説明

ドープ液の製造方法、光学薄膜の製造方法および光学薄膜

【課題】 フマル酸ジエステル系樹脂の溶剤溶解時に未溶解物が検出されない均一な溶解方法によるドープ液の製造方法、光学薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含む平均粒子径50〜300μmのフマル酸ジエステル系樹脂を、式1により示される攪拌流量Qが0.15〜3.5L/sec.の範囲で、攪拌流量Qと溶液体積Vの比(Q/V)にて示される値が1〜25sec.−1の範囲において攪拌開始から3分以内の時間内にて溶剤中に投入し、0.5〜4時間攪拌するドープ液の製造方法。
Q=Nq×n×d×10 (式1)
(式中、Qは攪拌流量を示し、Nqは攪拌流量係数を示し、nは回転数[rps]を示し、dは攪拌翼径[m]を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドープ液の製造方法、光学薄膜の製造方法に関するものであり、詳しくは製膜に用いる樹脂溶液(ドープ液)の製造方法、位相差フィルム等の光学薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(以下、LCDと称する)はマルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、携帯電話、コンピュータ用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。LCDには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられる。特にLCDを正面や斜めから見た場合のコントラストや色調を補償するために位相差フィルムが使用されており大きな役割を果たしている。位相差フィルムとしては従来からあるポリカーボネートや環状ポリオレフィンなどの他にフマル酸エステル系樹脂からなるフィルムなどが提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の光学補償フィルムは、フィルムの厚さ方向の屈折率が大きくなり、ある程度の面外位相差量を有することが特徴である。
【0003】
通常、光学補償フィルムなどの高品質が要求されるフィルム・シートなどにおいては均一な膜の製造技術が必要とされるが、フマル酸エステル系樹脂からなる光学フィルム材料はポリマーの分子骨格が嵩高く剛直であることから溶剤への溶解操作によって均一な溶液調製が難しく、溶解した後に未溶解残留物を生じやすい。
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1などにおいては、光学薄膜を作成するためのドープ液の調製方法において樹脂未溶解物が残留しないような溶液を調製するための記述はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−112141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はフマル酸ジエステル系樹脂の溶剤溶解時に未溶解物が検出されない均一な溶解方法によるドープ液の製造方法、光学薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のフマル酸ジエステル系樹脂を溶剤へ溶解させる方法として特定の条件にて攪拌混合することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含む平均粒子径50〜300μmのフマル酸ジエステル系樹脂を、所定の式により示される攪拌流量Qが0.15〜3.5L/sec.の範囲であり、攪拌流量Qと溶液体積Vの比(Q/V)にて示される値が1〜25sec.−1の範囲において攪拌開始から3分以内に溶剤中に投入し、0.5〜4時間攪拌することを特徴とするドープ液の製造方法、光学薄膜の製造方法である。
【0008】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のドープ液(光学薄膜を製造するための樹脂溶液)の製造方法で使用されるフマル酸ジエステル系樹脂は、フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むものである。
【0010】
ここで、炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位における炭素数1または2のアルキル基は、それぞれ独立しており、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。また、これらはフッ素、塩素等のハロゲン基;エーテル基;エステル基もしくはアミノ基等で置換されていてもよい。炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位としては、例えば、フマル酸ジメチル残基単位、フマル酸ジエチル残基単位等が挙げられる。また、これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0011】
具体的なフマル酸ジエステル系樹脂としては、例えば、フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体等が挙げられる。
【0012】
フマル酸ジエステル系樹脂中の共重合組成の割合は、光学薄膜とした際の位相差特性や強度が優れたものとなることからフマル酸ジイソプロピル残基単位が50〜99モル%及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位1〜50モル%が好ましく、位相差特性や強度がより優れたものとなることからフマル酸ジイソプロピル残基単位60〜95モル%及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位5〜40モル%がさらに好ましい。
【0013】
フマル酸ジエステル系樹脂は、本発明の範囲を超えない限り、他の単量体残基単位を含有していてもよく、他の単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基単位、α−メチルスチレン残基単位等のスチレン類残基単位;(メタ)アクリル酸残基単位;(メタ)アクリル酸メチル残基単位、(メタ)アクリル酸エチル残基単位、(メタ)アクリル酸ブチル残基単位等の(メタ)アクリル酸エステル類残基単位;酢酸ビニル残基単位、プロピオン酸ビニル残基単位等のビニルエステル類残基単位;アクリロニトリル残基単位;メタクリロニトリル残基単位;メチルビニルエーテル残基単位、エチルビニルエーテル残基単位、ブチルビニルエーテル残基単位等のビニルエーテル残基単位;N−メチルマレイミド残基単位、N−シクロヘキシルマレイミド残基単位、N−フェニルマレイミド残基単位等のN−置換マレイミド類残基単位;エチレン残基単位、プロピレン残基単位等のオレフィン類残基単位;フマル酸ジ−n−ブチル残基単位、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基単位等の前記フマル酸ジエステル残基単位以外のフマル酸ジエステル類残基単位等より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0014】
フマル酸ジエステル系樹脂は、平均粒子径50〜300μmである。平均粒子径が50μmよりも小さい場合、粉体が浮遊しやすく取扱い難くなること並びに溶剤溶解時の塊状化が顕著になる。また、平均粒子径が300μmを超える場合、粉体は浮遊し難いため取扱いは問題ないが、溶剤への溶解時に塊状化した場合、著しく溶解性が悪化する。
【0015】
フマル酸ジエステル系樹脂は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量が50,000〜250,000であることが好ましい。
【0016】
フマル酸ジエステル系樹脂の製造方法としては、該フマル酸ジエステル系樹脂が得られる限り如何なる方法により製造してもよく、例えば、フマル酸ジイソプロピルと炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステルをラジカル重合を行なうこと等により製造することができる。
【0017】
前記ラジカル重合は公知の重合方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれも採用可能であるが、粒子径を制御して重合ができ、回収が容易な懸濁重合法が好ましい。
【0018】
ラジカル重合を行なう際の重合触媒としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0019】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も用いることができる。
【0020】
ラジカル重合を行なう際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には30〜150℃の範囲で行なうことが好ましい。
【0021】
本発明のドープ液の製造方法では、式1に示す攪拌流量Qが0.15〜3.5L/sec.の範囲で、攪拌流量Qと溶液体積Vの比(Q/V)にて示される値が1〜25sec.−1の範囲において、上記したフマル酸ジエステル系樹脂を攪拌中の溶剤中に攪拌開始から3分以内に投入し、0.5〜1時間混合攪拌することで均一な溶解性を示すドープ液を得ることができる。
【0022】
Q=Nq×n×d×10 (式1)
(式中、Qは攪拌流量を示し、Nqは攪拌流量係数を示し、nは回転数[rps]を示し、dは攪拌翼径[m]を示す。)
攪拌流量Qが0.15L/sec.よりも小さい場合、攪拌が十分ではなく溶液中の流動部と滞留部の偏在が顕著となるために滞留部分において塊状物が未溶解物として残留するため好ましくない。一方、攪拌流量Qが3.5L/sec.よりも大きい場合にも、攪拌が強すぎるために液面が不安定であり更に溶液の発熱により溶剤揮発が著しいことから好ましくない。
【0023】
攪拌流量Qと溶液体積Vの比(Q/V)にて示される値が1を下回る場合、攪拌が十分ではなく溶液中の流動部と滞留部の偏在が顕著となるために滞留部分において塊状物が未溶解物として残留するため好ましくない。一方、Q/V値が25を超える場合には1〜25の範囲とほぼ同じ均一溶解性が得られるが、攪拌時の溶液発熱が大きく、溶剤が揮発しやすいため好ましくない。
【0024】
フマル酸ジエステル系樹脂を攪拌中の溶剤中への投入は3分以内に行なう。フマル酸ジエステル系樹脂の投入を3分間を超える時間を要して行うと凝集を生じるため好ましくない。より短時間で投入を完了できるのであればできるだけ早い方が凝集を抑制する目的からは好ましい。
【0025】
樹脂投入後の攪拌時間は0.5〜4時間である。0.5時間未満の場合には、攪拌容器内部の溶液の循環が十分とはいえず、容器壁面などへの微量未溶解分などが残留することがあるため好ましくなく、一方、4時間を超えても、その溶解効果は1時間程度の場合と変わらない。そのため、攪拌時間は0.5〜1時間が好ましい。
【0026】
フマル酸ジエステル系樹脂を溶解させる溶剤としては、これを溶解させる溶剤であれば如何なるものでもよく、例えば、テトラヒドロフラン、酢酸エチルエステル、酢酸ブチルエステル、酢酸イソブチルエステル、セロソルブアセテート、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、塩化メチレン等が挙げられ、これら1種または2種以上を組合わせて用いることができる。
【0027】
ドープ液を調製するための装置は、攪拌流量Qとして0.15〜3.5L/sec.、Q/V値が1〜25sec.−1の範囲を得られるものであれば小型ミキサーから大型ミキサーまでのいかなるものを用いても良い。ミキサーの種類としては、例えば、バッチ型ミキシング方式と循環型インラインミキシング方式等があり、攪拌羽根の形状としては、例えば、プロペラ式、軸流タービン式、放射タービン式、インペラー式、ノコギリ歯ブレード式、閉式ローター式、ローター/ステーター式等が挙げられる。
【0028】
また、通常、溶剤への溶解性がさほど高くなく、凝集塊状物を形成しやすい樹脂の溶解操作においては樹脂を分割して溶剤に少量ずつ加えながら時間をかけて溶解させることが効果的であり、凝集抑制のために広く実施されるが、本発明の製造方法ではこのように樹脂固形分を分割して溶剤に少量ずつ加えながら時間をかけて溶解させるとかえって凝集物を多く生成してしまう。
【0029】
上述するように未溶解物が残留しないように溶解調製されたドープ液はゴミ、異物などを除去するためにフィルターを用いてろ過してもよく、例えば目開き3μmのフィルターを用いてろ過した場合、ろ過後のフィルター上に未溶解物は見られない。ここで、フィルターとしては光学用途として用いることのできる目開きサイズのものを用いることができ、代表的な目開きとしては0.5〜20μm程度ものを各種組合わせて用いることが可能である。
【0030】
本発明の光学薄膜の製造方法としては、上記の方法により得られたドープ液を支持基材上に流延し、その後溶剤を除去することにより製造する溶液コーティング法等により製膜することができる。
【0031】
溶液コーティング法は、例えば、ドープ液を支持基材上に流延した後、加熱等により溶剤を除去して光学薄膜を形成する方法である。その際、ドープ液を支持基材上に流延する方法としては、例えば、Tダイ法、グラビアロール法、ドクターブレード法、バーコート法、ロールコーター法、リップコーター法等を用いることができる。特に工業的にはダイからドープ液をベルト状またはドラム状の支持基材上に連続して押出して塗工するTダイ法や凹凸パターンロールにドープ液をすくい上げて支持基材側へ転写するグラビアロール法等が最も一般的に行なわれている。
【0032】
用いられる支持基材としては、例えば、ガラス基板、積層された偏光板を構成するトリアセチルセルロース組成物などから構成されるTAC系フィルム、アクリル樹脂フィルム、環状オレフィン系フィルム、PP系フィルム等の偏光子の保護および位相差付与を目的とするフィルム等があり、ここに挙げたものに限定されず、広く塗工用の支持基材として用いることができる。また、本発明の光学薄膜と支持基材との十分な密着強度を得るために粘接着剤処理、基材表面処理等を施してもよく、公知の材料、手法を利用することができる。
【0033】
この際の光学薄膜の塗布厚さは、乾燥後の状態において塗工外観に優れ、均一性の高い薄膜とするため、20μm以下が好ましく、1〜20μmがさらに好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
【0034】
本発明の光学薄膜の製造方法で使用されるドープ液の粘度は光学薄膜を形成可能な溶液特性を有するものであればよく、溶液粘度としては50〜10,000cPを有するものが好ましく、50〜3,000cPのものがさらに好ましい。
【0035】
本発明の光学薄膜は、コーティング製膜の際または光学薄膜自体の熱安定性を高めるために酸化防止剤、紫外線安定剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これらの酸化防止剤は1種または2種以上を併用しても良い。特に、相乗的な酸化防止作用を向上させるためにヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましく、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100〜500重量部の比率で含有し、フマル酸ジエステル系樹脂100重量部当たり、酸化防止剤0.01〜10重量部が好ましく、0.5〜1重量部添加することがさらに好ましい。紫外線安定剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエート等が挙げられる。
【0036】
本発明の光学薄膜は、光学特性や力学的性質を操作する目的で可塑剤を含有してもよい。可塑剤は、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、ホスフェート系可塑剤等が挙げられ、これら可塑剤はそれぞれ単独または併用してもよい。
【0037】
本発明の光学薄膜は、発明の主旨を逸脱しない範囲において、その他高分子、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等の添加剤を含有してもよい。
【0038】
本発明の光学薄膜は、光学損失を抑制するため、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の光学薄膜は、偏光板に直接コーティングして一体化したり、予めコーティングした支持基材を偏光板と積層することで一体化した偏光板積層体として用いることもできる。
【0040】
本発明の光学薄膜は、偏光板との積層体として液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、輝度向上フィルム等にも有用である。更に本発明により得られる光学薄膜は他の位相差フィルムとの積層をすることもできる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によってフマル酸ジエステル系共重合体の均一なドープ液が得られ、フィルターろ過してもフィルター上に未溶解塊状物が残留しない溶液調製が可能であり、光学薄膜を製造する際、溶液調製からろ過を容易に行なうことが可能となり、液晶ディスプレイなどの光学薄膜の製造方法として有用である。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0043】
以下、実施例の評価・測定に用いた方法を示す。
【0044】
<数平均分子量の測定>
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名:C0−8011)を用いて測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した。
【0045】
<フマル酸ジエステル系樹脂の組成の確認>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名:JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(1H−NMR)スペクトル分析より導出した。
【0046】
<溶液粘度の測定>
回転型粘度計(東機産業製、商品名:TV−20型粘度計)を用いて、25℃にて測定した。
【0047】
<光学薄膜の光線透過率の測定>
JIS−K−7361−1に準拠してヘーズメーター(日本電色工業製、商品名:NDH5000)により測定した。
【0048】
<光学薄膜の複屈折および位相差量の測定>
全自動複屈折計(王子計測器製、商品名:KOBRA−21ADH)を用いて測定した。
【0049】
ここで光学薄膜の複屈折は、製膜方向を基準として薄膜面内の2つの軸方向の屈折率をそれぞれ基準軸を遅相軸nx、これと直交する進相軸ny、薄膜厚さ方向の軸をnz、薄膜厚さをdとした場合、薄膜面内の複屈折Δnとして表される面内の平均屈折率の差の絶対値|nx−ny|として表される。薄膜の面内位相差(Re)は(nx−ny)×d、薄膜の面外複屈折(ΔP)は((nx+ny)/2−nz)、薄膜の面外位相差(Rth)は((nx+ny)/2−nz)×dとして表される。
【0050】
合成例1(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた1Lオートクレーブにヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名:メトローズ60SH−50)2g、水600g、フマル酸ジイソプロピル365g、フマル酸ジエチル35gおよび重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート3gを投入し、窒素バブリングを1時間行った後、400rpmで攪拌しながら45℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)を得た(収率:65%)。
【0051】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は132,000であり、平均粒子径は130μmであった。また、1H−NMR測定により、樹脂組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%)であった。
【0052】
合成例2(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた1Lオートクレーブにヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名:メトローズ60SH−50)2g、水600g、フマル酸ジイソプロピル330g、フマル酸ジエチル70gおよび重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート3gを投入し、窒素バブリングを1時間行った後、400rpmで攪拌しながら45℃で36時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)を得た(収率:75%)。
【0053】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は120,000であり、平均粒子径は110μmであった。また、1H−NMR測定により、樹脂組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=84/16(モル%)であった。
【0054】
実施例1
トルエンとMIBKの混合溶剤(トルエン/MIBK=20/80重量比)136gを小型ノコギリ歯ブレード式ミキサー(プライミクス社製、TK−ロボミクス、攪拌流量係数(Nq値):0.3、攪拌翼径:32mm)にて回転数1,400rpmで攪拌中に、合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%))24gを攪拌開始から1分間投入し、1時間攪拌し、ドープ液を調製した(溶液体積(原料仕込み量ベース、20℃密度より体積換算、以下同じ)V:0.19L)。このときの攪拌流量Qは0.23L/sec.、Q/V値は1.21sec.−1であった。
【0055】
得られたドープ液中に未溶解の樹脂塊状物は見られなかった。このドープ液を3μmメンブランフィルターを用いてろ過したところフィルター上に未溶解物は見られなかった。ドープ液の溶液粘度は1,050cPであった。
【0056】
実施例2
実施例1において溶剤としてMIBK単独148.6gを小型ノコギリ歯ブレード式ミキサー(プライミクス社製、TK−ロボミクス)にて回転数1,400rpmで攪拌中に、合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%))11.4gを攪拌開始から2分50秒間投入し、1時間攪拌し、ドープ液を調製した(溶液体積V:0.197L)。このときの攪拌流量Qは0.23L/sec.、Q/V値はsec.−1であった。
【0057】
得られたドープ液中に未溶解の樹脂塊状物は見られなかった。このドープ液を3μmメンブランフィルターを用いてろ過したところフィルター上に未溶解物は見られなかった。ドープ液の溶液粘度は950cPであった。
【0058】
比較例1
実施例1において小型ノコギリ歯ブレード式ミキサー(プライミクス社製、TK−ロボミクス)の代わりに3枚プロペラ式攪拌翼(攪拌翼径:42mm)を設置したスリーワンモーターにて回転数270rpmで攪拌しながら合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂を攪拌開始から1分間投入し、1時間攪拌した以外は同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:0.19L)。このときの攪拌流量Qは0.1L/sec.、Q/V値は0.52sec.−1であった。
【0059】
得られたドープ液中には数mm程度の未溶解物の塊りが幾つも見られ、ドープ液を3μmフィルターろ過した際のフィルター上に未溶解物が残留していることを確認した。
【0060】
比較例2
比較例1において8時間攪拌した以外は同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:0.19L)。比較例1と同様に、このときの攪拌流量Qは0.1L/sec.、Q/V値は0.52sec.−1であった。
【0061】
得られたドープ液中の未溶解物は依然残留しており、ドープ液を3μmフィルターろ過した際、フィルター上に依然として未溶解物が残留していることを確認した。
【0062】
実施例3
実施例1において回転数を6,000rpmとした以外は同様にしてドープ溶液を調製した(溶液体積V:0.19L)。このときの攪拌流量Qは0.98L/sec.、Q/V値は5.15sec.−1であった。
【0063】
得られたドープ液中に未溶解の樹脂塊状物は見られなかった。このドープ液を3μmメンブランフィルターを用いてろ過したところフィルター上に未溶解物は見られなかった。ドープ液の溶液粘度は980cPであった。
【0064】
実施例4
実施例1においてトルエンとMIBKの混合溶剤(トルエン/MIBK=20/80重量比)765gを攪拌装置をノコギリ歯式ブレードミキサー(プライミクス社製、TKホモディスパー、攪拌流量係数(Nq値):0.3、攪拌翼径:100mm)を用いて回転数600rpmにて攪拌中に、合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂135gを投入した以外は同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:1.075L)。このときの攪拌流量Qは3L/sec.、Q/V値は2.79sec.−1であった。
【0065】
得られたドープ液中に未溶解の樹脂塊状物は見られなかった。このドープ液を3μmメンブランフィルターを用いてろ過したところフィルター上に未溶解物は見られなかった。
【0066】
比較例3
実施例4において攪拌翼の回転数を1,000rpmとした以外は同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:0.84L)。このときの攪拌流量Qは5L/sec.、Q/V値は5.95sec.−1であった。
【0067】
得られたドープ液中に未溶解の樹脂塊状物は見られなかったが、溶液の発熱が顕著であり溶剤が揮発しやすく溶剤濃度および温度管理が難しくなる。このドープ液を3μmメンブランフィルターを用いてろ過したところフィルター上に未溶解物は見られず、溶液粘度は980cPであった。
【0068】
比較例4
実施例1においてフマル酸ジエステル系樹脂を合成例1のものから合成例2のものに変えて、溶媒攪拌中にこの樹脂を3分30秒かけて徐々に投入し、投入完了直後から連続して1時間攪拌した以外は同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:0.19L)。このときの攪拌流量Qは0.23L/sec.、Q/V値は1.20sec.−1であった。
【0069】
得られたドープ液中に数mm程度の未溶解塊状物が多数見られた。このドープ液を3μmメンブランフィルターを用いてろ過したところフィルター上に未溶解物が確認された。ドープ液の溶液粘度は820cPであった。
【0070】
実施例5
実施例1にて調製したドープ液をスピンコーターを用いて140μmガラス基板上へ15μm厚の光学薄膜を製膜し、直ちに80℃にて2分間、130℃にて8分間送風乾燥を行なった。得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.0047(絶対値:0.0047)、面外位相差(Rth)は−71nmであった。
【0071】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46844、ny=1.46844、nz=1.47311であり、その関係はnz>nx=nyであった。
【0072】
実施例6
実施例1において合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂を乳鉢で粉砕し、平均粒子径65μmのものを用いた以外は全て同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:0.19L)。このときの攪拌流量Qは0.23L/sec.、Q/V値は1.21sec.−1であった。
【0073】
得られたドープ液中に未溶解物は見られず、3μmフィルターろ過においてもフィルター上に未溶解物は確認されなかった。
【0074】
実施例7
実施例1にて調製したドープ液をブレードコーターを用いて140μmガラス基板上へ15μm厚の光学薄膜を製膜し、直ちに80℃にて4分間、130℃にて6分間送風乾燥を行なった。得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.0047(絶対値:0.0047)、面外位相差(Rth)は−71nmであった。
【0075】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46844、ny=1.46844、nz=1.47311であり、その関係はnz>nx=nyであった
比較例5
実施例1において合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%))を予め、凍結粉砕機を用いて粉砕し、篩を用いて分別して平均粒子径35μm品を調製して用いた以外は全て同様にしてドープ液を調製した(溶液体積V:0.19L)。このときの攪拌流量Qは0.23L/sec.、Q/V値は1.21sec.−1であった。フマル酸ジエステル系樹脂の投入の際、粉粒子サイズが小さいため、浮遊しやすく容器上部の壁面に付着し、溶剤中への完全投入が難しく、また液中に投入された粉も投入直後から大きな塊状体を形成した。
【0076】
得られたドープ液中には多数の未溶解物が見られ、3μmフィルターろ過が困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含む平均粒子径50〜300μmのフマル酸ジエステル系樹脂を、式1により示される攪拌流量Qが0.15〜3.5L/sec.の範囲で、攪拌流量Qと溶液体積Vの比(Q/V)にて示される値が1〜25sec.−1の範囲において攪拌開始から3分以内に溶剤中に投入し、0.5〜4時間攪拌することを特徴とするドープ液の製造方法。
Q=Nq×n×d×10 (式1)
(式中、Qは攪拌流量を示し、Nqは攪拌流量係数を示し、nは回転数[rps]を示し、dは攪拌翼径[m]を示す。)
【請求項2】
フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含む平均粒子径50〜300μmのフマル酸ジエステル系樹脂を、式1により示される攪拌流量Qが0.15〜3.5L/sec.の範囲で、攪拌吐出Qと溶液体積Vの比(Q/V)にて示される値が1〜25sec.−1の範囲において攪拌開始から3分以内に溶剤中に投入し、0.5〜4時間攪拌して得たドープ液を支持基材上に流延し、乾燥することを特徴とする光学薄膜の製造方法。
Q=Nq×n×d×10 (式1)
(式中、Qは攪拌流量を示し、Nqは攪拌流量係数を示し、nは回転数[rps]を示し、dは攪拌翼径[m]を示す。)
【請求項3】
ドープ液の3μmフィルターろ過においてフマル酸ジエステル系樹脂の未溶解物が検出されないことを特徴とする請求項2に記載の光学薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光学薄膜の製造方法により得られることを特徴とする光学薄膜。

【公開番号】特開2013−49755(P2013−49755A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187426(P2011−187426)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】