説明

ドーナツ様食品の製造法

【課題】化学膨張剤やイーストを使用せずに、均一な気泡からなる内相を有し、ボリューム感があり、しかも吸油が少なく、食感が良好で経時変化が少ない、ケーキドーナツタイプまたはイーストドーナツタイプなどのドーナツ様食品が得られる、ドーナツ様食品の製造法を提供すること。
【解決手段】穀粉類を主成分とし、化学膨張剤およびイーストを含まないドーナツ様食品生地を、該生地の粘度が7,000〜60,000mPa・sになるように作成し、次いでこの生地に不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する生地を作成するにあたり、この多数の気泡が内在する生地の粘度が、5,000〜55,000mPa・sの範囲でかつ不活性ガスを介在させる前の生地の粘度の70〜95%になるように、多数の気泡が内在する生地を作成し、これを成型してフライすることにより、ドーナツ様食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学膨張剤やイーストを使用しないドーナツ様食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、ケーキドーナツは膨張剤を使用した生地をフライして得られており、また、イーストドーナツはイーストで発酵させた生地をフライして得られていた。しかし、化学膨張剤やイーストを使用した場合、それらに起因する風味や食味の低下の問題があり、また近年の食への安全指向から化学膨張剤などの添加物はなるべく使用しないことが望まれている。
菓子生地やパン生地に不活性ガスを使用する技術としては、下記の特許文献1〜9に記載されている発明があげられる。しかし、これらの特許文献には、ドーナツ様食品を得ることについては記載されておらず、また不活性ガスを生地に介在させる前と後の生地の粘度を調整することについても記載されていない。
【0003】
【特許文献1】特開昭52−21368号公報
【特許文献2】特開昭55−54846号公報
【特許文献3】特開昭56−117755号公報
【特許文献4】特開昭63−49040号公報
【特許文献5】特開平3−180162号公報
【特許文献6】特開平6−319433号公報
【特許文献7】特開平10−84873号公報
【特許文献8】特開平11−164645号公報
【特許文献9】特開2004−329048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、化学膨張剤やイーストを使用せずに、均一な気泡からなる内相を有し、ボリューム感があり、しかも吸油が少なく、食感が良好で経時変化が少ない、ケーキドーナツタイプまたはイーストドーナツタイプなどのドーナツ様食品が得られる、ドーナツ様食品の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記のドーナツ様食品の製造法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
穀粉類を主成分とし、化学膨張剤およびイーストを含まないドーナツ様食品生地を、該生地の粘度が7,000〜60,000mPa・sになるように作成し、次いでこの生地に不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する生地を作成するにあたり、この多数の気泡が内在する生地の粘度が、5,000〜55,000mPa・sの範囲でかつ不活性ガスを介在させる前の生地の粘度の70〜95%になるように、多数の気泡が内在する生地を作成し、これを成型してフライすることを特徴とする、ドーナツ様食品の製造法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のドーナツ様食品の製造法によれば、化学膨張剤やイーストを使用することがないため化学膨張剤やイーストに起因する風味や食味の低下がなく、また化学膨張剤やイーストを使用しなくても、均一な気泡からなる内相を有し、ボリューム感があり、しかも吸油が少なく、食感が良好で経時変化が少ないドーナツ様食品が得られる。また、原料配合および/または生地粘度の調整により、ケーキドーナツタイプまたはイーストドーナツタイプの製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のドーナツ様食品の製造法をその好ましい実施態様について説明する。
本発明を実施するには、まず、穀粉類を主成分とし、化学膨張剤およびイーストを含まないドーナツ様食品生地を作成する。
このドーナツ様食品生地の作成は、該生地の粘度が7,000〜60,000mPa・s、好ましくは16,000〜56,000mPa・sになるように行う。
このドーナツ様食品生地の粘度の調整は、原料組成の違いにより加える水の量を調整することにより行うことができる。このドーナツ様食品生地の粘度が7,000mPa・sより低いと、フライ時に形状が保てず、不均一な外観となり、またこのドーナツ様食品生地の粘度が60,000mPa・sより高いと、フライ時に、食感が硬く、外観にひび割れを生じやすく、いずれも好ましくない。
【0008】
上記ドーナツ様食品生地は、原料として小麦粉、コーンフラワー、大豆粉、各種澱粉類などの穀粉類を主成分とし、これに必要に応じて、ドーナツ様食品生地に通常用いる原料、例えば油脂類、糖類、食塩、調味料、香辛料、卵類、乳化剤などを適宜添加してもよいが、化学膨張剤およびイーストは用いず、前記の原料にさらに水を加えて混捏することにより作成することができる。
上記ドーナツ様食品生地の原料組成は、小麦粉を主体とし、通常ドーナツの製造に用いられるものであれば特に限定されない。
水の添加量は、上記ドーナツ様食品生地の粘度が上記範囲内となる量である。
【0009】
次に、上記ドーナツ様食品生地に不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する生地を作成する。
上記不活性ガスとしては、食品に使用しても問題がないものであればよく、特に炭酸ガスが好ましい。上記不活性ガスとして、窒素ガスを併用することができるが、不活性ガスではない空気を使用することは好ましくない。
上記ドーナツ様食品生地への不活性ガスの介在方法としては、ドーナツ様食品生地中に多数の気泡が内在される方法であれば特に限定されないが、例えば、密閉容器内にドーナツ様食品生地を入れ、4〜14kg/cm2 の加圧条件下で不活性ガスを当該密閉容器内に充填し、その後、当該密閉容器を振とうして放置することにより、ドーナツ様食品生地中に小泡状の均一な気泡を多数内在させる方法があげられる。この方法は、特開2006−345776号公報や実用新案登録第3121937号公報に記載の装置〔これらの装置は、商品名「エスプーマアドバンス」(日本炭酸瓦斯株式会社製)として市販されている〕を使用することにより簡単に行うことができる。
【0010】
上記の多数の気泡が内在する生地の作成は、この多数の気泡が内在する生地の粘度が、5,000〜55,000mPa・sの範囲、好ましくは10,000〜52,000mPa・sの範囲で、かつ不活性ガスを介在させる前の生地の粘度の70〜95%、好ましくは75〜95%になるように行う必要がある。
【0011】
上記の多数の気泡が内在する生地の粘度が5,000mPa・sより低いと、フライ時に膨化し過ぎ、吸油が過多になり、また上記の多数の気泡が内在する生地の粘度が55,000mPa・sより高いと、ボリューム感が得られず、いずれも好ましくない。
【0012】
また、上記の多数の気泡が内在する生地の粘度が不活性ガスを介在させる前の生地の粘度の70%より低いと、フライ時に均一な形状になりにくく、また上記の多数の気泡が内在する生地の粘度が不活性ガスを介在させる前の生地の粘度の95%より高いと、フライ時に膨らみにくく、食感が硬くなる。
【0013】
尚、本発明でいう生地の粘度の測定は、粘度計(東機産業株式会社製「B型粘度計」)を用いて、プラスチックビーカー200mlに生地を200ml入れて、該粘度計の操作説明書に記載の方法(粘度に合わせてローターと回転数を選択する)で行えばよい。
【0014】
次いで、上記の多数の気泡が内在する生地を常法により成型してフライすることにより、本発明のドーナツ様食品が得られる。
【実施例】
【0015】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
実施例1(ケーキドーナツタイプの例)
表1に示す配合の生地原料を製パン用ミキサーに入れ、ビーターを用いて低速で4分間、中速で3分間混捏して、捏上げ温度約25℃のドーナツ様食品生地を作成した。この生地の粘度は54,000mPa・sであった。この生地に「エスプーマアドバンス(日本炭酸瓦斯株式会社製)」を用いて炭酸ガスを介在させた。この介在の具体的方法は、上記装置に備え付けの密閉容器内に生地を入れ、10kg/cm2 の加圧条件下で炭酸ガスを当該密閉容器内に充填し、その後、当該密閉容器を振とうして多少の時間放置する方法であり、この方法により、生地中に小泡状の均一な気泡が多数内在された。この多数の気泡が内在する生地(ガス介在後の生地)の粘度は51,000mPa・sであった。
この多数の気泡が内在する生地を、ベルショウ社製のサニタリーカッターに入れ、直径41mmのボールプランジャーで4分割し、約10g/個の生地に分割成形して185℃のドーナツ油で2分間フライし、反転させてさらに2分間フライしてボール状ドーナツ様食品を得た。このボール状ドーナツ様食品のフライ後10分間経過後の外観・吸油感、内相および食味について、表2に示す評価基準表に基づいてパネラー数10人で評価を行い、その結果(パネラー10人の平均点)を表1に示す。
【0017】
実施例2〜3
実施例1において、配合を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0018】
比較例1〜2
実施例1において、配合を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0019】
比較例3
実施例1において、炭酸ガスの代わりに圧縮空気を使用した以外は実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0020】
比較例4
実施例1において、配合中で、水の代わりに炭酸水を使用し、さらに炭酸ガスを使用しない以外は実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表1に示す
【0021】
比較例5
実施例1において、炭酸ガスを使用しない以外は実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0022】
比較例6
実施例1において、配合を表1に示すように変え(膨張剤添加)、ドーナツ様食品生地を調製後、ベンチタイムを10分間とり、炭酸ガスを使用しない以外は実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例1と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
実施例4(イーストドーナツタイプの例)
表3に示す配合の生地原料を製パン用ミキサーに入れ、フックを用いて低速で1分間混捏後、生地をミキサー壁から掻き落しした後、さらに低速で1分間混捏して、捏上げ温度約27℃のドーナツ様食品生地を作成した。この生地の粘度は58,000mPa・sであった。この生地に「エスプーマアドバンス(日本炭酸瓦斯株式会社製)」を用いて炭酸ガスを介在させた。この介在の具体的方法は、上記装置に備え付けの密閉容器内に生地を入れ、10kg/cm2 の加圧条件下で炭酸ガスを当該密閉容器内に充填し、その後、当該密閉容器を振とうして多少の時間放置する方法であり、この方法により、生地中に小泡状の均一な気泡が多数内在された。この多数の気泡が内在する生地(ガス介在後の生地)の粘度は54,000mPa・sであった。
この多数の気泡が内在する生地を、ベルショウ社製のサニタリーカッターに入れ、直径41mmのボールプランジャーで4分割し、約10g/個の生地に分割成形して170℃のドーナツ油で1分45秒間フライし、反転させてさらに1分45秒間フライしてボール状ドーナツ様食品を得た。このボール状ドーナツ様食品のフライ後10分間経過後の外観・吸油感、内相およびフライ後4時間経過後の食感について、表4に示す評価基準表に基づいてパネラー数10人で評価を行い、その結果(パネラー10人の平均点)を表3に示す。
【0026】
実施例5〜8
実施例4において、配合を表3に示すように変えた以外は実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0027】
実施例9
実施例4において、配合を表3に示すように水の量を変え、炭酸ガスの代わりに窒素ガスと炭酸ガスの混合ガス〔ガス混合比(質量比)=50:50)を使用した以外は実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0028】
比較例7〜8
実施例4において、配合を表3に示すように変えた以外は実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0029】
比較例9
実施例4において、配合を表3に示すように水の量を変え、炭酸ガスの代わりに圧縮空気を使用した以外は実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0030】
比較例10
実施例4において、配合を表3に示すように水の量を変え、炭酸ガスを使用しない以外は実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0031】
比較例11
実施例4において、配合を表3に示すように変え(イースト添加)、ドーナツ様食品生地を調製後、発酵(温度27℃、湿度75%)を30分間とり、炭酸ガスを使用しない以外は実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品を得た。以下、実施例4と同様にしてボール状ドーナツ様食品の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を主成分とし、化学膨張剤およびイーストを含まないドーナツ様食品生地を、該生地の粘度が7,000〜60,000mPa・sになるように作成し、次いでこの生地に不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する生地を作成するにあたり、この多数の気泡が内在する生地の粘度が、5,000〜55,000mPa・sの範囲でかつ不活性ガスを介在させる前の生地の粘度の70〜95%になるように、多数の気泡が内在する生地を作成し、これを成型してフライすることを特徴とする、ドーナツ様食品の製造法。
【請求項2】
不活性ガスが炭酸ガスである請求項1記載のドーナツ様食品の製造法。