説明

ナイロン−6/ポリフッ化ビニリデンブレンドフィルムおよびその製造方法

【課題】 ナイロン−6の配向マトリックス中でPVdFを結晶化することにより、PVdFの配向を制御することにより、力学特性の向上したナイロン−6/ポリフッ化ビニリデンブレンドからなる多軸結晶配向材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ナイロン−6とポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなるブレンドフィルムであり、ナイロン−6の分子鎖方向の結晶軸(c軸)とポリフッ化ビニリデンの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向材料およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン−6/ポリフッ化ビニリデンブレンドから成る多軸結晶配向材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフッ化ビニリデンとナイロン12からなり、異方性溶融形態(液晶)を示す成形体でフィブリル化されている、耐薬品性、耐摩耗性、機械的特性に優れた成形体が開示されている。(特許文献1参照)
また、赤外吸収スペクトルのバンドのシフトおよびガラス転移の組成依存性から、ナイロンのアミド基とPVdFのCF結合の間に特異的な相互作用があることがわかっている。(非特許文献1参照)
【特許文献1】特許第2614649号公報
【非特許文献1】Q.Gao, J. I. Scheibeim,Macromolecules, 33, 7564 (2000) ”Dipolar Intermolecular Interactions,Structural Development, and Electromechanical Properties in FerroelectricPolymer Blends of Nylon-11 and Poly(vinylidene fluoride)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ナイロン−6/ポリフッ化ビニリデンブレンドにおいて、圧電性、耐薬品性、耐摩耗性、耐熱性、強度・弾性率などの優れた物理的特性を有するが、一層の力学特性の向上が必要である。ナイロン−6の配向マトリックス中でPVdFを結晶化し、PVdFの配向を制御することにより、ナイロン−6/ポリフッ化ビニリデンブレンドからなる多軸結晶配向材料を作製し、ナイロン−6/ポリフッ化ビニリデンブレンドの力学特性の向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ナイロン−6とポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなるブレンドフィルムでナイロン−6の分子鎖方向の結晶軸(c軸)とポリフッ化ビニリデンの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向材料を作製する。
具体的には、ナイロン−6/PVdFを混練押出機で混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸する。その後ナイロン−6の融点よりも低く、PVdFの融点よりも高い温度においてPVdFを融解し、一軸延伸したシート状成形物を20℃/分以下の降温速度で徐冷して20℃/分以下の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化することにより、多軸結晶配向材料を得る。すなわち、
本発明は、ナイロン−6とポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなるブレンドフィルムであり、ナイロン−6の分子鎖方向の結晶軸(c軸)とポリフッ化ビニリデンの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向材料である。
また、本発明においては、ナイロン−6:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)=20〜70:80〜30(質量比)とすることができる。
さらに本発明は、ナイロン−6/PVdFを混練押出機で混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン−6の融点よりも低く、PVdFの融点よりも高い温度においてPVdFを融解し、一軸延伸したシート状成形物を20℃/分以下の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化することを特徴とする多軸結晶配向材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のナイロン−6の分子鎖方向の結晶軸(c軸)とポリフッ化ビニリデンの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向材料は、ナイロン−6の配向マトリックス中でPVdFを結晶化することにより、PVdFの配向を制御することにより、PVdFの優れた物理的特性(耐薬品性、耐摩耗性、圧電性)などを維持したまま、延伸方向と垂直方向の二方向に破断強度と弾性率が向上し、機械的特性の改善を図ることができた。
【発明の実施の形態】
【0006】
本発明において用いるナイロン−6(ポリウンデカンアミド)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなるブレンドは、どのような配合割合のものでも良いが、ナイロン−6(ポリウンデカンアミド):ポリフッ化ビニリデン=20〜80:80〜20(質量比)、より好ましくはナイロン−6(ポリウンデカンアミド):ポリフッ化ビニリデン=20〜70:80〜30(質量比)のものが良い。
例えば、典型的な一例を示せば、ナイロン−6とPVdFの粉末を混合して(混合質量比:ナイロン-6/PVdF=20/80〜70/30)、混練押出機に導入し、溶融状態で混練して押し出す。シリンダー、ダイスの温度はそれぞれ、230 − 260 ℃、230 − 250 ℃(好ましくは、それぞれ230 −250 ℃、235− 245 ℃)である。その後、熱プレスで230-235 ℃において溶融してシート状に成形する。さらに、 20 〜180℃、好ましくは120〜150 ℃において、2倍以上(好ましくは4倍以上)に一軸延伸する。その後、形態を拘束して、ナイロン−6の融点よりも低く、PVdFの融点よりも高い温度(好ましくは180〜190 ℃)においてPVdFを融解した後、20℃/分以下の降温速度(好ましくは5℃/分以下)で徐冷してPVdFを結晶化する。
【実施例1】
【0007】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
ナイロン−6とPVdFの粉末を混合して(混合比:ナイロン-6/PVdF=5/5)、混練押出機に導入し、溶融状態で混練して押し出す。シリンダー、ダイスの温度はそれぞれ、245℃、240℃である。その後、熱プレスで233℃において溶融してシート状に成形する。さらに、145℃において、 4.5倍に一軸延伸する。その後、形態を拘束して、180℃においてPVdFを2分間融解した後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化した。
電子顕微鏡観察を行うと、直径 0.1〜0.5μm、長さ 5〜10μmのPVdFのドメインがナイロンの配向マトリックス中に配列しているのが観測される(図6)。広角X線回折によると、ナイロンについては分子鎖方向の結晶軸(結晶c軸)が延伸方向に配向しているのに対し、PVdFについては、分子鎖と垂直方向の結晶軸である結晶b軸が延伸方向に配向し、多軸結晶配向構造が形成されているのが確認できる(図1)。
引っ張り試験によると、延伸方向に、破断強度151MPa、破断伸度25.1%、引張弾性率 2.46GPaであった。また、延伸と垂直方向には、破断強度57MPa、破断伸度5.8%、引張弾性率 1.4GPaであり、二方向に優れた力学特性を示した(図4)。
【実施例2】
【0008】
実施例1と同様に、ナイロン-6/PVdF=2/8の組成のブレンド試料についても、延伸膜の形態を拘束して、180℃においてPVdFを2分間融解した後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化した。広角X線回折により多軸結晶配向構造が形成されているのを確認した(図3)。
引っ張り試験によると、延伸方向に、破断強度117MPa、破断伸度16.9%、引張弾性率2.0GPaであった。また、延伸と垂直方向には、破断強度55MPa、破断伸度6.6%、引張弾性率1.3GPaであり、二方向に優れた力学特性を示した(図5)。
【0009】
(比較例1)
ブレンドシート(ナイロン-6/PVdF=5/5)の未延伸膜(無配向膜)の力学物性を評価した。降伏強度42MPa、降伏伸度14.8%、破断強度53MPa、破断伸度418%、引張弾性率0.70GPaであった(図4)。
(比較例2)
ブレンドシート(ナイロン-6/PVdF=2/8)の未延伸膜(無配向膜)の力学物性を評価した。降伏強度50MPa、降伏伸度14.7%、破断強度42MPa、破断伸度204%、引張弾性率0.86GPaであった(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の多軸結晶配向材料は、高強度プラスチックフィルムなど各種構造材料として広範な用途に応用可能であり、産業上の利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=50/50)の広角X線回折像(左)と広角X線回折プロフィール(右)
【図2】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=35/65)の広角X線回折像(左)と広角X線回折プロフィール(右)
【図3】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=20/80)の広角X線回折像(左)と広角X線回折プロフィール(右)
【図4】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=50/50)の応力−ひずみ曲線(実線および一点鎖線)とブレンドシート(ナイロン-6/PVdF=50/50)の未延伸膜(無配向膜)の応力−ひずみ曲線(破線)
【図5】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=20/80)の応力−ひずみ曲線(実線および一点鎖線)とブレンドシート(ナイロン-6/PVdF=20/80)の未延伸膜(無配向膜)の応力−ひずみ曲線(破線)
【図6】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=50/50)の走査型電子顕微鏡写真
【図7】延伸後にPVdFを180℃で2分間溶融後、0.5℃/分の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化したナイロン-6/PVdFブレンド(混合比:ナイロン-6/PVdF=20/80)の走査型電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン−6とポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなるブレンドフィルムであり、ナイロン−6の分子鎖方向の結晶軸(c軸)とポリフッ化ビニリデンの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向材料。
【請求項2】
ナイロン−6:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)=20〜70:80〜30(質量比)からなるブレンドフィルムである請求項1に記載した多軸結晶配向材料。
【請求項3】
ナイロン−6/PVdFを混練押出機で混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン−6の融点よりも低く、PVdFの融点よりも高い温度においてPVdFを融解し、一軸延伸したシート状成形物を20℃/分以下の降温速度で徐冷してPVdFを結晶化することを特徴とする多軸結晶配向材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−302723(P2007−302723A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129828(P2006−129828)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】