説明

ドリップ防止剤

【課題】 低粘性ガラクトキシログルカンを含有するドリップ防止剤の提供。
【解決手段】 低粘性ガラクトキシログルカン含有することを特徴とする生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止剤を提供できる。該ドリップ防止剤は、食品の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%用いる。該食品は、生野菜、生野菜を加工した惣菜(例えば、お浸し、サラダ又は白和えなど)、或いは生野菜を加工した具材を含む点心類(例えば、餃子、春巻き又は焼売など)又は調理パン(例えば、サンドイッチ、ホットドック又は惣菜パンなど)などである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘性ガラクトキシログルカンを含有するドリップ防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にサラダや惣菜などに使用される野菜は、一口大に又は細切れにカットされるか又は/及び調理されることによりそのままの形態又は加工調味された形態で食される。しかし、一口大に又は細切れ等にされた野菜は、時間の経過と共に切り口から離水が生じる。このような離水現象を防止する方法としては、野菜類にアルファー化された澱粉又はグアガム、キサンタンガムなどの増粘多糖類を添加する方法が知られている(特許文献1)。また、野菜類にゼラチン並びにアルギン酸ナトリウム塩又はカルシウム塩を添加する方法も知られている(特許文献2及び3)。一方、メンチカツの具材(中だね)のようにドリップ防止剤が直接外観に影響を与えないような場合には、膨化処理した穀類を添加することで離水を防止できることが知られている(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特公平8−32227号公報
【特許文献2】特開平10−75748号公報
【特許文献3】特許第3809603号公報
【特許文献4】特開2006−6236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、野菜にアルファー化澱粉などを添加する方法では、アルファー化澱粉の添加量が多いために、野菜等の表面に付着したアルファー化澱粉によって野菜の外観が悪くなり、また吸水して糊化することで野菜以外の食感も感じられて好ましくない。また、具材にアルファー化澱粉を添加する場合には、加熱調理によって澱粉が糊化して食味が悪くなる。野菜にゼラチンを添加する方法では、離水抑制効果が弱い。アルギン酸カルシウム塩などは吸水してゲル化する性質を持っている。この吸水機能によって野菜などの離水を吸収するのであるが、野菜以外にゼリー感が感じられて好ましくない。
【0005】
膨化処理した穀類は、離水防止機能を発揮するために、多くの添加量が必要なため、中だねなどのように直接外観に影響を与えないような場合には使用できるが、生野菜や惣菜のように外観も重要視されるような食品には不向きである。一方、グアガム,キサンタンガムなどの増粘多糖類は、吸水して野菜などの表面に粘りを与え、著しく食味が悪くなる欠点があった。
【0006】
従って、生野菜のような繊細な食味が要求される具材などの食感又は食味が維持されたままで、離水現象を抑制するドリップ防止剤を提供することが重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために生野菜、具材などの離水を防止するドリップ防止剤について鋭意検討した。その結果、低粘性ガラクトキシログルカンに、食品の食味及び食感を損なわずに、顕著な離水抑制効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
項1:低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止剤。
項2:低粘性ガラクトキシログルカンが、B型粘度計を用いて測定温度25℃、回転数30rpmである測定条件下において、該1.5重量%水溶液における粘度が1〜150mPa・sの範囲である項1に記載の生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止剤。
項3:項1又は2に記載のドリップ防止剤を含有する食品。
項4:低粘性ガラクトキシログルカンを生野菜、惣菜又は具材の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%含有する項3に記載の食品。
項5:低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るドリップ防止剤は、離水抑制効果が優れているので、生野菜、惣菜及び具材のドリップを有効に防止できる。該ドリップ剤は、低粘性であるため、生野菜、惣菜及び具材の食味及び食感を維持することができる。また、少量で離水抑制効果を示すため、用いる量を少なくすることができ、特に生野菜や惣菜のように外観が重視される食品に適する。加えて、本品はグアガムやキサンタンガムなどの高粘度の増粘多糖類とは異なり極めて粘度が低いために、点心類又は調理パン(例えば、サンドイッチ、ホットドック又は惣菜パンなど)などの食品の喫食時に良好な食味、食感を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明における「ドリップ防止」とは、生野菜の切り口から染み出してくる生野菜に含まれている水、生野菜の表面に付着した洗い水又は生野菜に後から振りかけられたドレッシング液の滴れ、お浸しなどの惣菜における調味液中の塩分による離水、及び餃子の具材などからの離水を防止することを意味する。副次的に、例えば、サラダにドレッシングを用いる場合において、ドリップを防止することにより、ドレッシングを野菜の表面に均一に保持することができる概念も包含される。
【0012】
本発明における「食品」とは、生野菜、生野菜を加工した惣菜(例えば、お浸し,サラダ又は白和えなど)、或いは生野菜を加工した具材を含む点心類(例えば、餃子、春巻き又は焼売など)又は調理パン(例えば、サンドイッチ、ホットドック又は惣菜パンなど)を意味する。該食品は、飲食店などで直接提供される形態又は惣菜として提供される形態のいずれであってもよい。
【0013】
本明細書における「具材」とは、例えば、点心類又は調理パン(例えば、サンドイッチ、ホットドック又は惣菜パンなど)などの中だねを意味する。
【0014】
本明細書における「生野菜」としては、例えば、レタス、キュウリ、キャベツ、大根、白菜、玉ねぎなどが挙げられる。尚、前記食品に用いられる野菜であって、本発明の効果を達成することができる限り、特にこれらに限定されることはない。
【0015】
本明細書における「惣菜」としては、例えば、ほうれん草のお浸しや白和え、切り干し大根の煮付け、ひじきの煮付け、きんぴらごぼうなどが挙げられる。尚、前記食品に用いられる野菜であって、本発明の効果を達成することができる限り、特にこれらに限定されることはない。
【0016】
本発明における「低粘性ガラクトキシログルカン」とは、ガラクトキシログルカンを化学的方法、物理的方法または酵素的方法により調製し、B型粘度計〔東京計器(株)製〕を用いて、測定温度25℃および回転数30rpmの測定条件下において、該1.5重量%水溶液の粘度が1〜150mPa・sである物性を有するものをいう。該水溶液の粘度
が上記測定条件下において1〜100mPa・sである物性を有するものがより好ましく、1〜50mPa・sである物性を有するものが一層好ましい。
【0017】
前記「ガラクトキシログルカン」としては、双子葉,単子葉植物など高等植物の細胞壁(一次壁)に存在する天然多糖をいう。ガラクトキシログルカンは、具体的にはグルコース、キシロースおよびガラクトースを構成糖とし、主鎖はグルコースがβ−1,4結合し、側鎖にキシロース、そのキシロースにさらにガラクトースが結合した構造を有する。ガラクトキシログルカンは、タマリンドをはじめ、ヒメネア属植物の種子、大豆、緑豆、インゲンマメ、イネ、オオムギ、リンゴなどからも得ることができる。
【0018】
本発明に用いる「ガラクトキシログルカン」としては、ガラクトキシログルカンの含有率が高く、入手も容易なタマリンド種子由来のガラクトキシログルカン〔タマリンド種子ガム:商品名「グリロイド」(登録商標)大日本住友製薬(株)製〕が好ましい。
【0019】
「低粘性ガラクトキシログルカンを化学的方法により調製する」とは、ガラクトキシログルカンを酸またはアルカリ処理により加水分解することをいう。ここで酸処理に用いる酸としては、無機酸または有機酸のいずれでもよい。無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸または硝酸などが挙げられ、硫酸を用いるのが好ましい。有機酸としてはクエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸またはプロピオン酸などが挙げられ、クエン酸を用いるのが好ましい。アルカリ処理に用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0020】
「ガラクトキシログルカンを物理的方法により調製する」とは、ガラクトキシログルカンを熱処理、高圧ホモジナイズ処理、超音波処理または機械的せん断処理により調製することをいう。
【0021】
「ガラクトキシログルカンを酵素的方法により調製する」とは、ガラクトキシログルカンを多糖類分解酵素により酵素的に調製することをいう。多糖類分解酵素としては、例えばβ−1,4−グルカナーゼ、すなわち、いわゆるセルラーゼ活性を有する植物組織崩壊酵素で微生物や植物由来のものを用いることができる。この際に用いる酵素の種類に応じて、基質濃度、酵素濃度、至適pH、至適反応温度および反応時間などを調節して所望の低粘性ガラクトキシログルカンを調製することができる。
【0022】
低粘性ガラクトキシログルカンは、上記のいずれの方法で調製することができるが、酸による化学的方法または酵素的方法により調製するのが好ましい。特に酸による化学的方法により調製するのが好ましい。
【0023】
酸による化学的方法で調製される低粘性ガラクトキシログルカンは、適切なガラクトキシログルカンの濃度、用いる酸の種類、溶液のpH、反応温度、反応時間を選択してガラクトキシログルカンを溶解した水溶液に酸を添加後、該水溶液を加熱して得ることができる。
【0024】
低粘性ガラクトキシログルカンの調製時に用いるガラクトキシログルカンの量は、溶液の全量に対してガラクトキシログルカンが0.1〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。用いる酸の添加量は、ガラクトキシログルカンの水溶液に対して0.1〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。溶液のpHの値としては4未満が好ましい。反応温度は、20℃から150℃であり、好ましくは40℃から121℃である。反応時間は、所望の反応時間を、例えばB型粘度計〔東京計器(株)製〕で測定してモニターすることにより調節することができ、通常は数秒から48時間であり、1時間から24時間が好ましい。
【0025】
本発明に用いる「低粘性ガラクトキシログルカン」は市販で入手できるものでもよく、例えば、大日本住友製薬(株)製の商品名「グリエイト」(登録商標)を用いてもよい。用いる「グリエイト」(登録商標)のグレードに限定されることはない。
【0026】
本発明において「低粘性ガラクトキシログルカン」は、生野菜、惣菜又は具材の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%含有する。好ましくは0.01重量%〜2.0重量%、更に好ましくは0.1重量%〜1.0重量%含有する。
【0027】
「低粘性ガラクトキシログルカン」は粉末のまま、または溶液として用いてもよい。酸処理により得られる「低粘性ガラクトキシログルカン」の溶液は、例えばドラムドライやスプレードライなどの乾燥機で乾燥する方法、酸処理後に得られる「低粘性ガラクトキシログルカン」を含む溶液にろ過または遠心分離などの処理を行ない不溶物を除去した後ドラムドライ,スプレードライなどで乾燥する方法または清澄な液を得た後適当な有機溶媒を加えて「低粘性ガラクトキシログルカン」を凝析・乾燥する方法で乾燥し、精製、粉末化することができる。また、「低粘性ガラクトキシログルカン」の溶液を適当に濃縮または水で希釈してもよい。
【0028】
本発明は、低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止方法を提供することができる。
【実施例】
【0029】
本発明の内容を以下の実施例及び比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、処方中、特に記載のない限り単位は重量部を意味する。
【0030】
参考例:(低粘性ガラクトキシログルカン水溶液の調製)
低粘性ガラクトキシログルカン(商品名「グリエイト」(登録商標),大日本住友製薬(株)製)を0.25〜1.0gの水に攪拌溶解し、合計100gになるようにして、0.25,0.5および1.0重量%の該水溶液を調製した。該水溶液の25℃、30rpmでB型粘度計により測定した粘度を下記表に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1:(ドリップ防止剤を含有するサラダの製造)
下記表2に記載の処方に従って、サラダを製造した。カット野菜(キャベツ、ニンジン、キュウリ)にグリエイト(登録商標)を振りかけてよく混ぜる。該野菜にドレッシングを振りかけて和えた後、容器に盛り付けて2時間放置した。
【0033】
【表2】

【0034】
下記表3から明らかなように、実施例1のサラダは、グリエイト(登録商標)がドレッシングを吸収して野菜の周りに均等に付着し、容器の底に滴れ落ちるのを防止すると同時に、比較例1及び2のサラダと比較して食味、食感も優れていた。
【0035】
【表3】

【0036】
実施例2:(ドリップ防止剤を含有するほうれん草のお浸しの製造)
下記表4に記載の処方に従って、ほうれん草のお浸しを製造した。ほうれん草を茹で、水洗い後水気を切って、長さ3cmくらいに切り揃える。次いでグリエイト(登録商標)を振りかけてよく混ぜた後、更に砂糖と醤油を加えて混ぜ合わせる。容器に盛り付けて2時間放置した。
【0037】
【表4】

【0038】
実施例2は、2時間放置後も離水が認められず、盛付けた時と同じ状態であった。一方、比較例3は、離水が生じて容器の底に溜まっていた。実施例2のお浸しの食感及び食味は、比較例3のお浸しの食感及び食味と差異がなかった。
【0039】
実施例3:(ドリップ防止剤を含有する餃子の製造)
下記表5に記載の処方に従って、餃子を製造した。白菜をみじん切りにし、食塩を少々振り掛けてしばらく置き、付近で包んで水分を絞る。ねぎ、しょうが、にんにくはみじん
切りにして、豚ひき肉と絞った白菜を混ぜ、調味液を加えてよく混ぜた。具材を餃子の皮にのせて包んだ。容器に並べて冷蔵庫に3日間保存し、状態を観察すると共に、これらをフライパンで焼いて試食し、食味及び食感を確認した。
【0040】
【表5】

【0041】
実施例3は、3日保存後も具材からの離水が認められず、皮が軟らかくなることがなかった。また、フライパンで焼いて試食した場合、好ましい食感であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るドリップ防止剤は、離水抑制効果が優れているので、生野菜、惣菜及び具材のドリップを有効に防止できる。該ドリップ剤は、低粘性であるため、生野菜、惣菜及び具材の食味及び食感を維持することができる。また、少量で離水抑制効果を示すため、用いる量を少なくすることができ、特に生野菜や惣菜のように外観が重視される食品に適する。加えて、本品はグアガムやキサンタンガムなどの高粘度の増粘多糖類とは異なり極めて粘度が低いために、点心類又は調理パン(例えば、サンドイッチ、ホットドック又は惣菜パンなど)などの食品の喫食時に良好な食味、食感を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止剤。
【請求項2】
低粘性ガラクトキシログルカンが、B型粘度計を用いて測定温度25℃、回転数30rpmである測定条件下において、該1.5重量%水溶液における粘度が1〜150mPa・sの範囲である請求項1に記載の生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドリップ防止剤を含有する食品。
【請求項4】
低粘性ガラクトキシログルカンを生野菜、惣菜又は具材の全量に対して0.01重量%〜5.0重量%含有する請求項3に記載の食品。
【請求項5】
低粘性ガラクトキシログルカンを含有することを特徴とする生野菜、惣菜又は具材のドリップ防止方法。

【公開番号】特開2008−141972(P2008−141972A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330038(P2006−330038)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 株式会社食品化学新聞社、月刊 フードケミカル、第22巻、第7号、平成18年7月1日
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】