説明

ドラムブレーキの機械式ブレーキ作動装置

【課題】作業員による作業数を減らし、かつブレーキケーブルの接続に対する確実性を保証できるドラムブレーキの機械式ブレーキ作動装置を提供すること。
【解決手段】一方のブレーキシューに係合するストラットと、他方のブレーキシューに係合する板状の操作レバーとを備えた機械式ブレーキ作動装置において、舌片を具備した保持部材を操作レバーの遊端部に向けて弾性変形可能にストラットの一部に配設し、保持部材を弾性変形させたときにのみ、保持部材の舌片に形成した透孔を通じて連結ピンを連結可能な構造となし、連結後に保持部材の弾性変形を解除した以降は、保持部材の舌片が連結ピンの移動を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキの機械式ブレーキ作動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキに用いられる周知の機械式ブレーキ作動装置は、板状の操作レバーと、この操作レバーを内部に収容して回動自在に枢支したストラットと、枢支ピンとを主要な構成要素としている。
この機械式ブレーキ作動装置は一対のブレーキシュー間に配置され、操作レバーに接続したブレーキケーブルを牽引操作することで操作レバーがストラットとの枢支部を支点に回転し、操作レバーのブレーキシュー係合部とストラットのブレーキシュー係合部とが反対方向に拡張して、ブレーキが作動する構造になっている。
【0003】
従来の機械式ブレーキ作動装置は、操作レバーの枢支部(基部)から離れた遊端部に設けた連結孔とブレーキケーブルの先端に固着したケーブルエンドの連結孔とをストラットが塞がない反ケーブル牽引方向側の場所において一致させ、これらの両連結孔に連結ピンを挿入して接続している。
その後、ブレーキケーブルを牽引して連結ピンをストラットの一対の対向片で画成された空間内に位置させることで連結ピンが操作レバーから抜け落ちないようにしている。
【0004】
連結ピンをストラットの一対の対向片で画成された空間内に位置させるひとつの構造として、操作レバーが反ケーブル牽引方向に回転するのを制限する発明が特許文献1(特開2001−349360号公報)または特許文献2(特開2004−293643号公報)に開示されている。
これらの発明は、ストラットに取着したクリップによって操作レバーの回転を制限し、連結ピンが操作レバーから抜け落ちる位置になるのを防止した発明であり、連結ピンで以って操作レバーとブレーキケーブルを接続した後にクリップを回転操作して操作レバーとブレーキケーブルの接続作業を完了する。
操作レバーとブレーキケーブルの接続作業完了後は、操作レバーが反ケーブル牽引方向に回転しようとしても、クリップがその回転を制限することで、連結ピンの操作レバーからの抜け落ちを防止する構造になっている。
また、他の構造として、連結ピンの移動を制限する発明が特許文献3(特開2007−187195号公報)に開示されている。
この発明は、逃がし孔を有するクリップを使用し、このクリップをストラットに取着して連結ピンの操作レバーからの抜け落ちを防止した発明であり、切欠部を形成したストラットの第1対向片に仮組みしたクリップの逃がし孔とストラットの切欠部を通じて連結ピンを差込むことで操作レバーとブレーキケーブルを接続し、その後にクリップの板面が第1対向片の切欠部を遮断するまで、クリップをケーブルの牽引方向に向けて指で押込んで操作レバーとブレーキケーブルとの接続作業を完了する。
接続作業完了後は、切欠部を形成していないストラットの第2対向片とクリップの板面との間で連結ピンの移動が制限されることで、連結ピンの操作レバーからの抜け落ちを防止する構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349360号公報
【特許文献2】特開2004−293643号公報
【特許文献3】特開2007−187195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した機械式ブレーキ作動装置によれば、つぎの問題点がある。
(1)操作レバーにケーブルエンドを接続するためには、作業員による連結ピンの操作レバーとケーブルエンドの両連結孔への挿入作業と、その後のクリップの移動作業との2つの作業が必要であり、接続を完了するまで少なくとも2段階の作業動作が必要であるので、作業に時間を費やす。
(2)また、連結ピンの挿入作業だけを行っても、操作レバーとケーブルエンドの両連結孔が連結ピンの挿入位置に位置したままであるため、言い換えれば、クリップの移動作業を行なうまでは連結ピンの移動が自由であるため、連結ピンが操作レバーから抜け出るおそれがある。
(3)また、クリップの移動作業を作業員が行なうため、その作業を怠ったり、クリップの移動量が不足する等の作業ミスを生じたりする可能性があり、ブレーキケーブルの接続に対する確実性を保証し難い。
特に、操作レバーとブレーキケーブルを接続した状態でドラムブレーキを搬送するような場合、搬送中に連結ピンが操作レバーから抜け落ちてケーブルエンドの接続が解除されるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは作業員による作業数を減らし、かつブレーキケーブルの接続に対する確実性を保証できるドラムブレーキの機械式ブレーキ作動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、橋絡部で連結した一対の対向片を有するとともに一方のブレーキシューに係合するストラットと、このストラットの対向片間の空間内に収容されるとともに基部が回動可能に枢支されて他方のブレーキシューに係合する板状の操作レバーとを備え、前記操作レバーの遊端部に連結ピンで接続したブレーキケーブルを牽引することにより、前記操作レバーとストラットを相対回転させて、両者を相互に反対方向に拡張する機械式ブレーキ作動装置において、前記連結ピンを挿通する透孔を有する舌片を具備するとともに前記操作レバーの遊端部に向けて弾性変形可能な保持部材をストラットの一部に配設し、前記操作レバーを反ケーブル牽引方向に回動するとともに、前記保持部材を前記操作レバーの遊端部に向けて弾性変形させたときにのみ、前記保持部材の透孔を通じて前記連結ピンを前記ブレーキケーブルと前記操作レバーの遊端部に連結可能な構造となし、前記ブレーキケーブルと操作レバーを連結した後に前記保持部材の弾性変形を解除した以降は、前記連結ピンの移動を制限するように構成したことを特徴とする。
本発明は前記した機械式ブレーキ作動装置において、前記ストラットに当接して前記操作レバーの反ケーブル牽引方向の回動が制限された状態下で、前記操作レバーに当接して前記保持部材の弾性変形が制限されたときに、前記保持部材の透孔を通じて前記連結ピンを前記ブレーキケーブルと前記操作レバーの遊端部に連結可能な構造となしたことを特徴とする。
本発明は前記した機械式ブレーキ作動装置において、前記ストラットの対向片における操作レバー側は、前記操作レバーに近い第1面(上段面)とその面から段差を有して前記操作レバーから遠い第2面(下段面)とが配設され、前記保持部材の舌片が前記第2面上を移動するとともに前記舌片の操作レバー側の面を前記ストラットの第1面とほぼ面一な構造となし、前記保持部材の弾性変形量を前記ストラットの第1面と第2面との境界の段付き部に前記舌片が当接することで制限するとともに該弾性変形量を前記連結ピンの径よりも小さくしたことを特徴とする。
本発明は前記した機械式ブレーキ作動装置において、前記ケーブルエンドの基部が前記操作レバーの遊端部のケーブル牽引方向側に当接しながら移動可能となし、その移動の途中で、前記連結ピンを前記ブレーキケーブルと前記操作レバーの遊端部に連結可能な構造となしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は少なくともつぎの一つの効果を得ることができる。
(1)保持部材を弾性変形させる作業と連結ピンを操作レバーとケーブルエンドの連結孔に挿入する作業を同時に行なう1段階の作業動作で操作レバーとブレーキケーブルとの接続作業が完了するので、連結ピンの挿入後に保持部材を操作する2段階の作業動作を要する従来に較べて作業時間が短縮する。
特に、ケーブルエンドが操作レバーに当接しながら移動可能となして、その移動の途中で、連結ピンをブレーキケーブルと操作レバーに連結可能な構造となし、連結ピンを保持部材に仮取着した状態で保持部材を弾性変形させる場合は、操作レバーとケーブルエンドの連結孔の位置合わせを目視で行なう必要がないので、更に作業時間が短縮する。
(2)保持部材を弾性変形して連結ピンの挿入作業を行なった後に保持部材の弾性変形を解除することにより、保持部材が自身の弾性復元力で元の位置に自動的に復帰して連結ピンの移動を制限するので、連結ピンの挿入作業後に保持部材を移動させる等の追加作業が一切不要となるだけでなく、作業員による人為的な作業ミスを生じる可能性がまったくなくなる。
(3)ストラットの対向片における操作レバー側の面を操作レバーに近い第1面(上段面)とその面から段差を有して操作レバーから遠い第2面(下段面)とで構成し、保持部材が第2面上を移動するとともに保持部材の操作レバー側の面をストラットの第1面とほぼ面一に形成したものにおいては、保持部材を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1に係わる機械式ブレーキ作動装置を装備したドラムブレーキの一例を示す平面図
【図2】図1のII−II断面図
【図3】図1のIII−III断面図
【図4】実施例1に係わる機械式ブレーキ作動装置の分解斜視図
【図5】実施例1に係わる保持部材の斜視図
【図6】ケーブル接続作業の第1段階における機械式ブレーキ作動装置の説明図であって、ケーブルエンド及び操作レバーの略同軸状態の連結孔と保持部材の透孔とが一致していない状態を示す拡大図
【図7】図6のVII−VII断面図
【図8】ケーブル接続作業の第2段階における機械式ブレーキ作動装置の説明図であって、連結ピンを保持部材の透孔に仮取着した状態を示す拡大図
【図9】ケーブル接続作業の第3段階における機械式ブレーキ作動装置の説明図であって、保持部材を弾性変形して連結ピンをケーブルエンド及び操作レバーの連結孔に挿入した状態を示す拡大図
【図10】ケーブル接続作業の第4段階における機械式ブレーキ作動装置の説明図であって、保持部材の弾性変形を解除した状態を示す拡大図
【図11】他のケーブル接続方法を示す説明図
【図12】実施例2に係わる機械式ブレーキ作動装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に係わる機械式ブレーキ作動装置及びその装置とブレーキケーブルの接続方法について説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1について図1〜7を参照しながら説明する。
図1は機械式ブレーキ作動装置を装備したドラムブレーキの一例を示す平面図、図2,3はその要部断面図、図4は機械的作動機構の分解斜視図、図5は保持部材の斜視図である。
図面を参照しながら、本発明の実施例1の構造について説明する。
【0013】
車体の不動部10に固定されるバックプレート11上に、一対のブレーキシュー12,13がシューホールド機構(図示せず)で以って可動的に装架されており、その一方隣接端が後述するアンカー16の立設部16aに支承され、図示しない他方隣接端が連結部材で結合されている。
両ブレーキシュー12,13間に張設した一対のシューリターンスプリング(片方のシューリターンスプリング19のみを図示する)により、両ブレーキシュー12,13の一方端とアンカー16の当接状態及び両ブレーキシュー12,13の他方端と連結部材の当接状態が保たれている。
【0014】
両ブレーキシュー12,13の一方隣接端を拡張作動する機械的作動機構22はストラット23と、操作レバー24と、枢支ピン25および止めワッシャ26とから構成され、アンカー16の立設部16aに隣接して両ブレーキシュー12,13間に介挿されている。
【0015】
機械的作動機構22の構成部材であるストラット23は1枚の板体から成り、長手方向の両端間に橋絡部23aを設けると共に、コ字形に折曲して一対の対向片(第1対向片23b,第2対向片23c)を形成している。
さらに、両対向片23b,23cの一方側を重合して溶接等で以って密着接合し、長手方向の両端間に幅広空間(隙間)23dが形成されていると共に、この幅広空間23dより幅が狭い幅狭空間(隙間)23eが他方に連設されている。
両対向片23b,23cの重合部にはシュー係合溝23fが形成され、他方には枢支孔23g,23gが穿設されている。
両対向片23b,23cの図2における上方を跨って連結した橋絡部23aは、幅広空間23dの一部を封鎖していると共に、操作レバー24の図2における時計回りの回転を制限する。
【0016】
また、第1対向片23bの図2における上縁部には、後述する連結ピン43の通過を許容する切欠部23tが形成されている。
【0017】
第2対向片23cは、操作レバー24の図2における上端面の一部がストラット23の橋絡部23aに当接した状態下で、連結ピン43を後述するブレーキケーブル40及び操作レバー24の連結孔42c,24f,42c,に挿通したとき、連結ピン43の先端が当接してその通過を阻止する。
橋絡部23aと両対向片23b,23cは、操作レバー24との関係において、操作レバー24が橋絡部23aに当接した状態下で、第1対向片23bは連結ピン43の通過を許容するが、第2対向片23cは連結ピン43の通過を阻止するように関係付けられている。
【0018】
機械的作動機構22の構成部品のひとつである操作レバー24は1枚の板体から成り、ストラット23の両空間23d,23e内に挟持されるように収容される。
操作レバー24の基部24aにシュー係合溝24bが形成されると共に、このシュー係合溝24bを画成する第2突起部24cには、枢支ピン25を挿通する枢支孔24dが穿設され、ストラット23および操作レバー24の枢支孔23g,24d,23gに挿通した枢支ピン25の先端に止めワッシャ26を取着して、ストラット23に対して操作レバー24が回動可能に枢支されている。
操作レバー24はその図2における上端面の一部がストラット23の橋絡部23aに当接することで図2における時計回りの回転が制限される。
【0019】
操作レバー24の遊端部24eには、後述するブレーキケーブル40を構成するインナケーブル41の端部に固着したケーブルエンド42を、連結ピン43を介して、操作レバー24に接続し得る連結孔24fが形成されている。
【0020】
尚、機械的作動機構22を構成するストラット23と操作レバー24は、そのケーブル牽引方向側の夫々の突起部(第1突起部23h,第3突起部24h)が、図2に示す取付けボルト20,21の頭部上に摺動可能に当接している。
【0021】
ブレーキケーブル40はインナケーブル41やアウタケーシング44等から構成されている。
インナケーブル41の先端にはクレビス形のケーブルエンド42が固着されており、その基部42aから一対の耳片42b,42bが延設されている。
耳片42b,42bには連結ピン43が挿通する連結孔42c,42cが相対向して穿設されている。
【0022】
なお、本実施例1では、ブレーキケーブル40のケーブルエンド42はつぎの条件を満たすように関係付けられている。
すなわち、操作レバー24が橋絡部23aに当接した状態下で、ケーブルエンド42がその基部42aを操作レバー24の遊端部24eのケーブル牽引方向側に当接しながら遊端部24eの先端方向に移動するとき、その移動の途中において、操作レバー24のケーブル連結孔24fとケーブルエンド42のケーブル連結孔42c,42cとが一致するように、ケーブルエンド42と操作レバー24の形状が関係付けられている。(図6参照)
【0023】
保持部材30は連結ピン43の操作レバーからの抜け出しを防止する部材で、ストラット23の一部に固着されている。
本例では保持部材30を橋絡部23aに固着した場合について説明する。
【0024】
図4,5に示すように、本例の保持部材30は展開形状が略L字形を呈する一枚の薄い板状ばね鋼を折曲加工したもので、ストラット23の橋絡部23aに固着する基部31と、基部31から一方向に延びる帯状のばね片32と、ばね片32の片側を直角に折曲して形成するとともに、板面に連結ピン43が通過可能な大きさの透孔33aを穿設した舌片33とを有する。
【0025】
基部31を橋絡部23aに固定する手段として本例では、基部31に穿設した取付孔31aにを挿通させたピン35を橋絡部23aに穿設した穴に圧入して固定する場合について示すが、その他に接着剤を用いたり、ねじ止めしたり、橋絡部23aに形成した突起によりかしめたり、その他に公知の固定手段により固定してもよい。
【0026】
ばね片32は操作レバー24の遊端部24e(操作レバー24の回動方向)に向けて弾性変形が可能である。
【0027】
保持部材30はそのばね片32をケーブル牽引方向に押し込んでその舌片33の透孔33aがストラット23の切欠部23tと一致するように弾性変形させることが可能であり、また、ばね片32の押し込みを開放して弾性変形を解除すると、舌片33が元の位置に復帰してストラット23の切欠部を遮断することが可能である。
【0028】
保持部材30は操作レバー24にブレーキケーブル40を接続するときにつぎの条件を満たすように関係付けられている。
すなわち、操作レバー24の連結孔24fの全てがストラット23の一方の対向片23bから露出した状態下で、保持部材30が被当接部材(本実施例1では操作レバー24)に当接するまでばね片32を弾性変形させたときに、舌片33に形成された透孔33aが、ストラット23の第1対向片23bに形成した切欠部23tと操作レバー24に形成した連結孔24fとが一致するようになっている。この構造により、前述したブレーキケーブル40の連結孔42c,42cと操作レバー24の連結孔24fが一致する関係と合わせて、連結ピン43を連結孔42c,24f,42cに挿通できるようになっている。
このように保持部材30の弾性変形の限界位置を連結ピン43の挿入位置に一致させることで、目視による複数の孔の位置合わせ作業が不要となる。
【0029】
また、保持部材30は操作レバー24にブレーキケーブル40を接続した後につぎの条件を満たすように関係付けられている。
すなわち、ばね片32の押し込みを開放して弾性変形を解除して舌片33が元の位置に復帰したときに、連結ピン43がストラット23の第2対向片23cと保持部材30の舌片33間に位置して連結ピン43の操作レバー24からの抜け出しを制限できるようになっている。
【0030】
なお、本実施例においては、舌片33の大きさ(長さ)を極力小さくするために、第1対向片23bの内側に操作レバー24に近い第1面(上段面)23mとその面から段差を有して操作レバー24から遠い第2面(下段面)23nとそれらの境界の段付き部23pからなる空間23kが形成され、この空間23kに舌片33を収容している。
すなわち、操作レバー24を回動した時においても、連結ピン43が保持部材30の舌片33に当接した状態を維持するためには、舌片33を操作レバー24の可動範囲まで大きくすることが必要であるが、空間23kに舌片33を収容することにより、舌片33を小さくすることができる。
この時、舌片33が第2面23n上を移動するとともに、舌片33の操作レバー24側の裏面33bをストラット23の第1面23mとほぼ面一に形成し、ストラット23の第1面23mと第2面23nとの境界の段付き部23pとこの段付き部23pに面する保持部材30の舌片33の縁部との距離を連結ピン43の径よりも小さくすれば、連結ピン43がストラット23や保持部材30の舌片33に引っ掛かることがなく、ブレーキケーブル40のスムーズな動きが保証される。
【0031】
次に図6〜9に基づいて、ブレーキケーブルの接続方法について説明する。
【0032】
図6,7は機械的作動機構22のブレーキケーブル40を操作レバー24に接続する第1段階を示し、操作レバー24がストラット23の橋絡部23aに当接するまで反ケーブル牽引方向に回動するとともにドラムブレーキ内に挿入したブレーキケーブル40のケーブルエンド42の耳片42b,42b間に操作レバー24の遊端部24eを収容して連結孔42cと連結孔24fを一致させた状態である。
この状態下では、ストラット23の橋絡部23aに固着された保持部材30は自由状態であり、舌片33の透孔33aは、ケーブルエンド42と操作レバー24の連結孔42c,24f,42cに対して反ケーブル牽引方向側(図6,7における上方側)に偏倚している。
【0033】
図8は機械的作動機構22のブレーキケーブル40と操作レバー24とを接続する第2段階を示す。
連結ピン43を保持部材30の透孔33aに挿入すると、連結ピン43はケーブルエンド42の一方の耳片42bに当接し、それ以上の移動が制限されている。
【0034】
図9は機械的作動機構22のブレーキケーブル40と操作レバー24とを接続する第3段階を示す。
連結ピン43を押し込みながら保持部材30が操作レバー24に当接するまで保持部材30を弾性変形させると、連結ピン43とケーブルエンド42と操作レバー24の連結孔42c,24f,42cが一致し、ストラット23の第2対向片23cに当接するまで連結ピン43は移動する。
【0035】
図10は機械的作動機構22のブレーキケーブル40と操作レバー24を接続する第4段階を示す。
保持部材30の押し込みを開放して弾性変形を解除とばね片32の弾性復元力により、舌片33が元の位置に復帰することに伴い、舌片33の一部が連結ピン43の移動を制限する。
その結果、連結ピン43はストラット23の第2対向片23cと保持部材30の舌片33間で両方向の移動が制限される。
【0036】
最後にアウタケーシング44のケーシングキャップ44aをガイドパイプ45の他端に止めリング46で以って止着してケーブルエンド42を操作レバー24に接続する作業を終了する(図2参照)。
【0037】
本実施例1は、操作レバー24とケーブルエンド42の接続をするときに、保持部材30に連結ピン43を仮取着し、連結ピン43を押し込みながら保持部材30のばね片32の押し込み作業を行なうだけでよく、言い換えれば、保持部材を弾性変形させる作業と連結ピンの挿入する作業を同時に行なうだけの一体的な作業動作でケーブル接続作業が完了するのみでなく、操作レバーとケーブルエンドの連結孔の位置合わせを目視で行なわずにケーブルと接続作業が完了するので、作業時間を短縮できる。
また、保持部材30のばね片32の弾性復元力で自動的に舌片33を元の位置に復帰するので、作業員の追加作業が一切不要となるだけでなく、作業員による人為的な作業ミスを生じる可能性がまったくなくなる。
【0038】
ブレーキケーブルの接続方法は前記した方法に限らず、例えば、下記の方法によりブレーキケーブルを操作レバーに接続することができる。
図11を参照しながら説明する。
本実施例は前記実施例1における連結ピン43の保持部材30への仮取着を行なわない場合について説明する。
【0039】
本実施例は前記実施例1におけるケーブル接続作業の第1段階後、保持部材30を押し込んで弾性変形させ、透孔33aをケーブルエンド42と操作レバー24の連結孔42c,24fに一致させる。
次に、連結ピン43を透孔33a、連結孔42c、連結孔24f、連結孔42cの順に挿入し、ストラット23の第2対向片23cに当接させる。
最後に、前記実施例1の第4段階以降と同様の作業を行い、ケーブル接続は完了する。
【0040】
以降に他の実施の形態について説明するが、その説明に際し、前記した実施の形態1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【実施例2】
【0041】
本実施例は前記実施例1におけるストラットの形状を対称にするとともに、保持部材に一対の舌片を形成した実施例である。
本実施例2について図12を参照しながら説明する。
【0042】
ストラット123は、対称形状の一対の対向片123b,123bを有し、夫々に第1面(上段面)123m、第2面(下段面)123n、および段付き部123pからなる空間123kが形成されている。
【0043】
本例の保持部材130は平面形状が略T字形を呈する一枚の薄い板状ばね鋼を折曲加工したもので、ストラット23の橋絡部23aに固着する基部131と、基部131から一方向に延びる帯状のばね片132と、ばね片132の両側を直角に折曲して形成した一対の舌片133,134とを有し、一方の舌片133にのみ透孔133aが穿設されている。
また、一対の舌片133,134は自由状態において、僅かにハ字形を呈するように形成されている。
【0044】
図12に基いて、ブレーキケーブルの接続方法について説明する。
【0045】
最初に前記実施例1における第1段階及び第2段階と全く同じ作業を行なう。
次に、連結ピン43を押し込みながら保持部材130が操作レバー24に当接するまで保持部材130を弾性変形させると、連結ピン43とケーブルエンド42と操作レバー24の連結孔42c,24f,42cが一致し、他方の舌片134に当接するまで連結ピン43は移動する。
最後に、前記実施例1の第4段階以降と同様の作業を行い、ケーブル接続は完了する。
【0046】
本実施例2は、前記実施例1の効果に加えて、左右ブレーキにおけるストラット23の共通化が図れる。
また、僅かにハ字形にした一対の舌片133,134がストラット123の対向片123b,123bの夫々の第2面123n,123nに向かって弾接するので、一対の舌片133,134の裏面133b,134bとストラット123の一対の対向片123b,123bの第1面123m,123mの面一の度合いが増す。
上述した実施例では、操作レバー24の連結孔24fの全てがストラット23の一方の対向片23bから露出した状態にする方法として、いずれも、ブレーキケーブル40を押しむことによって、操作レバー24をストラット23の橋絡部23aに当接維持する方法としたが、特開2004−108458号公報に記載の弾性部材を用いても良い。
また、上述した実施例では、保持部材30の弾性変形を制限する方法として、操作レバー24に当接する方法としたが、保持部材30の舌片33の下端が凹部23kの段付き部23pに当接させても良い。
【符号の説明】
【0047】
10 車体の不動部
11 バックプレート
12,13 ブレーキシュー
16 アンカー
16a 立設部
19 シューリターンスプリング
20,21 取付けボルト
22 機械的作動機構
23 ストラット
23a 橋絡部
23b 第1対向片
23c 第2対向片
23d 幅広空間
23e 幅狭空間
23f シュー係合溝
23g 枢支孔
23h (ストラットの)第1突起部
23k 空間
23m (第1対向片の)第1面
23n (第1対向片の)第2面
23p 段付き部
23t 切欠部
24 操作レバー
24a (操作レバーの)基部
24b シュー係合溝
24c (操作レバーの)第2突起部
24d 枢支孔
24e 遊端部
24f 連結孔
24h (操作レバーの)第3突起部
25 枢支ピン
26 止めワッシャ
30 保持部材
31 (保持部材の)基部
32 ばね片
33 舌片
33a 透孔
33b (操作レバー側の)裏面
35 ピン
40 ブレーキケーブル
41 インナケーブル
42 ケーブルエンド
42a 基部
42b 耳片
42c 連結孔
43 連結ピン
44 アウタケーシング
44a ケーシングキャップ
45 ガイドパイプ
46 止めリング
123 ストラット
123b 対向片
123k 空間
123m (対向片の)第1面
123n (対向片の)第2面
123p 段付き部
130 保持部材
131 基部
132 ばね片
133 一方の舌片
133a 透孔
133b (一方の舌片の)裏面
134 他方の舌片
134b (他方の舌片の)裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋絡部で連結した一対の対向片を有するとともに一方のブレーキシューに係合するストラットと、
このストラットの対向片間の空間内に収容されるとともに基部が回動可能に枢支されて他方のブレーキシューに係合する板状の操作レバーとを備え、
前記操作レバーの遊端部に連結ピンで接続したブレーキケーブルを牽引することにより、前記操作レバーとストラットを相対回転させて、両者を相互に反対方向に拡張する機械式ブレーキ作動装置において、
前記連結ピンを挿通する透孔を有する舌片を具備するとともに前記操作レバーの遊端部に向けて弾性変形可能な保持部材をストラットの一部に配設し、
前記操作レバーを反ケーブル牽引方向に回動するとともに、前記保持部材を前記操作レバーの遊端部に向けて弾性変形させたときにのみ、前記保持部材の透孔を通じて前記連結ピンを前記ブレーキケーブルと前記操作レバーの遊端部に連結可能な構造となし、
前記ブレーキケーブルと操作レバーを連結した後に前記保持部材の弾性変形を解除した以降は、前記連結ピンの移動を制限するように構成した
ことを特徴とする、機械式ブレーキ作動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ストラットに当接して前記操作レバーの反ケーブル牽引方向の回動が制限された状態下で、前記操作レバーに当接して前記保持部材の弾性変形が制限されたときに、
前記保持部材の透孔を通じて前記連結ピンを前記ブレーキケーブルと前記操作レバーの遊端部に連結可能な構造となしたことを特徴とする、機械式ブレーキ作動装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記ストラットの対向片における操作レバー側は、前記操作レバーに近い第1面(上段面)とその面から段差を有して前記操作レバーから遠い第2面(下段面)とが配設され、
前記保持部材の舌片が前記第2面上を移動するとともに前記舌片の操作レバー側の面を前記ストラットの第1面とほぼ面一な構造となし、
前記ストラットの第1面と第2面との境界の段付き部と該段付き部に面する前記保持部材の舌片の縁部との距離を前記連結ピンの径よりも小さくしたことを特徴とする、機械式ブレーキ作動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記ケーブルエンドの基部が前記操作レバーの遊端部のケーブル牽引方向側に当接しながら移動可能となし、その移動の途中で、前記連結ピンを前記ブレーキケーブルと前記操作レバーの遊端部に連結可能な構造となしたことを特徴とする、機械式ブレーキ作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−164195(P2010−164195A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274421(P2009−274421)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】