説明

ナトリウム溶融塩電池用電極、ナトリウム溶融塩電池および、およびナトリウム溶融塩電池の使用方法

【課題】低放電レートでの放電容量が大きいナトリウム溶融塩電池用電極、ナトリウム溶融塩電池および、およびこのナトリウム溶融塩電池の使用方法を提供する。
【解決手段】ナトリウム溶融塩電池用電極において、2種類の正極活物質を含む。第1正極活物質(NaCrO)と第2正極活物質(Na2/3Fe1/3Mn2/3)とは次の2つの関係を有する。第1の関係は、第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量が、第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量よりも大きいこと。第2の関係は、第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量が、第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量よりも大きいこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム溶融塩電池用電極、ナトリウム溶融塩電池、およびこのナトリウム溶融塩電池の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム溶融塩電池として特許文献1に記載の技術が知られている。
ナトリウム溶融塩電池は、希少金属を用いない電池であること、サイクル安定性が高いことから、再生エネルギによる発電の余剰電力を蓄えるための蓄電池、電気自動車用の蓄電池等への利用が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−067644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナトリウム溶融塩電池は、リチウムイオン電池等の電池に比べると低放電レートでの放電容量が小さい。このため、ナトリウム溶融塩電池の用途が制限される。このようなことから、放電容量を増大することが要求されている。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低放電レートでの放電容量が大きいナトリウム溶融塩電池用電極およびナトリウム溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1に記載の発明は、ナトリウムイオンを吸蔵および放出する正極活物質を含むナトリウム溶融塩電池用電極において、少なくとも2種類の前記正極活物質を含み、これら正極活物質のうちの第1正極活物質と第2正極活物質とは、前記第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量が、前記第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量よりも大きいこと、および前記第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量が、前記第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量よりも大きいことを満たす関係にあることを要旨とする。
【0007】
ナトリウム溶融塩電池の放電容量の増大のためには、例えば、集電体構造の改良、導電助剤の改良等が考えられる。しかし、これらの改良では、放電レートに関係なく放電容量を増大させることができるものの、低放電レートでの放電容量を大幅に増大させることが困難である。そこで、発明者は、電力のロードレベリング(電力平準化)等の目的で用いられる定置型蓄電池の場合は、比較的低レートで高容量が求められる場面も多いため、高放電レートでの放電容量を犠牲にし、その分、低放電レートでの放電容量を増大させることを考えた。
【0008】
すなわち、本発明では、正極を複数の正極活物質により構成する。これら正極活物質のうちの第1正極活物質と第2正極活物質とは、次の2つの関係を満たす。第1は、第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量が、第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量よりも大きいことを要件とする。第2は、第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量が、第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量よりも大きいことを要件とする。このような構成により、高放電レートでの容量低下を抑制しつつ、低放電レートでの容量を大きくすることができる。
【0009】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のナトリウム溶融塩電池用電極において、前記第1正極活物質はNaCrOであり、前記第2正極活物質はNaMn(MはNiまたはFe、0<x≦1,0<y<1,0<z<1)であることを要旨とする。
【0010】
NaCrOはNaMnよりも高放電レートでの放電容量が大きい。一方、NaMnは、NaCrOよりも低放電レートでの放電容量が大きい。このため、これらの正極活物質を用いることにより、ナトリウム溶融塩電池の低放電レートでの放電容量を大きくすることができる。
【0011】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のナトリウム溶融塩電池用電極において、前記第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の負極および前記第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の負極はともにナトリウム金属であって、前記ナトリウム溶融塩電池の高放電レートは0.5C以上のレートであり、前記ナトリウム溶融塩電池の低放電レートは0.2C以下のレートであることを要旨とする。
【0012】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウム溶融塩電池用電極を正極とするナトリウム溶融塩電池において、溶融塩は、N(SO)(SO)(R、Rはそれぞれ独立してフッ素またはフルオロアルキル基を示す)のアニオンと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属により構成される金属イオン群から選択される少なくとも1種のカチオンとを含み、かつ前記カチオンとして少なくともナトリウムイオンを含む塩であることを要旨とする。
【0013】
この種の塩を電解質とすることにより、ナトリウム溶融塩電池の動作温度を、250℃以下とすることができる。
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウム溶融塩電池用電極を正極とするナトリウム溶融塩電池の使用方法であって、これら正極活物質のうちの一種の正極活物質により正極が形成されているナトリウム溶融塩電池について、充電を停止する電圧を充電カットオフ電圧として、前記正極に含まれる前記各種正極活物質の充電カットオフ電圧のうち、最も低い電圧以下の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池の充電カットオフ電圧とすることを要旨とする。
【0014】
各種正極活物質の充電カットオフ電圧のうち最も低い電圧以下の所定の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池の充電カットオフ電圧とするため、過充電が抑制される。これにより、正極活物質の結晶構造劣化を抑制することができる。
【0015】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウム溶融塩電池用電極を正極とするナトリウム溶融塩電池の使用方法であって、これら正極活物質のうちの一種の正極活物質により正極が形成されているナトリウム溶融塩電池について、放電を停止する電圧を放電カットオフ電圧として、前記正極に含まれる前記各種正極活物質の放電カットオフ電圧のうち、最も低い電圧以上の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池の放電カットオフ電圧とすることを要旨とする。
【0016】
各種正極活物質の放電カットオフ電圧のうち最も低い電圧以上の所定の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池の放電カットオフ電圧とする。すなわち、ナトリウム溶融塩電池の動作電圧において比較的低い電圧までナトリウム溶融塩電池を放電させる。このため、低電圧で放電する正極活物質の蓄電エネルギを取り出すことができ、この分、放電容量を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低放電レートでの放電容量が大きいナトリウム溶融塩電池用電極、ナトリウム溶融塩電池および、およびこのナトリウム溶融塩電池の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係るナトリウム溶融塩電池の断面図。
【図2】各種のナトリウム溶融塩電池について、放電レートに対する放電容量の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照して、ナトリウム溶融塩電池の一例について説明する。
ナトリウム溶融塩電池1は、正極10と、負極20と、正極10および負極20との間に配置されるセパレータ30と、正極10および負極20およびセパレータ30を収容する収容ケース40とを備える。ナトリウム溶融塩電池1は、正極10に接続される正極端子11と、負極20に接続される負極端子21とを備えている。収容ケース40内は電解質としての溶融塩で満たされている。収容ケース40は、アルミニウム合金により形成されている。
【0020】
溶融塩としては、例えば、下記の(1)式で示されるアニオン(以下、「FSA」)とナトリウムカチオンとカリウムカチオンとを含む塩、すなわちNaFSAとKFSAとを含む塩(以下、NaFSA−KFSA)が用いられる。例えば、NaFSAとKFSAとの組成比はモル比で56対44とされる。
【0021】
【化1】

溶融塩として、上記NaFSA−KFSAのFSAを下記の(2)式で示されるアニオン(以下、「FSAx」)に置き換えた塩を、用いることもできる。RおよびRは、F(フッ素)およびフルオロアルキル基により構成される群から任意に選択される。フルオロアルキル基としては例えばCFが挙げられる。また、溶融塩のアニオンは、1種に限定されず、複数種により構成してもよい。
【0022】
【化2】

カチオンとしてNaおよびKが用いられているが、カチオンはこれらに限定されず、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であれば、これらをカチオンとして用いることができる。
【0023】
例えば、LiFSA、RbFSA、CsFSA、Mg(FSA)、Ca(FSA)、Sr(FSA)、Ba(FSA)の群(以下、M(FSA)z)から選択される1種または複数種と、NaFSAとを含む塩を溶融塩として用いることができる。
【0024】
また、LiFSAx、KFSAx、RbFSAx、CsFSAx、Mg(FSAx)、Ca(FSAx)、Sr(FSAx)、Ba(FSAx)の群(以下、M(FSAx)z)から選択される1種または複数種と、NaFSAxとを含む塩を、溶融塩として用いることができる。
【0025】
負極20としては、例えば、Sn−Na合金が用いられる。負極20の芯部はSnであり、表面がSn−Na合金となっている。Sn−Na合金は、Sn金属にメッキでNa金属を析出させることにより形成される。また、Sn−Zn膜も負極として使用される。Sn−Zn膜は、集電体上に、めっき法、もしくは気相法(真空蒸着法、スパッタ法)にて、Zn、Snの順で積層形成される。また、Na金属を負極20として用いることもできる。なお、正極のレート特性を評価する際にはNa金属を対極として用い、溶融塩電池を組み立てた。
【0026】
セパレータ30としては、正極10と負極20とが接触しないように両極を隔離することができ、かつ電解質を通過させるものが用いられる。例えば、厚み200μmのガラスクロスがセパレータ30として用いられている。
【0027】
[正極の構造]
正極10の構造について説明する。
正極10は、第1正極活物質と、第2正極活物質と、集電体と、正極活物質と集電体との間で電子を移動させる導電助剤と、正極活物質と導電助剤とを接着するバインダとを備えている。
【0028】
導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素粒子、またはカーボンファイバが用いられる。カーボンファイバとしては、直径が0.5nm〜70nm、長さが1.0μm〜50μm、アスペクト比が15〜10であることが好ましい。炭素系の導電助剤のほか、酸化防止膜を形成したアルミニウム粒子等の酸化防止膜付き金属粒子を用いることもできる。
【0029】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデンが用いられる。なお、導電助剤と正極活物質とを接着するものあって上記溶融塩中で腐食しないものであれば、バインダとして用いることができる。
【0030】
集電体としてアルミニウム多孔体が用いられる。アルミニウム多孔体は、ポリウレタン等の連続した気孔(連通気孔)を有する樹脂多孔体に、めっき法あるいは蒸着法によりアルミニウム層を形成した後、下地のポリウレタンを熱分解等により除去することにより形成される。気孔率が80%〜98%、気孔径が50μm〜500μmのアルミニウム多孔体を用いることが好ましい。
【0031】
アルミニウム多孔体に代えて、アルミニウム不織布を用いてもよい。例えば、平均断面径が100μmのアルミニウム細線により構成され、厚さ100μm〜1000μm、気孔率70%〜90%のアルミニウム不織布が用いられる。
【0032】
第1正極活物質および第2正極活物質としては、ナトリウムイオンを吸蔵および放出する機能を有する物質が用いられる。例えば、層状岩塩型の酸化物、スピネル構造の化合物等が用いられる。第1正極活物質および第2正極活物質の粒径は0.05μm〜1.0μmとされる。
【0033】
第1正極活物質と第2正極活物質とは次の関係を有する。
・(第1要件)第1正極活物質の放電容量は、放電レート0.5C以上(高放電レート)において第2正極活物質の放電容量よりも大きい。
・(第2要件)第2正極活物質の放電容量は、放電レート0.2C(低放電レート)以下において第1正極活物質の放電容量よりも大きい。
・ここで、第1正極活物質の放電容量とは、正極活物質として第1正極活物質だけを用いて正極を構成しかつ対極としてNa金属を用いたナトリウム溶融塩電池の放電容量を示す。第2正極活物質の放電容量とは、正極活物質として第2正極活物質だけを用いて正極を構成しかつ対極としてNa金属を用いたナトリウム溶融塩電池の放電容量を示す。
・放電レートとは、電流密度に依存する溶融塩電池の充放電の速度を示す。
・高放電レートとは、高電流密度での放電速度を示す。
・低放電レートとは、低電流密度での放電速度を示す。
・放電レートの単位「C」は、放電震度が最大深度に達するまでの放電に要する時間(単位:時間)の逆数。
【0034】
この2つの要件を満たす2つの正極活物質として、例えば、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)と鉄マンガン系酸化物との組み合わせがある。亜クロム酸ナトリウムが第1正極活物質に対応し、鉄マンガン系酸化物が第2正極活物質に対応する。
【0035】
図2に示すように、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)を正極活物質として用いて正極を構成したナトリウム溶融塩電池は、放電レート0.5C以上において、放電容量が70mAh/g以上である。一方、鉄マンガン系酸化物(Na2/3Fe1/3Mn2/3)を正極活物質として用いて正極を構成したナトリウム溶融塩電池は、放電レート0.5C以上において、放電容量が70mAh/g未満である。すなわち、亜クロム酸ナトリウムを正極とするナトリウム溶融塩電池は、鉄マンガン系酸化物を正極とするナトリウム溶融塩電池よりも、放電レート0.5C以上において放電容量が大きい。
【0036】
また、鉄マンガン系酸化物(Na2/3Fe1/3Mn2/3)を正極活物質として用いて正極を構成したナトリウム溶融塩電池は、放電レート0.2C以下において、放電容量が100mAh/g以上である。一方、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)を正極活物質として用いて正極を構成したナトリウム溶融塩電池は、放電レート0.2C以下において、放電容量が100mAh/g未満である。すなわち、鉄マンガン系酸化物を正極とするナトリウム溶融塩電池は、亜クロム酸ナトリウムを正極とするナトリウム溶融塩電池よりも、放電レート0.2C以下において放電容量が大きい。
【0037】
なお、このような傾向は、正極活物質の結晶構造(格子定数等)の相違に起因するものであるため、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)と鉄マンガン系酸化物(NaFeMn(0<x≦1,0<y<1,0<z<1))との間で一般的に成立すること考えられる。
【0038】
[正極の製造方法]
正極10の製造方法を説明する。
まず、第1正極活物質と、第2正極活物質と、導電助剤と、バインダと、溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドンとを、質量比でX:Y:10:5:50(X+Y=85)の割合で混ぜ合わせて、スラリを形成する。ここで、XとYとの比は、ナトリウム溶融塩電池1の高放電レートの目標放電容量と低放電レートの目標放電容量との比率を考慮して決定される。次に、アルミニウム多孔体にスラリを充填し、これを乾燥した後、1000kgf/cm(9.8×10Pa)にてプレスする。このようにして正極10が形成される。
【0039】
そして、正極10と負極20とセパレータ30とを重ね合わせ、この積層体を収容ケース40に入れ、さらに、収容ケース40内に溶融塩を充填する。以上のようにして、ナトリウム溶融塩電池1が製造される。
【0040】
[ナトリウム溶融塩電池の動作電圧]
本実施形態のナトリウム溶融塩電池1の動作電圧は次のように設定する。
ナトリウム溶融塩電池1の動作電圧の設定のために、まず、各種の正極活物質で正極10を形成し、各種正極10でナトリウム溶融塩電池1を作製する。そして、各ナトリウム溶融塩電池の動作電圧を測定する。すなわち、正極活物質の異なるナトリウム溶融塩電池について、充電を停止する電圧(以下、「充電カットオフ電圧」)と、放電を停止する電圧(以下、「放電カットオフ電圧」)とを測定する。
【0041】
以降、各種正極活物質について、充電カットオフ電圧と放電カットオフ電圧とを次のように定義する。
正極活物質として第1正極活物質だけを用いて正極を形成したナトリウム溶融塩電池について、第1正極活物質の特性の基づく動作電圧の充電カットオフ電圧を「第1充電カットオフ電圧」とし、放電カットオフ電圧を「第1放電カットオフ電圧」とする。正極活物質として第2正極活物質だけを用いて正極を形成したナトリウム溶融塩電池について、第2正極活物質の特性の基づく動作電圧の充電カットオフ電圧を「第2充電カットオフ電圧」とし、放電カットオフ電圧を「第2放電カットオフ電圧」とする。
【0042】
本実施形態のナトリウム溶融塩電池1の充電カットオフ電圧は、第1充電カットオフ電圧と第2充電カットオフ電圧とのうち低い方の電圧に設定される。この構成により、2種類の正極活物質のうち、充電カットオフ電圧が低い方の正極活物質に、過大な電圧が加わることが抑制される。
【0043】
ナトリウム溶融塩電池1の放電カットオフ電圧は、第1放電カットオフ電圧と第2放電カットオフ電圧とのうち低い方の電圧に設定される。これにより、低電圧での放電が持続するため、放電カットオフ電圧を第1放電カットオフ電圧と第2放電カットオフ電圧のうちの高い方の電圧に設定する場合と比較して、放電容量が大きくなる。
【0044】
なお、放電電位が、第1放電カットオフ電圧と第2放電カットオフ電圧との間にあるとき、放電カットオフ電圧が低い正極活物質で放電が行われると考えられるため、放電カットオフ電圧が高い正極活物質の過放電は生じない。このため、放電カットオフ電圧が高い正極活物質が劣化することは殆どない。
【0045】
第1正極活物質として亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)を用い、かつ第2正極活物質として鉄マンガン系酸化物(Na2/3Fe1/3Mn2/3)を用いる場合、ナトリウム溶融塩電池1の動作電圧は次のようになる。
【0046】
亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)の充電カットオフ電圧は3.5V、放電カットオフ電圧は2.0Vである。鉄マンガン系酸化物(Na2/3Fe1/3Mn2/3)の充電カットオフ電圧は4.0V、放電カットオフ電圧は2.0Vである。このことから、これら2種類の正極活物質を含む正極10を備えるナトリウム溶融塩電池1の充電カットオフ電圧は3.5V、放電カットオフ電圧は2.0Vに設定される。
【0047】
以下、ナトリウム溶融塩電池1の実施例について説明する。
(第1実施例)
[構造]
・第1実施例のナトリウム溶融塩電池1の構造は、上記実施形態と同様である。
・第1正極活物質(NaCrO)の正極単位面積当たりの充填量を2.4mg/cmとした。
・第2正極活物質(Na2/3Fe1/3Mn2/3)の正極単位面積当たりの充填量を9.6mg/cmとした。
・第1正極活物質と第2正極活物質との質量比を20:80とした。
・正極10の厚みは0.05mmとした。
【0048】
[結果]
・(測定条件)2.0V〜3.5Vの範囲で放電容量を測定。
・放電レート0.1Cにおける放電容量は111mAh/g。
・放電レート0.5Cにおける放電容量は55mAh/g。
・放電レート1.0Cにおける放電容量は39mAh/g。
【0049】
(第2実施例)
[構造]
・第2実施例のナトリウム溶融塩電池1の構造は、次の点以外は上記第1実施例と同様である。
・第1正極活物質と第2正極活物質との質量比を50:50とした。
【0050】
[結果]
・(測定条件)2.0V〜3.5Vの範囲で放電容量を測定。
・放電レート0.1Cにおける放電容量は97.5mAh/g。
・放電レート0.5Cにおける放電容量は62.5mAh/g。
・放電レート1.0Cにおける放電容量は52.5mAh/g。
【0051】
(第3実施例)
[構造]
・第3実施例のナトリウム溶融塩電池1の構造は、次の点以外は上記第1実施例と同様である。
・第1正極活物質と第2正極活物質との質量比を80:20とした。
【0052】
[結果]
・(測定条件)2.0V〜3.5Vの範囲で放電容量を測定。
・放電レート0.1Cにおける放電容量は84mAh/g。
・放電レート0.5Cにおける放電容量は70mAh/g。
・放電レート1.0Cにおける放電容量は66mAh/g。
【0053】
(第1比較例)
[構造]
・第1比較例のナトリウム溶融塩電池の構造は、次の点以外は上記第1実施例と同様である。
・正極活物質を1種類とした。
・正極活物質(NaCrO)の正極単位面積当たりの充填量を12mg/cmとした。
【0054】
[結果]
・(測定条件)2.0V〜3.5Vの範囲で放電容量を測定。
・放電レート0.1Cにおける放電容量は75mAh/g。
・放電レート0.5Cにおける放電容量は75mAh/g。
・放電レート1.0Cにおける放電容量は75mAh/g。
【0055】
(第2比較例)
[構造]
・第2比較例のナトリウム溶融塩電池の構造は、次の点以外は上記第1実施例と同様である。
・正極活物質を1種類とした。
・正極活物質(Na2/3Fe1/3Mn2/3)の正極単位面積当たりの充填量を12mg/cmとした。
【0056】
[結果]
・(測定条件)2.0V〜4.0Vの範囲で放電容量を測定。
・放電レート0.1Cにおける放電容量は140mAh/g。
・放電レート0.5Cにおける放電容量は65mAh/g。
・放電レート1.0Cにおける放電容量は35mAh/g。
【0057】
(評価)
以上の結果を表1に示す。
表1に示されるように、各実施例のナトリウム溶融塩電池1の放電容量は、低放電レート(0.1C)において、正極活物質が第1正極活物質だけで構成された正極を備えるナトリウム溶融塩電池(比較例1)の放電容量に比べて、大きい。
【0058】
また、各実施例のナトリウム溶融塩電池1の放電容量は、高放電レート(1.0C)においては、正極活物質が第2正極活物質だけで構成された正極を備えるナトリウム溶融塩電池(比較例2)の放電容量に比べて、大きい。
【0059】
【表1】

以上に示すように、各実施例のナトリウム溶融塩電池1は、比較例1のナトリウム溶融塩電池1に比べて低放電レートでの放電容量が大きく、かつ比較例2のナトリウム溶融塩電池1に比べて高放電レートでの放電容量が大きい。
【0060】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば以下の効果が得られる。
(1)本実施形態では、正極10を複数の正極活物質により構成する。そして、次の関係を満たす第1正極活物質と第2正極活物質とを用いる。すなわち、第1正極活物質と第2正極活物質とは、第1正極活物質の高放電レートでの放電容量が、第2正極活物質の高放電レートでの放電容量よりも大きい関係にあり、かつ第2正極活物質の低放電レートでの放電容量が、第1正極活物質の低放電レートでの放電容量よりも大きい関係にある。このような構成により、ナトリウム溶融塩電池1の低放電レートでの放電容量を大きくすることができる。
【0061】
(2)本実施形態では、第1正極活物質としてNaCrOを用い、第2正極活物質としてNa2/3Fe1/3Mn2/3を用いている。NaCrOはNa2/3Fe1/3Mn2/3よりも高放電レートでの放電容量が大きい。Na2/3Fe1/3Mn2/3は、NaCrOよりも低放電レートでの放電容量が大きい。このため、これらの正極活物質を用いることにより、ナトリウム溶融塩電池1の低放電レートでの放電容量を大きくすることができる。
【0062】
(3)本実施形態のナトリウム溶融塩電池1では、電解質として、NaFSAとKFSAがモル比で56対44とされている塩を用いている。このような塩を電解質とすることにより、ナトリウム溶融塩電池1の動作温度を、100℃以下とすることができる。
【0063】
(4)本実施形態のナトリウム溶融塩電池1では、その使用において、第1正極活物質の第1充電カットオフ電圧と第2正極活物質の第2充電カットオフ電圧のうち低い方の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池1の動作電圧の充電カットオフ電圧とする。これにより、充電カットオフ電圧の低い第1正極活物質(NaCrO)の結晶劣化を抑制することができる。
【0064】
(5)本実施形態のナトリウム溶融塩電池1は、第1正極活物質の放電カットオフ電圧と第2正極活物質の第2放電カットオフ電圧とが等しい。このため、その使用において、この電圧を当該放電カットオフ電圧とする。なお、第1正極活物質の放電カットオフ電圧と第2正極活物質の放電カットオフ電圧のうち低い方の電圧以上の所定の電圧を、当該ナトリウム溶融塩電池1の放電カットオフ電圧とするができる。このような構成によれば、低電圧で放電する正極活物質の蓄電エネルギを取り出すことができる。
【0065】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施形態にて示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。
【0066】
・上記実施形態では、2種類の正極活物質を用いて正極10を構成しているが、3種類以上の正極活物質を用いてもよい。この場合、これら正極活物質のうち少なくとも2種類の正極活物質について第1要件と第2要件とを満たすようにする。
【0067】
・上記実施形態では、第2正極活物質としてNa2/3Fe1/3Mn2/3を用いているが、NaFeMn(0<x≦1,0<y<1,0<z<1)として示される化合物であれば、これに代えて用いることができる。すなわち、FeMn系の層状岩塩型化合物と、NaCrOとは上記第1要件および第2要件を満たすため、上記(1)と同様の効果を得ることができる。
【0068】
・上記実施形態では、ナトリウム溶融塩電池の使用において、ナトリウム溶融塩電池1の動作電圧を2.0V〜3.5Vとしているが、放電カットオフ電圧(2.0V)をより高い値にしてもよい。また、充電カットオフ電圧(3.5V)をより低い値に設定してもよい。
【0069】
・上記実施形態では、第2正極活物質としてFeMn系の層状岩塩型化合物を用いているが、NiMn系の層状岩塩型化合物NaNiMn(0<x≦1,0<y<1,0<z<1)を用いることもできる。
【符号の説明】
【0070】
1…ナトリウム溶融塩電池、10…正極(ナトリウム溶融塩電池用電極)、11…正極端子、20…負極、21…負極端子、30…セパレータ、40…収容ケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオンを吸蔵および放出する正極活物質を含むナトリウム溶融塩電池用電極において、
少なくとも2種類の前記正極活物質を含み、
これら正極活物質のうちの第1正極活物質と第2正極活物質とは、
前記第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量が、前記第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の高放電レートの放電容量よりも大きいこと、および
前記第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量が、前記第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の低放電レートの放電容量よりも大きいこと、を満たす関係にある
ことを特徴とするナトリウム溶融塩電池用電極。
【請求項2】
請求項1に記載のナトリウム溶融塩電池用電極において、
前記第1正極活物質はNaCrOであり、
前記第2正極活物質はNaMn(MはNiまたはFe、0<x≦1,0<y<1,0<z<1)である
ことを特徴とするナトリウム溶融塩電池用電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナトリウム溶融塩電池用電極において、
前記第1正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の負極および前記第2正極活物質により正極が形成されたナトリウム溶融塩電池の負極はともにナトリウム金属であって、
前記ナトリウム溶融塩電池の高放電レートは0.5C以上のレートであり、
前記ナトリウム溶融塩電池の低放電レートは0.2C以下のレートである
ことを特徴とするナトリウム溶融塩電池用電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウム溶融塩電池用電極を正極とするナトリウム溶融塩電池において、
溶融塩は、N(SO)(SO)(R、Rはそれぞれ独立してフッ素またはフルオロアルキル基を示す)のアニオンと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属により構成される金属イオン群から選択される少なくとも1種のカチオンとを含み、かつ前記カチオンとして少なくともナトリウムイオンを含む塩である
ことを特徴とするナトリウム溶融塩電池。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウム溶融塩電池用電極を正極とするナトリウム溶融塩電池の使用方法であって、
これら正極活物質のうちの一種の正極活物質により正極が形成されているナトリウム溶融塩電池について、充電を停止する電圧を充電カットオフ電圧として、
前記正極に含まれる前記各種正極活物質の充電カットオフ電圧のうち、最も低い電圧以下の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池の充電カットオフ電圧とする
ことを特徴とするナトリウム溶融塩電池の使用方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のナトリウム溶融塩電池用電極を正極とするナトリウム溶融塩電池の使用方法であって、
これら正極活物質のうちの一種の正極活物質により正極が形成されているナトリウム溶融塩電池について、放電を停止する電圧を放電カットオフ電圧として、
前記正極に含まれる前記各種正極活物質の放電カットオフ電圧のうち、最も低い電圧以上の電圧を当該ナトリウム溶融塩電池の放電カットオフ電圧とする
ことを特徴とするナトリウム溶融塩電池の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−89506(P2013−89506A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230013(P2011−230013)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】