ナノインプリント用複製モールド
【課題】耐久性が高く、かつ安価な複製モールドを提供する。
【解決手段】本発明に係る複製モールド1は、ナノインプリント用の複製モールド1であって、基体10と、基体10上に形成され、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、表面に凹凸が形成された複製モールド構造体20とを具備する。複製モールド構造体20は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2以下であり、線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、365nmにおける透過率が70%以上である。
【解決手段】本発明に係る複製モールド1は、ナノインプリント用の複製モールド1であって、基体10と、基体10上に形成され、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、表面に凹凸が形成された複製モールド構造体20とを具備する。複製モールド構造体20は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2以下であり、線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、365nmにおける透過率が70%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のナノインプリント用複製モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会を支える半導体デバイスの発展は、微細加工技術、特にフォトリソグラフィ技術の進展によるところが大きい。今日のフォトリソグラフィ技術は、縮小投影露光装置に代表される露光装置技術や、ポリマーと感光剤からなるレジスト材料、プロセス開発の技術革新によって支えられてきた。しかしながら、パターンの微細化につれて露光装置やフォトマスクの価格が高額になるという問題が生じている。
【0003】
このような状況下、高額な光学材料や装置を用いずにコスト性に優れ、微細加工も可能なナノインプリント技術が次世代のリソグラフィ技術として脚光を浴びている。ナノインプリント技術は、熱可塑性樹脂を被加工層として用いる熱ナノインプリントリソグラフィ法(非特許文献1、特許文献1)と、光硬化性樹脂を被加工層として用いる光ナノインプリントリソグラフィ法(非特許文献2)に大別できる。
【0004】
熱ナノインプリントリソグラフィ法を用いたパターンは、例えば、以下のような工程を経て形成される。まず、基体上に被加工層として熱可塑性樹脂膜を成膜し、次いで加温によりこれを軟化させ、鋳型となるモールドを押し付ける。これにより、被加工層が変形する。その後、冷却して被加工層を硬化させることにより、被加工層にモールドの凹凸を転写する。続いて、モールドを離型させ、リアクティブイオンエッチング処理、又はUV/O3処理により被加工層の凹部に残る残膜を除去する。その後、被加工層をマスクとして乾式、若しくは湿式のエッチング工程で、基体にパターンを転写する。なお、エッチング工程に代えてめっき工程やスパッタリング等により、凹部に金属等を堆積させて微細パターンを形成してもよい。
【0005】
光ナノインプリントリソグラフィ法は、被加工層として光硬化性樹脂を用い、光により樹脂を硬化させるプロセスを有する点において熱ナノインプリントリソグラフィ法と相違するが、基本的なプロセスは、上述した熱ナノインプリントリソグラフィ法と同様である。
【0006】
ナノインプリント技術においては、前述したように鋳型のモールドが必要となる。モールドの製造は、通常、フォトリソグラフィ法、電子線描画法、レーザ描画法によりレジスト膜パターンの形成を行い、次いでRIEやめっき等により基体加工が行われる。特許文献2には、モールドとなる基体上にポジ型レジストを塗布し、電子線描画を行ってレジスト膜パターンを形成し、これをマスクとしてエッチングすることによりモールドを製造する方法が提案されている。
【0007】
ナノインプリント技術は、前述したとおりフォトリソグラフィ技術に比してコスト性に優れているが、モールドの製造コストが高いという問題があった。例えば、テラビットサイズの記録密度を目指した磁気記録メディアを作製するためのマスターモールドは、一千万円程度である。そこで、マスターモールドから複製モールドを製造する方法が提案されている。金属製の複製モールドを製造する方法としては、例えば、以下の方法が考案されている。
【0008】
まず、石英等の基体上にメタル膜、レジスト膜をこの順に成膜して電子線描画法によりレジスト膜パターンの形成を行い、これをマスクとしてメタル膜パターンを形成する。その後、RIEやめっき等により基体加工が行われる。そして、メタル膜パターンの剥離工程を行い、モールド表面に離型処理を行うことでマスターモールドを得る。そして、このマスターモールドから一次モールドを作製する。一次モールドは、例えば、基板にレジストを塗布し、前述のマスターモールドを用いて熱ナノインプリントによりレジスト膜パターンを形成する。そして、シード層を形成後、Niめっきを行う。次いで、基板剥離・洗浄工程を経た後に離型処理を行うことによりマスターモールドと同一形状のNi製の複製モールドを得る。
【0009】
樹脂製の複製モールドを製造する方法としては、以下の方法が提案されている。マスターモールドを上述の方法により製造後、基板に樹脂レジストを塗布し、前述のマスターモールドを用いてナノインプリントにより樹脂よりなるレジスト膜パターンを形成する。そして、これに離型処理を施すことにより一次樹脂モールドを作製する。その後、さらに別の基板に樹脂レジストを塗布し、前述の一次樹脂モールドを鋳型としてナノインプリントにより樹脂よりなるレジスト膜パターンを形成する。そして、これに離型処理を施すことによりマスターモールドと同一形状の二次樹脂モールドを作製する。樹脂製の複製モールドによれば、安価なモールドを提供できる。
【0010】
特許文献3には、樹脂製の複製モールドとして、少なくとも1種の反応性基を有するシルセスキオキサン化合物、重合性単量体、光重合開始剤、及び界面活性剤を含む光ナノインプリントリソグラフィ用複製モールド用組成物を用いることが開示されている。
【0011】
また、特許文献4には、化学式(1)のようなSi−O−Tiネットワークを有する有機−無機ハイブリッド樹脂の硬化膜を有するナノインプリントリソグラフィ用の複製モールドが提案されている。
【化1】
【0012】
また、特許文献5には、ナノインプリントリソグラフィ用の高耐久性複製モールド及びその製造方法が提案されている。具体的には、ナノインプリントリソグラフィ用の複製モールドとして、下記一般式(2)で示される単位が8〜12個組み合わさって構成された重合性シルセスキオキサンを含む樹脂組成物の硬化膜を有するものが提案されている。
【化2】
なお、特許文献6、7については後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5772905号明細書
【特許文献2】特開2004−288845号公報
【特許文献3】特開2009−073078号公報
【特許文献4】特開2010−069730号公報
【特許文献5】特開2010−280159号公報
【特許文献6】特開2009−073809号公報
【特許文献7】特開2011−111636号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S. Y. Chou, et al., Applied Physics Letters, (1995), 67, 3114-3116.
【非特許文献2】J. Haisma, et al., J. Vac. Sci. Technol. B, B14, 4124-4128 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
マスターモールドから樹脂製の複製モールドを製造して利用することにより、ナノインプリントの低コスト化を図ることができる。しかしながら、樹脂製の複製モールドは、金属材料や石英等の無機材料からなるモールドに比して、機械的強度が弱く耐久性が低いという問題があり、その改善が強く求められていた。
【0016】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、ナノインプリントの低コスト化を図りつつ、耐久性にも優れたナノインプリント用の複製モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、以下の構成により本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る複製モールドは、ナノインプリント用の複製モールドであって、基体と、前記基体上に形成され、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、表面に凹凸が形成された複製モールド構造体と、を具備する。前記複製モールド構造体は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、365nmにおける透過率が70%以上である。
【0018】
本発明に係る複製モールドによれば、複製モールド構造体を樹脂、及び無機ナノ粒子を主成分としているので、低コスト化を実現することができる。また、複製モールド自体の大量生産も容易であるというメリットを有する。しかも、複製モールド構造体は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満のものとしているので、耐久性に優れる。従って、複製モールド個々の耐久性を高めることが可能となり、より効果的にコスト低減を図ることができる。また、複製モールド構造体として、365nmにおける透過率が70%以上のものを用いているので、光ナノインプリント用の複製モールド、熱ナノインプリント用の複製モールド、及び熱アシスト光ナノインプリント用の複製モールドのいずれにも利用可能であり、汎用性が高いというメリットも有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ナノインプリントの低コスト化を図りつつ、耐久性にも優れた複製モールドを提供できるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】第1実施形態に係る複製モールドの模式的断面図。
【図1B】第1実施形態に係る複製モールドの模式的断面図。
【図2A】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図2B】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図2C】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図2D】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図3A】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図3B】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図3C】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図3D】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4A】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4B】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4C】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4D】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図5A】実施例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5B】実施例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5C】実施例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5D】実施例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5E】比較例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5F】比較例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6A】実施例4に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6B】実施例4に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6C】実施例5に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6D】実施例5に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6E】比較例2に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6F】比較例2に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図7A】実施例4に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7B】実施例4に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7C】実施例5に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7D】実施例5に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7E】比較例2に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7F】比較例2に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図8A】実施例6に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8B】実施例6に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8C】実施例7に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8D】実施例7に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8E】比較例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8F】比較例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図9A】実施例6に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9B】実施例6に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9C】実施例7に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9D】実施例7に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9E】比較例3に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9F】比較例3に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図10】光ナノインプリント回数に対して離型エネルギーをプロットした図。
【図11】実施例1〜3、比較例1の複製モールド構造部の熱分解温度測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは必ずしも一致しない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0022】
[第1実施形態]
図1Aに、第1実施形態に係るナノインプリント用の複製モールドの模式的断面図を示す。第1実施形態に係る複製モールド1は、熱ナノインプリント用途、光ナノインプリント用途、熱アシスト光ナノインプリント用途などに好適に用いられる。なお、第1実施形態に係る複製モールド1は、ナノインプリント用途に好適なものであるが、ナノインプリント以外の他の用途に利用することも可能である。
【0023】
複製モールド1は、基体10、複製モールド構造体20、密着層30を具備する。複製モールド構造体20は、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、基体10上に形成されている。複製モールド構造体20の表面には、ナノインプリント用途に用いるための凹凸が形成されている。複製モールド構造体20は、(1)押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、(2)線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、(3)365nmにおける透過率が70%以上であるものを用いる。
【0024】
なお、本明細書の押し込み弾性率は、ISO 14577−1 2002−10−01 Part1に基づいて得られる値を示している。また、線熱膨脹係数は、100℃から150℃における線熱膨脹係数を示しており、複製モールド組成の非パターンの自己支持膜(直径約7mm、膜厚は約140μm)を作製して、熱・応力・歪測定装置(EXSTAR TMA/SS6100、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の圧縮膨張試験から求めた値を示している。より具体的には、サンプルに対し、石英棒を用いて、常時、押し付け力が100mNとなるように、昇温速度5℃/minで室温から180℃の制御温度で3サイクル測定し、2サイクル行った後、3サイクル目の100〜150℃を分析した値を示している。
【0025】
基体10の材料は、複製モールド構造体20を支持し、機械的強度の高いものであれば特に限定されない。複製モールド1を熱ナノインプリントに利用する場合には、加熱成型する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するものであれば、特に限定されない。一例として、シリコン、ガラス、石英、アルミナ、チタン酸バリウム等の無機物や無機酸化物、あるいはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の樹脂が挙げられる。複製モールド1を光ナノインプリント成型に利用する場合には、基体10側からの活性光線を行うために、基体10を活性光線透過材料により構成することが必要となる。なお、光ナノインプリント成型の場合であっても、活性光線を加工する樹脂パターン側から照射する場合には、基体10の透過性は不要である。
【0026】
基体10は、単層の他、同種、若しくは異種材料の積層体でもよく、また、2種以上の複合材からなる群より選択される材料でもよい。複合材としては、公知のものを制限なく利用できる。例えば、ガラス繊維をエポキシ樹脂で固めた複合材や、フェノールとホルムアルデヒドを原料としたフェノール樹脂(例えば、ベークライト(登録商標))を積層した複合材が挙げられる。
【0027】
基体10は、平滑性、低膨脹係数、絶縁性の観点から、シリコン、ガラス、石英等の無機材や、ポリイミド等の耐熱性有機材料が好ましい。複製モールド1を光ナノインプリントリソグラフィ用複製モールドとして使用するためには、紫外線の透過性に優れるガラスやプラスチックなどが好適に用いられる。基体10は、波長365nmの紫外線の透過率が80%以上のものが好ましい。
【0028】
基体10は、複製モールド1の機械的強度を確保する役割を担う。基体10の厚みは任意でよいが、複製モールド1の耐久性や、パターン転写精度を高めるために適切な厚みとする必要がある。具体的には、0.01〜5mmの厚さが好ましく、0.05〜1mmの厚さがより好ましい。ナノインプリント時にプロセスの熱履歴等によって基体の歪みが生じて、パターン転写の精度が低下することのないよう考慮する。
【0029】
複製モールド構造体20の押し込み弾性率は、前述したように4000N/mm2以上、74000N/mm2未満とする。4000N/mm2以上とすることにより、インプリント成型時の圧力によって複製モールド構造体の凹凸形状に変化が生じるのを効果的に抑制することができる。押し込み弾性率は、高いほど望ましいが、溶融シリカの押し込み弾性率74000N/mm2未満となる。より好ましい範囲は、5000〜15000N/mm2であり、さらに好ましい範囲は、5000〜9000N/mm2であり、特に好ましい範囲は5500〜8500N/mm2である。
【0030】
複製モールド構造体20の線熱膨脹係数は、前述したように、10×10−5K−1未満のものを用いる。10×10−5K−1未満とすることにより、熱ナノインプリント成型時に複製モールド構造体の凹凸形状に変化が生じるのを効果的に防止することができる。また、成型温度から室温に戻して離型する工程において、複製モールド構造体の収縮が大きいと、離型エネルギーが大きくなるが、複製モールド構造体20の線熱膨脹係数を10×10−5K−1未満とすることにより、複製モールド1の力学的な破壊を招く現象を効果的に抑制することができる。複製モールド構造体20の線熱膨脹係数は、低いほうが望ましく線熱膨張係数の下限値は特に限定されないが、入手容易性の観点から1.0×10−5K−1以上が好ましい。
【0031】
複製モールド構造体20は、前述したように樹脂と無機ナノ粒子を主成分として含む。樹脂は、特に限定されないが、取扱い容易性の観点から、光硬化性組成物と無機ナノ粒子を少なくとも含有する複製モールド組成物から形成することが好ましい。すなわち、複製モールド組成物に対してマスターモールドパターンを押圧し、硬化させるタイプが好ましい。従って、複製モールド組成物は、モールドへの充填を妨げないために、粘度が低いものが好ましい。また、溶剤乾燥工程などを省略できる観点から、反応性希釈剤を除く溶剤を含まない溶剤不要型がより好ましい。
【0032】
前記光硬化性組成物は、所定の光硬化成分と、必要に応じて添加する添加剤等からなる。光硬化性成分とは、露光により反応して硬化する成分をいう。具体的には、光二量化型の光硬化性組成物であれば桂皮酸エステル系樹脂等の光二量性基を有する樹脂、光架橋型の光硬化性組成物であれば環化ゴム系レジスト等の光架橋剤と高分子、エン/チオール型、ラジカル、カチオン等の光重合型の光硬化性組成物であれば光重合性基を有する化合物及び光重合開始剤である。なお、汎用性等の面からは光重合型が最も好ましい。
【0033】
光重合性基を有する化合物としては、ラジカル重合性基又はカチオン重合性基を有する化合物をいう。ラジカル重合性基の例としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。カチオン重合性基としては、エポキシ基、ビニロキシ基、オキセタニルキ基等が挙げられる。光重合性基を有する化合物は単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよく、また、ラジカル重合性基を有する化合物とカチオン重合性基を有する化合物とを併用してもよい。
【0034】
光重合開始剤とは、光の照射により、上記重合性基を有する化合物の重合反応を開始させることのできるラジカル、カチオン等の活性種を発生する化合物をいう。光重合開始剤は、ラジカル重合開始剤とカチオン重合開始剤とに分類できる。ラジカル重合開始剤の例としては、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、α−アミノアルキルフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、チタノセン類及びオキシムエステル類、トリハロメチルトリアジン類、その他トリハロメチル基を有する化合物等が挙げられる。カチオン重合開始剤の例としては、芳香族スルホニウム塩及び芳香族ヨードニウム塩等が挙げられる。開始剤は単独で用いても2種類以上組み合わせて用いてもよく、また、ラジカル重合開始剤とカチオン重合開始剤とを併用してもよい。さらに、光重合開始剤と共に増感剤を用いてもよい。
【0035】
前記光硬化性組成物における光重合性基を有する化合物の含有率は、光硬化性組成物の総量100質量部に対して、50〜99.99質量部が好ましい。50質量部未満では光重合性基が少ないことにより、99.99質量部を超えると光重合性基を有する化合物に対する光重合開始剤の割合が低くなることにより、いずれも光硬化性が低下するためである。さらに、光重合性基を1分子中に2つ以上有する光重合性基を有する化合物を、光硬化性組成物の総量100質量部に対して5質量部以上、好ましくは20質量部以上含有するのが望ましい。光架橋により硬化物の機械的強度を向上させるためである。また、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有率は、光重合性基を有する化合物100質量部に対して、0.01〜20質量部が好ましい。0.01質量部未満では光重合性基を有する化合物に対する光重合開始剤の割合が低くなり、光硬化性が低下する。また20質量部を超えると、光硬化性組成物に対する光重合開始剤の溶解性が低下し、実用的でない。
【0036】
光硬化性組成物には、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤の例としては、例えば、基体への塗布特性改善のために界面活性剤、レベリング剤、形状検査のための蛍光物質が挙げられる。また、非光硬化性オリゴマーや非光硬化性ポリマー、密着性付与剤(例えば、シランカップリング剤等)、有機溶剤、レべリング剤、可塑剤、充填剤、消泡剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、香料、熱架橋剤、及び重合禁止剤等が挙げられる。
【0037】
複製モールド構造体中の樹脂を形成する組成物中の化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートなどが好適な例として挙げられる。
【0038】
無機ナノ粒子は、特に限定されないが、シリカ、アルミナ、チタニア、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、セリア、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化インジウムおよび酸化インジウムスズなどが挙げられる。1種類であってもよいし、2種類以上が含有されていてもよい。
【0039】
複製モールド構造体20における無機ナノ粒子の分散性を確保する点からは、無機ナノ粒子の表面に有機基が導入された有機−無機複合ナノ粒子であることがより好ましい。有機基は、特に限定されないが、製造工程中も含めて樹脂との相溶性が高いものが好ましい。無機ナノ粒子の表面に導入する有機基の好ましい例としては、アルキル基やアクリロイル基、メタアクリロイル基などが挙げられる。水分などの吸湿を防止する観点からは、疎水基であることが好ましい。無機ナノ粒子の特に好ましい例として、メタアクリロイル基修飾型シリカナノ粒子、アクリロイル基修飾型シリカナノ粒子などが挙げられる。
【0040】
無機ナノ粒子の平均粒子径は、ナノオーダーのものとする。より好ましい平均粒子径は、2nm以上、30nm以下である。30nm以下とすることにより、紫外線の散乱現象を効果的に抑制し、紫外線透過率の低下を防ぐことができる。また、2nm未満であると、無機ナノ粒子の表面に修飾基を導入した場合には、無機ナノ粒子の含有量を高めて押し込み弾性率を高めることが困難となる。
【0041】
複製モールド構造体20中の無機成分の含有量は、特に限定されないが、26質量%以上とすることにより、上述した線熱膨脹係数と押し込み弾性率をより効果的に最適化し、耐久性の向上を実現しやすい。上限値は、複製モールド構造体の加工容易性の観点から、70質量%以下である。より好ましい範囲は、28質量%以上、65質量%以下、さらに好ましい範囲は、28質量%以上、60質量%以下、特に好ましい範囲は、45質量%以上、60質量%以下である。
【0042】
複製モールド構造体の膜厚は、特に限定されず、用途に応じて、適宜選択可能であるが、光ナノインプリント成型に用いる場合は、波長365nmにおける紫外線の透過率が70%以上の膜厚であればよい。熱ナノインプリント成型に用いる場合は、波長365nmにおける紫外線の透過率が70%未満の膜厚であってもよい。
【0043】
複製モールド構造体20の形状や大きさは、限定されず、適宜設計可能である。複製モールド構造体20のパターン形状も特に限定されない。例えば、パターンの凸線幅や凹線幅は、10nm〜2μmである。複製モールド構造体20の表面形状は、平面のほか、曲面形状であってもよい。
【0044】
密着層30は、基体10と複製モールド構造体20とを強固に接着させる機能を有する。これにより、複製モールド1の耐久性を高めることができる。密着層30は、基体10と複製モールド構造体20との接着性を確保できれば特に限定されない。例えば、反応性シリル基を有する密着剤を好適に適用できる。取扱い容易性の観点から、光硬化性モノマー、光硬化性オリゴマー、光硬化性ポリマー等の光硬化性樹脂と光重合開始剤を少なくとも含む光硬化性樹脂、及び無機ナノ粒子を少なくとも含有する複製モールド組成物から複製モールド構造体20を形成する場合には、密着層30として以下の基を含むものが好ましい。すなわち、密着層30の密着剤として、アクリロイル基やメタアクリロイル基などの反応性基を有し、かつ、トリメトキシシリル基やトリクロロシリル基などの反応性シリル基を有するものが好適な例として挙げられる。密着層30を形成させる方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、スピン塗布、バーコート、ダイコート、マイクログラビアコート等の湿式処理法、気相化学吸着法などの乾式処理方法を用いることができる。
【0045】
なお、基体10と複製モールド構造体20との接着性が確保できる場合には、図1Bに示すように、密着層30を設けない複製モールド1aとしてもよい。
【0046】
次に、複製モールド1の製造方法の一例について説明する。図2A〜図2Dに、第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図を示す。なお、本発明の複製モールドの製造方法は、以下の製造方法によって何ら限定されるものではなく、種々の製造方法によって製造することが可能である。
【0047】
まず、基体10上に密着層30を形成する(図2A)。基体10の表面にOH基を形成することが可能な材料の場合には、UV/O3処理などにより基体10の表面にOH基を形成し、その上層に気相法や液相法により反応性シリル基を有する密着剤層を形成することが好ましい。密着層30の形成は、気相法や液相法が好適であり、反応性シリル基であるメトキシ基などを用いる場合には、吸着単分子膜を形成しやすくなる観点から気相法の方が液相法より好適である。
【0048】
次いで、密着層30の上層に複製モールド構造体20を形成するための複製モールド組成物25を滴下する(図2B)。そして、ペンタフルオロプロパン(PFP)等の凝縮性ガスを所定量吹き付けながら、複製モールド組成物25に対してマスターモールド40を押しつける。凝縮性ガスを吹き付けることにより、複製モールド構造体20に気泡が混入するのを抑制することができる。このプロセスによれば、溶剤の乾燥時間をカットすることができるので製造工程の短縮化を実現できる。溶剤不要タイプの場合には、粘度が高くならないように粘性の低い反応性モノマー等を添加して粘度を調整することが好ましい。次いで、マスターモールド40による押圧後、活性光線を照射することにより複製モールド組成物25を硬化せしめる(図2C)。そして、マスターモールド40を離型する(図2D)。
【0049】
なお、上記複製モールド構造体20は、スピンコート法などにより複製モールド組成物25の塗膜を形成し、溶媒を乾燥により除去した後にマスターモールド40を押し付けて形成してもよい。
【0050】
マスターモールド40を離型した後、必要に応じて、複製モールド構造体20の表面に離型処理を施す。これにより、複製モールド1の耐久性を効果的に向上させることができる。離型処理は、複製モールド構造体20の表面に反応性離型剤よりなる離型層を形成する。離型処理に先だって、反応性離型剤を効果的に複製モールド構造体20の表面に付着させるために、複製モールド構造体20の表面の表面改質を行うことが好ましい。表面改質は、例えば、UV/O3処理や酸素反応性イオンエッチング処理による親水化処理により行うことができる。
【0051】
上記工程を経て、複製モールド1を得ることができる。なお、離型処理を施さなくても離型力が十分にある場合には、離型処理、表面改質の工程を省くことができる。
【0052】
ナノインプリント技術は、前述したとおりフォトリソグラフィ技術に比してコスト性に優れているが、マスターモールドの製造コストが高いという問題があった。微細加工に有利な電子線描画によるモールド製造においては、例えば、2インチサイズの円形モールドを作製するには約1週間の時間を要するため、高価なものとなっていた。
【0053】
第1実施形態に係る複製モールドによれば、複製モールド構造体を樹脂、及び無機ナノ粒子を主成分としているので、全体の製造コストを低下させることができる。また、複製モールド自体の大量生産も容易である。しかも、複製モールド構造体は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、線熱膨脹係数を10×10−5K−1未満としているので、耐久性に優れる。従って、複製モールド個々の耐久性を高めることが可能となり、より効果的にコスト低減を図ることができる。また、複製モールド構造体として、365nmにおける透過率が70%以上のものを用いているので、光ナノインプリント用の複製モールド、熱ナノインプリント用の複製モールド、及び熱アシスト光ナノインプリント用の複製モールドのいずれにも利用可能であり、汎用性が高いというメリットも有する。なお、マスターモールドを電子線描画によって作製する例を述べたが、レーザ描画法などの他の方法により製造したものを用いてもよいことは言うまでもない。
【0054】
なお、上記第1実施形態においては、マスターモールド40の反転鋳型である複製モールドを形成する例について述べたが、マスターモールド40と同一形状の複製モールドを形成したい場合には、第1実施形態に係る複製モールド1を用いて、同様の方法により複製モールド1の反転鋳型である、マスターモールド40と同一形状の複製モールドを製造することも可能である。
【0055】
[第2実施形態]
次に、第1実施形態に係る複製モールドを用いた熱ナノインプリントによる樹脂パターンの形成方法の一例について説明する。図3A〜図3Dに、第2実施形態に係る樹脂パターンの製造工程断面図を示す。
【0056】
基体50上に熱可塑性樹脂膜60を形成する(図3A)。熱可塑性樹脂膜60は、複製モールド構造体20の表面の凹凸パターンを転写した樹脂パターンを形成するための膜である。基体50と熱可塑性樹脂膜60の間には、必要に応じて密着層を形成してもよい。基体50の材料は、後述する加熱成型する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するものであれば、特に限定されない。一例として、シリコン、ガラス、石英、アルミナ、チタン酸バリウム等の無機物や無機酸化物、あるいはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の樹脂が挙げられる。基体50は、単層の他、同種、若しくは異種材料の積層体でもよく、また、2種以上の複合材からなる群より選択される材料でもよい。複合材としては、公知のものを制限なく利用できる。
【0057】
熱可塑性樹脂膜60の形成方法は、特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させた溶液を、スピンコート法、浸漬法、スプレイコート法、フローコート法、ロールコート法、ダイコート法等により成膜し、更に送風下、加熱下、減圧下で溶媒を蒸散させる工程によって熱可塑性樹脂膜60を形成できる。溶媒は、用いる熱可塑性樹脂が溶解すればよく、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0058】
また、熱可塑性樹脂膜60を形成するための組成物は、熱可塑性樹脂、溶媒の他に、適宜、添加剤を加えてもよい。例えば、基体への塗布特性改善のために界面活性剤、レベリング剤等を添加することや、形状検査のための蛍光物質を添加してもよい。これらの界面活性剤、レべリング材の例としては、イオン系、またはノニオン系界面活性剤、あるいはシリコーン誘導体、フッ素誘導体が挙げられる。蛍光物質の例としては、アクリジン系蛍光物質、アントラセン系蛍光物質、ローダミン系蛍光物質、ピロメテン系蛍光物質、ペリレン系蛍光物質が挙げられる。
【0059】
熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させた溶液において、熱可塑性樹脂の濃度は、通常、0.1〜15質量%の範囲である。0.1質量%より低濃度の場合、熱可塑性樹脂の膜厚が薄くなり過ぎ、レジストとしての機能を成さない可能性がある。15質量%より高濃度の場合、膜厚の均一性が保てなく恐れがある。
【0060】
熱可塑性樹脂膜60の主成分である熱可塑性樹脂は、室温より高いガラス転移温度を示すものであれば好適に用いることができる。具合的には、メタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、5,000〜1,000,000g/molであることが好ましく、20,000〜500,000g/molであることが特に好ましい。分子量が5,000g/mol未満であると、加熱成型時の流動性が増し、熱可塑性樹脂膜60の形状が保てなくなることがある。分子量が1,000,000g/mol以上であると、ガラス転移温度以上でも粘性が高く、熱ナノインプリント成型を高速に行うことが困難となる。
【0061】
基体50上に形成された熱可塑性樹脂膜60に対し、表面に凹凸パターンを有する複製モールド1を用いて加熱成型する。複製モールド1を用いて加熱成型により樹脂パターン61を得る方法としては、公知の方法が利用可能である。例えば、平行平板方式の1対1の転写、ロール・トゥー・ロール、シート・トゥー・シートなどの方法が挙げられる。熱ナノインプリント装置としては、公知の装置を用いることができる。熱ナノインプリント装置は、例えば、加熱冷却部、加圧部、及び減圧部を備える。加熱冷却部は、ヒーターと水冷構造を内蔵するステージからなり、レジスト膜を有する基体をステージに設置し、加熱することにより、レジスト膜を軟化及び冷却させる。加圧部では、レジスト膜を有する基体に凹凸パターンのモールドを押し付ける。レジスト膜が軟化した基体に、モールドの微細な凹凸構造を加圧することにより、凹凸パターンを転写する。減圧部では、基体に対してモールドを押し付ける際に、減圧状態とする。これにより、モールドの凹凸パターンにレジスト膜を効率よく追従させることができる。これにより、熱可塑性樹脂膜60が変形する。
【0062】
次いで、熱ナノインプリント装置の加熱冷却ステージに設置する。そして、レジスト膜を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも20〜100℃高い温度で加熱する(加熱工程)。熱可塑性樹脂のガラス転移温度から20℃以上高い温度で加熱することで、熱可塑性樹脂がゴム状態となり十分に軟化するため、転写されたパターンのエッジ部分が丸くなることを防止できる。次いで、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より100℃以下の温度で加熱することで、レジスト膜パターン転写後の冷却時に樹脂が大幅に収縮することを防止できる。このため、形成されたレジスト膜パターンの線幅が痩せることを防止できる。
【0063】
次いで、凹凸パターンを有する複製モールド1を熱可塑性樹脂膜60に押し付け(加圧工程)、一定時間保持することで(保持工程)、複製モールド1の凹凸パターンを熱可塑性樹脂膜60に転写する。複製モールド1の押し付け圧力は特に限定されないが、一般に1〜100MPaであり、好ましくは5〜20MPaである。複製モールド1の押し付け時間は、一般に1秒〜10分間であり、好ましくは15〜120秒間である。押し付けの際に複製モールド1とサンプルの間を減圧状態に保つことが好ましい。これにより、複製モールド1の微細な凹凸パターンに、熱可塑性樹脂膜60を効率良く追従させることができ、より高精度のパターニングが可能となる。その後、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に温度を下げる(冷却工程)。次いで、複製モールド1を樹脂パターン61から離型する(離型工程)。これにより、複製モールド1の凹凸パターンが転写された樹脂パターン61が形成された樹脂パターン付き基体101を得る。
【0064】
なお、第2実施形態で説明した樹脂パターン付き基体101のように、基体上に樹脂パターンを直接、若しくは密着層を介して積層する態様の他、基体と樹脂パターンの間に金属膜や絶縁膜等を形成してもよい。例えば、基体と樹脂パターンの間に金属膜を形成し、得られた樹脂パターン61から金属膜パターンを得ることも可能である。具体的には、樹脂パターン61の凹部において、金属膜表面を露出させるために、残渣除去(残膜除去)を行うステップを追加し、次に、樹脂パターン61をマスクにしてウェットエッチング工程等により金属膜のパターンを得たり、めっき処理により樹脂パターン61の凹部に金属膜を形成したりしてもよい。なお、金属膜の上層に熱可塑性樹脂膜を形成する場合には、特許文献6や特許文献7などに記載の光反応性接着層を金属膜と熱可塑性樹脂膜の間に形成することが好ましい。
【0065】
また、樹脂パターン付き基体101の上層に、金属膜、絶縁膜などの他の膜を積層してもよい。樹脂パターン61の上層に金属膜を成膜し、リフトオフ法により金属膜パターンを得ることも可能である。
【0066】
樹脂パターン61は、例えば、CDやDVDのパターンとして、あるいは、マイクロチャネルアレイ、DNAチップ、MEMSなどの流路や凹部パターンなどとしてそのものを利用することができる。また、前述したように、樹脂パターン61を被加工層として金属膜等のパターニングに利用することも可能である。この方法によれば、例えば、太陽電池やタッチパネル等の電極用途に好適に用いられる銀や、配線用途に好適に用いられる銅やアルミニウム、フォトマスクやフラットパネルディスプレイの遮光層に好適に用いられるクロム、電磁波制御フィルター用途に好適に適用できる銀、白金、金等を本発明の複製モールドから得ることができる。
【0067】
第2実施形態によれば、耐久性が高く、安価に得られる複製モールド1から、熱ナノインプリントにより樹脂パターン付き基体101を得ることができるので、製品の低コスト化を実現することができる。
【0068】
[第3実施形態]
次に、第1実施形態に係る複製モールドを用いた光ナノインプリント成型による樹脂パターンの形成方法の一例について説明する。図4A〜図4Dに、第3実施形態に係る樹脂パターンの製造工程断面図を示す。
【0069】
基体50上に光硬化性樹脂膜65を形成する(図4A)。光硬化性樹脂膜65は、複製モールド構造体20を鋳型として形成される樹脂パターンを形成するための膜である。基体50と光硬化性樹脂膜65の間には、必要に応じて密着層を形成してもよい。基体50の材料は、後述する活性光線照射の際に、活性光線を透過する材料であれば、特に限定されない。一例として、ガラス、石英、ポリカーボネート樹脂、メタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0070】
光硬化性樹脂膜65の形成方法は、特に限定されず、第2実施形態で説明した方法により行うことができる。また、光硬化性樹脂膜を形成するための光硬化性組成物が粘性の低い液体の場合、インクジェット法により基体50上に光硬化性組成物の液滴を形成させて、複製モールド1を接触させるときに光硬化性樹脂膜65を形成させてもよい。前記光硬化性組成物は、所定の光硬化成分と、必要に応じて添加する添加剤等からなる。例えば、基体への塗布特性改善のために界面活性剤、レベリング剤、形状検査のための蛍光物質が挙げられる。
【0071】
光硬化性成分、光重合性基を有する化合物、光重合開始剤、光硬化性組成物における光重合性基を有する化合物の含有率、光硬化性組成物に必要に応じて添加する添加剤については、第1実施形態で述べたとおりである。
【0072】
基体50上に形成された光硬化性樹脂膜65に対し、凹凸パターンを有する複製モールド1を押し付けた後、活性光線を照射する。これにより、光硬化性樹脂膜65に複製モールドの凹凸パターンが転写され、樹脂パターン66を得る(図3B、図3C)。その後、離型処理を行い、樹脂パターン付き基体102を得る。活性光線は、取扱い容易性の観点から、紫外線であることが好ましい。
【0073】
なお、第3実施形態で説明した樹脂パターン付き基体102は、第2実施形態と同様に、マイクロチャネルアレイ等の凹凸パターンとして利用したり、金属膜パターンの被加工層として利用することが可能である。
【0074】
第3実施形態によれば、耐久性が高く、安価に得られる複製モールド1から、光ナノインプリントにより樹脂パターン付き基体101を得ることができるので、製品の低コスト化を実現することができる。しかも、ウェットエッチング処理や露光工程を経ずに樹脂パターンを得られるので、製造工程の短縮化を図ることもできる。
【0075】
なお、第1実施形態で得られた複製モールド1を、第2実施形態では熱ナノインプリントに利用する例を、第3実施形態では光ナノインプリントに利用する例を挙げたが、一例であって、種々の用途に複製モールド1を利用することができる。複製モールド1は、第2実施形態と第3実施形態の方法を組み合わせることにより、熱アシスト光ナノインプリントにも好適に利用できる。すなわち、樹脂パターンを形成して硬化させる際に、光照射による硬化と、熱による硬化の両者を利用することにより形成してもよい。
【0076】
[実施例] 以下、本実施形態を実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
≪複製モールド用組成物Aの調製≫ 複製モールド用組成物Aとして、ラジカル重合性基を有する化合物(光硬化性モノマー)、無機ナノ粒子、及び光重合開始剤よりなる組成物を調製した。具体的には、ラジカル重合性基を有する化合物として、化学式(3)の1,4−ブタンジオールジアクリレート(以下、「AC4」と称する)を用いた。
【化3】
【0078】
無機ナノ粒子として、メチルエチルケトン(MEK)に分散させたメタアクリロイル基を有する表面修飾シリカナノ粒子(MEK-AC-2101、日産化学社製、平均粒径20nm、シリカナノ粒子成分の濃度は30質量%)を用いた。前記光硬化性モノマー及び無機ナノ粒子を、無機ナノ粒子成分が光硬化性モノマーに対して30質量%となるようにナスフラスコに投入し、十分に攪拌した。
【0079】
撹拌後、50〜60℃にて温浴しながら減圧下で溶媒のMEKを留去した。次いで、光重合開始剤であるイルガキュア907(IRG907、豊通ケミプラス社製)を、光硬化性モノマー95質量%に対して5質量%となるように添加した。その後、攪拌機(AR-250、THINKY社製)を用いて攪拌5分、脱泡10分の処理を2サイクル行い、気泡を取り除いた。これらの工程を経て複製モールド用組成物Aを調製した。
【0080】
≪複製モールド用組成物Bの調製≫ 光硬化性モノマーに対し、無機ナノ粒子成分を45質量%である以外は、複製モールド用組成物Aの調製方法と同様にして複製モールド用組成物Bを調製した。
【0081】
≪複製モールド用組成物Cの調製≫ 光硬化性モノマーに対し、無機ナノ粒子成分を60質量%とする以外は、複製モールド用組成物Aの調製方法と同様にして複製モールド用組成物Cを調製した。
【0082】
≪複製モールド用組成物Zの調製≫ 光硬化性モノマーと光重合開始剤のみとする(無機ナノ粒子成分を加えない)以外は、複製モールド用組成物Aの調製方法と同様にして複製モールド用組成物Zを調製した。
【0083】
≪基板≫ 基板として、スライドガラス(マツナミ社製、厚さ1mm)、石英ガラス(古川理工社製、厚さ1mm又は3mm)、シリコンウェハ(松崎製作所社製、厚さ0.35mm)を用意した。基板洗浄後、基板に対してUV/O3処理(PL-16-110、セン特殊光源社製)を20分実施した。その後、窒素置換した密閉容器に密着層剤である3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製)と、UV/O3処理済みの基板を入れ、加温処理(150℃、1時間)を行った。これらの工程を経て、密着層を表面に形成した密着層付き基板を得た。
【0084】
≪実施例1(複製モールドAの作製)≫ 上述の密着層付き基板として石英ガラスを用いた。このスライドガラス上に前述の複製モールド用組成物Aを滴下した。そして、ペンタフルオロプロパン(PFP)を1.0L/minで吹き付けながら、光ナノインプリント装置(NM801、明昌機工社製)を用いてスライドガラス上で複製モールド用組成物Aの光ナノインプリント成型を行った。マスターモールドには、離型処理用溶液(オプツール HD−1100Z、ダイキン工業社製)を用いて離型処理を施した石英基板からなる反転鋳型を用いた。マスターモールドのパターンは、25mm角の石英の中央部の10mm角の領域に、凹線幅が300nm、1μmの2パターンが形成されているものを用いた。マスターモールドを押圧後、波長365nmにおける照射強度100mW/cm2で紫外線露光を15秒行い、離型した。表1に、詳細な条件を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
複製モールド用組成物Aが硬化成型された複製モールドに対し、UV/O3処理(PL-16-110、セン特殊光源社製)を5分間行った。次いで、離型処理用溶液(オプツール HD−1100Z、ダイキン工業社製)に2分間浸漬した。続いて、密閉容器内において60℃で1時間加湿加温した。その後、リンス剤(HD−ZV、ダイキン工業社製)に3分間の浸漬洗浄工程を3回繰り返し、余分な離型剤を除去した。以上の工程を経て、複製モールドAを得た。
【0087】
得られた複製モールドAの光学顕微鏡像を図5A及び図5Bに示す。マスターモールドの凹線幅300nmパターンから、凸線幅300nmパターンの複製モールド構造体が得られることを確認した(図5A参照)。また、マスターモールドの凹線幅1μmパターンから凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られることを確認した(図5B参照)。
【0088】
≪実施例2(複製モールドBの作製)≫ 複製モールド用組成物Bを用いた点以外は、実施例1と同様の方法により複製モールドBを得た。得られた複製モールドBの光学顕微鏡像より、マスターモールドの凹線幅300nmパターン、1μmのパターンから、それぞれ凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られることを確認した。
【0089】
≪実施例3(複製モールドCの作製)≫ 複製モールド用組成物Cを用いた点以外は、実施例1と同様の方法により複製モールドCを得た。得られた複製モールドCの光学顕微鏡を図5C及び図5Dに示す。マスターモールドの凹線幅300nmパターンから凸線幅300nmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5C参照)ことを、マスターモールドの凹線幅1μmパターンから凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5D参照)ことを確認した。
【0090】
≪比較例1(複製モールドZの作製)≫ 複製モールド用組成物Zを用いた点とPFP吹き付けを行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により複製モールドZを得た。得られた複製モールドZの光学顕微鏡を図5E及び図5Fに示す。マスターモールドの凹線幅300nmパターンから凸線幅300nmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5E参照)ことを、マスターモールドの凹線幅1μmパターンから凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5F参照)ことを確認した。
【0091】
≪複製モールドA〜C、Zの透明性評価≫ 複製モールドの透明性を評価するために、石英ガラス上に複製モールド構造体を形成したサンプルを作製した。基板としてスライドガラスを、石英基板に変更した以外は、上記実施例1〜3、比較例1と同様の手順により複製モールドを作製した。透過率測定は、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3100PC、Shimadzu社製)を用いた。測定波長は365nmとした。
【0092】
複製モールド用組成物A〜C,Zから作製した複製モールドの365nmにおける透過率を測定したところ、複製モールドAは85%、複製モールドBは80%、複製モールドCは74%、複製モールドZは88%であった。基体として使用したスライドガラスの365nmにおける透過率が92%であったことから、複製モールドA〜C,Zの複製モールド構造体の透過率はそれぞれ92%、88%、80%、95%であり、いずれも70%以上となった。いずれも光学的に透明であることから、光硬化性樹脂中に無機ナノ粒子が均一分散されていることを確認した。
【0093】
≪実施例4(複製モールドAを用いた光ナノインプリント)≫ 樹脂パターン形成材料として、光ナノインプリント用レジスト(C−TGC−02、東洋合成工業社製、95質量部のラジカル重合光硬化成分70PAと5質量部の光重合開始剤IRG907からなる光硬化性組成物)をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)で希釈(レジスト:PGME=1:3.26(重量比))したものを用いた。シリコンウェハ上に、スピンコート法(1000rpm・10s,3000rpm・30s)により上記レジストの希釈液の塗膜を得た。
【0094】
次いで、得られた塗膜に対して、ペンタフルオロプロパンを流量1L/minで吹き付けしながら光ナノインプリント成型を行った。離型後の塗膜に対し、さらに後露光(波長365nmにおける照射強度50mW/cm2、照射時間60s)を酸素濃度約0.5%の窒素下で行い樹脂パターンを得た。表2に詳細な条件を示す。
【表2】
【0095】
1つの複製モールドAを用いて、光ナノインプリント用レジスト(C−TGC−02)の光ナノインプリント成型を50回行い、樹脂パターンを50回形成した。図6A及び図6Bに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールドAの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図7A及び図7Bに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0096】
図6A及び図6Bより、50回転写後でも、複製モールドAの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図7A及び図7Bより、50回転写後でも、光ナノインプリント成型により得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0097】
≪実施例5(複製モールドBを用いた光ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドBを用いた点以外は、実施例4と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドBを用いて、光ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図6C及び図6Cに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールBの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図7C及び図7Dに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0098】
図6C及び図6Dより、50回転写後でも、複製モールドBの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図7C及び図7Dより、50回転写後でも、光ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0099】
≪比較例2(複製モールドZを用いた光ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドZを用いた点以外は、実施例4と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドZを用いて、光ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図6E及び図6Fに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールZの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図7E及び図7Fに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0100】
図6E及び図6Fより、50回転写後でも、複製モールドZの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図7E及び図7Fより、50回転写後でも、光ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0101】
実施例4、5、及び比較例2において、50回光インプリントを行った後の樹脂パターンの凹部深さと、複製モールドの凸部高さとをAFM(NanoNaviII、カンチレバー(OLYMPUS AC200TS),SII社製)により評価した。走査周波数は、0.2Hzで20μm角の領域を測定した。表3にその結果を示す。
【表3】
【0102】
表3より、無機ナノ粒子を含有する実施例4及び実施例5においては、50回の光インプリントを行った後の複製モールドと樹脂パターンとの差が小さく、無機ナノ粒子を含まない比較例2に比してパターン耐久性が高いことがわかる。
【0103】
≪実施例6(複製モールドAを用いた熱ナノインプリント)≫ 樹脂パターン形成材料として、熱ナノインプリント用レジスト(ポリスチレン(PS)Polymer Aldrich社製、平均分子量Mw=35[kg/mol])をトルエンで13質量%に希釈してものを用いた。シリコンウェハ上に、スパッタリングにより金薄膜(25nm)を成膜した。次いで、金薄膜上にスピンコート法(3000rpm・30s)により上記希釈液の塗膜を得た。
【0104】
次いで、得られた塗膜に対して、複製モールドCを押し付けて熱ナノインプリントを行うことにより樹脂パターンを得た。表4に詳細な条件を示す。
【表4】
【0105】
1つの複製モールドAを用いて、熱ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図8A及び図8Bに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールドAの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図9A及び図9Bに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0106】
図8A及び図8Bより、50回転写後でも、複製モールドAの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図9A及び図9Bより、50回転写後でも、熱ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0107】
≪実施例7(複製モールドCを用いた熱ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドCを用いた点以外は、実施例5と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドBを用いて、熱ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図8C及び図8Cに、熱ナノインプリントを50回行った後の複製モールBの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図9C及び図9Dに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0108】
図8C及び図8Dより、50回転写後でも、複製モールドCの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図9C及び図9Dより、50回転写後でも、熱ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0109】
≪比較例3(複製モールドZを用いた熱ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドZを用いた点以外は、実施例5と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドZを用いて、光ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図8E及び図8Fに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールZの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図9E及び図9Fに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0110】
図8E及び図8Fより、50回転写後でも、複製モールドZの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図9E及び図9Fより、50回転写後でも、熱ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0111】
実施例6、7、及び比較例3において、50回熱インプリントを行った後の樹脂パターンの凹部深さと、複製モールドの凸部高さとをAFM(NanoNaviII、カンチレバー(OLYMPUS AC200TS),SII社製)により評価した。走査周波数は、0.2Hzで20μm角の領域を測定した。表5にその結果を示す。
【表5】
【0112】
表5より、無機ナノ粒子を含有する実施例6及び実施例7においては、50回の熱インプリントを行った後の複製モールドと樹脂パターンとの差が小さく、無機ナノ粒子を含まない比較例3に比してパターン耐久性が高いことがわかる。
【0113】
≪複製モールド組成の非パターン膜の作製≫ 以下の工程により複製モールド組成の非パターン膜を作製した。まず、密着層付き基板に対し、複製モールド用組成物A〜C、Zを滴下した。なお、滴下直前に、撹拌機(AR-250、THINKY社製)にて、15分間(5分撹拌、10分間脱泡)処理し、複合樹脂中の気泡を取り除いた。次いで、離型処理を施した凹凸パターンのないフラットな石英基板をかぶせて、石英基板側から複製モールドA作製と同じ条件で紫外線露光(365nm、1.0〜6.0J/cm2)し、基板上に複製モールド組成の非パターン膜を得た。
【0114】
≪複製モールド組成の非パターン膜の硬度評価≫ サンプルは、密着層付きSiウェハ上に複製モールド組成の非パターン膜(膜厚5μm以上)を形成したものを用いた。硬度評価は、ナノインデンテーター(ENT-2100、エリオニクス社製)を用いて測定した。室温(30℃)及び150℃の温度で、300〜500nmの深さまでバーコビッチダイヤモンド圧子を圧入した。
【0115】
表6に、硬度評価の結果を示す。
【表6】
【0116】
表6より、無機ナノ粒子を添加していない場合には、マルテンス硬さが143[N/mm2]であるのに対し、無機ナノ粒子を60質量%添加した場合のそれは428[N/mm2]であり、無機ナノ粒子添加により硬さが3倍以上向上することがわかった。また、無機ナノ粒子を添加していない場合には、押し込み弾性率が3101[N/mm2]であるのに対し、無機ナノ粒子を60質量%添加した場合のそれは8354[N/mm2]であり、無機ナノ粒子を60質量%添加することにより押し込み弾性率が2.6倍以上向上することがわかった。
【0117】
≪複製モールド組成の非パターン膜の線熱膨張係数測定≫ サンプルは、自己支持膜(直径4〜8mm)上に複製モールド組成の非パターンの自己支持膜(直径約7mm、膜厚は約140μm)を用いた。線熱膨張係数は、熱・応力・歪測定装置(EXSTAR TMA/SS6100、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の圧縮膨張試験から求めた。サンプルに対し、石英棒を用いて、常時、押し付け力が100mNとなるようにして、昇温速度5℃/minで室温から180℃の制御温度で3サイクル測定した。2サイクル行った後、3サイクル目の100〜150℃を分析した結果を表7に示す。
【0118】
【表7】
表7より、無機ナノ粒子を添加することにより線熱膨張係数を大幅に下げられることがわかった。特に、無機ナノ粒子を60質量%添加した複製モールド用組成物Cにおいては、線熱膨張係数が大きく下げられることがわかった。
【0119】
≪複製モールドの離型エネルギー測定≫ 前述の光ナノインプリント装置の上部にロードセル2つ設置し、面積1cm2の複製モールドA,C,Zを用いて光硬化性組成物(C−TGC−02)を光ナノインプリント成型における離型時の力を100msごとロードセルにかかる離型力をモニタリングした。離型速度は1.0mm/minとすることで離型に要した力と距離が測定できる。実施例1、3、及び比較例2におけるインプリント回数(10回まで)に対して、離型エネルギーをプロットした結果を図10に示す。
【0120】
得られた結果から、離型に必要なエネルギーを見積もった結果を表8に示す。
【表8】
表8より、比較例1における離型エネルギーは10回平均で3.68mJ/cm2であるのに対し、実施例1の離型エネルギーの10回平均は0.162mJ/cm2、実施例3の離型エネルギーの10回平均は0.062mJ/cm2であった。無機ナノ粒子の含有濃度の上昇とともに、離型力が減少することが明らかとなった。
【0121】
≪複製モールドの熱分解温度測定≫ 複製モールドA〜C,Zにおいて、基体から複製モールド構造部を分離し、複製モールド構造体に対し、熱重量測定(DTG-60、島津製作所社製)を行った。測定条件は、室温から800℃まで10℃/min,Purge gas:N2 40mL/min,Reaction gas:air 50mL/minとした。測定結果を図11に示す。また、表9に、5%重量減少温度、10%重量減少温度、並びに800℃の残存量を示す。800℃の残存量の測定誤差は±1.5質量%である。
【0122】
【表9】
図11及び表9より、無機ナノ粒子を含有していない比較例1においては、800℃の残存量が0%であるのに対し、無機ナノ粒子を含有している実施例においては、複製モールドに添加した無機ナノ粒子に応じて800℃の残存量が検出されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係る複製モールドは、無機ナノ粒子含有しているので、優れた押し込み弾性率と低い線熱膨張係数、低い離型エネルギーを有する。その結果、高精度のレジスト層成型が可能であり、かつ製造容易であるため、熱ナノインプリント用モールド、光ナノインプリント用モールド、及び熱アシスト光ナノインプリント用モールドに好適に適用できる。例えば、LSI、MEMS、バイオチップ等を形成するための複製モールドや、高耐久ドライエッチング用レジスト薄膜、反射防止膜、導波路等に用いるレジスト膜パターンを形成するための複製モールドとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0124】
1 複製モールド
10 基体
20 複製モールド構造体
30 密着層
40 マスターモールド
50 基体
60 熱可塑性樹脂
70 光硬化性樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のナノインプリント用複製モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会を支える半導体デバイスの発展は、微細加工技術、特にフォトリソグラフィ技術の進展によるところが大きい。今日のフォトリソグラフィ技術は、縮小投影露光装置に代表される露光装置技術や、ポリマーと感光剤からなるレジスト材料、プロセス開発の技術革新によって支えられてきた。しかしながら、パターンの微細化につれて露光装置やフォトマスクの価格が高額になるという問題が生じている。
【0003】
このような状況下、高額な光学材料や装置を用いずにコスト性に優れ、微細加工も可能なナノインプリント技術が次世代のリソグラフィ技術として脚光を浴びている。ナノインプリント技術は、熱可塑性樹脂を被加工層として用いる熱ナノインプリントリソグラフィ法(非特許文献1、特許文献1)と、光硬化性樹脂を被加工層として用いる光ナノインプリントリソグラフィ法(非特許文献2)に大別できる。
【0004】
熱ナノインプリントリソグラフィ法を用いたパターンは、例えば、以下のような工程を経て形成される。まず、基体上に被加工層として熱可塑性樹脂膜を成膜し、次いで加温によりこれを軟化させ、鋳型となるモールドを押し付ける。これにより、被加工層が変形する。その後、冷却して被加工層を硬化させることにより、被加工層にモールドの凹凸を転写する。続いて、モールドを離型させ、リアクティブイオンエッチング処理、又はUV/O3処理により被加工層の凹部に残る残膜を除去する。その後、被加工層をマスクとして乾式、若しくは湿式のエッチング工程で、基体にパターンを転写する。なお、エッチング工程に代えてめっき工程やスパッタリング等により、凹部に金属等を堆積させて微細パターンを形成してもよい。
【0005】
光ナノインプリントリソグラフィ法は、被加工層として光硬化性樹脂を用い、光により樹脂を硬化させるプロセスを有する点において熱ナノインプリントリソグラフィ法と相違するが、基本的なプロセスは、上述した熱ナノインプリントリソグラフィ法と同様である。
【0006】
ナノインプリント技術においては、前述したように鋳型のモールドが必要となる。モールドの製造は、通常、フォトリソグラフィ法、電子線描画法、レーザ描画法によりレジスト膜パターンの形成を行い、次いでRIEやめっき等により基体加工が行われる。特許文献2には、モールドとなる基体上にポジ型レジストを塗布し、電子線描画を行ってレジスト膜パターンを形成し、これをマスクとしてエッチングすることによりモールドを製造する方法が提案されている。
【0007】
ナノインプリント技術は、前述したとおりフォトリソグラフィ技術に比してコスト性に優れているが、モールドの製造コストが高いという問題があった。例えば、テラビットサイズの記録密度を目指した磁気記録メディアを作製するためのマスターモールドは、一千万円程度である。そこで、マスターモールドから複製モールドを製造する方法が提案されている。金属製の複製モールドを製造する方法としては、例えば、以下の方法が考案されている。
【0008】
まず、石英等の基体上にメタル膜、レジスト膜をこの順に成膜して電子線描画法によりレジスト膜パターンの形成を行い、これをマスクとしてメタル膜パターンを形成する。その後、RIEやめっき等により基体加工が行われる。そして、メタル膜パターンの剥離工程を行い、モールド表面に離型処理を行うことでマスターモールドを得る。そして、このマスターモールドから一次モールドを作製する。一次モールドは、例えば、基板にレジストを塗布し、前述のマスターモールドを用いて熱ナノインプリントによりレジスト膜パターンを形成する。そして、シード層を形成後、Niめっきを行う。次いで、基板剥離・洗浄工程を経た後に離型処理を行うことによりマスターモールドと同一形状のNi製の複製モールドを得る。
【0009】
樹脂製の複製モールドを製造する方法としては、以下の方法が提案されている。マスターモールドを上述の方法により製造後、基板に樹脂レジストを塗布し、前述のマスターモールドを用いてナノインプリントにより樹脂よりなるレジスト膜パターンを形成する。そして、これに離型処理を施すことにより一次樹脂モールドを作製する。その後、さらに別の基板に樹脂レジストを塗布し、前述の一次樹脂モールドを鋳型としてナノインプリントにより樹脂よりなるレジスト膜パターンを形成する。そして、これに離型処理を施すことによりマスターモールドと同一形状の二次樹脂モールドを作製する。樹脂製の複製モールドによれば、安価なモールドを提供できる。
【0010】
特許文献3には、樹脂製の複製モールドとして、少なくとも1種の反応性基を有するシルセスキオキサン化合物、重合性単量体、光重合開始剤、及び界面活性剤を含む光ナノインプリントリソグラフィ用複製モールド用組成物を用いることが開示されている。
【0011】
また、特許文献4には、化学式(1)のようなSi−O−Tiネットワークを有する有機−無機ハイブリッド樹脂の硬化膜を有するナノインプリントリソグラフィ用の複製モールドが提案されている。
【化1】
【0012】
また、特許文献5には、ナノインプリントリソグラフィ用の高耐久性複製モールド及びその製造方法が提案されている。具体的には、ナノインプリントリソグラフィ用の複製モールドとして、下記一般式(2)で示される単位が8〜12個組み合わさって構成された重合性シルセスキオキサンを含む樹脂組成物の硬化膜を有するものが提案されている。
【化2】
なお、特許文献6、7については後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5772905号明細書
【特許文献2】特開2004−288845号公報
【特許文献3】特開2009−073078号公報
【特許文献4】特開2010−069730号公報
【特許文献5】特開2010−280159号公報
【特許文献6】特開2009−073809号公報
【特許文献7】特開2011−111636号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S. Y. Chou, et al., Applied Physics Letters, (1995), 67, 3114-3116.
【非特許文献2】J. Haisma, et al., J. Vac. Sci. Technol. B, B14, 4124-4128 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
マスターモールドから樹脂製の複製モールドを製造して利用することにより、ナノインプリントの低コスト化を図ることができる。しかしながら、樹脂製の複製モールドは、金属材料や石英等の無機材料からなるモールドに比して、機械的強度が弱く耐久性が低いという問題があり、その改善が強く求められていた。
【0016】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、ナノインプリントの低コスト化を図りつつ、耐久性にも優れたナノインプリント用の複製モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、以下の構成により本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る複製モールドは、ナノインプリント用の複製モールドであって、基体と、前記基体上に形成され、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、表面に凹凸が形成された複製モールド構造体と、を具備する。前記複製モールド構造体は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、365nmにおける透過率が70%以上である。
【0018】
本発明に係る複製モールドによれば、複製モールド構造体を樹脂、及び無機ナノ粒子を主成分としているので、低コスト化を実現することができる。また、複製モールド自体の大量生産も容易であるというメリットを有する。しかも、複製モールド構造体は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満のものとしているので、耐久性に優れる。従って、複製モールド個々の耐久性を高めることが可能となり、より効果的にコスト低減を図ることができる。また、複製モールド構造体として、365nmにおける透過率が70%以上のものを用いているので、光ナノインプリント用の複製モールド、熱ナノインプリント用の複製モールド、及び熱アシスト光ナノインプリント用の複製モールドのいずれにも利用可能であり、汎用性が高いというメリットも有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ナノインプリントの低コスト化を図りつつ、耐久性にも優れた複製モールドを提供できるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】第1実施形態に係る複製モールドの模式的断面図。
【図1B】第1実施形態に係る複製モールドの模式的断面図。
【図2A】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図2B】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図2C】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図2D】第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図。
【図3A】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図3B】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図3C】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図3D】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4A】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4B】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4C】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図4D】第2実施形態に係る樹脂パターン付き基体の製造工程断面図。
【図5A】実施例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5B】実施例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5C】実施例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5D】実施例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5E】比較例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図5F】比較例1に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6A】実施例4に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6B】実施例4に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6C】実施例5に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6D】実施例5に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6E】比較例2に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図6F】比較例2に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図7A】実施例4に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7B】実施例4に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7C】実施例5に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7D】実施例5に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7E】比較例2に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図7F】比較例2に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図8A】実施例6に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8B】実施例6に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8C】実施例7に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8D】実施例7に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8E】比較例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図8F】比較例3に係る複製モールドの光学顕微鏡像。
【図9A】実施例6に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9B】実施例6に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9C】実施例7に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9D】実施例7に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9E】比較例3に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図9F】比較例3に係る樹脂パターンの光学顕微鏡像。
【図10】光ナノインプリント回数に対して離型エネルギーをプロットした図。
【図11】実施例1〜3、比較例1の複製モールド構造部の熱分解温度測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは必ずしも一致しない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0022】
[第1実施形態]
図1Aに、第1実施形態に係るナノインプリント用の複製モールドの模式的断面図を示す。第1実施形態に係る複製モールド1は、熱ナノインプリント用途、光ナノインプリント用途、熱アシスト光ナノインプリント用途などに好適に用いられる。なお、第1実施形態に係る複製モールド1は、ナノインプリント用途に好適なものであるが、ナノインプリント以外の他の用途に利用することも可能である。
【0023】
複製モールド1は、基体10、複製モールド構造体20、密着層30を具備する。複製モールド構造体20は、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、基体10上に形成されている。複製モールド構造体20の表面には、ナノインプリント用途に用いるための凹凸が形成されている。複製モールド構造体20は、(1)押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、(2)線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、(3)365nmにおける透過率が70%以上であるものを用いる。
【0024】
なお、本明細書の押し込み弾性率は、ISO 14577−1 2002−10−01 Part1に基づいて得られる値を示している。また、線熱膨脹係数は、100℃から150℃における線熱膨脹係数を示しており、複製モールド組成の非パターンの自己支持膜(直径約7mm、膜厚は約140μm)を作製して、熱・応力・歪測定装置(EXSTAR TMA/SS6100、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の圧縮膨張試験から求めた値を示している。より具体的には、サンプルに対し、石英棒を用いて、常時、押し付け力が100mNとなるように、昇温速度5℃/minで室温から180℃の制御温度で3サイクル測定し、2サイクル行った後、3サイクル目の100〜150℃を分析した値を示している。
【0025】
基体10の材料は、複製モールド構造体20を支持し、機械的強度の高いものであれば特に限定されない。複製モールド1を熱ナノインプリントに利用する場合には、加熱成型する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するものであれば、特に限定されない。一例として、シリコン、ガラス、石英、アルミナ、チタン酸バリウム等の無機物や無機酸化物、あるいはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の樹脂が挙げられる。複製モールド1を光ナノインプリント成型に利用する場合には、基体10側からの活性光線を行うために、基体10を活性光線透過材料により構成することが必要となる。なお、光ナノインプリント成型の場合であっても、活性光線を加工する樹脂パターン側から照射する場合には、基体10の透過性は不要である。
【0026】
基体10は、単層の他、同種、若しくは異種材料の積層体でもよく、また、2種以上の複合材からなる群より選択される材料でもよい。複合材としては、公知のものを制限なく利用できる。例えば、ガラス繊維をエポキシ樹脂で固めた複合材や、フェノールとホルムアルデヒドを原料としたフェノール樹脂(例えば、ベークライト(登録商標))を積層した複合材が挙げられる。
【0027】
基体10は、平滑性、低膨脹係数、絶縁性の観点から、シリコン、ガラス、石英等の無機材や、ポリイミド等の耐熱性有機材料が好ましい。複製モールド1を光ナノインプリントリソグラフィ用複製モールドとして使用するためには、紫外線の透過性に優れるガラスやプラスチックなどが好適に用いられる。基体10は、波長365nmの紫外線の透過率が80%以上のものが好ましい。
【0028】
基体10は、複製モールド1の機械的強度を確保する役割を担う。基体10の厚みは任意でよいが、複製モールド1の耐久性や、パターン転写精度を高めるために適切な厚みとする必要がある。具体的には、0.01〜5mmの厚さが好ましく、0.05〜1mmの厚さがより好ましい。ナノインプリント時にプロセスの熱履歴等によって基体の歪みが生じて、パターン転写の精度が低下することのないよう考慮する。
【0029】
複製モールド構造体20の押し込み弾性率は、前述したように4000N/mm2以上、74000N/mm2未満とする。4000N/mm2以上とすることにより、インプリント成型時の圧力によって複製モールド構造体の凹凸形状に変化が生じるのを効果的に抑制することができる。押し込み弾性率は、高いほど望ましいが、溶融シリカの押し込み弾性率74000N/mm2未満となる。より好ましい範囲は、5000〜15000N/mm2であり、さらに好ましい範囲は、5000〜9000N/mm2であり、特に好ましい範囲は5500〜8500N/mm2である。
【0030】
複製モールド構造体20の線熱膨脹係数は、前述したように、10×10−5K−1未満のものを用いる。10×10−5K−1未満とすることにより、熱ナノインプリント成型時に複製モールド構造体の凹凸形状に変化が生じるのを効果的に防止することができる。また、成型温度から室温に戻して離型する工程において、複製モールド構造体の収縮が大きいと、離型エネルギーが大きくなるが、複製モールド構造体20の線熱膨脹係数を10×10−5K−1未満とすることにより、複製モールド1の力学的な破壊を招く現象を効果的に抑制することができる。複製モールド構造体20の線熱膨脹係数は、低いほうが望ましく線熱膨張係数の下限値は特に限定されないが、入手容易性の観点から1.0×10−5K−1以上が好ましい。
【0031】
複製モールド構造体20は、前述したように樹脂と無機ナノ粒子を主成分として含む。樹脂は、特に限定されないが、取扱い容易性の観点から、光硬化性組成物と無機ナノ粒子を少なくとも含有する複製モールド組成物から形成することが好ましい。すなわち、複製モールド組成物に対してマスターモールドパターンを押圧し、硬化させるタイプが好ましい。従って、複製モールド組成物は、モールドへの充填を妨げないために、粘度が低いものが好ましい。また、溶剤乾燥工程などを省略できる観点から、反応性希釈剤を除く溶剤を含まない溶剤不要型がより好ましい。
【0032】
前記光硬化性組成物は、所定の光硬化成分と、必要に応じて添加する添加剤等からなる。光硬化性成分とは、露光により反応して硬化する成分をいう。具体的には、光二量化型の光硬化性組成物であれば桂皮酸エステル系樹脂等の光二量性基を有する樹脂、光架橋型の光硬化性組成物であれば環化ゴム系レジスト等の光架橋剤と高分子、エン/チオール型、ラジカル、カチオン等の光重合型の光硬化性組成物であれば光重合性基を有する化合物及び光重合開始剤である。なお、汎用性等の面からは光重合型が最も好ましい。
【0033】
光重合性基を有する化合物としては、ラジカル重合性基又はカチオン重合性基を有する化合物をいう。ラジカル重合性基の例としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。カチオン重合性基としては、エポキシ基、ビニロキシ基、オキセタニルキ基等が挙げられる。光重合性基を有する化合物は単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよく、また、ラジカル重合性基を有する化合物とカチオン重合性基を有する化合物とを併用してもよい。
【0034】
光重合開始剤とは、光の照射により、上記重合性基を有する化合物の重合反応を開始させることのできるラジカル、カチオン等の活性種を発生する化合物をいう。光重合開始剤は、ラジカル重合開始剤とカチオン重合開始剤とに分類できる。ラジカル重合開始剤の例としては、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、α−アミノアルキルフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、チタノセン類及びオキシムエステル類、トリハロメチルトリアジン類、その他トリハロメチル基を有する化合物等が挙げられる。カチオン重合開始剤の例としては、芳香族スルホニウム塩及び芳香族ヨードニウム塩等が挙げられる。開始剤は単独で用いても2種類以上組み合わせて用いてもよく、また、ラジカル重合開始剤とカチオン重合開始剤とを併用してもよい。さらに、光重合開始剤と共に増感剤を用いてもよい。
【0035】
前記光硬化性組成物における光重合性基を有する化合物の含有率は、光硬化性組成物の総量100質量部に対して、50〜99.99質量部が好ましい。50質量部未満では光重合性基が少ないことにより、99.99質量部を超えると光重合性基を有する化合物に対する光重合開始剤の割合が低くなることにより、いずれも光硬化性が低下するためである。さらに、光重合性基を1分子中に2つ以上有する光重合性基を有する化合物を、光硬化性組成物の総量100質量部に対して5質量部以上、好ましくは20質量部以上含有するのが望ましい。光架橋により硬化物の機械的強度を向上させるためである。また、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有率は、光重合性基を有する化合物100質量部に対して、0.01〜20質量部が好ましい。0.01質量部未満では光重合性基を有する化合物に対する光重合開始剤の割合が低くなり、光硬化性が低下する。また20質量部を超えると、光硬化性組成物に対する光重合開始剤の溶解性が低下し、実用的でない。
【0036】
光硬化性組成物には、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤の例としては、例えば、基体への塗布特性改善のために界面活性剤、レベリング剤、形状検査のための蛍光物質が挙げられる。また、非光硬化性オリゴマーや非光硬化性ポリマー、密着性付与剤(例えば、シランカップリング剤等)、有機溶剤、レべリング剤、可塑剤、充填剤、消泡剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、香料、熱架橋剤、及び重合禁止剤等が挙げられる。
【0037】
複製モールド構造体中の樹脂を形成する組成物中の化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートなどが好適な例として挙げられる。
【0038】
無機ナノ粒子は、特に限定されないが、シリカ、アルミナ、チタニア、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、セリア、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化インジウムおよび酸化インジウムスズなどが挙げられる。1種類であってもよいし、2種類以上が含有されていてもよい。
【0039】
複製モールド構造体20における無機ナノ粒子の分散性を確保する点からは、無機ナノ粒子の表面に有機基が導入された有機−無機複合ナノ粒子であることがより好ましい。有機基は、特に限定されないが、製造工程中も含めて樹脂との相溶性が高いものが好ましい。無機ナノ粒子の表面に導入する有機基の好ましい例としては、アルキル基やアクリロイル基、メタアクリロイル基などが挙げられる。水分などの吸湿を防止する観点からは、疎水基であることが好ましい。無機ナノ粒子の特に好ましい例として、メタアクリロイル基修飾型シリカナノ粒子、アクリロイル基修飾型シリカナノ粒子などが挙げられる。
【0040】
無機ナノ粒子の平均粒子径は、ナノオーダーのものとする。より好ましい平均粒子径は、2nm以上、30nm以下である。30nm以下とすることにより、紫外線の散乱現象を効果的に抑制し、紫外線透過率の低下を防ぐことができる。また、2nm未満であると、無機ナノ粒子の表面に修飾基を導入した場合には、無機ナノ粒子の含有量を高めて押し込み弾性率を高めることが困難となる。
【0041】
複製モールド構造体20中の無機成分の含有量は、特に限定されないが、26質量%以上とすることにより、上述した線熱膨脹係数と押し込み弾性率をより効果的に最適化し、耐久性の向上を実現しやすい。上限値は、複製モールド構造体の加工容易性の観点から、70質量%以下である。より好ましい範囲は、28質量%以上、65質量%以下、さらに好ましい範囲は、28質量%以上、60質量%以下、特に好ましい範囲は、45質量%以上、60質量%以下である。
【0042】
複製モールド構造体の膜厚は、特に限定されず、用途に応じて、適宜選択可能であるが、光ナノインプリント成型に用いる場合は、波長365nmにおける紫外線の透過率が70%以上の膜厚であればよい。熱ナノインプリント成型に用いる場合は、波長365nmにおける紫外線の透過率が70%未満の膜厚であってもよい。
【0043】
複製モールド構造体20の形状や大きさは、限定されず、適宜設計可能である。複製モールド構造体20のパターン形状も特に限定されない。例えば、パターンの凸線幅や凹線幅は、10nm〜2μmである。複製モールド構造体20の表面形状は、平面のほか、曲面形状であってもよい。
【0044】
密着層30は、基体10と複製モールド構造体20とを強固に接着させる機能を有する。これにより、複製モールド1の耐久性を高めることができる。密着層30は、基体10と複製モールド構造体20との接着性を確保できれば特に限定されない。例えば、反応性シリル基を有する密着剤を好適に適用できる。取扱い容易性の観点から、光硬化性モノマー、光硬化性オリゴマー、光硬化性ポリマー等の光硬化性樹脂と光重合開始剤を少なくとも含む光硬化性樹脂、及び無機ナノ粒子を少なくとも含有する複製モールド組成物から複製モールド構造体20を形成する場合には、密着層30として以下の基を含むものが好ましい。すなわち、密着層30の密着剤として、アクリロイル基やメタアクリロイル基などの反応性基を有し、かつ、トリメトキシシリル基やトリクロロシリル基などの反応性シリル基を有するものが好適な例として挙げられる。密着層30を形成させる方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、スピン塗布、バーコート、ダイコート、マイクログラビアコート等の湿式処理法、気相化学吸着法などの乾式処理方法を用いることができる。
【0045】
なお、基体10と複製モールド構造体20との接着性が確保できる場合には、図1Bに示すように、密着層30を設けない複製モールド1aとしてもよい。
【0046】
次に、複製モールド1の製造方法の一例について説明する。図2A〜図2Dに、第1実施形態に係る複製モールドの製造工程断面図を示す。なお、本発明の複製モールドの製造方法は、以下の製造方法によって何ら限定されるものではなく、種々の製造方法によって製造することが可能である。
【0047】
まず、基体10上に密着層30を形成する(図2A)。基体10の表面にOH基を形成することが可能な材料の場合には、UV/O3処理などにより基体10の表面にOH基を形成し、その上層に気相法や液相法により反応性シリル基を有する密着剤層を形成することが好ましい。密着層30の形成は、気相法や液相法が好適であり、反応性シリル基であるメトキシ基などを用いる場合には、吸着単分子膜を形成しやすくなる観点から気相法の方が液相法より好適である。
【0048】
次いで、密着層30の上層に複製モールド構造体20を形成するための複製モールド組成物25を滴下する(図2B)。そして、ペンタフルオロプロパン(PFP)等の凝縮性ガスを所定量吹き付けながら、複製モールド組成物25に対してマスターモールド40を押しつける。凝縮性ガスを吹き付けることにより、複製モールド構造体20に気泡が混入するのを抑制することができる。このプロセスによれば、溶剤の乾燥時間をカットすることができるので製造工程の短縮化を実現できる。溶剤不要タイプの場合には、粘度が高くならないように粘性の低い反応性モノマー等を添加して粘度を調整することが好ましい。次いで、マスターモールド40による押圧後、活性光線を照射することにより複製モールド組成物25を硬化せしめる(図2C)。そして、マスターモールド40を離型する(図2D)。
【0049】
なお、上記複製モールド構造体20は、スピンコート法などにより複製モールド組成物25の塗膜を形成し、溶媒を乾燥により除去した後にマスターモールド40を押し付けて形成してもよい。
【0050】
マスターモールド40を離型した後、必要に応じて、複製モールド構造体20の表面に離型処理を施す。これにより、複製モールド1の耐久性を効果的に向上させることができる。離型処理は、複製モールド構造体20の表面に反応性離型剤よりなる離型層を形成する。離型処理に先だって、反応性離型剤を効果的に複製モールド構造体20の表面に付着させるために、複製モールド構造体20の表面の表面改質を行うことが好ましい。表面改質は、例えば、UV/O3処理や酸素反応性イオンエッチング処理による親水化処理により行うことができる。
【0051】
上記工程を経て、複製モールド1を得ることができる。なお、離型処理を施さなくても離型力が十分にある場合には、離型処理、表面改質の工程を省くことができる。
【0052】
ナノインプリント技術は、前述したとおりフォトリソグラフィ技術に比してコスト性に優れているが、マスターモールドの製造コストが高いという問題があった。微細加工に有利な電子線描画によるモールド製造においては、例えば、2インチサイズの円形モールドを作製するには約1週間の時間を要するため、高価なものとなっていた。
【0053】
第1実施形態に係る複製モールドによれば、複製モールド構造体を樹脂、及び無機ナノ粒子を主成分としているので、全体の製造コストを低下させることができる。また、複製モールド自体の大量生産も容易である。しかも、複製モールド構造体は、押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、線熱膨脹係数を10×10−5K−1未満としているので、耐久性に優れる。従って、複製モールド個々の耐久性を高めることが可能となり、より効果的にコスト低減を図ることができる。また、複製モールド構造体として、365nmにおける透過率が70%以上のものを用いているので、光ナノインプリント用の複製モールド、熱ナノインプリント用の複製モールド、及び熱アシスト光ナノインプリント用の複製モールドのいずれにも利用可能であり、汎用性が高いというメリットも有する。なお、マスターモールドを電子線描画によって作製する例を述べたが、レーザ描画法などの他の方法により製造したものを用いてもよいことは言うまでもない。
【0054】
なお、上記第1実施形態においては、マスターモールド40の反転鋳型である複製モールドを形成する例について述べたが、マスターモールド40と同一形状の複製モールドを形成したい場合には、第1実施形態に係る複製モールド1を用いて、同様の方法により複製モールド1の反転鋳型である、マスターモールド40と同一形状の複製モールドを製造することも可能である。
【0055】
[第2実施形態]
次に、第1実施形態に係る複製モールドを用いた熱ナノインプリントによる樹脂パターンの形成方法の一例について説明する。図3A〜図3Dに、第2実施形態に係る樹脂パターンの製造工程断面図を示す。
【0056】
基体50上に熱可塑性樹脂膜60を形成する(図3A)。熱可塑性樹脂膜60は、複製モールド構造体20の表面の凹凸パターンを転写した樹脂パターンを形成するための膜である。基体50と熱可塑性樹脂膜60の間には、必要に応じて密着層を形成してもよい。基体50の材料は、後述する加熱成型する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するものであれば、特に限定されない。一例として、シリコン、ガラス、石英、アルミナ、チタン酸バリウム等の無機物や無機酸化物、あるいはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の樹脂が挙げられる。基体50は、単層の他、同種、若しくは異種材料の積層体でもよく、また、2種以上の複合材からなる群より選択される材料でもよい。複合材としては、公知のものを制限なく利用できる。
【0057】
熱可塑性樹脂膜60の形成方法は、特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させた溶液を、スピンコート法、浸漬法、スプレイコート法、フローコート法、ロールコート法、ダイコート法等により成膜し、更に送風下、加熱下、減圧下で溶媒を蒸散させる工程によって熱可塑性樹脂膜60を形成できる。溶媒は、用いる熱可塑性樹脂が溶解すればよく、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0058】
また、熱可塑性樹脂膜60を形成するための組成物は、熱可塑性樹脂、溶媒の他に、適宜、添加剤を加えてもよい。例えば、基体への塗布特性改善のために界面活性剤、レベリング剤等を添加することや、形状検査のための蛍光物質を添加してもよい。これらの界面活性剤、レべリング材の例としては、イオン系、またはノニオン系界面活性剤、あるいはシリコーン誘導体、フッ素誘導体が挙げられる。蛍光物質の例としては、アクリジン系蛍光物質、アントラセン系蛍光物質、ローダミン系蛍光物質、ピロメテン系蛍光物質、ペリレン系蛍光物質が挙げられる。
【0059】
熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させた溶液において、熱可塑性樹脂の濃度は、通常、0.1〜15質量%の範囲である。0.1質量%より低濃度の場合、熱可塑性樹脂の膜厚が薄くなり過ぎ、レジストとしての機能を成さない可能性がある。15質量%より高濃度の場合、膜厚の均一性が保てなく恐れがある。
【0060】
熱可塑性樹脂膜60の主成分である熱可塑性樹脂は、室温より高いガラス転移温度を示すものであれば好適に用いることができる。具合的には、メタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、5,000〜1,000,000g/molであることが好ましく、20,000〜500,000g/molであることが特に好ましい。分子量が5,000g/mol未満であると、加熱成型時の流動性が増し、熱可塑性樹脂膜60の形状が保てなくなることがある。分子量が1,000,000g/mol以上であると、ガラス転移温度以上でも粘性が高く、熱ナノインプリント成型を高速に行うことが困難となる。
【0061】
基体50上に形成された熱可塑性樹脂膜60に対し、表面に凹凸パターンを有する複製モールド1を用いて加熱成型する。複製モールド1を用いて加熱成型により樹脂パターン61を得る方法としては、公知の方法が利用可能である。例えば、平行平板方式の1対1の転写、ロール・トゥー・ロール、シート・トゥー・シートなどの方法が挙げられる。熱ナノインプリント装置としては、公知の装置を用いることができる。熱ナノインプリント装置は、例えば、加熱冷却部、加圧部、及び減圧部を備える。加熱冷却部は、ヒーターと水冷構造を内蔵するステージからなり、レジスト膜を有する基体をステージに設置し、加熱することにより、レジスト膜を軟化及び冷却させる。加圧部では、レジスト膜を有する基体に凹凸パターンのモールドを押し付ける。レジスト膜が軟化した基体に、モールドの微細な凹凸構造を加圧することにより、凹凸パターンを転写する。減圧部では、基体に対してモールドを押し付ける際に、減圧状態とする。これにより、モールドの凹凸パターンにレジスト膜を効率よく追従させることができる。これにより、熱可塑性樹脂膜60が変形する。
【0062】
次いで、熱ナノインプリント装置の加熱冷却ステージに設置する。そして、レジスト膜を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも20〜100℃高い温度で加熱する(加熱工程)。熱可塑性樹脂のガラス転移温度から20℃以上高い温度で加熱することで、熱可塑性樹脂がゴム状態となり十分に軟化するため、転写されたパターンのエッジ部分が丸くなることを防止できる。次いで、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より100℃以下の温度で加熱することで、レジスト膜パターン転写後の冷却時に樹脂が大幅に収縮することを防止できる。このため、形成されたレジスト膜パターンの線幅が痩せることを防止できる。
【0063】
次いで、凹凸パターンを有する複製モールド1を熱可塑性樹脂膜60に押し付け(加圧工程)、一定時間保持することで(保持工程)、複製モールド1の凹凸パターンを熱可塑性樹脂膜60に転写する。複製モールド1の押し付け圧力は特に限定されないが、一般に1〜100MPaであり、好ましくは5〜20MPaである。複製モールド1の押し付け時間は、一般に1秒〜10分間であり、好ましくは15〜120秒間である。押し付けの際に複製モールド1とサンプルの間を減圧状態に保つことが好ましい。これにより、複製モールド1の微細な凹凸パターンに、熱可塑性樹脂膜60を効率良く追従させることができ、より高精度のパターニングが可能となる。その後、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に温度を下げる(冷却工程)。次いで、複製モールド1を樹脂パターン61から離型する(離型工程)。これにより、複製モールド1の凹凸パターンが転写された樹脂パターン61が形成された樹脂パターン付き基体101を得る。
【0064】
なお、第2実施形態で説明した樹脂パターン付き基体101のように、基体上に樹脂パターンを直接、若しくは密着層を介して積層する態様の他、基体と樹脂パターンの間に金属膜や絶縁膜等を形成してもよい。例えば、基体と樹脂パターンの間に金属膜を形成し、得られた樹脂パターン61から金属膜パターンを得ることも可能である。具体的には、樹脂パターン61の凹部において、金属膜表面を露出させるために、残渣除去(残膜除去)を行うステップを追加し、次に、樹脂パターン61をマスクにしてウェットエッチング工程等により金属膜のパターンを得たり、めっき処理により樹脂パターン61の凹部に金属膜を形成したりしてもよい。なお、金属膜の上層に熱可塑性樹脂膜を形成する場合には、特許文献6や特許文献7などに記載の光反応性接着層を金属膜と熱可塑性樹脂膜の間に形成することが好ましい。
【0065】
また、樹脂パターン付き基体101の上層に、金属膜、絶縁膜などの他の膜を積層してもよい。樹脂パターン61の上層に金属膜を成膜し、リフトオフ法により金属膜パターンを得ることも可能である。
【0066】
樹脂パターン61は、例えば、CDやDVDのパターンとして、あるいは、マイクロチャネルアレイ、DNAチップ、MEMSなどの流路や凹部パターンなどとしてそのものを利用することができる。また、前述したように、樹脂パターン61を被加工層として金属膜等のパターニングに利用することも可能である。この方法によれば、例えば、太陽電池やタッチパネル等の電極用途に好適に用いられる銀や、配線用途に好適に用いられる銅やアルミニウム、フォトマスクやフラットパネルディスプレイの遮光層に好適に用いられるクロム、電磁波制御フィルター用途に好適に適用できる銀、白金、金等を本発明の複製モールドから得ることができる。
【0067】
第2実施形態によれば、耐久性が高く、安価に得られる複製モールド1から、熱ナノインプリントにより樹脂パターン付き基体101を得ることができるので、製品の低コスト化を実現することができる。
【0068】
[第3実施形態]
次に、第1実施形態に係る複製モールドを用いた光ナノインプリント成型による樹脂パターンの形成方法の一例について説明する。図4A〜図4Dに、第3実施形態に係る樹脂パターンの製造工程断面図を示す。
【0069】
基体50上に光硬化性樹脂膜65を形成する(図4A)。光硬化性樹脂膜65は、複製モールド構造体20を鋳型として形成される樹脂パターンを形成するための膜である。基体50と光硬化性樹脂膜65の間には、必要に応じて密着層を形成してもよい。基体50の材料は、後述する活性光線照射の際に、活性光線を透過する材料であれば、特に限定されない。一例として、ガラス、石英、ポリカーボネート樹脂、メタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0070】
光硬化性樹脂膜65の形成方法は、特に限定されず、第2実施形態で説明した方法により行うことができる。また、光硬化性樹脂膜を形成するための光硬化性組成物が粘性の低い液体の場合、インクジェット法により基体50上に光硬化性組成物の液滴を形成させて、複製モールド1を接触させるときに光硬化性樹脂膜65を形成させてもよい。前記光硬化性組成物は、所定の光硬化成分と、必要に応じて添加する添加剤等からなる。例えば、基体への塗布特性改善のために界面活性剤、レベリング剤、形状検査のための蛍光物質が挙げられる。
【0071】
光硬化性成分、光重合性基を有する化合物、光重合開始剤、光硬化性組成物における光重合性基を有する化合物の含有率、光硬化性組成物に必要に応じて添加する添加剤については、第1実施形態で述べたとおりである。
【0072】
基体50上に形成された光硬化性樹脂膜65に対し、凹凸パターンを有する複製モールド1を押し付けた後、活性光線を照射する。これにより、光硬化性樹脂膜65に複製モールドの凹凸パターンが転写され、樹脂パターン66を得る(図3B、図3C)。その後、離型処理を行い、樹脂パターン付き基体102を得る。活性光線は、取扱い容易性の観点から、紫外線であることが好ましい。
【0073】
なお、第3実施形態で説明した樹脂パターン付き基体102は、第2実施形態と同様に、マイクロチャネルアレイ等の凹凸パターンとして利用したり、金属膜パターンの被加工層として利用することが可能である。
【0074】
第3実施形態によれば、耐久性が高く、安価に得られる複製モールド1から、光ナノインプリントにより樹脂パターン付き基体101を得ることができるので、製品の低コスト化を実現することができる。しかも、ウェットエッチング処理や露光工程を経ずに樹脂パターンを得られるので、製造工程の短縮化を図ることもできる。
【0075】
なお、第1実施形態で得られた複製モールド1を、第2実施形態では熱ナノインプリントに利用する例を、第3実施形態では光ナノインプリントに利用する例を挙げたが、一例であって、種々の用途に複製モールド1を利用することができる。複製モールド1は、第2実施形態と第3実施形態の方法を組み合わせることにより、熱アシスト光ナノインプリントにも好適に利用できる。すなわち、樹脂パターンを形成して硬化させる際に、光照射による硬化と、熱による硬化の両者を利用することにより形成してもよい。
【0076】
[実施例] 以下、本実施形態を実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
≪複製モールド用組成物Aの調製≫ 複製モールド用組成物Aとして、ラジカル重合性基を有する化合物(光硬化性モノマー)、無機ナノ粒子、及び光重合開始剤よりなる組成物を調製した。具体的には、ラジカル重合性基を有する化合物として、化学式(3)の1,4−ブタンジオールジアクリレート(以下、「AC4」と称する)を用いた。
【化3】
【0078】
無機ナノ粒子として、メチルエチルケトン(MEK)に分散させたメタアクリロイル基を有する表面修飾シリカナノ粒子(MEK-AC-2101、日産化学社製、平均粒径20nm、シリカナノ粒子成分の濃度は30質量%)を用いた。前記光硬化性モノマー及び無機ナノ粒子を、無機ナノ粒子成分が光硬化性モノマーに対して30質量%となるようにナスフラスコに投入し、十分に攪拌した。
【0079】
撹拌後、50〜60℃にて温浴しながら減圧下で溶媒のMEKを留去した。次いで、光重合開始剤であるイルガキュア907(IRG907、豊通ケミプラス社製)を、光硬化性モノマー95質量%に対して5質量%となるように添加した。その後、攪拌機(AR-250、THINKY社製)を用いて攪拌5分、脱泡10分の処理を2サイクル行い、気泡を取り除いた。これらの工程を経て複製モールド用組成物Aを調製した。
【0080】
≪複製モールド用組成物Bの調製≫ 光硬化性モノマーに対し、無機ナノ粒子成分を45質量%である以外は、複製モールド用組成物Aの調製方法と同様にして複製モールド用組成物Bを調製した。
【0081】
≪複製モールド用組成物Cの調製≫ 光硬化性モノマーに対し、無機ナノ粒子成分を60質量%とする以外は、複製モールド用組成物Aの調製方法と同様にして複製モールド用組成物Cを調製した。
【0082】
≪複製モールド用組成物Zの調製≫ 光硬化性モノマーと光重合開始剤のみとする(無機ナノ粒子成分を加えない)以外は、複製モールド用組成物Aの調製方法と同様にして複製モールド用組成物Zを調製した。
【0083】
≪基板≫ 基板として、スライドガラス(マツナミ社製、厚さ1mm)、石英ガラス(古川理工社製、厚さ1mm又は3mm)、シリコンウェハ(松崎製作所社製、厚さ0.35mm)を用意した。基板洗浄後、基板に対してUV/O3処理(PL-16-110、セン特殊光源社製)を20分実施した。その後、窒素置換した密閉容器に密着層剤である3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Gelest社製)と、UV/O3処理済みの基板を入れ、加温処理(150℃、1時間)を行った。これらの工程を経て、密着層を表面に形成した密着層付き基板を得た。
【0084】
≪実施例1(複製モールドAの作製)≫ 上述の密着層付き基板として石英ガラスを用いた。このスライドガラス上に前述の複製モールド用組成物Aを滴下した。そして、ペンタフルオロプロパン(PFP)を1.0L/minで吹き付けながら、光ナノインプリント装置(NM801、明昌機工社製)を用いてスライドガラス上で複製モールド用組成物Aの光ナノインプリント成型を行った。マスターモールドには、離型処理用溶液(オプツール HD−1100Z、ダイキン工業社製)を用いて離型処理を施した石英基板からなる反転鋳型を用いた。マスターモールドのパターンは、25mm角の石英の中央部の10mm角の領域に、凹線幅が300nm、1μmの2パターンが形成されているものを用いた。マスターモールドを押圧後、波長365nmにおける照射強度100mW/cm2で紫外線露光を15秒行い、離型した。表1に、詳細な条件を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
複製モールド用組成物Aが硬化成型された複製モールドに対し、UV/O3処理(PL-16-110、セン特殊光源社製)を5分間行った。次いで、離型処理用溶液(オプツール HD−1100Z、ダイキン工業社製)に2分間浸漬した。続いて、密閉容器内において60℃で1時間加湿加温した。その後、リンス剤(HD−ZV、ダイキン工業社製)に3分間の浸漬洗浄工程を3回繰り返し、余分な離型剤を除去した。以上の工程を経て、複製モールドAを得た。
【0087】
得られた複製モールドAの光学顕微鏡像を図5A及び図5Bに示す。マスターモールドの凹線幅300nmパターンから、凸線幅300nmパターンの複製モールド構造体が得られることを確認した(図5A参照)。また、マスターモールドの凹線幅1μmパターンから凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られることを確認した(図5B参照)。
【0088】
≪実施例2(複製モールドBの作製)≫ 複製モールド用組成物Bを用いた点以外は、実施例1と同様の方法により複製モールドBを得た。得られた複製モールドBの光学顕微鏡像より、マスターモールドの凹線幅300nmパターン、1μmのパターンから、それぞれ凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られることを確認した。
【0089】
≪実施例3(複製モールドCの作製)≫ 複製モールド用組成物Cを用いた点以外は、実施例1と同様の方法により複製モールドCを得た。得られた複製モールドCの光学顕微鏡を図5C及び図5Dに示す。マスターモールドの凹線幅300nmパターンから凸線幅300nmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5C参照)ことを、マスターモールドの凹線幅1μmパターンから凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5D参照)ことを確認した。
【0090】
≪比較例1(複製モールドZの作製)≫ 複製モールド用組成物Zを用いた点とPFP吹き付けを行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により複製モールドZを得た。得られた複製モールドZの光学顕微鏡を図5E及び図5Fに示す。マスターモールドの凹線幅300nmパターンから凸線幅300nmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5E参照)ことを、マスターモールドの凹線幅1μmパターンから凸線幅1μmパターンの複製モールド構造体が得られる(図5F参照)ことを確認した。
【0091】
≪複製モールドA〜C、Zの透明性評価≫ 複製モールドの透明性を評価するために、石英ガラス上に複製モールド構造体を形成したサンプルを作製した。基板としてスライドガラスを、石英基板に変更した以外は、上記実施例1〜3、比較例1と同様の手順により複製モールドを作製した。透過率測定は、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3100PC、Shimadzu社製)を用いた。測定波長は365nmとした。
【0092】
複製モールド用組成物A〜C,Zから作製した複製モールドの365nmにおける透過率を測定したところ、複製モールドAは85%、複製モールドBは80%、複製モールドCは74%、複製モールドZは88%であった。基体として使用したスライドガラスの365nmにおける透過率が92%であったことから、複製モールドA〜C,Zの複製モールド構造体の透過率はそれぞれ92%、88%、80%、95%であり、いずれも70%以上となった。いずれも光学的に透明であることから、光硬化性樹脂中に無機ナノ粒子が均一分散されていることを確認した。
【0093】
≪実施例4(複製モールドAを用いた光ナノインプリント)≫ 樹脂パターン形成材料として、光ナノインプリント用レジスト(C−TGC−02、東洋合成工業社製、95質量部のラジカル重合光硬化成分70PAと5質量部の光重合開始剤IRG907からなる光硬化性組成物)をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)で希釈(レジスト:PGME=1:3.26(重量比))したものを用いた。シリコンウェハ上に、スピンコート法(1000rpm・10s,3000rpm・30s)により上記レジストの希釈液の塗膜を得た。
【0094】
次いで、得られた塗膜に対して、ペンタフルオロプロパンを流量1L/minで吹き付けしながら光ナノインプリント成型を行った。離型後の塗膜に対し、さらに後露光(波長365nmにおける照射強度50mW/cm2、照射時間60s)を酸素濃度約0.5%の窒素下で行い樹脂パターンを得た。表2に詳細な条件を示す。
【表2】
【0095】
1つの複製モールドAを用いて、光ナノインプリント用レジスト(C−TGC−02)の光ナノインプリント成型を50回行い、樹脂パターンを50回形成した。図6A及び図6Bに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールドAの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図7A及び図7Bに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0096】
図6A及び図6Bより、50回転写後でも、複製モールドAの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図7A及び図7Bより、50回転写後でも、光ナノインプリント成型により得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0097】
≪実施例5(複製モールドBを用いた光ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドBを用いた点以外は、実施例4と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドBを用いて、光ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図6C及び図6Cに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールBの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図7C及び図7Dに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0098】
図6C及び図6Dより、50回転写後でも、複製モールドBの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図7C及び図7Dより、50回転写後でも、光ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0099】
≪比較例2(複製モールドZを用いた光ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドZを用いた点以外は、実施例4と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドZを用いて、光ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図6E及び図6Fに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールZの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図7E及び図7Fに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0100】
図6E及び図6Fより、50回転写後でも、複製モールドZの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図7E及び図7Fより、50回転写後でも、光ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0101】
実施例4、5、及び比較例2において、50回光インプリントを行った後の樹脂パターンの凹部深さと、複製モールドの凸部高さとをAFM(NanoNaviII、カンチレバー(OLYMPUS AC200TS),SII社製)により評価した。走査周波数は、0.2Hzで20μm角の領域を測定した。表3にその結果を示す。
【表3】
【0102】
表3より、無機ナノ粒子を含有する実施例4及び実施例5においては、50回の光インプリントを行った後の複製モールドと樹脂パターンとの差が小さく、無機ナノ粒子を含まない比較例2に比してパターン耐久性が高いことがわかる。
【0103】
≪実施例6(複製モールドAを用いた熱ナノインプリント)≫ 樹脂パターン形成材料として、熱ナノインプリント用レジスト(ポリスチレン(PS)Polymer Aldrich社製、平均分子量Mw=35[kg/mol])をトルエンで13質量%に希釈してものを用いた。シリコンウェハ上に、スパッタリングにより金薄膜(25nm)を成膜した。次いで、金薄膜上にスピンコート法(3000rpm・30s)により上記希釈液の塗膜を得た。
【0104】
次いで、得られた塗膜に対して、複製モールドCを押し付けて熱ナノインプリントを行うことにより樹脂パターンを得た。表4に詳細な条件を示す。
【表4】
【0105】
1つの複製モールドAを用いて、熱ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図8A及び図8Bに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールドAの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図9A及び図9Bに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0106】
図8A及び図8Bより、50回転写後でも、複製モールドAの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図9A及び図9Bより、50回転写後でも、熱ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0107】
≪実施例7(複製モールドCを用いた熱ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドCを用いた点以外は、実施例5と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドBを用いて、熱ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図8C及び図8Cに、熱ナノインプリントを50回行った後の複製モールBの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図9C及び図9Dに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0108】
図8C及び図8Dより、50回転写後でも、複製モールドCの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図9C及び図9Dより、50回転写後でも、熱ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0109】
≪比較例3(複製モールドZを用いた熱ナノインプリント)≫ 複製モールドAの代わりに複製モールドZを用いた点以外は、実施例5と同様の方法で樹脂パターンを形成した。1つの複製モールドZを用いて、光ナノインプリントを50回行い、樹脂パターンを50回転写した。図8E及び図8Fに、光ナノインプリントを50回行った後の複製モールZの複製モールド構造部の光学顕微鏡像を示す。また、図9E及び図9Fに、50回目に作製した樹脂パターンの光学顕微鏡像を示す。
【0110】
図8E及び図8Fより、50回転写後でも、複製モールドZの凸線幅300nmパターン、凸線幅1μmパターンの劣化がみられず、良好な形状を維持していることがわかる。また、図9E及び図9Fより、50回転写後でも、熱ナノインプリントにより得られる樹脂パターンである凹線幅300nmパターン、凹線幅1μmパターンが良好であることがわかる。
【0111】
実施例6、7、及び比較例3において、50回熱インプリントを行った後の樹脂パターンの凹部深さと、複製モールドの凸部高さとをAFM(NanoNaviII、カンチレバー(OLYMPUS AC200TS),SII社製)により評価した。走査周波数は、0.2Hzで20μm角の領域を測定した。表5にその結果を示す。
【表5】
【0112】
表5より、無機ナノ粒子を含有する実施例6及び実施例7においては、50回の熱インプリントを行った後の複製モールドと樹脂パターンとの差が小さく、無機ナノ粒子を含まない比較例3に比してパターン耐久性が高いことがわかる。
【0113】
≪複製モールド組成の非パターン膜の作製≫ 以下の工程により複製モールド組成の非パターン膜を作製した。まず、密着層付き基板に対し、複製モールド用組成物A〜C、Zを滴下した。なお、滴下直前に、撹拌機(AR-250、THINKY社製)にて、15分間(5分撹拌、10分間脱泡)処理し、複合樹脂中の気泡を取り除いた。次いで、離型処理を施した凹凸パターンのないフラットな石英基板をかぶせて、石英基板側から複製モールドA作製と同じ条件で紫外線露光(365nm、1.0〜6.0J/cm2)し、基板上に複製モールド組成の非パターン膜を得た。
【0114】
≪複製モールド組成の非パターン膜の硬度評価≫ サンプルは、密着層付きSiウェハ上に複製モールド組成の非パターン膜(膜厚5μm以上)を形成したものを用いた。硬度評価は、ナノインデンテーター(ENT-2100、エリオニクス社製)を用いて測定した。室温(30℃)及び150℃の温度で、300〜500nmの深さまでバーコビッチダイヤモンド圧子を圧入した。
【0115】
表6に、硬度評価の結果を示す。
【表6】
【0116】
表6より、無機ナノ粒子を添加していない場合には、マルテンス硬さが143[N/mm2]であるのに対し、無機ナノ粒子を60質量%添加した場合のそれは428[N/mm2]であり、無機ナノ粒子添加により硬さが3倍以上向上することがわかった。また、無機ナノ粒子を添加していない場合には、押し込み弾性率が3101[N/mm2]であるのに対し、無機ナノ粒子を60質量%添加した場合のそれは8354[N/mm2]であり、無機ナノ粒子を60質量%添加することにより押し込み弾性率が2.6倍以上向上することがわかった。
【0117】
≪複製モールド組成の非パターン膜の線熱膨張係数測定≫ サンプルは、自己支持膜(直径4〜8mm)上に複製モールド組成の非パターンの自己支持膜(直径約7mm、膜厚は約140μm)を用いた。線熱膨張係数は、熱・応力・歪測定装置(EXSTAR TMA/SS6100、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の圧縮膨張試験から求めた。サンプルに対し、石英棒を用いて、常時、押し付け力が100mNとなるようにして、昇温速度5℃/minで室温から180℃の制御温度で3サイクル測定した。2サイクル行った後、3サイクル目の100〜150℃を分析した結果を表7に示す。
【0118】
【表7】
表7より、無機ナノ粒子を添加することにより線熱膨張係数を大幅に下げられることがわかった。特に、無機ナノ粒子を60質量%添加した複製モールド用組成物Cにおいては、線熱膨張係数が大きく下げられることがわかった。
【0119】
≪複製モールドの離型エネルギー測定≫ 前述の光ナノインプリント装置の上部にロードセル2つ設置し、面積1cm2の複製モールドA,C,Zを用いて光硬化性組成物(C−TGC−02)を光ナノインプリント成型における離型時の力を100msごとロードセルにかかる離型力をモニタリングした。離型速度は1.0mm/minとすることで離型に要した力と距離が測定できる。実施例1、3、及び比較例2におけるインプリント回数(10回まで)に対して、離型エネルギーをプロットした結果を図10に示す。
【0120】
得られた結果から、離型に必要なエネルギーを見積もった結果を表8に示す。
【表8】
表8より、比較例1における離型エネルギーは10回平均で3.68mJ/cm2であるのに対し、実施例1の離型エネルギーの10回平均は0.162mJ/cm2、実施例3の離型エネルギーの10回平均は0.062mJ/cm2であった。無機ナノ粒子の含有濃度の上昇とともに、離型力が減少することが明らかとなった。
【0121】
≪複製モールドの熱分解温度測定≫ 複製モールドA〜C,Zにおいて、基体から複製モールド構造部を分離し、複製モールド構造体に対し、熱重量測定(DTG-60、島津製作所社製)を行った。測定条件は、室温から800℃まで10℃/min,Purge gas:N2 40mL/min,Reaction gas:air 50mL/minとした。測定結果を図11に示す。また、表9に、5%重量減少温度、10%重量減少温度、並びに800℃の残存量を示す。800℃の残存量の測定誤差は±1.5質量%である。
【0122】
【表9】
図11及び表9より、無機ナノ粒子を含有していない比較例1においては、800℃の残存量が0%であるのに対し、無機ナノ粒子を含有している実施例においては、複製モールドに添加した無機ナノ粒子に応じて800℃の残存量が検出されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係る複製モールドは、無機ナノ粒子含有しているので、優れた押し込み弾性率と低い線熱膨張係数、低い離型エネルギーを有する。その結果、高精度のレジスト層成型が可能であり、かつ製造容易であるため、熱ナノインプリント用モールド、光ナノインプリント用モールド、及び熱アシスト光ナノインプリント用モールドに好適に適用できる。例えば、LSI、MEMS、バイオチップ等を形成するための複製モールドや、高耐久ドライエッチング用レジスト薄膜、反射防止膜、導波路等に用いるレジスト膜パターンを形成するための複製モールドとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0124】
1 複製モールド
10 基体
20 複製モールド構造体
30 密着層
40 マスターモールド
50 基体
60 熱可塑性樹脂
70 光硬化性樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノインプリント用の複製モールドであって、
基体と、
前記基体上に形成され、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、表面に凹凸が形成された複製モールド構造体と、を具備し、
前記複製モールド構造体は、
押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、
線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、
365nmにおける透過率が70%以上である複製モールド。
【請求項2】
前記複製モールド構造体の凹凸が形成された表面には、離型層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の複製モールド。
【請求項3】
前記複製モールド構造体を構成する無機ナノ粒子の主たる無機成分は、シリカであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複製モールド。
【請求項4】
前記複製モールド構造体の無機成分の含有量が26質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複製モールド。
【請求項5】
前記無機ナノ粒子の平均粒子径が、2nm以上、30nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複製モールド。
【請求項6】
前記樹脂は、活性光線照射による光硬化性組成物の硬化したものであり、
前記複製モールド構造体は、前記光硬化性組成物と、無機ナノ粒子を主成分とする構造体に活性光線を照射してマスターモールドの凹凸パターンを転写することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複製モールド。
【請求項1】
ナノインプリント用の複製モールドであって、
基体と、
前記基体上に形成され、主成分が無機ナノ粒子と樹脂からなり、表面に凹凸が形成された複製モールド構造体と、を具備し、
前記複製モールド構造体は、
押し込み弾性率が4000N/mm2以上、74000N/mm2未満であり、
線熱膨脹係数が10×10−5K−1未満であり、かつ、
365nmにおける透過率が70%以上である複製モールド。
【請求項2】
前記複製モールド構造体の凹凸が形成された表面には、離型層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の複製モールド。
【請求項3】
前記複製モールド構造体を構成する無機ナノ粒子の主たる無機成分は、シリカであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複製モールド。
【請求項4】
前記複製モールド構造体の無機成分の含有量が26質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複製モールド。
【請求項5】
前記無機ナノ粒子の平均粒子径が、2nm以上、30nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複製モールド。
【請求項6】
前記樹脂は、活性光線照射による光硬化性組成物の硬化したものであり、
前記複製モールド構造体は、前記光硬化性組成物と、無機ナノ粒子を主成分とする構造体に活性光線を照射してマスターモールドの凹凸パターンを転写することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複製モールド。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図10】
【図11】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図10】
【図11】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【公開番号】特開2013−86294(P2013−86294A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226695(P2011−226695)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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