説明

ドラムブレーキ

【課題】ブレーキケーブルの先端部が掛け止められるブレーキレバーの先端部の強度を向上させると共に、そのブレーキレバーの製造時の金属材料の量を少なくさせるブレーキレバーを備えたドラムブレーキを提供する。
【解決手段】突出部48gは、長手貫通穴48cの周辺部におけるバッキングプレート16の内周側の一部がプレス加工の絞り加工によってその一部の厚みを薄くさせてバッキングプレート16に接近する方向に突出させたものであり、従来のように掛止部材54を掛け止めるためにブレーキレバー48の先端部48bに曲成されるための平板状の金属部分を余分に設ける必要がなくなる。また、制動時に突出部48gが掛止部材54によって引張られると、その引張られる方向における突出部48jの厚みD3が、ブレーキレバー48の厚みE1より厚くなり、ブレーキレバー48の先端部48bの強度が従来に比較して向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに係り、特にそのドラムブレーキに備えられたブレーキレバーの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドラムブレーキには、例えば特許文献1または2に示すように、(a) バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設された長手平板状のブレーキレバーと、(c) そのブレーキレバーの先端部をバッキングプレートの内周側に引っ張るブレーキケーブルと、(d) そのブレーキケーブルの先端部に固設されたそのブレーキケーブルの断面の径より大径の掛止部材とが備えられたものがある。また、前記ブレーキレバーは、平板状の金属板例えば綱板から打ち抜かれかつ所定の曲げ成形等が施されて製造されたプレス部品である。
【0003】
上記のようなドラムブレーキにおいて、例えば特許文献1のドラムブレーキでは、その図3に示すように、前記ブレーキレバーの先端部にそのブレーキレバーの先端が略U字状に曲成されたフック部が備えられ、そのフック部に前記ブレーキケーブルの前記掛止部材が掛け止められることによって、前記ブレーキレバーの先端部に前記ブレーキケーブルの先端部が連結される。しかしながら、上記のように先端が略U字状に曲げられたフック部を有するブレーキレバーは、そのブレーキレバーが製造される際の前記平板状の金属板の大きさを、そのブレーキレバーの先端が略U字状に曲げられる分だけ大きくしなければならないので、そのブレーキレバーの製造に比較的に多くの金属材料が必要とされて材料歩留りが低いという問題があった。
【0004】
これに対して、特許文献2のドラムブレーキは、その図1および図3に示すように、前記ブレーキレバーの先端部に貫通された前記ブレーキケーブルの断面の径より大きく前記掛止部材の径より小さい幅寸法を有する長手貫通穴と、その長手貫通穴の一端部に設けられた前記掛止部材の径より大径の大径穴部と、その長手貫通穴の他端部が形成された前記ブレーキレバーの先端部の前記バッキングプレートの内周側の側縁部が略L字状に折り曲げられた折曲部とを備え、前記ブレーキケーブルの先端にかしめ着けられた、そのブレーキケーブルよりも大径の掛止部材を前記ブレーキレバーの大径穴部内に挿通させて前記ブレーキケーブルを前記長手貫通穴の内周面に沿ってその長手貫通穴の他端部に移動させることによって、前記ブレーキケーブルの掛止部材が前記ブレーキレバーの折曲部に掛け止められる。このような特許文献2のドラムブレーキによれば、前記ブレーキケーブルの掛止部材が掛け止められる略L字状の前記折曲部が、前記ブレーキレバーの先端が略U字状に曲げられる前記フック部に比較して少ない量の金属材料で形成させられ、前記問題が解消させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−278331号公報
【特許文献2】特開2003−194118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような特許文献2のドラムブレーキにおいて、その図2に示すように、ドラムブレーキの制動時に前記ブレーキレバーの略L字状の折曲部が前記ブレーキケーブルの掛止部材によって引っ張られると、前記折曲部の厚みが前記ブレーキレバーの厚みと略同じで比較的低強度であることから、その引っ張りによる引張力によってその折曲部が比較的容易に曲がるので、ブレーキケーブルの先端にかしめ着けられた大径の掛止部材の着座面が傾き易いという問題がある。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ブレーキケーブルの先端部が掛け止められるブレーキレバーの先端部の強度を従来に比較して向上させると共に、そのブレーキレバーの製造時の金属材料の量を従来に比較して少なくさせるブレーキレバーを備えたドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設された長手平板状のブレーキレバーと、そのブレーキレバーの先端部をバッキングプレートの内周側に引っ張るブレーキケーブルと、そのブレーキケーブルの先端部に固設されたそのブレーキケーブルの断面の径より大径の掛止部材と、そのブレーキレバーの先端部に貫通されたそのブレーキケーブルの断面の径より大きく前記掛止部材の径より小さい幅寸法を有する長手貫通穴と、その長手貫通穴の一部に設けられた前記掛止部材の径より大径の大径穴部とを備え、前記ブレーキケーブルの前記掛止部材を前記ブレーキレバーの前記大径穴部内に挿通させて前記ブレーキケーブルを前記長手貫通穴の内周面に沿って移動させることによって、前記ブレーキケーブルの掛止部材を前記ブレーキレバーの先端部に掛け止めるドラムブレーキであって、(b) 前記ブレーキレバーの先端部には、前記長手貫通穴の周辺部における前記バッキングプレートの内周側の一部がプレス加工によりそのバッキングプレートに接近する方向に局部的に凹む凹溝が形成されることによって、その長手貫通穴の内周面の一部および前記ブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの内周側の側面の一部が前記バッキングプレートに接近する方向に突き出された突出部が備えられ、(c) 前記突出部の前記バッキングプレートの外周側の側面には、前記掛止部材を受け止める着座面が備えられていることにある。
【0009】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記ブレーキレバーの厚み方向における前記凹溝の深さは、前記ブレーキレバーの厚み距離と、前記ブレーキケーブルの掛止部材が前記ブレーキレバーの先端部に掛け止められた状態における前記ブレーキレバーの厚み方向において、前記ブレーキレバーの前記バッキングプレート側の面に当接する前記掛止部材の外周面の一部から前記凹溝の底面に当接する前記ブレーキケーブルの外周面の一部までの距離とを合わせたものに設定されたものである。
【0010】
また、第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記ブレーキレバーの先端部には、そのブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの外周側の側面の一部が、前記突出部および前記長手貫通穴の全部或いは一部が前記一方のブレーキシューのシューウェブの内周縁よりも前記バッキングプレートの内周側に位置させられるように、前記一方のブレーキシューのシューリムの内周面へ接近する方向に突出しそのシューリムの内周面に当接する突部が一体に備えられるものである。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のドラムブレーキによれば、前記ブレーキレバーの先端部には、前記長手貫通穴の周辺部における前記バッキングプレートの内周側の一部がプレス加工によりそのバッキングプレートに接近する方向に局部的に凹む凹溝が形成されることによって、その長手貫通穴の内周面の一部および前記ブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの内周側の側面の一部が前記バッキングプレートに接近する方向に突き出された突出部が備えられ、前記突出部の前記バッキングプレートの外周側の側面には、前記掛止部材を受け止める着座面が備えられている。このため、前記ブレーキケーブルの掛止部材が前記ブレーキレバーの前記大径穴部内に挿通され、そのブレーキケーブルが前記長手貫通穴の内周面に沿って前記突出部に移動されてその突出部の着座面に前記掛止部材が受け止められることによって、前記ブレーキケーブルの掛止部材が前記ブレーキレバーの先端部に設けられた前記突出部に掛け止められる。また、前記突出部は、前記長手貫通穴の周辺部における前記バッキングプレートの内周側の一部がプレス加工によって前記バッキングプレートに接近する方向に突出させたものであるため、従来のように前記掛止部材を掛け止めるために前記ブレーキレバーの先端部に曲成されるための平板状の金属部分を余分に設ける必要がなくなるので、前記ブレーキレバーの製造時の金属材料の量が従来に比較して少なくされ、材料歩留りが向上させられる。また、前記ドラムブレーキの制動時において、前記突出部が前記ブレーキケーブルの前記掛止部材によって引っ張られると、その引っ張られる方向における前記突出部の厚みが、前記長手貫通穴の前記バッキングプレートの内周側の内周面の一部から前記ブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの内周側の側面の一部までと前記ブレーキレバーの厚みより好適に厚くなるので、前記ブレーキケーブルの掛止部材が掛け止められる前記ブレーキレバーの先端部の強度が従来に比較して向上する。したがって、前記突出部の着座面に受け止められた前記掛止部材が前記ブレーキケーブルに対して傾くことが防止され、前記ブレーキケーブルの耐久性が高められる。
【0012】
第2発明のドラムブレーキによれば、前記ブレーキレバーの厚み方向における前記凹溝の深さは、前記ブレーキレバーの厚み距離と、前記ブレーキレバーの前記バッキングプレート側の面に当接する前記掛止部材の外周面の一部から前記凹溝の底面に当接する前記ブレーキケーブルの外周面までの距離とを合わせたものに設定されたものである。このため、前記ブレーキケーブルの掛止部材が前記ブレーキレバーの突出部に掛け止められると、前記掛止部材の外周面の一部が前記ブレーキレバーの前記バッキングプレート側の面に当接されると共に、前記ブレーキケーブルが前記凹溝の底面に当接されるので、前記ブレーキレバーの突出部に対する前記ブレーキケーブルの掛止部材の動きが規制される。これにより、振動等の意図しない要因による前記ブレーキレバーからの前記掛止部材の外れの発生が好適に抑制される。
【0013】
第3発明のドラムブレーキによれば、前記ブレーキレバーの先端部には、そのブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの外周側の側面の一部が、前記突出部および前記長手貫通穴の全部或いは一部が前記一方のブレーキシューのシューウェブの内周縁よりも前記バッキングプレートの内周側に位置させられるように、前記一方のブレーキシューのシューリムの内周面へ接近する方向に突出しそのシューリムの内周面に当接する突部が一体に備えられている。そのため、前記ブレーキレバーの先端部に設けられた前記突部によって、作業者は、前記バッキングプレートに前記一対のブレーキシューおよび前記ブレーキレバー等が組み付けられた状態においても、前記ブレーキレバーの先端部における前記突出部および前記長手貫通穴の全部或いは一部が目視できるので、容易に前記ブレーキケーブルの掛止部材を前記ブレーキレバーの先端部に掛け止められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例のドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のドラムブレーキに備えられたブレーキレバーの先端部を説明する図である。
【図3】図2のIII-III視面図である。
【図4】ブレーキレバーの突出部にブレーキケーブルの掛止部材を掛け止めるブレーキケーブルの取付方法を説明する図である。
【図5】ブレーキレバーの突出部にブレーキケーブルの掛止部材を掛け止めるブレーキケーブルの取付方法を説明する図であり、図4のV-V視面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、有底円筒状のブレーキドラム12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0017】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0018】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18および20と、その一対のブレーキシュー18および20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18および20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢してホイールシリンダ22に当接させるために、その一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング24と、そのコイル状のリターンスプリング24の内部を挿通するように一対のブレーキシュー18および20の一端部間に架け渡された非制動時における一対のブレーキシュー18および20とブレーキドラム12の内周面14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18および20の他端部すなわち図1の下端部の間に位置するようにバッキングプレート16に固定されたアンカ部材28と、一対のブレーキシュー18および20の他端部間に張設されてそれら他端部をアンカ部材28に常時当接させるスプリング30とが備えられている。
【0019】
一対のブレーキシュー18および20は、何れも、バッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32および34と、それらの円弧形状を成すシューウェブ32および34の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ32および34に一体的に固設された帯板状のシューリム36および38と、それらシューリム36および38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40および42とを備えてそれぞれ構成されている。
【0020】
また、一対のブレーキシュー18および20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44および46によってバッキングプレート16に接近する方向に押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動が可能に保持されている。また、ブレーキシュー18には、長手平板状のブレーキレバー48が重ねられた状態で配設されており、ブレーキシュー18の一端部とブレーキレバー48の基端部48aとは、取付軸50によって、その取付軸50まわりに相対回動可能に連結されている。また、ブレーキレバー48は、平板状の金属板例えば綱板から打ち抜かれ且つ例えば所定部位に絞り加工すなわち局所的曲げ加工等が施されて製造されたプレス部品である。
【0021】
図1乃至図3に示すように、ブレーキレバー48の先端部48bには、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによってそのブレーキレバー48の先端部48bが図1に示す矢印F1方向に回動するように引っ張られるブレーキケーブル52が備えられている。
【0022】
また、図1乃至図3に示すように、ブレーキケーブル52には、そのブレーキケーブル52のブレーキレバー48側の端部においてその端部にかしめにより固設されたブレーキケーブル50の直径Aよりも大径の掛止部材54と、そのブレーキケーブル52の周囲にコイル状に巻回され且つ与圧状態で配設されたリターンスプリング56とが備えられ、そのリターンスプリング56の弾性復帰力によってブレーキレバー48の先端部48bは図1の矢印F1方向と逆方向へ戻るように常時付勢されている。
【0023】
掛止部材54がブレーキケーブル52の端部に固定される前において、掛止部材54は、例えば中心部にブレーキケーブル52を挿通させる挿通穴54aを有した厚肉円筒形状であり、その挿通穴54a内にブレーキケーブル52のブレーキレバー48側の端部を挿通させてその厚肉円筒形状の外周面を径方向に加圧することによってその掛止部材54をブレーキケーブル52の端部にかしめ着けたものである。図3に示すように、ブレーキケーブル52にかしめ着けられた掛止部材54は、その断面形状が略四角形状にかしめられたことによってその外周面に平坦に形成された4つの側面52bとそれら側面52bに直交する一対の底面52cとを有するように、略四角柱形状に形成されている。また、図3に示すように、掛止部材54の断面において、その中心Cを通るその掛止部材54の径において、最大である部分を最大径B1とし、最小である部分を最小径B2とする。
【0024】
図1乃至図3に示すように、ブレーキレバー48の先端部48bには、その先端部48bの幅方向の中央においてその先端部48bの長手方向に伸びるように貫通した、ブレーキケーブル52の直径Aより大きく且つ掛止部材54の断面の最小径B2より小さい幅寸法D1を有する長手貫通穴48cと、その長手貫通穴48cのブレーキレバー48の基端部48a側の端部に設けられた、ブレーキケーブル52の掛止部材54を挿通可能にその掛止部材54の断面の最大径B1より大径の直径D2を有する円形状の大径穴部48dと、その先端部48bの長手貫通穴48cを挟んで対向する一対の長手状部L1,L2のうちバッキングプレート16の内周側の長手状部L2が局所的なプレス曲げ加工例えば絞り加工によりバッキングプレート16に接近する方向に局部的に凹む凹溝48eが形成されることによって、長手状部L2の一部がバッキングプレート16に接近する方向に局部的に突き出された突出部48gと、そのブレーキレバー48の先端部48bにおけるバッキングプレート16の外周側の側面48hの一部がブレーキシュー18のシューリム36の内周面36aに接近する方向に突出された突部48iとが一体に備えられている。
【0025】
また、図1に示すように、ブレーキレバー48の先端部48bに設けられた突部48iがブレーキシュー18のシューリム36の内周面36aに当接された状態において、そのブレーキレバー48の先端部48bにおける突出部48gの凹溝48eと長手貫通穴48cの一部と大径穴部48dとが、ブレーキシュー18のシューウェブ32の内周縁よりもバッキングプレート16の内周側に位置するように配置される。
【0026】
図2および図3に示すように、ブレーキレバー48の突出部48gのバッキングプレート16の外周側の側面は、ブレーキケーブル52の掛止部材54を受け止める着座面48jとして機能している。図3に示すように、ブレーキレバー48の厚み方向における突出部48gの凹溝48eの深さEは、ブレーキレバー48の厚み距離E1と、ブレーキケーブル52の半径A/2と、掛止部材54の断面の最小径B2の半分とを合計した距離に設定されている。また、図2および図3に示すように、ブレーキレバー48の突出部48gにおいて、その突出部48gのバッキングプレート16の外周側の側面すなわち着座面48jと、リターンスプリング56のブレーキレバー48側の端部が受け止められる、突出部48gのバッキングプレート16の内周側の側面48fとの間の距離D3は、ブレーキレバー48の厚み距離E1より長く設定されている。
【0027】
図4および図5は、ブレーキレバー48の突出部48gにブレーキケーブル52の掛止部材54を掛け止めるブレーキケーブル52の組付方法を説明する図である。以下において、そのブレーキケーブル52の組付方法を説明する。
【0028】
図4および図5に示すように、ドラムブレーキ10に一対のブレーキシュー18および20と、リターンスプリング24と、スプリング30と、ブレーキレバー48等とが組み付けられた状態において、ブレーキレバー48の先端部48bに設けられた大径穴部48dを目視しながら、ブレーキケーブル52の掛止部材54をその大径穴部48d内に挿通させる。また、図4および図5に示されている一点鎖線のブレーキケーブル52および掛止部材54は、上述したブレーキケーブル52の掛止部材54が大径穴部48d内に挿通された状態を示すものである。
【0029】
次に、図4および図5の実線に示すように、掛止部材54を大径穴部48d内に挿通させて、ブレーキケーブル52を長手貫通穴48cの内周面に沿ってその長手貫通穴48cの大径穴部48dとは反対側の端部に接近する方向すなわち矢印F2方向に移動させる。そして、図2および図3に示すように、そのブレーキケーブル52を凹溝48eの底面48lに接触するように矢印F3方向に倒して、掛止部材54のブレーキケーブル52の先端側とは反対側の底面54cを突出部48gの着座面48jに向かい合わせて、リターンスプリング56の付勢力によってその底面54cを突出部48gの着座面48jに当接させる。
【0030】
これによって、ブレーキケーブル52の掛止部材54がブレーキレバー48の突出部48jの着座面48jに受け止められて、ブレーキレバー48の突出部48gにブレーキケーブル52の掛止部材54が掛け止められる。
【0031】
以上のように構成されたドラムブレーキ10によれば、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによってブレーキケーブル52に操作力が発生すると、ブレーキレバー48の先端部48bが矢印F1方向に回動してブレーキシュー20がシュー間隙自動調節機構26に押されると共にブレーキシュー18が取付軸50に押されて一対のブレーキシュー18および20のライニング40および42がブレーキドラム12の内周面14に当接する。
【0032】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキレバー48の先端部48bには、長手貫通穴48cの周辺部におけるバッキングプレート16の内周側の一部がプレス加工の絞り加工によりそのバッキングプレート16に接近する方向に局部的に凹む凹溝48eが形成されることによって、その長手貫通穴48cの内周面の一部およびブレーキレバー48の先端部48bにおけるバッキングプレート16の内周側の側面48fの一部がバッキングプレート16に接近する方向に突き出された突出部48gが備えられ、その突出部48gのバッキングプレート16の外周側の側面には、ブレーキケーブル52の掛止部材54を受け止める着座面48jが備えられている。このため、ブレーキケーブル52の掛止部材54がブレーキレバー48の大径穴部48d内に挿通され、そのブレーキケーブル52が長手貫通穴48cの内周面に沿って突出部48gに移動されてその突出部48gの着座面48jに掛止部材54が受け止められることによって、ブレーキケーブル52の掛止部材54がブレーキレバー48の先端部48bに設けられた突出部48gに掛け止められる。また、ブレーキレバー48の先端部48bに設けられた突出部48gは、長手貫通穴48cの周辺部におけるバッキングプレート16の内周側の一部が局所的なプレス曲げ加工によってその一部をバッキングプレート16に接近する方向に突出させたものであるため、従来のように掛止部材54を掛け止めるためにブレーキレバー48の先端部48bに曲成されるための平板状の金属部分を余分に設ける必要がなくなるので、ブレーキレバー48の製造時の金属材料の量が従来に比較して少なくされ、材料歩留りが向上させられる。また、ドラムブレーキ10の制動時において、ブレーキレバー48の突出部48gがブレーキケーブル52の掛止部材54によって引っ張られると、その引っ張られる方向における突出部48jの厚みD3が、長手貫通穴48cのバッキングプレート16の内周側の内周面の一部からブレーキレバー48の先端部48bにおけるバッキングプレート16の内周側の側面48fの一部までとブレーキレバー48の厚みE1より好適に厚くなるので、ブレーキケーブル52の掛止部材54が掛け止められるブレーキレバー48の先端部48bの強度が従来に比較して向上する。したがって、突出部48gの着座面48jに受け止められた掛止部材54の軸心がブレーキケーブル52の軸心に対して傾くことが防止され、ブレーキケーブル52が引っ張られた際における突出部48gのバッキングプレート16の内周側の側縁部に当接するブレーキケーブル52の一部に応力が集中しなくなりそのブレーキケーブル52の耐久性が高められる。
【0033】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキレバー48の厚み方向における凹溝48eの深さEは、ブレーキレバー48の厚み距離E1と、ブレーキレバー48のバッキングプレート16側の面48kに当接する掛止部材54の側面54bから凹溝48eの底面48lに当接するブレーキケーブル52の外周面までの距離E2とを合わせたものに設定されたものである。このため、ブレーキケーブル52の掛止部材54がブレーキレバー48の突出部48gに掛け止められると、掛止部材54の側面54bがブレーキレバー48のバッキングプレート16側の面48kに当接されると共に、ブレーキケーブル52が凹溝48eの底面48lに当接されるので、ブレーキケーブル52の掛止部材54がブレーキレバー48の先端部48bに掛け止められてその掛止部材54のブレーキケーブル54の先端とは反対側の底面54cが突出部48gの着座面48jに受け止められると、ブレーキレバー48の突出部48gに対するブレーキケーブル52の掛止部材54の動きが規制される。これにより、振動等の意図しない要因によるブレーキレバー48からの掛止部材54の外れの発生が好適に抑制される。
【0034】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキレバー48の先端部48bには、そのブレーキレバー48の先端部48bにおけるバッキングプレート16の外周側の側面48hの一部が、突出部48gおよび長手貫通穴48cの一部がブレーキシュー18のシューウェブ32の内周縁よりもバッキングプレート16の内周側に位置させられるように、ブレーキシュー18のシューリム36の内周面36aへ接近する方向に突出しそのシューリム36の内周面36aに当接する突部48iが一体に備えられている。そのため、ブレーキレバー48の先端部48bに設けられた突部48iによって、作業者は、バッキングプレート16に一対のブレーキシュー18および20とブレーキレバー48等とが組み付けられた状態においても、ブレーキレバー48の先端部48bにおける突出部48gの凹溝48eと長手貫通穴48cの一部と大径穴部48dとが目視できるので、容易にブレーキケーブル52の掛止部材54をブレーキレバー48の突出部48gに掛け止められる。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0036】
たとえば、前述のドラムブレーキ10において、ブレーキケーブル52の掛止部材54の形状は、図2および図3に示すような略四角柱形状であったが三角柱形状、五角柱形状などブレーキケーブル52の断面の径より大きいものであればその掛止部材54の形状はどのようなものであっても良い。また、前述のドラムブレーキ10において、ブレーキレバー48の先端部48bに貫通された大径穴部48dの形状は、円形状であったが、その大径穴部48dの形状はその大径穴部48d内に掛止部材54を挿通させることが可能なものであればその大径穴部48dの形状はどのようなものであっても良い。
【0037】
また、前述のドラムブレーキ10において、 図1に示すように、ブレーキレバー48の先端部48bに設けられた突部48iがブレーキシュー18のシューリム36の内周面36aに当接された状態において、そのブレーキレバー48の先端部48bにおける長手貫通穴48cの一部が、ブレーキシュー18のシューウェブ32の内周縁よりもバッキングプレート16の内周側に位置するように配置されていたが、そのブレーキレバー48の先端部48bにおける長手貫通穴48cの全部が、ブレーキシュー18のシューウェブ32の内周縁よりもバッキングプレート16の内周側に位置するように配置されても良い。
【0038】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
18,20:一対のブレーキシュー
48:ブレーキレバー
48b:先端部
48c:長手貫通穴
48d:大径穴部
48e:凹溝
48f:側面
48g:突出部
48j:着座面
48h:底面
48i:突部
50:取付軸
52:ブレーキケーブル
54:掛止部材
E:凹溝の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設された長手平板状のブレーキレバーと、該ブレーキレバーの先端部をバッキングプレートの内周側に引っ張るブレーキケーブルと、該ブレーキケーブルの先端部に固設された該ブレーキケーブルの断面の径より大径の掛止部材と、該ブレーキレバーの先端部に貫通された該ブレーキケーブルの断面の径より大きく前記掛止部材の径より小さい幅寸法を有する長手貫通穴と、該長手貫通穴の一部に設けられた前記掛止部材の径より大径の大径穴部とを備え、前記ブレーキケーブルの前記掛止部材を前記ブレーキレバーの前記大径穴部内に挿通させて前記ブレーキケーブルを前記長手貫通穴の内周面に沿って移動させることによって、前記ブレーキケーブルの掛止部材を前記ブレーキレバーの先端部に掛け止めるドラムブレーキであって、
前記ブレーキレバーの先端部には、前記長手貫通穴の周辺部における前記バッキングプレートの内周側の一部がプレス加工により該バッキングプレートに接近する方向に局部的に凹む凹溝が形成されることによって、該長手貫通穴の内周面の一部および前記ブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの内周側の側面の一部が前記バッキングプレートに接近する方向に突き出された突出部が備えられ、
前記突出部の前記バッキングプレートの外周側の側面には、前記掛止部材を受け止める着座面が備えられていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記ブレーキレバーの厚み方向における前記凹溝の深さは、前記ブレーキレバーの厚み距離と、前記ブレーキケーブルの掛止部材が前記ブレーキレバーの先端部に掛け止められた状態における前記ブレーキレバーの厚み方向において、前記ブレーキレバーの前記バッキングプレート側の面に当接する前記掛止部材の外周面の一部から前記凹溝の底面に当接する前記ブレーキケーブルの外周面の一部までの距離とを合わせたものに設定されたものである請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記ブレーキレバーの先端部には、該ブレーキレバーの先端部における前記バッキングプレートの外周側の側面の一部が、前記突出部および前記長手貫通穴の全部或いは一部が前記一方のブレーキシューのシューウェブの内周縁よりも前記バッキングプレートの内周側に位置させられるように、前記一方のブレーキシューのシューリムの内周面へ接近する方向に突出し該シューリムの内周面に当接する突部が一体に備えられるものである請求項1または2のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7458(P2013−7458A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141203(P2011−141203)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】