説明

ナイロン樹脂組成物

【課題】塗装性に優れ、原料樹脂及び/又は繊維強化プラスチックとして、製造時に生じる廃材や廃製品を利用することが可能なナイロン樹脂組成物及びそれを成形した成形品を提供する。
【解決手段】ナイロン樹脂:100重量部に対し、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックを微粉砕してなる粉砕物であって、長径/短径の比率が1.0〜1.5で、熱硬化性樹脂/強化繊維の重量比が1/3〜3/1である繊維強化プラスチック粉砕物:15〜90重量部、を含有することを特徴とするナイロン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックの粉砕物を含有する、塗装性に優れたナイロン樹脂組成物、及びそれを成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックは、機械、電気・電子機器、建築資材、車両用部品・部材、OA機器、AV機器、スポーツ用品、医療機器、航空機、宇宙用機器部品・部材等多岐に渡る分野で利用されている。繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が広く利用されているが、熱硬化性樹脂の場合には、硬化寿命のため加工の作業時間が制限され、硬化反応を伴うために一般に成形時間が長く、成形終了後は加熱しても樹脂が溶融しないため再加工できない。そこで、熱硬化性樹脂に比べて加工時の作業性に優れ、加熱で再溶融する熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用い、それに強化繊維を配合することで熱可塑性樹脂の機械的強度を高めている。
【0003】
こうした熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂が、また、強化繊維としては、価格が比較的安価なガラス繊維が多用されている。なかでもナイロン樹脂は、強度や耐熱性、耐溶剤性等に優れることから、自動車部品や機械部品、電気機器部品をはじめ釣具等のスポーツ用品分野に広く用いられている。
【0004】
しかしながら、ナイロン樹脂を用いた繊維強化プラスチックは、表面に強化繊維が一部露出して凹凸となるため、成形品の表面品位が劣る場合が多く、塗装性不良の原因となることより、美観上塗装が必要な自動車部品の材料等では、塗装性の良いナイロン樹脂が求められている。また、ナイロン樹脂に強化繊維を配合した場合、形状によっては、加熱下での成形後、常温まで自然冷却される間にマトリックスを形成するナイロン樹脂が収縮し、成形品の表面に強化繊維が一部露出して凹凸を形成するため、塗装性がさらに不良になるという問題がある。
【0005】
繊維強化プラスチックの表面の凹凸に起因する塗装性の不良を改善する方法として、例えば特許文献1では、炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる繊維強化プラスチック成形品の表面を、所定の表面粗さになるまで研磨加工する方法が開示されている。しかしながら、表面を研磨する方法では、余計な研磨工程を必要とするため、費用がかかるばかりでなく、生産性も低下する。
【0006】
また、特許文献2には、マトリックス樹脂と強化繊維からなる繊維強化プラスチックの表面部分に、樹脂粉末を一体的に加熱加圧成形することで、繊維強化プラスチック成形品の表面の凹凸を解消する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、最外表面層が、強化繊維を含まない樹脂層であるため、成形品の表面層の強度が劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−067070号公報(請求項11、[0015]等)
【特許文献2】特開2007−331369号公報(請求項3等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塗装性に優れ、しかも、ナイロン樹脂及び/又は繊維強化プラスチックとして、製造時に生じる廃材や廃製品を利用することが可能なナイロン樹脂組成物及びそれを成形した成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討した結果、ナイロン樹脂に、長径/短径の比率が一定の範囲にある、繊維強化プラスチック粉砕物を配合することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ナイロン樹脂:100重量部に対し、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックを微粉砕してなる粉砕物であって、長径/短径の比率が1.0〜1.5、かつ熱硬化性樹脂/強化繊維の重量比が1/3〜3/1である繊維強化プラスチック粉砕物:15〜90重量部、を含有することを特徴とするナイロン樹脂組成物。
(2)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を主成分とする樹脂である、上記(1)に記載のナイロン樹脂組成物。
(3)強化繊維が炭素繊維である、上記(1)または(2)に記載のナイロン樹脂組成物。
(4)ナイロン樹脂、繊維強化プラスチック粉砕物のうちの少なくとも一方が、製造時の廃材あるいは廃製品を回収して再利用するものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のナイロン樹脂組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のナイロン樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗装性に優れることに加えて、機械的強度に優れ、熱変形温度が高いナイロン樹脂成形品を提供することができる。しかも、ナイロン樹脂及び/又は繊維強化プラスチックとして、製造時に生じる廃材や廃品を再利用できることより、原材料が安価で、省エネルギーで、環境面でも優れたナイロン樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本発明において、ナイロン樹脂組成物を成形してなる成形品の塗装性が改良される理由の詳細は不明であるが、ナイロン樹脂に配合する強化繊維は、熱硬化樹脂との接着性を高めるために、サイズ剤等で処理されていることから、熱硬化反応後の成形品を粉砕した粉砕物では熱硬化性樹脂が強化繊維に接着しているものと推察される。そのため、熱硬化性樹脂の存在は、ナイロン樹脂組成物の成形時に溶融させたナイロン樹脂が、成形終了後の放冷により収縮するのを抑制し、強化繊維が成形品の表面に露出するのを防止して塗装性を向上させ、また強化繊維の存在は、機械的強度や弾性率等の力学的特性を改善するものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、好適に用いられるナイロン樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)樹脂、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)樹脂、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)樹脂、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)樹脂、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)樹脂、ポリドデカンアミド(ナイロン12)樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6T)樹脂、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)樹脂、及びこれらの混合物、あるいはこれらのナイロンのうち2成分以上の成分を有する共重合ナイロン樹脂(ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6))などが挙げられる。
【0014】
中でも融点が200℃以上のナイロン樹脂が耐熱性の点で好ましく、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン66/6Iコポリマー、ナイロン66/6I/6コポリマーが挙げられる。さらには機械特性の点でナイロン6、ナイロン66が好ましい。
【0015】
ナイロン樹脂の重合度は、通常の成形加工が施せる程度であれば、特に制限はないが、ナイロン樹脂1重量%の98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として2〜4の範囲のものが好ましい。
【0016】
ナイロン樹脂の形態に特に制限はなく、バージンペレット、再生ペレット、ナイロン樹脂粉砕物等を用いることができる。その中でも、ナイロン樹脂粉砕物は、ナイロン樹脂ペレットに比べて、繊維強化プラスチック粉砕物との均一混合性に優れるばかりでなく、使用済みの製品(以下、「廃品」という。)や製造時の廃材を用いる場合でも、廃品や廃材の形状に拘わらず粉砕処理することができ、粒径の制御が容易であることより、好ましい。ナイロン樹脂粉砕物の平均粒子径は、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜100μmである。粒子径が1μm未満の場合は、繊維強化プラスチック粉砕物と均一に混合し難くなる。
【0017】
ナイロン樹脂粉砕物としては、ナイロン繊維、ナイロン繊維布帛(織物、編物、不織布、組み紐等)、ナイロン樹脂ペレット、ナイロン樹脂の成形品等を粉砕した粉砕物を用いることができる。ナイロン繊維、ナイロン繊維布帛、ナイロン樹脂ペレット及びナイロン樹脂の成形品は、未使用品もしくは廃品を回収したものや、これらの製品の製造工程で発生する廃材であってもよい。
【0018】
ナイロン樹脂を粉砕する場合は、公知の方法により、粉砕するナイロン樹脂の形状や寸法に応じて、一旦粗粉砕してから所定の大きさに微粉砕してもよいし、粗粉砕を経ることなく所定の大きさに微粉砕してもよい。粗粉砕には、ロールクラッシャー、ハンマークラッシャー、カッターミル等の粉砕機を適宜用いることができ、微粉砕には、ロッドミル、ボールミル、振動ロッドミル、振動ボールミル、ローラーミル、インパクトミル、撹拌摩砕ミル等の粉砕機を適宜用いることができる。
【0019】
繊維強化プラスチック粉砕物は、長径/短径の比率が1.0〜1.5の範囲にある粒子であることが重要であり、「長径」は粒子の最長長さ、「短径」は粒子の最短長さである。すなわち、長径/短径の比率が1.5を超えるような粒子は、細長い形状であることが多く、熱硬化性樹脂から露出した繊維状の強化繊維が、ナイロン樹脂成形品の表面に露出して凹凸を形成し易くなるため塗装性が悪化する傾向がある。最も好ましい粉砕物は、長径/短径の比率が1.0〜1.5の範囲にある球状粒子である。
【0020】
また、繊維強化プラスチック粉砕物は、熱硬化性樹脂/強化繊維の重量比が1/3〜3/1の範囲にあることが重要であり、前記重量比が1/3未満の場合は、強化繊維が成形品の表面に露出するのを防止できにくくなるため、ナイロン樹脂の塗装性を改良することが困難になる。一方、前記重量比が3/1を超える場合は、ナイロン樹脂組成物の強度や弾性率を向上させるに十分な量の強化繊維を確保するためには、大量の繊維強化プラスチックを配合しなければならなくなり、その結果、ナイロン樹脂組成物における混練性、成形性が悪化し易い。塗装性と成形性の観点より、熱硬化性樹脂/強化繊維の重量比は、より好ましくは1/1〜3/1の範囲、さらに好ましくは1/1〜2/1の範囲である。
【0021】
上記の繊維強化プラスチック粉砕物は、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックを微粉砕したものであり、微粉砕した粉砕品をそのまま利用してもよいが、粉砕品の中から適度な粒度範囲のものだけを分級して利用するのがよい。
【0022】
繊維強化プラスチックの粉砕物は、その平均粒子径が200μm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜70μmである。平均粒子径が1μm未満になると、粉砕動力を要するだけでなく、静電気による帯電等により粉砕物が凝集しやくなり、ナイロン樹脂の補強効果も小さい。一方、平均粒子径が200μmよりも大きいと、強化繊維が長くなるためにナイロン樹脂と均一に混合するための混練時間が長くなる、あるいは、押し出し成形時に押出成形機のノズルに詰まり易く、押し出し成形性が悪化する傾向がある。
【0023】
繊維強化プラスチックの強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、鉱物繊維等の無機繊維の他、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維等の有機繊維が挙げられる。その中でも、比重が小さく、高強度、高弾性率である観点より、炭素繊維が好ましい。
【0024】
また、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられ、硬化促進のために硬化剤、耐衝撃性向上のためにエラストマーもしくはゴム成分が添加されていてもよい。その中でも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂や、それらの混合樹脂が好ましく、成形品の剛性、強度の観点より、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0025】
繊維強化プラスチック粉砕物における粉砕物の長さと強化繊維の長さは、必ずしも一致するとは限らないが、引き抜き成形法あるいはフィラメントワインディング成形法等で成形された繊維強化プラスチックのように、強化繊維が束状に集合した状態になっているものが好ましく、強化繊維の長さは、粉砕物の長径の指標となる。ここで、引き抜き成形法は、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させた強化繊維フィラメントの束を、金型に通して硬化させた後、連続的に引き抜く成形法であり、フィラメントワインディング成形法は、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させた強化繊維フィラメントの束を巻回して所定の肉厚にした後、硬化し、脱型する成形法である。強化繊維が束状に集合していると、熱硬化性樹脂が少量でも強化繊維を覆うことができ、ナイロン樹脂の熱収縮をより効果的に抑制することができる。
【0026】
繊維強化プラスチックは、成形品の使用済みの製品(廃品)や、繊維強化プラスチック成形品の製造工程で発生する廃材を用いることもできる。
【0027】
繊維強化プラスチックを微粉砕する場合は、繊維強化プラスチック製の部品や、解体・切断した部材を、高速衝突破壊方式、剪断ミル方式、切削方式等を用いて微粉化することができる。また、NEDOによる「新規産業支援型国際標準開発事業」において、「リサイクルCFRP粉砕品の標準化」の研究の中で、CFRPの粉砕技術とその利用について研究が行われているので、これら技術を応用することもできる(山口、北野 Journal of the Society of Materials Science, Japan Vol.57, No.7, pp.747-752,July 2008)。また、微粉砕する場合は、高速衝突粉砕機、研削方式の粉砕機等を用いて、一旦粗粉砕してから微粉砕してもよいし、粗粉砕を経ることなく微粉砕してもよい。
【0028】
本発明のナイロン樹脂組成物は、ナイロン樹脂:100重量部に対し、繊維強化プラスチックの粉砕物:15〜90重量部、より好ましくは20〜70重量部を含有することが望ましい。繊維強化プラスチック粉砕物の含有量が15重量部未満の場合は、塗装性を改善することが困難となり、ナイロン樹脂の機械的強度や弾性率も向上し難い。一方、繊維強化プラスチック粉砕物の含有量が90重量部を超える場合は、成形後の再溶融による修正等、熱可塑性樹脂の特性を生かした成形が困難となる。
【0029】
本発明において、ナイロン樹脂、繊維強化プラスチック粉砕物のうち、少なくとも一方種は、回収した使用済みの製品(廃品)や製造時の廃材等のリサイクル品であることが好ましい。
【0030】
繊維強化プラスチックをリサイクル使用する場合、使用済みの製品や製造時の廃材等を回収した段階では、熱硬化性樹脂中の強化繊維の含有量は、不明であることが多い。このような場合は、熱硬化性樹脂中の強化繊維の組成分析を、公知の方法、例えば、示差走査熱量測定(DSC)や熱分解ガスクロマトグラフィ、FTIR等により実施することができる。また、繊維強化プラスチックの粉砕片を、不活性ガス雰囲気下において700〜800℃の高温でマトリックス樹脂を熱分解して除去し、強化繊維を取り出す方法によっても組成分析できる。
【0031】
また、本発明のナイロン樹脂組成物には、必要に応じて、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、デカブロモフェノール、塩素化ポリエチレン、縮合リン酸エステル等の難燃剤、銀系抗菌剤等の抗菌剤、金属石鹸、可塑剤、顔料、発泡剤、滑剤、加工助剤等を配合することができる。
【0032】
また、ナイロン樹脂組成物には、補強材を0〜100重量部、配合することができる。要求される機械特性に応じて、補強材の量や種類は適宜選択すればよく、特に限定されない。かかる補強材の具体例としては、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ガラス繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、黄銅繊維、アラミド繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、バサルト繊維などの繊維状充填材、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ワラステナイト、シリカなどの粒状充填材、その他各種充填材が挙げられる。これらは複数の補強材を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明のナイロン樹脂組成物は、ナイロン樹脂と繊維強化プラスチック粉砕物をブレンドした後、混合溶融することにより得られる。混合溶融が終了後は、ストランドダイで押出した後、冷却してペレタイザー等を用いて成形機に供給可能なペレット状の形状に加工することができ、ホットカッターや造粒機を用いてペレット状に加工することもできる。また、繊維強化プラスチックを高濃度に樹脂に練り込んだマスターバッチを作成し、成形時に希釈することも可能である。
【0034】
本発明のナイロン樹脂組成物を、射出成形、押出成形、中空成形、圧空成形、フィルム成形、プレス成形等の各種成形に供し、さらには必要に応じて二次加工を加えて成形品を得る。特に、射出成形してなる成形品では、塗装性に優れるものとなる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下の実施例ならびに比較例における各特性値の測定方法は次の通りである。
【0036】
[塗装性]
射出成形により作製した100mm×100mmで厚みが2mmの角板(試験片)に、スプレーガンを用いてポリエステル系塗料(関西ペイント(株)製)で塗装を施し、140℃で20分の焼付処理を行った後、23℃−50%RHの条件で48時間放置して試験用角板を作製し、塗装性を評価した。
塗装性の評価は、JIS K5600−5−6を準用して実施した。すなわち、試験用角板の塗装面に、カッターナイフを用いて素地まで到達する切込みを1mm間隔で縦横にそれぞれ6本ずつ入れて25個の升目を作製した。升目状にカットした塗膜面に約75mm程度付着するようにセロハン粘着テープを貼付け、指でこすって塗膜に粘着テープを付着させた。テープを付着させてから3分後にテープの端を持って塗膜面に約60度の角度で、一気にテープを引き剥がし、剥離した塗膜の升目の数(剥離数)をカウントした。剥離数が少ないほど塗装性に優れると言える。
【0037】
[引張強さおよび引張伸び]
射出成形により作製したダンベル部の幅が10mmで厚みが3mmの引張試験片について、ISO527−1に準じて測定した。
【0038】
[曲げ強さおよび曲げ弾性率]
射出成形により作製した100mm×10mmで厚みが3mmの曲げ試験片について、ISO178に準じて測定した。
【0039】
[シャルピー衝撃強さ]
射出成形により作製した60mm×80mmで厚みが3mmの成形板に、V字形のノッチを付けて試験片とし、ISO179に準じて測定した。
【0040】
[ロックウェル硬度]
射出成形により作製した100mm×100mmで厚みが2mmの角板を試験片とし、スケールR(基準荷重10kgf、試験荷重60kgf、鋼球の径1/2インチ)で測定した。
【0041】
[熱変形温度]
射出成形により作製した100mm×10mmで厚みが3mmの試験片を用いて、JISK7207に準じて測定した。
【0042】
[粒子の長径/短径の比および粒子径]
粒子の長径/短径の比は走査型電子顕微鏡を用いて測定した。粒子径は粒度分布計(島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD3100)を用いて測定した。
【0043】
(実施例1)
ナイロン6樹脂の製造時に発生したナイロン6樹脂の廃材を、ボールミルを用いて粉砕し、分級して、粒子径が30〜60μmの粉砕したナイロン6樹脂を得た。得られたナイロン6樹脂の相対粘度は2.5であった。別に、フィラメントワインディング法で製造された炭素繊維フィラメントを強化繊維とし、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とする、自動車用プロペラシャフト(炭素繊維:43重量%)を、約1mmに粗粉砕した後、ボールミルを用いて粉砕、分級して、粒子径が約50〜90μm、長径/短径の比1.3の球状粉砕物を得た。
【0044】
粉砕したナイロン6樹脂:65重量部、微粉砕したプロペラシャフト:35重量部を量り取り、タンブラーミキサーで混合した後、二軸押出機(シリンダー温度を270℃)を用いて混練、押出成形することによりペレット材を製造した。
【0045】
製造したペレット材を用いて、射出成形機(シリンダー温度270℃、金型温度を80℃)で試験片を成形し、性能を評価した。
【0046】
(比較例1)
実施例1のナイロン6樹脂粉砕物:85重量部、炭素繊維束の粉砕物(粒子径約100μm):15重量部を量り取り、実施例1と同様にして試験片を成形し、性能を評価した。
【0047】
(比較例2)
粉砕した炭素繊維の代わりに、粉砕したガラス繊維(粒子径約15μm)を用いた以外は、比較例1と同様にして試験片を成形し、性能を評価した。
なお、粉砕したガラス繊維は、ガラス繊維のチョップトストランドを2cm程度に裁断した後、粉砕し、分級することで得た。
【0048】
(比較例3)
粉砕した炭素繊維の代わりに、粉砕したアラミド繊維(粒子径約30μm)を用いた以外は、比較例1と同様にして試験片を成形し、性能を評価した。
なお、粉砕したアラミド繊維は、パラ系アラミド繊維の短繊維を裁断した後、粉砕し、分級することで得た。
【0049】
(比較例4)
ナイロン6樹脂の製造時に発生したナイロン6樹脂の廃材を、ボールミルを用いて粉砕し、分級して、粒径が30〜60μmの粉砕したナイロン6樹脂を得た。得られたナイロン6樹脂の相対粘度は2.5であった。炭素繊維布を強化繊維、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とする、自動車用プロペラシャフト(炭素繊維:43重量%)を、竪型粉砕機で粗粉砕した後、再度粉砕機にかけ、分級することにより、長さが1〜2mmの繊維状の粉砕物を得た。実施例1と同様の方法を用いて混練、押出成形することによりペレット材を製造した。
【0050】
実施例1および比較例1〜4の性能評価結果を、表1にまとめて示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果より、エポキシ樹脂を含有しないナイロン6と強化繊維とからなるナイロン樹脂組成物の成形品(比較例1〜3)は、成形品表面への塗料の密着性が悪く、大部分の塗装が剥れるのに対し、繊維強化プラスチックの粉砕物で、エポキシ樹脂を含有する本発明のナイロン樹脂組成物の成形品(実施例1)は、塗装の剥れはなく、良好な塗装性を示すことが判る。しかも、本発明のナイロン樹脂組成物は、比較例1〜3のナイロン6と強化繊維のみからなるナイロン樹脂組成物の成形品と対比して、力学的性能(引張強さ、曲げ強さおよび曲げ弾性率)ならびに熱的性能(熱変形温度)において、優れた性能を発揮することが判る。
【0053】
繊維強化プラスチックの粉砕物を配合した場合でも、粉砕物が繊維状の場合(比較例4)は、塗装性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のナイロン樹脂組成物は、機械的強度、弾性率に優れるとともに、良好な塗装性を示す成形品が得られることから、自動車の内・外装材や建築の内装材、あるいは携帯電話、PCの筐体等、強度と美観が要求される分野に特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン樹脂:100重量部に対し、
熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックを微粉砕してなる粉砕物であって、長径/短径の比率が1.0〜1.5、かつ熱硬化性樹脂/強化繊維の重量比が1/3〜3/1である繊維強化プラスチック粉砕物:15〜90重量部、
を含有することを特徴とするナイロン樹脂組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を主成分とする樹脂である、請求項1に記載のナイロン樹脂組成物。
【請求項3】
強化繊維が炭素繊維である、請求項1または2に記載のナイロン樹脂組成物。
【請求項4】
ナイロン樹脂、繊維強化プラスチック粉砕物のうちの少なくとも一方が、製造時の廃材あるいは廃製品を回収して再利用するものである、請求項1〜3のいずれかに記載のナイロン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナイロン樹脂組成物を成形してなる成形品。





【公開番号】特開2013−53262(P2013−53262A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193590(P2011−193590)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(593049431)高安株式会社 (15)
【Fターム(参考)】