説明

ドリップ吸収シート

【課題】 構成が簡易であるため製造、加工が容易で、且つドリップ吸収性と液戻り性に優れたドリップ吸収シートを提供する。
【解決手段】 セルロース系繊維(A)と、第1の合成繊維(B1)と、該第1の合成繊維とは異なる材質からなる第2の合成繊維(B2)と、バインダー(C)とを含み、坪量100〜200g/m2、厚さ1〜5mmであるドリップ吸収シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリップ吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肉、魚等の食材の包装保存、肉、魚、野菜等の水切り等による調理の下拵え、まな板、調理器具、食器、調理台、シンク等の拭き取りや水気取り、油コシ、油切り等に、不織布や抄紙シートを用いた、いわゆる厨房用紙製品(キッチンペーパー、キッチン用シート等と称されることもある)が使用されている。
【0003】
なかでも、魚や肉等に代表される生鮮食品は、その鮮度を保つために冷凍して流通、販売する機会が増えてきている。また、一般家庭でもこうした生鮮食品を冷凍保存することが行われている。冷凍された生鮮食品を解凍する際に、「ドリップ」と呼ばれる液汁が流れだし、幾つかの問題を引き起こす。すなわち、ドリップは、生鮮食品の成分と一緒に流出してしまうので、多すぎる場合には旨味を逃がすことになりかねない。また、生鮮食品にドリップが接触すると、生鮮食品の変色を招くこととなる。また、食したときのテクスチャーが柔らかく、かつ水っぽくなり、食感や味の低下を招く。さらに、布巾、サラシ、又はキッチンペーパ等でドリップを吸収しようとすると、布巾等の全体に拡散し、見た目も悪く、嫌悪感や不快感を催すこととなる。
【0004】
解凍時のドリップ発生を完全に防止することは困難であるため、従来は、急速冷凍により細胞組織内に生成される氷結晶をなるべく小さくして解凍時のドリップ量を減少させる方法や、発生したドリップと食品との接触を極力さける方法(例えば、シート等に冷凍された食品を包む、ドリップをシート等でふき取る、網の上で冷凍された食品を解凍しドリップを滴下させる等)等により対処されていた。そのうち、ドリップを吸収するシートに関する技術として、特許文献1には、制臭剤と吸水ポリマーを含む吸収シートが開示されている。また、特許文献2には、所定形状のドリップ吸収シートを用いて食用肉類等を包装することが開示されている。また、特許文献3には、吸収体と表面材とを重ねた特定の吸水能を有するドリップ吸収シートが開示されている。また、特許文献4には、所定の液吸収層、表面層、裏面層を有する、食品用のトレイに敷設されて使用される液吸収シートが開示されている。
【特許文献1】特開2001−198155号公報
【特許文献2】特開平5−310273号公報
【特許文献3】特開平11−243850号公報
【特許文献4】特開2002−300848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献のシートは複数の層から構成されるため構成が複雑となり、食品を包む際のしなやかさに欠ける。吸収材の脱落を完全に抑止することも困難である。更に、ドリップ吸収量や吸収したドリップの逆流抑制能(液戻り性)も必ずしも満足できるものではない。そのため、解凍した食品の食感が損なわれることがある。
【0006】
本発明の課題は、構成が簡易であるため製造、加工が容易で、且つドリップ吸収性と液戻り性に優れたドリップ吸収シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セルロース系繊維(A)と、第1の合成繊維(B1)と、該第1の合成繊維とは異なる材質からなる第2の合成繊維(B2)〔以下、(B1)と(B2)を合わせて合成繊維(B)という場合もある〕と、バインダー(C)とを含み、坪量100〜200g/m2、厚さ1〜5mmであるドリップ吸収シートに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構成が簡易であるため製造、加工が容易で、且つドリップ吸収性と液戻り性に優れたドリップ吸収シートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<セルロース系繊維(A)>
本発明に用いられるセルロース系繊維(A)としては、綿、パルプ、レーヨン、キュプラ、リヨセル等が挙げられ、特に吸水性能、価格の面からパルプが好ましい。パルプは、広葉樹、針葉樹等のパルプチップから得られるクラフトパルプ(KP)等が挙げられる。
【0010】
<合成繊維(B)>
本発明では、異なる材質からなる2種の合成繊維(B1)、(B2)が用いられる。なお、「異なる材質」とは、物質として相違すると認識し得るものであれば良く、例えば繊維原料となる高分子化合物の構成モノマーが異なることはもちろんのこと、構成モノマーが同じであっても、構成モノマーのモル比が異なるもの、高分子化合物の分子量の異なるもの、高分子化合物の融点等の物性が異なるものは、「異なる材質」として取り扱うものとする。異なる材質からなる2種の合成繊維(B1)、(B2)は、融点が異なることが好ましい。合成繊維(B1)、(B2)は別々に用いてもよいが、(B1)と(B2)の複合繊維、特に芯鞘構造を形成するものが好ましい。中でも芯部の方が高融点であるものが好ましい。融点の差は10〜130℃、更に20〜80℃、特に30〜65℃であることが、繊維の製造のしやすさ、繊維の扱いやすさ、コストの面から、好ましい。また、(B1)と(B2)の重量比は、(B1)/(B2)=10/90〜90/10、更に30/70〜70/30が好ましい。それぞれの合成繊維としては、ポリエチレン(以下、PEと表記する)、ポリプロピレン(以下、PPと表記する)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記する)等のポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル等の高分子化合物からなるものが挙げられる。安全性、加工性、価格等の面から、オレフィン系繊維、ポリエステル系繊維が好ましく、PE、PP、PETが更に好ましく、PPとPE、PETとPE、第1のPETと第2のPET(好ましくは第1のPETと融点が異なるもの)の組み合わせがより好ましく、PPとPE、第1のPETと第2のPET(好ましくは第1のPETと融点が異なるもの)の組み合わせが特に好ましい。更には、芯/鞘がPP/PEである複合繊維、芯/鞘が第1のPET/第2のPET(第1のPETと融点等が異なる)である複合繊維が最も好ましい。なお、3種以上の合成繊維を使用することもできる。
【0011】
合成繊維(B)は、短繊維であることが好ましく、繊維長は1〜10.5mmm、更に2.5〜6mmが好ましい。また、繊維径は1〜6.6dtexが好ましく、更に1.5〜2.2dtexが好ましい。
【0012】
<バインダー(C)>
本発明において、バインダー(C)は、ドリップ吸収シートの成形に必要であると共に、引張強度の付与、及び毛羽立ちやパルプ粉の発生防止の効果も有する。特に、バインダーをドリップ吸収シート表面のみではなく内部まで均一に染み込ませることにより、前記した効果をより顕著に得ることができる。バインダー(C)の量は、繊維間の結合性と吸収性能の両立の点から、ドリップ吸収シート重量基準で、10〜20重量%、更に12〜17重量%が好ましい。
【0013】
バインダー(C)としては、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、エポキシ系、酢酸ビニル系、合成ゴム系などが挙げられる。特に、エアレイド法に適する、風合いを維持できる、ドリップ吸収シート内部まで浸透しやすい、臭いが少ない、等の点でアクリル系バインダーが好ましい。
【0014】
<ドリップ吸収シート>
セルロース系繊維(A)と合成繊維(B)の重量比(B)/(A)の値が小さくなるほど吸水性及び風合いが良くなり、一方この値が大きくなるほど湿潤時の強度は高くなる傾向を示す。本発明では、これらの特性をバランス良く満たすために、〔(B1)+(B2)〕/(A)重量比は、0.2〜1.5、更に0.5〜1が好ましい。
【0015】
本発明のドリップ吸収シートは、公知の不織布の製造に準じて、エアレイド法、スパンレース法、湿式抄紙法、エアースルー法などにより製造されたウェブ(繊維マット)を用いて製造できるが、風合い、嵩高性、強度等の総合面から、エアレイド法により製造されたウェブからなることが好ましい。本発明のドリップ吸収シートは、セルロース系繊維(A)、合成繊維(B)及びバインダー(C)とを含む不織布からなることができる。
【0016】
エアレイド法(エアレイ法と称されることもある)は、ウェブの乾式製造法の一つであり、短繊維の塊を乾燥状態で機械的にほぐし、単繊維化して、ウェブを連続的に形成した後、バインダーを散布し、更にその後ドライヤー工程を経て、ウェブ中の繊維間同志を固着させるものである。エアレイド法は水を使用せず、空気によりシート化するので、シート内に大量の空気層を保持することが可能となる。このため、低坪量での高い嵩高性(ふわっと感)が得られ、また、高吸収性、ソフトな肌触り感などが得られる。本発明でも、エアレイド法による場合、繊維の本質的な結合(ボンディング)はバインダー(C)によりなされるが、合成繊維(B)の少なくとも一方に熱融着性あるいは熱可塑性の繊維を用い、加熱工程を経てサーマルボンディングさせることが好ましい。
【0017】
本発明のドリップ吸収シートは、単一層からなるものであっても、複数の層を積層した積層型であってもよい。積層型の場合、少なくとも1つの層がセルロース系繊維(A)と、2種以上の合成繊維からなる合成繊維(B)と、バインダー(C)とを含む層であればよいが、全ての層がかかる層からなることが好ましい。積層型の場合、各層における(A)、(B)、(C)の比率は異なっていても良い。また、単層であっても、(A)、(B)、(C)の比率が層中で変化する、すなわち比率が勾配を持つような層からなるものであってもよく、更にはこのような層の積層型も可能である。特に、エアレイド法では、(A)、(B)、(C)を含む層の積層構造あるいは(A)、(B)、(C)比率が勾配を持つ構造(見かけ上単層であってもよい)を容易に形成できる。
【0018】
本発明のドリップ吸収シートは、坪量が100〜200g/m2であり、更に120〜180g/m2、140〜160g/m2であることが、吸水量、引張強度、使い勝手(コシの強さ)が良好となることから、好ましい。この坪量は、JIS P 8124に従って測定される値である。
【0019】
また、本発明のドリップ吸収シートの厚さが1〜5mmであり、更に1.5〜4mm、特に2〜3.5mmであることが好ましい。この厚さは、シートを4枚重ねにした状態でミツトヨ製リニアゲージ(No.2046)を使用して測定して得られる値を4で割ったもの(1枚あたりの厚さに換算したもの)である。これを厚さT1とする。
【0020】
また、本発明のドリップ吸収シートの厚さ変化量は、ドリップ吸収性、食品類との密着性の観点から、0.2〜1mm、更には0.3〜0.8mm、特に0.4〜0.7mmであることが好ましい。この厚さ変化量は次の方法で測定されたものである。
【0021】
<厚さ変化量>
直径4.8cm、厚さ1mmのアクリル製の円板2枚に挟んだドリップ吸収シートの厚さT2(T2は円板2枚の厚さを引いた数値)を、ミツトヨ製リニアゲージ(No.2046)を使用して測定する。前記厚さT1を用い、T2−T1を厚さ変化量(mm)とする。
【0022】
また、本発明のドリップ吸収シートは、吸水倍率が12以上、更に14以上、特に15以上であることが好ましい。この吸水倍率は次の方法で測定されたものである。ドリップ吸収シートを1辺が7cmの正方形に裁断し(厚さ0.5〜0.7mm)、その重量W0(g)を測定する。該ドリップ吸収シートを大過剰の水(23℃)中に20秒間浸漬した後、大気中23℃、湿度50%RHで30秒間放置後の重量W1(g)を測定する。W1−W0とW0との比(W1−W0)/W0を吸水倍率とする。
【0023】
また、本発明のドリップ吸収シートは、生鮮魚介類および肉類などから出てくるドリップを素早くかつ適度に吸収するため、吸水時間が0.3〜5秒、更には0.8〜4秒、特には1〜3秒であることが好ましい。この吸水時間は次の方法で測定されたものである。
【0024】
<吸水時間>
先端が平らで内径8mmのロートを使用し、該ロート先端とドリップ吸収シートを、該シートがつぶれない程度に接触させた後、生理食塩水50gをロートに一気に流し込む。ロート内の生理食塩水が無くなるまでの時間を測定する。
【実施例】
【0025】
実施例1
セルロース系繊維(A)としてパルプを、合成繊維(B)として芯が融点165℃のPP、鞘が融点130℃のPEである芯鞘構造を有する、繊維長5.1mm、繊維径2.1dtexの複合繊維を(B)/(A)の重量比が1となるように用い、また、バインダー(C)としてアクリル系バインダーを、(A)と(B)と(C)の総量中、15重量%用いて、エアレイド法により坪量が150g/m2の不織布を製造した。これを所定形状に裁断したものを評価用サンプルとした。
【0026】
実施例2
実施例1において、合成繊維(B)として芯が融点255℃のPET、鞘が融点200℃のPETである芯鞘構造を有する、繊維長5.1mm、繊維径1.7dtexの複合繊維を用い、且つ(B)/(A)の重量比を0.45とした以外は同様にして評価用サンプルを得た。
【0027】
比較例1
実施例1において、合成繊維(B)を使用しない以外は同様にして評価用サンプルを得た。
【0028】
比較例2
表面層が坪量20g/m2の紙、吸水層が坪量100g/m2のパルプ、最下層が坪量20g/m2のPEフィルムからなる積層体を作製し、所定形状に裁断したものを評価用サンプルとした。
【0029】
比較例3
表面層が坪量30g/m2のPPサーマルボンド不織布、吸水層が坪量80g/m2のパルプと20g/m2のポリマー(ポリアクリル酸塩架橋物、重量平均分子量75000)からなる吸水体(前記パルプ/前記ポリマー=4/1、重量比)、最下層が坪量20g/m2のPEフィルムからなる積層体を作製し、所定形状に裁断したものを評価用サンプルとした。
【0030】
<性能評価>
上記で得られたドリップ吸収シートの評価用サンプルについて、吸水倍率、吸水時間、厚さ、厚さ変化量を前記の方法で測定した。また、冷凍した食品を解凍する際の評価として、以下の方法で外観、食感、味を評価し、シートの製造性、加工性を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0031】
(1)解凍した食品の外観、食感、味の評価
冷凍マグロ(10cm×10cm×1cm)をドリップ吸収シートの評価用サンプル(32cm×12cm)で包む。その際、上下1cmずつの余白をもってサンプルの短辺に冷凍マグロの一端を揃え、その状態で冷凍マグロを一周するように包み、平面で評価用サンプルが重なるようにした。これを5℃で自然解凍した後に、外観、食感、味を以下の3段階で評価した。
*外観
○:ちょうどよい、△:少し湿り気がある、×:湿り気がある
*食感
○:硬すぎも柔らかすぎもせず、ちょうどよい食感、△:少し硬いか又は柔らかい食感、×:硬すぎる又は柔らかすぎる食感
*味
○:おいしい、△:少し生臭い、×:生臭い
【0032】
(2)製造性
ドリップ吸収シートの製造工程の簡便性を以下の3段階で評価した。
○:一工程で製造でき、かつドリップ吸収シートの構成が単純であり、簡便性に優れる
△:一工程で製造できるが、ドリップ吸収シートの構成が複雑であり、やや簡便性に劣る
×:製造に複数工程を要し、簡便性に劣る
ここで、一工程とは、単一の装置で1回加工することを意味し、複数工程とは目的の異なる複数の装置を要するか、又は単一の装置で2回以上加工することを意味する。
【0033】
(3)加工性
ドリップ吸収シートの加工のしやすさを、以下の3段階で評価した。
○:任意の大きさに容易に裁断でき、かつ折り畳みやすく、加工性に優れる
△:任意の大きさに容易に裁断できるが、折り畳みにくく、加工性にやや劣る
×:任意の大きさに裁断すると素材の脱落が発生し、加工性に劣る
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維(A)と、第1の合成繊維(B1)と、該第1の合成繊維とは異なる材質からなる第2の合成繊維(B2)と、バインダー(C)とを含み、坪量100〜200g/m2、厚さ1〜5mmであるドリップ吸収シート。
【請求項2】
(A)と、(B1)と(B2)の合計との重量比が、〔(B1)+(B2)〕/(A)で0.2〜1.5である請求項1記載のドリップ吸収シート。
【請求項3】
(A)が、パルプ繊維である請求項1又は2記載のドリップ吸収シート。
【請求項4】
(B1)及び/又は(B2)が、オレフィン系繊維である請求項1〜3の何れか1項記載のドリップ吸収シート。
【請求項5】
(B1)及び/又は(B2)が、ポリエステル系繊維である請求項1〜4の何れか1項記載のドリップ吸収シート。
【請求項6】
(B1)と(B2)とが、芯鞘構造を形成する請求項1〜5の何れか1項記載のドリップ吸収シート。
【請求項7】
エアレイド法により製造されたウェブからなる請求項1〜6の何れか1項記載のドリップ吸収シート。

【公開番号】特開2006−152511(P2006−152511A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348475(P2004−348475)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】