説明

ドラムブレーキ装置

【課題】デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができるドラムブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ドラムブレーキ装置11は、プライマリ及びセカンダリ・シュー13,15と、プライマリ及びセカンダリピストン51,53を備えるホイールシリンダ17と、揺動端部43aがプライマリ・シュー13とプライマリピストン51との間に介装されて回動自在なプライマリ制御レバー43と、揺動端部45aがセカンダリ・シュー15とセカンダリピストン53との間に介装されて回動自在なセカンダリ制御レバー45と、一方のリンク端部73がセカンダリ制御レバー45に枢支され、他方のリンク端部75がプライマリ制御レバー43に枢支される第1リンク63と、プライマリピストン51とセカンダリピストン53との間に設けられたプリセットスプリング59と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載されるデュオサーボ式のドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行を制動するために種々の形式のドラムブレーキ装置が用いられているが、これらのドラムブレーキ装置は、略円筒状のドラムの内周面に押圧されるブレーキシューの配置によって、リーディングトレーリング式やツーリーディング式、若しくはデュオサーボ式等に分類される。
【0003】
デュオサーボ式のドラムブレーキ装置は、一般に、円筒状のドラム内に、互いに対向配置されたプライマリ・シューとセカンダリ・シューの一対のブレーキシューを備える。プライマリ・シューは、ドラムの前進回転方向入口側が入力部とされると共に、ドラムの前進回転方向出口側は例えばアジャスタを介してセカンダリ・シューの入口側に連結される。一方、セカンダリ・シューの出口側はバッキングプレート上に装備されたアンカ部に当接させられ、プライマリ・シュー及びセカンダリ・シューに作用するアンカ反力をアンカ部で受け止めるようになっている。
【0004】
これにより、プライマリ・シュー及びセカンダリ・シューを拡開させてドラムの内周面に押し付けると、プライマリ・シューに作用するアンカ反力がセカンダリ・シューの入口側に入力してセカンダリ・シューをドラム内周面に押し付けるように作用するため、プライマリ・シューとセカンダリ・シューの双方がリーディングシューとして動作し、非常にゲインの高い制動力を得ることができる。
【0005】
このようなデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、リーディングトレーリング式やツーリーディング式のドラムブレーキ装置と比較して、極めて高い制動力を得ることができるばかりでなく、小型化し易く、且つ駐車ブレーキの組み込みも容易である等の多くの長所を有している。ところが、このようなデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、ブレーキシューのライニングの摩擦係数の変化に敏感であるため、制動力を安定させ難い傾向にあり、制動力を安定化させる工夫が要求されている。
【0006】
このような背景から、本発明者は、既に、制動力を安定化させるための手段として、制動時に一対のブレーキシューを一対のピストンにより拡開するホイールシリンダ組立体として、制動トルクに応じた制御力を一方のピストンにフィードバックさせる制御レバーと、この制御レバーの制御力を利用して制動トルクが基準を超える時にはシリンダボディ内に形成された作動油通路を閉じてそれ以上の制動力の増加を抑止する制御弁とを備えるように構成したものを提案している(特許文献1参照)。
【0007】
また、一対のブレーキシューの対向端間に位置するようにバッキングプレートに一本のアンカピンを固定し、アンカピン回りの回動に従動して一対のブレーキシューを拡開すると共に制動トルクが基準倍率を超える時には制動トルクの増加を抑止する方向の制御力をカムプレートに作用させて、制動トルクを基準倍率以内に抑止する入力制御機構と、バッキングプレートを貫通して設けられたカムシャフトの回転に応じてカムプレートを回転駆動させる入力機構とを備えるように構成したものを提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−19759号公報
【特許文献2】特願2008−308726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、液圧制御方式では場合によって、制御のために液通路を遮断するまでのピストン移動でホイールシリンダ内の液圧が上昇し、プライマリ・シューの押圧力が上昇してしまうため、一時的に効き上昇してしまうことが生じる場合があった。
また、一本のアンカピンと、このアンカピンを回転中心としてプライマリ・シューとセカンダリ・シューとを押圧するカム機構と、このカム機構を押圧するホイールシリンダとで構成する制御機構は、一つのピストン作用力を入力とバランス力とに使用するため、消費液量が多いという問題があった。
【0010】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができるドラムブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 第1のブレーキシュー及び第2のブレーキシューと、
これら第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面に向かって拡開自在に支持するバッキングプレートと、
シリンダの一端に第1の油圧ピストンを備えると共にシリンダの他端に第2の油圧ピストンを備えるホイールシリンダと、
前記バッキングプレートに固定された第1のアンカピンに回動自在に支持され、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部が前記第1のブレーキシューと前記第1の油圧ピストンとの間に介装された第1の制御レバーと、
前記バッキングプレートに固定された第2のアンカピンに回動自在に支持され、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部が前記第2のブレーキシューと前記第2の油圧ピストンとの間に介装された第2の制御レバーと、
前記第2のアンカピンに対してドラム中心の半径方向内側で一方のリンク端部が前記第2の制御レバーに枢支され、前記第1のアンカピンに対してドラム中心の半径方向外側で他方のリンク端部が前記第1の制御レバーに枢支される第1リンクと、
を備えたことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0012】
上記(1)の構成のドラムブレーキ装置によれば、制動時にホイールシリンダの第1及び第2の油圧ピストンにより回動させられた第1及び第2の制御レバーによって、第1及び第2のブレーキシューがドラムの内周面に押しつけられると、該ドラムと一緒に第1の回転方向へ回ろうとする力が、第1及び第2のブレーキシューを更にドラムの内周面に押して高い制動力が得られる。
デュオサーボ機構の増幅作用によって第1の回転方向に対する第2のブレーキシューのアンカ反力が基準以上に増加すると、第2のブレーキシューにより第2の制御レバーが第2の油圧ピストンに抗して押し戻される。同時に、第2の制御レバーは、第1リンクを介して第1の制御レバーを第1の油圧ピストンに抗して押し戻す。
これにより、第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面に押しつけているホイールシリンダの作用力が減じられ、制動トルクが基準倍率以内に抑止される。そこで、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができる。
【0013】
(2) 上記(1)の構成のドラムブレーキ装置であって、
前記第1のアンカピンに対してドラム中心の半径方向内側で一方のリンク端部が前記第1の制御レバーに枢支され、前記第2のアンカピンに対してドラム中心の半径方向外側で他方のリンク端部が前記第2の制御レバーに枢支される第2リンクを備えることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0014】
上記(2)の構成のドラムブレーキ装置によれば、デュオサーボ機構の増幅作用によって第1の回転方向と逆の第2の回転方向に対するアンカ反力が基準以上に増加すると、第1のブレーキシューにより第1の制御レバーが第1の油圧ピストンに抗して押し戻される。同時に、第1の制御レバーは、第2リンクを介して第2の制御レバーを第2の油圧ピストンに抗して押し戻す。これにより、第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面に押しつけている作用力が減じられ、制動トルクが基準倍率以内に抑止される。そこで、第1の回転方向(例えば、前進時)だけでなく、第2の回転方向(例えば、後進時)にも、第1の回転方向と同様に安定した制動力が得られる。
【0015】
(3) 上記(2)の構成のドラムブレーキ装置であって、
前記第1リンクと前記第2リンクとが、ドラム中心軸に沿う方向からの投影視で互いに交差し、
前記第1リンクの他方のリンク端部及び前記第2リンクの一方のリンク端部が、第1のクリップによって前記第1の制御レバーに保持され、
前記第2リンクの他方のリンク端部及び前記第1リンクの一方のリンク端部が、第2のクリップによって前記第2の制御レバーに保持されていることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0016】
上記(3)の構成のドラムブレーキ装置によれば、第1及び第2のクリップによって、第1及び第2リンクと、第1及び第2の制御レバーと、を容易にサブアッシー化することができる。そこで、これら第1及び第2リンク並びに第1及び第2の制御レバーの組み付けが容易になる。また、第1及び第2リンクの何れか一方のリンクにアンカ反力が作用した際、他方のリンクの各リンク端部と対応する制御レバーとの間に隙間が生じても、第1及び第2のクリップを介して第1及び第2の制御レバーに保持された他方のリンクは脱落が防止される。
【0017】
(4) 上記(3)の構成のドラムブレーキ装置であって、
前記第1リンクの他方のリンク端部及び前記第2リンクの一方のリンク端部が、前記第1の制御レバーとの間に介装されるリンクピンと共に前記第1のクリップによって前記第1の制御レバーに保持され、
前記第2リンクの他方のリンク端部及び前記第1リンクの一方のリンク端部が、前記第2の制御レバーとの間に介装されるリンクピンと共に前記第2のクリップによって前記第2の制御レバーに保持されていることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0018】
上記(4)の構成のドラムブレーキ装置によれば、リンクピンを用いることにより、第1リンク及び第2リンクの各リンク端部を第1及び第2の制御レバーに容易な構成で枢支させることができる。第1及び第2のクリップは、第1及び第2リンク並びに第1及び第2の制御レバーと共に、4個のリンクピンも容易にサブアッシー化することができる。
【0019】
(5) 上記(1)〜(4)の構成のドラムブレーキ装置であって、
前記第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングに抗して前記第1及び第2の油圧ピストン双方を離間させる方向へ付勢するプリセットスプリングが、前記第1の油圧ピストンと前記第2の油圧ピストンとの間に設けられることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【0020】
上記(5)の構成のドラムブレーキ装置によれば、プリセットスプリングが第1及び第2の油圧ピストン双方を離間させる方向へ付勢することで、シリンダに対する第1及び第2の油圧ピストンの縮み代は常に確保されているので、第2の制御レバーは第1の油圧ピストンを確実に押し戻すことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るドラムブレーキ装置によれば、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができる。
【0022】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るドラムブレーキ装置の概略正面図である。
【図2】図1に示したドラムブレーキ装置の縦断面図である。
【図3】図2に示したドラムブレーキ装置の要部拡大図である。
【図4】サブアッシー化された第1及び第2リンク、第1及び第2の制御レバーの斜視図である。
【図5】図4に示したサブアッシーの分解斜視図である。
【図6】組み付け状態のドラムブレーキ装置のホイールシリンダを切り欠いた要部正面図である。
【図7】ホイールシリンダによってプライマリ・シューとセカンダリ・シューとが押圧されたドラムブレーキ装置の要部正面図である。
【図8】ドラムの回転によってプライマリ・シューが連れ回り直前となったドラムブレーキ装置の要部正面図である。
【図9】プライマリ・シューが連れ回りしてプライマリ制御レバーが押圧回転されたドラムブレーキ装置の要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るドラムブレーキ装置を図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るドラムブレーキ装置11は、所謂デュオサーボ式と呼ばれるもので、略円筒形の図示しないドラム内の空間に対向配備される一対のプライマリ・シュー(第1のブレーキシュー)13及びセカンダリ・シュー(第2のブレーキシュー)15と、これらのプライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15をドラムの内周面に向かって拡開自在に支持するバッキングプレート9と、シリンダ54の一端(図2中、左端)にプライマリピストン(第1の油圧ピストン)51を備えると共にシリンダ54の他端(図2中、右端)にセカンダリピストン(第2の油圧ピストン)53を備えてプライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15の一方(図2中、上方)の対向端間に配設されるホイールシリンダ17と、これらのプライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15の他方(図2中、下方)の対向端間に配設されてプライマリ・シュー13の出力をセカンダリ・シュー15に入力するアジャスタ19と、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15の一方の対向端間に配設されてプライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15からアンカ反力を受けるプライマリ・アンカピン(第1のアンカピン)39及びセカンダリ・アンカピン(第2のアンカピン)41と、を備えている。
【0025】
更に、本実施形態に係るドラムブレーキ装置11は、バッキングプレート9に固定されたプライマリ・アンカピン39に回動自在に支持され、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部43aがプライマリ・シュー13とプライマリピストン51との間に介装されたプライマリ制御レバー(第1の制御レバー)43と、バッキングプレート9に固定されたセカンダリ・アンカピン41に回動自在に支持され、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部45aがセカンダリ・シュー15とセカンダリピストン53との間に介装されたセカンダリ制御レバー(第2の制御レバー)45と、セカンダリ・アンカピン41に対してドラム中心の半径方向内側で一方のリンク端部73がリンクピン69を介してセカンダリ制御レバー45に枢支され、プライマリ・アンカピン39に対してドラム中心の半径方向外側で他方のリンク端部75がリンクピン69を介してプライマリ制御レバー43に枢支される第1リンク63(図4参照)と、プライマリ・アンカピン39に対してドラム中心の半径方向内側で一方のリンク端部67がリンクピン69を介してプライマリ制御レバー43に枢支され、セカンダリ・アンカピン41に対してドラム中心の半径方向外側で他方のリンク端部71がリンクピン69を介してセカンダリ制御レバー45に枢支される第2リンク61(図4参照)と、プライマリピストン51とセカンダリピストン53との間に設けられ、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15をドラムの内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリング24,26に抗してプライマリピストン51及びセカンダリピストン53双方を離間させる方向へ付勢するプリセットスプリング59と、を備える。
【0026】
プライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15は、ドラムの内周面に沿う円弧板状のプライマリリム23及びセカンダリリム25と、これらのプライマリリム23及びセカンダリリム25から内径側に張り出したプライマリウェブ27及びセカンダリウェブ29と、プライマリリム23及びセカンダリリム25の外周に貼着されたプライマリライニング31及びセカンダリライニング33とからなる。そして、プライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15は、ドラムの内周面に向かって進退自在に、シューホールドダウン機構14によりバッキングプレート9に取り付けられている。
また、バッキングプレート9上のプライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15の互いに対向した各端部同士は、リターンスプリング24,26によって、互いに接近する方向(即ち、ドラムから離間する方向)に付勢されている。
【0027】
バッキングプレート9上には、駐車ブレーキを構成するストラット28や、パーキングレバー(不図示)も組込まれている。
ストラット28のセカンダリ・シュー15側の端部は、セカンダリ・シュー15に当接した状態が維持されるように、スプリング22により付勢されている。
図示しないパーキングレバーは、パーキングレバーピン回りに回動操作可能で、プライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15をパーキングレバーの回動操作によってもドラムに押圧可能にしている。
【0028】
アジャスタ19は、プライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15のプライマリライニング31及びセカンダリライニング33の摩耗の進行に応じて、これらのプライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15の端部間の間隔を調整するものである。つまり、アジャスタスプリング32により先端がアジャスタ上の調整用歯車35に当接されたアジャスタレバー34の動作で、プライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15の端部間の間隔を自動調整するように構成されている。アジャスタレバー34には、アンカピン41からセカンダリ・シュー15上に取り付けられたケーブルガイド18を経由するアジャスタケーブル組立体36の端部が連結されている。
このアジャスタケーブル組立体36は、セカンダリ・シュー15の拡開時の移動量に応じてアジャスタレバー34に回動力を作用させて、アジャスタレバー34に所定の回動動作をさせる。
【0029】
プライマリ・シュー13側に位置するプライマリ・アンカピン39には、プライマリ制御レバー43が回動自在に支持されている。また、セカンダリ・シュー15側に位置するセカンダリ・アンカピン41には、セカンダリ制御レバー45が回動自在に支持されている。ドラムブレーキ装置11において、前進走行時におけるドラムの回転方向(第1の回転方向)は、図中の矢印R方向である。従って、プライマリ・アンカピン39は、後進走行中の制動時に、プライマリ・シュー13からプライマリ制御レバー43を介してアンカ反力を受ける。また、セカンダリ・アンカピン41は、前進走行中の制動時に、セカンダリ・シュー15からセカンダリ制御レバー45を介してアンカ反力を受ける。
【0030】
プライマリ・アンカピン39及びセカンダリ・アンカピン41は、軸線をドラム軸線方向に向けた段付き円柱状で、バッキングプレート9に一体化されている。プライマリ・シュー13の一端部のプライマリ制御レバー43との接触面は、プライマリ制御レバー43の外周凸曲面47よりも僅かに径の大きな凹円弧面49とされている。また、セカンダリ・シュー15の一端部のセカンダリ制御レバー45との接触面も、セカンダリ制御レバー45の外周凸曲面47よりも僅かに径の大きな凹円弧面49とされている。
また、プライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45は、プライマリ・アンカピン39とセカンダリ・アンカピン41との間に架け渡された押えプレート30により、浮き上がりが規制されている。
【0031】
図3に示すように、ホイールシリンダ17は、プライマリ制御レバー43の揺動端部43aに当接されるプライマリピストン51と、セカンダリ制御レバー45の揺動端45aに当接されるセカンダリピストン53と、一開口端にプライマリピストン51を摺動可能に保持すると共に他開口端にセカンダリピストン53を摺動可能に保持するシリンダ54と、を備える。ホイールシリンダ17は、シリンダ54内に供給される作動油圧によりプライマリピストン51及びセカンダリピストン53を駆動可能にする。
【0032】
また、本実施形態の場合、プライマリピストン51及びセカンダリピストン53の先端部には、それぞれプライマリ制御レバー43の揺動端部43a及びセカンダリ制御レバー45の揺動端部45aに当接するロッド51a,53aが装備されている。
ロッド51a,53aには各ピストン51,53とは別の材質を選択できるため、各ロッド51a,53aに各制御レバー43,45との摺動に適した材質を選択することによって、耐摩耗性の向上を図ったり、高価格の材料の使用箇所を限定してコスト削減を図ったりすることができる。
【0033】
ホイールシリンダ17のシリンダ54は、両端を開口した単一の直管状のシリンダ構造であり、摺動可能に保持したプライマリピストン51とセカンダリピストン53との間には、これらを互いに離間する方向に付勢する圧縮コイルばねであるプリセットスプリング59が介装されている。
【0034】
プリセットスプリング59は、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15をドラムの内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリング24,26がプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45に付与する回転力に抗して、プライマリピストン51及びセカンダリピストン53を介してプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45を反対方向に回転させる。これにより、シリンダ54に対するプライマリピストン51及びセカンダリピストン53の縮み代sは、プリセットスプリング59の付勢力により常に確保される。尚、本発明のドラムブレーキ装置は、これに限定されるものではなく、非制動時にプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45の位置を安定させるプリセットスプリング59を省略した構成とすることもできる。
【0035】
このようにプライマリ制御レバー43は、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部43aがプライマリ・シュー13とプライマリピストン51との間に介装され、プライマリ・アンカピン39に回動自在に支持される。また、セカンダリ制御レバー45は、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端45aがセカンダリ・シュー15とセカンダリピストン53との間に介装され、セカンダリ・アンカピン41に回動自在に支持される。
【0036】
そして、図4及び図5に示すように、プライマリ制御レバー43とセカンダリ制御レバー45とは、第1リンク63と第2リンク61とによって係合接続される。
第1リンク63は、セカンダリ・アンカピン41に対してドラム中心65の半径方向内側で一方のリンク端部73がリンクピン69を介してセカンダリ制御レバー45の係合部45cに枢支され、プライマリ・アンカピン39に対してドラム中心65の半径方向外側で他方のリンク端部75がリンクピン69を介してプライマリ制御レバー43の係合部43bに枢支される。
【0037】
第2リンク61は、プライマリ・アンカピン39に対してドラム中心65の半径方向内側で一方のリンク端部67がリンクピン69を介してプライマリ制御レバー43の係合部43cに枢支され、セカンダリ・アンカピン41に対してドラム中心65の半径方向外側で他方のリンク端部71がリンクピン69を介してセカンダリ制御レバー45の係合部45bに枢支される。
【0038】
即ち、第1リンク63及び第2リンク61における各リンク端部73,75,67,71と、プライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45における各係合部43b,43c,45b,45cとは、それぞれリンクピン69の円筒側面に摺接可能な半円筒状凹部に形成されており、リンクピン69を介して互いに回動自在に支持されている。
【0039】
これら第1リンク63と第2リンク61とは、ドラム中心軸に沿う方向からの投影視で互いに交差する。本実施形態では、図4及び図5に示すように、第1リンク63と第2リンク61の板厚を厚み方向の略半分でそれぞれ切り欠いた切欠部77にて重ねることで、交差部79の厚みをプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45の厚みと同等に形成している。
【0040】
更に、第1リンク63の他方のリンク端部75及び第2リンク61の一方のリンク端部67が、プライマリ制御レバー43との間に介装されるリンクピン69と共にプライマリクリップ(第1のクリップ)81によってプライマリ制御レバー43に保持されている。また、第2リンク61の他方のリンク端部71及び第1リンク63の一方のリンク端部73が、セカンダリ制御レバー45との間に介装されるリンクピン69と共にセカンダリクリップ(第2のクリップ)83によってセカンダリ制御レバー45に保持されている。
【0041】
断面U字状に折り曲げ形成されたプライマリクリップ81及びセカンダリクリップ83は、ピン穴87にリンクピン69の両側を挿入するとともに、第1リンク63及び第2リンク61と共にプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45をそれぞれ板厚方向に挟持する。そして、プライマリ及びセカンダリ制御レバー43,45の係止段部91に係止片部89を係止し、側縁に係止片88を係止することで、分離が規制される。
【0042】
即ち、プライマリクリップ81及びセカンダリクリップ83によって、4個のリンクピン69と、第1リンク63及び第2リンク61と、プライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45と、を容易にサブアッシー化することができる。そこで、第1リンク63及び第2リンク61と、プライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45とは、サブアッシー体85となって一体に組み立てられており、組付けが容易になる。
【0043】
また、このサブアッシー体85では、ブレーキ作動時、例えば一方の第1リンク63にアンカ反力が作用した際には、他方の第2リンク61の各リンク端部67,71と対応する各制御レバー43,45の係合部43c,45bとの間に隙間が生じる。プライマリクリップ81及びセカンダリクリップ83は、この際の隙間を許容して、第1リンク63及び第2リンク61と、プライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45とを保持している。そこで、プライマリクリップ81及びセカンダリクリップ83を介して各制御レバー43,45に保持された第2リンク61及びリンクピン69は脱落が防止される。
【0044】
次に、図6乃至図9を参照しながら上記のように構成されるドラムブレーキ装置11の作用を説明する。
本実施形態のドラムブレーキ装置11では、非制動時には図6に示すように、ホイールシリンダ17のプライマリピストン51とセカンダリピストン53とが、プリセットスプリング59の付勢力によってシリンダ54に対する縮み代sを確保して離間配置されている。
【0045】
そして、ブレーキ操作がなされると、マスタシリンダ(不図示)からの作動油圧がシリンダ54内に供給される。すると、図7に示すように、プライマリピストン51とセカンダリピストン53とがリターンスプリング24,26の付勢力に抗するようにして、プライマリ制御レバー43の揺動端部43a及びセカンダリ制御レバー45の揺動端45aを押圧する。この押圧力によってプライマリ・シュー13とセカンダリ・シュー15が拡開してドラムの内周面に押し付けられて、制動力が発生する。
【0046】
ドラムブレーキ装置11において、前進走行時におけるドラムの回転方向は、図8中の矢印R方向である。従って、制動時には、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15が、ホイールシリンダ17によってドラムの内周面に押しつけられると、そのドラムと一緒に回ろうとする力が、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15を大きな力で押して強力な制動力が得られる。
【0047】
このデュオサーボ機構の増幅によって前進走行時におけるドラムの回転方向に対するセカンダリ・シュー15のアンカ反力が増加すると(換言すれば、ホイールシリンダ17の液圧より大きくなると)、図9に示すように、セカンダリ制御レバー45の揺動端45aが押し戻される(図中、時計回りに回転される)。同時に、セカンダリ制御レバー45は、第1リンク63を介してプライマリ制御レバー43の係合部43bを押圧する。
【0048】
係合部43bを押圧されたプライマリ制御レバー43の揺動端部43aは、プライマリピストン51を押圧しながら押し戻される(図中、反時計回りに回転される)。この際、プライマリピストン51及びセカンダリピストン53は、上述したようにシリンダ54に対する縮み代sが常時確保されているので、組付け状態等に係わらず押し戻し方向に移動可能である。
これにより、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15をドラムの内周面に押し付けているホイールシリンダ17の作用力が減じられ、制動トルクが基準倍率以内に抑止されて安定した制動力が得られる。
【0049】
更に、上述したドラムブレーキ装置11の作用は、前進走行時における動作であるが、後進走行時にはドラムの回転方向は、図8中の矢印Rと逆方向となる。そこで、デュオサーボ機構の増幅によって後進走行時におけるドラムの回転方向に対するプライマリ・シュー13のアンカ反力が増加すると、プライマリ制御レバー43の揺動端部43aが押し戻される。同時に、プライマリ制御レバー43は、第2リンク61を介してセカンダリ制御レバー45の係合部45bを押圧する。
係合部45bを押圧されたセカンダリ制御レバー45の揺動端45aは、セカンダリピストン53を押圧しながら押し戻される。
これにより、プライマリ・シュー13及びセカンダリ・シュー15をドラムの内周面に押し付けているホイールシリンダ17の作用力が減じられ、前進走行時だけでなく、後進走行時にも制動トルクが基準倍率以内に抑止され、安定した制動力が得られる。
【0050】
また、リターンスプリング24,26に抗してプライマリピストン51及びセカンダリピストン53双方を離間させる方向へ付勢するプリセットスプリング59が、ホイールシリンダ17のプライマリピストン51とセカンダリピストン53との間に配設されているため、組み付け状態でプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45の位置が安定することから、ブレーキ開放時のシューリングも安定する。
【0051】
従って、本実施形態に係るドラムブレーキ装置11によれば、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置において制動力を安定化させることができ、高い効きと安定性を確保することができる。
なお、本発明のドラムブレーキ装置は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0052】
例えば、上記実施形態においては、プライマリ制御レバー43とセカンダリ制御レバー45との間に第1リンク63及び第2リンク61を係合接続して、前進走行時だけでなく後進走行時にも安定した制動力が得られるように構成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の回転方向に対する第2のブレーキシューのアンカ反力が基準以上に増加した際に機能する第1リンクのみを備えた構成とすることもできる。
【0053】
また、上記実施形態においてはリンクピン69を用いて、第1リンク63及び第2リンク61の各リンク端部73,75,67,71をプライマリ制御レバー43及びセカンダリ制御レバー45に枢支させたが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の枢支構造を採りえることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
9…バッキングプレート
11…ドラムブレーキ装置
13…プライマリ・シュー(第1のブレーキシュー)
15…セカンダリ・シュー(第2のブレーキシュー)
17…ホイールシリンダ
24,26…リターンスプリング
39…プライマリ・アンカピン(第1のアンカピン)
41…セカンダリ・アンカピン(第2のアンカピン)
43…プライマリ制御レバー(第1の制御レバー)
45…セカンダリ制御レバー(第2の制御レバー)
51…プライマリピストン(第1の油圧ピストン)
53…セカンダリピストン(第2の油圧ピストン)
54…シリンダ
59…プリセットスプリング
61…第2リンク
63…第1リンク
65…ドラム中心
67,73…一方のリンク端部
69…リンクピン
71,75…他方のリンク端部
81…プライマリクリップ(第1のクリップ)
83…セカンダリクリップ(第2のクリップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のブレーキシュー及び第2のブレーキシューと、
これら第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面に向かって拡開自在に支持するバッキングプレートと、
シリンダの一端に第1の油圧ピストンを備えると共にシリンダの他端に第2の油圧ピストンを備えるホイールシリンダと、
前記バッキングプレートに固定された第1のアンカピンに回動自在に支持され、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部が前記第1のブレーキシューと前記第1の油圧ピストンとの間に介装された第1の制御レバーと、
前記バッキングプレートに固定された第2のアンカピンに回動自在に支持され、ドラム中心の半径方向内側に延びる揺動端部が前記第2のブレーキシューと前記第2の油圧ピストンとの間に介装された第2の制御レバーと、
前記第2のアンカピンに対してドラム中心の半径方向内側で一方のリンク端部が前記第2の制御レバーに枢支され、前記第1のアンカピンに対してドラム中心の半径方向外側で他方のリンク端部が前記第1の制御レバーに枢支される第1リンクと、
前記第1の油圧ピストンと前記第2の油圧ピストンとの間に設けられ、前記第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングに抗して前記第1及び第2の油圧ピストン双方を離間させる方向へ付勢するプリセットスプリングと、
を備えたことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載のドラムブレーキ装置であって、
前記第1のアンカピンに対してドラム中心の半径方向内側で一方のリンク端部が前記第1の制御レバーに枢支され、前記第2のアンカピンに対してドラム中心の半径方向外側で他方のリンク端部が前記第2の制御レバーに枢支される第2リンクを備えることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2記載のドラムブレーキ装置であって、
前記第1リンクと前記第2リンクとが、ドラム中心軸に沿う方向からの投影視で互いに交差し、
前記第1リンクの他方のリンク端部及び前記第2リンクの一方のリンク端部が、第1のクリップによって前記第1の制御レバーに保持され、
前記第2リンクの他方のリンク端部及び前記第1リンクの一方のリンク端部が、第2のクリップによって前記第2の制御レバーに保持されていることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3記載のドラムブレーキ装置であって、
前記第1リンクの他方のリンク端部及び前記第2リンクの一方のリンク端部が、前記第1の制御レバーとの間に介装されるリンクピンと共に前記第1のクリップによって前記第1の制御レバーに保持され、
前記第2リンクの他方のリンク端部及び前記第1リンクの一方のリンク端部が、前記第2の制御レバーとの間に介装されるリンクピンと共に前記第2のクリップによって前記第2の制御レバーに保持されていることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のドラムブレーキ装置であって、
前記第1及び第2のブレーキシューをドラムの内周面から離れる方向に付勢するリターンスプリングに抗して前記第1及び第2の油圧ピストン双方を離間させる方向へ付勢するプリセットスプリングが、前記第1の油圧ピストンと前記第2の油圧ピストンとの間に設けられることを特徴とするドラムブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−87847(P2013−87847A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228126(P2011−228126)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】