説明

ナイロン樹脂添加用のマスターバッチ

【課題】 性質にバラツキのない成形体が得られるナイロン樹脂組成物の提供。
【解決手段】
ナイロン6を除くナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂と、ナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体を含有する樹脂添加用のマスターバッチを含有するナイロン樹脂組成物。樹脂添加用のマスターバッチの相溶化作用により、2種以上の樹脂を用いた場合でも均一に混練される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加用のマスターバッチとその製造方法、前記マスターバッチを含有するナイロン樹脂組成物とそれから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン樹脂と他の熱可塑性樹脂を押出機等で混練する場合には均一に混練することが困難であり、相溶化剤を使用した場合でも、十分な改善はできなかった。例えば、ナイロン66の混練時に相溶化剤としてマレイミド系モノマー単位を有する重合体を使用した場合は、ナイロン66がゲル化してしまい、均一な混練ができなかった。
【特許文献1】特開2004−346148号公報
【特許文献2】特開2005−298774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ナイロン6を除く他のナイロン樹脂と熱可塑性樹脂(ナイロン樹脂を除く)の混練時における相溶性を高めることができる樹脂添加用のマスターバッチとその製造方法を提供することを課題とする。
【0004】
また本発明は、前記マスターバッチを含有するナイロン樹脂組成物とそれから得られる成形体を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体を含有しており、ナイロン6を除くナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂の混練時に使用する、樹脂添加用のマスターバッチを提供する。
【0006】
更に本発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂添加用のマスターバッチの製造方法であり、ナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体を溶融状態で混練する、樹脂添加用のマスターバッチの製造方法を提供する。
【0007】
更に本発明は、ナイロン6を除くナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂99〜50質量%と、請求項6で製造された樹脂添加用のマスターバッチ1〜50質量%を含有するナイロン樹脂組成物とそれから得られる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂添加剤用のマスターバッチを用いて、ナイロン6以外のナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂を混練することにより、ナイロン6以外のナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂及び相溶化剤を混練した場合と比べると、より均一に混練することができる。このため、混練後の樹脂組成物から得られる成形体に対して、バラツキの小さい、所望の物性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<樹脂添加用のマスターバッチとその製造方法>
ナイロン6と組み合わせるマレイミド系モノマー単位を有する重合体は、マレイミド系モノマー単位の重合体でもよいし、マレイミド系モノマー単位と他のモノマー単位との共重合体でもよい。
【0010】
マレイミド系モノマー単位となるマレイミド系モノマーは、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリールマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミドから選ばれる1又は2以上のものが好ましい。
【0011】
他のモノマー単位となるモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル系化合物、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水1,2−ジメチルマレイン酸、無水エチルマレイン酸、無水フェニルマレイン等の不飽和ジカルボン酸無水物等を挙げることができる。
【0012】
マレイミド系モノマー単位を有する重合体は、マレイミド系モノマー、芳香族ビニルモノマー、不飽和ジカルボン酸無水物モノマーからなる共重合体が好ましい。この3種のモノマーを組み合わせる場合には、下記の割合であることが好ましい。
【0013】
マレイミド系モノマー単位の割合は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜60質量%、更に好ましくは40〜55質量%であり;芳香族ビニル系モノマー単位の割合は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜60質量%、更に好ましくは40〜55質量%であり;不飽和ジカルボン酸無水物モノマー単位の割合は、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%、更に好ましくは0.5〜3質量%である。不飽和ジカルボン酸無水物モノマー単位の割合が10質量%以下であると流動性が良くなり、0.1質量%以上であると耐衝撃強度が高くなる。
【0014】
ナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体の割合は、
ナイロン6は95〜10質量%が好ましく、80〜20質量%がより好ましく、70〜30質量%が更に好ましく、
マレイミド系モノマー単位を有する重合体は95〜5質量%が好ましく、80〜20質量%がより好ましく、70〜30質量%が更に好ましい。
【0015】
本発明の樹脂添加用のマスターバッチは、公知の一軸又は二軸押出機を用いて、所定量のナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体を溶融状態で混練して得ることができる。本発明のマスターバッチの形態は特に制限されないが、取り扱い性が良いため、ペレット状にすることが好ましい。
【0016】
本発明のマスターバッチは、ナイロン6以外のナイロン樹脂との相溶性が良く、ナイロン6以外のナイロン樹脂、又はナイロン6以外のナイロン樹脂と他の熱可塑性樹脂と共に混練した場合、それらに対する相溶化剤として作用するものである。
【0017】
<ナイロン樹脂組成物とそれから得られる成形体>
本発明のナイロン樹脂組成物は、ナイロン6以外のナイロン樹脂又はナイロン6以外のナイロン樹脂と1種又は2種以上の熱可塑性樹脂(ナイロン樹脂を除いたもの)に対して、上記の樹脂添加用マスターバッチが配合されてなるものである。
【0018】
ナイロン樹脂は、ナイロン6以外のものであり、ナイロン66、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン12・12、ナイロンMXD6、ナイロン46及びこれらの混合物や共重合体;ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等の共重合体;ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体を挙げることができ、そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンでもよく、アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等を挙げることができる。
【0019】
更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物及びこれらの成分からなる共重合体、具体的には、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂及びこれらの共重合体、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体、具体的にはナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12
ナイロン樹脂以外の熱可塑性樹脂は特に制限されるものではないが、スチレン系樹脂が好ましい。
【0020】
スチレン系樹脂は、スチレン及びα置換、核置換スチレン等のスチレン誘導体の重合体を挙げることができる。また、これら単量体を主として、これらとアクリロニトリル、アクリル酸並びにメタクリル酸のようなビニル化合物及び/又はブタジエン、イソプレンのような共役ジエン化合物の単量体から構成される共重合体も含まれる。例えばポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS樹脂)等を挙げることができる。
【0021】
ナイロン樹脂組成物が、ナイロン6以外のナイロン樹脂と樹脂添加剤用マスターバッチを含む場合の割合は、
ナイロン6以外のナイロン樹脂は99〜50質量%が好ましく、より好ましくは95〜60質量%、更に好ましくは90〜70質量%であり、
樹脂添加剤用マスターバッチは1〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは10〜30質量%である。
【0022】
ナイロン樹脂組成物が、ナイロン6以外のナイロン樹脂と他の熱可塑性樹脂(1種又は2種以上)と樹脂添加剤用マスターバッチを含む場合は、
ナイロン6以外のナイロン樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計量は、99〜50質量%が好ましく、より好ましくは95〜60質量%、更に好ましくは90〜70質量%であり、
樹脂添加剤用マスターバッチは1〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは10〜30質量%である。
【0023】
ここで、ナイロン6以外のナイロン樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計量(100質量%)中、ナイロン6以外のナイロン樹脂の割合は、90〜10質量%が好ましく、より好ましくは20〜80質量%であり、更に好ましくは30〜60質量%である。
【0024】
本発明の組成物は、求められる性質、用途等に応じて必要な他の成分を配合することができる。例えば、機械的強度を高める観点からは、各種無機充填材又は有機充填材を配合することができ、耐光性や耐熱性を高める観点からは、紫外線吸収剤、熱安定剤を配合することができる。
【0025】
本発明の組成物は、公知の一軸又は二軸押出機を用いて、所定量のナイロン樹脂又は所定量のナイロン樹脂とそれ以外の熱可塑性樹脂と、マスターバッチを溶融状態で混練して得ることができる。本発明の組成物は、ナイロン樹脂とそれ以外の熱可塑性樹脂に対して相溶化剤として作用するマスターバッチを含んでいるため、2種以上のナイロン樹脂とそれ以外の熱可塑性樹脂を混練した場合でも、均一に混練されている。
【0026】
本発明の成形体は、本発明の組成物に対して公知の射出成形法等の樹脂成形法を適用することで、得ることができる。
【実施例】
【0027】
実施例及び比較例で使用した各成分と測定方法の詳細は、以下のとおりである。
【0028】
(熱可塑性樹脂)
(PA−1):ポリアミド6,宇部興産株式会社製,UBEナイロン6 1013B,吸水率1.8%,230℃1kgでのメルトフローインデックス:17)
(PA−2):ポリアミド6-6,宇部興産株式会社製,UBEナイロン6-6 2020B,吸水率1.3%)
(PS−1):ABS樹脂(スチレン量45質量%、アクリロニトリル15質量%、ゴム量40質量%)
(マレイミド系モノマー単位を有する重合体)
スチレン−Nフェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体(スチレン47質量%、Nフェニルマレイミド51質量%、無水マレイン酸が2質量%,重量平均分子量が14万5千,265℃10kgでのメルトフローインデックス:2)。
【0029】
(測定方法)
シャルピー衝撃強度:ISO179に準拠して測定。
【0030】
実施例1、比較例1(樹脂添加用マスターバッチの製造)
表1記載の各成分をV型タンブラーで混合後、二軸押出機(日本製鋼製,TEX30,シリンダー温度250℃、回転数350rpm、吐出量30kg/hr)にて溶融混練し、樹脂添加用のマスターバッチペレットを得た。しかし、比較例1は、ゲル化が起こり、マスターペッレットを得ることができなかった。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例2〜9、比較例2〜9
表2記載の各成分をV型タンブラーで混合後、二軸押出機(日本製鋼製,TEX30,シリンダー温度250℃、回転数350rpm、吐出量30kg/hr)にて溶融混練し、ナイロン樹脂組成物を得た。次に、射出成形機(シリンダー温度250℃、金型温度60℃)によりISOダンベル成形品を作成した。
【0033】
【表2】

【0034】
比較例2、3はゲル化して、押出できなかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体を含有しており、ナイロン6を除くナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂の混練時に使用する、樹脂添加用のマスターバッチ。
【請求項2】
前記マレイミド系モノマー単位が、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリールマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミドから選ばれるものに由来する、請求項1記載の樹脂添加用のマスターバッチ。
【請求項3】
前記マレイミド系モノマー単位を有する重合体が、マレイミド系モノマー、芳香族ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体からなる共重合体である、請求項1又は2記載の樹脂添加用のマスターバッチ。
【請求項4】
前記ナイロン6を95〜10質量%と、前記マレイミド系モノマー単位を有する重合体を5〜90質量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂添加用のマスターバッチ。
【請求項5】
前記ナイロン6を除くナイロン樹脂がナイロン66である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂添加用のマスターバッチ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂添加用のマスターバッチの製造方法であり、ナイロン6とマレイミド系モノマー単位を有する重合体を溶融状態で混練する、樹脂添加用のマスターバッチの製造方法。
【請求項7】
ナイロン6を除くナイロン樹脂を含む熱可塑性樹脂99〜50質量%と、請求項6で製造された樹脂添加用のマスターバッチ1〜50質量%を含有するナイロン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7記載のナイロン樹脂組成物から得られる成形体。




【公開番号】特開2008−247984(P2008−247984A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88168(P2007−88168)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】