説明

ドロップケーブル用補強スリーブ

【課題】光ファイバの融着接続部の機械的強度を向上させると共に、気泡の発生を防止して光損失の低下を防止することができるドロップケーブル用補強スリーブを提供する。
【解決手段】ドロップケーブル用補強スリーブ1は、ドロップケーブル端部と該ドロップケーブル端部から導出される光ファイバ同士の融着による融着接続部とが挿通される熱溶融性の内部チューブ11と、内部チューブ11の長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置された長尺状の抗張力体12と、内部チューブ11及び抗張力体12を覆うように配置された熱収縮性の外部チューブ13とを備える。内部チューブ11は、ドロップケーブル端部近傍に設けられ且つ内部チューブ11の軸方向に関してドロップケーブル端部より内側に設けられるスリット11a,11b(孔)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロップケーブル同士の融着接続部を補強するドロップケーブル用補強スリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバコード同士を接続する際には、心線の被覆を除去して光ファイバを露出し、露出した光ファイバの端部相互を突き合わせて融着している。このため、融着接続された光ファイバでは露出部分の機械的強度が低下する。そこで、融着接続部を覆うように内部チューブを配置すると共に、金属素材等からなる長尺状抗張力体を内部チューブの長手方向に沿って配置し、さらに内部チューブと抗張力体を覆うように熱収縮チューブを配置し、内部チューブの溶融及び熱収縮チューブの熱収縮により、融着接続部を含む光ファイバの露出部分を被包して補強している。
【0003】
図6は、従来の補強スリーブの構成を示す図であり、図7は、図6における融着接続部の補強手順を説明する図であり、(a)は加熱前の状態を示し、(b)は加熱後の状態を示す。
【0004】
図6及び図7に示すように、補強スリーブ60は、熱収縮性の外部チューブ61(長さL2)と、熱溶融性の内部チューブ62(長さL1:L1<L2)と、内部チューブ62の長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置された長尺状抗張力体63とを備える。
【0005】
この補強スリーブ60を用いて光ファイバを補強する場合、先ず、二つの光ファイバコード71A,71Bのいずれか一方に補強スリーブ60を通し、一方の光ファイバコード71Aの光ファイバ心線から光ファイバ72Aを露出させ、他方の光ファイバコード71Bの光ファイバ心線から光ファイバ72Bを露出させる。次に不図示の光ファイバ融着接続機により光ファイバ72Aと、光ファイバ72Bとを融着接続する。
【0006】
次いで、二つの光ファイバコードのいずれかに通した補強スリーブ60を光ファイバ72Aと光ファイバ72Bとの融着接続部を覆うように被せる(図7(a))。このとき、内部チューブ62は、融着接続部と光ファイバ72A,72Bの露出部分とを覆うように配置される。そして、外部チューブ61は、内部チューブ62、及び二つの光ファイバコード71A,71Bの端部を覆うように配置される。この状態で補強スリーブ60を加熱すると、外部チューブ61が熱収縮すると共に、内部チューブ62が外部チューブ61の内部にて熱溶融し、これにより融着接続部を含む光ファイバ72A,72Bの露出部分が被包補強される(図7(b))(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−332266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光ファイバ用補強スリーブでは、通常、加熱時に補強スリーブ内に空気が残存し、補強スリーブ内に気泡が発生する場合がある。加熱後の補強スリーブ内部に気泡が存在すると、気泡が環境変化に伴って膨張・収縮することにより光ファイバに悪影響を及ぼし、光損失を生じるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、光ファイバの融着接続部の機械的強度を向上させると共に、気泡の発生を防止して光損失の低下を防止することができるドロップケーブル用補強スリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るドロップケーブル用補強スリーブは、ドロップケーブル端部と前記ドロップケーブル端部から導出される光ファイバ同士の融着による融着接続部とが挿通される熱溶融性の内部チューブと、前記内部チューブの長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置された抗張力体と、前記内部チューブ及び前記抗張力体を覆うように配置された熱収縮性の外部チューブとを備え、前記内部チューブは、前記ドロップケーブル端部近傍且つ前記内部チューブの軸方向に関して前記ドロップケーブル端部より内側に設けられた少なくとも1つの孔を有することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記内部チューブは、前記ドロップケーブル端部が挿通されるドロップケーブル用部位と、前記ドロップケーブル端部から導出される光ファイバが挿通される光ファイバ用部位とを有し、前記少なくとも1つの孔は、前記光ファイバ用部位の両端部近傍に設けられる。
【0012】
また、好ましくは、前記孔は、前記内部チューブの長手方向に対して略直角に延設されている。
【0013】
好ましくは、前記内部チューブは前記外部チューブ内の上部に配置されると共に、前記抗張力体は前記外部チューブ内の下部に配置され、前記孔は、前記内部チューブの下部に設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内部チューブにはドロップケーブル端部と該ドロップケーブル端部から導出される光ファイバ同士の融着による融着接続部とが挿通され、抗張力体が内部チューブの長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置されるので、内部チューブが溶融して融着接続部と抗張力体が溶着され、これにより融着接続部の曲げ強度や引っ張り強度を向上することができる。そして、少なくとも1つの孔が、ドロップケーブル端部近傍且つ内部チューブの軸方向に関してドロップケーブル端部より内側に設けられるので、内部チューブが溶融する際にチューブ内からの空気の排出が促され、気泡の発生を防止することができる。したがって、融着接続部の機械的強度を向上させると共に、補強スリーブ内の気泡の発生を防止して光損失の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るドロップケーブル用補強スリーブの構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の線I−Iに沿う断面図である。
【図3】図1の線II−IIに沿う断面図である。
【図4】図1における内部チューブの構成を示す側面図である。
【図5】図1のドロップケーブル用補強スリーブを用いた融着接続部の補強手順を説明する図であり、(a)は加熱前の状態、(c)は加熱後の状態を示す。
【図6】従来の補強スリーブの構成を示す図である。
【図7】図6における融着接続部の補強手順を説明する図であり、(a)は加熱前の状態、(b)は加熱後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るドロップケーブル用補強スリーブの構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、図1の線I−Iに沿う断面図、図3は、図1の線II−IIに沿う断面図である。
【0018】
図1乃至図3において、ドロップケーブル用補強スリーブ1は、ドロップケーブル端部と該ドロップケーブル端部から導出される光ファイバ同士の融着による融着接続部とが挿通される熱溶融性の内部チューブ11と、内部チューブ11の長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置された長尺状の抗張力体12と、内部チューブ11及び抗張力体12を覆うように配置された熱収縮性の外部チューブ13とを備える。内部チューブ11は、不図示の補強スリーブ用融着機において加熱台となる載置面に対して、外部チューブ13内の上部に配置されており、抗張力体12は外部チューブ13内の下部に配置される。
【0019】
内部チューブ11は、その長さ、外径、内径が、例えば60mm、6mm、3mmである。内部チューブ11は、熱溶融樹脂、例えば、ホットメルト樹脂から成形されており、ホットメルト樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系、ポリオレフィン(PP)系、ポリアミド(PA)系、合成ゴム(SR)等が使用される。内部チューブ11の長さは、光ファイバの融着接続部とその両側に位置するドロップケーブル端部とを覆うことが可能な値に設定される(図4)。また、内部チューブ11は、ドロップケーブル端部近傍に設けられ且つ内部チューブ11の軸方向に関してドロップケーブル端部より内側に設けられるスリット11a,11b(孔)を有する。
【0020】
抗張力体12は断面略円形であり、その長さ、外径は、例えば60mm、φ1.0である。抗張力体12は、鋼、ガラスFRP又はアラミド繊維FRPからなる。抗張力体12が補強スリーブ1に内包されることにより、作用する曲げ力や引っ張り力から融着接続部が保護される。
【0021】
外部チューブ13は、その外径、内径が夫々6mm、5mmであり、ポリ塩化ビニル樹脂,フッ素樹脂,ポリスチレン系樹脂,ポリオレフィン系樹脂等の樹脂から成形される。外部チューブ13は、融着接続部を外部から観察することができるように透明であることが好ましい。また、外部チューブ13は、加熱によって収縮する際に光ファイバと抗張力体12を溶着させる役割を果たし、この抗張力体12によって融着接続部に曲げ方向及び引っ張り方向の強度を付与する。このため、外部チューブ13には、収縮開始温度が内部チューブ11の溶融温度と同じであるか、又は溶融温度より高い樹脂が使用される。
【0022】
ドロップケーブルは、一般に、光ファイバ心線にシースを施したケーブル本体部と支持線にシースを施した支持線部とが連結部により一体化された構成を有している。ドロップケーブルの補強作業は、通常、支持線部が剥ぎ取られたケーブル本体部に対して行われるため、本実施の形態ではケーブル本体部を「ドロップケーブル」と称する。
【0023】
図4は、図1における内部チューブ11の構成を示す側面図である。
【0024】
図4に示すように、内部チューブ11は、ドロップケーブル端部30A,30Bが挿通されるドロップケーブル用部位41A,41Bと、ドロップケーブル端部30A,30Bから導出される光ファイバ30a,30bが挿通される光ファイバ用部位42とを有する。光ファイバ用部位42の両端部近傍にはスリット11a,11bが設けられており、スリット11a,11bは、内部チューブ11の長手方向に対して略直角に延設されると共に、該内部チューブの下側に設けられている。
【0025】
光ファイバ30a,30bを融着接続した状態におけるドロップケーブル端部30A,30B間の距離は、使用される融着接続機によって決定される固有の値となり、例えば40mmである。本実施の形態では、スリット11a,11bの各々は、内部チューブ11の端面から内側に向かって所定距離、例えば11mmの位置に形成される。したがって、内部チューブ11の中心位置を融着接続部と一致させたとき、ドロップケーブル端部30A,30Bとスリット11a,11bとの距離は夫々1mmとなる。
【0026】
ここで、ドロップケーブル用補強スリーブを加熱して内部チューブを溶融すると、補強スリーブ内、特に内部チューブ内から抜け切らなかった空気が気泡となって残存する場合がある。この気泡は、主に、ドロップケーブル端部の近傍且つ内部チューブの軸方向に関してドロップケーブル端部より内側であって、さらにドロップケーブルから導出された光ファイバの下方に発生する。
【0027】
したがって、本実施の形態では、ドロップケーブル端部30A(30B)の近傍且つ内部チューブ11の軸方向に関してドロップケーブル端部30A(30B)より内側にスリット11a(11b)が設けられる。これにより、内部チューブ11内からの空気の排出が促され、気泡の発生が防止される。また、スリット11a,11bを内部チューブ11の下部に設けることにより、空気の排出が更に促され、気泡の発生が確実に防止される。また、スリット11a,11bは内部チューブ11全体に亘って形成されず、ドロップケーブル端部近傍のみに形成されるので、内部チューブ11にスリットを形成する際の作業工数を低減することができる。
【0028】
また、内部チューブ11は、ドロップケーブル端部30A,30Bが挿通されるドロップケーブル用部位41A,14Bを有しているため、内部チューブが溶融する際、ドロップケーブル端部30A,30Bの外周面と外部チューブ13の内周面が溶着接合される。これにより、ドロップケーブル端30A,30Bと外部チューブ13との間に空気が進入するのを防止することができ、補強作業後の光損失の発生を防止することができる。
【0029】
図5は、図1のドロップケーブル用補強スリーブ1を用いた融着接続部の補強処理を説明する図であり、(a)は加熱前の状態、(b)は加熱後の状態を示す。
【0030】
図5(a)において、先ず、2本の光ファイバ30a,30bを融着接続するのに先立って、シース等の被覆を除去して光ファイバ30bを露出させた一方のドロップケーブルを内部チューブ11に挿通し、ドロップケーブル用補強スリーブ1を被着する。
【0031】
次に、光ファイバ41a,41bの端部相互を突き合わせて2本の光ファイバ30a,30bを融着接続する。その後、ドロップケーブル用補強スリーブ1を融着接続部Psに移動し、融着接続部Psとドロップケーブル端部30A,30Bとを補強スリーブ1で覆う。
【0032】
次いで、不図示の補強スリーブ用融着機を用いてドロップケーブル用補強スリーブ1を下方及び側方から加熱する。ドロップケーブル用補強スリーブ1の加熱温度は、長手方向中央位置で最大値となり、中央位置から両側に向かって低下するように設定される。このように加熱温度を設定すると、外部チューブ13が中央位置から両側に向かって順に収縮すると共に、内部チューブ11が中央位置から両側に向かって順に溶融する。このとき、外部チューブ13内部の空気は両側方へ押し出され、外部チューブの各端部から外部に排出される。さらに、内部チューブ11内部の空気は両側方に押し出され、内部チューブ11のスリット11a,11bを通って内部チューブの各端部から外部に排出される。したがって、ドロップケーブル用補強スリーブ1内の気泡の発生が防止される。上記の補強手順により、外部チューブ13が熱収縮すると共に、光ファイバ30a,30b及び抗張力体12に内部チューブ11が溶着し、融着接続部Ps及び光ファイバ30a,30bに曲げ方向及び引っ張り方向の強度が付与される(図5(b))。
【0033】
上述したように、本実施の形態によれば、内部チューブ11にはドロップケーブル端部30A,30Bと該ドロップケーブル端部から導出される光ファイバ30a,30b同士の融着による融着接続部Psとが挿通され、抗張力体12が内部チューブ11の長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置されるので、内部チューブ11が溶融して融着接続部Psと抗張力体12が溶着され、これにより融着接続部Psの曲げ強度や引っ張り強度を向上することができる。そして、スリット11a,11bが夫々、ドロップケーブル端部30A,30B近傍且つ内部チューブ11の軸方向に関してドロップケーブル端部30A,30Bより内側に設けられるので、内部チューブ11内からの空気の排出が促され、気泡の発生を防止することができる。したがって、融着接続部Psの機械的強度を向上させると共に、補強スリーブ1内の気泡の発生を防止して光損失の低下を防止することができる。
【0034】
本実施の形態では、スリット11a,11bは、夫々ドロップケーブル端部30A,30Bに1つずつ設けられるが、これに限るものではなく、少なくとも1つのスリットがドロップケーブル端部に設けられてもよい。また、ドロップケーブル端部にスリット以外の形状を有する少なくとも1つの孔が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 補強スリーブ
11 内部チューブ
11a,11b スリット
12 抗張力体
13 外部チューブ
30a,30b 光ファイバ
30A,30B ドロップケーブル端部
41A,41B ドロップケーブル用部位
42 光ファイバ用部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロップケーブル端部と、前記ドロップケーブル端部から導出される光ファイバ同士の融着による融着接続部とが挿通される熱溶融性の内部チューブと、
前記内部チューブの長手方向に沿って該内部チューブの外周面近傍に配置された抗張力体と、
前記内部チューブ及び前記抗張力体を覆うように配置された熱収縮性の外部チューブとを備え、
前記内部チューブは、前記ドロップケーブル端部近傍且つ前記内部チューブの軸方向に関して前記ドロップケーブル端部より内側に設けられた少なくとも1つの孔を有することを特徴とするドロップケーブル用補強スリーブ。
【請求項2】
前記内部チューブは、前記ドロップケーブル端部が挿通されるドロップケーブル用部位と、前記ドロップケーブル端部から導出される光ファイバが挿通される光ファイバ用部位とを有し、
前記少なくとも1つの孔は、前記光ファイバ用部位の両端部近傍に設けられることを特徴とする請求項1記載のドロップケーブル用補強スリーブ。
【請求項3】
前記孔は、前記内部チューブの長手方向に対して略直角に延設されていることを特徴とする請求項1又は2記載のドロップケーブル用補強スリーブ。
【請求項4】
前記内部チューブは前記外部チューブ内の上部に配置されると共に、前記抗張力体は前記外部チューブ内の下部に配置され、
前記孔は、前記内部チューブの下部に設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のドロップケーブル用補強スリーブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−150032(P2011−150032A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9521(P2010−9521)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(399040405)東日本電信電話株式会社 (286)
【Fターム(参考)】