラ群10,20を互いに離すことが可能な開閉機構30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、紡績機においてスライバをドラフトするためのドラフト装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、この種のドラフト装置を開示する。特許文献1に開示される構成では、ドラフト装置においてスライバをニップするためのローラ群は、紡績機の装置正面側から見たときに左右で対をなして配置されている。それぞれのドラフトローラは片持ち支持され、複数の錘で共通のベルトによって回転駆動される。また、このローラ群を構成するドラフトローラのローラ軸は、何れも、上下方向から前側(紡績機の機台正面側)に若干倒れるように傾斜した向きで配置されている。この特許文献1の構成においては、紡績機の機台正面側(作業者通路が配置されている側)から見たときに、前記ローラ群を構成するそれぞれのドラフトローラのニップ点を視認することができる。
【0003】
また、特許文献2も同様に、スライバをドラフトするためのドラフト装置を開示する。この特許文献2のドラフト装置においては、スライバをニップするドラフトローラが両持ち支持される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第4130025号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/277722号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年は紡糸の高速化のニーズが高まっており、また、スライバを確実に延伸するために、ドラフトローラ間のニップ荷重は益々大きくなっている。この点、上記特許文献1の構成は、それぞれのドラフトローラが片持ち支持されているので、上記の大きな荷重を受け止めながらドラフトローラを高速回転できるようにするためには、支持シャフト及び軸受の剛性を十分に確保しなければならない。従って、特許文献1の構成ではシャフトや軸受が径方向に大型化しがちであり、例えば綿紡績等の短繊維のスライバを延伸する場合に必要なドラフトローラの軸間ピッチ(30mm〜40mm)を実現することが困難になっていた。
【0006】
また、特許文献1はドラフトローラがベルトにより駆動されているが、この場合、ベルトによるスリップ、回転ムラ等が生じ易く、糸物性の悪化防止の観点から改善が求められていた。更に、特許文献1の構成では、紡績条件によってドラフトローラの軸間ピッチを変更した場合にはベルトの巻掛け角度も変更されるので、動力伝達の安定性という意味でも改善の余地が残されていた。
【0007】
なお、特許文献1及び特許文献2の何れにおいても、例えばドラフトローラの外周面に風綿等が付着した場合に効率良く清掃することが困難な場合が多く、メンテナンスの作業性を向上させる見地からも改善の余地があった。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、スライバをドラフトするドラフト装置において、ドラフトローラに対し装置正面側から容易にアクセスできるコンパクトな構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のドラフト装置が提供される。即ち、このドラフト装置は、第1ローラ群と、第2ローラ群と、第1支持部と、第2支持部と、を備える。前記第1ローラ群は、複数のドラフトローラから構成される。前記第2ローラ群は、前記第1ローラ群のドラフトローラとそれぞれ対向するように配置される複数のドラフトローラから構成される。前記第1支持部は、前記第1ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する。前記第2支持部は、前記第2ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する。前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群を構成するドラフトローラのローラ軸は、当該ローラ軸の水平面への平行投影である投影ローラ軸が装置の前後方向を向くように配置される。そして、ドラフト装置は、前記投影ローラ軸の向きを維持しつつ、前記第1ローラ群と前記第2ローラ群とを互いに離すことが可能な開閉機構を備える。
【0011】
この構成により、互いに対向するローラ群の何れにもオペレータがアクセスし易くなるため、メンテナンス性を向上させることができる。また、ドラフトローラは両持ち支持されるため、当該ドラフトローラの支持構造を径方向に小型化することが容易になる。従って、ドラフトローラの軸間ピッチを短くしなければならない場合でも容易に対応することができる。
【0012】
前記のドラフト装置においては、前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を水平方向に平行移動させることが可能に構成されていることが好ましい。
【0013】
この構成により、開閉機構を簡素に構成することができる。また、開閉機構の開放時においてはローラ群の平行移動によって大きなスペースを形成し易いので、メンテナンス性が一層向上する。
【0014】
前記のドラフト装置においては、前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を旋回させることが可能に構成されていることが好ましい。
【0015】
この構成により、開閉機構を簡素に構成することができる。
【0016】
前記のドラフト装置においては、前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を、前記第1ローラ群又は前記第2ローラ群を構成する何れかのドラフトローラのローラ軸を中心として旋回させることが可能に構成されていることが好ましい。
【0017】
この構成により、何れかのドラフトローラ対でスライバをニップした状態のまま、他のドラフトローラ対を離間させ、メンテナンス作業を行うことができる。従って、メンテナンス作業が完了した後に再びスライバをセットし直す作業を容易に行うことができる。
【0018】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成のドラフト装置が提供される。即ち、このドラフト装置は、第1ローラ群と、第2ローラ群と、第1支持部と、第2支持部と、を備える。前記第1ローラ群は、複数のドラフトローラから構成される。前記第2ローラ群は、前記第1ローラ群のドラフトローラとそれぞれ対向するように配置される複数のドラフトローラから構成される。前記第1支持部は、前記第1ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する。前記第2支持部は、前記第2ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する。前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群を構成するドラフトローラのローラ軸は、当該ローラ軸の水平面への平行投影である投影ローラ軸が装置の前後方向を向くように配置される。そして、ドラフト装置は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を、そのドラフトローラの投影ローラ軸の装置前方側を他側のローラ群におけるドラフトローラの投影ローラ軸から離すように傾斜させつつ、当該他側のローラ群から離すことが可能な開閉機構を備える。
【0019】
この構成により、互いに対向するローラ群の何れにもオペレータがアクセスし易くなるため、メンテナンス性を向上させることができる。また、開閉機構の開放時には、相手側のローラ群に対して装置前方側が大きく離れるようにローラ群が傾斜するので、ドラフトローラの外周面への装置正面側からのアクセスが一層容易になる。更に、ドラフトローラは両持ち支持されるため、当該ドラフトローラの支持構造を径方向に小型化することが容易になる。従って、ドラフトローラの軸間ピッチを短くしなければならない場合でも容易に対応することができる。
【0020】
前記のドラフト装置においては、前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を、上下方向に配置された回転軸を中心に旋回させることが可能に構成されていることが好ましい。
【0021】
この構成により、開閉機構を簡素に構成することができる。
【0022】
本発明の第3の観点によれば、前記のドラフト装置を備えることを特徴とする紡績機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機が備える紡績ユニットの全体的な構成を示した正面図。
【図2】ドラフト装置及びその周辺を示す斜視図。
【図3】ドラフトローラの支持構成を詳細に示す平面断面図。
【図4】ドラフト装置においてローラ群を開放した状態を示す正面拡大図。
【図5】ドラフト装置の第1変形例を示す正面拡大図。
【図6】ドラフト装置の第2変形例を示す正面拡大図。
【図7】ドラフト装置の第3変形例を示す正面拡大図。
【図8】ドラフト装置の第4変形例を示す平面断面図。
【図9】ドラフト装置の第5変形例を示す正面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、図面を参照して発明の実施の形態を説明する。図1は本実施形態の精紡機が備える紡績ユニット31の全体的な構成を示した正面図、図2はドラフト装置32及びその周辺を示す斜視図である。
【0025】
本実施形態の空気紡績機としての精紡機は、複数の紡績ユニット31を備えている。それぞれの紡績ユニット31は、図1に示すように、ドラフト装置32と、紡績部33と、糸送り装置34と、糸弛み取り装置35と、巻取装置36と、を主要な構成として備えている。なお、図1には紡績ユニット31が1台(1錘)だけ描かれているが、本実施形態の精紡機においては、同一の構成を有する紡績ユニット31が機台の左右方向に多数並べて配置されている。
【0026】
この構成で、それぞれの紡績ユニット31に供給されるスライバ41は、ドラフト装置32によって延伸される。紡績部33は、このドラフト装置32から送られてくる繊維束を紡績するように構成されている。紡績部33から送り出された紡績糸42は糸送り装置34で送られた後、巻取装置36によって巻き取られ、所定長のパッケージ43を形成する。
【0027】
図1に示すように、スライバ収容器としてのケンス44は、精紡機が有するフレーム50の下部に形成されたケンス収容空間45に載置されている。また、ドラフト装置32のすぐ下側(スライバ41の走行方向上流側)の位置には、スライバガイド46が配置されている。この構成で、ケンス44内から上方へ引き出されたスライバ41は、スライバガイド46を介してドラフト装置32へ案内される。
【0028】
ドラフト装置32は、スライバ41を延伸して繊維束にするためのものであり、精紡機のフレーム50の上下方向中央部分に設けられている。このドラフト装置32は図1及び図2に示すように、駆動ローラ群(第1ローラ群)10と、対向ローラ群(第2ローラ群)20と、を備えている。駆動ローラ群10は、縦に並べて配置された4つのドラフトローラから構成される。対向ローラ群20は、駆動ローラ群10のドラフトローラにそれぞれ対向するように縦に並べて配置された4つのドラフトローラから構成される。
【0029】
2つのローラ群10,20は、スライバ41の走行経路を挟んで対向するように配置され、所定の圧力で当該スライバ41をニップできるように構成されている。また、駆動ローラ群10のドラフトローラは駆動源としての電動モータの出力軸にそれぞれ連結されており、4つのドラフトローラが互いに異なる速度で駆動されることによりスライバ41が延伸されるようになっている。なお、ドラフト装置32の詳細な構成については後述する。
【0030】
紡績部33は空気式の紡績装置として構成されており、ドラフト装置32から上方へ搬送されてくるスライバ41に対し、内部で発生させる旋回気流によって空気紡績を行う。紡績部33から紡出された紡績糸42は、当該紡績部33の上方に配置された糸送り装置34へ向かって走行する。
【0031】
糸送り装置34は、精紡機のフレーム50に支持されたデリベリローラ47と、このデリベリローラ47の外周面に接触するように配置されるニップローラ48と、を備える。この構成で、紡績部33から下流へ送られた紡績糸42をデリベリローラ47とニップローラ48との間に挟んでデリベリローラ47を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸42の走行向きを斜め下へ向かうように変更させながら、糸弛み取り装置35へ送ることができる。
【0032】
糸弛み取り装置35は、前記ドラフト装置32と同様に、フレーム50の上下方向中央部に設けられている。この糸弛み取り装置35は、適宜の長さの紡績糸42を弛み取りローラ49の外周面に巻き付けて貯留するとともに、その貯留量を状況に応じて調整できるように構成されている。この糸弛み取り装置35により、紡績部33と巻取装置36との間の紡績糸42の弛みを除去するとともに、巻取装置36における巻取張力を適切に制御することができる。糸弛み取り装置35から解舒された紡績糸42は、その走行方向を再び上向きに変えて、巻取装置36へ送られる。
【0033】
糸弛み取り装置35の上方には、クリアラ(糸欠陥検出器)55及びカッタ56が配置されている。クリアラ55は、紡績糸42の太さムラや異物の混入等を糸欠陥として検出することができる。クリアラ55によって糸欠陥が検出された場合は、カッタ56が作動して紡績糸42を切断する。その後、切断された紡績糸42は、(糸欠陥が除去された形で)図示しない糸継装置によって糸継ぎされ、紡績が再開される。
【0034】
巻取装置36は、クレードル57と、綾振ドラム58と、を備える。クレードル57は、紡績糸42を巻き付けるためのボビン(紙管、巻取管)を回転可能に支持することができる。綾振ドラム58は精紡機のフレーム50に回転可能に支持されており、その外周面を、クレードル57に支持された前記ボビンの外周面、又は、当該ボビンに紡績糸42が巻かれて形成された糸層の外周面に接触させることができる。
【0035】
綾振ドラム58には図略の電動モータの出力軸が連結されており、当該電動モータが綾振ドラム58を駆動することで、クレードル57に支持されたボビンを回転させることができる。また、綾振ドラム58の外周面には綾振溝59が形成されており、この綾振溝59によって紡績糸42を案内しながら綾振ドラム58を回転させることで、当該紡績糸を所定の幅で綾振りしながら前記ボビンに巻き取ることができる。
【0036】
次に、ドラフト装置32の詳細な構成を説明する。図2に示すように、ドラフト装置32は、4つのドラフトローラからなる駆動ローラ群10と、同じく4つのドラフトローラからなる対向ローラ群20と、を備えている。
【0037】
駆動ローラ群10は、下から上(スライバ41の走行方向の上流側から下流側)に向かって並べて設けられた4つのドラフトローラ11,12,13,14から構成されている。4つのドラフトローラ11〜14のうち上流側から3番目のドラフトローラ13には、エプロンベルト15が装着されている。
【0038】
対向ローラ群20も駆動ローラ群10と同様に、下から上(スライバ41の走行方向の上流側から下流側)に向かって並べて設けられた4つのドラフトローラ21,22,23,24から構成されている。4つのドラフトローラ21〜24のうち上流側から3番目のドラフトローラ23には、エプロンベルト25が装着されている。
【0039】
駆動ローラ群10において、4つのドラフトローラ11〜14は互いに異なる高さで配置される。また、対向ローラ群20においても、4つのドラフトローラ21〜24は互いに異なる高さで配置される。更に、対向ローラ群20を構成するそれぞれのドラフトローラ21〜24は、前記駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14のそれぞれに左右方向で対向するように配置されている。
【0040】
ドラフト装置32は、縦方向に細長いベース部材17を備えている。このベース部材17には、駆動ローラ群10の4つのドラフトローラ11〜14に対応して配置された板状のアーム部材(第1支持部)18の基部が固定されている。
【0041】
アーム部材18は、4つ配置されるドラフトローラ11〜14のそれぞれについて2本ずつ、計8本配置される。そして、装置前後方向に所定の間隔をあけて対で配置されるアーム部材18,18の間には、それぞれのドラフトローラ11〜14が図略の軸受を介して両持ち支持される。従って、それぞれのドラフトローラ11〜14は、そのローラ軸を中心に回転可能とされている。
【0042】
また、ドラフト装置32は、縦方向に細長いスライドベース部材27を備えている。このスライドベース部材27には、対向ローラ群20の4つのドラフトローラ21〜24に対応して配置された伸縮アーム28の基部が固定されている。
【0043】
伸縮アーム28は、4つ配置されるドラフトローラ21〜24のそれぞれについて1本ずつ、計4本配置される。それぞれの伸縮アーム28の先端には、一対の軸支持部(第2支持部)29,29が形成されており、この軸支持部29,29の間にそれぞれのドラフトローラ21〜24が図略の軸受を介して両持ち支持される。従って、それぞれのドラフトローラ21〜24は、そのローラ軸を中心に回転可能とされている。
【0044】
4つのドラフトローラ21〜24をそれぞれ支持する伸縮アーム28の内部には、例えばコイルバネから構成される付勢バネ53が配置されている。この付勢バネ53により、対向ローラ群20のドラフトローラ21〜24を駆動ローラ群10側のドラフトローラ11〜14へそれぞれ強く押し付け、スライバ41を2つのローラ群10,20の間でニップすることができる。
【0045】
なお、アーム部材18の基部又はベース部材17には上下方向の図示しない長孔が形成されており、それぞれのアーム部材18の取付け高さを適宜変更できるようになっている。同様に、伸縮アーム28の基部又はスライドベース部材27には上下方向の図示しない長孔が形成されており、それぞれの伸縮アーム28の取付け高さを適宜変更することができる。この結果、ローラ群10,20のドラフトローラ11〜14,21〜24の取付位置を変更できるので、例えば紡績条件等に応じてドラフトローラの軸間ピッチを柔軟に変更することができる。
【0046】
次に、ドラフトローラ11〜14,21〜24が配置される向きについて説明する。図2に示すように、2つのローラ群10,20(ドラフトローラ11〜14,21〜24)は、ドラフト装置32において上下方向に形成されているスライバ41の走行経路を装置の左右方向で挟むようにして配置されている。また、8つのドラフトローラ11〜14,21〜24は何れも、そのローラ軸(図2において1点鎖線で図示)が装置前後方向を向くように水平に配置されている。
【0047】
従って、ドラフト装置32において水平な向きの仮想平面70を考え、この仮想平面70に前記ドラフトローラ11〜14,21〜24のローラ軸を平行投影した場合、その投影された結果としての直線(投影ローラ軸71,72)も装置前後方向を向くことになる。なお、駆動ローラ群10において4つのドラフトローラ11〜14は同じ向きとされ、かつ上下方向に並べて配置されるので、前記仮想平面70には4つのドラフトローラ11〜14のローラ軸が重なって投影され、1本の投影ローラ軸71が現れている。同様に、対向ローラ群20において4つのドラフトローラ21〜24は同じ向きとされ、かつ上下方向に並べて配置されるので、仮想平面70には4つのドラフトローラ21〜24のローラ軸が重なって投影され、1本の投影ローラ軸72が現れている。
【0048】
このようにドラフトローラ11〜14,21〜24を配置することで、装置正面側(精紡機の機台正面側)の作業者通路からオペレータがドラフト装置32を見た場合、スライバ41の走行経路及びローラ群10,20によるニップ部周辺が、ドラフトローラ11〜14,21〜24によって隠れにくくなる。従って、オペレータは各ドラフトローラ11〜14,21〜24の隙間からスライバ41の走行経路を良く観察することができるので、スライバ41の詰まり等の異常に容易に気付くことができる。
【0049】
また、本実施形態において前記スライドベース部材27はスライドガイド26によって支持されており、これによって、所定のストロークで装置左右方向に平行移動することができる。従って、スライドベース部材27を移動させることにより、対向ローラ群20を駆動ローラ群10に近づける方向又は離す方向に平行移動させることができる。これらスライドベース部材27及びスライドガイド26により、2つのローラ群10,20同士を開閉することが可能な開閉機構30が構成されている。
【0050】
以上のように、本実施形態ではそれぞれのドラフトローラ11〜14,21〜24がアーム部材18又は軸支持部29によって両持ち支持されている。従って、付勢バネ53の強いバネ力をドラフトローラの軸の両端側で分担して受け止めることができるので、ドラフトローラのシャフト及び軸受として小径のものを用いた場合でも、円滑で安定的な高速回転を得ることができる。また、上記のようにドラフトローラ周辺の構成を径方向で小型化できるので、ドラフトローラ11〜14,21〜24を上下方向に短い間隔で並べて配置することも容易である。従って、本実施形態のドラフト装置32は短繊維の紡績(例えば、綿紡績)にも問題なく対応することができ、好適である。
【0051】
また、図1及び図2においては駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14を回転駆動するための構成は図示していないが、本実施形態では、4つのドラフトローラ11〜14のそれぞれを個別の電動モータで駆動する構成となっている。以下、駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14のうち最も下流側のドラフトローラ14を例にして説明する。図3は、ドラフトローラ14,24を支持する構成を示す平面断面図である。
【0052】
図3に示すように、ドラフトローラ14を両持ち支持する2つのアーム部材18,18のうち1つに、小型の電動モータのハウジング54が固定されている。なお、この電動モータのハウジング54は、ドラフトローラ14を支持する1対のアーム部材18,18よりも装置後方側に配置される。前記電動モータは、その出力軸がドラフトローラ14の軸線と一致するように配置されるとともに、当該出力軸がドラフトローラ14に直接固定される。
【0053】
なお、上記の説明は駆動ローラ群10のうちドラフトローラ14に関するものであるが、他のドラフトローラ11〜13に関しても同様の駆動構成が採用されている。この直接駆動方式により、ドラフトローラ11〜14に安定した回転を得ることができるとともに、回転時の騒音等を良好に抑制することができる。
【0054】
更に、本実施形態のドラフト装置32が備える開閉機構30は、対向ローラ群20を駆動ローラ群10から離れる向きに移動させて、2つのローラ群10,20によるニップを解除し、スライバ41の走行経路を大きく露出させることが可能に構成されている。なお、開閉機構30を用いて駆動ローラ群10と対向ローラ群20とを離間させた状態が図4に示されている。この開閉機構30により、ドラフトローラ11〜14,21〜24の外周面に付着した風綿の清掃等のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0055】
なお、この開閉機構30は、開閉を行う場合に対向ローラ群20の向きを変更せず、当該対向ローラ群20を装置の左右方向(水平方向)に平行移動させる構成となっている。従って、図2に示す仮想平面70で考えた場合でも、開閉機構30は、対向ローラ群20に係る前記投影ローラ軸72を装置左右方向に平行移動させるだけである(投影ローラ軸72の向きは変化しない)。これにより、上述したスライバ41の走行経路の視認性を良好に保ったままメンテナンスを行うことができ、作業効率を向上させることができる。
【0056】
以上に説明したように、本実施形態の精紡機が備えるドラフト装置32は、駆動ローラ群10と、対向ローラ群20と、アーム部材18と、軸支持部29と、を備える。駆動ローラ群10は、4つのドラフトローラ11〜14から構成される。対向ローラ群20は、前記駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14とそれぞれ対向するように配置される4つのドラフトローラ21〜24から構成される。アーム部材18は、駆動ローラ群10を構成するドラフトローラ11〜14を回転可能に両持ち支持する。軸支持部29は、対向ローラ群20を構成するドラフトローラ21〜24を回転可能に両持ち支持する。駆動ローラ群10及び対向ローラ群20を構成するドラフトローラ11〜14,21〜24のローラ軸は、当該ローラ軸の水平面(仮想平面70)への平行投影である投影ローラ軸71,72が装置の前後方向を向くように配置される。また、ドラフト装置32は、前記投影ローラ軸71,72の向きを維持しつつ、駆動ローラ群10と対向ローラ群20とを相対的に離すことが可能な開閉機構30を備える。
【0057】
これにより、互いに対向するローラ群10,20の何れにもオペレータが装置正面側からアクセスし易くなるので、メンテナンス性を向上させることができる。また、ドラフトローラ11〜14,21〜24は両持ち支持されるため、当該ドラフトローラのシャフト及びベアリング等を径方向に小型化することが容易になる。従って、ドラフトローラの軸間ピッチを短くする必要がある場合でも容易に対応することができる。
【0058】
また、本実施形態のドラフト装置32において、開閉機構30は、対向ローラ群20を水平方向に平行移動させることが可能に構成されている。
【0059】
これにより、開閉機構30を簡素に構成することができる。また、開閉機構30の開放時は対向ローラ群20が平行移動することにより長方形の大きなスペースが形成されるので、例えば後述の第1変形例(図5)等と比較してメンテナンス性が一層良好である。
【0060】
ただし、駆動ローラ群10と対向ローラ群20とを開閉する開閉機構の構成は上記に限定されない。次に図5から図7までを参照して、対向ローラ群20を旋回させるようにして開閉させる3つの変形例を説明する。なお、以降で説明する各種の変形例において、上記の実施形態と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0061】
図5に示す第1変形例の開閉機構30pにおいて、前記伸縮アーム28の基部が取り付けられるベース部材91は、その上端に配置された回転軸92を中心として回転することができる。この結果、対向ローラ群20を図5の太線矢印方向に旋回させて、駆動ローラ群10に対して開閉させることができる。
【0062】
図6に示す第2変形例の開閉機構30qは、前記回転軸92を、対向ローラ群20のうち最も上流側に位置するドラフトローラ21のローラ軸と一致させて配置したものである。この構成は、図6のように、スライバ41を最も上流側のドラフトローラ11,21の対でニップした状態で、他のドラフトローラの対を離間させてメンテナンス作業を行うことができる。従って、スライバ41をドラフト装置32から落下させることがないので、メンテナンス完了後のスライバの再セット作業が簡単になる。なお、回転軸92の位置を(ドラフトローラ21ではなく)ドラフトローラ11のローラ軸と一致させるようにしても、同様の効果を得ることができる。
【0063】
図7に示す第3変形例の開閉機構30rにおいては、前記伸縮アーム28を取り付けるためのベース部材93,94が2つ配置されている。一側のベース部材93には、対向ローラ群20のうち上流側(下側)の2つのドラフトローラ21,22が配置され、他側のベース部材94には下流側(上側)の2つのドラフトローラ23,24が配置されている。
【0064】
ベース部材93は、その上端に配置された回転軸95を中心として回転することができる。また、ベース部材94は、その下端に配置された回転軸96を中心として回転することができる。この結果、対向ローラ群20のドラフトローラ21〜24を2つずつそれぞれ図7の太線矢印方向に旋回させて、駆動ローラ群10に対して開閉させることができる。この第3変形例の構成は、前記第1変形例及び第2変形例と比較して、小さなスペースでローラ群10,20の開閉を実現できる点で優れている。
【0065】
以上に説明したように、第1変形例〜第3変形例のドラフト装置32においては、開閉機構30p,30q,30rは、対向ローラ群20を旋回させることが可能に構成されている。
【0066】
これにより、簡素な開閉機構を実現することができる。
【0067】
次に、開閉機構の第4変形例について、図8を参照して説明する。図8はドラフト装置の第4変形例を示す平面断面図である。
【0068】
図8に平面図を示す第4変形例の開閉機構30sにおいて、伸縮アーム28の基部が取り付けられるベース部材97は、上下方向(スライバ41の走行経路と略平行な向き)に配置された回転軸98を中心に回転することができる。この結果、対向ローラ群20を装置正面側へ旋回させて、2つのローラ群10,20を離間させることができる。
【0069】
この図8の変形例では、対向ローラ群20を構成するドラフトローラ21〜24のローラ軸は、開閉機構30sによる開閉に伴ってその向きを変更する。即ち、対向ローラ群20の開閉時には、当該対向ローラ群20のドラフトローラ21〜24は、前記回転軸98を中心として回転する。従って、図2で示した仮想平面70への投影で考えると、対向ローラ群20は駆動ローラ群10から離れるに伴い、そのドラフトローラ21〜24に係る投影ローラ軸72の装置前方側が、駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14に係る投影ローラ軸71からより大きく離れるように傾斜する。この構成は、特に対向ローラ群20を構成するドラフトローラ21〜24の外周面が装置正面側から一層見易くなる点で有利である。
【0070】
以上に説明したように、図8の構成のドラフト装置32において、開閉機構30sは、対向ローラ群20を、そのドラフトローラ21〜24の投影ローラ軸72の装置正面側(機台正面側、装置前方側)を駆動ローラ群10におけるドラフトローラ11〜14の投影ローラ軸71から離すように傾斜させつつ、当該駆動ローラ群10から離すことが可能に構成されている。
【0071】
これにより、上述の実施形態の構成と同様にメンテナンス性を向上できるとともに、ドラフトローラの軸間ピッチが短くする必要がある場合でも容易に対応することができる。また、開閉機構30sの開放時において対向ローラ群20は、駆動ローラ群10に対して装置前方側がより大きく離れるように傾斜する。従って、ドラフトローラの外周面に対し、装置正面側から一層容易にアクセスすることができる。
【0072】
また、図8の構成において、開閉機構30sは、前記対向ローラ群20を、上下方向に配置された回転軸98を中心に旋回させることが可能に構成されている。
【0073】
これにより、簡素な開閉機構を実現することができる。
【0074】
以上に本発明の好適な実施形態及びその変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0075】
上記実施形態ではドラフト装置32においてスライバ41は下から上へ走行する構成となっているが、上記に限定されず、上から下へスライバ41が走行する構成とすることができる。
【0076】
また、駆動ローラ群10のドラフトローラ11〜14及び対向ローラ群20のドラフトローラ21〜24は、同一の高さに配置する構成としても良い。例えば、紡績機の設置面と平行な平面(水平面)に沿って糸が走行する構成のドラフト装置に変更することができる。
【0077】
ドラフト装置32以外の構成については、適宜変更することができる。紡績ユニット31の機台高さは高くなるが、糸道が屈曲しないように前記巻取装置36等を配置しても良い。また、前記糸道を屈曲させる構成として、糸送り装置34と糸弛み取り装置35を用いる代わりに、適宜のローラやガイド部材を配置しても良い。
【0078】
上記実施形態では、駆動ローラ群10及び対向ローラ群20を構成するドラフトローラ11〜14,21〜24は、何れもそのローラ軸を水平に向けるようにして配置されている。しかしながら、これに代えて、前記ローラ軸が前下がり或いは後ろ下がりとなるように、ドラフトローラを傾斜させて配置することもできる。
【0079】
上記実施形態では、一側のローラ群(前記駆動ローラ群10)のみのドラフトローラ11〜14を電動モータで駆動する構成となっている。しかしながらこれに代えて、他側のローラ群のドラフトローラ21〜24(即ち、開閉のために移動する側のドラフトローラ)を電動モータで駆動する構成とすることもできる。
【0080】
開閉機構の構成については、上記で例示したほかにも各種の変形が考えられる。例えば、図9に示す第5変形例の開閉機構30tのように、スライドベース部材27の平行移動と、ベース部材93の回転とを組み合わせて、ローラ群10,20の開閉を実現することもできる。
【0081】
上記実施形態等で開示された各種の開閉機構は、一側のローラ群(駆動ローラ群10)を固定とし、他側のローラ群(対向ローラ群20)のみを平行移動又は回転移動させることでローラ群10,20の開閉を行っている。しかしながらこれに代えて、両側のローラ群を移動させることで開閉を行うように変更することもできる。
【0082】
対向ローラ群20を駆動ローラ群10に押し付けるための構成としては、付勢バネ53を用いるものに限られない。例えば、空気圧シリンダを用いて対向ローラ群20のドラフトローラに押圧力を作用させるように変更することができる。
【0083】
ドラフトローラ11〜14,21〜24の数は、上記の実施形態に限定されず、適宜増減させることができる。
【符号の説明】
【0084】
10 駆動ローラ群(第1ローラ群)
11〜14 ドラフトローラ
18 アーム部材(第1支持部)
20 対向ローラ群(第2ローラ群)
21〜24 ドラフトローラ
29 軸支持部(第2支持部)
30 開閉機構
31 精紡機(紡績機)の紡績ユニット
70 仮想平面
71,72 投影ローラ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のドラフトローラから構成される第1ローラ群と、
前記第1ローラ群のドラフトローラとそれぞれ対向するように配置される複数のドラフトローラから構成される第2ローラ群と、
前記第1ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する第1支持部と、
前記第2ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する第2支持部と、
を備え、
前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群を構成するドラフトローラのローラ軸は、当該ローラ軸の水平面への平行投影である投影ローラ軸が装置の前後方向を向くように配置されるとともに、
前記投影ローラ軸の向きを維持しつつ、前記第1ローラ群と前記第2ローラ群とを互いに離すことが可能な開閉機構を備えることを特徴とするドラフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラフト装置であって、
前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を水平方向に平行移動させることが可能に構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項3】
請求項1に記載のドラフト装置であって、
前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を旋回させることが可能に構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項4】
請求項3に記載のドラフト装置であって、
前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を、前記第1ローラ群又は前記第2ローラ群を構成する何れかのドラフトローラのローラ軸を中心として旋回させることが可能に構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項5】
複数のドラフトローラから構成される第1ローラ群と、
前記第1ローラ群のドラフトローラとそれぞれ対向するように配置される複数のドラフトローラから構成される第2ローラ群と、
前記第1ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する第1支持部と、
前記第2ローラ群を構成するドラフトローラを回転可能に両持ち支持する第2支持部と、
を備え、
前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群を構成するドラフトローラのローラ軸は、当該ローラ軸の水平面への平行投影である投影ローラ軸が装置の前後方向を向くように配置されるとともに、
前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を、そのドラフトローラの投影ローラ軸の装置前方側を他側のローラ群におけるドラフトローラの投影ローラ軸から離すように傾斜させつつ、当該他側のローラ群から離すことが可能な開閉機構を備えることを特徴とするドラフト装置。
【請求項6】
請求項5に記載のドラフト装置であって、
前記開閉機構は、前記第1ローラ群及び前記第2ローラ群のうち少なくとも何れか一方を、上下方向に配置された回転軸を中心に旋回させることが可能に構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のドラフト装置を備えることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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