説明

ナイロン11糸条を用いてなる織編物及びその染色方法

【課題】耐光性、耐熱性、強度及び発色性に優れ、さらには環境保護の促進にも資する織編物を提供すること、並びにこの織編物を用いて新たな用途を提案することを技術的な課題とする。
【解決手段】ナイロン11糸条を用いてなる染色された織編物であって、前記ナイロン11糸条の強度が3.0cN/dtex以上であり、織編物のL*値が50以下である織編物。前記ナイロン11糸条は、130℃下30分間の湿熱処理後の強度保持率が80%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン11糸条を用いてなる織編物に関するものであり、詳しくは、発色性に優れる織編物とそれらを用いた各種繊維製品、そして織編物を高温下で染色する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン糸条からなる織編物(ナイロン織編物)は、一般に柔軟性や染色性に優れており、汎用素材として衣料分野だけでなく産業資材分野などにも幅広く用いられている。
【0003】
しかし、ナイロン織編物には、一般に湿潤すると寸法が大きく変化するという問題、すなわち、寸法安定性に劣るという問題がある。
【0004】
そこで、かかる問題を解決するため、例えば、特許文献1において、ナイロン6織物の寸法安定性を改善する技術が提案されている。具体的には、経糸及び緯糸のいずれか一方にナイロン6繊維からなる糸条(ナイロン6糸条)を使用し、他方に径方向に膨潤する糸条を用いることで、糸条の伸びを吸収し、結果として湿潤時の寸法変化を抑えるといったものが開示されている。
【0005】
さらに、ナイロン織編物には、紫外線を長い時間浴びせると、糸条が劣化して織編物の強度が低下するといった問題もある。
【0006】
そこで、特許文献2において、添加剤として、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)イソフタルアミド及び/又はN,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピぺリジル)テレフタルアミドを特定量含有させたポリアミド繊維が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、立体障害ピペリジン化合物と脂肪族ジカルボン酸とを含む連鎖調節化合物の存在下でポリアミド形成モノマーを重合し、光及び熱に対して安定性を発揮する改質ナイロン重合体の製造方法が提案されている。
【0008】
他方、ナイロン糸条と他の糸条との混用織編物の発色性についても検討がなされている。
【0009】
例えば、ナイロン糸条とポリエステル糸条との混用織編物を染色する場合、ナイロン織編物にとって好適な常圧下90〜100℃で染色すると、ポリエステル糸条を十分に染めることができず、結果、織編物として所望の発色性が得られない。逆にポリエステル織編物に好適な高圧下130℃付近で染色すると、ナイロン糸条が熱により劣化し織編物の強度、耐久性などが低下してしまうという問題がある。
【0010】
この問題に対し、織編物の染色時にキャリア剤を使用する方法が提案されている。しかし、キャリア剤には人体、環境に対し有害なものが多く、廃液処理に伴う環境汚染の点で問題があるとされている。
【0011】
また、100℃以上120℃未満で染色する方法も検討されているが、ポリエステル糸条の染色性は改善されるものの、十分ではなく、かつナイロン糸条の熱による劣化も防止することができない。
【0012】
そこで、常圧染色可能なポリエステル糸条を適用する方法が提案されている。例えば、特許文献4には、酸成分中に5−スルホイソフタル酸金属塩を特定量含む共重合ポリエステルからなる常圧カチオン可染性ポリエステル糸条を用いる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−331552号公報
【特許文献2】特開2000−239924号公報
【特許文献3】特表2002−506102号公報
【特許文献4】特許第2588858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記引用文献1に記載された技術によれば、湿潤時の寸法変化を抑制することができる。しかし、その目的達成のために、ナイロン織編物が一般に具備するとされる柔軟性、染色性といった諸特性を低減させてしまうばかりか、織物の厚みが増すため風合いが低下し、さらに蒸れ感までもが増すという問題がある。
【0015】
引用文献2に記載された技術は、紫外線照射による繊維の劣化を抑制することにより織編物の強度を保持する、いわゆる織編物の耐光性向上を目的とするものである。同技術によれば、確かに耐光性の向上に一定の効果が認められる。しかしながら、この繊維を用いても織編物の寸法変化を抑制できないばかりか、かかる添加剤を加えることで、かえって繊維の強度が低下し、糸条の物性が大きく損なわれるという問題がある。
【0016】
さらに、引用文献3に記載された技術によれば、ナイロン重合体の耐光性や耐熱性などを向上させることができる。
【0017】
しかし、近年、化石資源の減少が懸念されると同時に、化石資源の使用に伴って発生する二酸化炭素が地球温暖化の原因とされ、このことが、資源問題、環境問題として世界中で大きく取り上げられている。そこで、カーボンニュートラルの考えを利用した取り組みがあり、その中で化石資源を原料としない植物由来資源の活用に大きな期待が寄せられている。
【0018】
そこで、このような観点に立って同技術を見ると、同技術は、主にナイロン6を対象とすることから明らかなように、資源・環境面については一切検討されていない。
【0019】
また、引用文献4における技術では、当該ポリエステル糸条の相手たるナイロン糸条としてナイロン11繊維又はナイロン12繊維からなる糸条(以下、ナイロン11糸条、ナイロン12糸条ということがある)が使用されている。特にナイロン11繊維は後述のように植物由来成分を主たる原料とするものであるから、この技術では、資源・環境について一応考慮されていると認められる。
【0020】
その一方で、この技術は、常圧染色下での染色性改善を目的とし、特に2色染め分けによるシャンブレー効果などの達成を主な目的としている。しかしながら、常圧染色では一般に発色性を向上させることが難しいとされ、織編物を濃く染めることが困難とされている。引用文献4における技術では、採用される繊維素材の特性や染色手段、条件その他から判断して発色性の向上について検討しているとは認められず、結果、得られる織編物の用途が非常に限定的となり、なお一層の改善が求められる。
【0021】
以上から、柔軟性、染色性など一般のナイロン織編物における普遍的な諸特性を維持しながら湿潤時の寸法安定性に優れるナイロン織編物は勿論、同時に耐光性、耐熱性及び強度にも優れるナイロン織編物は未だ提案されておらず、特に植物由来成分を主たる原料とする繊維からなり、発色性が良好で多用途に適用可能な織編物に至っては、試験・研究さえ行われていないのが実情である。
【0022】
本発明は、これらの問題を解決するものであって、耐光性、耐熱性、強度及び発色性に優れ、さらには環境保護の促進にも資する織編物を提供すること、並びにこの織編物を用いて新たな用途を提案することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の要旨は以下の通りである。すなわち、
(1)ナイロン11糸条を用いてなる染色された織編物であって、前記ナイロン11糸条の強度が3.0cN/dtex以上であり、織編物のL*値が50以下であることを特徴とする織編物。
(2)前記ナイロン11糸条の、製織編に供すべき段階における130℃下30分間の湿熱処理後の強度保持率が80%以上であることを特徴とする上記1記載の織編物。
(3)ポリエステル糸条を含むことを特徴とする上記1又は2記載の織編物。
(4)上記1〜3のいずれかに記載の織編物を用いてなるアウターウエア。
(5)上記1〜3のいずれかに記載の織編物を用いてなる鞄地。
(6)上記1〜3のいずれかに記載の織編物を用いてなる傘地。
(7)ナイロン11糸条を用いてなる織編物を120〜140℃下で染色することを特徴とする染色方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の織編物は、従来から問題視されていたナイロン織編物の物性上の諸欠点を解決できるものである。特に、本発明では、ナイロン11糸条を用いているため、環境保護の促進に資するところが大きく、また、高温染色が可能であり、例えばポリエステル糸条を併用したような場合であっても、優れた発色性を発揮することができる。これらの点から、本発明の織編物を用いることにより、従来のナイロン織編物では適用困難とされてきた分野に対し積極的な用途展開が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明の織編物は、ナイロン11糸条を用いてなるものである。ナイロン11糸条はナイロン11繊維から構成され、繊維の形態としては、特に限定されないが、通常はフィラメント状のものを用いる。また、ナイロン11糸条自身の形態としても、特に限定されるものでなく、フラットヤーン、加工糸などの任意の状態で用いうる。
【0027】
ナイロン11繊維は、ナイロン11ポリマーを主たる成分とするポリマーから構成される。ナイロン11ポリマーとは、11アミノウンデカン酸を主たる単量体として重縮合されたポリマーをいう。11アミノウンデカン酸は、ヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたヒマシ油を元に生成されるものであるから、得られるナイロン11は植物由来成分を主たる原料とするポリマーであるといえる。それゆえ、ナイロン11糸条を使用すれば、資源・環境に配慮した織編物が得られることになる。
【0028】
ナイロン11繊維は、ナイロン6繊維や66繊維に比べ密度が小さく軽量であると共に、耐摩耗性、耐化学薬品性、耐屈曲疲労性などの点にも優れている。
【0029】
ナイロン11中には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、少量であればεカプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペートといった他のポリアミド形成単量体を共重合成分として含有させてもよい。この他、例えばナイロン11にナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46といった他のナイロンポリマーをブレンドして繊維を構成してもよい。ただし、当該ポリマーのブレンド量としては、繊維強度の他、資源・環境面を考慮し、全体に占める割合を30質量%以下とするのが好ましい。
【0030】
また、必要に応じ、ポリマー中に可塑剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、耐熱剤、抗菌剤、消臭剤、防炎剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色剤、顔料などの各種添加剤を含有させてもよい。特にナイロン11中に耐熱剤が含まれていると、繊維を紡糸する際、その紡糸温度を低くすることができると同時に粘度の増加を抑えることができ、結果として紡糸時に析出されるモノマーの量を少なくすることができる。これにより、紡糸時の糸切れを減少させ、紡糸操業性よく紡糸することが可能となる。そして、続く延伸工程においても性能の優れた未延伸糸を供給できるようになる。
【0031】
用いうる耐熱剤としては、幾つかのものがあげられるが、本発明の場合、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。具体的には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、チバ・ジャパン社製「IRGANOX(商品名)」が挙げられる。
【0032】
さらに耐熱剤として、リン系加工熱安定剤を併用するのが好ましい。具体的には、リン系加工熱安定剤として、チバ・ジャパン社製「IRGAFOS(商品名)」があげられる。
【0033】
かかる耐熱剤の使用にあたっては、繊維中に好ましくは0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.2〜0.8質量%、さらに好ましくは0.2〜0.6質量%含有させるようにする。繊維中における耐熱剤の含有量が0.1質量%未満になると、上記した紡糸操業性の向上効果が乏しくなる傾向にあり、一方、1.0質量%を超えると、当該効果が飽和するのみならず、紡糸時に糸切れすることがあり、いずれも好ましくない。
【0034】
織編物の強度としては、衣料用途は勿論、資材用途においても実使用に十分耐えうるものであることが好ましい。このような強度を実現するには、最終的に得られる染色加工後の織編物を構成するナイロン11糸条として、所定の強伸度を有するものを使用すればよい。具体的には、ナイロン11糸条の強度として3.0cN/dtex以上が好ましく、4.0cN/dtex以上がより好ましい。一方、伸び率(伸度)としては、20〜140%が好ましく、25〜80%がより好ましい。
【0035】
また、本発明の織編物は、商品価値を高め用途の幅を広げるという観点から染色されていることが必要であり、特に発色性の点で優れていることを要す。この点から、本発明では、発色性の指標としてL*値が50以下であることが必要である。
【0036】
織編物を濃く染めると、一般にL*値は小さくなる傾向にある。ただし、これは同一染料を使用することを前提とし、例えば染料の色相が変わると、染料の使用量が同じであってもL*値が変動することがある。
【0037】
ここで、色相毎に好ましいL*値を例示すると、青色の場合では、40以下が好ましく、35以下がより好ましい。赤色、緑色の場合では、共に50以下が好ましく、45以下がより好ましい。黒色の場合では、25以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0038】
本発明では、いずれの色相であってもL*値が50以下を満足する必要がある。L*値が50を超えると、織編物の色相が淡色に見えることがあり、好ましくない。
【0039】
本発明におけるL*値とは、マクベス社製MS−2020型分光光度計を用いて反射率を測定し、CIE Labの色差式から濃度指標を求めた値である。
【0040】
本発明の織編物では、上記以外、一般のナイロン織編物に共通する諸問題についても改善されていることが好ましいことは言うまでもない。
【0041】
この点、湿潤時の寸法安定性に優れることが好ましい。具体的には、織物の場合は、標準状態(20±2℃、65±2%RH)下で測定した湿潤時の寸法変化率が1.5%以下であり、編物の場合は、標準状態下で測定した湿潤時の寸法変化率が3.5%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明では、具体的に標準状態下で測定した湿潤時の寸法変化率を、以下のようにして算出する。
【0043】
まず、織物、編物共に、経方向の測定に用いる試料として、巾方向3cm、長さ方向30cmの試料を、緯方向の測定に用いる試料として、巾方向30cm、長さ方向3cmの試料を、それぞれ準備する。そして、標準状態に調整された室内に各試料を24時間放置した後、試料長手方向に対応する糸条の本数(例えば、織物の経方向または緯方向を測定する場合は、それぞれ経糸または緯糸に相当する糸条の本数であり、編物の場合は、緯編と経編で異なるが、3cm当りのコース数またはウェール数)を数え、次いで、試料を長手方向に吊るすと共に、荷重として〔先に数えた糸条の本数〕×〔該糸条のトータル繊度(dtex)〕×〔1/30〕gfを負荷する。1分間放置後、試料略中央に印間長25cmの印を付し、これをPASとする。
【0044】
次に、試料から荷重を取り除き、水浴に1分間浸漬させた後、ろ紙の上に5秒間放置して軽く水気を切り、再度上記荷重を負荷し、1分間放置後、先の印間長を測定し、これをPAWとする。
【0045】
そして、PAS、PAWを、寸法変化率PA(%)=|PAS−PAW|/PAS×100なる式に代入して、寸法変化率(%)を算出する。
【0046】
本発明では、織物の場合、標準状態下で測定した湿潤時の寸法変化率として、経緯方向でいずれも1.5%以下であることが好ましく、特に1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。一方、編物の場合は、同じく寸法変化率として、経緯方向でいずれも3.5%以下であることが好ましく、特に3.0%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましい。織編物の寸法安定性がここに示した範囲を外れると、湿潤した際に織編物が大きく寸法変化し、その織編物を使用した各種繊維製品において型崩れやシワなどが発生することがある。
【0047】
本発明において、織編物の寸法変化率を所望の範囲となすことは、糸条の水分率を低く抑えることにより可能であり、かかる水分率としては、標準状態下における糸条の水分率として2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0048】
本発明の織編物が好ましい寸法変化率を備える点について、詳しい原理は未だ不明であるが、本発明者らは、糸条の水分率が低くなると、標準状態と湿潤状態との間で水分率の差が少なくなり、それが織編物の寸法変化に何らかの影響を及ぼすものと推測している。
【0049】
さらに、本発明では、耐光性の点で優れていることも好ましい。本発明にいう耐光性とは、織編物に紫外線を長時間照射しても織編物の強度が保持される特性をいい、織編物の耐光性が良好であると、屋外で使用する繊維製品へ当該織編物を好ましく適用できるようになる。
【0050】
織編物は、糸条から構成されるものであるところ、織編物の耐光性が良好であるという特性を糸条の視点に立って言い換えるとするなら、織編物中の糸条は、織編物に紫外線が長時間照射されても劣化し難いものであるといえる。この指標として、本発明では、織編物にJIS L0842第3露光法に準じブラックパネル温度を63℃±3℃、目的とするブルースケールを5級として露光したとき、織編物を構成するナイロン11糸条の、露光前に対する露光後の強度保持率が80%以上であることが好ましい。特にこれと併せ、同じく目的とするブルースケールを5級に代えて6級として露光したとき、同じくナイロン11糸条の、露光前に対する露光後の強度保持率が70%以上であることが、より好ましい。
【0051】
ナイロン11糸条において、耐光性にかかる強度保持率を所定の範囲となすことは、繊維中に酸化防止剤や加工熱安定剤などを含有させることにより可能である。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤やヒンダードアミン系酸化防止剤などがあげられ、加工熱安定剤としては、例えばリン系加工熱安定剤などがあげられる。本発明では、これらを単独で又は混合して用いるが、後述するように紡糸性の観点から、好ましくは酸化防止剤及び加工熱安定剤の両者を併用する。
【0052】
本発明の織編物は、以上のようにナイロン11糸条を使用してなるものであり、基本的にナイロン11糸条のみで織編物を構成するのがよいが、発明の効果を損なわないのであれば、ナイロン11繊維以外の繊維を使用しても何ら差し支えない。
【0053】
ナイロン11繊維以外の繊維としては、各種天然繊維、再生繊維、合成繊維などがあげられる。ナイロン11繊維以外の繊維を用いる場合、ナイロン11繊維と他の繊維とを合わせて一本の糸条とし、この糸条から織編物をなしてもよいが、一般には、ナイロン11糸条と、当該他の繊維からなる糸条とを交織編するのがよい。
【0054】
本発明では、用途の幅を広げるという観点から、他の繊維としてポリエステル繊維が好ましく採用される。このため、本発明の織編物を混用織編物となす場合は、ナイロン11糸条とポリエステル糸条とからなる態様が好ましいことになる。
【0055】
本発明で使用できるポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート又はポリ乳酸などを主たる成分とする繊維があげられる。そして、ここにあげたポリマーには、発明の効果を損なわない範囲で、耐熱剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤、消臭剤、導電性付与剤、艶消剤、顔料の他、酸化チタン、酸化ケイ素、炭化ジルコニウムなどの各種添加剤が含まれていてもよい。特にポリ乳酸を成分とする繊維の場合、ポリL乳酸又はポリD乳酸を単独で用いるときは、耐湿熱性の観点から耐熱剤を使用するのが好ましく、添加剤を使用しないのであれば、両ポリ乳酸を混合してポリ乳酸ステレオコンプレックスとなしたものを使用するのがよい。
【0056】
本発明の織編物は、先に述べたように、染色されていることが必要であり、特に発色性に優れていることが好ましい。
【0057】
ナイロン6、66織編物は、一般に常圧下90〜100℃で染色(常圧染色)される。ところが、ナイロン11織編物は、この条件下で染色しても所望の発色性が得られない傾向にある。この原理は定かではないが、ナイロン11糸条が、ナイロン6、66糸条に比べ水分率が低く、このため水との親和性に劣り、加えて分子中のアミノ末端基量が少ないことなどが影響していると推測している。そこで、本発明者らは、ナイロン11糸条の水分率が低いことに着目し、加水分解による糸条の強度低下が比較的起こりづらいであろうとの考えの下に、ナイロン6、66織編物では強度保持の観点から通常行われることのない高圧下120〜140℃にてナイロン11織編物を染色したところ、驚くべきことに糸条の強度を保ったまま、発色性を向上させることができることを見出したのである。
【0058】
なお、ナイロン11ポリマーの融点は、ナイロン6、66より大幅に低い187℃であるから、いうまでもなく、このことは当業者であっても容易に想起しうるものでない。
【0059】
従来、ナイロン11織編物は、常圧染色で所望の発色性が得られないとの理由から、濃染染色を必要とする分野への適用が進んでいなかった。しかし、本発明をなす過程で、ナイロン11織編物の発色性は、高圧染色により改善できることが分かり、L*値を50以下にすることも可能となった。
【0060】
以上の事実は、ナイロン11糸条とポリエステル糸条との混用織編物を染色する際にも利用できる。
【0061】
上記のように、ナイロン6、66織編物は、一般に常圧下90〜100℃で染色される。このため、例えばこれらのナイロン糸条とポリエステル糸条との混用織編物をポリエステル織編物に好適とされる条件で染色すると、ナイロン糸条の強度が低下するなど所望の物性が得られず、逆にナイロン6、66織編物に好適とされる常圧染色では、ポリエステル糸条を十分に発色させることができず、織編物全体を濃く染めることができない。ところが、これらのナイロン糸条に代えてナイロン11糸条を用いた場合は、ポリエステル織編物に好適とされる高圧下120〜140℃での染色条件を適用しても、ナイロン糸条は実用に耐えうるだけの強度を維持することができる。
【0062】
また、ナイロン6、66糸条の場合、ポリエステル糸条のような寸法安定性に優れた糸条と混用しても、寸法安定性に優れた織編物が得難い傾向にある。これは、ナイロン6、66糸条とポリエステル糸条との混用織編物を染色すると、熱水収縮率の大きいナイロン6、66糸条が優先して収縮する結果、ポリエステル糸条の糸長は織編物内で相対的に長くなるためである。このような状態の織編物に荷重を吊るした場合、織編物全体で負荷を支えるのではなくナイロン6、66糸条のみで負荷を支えるような状態となるため、織編物としての寸法変化が大きくなるのである。これに対し、ナイロン11糸条は、寸法安定性に優れているため、ナイロン11糸条に荷重が集中しても、織編物は所望の寸法安定性を維持できる。
【0063】
ナイロン11織編物は、このように120〜140℃下で染色することが可能であり、これにより、所望の発色性を具備することができる。ただ、このような効果を十分に発揮するには、ナイロン11糸条が高温・高圧染色に対し耐久性を備えていることが前提となる。この点から、本発明では、製織編に供すべき段階において所定の耐熱性を備えているナイロン11糸条を使用することが好ましい。
【0064】
具体的に、ナイロン11糸条は、製織編に供すべき段階、すなわち撚糸から織編工程に至る一連の製織編工程に投入する直前の段階において、130℃下30分間の湿熱処理後の強度保持率が80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、85%以上であることが特に好ましい。強度保持率が80%未満であると、織編物を高温・高圧染色や高温加工に付すと強度低下が生じやすくなり、好ましくない。
【0065】
なお、強度保持率の測定方法としても、できうる限り高温・高圧染色の実施態様に適応したものを採用すべきである。この点から、同糸条を当該処理に付す前に精練するのがよい。以上の点から、当該測定方法としては、まず、ナイロン11糸条からなる筒編地を作製し、この筒編地を80℃で20分間精練した後、温浴中に浸漬し、130℃で30分間湿熱処理する。かかる処理を行う際に用いる機器としては、特に制限されないが、一例としてテクサム技研製のミニカラー染色機が使用できる。具体的には、水を入れた金属ポット内に前記筒編地を投入し、80℃で20分間精練した後、引き続き130℃で30分間湿熱処理し、編地を取り出し、乾燥する方法があげられる。
【0066】
130℃下30分間の湿熱処理後の強度保持率とは、湿熱処理前に対する湿熱処理後の糸条の強度割合をいう。一般に、湿熱処理は、精練よりも糸条の強伸度など幾つかの物性に対し大きな変化をもたらす傾向にあるから、湿熱処理前後の関係を測るのである。
【0067】
測定方法としては、まず、JIS L1013 8.5.1記載の引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔20cm、引っ張り速度20cm/分で、精練後湿熱処理前の糸条強度を測定する。次に、処理後の筒編地からナイロン11糸条を取り出し、同様の方法で糸条強度を測定する。そして、強度保持率T(%)=(B/A)×100なる式(A:精練後湿熱処理前の強度、B:湿熱処理後の強度)から、湿熱処理後の強度保持率を算出する。
【0068】
本発明におけるナイロン11糸条は、130℃下30分間の湿熱処理後も3.0cN/dtex以上の強度を維持していることが好ましく、3.8cN/dtex以上を維持していることがより好ましい。当該湿熱処理後の強度が3.0cN/dtex未満であると、耐熱水性に劣るものとなり、染色処理や各種熱処理を高温で実施し難くなる傾向にあり、好ましくない。
【0069】
本発明の織編物は以上から構成されるものであるが、用途としては、従来公知のナイロン織編物同様、衣料分野だけでなく産業資材分野などにも幅広く用いることができる。
【0070】
本発明によれば、例えば、衣料分野ではアウターウエア、資材分野では鞄地、傘地など、従来のナイロン織編物では使用されてはいるものの雨などの水分に対して課題の残っている分野への適用が可能となる。
【0071】
また、本発明の織編物が屋外で使用される繊維製品に適用される場合、洗濯する機会が増えることになるから、当該織編物は、所定の洗濯堅牢度を具備していることが好ましい。具体的には、JIS L0844C−2法に準じて測定される、洗濯堅牢度における変退色及び汚染として、いずれも4級以上であることが好ましい。洗濯堅牢度がこの範囲を満足すると、洗濯による色落ちや他の洗濯物への色移りなどが発生し難くなる。
【0072】
次に、本発明の織編物を製造する方法について説明する。
【0073】
まず、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などの耐熱剤を好ましくは0.1〜1.0質量%含有し、かつ相対粘度が好ましくは1.6〜2.4のナイロン11を用意し、これを紡糸温度230〜270℃付近で溶融紡糸する。次に、紡出した糸条を冷却固化した後、3000m/分以上の速度で、表面温度30〜80℃の第一ローラで引き取る。次いで、第一ローラで引き取った糸条を表面温度100〜180℃の第二ローラで引き取ることにより、ローラ間で延伸倍率1.1〜2.8倍で延伸し、巻取速度3400〜5000m/分でナイロン11糸条を巻き取る。なお、繊維中には、各種添加剤が含まれていてもよいし、途中、必要に応じて各種混繊処理を採用してもよい。
【0074】
その後、得られたナイロン11糸条を単独で製織するか、必要に応じて他の糸条と交織編するなどして、生機を得る。この場合の生機設計としては、最終的に得られる織編物の風合い、物性などを加味した上で最適なものを選択すればよい。
【0075】
生機を得た後、染色加工することで目的の織編物が得られる。具体的には、まず生機を精練し、必要に応じてプレセットした後、好ましくは120〜140℃、より好ましくは120〜135℃で高圧染色する。前述のように、高圧染色することにより、糸条の強度低下を抑えつつ発色性の指標たるL*値を50以下にすることができる。本発明者らの研究によれば、染色温度が高くなるほど織編物の発色性は向上し、低くなるほど強度低下が抑えられる傾向にある。したがって、両者の調和を考慮しながら染色条件を適宜決定する。
【0076】
ここで、上記染色温度が120℃未満になると、織編物の発色性が低減し、濃染染色を必要とする分野への適用が困難となる傾向にあり、一方、140℃を超えると、発色性の向上がほとんど認められないばかりか、糸条の強度低下が急速に進み、織編物の物性に少なからず影響を及ぼすことがあり、いずれも好ましくない。
【0077】
染色後は、必要に応じてソーピング、フィックス、ファイナルセットし、目的の織編物を得る。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例、比較例中における物性、特性の評価は、以下に準拠した。
1.湿潤時の寸法変化率
織編物の緯方向について寸法変化率を前述の方法で5回測定し、それらの平均を寸法変化率PAとした。
2.織編物の耐光性
まず、染色加工された織編物から糸条を抜き取り、JIS L1013 8.5.1に準じて引張強さを測定し(定速伸長型試験機使用、つかみ間隔20cm、引っ張り速度20cm/分)、これをCSb(cN/dtex)とした。一方で、同じ織編物に対して、カーボンフェードメーター(スガ試験機社製)を用いて、JIS L0842 7.2 c)第3露光法に基付き、ブラックパネル温度を63±3℃として5級のブルースケールが標準退色するまで紫外線を照射した。その後、この織編物から同じく糸条を抜き取り、上記と同様に引張強さを測定し、これをCSa(cN/dtex)とした。そして、CSb、CSaを、CSt=CSa/CSb×100なる式に代入し、糸条の強度保持率CSt(%)を算出した。織編物の耐光性は、糸条の強度保持率が高いほど良好といえる。また、この測定は、黒系染料で染色した織編物について行うものとした。そして、抜き取る糸条は、織物の場合は緯糸とし、編物の場合は解編糸とした。
3.織編物の風合い
官能検査に基づき、◎(優)から×(劣)の3段階で評価した。
【0079】
(実施例1)
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dL、温度25℃で測定)が2.0、モノマー量が0.25%のナイロン11チップを用い、水分率を0.05質量%に調整した。そして、これをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度255℃で溶融した後、34個の紡糸孔を有する紡糸口金より吐出し、4200m/分の速度で巻き取り、78dtex34fのナイロン11糸条を得た。得られた糸条の水分率は0.4%であった。
【0080】
次に、得られたナイロン11糸条を経緯糸に用いて、経糸密度119本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cmで平組織の生機2反を製織した。製織後、日華化学社製「サンモールFL(商品名)」を濃度1g/L使用してそれぞれの生機を80℃で20分間精練し、160℃で1分間プレセットした後、それぞれを赤系、黒系の酸性染料を使用し、浴比1:50で130℃、30分間染色した。なお、赤系酸性染料としては、住友化学社製「Suminol Milling Red RS(125%)(商品名)」を濃度2%omf使用し、黒系酸性染料としては、三井BASF社製「Mitsui Nylon Black GL(商品名)」を濃度5%omf使用した。また、染色助剤としては、均染剤として丸菱油化社製「レベランNKD(商品名)」を濃度2%omf、及び酢酸(48%品)を濃度0.2ml/L使用した。
【0081】
その後、日華化学社製「サンモールFL(商品名)」を濃度1g/L使用して80℃で20分間ソーピングし、次いで、日華化学社製「サンライフE−37(商品名)」を濃度1%omf使用して80℃で20分間フィックスし、さらに、160℃で1分間ファイナルセットして、経糸密度123本/2.54cm、緯糸密度87本/2.54cmの織物を得た。
【0082】
得られた織物の物性、特性を表1に示す。表1から明らかなように、この織物は、寸法安定性に優れ、カーボンフェードメーターによる紫外線を照射しても、強度を十分に保持していた。また、赤色、黒色とも発色性が良好で、織物を構成する糸条も十分な強度を有していた(表中のCSb)。さらに、風合いの点でも優れていた。そして、この織物は、ナイロン11糸条を使用していることから、資源・環境にも配慮されたものといえる。
【0083】
(実施例2〜4)
チバ・ジャパン社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤「IRGANOX1010(商品名)」を0.1質量%、及びチバ・ジャパン社製リン系加工熱安定剤「IRGAFOS168(商品名)」を0.2質量%含有する以外、実施例1の場合と同一のナイロン11チップを使用し、実施例1と同様の条件にてナイロン11糸条を得た。その後、実施例1と同規格の生機6反を得、次いで、染色温度を120℃(実施例2)、130℃(実施例3)、140℃(実施例4)とする以外、実施例1と同様の条件で染色加工し、経糸密度122本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cm(実施例2)、経糸密度123本/2.54cm、緯糸密度87本/2.54cm(実施例3、4)の織物を得た。
【0084】
表1に示すように、各織物は、赤色、黒色とも発色性が良好であり、染色温度が高くなるにつれ、織物を構成する糸条の強度(表中のCSb)が低下したものの、いずれも実用に耐えうるだけの強度は維持できた。
【0085】
(実施例5)
実施例1で用いたナイロン11糸条を、糸速110m/分、延伸倍率1.06倍、仮撚数Z3489T/M、温度140℃にて仮撚し、仮撚加工糸を作製した。次いで、この仮撚加工糸を用いて、33インチ、28ゲージの丸編機によりモックロディア組織で編立てし、以降は、実施例1と同条件にて精練、染色、ソーピング、フィックス、ファイナルセットし、編物を得た。
【0086】
得られた編物は、実施例1の場合と同様、寸法安定性及び耐光性に優れ、赤色、黒色とも発色性が良好で、編物を構成する糸条も十分な強度を有していた。さらに、風合いの点でも優れていた。
【0087】
(比較例1、2)
ナイロン11チップに代えて、水分率が0.05質量%に調整された、相対粘度3.5、モノマー量0.4%のナイロン6チップを用いる以外、実施例1と同様の条件にて、78dtex34fのナイロン6糸条を得た。得られた糸条の水分率は4.5%であった。以降は、得られたナイロン6糸条を用い、染色温度として100℃(比較例1)、130℃(比較例2)を採用する以外は実施例1と同様に行い、経糸密度122本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cm(比較例1)、経糸密度124本/2.54cm、緯糸密度88本/2.54cm(比較例2)の織物を得た。
【0088】
比較例1にかかる織物は、赤色、黒色とも発色性が比較的良好であり、織物を構成する糸条は十分な強度を有していたが、所望の寸法安定性及び耐光性は得られなかった。
【0089】
比較例2にかかる織物は、発色性は良好であったが、織物を構成する糸条に強度低下が認められ、所望の寸法安定性及び耐光性も得られなかった。
【0090】
さらに、両織物は、石油由来の原料を使用するポリアミド6糸条を使用しているため、資源・環境への配慮の点でも問題が残された。
【0091】
(比較例3、4)
染色温度を130℃に代えて100℃(比較例3)、150℃(比較例4)とする以外は実施例1と同様に行い、経糸密度122本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cmの織物を得た。
【0092】
比較例3にかかる織物は、基本的に実施例1の場合と同様、寸法安定性などの特性に優れるものであったが、発色性に劣っていた。
【0093】
比較例4にかかる織物は、基本的に実施例1の場合と同様、寸法安定性などの特性に優れるものであったが、染色温度が高いため織物を構成する糸条の強度低下が認められた。
【0094】
(比較例5)
ナイロン11糸条に代えて比較例1で用いたナイロン6糸条を用いること、並びに仮撚温度を140℃に代えて170℃とすること以外は、実施例5と同様に行い、編物を得た。
【0095】
得られた編物は、寸法安定性、発色性及び風合いが良好であったが、編物を構成する糸条に強度低下が認められた。
【0096】
(実施例6)
相対粘度が2.5のPETチップを、紡糸速度3250m/分、紡糸温度285℃なる条件で溶融紡糸した後、延伸し、84dtex36fのポリエステル糸条を得た。得られた糸条の水分率は0.4%であった。
【0097】
次に、当該ポリエステル糸条を経糸に、実施例1で用いたナイロン11糸条を緯糸にそれぞれ配し、経糸密度113本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cmで平組織の生機を製織した。それ以降は、染料として、実施例1で使用した黒系酸性染料5%omfと共にDyStar社製黒系分散染料「Dianix Black HG−FS(200%)(商品名)」5%omfを併用すること以外、実施例1と同様の条件で生機を染色加工し、経糸密度123本/2.54cm、緯糸密度85本/2.54cmの織物を得た。
【0098】
この織物は、高圧下で染色されているため、織物の発色性は良好であった。また、この織物では、高圧下で染色されているにもかかわらず、緯糸が実用に耐えうるだけの強度を維持していた。
【0099】
なお、表1中の強度保持率Tは、緯糸として用いたナイロン11糸条について測定された結果である。
【0100】
(比較例6、7)
チバ・ジャパン社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤「IRGANOX1010(商品名)」を0.1質量%、及びチバ・ジャパン社製リン系加工熱安定剤「IRGAFOS168(商品名)」を0.2質量%含有する以外、比較例1の場合と同一のナイロン6チップを使用し、比較例1と同様の条件にてナイロン6糸条を得た。ナイロン11糸条に代えて前記ナイロン6糸条を用いること、及び染色温度として100℃(比較例6)、130℃(比較例7)を採用する以外は実施例6と同様に行い、経糸密度122本/2.54cm、緯糸密度84本/2.54cm(比較例6)、経糸密度124本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cm(比較例7)の織物を得た。
【0101】
比較例6にかかる織物では、緯糸については、強度と共に色合いも満足できるものであったが、経糸については、常圧染色のため濃さの点で満足できる結果が得られなかった。
【0102】
比較例7にかかる織物は、全体として色あいが濃く、発色性については満足できるものであったが、高圧染色のため緯糸に強度低下が認められた。
【0103】
さらに、両織物とも、ナイロン6糸条を含むものであるため、満足できる寸法安定性が得られなかった。
【0104】
(比較例8)
実施例6で用いたポリエステル糸条を経緯糸に配し、経糸密度119本/2.54cm、緯糸密度87本/2.54cmで平組織の生機を製織した。以降は、染色後にソーダ灰5g/L、ハイドロサルファイト1g/L及び日華化学社製「サンモールFL(商品名)」1g/L含む浴で80℃、20分間還元洗浄する工程を付加する以外、実施例6と同様の条件で染色加工し、織物を得た。
【0105】
得られた織物は、寸法安定性や発色性などの特性には優れるものの、実施例にかかる織物に比べ風合い面で劣り、また、石油由来の原料を使用するポリエステル糸条を使用しているため、資源・環境への配慮の点で問題が残された。
【0106】
(実施例7)
ナイロン11チップの相対粘度を2.0に代えて2.5とすること、並びに紡糸孔の数を34個に代えて140個とすること以外は、実施例1と同様の条件にて940dtex140fのナイロン11糸条を得た。得られた糸条の水分率は0.4%であった。
【0107】
次いで、得られた糸条を3本引き揃え2820dtex420fとなしたものを経糸に、2本引き揃え1880dtex280fとなしたものを緯糸にそれぞれ配し、経糸密度23本/2.54cm、緯糸密度24本/2.54cmで平組織の生機を製織した。以降は、染料として先に記載した黒系酸性染料を使用して実施例1と同様の条件で染色加工し、経糸密度24本/2.54cm、緯糸密度25本/2.54cmの織物を得た。
【0108】
得られた織物は、寸法安定性、耐光性及び発色性に優れ、織物を構成する糸条も十分な強度を有していた。また、この織物を使用して鞄を作製し、実際に使用したところ、雨に濡れてもほとんど型崩れしなかったことから、鞄として実用性の高さが確認できた。
【0109】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン11糸条を用いてなる染色された織編物であって、前記ナイロン11糸条の強度が3.0cN/dtex以上であり、織編物のL*値が50以下であることを特徴とする織編物。
【請求項2】
前記ナイロン11糸条の、製織編に供すべき段階における130℃下30分間の湿熱処理後の強度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1記載の織編物。
【請求項3】
ポリエステル糸条を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の織編物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の織編物を用いてなるアウターウエア。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の織編物を用いてなる鞄地。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の織編物を用いてなる傘地。
【請求項7】
ナイロン11糸条を用いてなる織編物を120〜140℃下で染色することを特徴とする染色方法。


【公開番号】特開2011−69013(P2011−69013A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220737(P2009−220737)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】