説明

ナノカーボン含有塗料組成物及びそれにより形成された塗膜

【課題】電気伝導性、機械的強度、耐水性及び経時安定性の高いナノカーボン含有塗膜を形成することができるナノカーボン含有塗料組成物を提供する。
【解決手段】バインダー成分、ポリアミド酸の有機アミン塩、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とするナノカーボン含有塗料組成物であり、前記ポリアミド酸は、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる重縮合体であり、前記ナノカーボンは、単層又は多層のカーボンナノチューブであるナノカーボン含有塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン含有塗料組成物及びそれにより形成された塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブに代表されるナノカーボンは電気伝導性、熱伝導性、機械的強度、熱安定性等が優れているため、その応用開発研究が盛んに行われている。
【0003】
しかしながら、ナノカーボンは分散媒中で強いファン・デル・ワールス力によって束状、絡み合ったロープ状又は塊状に凝集し易いため、分離・精製及び取扱いが困難という問題がある。そして、特に機能性材料として期待されているカーボンナノチューブにおいては、凝集が著しく、凝集解消が強く求められている。
【0004】
分散媒中での凝集を解消して分離・精製及び取扱いを容易にするために、媒体中でナノカーボンを孤立分散させる試みがなされている。第1のアプローチは、カーボンナノチューブの端部を親水性基又は疎水性基で化学修飾することによって媒体中に分散し易くする方法である。第2のアプローチは、カーボンナノチューブの媒体中での親和性を介助する物質(分散剤)を用いる方法である。
【0005】
前者としては、例えば、カーボンナノチューブをニトロ化した後、他の基に置換して水に分散させる方法が記載されている(特許文献1)しかしながら、カーボンナノチューブを化学修飾する方法は、カーボンナノチューブの物性を変える可能性があるため、後者の方法の方が望ましいとされている。
【0006】
後者の方法としては、媒体として水性媒体と疎水性有機溶媒の両方が検討されているが、コスト、有毒性及び環境面の観点から水性媒体の使用が望まれている。
【0007】
カーボンナノチューブの水性媒体中での親和性を介助する物質(分散剤)としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルイタコン酸塩(特許文献2)、重縮合系芳香族系界面活性剤(特許文献3)、ステロイド骨格を含む非イオン性界面活性剤(特許文献4)等の界面活性剤;カテキン類(特許文献5)、両親媒性トリフェニレン誘導体(特許文献6)、ポリフェノール含有水溶液(特許文献7)、両親媒性π共役化合物(特許文献8)、ピレン誘導体(非特許文献1)、ポルフィリン誘導体(非特許文献2)等の芳香族又は複素環化合物;ポリスチレンスルホン酸(特許文献9)、多糖(特許文献10)、ピレンポリマー(非特許文献3)、DNA(非特許文献4)等の親水性高分子などが知られている。
【0008】
これらの分散剤を用いて媒体中に孤立分散されたカーボンナノチューブを用いて、電気伝導性膜を形成することが広く検討されているが、分散剤として界面活性剤などの低分子化合物を用いた場合には、経時安定性が低い。また、分散剤として親水性高分子を用いた場合には、形成された電気伝導性膜は高分子による補強効果で機械的強度は確保されるが、耐水性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−24127号公報
【特許文献2】特開2010−13312号公報
【特許文献3】特開2005−263608号公報
【特許文献4】特開2009−242126号公報
【特許文献5】特開2009−298625号公報
【特許文献6】特開2009−190940号公報
【特許文献7】特開2009−161393号公報
【特許文献8】特開2006−265151号公報
【特許文献9】特開2009−149832号公報
【特許文献10】特開2008−53607号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chem. Lett., 6, 638-639 (2002).
【非特許文献2】Chem. Phys. Lett. 378, 481-485 (2003).
【非特許文献3】Trans. Mater. Research Soc. Jpn., 29, 525-528 (2004).
【非特許文献4】Chem. Lett., 32, 456 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、電気伝導性、機械的強度、耐水性及び経時安定性の高いナノカーボン含有塗膜を形成することができるナノカーボン含有塗料組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のポリアミド酸塩をナノカーボンの分散剤として採用する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記のナノカーボン含有塗料組成物及びそれにより形成された塗膜に関する。
1. バインダー成分、ポリアミド酸の有機アミン塩、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とするナノカーボン含有塗料組成物。
2. 前記ポリアミド酸は、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる重縮合体である、上記項1に記載のナノカーボン含有塗料組成物。
3. 前記ナノカーボンは、単層又は多層のカーボンナノチューブである、上記項1又は2に記載のナノカーボン含有塗料組成物。
4. 接着剤組成物である、上記項1〜3のいずれかに記載のナノカーボン含有塗料組成物。
5. 上記項1〜4のいずれかに記載のナノカーボン含有塗料組成物の乾燥物である塗膜。
6. 前記乾燥体が100〜300℃で熱処理されている、上記項5に記載の塗膜。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のナノカーボン含有塗料組成物は、バインダー成分、ポリアミド酸の有機アミン塩、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とする。
【0016】
上記特徴を有する本発明のナノカーボン含有塗料組成物は、ポリアミド酸の有機アミン塩を分散剤とすることにより、ナノカーボンが水性溶媒中に孤立分散している。よって、当該塗料組成物の乾燥物である塗膜を形成した場合には、ナノカーボンが均一に分散した電気伝導性の高い塗膜が得られる。また、この塗膜は、機械的強度、耐水性及び経時安定性にも優れており、発熱体、放熱材、電気伝導材等のさまざまな分野に適用できる。また、本発明の塗料は、ナノカーボン含有接着剤としても利用できる。
【0017】
ナノカーボン含有塗料組成物
本発明で用いるナノカーボンは限定的ではなく、公知の単層又は多層のカーボンナノチューブなどが使用できる。具体的には、例えば、次のものが例示できる。
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体。
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面ないしグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。カーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、これら単層又は多層カーボンナノチューブがいずれも使用できる。
【0018】
単層カーボンナノチューブとしては、直径が0.4〜10nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が0.7〜5nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が0.7〜2nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
【0019】
多層カーボンナノチューブとしては、直径が1〜100nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が1〜50nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が1〜40nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
<アモルファスナノスケールカーボンチューブ>
アモルファスナノスケールカーボンチューブは、WO00/40509(特許第3355442号)に記載されており、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1〜1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上、特に3.7Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下、特に24.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上、特に7.0度以上であることを特徴とするものである。
【0020】
アモルファスナノスケールカーボンチューブは、アモルファス構造(非晶質構造)を有するナノスケールのカーボンナノチューブで、中空直線状であり、細孔が高度に制御されている。その形状は、主に円柱、四角柱などであり、先端の少なくとも一方が、キャップを有していない(開口している)場合が多い。先端が閉口している場合には、形状がフラット状である場合が多い。
【0021】
該アモルファスナノスケールカーボンチューブの外径は、通常1〜1000nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜200nm程度の範囲にあり、より好ましくは、1〜100nm程度の範囲にある。そのアスペクト比(チューブの長さ/直径)は2倍以上であり、好ましくは5倍以上である。
【0022】
ここで、「アモルファス構造」とは、規則的に配列した炭素原子の連続的な炭素層からなる黒鉛質構造ではなく、不規則な炭素網平面からなる炭素質構造を意味し、多数の微細なグラフェンシートが不規則に配列し、原子の配列が不規則になっている。代表的な分析手法である透過型電子顕微鏡による像からは、本発明による非晶質構造のナノスケールカーボンチューブは、炭素網平面の平面方向の広がりがアモルファスナノスケールカーボンチューブの直径の1倍より小さい。このように、アモルファスナノスケールカーボンチューブは、その壁部が黒鉛構造ではなく多数の微細なグラフェンシート(炭素網面)が不規則に分布したアモルファス構造を有しているため、最外層を構成する炭素網面は、チューブ長手方向の全長にわたって連続しておらず、不連続となっている。特に、最外層を構成する炭素網面の長さは、20nm未満、特に5nm未満である。
【0023】
非晶質炭素は一般的にはX線回折を示さないが、ブロードな反射を示す。黒鉛質構造では、炭素網平面が規則的に積み重なっているので、炭素網平面間隔(d002)が狭くなり、ブロードな反射は高角側(2θ)に移行して、次第に鋭くなり(2θバンドの半値幅が狭くなり)、d002回折線として観測できるようになる(黒鉛的位置関係で規則正しく積み重なっている場合はd002=3.354Åである)。
【0024】
これに対し、非晶質構造は、上記のように一般的にはX線による回折を示さないが、部分的に非常に弱い干渉性散乱を示す。X線回折法(入射X線=CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される本発明によるアモルファスナノスケールカーボンチューブの理論的な結晶学的特性は、以下の様に規定される:炭素網平面間隔(d002)は、3.54Å以上であり、より好ましくは3.7Å以上である;回折角度(2θ)は、25.1度以下であり、より好ましくは24.1度以下である;前記2θバンドの半値幅は、3.2度以上であり、より好ましくは7.0度以上である。
【0025】
典型的には、アモルファスナノスケールカーボンチューブは、X線回折による回折角度(2θ)が18.9〜22.6度の範囲内にあり、炭素網平面間隔(d002)は3.9〜4.7Åの範囲内にあり、2θバンドの半値幅は7.6〜8.2度の範囲内にある。
【0026】
アモルファスナノスケールカーボンチューブの形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。すなわち、透過型電子顕微鏡によるアモルファスナノスケールカーボンチューブ像の長さをLとし、そのアモルファスナノスケールカーボンチューブを伸ばした時の長さをL0とした場合に、L/L0が0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
<鉄−炭素複合体>
鉄−炭素複合体は、特開2002−338220号公報に記載されており、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている。即ち、チューブ内空間部の100%の範囲に完全に充填されているものではなく、上記金属又は合金がそのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に充填されている(即ち、部分的に充填されている)ことを特徴とするものである。壁部は、パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブである。
【0027】
なお、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
【0028】
本発明では、ナノカーボンの分散剤としてポリアミド酸の有機アミン塩を用いる。ポリアミド酸の有機アミン塩は、ナノカーボン表面に吸着して水性溶媒中でナノカーボンを孤立分散させることができる。また、ポリアミド酸の有機アミン塩は、ナノカーボン表面に残存してもナノカーボンの電気伝導性に影響を与え難いという優位性もある。
【0029】
上記ポリアミド酸の有機アミン塩としては限定的ではないが、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる重縮合体と有機アミンとの塩であることが好ましい。このように有機アミン塩を用いることにより、ナノカーボン含有塗膜を200〜300℃で熱処理することによりポリイミド化して更に耐熱性等を向上させることができる。
【0030】
上記有機アミン塩としては、例えば、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、ジメチルアミノエタノール塩等が挙げられる。これらの有機アミン塩の中でも、水性溶媒中での分散性を考慮すると、トリエタノールアミン塩が好ましい。
【0031】
ナノカーボン水分散体における上記ポリアミド酸塩の含有量は限定的ではないが、0.01〜50wt%が好ましく、0.1〜20wt%がより好ましい。また、ナノカーボンを良好に分散するためには、ナノカーボン100重量部に対して1〜1000重量部が好ましく、10〜100重量部がより好ましい。また、ナノカーボン水分散体における上記ナノカーボンの含有量は限定的ではないが、本発明では20wt%程度まで高濃度分散させることができ、好ましくは0.01〜10wt%である。
【0032】
本発明では、ナノカーボンの分散媒として水性溶媒を用いる。
【0033】
水性溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、エチレングリコール等が使用できる。ナノカーボン含有塗料組成物における上記水性溶媒の含有量は限定的ではないが、上記ナノカーボン及び分散剤の含有量となるように調整すればよい。
【0034】
本発明では、ナノカーボン含有塗料組成物にはバインダー成分を含有する。バインダー成分は当該組成物を被処理物に塗布することによって製膜化できるものであればよく、水性溶媒との混和性も考慮するとポリマーエマルションを用いることが好ましい。
【0035】
ポリマーエマルションとしては、従来から水性塗料などに用いられているポリマーエマルションが利用できるが、特に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、セルロース誘導体、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ゴム系樹脂等のポリマーエマルションが好ましい。ポリマーエマルション中の固形分濃度としては、1〜70wt%が好ましく、5〜50wt%がより好ましい。
【0036】
上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、キシレン樹脂変性レゾール型樹脂、ロジン変性フェノール樹脂が挙げられる。なかでもレゾール型、および変性レゾール型樹脂が好ましい。
【0037】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノールと、エピクロルヒドリンとの反応で得られるエポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂などが使用できる。
【0038】
上記メラミン樹脂としては、エマルション形態の他に水溶性メラミンプレポリマーを使用できる。
【0039】
上記セルロース誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース類を例示することができる。これらのうちでも、特にヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0040】
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、共重合ナイロン等が例示される。
【0041】
上記ビニル系樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール等)、アクリル系樹脂(特に、アクリル酸エステル、特に低級アルキルエステルの重合体、メタクリル酸エステル、特に低級アルキルエステルの重合体、該アクリル酸エステル及び/又は該メタクリル酸エステルを主成分とし他のコモノマー(例えば、スチレン、メチルスチレン、マレイン酸等)を1種又は2種以上を共重合してなる共重合体等)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが例示できる。
【0042】
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が例示される。
【0043】
上記ポリウレタン樹脂としては、例えば、公知のポリウレタン樹脂が使用できる。
【0044】
上記ゴム系樹脂としては、塩化ゴム、アラビアゴム等が例示できる。
【0045】
バインダー成分の含有量は限定的ではないが、ナノカーボン含有塗料組成物中に1〜70wt%が好ましく、10〜50wt%がより好ましい。また、ナノカーボン100重量部に対して0.5〜95重量部が好ましく、1〜90重量部がより好ましい。
【0046】
上記ナノカーボン含有塗料組成物は、分散剤であるポリアミド酸の有機アミン塩がナノカーボン表面に吸着しており、水性溶媒中でナノカーボンを孤立分散させることができる。
【0047】
上記本発明のナノカーボン含有塗料組成物の製造方法は限定的ではなく、上記各成分を混合することにより製造できるが、下記の本発明の製造方法を用いることにより好適に製造することができる。
【0048】
すなわち、ポリアミド酸の有機アミン塩を含む水性溶媒にナノカーボンを混合することにより組成物を調製する工程1、前記組成物に物理的分散処理を施す工程2及び分散液にバインダー成分を混合する工程3を有することを特徴とするナノカーボン含有塗料組成物の製造方法により好適に製造することができる。本発明の製造方法における各成分の種類及び含有量については前記の通りである。
【0049】
上記工程2における物理的分散処理は、例えば、超音波ホモジナイザー、ホモジナイザー、ボールミル等の公知の撹拌機により行うことができる。
【0050】
ナノカーボン含有塗膜
本発明のナノカーボン含有塗膜は、上記ナノカーボン含有塗料組成物の乾燥物である。
【0051】
乾燥塗膜は、ナノカーボン含有塗料組成物を公知の塗布方法で被処理物に塗布した後、乾燥することにより得られる。乾燥方法としては特に限定されず、例えば、温風乾燥機等を用いて50〜120℃程度で1〜24時間程度乾燥させる方法を例示できる。
【0052】
乾燥塗膜の厚さは限定的ではないが、0.1〜800μm程度が好ましく、1〜500μm程度がより好ましい。
【0053】
また、この乾燥塗膜は、機械的強度、耐水性及び経時安定性にも優れている。
【0054】
上記塗膜は、必要に応じて、熱処理を施してもよい。分散剤が有機アミン塩であるため、熱処理することによりポリアミド酸の有機アミン塩がポリイミド化して塗膜の耐熱性、耐水性及び機械的強度をより向上させることができる。かかるナノカーボンとポリイミドとの複合体は、異方性のない耐熱性導電性材料として利用することができる。熱処理の条件は限定的ではないが、ポリイミド化させる場合には、200〜300℃程度で1〜12時間程度熱処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0055】
本発明のナノカーボン含有塗料組成物は、ポリアミド酸の有機アミン塩を分散剤とすることにより、ナノカーボンが水性溶媒中に孤立分散している。よって、当該塗料組成物の乾燥物である塗膜を形成した場合には、ナノカーボンが均一に分散した電気伝導性の高い塗膜が得られる。また、この塗膜は、機械的強度、耐水性及び経時安定性にも優れており、発熱体、放熱材、電気伝導材等のさまざまな分野に適用できる。本発明の塗料は、ナノカーボン含有接着剤としても利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0057】
実施例1
(ポリアミド酸の合成)
三口セパラブルフラスコに、9,9−ビスアニリンフルオレン(BAF、JFEケミカル(株)製)8.71gを添加し、更に乾燥したN-メチルピロリドン(NMP)75.04gを添加した。
【0058】
この溶液を窒素でバブリングし、0℃で撹拌しながらピロメリット酸無水物(PMDA)5.74gを添加し、メカニカルスターラーで2時間撹拌した後、室温で17時間撹拌した。
【0059】
反応溶液を蒸留水1.5リットルに滴下し、得られた固体をメタノールで洗浄した後、乾燥し、NMPを含むポリアミド酸22.22gを得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は37900、数平均分子量は6390であった。
(ポリアミド酸塩の作製)
ポリアミド酸0.5gを2−エトキシエタノール2mlに溶解させ、これに0.1gのトリエタノールアミンを加えて塩を析出させた。
【0060】
この塩を遠心分離で回収後、5mlの水に溶解させた。
(カーボンナノチューブの分散)
上記ポリアミド酸塩水溶液5mlに0.05gのカーボンナノチューブ(CNT)(ナノシル社製 NC7000)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0061】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 0.5:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTが孤立分散して存在していた。
(カーボンナノチューブ含有塗料組成物)
上記CNT水分散液にウレタンエマルション(三洋化成製 ユーコートUWS-145)を混合(ウレタン重量:ポリアミド酸重量:CNT重量= 10:10:1)した。混合によってCNTの凝集は起こらず、CNTは安定に分散していた。
【0062】
実施例2
(カーボンナノチューブ含有塗膜)
実施例1の塗料組成物をガラス板及びポリプロピレン管上に塗布して100℃で1時間乾燥させた。得られた塗膜は、ガラス板及びポリプリピレンのいずれにおいても、乾燥による収縮は起こすことなく平坦な乾燥膜となり、基材へよく接着していた。また、塗膜を煮沸しても崩壊は見られなかった。
【0063】
ガラス板上に形成した塗膜の表面抵抗を三菱アナリテック製ロレスタで測定した。
【0064】
ガラス板上の乾燥塗膜(CNT濃度は4.8w%)は、1E+02 Ω/□オーダーの低い表面抵抗を示し、導電性の高いことがわかった。
【0065】
比較例1
1%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液10mlに0.05gのカーボンナノチューブ(CNT)(ナノシル社製 NC7000)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。分散液の上澄みを取り出し、これにウレタンエマルション(三洋化成製 ユーコートUWS-145)を混合(ウレタン重量: CNT重量= 10:1)したところ次第にCNTが凝集して沈殿した。このことは、本発明の塗料組成物の安定性が高いことを示している。
【0066】
比較例2
実施例1においてウレタンエマルションを加えない以外は同組成のCNT水分散液を実施例2と同様にしてポリプロピレン管上に塗布し、乾燥したところ、はじきが生じて均一な塗膜を形成できなかった。このことは、本発明の塗料組成物の基材密着性が高いことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分、ポリアミド酸の有機アミン塩、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とするナノカーボン含有塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド酸は、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる重縮合体である、請求項1に記載のナノカーボン含有塗料組成物。
【請求項3】
前記ナノカーボンは、単層又は多層のカーボンナノチューブである、請求項1又は2に記載のナノカーボン含有塗料組成物。
【請求項4】
接着剤組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載のナノカーボン含有塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノカーボン含有塗料組成物の乾燥物である塗膜。
【請求項6】
前記乾燥体が100〜300℃で熱処理されている、請求項5に記載の塗膜。

【公開番号】特開2012−97174(P2012−97174A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245304(P2010−245304)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】