説明

ドラムブレーキの作動装置

【課題】バネによってレバーを保持して、ブレーキケーブルなどの牽引部材の取り付けを行なうドラムブレーキの作動装置において、レバーやバネの設計の自由度を増すことができるとともに、レバーを露出位置(ブレーキケーブルを連結ピンで取り付けるための連結孔の全体が露出する位置)に確実に保持することができる作動装置を提供することにある。
【解決手段】作動装置10は、一対のブレーキシュー2,3の間に配置され、レバー20と、当該レバー20の支点である支点ピン40を支持するとともにレバー20を囲む支柱部材30とを備える。バネ60は、板状のレバー20の側面20g,20gに形成した係合穴20f,20fに引っ掛かって、当該レバー20の連結孔20bが支柱部材30の側壁30L,30Lから露出した位置(レバー20の露出位置)に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキケーブルなどの牽引部材に牽引されることによってドラムブレーキを作動させる機械式のドラムブレーキの作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式のドラムブレーキには、ブレーキケーブルが連結された板状のレバーと、当該レバーを収容するとともに当該レバーを回転可能に支持する支柱部材とを備える作動装置が一対のブレーキシューの間に配置されているものがある。このようなドラムブレーキでは、ブレーキケーブルが牽引されることによって、レバーが回転すると、当該レバーは一方のブレーキシューを押圧し、支柱部材は他方のブレーキシューを押圧する。これによって2つのブレーキシューが押し広げられ、ブレーキが作動する。
【0003】
ドラムブレーキの作動装置には、レバーに設けられた連結孔とブレーキケーブルの端部に設けられた取り付け金具とに連結ピンが差し込まれて、ブレーキケーブルとレバーとが連結され、支柱部材でレバーの連結孔を囲むことによって、連結ピンの脱落が防止されているものがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
このような作動装置にブレーキケーブルを取り付ける時には、連結ピンをレバーの連結孔に差し込むために、当該連結孔の全体が支柱部材から露出する位置(以下、露出位置)に、レバーを保持しておく必要がある。特許文献1に開示される作動装置では、支柱部材に板バネが取り付けられ、板状のレバーの外縁から突出する係合部が形成されている。そして、この係合部に板バネが干渉することで、露出位置にレバーが保持されている。連結ピンによってブレーキケーブルがレバーに取り付けられた後に、レバーがブレーキケーブルによって下方に引っ張られると、板バネが弾性変形して係合部から外れる。これによって、レバーは、連結孔が露出する露出位置から、連結孔が支柱部材に囲まれる位置(以下、非露出位置)まで回転する。また、特許文献1の作動装置では、レバーが一旦非露出位置まで回転した後は、再び連結孔が支柱部材から露出することのないように、露出位置に向かって回転しようとするレバーに板バネを干渉させることで、当該レバーの回転を規制している。
【特許文献1】特開2004−108458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の作動装置(実施例1又は2参照)では、板バネが干渉するレバーの係合部が、板状のレバーの外縁に形成されているため、係合部の位置や形状が制限され、それに伴って、板バネの形状も制限されていた。そのため、この作動装置は、レバーが少し回転しただけで、レバーが非露出位置に移動する構造であり、ドラムブレーキの取り扱い時にレバーが回転しないように注意する必要があった。言い換えれば、レバーを露出位置に保持しようとする機能の面で課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的の一つは、バネなどの弾性部材によってレバーを露出位置に保持して、ブレーキケーブルなどの牽引部材の取り付けを行なうドラムブレーキの作動装置において、レバーや弾性部材の設計の自由度を増すとともに、レバーを露出位置に確実に保持することができる作動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るドラムブレーキの作動装置は、板状のレバーと、前記レバーを支点で支持するとともに前記レバーを囲む支柱部材とを備え、一対のブレーキシューの間に配置されるドラムブレーキの作動装置であって、前記レバーは、ブレーキ操作を入力する牽引部材が取り付けられる孔状の被取付部を有し、当該被取付部が前記支柱部材から露出する露出位置と、当該被取付部の少なくとも一部が前記支柱部材によって囲まれる非露出位置との間で移動可能に設けられる。また、前記作動装置は、前記支柱部材に支持され、当該支柱部材から前記レバー側に延び、前記露出位置にある前記レバーに引っ掛かって、当該レバーを前記露出位置に保持し、弾性変形することで当該レバーから外れて、当該レバーの前記非露出位置への移動を許容する弾性部材を備えている。そして、前記レバーの側面に前記弾性部材が引っ掛かる少なくとも1つの係合部が形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、弾性部材の形状や大きさに合わせて、弾性部材が引っ掛かる係合部の位置等を、レバーの側面の範囲内で変えることができ、レバーの外縁に係合部を形成する場合に比べ、レバーや弾性部材の設計の自由度を増すことができるとともに、レバーを露出位置に確実に保持することができる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記係合部は、前記レバーの両側面に形成され、前記弾性部材は、前記係合部を挟んでもよい。この態様によれば、レバーを露出位置に安定的に保持できる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記係合部は、前記レバーの側面に形成される穴であり、前記弾性部材は、前記露出位置にある前記レバーの前記係合部に嵌る凸部を有してもよい。この態様によれば、レバーの側面から係合部を突出させる場合に比べて、レバーの形状を簡素化でき、作動装置の生産性を向上できる。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記弾性部材は、前記レバーの前記支点側から、前記露出位置にある前記レバーの前記係合部に向かって延伸して、当該係合部に引っ掛かる。この態様によれば、レバーの動きに追従して弾性変形する弾性部材の可動範囲を広くすることができ、レバーを露出位置により確実に保持できる。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記弾性部材と前記レバーの引っ掛かりが解除されているときに、前記弾性部材は、前記非露出位置から前記露出位置に移動する途中の前記レバーに当接して、当該レバーの移動を制限してもよい。これによって、露出位置にて牽引部材が取り付けられ、弾性部材から外れたレバーが、再び露出位置に戻ることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の例である作動装置10を備える機械式のドラムブレーキ1の要部を示す平面図であり、作動装置10が配置された部分が中心に示されている。図2は、作動装置10の分解斜視図である。図3は、図1に示すIII−III線の断面図であり、図4は、図3における要部の拡大図である。図5は、図4に示すV−V線の断面図であり、図6は、図4に示すVI−VI線の断面図である。なお、図2では、作動装置10とともに、ブレーキケーブル(牽引部材)50、及び連結ピン52が示されている。後述するように、作動装置10は、レバー20と当該レバー20を収容する支柱部材30とを備えている。図3及び図4では、レバー20の連結孔(被取付部)20bの全体が支柱部材30から露出する位置に保持され、この連結孔20bに、ブレーキケーブル50とレバー20とを連結する連結ピン52が差し込まれている。これら図1乃至図6は、ブレーキケーブル50をレバー20に取り付ける時の初期段階において、ブレーキケーブル50とレバー20とを連結ピン52で連結した状態を示す。
【0014】
ドラムブレーキ1は、例えば、車両の駐車時などに使用されるパーキングブレーキである。ドラムブレーキ1は一対のブレーキシュー2,3を備えている。一対のブレーキシュー2,3は、円筒状のブレーキドラム6の内側であって、車体に対して回転不能に取り付けられたバックプレート7上に配置されている。ブレーキシュー2とブレーキシュー3は、互いに離れた位置で向き合い、これらの端部の間に作動装置10が配置されている。作動装置10はバックプレート7に固定されたアンカー5の座部5bの上方においてアンカー5の立設部5aに隣接して配置されている。
【0015】
ブレーキシュー2とブレーキシュー3との間には、その端部においてシューリタンスプリング4が張設されている。また、ブレーキシュー2とブレーキシュー3のもう一方の端部の間には、別のシューリタンスプリング(不図示)が張設されている。ブレーキシュー2,3は、これらのシューリタンスプリングの収縮力によって互いに引き寄せられている。そして、ブレーキシュー2,3の作動装置10に隣接する端部2b,3bが、立設部5aで支持されている。
【0016】
作動装置10には、搭乗者のブレーキ操作を当該作動装置10に伝達するブレーキケーブル50が連結されている。ブレーキケーブル50が牽引されると、作動装置10は、シューリタンスプリングの収縮力に抗して、ブレーキシュー2,3を押し広げ、ブレーキシュー2,3の外周面2a,3aをブレーキドラム6の内周面6aに押し付ける。そして、例えば、坂道等で車輪とともにブレーキドラムが回転しようとする時に、当該ブレーキドラム6の内周面6aとブレーキシュー2,3の外周面2a,3aとの間に摩擦力が生じることによって、ドラムブレーキ1は車両を制動する。その後、ブレーキケーブル50の牽引が解除されると、シューリタンスプリングの収縮力によってブレーキシュー2,3が互いに引き寄せられ、ブレーキシュー2,3の外周面2a,3aがブレーキドラム6の内周面6aから再び離れる。これによって、制動力は解除される。
【0017】
ここで、作動装置10について詳細に説明する。作動装置10は、レバー20と、当該レバー20の支点となる支点ピン40と、支点ピン40を介してレバー20を支持するとともにレバー20を囲む支柱部材30とを備えている。また、作動装置10は、支点ピン40を支柱部材30に留めるワッシャー41と、バネ(弾性部材)60とを備えている。
【0018】
まず、支柱部材30について説明する。支柱部材30は、一対の側壁部30L,30Lと、同じく一対の支点支持部30d,30dと、ブレーキシュー当接部30aと、上壁部30eとを有している。
【0019】
側壁部30L,30Lは、ブレーキシュー2の端部側からブレーキシュー3の端部側に延伸するよう配置されている。この側壁部30L,30Lは、互いに離れて向き合うように配置され、これら側壁部30L,30Lの間に、レバー20が配置されている。
【0020】
支点支持部30d,30dは、側壁部30L,30Lからブレーキシュー2側に連続して設けられている。この支点支持部30d,30dには、当該支点支持部30dを貫通する孔30h,30hが形成されており、この孔30h,30hに支点ピン40が挿通されている。これによって、支点支持部30d,30dは、支点ピン40、すなわちレバー20の支点を回転可能に支持している。なお、支点ピン40の端部にワッシャー41が止められる。ワッシャー41は支点ピン40の支点支持部30dからの脱落を防止する。
【0021】
ブレーキシュー当接部30aは、側壁部30L,30Lからブレーキシュー3側に連続して設けられている。側壁部30L,30Lのブレーキシュー3側は、支柱部材30の幅方向(図1においてD3の示す方向)で互いに近づく方向に屈曲して接合されており、これによって、重合部30uが形成されている。そして、重合部30uの上下方向(図3においてD4の示す方向)の中央部近傍にブレーキシュー当接部30aが設けられている。このブレーキシュー当接部30aは、ブレーキシュー3の端部に向き合っており、ブレーキケーブル50が牽引された時にブレーキシュー3に当接して、当該ブレーキシュー3を左方向(図3においてD1の示す方向)に押圧する。なお、作動装置10が作動していない時、すなわちブレーキケーブル50が牽引されていない時には、ブレーキシュー当接部30aは、ブレーキシュー3の端部から離れている。
【0022】
上壁部30eは、側壁部30L,30Lの上縁に掛け渡され、レバー20の上方に位置している。この上壁部30eには、バネ60を支持するための孔30fが形成されている。上壁部30eによるバネ60の支持については後において詳しく説明する。
【0023】
次に、レバー20について説明する。レバー20は、支柱部材30の幅方向(D3に示す方向)に厚い板状の部材である。レバー20も、支柱部材30と同様に、ブレーキシュー2の端部側からブレーキシュー3の端部側に延伸するよう配置されている。上述したように、レバー20は、支柱部材30の側壁部30L,30Lの間に配置され、その厚さ方向から側壁部30L,30Lに囲まれている。レバー20には、ブレーキシュー当接部20cと、支点部20eと、連結孔20bと、係合穴(係合部)20f,20fとが形成されている。
【0024】
ブレーキシュー当接部20cは、レバー20のブレーキシュー2側に形成され、当該ブレーキシュー2の端部に向き合っており、ブレーキケーブル50が牽引された時にブレーキシュー2に当接して、当該ブレーキシュー2を右方向(図3においてD2の示す方向)に押圧する。
【0025】
図4に示すように、支点部20eは、レバー20においてブレーキシュー2の端部の上方に位置している。この支点部20eには孔20hが形成されている。そして、孔20h及び上述した支持部材30の孔30h,30hに、レバー20の支点となる支点ピン40が挿通されている。なお、ブレーキケーブル50が牽引されて、レバー20のブレーキシュー当接部20cがブレーキシュー2を右方向(D2方向)に押圧すると、それによる反力が支点ピン40を介して支柱部材30に伝わり、支柱部材30のブレーキシュー当接部30aはブレーキシュー3を左方向(D1方向)に押圧する。
【0026】
連結孔20bは、レバー20をその厚さ方向に貫通する孔であり、レバー20においてブレーキシュー3側の端部に位置している。この連結孔20bにブレーキケーブル50の端部に設けられたクレビス形の連結部51が取り付けられている。連結部51は、底部51cと、当該底部51cから立ち上がりレバー20の厚さ方向に向き合う一対の板部51a,51aとを有しており、板部51a,51aには孔51d,51dが形成されている。レバー20のブレーキシュー3側の端部は、板部51a,51aに挟まれ、孔51d,51dと連結孔20bとに連結ピン52が差し込まれている。これによって、連結部51はレバー20に取り付けられている。
【0027】
なお、板部51a,51aは、支柱部材30の側壁部30L,30Lの間に配置されている。連結ピン52の長さは、板部51a,51aの外側面間の距離よりも大きく設定されるとともに、側壁部30L,30Lの間隔よりも小さく設定されている。さらに、板部51aと側壁部30Lとの隙間は、板部51aの板厚よりも狭くなっている。これによって、レバー20の連結孔20bの少なくとも一部が、側壁部30L,30Lの間にある場合には、連結ピン52の抜け落ちが防止される。
【0028】
係合穴20f,20fは、レバー20の両側面20g,20gに凹状に形成されている。係合穴20fは、レバー20の上面20hと下面20kとの中央部近傍に位置している。なお、この係合穴20f,20fは後述するバネ60が引っ掛かる部位である。これらの関係については後において詳しく説明する。
【0029】
レバー20は、支点ピン40を支点として回転できるよう設けられ、連結孔20bの全体が支柱部材30の側壁部30L,30Lの間から上方に露出する位置(以下、露出位置、図4に示す位置)と、当該連結孔20bの少なくとも一部が側壁部30L,30Lの間に位置し、これら2つの壁部30L,30Lに囲まれる位置(以下、非露出位置、後述する図7乃至図10参照)との間で移動する。このレバー20の動きについては後において詳細に説明する。
【0030】
次に、バネ60について説明する。バネ60は、ダブルトーションバネであり、上壁部30eに取り付けられる基部60aと、基部60aの端部に位置する一対の起点部60b,60bと、当該起点部60b,60bから基部60aと略平行に延びる一対の腕部60c,60cとが形成されている(図2参照)。また、当該腕部60cの端部にはレバー当接部60dが形成され、当該レバー当接部60dと起点部60bとの間に凸部60eが形成されている。なお、この一対の凸部60e,60eは、腕部60c,60cの自由状態(腕部60c,60c間にレバー20が配置されていない状態)においては互いに当接している(図2参照)。バネ60は、支柱部材30の上壁部30eに取り付けられる形状を呈している。具体的には、基部60aが、上壁部30eの上面側において起点部60bから延伸した後、下方に屈曲し、孔30fを通って上壁部30eの下面側に延び、基部60aの端部60fが孔30fの下縁部に引っ掛かるようになっている。
【0031】
さらに、バネ60は、レバー20を露出位置に保持する形状を呈している。上壁部30eに取り付けられたバネ60は、上壁部30eからレバー20側に延伸し、露出位置にあるレバー20に引っ掛かって、当該レバー20を露出位置に保持している。具体的には、図4及び図6に示すように、バネ60を支柱部材30及びレバー20に取り付けた状態において、腕部60c,60cは、起点部60b,60bからレバー20の側面20g,20gに沿って斜め下方に延伸している。そして、腕部60c,60cは、露出位置にあるレバー20の側面20g,20gを挟んで、当該レバー20を上方に付勢し、その上面20hを上壁部30eの縁に当接させている。
【0032】
起点部60b,60bは、コイル状に巻かれ、起点部60b,60bの弾性力は、基部60aと、腕部60c,60cとを閉じるよう作用している。そして、図4及び図6に示すように、凸部60e,60eは、基部60aと腕部60c,60cとが上下方向に広げられた状態で、レバー20の係合穴20f,20fに引っ掛かる。これによって、露出位置にあるレバー20は、腕部60c,60cによって上方に付勢される。なお、図4に示すように、側壁部30Lの上端縁30kの高さは、レバー20の上面20hが支柱部材30の上壁部30eに当接している状態において、連結孔20bの全体が側壁部30L,30Lの間から露出するように設定されている。
【0033】
また、図6に示すように、バネ60を支柱部材30及びレバー20に取り付けた状態において、一対の腕部60c,60cは、その弾性力に抗してレバー20の厚さ方向に僅かに広げられた状態で、レバー20の側面20g,20gに沿って延伸している。また、凸部60e,60eは、それぞれ内側(レバー20の側面20g,20g側)に膨らむよう形成され、係合穴20f,20fに嵌っている。これによって、腕部60cはレバー20を保持している。
【0034】
図4に示すように、バネ60を支柱部材30及びレバー20に取り付けた状態において、起点部60bは、支柱部材30の上壁部30eよりレバー20の支点側、すなわち支点ピン40側に位置し、腕部60c,60cは、支点ピン40側から係合穴20f,20fに向かって延伸し、当該係合穴20f,20fに引っ掛かっている。そして、レバー20が、露出位置からその可動範囲の最下位置へ向かって回転する時には、腕部60c,60cが弾性変形することで、凸部60e,60eは途中の位置までレバー20に追従することができる。
【0035】
続いて、支柱部材30、レバー20、及びバネ60の関係について、図7乃至図10を参照しながら詳しく説明する。図7は、ブレーキケーブル50が牽引されることによって、レバー20が下方に回転した時の作動装置10の断面図であり、図8は、ブレーキケーブル50が牽引されることによって、レバー20がその可動範囲における最下位置に達した時の作動装置10の断面図である。また、図9は、レバー20の上面20hがレバー当接部60dに当接している状態にある作動装置10の断面図であり、図10は、図9に示すバネ60をX方向から臨む矢視図である。なお、図7においては、先に図3で示した露出位置にあるレバー20の係合穴20f、及びバネ60の腕部60cが二点鎖線で示されている。また、係合穴20fの動く方向が線Aで示され、腕部60cの動く方向が線Bで示されている。また、これらの図では、レバー20は、何れも非露出位置、すなわちレバー20の連結孔20bの一部又は全部が支柱部材30の側壁部30L,30Lに囲まれる位置に配置されている。
【0036】
露出位置にあったレバー20が、図7に示すように、支点ピン40を支点として回転すると、係合穴20fは下方(図7の線Aで示す方向)に移動する。この時、バネ60は弾性変形し、腕部60cも、係合穴20fと同様に下方(図7の線Bで示す方向)に移動する。ここで、起点部60bから凸部60eまでの距離は、支点ピン40の中心からレバー20の係合穴20fまでの距離より短く設定されている。そのため、レバー20が最下位置へ回転する途中で、凸部60eの位置と係合穴20fの位置とが左右方向にずれるため、凸部60eが係合穴20fから外れる関係となっている。従って、凸部60eは、露出位置とレバー20の最下位置の間の途中までは係合穴20fに係合した状態を維持しながら追従し、その後、凸部60eが係合穴20fから外れることになる。
【0037】
凸部60eが係合穴20fから外れると、腕部60cは自身の弾性力によって時計回り方向に回転し、腕部60cと基部60aとが、閉じた状態に戻ろうとする。この時、凸部60e,60eがレバー20の側面20g,20g上を滑りながら、腕部60cが時計回り方向に回転し、腕部60c,60cが上壁部30eに当接する(図8参照)。その結果、図9に示すように、腕部60cは、支柱部材30の上壁部30eの下面に沿って延伸し、腕部60cの端部に設けられたレバー当接部60dは、上壁部30eの端部から突き出た状態になる。また、自由状態において、バネ60の腕部60c,60cは自身の弾性力によって、その凸部60e,60eが互いに当接するようになっている。この時、図10に示すように、一対のレバー当接部60d,60dの間隔がレバー20の厚さより狭くなるよう形成されている。その結果、凸部60eが係合穴20fから外れると、図9及び図10に示すように、レバー当接部60d,60dは、レバー20の上面20hに干渉する位置に到る。そして、レバー当接部60d,60dは、露出位置に戻ろうとするレバー20に対して当接し、レバー20を非露出位置に留める。
【0038】
最後に、作動装置10へのブレーキケーブル50の取り付け方法の例、及び取り付け作業時の作動装置10の動作について説明する。
【0039】
まず、支柱部材30の上壁部30eに取り付けたバネ60によって、レバー20を露出位置に保持したドラムブレーキを準備する。この時、レバー20を挟んだバネ60は、図4及び図6に示すように、レバー20を上方に付勢して当該レバー20の上面20hを上壁部30eの縁に当接させ、レバー20を露出位置に保持する。
【0040】
最初に、ブレーキケーブル50の連結部51を支柱部材30の下方から側壁部30L,30Lの間に入れ、さらに、レバー20の側面20g,20gと支柱部材30の側壁部30L,30Lとの隙間に連結部51の一対の板部51a,51aを通す。そして、連結部51とレバー20の連結孔20bとを連結ピン52によって連結する。
【0041】
その後、図7に示すように、ブレーキケーブル50を牽引することによって、レバー20を露出位置から最下位置に向かって反時計回り方向に回転させる。この時、バネ60の凸部60e,60eは、レバー20の露出位置と最下位置との間の途中までは係合穴20fに係合した状態を維持しながら追従する。そして、凸部60e,60eが係合穴20fに追従している間、バネ60は弾性変形し、その弾性力はレバー20を露出位置に復帰させるよう作用する。
【0042】
なお、図7に示すように、ブレーキケーブル50が牽引されることによって、レバー20は支点ピン40を支点として反時計回り方向に回転し、ブレーキシュー当接部20cはシューリタンスプリングの収縮力に抗して、ブレーキシュー2を右方向(図7においてD2の示す方向)に押圧し始める。また、ブレーキシュー当接部20cがブレーキシュー2から受ける反力によって、レバー20は支点ピン40を介して支柱部材30をブレーキシュー3側に押圧し、ブレーキシュー当接部30aはブレーキシュー3を左方向(図7においてD1の示す方向)に押圧する。
【0043】
その後、さらにブレーキケーブル50を牽引することによって、レバー20を反時計回り方向に回転させると、バネ60がさらに弾性変形するとともに、凸部60e,60eの位置と係合穴20f,20fの位置とのずれが大きくなる。その結果、図8に示すように、凸部60e,60eが係合穴20f,20fから外れることで、腕部60c,60cは自由状態に復帰しようとし、基部60aと腕部60cは閉じる。また、一対のレバー当接部60d,60dの間も狭まり(図10参照)、これらはレバー20の上面20hから見て、上壁部30e側に位置するようになる。なお、側壁部30L,30Lは、図8に示す最下位置にあるレバー20の連結孔20bをも囲むようケーブルの牽引方向に延びている。これによって、例えば、車両の製造工程においてブレーキケーブル50の他端が自由端となっている状態でドラムブレーキ1が搬送される時や、ブレーキドラムを組み付ける前の状態下でブレーキケーブル50が牽引された場合でも、側壁部30L,30Lによって連結ピン52の脱落が防止される。
【0044】
その後、ブレーキケーブル50の牽引が解除されると、シューリタンスプリングの収縮力によってブレーキシュー2,3の間隔が狭まり、レバー20は支点ピン40を支点として上方(露出位置側)に回転する。ブレーキシュー2,3がアンカー5の立設部5aに当接した後は、レバー20及び支柱部材30にはシューリタンスプリングの収縮力が作用しない。つまり、レバー20は一定範囲内で自由状態になる。レバー20が最も上方(露出位置側)に位置するのは、図9に示すように、ブレーキシュー当接部20c、30aが、それぞれブレーキシュー2,3から離れて、レバー20の上面20hがバネ60のレバー当接部60dに当接した時である。このように、上面20hがレバー当接部60dに当接することで、レバー20が非露出位置を脱して、再び露出位置に戻ることが規制される。これによって、レバー20は非露出位置でのみ回転するようになり、支柱部材30の側壁部30L,30Lによって連結ピン52のレバー20からの抜け落ちが防止される。
【0045】
以上説明した作動装置10によれば、係合穴20f,20fがレバー20の側面20g,20gに形成されているので、バネ60の形状や大きさに合わせて、係合穴20f,20fの位置等を、レバー20の側面20g,20gの範囲内で変えることができ、レバーの上面20hや下面20kに係合部を形成する場合に比べ、レバーやバネの設計の自由度を増すことができるとともに、レバーを露出位置に確実に保持することができる。
【0046】
なお、本発明は、以上説明した作動装置10に限られず種々の変形が可能である。例えば、以上の説明では、バネ60は、支柱部材30の上壁部30eに取り付けられていた。しかしながら、バネ60は、支柱部材30の重合部30uや側壁部30L,30Lに取り付けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る作動装置を備えた機械式ドラムブレーキの要部を示す平面図である。この図では、ドラムブレーキにおいて作動装置が配置された部分が中心に示されている。
【図2】上記作動装置、ブレーキケーブル及び連結ピンの分解斜視図である。
【図3】上記作動装置のIII−III線の断面図であり、連結孔が支柱部材から露出する露出位置にレバーが配置されている状態を示している。
【図4】図3の要部の拡大図である。
【図5】図4に示すV−V線の断面図である。
【図6】図4に示すVI−VI線の断面図である。
【図7】ブレーキケーブルが牽引されることによって、レバーが下方に回転した時の作動装置の断面図である。
【図8】ブレーキケーブルが牽引されることによって、レバーがその可動範囲における最下位置に達した時の作動装置の断面図である。
【図9】レバーの上面がバネのレバー当接部に当接している状態にある作動装置の断面図である。
【図10】図9に示すバネをX方向から臨む矢視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ドラムブレーキ、2,3 ブレーキシュー、4 シューリタンスプリング、5 アンカー、10 作動装置、20 レバー、20b 連結孔(被取付部)、20f 係合穴(係合部)、30 支柱部材、30e 連結板部(弾性変形規制部)、40 支点ピン(レバーの支点)、50 ブレーキケーブル(牽引部材)、60 バネ(弾性部材)、60e 凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のレバーと、前記レバーを支点で支持するとともに前記レバーを囲む支柱部材とを備え、一対のブレーキシューの間に配置されるドラムブレーキの作動装置であって、
前記レバーは、ブレーキ操作を入力する牽引部材が取り付けられる孔状の被取付部を有し、当該被取付部が前記支柱部材から露出する露出位置と、当該被取付部の少なくとも一部が前記支柱部材によって囲まれる非露出位置との間で移動可能に設けられ、
前記支柱部材に支持され、当該支柱部材から前記レバー側に延び、前記露出位置にある前記レバーに引っ掛かって、当該レバーを前記露出位置に保持し、弾性変形することで当該レバーから外れて、当該レバーの前記非露出位置への移動を許容する弾性部材を備えるドラムブレーキの作動装置において、
前記レバーの側面に前記弾性部材が引っ掛かる少なくとも1つの係合部が形成される、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記係合部は、前記レバーの両側面に形成され、
前記弾性部材は、前記係合部を挟む、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記係合部は、前記レバーの側面に形成される穴であり、
前記弾性部材は、前記露出位置にある前記レバーの前記係合部に嵌る凸部を有する、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項4】
請求項1に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記弾性部材は、前記レバーの前記支点側から、前記露出位置にある前記レバーの前記係合部に向かって延伸して、当該係合部に引っ掛かる、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。
【請求項5】
請求項1に記載のドラムブレーキの作動装置において、
前記弾性部材と前記レバーの引っ掛かりが解除されているときに、前記弾性部材は、前記非露出位置から前記露出位置に移動する途中の前記レバーに当接して、当該レバーの移動を制限する、
ことを特徴とするドラムブレーキの作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−41733(P2009−41733A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209920(P2007−209920)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】