説明

ドラムブレーキ

【課題】ドラムブレーキの制動時におけるブレーキシューが回転ドラムに当接される当接面積が従来に比較して大きくなり、ドラムブレーキの制動力が従来に比較して向上するドラムブレーキを提供する。
【解決手段】拡開装置20によって第1ブレーキシュー22および24の他端部がブレーキドラム12に当接されると、第1ブレーキシュー22がブレーキドラム12と共に連れ回り、その連れ回りの力F1によって第1ブレーキシュー22の一端部がブレーキドラム12の内周面14に接近するように第1ブレーキシュー22が伝達部材32まわりに回動するので、第1ブレーキシュー22における一端部および他端部がブレーキドラム12に当接されて、ドラムブレーキ10の制動時における第1ブレーキシューがブレーキドラム12に当接される当接面積が従来のブレーキシューに比較して大きくなり、ドラムブレーキ10の制動力が従来に比較して向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキにおいて、特にリーディング・トレーリング型のドラムブレーキの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキには、例えば図12に示すように、バッキングプレート100に拡開可能に配設された円弧状を成す一対のブレーキシュー110および120と、その一対のブレーキシュー110および120の一端部間に配設され、その一対のブレーキシュー110および120の一端部を相互に離間させることでバッキングプレート100の外周側に拡開させる拡開装置130と、その拡開装置130によって一対のブレーキシュー110および120が車両の車輪と共に回転する回転ドラム140の内周面140aに摺接し、一対のブレーキシュー110および120の一方の他端部が受け止められるアンカ部材150とを備えたものがある。また、図12の1点鎖線で示す2つの同心円は、回転ドラム140を仮想的に示し、その2つの円のうちの中心側の円は回転ドラム140の内周面140aを仮想的に示すものである。また、上記のようなドラムブレーキは、例えば特許文献1の図1に示すようなリーディング・トレーリング型のドラムブレーキである。
【0003】
上記のようなリーディング・トレーリング型のドラムブレーキは、例えば図13に示すように回転ドラム140が矢印A1方向に回転している場合において、拡開装置130のカム部材130aが図示されていないブレーキレバーによって矢印A2方向に回動されると、一対のブレーキシュー110および120は、そのカム部材130aによってその一対のブレーキシュー110および120の一端部が互いに離間して、アンカ部材150の軸心Cまわりに回動する。このため、ブレーキシュー110は、回転ドラム140の内周面140aに当接して回転ドラム140からの連れ回り力を受け、そのブレーキシュー110の他端部がアンカ部材150に受け止められて回転ドラム140に制動力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−133911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなリーディング・トレーリング型のドラムブレーキにおいて、拡開装置130のカム部材130aによってその一対のブレーキシュー110および120の一端部が互いに離間すると、一対のブレーキシュー110および120がアンカ部材150の軸心Cまわりに回動するため、回転ドラム140の内周面140aにブレーキシュー110および120の一部だけしか実質的に当接されず、そのブレーキシュー110および120と回転ドラム140の内周面140aとの間の有効な当接面積が比較的に小さくなってしまうので、その回転ドラム140の回転を制動する制動力の大きさが充分に得られない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ドラムブレーキの制動時におけるブレーキシューが回転ドラムの内周面に当接させられる当接面積が従来に比較して大きくなり、ドラムブレーキの制動力が従来に比較して向上するドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレートに拡開可能に配設された円弧状を成す一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一端部間に配設され、その一対のブレーキシューの一端部を相互に離間させることでそのバッキングプレートの外周側に拡開させる拡開装置と、その拡開装置によってその一対のブレーキシューが車両の車輪と共に回転する回転ドラムの内周面に摺接し、その一対のブレーキシューの一方の他端部が受け止められるアンカ部材とを備えるドラムブレーキであって、(b) 前記一対のブレーキシューは、(b-1) 前記バッキングプレートの前記拡開装置側に位置しリターンスプリングによってそれら一端部がその拡開装置に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第1シュー部と、(b-2) 前記バッキングプレートの前記アンカ部材側に位置しリターンスプリングによってそれら一端部がそのアンカ部材に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第2シュー部と、(b-3) その第2シュー部の他端部とその第1シュー部の他端部との間に設けられ、その第1シュー部および第2シュー部を相対回動、および第1シュー部の他端部が第2シュー部の他端部に対して前記バッキングプレートの外周側へ相対移動を許容しつつ前記第2シュー部の連れ回り力を前記第2シュー部に伝達する一対の伝達部材とを備えていることにある。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記第1シュー部は、その第1シュー部の他端部の前記伝達部材と当接する位置から前記バッキングプレートの外周側に形成され、その伝達部材が前記バッキングプレートの外周側へ移動することを阻止するために前記第2シュー部の他端部側へ突出する第1突出部と、その第1シュー部の他端部の前記伝達部材が当接する位置から前記バッキングプレートの内周側に形成され、その伝達部材が前記バッキングプレートの内周側へ移動することを許容するための平坦な第1案内部とを備えていることにある。
【0009】
また、第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記第2シュー部は、その第2シュー部の一端部の前記アンカ部材と当接する位置から前記バッキングプレートの外周側に形成され、その第2シュー部の一端部が前記バッキングプレートの内周側へ移動することを阻止するためにそのアンカ部材側へ突出する第2突出部と、その第2シュー部の一端部の前記アンカ部材が当接する位置から前記バッキングプレートの内周側に形成され、その第2シュー部の一端部が前記バッキングプレートの外周側へ移動することを許容するための平坦な第2案内部とを備えていることにある。
【0010】
また、第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか1において、(a) 前記アンカ部材は、大径頭部と、その大径頭部よりも小径の軸部とを有して前記バッキングプレートに立設されたものであり、(b) 前記第1シュー部および第2シュー部は、部分円弧形状に曲げられた帯板状のシューリムと、そのシューリムの内周面の幅方向における両端部から一体に前記バッキングプレートの内周側へ向かって所定量突設された互いに対向する一対のシューウェブとを備えるものであり、(c) 前記リターンスプリングは、前記第2シュー部の前記一対のシューウェブの一端部を前記アンカ部材の軸部に押し当てるものである。
【0011】
また、第5発明の要旨とするところは、第4発明において、(a) 前記第1シュー部および第2シュー部おいて、前記一対のシューウェブには、その一対のシューウェブとの間に固設された掛止ピンが備えられており、(b) 前記リターンスプリングは、前記第1シュー部および第2シュー部における前記一対のシューウェブの間に配置されてそれら一対のシューウェブの間に架設された掛止ピンに外周側から当接して内周側へ付勢するように一つの線材から曲成されたものである。
【発明の効果】
【0012】
第1発明のドラムブレーキによれば、(b) 前記一対のブレーキシューは、(b-1) 前記バッキングプレートの前記拡開装置側に位置しリターンスプリングによってそれら一端部がその拡開装置に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第1シュー部と、(b-2) 前記バッキングプレートの前記アンカ部材側に位置しリターンスプリングによってそれら一端部がそのアンカ部材に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第2シュー部と、(b-3) その第2シュー部の他端部とその第1シュー部の他端部との間に設けられ、その第1シュー部および第2シュー部を相対回動、および第1シュー部の他端部が第2シュー部の他端部に対して前記バッキングプレートの外周側へ相対移動を許容しつつ前記第1シュー部の連れ回り力を前記第2シュー部に伝達する一対の伝達部材とを備えている。このため、前記拡開装置によって前記一対の第1シュー部の一端部が前記バッキングプレートの外周側へ移動すると、その一対の第1シュー部の他端部が前記バッキングプレートの外周側へ移動してその一対の第1シュー部の他端部が前記回転ドラムの内周面に当接させられる。これによって、前記一対の第1シュー部の一方が前記回転ドラムからの連れ回りの力によって前記一方の第1シュー部の一端部が前記回転ドラムの内周面に接近するように前記一方の第1シュー部が前記伝達部材まわりに回動するので、前記第1シュー部における一端部および他端部の間が前記回転ドラムの内周面に全面的に密着するように当接させられ、同時に、前記第2シュー部が前記アンカ部材回りに回動させられて前記回転ドラムの内周面に当接させられて、前記ドラムブレーキの制動時における前記一方の第1シュー部が前記回転ドラムに当接される当接面積が従来のブレーキシューに比較して大きくなり、且つ、前記一方の第1シュー部における一端部および他端部の間が前記回転ドラムの内周面を押圧する面圧分布が均等になり、前記ドラムブレーキの制動力が従来に比較して向上する。また、前記ドラムブレーキの制動時において、前記第1シュー部における一端部および他端部の間が前記回転ドラムの内周面に全面的に密着するように当接させられるので、前記第1シュー部の摩擦材の偏った摩耗が抑えられてその第1シュー部の耐久性が好適に向上する。
【0013】
第2発明のドラムブレーキによれば、前記第1シュー部は、その第1シュー部の他端部の前記伝達部材と当接する位置から前記バッキングプレートの外周側に形成され、その伝達部材が前記バッキングプレートの外周側へ移動することを阻止するために前記第2シュー部の他端部側へ突出する第1突出部と、その第1シュー部の他端部の前記伝達部材が当接する位置から前記バッキングプレートの内周側に形成され、その伝達部材が前記バッキングプレートの内周側へ移動することを許容するための平坦な第1案内部とを備えている。このため、前記拡開装置によって前記一対の第1シュー部の一端部が前記バッキングプレートの外周側へ移動すると、前記一対の第1シュー部の他端部も、その他端部の前記第1突出部が前記伝達部材に当接した位置からその他端部の平坦な前記第1案内部を前記伝達部材に摺動させながら前記バッキングプレートの外周側に移動させられるので、前記第1シュー部の一端部から他端部の間が前記回転ドラムの内周面に容易に全面当接可能となる。
【0014】
第3発明のドラムブレーキによれば、前記第2シュー部は、その第2シュー部の一端部の前記アンカ部材と当接する位置から前記バッキングプレートの外周側に形成され、その第2シュー部の一端部が前記バッキングプレートの内周側へ移動することを阻止するためにそのアンカ部材側へ突出する第2突出部と、その第2シュー部の一端部の前記アンカ部材が当接する位置から前記バッキングプレートの内周側に形成され、その第2シュー部の一端部が前記バッキングプレートの外周側へ移動することを許容するための平坦な第2案内部とを備えている。このため、前記ドラムブレーキの制動時において、前記一方の第1シュー部が前記回転ドラムと共に連れ回ると、前記伝達部材を介して前記第2シュー部の一端部がその一端部の平坦な第2案内部を前記アンカ部材に摺動させながら前記バッキングプレートの外周側に移動し、その第2シュー部の一端部が前記回転ドラムの内周面に当接する。これによって、前記第2シュー部が前記回転ドラムと共に連れ回り、その回転ドラムの連れ回りの力によって前記第2シュー部の他端部が前記回転ドラムの内周面に接近するように前記第2シュー部が前記アンカ部材まわりに回動するので、前記第2シュー部における一端部および他端部の間が前記回転ドラムの内周面に一層全面的に密着するように当接させられて、前記ドラムブレーキの制動時における前記一方のブレーキシューが前記回転ドラムに当接される当接面積が従来のブレーキシューに比較して好適に一層大きくなり、且つ、前記一方の第2シュー部における一端部および他端部の間が前記回転ドラムの内周面を押圧する面圧分布が均等になり、前記ドラムブレーキの制動力が従来に比較して一層向上する。また、前記ドラムブレーキの制動時において、前記第2シュー部における一端部および他端部の間が前記回転ドラムの内周面に全面的に密着するように当接させられるので、前記第2シュー部の摩擦材の偏った摩耗が抑えられその第2シュー部の耐久性が好適に向上する。
【0015】
第4発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記アンカー部材は、大径頭部とその大径頭部よりも小径の軸部とを有して前記バッキングプレートに立設されたものであり、(b) 前記第1シュー部および第2シュー部は、部分円弧形状に曲げられた帯板状のシューリムと、そのシューリムの内周面の幅方向における両端部から一体に前記バッキングプレートの内周側へ向かって所定量突設された互いに対向する一対のシューウェブとを備えるものであり、(c) 前記リターンスプリングは、前記第2シュー部の前記一対のシューウェブの一端部を前記アンカ部材の軸部に押し当てるものである。このため、前記第2シュー部は、前記リターンスプリングの付勢力によって、その第2シュー部の一対のシューウェブの一端部が前記アンカ部材の軸部の外周面の2箇所に押し当てられることにより、前記バッキングプレートに配設されたその第2シュー部の姿勢を保持するので、従来ブレーキシューの姿勢を保持するために使用されたシューホールドダウン装置を不要とすることができる。
【0016】
第5発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記第1シュー部および第2シュー部おいて、前記一対のシューウェブには、その一対のシューウェブとの間に固設された掛止ピンが備えられており、(b) 前記リターンスプリングは、前記第1シュー部および第2シュー部における前記一対のシューウェブの間に配置されてそれら一対のシューウェブの間に架設された掛止ピンに外周側から当接して内周側へ付勢するように一つの線材から曲成されたものである。このため、前記リターンスプリングは、前記掛止ピンに掛け止められることによって、前記一対の第1シュー部および前記一対の第2シュー部における前記一対のシューウェブの間に配置されるので、従来のコイル状のリターンスプリングのように一対のブレーキシューの間に張設されるものに比較して、前記バッキングプレートの内周部の空間が好適に広くなり、前記ドラムブレーキを作業者が車体側部材に搭載する際に前記リターンスプリングに接触し難くなるので、前記ドラムブレーキの取り付けが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用された一実施例のドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】図1のIII-III視断面図である。
【図4】図1のIV-IV視断面図である。
【図5】第2ブレーキシューの一端部の形状を示す図である。
【図6】第1ブレーキシューの他端部の形状および第2ブレーキシューの他端部の形状を示す図である。
【図7】拡開装置のカム部材が回動して一対のブレーキシューの一端部が拡開する状態を示す図である。
【図8】拡開装置によって第1ブレーキシューの他端部がバッキングプレートの外周側に移動してブレーキドラムの内周面に当接する状態を示す図である。
【図9】第1ブレーキシューの他端部がブレーキドラムの内周面に当接し、その第1ブレーキシューがブレーキドラムと共に連れ回る状態を示す図である。
【図10】伝達部材を介して第2ブレーキシューに第1ブレーキシューの連れ回り力が伝達され、その第2ブレーキシューの一端部がバッキングプレートの外周側に移動してブレーキドラムの内周面に当接する状態を示す図である。
【図11】第2ブレーキシューの一端部がブレーキドラムの内周面に当接し、その第2ブレーキシューがブレーキドラムと共に連れ回る状態を示す図である。
【図12】従来のリーディング・トレーリング型のドラムブレーキを説明する図である。
【図13】図12のドラムブレーキの制動状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は理解を容易とするために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例のリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、有底円筒状のブレーキドラム(回転ドラム)12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0020】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0021】
また、ドラムブレーキ10には、図1に示すように、図示されていないブレーキ作動操作によって回動する断面が矩形状のカム部材18を有し、バッキングプレート16の外周部における所定位置に固設された拡開装置20と、その拡開装置20のカム部材18を一端部の間で挟み略対称的に配設された部分円弧形状の一対の第1ブレーキシュー(第1シュー部)22および24と、バッキングプレート16の外周部におけるそのバッキングプレート16の中心C1に対して拡開装置20と略対称となる位置に固設されたアンカ部材26と、そのアンカ部材26を一端部の間で挟み略対称的に配設された部分円弧形状の一対の第2ブレーキシュー(第2シュー部)28および30と、その第2ブレーキシュー28および30の他端部と第1ブレーキシュー22および24の他端部との間にそれぞれ介在された一対の伝達部材32および34とが備えられている。
【0022】
図2乃至図4に示すように、一対の第1ブレーキシュー22および24、一対の第2ブレーキシュー28および30は、何れも、部分円弧形状に曲げられた帯板状のシューリム部(シューリム)36aと、そのシューリム部36aの内周面36bの幅方向における両端部から一体にバッキングプレート16の内周側にそのバッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部16aと略平行に突設された互いに対向する一対のシューウェブ部(シューウェブ)36cおよび36dとを有するシュー本体36と、そのシュー本体36の一対のシューウェブ部36cおよび36dとの間に固設された略円柱形状の掛止ピン38と、シュー本体36のシューリム部36aの外周面36eに接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40とを備えてそれぞれ構成されている。
【0023】
図1乃至図3に示すように、掛止ピン38は、シュー本体36の一対のシューウェブ部36cおよび36dの中間部に貫通された一対の貫通穴36fに嵌め入れられた円柱形状の軸部38aと、その軸部38aにおける一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16側のシューウェブ部36dの貫通穴36fから突き出した端部がその貫通穴36fの径より大径に形成された大径部38bとを備え、その軸部38aのシューウェブ部36cの貫通穴36fから突き出した端部がその貫通穴36fより大径にかしめられることによって一対のシューウェブ部36cおよび36dの間に固設されるものである。
【0024】
図1および図2に示すように、一対の第1ブレーキシュー22,24および一対の第2ブレーキシュー28,30には、その一対の第1ブレーキシュー22,24および一対の第2ブレーキシュー28,30における一対のシューウェブ部36cおよび36dの間に配置されてそれら一対のシューウェブ部36cおよび36dの間に架設された掛止ピン38の軸部38aにバッキングプレート16の外周側から当接してそれら掛止ピン38の軸部38aをバッキングプレート16の内周側へ付勢するリターンスプリング42が掛け止められており、そのリターンスプリング42は、断面が円形状の一つ線材がそれらの掛止ピン38の軸部38aに掛け止められるように図1に示すように略四角形状に曲成されたものである。また、図1に示すように、掛止ピン38にリターンスプリング42が掛け止められると、そのリターンスプリング42の弾性復帰力によって、第1ブレーキシュー22は掛止ピン38を介して矢印D1方向に、第1ブレーキシュー24は掛止ピン38を介して矢印D2方向に、第2ブレーキシュー28は掛止ピン38を介して矢印D3方向に、第2ブレーキシュー30は掛止ピン38を介して矢印D4方向に付勢される。
【0025】
すなわち、一対の第1ブレーキシュー22,24および一対の第2ブレーキシュー28,30は、リターンスプリング42の弾性復帰力によって、その一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部が拡開装置20のカム部材18に接近する方向に付勢され、その一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部がアンカ部材26に接近する方向に付勢され、第1ブレーキシュー22および24の他端部と第2ブレーキシュー28および30の他端部とが伝達部材32および34に接近する方向に付勢される。これによって、第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28および30は、リターンスプリング42の付勢力によって、その第1ブレーキシュー22および24の一対のシューウェブ36cおよび36dの一端部がカム部材18の当接面18aの2箇所に押し当てられると共に、その第2ブレーキシュー28および30の一対のシューウェブ36cおよび36dの一端部がアンカ部材26のトルク受軸部26cの外周面の2箇所に押し当てられて、バッキングプレート16に配設された第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28および30の姿勢が保持される。なお、第1ブレーキシュー22の一端部がカム部材18に接近する方向に付勢される力および第1ブレーキシュー22の他端部が伝達部材32に接近する方向に付勢される力は、リターンスプリング42の弾性復帰力によって第1ブレーキシュー22を矢印D1方向に付勢する力の分力である。また、第1ブレーキシュー24の一端部がカム部材18に接近する方向に付勢される力および第1ブレーキシュー24の他端部が伝達部材34に接近する方向に付勢される力は、リターンスプリング42の弾性復帰力によって第1ブレーキシュー24を矢印D2方向に付勢する力の分力である。また、第2ブレーキシュー28の一端部がアンカ部材26に接近する方向に付勢される力および第2ブレーキシュー28の他端部が伝達部材32に接近する方向に付勢される力は、リターンスプリング42の弾性復帰力によって第2ブレーキシュー28を矢印D3方向に付勢する力の分力である。また、第2ブレーキシュー30の一端部がアンカ部材26に接近する方向に付勢される力および第2ブレーキシュー30の他端部が伝達部材34に接近する方向に付勢される力は、リターンスプリング42の弾性復帰力によって第2ブレーキシュー30を矢印D4方向に付勢する力の分力である。
【0026】
図1および図2に示すように、伝動部材32および34には、第1ブレーキシュー22および24の他端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dと第2ブレーキシュー28および30の他端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dとの間に介在された円柱形状の軸部32aおよび34aと、その軸部32aおよび34aの両端部においてその軸部32aおよび34aの断面の径より大径に形成された円板形状の一対の大径部32bおよび34bとが備えられており、リターンスプリング42の弾性復帰力により伝達部材32および34の軸部32aおよび34aは、第1ブレーキシュー22および24の他端部と第2ブレーキシュー28および30の他端部とに当接されて挟まれる。
【0027】
図1および図6に示すように、一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dがリターンスプリング42の弾性復帰力によって伝達部材32および34の軸部32aおよび34aに当接された位置において、一対の第1ブレーキシュー22および24には、その一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16の外周側に形成され、その一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部がバッキングプレート16の内周側へ移動することを阻止するためにその第1ブレーキシュー22および24の他端部におけるシューウェブ部36cおよび36dが第2ブレーキシュー28および30の他端部に接近する方向へ突出した第1突出部36gと、その一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16の内周側に形成され、その第1ブレーキシュー22および24の他端部がバッキングプレート16の外周側へ移動することを許容するための平坦な第1案内部36hと、その一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部の一対のシューウェブ部36cおよび36dにおける第1突出部36gの端面と第1案内部36hの端面とを連接する伝達部材32および34の軸部32aおよび34aの外周面の曲率と略同じの曲率に曲成された湾曲面36iとが備えられている。
【0028】
また、図1および図6に示すように、一対の第2ブレーキシュー28および30の他端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dがリターンスプリング42の弾性復帰力によって伝達部材32および34の軸部32aおよび34aに当接された位置において、一対の第2ブレーキシュー28および30の他端部には、その他端部の一対のシューウェブ部36cおよび36dに伝達部材32および34の軸部32aおよび34aの外周面の曲率と略同じ曲率に曲がるように凹みその伝達部材32および34の軸部32aおよび34aの外周面の一部が当接する凹部36jが形成されている。
【0029】
図1および図2に示すように、アンカ部材26には、バッキングプレート16の一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部の間に固設された固定部26aと、その固定部26aの一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部が着座された着座面26bからバッキングプレート16から離間する方向に円柱形状に立設されたトルク受軸部(軸部)26cと、そのトルク受軸部26cの先端部にそのトルク受軸部26cの断面の径より大径に形成された円板形状の大径部(大径頭部)26dとが備えられており、リターンスプリング42の弾性復帰力によって一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dがトルク受軸部26cの外周面の2箇所にそれぞれ当接される。これにより、第2ブレーキシュー28および30と、その第2ブレーキシュー28および30の他端部に伝達部材32および34を介して連結された第1ブレーキシュー22および24がバッキングプレートの中心C1方向およびブレーキドラム12の周方向に位置決めされている。
【0030】
図1および図5に示すように、一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dがリターンスプリング42の弾性復帰力によってアンカ部材26のトルク受軸部26cの外周面に当接された位置において、一対の第2ブレーキシュー28および30には、その一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16の外周側に形成され、その一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部がバッキングプレート16の内周側へ移動することを阻止するためにその一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dが互いに接近する方向へ突出した第2突出部36kと、その一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部における一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16の内周側に形成され、その第2ブレーキシュー28および30の一端部がバッキングプレート16の外周側へ移動することを許容するための平坦な第2案内部36lと、その一対の第2ブレーキシュー28および30の一端部の一対のシューウェブ部36cおよび36dにおける第2突出部36kの端面と第2案内部36lの端面とを連接するトルク受軸部26cの外周面の曲率と略同じ曲率に曲成された湾曲面36mとが備えられている。
【0031】
図2乃至図4に示すように、バッキングプレート16には、前述した平板部16aと、その平板部16aから一対の第1ブレーキシュー22および24における一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16側のシューウェブ部36dにそれぞれ向かうように突き出された一対の第1突部16bと、平板部16aから一対の第2ブレーキシュー28および30における一対のシューウェブ部36cおよび36dのバッキングプレート16側のシューウェブ部36dにそれぞれ向かうように突き出された一対の第2突部16cとが一体に備えられている。
【0032】
また、図2乃至図4に示すように、バッキングプレート16の第1突部16bの先端部には、平板部16aと略平行の平面16dと、その平面16dに第1ブレーキシュー22および24の掛止ピン38の大径部36bが接触するのを防止するために凹んだ凹部16eとが備えられている。また、バッキングプレート16の第2突部16cの先端部には、平板部16aと略平行の平面16fと、その平面16fに第2ブレーキシュー28および30の掛止ピン38の大径部38bが接触するのを防止するために凹んだ凹部16gとが備えられている。
【0033】
図2乃至図4に示すように、バッキングプレート16の第1突部16bおよび第2突部16cは、第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30のシューウェブ26dに接近する方向に突き出されたものであり、例えば車両走行中の振動等による外力によって、第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30が車体の車軸方向に振動すると、比較的小さい振れ幅でバッキングプレート16の第1突部16bおよび第2突部16cの平面16dおよび16fとアンカ部材26の大径部26bとによってその振動が好適に受け止められる。
【0034】
図2に示すように、拡開装置20には、バッキングプレート16の一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部の間に固定された固定部材44と、その固定部材11の一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部が着座された着座面44aに貫通された円柱形状の貫通穴44bに相対回転可能に嵌め入れられた円柱形状の軸部材46と、その軸部材46に固定され一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部の間に配設された前述したカム部材18とが備えられており、リターンスプリング42の弾性復帰力によって一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部がカム部材18に当接され、図示されていないブレーキ作動操作によって軸部材46がその軸心C2まわりに回動させられる。
【0035】
以上のよう構成されたドラムブレーキ10によれば、例えばブレーキペダルの踏み込み等のブレーキ作動操作によって拡開装置20の軸部材46が回動すると、カム部材18がその軸部材46の軸心C2まわりに回動して一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部が拡開すなわちそれぞれ矢印B1およびB2方向に移動させられる。以下において、拡開装置20によって一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部が拡開された場合におけるその第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30の動きを図7乃至図11を参照して説明する。また、ブレーキドラム12は矢印A3方向に回転しているものとする。なお、本実施例のドラムブレーキ10はリーディング・トレーリング型であって、図1に示すように一対の第1ブレーキシュー22,24および一対の第2ブレーキシュー28,30の左右が同様であるため、以下において、ブレーキドラム12が矢印A3方向と反対方向に回転している場合における第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30の動きの説明は省略する。
【0036】
図7に示すように拡開装置20によって一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部がリターンスプリング42の付勢力に抗してそれぞれ矢印B1およびB2方向に移動させられると、一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部は、図8に示すように、その他端部の第1突出部36gが伝達部材32の軸部32aに当接した位置から第1案内部36hをその軸部32aの外周面に摺動させながらバッキングプレート16の外周側すなわち矢印B3方向に移動させられ、その一対の第1ブレーキシュー22の他端部のライニング40がブレーキドラム12の内周面14に当接させられる。また、図8に記載されている一点鎖線の第1ブレーキシュー22は、拡開装置20によってその第1ブレーキシュー22の他端部がバッキングプレート16の外周側へ移動させられてブレーキドラム12の内周面14に当接させられた状態を示すものである。
【0037】
図9に示すように、第1ブレーキシュー22の他端部のライニング40がブレーキドラム12の内周面14に当接すると、第1ブレーキシュー22がブレーキドラム12と共に連れ回り、そのブレーキドラム12の連れ回りの力F1によって第1ブレーキシュー22の一端部がブレーキドラム12の内周面14に接近するようにその第1ブレーキシュー22が伝達部材32の軸部32aまわり矢印B4方向に回動して、その第1ブレーキシュー22の一端部および他端部の間すなわちその第1ブレーキシュー22のライニング40の外周面の略全面がブレーキドラム12の内周面14に全面的に密着するように当接させられる。
【0038】
また、図9に示すように第1ブレーキシュー22がブレーキドラム12と共に連れ回ると、伝達部材32を介して連れ回り力F1が第2ブレーキシュー28に伝達される。そのため、図10に示すように、第2ブレーキシュー28の一端部がその一端部の第2案内部36lをアンカ部材26のトルク受軸部26cの外周面に摺動させながらバッキングプレート16の外周側すなわち矢印E1へ移動させられ、その第2ブレーキシュー28の一端部のライニング40がブレーキドラム12の内周面14に当接される。また、図10に記載されている一点鎖線の第2ブレーキシュー28は、第1ブレーキシュー22がブレーキドラム12と共に連れ回ることによってその第2ブレーキシュー28の一端部がバッキングプレート16の外周側へ移動してブレーキドラム12の内周面14に当接された状態を示すものである。
【0039】
図11に示すように、第2ブレーキシュー28の一端部のライニング40がブレーキドラム12の内周面14に当接されると、第2ブレーキシュー28がブレーキドラム12と共に連れ回り、そのブレーキドラム12の連れ回りの力F2によって第2ブレーキシュー28の他端部がブレーキドラム12の内周面14に接近するようにその第2ブレーキシュー28がアンカ部材26のトルク受軸部26cまわり矢印E2方向に回動させられ、その第2ブレーキシュー28の一端部および他端部の間すなわちその第2ブレーキシュー28のライニング40の外周面の略全面がブレーキドラム12の内周面14に全面的に密着するように当接させられる。
【0040】
このため、第1ブレーキシュー22および第2ブレーキシュー28のライニング40の外周面の略全面に自己倍力が作用して、その第1ブレーキシュー22のライニング40の略全面がブレーキドラム12の内周面14を押圧する面圧分布が略均等になり、且つ、第2ブレーキシュー28のライニング40の略全面がブレーキドラム12の内周面14を押圧する面圧分布が略均等になって、そのブレーキドラム12の回転が制動される。また、拡開装置20のカム部材18が図1に示す元の位置に戻されブレーキ作動操作が解除されると、リターンスプリング42の弾性復帰力によって一対の第1ブレーキシュー22および24と一対の第2ブレーキシュー28および30とは、図1に示す元の位置に戻される。
【0041】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、一対のブレーキシューは、バッキングプレート16の拡開装置20側に位置しリターンスプリング42によってそれら一端部がその拡開装置20に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第1ブレーキシュー22および24と、バッキングプレート16のアンカ部材26側に位置しリターンスプリング42によってそれら一端部がそのアンカ部材26のトルク受軸部26cの外周面に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第2ブレーキシュー28および30と、その第2ブレーキシュー28および30の他端部とその第1ブレーキシュー22および24の他端部との間に設けられ、その第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30を相対回動、および第1ブレーキシュー22および24の他端部が第2ブレーキシュー28および30の他端部に対してバッキングプレート16の外周側へ相対移動を許容しつつ第1ブレーキシュー22および24の連れ回り力F1を第2ブレーキシュー28および30に伝達する一対の伝達部材32および34とを備えている。このため、拡開装置20によって一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部がバッキングプレート16の外周側へ移動すると、その一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部がバッキングプレート16の外周側へ移動してその一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部がブレーキドラム12の内周面14に当接させられる。これによって、第1ブレーキシュー22がブレーキドラム12からの連れ回りの力F1によって第1ブレーキシュー22の一端部がブレーキドラム12の内周面14に接近するように第1ブレーキシュー22が伝達部材32の軸部32aまわりに回動するので、第1ブレーキシュー22のライニング40おける一端部および他端部の間がブレーキドラム12の内周面14に全面的に密着するように当接させられ、同時に、第2ブレーキシュー28がアンカ部材26のトルク受軸部26c回りに回動させられてブレーキドラム12の内周面14に当接させられて、ドラムブレーキ10の制動時における第1ブレーキシューがブレーキドラム12の内周面14に当接される当接面積が従来のブレーキシュー110および120がブレーキドラム140の内周面140aに当接される当接面積に比較して大きくなり、且つ、第1ブレーキシュー22における一端部および他端部の間がブレーキドラム12の内周面14を押圧する面圧分布が均等になり、ドラムブレーキ10の制動力が従来に比較して向上する。また、ドラムブレーキ10の制動時において、第1ブレーキシュー22および24おける一端部および他端部の間がブレーキドラム12の内周面14に全面的に密着するように当接させられるので、第1ブレーキシュー22および24のライニング40の偏った摩耗が抑えられその第1ブレーキシュー22および24の耐久性が好適に向上する。
【0042】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、第1ブレーキシュー22および24は、その第1ブレーキシュー22および24の他端部の伝達部材32および34と当接する位置からバッキングプレート16の外周側に形成され、その伝達部材32および34がバッキングプレート16の外周側へ移動することを阻止するために第2ブレーキシュー28および30の他端部側へ突出する第1突出部36gと、その第1ブレーキシュー22および24の他端部の伝達部材32および34が当接する位置からバッキングプレート16の内周側に形成され、その伝達部材32および34がバッキングプレート16の内周側へ移動することを許容するための平坦な第1案内部36hとを備えている。このため、拡開装置20によって一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部がバッキングプレート16の外周側へ移動すると、その一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部も、その他端部の第1突出部36gが伝達部材32および34の軸部32aおよび34aの外周面に当接した位置からその他端部の平坦な第1案内部36hをその伝達部材32および34の軸部32aおよび34aの外周面に摺動させながらバッキングプレート16の外周側に移動させられるので、第1ブレーキシュー22の一端部から他端部の間がブレーキドラム12の内周面14に容易に全面当接可能となる。
【0043】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、第2ブレーキシュー28および30は、その第2ブレーキシュー22および24の一端部のアンカ部材26のトルク受軸部26cの外周面と当接する位置からバッキングプレート16の外周側に形成され、その第2ブレーキシュー28および30の一端部がバッキングプレート16の内周側へ移動することを阻止するためにそのアンカ部材26側へ突出する第2突出部36kと、その第2ブレーキシュー28および30の一端部のアンカ部材26の軸部26cの外周面が当接する位置からバッキングプレート16の内周側に形成され、その第2ブレーキシュー28および30の一端部がバッキングプレート16の外周側へ移動することを許容するための平坦な第2案内部36lとを備えている。このため、ドラムブレーキ10の制動時において、第1ブレーキシュー22がブレーキドラム12と共に連れ回ると、伝達部材32を介して第2ブレーキシュー28の一端部がその一端部の平坦な第2案内部36lをアンカ部材26の軸部26cの外周面に摺動させながらバッキングプレート16の外周側に移動し、その第2ブレーキシュー28および30の一端部がブレーキドラム12の内周面14に当接する。これによって、第2ブレーキシュー28がブレーキドラム12と共に連れ回り、そのブレーキドラム12の連れ回りの力F2によって第2ブレーキシュー28の他端部がブレーキドラム12の内周面14に接近するように第2ブレーキシュー28がアンカ部材26のトルク受軸部26cまわりに回動するので、第2ブレーキシュー28および30おける一端部および他端部の間がブレーキドラム12の内周面14に一層全面的に密着するように当接されて、ドラムブレーキ10の制動時におけるブレーキシューすなわち第1ブレーキシュー22および第2ブレーキシュー28がブレーキドラム12の内周面14に当接される当接面積が従来のブレーキシュー110および120に比較して好適に一層大きくなり、且つ、第2ブレーキシュー28における一端部および他端部の間がブレーキドラム12の内周面14を押圧する面圧分布が均等になり、ドラムブレーキ10の制動力が従来に比較して一層向上する。また、ドラムブレーキ10の制動時において、第2ブレーキシュー28および30おける一端部および他端部の間がブレーキドラム12の内周面14に全面的に密着するように当接させられるので、第1ブレーキシュー28および30のライニング40の偏った摩耗が抑えられその第2ブレーキシュー28および30の耐久性が好適に向上する。
【0044】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、アンカ部材26は、大径部(大径頭部)26dとその大径部26dよりも小径のトルク受軸部(軸部)26cとを有してバッキングプレート16に立設されたものであり、第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30は、部分円弧形状に曲げられた帯板状のシューリム部(シューリム)36aと、そのシューリム部36aの内周面36bの幅方向における両端部から一体にバッキングプレート16の内周側へ向かって突設された互いに対向する一対のシューウェブ部(シューウェブ)36cおよび36dとを有するシュー本体36を備えるものであり、リターンスプリング42は、第2ブレーキシュー28および30の一対のシューウェブ部36cおよび36dの一端部をアンカ部材26のトルク受軸部26cに押し当てるものである。このため、第2ブレーキシュー28および30は、リターンスプリング42の付勢力によって、その第2ブレーキシュー28および30の一対のシューウェブ部36cおよび36dの一端部がアンカ部材26のトルク受軸部26cの外周面の2箇所に押し当てられることにより、バッキングプレート16に配設されたその第2ブレーキシュー28および30の姿勢を保持するので、従来ブレーキシューの姿勢を保持するために使用されたシューホールドダウン装置を不要とすることができる。
【0045】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、 第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30おいて、一対のシューウェブ部36cおよび36dには、その一対のシューウェブ部36cおよび36dとの間に固設された掛止ピン38が備えられており、リターンスプリング42は、第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30における一対のシューウェブ部36cおよび36dの間に配置されてそれら一対のシューウェブ部36cおよび36dの間に架設された掛止ピン38にバッキングプレート16の外周側から当接してバッキングプレート16の内周側へ付勢するように一つの線材から曲成されたものである。このため、リターンスプリング42は、掛止ピン38に掛け止められることによって、一対の第1ブレーキシュー22,24および一対の第2ブレーキシュー28,30における一対のシューウェブ部36cおよび36dの間に配置されるので、従来のコイル状のリターンスプリングのように一対のブレーキシューの間に張設されるものに比較して、バッキングプレート16の内周部の空間が好適に広くなり、ドラムブレーキ10を作業者が車体側部材に搭載する際にリターンスプリング42に接触し難くなるので、ドラムブレーキ10の取り付けが容易になる。
【0046】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0047】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10において、ドラムブレーキ10は、車両走行中のサービスブレーキ用のドラムブレーキとして使用されたが、例えばパーキングブレーキ用のドラムブレーキとして使用されても良い。
【0048】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、拡開装置20は、カム部材18が回動されることによって一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部が拡開されたが、ドラムブレーキ10の拡開装置20は、一対の第1ブレーキシュー22および24の一端部を拡開するものであれば何でも良く、例えばホイールシリンダであっても良い。
【0049】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、一対のブレーキシューは、一対の第1ブレーキシュー22および24と、一対の第2ブレーキシュー28および30と、一対の伝達部材32および34とによって構成されたが、例えば、第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30の長手方向の長さを短くした第1ブレーキシュー22,24および第2ブレーキシュー28,30を製造して、その第2ブレーキシュー28,30の一端部と他端部の形状が略同じの一端部および他端部を有する一対の第3ブレーキシューをその第2ブレーキシュー28および30の一端部とアンカ部材26との間に配置させ、更にその第3ブレーキシューの他端部とその第2ブレーキシュー28および30の一端部との間に一対の伝達部材を介在させても良い。すなわち、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキシューに数の制限はない。
【0050】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、一対の伝達部材32および34は、一対の第1ブレーキシュー22および24の他端部と一対の第2ブレーキシュー28および30の他端部とによって挟まれ、その間に介在されたものであったが、伝達部材32および34を第2ブレーキシュー28および30の他端部に例えば溶接によって固定しても良い。更には、第2ブレーキシュー28および30の他端部に伝達部材32および34の軸部32aおよび34aの断面のような略円弧状に突き出る突部を一体に設けてその突部を伝達部材32および34の代わりとしても良い。
【0051】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
10:ドラムブレーキ
12:ブレーキドラム(回転ドラム)
14:ブレーキドラムの内周面
16:バッキングプレート
20:拡開装置
22,24:一対の第1ブレーキシュー(第1シュー部)
26:アンカ部材
26b:大径部(大径頭部)
26c:トルク受軸部(軸部)
28,30:一対の第2ブレーキシュー(第2シュー部)
32,34:一対の伝達部材
36a:シューリム部(シューリム)
36c,36d:一対のシューウェブ部(シューウェブ)
36g:第1突出部
36h:第1案内部
36k:第2突出部
36l:第2案内部
38:掛止ピン
42:リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレートに拡開可能に配設された円弧状を成す一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一端部間に配設され、該一対のブレーキシューの一端部を相互に離間させることで該バッキングプレートの外周側に拡開させる拡開装置と、該拡開装置によって該一対のブレーキシューが車両の車輪と共に回転する回転ドラムの内周面に摺接し、該一対のブレーキシューの一方の他端部が受け止められるアンカ部材とを備えるドラムブレーキであって、
前記一対のブレーキシューは、前記バッキングプレートの前記拡開装置側に位置しリターンスプリングによってそれら一端部が該拡開装置に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第1シュー部と、前記バッキングプレートの前記アンカ部材側に位置しリターンスプリングによってそれら一端部が該アンカ部材に接近する方向に付勢された部分円弧形状を成す一対の第2シュー部と、該第2シュー部の他端部と該第1シュー部の他端部との間に設けられ、該第1シュー部および第2シュー部を相対回動、および第1シュー部の他端部が第2シュー部の他端部に対して前記バッキングプレートの外周側へ相対移動を許容しつつ前記第1シュー部の連れ回り力を前記第2シュー部に伝達する一対の伝達部材とを備えていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記第1シュー部は、該第1シュー部の他端部の前記伝達部材と当接する位置から前記バッキングプレートの外周側に形成され、該伝達部材が前記バッキングプレートの外周側へ移動することを阻止するために前記第2シュー部の他端部側へ突出する第1突出部と、該第1シュー部の他端部の前記伝達部材が当接する位置から前記バッキングプレートの内周側に形成され、該伝達部材が前記バッキングプレートの内周側へ移動することを許容するための平坦な第1案内部とを備えている請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記第2シュー部は、該第2シュー部の一端部の前記アンカ部材と当接する位置から前記バッキングプレートの外周側に形成され、該第2シュー部の一端部が前記バッキングプレートの内周側へ移動することを阻止するために該アンカ部材側へ突出する第2突出部と、該第2シュー部の一端部の前記アンカ部材が当接する位置から前記バッキングプレートの内周側に形成され、該第2シュー部の一端部が前記バッキングプレートの外周側へ移動することを許容するための平坦な第2案内部とを備えている請求項1または2のドラムブレーキ。
【請求項4】
前記アンカ部材は、大径頭部と、該大径頭部よりも小径の軸部とを有して前記バッキングプレートに立設されたものであり、
前記第1シュー部および第2シュー部は、部分円弧形状に曲げられた帯板状のシューリムと、該シューリムの内周面の幅方向における両端部から一体に前記バッキングプレートの内周側へ向かって所定量突設された互いに対向する一対のシューウェブとを備えるものであり、
前記リターンスプリングは、前記第2シュー部の一対のシューウェブの一端部を前記アンカ部材の軸部に押し当てるものである請求項1乃至3のいずれか1のドラムブレーキ。
【請求項5】
前記第1シュー部および第2シュー部おいて、前記一対のシューウェブには、該一対のシューウェブとの間に固設された掛止ピンが備えられており、
前記リターンスプリングは、前記第1シュー部および第2シュー部における前記一対のシューウェブの間に配設されてそれら一対のシューウェブの間に架設された掛止ピンに外周側から当接して内周側へ付勢するように一つの線材から曲成されたものである請求項4のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−15193(P2013−15193A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148714(P2011−148714)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】