説明

ナット及びその製造方法

【課題】ねじ戻しトルクを正確に設定できて安定した緩み止め効果を得ることができ、またねじ込みトルクを大にしなくても充分なねじ戻しトルクを得ることができ、しかも軽量で振動部分の締結に好適なナットを提供する。
【解決手段】一端に外向きフランジ3を形成した薄肉の円筒部2の他端に、締結用工具との係合部たる拡径頭部1を円筒部と一体に、しかも円筒部とほぼ同じ肉厚のものに形成し、前記フランジ側の端縁から拡径頭部の基部内面にかけての前記円筒部の内面に雌ねじ4を形成し、かつ雌ねじの一部が内側方向へわずかに突出する変形部5を前記円筒部2に形成した構造。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は振動部分の締結に好適なナット及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその問題点】自走車や航空機あるいは洗濯機等の振動部分には雌ねじの一部を内側方向へわずかに突出させて変形部を形成し、ナットの雌ねじとボルトの雄ねじとの間の摩擦抵抗を大ならしめ、振動を受けても緩みにくいようにしたセルフロックナットと称されるナットが使用されている。
【0003】従来のセルフロックナットには、例えば図5R>5に示す構造のものがあり、この従来のナットは中空内面の全長に亘って雌ねじ31を形成した略円筒状のものとしてあって、外面にはナットを締め付ける際に六角レンチ等の工具と係合する断面形状が六角形の六角部32が形成され、この六角部32の一端に、被締結部材に圧接される外向きフランジ33が形成され、他端に薄肉円筒状のボス部34が突設されている。
【0004】このボス部34は軸まわりに等角度間隔、例えば120度間隔で外側から中心に向かって加圧されてわずかに内側方向へ突出するように変形させられていて、変形されたボス部34の雌ねじ31はボルトの雄ねじとの摩擦抵抗が大となり、この摩擦抵抗により緩み止め効果を大、すなわちねじ戻しトルクを大にしている。
【0005】上述した従来のナットではボス部34の雌ねじを変形させて緩み止め効果を得ているが、ボス部の雌ねじはねじの端部であるため、ねじ山を正確に刻設することが困難で、通常この部分のねじはねじ山の高さが低い不完全ねじ部となっており、もともとボルトの雄ねじとの接触面積が小なる部分であって、この部分を変形しても充分な緩み止め効果を得られないという問題がある。
【0006】また、六角部32を軸まわりに等角度間隔、例えば六角部の6つの面のうち1面おきの3つの面から中心に向かって加圧し、雌ねじの中央部分を変形させたナットもある。このナットではねじ山が正確に形成された雌ねじの部分を変形させるので、ナットの雌ねじとボルトの雄ねじ間の摩擦抵抗を充分大にすることができるが、六角部は肉厚であるため変形させるのに要する力が大で変形量のコントロールも難しく、したがってねじ戻しトルクを正確に設定することが困難で、しかも六角部を変形せしめるので、締結時に六角レンチ等の工具との係合が不安定になるおそれもある。
【0007】さらに、被締結部たる振動部材は軽量であるほど振動による衝撃が小で、ナットの緩みも起こりにくくなるが、従来のナットは六角部が肉厚であるので、ナット重量がその分大となり、したがって被締結部たる振動部分の重量が大となって、振動の衝撃が大となりナットがより緩み易くなってしまう。
【0008】また、従来のセルフロックナットではねじ戻しトルクに対してねじ込みに要するトルクが大であり、充分な緩み止め効果(ねじ戻しトルク)を得ようとして雌ねじの変形量を大とすればねじ込みに要するトルクがそれ以上に大となり、ボルトをねじ込みにくいナットとなるという問題もあった。
【0009】本発明はねじ戻しトルクを正確に設定できて安定した緩み止め効果を得ることができ、またねじ込みトルクを大にしなくても充分なねじ戻しトルクを得ることができ、しかも軽量で振動部分の締結に好適なナットを提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述した目的を達成するために、本発明に係るナットは一端に外向きフランジを形成した薄肉の円筒部の他端に、締結用工具との係合部たる拡径頭部を円筒部と一体に、しかも円筒部とほぼ同じ肉厚のものに形成し、前記フランジ側の端縁から拡径頭部の基部内面にかけての前記円筒部の内面に雌ねじを形成し、かつ雌ねじの一部が内側方向へわずかに突出する変形部を前記円筒部に形成したものとしてある。
【0011】また、本発明に係るナットの製造方法は素材たる実体ものの丸棒材の一端をプレスして外向きフランジを形成し、前記フランジと反対側の端面から丸棒材の中心軸線に沿って孔あけ用のピンを圧入し、フランジ側が閉塞する薄肉の中空パイプ状に成形し、打ち抜き加工により前記フランジ側の閉塞部を打ち抜いて貫通孔をあけ、両端が開口する中空パイプ状に成形し、前記フランジと反対側の開口端から貫通孔内に型を打ち込んで貫通孔の端部を拡径せしめ、締結用工具との係合部たる拡径頭部を形成し、フランジ側の端縁から拡径頭部の基部にかけての円筒部内面に雌ねじを形成し、円筒部の一部を外側から中心に向かって加圧し、雌ねじの一部が内側方向へわずかに突出する変形部を形成することを特徴としている。
【0012】なお、本発明に係るナットの実施態様は座面を外周から中心に向かって若干傾斜する凹面となるように形成する。
【0013】
【実施例】以下本発明を添付図面に示す具体例に基づいて説明する。図1は本発明に係るナットの一例を示し、(a) はその左側面図、(b) は上半部を縦断した正面図を示す。同図において、符号1は六角レンチ等の締結用工具との係合部たる拡径頭部、2は外向きのフランジ3が一端に形成された円筒部、4は円筒部2の内面にフランジ3側の端縁から拡径頭部の基部にかけて形成された雌ねじを示している。
【0014】拡径頭部1は円筒部2と一体に成形されていて、拡径頭部1は円筒部2と肉厚がほぼ等しい薄肉のものとしてあり、拡径頭部の端面は六角形状に形成されている。
【0015】円筒部2の軸線方向中央部には変形部5が形成されていて、この変形部は図2に拡大して示すように図中矢印Aの方向、すなわち軸の中心に向けて軸まわりに等角度間隔、例えば120度間隔でごくわずかに雌ねじ4の一部(図2中、符号Bで示す部分)が突出している。
【0016】締結時に、被締結物へ圧接する座面3aは外周から中心に向かって若干傾斜する凹面に形成してあって、締結時に座面3aが被締結物に圧接すると、フランジ3が若干撓み、この撓みの復元力により被締結物と座面間の摩擦抵抗が大となり、ナットがより緩みにくくなる。
【0017】図3の(a) 〜(f) は上述したナットの製造工程の一例を示すもので、以下これについて説明する。(a) に示す素材たる実体ものの丸棒材6の一端をプレスして(b) のようにフランジ3を形成する。この際、座面3aが凹面となるように成型する。次いで丸棒材6のフランジ3と反対側の端面中央から丸棒材の中心軸線に沿って孔あけ用のピンを圧入する。かくすると丸棒材6が塑性変形して(c) のように丸棒材の内部に中空部7が形成され、フランジ3側が閉塞する中空パイプ状に成形される。このピンの圧入の際、余剰の金属がピンの基部側へ押しやられて全長が伸びる。
【0018】前述したピンを圧入する工程ではフランジ3側の端面に座台を押し当ててピンを圧入するので、ピンをフランジ側へ貫通させることはできず、閉塞部8が残る。この閉塞部8を打ち抜き加工して(d) のように貫通孔9を形成して両端が開口する中空パイプ状にする。
【0019】さらにフランジ3と反対側の端部の開口端から貫通孔9に六角柱状のパンチを打ち込んで端部を拡径せしめ、(e) のように端面が六角形状の拡径頭部1を形成する。
【0020】上述の工程によりナットの外観形状が成形された後、円筒部2の貫通孔9にタップを通して(f) のようにフランジ側の端縁から拡径頭部1の基部にかけての円筒部内面に雌ねじ4を刻設する。このナットを焼入れ焼戻しして所要の硬度になし、鍍金等の耐蝕処理を行う。
【0021】さらに、プレス機により円筒部の軸線方向中央部分を軸まわりに120度間隔で外側から中心(図2R>2では矢印Aの方向)へ所要の圧力を掛けて円筒部を変形せしめ、雌ねじの一部を突出させる。
【0022】上述した工程により雌ねじ径10mm、ピッチ1.25、全長11.5mmのナットを製造し、雄ねじ径10mm、全長37mm、ピッチ1.25のボルトを螺入して繰り返しねじ込みねじ戻しトルク試験を行ったところ、図4のグラフに示す結果が得られた。
【0023】同図によって明らかなように、破線で示した従来のナットによるねじ込みトルクとねじ戻しトルクには顕著な差があり、従来のナットはねじ戻しトルクに対してボルトをねじ込みにくいものであるが、実線で示した本発明のナットによるねじ込みトルクとねじ戻しトルクにはほとんど差がなく、本発明のナットは所定のねじ戻しトルクに対しボルトをねじ込み易いものとなっていることがわかる。
【0024】なお、同図では本発明のナットによるねじ戻しトルクが従来のナットによる同トルクよりも低い値となってはいるが、変形部における雌ねじの突出量を大にしてボルトの雄ねじとの摩擦抵抗を大ならしめることにより容易にねじ戻しトルクを高く設定することができる。
【0025】また、本発明のナットに関して上述したねじ込み、ねじ戻しトルク試験以外にも保証荷重試験、破断荷重試験、硬さ試験等を行ったが、すべての試験において所要の規定値を満たした。
【0026】
【発明の作用、効果】本発明に係るナット及びその製造方法は上述した構成のものとしてあるので、次の作用、効果を奏し得る。
(a) 本発明のナットでは円筒部の中央部分、すなわちねじ山が正確に形成された部分の雌ねじ突出させて変形部を形成してあるので、安定かつ充分な緩み止め効果を得ることができる。
(b) また、円筒部は薄肉であるため変形させるのに要する力が小で変形量のコントロールが容易であり、したがってねじ戻しトルクを正確に設定することができる。
(c) さらに、円筒部が薄肉のものとしてあるので若干の弾性を有しており、ボルトをねじ込むと円筒部の弾性復元力により雌ねじの突出部がボルトの雄ねじに圧接し、ねじ戻しトルクが大となって緩み止め効果が向上し、ためにねじ込みトルクとねじ戻しトルクにほとんど差がなく、締結時におけるボルトのねじ込み易さが向上する。
(d) 拡径頭部を円筒部とほぼ同じ肉厚のものとしてあるので、ナットが軽量となり、締結部分の重量がその分軽減して振動による衝撃を低減せしめることができ、したがって衝撃によるナットの緩みをも抑えることができる。
(e) 本発明方法では円筒部及び拡径頭部がともに薄肉に形成されて体積が小であり、しかもその成形加工は塑性変形により行うので、使用する材料が少なくて済み、材料コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るナットの一例を示す(a) は左側面図、(b) は上半部を縦断した正面図。
【図2】図1のII-II 線拡大縦断面図。
【図3】本発明に係るナットの製造方法の工程の一例を示す図。
【図4】本発明に係るナットのねじ込みねじ戻し試験の結果を従来のものの同試験結果と比較して示すグラフ。
【図5】従来のナットの一例を示す(a) は左側面図、(b) は上半部を縦断した正面図。
【符号の説明】
1 拡径頭部
2 円筒部
3 フランジ
3a 座面
4 雌ねじ
5 変形部
6 丸棒材
7 中空部
8 閉塞部
9 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】一端に外向きフランジを形成した薄肉の円筒部の他端に、締結用工具との係合部たる拡径頭部を円筒部と一体に、しかも円筒部とほぼ同じ肉厚のものに形成し、前記フランジ側の端縁から拡径頭部の基部内面にかけての前記円筒部の内面に雌ねじを形成し、かつ雌ねじの一部が内側方向へわずかに突出する変形部を前記円筒部に形成してなるナット。
【請求項2】(a) 素材たる実体ものの丸棒材の一端をプレスして外向きフランジを形成する(b) 前記フランジと反対側の端面から丸棒材の中心軸線に沿って孔あけ用のピンを圧入し、フランジ側が閉塞する薄肉の中空パイプ状に成形する(c) 打ち抜き加工により前記フランジ側の閉塞部を打ち抜いて貫通孔をあけ、両端が開口する中空パイプ状に成形する(d) 前記フランジと反対側の開口端から貫通孔内に型を打ち込んで貫通孔の端部を拡径せしめ、締結用工具との係合部たる拡径頭部を形成する(e) フランジ側の端縁から拡径頭部の基部にかけての円筒部内面に雌ねじを形成する(f) 円筒部の一部を外側から中心に向かって加圧し、雌ねじの一部が内側方向へわずかに突出する変形部を形成する上記(a) 〜(f) の工程よりなるナットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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