説明

ナノインプリント用モールドおよび記録媒体

【課題】
本発明は、被転写体全面に一回の加圧で微細構造を転写でき、ベース層の分布を均一と出来るナノインプリント用モールド、および本モールドを適用して生産される記録媒体を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、被転写体、またはモールドの複数の箇所に樹脂材料を配し、モールドによって前記樹脂材料を押し広げることでモールド上の形状を前記樹脂材料に転写するナノインプリントに用いるモールドであって、前記モールドが形状,間隔の何れが異なる凹凸形状を有する複数の領域を有し、前記の個々の樹脂材料が押し広げられる際のモールド面内方向における形状をAとして、少なくともモールド表面の凹凸形状を有して樹脂材料に接するように設計された領域の中から任意に選択するAの領域において、モールド凹部の面積の割合が一定であるナノインプリント用モールドを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被転写体の表面にモールドの微細な凹凸形状を転写するインプリントで使用されるモールドと、該モールドを適用して製造された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、さらなる微細加工を実現するために、例えばフォトリソグラフィ装置によって半導体集積回路のパターンを形成する際の高精度化が図られている。その一方で、微細加工のオーダが露光光源の波長に近づいてきたことで、パターンの形成の高精度化は限界に近づいてきた。そのため、さらなる高精度化を図るために、フォトリソグラフィ装置に代えて荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
しかしながら、電子線描画装置によるパターンの形成は、i線,エキシマレーザ等の光源を使用した一括露光方法によるものと異なって、電子線で描画するパターンが多ければ多いほど露光(描画)時間がかかる。したがって、半導体集積回路の集積化が進むにつれてパターンの形成に要する時間が長くなって、スループットが著しく劣ることとなる。
【0004】
そこで、電子線描画装置によるパターンの形成の高速化を図るために、各種形状のマスクを組み合わせて、それらに一括して電子線を照射する一括図形照射法の開発が進められている。しかしながら、一括図形照射法を使用する電子線描画装置は大型化するとともに、マスクの位置をより高精度に制御する機構がさらに必要となって装置自体のコストが高くなるという問題がある。
【0005】
また、他のパターンの形成技術として、所定のモールドを型押ししてその表面形状を転写するナノインプリント技術が知られている。このナノインプリント技術は、形成しようとするパターンの凹凸を反転した形状の凹凸形状を表面に有するモールドを、例えば所定の基板上に樹脂層を形成して得られる被転写体に型押しするものであり、1枚のモールドを繰り返し使用して、凹凸幅が50nm以下の微細構造を形成した被転写基板を複数枚製造することができる。そして、このナノインプリント技術は、大容量記録媒体における記録ビットのパターンの形成や、半導体集積回路のパターンの形成への応用が検討されている。例えば、大容量記録媒体用基板や半導体集積回路用基板は、ナノインプリント技術で形成したパターン形成層の凸部をマスクとして、基板をエッチングすることで製造することができる。
【0006】
このようなナノインプリント技術において、被転写体に樹脂材料を塗布する方法としてはスピンコート法を用いて樹脂材料を製膜する手法や、特許文献1に記載のようにディスペンス法を適用してモールド表面の凹凸に応じて樹脂材料の配置する方法が知られている。
【0007】
【特許文献1】米国公開特許第2004−0065976A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ナノインプリント技術では、モールドを被転写体表面の樹脂層に型押しした後、モールドを剥離することで、被転写体の樹脂層に微細構造が転写される。その際、転写後における被転写体表面の樹脂層の膜厚を均一にする技術が重要になる。特に前述のエッチングのようにナノインプリント技術で形成したパターン形成層の凸部をマスクとする場合には、凸部以外の領域の樹脂層(以後、ベース層と呼ぶ)の厚みを均一にすることが重要である。
【0009】
ベース層の厚みを均一にする為には、ナノインプリント時の圧力分布と共に被転写体表面に配する樹脂材料の分布やモールド表面の凹凸形状の分布が重要である。樹脂材料をスピンコート法で被転写体表面に配する方法では樹脂材料は被転写体表面に均一に配されるが、モールド上の凹凸形状がモールド面内において均一でない場合には凹凸形状に対応したベース層の厚み分布が生じると言う課題が生じる。
【0010】
他方、特許文献1に記載のように、樹脂材料を供給する方法にディスペンス法を適用してモールド表面の凹凸に応じて樹脂材料の配置を設計することでモールドの凹凸分布によるベース層の分布を均一とすることが出来る。しかしながら、モールドの凹凸分布によっては樹脂材料を供給する位置を厳密に指定する必要があるために高度なディスペンス機構が必要であり、また、振動や気流によるレジストの滴下位置のずれがベース層の分布に直結すると言う課題が残されていた。
【0011】
前述したように、加圧プロセスや樹脂材料の供給によってのみベース層の均一化を図ることには困難性を有し、大容量記録媒体用基板のように工業的な量産を必要とする応用製品への適用には課題が残る。
【0012】
そこで、本発明はモールドの凹凸形状を適切に設計することによって、転写後におけるベース層の厚みのばらつきを低減できるインプリントモールド、および本モールドを適用して生産される記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決する本発明は、凹凸パターンが形成されたパターン形成領域を表面に有し、前記パターン形成領域は、形状,間隔の何れが異なる凹凸パターンが形成された複数の領域を有し、前記パターン形成領域よりも小さく、かつ、前記パターン形成領域の複数の凹部及び凸部が含まれる大きさで所定の領域Aを仮定し、前記パターン形成領域内で任意に選択された箇所における領域A内の凹部の開口面積又は体積と、異なる箇所における領域A内の凹部の開口面積又は体積がほぼ一定であるインプリントモールドを特徴とする。ここで、インプリントモールドとは、被転写体またはモールドに樹脂材料を配し、モールドによって前記樹脂材料を押し付けることでモールド上の形状を前記樹脂材料に転写するナノインプリントに用いるモールドのことをいう。
【0014】
また、本発明は、凸部又は凸部表面に記録層が形成され、凹凸形状により互いに離間された複数の記録部と、該記録部の情報を読み取る検出素子の位置決めをするための凹凸形状を有する位置決め部とを備え、前記位置決め部における凸部の面積又は体積と、前記記録部における凸部の面積又は体積がほぼ一定である記録媒体を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインプリントモールドにより、ベース層の厚さのばらつきを低減できるインプリントプロセスを実現することが可能になる。また、記録媒体に適用することで記録媒体のサーボパターン形状の加工精度を向上することができ、記録媒体に用いる検出素子の位置決め特性を改善することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図1は、ナノインプリントプロセスの概念を示している。基板102上の複数箇所に液状の樹脂材料103を滴下する。樹脂材料103が配された基板102をモールド100の凹凸形状形成部101で加圧し、樹脂材料103を押し広げてモールド100の凹部内に樹脂材料を充填する。その後、樹脂材料103を硬化させ、モールド100を樹脂材料から離すことで凹凸形状形成部101の形状を有する樹脂材料104を得ることが出来る。ただし、図2に示すようにモールド100の凹凸形状形成部101にモールド凹部の開口面積の割合が異なる領域第1の領域101aと第2の領域101bが存在すると、図2(c)に示すようなベース層105の分布(105a,105b)が生じやすくなる。これは、モールド100の加圧により樹脂材料103が押し広げられる際に、モールド凹部の割合が少ない第2の領域1bでは、モールド凹部の割合が多い第1の領域1cよりも広い範囲に押し広げられる傾向となる。これに対し、基板に配される樹脂材料103は、押し広げられた後に基板102全体に行き渡り連続薄膜となるように、所定の間隔で均等に配置されている。そのため、モールド凹部の割合が少ない第2の領域1bでは、より大面積に広がろうとする樹脂材料103同士がぶつかりあうことで樹脂材料103の逃げ場がない状態が生じやすくなり、これによりベース層105が厚くなるためである。なお、これに対して、樹脂材料103同士のぶつかりあいが少なくするように樹脂材料103の液滴の間隔を大きくすればよいが、その場合は逆に、モールド凹部の割合が多い第1の領域1cにおいて押し広げられた樹脂が行き渡らずに連続薄膜にならない領域が発生しやすくなる。これにより、モールド100の凹凸形状が転写されない領域が発生することになる。
【0017】
図3は本実施形態に係るモールド100の主要部を示す概略図である。図3に示すようにモールド100の凹凸形状形成部101には第1の領域101aと第2の領域101bとがあり、それぞれには凸部106と凹部107とが各領域に特有の形状に配されている。ここで、凹部107の面積の割合は第1の領域101aと第2の領域101bとで異なるために前述のベース層105の面内分布が発生する原因となる。このため、凹部107の面積の割合を凹凸形状形成部101において一定とする為に凹部からなる追加形状108を第2の領域101bに限定して形成している。
【0018】
次に、本モールド100における追加形状108の役割について図4を用いて説明する。図4は、モールド100を用いたナノインプリントプロセスの一例を示す図である。説明のためにモールド100と樹脂材料103,押し広げられた樹脂材料104のみを図示し、被転写体やナノインプリント装置は省略している。図4(a)(b)は追加形状108を有さない場合、図4(c)(d)は追加形状108を有する場合を示している。樹脂材料103はディスペンサなどの手法で被転写体またはモールド100上に、モールド100との位置関係が図4(a)(c)に示すように配する。この時に第1の樹脂材料103aは第1の領域101aに、第2の樹脂材料103bは第2の領域101bに、第3の樹脂材料103cは第1の領域101aと第2の領域101bの境界部に配されたとする。モールド100を被転写体に加圧して押し広げられた樹脂材料103の形状を図4(b)(d)に示す。各樹脂材料103a,b,cは加圧・硬化工程によって押し広げられた樹脂材料104a,b,cとなる。押し広げられた樹脂材料104の形状をAとする。ここでは、押し広げられた樹脂材料104a,b,cに対して、Aの形状が同一と仮定する。図4(b)においては、Aの面積が一定とすると凹部107の凸部106に対する割合が低い押し広げられた樹脂材料104bの方が、押し広げられた樹脂材料104aよりも厚いベース層105(図示せず)を有することになる。この現象は図2に示した現象と同一である。また、第1の領域101aと第2の領域101bの境界部に配された第3の樹脂材料103cについてはAの範囲において凹部107の凸部106に対する割合が変化するためにベース層105の厚みは不均一となる。一方、図4(d)においては追加形状108のために凹部107の面積の割合が凹凸形状形成部101において一定であり、押し広げられた樹脂材料104a,b,cのベース層105の膜厚を一定とすることが出来る。Aの形状が押し広げられた樹脂材料104a,b,cによって異なる場合も、図4(b)の条件においてはベース層105膜厚に分布が生じやすくなることは同様であり、追加形状108を加えることでベース層105膜厚をより均一化することが可能となる。ナノインプリントプロセスでは押し広げられた樹脂材料104が連続薄膜を形成するように樹脂材料103を配することが多いが、その際も樹脂材料103を配するレイアウトは図4に示すようなそれぞれの樹脂材料103の広がり方を元に決定する事が多い。図4(d)のように追加形状108を形成することで、凹凸形状形成部101の任意のAの領域において凹部107と追加形状108の両者(凹部107と追加形状108の区別が付かない場合は「モールド凹部」)を併せた開口面積の割合(以下、フィリングファクターと呼ぶ)を一定とすることが重要となる。
【0019】
追加形状108の配し方については、凹凸形状形成部101の任意のAの領域においてフィリングファクターを一定とすることが求められる。より詳細には各々の追加形状108の凹凸形状形成部101の面内における大きさは前記のAよりも小さいことが望ましい。ここでは凹凸形状形成部101に追加する形状を追加形状108と呼んでいるが、追加する形状は凹部でも凸部でも良いことは明らかである。つまり、凹凸形状形成部101の任意のAの領域においてフィリングファクターを一定とすることができれば追加形状108は任意の形状を選択することが出来る。ただし、本来の形状である凸部106および凹部107とは異なる形状や大きさもしくは間隔,周期などを有することによって凸部106および凹部107が有する機能を害さないことが好まれる。
【0020】
以上の構成においては凹部107と追加形状108が同一の高さを有している例を示した。本構成に依れば、凹部107のモールド100への形成時に同時に追加形状108をもモールド100に形成することが容易であるために工程数低減や形状の位置合せ精度向上の点で好ましい。ただし、前記の凸部106および凹部107の機能の問題などで同じ深さとすることが好ましくない時は追加形状108を異なる深さとすることも可能である。また、追加形状108を形成する箇所は凸部106の位置に限定されず、図5に示すように凹部107の底に追加形状108を形成することも可能である。これらの場合は「凹凸形状形成部101の任意のAの領域において凹部107と追加形状108の面積の割合を一定とする」と言う前記の条件は「凹凸形状形成部101の任意のAの領域において凹部107と追加形状108の体積和(凹部107と追加形状108の区別が付かない場合は「モールド凹部の体積」)を一定とする」と言う条件に置き換えられる。なお、本条件は凹部107と追加形状108が同一の深さを有している場合には等価である。前記のフィリングファクターとはこのような体積においても同様に定義することが出来る。
【0021】
モールド100の材料としては、例えば、石英やガラス,シリコンなどの無機物、ニッケル等の金属、そして各種の樹脂等が挙げられる。また、モールド100の外形は、加圧方式に応じて、円形,楕円形,多角形のいずれであってもよい。モールド100には、中心穴が加工されていてもよい。また、モールド100、特に凹凸形状形成部101の表面には、押し広げられた樹脂材料104とモールド100との剥離を促進するために、フッ素系,シリコーン系などの離型処理を施すこともできる。なお、樹脂材料103として光反応性物質を用いてモールド側から光照射する際には、反応に用いる光の波長に対してモールド100は透明である必要がある。
【0022】
モールド100上の凹凸形状形成部101の凸部106,凹部107,追加形状108は所望のモールド材料や精度に応じて周知の加工法によって形成される。例えばフォトリソグラフィ,集束イオンビームリソグラフィ,電子ビーム描画法,切削加工など機械加工、また、モールド原盤からの成型法,メッキ法などによるレプリカ作製などの手法を取ることができる。凸部106,凹部107についてはその用途に応じて様々な形状を取ることが可能である。
【0023】
前記した基板102の材料としては、例えば、シリコン,ガラス,アルミニウム合金,樹脂等の各種材料を加工したものが挙げられる。また、基板102は、その表面に金属層,樹脂層,酸化膜層等が形成された多層構造体であってもよい。また、基板102の外形は、円形,楕円形,多角形のいずれであってもよく、中心穴が加工されていてもよい。
【0024】
樹脂材料103は、モールド100に形成された微細パターンが転写される対象である。樹脂材料103は光硬化性樹脂を用いることが最も好ましい。この光硬化性樹脂は特に限定されることなくラジカル重合系,カチオン重合系,アニオン重合系など公知のものでよく、光反応性の樹脂材料に開始剤を添加したものを使用することができる。光硬化性樹脂を樹脂材料103に用いる場合にはモールド100と基板102の少なくとも何れかが硬化に用いる光に対して十分に透明である必要があり、ナノインプリント装置には光照射機構を組み込む必要がある。なお、樹脂材料103には熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂や高粘性体などを用いることも可能であり、この場合はそれぞれの樹脂材料103に応じたモールド100,基板102,ナノインプリント装置を用いる必要がある。
【0025】
樹脂材料103の塗布方法としては、例えばインクジェット法やディスペンス法,スクリーン印刷法などを使用することができる。何れの手法においても樹脂材料103は基板102またはモールド100の表面に滴下される。そして、滴下された樹脂材料103は、モールド100へと加圧されることでモールド100と基板102の表面に広がる。樹脂材料103の滴下位置は複数とすることが好ましく、滴下位置の中心間距離は樹脂材料103の直径よりも広く設定する。樹脂材料103を滴下する位置は、凹凸形状形成部101に対応する硬化後の樹脂材料104の広がりAを予め評価しておき、この評価結果に基づいて凹凸形状形成部101を硬化後の樹脂材料104が隙間無く覆うように定めると良い。
【0026】
前記実施形態で微細パターンが転写された基板102は、磁気記録媒体や光記録媒体等の情報記録媒体に適用可能である。また、大規模集積回路部品や、レンズ,偏光板,波長フィルタ,発光素子,光集積回路等の光学部品,免疫分析,DNA分離,細胞培養等のバイオデバイスへの適用が可能である。
【0027】
次に、実施例を示しながら本発明をさらに具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
本実施例では、図6に模式的に示すモールド100を使用してナノインプリント法によってパターンを形成した例について説明する。
【0029】
図6(a)のモールド100は、最外直径100mm,厚さ1mmの円形の石英基板を使用した。そしてモールド100には、直径90mmより内側のパターン形成領域に、図6の第1の領域101aと第2の領域101bをフォトリソグラフィ法にて加工した。第1の領域101aには一辺200nm,深さ100nmのドット形状が間隔400nmの正方格子状に、第2の領域には同じく一辺200nm,深さ100nmのドット形状が間隔800nmの正方格子状に配列されている。本実施例ではフィリングファクターの小さい第2の領域に対して幅150nm,深さ100nm,間隔800nmの溝形状からなる追加形状108を凸部106上に第2の領域101bに限定して形成した。また、比較例として図6(b)に示す追加形状108を有さないモールド100rを作製した。それぞれのモールドの表面にはフッ素を含んだ離型層を形成した。
【0030】
ここでは、基板102として直径100mm,厚さ0.631mm のp型シリコンウエハを使用した。基板102の表面には、ナノインプリントの直前にディスペンス法で樹脂材料103を滴下した。樹脂は感光性物質を添加したアクリレート系光硬化性樹脂であり、粘度が4mPa・sである。ノズルが512(256×2列)個配列され、ピエゾ方式で樹脂を吐出する塗布ヘッドで1滴辺り約50pLの樹脂材料103を塗布された。
【0031】
吐出位置は、樹脂材料103の1滴をモールド100と基板102を加圧することで求められる1滴分の広がりより決定した。基板102の表面に樹脂材料103を滴下し、モールド100を押し当てた結果、第1の領域101aに配した樹脂材料103は直径1130μmの円状に広がり、ベース層105の厚みは25nmとなった。この結果、本検討では基板102の直径90nmまでの第1の領域101a,第2の領域101bに間隔1000μmの正方格子状に樹脂材料103を配することとした。基板102全体では63600箇所に各50pLの樹脂材料103(総量3.2μL )を等間隔に配したことになる。
【0032】
本実施例におけるナノインプリント工程を図7に示す。ナノインプリント装置内の上下に可動するステンレス製の下部ステージ109の上面には、厚さ0.5mmのシリコーンゴム層を設置して緩衝層111としている。ナノインプリント装置の上部ステージ110は厚さ20mmの石英板よりなり、モールド100が凹凸形状形成部101を下部ステージ109に向けて設置されている。樹脂材料103を塗布した基板102を下部ステージ109の緩衝層111上に配して減圧雰囲気(約0.01気圧)として下部ステージ109を上昇させて約1MPaの圧力で基板102をモールド100に押し当て、高圧水銀灯(図示せず)からの紫外線(強度100mW/cm2)を20秒間照射した。その後下部ステージ109を下降してモールド100を基板102から離し、押し広げられた樹脂材料104からなる微細形状を基板102上に形成した。このナノインプリント工程を前記のモールド100、及び比較例として作製したモールド100rについて実施した。
【0033】
基板102上の押し広げられた樹脂材料104における微細形状を原子間力顕微鏡にて評価した所、追加形状108を配したモールド100に対しては第1の領域101a,第2の領域101bにはそれぞれ一辺200nm,高さ100nmの形状が形成されていた。また、ベース層105a,105bの値は何れの場所においてもそれぞれ25nm±5nmの範囲に収まっており、ベース層105には十分な均一性があることが確認された。一方、比較例として作製したモールド100rに対しても微細形状は同じく一辺200nm,高さ100nmとなった。しかし、ベース層105については第1の領域のベース層105aについては25nm±5nmの範囲に収まったが、第2の領域のベース層105bは44nm±8nmとなり、ベース層105にフィリングファクターの相違によるベース層分布が生じることを確認した。以上の実施例によって、追加形状108のベース層に対する効果を確認することができた。
【0034】
なお、押し広げられた樹脂材料104をマスクとして下地の基板102をエッチングする際には、押し広げられた樹脂材料104のエッチング耐性やエッチングプロセスによっても異なるが、一般的にはベース層105の厚みを凸部の高さの半分以下にすることが好まれる。より好ましくは高さの4分の1以下にすると良い。例えば本検討では凸部の高さが100nmのため、ベース層105は25nm以下で20%以内のばらつきに収めることを目的とした。モールド100の凹部の深さが全て同一の場合には、先に示したフィリングファクターは以下の式で表される。
【0035】
V=(Fhp+b)A F=((V/A)−b)/hp
V:樹脂材料103の一滴辺りの体積
F:フィリングファクター
p:モールド100の凹部の深さ
b:ベース層105の厚さ
A:押し広げられた樹脂材料104の面積
上記の式にV=50pl,hp=100nm,b=25nm±5nm,A=1mm2(樹脂材料103の1滴辺りの面積)を代入すると、Fは0.25±0.05となる。この値は実際のモールド100のFの値と一致する。一般にはFの値は面内において20%以内の変動に抑える事でベース層105の変動を防止することができるため後のエッチング工程における精度を高めることが出来る。Fである開口面積又は体積はほぼ一定とすることが好ましいが、ベース層の変動を防止できればよく、開口面積又は体積の変化量は20%以内とすればよい。
【0036】
(実施例2)
本実施例では、本発明で開示するモールドを使用して大容量磁気記録媒体(ディスクリートトラックメディア)用の微細パターンを形成した。参照する図面において、図8は、本実施例に関わる記録媒体を示す模式図である。図8(a)は記録媒体を示す全体図、(b)はその詳細を示す模式図である。
【0037】
図8を用いて磁気記録媒体の構成を説明する。本図においては各記録トラックが磁気的に分離されている所謂ディスクリートトラックメディア(DTM)の模式図を示しているが、各記録ビットが分離されているビットパターンドメディア(BPM)においても本実施例で示すプロセスを適用可能である。
【0038】
図8は作製が完了した磁気記録媒体200を示す模式図である。磁気記録媒体200は直径65mm,厚さ0.631mm の円盤状であり、基板201上に複数の磁性層および他の層が堆積された構造となっている。基板201の中央部にはスピンドルに磁気記録媒体200を固定するための直径20mmの穴202が設けられている。
【0039】
記録トラック203は同心円状に形成されており、非磁性体により磁気的に隣接トラックと分離された構造となっている。ただし磁気記録媒体200の最表面は平坦化されており、記録トラック203と非磁性体領域の高さの差は5nm未満となっている。隣接する記録トラック203同士の中心間距離、即ちトラックピッチ(Tp)は記録密度に応じて決定する必要があるが、本実施例においてTpは中心部で150nmである。Tpは磁気記録媒体200上の半径値に依存して変化させてある。これはハードディスクドライブ(HDD)においてロータリーアクチュエータにより記録再生ヘッドを駆動することに起因したヨー角に対応するためである。記録再生ヘッドの駆動をリニアアクチュエータを用いて行う場合は、半径値によらず一定のTpを採用してよい。なお、後述するサーボパターン204に付与するためダミーパターン214の形状を設計する際は、Tpは各々のサーボパターン204近傍のTpを用いて設計することが最も好ましい。しかし簡便化のために、例えば中心部のTp、あるいは磁気記録媒体200におけるTpの平均値などをTpの代表値として全てのサーボパターン204に付与するダミーパターン214の設計に用いることもできる。
【0040】
また磁気記録媒体200には所望のトラック上の領域にアクセスし、記録再生動作を行うためのサーボパターン204も形成してある。図8(a)ではサーボパターン204は模式的に曲線で示されているが、内部には微細パターンが存在している。このパターン構造については後述する。また、本実施例においては1周を200分割し、各エリアごとにサーボパターン204が入るようにした。勿論サーボパターンの数は200個に限定されるものではなく記録再生特性から決定する必要がある。
【0041】
また磁気記録媒体200には記録トラック203,サーボパターン204が形成されていない内周部206と外周部205を設けることが出来る。
【0042】
本媒体の製造プロセスについて図9を用いて説明する。製造プロセスにおいてはまず基板201上に軟磁性裏打層207(SUL)を成長させた。基板201の材料はガラスに限ることなく、アルミニウムなどの金属,シリコンなどの半導体,セラミックスなどの絶縁体などを選択することが可能である。軟磁性裏打層207はFe−Ta−C合金を採用し、真空チャンバー内でのスパッタ蒸着後、熱処理を行った。軟磁性裏打層207には媒体半径方向への磁気異方性をつけておくことが望ましい。Fe−Ta−C合金に代えて他の軟磁性裏打層207を用いても構わず、また、スパッタ蒸着以外の他の成長方法を採用しても構わない。また必要に応じて基板201と軟磁性裏打層207の間に、両者の密着性を高めるための密着層,軟磁性裏打層207の結晶性を制御する中間層などを挿入してもよい。軟磁性裏打層207の形成後に、引き続き記録層208を真空中にてスパッタ蒸着により成長させる。本実施例においては記録層208としてCo−Cr−Pt膜を採用した。この材料は膜面方向に対し垂直方向に磁化容易軸を有する特徴を有する。従って本実施例においては磁気異方性の軸がディスク面に対しほぼ垂直となるようにスパッタ蒸着の条件を選んだ。記録層208として用いる磁性材料はCo−Cr−Pt合金に限らず、他の材料でも構わない。特にグラニュラ膜と呼ばれるSiを含有した記録層208は本発明と相性がよい。以上のプロセスにより図9(a)に示す基板201を形成する。
【0043】
引き続き図9(b)(c)(d)に示すナノインプリント工程を行う。なお、本図では簡略化のためナノインプリント装置は省略する。以下、光硬化終了までの工程は紫外線カット光下で行う。前記プロセスにより完成した平坦な構造上に、液状の感光性物質を添加したアクリレート系光硬化性樹脂(以下、レジスト209と呼ぶ)を塗布する。本実施例に於いては実施例1で説明したインクジェット法を使用してレジスト209を塗布した。なおレジスト209と連続膜構造の磁気記録媒体表面との密着性を高めるために、可能であればレジスト209塗布の直前に酸素プラズマ中で短時間のクリーニングを行っておくことが望ましい。また、表面処理法は酸素プラズマに限定されず、密着層の付与による手法も有効である。
【0044】
このようにレジスト209が塗布された基板201を、図9(b)に示すようにレジスト塗布面を上にしてナノインプリント装置上の下部ステージ上に配置する。また、直径65mm,厚さ1mmのモールド210はナノインプリント装置の上部ステージに、基板201のレジスト塗布面とモールド210の凹凸形成面が相対するように配置されている。本実施例ではモールド210として石英を使用したが、レジスト209の硬化に必要な波長の光を透過させることができる材料であれば他の物質でも構わない。また、熱可塑性を有する物質をレジスト209として用いる熱ナノインプリントを使用する場合においては透光性に関係なくモールド210の材料を選択することが可能である。本実施例ではモールド210にも基板と同一の直径20mmの中心穴202が形成されている。この中心穴202を用いてモールド210と基板201に対して機械的に中心位置アライメントを行った。但し、本実施例においては使用しなかったが必要に応じて光学的測定によるフィードバック機構を用いても構わない。アライメントに用いる移動機構は、水平面内移動,上下移動,回転,傾き補正が可能である。モールド210には先に示した磁気記録媒体200上に形成される記録トラック203,サーボパターン204に対応し、鏡英の関係にある凹凸形状が形成されている。本モールド210に形成する凹部の深さは全て100nmである。
【0045】
位置決め終了後、図9(c)に示すようにモールド210と基板201を0.9MPaの圧力で接触した後に光を照射した。本実施例においては光源として100mW/cm2の高圧水銀灯を使用した。照射量はレジスト209の種類に依存するが本実施例に於いては0.3mJ/cm2とした。この値は使用するレジスト209の種類や照射条件などに応じて変更する必要がある。光の強度は予め測定しておき、必要なエネルギーに達するよう照射時間で制御した。もちろん、チャンバー内に光検出器を設置し、実時間で光量をモニターし光のドーズ量を測定しても構わない。光硬化後に図9(d)に示すように基板201とモールド210をそれぞれ裏面から真空吸着し、基板201面に対して垂直方向に引っ張り応力を印加することにより剥離を行った。本工程によって硬化したレジスト211を基板201上に形成した。
【0046】
次にディスクをナノインプリント装置から取り出し、イオンミリング装置にて、上方からイオンにてミリングした。本実施例ではイオン種としてArを使用したが、他のイオン種を使用してもよい。またイオンミリングではなく反応性イオンエッチング(RIE)やウエットエッチングなどによりパターン転写を行っても構わない。この工程により、硬化したレジスト211全体を薄層化し、硬化したレジスト211の膜厚の薄い領域の下地にある記録層208をアルゴンイオン暴露によって除去する。この工程によって図9(e)に示すよう硬化したレジスト211の凹凸形状が記録層208上に形成される。なお、本工程では行わなかったがイオンミリングの前に酸素プラズマで予め硬化したレジスト211をエッチングし、硬化したレジスト211の膜厚の薄い領域を除去して下地にある記録層208が直接に後のイオンミリング工程でアルゴンイオンに曝されるようにしておくとパターン精度向上の点でより好ましい。
【0047】
その後、硬化したレジスト211をリンス工程によって除去して図9(f)に示す凹凸形状を有する記録層208を形成することができる。その後、必要に応じ溝部に非磁性体212を埋め込む。例えば、Si−Oを基板上部から成長させ、エッチバックまたは化学機械研磨(CMP)により平坦化することが可能である。更に必要に応じ、さらに保護膜213や潤滑膜(図示せず)を成長させ図9(g)に示す磁気記録媒体200が完成する。
【0048】
なお、本実施例においてはナノインプリント工程によって記録層208を加工したが、上述の方法と同様に基板201を同じくナノインプリント工程で加工した後に基板201の凹凸形状の上から各磁性膜を成長させることも可能である。
【0049】
本発明においては前述のようにナノインプリント工程によって磁気記録媒体200に物理的形状を転写している。従って前記の磁気記録媒体200の作製に使用するモールド210は、磁気記録媒体200に付与する形状に対して、凹凸を反転した形状とする必要がある。以下では磁気記録媒体200の図を用いて説明を行うが、本発明のモールド210の形状としては磁気記録媒体200の形状の凹凸を反転した形状とする必要がある。
【0050】
図10(a)は、従来のサーボパターン204の一例を示す模式図である。一般にサーボパターン204は、トラック番号を記録したグレイコード領域,トラック中心位置を指示するバースト領域などから形成されている。従来の連続媒体において、これらサーボ情報は磁気的パターンとして平坦なディスク上に記録されているため、磁性体の物理的形状として作製することは考慮されていない。またバースト信号間に存在するDC消磁領域には磁気的パターンがなく、一様な方向に磁化されている。
【0051】
図10(b)はサーボパターン204の一例である。本実施例ではバースト領域のDC領域部において高周波の磁化パターンを書き込み、ダミー信号領域とすることによりノイズの低減を図ることを目的としている。しかしながらこのようなダミー信号は磁気的パターンとして平坦なディスク上に記録されており、磁性体の物理的形状として作製することは考慮されていない。
【0052】
本発明による磁気記録媒体200の作製プロセスでは、図11に示すようにDC消磁部に高周波構造からなるダミーパターン214を有するモールド210を作製した。ここで磁気記録媒体200上に形成される凹凸構造はモールド210に作製された凹凸を反転した形状である。本実施例ではモールド210に作製する構造として、サーボパターン204領域全体を含めて計測したときにモールド凹部の面積の凸部の面積に対する割合の変化を記録トラック203に対して20%以内とするようにダミーパターン214を形成した。また、ダミーパターン214として使用する高周波は記録ビット周波数の2倍以上とした。ダミーパターン214は本実施例ではトラック方向に垂直方向に伸びるライン形状としたが、他の方向に伸びるライン形状であっても良いし、他のドット形状などで設計することも可能である。
【0053】
HDDにおいて、再生動作を行う際、高周波構造で埋め尽くされたダミーパターン214を形成した領域において発生する磁束は高周波パターンであるためローパスフィルタにより除去することが可能である。本実施例ではモールド凹部の面積の凸部の面積に対する割合の変化を20%以内とすることにより、ベース層厚の分布を均一にし、精度の高い加工が可能となった。また同時に媒体の歩留まりも50%程度向上させることができた。このような高周波構造を有するモールドは、本実施例では先に示した記録トラック203と同時に電子線リソグラフィ法により描画後、RIEによるドライエッチングプロセスを用いることで作製した。
【0054】
(実施例3)
本実施例では、本発明で開示するモールドを使用して大容量磁気記録媒体(ディスクリートトラックメディア)用の微細パターンを形成した別の一例を示す。
【0055】
図12を用いて磁気記録媒体の構成を説明する。本図においては各記録トラックが磁気的に分離されている所謂ディスクリートトラックメディア(DTM)の模式図を示しているが、各記録ビットが分離されているビットパターンドメディア(BPM)においても本実施例で示すプロセスを適用可能である。
【0056】
図12(a)は作製が完了した磁気記録媒体200を示す模式図である。磁気記録媒体200は直径65mm,厚さ0.631mmの円盤状であり、基板201上に複数の磁性層および他の層が堆積された構造となっている。基板201の中央部にはスピンドルに磁気記録媒体200を固定するための直径20mmの穴202が設けられている。なお、磁気記録媒体200に形成された記録トラック203,サーボパターン204の機能や形状,構成は先に示した実施例2のおける形状と同一である。
【0057】
また磁気記録媒体200には記録トラック203,サーボパターン204が形成されていない外周部205と内周部206を設けることが出来る。図12(b)は磁気記録媒体200の外周部205に対応するモールドの詳細である。以後、外周部205の詳細について示すが同様の構成は内周部206にも適用することができる。
【0058】
外周部205には通常は記録に用いない領域があり、このために記録トラック203やサーボパターン204を有さない領域が存在する。しかし、外周部205を完全に平坦にすると先に示したモールド凹部の面積の凸部の面積に対する割合(フィリングファクター)の値が記録トラック203と異なる値となるため、ナノインプリント工程においてレジストの膜厚分布が生じる原因となる。このため、本実施例では外周部205に図12(b)に示すようにフィリングファクターを調整するための凹凸形状を形成した。本実施例では外周部205には深さ100nmで、ピッチ4μmの同心円状の溝形状を外周部205に形成した。ここで、インクジェット法で塗布されるレジスト209の液滴直径(約30μm)や、押し広げられた後のレジスト209の液滴の直径(約1mm)よりも小さい値となるように溝形状のピッチを設定した。最外部の記録トラック203のトラックピッチ150nm,トラック幅75nmより、溝形状の幅は2μmに設定した。この溝形状の形成によって外周部205におけるフィリングファクターは最外部の記録トラック203と同一に設計され、モールド210全体を見てもフィリングファクターの値の変動を面内で20%以内に収めることが可能になった。なお、本実施例では同心円状の溝形状を用いてフィリングファクターの調整を行ったが、必ずしも調整に用いる形状は溝状でも、同心円状でもある必要は無い。例えば、多数の独立した穴形状などでもフィリングファクターの調整は可能であり、同様の効果が得られることは明らかである。
【0059】
本実施例では外周部205にモールド凹部の面積の凸部の面積に対する割合の変化を20%以内とすることにより、ベース層厚の分布を均一にし、通常はベース層厚の分布が生じやすい外周部205近傍においても精度の高い加工が可能となった。また同時に媒体の歩留まりも50%程度向上させることができた。また、ナノインプリント時に過剰なレジスト209が外周部205からはみ出ることによるナノインプリント装置の汚染を防止することができると言う副次的な効果も得ることができた。
【0060】
(実施例4)
本実施例では、電子部品の製造方法に対して本発明のナノインプリント用モールドを適用する手法について説明する。図14は電子部品の製造に用いられるナノインプリント用モールドにおけるパターン例である。図14(a)はモールド400全体のレイアウト、図14(b)はモールド400上に配した配線パターンに対応する凹凸形状の詳細を示している。
【0061】
本発明において解決される、ナノインプリントにおけるベース層の分布を均一にするという課題は電子部品の製造にナノインプリントを適用する際において重要な課題である。最も好ましいのは電子部品の回路形状だけでフィリングファクターを一定とするように設計することであるが、実際には所望の回路特性によって電子部品の回路形状は決定される為にフィリングファクターのみに注目して回路を決定することは難しい。本発明で開示した追加形状401をダミーパターンとしてモールド上に追加することによってフィリングファクターを調整してベース層を均一化出来る。
【0062】
追加形状401は、例えば図15(a)に示すようにモールド上の配線の集中するメモリ部やトランジスタ部などの配線領域402の周辺に配してフィリングファクターを調整することができる。また、より微視的に図15(b)のように微小パターン403の周辺部に追加形状401を配することもできる。何れの場合においても追加形状401は光リソグラフィにおける位相シフトマスク設計時におけるパターン補正法と同様に、最終的には電子部品が本来有する機能を害することなくフィリングファクターを調整するように設計する必要がある。
【0063】
本実施例における電子部品の製造方法の一例を図15に示す。ここでは金属薄膜405を部分的に除去することによって微小配線408を形成するプロセスを示している。本実施例では金属薄膜405のエッチングによる除去について示すが、例えば金属めっき,リフトオフ法による配線形成など他のプロセスにも適用可能である。実際の電子部品の製造プロセスでは同様の工程を位置合せをしながら繰返し行う必要がある場合が多い。
【0064】
まず基板404上に金属薄膜405を形成する。その後、金属薄膜405上にアクリレート系の光硬化性を有するレジスト406を配し、微小パターン403と共にフィリングファクターに基づいて設計した追加形状401を有するフッ素系の離型処理を施した石英製のモールド400をレジスト406に押し付けて光照射することによって硬化したレジスト407を得た。モールド400を離し、酸素プラズマによって硬化したレジスト407の膜厚の薄い領域を除去し、開口部で露出した金属薄膜405に対して塩素ガスによるドライエッチングを施すことで開口部の金属薄膜405を除去した。その後、リンス工程で残った硬化したレジスト407を除去することによって基板404上に微小配線408を形成した。追加形状401に対応する追加パターン409は予め微小配線408の機能を害さないように設計すると後工程で追加パターン409を除去する必要が無く好ましい。
【0065】
本実施例における追加形状401を用いるナノインプリント用モールドの設計法は大規模集積回路やプリント基板のような一般的な電子部品の製造に適用することができる。追加形状401の付与によってナノインプリントにおけるベース層の分布が均一化し、ナノインプリントで形成したレジストをマスクとする後工程の寸法精度が改善する。このことから電子部品の歩留り向上に寄与することが出来る。
【0066】
(実施例5)
本実施例では、本発明の微細構造転写方法を使用した光学部品の製造方法について説明する。図16は微細構造の形成によって得られるフォトニックバンドギャップを用いる光デバイス製造に用いられるモールドの例である。図16(a)はモールド500全体のレイアウト、図16(b)はモールド500上に配した光導波路に対応する凹凸形状503の詳細を示している。
【0067】
本発明において解決される、ナノインプリントにおけるベース層の分布を均一にするという課題は光学部品の製造にナノインプリントを適用する際において重要な課題である。最も好ましいのは光学部品の凹凸形状だけでフィリングファクターを一定とするように設計することであるが、実際には所望の光学特性によって形状は決定される為にフィリングファクターのみに注目して回路を決定することは難しい。本発明で開示した追加形状501をダミーパターンとしてモールド上に追加することによってフィリングファクターを調整してベース層を均一化出来る。
【0068】
追加形状501は、例えば図16(b)に示すようにフォトニック結晶を構成する光導波路に対応する凹凸形状503が有する微小凹凸505の周囲に配することができる。微小凹凸505は光導波路から光が漏れ出無いように設計されるが、追加形状501には特にそのような機能は求められない為により大きい構造とするなど異なる形状とすることができる。これらの追加形状501の効果によって凹凸密度が低い微小凹凸505周辺部の影響によるベース層分布の変動を防止することができる。
【0069】
本実施例における光学部品の製造方法の一例を図17に示す。ここでは石英製の基板506の一部を部分的に除去することによって光導波路511を形成するプロセスを示している。本実施例では基板506のエッチングによる除去について示すが、電極形成などの他のプロセスにも本実施例で用いたモールドは適用可能である。
【0070】
まず加工対象の基板506上にアクリレート系の光硬化性を有するレジスト507を配し、微小凹凸505と共にフィリングファクターに基づいて設計した追加形状501を有するフッ素系の離型処理を施した石英製のモールド500をレジスト507に押し付けて光照射することによって硬化したレジスト508を得た。モールド500を離し、酸素プラズマによって硬化したレジスト508の膜厚の薄い領域を除去し、開口部で露出した基板506に対してCF4 ガスによるドライエッチングを施すことで基板506の開口部をエッチングした。その後、リンス工程で残った硬化したレジスト508を除去することによって基板506上に微小凹凸509を有する光導波路511を形成した。追加形状501に対応する追加パターン510は予め光導波路511の機能を害さないように設計すると後工程で追加パターン510を除去する必要が無く好ましい。
【0071】
本実施例における追加形状501を用いるナノインプリント用モールドの設計法は本実施例で示した光回路部品の他にも一般的な光学部品の製造に適用することができる。追加形状501の付与によってナノインプリントにおけるベース層の分布が均一化し、ナノインプリントで形成したレジストをマスクとする後工程の寸法精度が改善する。このことから光学部品の歩留り向上に寄与することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ナノインプリント工程を示す模式図。
【図2】凹部の割合に差のあるモールドを用いるナノインプリント工程を示す模式図。
【図3】本発明におけるモールドを示す模式図。
【図4】本発明におけるモールドの効果を示す模式図。
【図5】本発明におけるモールドの別の構成を示す模式図。
【図6】実施例1で使用したモールドの模式図。
【図7】実施例1におけるナノインプリント工程を示す模式図。
【図8】実施例2で示す磁気記録媒体を示す模式図。
【図9】実施例2で示す磁気記録媒体の形成工程を示す模式図。
【図10】実施例2で示す磁気記録媒体のサーボパターンを示す模式図。
【図11】実施例2で示す磁気記録媒体のサーボパターンに対応するモールドの形状を示す模式図。
【図12】実施例3で示す磁気記録媒体を示す模式図。
【図13】実施例3で示す磁気記録媒体の外周部を示す模式図。
【図14】実施例4で示す電子部品に用いるナノインプリントモールドを示す模式図。
【図15】実施例4で示すナノインプリントモールドを用いた電子デバイス形成の一工程を示す模式図。
【図16】実施例5で示す光回路部品に用いるナノインプリントモールドを示す模式図。
【図17】実施例5で示すナノインプリントモールドを用いた光回路部品形成の一工程を示す模式図。
【符号の説明】
【0073】
100,210,400,500 モールド
101 凹凸形状形成部
101a 第1の領域
101b 第2の領域
102,201,404,506 基板
103 樹脂材料
104 押し広げられた樹脂材料
105 ベース層
106 凸部
107 凹部
108,401,501 追加形状
109 下部ステージ
110 上部ステージ
111 緩衝層
200 磁気記録媒体
202 穴
203 記録トラック
204 サーボパターン
205 外周部
206 内周部
207 軟磁性裏打層
208 記録層
209,406,507 レジスト
211,407,508 硬化したレジスト
212 非磁性体
213 保護膜
214 ダミーパターン
402 配線領域
403 微小パターン
405 金属薄膜
408 微小配線
409,510 追加パターン
502 発振ユニットの形成領域
503 光導波路に対応する凹凸形状
504 光コネクタの形成領域
505,509 微小凹凸
511 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸パターンが形成されたパターン形成領域を表面に有するインプリントモールドにおいて、
前記パターン形成領域は、形状,間隔の何れが異なる凹凸パターンが形成された複数の領域を有し、
前記パターン形成領域よりも小さく、かつ、前記パターン形成領域の複数の凹部及び凸部が含まれる大きさの所定の領域Aを仮定した場合、前記パターン形成領域内で任意に選択された箇所における領域A内の凹部の開口面積又は体積と、異なる箇所における領域A内の凹部の開口面積又は体積がほぼ一定であることを特徴とするインプリントモールド。
【請求項2】
請求項1において、前記所定の領域Aは、被転写体表面に液状の樹脂材料を塗布した状態で前記インプリントモールドを押し付け、前記樹脂材料が押し広げられる際のインプリントモールド面内方向における形状であることを特徴とするインプリント用モールド。
【請求項3】
請求項2において、前記樹脂材料は光反応性の樹脂であることを特徴とするインプリント用モールド。
【請求項4】
請求項1において、情報を記録するための記録部に対応する凹凸パターンと、該記録部によって囲まれた情報を読み取るための検出素子の位置決め部に対応する凹凸パターンとを有することを特徴とする記録媒体形成用インプリントモールド。
【請求項5】
請求項4において、前記記録部に対応する凹凸パターン、及び、位置決め部に対応する凹凸パターンが形成された第1の領域と、前記第1の領域外に形成された凹凸パターンを有する第2の領域を備えることを特徴とする記録媒体用インプリントモールド。
【請求項6】
請求項5において、第2の領域に形成された凹凸形状が溝状であり、第1の領域の周りを囲んでいることを特徴とする記録媒体用インプリントモールド。
【請求項7】
凹凸パターンが形成されたパターン形成領域を表面に有するインプリントモールドにおいて、
前記パターン形成領域は、形状,間隔の何れが異なる凹凸パターンが形成された複数の領域を有し、各領域で凹部の深さが異なっていることを特徴とするインプリントモールド。
【請求項8】
請求項7において、各領域の凹部の体積和をほぼ一定であることを特徴とするインプリントモールド。
【請求項9】
請求項7において、凹部開口面積が大きい領域の凹部の深さに対して、凹部開口面積が小さい領域の凹部の深さが深いことを特徴とするインプリントモールド。
【請求項10】
凸部又は凸部表面に記録層が形成され、凹凸形状により互いに離間された複数の記録部と、
該記録部の情報を読み取る検出素子の位置決めをするための凹凸形状を有する位置決め部とを備え、
前記位置決め部における凸部の面積又は体積と、前記記録部における凸部の面積又は体積がほぼ一定であることを特徴とする記録媒体。
【請求項11】
請求項10において、位置決め部が、
位置決め機能を有する第一の形状と、
相当直径,幅のいずれかが第一の形状よりも小さく、第一の形状が有する間隔よりも短い間隔で周期的に配置された第二の形状の組合せにより構成されることを特徴とする記録媒体。
【請求項12】
請求項10において、位置決め部が、
位置決め機能を有する第一の形状と、
相当直径,幅のいずれかが第一の形状よりも小さく、検出素子の掃引方向に対して、第一の形状が有する間隔よりも短い間隔で周期的に配置された第二の形状の組合せにより構成されることを特徴とする記録媒体。
【請求項13】
請求項10において、前記記録部の周囲に配された辺縁部を有し、
前記辺縁部における凸部の割合と、前記記録部における凸部の割合がほぼ一定であることを特徴とする記録媒体。
【請求項14】
請求項13において、辺縁部に配された形状が溝状であることを特徴とする記録媒体。
【請求項15】
請求項13において、記録媒体が中心穴を有する円盤状であり、辺縁部が記録部の内周部と外周部の少なくとも何れか一方に設けられていることを特徴とする記録媒体。
【請求項16】
請求項12において、記録媒体が円盤状であり、辺縁部が記録部の内周部と外周部の何れかに配され、辺縁部に配された形状が記録媒体と中心を同じくする同心円状の溝形状であることを特徴とする記録媒体。
【請求項17】
インプリントモールドの凹凸形状を被転写体に転写するパターン形成方法において、
前記被転写体上に複数箇所に光硬化性樹脂を滴下する工程と、
前記インプリントモールドを被転写体上の光硬化性樹脂に押し付け、該光硬化性樹脂を押し広げてインプリントモールド内の凹部内に該光硬化性樹脂を充填する工程と、
前記光硬化性樹脂を硬化させる工程と、
前記インプリントモールドを前記光硬化性樹脂から離す工程と、を有し、
前記インプリントモールドとして、形状,間隔の何れが異なる複数の凹凸パターンが形成されたパターン形成領域を有し、前記パターン形成領域よりも小さく、かつ、前記パターン形成領域の複数の凹部及び凸部が含まれる大きさの所定の領域Aを仮定した場合、前記パターン形成領域内で任意に選択された箇所における領域A内の凹部の開口面積又は体積と、異なる箇所における領域A内の凹部の開口面積又は体積がほぼ一定であるモールドを用いることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項18】
請求項17において、前記インプリントモールドを前記光硬化性樹脂から離した後、前記光硬化性樹脂をマスクとして、前記被転写体の表面にインプリントモールドの凹凸形状を転写する工程を有することを特徴とするパターン形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2009−6619(P2009−6619A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171412(P2007−171412)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】