説明

ナノカーボン製造装置及びナノカーボン製造方法

【課題】高機能のナノカーボンを低価格の原料から低コストで効率よく量産することができるナノカーボン製造装置及びナノカーボン製造方法を提供する。
【解決手段】エタノール容器3と、エタノールを予熱するエタノール予熱器5と、エタノール容器からエタノール予熱器にエタノールを供給するエタノール供給装置4と、エタノールを鉄または鉄系金属を含む金属触媒に接触させて熱分解する気相成長法によりナノカーボンを生成するナノカーボン生成炉6と、ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガス中の不純物成分を凝縮液化させる手段8,9Aと、前記不純物成分から水分を分離して除去する水分分離除去装置11と、凝縮液化された不純物成分を凝縮液化手段から水分分離除去装置まで送り、かつ水分分離除去装置により水分が分離除去された不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして水分分離除去装置からエタノール容器へ戻すエタノール戻りラインL7とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ナノカーボンを製造するためのナノカーボン製造装置及びナノカーボン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ構造材料は、一般に炭素を含有するガスを選択した触媒金属と500℃から約1200℃程度までの温度で一定時間接触させてナノカーボン(繊維状ナノ炭素)を製造する。ナノカーボンの生成には、アーク放電法、レーザー蒸着法、化学気相成長法(CVD法)などが用いられている。アーク放電法は、正負のグラファイト電極間にアーク放電を起こすことでグラファイトが蒸発し、陰極先端に凝縮したカーボンの堆積物の中にカーボンナノチューブが生成される方法である(例えば、特許文献1)。レーザー蒸着法は、高温に過熱した不活性ガス中に金属触媒を混合したグラファイト試料を入れ、レーザー照射することによりナノカーボンを生成する方法である(例えば、特許文献2)。
【0003】
一般に、アーク放電法やレーザー蒸発法では、結晶性の良いカーボンナノ構造材料を生成することはできるが、生成されるカーボン量が少ないため、大量生産することが難しいと言われている。
【0004】
CVD法には、反応炉の中に配置した基板にナノカーボンを生成させる気相成長基板法(例えば、特許文献3)と、触媒金属と炭素源を一緒に高温の炉に流動させナノカーボンを生成する流動気相法(例えば、特許文献4)との2つの方法が知られている。このうち気相成長基板法は、少量生産を繰り返すバッジ処理であるため大量生産することが難しい。一方、流動気相法は、温度の均一性が低く、結晶性の良いナノカーボンを生成するのが難しいとされている。さらに、流動気相法の発展型として、高温の炉の中に、触媒兼用流動材で流動層を形成し、炭素原料を供給して繊維状のナノカーボンを生成する方法も提案されている。しかし、この発展型の流動気相法は、炉内温度の均一性が低く、結晶性の良いナノカーボンを生成するのが難しいと考えられている。
【0005】
ナノ構造材料、特にナノカーボンは、多くの工業的用途において急速に重要性を増し、用途研究がなされている。例えば、水素の吸蔵や吸着・脱着、リチウムの吸蔵や吸着・脱着、触媒作用、窒素酸化物の吸着吸蔵などがあるが、いまだに工業的な実現が乏しいのが現状である。その理由の一つが、構造的に均一なナノカーボンを低コストで量産できないことがあげられる。
【0006】
このような背景から、ナノカーボンを低コストで効率よく量産し、生産したナノカーボンの特性を生かしたナノテクノロジー製品が低コストで大量に供給できる体制つくりが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−95509号公報
【特許文献2】特開平10−273308号公報
【特許文献3】特開2000−86217号公報
【特許文献4】特開2003−342840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、高機能のナノカーボンを低価格の原料から低コストで効率よく量産することができるナノカーボン製造装置及びナノカーボン製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係るナノカーボン製造装置は、エタノールまたはエタノール含有物を収容するエタノール容器と、エタノールまたはエタノール含有物を所望の温度に予熱するエタノール予熱器と、前記エタノール容器から前記エタノール予熱器にエタノールまたはエタノール含有物を供給するエタノール供給装置と、エタノールを鉄または鉄系金属を含む金属触媒に接触させて熱分解する気相成長法によりナノカーボンを生成するナノカーボン生成炉と、前記ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガス中の不純物成分を凝縮液化させる手段と、前記不純物成分から水分を分離して除去する水分分離除去装置と、前記凝縮液化手段から前記水分分離除去装置を経由して前記エタノール容器まで設けられ、前記凝縮液化手段により凝縮液化された前記不純物成分を前記凝縮液化手段から前記水分分離除去装置まで送り、かつ前記水分分離除去装置により水分が分離除去された前記不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして前記水分分離除去装置から前記エタノール容器へ戻すエタノール戻りラインと、を具備することを特徴とする。
【0010】
本実施形態に係るナノカーボン製造方法は、(a)エタノールまたはエタノール含有物を予熱し、予熱したエタノールまたはエタノール含有物を温度調整されたナノカーボン生成炉に供給し、鉄または鉄系金属の金属触媒下でエタノールまたはエタノール含有物を熱分解反応させてナノカーボンを生成し、(b)ナノカーボン生成反応後に前記ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガスを冷却し、前記炉排出ガス中に含まれる未反応または未分解のエタノール蒸気を凝縮液化させ、(c)前記(b)工程で凝縮液化したエタノールを前記(a)工程に戻し、前記凝縮液化したエタノールを前記エタノールまたはエタノール含有物と混合し、原料として再利用することを特徴とする。
【0011】
以下に本明細書中の用語をそれぞれ定義する。
【0012】
「エタノール含有物」とは、エタノールを含む液体、気体または気液混合体をいう。エタノール含有物は、必ずしも主成分としてエタノールを含まなくともよい。例えばエタノール含有率が50%未満のエタノール水溶液もエタノール含有物に該当しうる。代表的なエタノール含有物としてバイオマスエタノールがあげられる。
【0013】
「共沸」とは、液体の混合物が沸騰する際に液相と気相が同じ組成になる現象をいう。共沸を生じる混合物を「共沸混合物」という。通常の液体混合物は沸騰するに従って組成が変化して沸騰する温度が徐々に上昇していくが、共沸混合物の場合は沸騰しても組成が変わらず沸点も一定のままである。このため、通常の条件では、共沸混合物に含まれる成分を分離することができない。例えば水(大気圧下で沸点100℃)とエタノール(大気圧下で沸点78.3℃)との混合物が沸騰する場合、エタノール濃度が低ければ気相におけるエタノール濃度は液相のそれより高い。しかし、エタノール濃度が96質量%に達すると、共沸混合物となり、気相のエタノール濃度も同じ96質量%となるため、蒸留によって水−エタノール混合物(エタノール水溶液)のエタノール濃度を96質量%以上に濃縮することができない。
【0014】
「共沸蒸留法」とは、共沸混合物に第三成分を添加して蒸留分離する方法をいう。例えば共沸混合物が水−エタノール混合物(エタノール水溶液)である場合に、第三成分としてベンゼンを添加して蒸留することによりほぼ純粋なエタノールを得ることができる。
【0015】
「気相成長法」とは、堆積成分を含む原料ガスを加熱した基板上に供給し、堆積成分を化学的または物理的に基板上に堆積させる方法をいう。堆積成分を化学的に堆積させる方法を化学気相成長法(CVD)といい、また堆積成分を物理的に堆積させる方法を物理気相成長法(PVD)という。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態のナノカーボン製造装置を示す構成ブロック図。
【図2】(a)は炉温度とカーボン生成量との関係を示す特性線図、(b)はエタノール予熱温度とカーボン生成寮との関係を示す特性線図。
【図3】エタノール供給流量とカーボン生成量などとの関係をそれぞれ示す特性線図。
【図4】第2の実施形態のナノカーボン製造装置を示す構成ブロック図。
【図5】図4の装置の要部を拡大して示す内部透視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
(1)本実施形態のナノカーボン製造装置は、エタノールまたはエタノール含有物を収容するエタノール容器3と、エタノールまたはエタノール含有物を所望の温度に予熱するエタノール予熱器5と、前記エタノール容器から前記エタノール予熱器にエタノールまたはエタノール含有物を供給するエタノール供給装置4と、エタノールを鉄または鉄系金属を含む金属触媒に接触させて熱分解する気相成長法によりナノカーボンを生成するナノカーボン生成炉6と、前記ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガス中の不純物成分を凝縮液化させる手段8と、前記不純物成分から水分を分離して除去する水分分離除去装置11と、前記凝縮液化手段から前記水分分離除去装置を経由して前記エタノール容器まで設けられ、前記凝縮液化手段により凝縮液化された前記不純物成分を前記凝縮液化手段から前記水分分離除去装置まで送り、かつ前記水分分離除去装置により水分が分離除去された前記不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして前記水分分離除去装置から前記エタノール容器へ戻すエタノール戻りラインL7と、を有するものである。
【0019】
本実施形態のナノカーボン製造装置では、エタノール予熱器を150℃〜800℃の温度範囲に調整することが好ましく、250℃〜500℃の温度範囲に調整することがより好ましく、350℃近傍の温度域(350℃±10℃)に調整することが最も好ましい。また、ナノカーボン生成炉の内部温度を600℃〜800℃の温度範囲に調整することが好ましく、600℃〜700℃の温度範囲に調整することがより好ましく、650℃近傍の温度域(650℃±10℃)に調整することが最も好ましい。このように温度調整されたエタノール予熱器から予熱したエタノールを温度調整されたナノカーボン生成炉内に導入することにより、最大量のナノカーボンを製造することが可能になるが、そのような理想的なプロセス条件下であっても炉から出てくる炉排出ガス中には無視できない量の未反応エタノール蒸気(未分解エタノール蒸気)が含まれている。
【0020】
そこで本実施形態の装置においては、水分分離除去装置を有するエタノール戻りラインを凝縮液化手段からエタノール容器までの間に設け、このエタノール戻りラインを介して凝縮液化手段から水分分離除去装置へ凝縮液化された不純物成分を送り、水分分離除去装置により不純物成分から水分を分離して除去し、水分が分離除去された不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして水分分離除去装置からエタノール容器に戻すようにしている。これによりナノカーボン生成反応後の炉排出ガス(余剰ガス)から未反応(未分解)のエタノールを効率よく回収し、回収したエタノールをナノカーボン生成炉の原料として再利用することができる。
【0021】
(2)上記(1)の装置において、凝縮液化手段として、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を間接冷却し、凝縮させる余剰エタノール凝縮装置を用いることができる(図1)。
【0022】
本実施形態の余剰エタノール凝縮装置は、内部に冷却水などの冷媒が流れる複数の冷媒管を有する間接冷却方式の冷却器であり、炉排出ガスが導入されると、導入ガスが冷媒管により冷やされ、冷媒管の外周壁において炉排出ガス中の不純物成分(水分、エタノール、アセトアルデヒドなど)が凝縮して液化する。凝縮液化された不純物成分は、冷媒管から流下して装置本体の底部に溜まる。排出弁を開け、エタノール戻りラインを介して凝縮液化した不純物成分を余剰エタノール凝縮装置から水分分離除去装置へ送り、水分分離除去装置により不純物成分から水分を分離して除去し、水分が分離除去された不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして水分分離除去装置からエタノール容器に戻される。このようにして炉排出ガスから未反応(未分解)のエタノールを回収し、回収したエタノールをナノカーボン生成炉の原料として再利用することができる。
【0023】
本実施形態では、炉排出ガスを間接冷却するため、外部から他の成分が混入することなく不純物成分をほぼ純粋な形で凝縮・液化させて回収することができる。
【0024】
(3)上記(1)の装置において、凝縮液化手段として、前記炉排出ガスをシール液中に通過させ、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を直接冷却し、凝縮させる液封装置を用いることができる(図4)。
【0025】
本実施形態の液封装置は、内部にシール液が収容され、炉排出ガスがシール液中に吹き込まれ、液封装置から排出される排ガス中にできるだけ不純物成分が随伴されないようにするものである。シール液は、吹き込まれる炉排出ガスを直接冷却し、炉排出ガス中の不純物成分を凝縮・液化させる冷却能を有している。このようなシール液として、純エタノール液、エタノール水溶液、水などを用いることができる。
【0026】
本実施形態では、炉排出ガスを直接冷却するため、高い回収効率で不純物成分を回収することができる。
【0027】
(4)上記(1)の装置において、凝縮液化手段によりエタノール蒸気を凝縮させるときに他の不純物成分が同時に凝縮される場合において、不純物分離除去装置として共沸蒸留法を利用する蒸留装置を用いてエタノールと他の不純物成分とを分離することができる(図4)。
【0028】
本実施形態では、エタノールばかりでなく他の不純物成分も同時に凝縮される場合に、不純物分離除去装置として共沸蒸留法を利用する蒸留装置によりエタノールと他の不純物成分とを有効に分離することができる。
【0029】
共沸混合物は沸騰しても組成が変わらず沸点も一定のままである。このため、通常の条件では、共沸混合物に含まれる成分を分離することができない。例えば水(大気圧下で沸点100℃)とエタノール(大気圧下で沸点78.3℃)との混合物が沸騰する場合、エタノール濃度が低ければ気相におけるエタノール濃度は液相のそれより高い。しかし、エタノール濃度が96質量%に達すると、共沸混合物となり、気相のエタノール濃度も同じ96質量%となるため、蒸留によって水−エタノール混合物(エタノール水溶液)のエタノール濃度を96質量%以上に濃縮することができない。
【0030】
そこで、本実施形態では、共沸混合物である水−エタノール混合物(エタノール水溶液)に第三成分としてベンゼンを添加し、ベンゼンの共存下で水−エタノール混合物を蒸留することによりほぼ純粋なエタノールを得ることができる。
【0031】
(5)上記(1)の装置において、不純物分離除去装置は、他の不純物成分として水分をエタノールから分離除去することが好ましい。
【0032】
本実施形態の不純物分離除去装置は、凝縮液化した混合物から他の不純物成分として水分を分離除去し、エタノールを回収するものである。なお、水以外の他の不純物成分としてアセトアルデヒドがある。
【0033】
(6)本実施形態のナノカーボン製造方法は、(a)エタノールまたはエタノール含有物を予熱し、予熱したエタノールまたはエタノール含有物を温度調整されたナノカーボン生成炉に供給し、鉄または鉄系金属の金属触媒下でエタノールまたはエタノール含有物を熱分解反応させてナノカーボンを生成し、(b)ナノカーボン生成反応後に前記ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガスを冷却し、前記炉排出ガス中に含まれる未反応または未分解のエタノール蒸気を凝縮液化させ、(c)前記(b)工程で凝縮液化したエタノールを前記(a)工程に戻し、前記凝縮液化したエタノールを前記エタノールまたはエタノール含有物と混合し、原料として再利用することを特徴とする。
【0034】
本実施形態の製造方法では、エタノールまたはエタノール含有物を150℃〜800℃の温度範囲に予熱し、好ましくは250℃〜500℃の温度範囲に予熱し、最も好ましくは350℃近傍の温度域(350℃±10℃)に予熱する。また、ナノカーボン生成炉の内部温度を600℃〜800℃の温度範囲に調整し、好ましくは600℃〜700℃の温度範囲に調整し、最も好ましくは650℃近傍の温度域(650℃±10℃)に調整する。このように予熱したエタノールを温度調整されたナノカーボン生成炉内に導入することにより、最大量のナノカーボンを製造することが可能になるが、そのような理想的な製造条件下であっても炉から出てくる炉排出ガス中には無視できない量の未反応エタノール蒸気が含まれている。
【0035】
そこで本実施形態の方法においては、水分分離除去装置へ凝縮液化された不純物成分を送り、水分分離除去装置により不純物成分から水分を分離して除去し、水分が分離除去された不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして水分分離除去装置から原料エタノール容器まで戻すようにしている。これによりナノカーボン生成反応後の炉排出ガス(余剰ガス)から未反応(未分解)のエタノールを効率よく回収し、回収したエタノールをナノカーボン生成炉の原料として再利用することができる。
【0036】
(7)上記(6)の方法において、前記(b)工程において、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を間接的に冷却して凝縮液化させることができる。
【0037】
本実施形態では、炉排出ガスを間接冷却するため、外部から他の成分が混入することなく不純物成分をほぼ純粋な形で凝縮・液化させて回収することができる。
【0038】
(8)上記(6)の方法において、前記(b)工程において、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を直接的に冷却して凝縮液化させることができる。
【0039】
本実施形態では、炉排出ガスを直接冷却するため、高い回収効率で不純物成分を回収することができる。
【0040】
(9)上記(6)の方法において、前記(b)工程において、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を凝縮させるときに他の不純物成分が同時に凝縮される場合において、共沸蒸留法を利用する蒸留装置を用いてエタノールと他の不純物成分とを分離することができる。
【0041】
本実施形態では、エタノールばかりでなく他の不純物成分も同時に凝縮される場合に、不純物分離除去装置として共沸蒸留法を利用する蒸留装置によりエタノールと他の不純物成分とを有効に分離することができる。例えばエタノール水溶液に第三成分としてベンゼンを添加すると、ベンゼンの共存下で共沸混合物であるエタノール水溶液を蒸留することによりほぼ純粋なエタノールを得ることができる。
【0042】
(10)上記(6)の方法において、前記(b)工程において、前記他の不純物成分として水分をエタノールから分離除去することができる。
【0043】
本実施形態では、凝縮液化した混合物から他の不純物成分として水分を分離除去し、エタノールを回収するものである。なお、水以外の他の不純物成分としてアセトアルデヒドがある。共沸混合物からアセトアルデヒドを分離するために、上述(9)のように第三成分を添加する共沸蒸留法を利用することも可能である。
【0044】
以下、添付の図面を参照して本発明の種々の好ましい実施の形態を説明する。なお、本実施の形態は下記に述べることのみに限定されない。
【0045】
(第1の実施形態)
図1に示すように、第1の実施形態のナノカーボン製造装置1は、エタノール容器3、エタノール供給装置4、エタノール予熱器5、ナノカーボン生成炉6、ナノカーボン回収容器7、余剰エタノール凝縮装置8、液封容器9、および水分分離除去装置11を有するエタノール戻りラインL7を備えている。
【0046】
エタノール容器3は、例えばバイオマス処理プラントなどのエタノール源2から原料となるバイオマスエタノールを受け入れて一時的に貯蔵しておく貯蔵タンク設備である。本実施形態では、エタノール源2とエタノール容器3との間の原料ラインL1にエタノール戻りラインL7が接続されており、炉排出ガスから回収した余剰エタノールが原料ラインL1を流れる原料エタノールに合流し、回収した余剰エタノールがナノカーボン生成炉6で再利用されるようになっている。
【0047】
エタノール供給装置4は、吸込み口がエタノール容器3側のラインL2に接続され、吐出口がエタノール予熱器5側のラインL3に接続されたポンプを内蔵している。このポンプ駆動によりナノカーボン原料となるエタノールがエタノール容器3からエタノール予熱器5に連続または間欠に供給されるようになっている。
【0048】
エタノール予熱器5は、入口がエタノール供給装置4側のラインL3に接続され、出口がナノカーボン生成炉6側のラインL4に接続されている。エタノール予熱器5は、熱交換チューブ等を備えた間接加熱方式の予熱器であり、エタノールを150℃〜800℃の温度範囲に予熱しうる性能を有している。
【0049】
ナノカーボン生成炉6は、入口がエタノール予熱器5側のラインL4に接続され、出口が余剰エタノール凝縮装置8側のラインL5に接続されている。ナノカーボン生成炉6は、内部を還元雰囲気に保持しうるとともに、外気と遮断可能な反応容器と、この反応容器内に金属触媒と、金属触媒を加熱する加熱手段と、触媒に生成したナノカーボンを掻き取る部品とを備えている。加熱手段はナノカーボン生成炉6の内部温度を600℃〜800℃の温度範囲に昇温する性能を備えている。また、カーボン生成炉6の内部には金属触媒が挿入されている。金属触媒として、エタノールと最も相性の良い鉄系材料、例えば純鉄やステンレス鋼(SUS304)が用いられる。
【0050】
ナノカーボン回収容器7は、ナノカーボン生成炉6の直下に設けられ、ナノカーボン生成炉6の下部から落下してくる生成ナノカーボンを受けて回収するものである。ナノカーボン回収容器7の近傍には図示しない貯蔵設備や出荷設備がそれぞれ配置されている。
【0051】
余剰エタノール凝縮装置8は、エタノールの液化温度以下に余剰ガスを冷却するための冷却水などの冷媒が流れる複数の冷媒管を有する間接冷却方式の凝縮器であり、ナノカーボン生成炉6から出てくる炉排出ガスが導入されると、導入ガスが冷媒管により冷やされ、冷媒管の外周壁において炉排出ガス中の不純物成分(水分、エタノール、アセトアルデヒドなど)が凝縮して液化するようになっている。
【0052】
余剰エタノール凝縮装置8の上部は、ガス排出ラインL6を介して液封装置9に接続されている。このガス排出ラインL6を通って、不純物成分を分離した後の炉排出ガスが液封装置9内のシール液10中に吹き込まれるようになっている。
【0053】
液封容器9は、上部出口がガス排出ラインL8により排ガス処理装置12に接続されている。液封容器9内は密閉容器で、シール液10が溜められ、シール液面より没するように余剰ガスラインL6の配管が設置されている。この液シールにより外部の気体がナノカーボン生成炉6に侵入しないようになっている。シール液10中に吹き込まれた炉排出ガスは、ガス排出ラインL8を通って排ガス処理装置12に送られ、排ガス処理装置12により無害化処理された後に大気中に放出されるようになっている。
【0054】
エタノール戻りラインL7が余剰エタノール凝縮装置8の下部からエタノール容器3上流側の原料ラインL1までの間に設けられている。このエタノール戻りラインL7を通って余剰エタノール凝縮装置8から回収した余剰エタノールが原料ラインL1に戻され、原料ラインL1において余剰エタノール(回収エタノール)が原料エタノールと合流してエタノール容器3に送られ、ナノカーボン生成炉6において再利用されるようになっている。余剰エタノールに水分が多く含まれる場合には、エタノール戻りラインL7に水分除去装置11をさらに取り付け、余剰エタノールから水分を分離・除去することが望ましい。
【0055】
水分除去装置11は、共沸蒸留法を用いて水分とエタノールを分離し、余剰エタノールから水分を除去するものである。ここで、共沸蒸留法とは、沸騰する液相と気相が同じ組成になる共沸を生じるため、分離できないか又は分離しにくい成分を含む混合物に第三成分を加えて蒸留し、第一成分と第二成分とを分離する方法をいう。本実施形態においては、水−エタノール混合物である余剰エタノールにベンゼンを添加して蒸留することにより、共沸混合物から水分が分離されるようになっている。
【0056】
本実施形態の作用を説明する。
【0057】
本実施形態のカーボン生成炉6では、エタノールが熱分解して、炭素を含むガス(CH4,CO)と触媒金属が接触し反応を生じてナノカーボンが生成される。より詳しくは、金属触媒は溶融状態となり金属触媒粒子に炭素原子が取り込まれ、次に、金属中の炭素が飽和状態になるとカーボンが触媒粒子から析出し結晶状にナノカーボンが成長するものと想定される。いわゆる気相成長法によるカーボン生成手法である。
【0058】
図2の(a)は、横軸にカーボン生成炉の温度(℃)をとり、縦軸にカーボン生成量をとって両者の相関を示す特性線図であり、図2の(b)は、横軸にエタノール予熱温度(℃)をとり、縦軸にカーボン生成量をとって両者の関係を示す特性線図である。
【0059】
図2(a)の特性線Aから明らかなように、ナノカーボン生成炉6の内部温度を600℃〜800℃、好ましくは600℃〜700℃、最も好ましくは650℃近傍(650±10℃)に調整することにより、最大量のナノカーボンを製造することが可能になる。
【0060】
また、図2(b)の特性線Bから明らかなように、エタノール予熱器5を150℃〜800℃、好ましくは250℃〜500℃、最も好ましくは350℃近傍(350±10℃)に調整してエタノールをナノカーボン生成炉6に入れることにより、最大量のナノカーボンを製造することが可能になる。
【0061】
図3は、横軸にエタノール供給量をとり、縦軸にカーボン生成量(kg/h)または生成カーボン収率(%)または余剰エタノール流量(kg/h)をそれぞれとって、実機を用いて実験的に得た特性をそれぞれ示す特性線図である。これらの特性を得るための実験条件として、ナノカーボン生成炉6の内部温度を650±10℃の範囲内に調整し、かつエタノール予熱器5を350±10℃の範囲内に調整した。
【0062】
図中の特性線C1に示すように、カーボン生成量(kg/h)は、エタノール流量が増加するに伴って増加し、エタノール供給流量P1のところで最大となり、その後は減少した。
【0063】
また、特性線C2に示すように、生成カーボン収率(%)は、初期においてカーボン原料ガスの濃度増加に従って急激に増加し、エタノール供給流量P2のところで最大となり、その後は減少した。つまり、エタノール供給流量を増加させると、カーボン生成炉内で未熱分解および未反応となり、ナノカーボン生成炉からは未反応ガスとしての余剰エタノールを含んで排気されることになる。特性線C3に示すように、エタノール供給量が増加するに従って余剰エタノール流量が急激に増加する。
【0064】
カーボン生成炉6の内部ガスの組成を分析した結果、水素(H2)が65%、メタン(CH4)が9%、一酸化炭素(CO)が18%、二酸化炭素(CO2)が4%、その他の成分として窒素(N2)および酸素(O2)などであった。しかし、これはエタノールが熱分解したガスで、未分解の化合物として、エタノール(C2H6O)、アセドアルデヒド(C2H4O)、水分(H2O)が検出され、エタノール流量が多い領域では、エタノールが主成分であった。
【0065】
この余剰エタノールとアセドアルデヒドを余剰ガス凝縮装置8で凝縮させて回収し、エタノールに水分が多く含まれる場合には水分分離除去装置11で水分を沸点分離等を用いて分離し、エタノール容器3に戻すことによってエタノールを再利用することにより、原料削減に繋がり強いてはエタノール原料費用を大幅に低減することが可能になる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に図4と図5を参照して第2の実施の形態について説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0067】
図4に示すように、第2の実施形態のナノカーボン製造装置1Aは、凝縮器を経由することなく、ナノカーボン生成炉6からの炉排出ガスを液封装置9Aのシール液10A中に直接吹き込むようにしている。また、生成炉出口に接続されるガス排出ラインL5に配管用冷却器25を取り付け、ナノカーボン生成炉6から出てくる炉排出ガスを冷却するようにしている。
【0068】
図5に示すように、液封装置9Aの液封容器91,92は外気から遮断されて内部が気密な密閉容器である。この密封容器は、本体部分の容器91に上蓋92が被せられたものであり、本体部分の容器91の外周面と外底面は冷却ジャケット21で覆われている。冷却ジャケット21には図示しない冷媒流路が形成されている。また、本体容器91の上部にはオーバーフロー管26が設けられ、内部のシール液10Aの液位が所定の上限レベル以上に上昇しないようになっている。本実施形態ではシール液10Aとして純エタノール液を使用している。
【0069】
ガス排出ラインL5が上蓋92を貫通して内部のガス吹込管13に連通している。ガス吹込管13の下部はシール液10A中に浸漬され、シール液10A中に炉排出ガスが吹き込まれるようになっている。このガス吹込管13の最下端部には気泡分散機構としてのギザギザ形状の切れ込み13aが形成され、吹込みガスが細かな気泡10bに分散されるようになっている。
【0070】
複数の邪魔板24a,24bが吹込管13の浸漬部分および本体容器91の内壁にそれぞれ取り付けられ、吹込みガスの気泡10bが液面に直ぐに浮上するのを妨害して、気泡10bとシール液10Aとの接触時間が長くなるようにしている。これによりシール液10Aに気泡10bが直接冷却され、それに含まれる不純物成分(水分やエタノールなど)が凝縮・液化され、シール液10A中に取り込まれるようになっている。
【0071】
液封装置9Aにはレベルセンサ22,23が取り付けられ、シール液10Aの液位を検出して制御器30へ液位信号S1,S2を送るようにしている。炉排出ガスの吹き込みによる不純物成分の取り込みにより、シール液10Aの液位が上昇して上限値を超えると、制御器30から警報装置31に制御信号が送られ、警報装置31から警報音が発するようになっている。
【0072】
本実施形態によれば、余剰エタノールを凝縮させ、その回収エタノールを原料として再利用することにより、原料削減に繋がり強いてはエタノール原料費用を大幅に低減可能になる。その結果、エタノール原料を再利用することにより高機能のナノカーボンを低コストで効率よく量産することができる。
【符号の説明】
【0073】
1,1A…ナノカーボン製造装置、2…エタノール源、3…エタノール容器、
4…エタノール供給装置、5…エタノール予熱器、
6…ナノカーボン生成炉、7…ナノカーボン回収容器、
8…余剰エタノール凝縮装置(凝縮液化手段、間接冷却器)、
9…液封装置、9A…液封装置(凝縮液化手段)、91…容器、92…蓋、
10,10A…シール液、
11…水分分離除去装置、12…排ガス処理装置、
13…ガス吹込管、13a…気泡分散機構(吹込管先端部分の切れ込み)、
21…冷却ジャケット、22,23…レベルセンサ、
24a,24b…邪魔板、25…配管用冷却器、
30…制御器、31…警報装置、
L1〜L6…供給ライン、L7…エタノール戻りライン、L8…排出ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールまたはエタノール含有物を収容するエタノール容器と、
エタノールまたはエタノール含有物を所望の温度に予熱するエタノール予熱器と、
前記エタノール容器から前記エタノール予熱器にエタノールまたはエタノール含有物を供給するエタノール供給装置と、
エタノールを鉄または鉄系金属を含む金属触媒に接触させて熱分解する気相成長法によりナノカーボンを生成するナノカーボン生成炉と、
前記ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガス中の不純物成分を凝縮液化させる手段と、
前記不純物成分から水分を分離して除去する水分分離除去装置と、
前記凝縮液化手段から前記水分分離除去装置を経由して前記エタノール容器まで設けられ、前記凝縮液化手段により凝縮液化された前記不純物成分を前記凝縮液化手段から前記水分分離除去装置まで送り、かつ前記水分分離除去装置により水分が分離除去された前記不純物成分中に含まれる未反応のエタノールを余剰エタノールとして前記水分分離除去装置から前記エタノール容器へ戻すエタノール戻りラインと、
を具備することを特徴とするナノカーボン製造装置。
【請求項2】
前記凝縮液化手段は、前記炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を間接冷却して凝縮させる余剰エタノール凝縮装置であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記凝縮液化手段は、前記炉排出ガスをシール液中に通過させ、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を直接冷却して凝縮させる液封装置であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記凝縮液化手段によりエタノール蒸気を凝縮させるときに他の不純物成分が同時に凝縮される場合において、前記不純物分離除去装置として共沸蒸留法を利用する蒸留装置を用いてエタノールと他の不純物成分とを分離することを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記不純物分離除去装置は、前記他の不純物成分として水分をエタノールから分離除去することを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
(a)エタノールまたはエタノール含有物を予熱し、予熱したエタノールまたはエタノール含有物を温度調整されたナノカーボン生成炉に供給し、鉄または鉄系金属の金属触媒下でエタノールまたはエタノール含有物を熱分解反応させてナノカーボンを生成し、
(b)ナノカーボン生成反応後に前記ナノカーボン生成炉から出てくる炉排出ガスを冷却し、前記炉排出ガス中に含まれる未反応または未分解のエタノール蒸気を凝縮液化させ、
(c)前記(b)工程で凝縮液化したエタノールを前記(a)工程に戻し、前記凝縮液化したエタノールを前記エタノールまたはエタノール含有物と混合し、原料として再利用する、
ことを特徴とするナノカーボン製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程において、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を間接的に冷却して凝縮液化させることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記(b)工程において、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を直接的に冷却して凝縮液化させることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記(b)工程において、炉排出ガス中に含まれるエタノール蒸気を凝縮させるときに他の不純物成分が同時に凝縮される場合において、共沸蒸留法を利用する蒸留装置を用いてエタノールと他の不純物成分とを分離することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記(b)工程において、前記他の不純物成分として水分をエタノールから分離除去することを特徴とする請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60337(P2013−60337A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200667(P2011−200667)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】