説明

ナット落下防止ソケットおよびラチェットレンチ

【課題】ラチェットレンチでナットを緩める際にナットの落下を確実に防止することが可能なナット落下防止ソケットを提供する。
【解決手段】ラチェットレンチと連動し6角ナット103が軸心回りに係合可能で6角ナット103が軸方向に移動可能な第1のナット嵌合部3bを有する内側ソケット3と、内側ソケット3の外側に軸心回りに回動自在に設けられ内側ソケット3の軸方向の端面と対向する端壁部に第1のナット嵌合部3bと連通し6角ナット103が軸心回りに係合可能で6角ナット103が軸方向に移動可能な第2のナット嵌合部2bを有する外側ソケット2と、内側ソケット3に対する外側ソケット2の軸心回りの回動角度θを規制する第1のストッパ部と第2のストッパ部を有する回動規制手段5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高所作業においてナットを緩める際にナットの落下を防止するためのナット落下防止ソケットおよびラチェットレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
送電線用の鉄塔上における高所作業においては、ナットを緩める際にラチェットレンチを使用している。ラチェットレンチには、ナットの大きさに適合したソケットが取付けられており、ソケットをナットに被せた状態でラチェットレンチを動かすことにより、ナットを緩めることできる。ラチェットレンチは、ラチェット機構によってソケットの回転方向が一方向に制限されるので、ナットを素早く緩めることができるが、ナットをソケットで確実に保持することができないことから、ナットを完全に緩めた際にナットがソケットから落下するという問題があった。
【0003】
そこで、高所作業においては、作業箇所の直下にナットを受け止めるための工具袋を取付けることが行われている。また、緩めたナットが落下するのを防止することが可能な落下防止具も知られている(例えば、特許文献1参照。)。この落下防止具では、弾性を有する筒体をナットに被せ、筒体を紐を介して保持することでナットの落下を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−41741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高所作業においては、ナットを緩める作業箇所は一ヶ所に限られないので、その都度作業箇所の直下に工具袋を取付けることが必要となり、作業能率が低下するという問題がある。また、特許文献1のように、弾性を有する筒体をナットに被せる構造では、緩めるナットのすべてに筒体を被せなければならず、作業が非常に煩わしくなる。したがって、ナットを受け止める工具袋や、弾性を有する筒体を用いることなく、緩めたナットの落下を確実に防止することができる工具の開発が望まれる。
【0006】
そこでこの発明は、ラチェットレンチでナットを緩める際にナットの落下を確実に防止することが可能なナット落下防止ソケットおよびラチェットレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、ラチェットレンチに取付けられて使用されるナット落下防止ソケットであって、前記ラチェットレンチと連動し、ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第1のナット嵌合部を有する内側ソケットと、前記内側ソケットの外側に軸心回りに回動自在に設けられ、前記内側ソケットの軸方向の端面と対向する端壁部に前記第1のナット嵌合部と連通し前記ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第2のナット嵌合部を有する外側ソケットと、前記内側ソケットに対する前記外側ソケットの軸心回りの回動角度を規制する第1のストッパ部と第2のストッパ部を有する回動規制手段と、を備え、前記第1のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を阻止し、前記第2のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を許容する、ことを特徴とするナット落下防止ソケットである。
【0008】
この発明によれば、外側ソケットを第2のストッパ部側へ回動させた状態では、ナットを第1のナット嵌合部と第2のナット嵌合部との間で移動させることが可能となる。そして、外側ソケットを第1のストッパ部側へ回動させた状態では、ナットの第1のナット嵌合部から第2のナット嵌合部への移動が阻止され、内側ソケットからのナットの落下を防止することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のナット落下防止ソケットであって、前記第2のストッパ部は、前記内側ソケットに対する前記外側ソケットの軸心回りの回動をロックするロック機能を有していることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のナット落下防止ソケットにおいて、前記内側ソケットと前記外側ソケットとの間には、前記第2のストッパ部によるロックを解除させる方向に前記外側ソケットを軸心回り方向に付勢する付勢手段が設けられていることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のナット落下防止ソケットにおいて、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部には、6角ナットが嵌合可能であることを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のナット落下防止ソケットにおいて、前記外側ソケットの前記内側ソケットに対する軸心回りの回動角度は30°に設定されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のナット落下防止ソケットにおいて、前記内側ソケットは、前記ラチェットレンチと一体化されていることを特徴としている。
【0014】
請求項7に記載の発明は、ナットと係合可能なナット落下防止ソケットを有するラチェットレンチであって、前記ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第1のナット嵌合部を有する内側ソケットと、前記内側ソケットの外側に軸心回りに回動自在に設けられ、前記内側ソケットの軸方向の端面と対向する端壁部に前記第1のナット嵌合部と連通し前記ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第2のナット嵌合部を有する外側ソケットと、前記内側ソケットに対する前記外側ソケットの軸心回りの回動角度を規制する第1のストッパ部と第2のストッパ部を有する回動規制手段と、を備え、前記第1のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を阻止し、前記第2のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を許容する、ことを特徴とするラチェットレンチである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1および7に記載の発明によれば、外側ソケットの回動操作により第1のナット嵌合部から第2のナット嵌合部へのナットの移動を阻止することができるので、完全に緩んだナットの内側ソケットからの落下を確実に防止することができる。したがって、高所作業におけるナットの落下による事故を未然に防止でき、作業の安全性を高めることができる。
【0016】
また、ナットを緩めるソケット自体に落下防止機能を持たせているので、従来のようにナットを受け止める工具袋やナットに被せる筒体などが不要となり、これらを用いる場合に比べて作業能率を高めることが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、第2のストッパ部は、内側ソケットに対する外側ソケットの軸心回りの回動をロックするロック機能を有しているので、第1のナット嵌合部と第2のナット嵌合部との軸心回りの位置関係をナットが移動可能な状態に維持することができる。これにより、内側ソケットをナットに被せる作業と、完全に緩んだナットを外部に取り出す作業が容易となる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、付勢手段はロックを解除させる方向に外側ソケットを軸心回り方向に付勢しているので、ロックを解除した際には、外側ソケットを瞬時に第1のストッパ側に回動させることが可能となり、ナットの落下防止機能を高めることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、第1のナット嵌合部と第2のナット嵌合部には、広く採用されている六角ナットが嵌合可能であるので、送電用の鉄塔だけでなく、広範囲の分野における高所作業に適用することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、外側ソケットの内側ソケットに対する回動角度は30°に設定されているので、6角ナットの外周部と第2のナット嵌合部が形成される端壁部との引っ掛かり量を最大とすることができ、6角ナットの第1のナット嵌合部から第2のナット嵌合部への移動を確実に阻止することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、内側ソケットは、ラチェットレンチと一体化されているので、ラチェットレンチに外側ソケットを後付けすることができ、市販のラチェットレンチにナットの落下防止機能を持たせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係わるナット落下防止ソケットの動作を示す断面図であって、(a)はナットにソケットを嵌込んだ状態の断面図、(b)はナットが緩み始めた状態を示す断面図、(c)は外側ソケットを回動させた状態を示す断面図、(d)はナットからボルトが外れた状態を示す断面図である。
【図2】図1のナット落下防止ソケットとラチェットレンチとの取付け関係を示す正面図である。
【図3】図1のナット落下防止ソケットの部分拡大断面図である。
【図4】図3のナット落下防止ソケットをA−A線方向から見た図である。
【図5】図3のナット落下防止ソケットにおける外側ソケットを内側ソケットに対して軸心回りに回動させた場合の部分拡大断面図である。
【図6】図5のナット落下防止ソケットをB−B線方向から見た図である。
【図7】図1のナット落下防止ソケットにおける外側ソケットのロック解除時の回動規制溝とロック用突起との位置関係を示す拡大正面図である。
【図8】図7のC−C線に沿う断面図である。
【図9】図1のナット落下防止ソケットにおける外側ソケットのロック状態時の回動規制溝とロック用突起との位置関係を示す拡大正面図である。
【図10】図9のD−D線に沿う断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係わるナット落下防止ソケットの断面図である。
【図12】図11のナット落下防止ソケットにおける回動規制溝とロック用突起との位置関係を示す拡大断面図であって、(a)はナットの内側ソケットとの係合時を示す拡大断面図、(b)は内側ソケットに対して外側ソケットを軸心回りに回動させた際の拡大断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係わるナット落下防止ソケットの断面図である。
【図14】図13のナット落下防止ソケットにおける回動規制溝とロック用突起との位置関係を示す拡大断面図であって、(a)はナットの内側ソケットとの係合時を示す拡大断面図、(b)は内側ソケットに対して外側ソケットを軸心回りに回動させた際の拡大断面図である。
【図15】図14のE−E線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、この発明の実施の形態について図面を用いて詳しく説明する。
【0024】
(実施の形態1)
図1ないし図10は、この発明の実施の形態1を示している。図2に示すように、ナット落下防止ソケット1は、ラチェットレンチ101に取付けられて使用される。ナット落下防止ソケット1は、主として外側ソケット2と、内側ソケット3と、ロック用突起4と、回動規制手段としての規制溝5と、連結リング6と、回転ホルダ9とを有している。内側ソケット3は、長手方向の一方が筒状に形成されている。内側ソケット3は、6角ナット103が軸心P回りに係合可能で、かつ6角ナット103が軸方向に移動可能な第1のナット嵌合部3bを有している。第1のナット嵌合部3bは、横断面形状が6角ナット103と相似形の六角形をしており、内径は6角ナット103の外形よりも僅かに大に形成されている。
【0025】
内側ソケット3の長手方向の他方には、ラチェットレンチ101の連結凸部101aが嵌合可能な四角形の連結穴3fが形成されている。連結凸部101aは、横断面形状が四角形となっており、連結凸部101aが連結穴2fに嵌合した状態では、内側ソケット2はラチェットレンチ101に連動して動くようになっている。内側ソケット3の外周面における連結穴3fの近傍には、回転ホルダ9が設けられている。回転ホルダ9は、内側ソケット3の外周面に形成された保持溝(図示略)に回転自在に装着されている。回転ホルダ9には、ナット落下防止ソケット1の落下を防止するための紐(図示略)が連結されており、この紐の一方はラチェットレンチ101に連結されている。
【0026】
内側ソケット3の外側には、外側ソケット2が設けられている。外側ソケット2は、軸心Pを中心として内側ソケット3と同心状に配置されており、軸心P回りに回動可能となっている。外側ソケット2は円筒状に形成されており、内側ソケット3の軸方向の端面3aと対向する位置には端壁部2aが形成されている。端壁部2aには、第1のナット嵌合部3bと連通し、6角ナット103がと軸心P回りに係合可能で、かつ6角ナット103が軸方向に移動可能な第2のナット嵌合部2bが形成されている。第2のナット嵌合部2bは、横断面形状が6角ナット103と相似形の六角形をしており、内径は第1のナット嵌合部3bと同様に6角ナット103の外形よりも僅かに大に形成されている。
【0027】
外側ソケット2には、内側ソケット3に対する外側ソケット2の軸心P回りの回動角度を規制する回動規制手段としての規制溝5が形成されている。規制溝5は、外側ソケット2の周方向に延びており、外側ソケット2の外周面と内周面とを貫通している。規制溝5は、第1の嵌合部3bと第2の嵌合部2bとの間での6角ナット103の移動を阻止する第1のストッパ部5aと、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの間での6角ナット103の移動を許容する第2のストッパ部5cとを有している。
【0028】
外側ソケット2と内側ソケット3との間には、付勢手段としての捩りコイルスプリング7が設けられている。捩りコイルスプリング7は、第2のストッパ部5cによる外側ソケット2のロックを解除する方向に外側ソケット2を軸心P回り方向に付勢する機能を有している。捩りコイルスプリング7は、中央部が内側ソケット3に形成された支持軸3cに保持されており、一端が外側ソケット2側と接触し、他端が内側ソケット3側の保持ピン3dと連結されている。また、外側ソケット2と内側ソケット3との間には、図3に示すように、外側ソケット2と内側ソケット3とを軸方向に連結する連結リング6が設けられている。連結リング6の外周部は、外側ソケット2の内周面に形成された保持溝2eに保持されている。連結リング6の内周部は、内側ソケット3の外周面に形成された溝(図示略)に嵌め込まれている。
【0029】
内側ソケット3の外周面には、ロック用突起4が固定されている。ロック用突起4は、例えばロウ付けによって内側ソケット3に固定されている。ロック用突起4は、規制溝5内に位置しており、外側ソケット2の軸心P回りの回動に伴い、規制溝5の第1のストッパ部5aまたは第2のストッパ部5cに当接可能となっている。ロック用突起4は、規制溝5の直線ガイド部5bに沿って矢印F1方向に移動するようになっている。規制溝5の第2のストッパ部5c側には、ロック用突起4が密着可能な楔状のロック部5dが形成されている。
【0030】
ロック用突起4には、第1のストッパ部5aと当接可能な第1の端面4aと、第2のストッパ部5cに当接可能な第2の端面4bが形成されている。ロック用突起4の第1の端面4aと第2の端面4bとの間には、直線ガイド部5bと摺動可能なガイド面4cが形成されている。ロック用突起4には、規制溝5の楔状のロック部5dに密着可能な傾斜面4dが形成されている。ロック用突起4は、第2の端面4bが規制溝5の第2のストッパ部5cに当接した状態では、傾斜面4dが形成される先端部が規制溝5に食い込み、内側ソケット3に対する外側ソケット2の軸心P回りの動きがロックされるようになっている。
【0031】
図10は、規制溝5による外側ソケット2の周方向の回動角度θを示している。回動角度θは、規制溝5内においてロック用突起4が軸心P回り(矢印F1方向)に移動することが可能な角度であり、その角度θは30°に設定されている。回動角度θを30°に設定したのは、6角ナット103を対象としているからである。すなわち、回動角度θを30°に設定することにより、図5および図6に示すように、6角ナット103の外周部と第2のナット嵌合部2bが形成される端壁部2aとの引っ掛かり量を最大とすることができ、6角ナット103の第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bへの移動を確実に阻止することができる。
【0032】
つぎに、実施の形態1におけるナット落下防止ソケット1の使用方法および作用について説明する。
【0033】
6角ナット103を緩める際には、6角ナット103のサイズに適した内側ソケット2を有するナット落下防止ソケット1を選定し、このナット落下防止ソケット1をラチェットレンチ101に装着する。ナット落下防止ソケット1の装着は、図2に示すように、ラチェットレンチ101の連結凸部101aを内側ソケット3の連結穴3fに嵌合させることにより行う。
【0034】
図1は、送電線用の鉄塔上における高所作業において、ナット落下防止ソケット1を用いて6角ナット103を緩める手順を示している。図1(a)に示すように、鉄塔部材54には6角ボルト102と6角ナット103が締結されており、6角ナット103は6角ボルト102に螺合されている。ナット落下防止ソケット1の外側ソケット2は、通常捩りコイルスプリング7によって軸心P回りに付勢されており、ロック用突起4は捩りコイルスプリング7の付勢力によって第1のストッパ部5a側に押し付けられている。この状態では、図5および図6に示すように、内側ソケット3の第1の嵌合部3bと外側ソケット2の第2の嵌合部2bとが軸心P回りに角度θ(θ=30°)異なっている。
【0035】
ラチェットレンチ101により、6角ナット103を緩める際には、6角ナット103にナット落下防止ソケット1を被せるために、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの軸心P回りの位置関係を図3および図4に示す状態とすることが必要となる。すなわち、6角ナット103を緩める際には、外側ソケット2を捩りコイルスプリング7による付勢方向と反対方向に回動させ、図9および図10に示すように、ロック用突起4によって外側ソケット2を一時的にロックする。外側ソケット2がロックされた状態では、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとは、図3および図4に示すように軸心P回りの位相が同じとなり、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの間での6角ナット103の軸方向の移動が許容される。そして、外側ソケット2をロックした状態でナット落下防止ソケット1を6角ナット103に被せ、ナット落下防止ソケット1を軸心P方向に沿って移動させることにより、ナット103は第1のナット嵌合部3bと軸心P回りに係合した状態となる。
【0036】
つぎに、ラチェットレンチ101によりナット落下防止ソケット1を一方向(図1の矢印R方向)に回転させ、6角ナット103を緩める。6角ナット103を緩める際には、一方の手で6角ボルト102の頭部を押さえ、他方の手でラチェットレンチ101を動かす。図1(b)に示すように、6角ナット103が緩み始めると、6角ボルト102の頭部と6角ナット103は互いに離れる方向に移動し、6角ナット103は第2のナット嵌合部2bから離れ、第1のナット嵌合部3bとのみ軸心P回りに係合することになる。
【0037】
6角ナット103が少し緩んだ状態では、6角ナット103は第2のナット嵌合部2bから離れるので、図1(c)に示すように、ラチェットレンチ101を持っている手と反対側の手で外側ソケット2を内側ソケット3に対して軸心P回りに矢印F1方向と反対方向に回動させる。これにより、ロック用突起4による外側ソケット2のロックが解除され、外側ソケット2は捩りコイルスプリング7の付勢力によって第1のストッパ部5a側に回動し、ロック用突起4は、図7および図8に示すように規制溝5の第1のストッパ部5aに当接する。この状態では、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとは、図5および図6に示すように軸心P回りの位相がずれることになり、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの間での6角ナット103の軸方向の移動が阻止される。
【0038】
このように、捩りコイルスプリング7は、ロックを解除させる方向に外側ソケット2を軸心回り方向に付勢しているので、ロック用突起4による外側ソケット2のロックが解除された際には、外側ソケット2は捩りコイルスプリング7の付勢力によって瞬時に第1のストッパ5a側に移動することになり、ナット103の落下防止機能を高めることができる。
【0039】
さらに、ラチェットレンチ101によりナット落下防止ソケット1を一方向に回転させ、6角ナット103を緩めることにより、6角ボルト102と6角ナット103との螺合が外れ、6角ボルト102は鉄塔部材54から外れることになる。6角ナット103を緩める際には、外側ソケット2を回動させる以外は作業者の一方の手は6角ボルト102を押さえているので、6角ボルト102と6角ナット103との螺合が外れた際に、6角ボルト102が落下することはない。作業者の他方の手は、ラチェットレンチ101を握っているので、6角ナット103を保持することができないが、6角ナット103は第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bによって軸方向の移動が阻止されるので、6角ナット103の落下を確実に防止することができる。
【0040】
ここで、外側ソケット2の内側ソケット3に対する回動角度は30°に設定されているので、6角ナット103の外周部と第2のナット嵌合部2bが形成される端壁部2aとの引っ掛かり量を最大とすることができ、6角ナット103の第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bへの移動を確実に阻止することができる。
【0041】
6角ボルト102を鉄塔部材54から取外した後は、ナット落下防止ソケット1内に残っている6角ナット103を取り出す。この場合は、ロック用突起4と規制溝5とが図9および図10に示す位置関係となるように、外側ソケット2を内側ソケット3に対して反対方向に回動させ、ロック用突起4によって再び外側ソケット2をロックする。これにより、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの位置関係は、図3および図4に示す状態に維持される。したがって、6角ナット103を第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bへ容易に移動させることができ、第2のナット嵌合部2bから出てくる6角ナット103を作業者の一方の手で受け止めることができる。
【0042】
このように、ラチェットレンチ101によって6角ナット103を完全に緩ませた状態では、6角ナット103の第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bへの軸方向への移動が阻止されるので、6角ナット103は内側ソケット3と係合したままとなり、ナット落下防止ソケット1からの6角ナット103の落下を確実に防止することができる。したがって、送電用の鉄塔などの高所作業における6角ナット103の落下による事故を未然に防止でき、作業の安全性を高めることができる。
【0043】
また、6角ナット103を緩めるソケット自体に落下防止機能を持たせているので、従来のようにナットを受け止める工具袋やナットに被せる筒体などが不要となり、これらを用いる場合に比べて作業能率を高めることが可能となる。
【0044】
(実施の形態2)
図11および図12は、本発明の実施の形態2を示している。実施の形態2が実施の形態1と異なるところは、内側ソケット3がラチェットレンチ101と一体化されていることのみであり、その他の部分は実施の形態1に準じるので、準じる部分に実施の形態1と同一の符号を付すことにより、準じる部分の説明を省略する。後述する他の実施の形態についても同様とする。
【0045】
図11に示すように、ナット落下防止ソケット1の内側ソケット3はラチェットレンチ101と一体化されている。実施の形態1においては、6角ナット103のサイズに応じてラチェットレンチ101に装着するナット落下防止ソケット1を選択できたが、実施の形態2においては、ナット落下防止ソケット1は、同じサイズの6角ナット103を緩めるための専用工具として用いられる。
【0046】
図12は、ロック用突起4と規制溝5との位置関係を示している。図12(a)は6角ナット103の第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bへの移動を許容する状態を示しており、この状態ではロック用突起4は規制溝5の第1のストッパ部5aと当接している。図12(b)は6角ナット103の第1のナット嵌合部3bから第2のナット嵌合部2bへの移動を阻止する状態を示しており、この状態ではロック用突起4は規制溝5の第2のストッパ部5cと当接している。
【0047】
このように構成された実施の形態2においては、内側ソケット3は、ラチェットレンチ101と一体化されているので、ラチェットレンチ101を所定のサイズの6角ナット103を緩める専用工具として使用することができる。また、ラチェットレンチ101と内側ソケット3は分離できないので、実施の形態1のようにナット落下防止ソケット1とラチェットレンチ101とを分離可能な構成に対して、ナット落下防止ソケット1を紛失するおそれもなくなる。
【0048】
(実施の形態3)
図13ないし図15は、本発明の実施の形態3を示している。実施の形態1、2においては、内側ソケット3に対する外側ソケット2との間に連結リング6を設け、内側ソケット3と外側ソケット2との軸方向の位置ずれを防止する構成としていたが、実施の形態3においては、分割リング8を用いて内側ソケット3と外側ソケット2との軸方向の位置ずれを防止する構成を採用している。分割リング8は、第1のリング8aと第2のリング8bに2分割されている。第1のリング8aには、6角穴付ボルト10を挿入するためのボルト穴8a1が形成されている。第2のリング8bには、6角穴付ボルト10を挿入するためのボルト穴8b1が形成されている。
【0049】
第1のリング8aと第2のリング8bは、2本の6角穴付ボルト10を介して互いに連結されている。分割リング8は、図15に示すように内側ソケット3を外側から締め付けるように取付けられており、2本の6角穴付ボルト10の締付けにより内側ソケット3に固定されている。分割リング8の内面と外側ソケット2の外面との間には、分割リング8と外側ソケット2との軸方向のずれを防止する連結リング6が装着されている。これにより、外側ソケット2は分割リング8および内側ソケット3に対して軸心回りに回動可能となっている。
【0050】
このように構成された実施の形態3においては、内側ソケット3は、ラチェットレンチ101と一体化されているので、分割リング8を用いてラチェットレンチ101に外側ソケット2を後付けすることができ、市販のラチェットレンチ101にナットの落下防止機能を持たせることが可能となる。
【0051】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、実施の形態1〜3において、ナットとして6角ナット103に適用した場合を説明したが、ナットは6角ナット103に限定されることはなく、4角ナットや6角以外の多角形であってもよい。また、6角ナット103の場合は、外側ソケット2の内側ソケット3に対する軸心回りの回動角度θを30°に設定しているが、回動角度θは必ずしも30°でなくともよく、30°よりも少し大きな角度または30°よりも少し小さな角度に設定した場合でも、6角ナット103の落下を防止することは可能である。さらに、外側ソケット2の回動操作を容易に行うために、外側ソケット2に操作レバーを設ける構成としてもよい。
【0052】
また、実施の形態1〜3において、ロック用突起4を楔状のロック部5dに進入させて外側ソケット2の回動をロックするようにしているが、ロック機構はこれに限定されることはなく、永久磁石やバネなどを用いてロックする構成としてもよい。
【0053】
さらに、各実施の形態1〜3においては、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの位置関係を捩りコイルスプリング7の付勢力を利用して常時軸心P回りに角度30°異なるようにしているが、これと反対の構造を採用してもよい。すなわち、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの位置関係を捩りコイルスプリング7の付勢力を利用して常時軸心P回りに同じ位相となるようにし、手動によって外側ソケット2を捩りコイルスプリング7の付勢方向と反対方向に回動させることにより、第1のナット嵌合部3bと第2のナット嵌合部2bとの位置関係を軸心P回りに角度30°異ならせる構造としてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ナット落下防止ソケット
2 外側ソケット
2a 端壁部
2b 第2のナット嵌合部
3 内側ソケット
3a 端面
3b 第1のナット嵌合部
4 ロック用突起
5 規制溝(回動規制手段)
5a 第1のストッパ部
5c 第2のストッパ部
6 連結リング
7 捩りコイルスプリング(付勢手段)
8 分割リング
9 回転ホルダ
101 ラチェットレンチ
102 6角ボルト
103 6角ナット(ナット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチェットレンチに取付けられて使用されるナット落下防止ソケットであって、
前記ラチェットレンチと連動し、ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第1のナット嵌合部を有する内側ソケットと、
前記内側ソケットの外側に軸心回りに回動自在に設けられ、前記内側ソケットの軸方向の端面と対向する端壁部に前記第1のナット嵌合部と連通し前記ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第2のナット嵌合部を有する外側ソケットと、
前記内側ソケットに対する前記外側ソケットの軸心回りの回動角度を規制する第1のストッパ部と第2のストッパ部を有する回動規制手段と、
を備え、
前記第1のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を阻止し、前記第2のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を許容する、ことを特徴とするナット落下防止ソケット。
【請求項2】
前記第2のストッパ部は、前記内側ソケットに対する前記外側ソケットの軸心回りの回動をロックするロック機能を有していることを特徴とする請求項1に記載のナット落下防止ソケット。
【請求項3】
前記内側ソケットと前記外側ソケットとの間には、前記第2のストッパ部によるロックを解除させる方向に前記外側ソケットを軸心回り方向に付勢する付勢手段が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のナット落下防止ソケット。
【請求項4】
前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部には、6角ナットが嵌合可能であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のナット落下防止ソケット。
【請求項5】
前記外側ソケットの前記内側ソケットに対する軸心回りの回動角度は30°に設定されていることを特徴とする請求項4に記載のナット落下防止ソケット。
【請求項6】
前記内側ソケットは、前記ラチェットレンチと一体化されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のナット落下防止ソケット。
【請求項7】
ナットと係合可能なナット落下防止ソケットを有するラチェットレンチであって、
前記ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第1のナット嵌合部を有する内側ソケットと、
前記内側ソケットの外側に軸心回りに回動自在に設けられ、前記内側ソケットの軸方向の端面と対向する端壁部に前記第1のナット嵌合部と連通し前記ナットが軸心回りに係合可能で前記ナットが軸方向に移動可能な第2のナット嵌合部を有する外側ソケットと、
前記内側ソケットに対する前記外側ソケットの軸心回りの回動角度を規制する第1のストッパ部と第2のストッパ部を有する回動規制手段と、
を備え、
前記第1のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を阻止し、前記第2のストッパ部は、前記第1のナット嵌合部と前記第2のナット嵌合部との間での前記ナットの軸方向の移動を許容する、ことを特徴とするラチェットレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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