ナトリウム/カルシウム交換体(NCX)「リバースモード」調節化合物を検出するための蛍光ベースのアッセイ
トランスポーターは、科学的及び経済的な機会を提供する、非常に大きな可能性を有する、新たな標的ファミリーである。ナトリウム/カルシウム交換体は、種々の細胞からCa2+を除去するための重要な機構である。心臓において、それは、Ca2+チャネルを通って入っていたCa2+を排出して、収縮を開始させ、この間にNa+が心臓細胞に入る。ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム排出活性(フォワードモード)だけでなく、カルシウム取り込み活性(リバースモード)も調節する化合物を同定することが、非常に興味深い。本発明は、NCX「リバースモード」調節化合物を検出するための蛍光ベースのアッセイに関する。それは、さらに、NCXをエクスプライムする細胞を含むパーツのキット、及びNCXのアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするためのパーツのキットの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体(NCX)及びそれらの活性を測定するための方法に関する。より詳しくは、本発明は、NCX「リバースモード」調節化合物を検出するための蛍光ベースのアッセイに関する。それは、さらに、NCXをエクスプライムする(expriming)細胞を含むパーツのキット、及びパーツのキットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生命についての基本的な要件は区画化であり、生体膜はこの原則を実現するための自然のツールである。しかし、脂質二重層−細胞膜の基礎となる構造−は、輸送が細胞及び生物において生活機能を維持するために必須である、大抵のイオン及び化合物に対して不透過性である。このパラドックスに対する答えは、細胞膜の半透過性にあり、膜を通過しなければならない溶質は、特定の膜タンパク質によって輸送される。これらの輸送体は、イオン勾配の発生及び維持、栄養素の取り込み、代謝産物の輸送、シグナル伝達分子の再取り込み、並びに毒性化合物及び老廃化合物の処分を担っている。従って、輸送体は、この文脈において、疾患に関連する異常に対して直接的な影響を与える、可能性のある薬物標的である。
【0003】
輸送体は、科学的及び経済的な機会を提供する、非常に大きな可能性を有する、新たな標的ファミリーである。他方では、輸送体は、創薬技術の点で困難な標的クラスである。
【0004】
ナトリウム/カルシウム交換体ヒト遺伝子ファミリー(NCX又はSLC8としても公知)は、3つの別個のタンパク質、NCX1、NCX2及びNCX3を包含する。SLC8は、SLC24と共に、Na+/Ca2+カウンタートランスポーターのスーパーファミリーを構成する。SLC24ファミリーメンバーはまたK+を輸送し、それらはNCKXとしても公知である。
【0005】
NCX1は、ナトリウム/カルシウム交換体ヒト遺伝子ファミリーの最も高度にキャラクタライズされたメンバーであり、その発現は、ヒトの心不全においてアップレギュレートされ、心筋梗塞後の虚血−再灌流損傷に関与する。NCX1の阻害は、心不全において心筋収縮性を正常化し、虚血後再灌流の間、心臓保護的に作用する(非特許文献1、2)。NCX2は脳において、NCX3は脳及び骨格筋において主に発現され、それらの生理学的役割は、分かりにくいままである。
【0006】
ナトリウム/カルシウム交換体は、膜電位及びイオン勾配に応じて、2つの方向にCa2+及びNa+を輸送することができる。「フォワードモード」又は「カルシウム排出モード」と名付けられた、第1の方向では、Ca2+は細胞の外へ輸送され、Na+は細胞内へ輸送される。「リバースモード」又は「カルシウム取り入れモード」と名付けられた、もう一方の方向では、輸送方向が逆である。
【0007】
ナトリウム/カルシウム交換体は、種々の細胞からCa2+を除去するための重要な機構である。心臓において、それは、Ca2+チャネルを通って入っていたCa2+を追い出し、収縮が開始され、一方、Na+は心臓細胞に入る。心臓血管疾患におけるその関連性は、例えば、非特許文献3において説明されている。従って、製薬産業は、例えば、非特許文献4に記載されているように、NCXを阻害する化合物を開発した。心臓のナトリウム/カルシウム交換体の阻害は、心臓保護について重要である(例えば、非特許文献5)。NCXの「フォワードモード」を阻害する化合物と「リバースモード」を阻害する化合物とを識別する(discrimate)医学的必要性が存在する。従って、カルシウム取り入れモードを分析するアッセイが必要である。さらに、NCX1を阻害する化合物は、NCX2及びNCX3が同一の輸送体ファミリーに属するために、選択的であるべきである。従って、選択性プロファイリングを行うこと可能にするアッセイが必要である。
【0008】
例えば、カルシウム流を遮断すること及び/又はNCXの活性化を阻害することによって、ナトリウム/カルシウム交換体活性を調節する化合物を同定することが、非常に興味深い。それを行うための1つの標準法は、パッチクランプ実験の使用による。これらの実験において、細胞は、膜電位の変化及び/又はテスト化合物の適用に応答して細胞膜を流れるカルシウム電流を測定することによって、非常に熟練したオペレーターにより、個々に順々に評価されなければならない。イヌ心室乳頭筋における活動電位に対する、NCXの新しい特異的な阻害剤である、Sea0400の効果が、研究及び開示された(非特許文献6、7)。
【0009】
ジャイアントパッチ中のイオン流束を定量するためにイオン選択的電極技術を使用して、心臓のNa+/Ca2+交換体が多数の輸送モードを有することが示された(非特許文献8)。
【0010】
これらの実験は、有効かつ有益であるが、非常に時間がかかり、カルシウムイオンチャネル活性を調節する化合物についてのハイスループットアッセイへ適合可能でない。
【0011】
種々の技術が、電気生理学の標準法の代替法として開発されてきた。例えば、放射性流束アッセイが使用され、ここで、細胞は放射性トレーサー(例えば、45Ca)に曝露され、放射標識Caの流束がモニタリングされる。トレーサーがロードされた細胞が、化合物へ曝露され、トレーサーの流出を増強又は減少させる化合物が、細胞膜中のイオンチャネルの可能性のある活性化剤又は阻害剤として同定される。具体例は、非特許文献9に含まれている。特許文献1は、筋細胞膜小胞体(sarcolemmal vesicle)を使用してNa+/Ca2+交換体活性を測定する方法を開示しており、45Ca放射能を測定することによって、筋細胞膜小胞体中のCa2+取り込みの濃度を決定している。
【0012】
多くの放射性イオン輸送体アッセイは、感度が限られており、従って、データの質が不十分である。さらに、放射能スクリーニング技術に関連する費用及び安全性の問題は、広範囲の適用を妨げるハードルである。
【0013】
上述の創薬技術の中で、イオンチャネル及びイオン輸送体の活性を調節する化合物を同定するための放射性流束アッセイの使用は、細胞からのCa2+の流束をモニタリングすることによって、可能性のある活性化剤又は阻害剤としてテスト化合物が同定され得る技術であるので、本発明に最も近い先行技術である。放射性アッセイについての主な問題は、1秒当り約1〜1000分子−大抵のイオンチャネルよりも104倍少ない−のイオン輸送体の限られたターンオーバーを検出することにおける困難性に基づく。
【0014】
従って、最先端技術から生じる課題は、化合物の「フォワードモード」及び「リバースモード」調節活性を識別することを可能にし、同定されたモジュレータを、NCX1、NCX2及びNCX3それぞれに対するそれらの選択性に関してプロファイリングすることを可能にする、非常に良好な感度を有するナトリウム/カルシウム交換体モジュレータのハイスループットスクリーニング及びプロファイリングのためのロバストなアッセイを同定することであった。本発明は、この課題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】EP1031556
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Flesch et al., Circulation 1996
【非特許文献2】Komuro and Ohtsuka, Journal of Pharmacological. Sciences. 2004
【非特許文献3】Hobai, JA & O'Rourke,B (2004) Expert Opin. Investig. Drugs, 13, 653-664
【非特許文献4】Iwamoto, T. et al. (2004) J. Biol. Chem., 279, 7544-7553
【非特許文献5】Pogwizd, 2003
【非特許文献6】K. Acsai, “ESC Congress 2004”in Munich, Poster Nr. 2886, 表題: Effect of a specific sodium-calcium exchanger blocker Sea0400 on the ventricular action potential and triggered activity in dog ventricular muscle and Purkinje fiber
【非特許文献7】C. Lee et al., The journal of pharmacology and experimental therapeutics; Vol. 311: 748-757, 2004; 表題: Inhibitory profile of SEA0400 [2-[4-[(2,5-Difluorophenyl)methoxy]phenoxy]-5-ethoxyaniline] assessed on the cardiac Na+/Ca2+ exchanger, NCX1.1
【非特許文献8】Tong Mook Kang & Donald W. Hilgemann; Nature; Vol. 427, 5 February 2004; 表題: Multiple transport modes of the cardiac Na+/Ca2+ exchanger
【非特許文献9】T. Kuramochi et al.; Bioorganic & Medicinal Chemistry; 12 (2004) 5039-5056; 表題: Synthesis and structure-activity relationships of phenoxypyridine derivates as novel inhibitors of the sodium-calcium exchanger
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの主題は、ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイに関し、ここで:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備え;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備え;
c)細胞をナトリウム/カルシウム交換体活性化剤と接触させ;そして
d)該着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する。
【0018】
本発明の別の主題は、化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイに関し、ここで:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備え;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備え;
c)細胞を化合物と接触させ、ここで、該細胞は、該化合物で処理する前に、ナトリウム/カルシウム交換体活性化剤で処理される;そして
d)該着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する。
【0019】
一般的に、使用されるナトリウム/カルシウム交換体は、哺乳類起源のものであり、特に、ヒト起源のものである。ナトリウム/カルシウム交換体は、以下のナトリウム/カルシウム交換体タンパク質:NCX1、NCX2、NCX3、NCX4、NCX5、NCX6及び/又はNCX7、特に、NCX1、NCX2及び/又はNCX3の1つから;及び/又は以下のナトリウム/カルシウム/カリウム交換体タンパク質:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4及び/又はNCKX5の1つから選択される。
【0020】
一般的に、本発明のアッセイにおいて使用される細胞は、任意の真核生物から誘導され得る。好ましい実施態様において、細胞は哺乳類細胞である。より好ましい実施態様において、細胞は、CHO(CCL-61)、HEK(CCL-1573)、COS7(CRL-1651)及び/又はJURKAT(CRL-1990)細胞である。
【0021】
好ましい実施態様において、前記着色物質は、細胞に入り、色素に加水分解され得る色素前駆体として、細胞に添加され、それによって、色素が、該細胞中においてカルシウムと複合体化し、発光シグナルを与える。さらに、前記色素前駆体は、好ましくは、アセトキシメチルエステル誘導体であり得、前記色素は、好ましくは、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4であり得る。より好ましい実施形態において、前記発光シグナルは蛍光であり、前記工程c)をモニターすることはFLIPR装置を使用する。
【0022】
本発明は、さらに、ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための前述のアッセイの使用に関する。別の好ましい実施形態において、本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患の診断のための前述のアッセイの使用に関する。
【0023】
本発明は、さらに、
a)ナトリウム/カルシウム交換体をエクスプライムする(expriming)凍結乾燥細胞;
b)着色物質;
c)化合物緩衝液;及び
d)着色物質緩衝液、
を含むパーツのキットに関する。
【0024】
本発明のパーツのキットの好ましい実施態様において、前記着色物質は、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である。別の好ましい実施態様において、使用されるナトリウム/カルシウム交換体は、哺乳類起源のものであり、特に、ヒト起源のものである。ナトリウム/カルシウム交換体は、以下のナトリウム/カルシウム交換体タンパク質:NCX1、NCX2、NCX3、NCX4、NCX5、NCX6及び/又はNCX7、特に、NCX1、NCX2及び/又はNCX3の1つから;及び/又は以下のナトリウム/カルシウム/カリウム交換体タンパク質:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4及び/又はNCKX5の1つから選択される。
【0025】
本発明は、さらに、ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための前述のパーツのキットの使用に関する。別の好ましい実施態様において、本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患の診断のための前述のパーツのキットの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1a】配列番号1によって示されるNCX1のアミノ酸配列を示す図である。
【図1b】配列番号2によって示されるNCX2のアミノ酸配列を示す図である。
【図1c】配列番号3によって示されるNCX3のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】2mM Ca2+の添加後のCHO-K1細胞のピーク電流(n=3)を示す図である。
【図3】2mM Ca2+の添加及び5mMニッケルの適用後のCHO-K1細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図4】(a)2mM Ca2+の添加後のCHO-NCX1細胞のピーク電流(n=3);(b)2mM Ca2+の添加後のCHO-NCX2細胞のピーク電流(n=6);(c)2mM Ca2+の添加後のCHO-NCX3細胞のピーク電流(n=6)をそれぞれ示す図である。
【図5a】2mM Ca2+の添加、5mMニッケルの適用及びウォッシュアウト後のCHO-NCX1細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図5b】2mM Ca2+の添加、5mMニッケルの適用及びウォッシュアウト後のCHO-NCX2細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図5c】2mM Ca2+の添加、5mMニッケルの適用及びウォッシュアウト後のCHO-NCX3細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図6】(a)NCX1のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のグラミシジン(―0μM、・・・10μM、- - -15μM、・・- 20μM及び― ―25μM)の効果を示すグラフである。NCX1阻害剤A000135933の添加の効果が、20μM グラミシジン(・- ・-)で示される;(b)NCX1阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、NCX1のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のグラミシジン(10μM、15μM、20μM及び25μM)の効果。z’因子は▼として示される。
【図7】(a)NCX1阻害剤A000135933のIC50(■)に対する種々の濃度のグラミシジン(10μM、15μM、20μM及び25μM)の効果;(b)NCX阻害剤A000135933有り(■)及びグラミシジン刺激無し(□)の、CHO-NCX1細胞のFluo4蛍光に対する種々の濃度のエチルアルコールの効果をそれぞれ示すグラフである。
【図8】NCX1阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、NCX1のCa2+取り入れ活性に対する、種々の温度で溶解及び保存された20μMグラミシジンの効果を示すグラフである。
【図9】(a)種々のピペット高さでの、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼);(b)種々の混合サイクル数での、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼)を示すグラフである。
【図10】(a)化合物インキュベーション(30分)中の種々の温度での、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼);(b)16℃で、種々の化合物インキュベーション時間での、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼)を示すグラフである。
【図11】(a)20μMグラミシジンの添加(インキュベーション:22℃、30分)後のNCX1のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のA000135933(・・・・30μM、- - -15μM、・・-・・-7.5μM、― ―3.75μM、・-・-・-1.88μM、- - -0.94μM、―0.5μM)の効果;(b)A000135933の用量反応関係をそれぞれ示すグラフである。IC50値は0.97μMである。
【図12】(a)蛍光ベースの細胞Ca2+くみ出し(「フォワード」)及びCa2+取り入れ(「リバース」)アッセイでテストした18個の化合物のIC50の相関;(b)蛍光ベースの細胞Ca2+取り入れアッセイ(「リバース」)及び電気生理学的なSURFE2R技術でテストした11個の化合物の10μMでの%阻害の相関をそれぞれ示すグラフである。
【図13】(a)NCX1(・・-・・-)と比較しての、無し(―)及び20μMグラミシジン有り(- - -)でのNCX2のCa2+取り入れ活性を示すグラフである。NCX2活性に対するNCX阻害剤A000135933の添加の効果が、20μMグラミシジン(・・・・・)で示される;(b)NCX1阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、第5日でのNCX2のCa2+取り入れ活性に対する20μMグラミシジンの効果を示すグラフである。z’因子は▼として示される。
【図14】グラミシジン刺激無しでのCHO-NCX2細胞のFluo4蛍光に対する種々の濃度のエチルアルコールの効果(■)を示すグラフである。
【図15】(a)20μMグラミシジンの添加(インキュベーション:22℃、45分)後の、NCX2のCa2+取り入れ活性に対する、種々の濃度のA000135933(― ―30μM、− − −15μM、- - -7.5μM、・・・・3.75μM、・-・-・-1.88μM、・・-・・-0.94μM、――0.5μM及び―0μM)の効果;(b)A000135933の用量反応関係をそれぞれ示すグラフである。この実施例のIC50値は1.4μMである。
【図16】NCX2及びNCX1に対する125個の化合物のIC50の比較を示すグラフである。化合物を蛍光ベースの細胞Ca2+取り入れアッセイ(「リバース」)でテストした。濃い灰色の線(―)は、等しい効力の線を示し、薄い灰色の破線(- - -)は、特定のサブタイプに対する効力の2倍スプリットを示す。
【図17】(a)NCX1(―)及びNCX2(・・・・)と比較しての、無し(・・-・・-)及び20μMグラミシジン有り(- - -)でのNCX3のCa2+取り入れ活性を示すグラフである。NCX3活性に対するNCX阻害剤A000135933の添加の効果が、20μMグラミシジン(― ―)で示される;(b)NCX阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、5日でのNCX3のCa2+取り入れ活性に対する20μMグラミシジンの効果を示すグラフである。z’因子は▼として示される。
【図18】グラミシジン刺激無しでのCHO-NCX3細胞のFluo4蛍光に対する種々の濃度のエチルアルコールの効果(■)を示すグラフである。
【図19】(a)20μMグラミシジンの添加(インキュベーション:22℃、45分)後の、NCX3のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のA000135933(・・・・・30μM、・-・-・-15μM、- - -7.5μM、・・-・・-3.75μM、- - -1.88μM、・・・・・0.94μM、――0.5μM及び―0μM)の効果;(b)A000135933の用量反応関係をそれぞれ示すグラフである。この実施例についてのIC50値は1.76μMである。
【図20】(a)NCX3及びNCX1に対する125個の化合物のIC50の比較を示すグラフである。化合物を蛍光ベースの細胞Ca2+取り入れアッセイ(「リバース」)でテストした。濃い灰色の線(―)は、等しい効力の線を示し、薄い灰色の破線(- - -)は、特定のサブタイプに対する効力の2倍スプリットを示す;(b)NCX3及びNCX2に対する125個の化合物のIC50の比較を示すグラフである。化合物を蛍光ベースの細胞Ca2+取り込みアッセイ(「リバース」)でテストした。濃い灰色の線(―)は、等しい効力の線を示し、薄い灰色の破線(- - -)は、特定のサブタイプに対する効力の2倍スプリットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
用語「アッセイ」は、系又は物の特性を測定する手順を指す。アッセイは、生物学的アッセイについて一般的に使用される省略用語であり、インビトロ実験の一種である。アッセイは、典型的に、生きている生物に対する物質の効果を測定するために行われる。アッセイは定性的又は定量的であり得、それらは新薬の開発に必須である。
【0028】
本発明のアッセイは広いダイナミックレンジを提供し、その結果、NCXタンパク質の活性を測定することができる。特に、本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体と特異的に相互作用しナトリウム/カルシウム交換体の活性を調節する薬学的に有効な化合物をスクリーニング及びプロファイリングするための迅速で効果的なアッセイを利用可能にする。
【0029】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体」又は「NCX」は、本発明の文脈において、単独の又は互いに組み合わせた、以下のNa+/Ca2+交換体タンパク質のリストのいずれか一つ:NCX1、NCX2、NCX3、NCX4、NCX5、NCX6、NCX7;又は以下のNa+/Ca2+交換体タンパク質のリストのいずれか一つ:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5を意味する。
特に好ましいのは、アミノ酸配列が、それぞれ、配列番号1、配列番号2及び配列番号3に対応する、SLC8ファミリーメンバーNCX1、NCX2及び/又はNCX3である。
【0030】
このようなナトリウム/カルシウム交換体は、任意の脊椎動物、特に哺乳動物種(例えば、イヌ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、イヌ、ウサギ、ニワトリ、類人猿、ヒトなど)から誘導され得る。ナトリウム/カルシウム交換体は、このような脊椎動物生物の組織プローブから単離され得るか、又はナトリウム/カルシウム交換体を発現し得る組換え生物学的材料によって製造され得る。
【0031】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体タンパク質」は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3に含まれるアミノ酸配列に対して、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、若しくは500又はそれ以上のアミノ酸の領域にわたって、約80%より大きなアミノ酸配列同一性、85%、90%、好ましくは、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%又はそれより大きなアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド、多型変異体、突然変異体、及び種間ホモログを指す。
【0032】
用語「生物学的材料」は、遺伝情報を含み、それ自体を複製することができるか、又は生物系中において複製され得る、任意の材料を意味する。組換え生物学的材料は、当業者に周知の組換え技術によって生産されたか、変えられているか、又は修飾された任意の生物学的材料である。
【0033】
以下の参考文献は、特定のNCXタンパク質のクローニングの例である:イヌのNa+/Ca2+交換体NCX1は、Nicoll, DA.ら(Science. 250(4980): 562-5, 1990;表題:Molecular cloning and functional expression of the cardiac sarcolemmal Na(+)-Ca2+ exchanger.)によってクローニングされた。ヒトのNa+/Ca2+交換体NCX1は、Komuro, I.ら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89 (10), 4769- 4773, 1992;表題:Molecular cloning and characterization of the human cardiac Na+/Ca2+ exchanger cDNA)及びKofuji, P.ら(Am. J. Physiol. 263 (Cell Physiol. 32): C1241-C1249, 1992;表題:Expression of the Na-Ca exchanger in diverse tissues: a study using the cloned human cardiac Na-Ca exchanger)によってクローニングされた。ヒトのNa+/Ca2+交換体NCX2は、Li, Z.ら(J. Biol. Chem. 269(26): 17434-9, 1994;表題:Cloning of the NCX2 isoform of the plasma membrane Na(+)-Ca2+ exchanger)によってクローニングされた。ラットのNa+/Ca2+交換体NCX3は、Nicoll, DA.ら(J. Biol. Chem. 271(40): 24914-21. 1996;表題:Cloning of a third mammalian Na+/Ca2+ exchanger, NCX3)によってクローニングされた。ヒトのNa+/Ca2+交換体NCX3は、Gabellini, N.ら(Gene. 298: 1-7, 2002;表題:The human SLC8A3 gene and the tissue-specific Na+/Ca2+ exchanger 3 isoforms)によってクローニングされた。
【0034】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において交換可能に使用される。前記用語は、1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が対応の天然アミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0035】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性」は、ナトリウム/カルシウム交換体の「リバースモード」、即ち、Ca2+を細胞内へ、Na+を細胞外へ輸送する機構を指す。この「リバースモード」輸送は、特定の形質膜脱分極条件及び高い細胞質ゾルNa+濃度下で生じる。ナトリウム/カルシウム交換体の活性は、カルシウムと複合体化している好適な着色物質から生じる増強されたルミネセンスを測定することによって決定される。
【0036】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞」は、関心対象の交換体を内因的に発現する細胞又は組換え細胞を指す。
【0037】
用語「組換え」は、例えば、細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターを参照して使用される場合、細胞、核酸、タンパク質、又はベクターが、異種核酸若しくはタンパク質の導入又は野生型核酸若しくはタンパク質の変化により修飾されていること、又は細胞がそのように修飾された細胞から誘導されることを意味する。従って、例えば、組換え細胞は、細胞の野生型(非組換え)形態内で見出されない遺伝子を発現するか、又はさもなければ異常に発現されるか、過小発現されるか、又は全く発現されない野生型遺伝子を発現する。本発明において、これは、典型的には、ナトリウム/カルシウム交換体をコードする核酸配列でトランスフェクトされている細胞を指す。
【0038】
アッセイは、好適な培養培地を有する好適な容器中で細胞を増殖させることによって、簡単に行なわれる。細胞がアッセイの間維持され得、培養培地中で望ましいように増殖し得さえすれば、細胞は、天然の細胞、野生型細胞、樹立細胞株、市販される細胞、遺伝子操作された細胞などであり得る。
【0039】
本発明のアッセイを得るための好適な細胞としては、原核生物、酵母、又は高等真核細胞、特に哺乳類細胞が挙げられる。原核生物としては、グラム陰性生物及びグラム陽性生物が挙げられる。細胞は、通常、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、チャイニーズハムスター細胞などのような哺乳類細胞である。便利であることが見出されている細胞としては、CHO、COS7、JURKAT、HeLa、HEK、MDCK及びHEK293細胞が挙げられる。細胞は、周知の方法(Current protocols in cell biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471241059)で作製されてもよく、又は購入されてもよい(Invitrogen Corp.、Sigma-Aldrich Corp.、Stratagene)。
【0040】
用語「着色物質」は、特に、カルシウム感受性蛍光色素を指す。色素前駆体は、アッセイの条件下では発光性でないこと、細胞に入ることができ、発光性のオキシ化合物へ細胞内で加水分解されるエステルであること、及びカルシウムと複合体化すると増強されたルミネセンスを提供することを特徴とする。細胞内加水分解酵素による加水分解を受けやすいエステルが選択される。
【0041】
用語「細胞に入ることができる」は、前駆体が細胞膜を通過し、細胞中で加水分解され得ることを意味し、色素前駆体は、pH、温度などの特定の条件下で細胞に入るか、異なる速度で細胞に入るか、又は特定の条件下で細胞に入らない。
【0042】
着色物質は、周知のプロトコルを使用して細胞に添加される(Current protocols in cell biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471241059)。着色物質の使用が通常であり、市販の試薬(Invitrogen Corp.)並びに研究室で合成された試薬が使用され得る。上記の要件を満たす多数の市販の色素が公知である。Ca2+をモニタリングするための蛍光色素は周知であり、Molecular Probesカタログ第9版のセクション20.1〜20.4に詳細に記載されている。これらは、通常、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、アミノフェニルインドールなどのような蛍光核へ結合された2つのビス−カルボキシメチルアミノ基を有する。化合物は、大部分、3,6−ジオキシ置換キサンテンであり、ここで、前駆体においてはオキシ基が置換されており、発光色素においてそれらが非置換である。通常、フェノール及び酸を保護するアセトキシメチル基が存在する。例えば、Fluo3/4、Fura2/3、カルセイングリーンなどを参照のこと。アセチル基の加水分解は、発光生成物を生じさせる。前駆体は細胞膜を通過し得、細胞中で加水分解され得る。
【0043】
用語「ルミネセンス」は、常温及び低温で起こり得る、他のエネルギー源からの光である、「冷光」を指す。ルミネセンスにおいて、あるエネルギー源は、その「基底」(最も低いエネルギー)状態から「励起」(より高いエネルギー)状態に原子の電子を上げ;次いで、電子は光の形態でエネルギーを返し、従って、それはその「基底」状態へ戻ることができる。エネルギー源であるもの、又はルミネセンスについてのトリガーであるものに従って各々命名された、数種類のルミネセンスが存在する。
【0044】
用語「蛍光」は、光子の分子吸収がより長い波長を有する別の光子の放出を誘発する、冷体(cold body)における光学現象として主として見出されるルミネセンスを指す。吸収される光子と放出される光子との間のエネルギー差は、最後には分子振動又は熱になる。通常、吸収される光子は紫外線領域内にあり、放射光は可視領域内にあるが、これは吸光度曲線及び特定のフルオロフォアのストークスシフトに依存する。蛍光は、しばしばこの現象を示すフッ化カルシウムから構成される鉱物の蛍石にちなんで名付けられている。
【0045】
インジケーター色素からの蛍光は、ルミノメーター又は蛍光イメージャーで測定され得る。1つの好ましい検出装置は、蛍光測定画像解析用プレートリーダー(Fluorometric Imaging Plate Reader)(FLIPR)(Molecular Devices, Sunnyvale, Calif.)である。FLIPRは、本発明の方法を使用するハイスループットスクリーニングに十分に適しており、何故ならば、それは、96又は384ウェルのマイクロタイタープレートへ同時にピペッティングし得る統合液体ハンドリングと、電荷結合素子イメージングカメラに接続されたアルゴンレーザーを使用する高速動的検出とを組み込んでいるためである。
【0046】
カルシウムインジケーター色素の使用の代替法は、エクオリン系の使用である。エクオリン系は、タンパク質アポエクオリンを使用し、これは、親油性発色団セレンテラジンへ結合し、エクオリンとして公知であるアポエクオリンとセレンテラジンとの組み合わせが形成される。アポエクオリンは3つのカルシウム結合部位を有しており、カルシウム結合すると、エクオリンのアポエクオリン部分はその立体配座を変化させる。立体配座におけるこの変化が、セレンテラジンをセレンテラミド、CO2、及び青色光(466nm)の光子へ酸化させる。この光子が適切な計測装置で検出され得る。
【0047】
エクオリンの使用の概説については、Creton et al., 1999, Microscopy Research and
Technique 46:390-397;Brini et al., 1995, J. Biol. Chem. 270:9896-9903;Knight & Knight, 1995, Meth. Cell. Biol. 49:201-216を参照のこと。アポエクオリンを発現する哺乳類細胞へセレンテラジン補因子を添加することによって哺乳類細胞における細胞内カルシウムを測定する方法を記載する米国特許第5,714,666号もまた興味深い場合がある。
【0048】
「阻害剤」は、例えば結合して、活性を部分的に又は完全に遮断する、低減する、妨げる、活性化を遅延させる、不活化する、感受性を低下させる、又はナトリウム/カルシウム交換体タンパク質の活性又は発現をダウンレギュレートする化合物、例えばアンタゴニストである。「活性化剤」は、ナトリウム/カルシウム交換体活性を、増大する、開始する、活性化する、促進する、活性化を増強する、感受性を高める、アゴナイズする、又はアップレギュレートする化合物である。本発明における好ましい活性化剤は、グラミシジンであり、これは、細胞内ナトリウム濃度の上昇を誘発し、従って、「リバース」輸送モードのナトリウム/カルシウム交換体活性の増加をもたらす。
【0049】
阻害剤、活性化剤、又はモジュレータはまた、ナトリウム/カルシウム交換体タンパク質の遺伝子操作されたバージョン、例えば、変化した活性を有するバージョン、並びに天然及び合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、ペプチド、環状ペプチド、核酸、抗体、アンチセンス分子、リボザイム、有機低分子などを含む。
【0050】
用語「化合物」又は「テスト化合物」又は「テスト候補物」又はそれらの文法的等価物は、ナトリウム/カルシウム交換体活性を調節する能力についてテストされる、天然又は合成の任意の分子、例えばタンパク質、オリゴペプチド、有機低分子、多糖、脂質、脂肪酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドなどを表わす(Current protocols in molecular biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471250961)。テスト化合物は、テスト化合物のライブラリー、例えば十分な範囲の多様性を提供するコンビナトリアルライブラリー又はランダム化ライブラリーの形態であり得る(Current protocols in molecular biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471250937)。テスト化合物は、融合パートナー、例えば、ターゲッティング化合物、レスキュー化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス可能な化合物(addressable compound)、及び他の機能的部分へ場合により連結される。従来通り、ある所望の特性又は活性を有する、例えば活性を増強する、テスト化合物(「リード化合物」と呼ばれる)を同定し、リード化合物の変形体を作製し、そしてそれら変形体化合物の特性及び活性を評価することによって、有用な特性を有する新規の化学的エンティティーを作製する。好ましくは、ハイスループットスクリーニング(HTS)法がこのような分析のため利用される。
【0051】
前記阻害剤、活性化剤及びテスト化合物は、細胞が増殖した後に培養培地へ注入することによって細胞へ添加してもよく、又はそれらは、細胞増殖の前に培地中に存在してもよい(Current protocols in cell biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471241059)。
【0052】
細胞は、阻害剤、活性化剤及び/又はテスト化合物上で好適な数まで増殖させてもよく、又はそれらは、その上に配置され、さらに増殖させずに使用されてもよい。細胞は、阻害剤、活性化剤及び/又はテスト化合物へ接着させてもよく、又は細胞をウェル中に配置又は増殖させる実施態様においては、細胞はウェル中の流体に懸濁されている懸濁細胞であってもよい。
【0053】
用語「対照実験」は、一緒に行うべき異なる種類の実験を指す。当業者は、本明細書中に記載される方法と一緒にコントロールを行うことは一般的に有益であることを認識する。
【0054】
例えば、ナトリウム/カルシウム交換体の活性を測定するためのアッセイについてコントロールを有することは通常有益であり、ここで、細胞は、これらの細胞が関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を発現しないことを除いて、アッセイにおいて使用される細胞と好ましくは本質的に同一である。
【0055】
さらに、化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体の活性を測定するためのアッセイについてコントロールを有することは通常有益であり、ここで、これらの細胞が関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を発現しないことを除いて、アッセイにおいて使用される細胞と好ましくは本質的に同一である細胞に対して、化合物が本発明のアッセイにおいてテストされる。このようにして、アッセイによって同定される化合物が、ある予期外の非特異的な機構を通してではなく、関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を通してそれらの効果を実際に発揮していると決定することができる。このようなコントロール細胞についての1つの可能性は、非組換え型親細胞を使用することであり、ここで、実際の実験細胞は、関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を発現する。
【0056】
化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体の活性を測定するためのアッセイについての他のコントロールは、テスト化合物を添加することなくアッセイを行うこと(低コントロール)、及び高濃度のテスト化合物を用いてアッセイを行うこと(高コントロール)である。
【0057】
他の種類のコントロールは、本発明のアッセイにより同定される化合物を関心対象のナトリウム/カルシウム交換体のアゴニスト又はアンタゴニストとして採用し、先行技術の方法でテストした場合にもこれらの化合物がアゴニスト又はアンタゴニストであることを確認するために、先行技術の方法でこれらの化合物を試験することを含む。さらに、当業者は、アッセイ値と標準値と比較することによって、統計分析を行うこともまた望ましいということを理解する。
【0058】
用語「アゴニスト」及び「アンタゴニスト」は、受容体を介してシグナル伝達を調節する受容体エフェクター分子を指す。受容体エフェクター分子は、必ずしも天然のリガンドの結合部位においてではないが、受容体に結合することができる。受容体エフェクターは、単独で使用される場合にシグナル伝達を調節し得、即ち、代理リガンドとなり得、又は、天然のリガンドの存在下でシグナル伝達を変化させ、天然のリガンドによるシグナル伝達を増強又は阻害し得る。例えば、「アンタゴニスト」は、受容体のシグナル伝達活性化を遮断するか又は低減させる分子であり、例えば、それらは、受容体からのシグナル伝達を競合的に、非競合的に、及び/又はアロステリックに阻害し得、一方、「アゴニスト」は、受容体のシグナル伝達活性を強化、誘導、又はそうでなければ増強する。
【0059】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患」は、拡張型心筋症、冠状動脈性心疾患、不整脈、心不全などを指す。
【0060】
便利性のために、着色物質及びアッセイの他の成分は、キット中に提供され得、ここで着色物質は再構成可能な粉末として、又は氷上の冷却溶液として緩衝液中に存在し得る。キットはまた、緩衝液、活性化剤、阻害剤、テスト化合物、ナトリウム/カルシウム交換体タンパク質をエクスプライムする細胞などを含み得る。細胞は凍結乾燥細胞として存在し得る。前記パーツのキットは、拡張型心筋症、冠状動脈性心疾患、不整脈、心不全などを診断するための診断キットとして使用され得る。
【0061】
蛍光ベースの細胞のナトリウム/カルシウム交換体アッセイの典型的な結果を記載する、以下の図及び実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、それは保護範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0062】
実施例
1.材料及び方法
1.1.化学物質及び装置
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
1.2.細胞株
ヒトNCX1、NCX2及びNCX3をそれぞれ安定発現する組換えCHO-K1細胞株は、Steinbeis-Transferzentrum fur Angewandte Biologische Chemie, Mannheimによって配送された。細胞を、標準条件(37℃、5%CO2が補われた空気)下で連続培養に維持した。CHO-K1 NCX1、CHO-K1 NCX2及びCHO-K1 NCX3細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)及び450μg/ml G418を補充した、グルタミンを加えたHAM'S-F12培地中に維持した。細胞を、トリプシン溶液を使用しての分離後3〜4日毎に継代し、150.000細胞/mlの濃度で再び播種した。
【0066】
1.3.電気生理学的な細胞株キャラクタリゼーション
電気生理学的なキャラクタリゼーションを、Iongate Biosciences GmbH, Frankfurtにて行った。
氷冷したPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)又はトリプシンを電気生理学実験の少なくとも18時間前に適用することによって、培養細胞を分離し、カバースリップ上に再び平板培養した。以下の組成を有する、2つの浴溶液及びピペット溶液を、パッチクランプ実験のために調製した:
浴(外部)溶液「低カルシウム」:
135mM NMG、5mM MgCl2、2mM CaCl2、4mM EGTA、30mM HEPES, pH 7.4
(HCl→pH 7.0、次いでCsOH→pH 7.4)
浴(外部)溶液「高カルシウム」:
139mM NMG、5mM MgCl2、2mM CaCl2、30mM HEPES, pH 7.4
(HCl→pH 7.0、次いでCsOH→pH 7.4)
ピペット(内部)溶液:
100mM NaCl、5mM KCl、2mM CaCl2、2mM MgCl2、2.1mM EGTA、35mM TEA-Cl、4mM Mg-ATP、0.5mM Na-GTP、5.63mMホスホクレアチン、30mM HEPES、3.5 U/ml クレアチンホスホキナーゼ(70ml ピペット溶液+3500 U 濾過クレアチンホスホキナーゼ, ad 100mlピペット溶液), pH 7.4 (NaOH)
【0067】
NCX電流を阻害するために、5mM塩化ニッケルを浴溶液「高カルシウム」に溶解した。全細胞コンフィギュレーションにおいてパッチクランプ技術を使用して、NCX活性を測定した。細胞を0mVの保持電位に室温(20〜25℃)でクランプした。4秒間、2mM外部カルシウム(浴溶液「高カルシウム」)の適用によって、NCX電流を誘発した(=コントロール)。カルシウム適用を20秒毎に繰り返した。5回の刺激後、ニッケルによる阻害を、5mMニッケルの存在下でのカルシウムによる活性化を除いては同一のプロトコルを使用して、テストした(5連で)。最後に、5カルシウムパルスを、ウォッシュアウト研究のために再び適用した。NCX電流をキャラクタライズするために、ピーク電流、輸送電荷、及びシグナル減衰の時定数を調べ、報告に従って分析した。全てのデータを平均値±SEMとして示す。
【0068】
1.4.アッセイ試薬
【表3】
【0069】
1.5.最終アッセイ手順
1.5.1.細胞プレートの調製
実験の1日前に、細胞をトリプシンで分離し、96ウェルマイクロプレート中35,000細胞/100μl培地/ウェルの密度で平板培養し、37℃、5%CO2及び90%湿度で約22時間インキュベートした。
【0070】
1.5.2.化合物プレートの調製
最終濃度の1.5×の濃度で、化合物をアッセイ緩衝液中調製した。化合物溶液をプレインキュベートし、16℃で保存した。IC50測定のために、45μMの出発濃度(最終:30μM)での希釈系列を、Biomek2000で調製した。
【0071】
1.5.3.グラミシジンプレートの調製
1mMグラミシジンストック溶液を、溶媒として冷エタノール(4℃)を使用して毎日調製した。ストック溶液から出発し、アッセイ緩衝液を使用して、60μMグラミシジンアッセイ溶液を調製した。96ウェルポリプロピレンプレートに、150μl/ウェルのグラミシジンアッセイ溶液を充填し、4℃で保存した。添加プレートは、再充填が必要とされる前に2回使用できただけであり、何故ならば、グラミシジン溶液はRTで活性を非常に速く失うためである。
【0072】
1.5.4.アッセイ手順
1.培地を細胞プレートから除去した
2.100μl/ウェルの色素ローディング緩衝液を添加した
3.細胞をRTで90分間インキュベートした
4.100μlアッセイ緩衝液/ウェルで3回洗浄し、緩衝液を後で完全に捨てた
5.Biomek FXを使用して、80μlのテスト化合物を種々の濃度(1.5×濃縮)で添加した
6.CO2インキュベーター中16℃及び5%CO2で45分間、細胞をインキュベートした
7.細胞プレートをFLIPRに移し、測定の間、40μlのグラミシジンアッセイ溶液(最終濃度:20μMグラミシジン)を添加することによって記録した。
10μMのNCX阻害剤A000135933を高コントロールとして、緩衝液を低コントロールとして使用した。
【0073】
1.5.5.FLIPR設定パラメータ
【表4】
【0074】
1.6.データ分析
以下の計算は、FLIPRソフトウエアの統計エクスポート関数を使用して得られたデータに基づいた:統計1=マックス-ミニ(サンプル1−240)。必要に応じて、計算はエッジ効果について修正した。初期結果としてのNCXの阻害は、グラミシジン添加後の蛍光増加の阻害を指し、統計値1から誘導した。高コントロールは、10μM A000135933でのNCX活性の阻害を指し、低コントロールは、緩衝液のみの添加後にNCX阻害が無いことを指す。
従って、%阻害を、コントロールを参照して計算した(0%阻害=低コントロール、100%阻害=高コントロール)。結果は、以下の式を用いて、補正済みの生データ及びプレート内コントロールから計算した:
【数1】
【0075】
2.結果
2.1.電気生理学的な細胞株キャラクタリゼーション
2.1.1.親細胞株
電気生理学データをIongate GmbHから得た。CHO-K1細胞を使用し、安定なCHO-NCX1、CHO-NCX2及びCHO-NCX3細胞株を樹立した。高細胞内Na+濃度下で細胞外Ca2+を適用した場合、親細胞は有意な電流応答(0.12±0.07 pA/pF、図2)を示さなかった。記載した条件下で、ニッケルの使用によって、人工産物(artifact)は生じなかった。典型的な電流を図3に示す。
【0076】
2.1.2.CHO-NCX細胞株
CHO-NCX1細胞は、4秒後、非活性化がほとんど伴うことなく、Ca2+適用後に外向きの定常電流を示した。相対的なピーク電流は1.40±0.18 pA/pFであった(n=3、図4a)。電流は、5mMニッケルの適用によって、完全にかつ可逆的に遮断できた(91.3±3.3%)。
【0077】
CHO-NCX2細胞は、リバースモード条件下で、外向き電流を示した。相対的なピーク電流は2.95±0.70 pA/pFであった(n=6、図4b)。電流は、1.26±0.11秒の時定数で減衰し、5mMニッケルの適用によって完全にかつ可逆的に遮断できた(ウォッシュアウト:100.2±1.9%)。
【0078】
CHO-NCX3細胞は、リバースモード条件下で外向き電流を示し、0.80±0.08秒の時定数で減衰した。相対的なピーク電流は3.46±1.11 pA/pFであった(n=4、図4c)。電流は、5mMニッケルの適用によって完全にかつ可逆的に遮断できた(ウォッシュアウト:111.5±2.4%)。典型的な電流を図5に示す。
【0079】
2.2.アッセイパラメータ
2.2.1.NCX1アッセイ
「リバース」モードを分析するHTSベースのNCX1アッセイは、文献において公知ではなかった。グラミシジンの適用は、組み合わせたパッチクランプ及び蛍光測定から公知である。全てのパラメータを最適化しなければならなかった。同時に実行しての、「フォワード」及び「リバース」モードアッセイの間の柔軟性のために、緩衝液条件(例えば、Ca2+濃度、pH)及び1ウェル当たりの細胞数が、「フォワード」モードアッセイから適合され、非常に良好な結果を示した。
【0080】
第1の実験において、NCX1のCa2+取り入れ活性に対するグラミシジン濃度及び貯蔵の影響を調べた(図6a、b)。
20μMのグラミシジン濃度が、S/B及びz’因子に関してのCa2+取り入れ活性について最良の結果を示した。より低い濃度は、遅い動態に起因して十分でなく、より高い濃度は、細胞の副作用を引き起こした(図6a、b)。ツール化合物A000135933のIC50(さらにまた図11a、b)は、種々のグラミシジン濃度によって影響されなかった(図7a)。グラミシジンをエチルアルコールに溶解し、溶媒の影響をキャラクタライズしなければならなかった。2%までのエチルアルコールは、アッセイのバックグラウンド蛍光に対して影響を示さず、一方、濃度を増加させることによって、蛍光が僅かに増加した(図7b)。
【0081】
グラミシジンは高温で分解されるため、グラミシジン溶液の調製及び貯蔵は、重要な工程であった。以下の実験において、グラミシジンを、種々の温度で、溶解し、保存した。グラミシジン溶液は、4℃で調製し、保存しなければならず、さもなければ、グラミシジンは、非常に速く分解された(図8)。
【0082】
ピペット高さ、予浸及び混合に関する種々のFLIPR設定を、S/B及びz’因子を向上させるために確認した(図9a、b)。最良のz’因子は、2回の混合サイクルを伴う70μlのピペット高さで達成された。上述のパラメータを使用して、2つの温度(16及び22℃)を、化合物インキュベーションについて確認した(図10a)。最良の結果は16℃で得られ、S/B、z’及びIC50(A000135933)結果に関して最良のインキュベーション時間は、45分であった(図10b)。
【0083】
「リバース」モードアッセイの重要な要件の1つは、化合物の感度である。NCX1プロジェクトについてのツール化合物は、「フォワード」モードアッセイでのスクリーニングから誘導されたイミノチアゾールであるA000135933である。該化合物は、パッチクランプ実験で1.44μM及び「フォワード」アッセイで5.9μMのIC50を有する。該化合物は、「フォワード」アッセイにおいて標準コントロールとして使用されている。効果を調べるために、「リバース」アッセイにおいて種々のグラミシジン濃度下A000135933をテストした。20μMグラミシジンでの活性化後のNCX1活性に対する典型的な阻害効果及び計算された用量反応関係を、図11a及びbに示す。
【0084】
NCX1細胞株は、2ヶ月間、標準物質(A000135933)のS/B及びIC50に関して安定であった。NCX1のCa2+取り入れ活性に対するツール化合物A000135933の効果を図11aに示しており、IC50は約1μMであった(図11b)。z’値は0.7〜0.8であった。このアッセイ(「リバース」)を蛍光ベースの細胞Ca2+くみ出しモードアッセイ(「フォワード」)と及びSURFE2R(Iongate Biosciences, Frankfurt)と呼ばれる電気生理学技術と比較するために、18個の化合物のIC50又は11個の化合物の10μMでの阻害をそれぞれテストした(図12a、b)。
【0085】
「リバース」アッセイは、「フォワード」アッセイよりも一般的に3〜5倍高感度であり(図12a、黒色ドット)、データは、0.86のr2と相関する。いくつかの化合物は、阻害の有意な増加を示さなかった(図8a、赤色ドット)。他の化合物は、遥かにより高い効力でNCX1を阻害し(図8a、青色ドット)、このことは、恐らく、輸送モード特異的効果を示している。「リバース」アッセイ由来の10μMでの化合物のパーセント阻害は、SURFE2R値(図12b)よりも高く(20%まで)、しかし、SURFE2R技術との相関は、0.83のr2で、良好であった。
【0086】
2.2.2.NCX2アッセイ
「フォワード」又は「リバース」モードを分析するNCX2アッセイは、文献において公知ではなかった。「フォワードモード」アッセイの確立は、アッセイのロバスト性及び感度の制限に起因して成功しなかった。明確性のために、この報告ではデータは示していない。「リバースモード」アッセイは、グラミシジンの適用に基づいた。グラミシジンは、アルカリ透過性孔を形成する。グラミシジン誘導Ca2+流入は、間接的であり、NCX依存性である。グラミシジン添加後のNCX1の活性化は、一次ニューロンに対する放射性イオン流束又は蛍光測定から公知である(Kiedrowski et al., Journal of Neurochemistryl, 2004)。同時に実行しての、種々のサブタイプのNCXアッセイ間の比較性のために、緩衝液条件(例えば、Ca2+濃度、pH)、細胞数、インキュベーション時間、及びグラミシジン濃度を、「リバース」モードNCX1アッセイからNCX2アッセイについて適合させた。
【0087】
第1の実験において、緩衝液条件、インキュベーション時間、グラミシジン濃度及び貯蔵を、NCX2のCa2+取り入れ活性に対して確認した(図13a、b)。蛍光増加の動態は、NCX1と比較してNCX2について僅かにより遅かった。測定時間は、10分に延長しなければならなかった。緩衝系、細胞数、インキュベーション時間、グラミシジン濃度(20μM)及び貯蔵は、非常に良好な結果を示した。これらのパラメータを、さらに最適化する必要はなかった。グラミシジンをエチルアルコールに溶解し、溶媒の影響をキャラクタライズしなければならなかった。3%までのエチルアルコールは、アッセイのバックグラウンド蛍光に対して影響を示さなかった(図14)。
【0088】
「リバース」モードアッセイの重要な要件の1つは、化合物に対する感度であったが、NCX2に関するツール化合物について入手可能な電気生理学的なデータはなかった。NCX1プロジェクトについての主なツール化合物は、NCX1スクリーニングから誘導されたイミノチアゾールであるA000135933であった。該化合物は、パッチクランプ実験で1.44μM及び「リバース」アッセイで1.8μMのNCX1に対するIC50を有した。NCX2活性に対する20μMグラミシジンでの活性化後のA000135933の効果を調べた(図16a)。計算された用量反応関係を図15bに示す。
【0089】
NCX2細胞株は、2ヶ月間、標準物質(A000135933)のS/B及びIC50に関して安定であった。NCX2のCa2+取り入れ活性に対するツール化合物A000135933の効果を図15aに示しており、IC50(1.25±0.19μM、n=26、例 図15b)は、NCX1(1.78±1.03μM、n=55)に対してよりもNCX2に対して僅かに低く、このことは、該化合物がNCX2についてより強力であることを示している。z’値は0.75〜0.85であった。NCX1プロジェクトからの125個の化合物を、NCX2「リバースモード」アッセイでテストし、NCX1データと比較した。結果を図16に要約する。
【0090】
NCX1活性に対する効果を有するほぼ全ての化合物はまた、NCX2を阻害した(図16)。多くの化合物が、NCX1よりも2倍を超えるより高い効力でNCX2を阻害した。4つの化合物のみが、NCX1について2倍を超える選択性を示した。これらのデータは、NCX1選択的化合物を得る可能性があることを示している。
【0091】
2.2.3.NCX3アッセイ
NCX3アッセイは、文献において公知ではなかった。「フォワードモード」アッセイの確立は、アッセイのロバスト性及び感度の制限に起因して成功しなかった。明確性のために、この報告ではデータを示していない。「リバースモード」アッセイは、グラミシジンの適用に基づいた。グラミシジンは、アルカリ透過性孔を形成する。グラミシジン誘導Ca2+流入は、間接的であり、NCX依存性である。グラミシジン添加後のNCX1の活性化は、一次ニューロンに対する放射性イオン流束又は蛍光測定から公知である(Kiedrowski et al., Journal of Neurochemistry, 2004)。同時に実行しての、種々のサブタイプのNCXアッセイ間の比較性のために、緩衝液条件(例えば、Ca2+濃度、pH)、細胞数、インキュベーション時間、及びグラミシジン濃度を、「リバース」モードNCX1アッセイからNCX3アッセイについて適合させた。
【0092】
第1の実験において、緩衝液条件、細胞数、インキュベーション時間、グラミシジン濃度及び貯蔵を、NCX3のCa2+取り入れ活性に対して確認した(図18a、b)。蛍光増加の動態は、NCX1及びNCX2と比較してより速かった。緩衝系、細胞数、インキュベーション時間、グラミシジン濃度(20μM)及び貯蔵は、非常に良好な結果を示した。これらのパラメータを、さらに最適化する必要はなかった。グラミシジンをエチルアルコールに溶解し、溶媒の影響をキャラクタライズしなければならなかった。2%までのエチルアルコールは、アッセイのバックグラウンド蛍光に対して影響を示さず(図19)、2%を超えることによって、バックグラウンド蛍光が僅かに増加した。
【0093】
「リバース」モードアッセイの重要な要件の1つは、化合物に対する感度であったが、NCX3に関するツール化合物について入手可能な電気生理学的なデータはなかった。NCX1プロジェクトについての主なツール化合物は、NCX1スクリーニングから誘導されたイミノチアゾールであるA000135933であった。該化合物は、パッチクランプ実験で1.44μM及び「リバース」アッセイで1.8μMのNCX1に対するIC50を有した。NCX2活性に対するIC50は、「リバース」アッセイにおいて1.25μMであった。
NCX3活性に対する、20μMグラミシジンでの活性化後のA000135933の効果を調べ(図21a)、計算された用量反応関係を図19bに示す。
【0094】
NCX3細胞株は、2ヶ月間、標準物質(A000135933)のS/B及びIC50に関して安定であった。NCX3のCa2+取り入れ活性に対するツール化合物A000135933の効果を図19aに示しており、IC50は、1.63±0.30μMであった(n=23、例 図19b)。これらのデータは、ツール化合物が特定のサブタイプについて特異的でないことを示している(IC50 NCX1:1.78±1.03;IC50 NCX2:1.25±0.19)。z’値は0.70〜0.85であった。NCX1プロジェクトからの125個の化合物を、NCX3「リバースモード」アッセイでテストし、NCX1及びNCX2データと比較した。結果を図20a及び20bに要約する。
【0095】
NCX1活性に対する効果を有するほぼ全ての化合物はまた、NCX3を阻害した(図20a)。多くの化合物が、NCX1よりも2倍を超えるより高い効力でNCX3を阻害した。6つの化合物は、NCX1について2倍を超える選択性を示した。NCX2と比較して、9つの化合物がNCX2に対してより強力であり、2つの物質がNCX3に対してより強力であった(図20b)。これらのデータは、NCXサブタイプ選択的化合物を得る可能性があることを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体(NCX)及びそれらの活性を測定するための方法に関する。より詳しくは、本発明は、NCX「リバースモード」調節化合物を検出するための蛍光ベースのアッセイに関する。それは、さらに、NCXをエクスプライムする(expriming)細胞を含むパーツのキット、及びパーツのキットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生命についての基本的な要件は区画化であり、生体膜はこの原則を実現するための自然のツールである。しかし、脂質二重層−細胞膜の基礎となる構造−は、輸送が細胞及び生物において生活機能を維持するために必須である、大抵のイオン及び化合物に対して不透過性である。このパラドックスに対する答えは、細胞膜の半透過性にあり、膜を通過しなければならない溶質は、特定の膜タンパク質によって輸送される。これらの輸送体は、イオン勾配の発生及び維持、栄養素の取り込み、代謝産物の輸送、シグナル伝達分子の再取り込み、並びに毒性化合物及び老廃化合物の処分を担っている。従って、輸送体は、この文脈において、疾患に関連する異常に対して直接的な影響を与える、可能性のある薬物標的である。
【0003】
輸送体は、科学的及び経済的な機会を提供する、非常に大きな可能性を有する、新たな標的ファミリーである。他方では、輸送体は、創薬技術の点で困難な標的クラスである。
【0004】
ナトリウム/カルシウム交換体ヒト遺伝子ファミリー(NCX又はSLC8としても公知)は、3つの別個のタンパク質、NCX1、NCX2及びNCX3を包含する。SLC8は、SLC24と共に、Na+/Ca2+カウンタートランスポーターのスーパーファミリーを構成する。SLC24ファミリーメンバーはまたK+を輸送し、それらはNCKXとしても公知である。
【0005】
NCX1は、ナトリウム/カルシウム交換体ヒト遺伝子ファミリーの最も高度にキャラクタライズされたメンバーであり、その発現は、ヒトの心不全においてアップレギュレートされ、心筋梗塞後の虚血−再灌流損傷に関与する。NCX1の阻害は、心不全において心筋収縮性を正常化し、虚血後再灌流の間、心臓保護的に作用する(非特許文献1、2)。NCX2は脳において、NCX3は脳及び骨格筋において主に発現され、それらの生理学的役割は、分かりにくいままである。
【0006】
ナトリウム/カルシウム交換体は、膜電位及びイオン勾配に応じて、2つの方向にCa2+及びNa+を輸送することができる。「フォワードモード」又は「カルシウム排出モード」と名付けられた、第1の方向では、Ca2+は細胞の外へ輸送され、Na+は細胞内へ輸送される。「リバースモード」又は「カルシウム取り入れモード」と名付けられた、もう一方の方向では、輸送方向が逆である。
【0007】
ナトリウム/カルシウム交換体は、種々の細胞からCa2+を除去するための重要な機構である。心臓において、それは、Ca2+チャネルを通って入っていたCa2+を追い出し、収縮が開始され、一方、Na+は心臓細胞に入る。心臓血管疾患におけるその関連性は、例えば、非特許文献3において説明されている。従って、製薬産業は、例えば、非特許文献4に記載されているように、NCXを阻害する化合物を開発した。心臓のナトリウム/カルシウム交換体の阻害は、心臓保護について重要である(例えば、非特許文献5)。NCXの「フォワードモード」を阻害する化合物と「リバースモード」を阻害する化合物とを識別する(discrimate)医学的必要性が存在する。従って、カルシウム取り入れモードを分析するアッセイが必要である。さらに、NCX1を阻害する化合物は、NCX2及びNCX3が同一の輸送体ファミリーに属するために、選択的であるべきである。従って、選択性プロファイリングを行うこと可能にするアッセイが必要である。
【0008】
例えば、カルシウム流を遮断すること及び/又はNCXの活性化を阻害することによって、ナトリウム/カルシウム交換体活性を調節する化合物を同定することが、非常に興味深い。それを行うための1つの標準法は、パッチクランプ実験の使用による。これらの実験において、細胞は、膜電位の変化及び/又はテスト化合物の適用に応答して細胞膜を流れるカルシウム電流を測定することによって、非常に熟練したオペレーターにより、個々に順々に評価されなければならない。イヌ心室乳頭筋における活動電位に対する、NCXの新しい特異的な阻害剤である、Sea0400の効果が、研究及び開示された(非特許文献6、7)。
【0009】
ジャイアントパッチ中のイオン流束を定量するためにイオン選択的電極技術を使用して、心臓のNa+/Ca2+交換体が多数の輸送モードを有することが示された(非特許文献8)。
【0010】
これらの実験は、有効かつ有益であるが、非常に時間がかかり、カルシウムイオンチャネル活性を調節する化合物についてのハイスループットアッセイへ適合可能でない。
【0011】
種々の技術が、電気生理学の標準法の代替法として開発されてきた。例えば、放射性流束アッセイが使用され、ここで、細胞は放射性トレーサー(例えば、45Ca)に曝露され、放射標識Caの流束がモニタリングされる。トレーサーがロードされた細胞が、化合物へ曝露され、トレーサーの流出を増強又は減少させる化合物が、細胞膜中のイオンチャネルの可能性のある活性化剤又は阻害剤として同定される。具体例は、非特許文献9に含まれている。特許文献1は、筋細胞膜小胞体(sarcolemmal vesicle)を使用してNa+/Ca2+交換体活性を測定する方法を開示しており、45Ca放射能を測定することによって、筋細胞膜小胞体中のCa2+取り込みの濃度を決定している。
【0012】
多くの放射性イオン輸送体アッセイは、感度が限られており、従って、データの質が不十分である。さらに、放射能スクリーニング技術に関連する費用及び安全性の問題は、広範囲の適用を妨げるハードルである。
【0013】
上述の創薬技術の中で、イオンチャネル及びイオン輸送体の活性を調節する化合物を同定するための放射性流束アッセイの使用は、細胞からのCa2+の流束をモニタリングすることによって、可能性のある活性化剤又は阻害剤としてテスト化合物が同定され得る技術であるので、本発明に最も近い先行技術である。放射性アッセイについての主な問題は、1秒当り約1〜1000分子−大抵のイオンチャネルよりも104倍少ない−のイオン輸送体の限られたターンオーバーを検出することにおける困難性に基づく。
【0014】
従って、最先端技術から生じる課題は、化合物の「フォワードモード」及び「リバースモード」調節活性を識別することを可能にし、同定されたモジュレータを、NCX1、NCX2及びNCX3それぞれに対するそれらの選択性に関してプロファイリングすることを可能にする、非常に良好な感度を有するナトリウム/カルシウム交換体モジュレータのハイスループットスクリーニング及びプロファイリングのためのロバストなアッセイを同定することであった。本発明は、この課題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】EP1031556
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Flesch et al., Circulation 1996
【非特許文献2】Komuro and Ohtsuka, Journal of Pharmacological. Sciences. 2004
【非特許文献3】Hobai, JA & O'Rourke,B (2004) Expert Opin. Investig. Drugs, 13, 653-664
【非特許文献4】Iwamoto, T. et al. (2004) J. Biol. Chem., 279, 7544-7553
【非特許文献5】Pogwizd, 2003
【非特許文献6】K. Acsai, “ESC Congress 2004”in Munich, Poster Nr. 2886, 表題: Effect of a specific sodium-calcium exchanger blocker Sea0400 on the ventricular action potential and triggered activity in dog ventricular muscle and Purkinje fiber
【非特許文献7】C. Lee et al., The journal of pharmacology and experimental therapeutics; Vol. 311: 748-757, 2004; 表題: Inhibitory profile of SEA0400 [2-[4-[(2,5-Difluorophenyl)methoxy]phenoxy]-5-ethoxyaniline] assessed on the cardiac Na+/Ca2+ exchanger, NCX1.1
【非特許文献8】Tong Mook Kang & Donald W. Hilgemann; Nature; Vol. 427, 5 February 2004; 表題: Multiple transport modes of the cardiac Na+/Ca2+ exchanger
【非特許文献9】T. Kuramochi et al.; Bioorganic & Medicinal Chemistry; 12 (2004) 5039-5056; 表題: Synthesis and structure-activity relationships of phenoxypyridine derivates as novel inhibitors of the sodium-calcium exchanger
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの主題は、ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイに関し、ここで:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備え;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備え;
c)細胞をナトリウム/カルシウム交換体活性化剤と接触させ;そして
d)該着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する。
【0018】
本発明の別の主題は、化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイに関し、ここで:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備え;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備え;
c)細胞を化合物と接触させ、ここで、該細胞は、該化合物で処理する前に、ナトリウム/カルシウム交換体活性化剤で処理される;そして
d)該着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する。
【0019】
一般的に、使用されるナトリウム/カルシウム交換体は、哺乳類起源のものであり、特に、ヒト起源のものである。ナトリウム/カルシウム交換体は、以下のナトリウム/カルシウム交換体タンパク質:NCX1、NCX2、NCX3、NCX4、NCX5、NCX6及び/又はNCX7、特に、NCX1、NCX2及び/又はNCX3の1つから;及び/又は以下のナトリウム/カルシウム/カリウム交換体タンパク質:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4及び/又はNCKX5の1つから選択される。
【0020】
一般的に、本発明のアッセイにおいて使用される細胞は、任意の真核生物から誘導され得る。好ましい実施態様において、細胞は哺乳類細胞である。より好ましい実施態様において、細胞は、CHO(CCL-61)、HEK(CCL-1573)、COS7(CRL-1651)及び/又はJURKAT(CRL-1990)細胞である。
【0021】
好ましい実施態様において、前記着色物質は、細胞に入り、色素に加水分解され得る色素前駆体として、細胞に添加され、それによって、色素が、該細胞中においてカルシウムと複合体化し、発光シグナルを与える。さらに、前記色素前駆体は、好ましくは、アセトキシメチルエステル誘導体であり得、前記色素は、好ましくは、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4であり得る。より好ましい実施形態において、前記発光シグナルは蛍光であり、前記工程c)をモニターすることはFLIPR装置を使用する。
【0022】
本発明は、さらに、ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための前述のアッセイの使用に関する。別の好ましい実施形態において、本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患の診断のための前述のアッセイの使用に関する。
【0023】
本発明は、さらに、
a)ナトリウム/カルシウム交換体をエクスプライムする(expriming)凍結乾燥細胞;
b)着色物質;
c)化合物緩衝液;及び
d)着色物質緩衝液、
を含むパーツのキットに関する。
【0024】
本発明のパーツのキットの好ましい実施態様において、前記着色物質は、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である。別の好ましい実施態様において、使用されるナトリウム/カルシウム交換体は、哺乳類起源のものであり、特に、ヒト起源のものである。ナトリウム/カルシウム交換体は、以下のナトリウム/カルシウム交換体タンパク質:NCX1、NCX2、NCX3、NCX4、NCX5、NCX6及び/又はNCX7、特に、NCX1、NCX2及び/又はNCX3の1つから;及び/又は以下のナトリウム/カルシウム/カリウム交換体タンパク質:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4及び/又はNCKX5の1つから選択される。
【0025】
本発明は、さらに、ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための前述のパーツのキットの使用に関する。別の好ましい実施態様において、本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患の診断のための前述のパーツのキットの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1a】配列番号1によって示されるNCX1のアミノ酸配列を示す図である。
【図1b】配列番号2によって示されるNCX2のアミノ酸配列を示す図である。
【図1c】配列番号3によって示されるNCX3のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】2mM Ca2+の添加後のCHO-K1細胞のピーク電流(n=3)を示す図である。
【図3】2mM Ca2+の添加及び5mMニッケルの適用後のCHO-K1細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図4】(a)2mM Ca2+の添加後のCHO-NCX1細胞のピーク電流(n=3);(b)2mM Ca2+の添加後のCHO-NCX2細胞のピーク電流(n=6);(c)2mM Ca2+の添加後のCHO-NCX3細胞のピーク電流(n=6)をそれぞれ示す図である。
【図5a】2mM Ca2+の添加、5mMニッケルの適用及びウォッシュアウト後のCHO-NCX1細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図5b】2mM Ca2+の添加、5mMニッケルの適用及びウォッシュアウト後のCHO-NCX2細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図5c】2mM Ca2+の添加、5mMニッケルの適用及びウォッシュアウト後のCHO-NCX3細胞の典型的な電流を示すグラフである。
【図6】(a)NCX1のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のグラミシジン(―0μM、・・・10μM、- - -15μM、・・- 20μM及び― ―25μM)の効果を示すグラフである。NCX1阻害剤A000135933の添加の効果が、20μM グラミシジン(・- ・-)で示される;(b)NCX1阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、NCX1のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のグラミシジン(10μM、15μM、20μM及び25μM)の効果。z’因子は▼として示される。
【図7】(a)NCX1阻害剤A000135933のIC50(■)に対する種々の濃度のグラミシジン(10μM、15μM、20μM及び25μM)の効果;(b)NCX阻害剤A000135933有り(■)及びグラミシジン刺激無し(□)の、CHO-NCX1細胞のFluo4蛍光に対する種々の濃度のエチルアルコールの効果をそれぞれ示すグラフである。
【図8】NCX1阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、NCX1のCa2+取り入れ活性に対する、種々の温度で溶解及び保存された20μMグラミシジンの効果を示すグラフである。
【図9】(a)種々のピペット高さでの、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼);(b)種々の混合サイクル数での、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼)を示すグラフである。
【図10】(a)化合物インキュベーション(30分)中の種々の温度での、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼);(b)16℃で、種々の化合物インキュベーション時間での、高コントロール(■、緩衝液)、低コントロール(□、10μM A000135933)及びz’因子(▼)を示すグラフである。
【図11】(a)20μMグラミシジンの添加(インキュベーション:22℃、30分)後のNCX1のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のA000135933(・・・・30μM、- - -15μM、・・-・・-7.5μM、― ―3.75μM、・-・-・-1.88μM、- - -0.94μM、―0.5μM)の効果;(b)A000135933の用量反応関係をそれぞれ示すグラフである。IC50値は0.97μMである。
【図12】(a)蛍光ベースの細胞Ca2+くみ出し(「フォワード」)及びCa2+取り入れ(「リバース」)アッセイでテストした18個の化合物のIC50の相関;(b)蛍光ベースの細胞Ca2+取り入れアッセイ(「リバース」)及び電気生理学的なSURFE2R技術でテストした11個の化合物の10μMでの%阻害の相関をそれぞれ示すグラフである。
【図13】(a)NCX1(・・-・・-)と比較しての、無し(―)及び20μMグラミシジン有り(- - -)でのNCX2のCa2+取り入れ活性を示すグラフである。NCX2活性に対するNCX阻害剤A000135933の添加の効果が、20μMグラミシジン(・・・・・)で示される;(b)NCX1阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、第5日でのNCX2のCa2+取り入れ活性に対する20μMグラミシジンの効果を示すグラフである。z’因子は▼として示される。
【図14】グラミシジン刺激無しでのCHO-NCX2細胞のFluo4蛍光に対する種々の濃度のエチルアルコールの効果(■)を示すグラフである。
【図15】(a)20μMグラミシジンの添加(インキュベーション:22℃、45分)後の、NCX2のCa2+取り入れ活性に対する、種々の濃度のA000135933(― ―30μM、− − −15μM、- - -7.5μM、・・・・3.75μM、・-・-・-1.88μM、・・-・・-0.94μM、――0.5μM及び―0μM)の効果;(b)A000135933の用量反応関係をそれぞれ示すグラフである。この実施例のIC50値は1.4μMである。
【図16】NCX2及びNCX1に対する125個の化合物のIC50の比較を示すグラフである。化合物を蛍光ベースの細胞Ca2+取り入れアッセイ(「リバース」)でテストした。濃い灰色の線(―)は、等しい効力の線を示し、薄い灰色の破線(- - -)は、特定のサブタイプに対する効力の2倍スプリットを示す。
【図17】(a)NCX1(―)及びNCX2(・・・・)と比較しての、無し(・・-・・-)及び20μMグラミシジン有り(- - -)でのNCX3のCa2+取り入れ活性を示すグラフである。NCX3活性に対するNCX阻害剤A000135933の添加の効果が、20μMグラミシジン(― ―)で示される;(b)NCX阻害剤A000135933無し(■、高コントロール)及び10μM有り(□、低コントロール)での、5日でのNCX3のCa2+取り入れ活性に対する20μMグラミシジンの効果を示すグラフである。z’因子は▼として示される。
【図18】グラミシジン刺激無しでのCHO-NCX3細胞のFluo4蛍光に対する種々の濃度のエチルアルコールの効果(■)を示すグラフである。
【図19】(a)20μMグラミシジンの添加(インキュベーション:22℃、45分)後の、NCX3のCa2+取り入れ活性に対する種々の濃度のA000135933(・・・・・30μM、・-・-・-15μM、- - -7.5μM、・・-・・-3.75μM、- - -1.88μM、・・・・・0.94μM、――0.5μM及び―0μM)の効果;(b)A000135933の用量反応関係をそれぞれ示すグラフである。この実施例についてのIC50値は1.76μMである。
【図20】(a)NCX3及びNCX1に対する125個の化合物のIC50の比較を示すグラフである。化合物を蛍光ベースの細胞Ca2+取り入れアッセイ(「リバース」)でテストした。濃い灰色の線(―)は、等しい効力の線を示し、薄い灰色の破線(- - -)は、特定のサブタイプに対する効力の2倍スプリットを示す;(b)NCX3及びNCX2に対する125個の化合物のIC50の比較を示すグラフである。化合物を蛍光ベースの細胞Ca2+取り込みアッセイ(「リバース」)でテストした。濃い灰色の線(―)は、等しい効力の線を示し、薄い灰色の破線(- - -)は、特定のサブタイプに対する効力の2倍スプリットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
用語「アッセイ」は、系又は物の特性を測定する手順を指す。アッセイは、生物学的アッセイについて一般的に使用される省略用語であり、インビトロ実験の一種である。アッセイは、典型的に、生きている生物に対する物質の効果を測定するために行われる。アッセイは定性的又は定量的であり得、それらは新薬の開発に必須である。
【0028】
本発明のアッセイは広いダイナミックレンジを提供し、その結果、NCXタンパク質の活性を測定することができる。特に、本発明は、ナトリウム/カルシウム交換体と特異的に相互作用しナトリウム/カルシウム交換体の活性を調節する薬学的に有効な化合物をスクリーニング及びプロファイリングするための迅速で効果的なアッセイを利用可能にする。
【0029】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体」又は「NCX」は、本発明の文脈において、単独の又は互いに組み合わせた、以下のNa+/Ca2+交換体タンパク質のリストのいずれか一つ:NCX1、NCX2、NCX3、NCX4、NCX5、NCX6、NCX7;又は以下のNa+/Ca2+交換体タンパク質のリストのいずれか一つ:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5を意味する。
特に好ましいのは、アミノ酸配列が、それぞれ、配列番号1、配列番号2及び配列番号3に対応する、SLC8ファミリーメンバーNCX1、NCX2及び/又はNCX3である。
【0030】
このようなナトリウム/カルシウム交換体は、任意の脊椎動物、特に哺乳動物種(例えば、イヌ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、イヌ、ウサギ、ニワトリ、類人猿、ヒトなど)から誘導され得る。ナトリウム/カルシウム交換体は、このような脊椎動物生物の組織プローブから単離され得るか、又はナトリウム/カルシウム交換体を発現し得る組換え生物学的材料によって製造され得る。
【0031】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体タンパク質」は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3に含まれるアミノ酸配列に対して、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、若しくは500又はそれ以上のアミノ酸の領域にわたって、約80%より大きなアミノ酸配列同一性、85%、90%、好ましくは、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%又はそれより大きなアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド、多型変異体、突然変異体、及び種間ホモログを指す。
【0032】
用語「生物学的材料」は、遺伝情報を含み、それ自体を複製することができるか、又は生物系中において複製され得る、任意の材料を意味する。組換え生物学的材料は、当業者に周知の組換え技術によって生産されたか、変えられているか、又は修飾された任意の生物学的材料である。
【0033】
以下の参考文献は、特定のNCXタンパク質のクローニングの例である:イヌのNa+/Ca2+交換体NCX1は、Nicoll, DA.ら(Science. 250(4980): 562-5, 1990;表題:Molecular cloning and functional expression of the cardiac sarcolemmal Na(+)-Ca2+ exchanger.)によってクローニングされた。ヒトのNa+/Ca2+交換体NCX1は、Komuro, I.ら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89 (10), 4769- 4773, 1992;表題:Molecular cloning and characterization of the human cardiac Na+/Ca2+ exchanger cDNA)及びKofuji, P.ら(Am. J. Physiol. 263 (Cell Physiol. 32): C1241-C1249, 1992;表題:Expression of the Na-Ca exchanger in diverse tissues: a study using the cloned human cardiac Na-Ca exchanger)によってクローニングされた。ヒトのNa+/Ca2+交換体NCX2は、Li, Z.ら(J. Biol. Chem. 269(26): 17434-9, 1994;表題:Cloning of the NCX2 isoform of the plasma membrane Na(+)-Ca2+ exchanger)によってクローニングされた。ラットのNa+/Ca2+交換体NCX3は、Nicoll, DA.ら(J. Biol. Chem. 271(40): 24914-21. 1996;表題:Cloning of a third mammalian Na+/Ca2+ exchanger, NCX3)によってクローニングされた。ヒトのNa+/Ca2+交換体NCX3は、Gabellini, N.ら(Gene. 298: 1-7, 2002;表題:The human SLC8A3 gene and the tissue-specific Na+/Ca2+ exchanger 3 isoforms)によってクローニングされた。
【0034】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において交換可能に使用される。前記用語は、1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が対応の天然アミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0035】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性」は、ナトリウム/カルシウム交換体の「リバースモード」、即ち、Ca2+を細胞内へ、Na+を細胞外へ輸送する機構を指す。この「リバースモード」輸送は、特定の形質膜脱分極条件及び高い細胞質ゾルNa+濃度下で生じる。ナトリウム/カルシウム交換体の活性は、カルシウムと複合体化している好適な着色物質から生じる増強されたルミネセンスを測定することによって決定される。
【0036】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞」は、関心対象の交換体を内因的に発現する細胞又は組換え細胞を指す。
【0037】
用語「組換え」は、例えば、細胞、又は核酸、タンパク質、又はベクターを参照して使用される場合、細胞、核酸、タンパク質、又はベクターが、異種核酸若しくはタンパク質の導入又は野生型核酸若しくはタンパク質の変化により修飾されていること、又は細胞がそのように修飾された細胞から誘導されることを意味する。従って、例えば、組換え細胞は、細胞の野生型(非組換え)形態内で見出されない遺伝子を発現するか、又はさもなければ異常に発現されるか、過小発現されるか、又は全く発現されない野生型遺伝子を発現する。本発明において、これは、典型的には、ナトリウム/カルシウム交換体をコードする核酸配列でトランスフェクトされている細胞を指す。
【0038】
アッセイは、好適な培養培地を有する好適な容器中で細胞を増殖させることによって、簡単に行なわれる。細胞がアッセイの間維持され得、培養培地中で望ましいように増殖し得さえすれば、細胞は、天然の細胞、野生型細胞、樹立細胞株、市販される細胞、遺伝子操作された細胞などであり得る。
【0039】
本発明のアッセイを得るための好適な細胞としては、原核生物、酵母、又は高等真核細胞、特に哺乳類細胞が挙げられる。原核生物としては、グラム陰性生物及びグラム陽性生物が挙げられる。細胞は、通常、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、チャイニーズハムスター細胞などのような哺乳類細胞である。便利であることが見出されている細胞としては、CHO、COS7、JURKAT、HeLa、HEK、MDCK及びHEK293細胞が挙げられる。細胞は、周知の方法(Current protocols in cell biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471241059)で作製されてもよく、又は購入されてもよい(Invitrogen Corp.、Sigma-Aldrich Corp.、Stratagene)。
【0040】
用語「着色物質」は、特に、カルシウム感受性蛍光色素を指す。色素前駆体は、アッセイの条件下では発光性でないこと、細胞に入ることができ、発光性のオキシ化合物へ細胞内で加水分解されるエステルであること、及びカルシウムと複合体化すると増強されたルミネセンスを提供することを特徴とする。細胞内加水分解酵素による加水分解を受けやすいエステルが選択される。
【0041】
用語「細胞に入ることができる」は、前駆体が細胞膜を通過し、細胞中で加水分解され得ることを意味し、色素前駆体は、pH、温度などの特定の条件下で細胞に入るか、異なる速度で細胞に入るか、又は特定の条件下で細胞に入らない。
【0042】
着色物質は、周知のプロトコルを使用して細胞に添加される(Current protocols in cell biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471241059)。着色物質の使用が通常であり、市販の試薬(Invitrogen Corp.)並びに研究室で合成された試薬が使用され得る。上記の要件を満たす多数の市販の色素が公知である。Ca2+をモニタリングするための蛍光色素は周知であり、Molecular Probesカタログ第9版のセクション20.1〜20.4に詳細に記載されている。これらは、通常、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、アミノフェニルインドールなどのような蛍光核へ結合された2つのビス−カルボキシメチルアミノ基を有する。化合物は、大部分、3,6−ジオキシ置換キサンテンであり、ここで、前駆体においてはオキシ基が置換されており、発光色素においてそれらが非置換である。通常、フェノール及び酸を保護するアセトキシメチル基が存在する。例えば、Fluo3/4、Fura2/3、カルセイングリーンなどを参照のこと。アセチル基の加水分解は、発光生成物を生じさせる。前駆体は細胞膜を通過し得、細胞中で加水分解され得る。
【0043】
用語「ルミネセンス」は、常温及び低温で起こり得る、他のエネルギー源からの光である、「冷光」を指す。ルミネセンスにおいて、あるエネルギー源は、その「基底」(最も低いエネルギー)状態から「励起」(より高いエネルギー)状態に原子の電子を上げ;次いで、電子は光の形態でエネルギーを返し、従って、それはその「基底」状態へ戻ることができる。エネルギー源であるもの、又はルミネセンスについてのトリガーであるものに従って各々命名された、数種類のルミネセンスが存在する。
【0044】
用語「蛍光」は、光子の分子吸収がより長い波長を有する別の光子の放出を誘発する、冷体(cold body)における光学現象として主として見出されるルミネセンスを指す。吸収される光子と放出される光子との間のエネルギー差は、最後には分子振動又は熱になる。通常、吸収される光子は紫外線領域内にあり、放射光は可視領域内にあるが、これは吸光度曲線及び特定のフルオロフォアのストークスシフトに依存する。蛍光は、しばしばこの現象を示すフッ化カルシウムから構成される鉱物の蛍石にちなんで名付けられている。
【0045】
インジケーター色素からの蛍光は、ルミノメーター又は蛍光イメージャーで測定され得る。1つの好ましい検出装置は、蛍光測定画像解析用プレートリーダー(Fluorometric Imaging Plate Reader)(FLIPR)(Molecular Devices, Sunnyvale, Calif.)である。FLIPRは、本発明の方法を使用するハイスループットスクリーニングに十分に適しており、何故ならば、それは、96又は384ウェルのマイクロタイタープレートへ同時にピペッティングし得る統合液体ハンドリングと、電荷結合素子イメージングカメラに接続されたアルゴンレーザーを使用する高速動的検出とを組み込んでいるためである。
【0046】
カルシウムインジケーター色素の使用の代替法は、エクオリン系の使用である。エクオリン系は、タンパク質アポエクオリンを使用し、これは、親油性発色団セレンテラジンへ結合し、エクオリンとして公知であるアポエクオリンとセレンテラジンとの組み合わせが形成される。アポエクオリンは3つのカルシウム結合部位を有しており、カルシウム結合すると、エクオリンのアポエクオリン部分はその立体配座を変化させる。立体配座におけるこの変化が、セレンテラジンをセレンテラミド、CO2、及び青色光(466nm)の光子へ酸化させる。この光子が適切な計測装置で検出され得る。
【0047】
エクオリンの使用の概説については、Creton et al., 1999, Microscopy Research and
Technique 46:390-397;Brini et al., 1995, J. Biol. Chem. 270:9896-9903;Knight & Knight, 1995, Meth. Cell. Biol. 49:201-216を参照のこと。アポエクオリンを発現する哺乳類細胞へセレンテラジン補因子を添加することによって哺乳類細胞における細胞内カルシウムを測定する方法を記載する米国特許第5,714,666号もまた興味深い場合がある。
【0048】
「阻害剤」は、例えば結合して、活性を部分的に又は完全に遮断する、低減する、妨げる、活性化を遅延させる、不活化する、感受性を低下させる、又はナトリウム/カルシウム交換体タンパク質の活性又は発現をダウンレギュレートする化合物、例えばアンタゴニストである。「活性化剤」は、ナトリウム/カルシウム交換体活性を、増大する、開始する、活性化する、促進する、活性化を増強する、感受性を高める、アゴナイズする、又はアップレギュレートする化合物である。本発明における好ましい活性化剤は、グラミシジンであり、これは、細胞内ナトリウム濃度の上昇を誘発し、従って、「リバース」輸送モードのナトリウム/カルシウム交換体活性の増加をもたらす。
【0049】
阻害剤、活性化剤、又はモジュレータはまた、ナトリウム/カルシウム交換体タンパク質の遺伝子操作されたバージョン、例えば、変化した活性を有するバージョン、並びに天然及び合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、ペプチド、環状ペプチド、核酸、抗体、アンチセンス分子、リボザイム、有機低分子などを含む。
【0050】
用語「化合物」又は「テスト化合物」又は「テスト候補物」又はそれらの文法的等価物は、ナトリウム/カルシウム交換体活性を調節する能力についてテストされる、天然又は合成の任意の分子、例えばタンパク質、オリゴペプチド、有機低分子、多糖、脂質、脂肪酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドなどを表わす(Current protocols in molecular biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471250961)。テスト化合物は、テスト化合物のライブラリー、例えば十分な範囲の多様性を提供するコンビナトリアルライブラリー又はランダム化ライブラリーの形態であり得る(Current protocols in molecular biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471250937)。テスト化合物は、融合パートナー、例えば、ターゲッティング化合物、レスキュー化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス可能な化合物(addressable compound)、及び他の機能的部分へ場合により連結される。従来通り、ある所望の特性又は活性を有する、例えば活性を増強する、テスト化合物(「リード化合物」と呼ばれる)を同定し、リード化合物の変形体を作製し、そしてそれら変形体化合物の特性及び活性を評価することによって、有用な特性を有する新規の化学的エンティティーを作製する。好ましくは、ハイスループットスクリーニング(HTS)法がこのような分析のため利用される。
【0051】
前記阻害剤、活性化剤及びテスト化合物は、細胞が増殖した後に培養培地へ注入することによって細胞へ添加してもよく、又はそれらは、細胞増殖の前に培地中に存在してもよい(Current protocols in cell biology, John Wiley & Sons Inc, ISBN: 0471241059)。
【0052】
細胞は、阻害剤、活性化剤及び/又はテスト化合物上で好適な数まで増殖させてもよく、又はそれらは、その上に配置され、さらに増殖させずに使用されてもよい。細胞は、阻害剤、活性化剤及び/又はテスト化合物へ接着させてもよく、又は細胞をウェル中に配置又は増殖させる実施態様においては、細胞はウェル中の流体に懸濁されている懸濁細胞であってもよい。
【0053】
用語「対照実験」は、一緒に行うべき異なる種類の実験を指す。当業者は、本明細書中に記載される方法と一緒にコントロールを行うことは一般的に有益であることを認識する。
【0054】
例えば、ナトリウム/カルシウム交換体の活性を測定するためのアッセイについてコントロールを有することは通常有益であり、ここで、細胞は、これらの細胞が関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を発現しないことを除いて、アッセイにおいて使用される細胞と好ましくは本質的に同一である。
【0055】
さらに、化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体の活性を測定するためのアッセイについてコントロールを有することは通常有益であり、ここで、これらの細胞が関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を発現しないことを除いて、アッセイにおいて使用される細胞と好ましくは本質的に同一である細胞に対して、化合物が本発明のアッセイにおいてテストされる。このようにして、アッセイによって同定される化合物が、ある予期外の非特異的な機構を通してではなく、関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を通してそれらの効果を実際に発揮していると決定することができる。このようなコントロール細胞についての1つの可能性は、非組換え型親細胞を使用することであり、ここで、実際の実験細胞は、関心対象のナトリウム/カルシウム交換体を発現する。
【0056】
化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体の活性を測定するためのアッセイについての他のコントロールは、テスト化合物を添加することなくアッセイを行うこと(低コントロール)、及び高濃度のテスト化合物を用いてアッセイを行うこと(高コントロール)である。
【0057】
他の種類のコントロールは、本発明のアッセイにより同定される化合物を関心対象のナトリウム/カルシウム交換体のアゴニスト又はアンタゴニストとして採用し、先行技術の方法でテストした場合にもこれらの化合物がアゴニスト又はアンタゴニストであることを確認するために、先行技術の方法でこれらの化合物を試験することを含む。さらに、当業者は、アッセイ値と標準値と比較することによって、統計分析を行うこともまた望ましいということを理解する。
【0058】
用語「アゴニスト」及び「アンタゴニスト」は、受容体を介してシグナル伝達を調節する受容体エフェクター分子を指す。受容体エフェクター分子は、必ずしも天然のリガンドの結合部位においてではないが、受容体に結合することができる。受容体エフェクターは、単独で使用される場合にシグナル伝達を調節し得、即ち、代理リガンドとなり得、又は、天然のリガンドの存在下でシグナル伝達を変化させ、天然のリガンドによるシグナル伝達を増強又は阻害し得る。例えば、「アンタゴニスト」は、受容体のシグナル伝達活性化を遮断するか又は低減させる分子であり、例えば、それらは、受容体からのシグナル伝達を競合的に、非競合的に、及び/又はアロステリックに阻害し得、一方、「アゴニスト」は、受容体のシグナル伝達活性を強化、誘導、又はそうでなければ増強する。
【0059】
用語「ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患」は、拡張型心筋症、冠状動脈性心疾患、不整脈、心不全などを指す。
【0060】
便利性のために、着色物質及びアッセイの他の成分は、キット中に提供され得、ここで着色物質は再構成可能な粉末として、又は氷上の冷却溶液として緩衝液中に存在し得る。キットはまた、緩衝液、活性化剤、阻害剤、テスト化合物、ナトリウム/カルシウム交換体タンパク質をエクスプライムする細胞などを含み得る。細胞は凍結乾燥細胞として存在し得る。前記パーツのキットは、拡張型心筋症、冠状動脈性心疾患、不整脈、心不全などを診断するための診断キットとして使用され得る。
【0061】
蛍光ベースの細胞のナトリウム/カルシウム交換体アッセイの典型的な結果を記載する、以下の図及び実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、それは保護範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0062】
実施例
1.材料及び方法
1.1.化学物質及び装置
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
1.2.細胞株
ヒトNCX1、NCX2及びNCX3をそれぞれ安定発現する組換えCHO-K1細胞株は、Steinbeis-Transferzentrum fur Angewandte Biologische Chemie, Mannheimによって配送された。細胞を、標準条件(37℃、5%CO2が補われた空気)下で連続培養に維持した。CHO-K1 NCX1、CHO-K1 NCX2及びCHO-K1 NCX3細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)及び450μg/ml G418を補充した、グルタミンを加えたHAM'S-F12培地中に維持した。細胞を、トリプシン溶液を使用しての分離後3〜4日毎に継代し、150.000細胞/mlの濃度で再び播種した。
【0066】
1.3.電気生理学的な細胞株キャラクタリゼーション
電気生理学的なキャラクタリゼーションを、Iongate Biosciences GmbH, Frankfurtにて行った。
氷冷したPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)又はトリプシンを電気生理学実験の少なくとも18時間前に適用することによって、培養細胞を分離し、カバースリップ上に再び平板培養した。以下の組成を有する、2つの浴溶液及びピペット溶液を、パッチクランプ実験のために調製した:
浴(外部)溶液「低カルシウム」:
135mM NMG、5mM MgCl2、2mM CaCl2、4mM EGTA、30mM HEPES, pH 7.4
(HCl→pH 7.0、次いでCsOH→pH 7.4)
浴(外部)溶液「高カルシウム」:
139mM NMG、5mM MgCl2、2mM CaCl2、30mM HEPES, pH 7.4
(HCl→pH 7.0、次いでCsOH→pH 7.4)
ピペット(内部)溶液:
100mM NaCl、5mM KCl、2mM CaCl2、2mM MgCl2、2.1mM EGTA、35mM TEA-Cl、4mM Mg-ATP、0.5mM Na-GTP、5.63mMホスホクレアチン、30mM HEPES、3.5 U/ml クレアチンホスホキナーゼ(70ml ピペット溶液+3500 U 濾過クレアチンホスホキナーゼ, ad 100mlピペット溶液), pH 7.4 (NaOH)
【0067】
NCX電流を阻害するために、5mM塩化ニッケルを浴溶液「高カルシウム」に溶解した。全細胞コンフィギュレーションにおいてパッチクランプ技術を使用して、NCX活性を測定した。細胞を0mVの保持電位に室温(20〜25℃)でクランプした。4秒間、2mM外部カルシウム(浴溶液「高カルシウム」)の適用によって、NCX電流を誘発した(=コントロール)。カルシウム適用を20秒毎に繰り返した。5回の刺激後、ニッケルによる阻害を、5mMニッケルの存在下でのカルシウムによる活性化を除いては同一のプロトコルを使用して、テストした(5連で)。最後に、5カルシウムパルスを、ウォッシュアウト研究のために再び適用した。NCX電流をキャラクタライズするために、ピーク電流、輸送電荷、及びシグナル減衰の時定数を調べ、報告に従って分析した。全てのデータを平均値±SEMとして示す。
【0068】
1.4.アッセイ試薬
【表3】
【0069】
1.5.最終アッセイ手順
1.5.1.細胞プレートの調製
実験の1日前に、細胞をトリプシンで分離し、96ウェルマイクロプレート中35,000細胞/100μl培地/ウェルの密度で平板培養し、37℃、5%CO2及び90%湿度で約22時間インキュベートした。
【0070】
1.5.2.化合物プレートの調製
最終濃度の1.5×の濃度で、化合物をアッセイ緩衝液中調製した。化合物溶液をプレインキュベートし、16℃で保存した。IC50測定のために、45μMの出発濃度(最終:30μM)での希釈系列を、Biomek2000で調製した。
【0071】
1.5.3.グラミシジンプレートの調製
1mMグラミシジンストック溶液を、溶媒として冷エタノール(4℃)を使用して毎日調製した。ストック溶液から出発し、アッセイ緩衝液を使用して、60μMグラミシジンアッセイ溶液を調製した。96ウェルポリプロピレンプレートに、150μl/ウェルのグラミシジンアッセイ溶液を充填し、4℃で保存した。添加プレートは、再充填が必要とされる前に2回使用できただけであり、何故ならば、グラミシジン溶液はRTで活性を非常に速く失うためである。
【0072】
1.5.4.アッセイ手順
1.培地を細胞プレートから除去した
2.100μl/ウェルの色素ローディング緩衝液を添加した
3.細胞をRTで90分間インキュベートした
4.100μlアッセイ緩衝液/ウェルで3回洗浄し、緩衝液を後で完全に捨てた
5.Biomek FXを使用して、80μlのテスト化合物を種々の濃度(1.5×濃縮)で添加した
6.CO2インキュベーター中16℃及び5%CO2で45分間、細胞をインキュベートした
7.細胞プレートをFLIPRに移し、測定の間、40μlのグラミシジンアッセイ溶液(最終濃度:20μMグラミシジン)を添加することによって記録した。
10μMのNCX阻害剤A000135933を高コントロールとして、緩衝液を低コントロールとして使用した。
【0073】
1.5.5.FLIPR設定パラメータ
【表4】
【0074】
1.6.データ分析
以下の計算は、FLIPRソフトウエアの統計エクスポート関数を使用して得られたデータに基づいた:統計1=マックス-ミニ(サンプル1−240)。必要に応じて、計算はエッジ効果について修正した。初期結果としてのNCXの阻害は、グラミシジン添加後の蛍光増加の阻害を指し、統計値1から誘導した。高コントロールは、10μM A000135933でのNCX活性の阻害を指し、低コントロールは、緩衝液のみの添加後にNCX阻害が無いことを指す。
従って、%阻害を、コントロールを参照して計算した(0%阻害=低コントロール、100%阻害=高コントロール)。結果は、以下の式を用いて、補正済みの生データ及びプレート内コントロールから計算した:
【数1】
【0075】
2.結果
2.1.電気生理学的な細胞株キャラクタリゼーション
2.1.1.親細胞株
電気生理学データをIongate GmbHから得た。CHO-K1細胞を使用し、安定なCHO-NCX1、CHO-NCX2及びCHO-NCX3細胞株を樹立した。高細胞内Na+濃度下で細胞外Ca2+を適用した場合、親細胞は有意な電流応答(0.12±0.07 pA/pF、図2)を示さなかった。記載した条件下で、ニッケルの使用によって、人工産物(artifact)は生じなかった。典型的な電流を図3に示す。
【0076】
2.1.2.CHO-NCX細胞株
CHO-NCX1細胞は、4秒後、非活性化がほとんど伴うことなく、Ca2+適用後に外向きの定常電流を示した。相対的なピーク電流は1.40±0.18 pA/pFであった(n=3、図4a)。電流は、5mMニッケルの適用によって、完全にかつ可逆的に遮断できた(91.3±3.3%)。
【0077】
CHO-NCX2細胞は、リバースモード条件下で、外向き電流を示した。相対的なピーク電流は2.95±0.70 pA/pFであった(n=6、図4b)。電流は、1.26±0.11秒の時定数で減衰し、5mMニッケルの適用によって完全にかつ可逆的に遮断できた(ウォッシュアウト:100.2±1.9%)。
【0078】
CHO-NCX3細胞は、リバースモード条件下で外向き電流を示し、0.80±0.08秒の時定数で減衰した。相対的なピーク電流は3.46±1.11 pA/pFであった(n=4、図4c)。電流は、5mMニッケルの適用によって完全にかつ可逆的に遮断できた(ウォッシュアウト:111.5±2.4%)。典型的な電流を図5に示す。
【0079】
2.2.アッセイパラメータ
2.2.1.NCX1アッセイ
「リバース」モードを分析するHTSベースのNCX1アッセイは、文献において公知ではなかった。グラミシジンの適用は、組み合わせたパッチクランプ及び蛍光測定から公知である。全てのパラメータを最適化しなければならなかった。同時に実行しての、「フォワード」及び「リバース」モードアッセイの間の柔軟性のために、緩衝液条件(例えば、Ca2+濃度、pH)及び1ウェル当たりの細胞数が、「フォワード」モードアッセイから適合され、非常に良好な結果を示した。
【0080】
第1の実験において、NCX1のCa2+取り入れ活性に対するグラミシジン濃度及び貯蔵の影響を調べた(図6a、b)。
20μMのグラミシジン濃度が、S/B及びz’因子に関してのCa2+取り入れ活性について最良の結果を示した。より低い濃度は、遅い動態に起因して十分でなく、より高い濃度は、細胞の副作用を引き起こした(図6a、b)。ツール化合物A000135933のIC50(さらにまた図11a、b)は、種々のグラミシジン濃度によって影響されなかった(図7a)。グラミシジンをエチルアルコールに溶解し、溶媒の影響をキャラクタライズしなければならなかった。2%までのエチルアルコールは、アッセイのバックグラウンド蛍光に対して影響を示さず、一方、濃度を増加させることによって、蛍光が僅かに増加した(図7b)。
【0081】
グラミシジンは高温で分解されるため、グラミシジン溶液の調製及び貯蔵は、重要な工程であった。以下の実験において、グラミシジンを、種々の温度で、溶解し、保存した。グラミシジン溶液は、4℃で調製し、保存しなければならず、さもなければ、グラミシジンは、非常に速く分解された(図8)。
【0082】
ピペット高さ、予浸及び混合に関する種々のFLIPR設定を、S/B及びz’因子を向上させるために確認した(図9a、b)。最良のz’因子は、2回の混合サイクルを伴う70μlのピペット高さで達成された。上述のパラメータを使用して、2つの温度(16及び22℃)を、化合物インキュベーションについて確認した(図10a)。最良の結果は16℃で得られ、S/B、z’及びIC50(A000135933)結果に関して最良のインキュベーション時間は、45分であった(図10b)。
【0083】
「リバース」モードアッセイの重要な要件の1つは、化合物の感度である。NCX1プロジェクトについてのツール化合物は、「フォワード」モードアッセイでのスクリーニングから誘導されたイミノチアゾールであるA000135933である。該化合物は、パッチクランプ実験で1.44μM及び「フォワード」アッセイで5.9μMのIC50を有する。該化合物は、「フォワード」アッセイにおいて標準コントロールとして使用されている。効果を調べるために、「リバース」アッセイにおいて種々のグラミシジン濃度下A000135933をテストした。20μMグラミシジンでの活性化後のNCX1活性に対する典型的な阻害効果及び計算された用量反応関係を、図11a及びbに示す。
【0084】
NCX1細胞株は、2ヶ月間、標準物質(A000135933)のS/B及びIC50に関して安定であった。NCX1のCa2+取り入れ活性に対するツール化合物A000135933の効果を図11aに示しており、IC50は約1μMであった(図11b)。z’値は0.7〜0.8であった。このアッセイ(「リバース」)を蛍光ベースの細胞Ca2+くみ出しモードアッセイ(「フォワード」)と及びSURFE2R(Iongate Biosciences, Frankfurt)と呼ばれる電気生理学技術と比較するために、18個の化合物のIC50又は11個の化合物の10μMでの阻害をそれぞれテストした(図12a、b)。
【0085】
「リバース」アッセイは、「フォワード」アッセイよりも一般的に3〜5倍高感度であり(図12a、黒色ドット)、データは、0.86のr2と相関する。いくつかの化合物は、阻害の有意な増加を示さなかった(図8a、赤色ドット)。他の化合物は、遥かにより高い効力でNCX1を阻害し(図8a、青色ドット)、このことは、恐らく、輸送モード特異的効果を示している。「リバース」アッセイ由来の10μMでの化合物のパーセント阻害は、SURFE2R値(図12b)よりも高く(20%まで)、しかし、SURFE2R技術との相関は、0.83のr2で、良好であった。
【0086】
2.2.2.NCX2アッセイ
「フォワード」又は「リバース」モードを分析するNCX2アッセイは、文献において公知ではなかった。「フォワードモード」アッセイの確立は、アッセイのロバスト性及び感度の制限に起因して成功しなかった。明確性のために、この報告ではデータは示していない。「リバースモード」アッセイは、グラミシジンの適用に基づいた。グラミシジンは、アルカリ透過性孔を形成する。グラミシジン誘導Ca2+流入は、間接的であり、NCX依存性である。グラミシジン添加後のNCX1の活性化は、一次ニューロンに対する放射性イオン流束又は蛍光測定から公知である(Kiedrowski et al., Journal of Neurochemistryl, 2004)。同時に実行しての、種々のサブタイプのNCXアッセイ間の比較性のために、緩衝液条件(例えば、Ca2+濃度、pH)、細胞数、インキュベーション時間、及びグラミシジン濃度を、「リバース」モードNCX1アッセイからNCX2アッセイについて適合させた。
【0087】
第1の実験において、緩衝液条件、インキュベーション時間、グラミシジン濃度及び貯蔵を、NCX2のCa2+取り入れ活性に対して確認した(図13a、b)。蛍光増加の動態は、NCX1と比較してNCX2について僅かにより遅かった。測定時間は、10分に延長しなければならなかった。緩衝系、細胞数、インキュベーション時間、グラミシジン濃度(20μM)及び貯蔵は、非常に良好な結果を示した。これらのパラメータを、さらに最適化する必要はなかった。グラミシジンをエチルアルコールに溶解し、溶媒の影響をキャラクタライズしなければならなかった。3%までのエチルアルコールは、アッセイのバックグラウンド蛍光に対して影響を示さなかった(図14)。
【0088】
「リバース」モードアッセイの重要な要件の1つは、化合物に対する感度であったが、NCX2に関するツール化合物について入手可能な電気生理学的なデータはなかった。NCX1プロジェクトについての主なツール化合物は、NCX1スクリーニングから誘導されたイミノチアゾールであるA000135933であった。該化合物は、パッチクランプ実験で1.44μM及び「リバース」アッセイで1.8μMのNCX1に対するIC50を有した。NCX2活性に対する20μMグラミシジンでの活性化後のA000135933の効果を調べた(図16a)。計算された用量反応関係を図15bに示す。
【0089】
NCX2細胞株は、2ヶ月間、標準物質(A000135933)のS/B及びIC50に関して安定であった。NCX2のCa2+取り入れ活性に対するツール化合物A000135933の効果を図15aに示しており、IC50(1.25±0.19μM、n=26、例 図15b)は、NCX1(1.78±1.03μM、n=55)に対してよりもNCX2に対して僅かに低く、このことは、該化合物がNCX2についてより強力であることを示している。z’値は0.75〜0.85であった。NCX1プロジェクトからの125個の化合物を、NCX2「リバースモード」アッセイでテストし、NCX1データと比較した。結果を図16に要約する。
【0090】
NCX1活性に対する効果を有するほぼ全ての化合物はまた、NCX2を阻害した(図16)。多くの化合物が、NCX1よりも2倍を超えるより高い効力でNCX2を阻害した。4つの化合物のみが、NCX1について2倍を超える選択性を示した。これらのデータは、NCX1選択的化合物を得る可能性があることを示している。
【0091】
2.2.3.NCX3アッセイ
NCX3アッセイは、文献において公知ではなかった。「フォワードモード」アッセイの確立は、アッセイのロバスト性及び感度の制限に起因して成功しなかった。明確性のために、この報告ではデータを示していない。「リバースモード」アッセイは、グラミシジンの適用に基づいた。グラミシジンは、アルカリ透過性孔を形成する。グラミシジン誘導Ca2+流入は、間接的であり、NCX依存性である。グラミシジン添加後のNCX1の活性化は、一次ニューロンに対する放射性イオン流束又は蛍光測定から公知である(Kiedrowski et al., Journal of Neurochemistry, 2004)。同時に実行しての、種々のサブタイプのNCXアッセイ間の比較性のために、緩衝液条件(例えば、Ca2+濃度、pH)、細胞数、インキュベーション時間、及びグラミシジン濃度を、「リバース」モードNCX1アッセイからNCX3アッセイについて適合させた。
【0092】
第1の実験において、緩衝液条件、細胞数、インキュベーション時間、グラミシジン濃度及び貯蔵を、NCX3のCa2+取り入れ活性に対して確認した(図18a、b)。蛍光増加の動態は、NCX1及びNCX2と比較してより速かった。緩衝系、細胞数、インキュベーション時間、グラミシジン濃度(20μM)及び貯蔵は、非常に良好な結果を示した。これらのパラメータを、さらに最適化する必要はなかった。グラミシジンをエチルアルコールに溶解し、溶媒の影響をキャラクタライズしなければならなかった。2%までのエチルアルコールは、アッセイのバックグラウンド蛍光に対して影響を示さず(図19)、2%を超えることによって、バックグラウンド蛍光が僅かに増加した。
【0093】
「リバース」モードアッセイの重要な要件の1つは、化合物に対する感度であったが、NCX3に関するツール化合物について入手可能な電気生理学的なデータはなかった。NCX1プロジェクトについての主なツール化合物は、NCX1スクリーニングから誘導されたイミノチアゾールであるA000135933であった。該化合物は、パッチクランプ実験で1.44μM及び「リバース」アッセイで1.8μMのNCX1に対するIC50を有した。NCX2活性に対するIC50は、「リバース」アッセイにおいて1.25μMであった。
NCX3活性に対する、20μMグラミシジンでの活性化後のA000135933の効果を調べ(図21a)、計算された用量反応関係を図19bに示す。
【0094】
NCX3細胞株は、2ヶ月間、標準物質(A000135933)のS/B及びIC50に関して安定であった。NCX3のCa2+取り入れ活性に対するツール化合物A000135933の効果を図19aに示しており、IC50は、1.63±0.30μMであった(n=23、例 図19b)。これらのデータは、ツール化合物が特定のサブタイプについて特異的でないことを示している(IC50 NCX1:1.78±1.03;IC50 NCX2:1.25±0.19)。z’値は0.70〜0.85であった。NCX1プロジェクトからの125個の化合物を、NCX3「リバースモード」アッセイでテストし、NCX1及びNCX2データと比較した。結果を図20a及び20bに要約する。
【0095】
NCX1活性に対する効果を有するほぼ全ての化合物はまた、NCX3を阻害した(図20a)。多くの化合物が、NCX1よりも2倍を超えるより高い効力でNCX3を阻害した。6つの化合物は、NCX1について2倍を超える選択性を示した。NCX2と比較して、9つの化合物がNCX2に対してより強力であり、2つの物質がNCX3に対してより強力であった(図20b)。これらのデータは、NCXサブタイプ選択的化合物を得る可能性があることを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイであって、以下:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備える工程;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備える工程;
c)細胞をナトリウム/カルシウム交換体活性化剤と接触させる工程;及び
d)上記着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する工程、
を含む、上記アッセイ。
【請求項2】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質;又は以下のリスト:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5のNCKXタンパク質である、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質である、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項4】
ナトリウム/カルシウム交換体が、哺乳類起源のものであり、好ましくは、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、サル又はヒトに由来する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項5】
細胞が、CHO、HEK、COS7及びJURKAT細胞からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項6】
着色物質が、細胞に入ることができそして色素に加水分解され得る色素前駆体として、細胞に添加され、それによって、色素が、該細胞中においてカルシウムと複合体化し、発光シグナルを与える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項7】
発光シグナルが蛍光であり、工程c)をモニターすることがFLIPR装置を使用する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項8】
色素前駆体が、アセトキシメチルエステル誘導体である、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項9】
色素が、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項10】
ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための請求項1〜9のいずれか1項に記載のアッセイの使用。
【請求項11】
ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患の診断のための請求項1〜9のいずれか1項に記載のアッセイの使用。
【請求項12】
化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイであって、以下:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備える工程;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備える工程;
c)細胞を化合物と接触させる工程、ここで、該細胞は、該化合物で処理する前に、ナトリウム/カルシウム交換体活性化剤で処理される;及び
d)上記着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する工程、
を含む、上記アッセイ。
【請求項13】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質;又は以下のリスト:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5のNCKXタンパク質である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項14】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項15】
ナトリウム/カルシウム交換体が、哺乳類起源のものであり、好ましくは、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、サル又はヒトに由来する、請求項12〜14のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項16】
細胞が、CHO、HEK、COS7及びJURKAT細胞からなる群より選択される、請求項12〜15のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項17】
着色物質が、細胞に入り、色素に加水分解され得る色素前駆体として、細胞に添加され、それによって、色素が、該細胞中においてカルシウムと複合体化し、発光シグナルを与える、請求項12〜16のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項18】
発光シグナルが蛍光であり、工程c)をモニターすることがFLIPR装置を使用する、請求項12〜17のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項19】
色素前駆体が、アセトキシメチルエステル誘導体である、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項20】
色素が、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項21】
化合物が、ナトリウム/カルシウム交換体アンタゴニストである、請求項12〜20のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項22】
a)ナトリウム/カルシウム交換体をエクスプライムする凍結乾燥細胞;
b)着色物質;
c)化合物緩衝液;及び
d)着色物質緩衝液、
を含むパーツのキット。
【請求項23】
着色物質が、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である、請求項22に記載のパーツのキット。
【請求項24】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質;又は以下のリスト:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5のNCKXタンパク質である、請求項22又は23に記載のパーツのキット。
【請求項25】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質である、請求項22又は23に記載のパーツのキット。
【請求項26】
ナトリウム/カルシウム交換体が、哺乳類起源のものであり、好ましくは、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、サル又はヒトに由来する、請求項22〜25のいずれか1項に記載のパーツのキット。
【請求項27】
ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための請求項22〜26のいずれか1項に記載のパーツのキットの使用。
【請求項28】
ナトリウム/カルシウム交換体変化発現に関連する疾患の診断のための請求項22〜26のいずれか1項に記載のパーツのキットの使用。
【請求項1】
ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイであって、以下:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備える工程;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備える工程;
c)細胞をナトリウム/カルシウム交換体活性化剤と接触させる工程;及び
d)上記着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する工程、
を含む、上記アッセイ。
【請求項2】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質;又は以下のリスト:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5のNCKXタンパク質である、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質である、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項4】
ナトリウム/カルシウム交換体が、哺乳類起源のものであり、好ましくは、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、サル又はヒトに由来する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項5】
細胞が、CHO、HEK、COS7及びJURKAT細胞からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項6】
着色物質が、細胞に入ることができそして色素に加水分解され得る色素前駆体として、細胞に添加され、それによって、色素が、該細胞中においてカルシウムと複合体化し、発光シグナルを与える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項7】
発光シグナルが蛍光であり、工程c)をモニターすることがFLIPR装置を使用する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項8】
色素前駆体が、アセトキシメチルエステル誘導体である、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項9】
色素が、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項10】
ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための請求項1〜9のいずれか1項に記載のアッセイの使用。
【請求項11】
ナトリウム/カルシウム交換体の変化した発現に関連する疾患の診断のための請求項1〜9のいずれか1項に記載のアッセイの使用。
【請求項12】
化合物の添加に応答してのナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性を測定するためのアッセイであって、以下:
a)ナトリウム/カルシウム交換体を発現する細胞を備える工程;
b)細胞内カルシウムを測定するための着色物質を備える工程;
c)細胞を化合物と接触させる工程、ここで、該細胞は、該化合物で処理する前に、ナトリウム/カルシウム交換体活性化剤で処理される;及び
d)上記着色物質からの発光シグナルのカルシウム媒介変化を、対照実験において生じた発光シグナルと比較する工程、
を含む、上記アッセイ。
【請求項13】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質;又は以下のリスト:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5のNCKXタンパク質である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項14】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質である、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項15】
ナトリウム/カルシウム交換体が、哺乳類起源のものであり、好ましくは、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、サル又はヒトに由来する、請求項12〜14のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項16】
細胞が、CHO、HEK、COS7及びJURKAT細胞からなる群より選択される、請求項12〜15のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項17】
着色物質が、細胞に入り、色素に加水分解され得る色素前駆体として、細胞に添加され、それによって、色素が、該細胞中においてカルシウムと複合体化し、発光シグナルを与える、請求項12〜16のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項18】
発光シグナルが蛍光であり、工程c)をモニターすることがFLIPR装置を使用する、請求項12〜17のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項19】
色素前駆体が、アセトキシメチルエステル誘導体である、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項20】
色素が、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項21】
化合物が、ナトリウム/カルシウム交換体アンタゴニストである、請求項12〜20のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項22】
a)ナトリウム/カルシウム交換体をエクスプライムする凍結乾燥細胞;
b)着色物質;
c)化合物緩衝液;及び
d)着色物質緩衝液、
を含むパーツのキット。
【請求項23】
着色物質が、カルシウム感受性蛍光色素fluo-4である、請求項22に記載のパーツのキット。
【請求項24】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質;又は以下のリスト:NCKX1、NCKX2、NCKX3、NCKX4、NCKX5のNCKXタンパク質である、請求項22又は23に記載のパーツのキット。
【請求項25】
ナトリウム/カルシウム交換体が、以下のリスト:NCX1、NCX2、NCX3のNCXタンパク質である、請求項22又は23に記載のパーツのキット。
【請求項26】
ナトリウム/カルシウム交換体が、哺乳類起源のものであり、好ましくは、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ブタ、サル又はヒトに由来する、請求項22〜25のいずれか1項に記載のパーツのキット。
【請求項27】
ナトリウム/カルシウム交換体のカルシウム取り入れ活性のアゴニスト又はアンタゴニストとしての活性について化合物をテストするための請求項22〜26のいずれか1項に記載のパーツのキットの使用。
【請求項28】
ナトリウム/カルシウム交換体変化発現に関連する疾患の診断のための請求項22〜26のいずれか1項に記載のパーツのキットの使用。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2011−529564(P2011−529564A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500081(P2011−500081)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001823
【国際公開番号】WO2009/115238
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001823
【国際公開番号】WO2009/115238
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]