説明

ナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置

【課題】運用管理者が経験が浅い者であっても、効率よく、ナトリウム−硫黄電池を運用し得る手段を提供すること。
【解決手段】運用出力並びに時間帯を入力する手段と、電池残存容量並びに電池温度を継続して入力する手段と、最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を予測する手段と、予測された電池残存容量と予め記録された基準最少容量とを比較して電池残存容量が少ない場合にガイダンスを出力する手段と、予測された電池温度と予め記録された基準最高温度とを比較して電池温度が高い場合にガイダンスを出力する手段と、を具備するナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム−硫黄電池を運用するためのガイダンス装置に関する。特に、風力発電装置等の、出力が変動する発電装置と組み合わされて、電力供給を行う連系システムを構築するナトリウム−硫黄電池を、効率よく運用するために用いられるガイダンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力需要(負荷)の平準化のための電力貯蔵補償装置や、自然災害時の非常用電源装置の主構成機器として、ナトリウム−硫黄電池が実用化されている。ナトリウム−硫黄電池は、陰極活物質である溶融金属ナトリウムと、陽極活物質である溶融硫黄と、をナトリウムイオンに対して選択的な透過性を有するβ−アルミナ固体電解質で隔離して配する二次電池である。ナトリウム−硫黄電池では、溶融金属ナトリウムが電子を放出してナトリウムイオンとなり、これが固体電解質内を透過して陽極側に移動し、硫黄及び外部回路から供給される電子と反応して多硫化ナトリウムを生成し、放電がなされ、放電とは逆に、多硫化ナトリウムからナトリウム及び硫黄が生成する反応によって、充電がなされる(ナトリウム−硫黄電池について、例えば特許文献1、特許文献2を参照)。
【0003】
このようなナトリウム−硫黄電池を運用するにあたって留意すべき点は、大きなものとしては次の2点である。
【0004】
1つめは、残存容量(又は放電容量)を適切に管理することである。ナトリウム−硫黄電池では、過放電によって、陽極側に多硫化ナトリウムが生成し、陰極のナトリウムが欠乏すると、その後の充放電が不可能となる。又、過充電によって、固体電解質が破損し、活物質が漏洩すると、その後の充放電が不可能となる。従って、電圧で検知可能な充電末以降は充電が継続出来ず、同じく放電末以降は放電を継続することが出来ない。そのため、突然、充電末又は放電末がやってくると、上記装置の電力貯蔵器(電池)としての機能を果たせなくなる。それが故に、残存容量の管理は大変重要である、と認識される。
【0005】
2つめは、作動温度を所定の範囲(概ね280℃〜360℃)に制御することである。ナトリウム−硫黄電池は、β−アルミナ固体電解質に対するナトリウムイオン伝導率の温度特性等の理由により、効率よく充放電を行うためには、280℃以上の高温で作動させることが好ましい。反面、電池を構成する種々の部材には耐熱性の制約があることから、ナトリウム−硫黄電池の作動温度の高さには限界がある。従って、上記所定の温度範囲で、ナトリウム−硫黄電池を作動させることが肝要である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−288950号公報
【特許文献2】特開2000−182662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、これら残存容量の管理、作動温度の制御は、必ずしも容易ではなく、従来、効率よく、ナトリウム−硫黄電池を運用(運転)することは困難であった。特に、運用管理者の経験が浅い場合には、発電終了予定時刻前に残存容量がなくなってしまったり、作動温度が上限より上昇して、運転継続が不可能になるという問題が生じていた。
【0008】
ナトリウム−硫黄電池の作動温度が所定の範囲から外れそうになれば、容量が残っていても、運転を休止せざるを得ず、運用効率が低下するおそれがある。そして、作動温度の上昇は、内部抵抗によるジュール発熱と反応熱とに起因するところ、内部抵抗は、積年の運用に基づく部材の劣化によって経年毎に増加するし、更に、内部抵抗が存在するところへ電流が流れることで内部温度が上昇する結果、内部抵抗が低下し、更に大電流が流れ、局所的に温度が上昇するという問題が生じ得る。従って、これらを把握して、所定の温度範囲でナトリウム−硫黄電池を運用することは、簡単ではないのである。
【0009】
加えて、ナトリウム−硫黄電池が、風力、太陽光、地熱等から電力を作り出す自然エネルギー発電装置の、電力補償装置として用いられる場合には、上記の管理、制御は、負荷平準化手段として利用される場合より困難なものとなる。例えば昼夜間の負荷平準化のための電力貯蔵補償装置にナトリウム−硫黄電池が適用される場合には、昼夜の負荷の変動は、一定の予測範囲に収まる場合が多いから、平準化する側のナトリウム−硫黄電池においてその運用(充電、放電)が容易ではないといっても、残存容量、温度の変化は、一定の経験を積んだ運用管理者の想定内に収まる場合が多い。しかし、自然界からもたらされるエネルギーは刻一刻と変動することから、自然エネルギー発電装置には、出力変動が避けられない、という宿命があり、出力変動を補償するナトリウム−硫黄電池に求められる充電量又は放電量も、刻一刻と変化する。それが故に、リアルタイムにナトリウム−硫黄電池の充電可能量及び放電可能量を計算し、運用計画を補正しておかなければ、電力補償装置における電力貯蔵器(電池)としての機能を果たせなくなるおそれが高いのである。これは、経験を積んだ運用管理者にとっても困難な作業ということが出来る。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、ナトリウム−硫黄電池を運用するにあたり、どのくらいの電力で何時間放電が可能であるか、あるいは充電が可能であるかを、シミュレーション可能とし、運用管理者が経験が浅い者であっても、効率よく、ナトリウム−硫黄電池を運用し得る手段を提供することである。研究が重ねられた結果、以下の手段によって、上記課題を解決出来ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、先ず、本発明によれば、ナトリウム−硫黄電池の運用にかかりガイダンスを出力する装置であって、ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力(運用電力)、並びにその運用出力が必要となる時間帯を入力する手段と、ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を、継続して入力する手段と、その継続して入力されたナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度、及び、上記ナトリウム−硫黄電池に必要な(求められる)運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯、に基づいて、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を、予測する手段と、予測された最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と、予め記録された基準最少容量と、を比較して、電池残存容量が少ない場合に、容量が不足するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、予測された最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池温度と、予め記録された基準最高温度と、を比較して、電池温度が高い場合に、温度が許容範囲上限となるため放電を停止するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、を具備するナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置が提供される。
【0012】
次に、本発明によれば、発電装置と電力貯蔵補償装置とを組み合わせて電力系統へ電力を供給する連系システムにおいて、双方向変換器とともに電力貯蔵補償装置を構成し、発電装置の出力を補償するナトリウム−硫黄電池の運用にかかり、ガイダンスを出力する装置であって、連系システムとしての計画合成出力、並びに発電装置の予測出力を、時間帯毎に入力する手段と、上記計画合成出力並びに予測出力に基づいて、ナトリウム−硫黄電池に必要な(求められる)運用出力(運用電力)を、上記時間帯毎に算出する手段と、ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を、継続して入力する手段と、その継続して入力されたナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度、及び、上記算出されたナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯、に基づいて、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を、予測する手段と、予測された最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と、予め記録された基準最少容量と、を比較して、電池残存容量が少ない場合に、容量が不足するので計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、予測された最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池温度と、予め記録された基準最高温度と、を比較して、電池温度が高い場合に、温度が許容範囲上限となるため放電を停止するので計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、を具備する連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置が提供される。
【0013】
本発明に係る連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、連系システムを構成する発電装置が、出力変動し易い発電装置である場合、具体的には、風力、太陽光、地熱のうち1又は2以上の自然エネルギーを用いた自然エネルギー発電装置である場合、に好適に用いられる。
【0014】
本発明に係る連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、以下の点を除けば、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置と同じ発明である。即ち、差異は、ナトリウム−硫黄電池が連系システムを構成するものとして特定される点、ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力(運用電力)が直接入力されるのではなく、連系システムとしての計画合成出力と発電装置の予測出力が入力されそれらから運用出力が算出される点、容量が不足するか温度が許容範囲上限となる場合に、ナトリウム−硫黄電池の電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力するのではなく、連系システムとしての計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを出力する点、である。尚、発電装置の予測出力は、気象情報に基づいて仮定した風速によって計算することが出来る。
【0015】
電池残存容量並びに電池温度の入力にかかり、継続して、とは、断続して、又は、連続して、を意味し、好ましくは、連続して、である。本明細書において、電池残存容量は、単に残存容量とも表現する。又、運用とは運転であり、具体的には充電、放電の動作をさせることを指す。
【0016】
ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力及びその運用出力が必要となる時間帯とは、ある時点以降の将来に必要となる運用出力(運用電力)でありそれが必要となる時間帯を意味する。ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量及び電池温度は、そのある時点まで継続して入力されるのである。ここで、ある時点とは、通常は、ナトリウム−硫黄電池の運用しているそのとき、即ち現在、を意味する。しかし、それに限らず、過去又は将来の一時であってもよい。即ち、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、現在から先のシミュレーションを行うことが出来、それに加えて、現在の状況とは関係なくある仮定に基づいたナトリウム−硫黄電池の運用にかかるシミュレーションや、過去の運用の検証をも、行うことが可能な装置である。
【0017】
必要な運用出力及びその運用出力が必要となる時間帯は、1組又は複数組が入力される。即ち、このことは、ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力を時間帯毎に入力する、と言い換えることが出来る。ナトリウム−硫黄電池の運用の終了時刻まで、時間帯毎に運用出力を入力すれば、本発明に係る連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置によって、そのある時点(通常は現在)以降、ナトリウム−硫黄電池が問題を生じることなく運用可能か否か、予測をすることが可能である。
【0018】
次に、本発明によれば、ナトリウム−硫黄電池の運用にかかりガイダンスを出力するために、コンピュータを、ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯を入力する手段、ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を、継続して入力する手段、その継続して入力されたナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度、及び、上記ナトリウム−硫黄電池に必要な(求められる)運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯、に基づいて、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を、予測する手段、予測された最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と、予め記録された基準最少容量と、を比較して、電池残存容量が少ない場合に、容量が不足するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段、及び、予測された最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池温度と、予め記録された基準最高温度と、を比較して、電池温度が高い場合に、温度が許容範囲上限となるため放電を停止するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段、として機能させるためのナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンスプログラムが提供される。
【0019】
次に、本発明によれば、上記したナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置と、その運用ガイダンス装置が出力した電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを入力してより低い新たな電池出力制御目標値を出力する手段、及び、運用ガイダンス装置へナトリウム−硫黄電池に必要な(求められる)運用出力並びにその運用出力が必要となる時間帯を出力する手段、を具備する監視装置と、その監視装置が出力した上記新たな電池出力制御目標値を入力してナトリウム−硫黄電池の出力を制御する手段、及び、運用ガイダンス装置へナトリウム−硫黄電池の電池残存容量並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を継続して出力する手段、を具備する制御装置と、を有するナトリウム−硫黄電池の制御システムが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、例えば、現在までのナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と電池温度、及び今後必要となる時間帯毎の運用出力に基づいて、将来の電池残存容量と電池温度を予測し、その予測結果とそれに基づくガイダンスを出力することが出来るので、運用管理者が経験が浅い者であっても、効率よく、安定して、ナトリウム−硫黄電池を運用することが可能である。従来のように、発電終了予定時刻前にナトリウム−硫黄電池の残存容量がなくなってしまったり、作動温度が上限より上昇して、運転継続が不可能になるという問題は生じ難くなる。
【0021】
加えて、ある仮定に基づいたナトリウム−硫黄電池の運用にかかるシミュレーションや過去の検証をも行うことが出来るので、運用計画の立案、改善、起り得る問題の予想、起こった問題の解析等を行うことが可能となる。
【0022】
又、一般に、負荷平準化を図る場合には、その負荷の変動パターンは予測し易いといえるが、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置を用いれば、想定外に負荷が大きく変動した場合に、経験の浅い運用者であっても、あわてることなく対処することが可能となる。即ち、負荷平準化のための電力貯蔵補償装置の主構成機器としてナトリウム−硫黄電池が用いられる場合にも本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は有用である。
【0023】
そして、更に、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、ナトリウム−硫黄電池が連系システムを構成するものである場合、即ち、本発明に係る連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置に該当する場合、であって、発電装置が出力変動し易い自然エネルギー発電装置である場合に、負荷平準化を図る場合より有用で貴重な手段となり得る。自然エネルギー発電装置が出力変動するということは、その出力変動を補償するナトリウム−硫黄電池に求められる充電量又は放電量も刻一刻と変化するわけであり、経験を積んだ運用管理者にとっても、効率よく、安定して、ナトリウム−硫黄電池を運用することは困難である。そのため、ナトリウム−硫黄電池の残存容量を0にしてしまったり、作動温度を上限より高くさせてしまい、停止させてしまうおそれが大きいのであるが、本発明に係る連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置を用いれば、このような問題を回避することが出来、良好に運転を継続することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0025】
図1は、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置を含む、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の制御システムの一実施形態を示す構成図である。図2は、図1に示される制御システムで制御されるナトリウム−硫黄電池を電力貯蔵補償装置の主構成機器として用いた、連系システムの一例を表すシステム構成図である。図3は、図1に示される本発明に係るナトリウム−硫黄電池の制御システムにおける運用ガイダンス装置の処理の流れの一例を表したフローチャートである。運用ガイダンス装置は、シーケンサや産業用コンピュータを主な機器として構成される。図4は、図2に示される連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の現在(ある時点)における、過去、現在(ある時点)、将来の、電力(図4の(a))、(電池)残存容量(図4の(b))、電池温度(図4の(c))を表すグラフである。
【0026】
図2に示される連系システム8は、風の力を風車の回転に変え発電機を回す風力発電装置7(自然エネルギー発電装置)と、電力貯蔵補償装置5と、を有する。そして、電力貯蔵補償装置5は、電力を貯蔵し出力することが可能な二次電池であるナトリウム−硫黄電池3、直流/交流変換機能を有する双方向変換器4、及び変圧器9とを備える。双方向変換器4は、例えばチョッパとインバータあるいはインバータから構成することが出来る。尚、図2では省略しているが、通常、風力発電装置7及び電力貯蔵補償装置5は複数系列備わる。
【0027】
連系システム8では、電力貯蔵補償装置5のナトリウム−硫黄電池3が放電を行い、その放電による電力計42で測定される電力Pが、風力発電装置7により発電され出力された電力(電力計43で測定される電力P)の変動を補償する。その結果、連系システム8全体としての計画合成出力(電力計41で測定される電力P)は、P=P+P=一定(P=P−P)となる。換言すれば、そうなるように、ナトリウム−硫黄電池3の放電(即ち電力P)を制御し、連系システム8全体の計画合成出力(電力P)を安定させて、例えば配電変電所と電力需要家間の電力系統1に供給する。
【0028】
ナトリウム−硫黄電池3を放電する場合、充電する場合の何れの場合も、電力貯蔵補償装置5において、風力発電装置7からの出力(電力P)に基づき、その出力を補償する電力を入力又は出力させるように、双方向変換器4の(電池出力)制御目標値を変更することによってナトリウム−硫黄電池3を充電又は放電させて、風力発電装置7の出力変動を吸収する。二酸化炭素を殆ど排出しない自然エネルギー発電装置(風力発電装置7)及びナトリウム−硫黄電池3(電力貯蔵補償装置5)を用いて、安定した品質のよい電力を供給出来ることから、連系システム8は好ましい発電システムであるといえる。
【0029】
但し、風力発電装置7の出力変動は一般に激しいので、電力貯蔵補償装置5を構成するナトリウム−硫黄電池3の残存容量が管理出来ず、風力発電装置7の出力を補償出来なくなったり、電池温度が高くなって運転を継続出来ず、仮に残存容量が十分であっても、風力発電装置7の出力を補償出来ない場合があり得る。
【0030】
そこで、運用ガイダンス装置11、監視装置12、制御装置14からなる、図1に示される制御システム10において、例えば以下の制御(処理)を行う。制御システム10において、(例えば)現在までのナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量は制御装置14によって管理され、ナトリウム−硫黄電池3の電池温度は制御装置14によって検出されデータが保存される(図4の(b)、(c)を参照)。そして、制御装置14から運用ガイダンス装置11へ、ナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度が継続して出力される。尚、この処理は運用ガイダンス装置11の処理の一部であるが、他の処理と関係なく継続して行われるものであるので、図3のフローチャートからは省かれている。
【0031】
今後(将来)にナトリウム−硫黄電池3に求められる時間帯毎の運用出力(図4の(a)を参照)は、時間帯毎に、連系システム8の計画合成出力(電力P)から風力発電装置7の予測出力(予測される電力P)をひいた値として求められる。時間帯毎の運用出力を求めるための、時間帯毎の連系システム8の計画合成出力及び風力発電装置7の予測出力は、監視装置12において運用管理者によって入力され、監視装置12から運用ガイダンス装置11へ出力される。尚、ナトリウム−硫黄電池3に必要な時間帯毎の運用出力は、監視装置12において運用管理者によって、直接入力されることとしてもよい。
【0032】
運用ガイダンス装置11では、求めた運用出力と時間帯と(時間帯毎の運用出力)を基に、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度を予測し、最終時刻まで、残存容量が基準以下になることなく、且つ、電池温度が異常となることなく、運転可能であるか否かを判断する。即ち、電池運用の合否判定をする。合格の場合には、運用ガイダンス装置11は監視装置12へその旨の出力をし(又は特段の出力をせず)、不合格の場合、即ち、最終時刻までに残存容量が基準以下になるか又は電池温度が許容範囲上限となると予測される場合には、運用ガイダンス装置11は監視装置12へ、計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを出力する。
【0033】
監視装置12は、運用ガイダンス装置11から、計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを入力した場合には、運用管理者による入力に基づき、又は、ナトリウム−硫黄電池3の許容電力に基づく自動算出により新たな計画合成出力を設定し、その計画合成出力から風力発電装置7の予測出力をひいた(より低い)新たな電池出力制御目標値を、制御装置14へ出力する。そして、制御装置14が、双方向変換器4(図2を参照)における電池出力制御目標値を新たな値に変更し、その値に基づいてナトリウム−硫黄電池3が運転され、新たな(より小さい)電力Pとして放電がなされる。
【0034】
そうすると、運転状態の変化により、制御装置14から運用ガイダンス装置11へ継続して出力されるナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度も変り(電池残存容量は低下傾向が緩和され電池温度上昇の傾きは低下し)、電池運用の合否判定を合格に導くことが可能となる。
【0035】
運用ガイダンス装置11における再度の予測によっても不合格になる場合には、計画合成出力の値を下げることにより、ナトリウム−硫黄電池3に必要な時間帯毎の運用出力を小さくして、電池運用を合格に導くことが出来る。この場合、連系システム8の計画合成出力は小さくなるが、運転停止という事態を回避することが可能となる。
【0036】
次に、図3を参照して、制御システム10のうち運用ガイダンス装置11内の処理について説明する。尚、図3では、計画合成出力及び予測出力が、将来において時間帯毎に変化するものとはしておらず、代わりに入力される終了時刻まで一定である場合が示されており、この点で既述の説明とは異なる。計画合成出力は、合否判定の結果、変更される場合があり、図3の例において終了時刻まで一定とは時間帯毎に変化するものとはしていないという意味であり、変更した後は、その変更後の値で計画合成出力は終了時刻まで一定である。運用ガイダンス装置11は、シーケンサや産業用コンピュータを主な構成機器とするものであり、具体的には、中央処理装置、運用ガイダンスプログラムを格納する主メモリ、表示装置(液晶画面等)、タイマー、運用管理者の入力を受け付けるキーボード、入力されたナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度を記録しておくファイル装置、制御装置14及び監視装置12からの入力や監視装置12への出力を行う通信インターフェースボード等によって構成される。
【0037】
(既述のように図3のフローチャートからは省かれているが、)ナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度は、継続して入力されファイル装置に記録される。又、同じく図3のフローチャートからは省かれているが、ナトリウム−硫黄電池の基準最少容量と基準最高温度が、キーボードから入力されファイル装置に記録される。更に、連系システム8の計画合成出力、ナトリウム−硫黄電池3の運転の終了時刻(既述の時間帯の代わり)、及び風力発電装置7の予測出力が入力され、主メモリ上に格納されるとともにファイル装置に記録される。計画合成出力は、最初は変更値を入力する必要はない。
【0038】
中央処理装置は、運用ガイダンスプログラムの指令によって、以下の処理を行う。
【0039】
(1)先ず、計画合成出力から予測出力をひいて、(図3においては終了時刻まで一定の)ナトリウム−硫黄電池3に求められる運用出力を計算し、主メモリ上に格納する。又、タイマーから現在時刻を読み出し、終了時刻から現在時刻をひいて、ナトリウム−硫黄電池3に求められる出力時間を計算し、主メモリ上に格納する。
【0040】
(2)次に、運用ガイダンスプログラムのうちの電池シミュレーション(サブ)ルーチンの指令により、中央処理装置は、終了時刻(時間帯における最終時刻に相当する)におけるナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度を計算し(予測し)、それらを主メモリ上に格納するとともにファイル装置に記録する。
【0041】
電池シミュレーション(サブ)ルーチンでは、図5に示される処理によって、ナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度を計算する。具体的には、運用出力から電池電流を求め、電池電流と時間刻みΔtに基づき、残存容量を計算し更新する。又、電池電流、電池内部抵抗、モジュール電池放熱量、時間刻みΔt、モジュール電池熱容量に基づき、電池温度を計算し更新する。これら残存容量、電池温度の計算を、運用出力時間と時間刻みΔtにより求まる回数だけ行うことによって、運用出力時間後の、即ち終了時刻における、ナトリウム−硫黄電池3の電池残存容量と電池温度を計算することが出来る。
【0042】
(3)そして、ファイル装置から基準最高温度(例えば360℃)を主メモリ上に読み出し、その温度と、計算した終了時刻における電池温度と、を比較し、終了時刻における電池温度の方が高ければ、表示装置へ「温度上限を超えます。計画合成出力を変更して下さい」と出力する(表示する)。又、ファイル装置から基準最少容量(例えば定格容量の5%の値)を主メモリ上に読み出し、その容量と、計算した終了時刻における電池残存容量と、を比較し、終了時刻における電池残存容量の方が少なければ、表示装置へ「容量が不足します。計画合成出力を変更して下さい」と表示する。
【0043】
(4)次に、合格判定の場合、即ち、終了時刻における電池温度が基準最高温度以下であり、且つ、終了時刻における電池残存容量が基準最少容量以上の場合に、主メモリ上の計画合成出力変更フラグが1になっていれば、このフラグに0を格納するとともに、表示装置へ「計画合成出力を変更しました」と表示する。以上で、運用ガイダンス装置11の1サイクルの処理は終了である。
【0044】
2サイクル以降は、表示装置に「計画合成出力を変更して下さい」との表示が示されたことを受けて、キーボードから計画合成出力の変更値が入力され主メモリ上に格納されるとともにファイル装置に記録される場合がある。この場合に、中央処理装置は、運用ガイダンスプログラムの指令によって、主メモリ上の計画合成出力変更フラグに1を格納する。以降は、(1)に戻り、1サイクル目と同様に処理を行う。尚、風力発電装置7の予測出力の入力は(1)で行ってもよい(図3を参照)。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、負荷平準化のための電力貯蔵補償装置や、出力が変動する発電装置と組み合わせて用いられる電力貯蔵補償装置等、を含むあらゆる電力貯蔵補償装置を構成するナトリウム−硫黄電池を適切に運用するための手段として利用することが出来る。
【0046】
本発明に係る連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置は、風力、太陽光、地熱等の自然エネルギーを用いた、出力が変動する発電装置と、電力貯蔵補償装置と、を組み合わせて電力系統へ電力を供給する連系システムにおいて電力貯蔵補償装置を構成するナトリウム−硫黄電池を、効率よく、意図せず停止しないように安定して運用する手段として、好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係るナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置を含む、本発明に係るナトリウム−硫黄電池の制御システムの一実施形態を示す構成図である。
【図2】出力が変動する発電装置と電力貯蔵補償装置とを有する連系システムの一例を表すシステム構成図である。
【図3】図1に示される本発明に係るナトリウム−硫黄電池の制御システムにおける運用ガイダンス装置の処理の流れの一例を表したフローチャートである。
【図4】図2に示される連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の、過去、現在、将来の、電力、電池残存容量、電池温度を表すグラフである。
【図5】図3に示されるフローチャートの中の、電池シミュレーション(サブ)ルーチンの処理の流れの一例を表したフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 電力系統、3 ナトリウム−硫黄電池、4 双方向変換器、5 電力貯蔵補償装置、7 風力発電装置、8 連系システム、9 変圧器、10 制御システム、11 運用ガイダンス装置、12 監視装置、14 制御装置、41,42,43 電力計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム−硫黄電池の運用にかかり、ガイダンスを出力する装置であって、
ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯を入力する手段と、
ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を、継続して入力する手段と、
その継続して入力されたナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度、及び、前記ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯、に基づいて、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を、予測する手段と、
前記予測された前記最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と、予め記録された基準最少容量と、を比較して、電池残存容量が少ない場合に、容量が不足するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、
前記予測された前記最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池温度と、予め記録された基準最高温度と、を比較して、電池温度が高い場合に、温度が許容範囲上限となるため放電を停止するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、
を具備するナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置。
【請求項2】
発電装置と電力貯蔵補償装置とを組み合わせて電力系統へ電力を供給する連系システムにおいて、双方向変換器とともに前記電力貯蔵補償装置を構成し、前記発電装置の出力を補償するナトリウム−硫黄電池の運用にかかり、ガイダンスを出力する装置であって、
前記連系システムとしての計画合成出力、並びに前記発電装置の予測出力を、時間帯毎に入力する手段と、
前記計画合成出力並びに前記予測出力に基づいて、ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力を、前記時間帯毎に算出する手段と、
ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を、継続して入力する手段と、
その継続して入力されたナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度、及び、前記算出されたナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯、に基づいて、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を、予測する手段と、
前記予測された前記最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と、予め記録された基準最少容量と、を比較して、電池残存容量が少ない場合に、容量が不足するので計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、
前記予測された前記最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池温度と、予め記録された基準最高温度と、を比較して、電池温度が高い場合に、温度が許容範囲上限となるため放電を停止するので計画合成出力を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段と、
を具備する連系システムにおけるナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置。
【請求項3】
ナトリウム−硫黄電池の運用にかかりガイダンスを出力するために、コンピュータを、
ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯を入力する手段、
ナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を、継続して入力する手段、
その継続して入力されたナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度、及び、前記ナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力、並びにその運用出力が必要となる時間帯、に基づいて、その時間帯の最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量、及びナトリウム−硫黄電池の電池温度を、予測する手段、
前記予測された前記最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池残存容量と、予め記録された基準最少容量と、を比較して、電池残存容量が少ない場合に、容量が不足するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段、及び、
前記予測された前記最終時刻におけるナトリウム−硫黄電池の電池温度と、予め記録された基準最高温度と、を比較して、電池温度が高い場合に、温度が許容範囲上限となるため放電を停止するので電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを出力する手段、
として機能させるためのナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンスプログラム。
【請求項4】
請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池の運用ガイダンス装置と、
その運用ガイダンス装置が出力した電池出力制御目標値を変更すべき旨のガイダンスを入力してより低い新たな電池出力制御目標値を出力する手段、及び、運用ガイダンス装置へナトリウム−硫黄電池に必要な運用出力並びにその運用出力が必要となる時間帯を出力する手段、を具備する監視装置と、
その監視装置が出力した前記新たな電池出力制御目標値を入力してナトリウム−硫黄電池の出力を制御する手段、及び、運用ガイダンス装置へナトリウム−硫黄電池の電池残存容量並びにナトリウム−硫黄電池の電池温度を継続して出力する手段、を具備する制御装置と、
を有するナトリウム−硫黄電池の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−210586(P2008−210586A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44519(P2007−44519)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】