説明

ドリル穴開け練習機

【課題】穴開け練習に伴う無駄を省きながら、材料の表面の角度に拘わらず、この表面にハンドドリルの刃を垂直に当てて力を込める感覚を練習者に体得させることのできるドリル穴開け練習機を提供する。
【解決手段】ハンドドリルのドリルチャック側からドリル軸心方向C1に沿う押圧力を受ける受圧部材2と、受圧部材2に連結され、ドリルチャックからの押圧力を軸方向に伝達し、軸方向に圧縮可能かつ径方向に湾曲可能な可撓部材3と、可撓部材3の反受圧部材2側に連結され、該可撓部材3を介して伝達されるドリルチャック側からの押圧力を被押圧部材の表面に伝達する加圧部材4とを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴開け対象物に手持ち式のハンドドリルで穴を開ける際に、穴開け対象物の表面に対して垂直に穴を開ける感覚を体得できるようにするドリル穴開け練習機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属板等の材料に、モータまたはエアで駆動される手持ち式のハンドドリルで穴を開けるには、ドリルの刃の軸心を材料の表面に対して垂直に当てながら力を加えてゆき、穴を垂直に開ける必要がある。しかし、特別な冶具を用いることなく、ハンドドリルで材料の表面に対して垂直に穴を開けるには熟練を要する。このため、不慣れな作業者においては、事前に材料の端材等を使って穴開けの練習を繰り返しておく必要があった。
【0003】
また、材料の表面に垂直に穴開けできるようにしたハンドドリルとして、特許文献1,2等に開示されているハンドドリルのように、気泡式の水平器を備え、穴開け作業時にはこの水平器を見ながらハンドドリルの姿勢を調整して、ドリルの刃の軸心を穴開け対象物の表面に対して垂直に保てるようにしたものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−281429号公報
【特許文献2】実用新案登録第3034061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、端材等で穴開けの練習を繰り返すのは、練習者が技術を体得するまでの期間、ドリルの刃が消耗するばかりか、端材と言えども実際の製品と同じ高価なものを用いなければならない場合があり、必ずしもその調達が容易ではないことがある。さらに、多量の切粉が発生し、その処理にも手間が掛かる等、多くの無駄が発生していた。なお、熟練した作業者が練習者に、材料の表面に対してドリルの刃を垂直にして力を込めるという感覚を言葉だけで教えるのは困難である。
【0006】
一方、特許文献1,2等に開示されている水平器を備えたハンドドリルは、水平器の指示に倣ってドリルの刃を垂直または水平にしても、それは重力の方向に対して垂直または水平になるだけであるため、例えば穴開けする材料の表面が傾斜していたり、円筒状であったりする場合には、水平器が役に立たない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、穴開け練習に伴う無駄を省きながら、材料の表面の角度に拘わらず、この表面にハンドドリルの刃を垂直に当てて力を込める感覚を練習者に体得させることのできるドリル穴開け練習機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
即ち、本発明に係るドリル穴開け練習機の第1の態様は、ハンドドリルのドリルチャック側からドリル軸心方向に沿う押圧力を受ける受圧部材と、前記受圧部材に連結され、前記ドリルチャックからの押圧力を軸方向に伝達し、軸方向に圧縮可能かつ径方向に湾曲可能な可撓部材と、前記可撓部材の反受圧部材側に連結され、該可撓部材を介して伝達される前記ドリルチャック側からの押圧力を被押圧部材の表面に伝達する加圧部材とを具備したことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、穴開け練習者がハンドドリルを持ち、そのドリルチャックを受圧部材側に押圧すると、受圧部材がその軸方向に押圧され、この押圧力が可撓部材に伝達されて可撓部材が軸方向に圧縮されながら加圧部材側に押圧力を伝達し、加圧部材は被押圧部材の表面に上記押圧力を伝達する。被押圧部材としては、例えばセンターポンチで凹部を形成した金属板等を用い、加圧部材の先端を尖らせて上記凹部に押し当てるようにすることができる。被押圧部材には実際に穴が開けられることはないため、繰り返し使用することができる。
【0010】
穴開け練習者の押圧力の入力方向が被押圧部材の表面に対して垂直であれば、可撓部材は径方向に撓むことなく軸方向に圧縮されるのみであるため、入力した押圧力が被押圧部材の表面に伝えられる。例えば被押圧部材を上述のようにセンターポンチで凹部を形成した金属板とし、加圧部材の先端を尖らせて上記凹部に押し当てるようにした場合には、加圧部材の先端部が被押圧部材の凹部からずれることがなく、練習者は力の掛け方が正しかったことを認識できる。しかし、練習者の押圧力の入力方向が被押圧部材の表面に対して垂直でなければ、可撓部材が径方向に撓んでしまい、押圧力が被押圧部材の表面に伝えられない。即ち、加圧部材の先端部が被押圧部材表面でずれてしまい、練習者は力の掛け方が間違っていたことを認識できる。
【0011】
このように、可撓部材を径方向には撓ませずに、軸方向にのみ圧縮させるようにハンドドリルを押圧することができるようになれば、練習者は、材料の表面の角度に拘わらず、ハンドドリルの刃を垂直に当てて力を込める感覚を体得することができる。しかも、この穴開け練習機を用いての穴開け練習は、実際にドリルの刃を使って端材等に穴開けを行うものではないため、ドリルの刃が消耗することがなく、端材等を用意する必要もないため、穴開け練習に伴う無駄を省くことができる。
【0012】
また、本発明に係るドリル穴開け練習機の第2の態様は、前記第1の態様において、前記可撓部材は中空の筒形状であり、前記受圧部材と前記加圧部材は、前記可撓部材の中空部を隔てて対向する対向面を有し、これらの対向面には、前記受圧部材が前記可撓部材を軸方向に圧縮させながら前記ドリル軸心方向に沿って前記加圧部材側に押圧された時に、互いに軸方向に嵌合する嵌合部を有していることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、ハンドドリルを正確に軸方向に押圧しない限り、嵌合部が嵌合できず、受圧部材側の嵌合部と加圧部材側の嵌合部とが衝突して練習者が違和感を覚えるため、練習者はより効果的にハンドドリルの刃を材料の表面に垂直に当てて力を込める感覚を体得することができる。
【0014】
また、本発明に係るドリル穴開け練習機の第3の態様は、前記第1または第2の態様において、前記受圧部材は、前記ドリルチャックに加えられるシャンク部を有し、前記可撓部材と前記加圧部材は、それぞれ前記受圧部材と一体に回転可能に順次連結され、前記加圧部材は前記被押圧部材に当接する先端突起部を有していることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、この練習機をドリルの刃と同様にハンドドリルのドリルチャックに装着することができ、リアルな感覚で練習することができる。また、ドリルチャックを回転させても、回転させなくても練習ができるため、練習の初期段階ではドリルチャックを回転させず、練習が進むにつれてドリルチャックを回転させるようにすれば、段階的な技能向上を果たすことができる。
【0016】
また、本発明に係るドリル穴開け練習機の第4の態様は、前記第2の態様において、前記加圧部材は、前記被押圧部材の定位置に揺動可能、かつ外力が加わらない自然な状態ではその中心軸が前記被押圧部材の表面に対して垂直になるように連結され、前記被押圧部材には、前記受圧部材と前記可撓部材と前記加圧部材とを覆って前記受圧部材の受圧端部以外は外部から視認不可能にするカバー部材が設けられていることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、穴開け練習時に可撓部材が圧縮変形する状況が、カバー部材に遮られて練習者には見えないため、練習者は手の感覚だけでハンドドリルを垂直に押し込む感覚を体得することができる。しかも、ハンドドリルに実際のドリルの刃、もしくはドリルの刃を模した棒材をチャッキングして練習を行うため、実際の穴開け作業により近い状態で練習することができる。
【0018】
また、本発明に係るドリル穴開け練習機の第5の態様は、前記第4の態様において、前記被押圧部材を構造物等の表面に固定させる固定手段をさらに有することを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、ドリル穴開け練習機を、傾斜した構造物や、円筒状の構造物等に固定させることができる。このため、練習者には、穴開け材料の表面がどのような角度であっても、この表面に対してハンドドリルの刃を垂直に当てて力を込める感覚を効果的に体得させることができる。
【0020】
また、本発明に係るドリル穴開け練習機の第6の態様は、前記第4または第5の態様において、前記可撓部材を導電性材料で形成するとともに、前記可撓部材が径方向に湾曲した時にのみ該可撓部材と接触して電気的に導通する接触部材を設け、前記可撓部材と前記接触部材との間を電気的に接続して前記可撓部材が前記接触部材に接触すると閉じる回路を形成し、この回路に電源と電気的警報手段を接続したことを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、練習者の力の入力方向が被押圧部材の表面に対して垂直でなければ、可撓部材が径方向に撓み、接触部材に接触する。このため、回路が閉じられて電源により電気的警報手段が作動し、練習者は入力方向が誤っていることを直ちに認識することができる。このため、緊張感のある練習を行って、上達を早めることができる。電気的警報手段としては、ブザーやランプ等の汎用電子部品を用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係るドリル穴開け練習機によれば、穴開け練習に伴う無駄を省きながら、材料の表面の角度に拘わらず、この表面にハンドドリルの刃を垂直に当てて力を込める感覚を練習者に効果的に体得させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るドリル穴開け練習機の第1実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示すドリル穴開け練習機の縦断面図である。
【図3】図1に示すドリル穴開け練習機の可撓部材が軸方向に圧縮された状態を示す縦断面図である。
【図4】図1に示すドリル穴開け練習機がハンドドリルに装着されて加圧部材が練習材料に当接した状態を示す図である。
【図5】図4の状態から練習材料の表面に対して垂直な方向に力が加えられて可撓部材が圧縮された状態を示す図である。
【図6】図4の状態から、練習材料の表面に対して垂直ではない方向に力が加えられて可撓部材が湾曲した状態を示す図である。
【図7】本発明に係るドリル穴開け練習機の第2実施形態を示す縦断面図である。
【図8】図7の状態から、被押圧部材の表面に対して垂直な方向に力が加えられて可撓部材が圧縮された状態を示す縦断面図である。
【図9】本発明に係るドリル穴開け練習機の第3実施形態を示す縦断面図である。
【図10】図9の状態から、被押圧部材の表面に対して垂直な方向に力が加えられて可撓部材が圧縮された状態を示す縦断面図である。
【図11】図9の状態から、被押圧部材の表面に対して垂直ではない方向に力が加えられて可撓部材が湾曲し、接触部材に接触した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の3つの実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係るドリル穴開け練習機の第1実施形態を示す側面図であり、図2は図1に示すドリル穴開け練習機の縦断面図である。このドリル穴開け練習機1は、受圧部材2と、可撓部材3と、加圧部材4とを具備して構成されている。これらの部材2,3,4は、図4に示すハンドドリル10のドリル軸心方向C1に沿うように同軸状に連結されている。
【0026】
受圧部材2は、例えば金属材料を旋削加工したものであり、その端部側から順に、シャンク部21、フランジ部22、可撓部材圧入部23、嵌合突起(嵌合部)24が一体に形成されている。シャンク部21は、図4に示すように、ハンドドリル10のドリルチャック11にチャッキングされる軸部である。フランジ部22の外径は可撓部材圧入部23の外径よりも大きい。受圧部材2は、加圧部材4と対向する対向面25を有し、この対向面25に嵌合突起24が突設されている。嵌合突起24の外径はシャンク部21と同じ位であり、その先端部は円錐状に尖っている。この受圧部材2は、ハンドドリル10のドリルチャック11側からドリル軸心方向C1に沿う押圧力を受ける。
【0027】
加圧部材4は、受圧部材2と同様に、例えば金属材料を旋削加工したものであり、その端部側から順に、先端突起部41、フランジ部42、可撓部材圧入部43が一体に形成され、可撓部材圧入部43には軸心穴状の嵌合凹部(嵌合部)44が形成されている。先端突起部41は、図4に示すように、実際のドリルの刃先の代わりに穴開け練習用の金属板12(被押圧部材)に当接させる部分である。フランジ部42の外径と可撓部材圧入部43の外径は、それぞれ受圧部材2のフランジ部22、可撓部材圧入部23と等しくされている。加圧部材4は、受圧部材2と対向する対向面45を有し、この対向面45に嵌合凹部44が形成されている。この嵌合凹部44の内径は、受圧部材2の嵌合突起24をスムーズに挿入できる寸法である。
【0028】
可撓部材3として好ましいのは、中空の筒形状で、軸方向に圧縮可能、かつ径方向に湾曲可能な弾力性のあるものである。本実施形態では金属製のコイルスプリングを可撓部材3として用いている。この可撓部材3の一端は受圧部材2の可撓部材圧入部23に圧入され、他端は加圧部材4の可撓部材圧入部43に圧入されている。これにより、受圧部材2と可撓部材3と加圧部材4とが順次連結されて一体に回転可能となっている。可撓部材3は、外力が加わらない自然な状態ではドリル穴開け練習機1を直棒状に維持する。可撓部材3のバネレートは、例えば10N/mm程度に設定するのが好ましいが、練習の難易度や練習者の習熟度、あるいは先端部(先端突起部41、フランジ部42、可撓部材圧入部43)の重さ等に応じて適宜変更してもよい。
【0029】
可撓部材3は、受圧部材2(ドリルチャック11)からの押圧力をドリル軸心方向C1に沿って加圧部材4に伝達する。また、加圧部材4は、可撓部材3を介して伝達される受圧部材2側からの押圧力を図4に示す金属板12(被押圧部材)の表面に伝達する。受圧部材2の対向面25と、加圧部材4の対向面45は、可撓部材3の中空部を隔てて互いに対向しており、これらの対向面25,45に設けられた嵌合突起24と嵌合凹部44は、図3に示すように、受圧部材2が可撓部材3を軸方向に圧縮させながらドリル軸心方向C1に沿って加圧部材4側に最も押圧された時に、互いに軸方向に嵌合する。なお、嵌合突起24と嵌合凹部44の位置関係は逆であってもよい。
【0030】
以上のように構成されたドリル穴開け練習機1を用いて穴開け練習する場合は、図4に示すように、例えば金属板12にセンターポンチで凹部13を形成したものを作り、ドリル穴開け練習機1をハンドドリル10のシャンク部21をドリルチャック11にチャッキングする。そして、練習者はドリル穴開け練習機1の先端突起部41を凹部13に押し当て、ドリル軸心方向C1が金属板12の表面に対して垂直になるように力を加える。その際にハンドドリル10を回転させてもさせなくてもよい。
【0031】
練習者のハンドドリル10から加えられた押圧力は、ドリルチャック11からドリル軸心方向C1に沿って受圧部材2と可撓部材3に軸方向に伝達される。図5に示すように、可撓部材3は、押圧力を受けて軸方向に圧縮されながら加圧部材4側に押圧力を伝達し、加圧部材4は先端突起部41から押圧力を金属板12の表面に伝える。この状態が、恰もドリルチャック11に実際のドリルの刃を装着して金属板12の表面に垂直に穴を開けるべくハンドドリル10を押圧する時の感覚と類似したものとなる。
【0032】
ここで、練習者の押圧力の入力方向が、金属板12の表面に対して垂直であれば、可撓部材3は径方向に撓むことなく軸方向に圧縮されるのみであるため、入力した力が金属板12の表面に伝えられる。このため、加圧部材4の先端突起部41が金属板12の凹部13からずれることがない。また、図3に示すように、受圧部材2側に設けられた嵌合突起24と、加圧部材4側に設けられた嵌合凹部44とが、きちんと嵌合する。したがって、練習者は力の掛け方が正しかったことを認識することができる。
【0033】
しかし、図6に示すように、練習者の押圧力の入力方向が金属板12の表面に対して垂直でなければ、可撓部材3が径方向に撓んでしまい(湾曲してしまい)、押圧力が金属板12の表面に伝えられない。即ち、加圧部材4の先端突起部41が金属板12の凹部13からずれてしまうか、あるいはずれなかったとしても、嵌合突起24と嵌合凹部44とが嵌合できずに衝突して練習者が違和感を覚える。このため、練習者は力の掛け方が間違っていたことを認識することができる。
【0034】
このように、可撓部材3を径方向には撓ませずに、軸方向にのみ圧縮させるようにハンドドリル10を軸方向に押圧することができるようになれば、練習者は、材料の表面の角度に拘わらず、ハンドドリル10の刃を垂直に当てて力を込める感覚を体得することができる。しかも、この穴開け練習機1を用いての穴開け練習は、実際にドリルの刃を使って端材等に穴開けを行うものではないため、ドリルの刃が消耗することがない。さらに、練習に用いる金属板12には実際に穴が開けられることがなく、繰り返し使用することができるため、練習用に多数の端材等を用意する必要もないため、穴開け練習に伴う無駄を省くことができる。
【0035】
この穴開け練習機1は、受圧部材2に設けられたシャンク部21をチャッキングすることにより、実際のドリルの刃と同様にハンドドリル10に取り付けることができ、加圧部材4には金属板12に突き当てられる先端突起部41が設けられているため、練習者はリアルな感覚で穴開け練習をすることができる。また、ドリルチャック11を回転させても、回転させなくても練習ができるため、練習の初期段階ではドリルチャック11を回転させず、練習が進むにつれてドリルチャック11を回転させるようにすれば、段階的な技能向上を果たすことができる。
【0036】
この穴開け練習機1を用いて穴開け練習を行えば、実際に穴開け作業を行う時に、例えば穴開け対象物の表面が傾斜していたり、あるいは航空機の胴体のような円筒状の形状であったりしても、そのあらゆる部位において表面に対し垂直に穴開けを行うことができるようになる。
【0037】
[第2実施形態]
図7は、本発明に係るドリル穴開け練習機の第2実施形態を示す縦断面図である。このドリル穴開け練習機50は、第1実施形態のドリル穴開け練習機1とほぼ同様な構造の練習機本体51を備えている。練習機本体51は、受圧部材52と、可撓部材53と、加圧部材54とを具備して構成されている。また、ドリル穴開け練習機50は、ベース板(被押圧部材)55と、カバー部材56と、ベース板55の裏面側に設けられた複数の吸盤57とを具備して構成されている。カバー部材56はベース板55に被装されてドリル穴開け練習機50を箱状に構成している。また、吸盤57はベース板55を構造物等の表面に固定させる固定手段であり、吸盤に限らず、磁石や他の係合装置等に置き換えてもよい。
【0038】
練習機本体51の受圧部材52,可撓部材53,加圧部材54は同軸状に連結され、ベース板55の表面に対して垂直な中心線C2に沿うように、ベース板55から起立している。受圧部材52には、第1実施形態の受圧部材2におけるシャンク部21が設けられておらず、その代わり受圧端部521の中心部に凹部522が形成されている。また、受圧部材52には嵌合突起(嵌合部)524が形成されている。
【0039】
加圧部材54には、第1実施形態の加圧部材4における先端突起部41が設けられておらず、加圧部材54はベース板55の中央部に揺動可能に、かつ外力が加わらない自然な状態では練習機本体51の中心線C2がベース板55の表面に対して垂直になるように、図示しない弾性部材を介して連結されている。また、加圧部材4に嵌合凹部(嵌合部)544が形成されている。この嵌合凹部544と受圧部材52の嵌合突起524の作用は第1実施形態と同様である。
【0040】
可撓部材53は、第1実施形態における可撓部材3と同様な金属製のコイルスプリングであり、受圧部材52と加圧部材54の間を連結し、外力が加わらない自然な状態では練習機本体51を中心線C2に沿う直棒状に維持している。カバー部材56の天面はベース板55に平行する面とされ、その中央部には中心線C2が交差する位置に開口部58が穿設されており、この開口部58から受圧部材52の受圧端部521が外部に臨んでいる。即ち、練習機本体51の受圧部材52と可撓部材53と加圧部材54は、カバー部材56によって覆われており、受圧部材52の受圧端部521以外は外部から見えないようになっている。
【0041】
以上のように構成されたドリル穴開け練習機50を用いて穴開け練習する場合は、ハンドドリル10のドリルチャック11に実際のドリルの刃、もしくはドリルの刃を模した棒材59をチャッキングし、練習者は棒材59の先端を受圧部材52の受圧端部521に形成された凹部522にあてがい、そのまま、図8に示すように、ドリル軸心方向C1がカバー部材56の天面に対して垂直になるように力を加える。その際にハンドドリル10を回転させてもさせなくてもよい。
【0042】
練習者のハンドドリル10から加えられた押圧力は、ドリルチャック11からドリル軸心方向C1に沿って受圧部材52と可撓部材53に軸方向に伝達される。可撓部材53は、押圧力を受けて軸方向に圧縮されながら加圧部材54側に押圧力を伝達し、加圧部材54は可撓部材53からの押圧力をベース板55に伝える。この状態は、恰もドリルチャック11に実際のドリルの刃を装着してカバー部材56の天面に孔を開けるべくハンドドリル10を押圧する時の感覚と類似したものとなる。
【0043】
ここで、練習者の押圧力の入力方向が、カバー部材56の天面に対して垂直であれば、ドリル軸心方向C1と練習機本体51の中心線C2とが一直線上に合致するため、可撓部材53は径方向に撓むことなく軸方向に圧縮されるのみとなり(図8参照)、入力した力がベース板55に伝えられる。このため、棒材59の先端が受圧部材52の凹部522からずれることがない。そして、受圧部材52側に設けられた嵌合突起524と、加圧部材54側に設けられた嵌合凹部544とが、きちんと嵌合する。したがって、練習者は力の掛け方が正しかったことを認識することができる。
【0044】
しかし、練習者の押圧力の入力方向がカバー部材56の天面に対して垂直でなければ、ドリル軸心方向C1と練習機本体51の中心線C2とが一直線上に合致しないため、可撓部材53が径方向に撓んでしまい(湾曲してしまい)、押圧力がベース板55に伝えられない。即ち、棒材59の先端が受圧部材52の凹部522からずれてしまうか、あるいはずれなかったとしても、嵌合突起524と嵌合凹部544とが嵌合できずに衝突して練習者が違和感を覚える。このため、練習者は力の掛け方が間違っていたことを認識することができる。
【0045】
この穴開け練習機50は、カバー部材56によって練習機本体51が覆われており、穴開け練習時に可撓部材53が圧縮変形する状況が、カバー部材56に遮られて練習者には見えないため、練習者は手の感覚だけでハンドドリル10を垂直に押し込む感覚を体得することができる。しかも、ハンドドリル10に実際のドリルの刃、もしくはドリルの刃を模した棒材をチャッキングして練習を行うため、実際の穴開け作業により近い状態で、効果的な練習を行うことができる。
【0046】
また、この穴開け練習機50は、構造物等の表面に固定させるための吸盤57を備えているため、ドリル穴開け練習機50を、傾斜した構造物や、円筒状の構造物等に固定させることができる。したがって、練習者には、穴開け材料の表面がどのような角度であっても、この表面に対してハンドドリルの刃を垂直に当てて力を込める感覚を効果的に体得させることができる。
【0047】
[第3実施形態]
図9は、本発明に係るドリル穴開け練習機の第3実施形態を示す縦断面図である。このドリル穴開け練習機70は、第2実施形態のドリル穴開け練習機50とほぼ同様な構造であるが、可撓部材53の周囲に接触部材71が設けられている。この接触部材71は、導電性材料で形成されたパイプ状の部品であり、その一端が絶縁部材72を介してベース板55に固定されている。接触部材71の内周面と、可撓部材53の外周との間には一定の間隔が設けられており、可撓部材53が撓んで径方向に湾曲した時にのみ互いに接触するようになっている。可撓部材53は導電性材料(金属)で形成されたコイルスプリングであるため、両部材53,71は接触すると電気的に導通する。
【0048】
また、可撓部材53と接触部材71との間が配線73によって電気的に接続されている。配線73の一端は可撓部材53が固定されている加圧部材54側に繋がり、他端は接触部材71に繋がっている。これにより、可撓部材53が接触部材71に接触すると閉じる回路74が形成されている。この回路74には電池等の電源75が接続されるとともに、パイロットランプ76とブザー77が並列または直列に接続されている。パイロットランプ76とブザー77は電気的警報手段として機能するものである。
【0049】
上記のように構成されたドリル穴開け練習機70によれば、図10に示すように、練習者の力の入力方向がカバー部材56の天面に対して正しく垂直になっている場合には、可撓部材53が径方向に湾曲せずに真っ直ぐに圧縮されるため、可撓部材53と接触部材71とが接触することはない。しかし、図11に示すように、練習者の力の入力方向がカバー部材56の天面に対して垂直でないと、可撓部材53が径方向に湾曲して接触部材71に接触する。このため、回路74が電気的に閉じられて電源75によりパイロットランプ76が点灯し、ブザー77が鳴る。したがって、練習者は入力方向が誤っていることを直ちに認識することができるとともに、ランプが点いたりブザーが鳴ることによって緊張感のある練習を行い、その上達を早めることができる。なお、パイロットランプ76とブザー77はいずれか一方のみ設けてもよい。
【0050】
なお、本発明に係るドリル穴開け練習機は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲であれば、数々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0051】
1,50,70 ドリル穴開け練習機
2,52 受圧部材
3,53 可撓部材
4,54 加圧部材
10 ハンドドリル
11 ドリルチャック
12 金属板(被押圧部材)
21 シャンク部
24,524 嵌合突起(嵌合部)
25,45 対向面
41 先端突起部
44,544 嵌合凹部(嵌合部)
55 ベース板(被押圧部材)
56 カバー部材
57 吸盤(固定手段)
71 接触部材
74 回路
75 電源
76 パイロットランプ(電気的警報手段)
77 ブザー(電気的警報手段)
521 受圧部材の受圧端部
C1 ドリル軸心方向
C2 練習機本体の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドドリルのドリルチャック側からドリル軸心方向に沿う押圧力を受ける受圧部材と、
前記受圧部材に連結され、前記ドリルチャックからの押圧力を軸方向に伝達し、軸方向に圧縮可能かつ径方向に湾曲可能な可撓部材と、
前記可撓部材の反受圧部材側に連結され、該可撓部材を介して伝達される前記ドリルチャック側からの押圧力を被押圧部材の表面に伝達する加圧部材と、
を具備したことを特徴とするドリル穴開け練習機。
【請求項2】
前記可撓部材は中空の筒形状であり、前記受圧部材と前記加圧部材は、前記可撓部材の中空部を隔てて対向する対向面を有し、これらの対向面には、前記受圧部材が前記可撓部材を軸方向に圧縮させながら前記ドリル軸心方向に沿って前記加圧部材側に押圧された時に、互いに軸方向に嵌合する嵌合部を有していることを特徴とする請求項1に記載のドリル穴開け練習機。
【請求項3】
前記受圧部材は、前記ドリルチャックに加えられるシャンク部を有し、
前記可撓部材と前記加圧部材は、それぞれ前記受圧部材と一体に回転可能に順次連結され、
前記加圧部材は前記被押圧部材に当接する先端突起部を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のドリル穴開け練習機。
【請求項4】
前記加圧部材は、前記被押圧部材の定位置に揺動可能、かつ外力が加わらない自然な状態ではその中心軸が前記被押圧部材の表面に対して垂直になるように連結され、
前記被押圧部材には、前記受圧部材と前記可撓部材と前記加圧部材とを覆って前記受圧部材の受圧端部以外は外部から視認不可能にするカバー部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のドリル穴開け練習機。
【請求項5】
前記被押圧部材を構造物等の表面に固定させる固定手段をさらに有することを特徴とする請求項4に記載のドリル穴開け練習機。
【請求項6】
前記可撓部材を導電性材料で形成するとともに、前記可撓部材が径方向に湾曲した時にのみ該可撓部材と接触して電気的に導通する接触部材を設け、前記可撓部材と前記接触部材との間を電気的に接続して前記可撓部材が前記接触部材に接触すると閉じる回路を形成し、この回路に電源と電気的警報手段を接続したことを特徴とする請求項4または5に記載のドリル穴開け練習機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−171081(P2012−171081A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38327(P2011−38327)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】