説明

ナノインク塗布装置

【課題】ナノインクに変質が生じ難く、ナノリスクが生じない、ナノインク塗布装置を提供する。
【解決手段】本発明のナノインク塗布装置1は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を合成する合成部2と、合成部2で合成された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を精製し、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを調製する調製部3と、調製部3からナノインクが供給され、対象物にナノインクを塗布する塗布部4と、を備え、合成部2は、マイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備え、塗布部4は、外気を遮断する筐体15に覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノインク塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノインクを所定の対象物に塗布(焼結)する技術が開発されており、金属配線基板などの集積回路、無線ICタグ、液晶ディスプレイ、電子写真などへの応用が期待されている。
【0003】
上記ナノインクは、ナノオーダーサイズの金属粒子または半導体粒子を含む(以下、本明細書において、「ナノオーダーサイズの金属粒子または半導体粒子」を「金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子」と称する)を含むものであり、例えば、高分子フィルムへナノインクを塗布し、焼結することで導電性を付与できるなどの利用がなされている。また、他の応用例として、印刷方法によってナノインクをポリイミドワニス層上にパターン印刷する方法が特許文献1に開示されている。このナノインクを用いたインクジェット印刷方法によれば、微細な回路パターンを形成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−294308号公報(2008年12月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、別途合成されたナノインクをナノインク塗布装置に投入してナノインクによる印刷を行うことが常であった。これは、ナノ粒子を合成する際に加熱プロセスが必要であるなど、取り扱いが難しく、ナノインク塗布装置とは他の環境でナノインクを合成すべきと考えられていたためである。さらにナノインクを別途合成する従来技術には、以下の問題点がある。
【0006】
(1)ナノインクは、微小サイズのナノ粒子を含むため、変質が起こり易く、ナノインクの変質防止およびナノ粒子の分散状態の保持を念頭にナノインクの調製を行う必要がある。変質として、例えば、ナノ粒子の分散状況が変化することによるナノインクの粘度の増加が挙げられ、ナノインクの塗布速度、塗布精度、目詰まりなどに支障が生じる。(2)また、ナノインクをナノインク塗布に投入する際に、ナノ粒子の飛散等によるナノリスクが懸念される。
【0007】
本願発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ナノインクに変質が生じ難く、ナノリスクが生じない、ナノインク塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを対象物に塗布するナノインク塗布装置であって、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を合成する合成部と、上記合成部で合成された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を精製し、上記金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを調製する調製部と、上記調製部からナノインクが供給され、対象物にナノインクを塗布する塗布部と、を備え、上記合成部は、マイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備え、上記塗布部は、外気を遮断する筐体に覆われていることを特徴としている。
【0009】
上記ナノインク塗布装置では、塗布部が外気を遮断する筐体に覆われており、調製部で調製されたナノインクを外気に触れさせることなく、塗布部にて、対象物に塗布できる。このため、ナノインクに含まれる金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子がナノインク塗布装置の外部に飛散せず、ナノリスクが生じない。また、ナノインク塗布装置内では、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の合成からナノインクの塗布までの工程がなされ、調製したナノインクを装置内にて使用するため、ナノインクの調製から塗布までの時間を短縮でき、ナノインクの変質を極めて効率的に抑制できる。また、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子は非常に微細であるため、反応条件を精密に制御できるマイクロリアクターは、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の合成に好適な合成手段である。
【0010】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記調製部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むコロイドに、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子に対する貧溶媒を供給する貧溶媒供給機構と、コロイドを濾過するフィルター、および、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を吸着する多孔質体のうち少なくとも一方と、上記コロイドの濾過、および、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の吸着のうち少なくとも一方によって分離された濾液を排出する濾液排出機構と、フィルターに捕捉された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子、および、多孔質体に吸着された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子のうち少なくとも一方に、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子が分散可能な分散液を供給してナノインクを調製する分散液供給機構と、を含む調製手段を備えることが好ましい。
【0011】
これにより、貧溶媒供給機構からナノインクに貧溶媒を供給し、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を凝縮させ、さらに、フィルターでの濾過によりナノインクから分離された濾液は濾液排出機構によって排出される。その後、分散液供給機構によって、フィルターおよび多孔質体のうち少なくとも一方に捕捉された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子に対して分散液が供給され、ナノインクが調製される。このように、調製手段によれば好適にナノインクを調製できる。
【0012】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記調製部は、上記コロイドと、上記貧溶媒供給機構によって供給される貧溶媒とを混合するマイクロミキサーを備え、上記マイクロミキサーによる、上記コロイドと貧溶媒との混合時間が、0.001秒以上、100秒以下であることが好ましい。
【0013】
これにより、マイクロミキサー内での凝集粒子による閉塞を抑制し、貧溶媒をコロイドと好適に混合することができる。
【0014】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記塗布部は、対象物に塗布したナノインクを焼結する焼結機構を含み、上記合成部において使用される、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の原料を含む反応液は、金属含有原料および金属含有原料以外の原料を含み、金属含有原料以外の原料の炭素数が2以上、12以下であることが好ましい。
【0015】
金属含有原料以外の原料として、炭素数が2以上、12以下である化合物を使用することにより、焼結機構によってナノインクを焼結する際、金属含有原料以外の原料が低温で分解または揮発するため、低温でナノインクを焼結できる。
【0016】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記合成部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の原料を含む反応液に圧力を印加する圧力調整器を備えることが好ましい。
【0017】
圧力調整器で金属含有原料、還元剤、界面活性剤および反応溶媒を含む反応液に圧力を印加することによって反応溶媒の沸点が低下するため、反応溶媒の揮発を抑制し、反応液を液体状態に保つことができる。これにより、沸点の低い反応系を用いても液相で金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の合成を行うことが可能である。
【0018】
本発明のナノインク塗布装置では、上記調製部は、上記調製手段を複数含んでおり、上記複数の調製手段は、直列もしくは並列、または直列および並列に配置されていることが好ましい。
【0019】
複数の調製手段が直列に配置されていることによって、調製したナノインクから再度、濾液を除去する過程で金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を再度洗浄し、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子に対して分散液を供給することにより再度、ナノインクを調製することにより、より高純度なナノインクの調製が可能である。また、複数の調製手段が並列に配置されていることによって、フィルターによる金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の濾過と、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の分散とをそれぞれの調製手段にて並行して行うことができ、ナノインクの連続的な調製が可能となる。複数の調製手段が直列および並列に配列されている場合には、直列および並列の場合の両方の効果を得ることができる。
【0020】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記調製部は、調製したナノインクに表面改質剤を供給する表面改質剤供給機構と、上記ナノインクに貧溶媒を供給する貧溶媒供給機構と、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子が分散した貧溶媒を濾過するフィルター、および、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を吸着する多孔質体のうち少なくとも一方と、フィルターに捕捉された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子、および、多孔質体に吸着された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子のうち少なくとも一方に、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子が分散可能な分散液を供給してナノインクを調製する分散液供給機構と、を含む改質手段を備えることが好ましい。
【0021】
これにより、所望の表面改質がなされた金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを調製でき、多様なナノインク調製の要求に対応可能である。
【0022】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記調製部は、ナノインクの成分、粘度または濃度を分析する分析機構を含むことが好ましい。
【0023】
これにより、精製されたナノインクの成分、粘度または濃度を確認することができる。例えば、ナノインクの成分である金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子に対して表面プラズモンスペクトルを測定することにより、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の相対的な粒径または酸化状態を測定できる。また、ナノインクが半導体ナノインクの場合は、バンドギャップに基づく吸収スペクトルおよび吸収端ピークの確認によって、ナノインクの成分を確認できる。さらに、ナノインクの濃度は、ナノインクの吸収スペクトルの特定若しくはある領域の波長の吸光度に対してLanbert-Beerの法則を適用することにより求めることができる。更に、ナノインクの粘度は、ナノインクの調製後に設置した細管前後の圧力損失を測定することにより求めることが可能になる。
【0024】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記塗布部は、塗布部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構、および、塗布部内のガスを排出するガス排出機構を含む換気手段を、塗布部を覆う筐体を通して備えることが好ましい。
【0025】
上記換気手段によれば、塗布部内に不活性ガスを供給すると共に、溶媒が揮発したガス等を含む塗布部内のガスが排出され、塗布部内の不活性ガス濃度が増加する。これにより、高不活性ガス濃度下の環境下でナノインクの塗布を行うことができる。
【0026】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記上記ナノインクが金属ナノ粒子を含み、上記金属ナノ粒子が、銅であることが好ましい。
【0027】
銅は酸化による変質が生じ易いため、本発明に係るナノインク塗布装置の優位性がより顕著となる。
【0028】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記調製部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むコロイドまたはナノインクの経路となるマイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備えることが好ましい。
【0029】
金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子は非常に微細であるため、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むコロイドまたはナノインクの経路として、マイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを用いることは、ナノインクの調製に好適である。
【0030】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記合成部が複数備えられており、
複数の合成部が上記調製部に連結していることが好ましい。
【0031】
複数の合成部が調製部に連結しているため、複数の合成を平行して用いることにより、多様な合成手法が可能となる。
【0032】
また、本発明のナノインク塗布装置では、ナノインクを保存する保存機構が、上記調製部、上記塗布部、または上記調製部と上記塗布部との間に備えられていることが好ましい。
【0033】
マイクロリアクターにて金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を合成する場合、一時的に合成速度が、塗布部でのインクの塗布速度よりも遅くなり得るが、保存機構にナノインクが保存されていることにより、塗布部での必要量を満たすナノインク量を確保できる。
【0034】
また、本発明のナノインク塗布装置では、上記塗布部は、ナノインクを対象物に塗布するスピンコーター機構を備えることが好ましい。
【0035】
これにより、均一なナノインクの薄膜を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のナノインク塗布装置は、以上のように、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を合成する合成部と、上記合成部で合成された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を精製し、上記金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを調製する調製部と、上記調製部からナノインクが供給され、対象物にナノインクを塗布する塗布部と、を備え、上記合成部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の原料を含む反応液の経路となるマイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備え、上記塗布部は、外気を遮断する筐体に覆われていることを特徴としている。
【0037】
それゆえ、上記ナノインク塗布装置では、塗布部が外気を遮断する筐体に覆われており、調製部で調製されたナノインクを外気に触れさせることなく、塗布部にて、対象物に塗布できる。このため、ナノインクに含まれる金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子がナノインク塗布装置の外部に飛散せず、ナノリスクが生じない。また、ナノインク塗布装置内では、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の合成からナノインクの塗布までの工程がなされ、調製したナノインクを装置内にて使用するため、ナノインクの調製から塗布までの時間を短縮でき、ナノインクの変質を極めて効率的に抑制できる。また、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子は非常に微細であるため、反応条件を精密に制御できるマイクロリアクターは、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の合成に好適な合成手段である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るナノインク塗布装置を示す透過斜視図である。
【図2】本発明に係るナノインク塗布装置の変形例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る調製部を示す構成図である。
【図4】本発明に係る保存機構を示す側面図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明に係る調製部の変形例を示す構成図である。
【図6】本発明に係る改質手段を備える調製部を示す構成図である。
【図7】本発明に係る塗布部を示す斜視図である。
【図8】図8(a)は、参考例1に係るSEMによる銅粒子の写真図であり、図8(b)は、実施例1に係るSEMによる銅粒子の写真図である。
【図9】図9(a)は、参考例1に係る銅粒子の凝集状態を示すSEMによる銅粒子の写真図であり、図9(b)は、実施例1に係る銅粒子の凝集状態を示すSEMによる銅粒子の写真図である。
【図10】実施例1、2において得られた導電性フィルムの抵抗率を示すグラフである。
【図11】図11(a)は、実施例1で得られた導電性フィルムの銅薄膜を示すSEMによる写真図であり、図11(b)は、実施例2で得られた導電性フィルムの銅薄膜を示すSEMによる写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の一実施形態について図1〜図7に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
図1は、本発明に係るナノインク塗布装置1を示す透過斜視図である。ナノインク塗布装置1は、合成部2、調製部3および塗布部4を備えている。ナノインク塗布装置1は、ナノインクの合成から塗布までを行うものである。各構成について以下説明する。
【0041】
<1.合成部>
合成部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を合成するものである。本明細書において「ナノ粒子」は、金属ナノ粒子および半導体ナノ粒子を包含するものであり、ナノ粒子の説明では、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の両方が対象となる。合成部としては、ナノ粒子の合成を実現可能であり、マイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備えるものであれば特に限定されない。ナノ粒子は非常に微細であるため、反応条件を精密に制御できるマイクロリアクターは、ナノ粒子の合成に好適な合成手段である。
【0042】
さらに、マイクロリアクターが流通式リアクターであるために、(1)インク調製部への接続がスムーズに行えること、および、(2)マイクロリアクターは、元来、数mm以下の細い管型リアクターであるために、小型化が非常に容易であること、さらに、(3)マイクロリアクターは容積が小さいために、デッドボリュームを小さく抑えることが可能である。また、マイクロリアクターは省スペースであり、スペース効率にも優れている。このような観点から、合成部は、マイクロリアクターによってナノ粒子の合成を行うものである。ナノインク塗布装置1が備える合成部2について説明する。
【0043】
合成部2は、ナノ粒子の原料等が収容された複数の原料ポンプ11に連結されており、マイクロチャネル12が形成されたマイクロリアクター13および圧力調整器14を含んでいる。合成部2の形状は、チューブ型(円筒型)、U字型、チップ型など何れの形状であってもよく、例えば、直径が5mm以上、10mm以下のチューブ型にできる。また、合成部2は塗布部4よりも小さいことが好ましい。「合成部2は塗布部4よりも小さい」とは、具体的には、塗布部4の最大長よりも合成部2の最大長が小さいことを意味する。
【0044】
原料ポンプ11は、ナノ粒子を合成するための原料を収容するものであり、マイクロシリンジ、プランジャーポンプまたはスクリューポンプなどにより構成できる。なお、原料ポンプ11は、ナノインク塗布装置1のように合成部2の外部に設置されていてもよいし、合成部2の内部に設置されていてもよい。
【0045】
それぞれの原料ポンプ11に収容される原料としては、金属塩などの金属含有原料、および還元剤、界面活性剤、反応溶媒、分散剤などが挙げられる。金属含有原料、還元剤、界面活性剤および反応溶媒は、マイクロチャネル12に供給されて混合され、反応液となる。
【0046】
上記反応液は上記原料を含み、当該原料は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の金属供給源となる金属含有原料と、金属含有原料以外の原料とに大きく分類され、金属含有原料以外の原料には、還元剤、界面活性剤、反応溶媒、分散剤およびカルコゲン原料が含まれる。まず、金属ナノ粒子を合成する場合について説明する。
【0047】
原料ポンプ11において、金属ナノ粒子の金属含有原料は下記反応溶媒に溶解されており、必要に応じて下記分散剤が上記反応溶媒に添加された状態で収容されている。なお、ナノインク塗布装置1では、反応溶媒および分散剤は、それぞれ別の原料ポンプ11に単独で収容されている。
【0048】
金属含有原料としては、例えば、銅、アルミニウム、銀などを含む有機金属化合物が挙げられる。銅を含有する有機金属化合物としては、塩化銅(II)、塩化銅(I)などの無機塩;酢酸銅(II)、ギ酸銅(II)、エチル酪酸銅(II)、ビス(2−エチルヘキサン酸)銅(II)などのカルボン酸塩;ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート 銅(II)、ビスペンタンジオンネート銅(II)などのアセチルアセトン誘導体塩;銅(II)メトキシドなどのアルコキシドが挙げられる。
【0049】
また、アルミニウムを含有する有機金属化合物としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどの無機塩、トリエトキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウムなどのアルコキシド;トリフルオロ酢酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等のカルボン酸塩;テトラメチルヘプタンジオンアルミニウム、ペンタンジオンアルミニウムなどのアセチルアセトン誘導体塩などが挙げられる。
【0050】
銀を含有する有機金属化合物としては、酢酸銀、ギ酸銀などのカルボン酸塩;硝酸銀などの無機塩;ペンタンジオン銀、ヘキサフルオロペンタンジオン銀などのアセチルアセトン誘導体塩が挙げられる。
【0051】
ナノインク塗布装置1では、ナノ粒子の合成から、対象物に対するナノインクの塗布までを装置内で行うため、調製部3で調製するナノインクに変質が生じ難い。そのため、品質が不安定な金属ナノ粒子、例えば、酸化による変質が生じ易い銅を金属ナノ粒子として合成する場合、ナノインク塗布装置1の優位性がより顕著となる。
【0052】
金属含有原料を溶解させておく反応溶媒としては、金属含有原料および還元剤の種類に応じて適宜変更すればよく、炭素数が2以上、12以下の、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;炭素数が2以上、12以下のエタノール、炭素数が2以上、12以下の、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール;炭素鎖数が2以上、12以下の、ジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、などのエーテル類を用いることができる。
【0053】
反応溶媒の炭素数は好ましくは2以上、12以下、更に好ましくは8以下である。炭素数の小さな反応溶媒を使用する事により、塗布部でナノインクを焼結する際、精製後残留した反応溶媒がより低温で揮発するため、低温でナノインクを焼結できる。
【0054】
また、分散剤は、界面活性剤を含むものであって、生成したナノ粒子を安定して分散させるためのものであり、ナノ粒子の安定化に大きな効力を発揮する。分散剤としては、炭素数が2以上、12以下の分散剤としてドデシルアミン、ドデカンチオール、ノナン酸を、炭素数が2以上、8以下の分散剤としてオクチルアミン、ヘキシルアミン、プロピオン酸、酪酸、オクタンチオール、ヘキサンチオールなどを挙げることができる。分散剤を合成に用いることにより、生成するナノ粒子の分散性を調整できる。
【0055】
分散剤の炭素数は好ましくは2以上、12以下、さらに好ましくは8以下である。炭素数の小さな界面活剤を使用することにより、塗布部でナノインクを焼結する際、洗浄後残留した分散剤が低温で揮発するため、低温でナノインクを焼結できる。
【0056】
金属含有原料を還元する還元剤としては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ボラン−ジメチルアミン錯体、トリメチルアミンボラン、ジフェニルアミンボラン、ヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ジフェニルシラン、メチルフェニルシランなどが挙げられる。
【0057】
還元剤の炭素数は好ましくは2以上、12以下、さらに好ましくは8である。炭素数の小さな還元剤を使用することにより、塗布部でナノインクを焼結する際、精製後に残留した還元剤が低温で蒸発し易いために、低温でナノインクを焼結できる。
【0058】
反応液における還元剤の濃度は、特に限定されないが、通常、金属イオンの1倍等量以上、1000倍等量以下であり、好ましくは2倍等量以上、100倍等量以下である。
【0059】
さらに、CdSe、ZnSe、ZnS、CdS、CdTeなどの半導体ナノ粒子を、金属ナノ粒子の代わりに用いて、半導体ナノ粒子とすることも可能である。この場合、分散剤および溶媒には上述の金属ナノ粒子の原料の場合と同じ物を用いることができる。半導体ナノ粒子の原料に関しては、カドミウムや亜鉛など半導体に含まれる金属イオンを含む錯体、つまり、酢酸、ギ酸、アセチルアセトン、カルバミン酸、キサントゲン酸およびアルコキシドなどを配位子として持つ金属錯体を、半導体ナノ粒子の金属含有原料として、チオ尿素、セレノ尿素などのカルコゲン誘導体、トリブチルフォスフィンと硫黄、セレン、テルルなどのカルコゲンとの化合物などをカルコゲン原料として、用いることができる。半導体ナノ粒子の金属含有原料とカルコゲン原料との反応により半導体ナノ粒子を合成できる。
【0060】
分散剤および反応溶媒については上述した通りであり、別の原料ポンプ11から分散剤および反応溶媒うち少なくとも一方を反応溶液に供給することにより、反応溶液中の金属含有原料および分散剤の濃度を調整できる。ナノインク塗布装置1では、金属含有材料が収容されている原料ポンプ11とは別の原料ポンプ11に単独で収容されているが、これらを単独で収容する必要がなければ変更可能である。
【0061】
また、必要に応じて、原料ポンプ11には、錯化剤、沈殿剤などをそれぞれ収容していてもよい。
【0062】
反応液における金属含有原料の濃度は、特に限定されないが、通常、1mmol/L以上、1mol/L以下であり、好ましくは5mmol/L以上、100mmol/L以下である。濃度が高い場合は凝集が起こり易く、濃度が低い場合は一定濃度のインクを一定量調製するために時間がかかり、ナノインクの供給が塗布に追いつかない。
【0063】
反応液における分散剤の濃度は、特に限定されないが、通常、0.1 mmol/L以上、10mol/L以下であり、好ましくは1mmol/L以上、1mol/L以下である。
【0064】
マイクロリアクター13は、ナノ粒子を合成する場となるものであり、マイクロリアクター13を構成する材料として、ナノ粒子の材料に反応性を示さず、加熱により変性を受けない不活性材料が用いられる。
【0065】
マイクロリアクター13を構成する材料としては、ガラス、石英、シリカ、マグネシア、ジルコニア、アルミナ、アパタイト、窒化ケイ素;チタン、アルミニウム、イットリウム、タングステン、のような金属酸化物;炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ化物、などのセラミックスを挙げることができる。この他、ポリ4フッ化エチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどのプラスチックなども用いることができる。
【0066】
マイクロリアクター13の形状は、通常、板状の直方体であるが、必要に応じて変更すればよい。なお、図示しないがマイクロリアクター13にはヒーターが設置されており、マイクロチャネル12に供給された原料を一定温度に加熱できる構成となっている。
【0067】
このマイクロリアクター13には、マイクロチャネル12が形成されている。マイクロチャネル12は、ナノ粒子の原料を含む反応液の経路となるものであり、それぞれの原料ポンプ11から供給された原料は、このマイクロチャネル12を通過する間に混合され、反応する。
【0068】
マイクロチャネル12は、マイクロドリルもしくはレーザを用いる加工、またはエッチング処理により刻設することができる。このマイクロチャネル12は幅10μm以上、5mm以下、好ましくは200μm以上、2mm以下であり、深さ10μm以上、5mm、好ましくは50μm以上、2mm以下のサイズで刻設される。このマイクロチャネル12の長さは特に制限されないが、金属含有材料と還元剤との反応時間等から、通常、100mm以上、30m以下、好ましくは、70cm以上、10m以下の範囲に設定される。特に、長いマイクロチャネルを用いる場合は、管径50μm以上、5mm以下、好ましくは、100μm以上、2mm以下のキャピラリを用いることもできる。
【0069】
圧力調整器14は、マイクロチャネル12に導入されたナノ粒子の原料を含む反応液に圧力を印加するものである。圧力調整器14としては、例えば、背圧調整器が例示される。本背圧調整器の材質も、ナノ粒子および用いる化学物質に反応性を示さず、使用する温度で変性を受けない不活性材料が好ましい。背圧調整器はマイクロチャネル12に設置され、好ましくは、マイクロチャネル12において金属含有原料と還元剤とが反応を開始する箇所以降に設置される。
【0070】
圧力調整器14によって、金属含有原料、還元剤、分散剤および反応溶媒を含む反応液に圧力を印加することによって反応溶媒の沸点が上昇するため、反応溶媒の揮発を抑制し、反応液を液体状態に保つことができる。これにより、沸点の低い反応系を用いても液相でナノ粒子の合成を行うことが可能である。
【0071】
圧力調整器14により印加する圧力は、金属含有原料、還元剤、分散剤および反応溶媒の種類および使用量によって適宜変更される。概して、0.1MPa以上、5MPa以下の圧力を反応液に印加すればよいが、臨界温度、臨界圧力以上の加温および加圧は溶液が超臨界状態に変化して、溶媒物性が急激に変化して化学反応及び反応容器と化学種および生成物との相互作用が急激に変化するため、これを用いない。
【0072】
合成部2のマイクロリアクター13のうち反応が起こる箇所は、外気に敏感なため、マイクロリアクター13は、図示しない蓋部等によって基本的に密閉されており、ナノ粒子の合成時、マイクロリアクター13の周囲は不活性ガスで満たされる必要はない。
【0073】
上記反応液がマイクロチャネル12を通過する過程で、金属含有原料が還元剤によって還元され、分散剤によって好適に分散したナノ粒子が合成される。上記反応液中の還元反応によって得られるナノ粒子の種類は、金属含有原料の種類に応じて異なる。
【0074】
上記反応液中の還元反応によって得られた金属ナノ粒子は、平均粒子径(直径)がナノオーダーである。金属ナノ粒子の平均粒子径は、ナノインクの用途に応じて所望の値となるよう合成条件が適宜設定されるが、概して、2nm以上、30nm以下である。また、平均粒子径の測定方法としては、例えば、動的光散乱法、透過型顕微鏡による観察法などが挙げられる。半導体ナノ粒子の平均粒子径についても同様である。
【0075】
本発明に係るナノインク塗布装置では、合成部は複数備えられていてもよい。図2は、合成部が複数備えられており、複数の合成部2・2aが調製部3に連結しているナノインク塗布装置1aを示す概略図である。
【0076】
ナノインク塗布装置1aでは、合成部として複数系列の合成部2・2aが調製部3に連結している、すなわち、合成部2・2aを平行して用いることにより、多様な合成手法が可能となる。例えば、後に詳述する調製部3または保存機構30の前などで、合成部2・2aのマイクロチャネル同士を適宜合流させることにより、ナノ粒子の生産速度を高めることが可能である。さらに、これら複数系列の合成部2・2aに異なる合成条件を適宜適用することで、最終生成物となるナノインクの粒度分布を調整することが可能になる。
【0077】
<2.調製部>
調製部は、合成部で合成されたナノ粒子を精製し、上記ナノ粒子を含むナノインクを調製するものである。調製部3の一例を図3に示す。図3は調製部3を示す構成図であり、合成部2と調製部3とは外気を遮断する密閉パイプで連結されており、合成されたナノ粒子を含むコロイドは密閉パイプを介して、調製部3に移動する。なお、合成部2および調製部3が一体として形成されており、コロイドがマイクロチャネル(マイクロ流路)を介して調製部3に移動する構成とすることも可能である。
【0078】
調製部3は、バルブ21、マイクロミキサー22、バルブ23、フィルター24およびバルブ25を含んでおり、さらに貧溶媒供給機構26、分散液供給機構27、濾液排出機構28、分析機構29および保存機構30が備えられている。調製部3は、好ましい形態として、マイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備えており、バルブ21、マイクロミキサー22、バルブ23、フィルター24およびバルブ25は、マイクロチャネルに連結されている。
【0079】
上記マイクロチャネルは、ナノ粒子を含むコロイドまたはナノインクの経路となるものであり、ナノ粒子、貧溶媒供給機構26から供給される貧溶媒、分散液供給機構27から供給される分散液などは、このマイクロチャネルに供給される。ナノ粒子は非常に微細であるため、ナノ粒子を含むコロイドまたはナノインクの経路として、マイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを用いることは、ナノインクの調製に好適である。
【0080】
上記マイクロチャネルは、マイクロドリルもしくはレーザを用いる加工、またはエッチング処理により刻設することができる。このマイクロチャネルは幅10μm以上、5mm以下、好ましくは200μm以上、2mm以下であり、深さ10μm以上、5mm、好ましくは50μm以上、2mm以下のサイズで刻設される。このマイクロチャネルの長さは特に制限されないが、ナノインクの調製処理を考慮して、通常、100mm以上、30m以下、好ましくは、70cm以上、10m以下の範囲に設定される。特に、長いマイクロチャネルを用いる場合は、管内径50μm以上、5mm以下、好ましくは、100μm以上、2mm以下のキャピラリを用いることもできる。
【0081】
なお、上記マイクロチャネルに代えてパイプを流路としてもよい。調製手段5は、貧溶媒供給機構26、フィルター24、分散液供給機構27および濾液排出機構28を少なくとも含むものとする。
【0082】
バルブ21・23、25は、ナノインク塗布装置1の外部からの操作により開閉可能な構成となっている。
【0083】
貧溶媒供給機構26は、コロイドに貧溶媒を供給するものである。具体的には、貧溶媒を収容する貧溶媒ポンプ31から貧溶媒を供給する流路により構成でき、パイプなどにより構成できる。また、貧溶媒ポンプ31は、マイクロシリンジなどにより構成でき、ナノインク塗布装置1のように調製部3の外部に設置されていてもよいし、調製部3の内部に設置されていてもよい。
【0084】
「貧溶媒」とはナノ粒子に対して分散性が低い溶媒を示す。もう一つの特性としては、除去したい不純物に対する溶解性が高い特性が必要である。ナノ粒子の表面が比較的疎水的な場合、すなわち、トルエンやエーテルなどの疎水性溶媒で合成を行った場合は、貧溶媒として、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、ホルムアルデヒドなどのケトン類;テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。一方で、ナノ粒子の表面が比較的親水的な場合、すなわち、ナノ粒子を溶媒内で合成を行った場合、即ち、水やエタノールなどで合成した場合は、貧溶媒として、ヘキサンやトルエン、オクタノールなどの極性の低い溶媒を用いることができる。
【0085】
なお、貧溶媒は、未反応物質や副生成物を極力取り除く役割も持つ。このため、貧溶媒は、添加した原料を溶解するために十分な量を添加する必要がある。その量は、貧溶媒への原料溶解度×添加した貧溶媒量で計算できる。
【0086】
コロイドに貧溶媒を供給することにより、コロイド中のナノ粒子が凝集するため、下流に設置されたフィルター24にてナノ粒子が好適に捕捉される。
【0087】
マイクロミキサー22は、貧溶媒をコロイドと好適に混合するものであり、調製手段5に好ましい形態として含まれている。貧溶媒およびコロイドがマイクロミキサー22に収容される前にバルブ23が閉じられ、混合終了後にバルブ23が開けられ、
貧溶媒およびコロイドがフィルター24へ送られる。マイクロミキサー22のタイプとしては、特に限定されず、例えば、チップ型、三角型、長方型、ディスク型、衝突型またはキャピラー型が挙げられる。マイクロミキサー内での凝集粒子による閉塞を抑制するために、マイクロミキサー22による、上記コロイドと貧溶媒との混合時間は、短時間であることが好ましい。具体的には、0.001秒以上、100秒以下であることが好ましく、より好ましくは、0.1秒以上、10秒以下である。
【0088】
フィルター24は、貧溶媒と混合されたコロイドを濾過するものである。これにより、ナノ粒子以外の物質、例えば、分散剤、未反応原料および副生成物などがナノ粒子と分離され、ナノ粒子が洗浄される。フィルター24の細孔径(直径)は、ナノ粒子の凝集体サイズによって適宜変更すればよいが、概して、100nm以上、50μm以下である。
【0089】
フィルター24にて濾過を行う前にはバルブ25が廃液タンク32への流路を形成するように開放され、フィルター24から濾液排出機構28への流路が形成される。フィルター24での濾過により分離された濾液は濾液排出機構28によって排出され、廃液タンク32にて収容される。一方、凝集したナノ粒子はフィルター24にて捕捉される。
【0090】
ナノインク塗布装置1では、フィルター24を用いてナノ粒子を捕捉する構成としているが、フィルター24に代えて多孔質体を用いてもよい。多孔質体は表面積が大きいため、貧溶媒が添加されたコロイド中のナノ粒子を多孔質体の表面に吸着させることにより、ナノ粒子を捕捉できるというフィルターと同様の作用が得られる。この手法は、ナノ粒子が液滴中に高濃度に分散されている場合や、ナノ粒子の生成量が少ない場合などに好適である。
【0091】
多孔質体の孔径(直径)としては、100nm以上、100μm以下の多孔質体を好適に使用できる。また、多孔質体の具体例としては、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの化学的に不活性な材質を利用することができ、上記不活性な材質の材料の微粒子を堆積させた物を多孔質体として利用することも可能である。ナノ粒子と多孔質表面との相互作用を制御するために、シランカップリング剤などを用いて適宜多孔質体の表面を改質することもできる。
【0092】
ナノ粒子と濾液が分離され、濾液がフィルター24から排出された後、バルブ25が分析機構29への流路を形成するように開放され、フィルター24から分析機構29への流路が形成される。
【0093】
分散液供給機構27は、ナノ粒子が分散可能な分散液を供給するものであり、フィルター24に捕捉されたナノ粒子に対して分散液を供給する。この供給により、ナノ粒子が分散液に分散し、ナノインクが調製される。ナノ粒子の濃度は、ナノインクの濃度分散液の使用量により調整可能で、例えば、分散液を少量用いることにより、ナノ粒子が高濃度であるナノインクを調製することが可能である。例えば、濾過前の体積に対して、1/20の分散液を用いることにより、ナノ粒子の濃度を20倍に増加させることができる。
【0094】
分散液供給機構27は、具体的には、分散液を収容する分散液ポンプ33から分散液を供給する流路により構成でき、パイプなどにより構成できる。また、分散液ポンプ33は、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、などにより構成でき、ナノインク塗布装置1のように調製部3の外部に設置されていてもよいし、調製部3の内部に設置されていてもよい。
【0095】
「分散液」とは、ナノ粒子が分散可能な液体を示す。換言すると、ナノ粒子とコロイドを形成する液体であると表現できる。分散液は、ナノ粒子の表面特性に応じて適宜変更され、疎水的な表面を持つナノ粒子に対しては、具体的には、炭素数が2以上、12以下の分散液として、トルエン、ヘキサン、オクタン、1−デセン、1−ドデセン、1−オクテン、オクタノール、デカリン、ヘキシルアミンなどを挙げることができる。なお、多孔体質によってナノ粒子を吸着する場合、分散液として、多孔質体とナノ粒子の表面との両方に高い親和性を有するものを選択する必要がある。
【0096】
ナノ粒子に分散液を供給することにより、分散液中にてナノ粒子が分散され、ナノインクが調製される。すなわち、「ナノインク」とは、分散液中にナノ粒子が含まれたコロイドであると表現できる。ナノインク中のナノ粒子の平均粒子径は特に限定されないが、概して、2nm以上、30nm以下である。
【0097】
分析機構29は、ナノインクの成分、粘度または濃度を分析するものであり、好ましい形態として調製部3に備えられている。分析機構29が備えられていない場合、ナノインクは、保存機構30へ送られ、分析機構29および保存機構30が備えられていない場合、ナノインクは、塗布部4へ送られる。
【0098】
分析機構29によって、例えば、ナノインクの成分であるナノ粒子に対して表面プラズモンスペクトルを測定することにより、ナノ粒子の相対的な粒径または酸化状態を測定できる。また、ナノインクが半導体ナノインクの場合は、バンドギャップに基づく吸収スペクトルおよび吸収端ピークの確認によって、ナノインクの成分を確認できる。さらに、ナノインクの濃度は、ナノインクの吸収スペクトルの特定若しくはある領域の波長の吸光度に対してLanbert-Beerの法則を適用することにより求めることができる。更に、ナノインクの粘度は、ナノインクの調製後に設置した細管前後の圧力損失を測定することにより求めることが可能になる。
【0099】
分析機構29が備える測定機器としては特に限定されないが、例えば、赤外分光測定機器、紫外可視分光測定機器、差圧計などを挙げることができ、単独または複数で分析機構に備えられていてもよい。分析機構29によるナノインクの分析によって、ナノ粒子の濃度、分散状態、粘度等が所望の値となっているか否かが確認される。ナノインクの品質に問題がない場合、ナノインクは保存機構30に送られ、保存機構30が備えられていない場合、ナノインクは塗布部4へ送られる。一方、分析機構29の下流には図示しない開閉バルブおよび流路が設置されており、ナノインクの品質に問題がある場合、ナノインクは図示しない流路を介して廃液タンク32へ排出される。その後、分散液供給機構27から分散液が流路に供給され、流路が洗浄される。なお、廃液タンク32は、ナノインク塗布装置1のように調製部3の外部に設置されていてもよいし、調製部3の内部に設置されていてもよい。
【0100】
保存機構30は、ナノインクを保存するためのものであり、好ましい形態として調製部3に備えられているが、調製部3、塗布部4、または調製部3と塗布部4との間に備えられていればよい。
【0101】
マイクロリアクター13にてナノ粒子を合成する場合、一時的に合成速度が、塗布部4でのインクの塗布速度よりも遅くなり得るが、保存機構30にナノインクが保存されていることにより、塗布部4での必要量を満たすナノインク量を確保できる。保存機構30は、不活性ガスを充填することが可能で、適切なガス圧力を保つことができる容器であればよい。
【0102】
一例を図4に示す。図4は、保存機構30を示す側面図である。図4では、三角形の断面を有する容器を保存機構30として使用しており、圧力調整器Pから不活性ガスを供給でき、バルブVには不活性ガスの排出を制御可能な構造となっている。
【0103】
まず、圧力調整器Pから不活性ガスを導入し、保存機構30の内部ガスをバルブVから排出し、保存機構30の内部を不活性雰囲気にした後、圧力調整器Pで保存機構30の圧力を調整する。ナノインクを塗布部4へ輸送するために必要な圧力に応じて、保存機構30の圧力を解放圧(0気圧)に調整しても良いし、適切な加圧器で加圧しても構わない(通常は、0.1気圧以下)。分析機構29側から輸送されたナノインクは、重力により保存機構30の底部にたまり、底部から塗布部4に輸送される。
【0104】
調製部3の出口付近を細くすることで、少量のインクでも圧力を相応の高さにを保たせ、塗布部4へのバブルの混入を防ぐことが可能になる。保存機構30の容量は、ナノインクの流量変化を十分に吸収できる物であればよく、例えば、100μL以上、10mL以下であればよい。
【0105】
分散液の蒸発によるナノインク濃度の変化の抑制の観点から、バルブVを閉じて圧力調整器Pのみによる圧力調整を行うか、圧力調整器Pを解放して圧力調整を行わず、重力のみで塗布部4にナノインクを導入する方法が望ましい。なお、自重のみで塗布部4へナノインクの送り込みが可能な場合は、塗布部4の不活性雰囲気の充填空間は通常ナノインクの流量よりも十分に大きい空間を持つ。このため、この保存機構30として、後述するような、塗布部4に備えられたインクタンクを利用することも可能である。
【0106】
なお、調製部3でも、内部の反応溶またはナノインクは、基本的に外部から図示しない蓋部等によって遮断されているために、反応溶またはナノインクの周りを特に、不活性雰囲気とする必要はない。
【0107】
調製部3と塗布部4とは外気を遮断する密閉パイプで連結されており、ナノインクは密閉パイプを介して、塗布部4に移動する。密閉パイプでのナノインクの滞留が生じ難くするために、密閉パイプの直径は、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。なお、調製部3および塗布部4が一体として形成されており、ナノインクがマイクロチャネルまたはパイプを介して調製部3に移動する構成とすることも可能である。
【0108】
図5は、調製部3の変形例である調製部3aを示す構成図である。図5(a)に示すように、調製部3aは、複数の調製手段として調製手段5・5aを備えており、調製手段5・5aが直列に配置されている。なお、調製手段5aに含まれる各部材について、調製手段5に含まれる各部材と同一の部材には同一の部材名を付しており、その説明を省略する。
【0109】
本構成によれば、(1)貧溶媒供給機構26aから、調製手段5によって調製されたナノインクに貧溶媒を供給し、(2)マイクロミキサー22aによって、貧溶媒とコロイドとを好適に混合してナノ粒子を凝縮させる。さらに、(3)フィルター24aでの濾過によりナノインクから分離された濾液は濾液排出機構28aによって排出され、(4)分散液供給機構27aによって、フィルター24に捕捉されたナノ粒子に対して分散液が供給され、ナノインクが再度調製される。
【0110】
上記(1)〜(4)の過程において、濾液の分離がなされ、濾液に含まれる副生成物、未反応の原料などをナノ粒子から分離することによって、ナノ粒子を再度洗浄できる。複数の調製手段を備える調製部3によれば、ナノ粒子の洗浄を複数回行うことができ、より不純物の少ない、より高純度なナノインクを提供できる。なお、図5(a)では、2つの調製手段が直列に備えられた構成を示したが、調製手段は3つ以上備えられていてもよく、所望の洗浄回数に応じて調製手段の設置数を増加させればよい。
【0111】
調製部3の他の変形例を図5(b)に示す。図5(b)は、調製部3の変形例である調製部3bを示す構成図である。図5(b)に示すように、調製部3bは、複数の調製手段として調製手段5・5aを備えており、調製手段5・5aが並列に配置されている。なお、調製手段5bに含まれる各部材について、調製手段5に含まれる各部材と同一の部材には同一の部材名を付しており、その説明を省略する。
【0112】
本構成によれば、フィルターによるナノ粒子の濾過と、ナノ粒子の分散とをそれぞれの調製手段にて並行して行うことができ、ナノインクの連続的な調製が可能となる。すなわち、フィルター24・24aによる濾過では、コロイド溶液の濾過量に応じて濾過時間が増加するため、フィルター当たりのコロイド溶液の濾過量を減少させれば、濾過時間を短縮できる。そこで、図5(b)のように複数の調製手段を並列に設けることにより、フィルター24・24aでの個々の濾過時間を短縮し、連続的にナノインクを調製できる。なお、図5(b)では、2つの調製手段が並列に備えられた構成を示したが、調製手段は3つ以上備えられていてもよく、所望の並列構成に応じて調製手段の設置数を増加させればよい。
【0113】
調製部3の他の変形例を図5(c)に示す。図5(c)は、調製部3の変形例である調製部3cを示す構成図である。図5(c)に示すように、調製部3cは、複数の調製手段として調製手段5・5a・5bを備えており、調製手段5・5aが直列に配置され、調製手段5・5aと調製手段5bとが並列に配置されている。すなわち、3つの調製手段が直列および並列に配置されている。なお、調製手段5a・5bに含まれる各部材について、調製手段5に含まれる各部材と同一の部材には同一の部材名を付しており、その説明を省略する。
【0114】
調製部3cは、調製部3a・3bの両方の特徴を含んでおり、ナノ粒子の洗浄を複数回行うことができると共に、ナノ粒子の濾過を並列に行うことができる。調製部3cでは、調製手段が直列および並列に配置されているため、少なくとも3つの調製手段が必要である。もちろん、調製手段は4つ以上配置されてもよく、所望の洗浄回数および所望の並列構成に応じて調製手段の設置数を増加させればよい。
【0115】
調製部3の変形例を図6に示す。図6は、調製部3の変形例である調製部3dを示す構成図である。図6に示すように、調製部3dは、調製手段5に加えて、バルブ34、マイクロミキサー35、ヒーター(加熱部)36、バルブ37、マイクロミキサー38、バルブ39およびフィルター40を含んでいる。さらに表面改質剤供給機構41、貧溶媒供給機構42、分散液供給機構43、濾液排出機構44、分析機構29および保存機構30が調製手段5の下流の流路に連結されている。改質手段6は、表面改質剤供給機構41、貧溶媒供給機構42、フィルター40、分散液供給機構43および濾液排出機構44を少なくとも含むものとする。図3の調製部3に含まれる各部材と同一の部材には同一の部材名を付しており、その説明を省略する。
【0116】
表面改質剤供給機構41は、ナノインクに表面改質剤を供給するものである。具体的には、表面改質剤を収容する表面改質剤ポンプ31aから表面改質剤を供給する流路により構成でき、パイプなどにより構成できる。また、表面改質剤ポンプ31aは、マイクロシリンジなどにより構成でき、調製部3dの外部に設置されていてもよいし、調製部3dの内部に設置されていてもよい。
【0117】
表面改質剤とは、ナノインク中のナノ粒子の表面を改質するものであればよいが、この表面改質材は直接ナノインク中に添加され、塗布されるために、なるべく炭素数が小さい物、特に、炭素数が、2以上、12以下、特に望ましくは8以下のものが望ましい。一例として、ヘキシルアミン、ヘキサノール、ヘキサンチオール、ベンゼンチオール、ヘキサン酸などが挙げられる。表面改質剤の供給前には、バルブ34が開かれ、表面改質剤がナノインクに供給される。表面改質剤の供給量は、使用する表面改質剤の種類およびナノ粒子の濃度などに応じて適宜変更すればよい。
【0118】
マイクロミキサー35は、表面改質剤とナノインクとを好適に混合するものであり、改質手段6に好ましい形態として含まれている。表面改質剤およびナノインクがマイクロミキサー35に収容される前にはバルブ37が閉じられる。マイクロミキサー35のタイプとしては、特に限定されず、例えば、チップ型、三角型、長方型、ディスク型、衝突型またはキャピラー型が挙げられる。
【0119】
ヒーター36は、マイクロミキサー35に収容される表面改質剤およびナノインクを加熱するものである。加熱温度は特に限定されず、表面改質剤の反応温度、ナノインクの溶媒温度等に応じて適宜変更すればよい。ヒーター36による加熱により、ナノ粒子に対する表面改質剤の反応効率を高めることができる。ヒーター36としては特に限定されず、公知のヒーターを使用できる。
【0120】
さらに、表面改質剤によって表面が改質されたナノ粒子に対して、マイクロミキサー38、バルブ39、フィルター40、貧溶媒供給機構42、分散液供給機構43および濾液排出機構44によって洗浄がなされる。この洗浄については、図3の調製部3におけるナノ粒子の洗浄と同様であるため、説明を省略する。改質手段6を備えるナノインク塗布装置によれば、所望の表面改質がなされたナノ粒子を含むナノインクを調製でき、多様なナノインク調製の要求に対応可能である。
【0121】
<3.塗布部>
図7は塗布部4を示す斜視図である。塗布部4は、調製部3からナノインクが供給され、対象物にナノインクを塗布するものである。ナノインク塗布装置1では、塗布部4が筐体に覆われており、ナノインクを外気に触れさせることなく、対象物へのナノインクの塗布を密閉条件下で行うことができ、ナノ粒子がナノインク塗布装置1の外部に飛散せず、ナノリスクが生じない。また、ナノインク塗布装置1内では、ナノ粒子の合成からナノインクの塗布までの工程がなされる。調製したナノインクを装置内にて使用するため、ナノインクの調製から塗布までの時間を短縮でき、ナノインクの変質を極めて効率的に抑制できる。
【0122】
本発明に係るナノインク塗布装置1は、ナノ粒子の合成からナノインクの塗布までを装置内で行う密閉系オンサイト型装置であると共に、所望の際にナノインクを調製するオンディマンド型装置でもある。なお、合成部2および調製部3は、塗布部4とは異なり、必ずしも筐体に覆われている必要はないが、1つの筐体に合成部2、調製部3および塗布部4が覆われていてもよい。また、1つの筐体に合成部2、調製部3および塗布部4のうち1つが覆われ、もう一方の筐体に合成部2、調製部3および塗布部4のうち1つが覆われていてもかまわない。
【0123】
塗布部4は、対象物にナノインクを塗布することができればよく、特に限定されるものではない。塗布部4は、例えば、スピンコーター機構、インクノズルからナノインクを吐出して対象物にナノインクを塗布するインクジェット機構、スプレーによりナノインクを塗布するスプレー機構、ドクターブレードによってナノインクを塗布するドクターブレード機構などを備える構成とできる。
【0124】
この中でも、均一なナノインクの薄膜を容易に形成できる観点から、塗布部4がスピンコーター機構を備えることが好ましい。
【0125】
ナノインク塗布装置1における塗布部4は、このスピンコーター機構および換気手段を備えている。スピンコーター機構は、ナノインクを対象物に塗布し、対象物を回転させることによって、ナノインクを薄膜状にするものであり、従来公知の構造を採用できる。以下、スピンコーター機構の一例を示す。
【0126】
図7に示すスピンコーター機構は、台部50、モータ51および回転軸(焼結機構)52を備えており、さらにインクポンプ54およびインクノズル55を備えている。
【0127】
スピンコータ機構には、図示しないインクタンクが備えられており、調製部3から供給されたナノインクが一旦、インクタンクに貯蔵される。このインクタンクは、インクポンプ54と連結しており、インクポンプ54からインクノズル55へナノインクが供給され、インクノズル55からナノインクが、回転軸52上に配置された基板(対象物)53に供給される。
【0128】
一方、台部50は、スピンコーター機構の土台となる部材である。台部50の上には、モータ51が備えられており、モータ51の駆動力が回転軸52に伝動され、回転軸52が回転する。回転軸52の回転と共に、基板53も回転し、ナノインクが基板53の表面において均一な厚さで塗布される。
【0129】
回転軸52にはヒーターが内蔵されており、均一に塗布されたナノインクを焼成することができ、回転軸52は対象物に塗布したナノインクを焼結する焼結機構としての役割を果たす。ナノインク塗布装置1では、密閉条件下でナノインクを調製するため、ナノインクに変性が生じ難く、吸湿や酸化もほとんど生じない。さらに、精製後に残留している反応溶液からの残留物も低温で蒸発するため、低温でナノインクを焼結可能である。
【0130】
ナノインクの焼結温度は、高温であるほど、ナノインク中の溶媒、分散剤(さらには、ナノインクに残留している錯化剤、沈殿剤)などの除去が容易となるが、同時にエネルギー消費量が増加する。さらには、配線基板として、カプトンやガラスなどの耐熱性の高い特殊な材料を使用する必要が生じる。このため、上述したように、ナノインク中の還元剤および分散剤を好適に選定することが望ましい。具体的には、合成部2において使用される、ナノ粒子の原料を含む反応液では、金属含有原料以外の原料の炭素数が2以上、12以下であることが好ましい。また、好ましくは、金属含有原料以外の原料の炭素数は2以上、8以下である。金属含有原料以外の原料の炭素数が1である場合、反応溶液の選択肢が制限される点で好ましくないが、炭素数が1の原料が、反応液に含まれていてもかまわない。
【0131】
金属含有原料以外の原料とは、還元剤、界面活性剤、分散剤、反応溶媒、貧溶媒、分散液、カルコゲン原料などである。金属含有原料以外の原料として、炭素数が2以上、12以下である化合物を使用することにより、回転軸52によってナノインクを焼結する際、金属含有原料以外の原料が低温で分解または揮発するため、低温でナノインクを焼結できる。
【0132】
具体的には、金属含有原料以外の原料の炭素数が2以上、12以下である場合、焼結機構である回転軸52により焼結を120℃以上、180℃以下の温度で行うことができ、より好ましくは、140℃以上、160℃以下の温度で行うことができる。また、金属含有原料以外の原料の炭素数が8以下である場合、焼結を100℃以上、160℃以下の温度で行うことができ、より好ましくは、120℃以上、160℃以下、さらに好ましくは、140℃以上、160℃以下の温度で行うことができる。従来、200℃を超える温度で焼結を行っていたことを考慮すると、本発明での焼結温度は非常に低温であるといえる。
【0133】
基板53の材料としては焼結温度以上の温度耐性がある物であれば特には問わないが、石英などのガラス:、セラミック、;PETフィルム(ポリエチレンテレフタラートフィルム)、ポリイミドフィルムなどの高分子フィルムなど公知の材料が挙げられる。特に、PETフィルムは200℃を超える高温の焼成により変質するために、本法の効果が大きい。なお、塗布部4には、図示しない取出口が設置されており、ナノインクが焼成された焼成薄膜を取り出すことができる。
【0134】
塗布部4は内部に不活性ガス雰囲気を供給できる構造となっており、ナノインクの塗布時、基板53の周囲は不活性ガスで満たされた環境となっている。不活性ガスはナノインク塗布装置外部から、または、ナノインク塗布装置に備えられたタンクから供給される。不活性ガスとしては、たとえば、窒素、アルゴンなどが使用される。ナノインクの塗布前に、合成部2の内部へ不活性ガスが供給され、不活性ガス雰囲気が形成される。
【0135】
また、ナノインクを焼結する際、原料の揮発や残留している化学種(還元剤、界面活性剤等)の分解などが生じる。不活性ガス雰囲気を好適に保持するため、塗布部4は好ましい形態として、不活性ガス供給機構60、および、ガス排出機構61を含む換気手段を、塗布部4を覆う筐体15を通して備えている。なお、不活性ガス供給機構60、および、ガス排出機構61は、筐体15の開口部に設置されているが、不活性ガス供給機構60、および、ガス排出機構61は、外気を遮断する構造となっているため、塗布部4へ外気は侵入しない。
【0136】
不活性ガス供給機構60は、塗布部4に不活性ガスを供給するものであり、例えば、ガスポンプによって構成可能である。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが使用される。塗布部4内の気流を乱さないよう、基板53の周りに囲いをするか、スピンコーター機構によってがナノインクの塗布および焼成を行っていない際に、塗布部4に不活性ガスを供給することが好ましい。
【0137】
ガス排出機構61は、塗布部4内のガスを排出するものである。例えば、開閉可能な排気バルブによって構成可能である。ガス排出機構61を開放することにより、塗布部4内のガスが排出される。
【0138】
上記換気手段によれば、塗布部4内に不活性ガスを供給すると共に、原料が揮発したガス等を含む塗布部4内のガスが排出され、塗布部4内の不活性ガス濃度が増加する。これにより、高不活性ガス濃度下の環境下でナノインクの塗布を行うことができる。
【0139】
<4.各部の制御>
以上のように、ナノインク塗布装置1において、バルブ、ポンプ、各種機構、マイクロミキサー等について説明したが、ナノインク塗布装置1のマイクロチャネルには、各種のセンサが設けられており、図示しない制御部へ信号を送信可能となっている。制御部は、(1)バルブ、ポンプ、各種機構、マイクロミキサー等へナノインク塗布装置1の外部から信号を送信し、(2)ポンプの供給動作、バルブの開閉動作、各種機構による供給または排出動作、および、マイクロミキサーの駆動などを制御する。上記制御部は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、CPU(central processing unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0140】
また、オペレータがタッチパネルまたはキーボードなどの外部入力手段を用いて制御部からの情報を変更することにより、ナノインクの調製量、ナノインクの粒度分布、ナノインクの改質の要否の選択、換気手段の動作を制御することも可能である。外部入力手段による操作によって、所望のナノインクを容易に調製することができる。
【0141】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0142】
本発明について、参考例および実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、SEM(走査型電子顕微鏡)写真の撮影および導電性フィルムの抵抗率の測定は以下のようにして行った。
【0143】
<SEM写真の撮影>
撮影対象物に対して、電解放射型操作電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、品番S900)を用いてSEM写真を撮影した。
【0144】
<抵抗率の測定>
PETフィルムに対して、4端子試験装置を用いて、導電性フィルムの抵抗率を測定した。
【0145】
〔参考例1〕
図1、図3、図7を用いて示したナノインク塗布装置を用いてナノインクを調製した。使用した各原料は以下の通りである。
【0146】
金属含有原料(反応溶媒:ジエチルエーテル):ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート 銅(II)(10mM)
界面活性剤(反応溶媒:ジエチルエーテル):オクチルアミン(100mM)
還元剤(反応溶媒:ジエチルエーテル):トリメチルアミンボラン(200mM)
上記3種の原料を各原料ポンプからマイクロリアクターへ供給し、これら原料の混合液を125℃に加熱し、圧力調整器により2.4MPaの圧力をかけることにより、溶液の蒸発を防ぎながら反応を進行させた。反応時間は33秒であった。
【0147】
その後、調製手段において、貧溶媒としてメタノールを、分散液としてトルエンを用いて、7重量%の銅粒子を含むナノインクを調製した。図8(a)は、参考例1に係るSEMによる銅粒子の写真図である。この銅粒子の平均粒子径は、3.9±0.7nmであった。図8(b)は、参考例1に係る銅粒子の粒径分布を示すグラフである。
【0148】
さらに、図9(a)は、参考例1に係る銅粒子の凝集状態を示すSEMによる銅粒子の写真図である。銅粒子の全体としては、粒子間に間隔が形成され、凝集が確認されないものの、銅粒子をより拡大して観察すると、部分的には粒子同士が凝集している箇所が観測された。
【0149】
〔実施例1〕
図1、図3、図7を用いて示したナノインク塗布装置を用いてナノインクを調製した後、PETフィルムに対してナノインクを塗布および焼結し、導電性フィルムを作製した。
【0150】
まず、オクチルアミンを400mM使用した以外は、参考例1と同様にして、ナノインクを調製した。実施例1における銅粒子の平均粒子径は、3.9±0.7nmであり、銅粒子の粒径分布も参考例1と同様であった。
【0151】
図9(b)は、実施例1に係る銅粒子の凝集状態を示すSEMによる銅粒子の写真図である。図9(a)と比較すると、銅粒子の全体図から銅粒子間の間隔がより大きくなっていることが分かる。また、銅粒子をより拡大して観察した場合にも、銅粒子は微視的にも凝集しておらず、良好な分散状態が形成されていた。これは、オクチルアミンの濃度を4倍に増加させたことにより、オクチルアミンにより銅粒子の表面がより被覆され、銅粒子の凝集がより生じ難くなったことに起因する。
【0152】
調製したナノインクをスピンコーター機構を用いて、基板53であるPETフィルムに塗布した。ナノインクの焼結は、100℃、120℃、140℃、160℃の異なる焼成温度にて4パターン行った。焼成後のCuナノインクの塗布厚みは400nm、半径は1cmであった。
【0153】
図10は、実施例1、2において得られた導電性フィルムの抵抗率を示すグラフであり、3.9nmのグラフが実施例1に係る結果を示している。焼結により、粒子同士が凝集して抵抗率が低下し、導電性が向上するため、同図に示すように、焼結温度が増加するほど、抵抗率は低下する結果が得られた。焼結温度が100℃と120℃とでは抵抗率に大きな差が見られたが、120℃と140℃とでは、抵抗率の差は2μΩ・cm程度しか生じず、120℃で良好な焼結が可能であることが明らかとなった。従来、200℃を超える温度で焼結を行っていたことを考慮すると、非常に低温での焼結を実現できたことが分かる。
【0154】
なお、PETフィルムのみを140℃で加熱した場合、PETフィルムの抵抗率は59μΩ・cmであり、PETフィルムのみを160℃で加熱した場合、PETフィルムの抵抗率は、13μΩ・cmであった。ナノインクの焼結によりPETフィルムに導電性を付与できたことが明らかとなっている。160℃を超える温度で焼結を行っていないが、これはPETフィルムが高温により炭化してしまうためである。
【0155】
図11(a)は、実施例1で得られた導電性フィルムの銅薄膜を示すSEMによる写真図である。同図に示すように、焼結により、銅粒子同士が良好に凝集し、間隙の少ない銅薄膜が形成されていることが分かる。
【0156】
〔実施例2〕
図1、図3、図7を用いて示したナノインク塗布装置を用いてナノインクを調製した後、PETフィルムに対してナノインクを塗布および焼結し、導電性フィルムを作製した。
【0157】
まず、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート 銅(II)を20mM使用し、オクチルアミンを400mM使用した以外は、参考例1と同様にして、ナノインクを調製した。図8(c)は、実施例2に係るSEMによる銅粒子の写真図である。この銅粒子の平均粒子径は、8.3±1.7nmであった。ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート 銅(II)の濃度を20mMに変更したため、実施例1の銅粒子よりも平均粒子径の大きな銅粒子が得られた。また、図8(d)は、実施例2に係る銅粒子の粒径分布を示すグラフである。
【0158】
調製したナノインクをスピンコーター機構を用いて、実施例1と同様に、100℃、120℃、140℃、160℃の異なる焼成温度にてナノインクの焼結を行った。得られた導電性フィルムの抵抗率を図10に示す。同図の8.3nmのグラフは実施例2の結果を示している。同図に示すように、実施例1と同様に、低抵抗率の導電性フィルムが得られたことが分かる。
【0159】
図11(b)は、実施例2で得られた導電性フィルムの銅薄膜を示すSEMによる写真図である。実施例2では、銅粒子の平均粒子径が実施例1よりも大きいため、同図に示すように、焼結により、銅粒子同士が良好に凝集し、間隙の少ない銅薄膜が形成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、ナノ粒子を含むナノインクを塗布するナノインク塗布装置に利用することができ、金属配線基板などの集積回路、無線ICタグ、液晶ディスプレイ、電子写真などを使用する分野で利用できる。
【符号の説明】
【0161】
1 ナノインク塗布装置
2 合成部
3・3a・3b・3c・3d 調製部
4 塗布部
5・5a・5b・5c 調製手段
6 改質手段
11 原料ポンプ
12 マイクロチャネル
13 マイクロリアクター
14 圧力調整器
15 筐体
22・22a・35・38 マイクロミキサー
24・24a・24b・40 フィルター
26・26a・26b・42 貧溶媒供給機構
27・27a・27b・43 分散液供給機構
28・28a・28b・44 濾液排出機構
29 分析機構
30 保存機構
52 回転軸(焼結機構)
41 表面改質剤供給機構
60 不活性ガス供給機構
61 ガス排出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを対象物に塗布するナノインク塗布装置であって、
金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を合成する合成部と、
上記合成部で合成された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を精製し、上記金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むナノインクを調製する調製部と、
上記調製部からナノインクが供給され、対象物にナノインクを塗布する塗布部と、を備え、
上記合成部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の原料を含む反応液の経路となるマイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備え、
上記塗布部は、外気を遮断する筐体に覆われていることを特徴とするナノインク塗布装置。
【請求項2】
上記調製部は、
金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むコロイドに、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子に対する貧溶媒を供給する貧溶媒供給機構と、
コロイドを濾過するフィルター、および、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を吸着する多孔質体のうち少なくとも一方と、
上記コロイドの濾過、および、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の吸着のうち少なくとも一方によって分離された濾液を排出する濾液排出機構と、
フィルターに捕捉された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子、および、多孔質体に吸着された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子のうち少なくとも一方に、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子が分散可能な分散液を供給してナノインクを調製する分散液供給機構と、を含む調製手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のナノインク塗布装置。
【請求項3】
上記調製部は、上記コロイドと、上記貧溶媒供給機構によって供給される貧溶媒とを混合するマイクロミキサーを備え、
上記マイクロミキサーによる、上記コロイドと貧溶媒との混合時間が、0.001秒以上、100秒以下であることを特徴とする請求項2に記載のナノインク塗布装置。
【請求項4】
上記塗布部は、対象物に塗布したナノインクを焼結する焼結機構を含み、
上記合成部において使用される、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の原料を含む反応液は、
金属含有原料および金属含有原料以外の原料を含み、
金属含有原料以外の原料の炭素数が2以上、12以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項5】
上記合成部は、
金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子の原料を含む反応液に圧力を印加する圧力調整器を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項6】
上記調製部は、上記調製手段を複数含んでおり、
上記複数の調製手段は、直列もしくは並列、または直列および並列に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のナノインク塗布装置。
【請求項7】
上記調製部は、
調製したナノインクに表面改質剤を供給する表面改質剤供給機構と、
上記ナノインクに貧溶媒を供給する貧溶媒供給機構と、
金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子が分散した貧溶媒を濾過するフィルター、および、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を吸着する多孔質体のうち少なくとも一方と、
フィルターに捕捉された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子、および、多孔質体に吸着された金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子のうち少なくとも一方に、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子が分散可能な分散液を供給してナノインクを調製する分散液供給機構と、を含む改質手段を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のナノインク塗布装置。
【請求項8】
上記調製部は、
ナノインクの成分、粘度または濃度を分析する分析機構を含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項9】
上記塗布部は、
塗布部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構、および、塗布部内のガスを排出するガス排出機構を含む換気手段を、塗布部を覆う筐体を通して備えることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項10】
上記ナノインクが金属ナノ粒子を含み、
上記金属ナノ粒子が銅であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項11】
上記調製部は、金属ナノ粒子または半導体ナノ粒子を含むコロイドまたはナノインクの経路となるマイクロチャネルが形成されたマイクロリアクターを備えることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項12】
上記合成部が複数備えられており、
複数の合成部が上記調製部に連結していることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項13】
ナノインクを保存する保存機構が、上記調製部、上記塗布部、または上記調製部と上記塗布部との間に備えられていることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。
【請求項14】
上記塗布部は、
ナノインクを対象物に塗布するスピンコーター機構を備えることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載のナノインク塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−107163(P2013−107163A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253322(P2011−253322)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構「マイクロ空間場によるナノ粒子の超精密合成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】