説明

ナノカーボン水系分散液及びナノカーボン分散樹脂組成物

【課題】高濃度で安定に水系溶剤中にナノカーボン物質が分散したナノカーボン水系分散液及びナノカーボン分散樹脂組成物の提供。
【解決手段】ナノカーボン物質、水系溶剤及び高分子分散剤を含み、該分散剤の主成分が下記の要件を全て満たすA−Bブロックコポリマーであるナノカーボン水系分散液。
(1)90%以上がメタクリル系モノマーで構成されたA−Bブロックコポリマー。
(2)Aブロックは、70%以上が芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーで構成され、酸価が0〜30mgKOH/gで、数平均分子量が1,000〜5,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.3以下。
(3)Bブロックは、酸性基を有するメタクリル系モノマーを構成成分とし、酸価が100〜300mgKOH/gで、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量からAブロックの数平均分子量を引いた分子量が1,000〜10,000である。
(4)A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.6以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン物質であるカーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類、ナノグラフェン類を、特徴のある特定の高分子分散剤にて水系溶剤に安定に分散させてなるナノカーボン水系分散液に関し、また、塗料、インキまたはプラスチック等に、導電性、帯電防止などの電気的特性を付与できるナノカーボン分散樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボン物質であるカーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類、ナノグラフェン類(この3つの種類をナノカーボン物質と称す場合がある)は、炭素原子の共有結合によって形成する六員環グラファイト構造の1層(グラフェンシート)からなるナノサイズの形状を持つことによって、今までの炭素化合物にない特性や新規機能を発現する次世代の材料として注目されており、幅広い分野で、その特性・性能を活かす使用がされている。例えば、ナノカーボン物質を構成するグラフェンシートにより付与される電気的性質、熱的性質に注目して、帯電防止剤や導電材料、半導体、燃料電池電極、ディスプレーの陰極線などの新規用途開発が進められている。
【0003】
しかし、これらを分散する場合に、ナノサイズであることによって、表面エネルギーが高く強いファンデルワールス力が働き、凝集しやすい性質を有しており、分散してもすぐに凝集してしまうという課題がある。また、強く凝集しているので、特にナノカーボン物質のプラスチックへの分散は困難を極める。このため、ナノカーボン物質の凝集は、上記した用途において優れた特性を発揮させるにあたり、大きな障害となっている。そこで、ナノカーボン物質の優れた特性を十分に発揮させるために、凝集状態のナノカーボン物質を安定に分散させることが強く求められている。
【0004】
これに対し、ナノカーボン物質を液媒体に安定に分散させることが検討されている。液媒体としては、環境への負荷が低く、取り扱いのし易いなどの観点から、水系溶剤が広く検討されている。ナノカーボンの水系分散液は、加工性に優れ、塗布することでナノカーボン塗膜を作成することができるほか、さらに樹脂組成物と混合することで、様々なナノカーボン分散樹脂組成物を得ることができる。しかし、ナノカーボン単独ではその強い凝集性により安定に分散させることは困難であるため、分散剤を使用することで安定に分散させようとする検討が広く実施されている。
【0005】
例えば、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤を使用したカーボンナノチューブの水系分散液に関する報告がこれまでになされている(特許文献1及び2)。これらの分散剤を使用することで、水系溶剤へのカーボンナノチューブの分散が可能となるが、カーボンナノチューブの濃度を高くした場合、分散が不十分であったり、再凝集したりと分散性能が十分満足いくものとはいえない。また、分散剤としてポリビニルピロリドンを用いたカーボンナノチューブ水系分散液について開示されているが(特許文献3)、分散安定性等の評価がされておらず、これまた分散性能として満足のいくものとはいえない。特にこれらは水溶性の物質であって、物品に添加したとき、耐水性を悪化させる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−238126号公報
【特許文献2】特開2009−149832号公報
【特許文献3】特開2003−238126号公報
【0007】
上記したように、ナノカーボン物質を水系溶剤に高濃度で安定に分散させることは容易なことではなく、液媒体中に高濃度で安定に分散させ得る分散剤の開発が強く望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の背景に鑑みてなされたものであり、ナノカーボン物質の分散性に優れた、高濃度で安定に水系溶剤中に分散したナノカーボン水系分散液、及び該分散液を含むナノカーボン分散樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくともナノカーボン物質、水系溶剤及び高分子分散剤を含有してなるナノカーボン水系分散液において、高分子分散剤の主成分が、下記(1)〜(4)の要件を全て満たすA−Bブロックコポリマーであることを特徴とするナノカーボン水系分散液を提供する。
(1)A−Bブロックコポリマーが、90質量%以上がメタクリル系モノマーで構成されている
(2)A−BブロックコポリマーのAブロックは、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%以上構成成分とし、且つ酸価が0〜30mgKOH/gであり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜5,000、重量平均分子量/数平均分子量(分子量分布)が1.3以下である
(3)A−BブロックコポリマーのBブロックは、酸性基を有するメタクリル系モノマーを少なくとも構成成分とし、酸価が100〜300mgKOH/gであり、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量からAブロックの数平均分子量を引いた分子量が1,000〜10,000である
(4)A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.6以下であること
【0010】
本発明の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。
前記ナノカーボン物質が、カーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類又はナノグラフェン類のいずれかであること。
前記ナノカーボン物質と前記高分子分散剤との質量比率が、ナノカーボン物質:高分子分散剤=20〜80:80〜20であり、分散液中のナノカーボン物質の質量が15%以下であること。
前記要件(2)における芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーが、ベンジルメタクリレートであること。
前記要件(3)における酸性基を有するメタクリル系モノマーが、メタクリル酸であること。
前記A−Bブロックコポリマーが、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物または炭素化合物のいずれかを触媒とするリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法によって合成されたものであること。
前記リン化合物は、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物またはフォスフィネート系化合物のいずれかであり、前記窒素化合物は、イミド類またはヒダントイン類であり、前記酸素化合物は、フェノール系化合物であり、前記炭素化合物は、ジフェニルメタンまたはシクロアルケン系化合物であること。
【0011】
また、本発明の別の実施形態は、上記したいずれかのナノカーボン水系分散液に樹脂組成物が添加されてなることを特徴とするナノカーボン分散樹脂組成物を提供する。さらに、該ナノカーボン分散樹脂組成物の用途が、ナノカーボン物質を分散させた塗料、インキまたはプラスチックのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、本発明で規定する(1)〜(4)のすべての要件を満たすA−Bブロックコポリマーを高分子分散剤に用いることで、高濃度で安定にナノカーボン物質が水系溶剤に分散したナノカーボン水系分散液の提供を可能とする。本発明によって提供されるナノカーボン水系分散液は、水系溶剤を用いるものであることから環境への負荷が低く、取り扱いし易い。また、本発明によって提供されるナノカーボン水系分散液は、加工性に優れ、そのまま塗布することでナノカーボン塗膜を作成することができる。一方、本発明によって提供されるナノカーボン水系分散液は、さらに樹脂組成物を添加することで、様々な樹脂媒体にナノカーボン物質が良好に分散してなるナノカーボン分散樹脂組成物の提供を可能とする。本発明によれば、例えば、ナノカーボン物質が良好に分散した塗料、インキ、プラスチック等を得ることができる。本発明のナノカーボン水系分散液を用いることで、種々の媒体中にナノカーボン物質を十分にほぐれた状態に分散させることができるため、ナノカーボン物質の本来持っている優れた特性を発揮し得るナノカーボン分散樹脂組成物、さらにはこれを用いた各種の製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で作成したCNT水系分散液−1の写真。写真の左側はCNT水系分散液−1の原液で、右側は3000倍に希釈した分散液の写真。
【図2】実施例4で作成したCNT水系分散液−7の写真。写真の左側はCNT水系分散液−7の原液で、右側は3000倍に希釈した分散液の写真。
【図3】実施例5及び比較例4で作成したナノグラフェン水系分散液の写真。写真の左側は実施例5のナノグラフェン水系分散液−1で、右側は比較例4のナノグラフェン水系分散液−2の写真。
【図4】応用例で作成したCNT分散塗膜中のCNT含有量と表面抵抗値の相関グラフ。
【図5】応用例におけるCNT含有量が1.0%、膜厚が1μmのCNT分散塗膜のSEM写真(倍率:30000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、少なくともナノカーボン物質、水系溶剤及び高分子分散剤を含有してなるナノカーボン水系分散液を提供するものである。以下、本発明のナノカーボン水系分散液を構成する材料について、それぞれ説明する。
<ナノカーボン水系分散液>
(ナノカーボン物質)
本発明に用いるナノカーボン物質としては、カーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類、ナノグラフェン類を挙げることができる。ナノカーボン物質は、炭素原子の共有結合によって形成する六員環グラファイト構造の1層(グラフェンシート)からなるナノサイズの形状を持つ物質であり、今までの炭素化合物にない特性や新規機能を発現する次世代の材料として注目されており、幅広い分野で、その特性・性能を活かした使用が期待されている。ナノカーボン物質の一種であるカーボンナノチューブ類は、グラフェンシートが丸まって円筒の形状をしたナノカーボン物質である。その種類としては、1層のみからなる単層カーボンナノチューブ(SWNT)、同心円状にカーボンナノチューブが重なった構造の多層カーボンナノチューブ(MWNT)がある。また、カーボンナノホーン類は、カーボンナノチューブのようにグラフェンシートが丸まった形状であるが、真っ直ぐな円筒状ではなくチューブの先端が閉じてホーン(角)の形状をしたナノカーボン物質である。ナノグラフェン類は、ナノサイズのグラフェンシートそのものであり、1原子の厚みしかない薄膜形状のナノカーボン物質である。
【0015】
本発明におけるナノカーボン物質としては、グラフェンシートからなるナノサイズの形状を持つ物質であれば、カーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類、ナノグラフェン類いずれも用いることができ、その形状、大きさ、製造方法について限定されない。また、それらの混合物でもすべて使用することができる。
【0016】
(水系溶剤)
本発明に用いる水系溶剤としては、水または水及び親水性有機溶剤の混合液を挙げることができる。取り扱い易さや環境への負荷を考慮した場合、単独で水を用いることが好ましいが、分散時のナノカーボン物質の濡れ性を改善したり、凝集状態のナノカーボン物質を解きやすくしたり、ナノカーボン物質の分散を助けるために親水性有機溶剤を水と混合して使用することができる。親水性有機溶剤は、水と混合した時に相溶し得る溶剤であり、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。これらの親水性有機溶剤は、単独でも複数混合しても用いることができる。
【0017】
(高分子分散剤)
次に、本発明を特徴付ける高分子分散剤について説明する。本発明で用いる高分子分散剤は、その主成分が、下記に挙げる(1)〜(4)の要件を全て満たすA−Bブロックコポリマーであることを要するが、以下、これらの要件について説明する。
(1)A−Bブロックコポリマーが、90質量%以上がメタクリル系モノマーで構成されている。
(2)そのAブロックは、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%以上構成成分とし、且つ酸価が0〜30mgKOH/gであり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜5,000、重量平均分子量/数平均分子量(分子量分布)が1.3以下である。
(3)そのBブロックは、酸性基を有するメタクリル系モノマーを少なくとも構成成分とし、酸価が100〜300mgKOH/gであり、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量からAブロックの数平均分子量を引いた分子量が1,000〜10,000である。
(4)A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.6以下である。
【0018】
A−Bブロックコポリマーは、性質の異なる2種類以上のポリマーセグメントが共有結合で結合した構造を有しており、各モノマー成分が各々局在化したコポリマーであるため、各モノマー成分がランダムに配列したランダムコポリマーと比べ、各々成分の性能がより発揮されると期待できる。本発明者らは、ナノカーボン物質を分散させる分散剤の構造を、ナノカーボン物質吸着部及び媒体親和部を有するブロックコポリマーとすれば、ナノカーボン物質吸着性能及び媒体親和性能が各々十分に発揮されることが期待でき、この結果、分散が困難なナノカーボン物質の良好な分散の達成が可能になるとの観点から検討した結果、本発明に至った。本発明では、このような理由から、ナノカーボン物質の分散剤をブロックコポリマー構造としたものである。すなわち、本発明で分散剤として使用する上記した(1)〜(4)の要件を全て満たすA−Bブロックコポリマーは、Aブロックはナノカーボン物質吸着部として有効に作用し、Bブロックは媒体親和部として有効に作用する。以下、本発明で使用する高分子分散剤が必須とする(1)〜(4)の要件について説明する。
【0019】
上記(1)に挙げたように、本発明を特徴づける高分子分散剤は、90質量%以上がメタクリル系モノマーで構成されるA−Bブロックコポリマーを主成分とすることを要する。これは下記の理由による。本発明を構成する高分子分散剤の主成分である90質量%以上のメタクリル系モノマーで構成されるA−Bブロックコポリマーは、分散剤の構造として良好なだけでなく、詳細は後述するが、本発明者らが、ナノカーボン物質を良好な状態に分散できるA−Bブロックコポリマーを簡便に合成し得る方法としてリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法を用いることが有効であることを見出したことにもよる。すなわち、RTCP法が、主としてメタクリル系モノマーにおいて優れたリビング重合性を発揮でき、重合収率がよく、分子量分布も狭く、ナノカーボン物質吸着部と媒体親和部の2つの性能が局在化したブロック化も容易であるためである。これに対し、アクリル系モノマーやスチレン系モノマー、ビニル系モノマーが存在すると、上記した方法によっても、分子量分布が広くなったり、重合収率が悪かったりするので、本発明で使用するA−Bブロックコポリマーの構成成分は、90質量%以上のメタクリル系モノマーとした。本発明では、90質量%以上のメタクリル系モノマーをA−Bブロックコポリマーの構成成分とすることで、ナノカーボン物質吸着部と媒体親和部とを有する構造が明確なA−Bブロックコポリマーとすることで、ナノカーボン物質を良好な状態に分散できる高分子分散剤を得ることを可能としている。
【0020】
また、上記(2)に挙げたように、本発明で使用する高分子分散剤の主成分であるA−Bブロックコポリマーは、Aブロックが、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%以上構成成分とし、且つ酸価が0〜30mgKOH/gであり、且つGPCにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜5,000、分子量分布が1.3以下であることを要す。芳香族骨格とは、π電子を持つ原子が環状に並んだ構造を持つ不飽和環状骨格を意味し、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。本発明で使用するA−BブロックコポリマーのAブロックは、ナノカーボン物質吸着部となる部分であるが、ナノカーボン物質との吸着効果を高めるため、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%構成成分とする。これは、上記Aブロックに芳香族骨格を導入することで、ナノカーボン物質の六員環グラファイト構造と芳香族骨格とのπ−πスタッキング作用または疎水性相互作用による吸着効果を期待したものによる。また、本発明において、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーの構成成分は、Aブロックの構成成分のうちの70質量%以上であることを要するが、これは、70質量%よりも少ないと、芳香族骨格によるナノカーボン物質との吸着効果が十分とは言えないからである。
【0021】
本発明で使用するA−BブロックコポリマーのAブロックには酸性基を含んでいてもよいが、酸性基はイオン性基であるため、酸性基が多くなると強い疎水性のナノカーボン物質との吸着性能が低下してしまう、さらに、Bブロックの媒体親和効果、本発明では水系溶剤との親和効果が低下してしまうため、本発明では、Aブロックの酸価が0〜30mgKOH/gと低いことを要件とする。また、Aブロックの数平均分子量は、下記の理由から、GPCにおけるポリスチレン換算値で1,000〜5,000であることを要する。数平均分子量が1,000未満であると、分子量が小さすぎてナノカーボン物質との十分な吸着性が発揮されず、5,000よりも大きいとナノカーボン物質間での吸着が起こり、良好な分散ができない恐れがあるからである。
【0022】
本発明で使用するA−BブロックコポリマーのAブロックは、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%以上構成成分とするが、その芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーとしては、ベンジルメタクリレートであることが好ましい。ベンジルメタクリレートは汎用品として入手しやすく、RTCP法によっても優れたリビング重合性を示し、本発明の高分子分散剤の有効な成分となり得る。ベンジルメタクリレートは単独で使用してもよいが、他の芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーとの混合物としても用いることができる。芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーとしては、具体的には、フェニルメタクリレート、フェニルエチルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、アントラセニルメタクリレート、ピレニルメタクリレート、ピリジニルメタクリレート、チオフェニルメタクリレート等を挙げることができる。芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーは複数の種類を含んでいてもよく、全体としてAブロック中に70質量%以上構成していればよい。
【0023】
また、(3)に挙げたように、本発明で使用する高分子分散剤の主成分であるA−Bブロックコポリマーは、Bブロックが、酸性基を有するメタクリル系モノマーを少なくとも構成成分とし、酸価が100〜300mgKOH/gであり、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量からAの数平均分子量を引いた分子量が1,000〜10,000であることを要する。Bブロックは媒体親和部であり、本発明では媒体として水系溶剤を用いるため、Bブロックが、酸性基を有するメタクリル系モノマーを少なくとも構成成分としたものであることを1つの特徴とする。これは、酸性基を有するメタクリル系モノマーによって形成されるイオン性基を有するBブロックに、水系溶剤への親和性及び/またはナノカーボン物質分散時のイオン反発による分散安定化を期待したことによる。酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。
【0024】
本発明で使用するA−BブロックコポリマーのBブロックは、酸性基を有しており、その酸価としては、100〜300mgKOH/gであることを要する。100mgKOH/g未満であると水系溶剤との親和性に乏しく、水系溶剤におけるナノカーボン物質の分散安定性が十分とはいえず、300mgKOH/gよりも大きいと、ナノカーボン物質の耐水性が低下してしまうからである。また、Bブロックの分子量は、Aブロック重合後の分子量を、A−Bブロックコポリマー生成後の分子量から引いた分子量であり、1,000〜10,000であることを要する。すなわち、1,000未満では分子量が小さすぎて、ナノカーボン物質分散時の立体反発が発揮できず安定な分散体にならず、10,000よりも大きいと粘度が高くなる恐れがあり、分子量が大きい分、吸着部が少なくなることによって、相対的に分散剤量を増やさなくてはならないからである。
【0025】
本発明で使用するA−BブロックコポリマーのBブロックは、酸性基を有するメタクリル系モノマーを構成成分とするが、その酸性基を有するメタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸であることが好ましい。メタクリル酸は汎用品として入手しやすく、前記したRTCP法によっても優れたリビング重合性を示し、本発明で使用する高分子分散剤の主成分であるA−Bブロックコポリマーの有効な成分となり得る。酸性基を有するメタクリル系モノマーとして、メタクリル酸は単独で使用してもよいが、他の酸性基を有するメタクリル系モノマーとの混合物としても用いることができる。酸性基を有するメタクリル系モノマーとしては、具体的には、メタクリロイルオキシエタンカルボン酸、メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等を挙げることができる。酸性基を有するメタクリル系モノマーは複数の種類を含んでいてもよい。
【0026】
また、(4)に挙げたように、本発明で用いる高分子分散剤の主成分であるA−Bブロックコポリマーは、その分子量分布が1.6以下のものであることを要する。この分子量分布は、そのAブロック、Bブロックの分子量に関係があり、分子量分布が広いと前記した範囲のそれぞれの分子量にならない可能性があるからである。また、1.6ということは、AブロックまたはBブロックの分子量が揃っていることを意味する。より好ましくは、分子量分布は1.5以下である。また、特に、Aブロックの分子量分布を狭くすることで、Bブロックの分布が決定する。Bブロックのポリマー分子量が均一になるように、Aブロックの分子量分布は1.3以下であることが好ましい。
【0027】
先に述べたように、本発明で高分子分散剤の主成分に用いるA−Bブロックコポリマーは、90質量%以上がメタクリル系モノマーで構成されていることを要す。本発明に用いるメタクリル系モノマーとしては、Aブロックには前記の芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを用い、Bブロックには酸性基を有するメタクリル系モノマーを用いることを要するが、その他の従来公知のメタクリル系モノマーを併せて用いることができる。具体的には、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ(n=2以上)エチレングリコールメタクリレート、ポリ(n=2以上)プロピレングリコールメタクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジルなどを挙げることができる。加えて、ブロックコポリマーの全量中に、10質量%以下、好ましくは5質量%以下の割合であれば、従来公知のアクリル系モノマー、スチレン系モノマー、ビニル系モノマーなどの不飽和結合含有モノマーを使用することもできる。
【0028】
本発明のナノカーボン水系分散液は、少なくともナノカーボン物質、水系溶剤、高分子分散剤を含んでなるが、ナノカーボン物質と高分子分散剤との質量比率が、ナノカーボン物質:高分子分散剤=20〜80:80〜20であり、且つ、分散液中のナノカーボン物質の質量が15%以下であることが好ましい。ナノカーボン物質に対して高分子分散剤が過度に少ない場合、十分な分散性能を得ることができず、一方でカーボンナノ物質に対して高分子分散剤が過度に多くなると、分散液が増粘してしまう恐れがあり、また固形分中のナノカーボン物質の比率が相対的に低くなってしまうため、いずれも好ましくない。よって、本発明のナノカーボン水系分散液におけるナノカーボン物質と高分子分散剤との質量比率としては、ナノカーボン物質:高分子分散剤=20〜80:80〜20であることが好ましく、さらには、ナノカーボン物質:高分子分散剤=30〜70:70〜30であることがより好ましい。本発明を特徴づける高分子分散剤を用いることで、より好ましくは、ナノカーボン物質と高分子分散剤とを前記質量比率となるように配合して用いることで、より安定に分散したナノカーボン物質水系分散液となる。
【0029】
また、分散液中のナノカーボン物質の質量としては15%以下であること、更に、高濃度による有効性と、安定な分散の有効性を考慮すれば、より好ましくは、12〜1%の範囲となるように調整することが好ましい。例えば、ナノカーボン物質を15%よりも多く含有させると、分散液の増粘が激しく、十分に良好な分散処理を行うことができにくくなり、均一な分散状態を得ることが困難になるため、分散液中のナノカーボン物質の質量としては15%以下とすることが好ましい。但し、ナノカーボン水系分散液中におけるナノカーボン物質の量を少なくすることは、コスト面でのメリットはあるものの、例えば、0.01%以下のように過度に少ない場合は、これまでの炭素化合物にないナノカーボン物質に独特の特性や新規機能が十分に発現し得ず、所望の特性や効果が得られにくくなるので、極度に少ない量の添加は好ましくはない。すなわち、本発明の特徴は、水系溶剤からなる分散液中に、ナノカーボン物質を15%以下の範囲で、より好ましくは、ナノカーボン物質が持つ独自の特性や機能を発現できる量で目的に合ったナノカーボン物質を選択して、主成分が特有の構造を有するA−Bブロックコポリマーである高分子分散剤を用い、より好適には、ナノカーボン物質:高分子分散剤=20〜80:80〜20の範囲で調整して分散させることで、独特の特性や機能を持つナノカーボン物質を水系溶剤に、高濃度で安定に分散させることを可能にしたことにあり、この結果、目的とする効果およびコスト面も含め、ナノカーボン物質の持つ優れた特性を発揮し得る、多様な用途への適用可能なナノカーボン水系分散液が提供され、広範な分野への応用が期待できるという、工業上、極めて有用な効果が得られる。
【0030】
(高分子分散剤であるA−Bブロックコポリマーの合成方法)
次に、本発明を特徴づける上記した構成の高分子分散剤の主成分であるA−Bブロックコポリマーを簡便に得ることができる合成方法について説明する。本発明では、高分子分散剤としてA−Bブロックコポリマーを用いるが、A−Bブロックコポリマーの合成には、リビングラジカル重合法を用いることが好ましい。リビングラジカル重合とは、ラジカル重合において、分子構造の明確な高分子を得ることができる方法である。重合時、生長鎖末端のラジカルが安定化させるため、あるモノマーを重合した後に、続けて別のモノマーを添加することで、再び重合を進行させることができ、異なる重合体セグメントを有するブロックコポリマーを合成することができる。
【0031】
リビングラジカル重合の例としては、ニトロキサイドを使用するNitroxide mediated polymerization(以下、NMP法と略す)、ハロゲン元素である保護基を金属錯体によって引き抜いたりする方法である原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization、以下ATRP法と略す)、ジチオエステルやザンテート化合物を使用する可逆的付加解裂型連鎖移動重合(Revarsible Addition Fragmentation Transfer Polymerization、以下RAFT法と略す)、有機テルル化合物、有機ビスマス化合物などを使用する方法、コバルト錯体を使用する方法、ヨウ素移動重合、ヨウ素を保護基とし、触媒としてリン、窒素、酸素、炭化水素の化合物を使用する可逆連鎖移動触媒重合法(Revarsivle Transfer Catalized Polymerization、以下RTCP法と略す)などが使用できる。
【0032】
しかし、NMP法はアクリル系モノマー、スチレン系モノマーなどの重合に使用することができるが、メタクリル系モノマーは十分な構造制御ができない。末端の解離による3級ラジカルの副反応が伴うからである。また一般的に高温が必要であり、またそのニトロキサイドは特殊な化合物であり、コストが高く、環境の面でも安全性が保証されない。このような理由から、90質量%以上、メタクリル系モノマーを用いるA−Bブロックコポリマーの合成方法としては不向きである。また、ATRP法では、アミン系の錯体を使用するので、カルボキシル基含有モノマーをそのまま使用できない。したがって、本発明に好適なA−Bブロックコポリマーを合成する際に使用されるメタクリル酸をそのまま使用できない、という点で好ましくない。また、RAFT法は多種のモノマーを使用した場合、低分子量分布になりづらく、且つ硫黄臭や着色などの不具合がある。有機テルルなどを使用する方法は、有機金属が高価であり、環境的な安全性も不明であるので、その安全性試験にコストがかかり、不適である。
【0033】
上記した理由から、本発明で使用するA−Bブロックコポリマーの合成に好適なリビングラジカル重合方法としては、従来のラジカル重合に、重合開始化合物と触媒を併用するだけで容易に行える重合方法であるRTCP法が適している。
【0034】
上記重合方法は、下記の一般反応式1で表される反応機構で進む、ドーマント種Polymer−X(P−X)の成長ラジカルへの可逆的活性反応である。

上記重合機構は、触媒の種類によって変わる可能性があるが、次のように進むと考えられる。式1では、ラジカル開始剤から発生したP・が触媒であるXAと反応して、in siteで触媒ラジカルA・が生成する。A・はP−Xの活性化剤として作用して、この触媒作用によってP−Xは高い頻度で活性化する。
【0035】
さらに詳しくは、有機ヨウ素化合物を重合開始化合物として用いると、熱や光により発生した有機ラジカルがモノマーと反応し、ポリマー末端ラジカルが生成する。一方で逐次発生したヨウ素ラジカルはポリマー末端ラジカルと結合して安定化するので、停止反応が生ずるのを防止することができる。この繰り返しによりリビングラジカル重合が進行するため、得られるA−Bブロックコポリマーの分子量や構造を容易に制御することができる。
【0036】
上記で用いる有機ヨウ素化合物は、熱や光の作用によりヨウ素ラジカルを発生し得るものであれば特に限定されない。有機ヨウ素化合物の具体例としては、2−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1−フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2−シアノ−2アイオドプロパン、2−シアノ−2−アイオドブタン、1−シアノ−1−アイオドシクロヘキサン、2−シアノ−2−アイオドバレロニトリルなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。
【0037】
有機ヨウ素化合物としては、市販品の有機ヨウ素化合物をそのまま使用してもよいし、従来公知の方法で合成した有機ヨウ素化合物を使用してもよい。有機ヨウ素化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素を反応させることで得ることができる。また、臭素や塩素などのヨウ素以外のハロゲン原子を有する有機ハロゲン化物とともに、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩とを使用し、反応系中でハロゲン交換反応を起こさせて有機ヨウ素化合物を発生させてもよい。
【0038】
また、リビングラジカル重合においては、ヨウ素化合物からヨウ素原子を引き抜いてヨウ素ラジカルを生じさせうる触媒を使用することが好ましい。このような触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの活性な炭素原子を含む炭化水素化合物を挙げることができる。なお、これらの触媒を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
リン系化合物の具体例としては、三ヨウ化リン、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネートなどが挙げられる。窒素系化合物の具体例としては、スクシンイミド、2,2−ジメチルスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、N−アイオドスクシンイミド、ヒダントインなどが挙げられる。酸素系化合物の具体例としては、フェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t−ブチルフェノール、カテコール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。炭化水素化合物の具体例としては、シクロヘキサジエン、ジフェニルメタンなどが挙げられる。触媒の使用量(モル数)は、後述する重合開始剤の使用量(モル数)未満である。触媒の使用量が多すぎると、重合が進行し難くなる場合がある。
【0040】
リビングラジカル重合する際の温度は20〜50℃とすることが好ましい。特に、本発明に好適なA−Bブロックコポリマーの合成には、酸性基を有するメタクリル系モノマーとしてメタクリル酸を用いるので、リビングラジカル重合する際の温度を上記の温度範囲内とすることが好ましい。温度が高すぎると、重合末端のヨウ素ラジカルがメタクリル酸によって分解しやすく、形成されるポリマー末端が安定せずに、リビングラジカル重合が進行し難くなる場合がある。
【0041】
リビングラジカル重合の際には、ヨウ素ラジカルが発生しやすいように重合開始剤を添加することが好ましい。この重合開始剤としては、アゾ系開始剤や過酸化物系開始剤などの従来公知の化合物が使用される。但し、重合開始剤としては、上記の重合温度で十分にヨウ素ラジカルを発生させうる化合物が好ましい。具体的には、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、重合するモノマーの0.001〜0.1モル倍とすることが好ましく、0.002〜0.05モル倍とすることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量が少なすぎると、リビングラジカル重合が十分に進行しない場合がある。一方、重合開始剤の使用量が多すぎると、リビングラジカル重合ではない通常のラジカル重合が副反応として進行する可能性がある。
【0042】
リビングラジカル重合は、有機溶剤を使用しないバルク重合としてもよいが、本発明で使用するA−Bブロックコポリマーを合成する場合は、溶媒を使用する溶液重合とすることが好ましい。この際に使用する溶媒は、ヨウ素化合物、触媒、モノマー、及び重合開始剤を溶解可能な溶媒であることが好ましく、特にグリコール系溶剤を用いることが好ましい。
【0043】
溶液重合するに際し、重合液の固形分濃度(モノマー濃度)は特に限定されないが、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは20〜60質量%とする。固形分濃度が5質量%未満であると、モノマー濃度が低すぎて重合が完結しない可能性がある。一方、固形分濃度が80質量%を超えると、実質的にバルク重合となって重合液の粘度が高くなりすぎてしまう。このため、撹拌が困難になるとともに、重合収率が低下する傾向にある。
【0044】
リビングラジカル重合は、モノマーがなくなるまで行うことが好ましい。具体的には、重合時間は0.5〜48時間とすることが好ましく、実質的には1〜24時間とすることがさらに好ましい。また、重合雰囲気は特に限定されず、通常の範囲内で酸素が存在する雰囲気であっても、窒素気流雰囲気であってもよい。また、重合に使用する材料(モノマーなど)は、蒸留、活性炭処理、又はアルミナ処理などにより不純物を除去したものを用いてもよいし、市販品をそのまま用いてもよい。さらに、遮光下で重合を行ってもよいし、ガラスなどの透明容器中で重合を行ってもよい。
【0045】
重合開始化合物(ヨウ素化合物)の使用量を調整することによって、得られるA−Bブロックコポリマーの分子量を制御することができる。具体的には、重合開始化合物のモル数に対して、モノマーのモル数を適切に設定することで、任意の分子量のA−Bブロックコポリマーを得ることができる。例えば、重合開始化合物を1モル使用し、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、「1×100×500=50,000」の理論分子量を有するA−Bブロックコポリマーを得ることができる。すなわち、A−Bブロックコポリマーの理論分子量を下記式(2)で算出することができる。なお、上記の「分子量」は、数平均分子量と重量平均分子量のいずれをも含む概念である。
「A−Bブロックコポリマーの理論分子量」=「重合開始化合物1モル」×「モノマー分子量」×「モノマーのモル数/重合開始化合物のモル数」 ・・・(2)
【0046】
なお、上述のリビングラジカル重合では、二分子停止や不均化の副反応を伴う場合があるので、上記の理論分子量を有するA−Bブロックコポリマーが得られない場合がある。このため、本発明を構成するA−Bブロックコポリマーは、これらの副反応が起こらずに得られたものであることが好ましい。但し、カップリングによって得られるA−Bブロックコポリマーの分子量が多少大きくなっても、重合反応が途中で停止して得られるA−Bブロックコポリマーの分子量が多少小さくなってもよい。また、重合率は100%でなくてもよい。さらに、重合を一旦終了した後、重合開始剤や触媒を添加して残存するモノマーを消費させて重合を完結させてもよい。すなわち、A−Bブロックコポリマーが生成していればよい。ただし、Aブロックの数平均分子量および分子量分布、Bブロックの分子量、A−Bブロックコポリマーの分子量分布が、それぞれ本発明で規定する範囲となるように設計することを要する。
【0047】
上記のような方法で得られたA−Bブロックコポリマーは、重合開始化合物として用いたヨウ素化合物に由来するヨウ素原子が結合した状態のままであってもよいが、ヨウ素原子を脱離させることが好ましい。ヨウ素原子をA−Bブロックコポリマーから脱離させる方法としては、従来公知の方法であれば特に限定されない。具体的には、A−Bブロックコポリマーを加熱したり、酸やアルカリで処理したりすればよい。また、A−Bブロックコポリマーをチオ硫酸ナトリウムなどで処理してもよい。脱離したヨウ素は、活性炭やアルミナなどのヨウ素吸着剤で処理して除去するとよい。
【0048】
(ナノカーボン水系分散液の調製方法、分散状態の確認方法)
本発明のナノカーボン水系分散液を調製する際に行う、上記したA−Bブロックコポリマーを主成分とする高分子分散剤を用いてのナノカーボン物質の分散処理方法としては、限定するものでなく、従来公知の方法で実施することができる。例えば、超音波分散、ビーズミル分散、乳化装置などを用いた分散等の分散方法を用いることができるが、分散の効果が高いことから超音波分散が好ましい。本発明のナノカーボン水系分散液は、少なくともナノカーボン物質、水系溶剤、高分子分散剤を混合し、分散処理を行うことで容易に作成することができる。
【0049】
本発明のナノカーボン水系分散液中におけるナノカーボン物質の分散性の確認方法としては、下記に挙げるような分光光度計による水系分散液の吸光度測定法で実施することができる。まず、ナノカーボン物質が濃度既知の極低濃度の分散液を数サンプル作成し、特定波長における吸光度を測定し、濃度に対する吸光度の検量線を作成しておく。次に、ナノカーボン物質、水系溶剤、高分子分散剤を混合し、所定の分散方法で分散処理した後、遠心分離処理をして分散しきれないナノカーボン物質を沈降分離させ、その上澄み液を吸光度測定可能な濃度に希釈して吸光度を測定し、検量線から濃度を算出する。得られる分散液の濃度により及び仕込み量と分散液の濃度を比較することにより、分散性を評価することができる。また、遠心分離後のナノカーボン水系分散液を長期間静置させて、凝集物の有無を確認する方法も実施することができる。
【0050】
<ナノカーボン分散樹脂組成物>
本発明では、上記で説明した本発明のナノカーボン水系分散液に別途樹脂組成物を添加することで、様々な形態のナノカーボン分散樹脂組成物を得ることができる。樹脂組成物としては、従来公知の樹脂組成物を用いることができる。具体的には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂等の樹脂を含有してなる樹脂組成物を用いることができる。その形状としては、樹脂固形物でもよく、その水系溶剤の樹脂溶液でもよい。また複数の樹脂の混合物を用いてもよい。
【0051】
本発明のナノカーボン分散樹脂組成物は、ナノカーボン物質が分散してなる、塗料、インキ、プラスチックなどとして用いることができ、導電性材料としての利用が期待できるほか、帯電防止材料としての応用も期待できる。ナノカーボン物質が分散した塗料またはインキの作成は、本発明のナノカーボン水系分散液に、塗料またはインキ組成となるように別途樹脂組成物を添加して塗料またはインキ化する方法や、市販の塗料またはインキにナノカーボン水系分散液を添加する方法等を実施することで実現できる。また、ナノカーボン物質が分散したプラスチックの作成は、溶融状態でプラスチックに、本発明のナノカーボン水系分散液を混合し、水系溶剤を除去する方法や、微粉末状態のプラスチックに本発明のナノカーボン水系分散液を添加し、水系溶剤を除去またはナノカーボン物質を析出させる方法等を実施することで実現できる。
【実施例】
【0052】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における「部」は質量部を示すものであり、また、「%」は質量基準である。
(製造例1)
(高分子分散剤−1の合成)
攪拌機、還流コンデンサー、温度計、窒素導入管を取り付けた反応装置に、ジメチルジグリコール(以下、DMDGと略す)100部、ベンジルメタクリレート(以下、BzMAと略す)60部、ヨウ素1.5部、ジフェニルメタン(以下、DPMと略す)0.2部、重合開始剤としてV−70(和光純薬工業社製)5.0部を添加した。そして、窒素ガスを導入しながら攪拌し、マントルヒーターにて40℃に昇温した。反応系をそのまま40℃に保ち、7時間重合した。重合の進行は、反応系中の固形物濃度より算出し、重合率は81%であった。また、GPCにより分子量を算出し、数平均分子量(以下、Mnと略す)で3,900、重量平均分子量(以下、Mwと略す)で4,700であった。分子量分布(以下、PDI値と略す)は1.21であった。次に、続けて反応系にメタクリル酸(以下、MAAと略す)15部及びメチルメタクリレート(以下、MMAと略す)25部の混合液を添加し、40℃で4時間重合した。反応系中の固形物濃度より算出した結果、トータルの重合率は93%であった。また、GPCより分子量を算出したところ、Mnで7,300、Mwで10,000であった。PDI値は1.37であった。重合後、ブチルジグリコール(以下、BDGと略す)50部を加えて希釈し、またアンモニア水(アンモニア濃度:6.5%)50部を加えて樹脂中のカルボン酸を中和して、A−Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤−1を得た。
【0053】
(製造例2)
(高分子分散剤−2の合成)
ヨウ素2.0部、DPM0.3部、重合開始剤としてV−70の6.7部を使用したこと以外は製造例1と同様にして重合を実施し、A−Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤−2を得た。BzMAの重合においては、重合率は84%であり、分子量はMnで3,100、Mwで3,700、PDI値は1.19であった。また最終的な重合率は92%であり、分子量はMnで5,900、Mwで8,000、PDI値は1.36であった。
【0054】
(製造例3)
(高分子分散剤−3の合成)
BzMA60部を使用する代わりに、BzMA45部及びシクロヘキシルメタクリレート(以下、CHMAと略す)15部の混合液(芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーが75質量%)を使用したこと以外は製造例1と同様にして重合を実施し、A−Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤−3を得た。BzMA及びCHMAの重合においては、重合率は80%であり、分子量はMnで3,600、Mwで4,400、PDI値は1.22であった。また最終的な重合率は90%であり、分子量はMnで6,900、Mwで9,500、PDI値は1.38であった。
【0055】
(比較製造例1)
(高分子分散剤−4の合成)
BzMA60部を使用する代わりに、BzMA30部及びCHMA30部の混合液を使用し、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーの使用量を50質量%に減じたこと以外は製造例1と同様にして重合を実施し、A−Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤−4を得た。BzMA及びCHMAの重合においては、重合率は80%であり、分子量はMnで3,500、Mwで4,200、PDI値は1.21であった。また最終的な重合率は92%であり、分子量はMnで6,800、Mwで9,500、PDI値は1.40であった。
【0056】
(比較製造例2)
(高分子分散剤−5の合成)
ヨウ素0.75部、DPM0.15部、重合開始剤としてV−70の4.0部を使用したこと以外は製造例1と同様にして重合を実施し、A−Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤−5を得た。BzMAの重合においては、重合率は78%であり、分子量はMnで6,800、Mwで9,000、PDI値は1.32であり、分子量および分子量分布ともに本発明で規定するAブロックの範囲外であった。また最終的な重合率は89%であり、分子量はMnで12,900、Mwで19,700、分子量分布は1.53であった。
【0057】
(比較製造例3)
(高分子分散剤−6の合成)
攪拌機、還流コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた反応装置に、DMDG150部を添加し、攪拌しながらマントルヒーターにて75℃に昇温した。一方、BzMA60部、MMA25部、MAA15部の混合液に、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略す)4.0部を溶解させた後に滴下ロートに仕込み、反応系が75℃に保つように2時間かけて滴下した。その後、反応系を75℃に保ち、5時間重合して、ランダムコポリマーを得た。重合の進行は、反応系中の固形物濃度より算出し、重合率は98%であった。また、GPCにより分子量を算出し、Mnで8,800、Mwで18,600であった。PDI値は2.11であった。重合後、BDG75部を加えて希釈し、またアンモニア水(アンモニア濃度:4.3%)75部を加えて樹脂中のカルボン酸を中和して、高分子分散剤−6を得た。
【0058】
(実施例1)
(カーボンナノチューブ水系分散液−1の作成)
ナノカーボン物質としてカーボンナノチューブ(以下、CNTと略す)(平均径:15nm、平均長:3.0μm、MWNTを使用)、分散媒体として水及びBDGの混合溶液(水:BDG=75%:25%)を用い、分散剤として先に調製した高分子分散剤−1を用い、下記のようにしてCNT水系分散液の作成を行った。まず、200ミリリットルのポリカップに、CNT2.0部、水68.7部、BDG22.9部、CNT重量に対する分散剤の樹脂成分が100%となるように高分子分散剤−1(樹脂固形分:31.5%)6.4部を仕込んだ。この段階では、CNTは混合液に湿潤したが、その形状のまま底に沈んだ状態であり、上部は透明層であった。次に、ポリカップ中に攪拌子を入れて、マグネチックスターラーで攪拌し、出力300Wの超音波分散機で60分間超音波を照射させた。超音波を照射させることで、液は均一に黒くなり、CNTの凝集状態が解れた状態となった。超音波照射処理後、分散液を遠心分離処理することで、十分に分散しきれないCNT固形物を沈降分離させた。そして、その上澄み液を取り出し、CNT水系分散液−1とした。得られた分散液−1の写真の図を図1に示した。
【0059】
(実施例2)
(CNT水系分散液−2の作成)
分散剤として高分子分散剤−2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT水系分散液を作成した。得られた分散液をCNT水系分散液−2とする。
【0060】
(実施例3)
(CNT水系分散液−3の作成)
分散剤として高分子分散剤−3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT水系分散液を作成した。得られた分散液をCNT水系分散液−3とする。
【0061】
(比較例1)
(CNT水系分散液−4の作成)
分散剤として高分子分散剤−4を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT水系分散液を作成した。得られた分散液をCNT水系分散液−4とする。
【0062】
(比較例2)
(CNT水系分散液−5の作成)
分散剤として高分子分散剤−5を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT水系分散液を作成した。得られた分散液をCNT水系分散液−5とする。
【0063】
(比較例3)
(CNT水系分散液−6の作成)
分散剤として高分子分散剤−6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT水系分散液を作成した。得られた分散液をCNT水系分散液−6とする。
【0064】
(実施例4)
(CNT水系分散液−7の作成)
CNT4.0部、水62.5部、BDG20.8部、高分子分散剤−1(樹脂固形分:31.5%)12.7部を用い、超音波照射時間を120分としたこと以外は、実施例1と同様の方法でCNT水系分散液を作成した。得られた分散液を水系分散液−7とする。得られた分散液−7の写真の図を図2に示した。
【0065】
(実施例5)
(ナノグラフェン水系分散液−1の作成)
ナノカーボン物質としてナノグラフェン(平均径:5μm、平均厚:6−8nm)、分散媒体として水及びBDGの混合溶液(水:BDG=75%:25%)を用い、分散剤として高分子分散剤−1を用いたナノグラフェン水系分散液の作成を実施した。まず200ミリリットルのポリカップにナノグラフェン10.0部、水43.7部、BDG14.6部、ナノグラフェン重量に対する分散剤の樹脂成分が100%となるように高分子分散剤−1(樹脂固形分:31.5%)31.7部を仕込んだ。次に、ポリカップ中に攪拌子を入れて、マグネチックスターラーで攪拌し、出力300Wの超音波分散機で60分間超音波を照射させた。超音波照射処理後、得られた分散液は、粘性液体であった。得られた分散液をナノグラフェン水系分散液−1とする。得られた分散液の写真の図を図3の左側に示した。
【0066】
(比較例4)
(ナノグラフェン水系分散液−2の作成)
ナノグラフェン10.0部、水67.5部、BDG22.5部を用い、分散剤を用いないこと以外は実施例5と同様にしてナノグラフェン水系分散液を得た。得られた分散液はペースト状態であった。得られた分散液をナノグラフェン水系分散液−2とする。得られた分散液の写真の図を図3の右側に示した。
【0067】
(CNT水系分散液の評価)
実施例1から3及び比較例1から3で作成したCNT水系分散液の遠心分離後のCNT濃度を算出することで、その分散性の評価を実施した。濃度の算出には分光光度計を用い、濃度既知のサンプルの吸光度を測定して検量線を作成し、測定サンプルを吸光度測定可能な濃度に希釈して吸光度を測定し、検量線から濃度を算出した。また、遠心分離後のCNT水系分散液を1ヶ月静置させて、分散液の状態を確認した。使用した高分子分散剤について表1に示した。また、上記のようにして行った分散性評価結果を表2に示した。表2中の分散安定性*は、遠心分離後のCNT水系分散液のCNT濃度を、設計したCNT濃度で除して得た値を%で表示したものである。100%に近いほど分散性が良好であることを示している。
【0068】

【0069】
表1のモノマー組成における「モノマー−b−モノマー」は、両側でブロック状態にあることを表し、−b−の左側をAブロック、右側をBブロックとする。また、「モノマー/モノマー」は、ランダム状態にあることを表す。酸価の単位は、mgKOH/gとする。
【0070】

【0071】
表2の結果から明らかなように、比較例の分散液に比べて、本発明を特徴づけるA−Bブロックコポリマーを高分子分散剤に用いた実施例の分散液とすることで、いずれの場合も高濃度のCNT水系分散液を得ることができた。また、長期間静置させても凝集物が生成することなく、安定に分散していたことが確認された。一方、本発明のA−Bブロックコポリマーの条件を満たさない高分子分散剤を使用した比較例の場合、凝集物はなかったものの、遠心分離後に得られたCNT水系分散液の濃度は低いものとなっており、分散効果が劣っていることが確認された。
【0072】
(グラフェン水系分散液の評価)
実施例5及び比較例4で作成したグラフェン水系分散液を比較すると、分散剤を用いないナノグラフェン水系分散液−2がペースト状であるのに対し、本発明の高分子分散剤−1を用いたナノグラフェン水系分散液−1は粘性液体であった。また粒度分布を測定し、ナノグラフェン水系分散液−2では粗大粒子がみられ平均粒子径が4.5μmであったのに対し、ナノグラフェン水系分散液−1では粗大粒子が確認されず平均粒子径が3.5μmであり、本発明の高分子分散剤の分散効果が示唆された。
【0073】
(応用例)
(CNT分散インキ塗膜の表面抵抗)
実施例1で作成したCNT水系分散液−1及び水性スチレンアクリル樹脂溶液(樹脂組成:スチレン/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート/メタクリル酸、固形分:40%、Mn:20,000、酸価:105)を混合し、固形分濃度が14%から16%の間になるように水で希釈してCNT分散インキを作成した。厚さ100μmのPETフィルムの表面に、バーコーターを用いて1μmまたは5μmの厚さになるように塗工し、70℃で30分間乾燥させて、導電性の塗膜を形成した。CNT含有量を各々変えた塗膜を作成して表面抵抗値を測定し(三菱化学製ハイレスタ使用)、CNT含有量に対する表面抵抗値の関係について検討した。結果を表3に示した。また、図4は、結果をグラフ化したものである。一方、上記で形成したCNT分散塗膜のCNT分散状態を確認するため、CNT分散塗膜の走査型電子顕微鏡(SEM)観測を実施した。その一例として、CNT含有量が1.0%、膜厚が1μmのCNT分散インキ塗膜のSEM写真(倍率:30,000倍)を図5に示した。
【0074】

【0075】
表3及び図4に示したように、CNT含有量の増加とともにCNT分散インキ塗膜の表面抵抗値が減少しており、一方で膜厚によっても表面抵抗値に違いがみられた。したがって、CNT分散インキ塗膜において、CNT量や膜厚を調整することで、電気伝導度をコントロールすることができることが確認された。また、図5に示したCNT分散塗膜のSEM写真から、CNTが凝集状態でなく、解れて良好な状態に分散した状態にあることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明を特徴づけるA−Bブロックコポリマーを高分子分散剤として用いることで、高濃度で安定にナノカーボン物質が分散したナノカーボン水系分散液を得ることができる。さらに、別途樹脂組成物と混合することで、様々な樹脂媒体にナノカーボン物質が分散したナノカーボン分散樹脂組成物を得ることができる。上記したことから、本発明の活用例としては、本発明のナノカーボン分散組成物は、導電性付与、帯電防止性付与、機械特性付与等のナノカーボン物質の優れた特性を発揮し得る材料として、広範な分野への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともナノカーボン物質、水系溶剤及び高分子分散剤を含有してなるナノカーボン水系分散液において、高分子分散剤の主成分が、下記(1)〜(4)の要件を全て満たすA−Bブロックコポリマーであることを特徴とするナノカーボン水系分散液。
(1)A−Bブロックコポリマーが、90質量%以上がメタクリル系モノマーで構成されている
(2)A−BブロックコポリマーのAブロックは、芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーを少なくとも70質量%以上構成成分とし、且つ酸価が0〜30mgKOH/gであり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜5,000、重量平均分子量/数平均分子量(分子量分布)が1.3以下である
(3)A−BブロックコポリマーのBブロックは、酸性基を有するメタクリル系モノマーを少なくとも構成成分とし、酸価が100〜300mgKOH/gであり、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量からAブロックの数平均分子量を引いた分子量が1,000〜10,000である
(4)A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.6以下である
【請求項2】
前記ナノカーボン物質が、カーボンナノチューブ類、カーボンナノホーン類又はナノグラフェン類のいずれかである請求項1に記載のナノカーボン水系分散液。
【請求項3】
前記ナノカーボン物質と前記高分子分散剤との質量比率が、ナノカーボン物質:高分子分散剤=20〜80:80〜20であり、且つ分散液中のナノカーボン物質の質量が15%以下である請求項1または2に記載のナノカーボン水系分散液。
【請求項4】
前記要件(2)における芳香族骨格を有するメタクリル系モノマーが、ベンジルメタクリレートである請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノカーボン水系分散液。
【請求項5】
前記要件(3)における酸性基を有するメタクリル系モノマーが、メタクリル酸である請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノカーボン水系分散液。
【請求項6】
前記A−Bブロックコポリマーが、有機ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、酸素化合物または炭素化合物のいずれかを触媒とするリビングラジカル重合法である可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)法によって合成されたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノカーボン水系分散液。
【請求項7】
前記リン化合物は、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物またはフォスフィネート系化合物のいずれかであり、前記窒素化合物は、イミド類またはヒダントイン類であり、前記酸素化合物は、フェノール系化合物であり、前記炭素化合物は、ジフェニルメタンまたはシクロアルケン系化合物である請求項6に記載のナノカーボン水系分散液。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のナノカーボン水系分散液に樹脂組成物が添加されてなることを特徴とするナノカーボン分散樹脂組成物。
【請求項9】
ナノカーボン分散樹脂組成物の用途が、ナノカーボン物質を分散した塗料、インキまたはプラスチックのいずれかである請求項8に記載のナノカーボン分散樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75795(P2013−75795A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217230(P2011−217230)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】