説明

ドリップ吸収シート

【課題】鮮魚等を包んだ時の体積増加がわずかであり且つ、鮮魚等の冷凍、解凍後に発生するドリップを適度に吸収するが、長期間冷凍してもドリップを吸収しすぎて食感が低下することの無いシートを、はさみで切断して使用可能な形態で実現することである。
【解決手段】 平均繊維長が20mm未満のパルプ繊維と平均繊維長が30mm以上の疎水性の熱可塑性樹脂繊維と平均繊維長20mm以上の親水性繊維を含み厚さが0.5mm以下である不織布シートからなり、吸水戻り量が10〜100g/mであることを特徴とするドリップ吸収シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鮮魚、精肉等を包んで冷凍保存するための吸収シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の節約志向、安全志向、内食志向により、家庭に於いて食材の保存をうまく活用したい傾向が高まっており、購入した食品を使いきれなかった際に、これらの食品を冷凍保存し、食する前に解凍して使用される機会が多くなってきている。
【0003】
解凍の方法としては、(1)5℃前後の冷蔵室で解凍する方法、(2)室温で解凍する方法、(3)流水で解凍する方法、(4)電子レンジで解凍する方法、等がある。これらの解凍の際には、方法によって量の多少はあるが、鮮魚、精肉等からドリップと呼ばれる液体が流出する。このドリップが鮮魚等の下ごしらえ中に、キッチンを汚したり、生臭みの原因となっており、魚の取扱いにストレスを感じる原因の上位に挙げられる。鮮魚等には約70〜80%の水分が含まれており、これらの水分は、鮮魚等を構成するたんぱく質と強く結びついている結合水と、たんぱく質との結合が弱い自由水に分けられる。自由水は家庭用冷蔵庫の冷凍室温度(約−20℃)で凍結し膨張するため細胞膜を破壊し、解凍時に細胞中の水溶性成分を伴って流出する。この流出液がドリップである。また、鮮魚等を長期間冷凍保存すると、食材内部のpH変化により、結合水が自由水へと変化し、自由水の量が増加するため、細胞内に多くの自由水が残り、解凍後の食材は水っぽさを感じるという不具合もあった。
【0004】
鮮魚等から流出するドリップを吸収するシートの提案がなされており、特許文献1、特許文献2には熱可塑性繊維不織布及びパルプ繊維を貼りあわせたシートからなるドリップ吸収シートが、また特許文献3には、高吸水性ポリマーを含有する吸収紙を吸収層に用い、透水性の表面材、非透水性の裏面材で挟んだ構成の食品用吸液シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−74429号公報
【特許文献2】実開平2−29722号公報
【特許文献3】特開平10−296079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1や特許文献2に記載されている構成のドリップ吸収シートでは疎水性繊維とパルプ繊維との絡み合いがないため、繊維間に保持する水分量が大きくない。従って、シートの厚みを0.5mm以下とすると、冷凍保存した鮮魚等を解凍する際に出る多量のドリップを吸収しきれない。そして、鮮魚等の荷重がシートに加わると吸収したドリップが魚表面に戻ってしまうために、鮮魚等が生臭みや水っぽくなるという課題を有している。その一方、シート厚みを0.5mmよりも厚くすることでドリップ吸収量を増やそうとすると、鮮魚等を包んだ時に体積増加率が大きくなり冷凍庫の庫内体積を占有するという新たな問題が発生する。
【0007】
また、特許文献3に記載のシートでは、ドリップの吸収量が高く、解凍時に出るドリップを吸収しても鮮魚等の荷重でドリップが魚表面に戻り難いので、鮮魚等の生臭みや水っぽくなるといった課題は解決するものの、鮮魚等を長時間保存した場合には、鮮魚等の水分を吸収しすぎて、ぱさぱさした食感となったり、食材表面にひび割れを生じるといった問題が有った。又、吸収シートが嵩高いため、鮮魚等を包んだ時の体積増加が大きくなり、冷凍庫の庫内体積を占有するという問題や、鮮魚等の大きさに合わせて吸収シートを切断すると高吸水性ポリマーが肉魚類の表面に移行するという使い勝手上の問題があった。
【0008】
このため、鮮魚、精肉等の冷凍・解凍時に発生するドリップを吸収して魚表面に戻りにくく、かつ吸収しすぎない、被包装物の大きさにあわせて任意の大きさに調整でき、冷凍庫の庫内体積を有効に使える体積増加が少ないドリップ吸収シートはいまだ発明されていなかった。
【0009】
以上のような問題に鑑み、本発明は、鮮魚、精肉等の冷凍・解凍時に生成するドリップを適度に吸収することで、鮮魚等が生臭くなったり水っぽくなるもしくは、ぱさぱさした食感や食品表面のひび割れが生じるのを抑制し、かつ被包装物の大きさにあわせて、吸収シートの大きさを任意に変えられる点や冷凍庫の庫内体積を有効に使える点で使い勝手に優れるドリップ吸収シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、厚み0.5mm以下の不織布シートで、シートの構成がパルプ繊維及び疎水性熱可塑性樹脂繊維及び親水性繊維からなり、吸水戻り量が100g/m以下であれば、高いドリップ吸収性能と優れた使い勝手を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のドリップ吸収シートは、
(1)平均繊維長が20mm未満のパルプ繊維、平均繊維長が30mm以上の疎水性の熱可塑性樹脂繊維、及び平均繊維長が20mm以上の親水性繊維を含み厚さが0.5mm以下である不織布シートからなり、吸水戻り量が100g/m以下であることを特徴とするドリップ吸収シートである。
また、
(2)(1)に記載のドリップ吸収シートにおいて、不織布シートが、平均繊維長が20mm未満のパルプ繊維を40〜45重量%、平均繊維長が30mm以上の疎水性の熱可塑性樹脂繊維を50〜55重量%、平均繊維長が20mm以上の親水性繊維を5〜10重量%含むこととしてもよい。
また、
(3)(1)又は(2)に記載のドリップ吸収シートにおいて、平均繊維長が30mm以上の疎水性の熱可塑性樹脂繊維がポリエチレンテレフタレート繊維であり、平均繊維長が20mm以上の親水性繊維がレーヨン繊維であることとしてもよい。
【0012】
本発明の吸収シートは、鮮魚等の冷解凍時に生成するドリップや自由水を適度に吸収し、解凍した鮮魚等の生臭みや水っぽさもしくは、ぱさぱさした食感や食品表面のひび割れが生じるのを抑制することができる。また、鮮魚等を包んだときの体制増加率が小さいため、冷凍庫内の容積を有効に活用することができる。さらに、切断時の粉漏れ量が少ないため、使用する鮮魚等の大きさに合わせて適宜吸収シートを切断して使用することができるため、優れた使い勝手を発揮できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鮮魚、精肉等の冷凍・解凍時に生成するドリップを適度に吸収することで、鮮魚等が生臭くなったり水っぽくなるもしくは、ぱさぱさした食感や食品表面のひび割れが生じるのを抑制し、かつ被包装物の大きさにあわせて、吸収シートの大きさを任意に変えられる点や冷凍庫の庫内体積を有効に使える点で使い勝手に優れるドリップ吸収シートの提供をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述したように、鮮魚等の生鮮食材を冷凍保存し、解凍時に発生する生臭みや水っぽさを解消するためには、鮮魚等から発生するドリップならびに生鮮食材内の自由水を効率的に吸収させる必要がある。なぜならば、一般に魚の生臭みの原因は、保存期間中に魚内に生成する水溶性のトリメチルアミンやジメチルアミンであると言われており、前記化合物が溶解したドリップそのものが生臭み臭を発生するからである。また、冷凍解凍後に魚内に残る自由水の量が魚の水っぽさに影響するので、魚表面に残るドリップを低減させることが魚の生臭みを抑制し、魚内の自由水量を少なくすることが魚の水っぽさの解消につながることとなる。
【0015】
本発明のドリップ吸収シートは、平均繊維長が20mm未満のパルプ繊維、平均繊維長30mm以上である疎水性の熱可塑性樹脂繊維、及び平均繊維長が20mm以上の親水性繊維とを含む構成よりなる。好ましい組成割合は、パルプ繊維が40〜45重量%で、疎水性熱可塑性樹脂繊維が50〜55重量%で、長繊維親水性繊維5〜10重量%である。
【0016】
パルプ繊維が40重量%以上だとシート厚みが0.5mm以下でドリップや自由水を十分吸収することが出来る。疎水性熱可塑性樹脂繊維が50重量%以上だと、吸水戻り量100g/m以下を達成しやすく、ドリップが魚表面に残留せず、みずっぽさや生臭くなるという問題が生じにくい。長繊維の親水性繊維が5〜10重量%の範囲であるとシート表面に付着した水分がシート内部に誘導されやすいので、凍結するまでのわずかな時間で鮮魚等中の自由水を吸収することが可能となる。これにより、水分凍結による細胞破壊を更に抑制することが可能となり、その結果、ドリップの生成量をより抑制することができる。
【0017】
好ましい構造としては、疎水性の熱可塑性樹脂繊維を表面に、吸水性の高いパルプ繊維を内面に重ねてから両方の繊維が絡み合うように不織布シートを形成し、表面に疎水性の熱可塑性樹脂繊維が多く分布し、中心部にパルプ繊維が多く分布した構造である。表面の疎水性の熱可塑性樹脂繊維の分布と繊維間の空間を調整することで、前述の吸水戻り量、接触角変化量を達成しやすくすることができる。さらに、中心のパルプ繊維の分布と繊維間の空間により、前述の吸水量を達成しやすくすることができる。また、更に表面に分布した熱可塑性樹脂繊維と中心部に分布したパルプ繊維の両方に長繊維の親水性繊維が絡み合うように構成されていると、表面に付着したドリップが中心部に誘導されやすいので、前述の接触角変化量を達成しやすく、中心部に多数分布するパルプ繊維にすみやかに吸水させることができる。これにより、鮮魚等を冷凍庫保存する場合において、凍結するまでのわずかな時間で鮮魚等中の自由水を吸収することが可能となるため、水分凍結による細胞破壊を更に抑制することが可能となり、その結果、ドリップの生成量をより抑制することができる。
【0018】
このためには親水性繊維の平均繊維長は20mm以上であるとドリップの誘導が容易になり好ましい、より好ましくは、30mm以上である。
【0019】
パルプ繊維の平均繊維長は20mm未満が好ましい。20mm未満であるとパルプ繊維同士の空間が増し、その空間に多くのドリップを取り込むことが出来るので、前述の吸水量を達成しやすいので好ましい。
【0020】
疎水性の熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長は30mm以上であると、パルプ繊維と絡み合いやすいので、繊維の空間に取り込んだドリップを保持しやすくなるので好ましい。又、シート切断時に発生する粉漏れ量を抑制することが出来るので好ましい。
【0021】
本発明の吸収シートは10cm×10cmの大きさに切り出したシートからの粉漏れ量は10mg/100cm以下であることが望ましい。粉漏れ量が10mg/100cm以下であると、シートを切断して肉魚類を包む使用方法を食品の衛生性の観点から採用できるので好ましい。
【0022】
好ましいパルプ繊維としては、公知の針葉樹パルプや広葉樹パルプを用いることができ、特に針葉樹パルプ繊維が好ましい。
【0023】
好ましい疎水性の熱可塑性樹脂繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等が挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。
【0024】
好ましい長繊維の親水性繊維としてはレーヨン繊維等が挙げられる。又、平均繊維長が20mm以上の疎水性繊維表面に界面活性剤等を塗布することによって親水性を付与した親水性繊維も好ましい例として挙げられる。この際に用いられる疎水性繊維の例としてはポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等が挙げられる。界面活性剤の例としては非イオン系のポリオキシエチレンアルキルアミン,ポリオキシエチレンアルキルアミド,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル,グリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステルなどであり、またアニオン系のアルキルスルホネート,アルキルベンゼンスルホネート,アルキルサルフェート,アルキルフォスフェートなどである。またカチオン系の第4級アンモニウムクロライド,第4級アンモニウムサルフェート,第4級アンモニウムナイトレートであり、また両性系のアルキルベタイン型,アルキルイミダゾリン型,アルキルアラニン型等が挙げられる。
【0025】
本発明のドリップ吸収シートは、厚みが0.5mm以下の不織布シートで、かつ吸水戻り量が10g/m以上100g/m以下であることが肝要で有る。厚みが0.5mm以下の吸収シートで鮮魚等を包むと、包装された鮮魚等の体積増加が抑制され、家庭の冷凍庫を有効に使用できる効果がある。0.5mmを超えると吸収シートが嵩高いため、鮮魚等を包んだ時の体積増加が大きくなるという問題が生じる。
【0026】
吸水戻り量は、10cm四方にカットしたシート片に2gの精製水を均等に吸水させ、直ちにあらかじめ重量を測定しておいたろ紙(JIS P 3801 の3種相当)を載せ、シートの上に荷重1kg、断面積100cmのおもりを10秒間かけた後のろ紙の重量増加を測定した値である。
【0027】
吸水戻り量が100g/m以下であると、吸収したドリップが再び鮮魚等の表面に戻ることがないため、以下の二つの効果を発現することができる。一つは鮮魚等の表面に残るドリップ量を低減させ生臭みを抑制することであり、もう一つは、鮮魚等に残る自由水を低減させ、冷解凍後の鮮魚等の水っぽさを解消することである。水っぽさが解消されるメカニズムは、鮮魚等表面と吸収シートの界面における水分濃度が低減することで、鮮魚等表面と内部の水分の濃度勾配が形成され、鮮魚等の内部の自由水の表面への拡散が推進されることと考えられる。
【0028】
吸水戻り量100g/mを超えると、鮮魚等の表面に高濃度のドリップ層が形成されるため、解凍後の鮮魚等が水っぽくなるという問題や生臭みが発生するという問題が生じる。吸水戻り量が50g/m以下であると、鮮魚等と吸収シートの間の水分の濃度勾配が大きいので、自由水量の多い魚や厚みの大きい魚であっても魚内部の自由水を低減させることができるため好ましい。
【0029】
吸水戻り量が小さいほど鮮魚等の表面に形成されるドリップ層を少なくする点で好ましいが、吸水戻り量が10g/m未満では、吸収シート内部にドリップをすばやく取りこむのが困難となる場合も生じる。この理由は定かでないが、表面の疎水性が高くなりすぎて、撥水されているのではないかと考えられる。
【0030】
本発明の吸収シートの吸水量は200g/m以上1000g/m以下が好ましい。吸水量が200g/m以上であると、鮮魚等から出るドリップや自由水を十分に吸収しやすく、前述の吸水戻り量100g/m以下を達成しやすくなり、ドリップが魚表面に残留せず、みずっぽさや生臭くなるという問題が生じにくい。吸水量が1000g/m以下であると、鮮魚等を長時間保存した場合に鮮魚等の水分を吸収しすぎず、ぱさぱさした食感や食材表面にひび割れを生じにくく、食感やおいしさが向上する。より好ましくは、吸収量が300g/m以上800g/m以下で、かつ吸水戻り量が80g/m以下である。この場合多くの鮮魚等で冷凍解凍後に発生する余分なドリップは吸収し、鮮魚等中の水分を取り過ぎることなく、最適に保つことができる。
【0031】
本発明の吸収シートは、坪量が30g/m以上60g/m以下が好ましい。吸収シートの吸水量はパルプ繊維を含む親水性繊維の吸収量と繊維空間に保持する保水量の合計であるため、親水性繊維の分布と配合割合及び繊維空間の大きさが重要である。この繊維空間を好適にするためには、厚み0.5mm以下で、坪量30g/m以上60g/m以下が好ましい。この範囲であれば、親水性繊維の吸収量が適度で、十分なドリップ吸収量が発揮できる。
【0032】
本発明は、JIS−R−3257に準拠して測定した2ミリリットルの精製水と吸収シート表面との接触角の変化量が、−5度/ミリ秒以下であることが好ましい(但し接触角の変化量とは、吸水シートに着水してから2ミリ秒後から10ミリ秒後における接触角の変化量をいう。以下同じ)。接触角の変化量が−5度/ミリ秒以下である不織布シートを用いることで、鮮魚等を冷凍庫保存する場合において、凍結するまでのわずかな時間で鮮魚等の中の自由水を吸収することが可能となるため、水分凍結による細胞破壊を更に抑制することが可能となり、その結果、ドリップの生成量をより抑制することができるので解凍後の魚の生臭みや水っぽさをより抑制することができる。さらに好ましい接触角の変化量は−12度/ミリ秒以上−6度/ミリ秒以下である。
【0033】
又、前述の接触変化量に加えて、精製水が吸水シートに接触してから2ミリ秒後の精製水と吸収シートの接触角が120度以上180度以下であるとより好ましい。この接触角はシート表面の疎水性が高い事を意味し、吸収したドリップがより魚表面に戻り難くなるため、鮮魚等が凍結する際、より短時間で鮮魚等中の自由水を吸収することが可能となるためである。
【0034】
本発明の吸収シートは、家庭で保存される一般的な肉魚類の形状を模した直方体ダミー試料(縦125mm×横65mm×高さ25mm)を包んだ時の体積増加率が1.3倍以下となることが好ましい。体積増加率が小さいと、鮮魚等を包んだ後の体積増加がわずかであるので冷凍室の空きスペースを有効利用した保存ができる。
【0035】
このような構成の吸収シートの製造方法としては公知の製造方法を用いることができる。例えば、スパンボンド法、カーディング法、エアレイド法、スパンレース法、ニードルパンチ法、メルトブロー法等を採用することができる。これらの製造方法の中でも、食品用途に使用する不織布として接着材を使用しないスパンレース法が好ましい。スパンレース法の製造方法としては、レーヨン繊維を集積してなるシート及び木材パルプ繊維を湿式抄紙して得られる紙シート、及び熱可塑性樹脂を高温高速ガスで微細繊維化してシート状に集積したメルトブローシートを熱可塑性樹脂繊維が最外層となる組合せに積層して、熱可塑性樹脂繊維の側から高圧水流を施してそれぞれの繊維を三次元的に絡み合わせて一体化する事で得る方法が一例として挙げられる。
【0036】
本発明の吸収シートにはエンボス加工を施しても良いが、エンボス加工を施さないほうが吸収シートで肉魚類を包む際に肉魚類と吸収シートの密着性が高まり、その結果、冷凍室に保存してから鮮魚等中の水分が凍結するまでのわずかな時間に自由水を効率よく吸収できるので好ましい。
【0037】
以上説明したように、本発明の吸収シートでは、冷凍解凍保存におけるドリップを適度に吸収することが出来るので、鮮魚等の水っぽさを低減し、生臭みの発生を抑制することができる。又、長期間冷凍保存した場合でも肉魚類の水分を吸収しすぎて、ぱさぱさした食感となったり、食材表面にひび割れを生じるといったことがなく、鮮魚等の冷凍解凍保存に好適に用いることができる。
【実施例1】
【0038】
本発明の実施の形態を以下に例を挙げて説明する。
【0039】
実施例及び比較例に記載したシートを次の試験方法によって評価した。得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0040】
<試験方法>
1.吸収シート厚み
定圧厚み測定器(尾崎製作所製:FFG12)を用いて、0.4N以下の荷重で測定する。
2.坪量
吸収シートから10cm×10cmに切り出し重量W1を測定した後以下の計算式より算出する。
坪量(g/m)=W1×100
3.シートを構成する繊維の平均繊維長
シートを構成する繊維を任意に抜き出し、IRを用いて構成する繊維の種類を特定した後、同種の任意の繊維20本について、JISL1030の測定方法に従って繊維長を測定して平均値を求めて平均繊維長とする。
【0041】
4.接触角
協和界面化学製 DM−501(HAS−220モデル)を用いて JIS R 3257の測定方法に従って測定する。測定条件の内、液滴量は精製水2μlを用いて、接触角の測定は液滴が試料に接触する前後の画像を2ミリ秒間隔で連続的に撮影し、撮影した画像それぞれについて精製水と吸収シート表面との接触角を測定する。
5.吸水量
得られたシートから10cm×10cmの試験片(重量W1)を切り出し、精製水に1分間浸漬した後、試験片を取り出し、1隅を保持して3分間吊り下げた後の重量(W2)から増加量(W2−W1)を測定して以下の計算式より吸水量を算出する。
吸水量(g/m)=(W2−W1)/0.01
6.吸水戻り量
10cm四方にカットした試験片に2gの精製水を均等に吸水させ、直ちにあらかじめ重量を測定しておいたろ紙(JIS P 3801 の3種相当)を載せシートの上に荷重1kg、断面積100cmのおもりを10秒間かけた後のろ紙の重量増加を測定する。
【0042】
7.粉漏れ量
300mlの精製水を入れたビーカー中に10cm×10cmに切り出した試験片を落とし、1分間600rpmで攪拌した後、試験片を取り出した残りの残渣を濾紙(JIS P 3801 の3種相当)で濾過する。濾過後の残渣を80℃1時間乾燥したのち重量Wを測定し粉漏れ量とする。
8.体積増加率
縦125mm×横65mm×高さ25mmの直方体ダミー試料を200mm×300mmにカットしたシートで包みシートの上から縦L2(mm)、横W2(mm)、高さH2(mm)を測定して包んだあとの体積(L2×W2×H2)から体積増加率を計算する。
体積増加率(倍)=(L2×W2×H2)/(125×65×25)
【0043】
9.ドリップ吸収性
100gのまぐろ切り身を300mm×250mmのシートに包み、ジッパー付袋に入れた後、冷蔵庫の冷凍室で14日間冷凍し、その後冷蔵室に移し替えて解凍する。解凍後のまぐろ試食した際に、生臭さ、食した時の水っぽさ、食した時のぱさぱさ感、身割れの有無を以下の基準で評価する。
生臭さ
◎ほとんど生臭みを感じない
○わずかな生臭みしか感じない
×生臭みを感じる
水っぽさ
◎表面が濡れておらず食した時に水っぽさを感じない
○表面が濡れておらず食した時やや水っぽい
×表面が濡れており食した時に水っぽくおいしくない
ぱさぱさ感
◎水分が多くぱさぱさ感は感じられない
×ぱさぱさしておいしくない
身割れ
◎身割れ発生なし
×身割れ発生有り
【0044】
10.使い勝手
約100gのシャケ切り身を吸収シートに包んだ際の包みやすさ、及びシートで包んだ際のかさばり、シート切断性を以下の基準で評価する。
包みやすさ
◎切り身に密着して包み易い
○わずかに密着する
×密着し難く包み難い
かさばり
◎シャケ切り身とほぼ同程度のかさばり
○シャケ切り身よりややかさばる
×シャケ切り身の大きさよりかなりかさばる
シート切断性
◎シートを切断して使用可能
×シートを切断すると粉漏れが多い
【0045】
〔実施例1〕
メルトブロー法により作成した坪量25g/mのポリエチレンテレフタレート繊維シート及び、針葉樹クラフトパルプを原料として湿式抄紙した坪量20g/mのパルプ繊維シート及び、多数のレーヨン長繊維を繊維相互が絡み合わさるように集積された坪量5g/mのレーヨン繊維シートを積層した後、金網で形成されたコンベア上に載せて積層体を20m/分で移送させノズル孔径0.15mmノズル間隔が1mmで設置された高圧水柱流の噴射装置を用いてポリエチレンテレフタレート繊維シート側から50kg/cmの水圧で高圧水柱流処理を施してシートを得た。
【0046】
〔実施例2〕
メルトブロー法により作成した坪量40g/mのポリエチレンテレフタレート繊維シート及び、針葉樹クラフトパルプを原料として湿式抄紙した坪量20g/mのパルプ繊維シート及び、多数のレーヨン長繊維を繊維相互が絡み合わさるように集積された坪量3g/mのレーヨン繊維シートを積層した後、金網で形成されたコンベア上に載せて積層体を20m/分で移送させノズル孔径0.15mmノズル間隔が1mmで設置された高圧水柱流の噴射装置を用いてポリエチレンテレフタレート繊維シート側から50kg/cmの水圧で高圧水柱流処理を施してシートを得た。
【0047】
〔実施例3〕
メルトブロー法により作成した坪量40g/mのポリプロピレン繊維シート及び、針葉樹クラフトパルプを原料として湿式抄紙した坪量20g/mのパルプ繊維シート及び、多数のレーヨン長繊維を繊維相互が絡み合わさるように集積された坪量3g/mのレーヨン繊維シートを積層した後、金網で形成されたコンベア上に載せて積層体を3m/分で移送させノズル孔径0.15mmノズル間隔が1mmで設置された高圧水柱流の噴射装置を用いてポリプロピレン繊維シート側から50kg/cmの水圧で高圧水柱流処理を施してシートを得た。
【0048】
〔比較例1〕
針葉樹クラフトパルプを原料として湿式抄紙した坪量20g/mのパルプ繊維シート及び、メルトブロー法により作成した坪量15g/mのポリプロピレン繊維シートをポリプロピレン繊維シート、パルプ繊維シート、ポリプロピレン繊維シートの順にエチレン酢酸ビニル系接着剤を用いて積層しシートを得た。
【0049】
〔比較例2〕
メルトブロー法により作成した坪量40g/mのポリプロピレン繊維シートを用いた。
【0050】
〔比較例3〕
ポリプロピレン樹脂を用いてメルトブロー法で作成した坪量25g/mのメルトブローシート及び多数のレーヨン長繊維を繊維相互が絡み合わさるように集積された坪量35g/mのレーヨン繊維シートを重ねた後、金網で形成されたコンベア上に載せて積層体を20m/分で移送させノズル孔径0.15mmノズル間隔が1mmで設置された高圧水柱流の噴射装置を用いて、50kg/cmの水圧で高圧水柱流処理を施して一体化されたシートを得た。
【0051】
〔比較例4〕
メルトブロー法により作成した坪量18g/mのポリプロピレン繊維シート及び、針葉樹クラフトパルプを原料として湿式抄紙した坪量9g/mのパルプ繊維シート及び、多数のレーヨン長繊維を繊維相互が絡み合わさるように集積された坪量18g/mのレーヨン繊維シートを積層した後、金網で形成されたコンベア上に載せて積層体を3m/分で移送させノズル孔径0.15mmノズル間隔が1mmで設置された高圧水柱流の噴射装置を用いてポリプロピレン繊維シート側から50kg/cmの水圧で高圧水柱流処理を施してシートを得た。
【0052】
〔比較例5〕
針葉樹クラフトパルプを原料として湿式抄紙した坪量11g/mのパルプ繊維シートを、多数のレーヨン長繊維を繊維相互が絡み合わさるように集積された坪量23g/mのレーヨン繊維シートで上下に挟むように積層した後、金網で形成されたコンベア上に載せて積層体を3m/分で移送させノズル孔径0.15mmノズル間隔が1mmで設置された高圧水柱流の噴射装置を用いてレーヨン繊維側から50kg/cmの水圧で高圧水柱流処理を施してシートを得た。
【0053】
〔比較例6〕
パルプ繊維及3.5g及び高吸水性ポリマー3.5gの混合物を300mm×250mmの大きさの坪量18g/mのティッシュで挟んだ吸収材を表面材である坪量22g/mの紙と裏面材である厚み10μmのポリエチレンフィルムの間に挟んだ後、側面をヒートシールして吸収シートを得た。
【0054】
<試験結果の考察>
実施例1〜3は、吸水戻り量を10〜100g/mとすることにより、吸水戻り量が100g/mを超えている比較例1〜5に比べ、吸水性(特に生臭さ及び水っぽさ)の評価が良い。また、実施例1〜3は、吸収シート厚みを0.5mm以下にすることで、吸収シート厚みが0.6mmを超えている比較例2に比べ、使い勝手(特に、包みやすさ及びかさばり)の評価が良い。これにより、吸水戻り量を10〜100g/mとし、シート厚み0.5mm以下にすることが好ましいことが判った。
【0055】
また、実施例1〜3の中でも、特に、実施例1は、疎水性熱可塑性樹脂繊維を50〜55重量%とし、パルプ繊維を40〜45重量%とし、親水性繊維を5〜10重量%とすることにより、実施例2,3と比較して生臭さ及び水っぽさの評価が更に良い。これにより、疎水性熱可塑性樹脂繊維を50〜55重量%とし、パルプ繊維を40〜45重量%とし、親水性繊維を5〜10重量%とするのが好ましいことが判った。
【0056】
比較例6は、ポリエチレンテレフタレート繊維とレーヨン繊維の代わりに高吸水性ポリマーとポリエチレンフィルムを用いた吸収シートである。比較例6は、生臭さや水っぽさに関する評価がよいものの、ぱさぱさ感や身割れの評価は悪く、また、使い勝手の評価も悪い。従って、ドリップ吸収シートとして、ポリエチレンテレフタレート繊維とレーヨン繊維とを含むものが好ましいことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の吸収シートは、肉魚類の生鮮食材を冷凍保存、解凍する分野でドリップや自由水を効果的に吸収する吸収シートとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が20mm未満のパルプ繊維、平均繊維長が30mm以上の疎水性の熱可塑性樹脂繊維、及び平均繊維長が20mm以上の親水性繊維を含み厚さが0.5mm以下である不織布シートからなり、吸水戻り量が10〜100g/mであることを特徴とするドリップ吸収シート。
【請求項2】
前記不織布シートが、平均繊維長が20mm未満の前記パルプ繊維を40〜45重量%、平均繊維長が30mm以上の疎水性の前記熱可塑性樹脂繊維を50〜55重量%、平均繊維長が20mm以上の前記親水性繊維を5〜10重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のドリップ吸収シート。
【請求項3】
平均繊維長が30mm以上の疎水性の前記熱可塑性樹脂繊維がポリエチレンテレフタレート繊維であり、平均繊維長が20mm以上の前記親水性繊維がレーヨン繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載のドリップ吸収シート。

【公開番号】特開2011−162246(P2011−162246A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29070(P2010−29070)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(390017949)旭化成ホームプロダクツ株式会社 (56)
【Fターム(参考)】