説明

ナノガラス粉末、特に平均の粒子径が1μm以下の多成分ガラス粉末、並びにその使用

【課題】本発明の課題は、多成分ガラス粉末、特に従来のガラス粉末と比較して改善された活性を示す多成分ガラスを提供すること。更にはその製造方法並びにその使用を提供する。
【解決手段】本発明はガラス粉末、特に少なくとも三つの元素を有する多成分ガラスからなるガラスセラミック粉末。より詳細には、1μm以下、好ましくは0.1μm以下の平均粒子径を有するガラス粉末またはガラスセラミック粉末である。特に10nm以下の平均粒子径が好ましい。そのような構成により、多様な分野への適用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも三つの元素からなり、その平均粒子径が1μm以下、望ましくは0.1μm以下、特に望ましくは10nm以下である多成分ガラスに関する。また、このような平均の粒子径を有するガラスをナノ粉末と称する。更に添加剤を有する多成分ガラス、更にはそのようなガラスの製造のための処理、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
無機のナノ粉末として、例えばSiOの非結晶質組成物、及びTiO若しくはZnOの結晶質組成物が公知である。また、SiO−ナノ粉末関連製品として、エアロジル(登録商標)がDegussa社から提供されている。
【0003】
更に、CeO−ナノ粒子を配合した研磨剤の懸濁液(例えばNanophase社(USA))、及びZrOナノ粒子又はAlナノ粒子(Nanogate社(ドイツ))が公知である。
【0004】
金属のナノ粒子としては、例えば銀及び銀合金のものが公知である。そのようなナノ粒子は、例えばポリマーに配合する抗菌活性成分として添加される。
【0005】
金属のナノ粒子から調製される粉末はまた、エレクトロニクス分野における溶接技術にも適用することができる。それに関し、非特許文献1において、例えば集積回路上の回路素子の溶接による接触技術が開示されている。すなわち金属ナノ粉末の使用により、溶接の際の温度を顕著に減少させることが可能となる。
【0006】
更に上記のナノ粒子として、例えばBASF社(ドイツ)のハイドロキシアパタイト−ナノ粒子が公知であり、口腔処置や歯科衛生等、すなわちオーラルケアの分野において配合剤として用いられる。
【0007】
上記でした開示背景技術により、とりわけ二種類の元素、主に金属元素及び酸素から構成されているセラミックナノ粒子が公知となっている。
【0008】
ガラス状のナノ粒子としては、二元素−システムとして存在する単一の成分、すなわち純粋なSiO−粒子のみが公知である。しかしながら、そのような純粋なSiO−システムでは、それらの化学的な可変性が低いものとなり、特に幅広い材料特性に欠けるものとなってしまう。なお、そのような特性としては、特に光学的、化学的、物理的及び機械的特性が挙げられる。
【0009】
バイオアクティブな、及び部分的に抗菌性効果を有するガラス、すなわちバイオガラスに関して、非特許文献2において開示されている。そこでは、前記バイオガラスは水性溶媒にてハイドロキシアパタイト層が形成される。また、重金属の外部層を有し、抗菌性を有するアルカリ−アルカリ土類金属−ケイ酸塩ガラスが、特許文献1及び2にて開示されている。
【0010】
抗菌活性を有するガラスは、特許文献3から8においても公知である。これらの特許文献において開示されているガラス粉末は、水性溶媒などに懸濁した状態の粉末である。また、前記の特許文献に記載のガラス粉末は、ナノ粒子に匹敵する平均粒子径を有することができる。
【0011】
歯科用ガラスの分野での用途に関しては、特許文献9から12において公知である。
【0012】
また、膨張率の低い若しくはほとんどゼロに近い、又はゼロ膨張のガラス、特にガラスセラミックに関しては、特許文献13及び14にて開示されている。
【0013】
前記背景技術により公知のナノ粒子は、その他多様な分野に適用される。例えば、ナノ粒子を化粧料としての日焼け防止組成物に配合する技術に関し、特許文献15にて開示されている。
【0014】
ナノ粒子による表面処理及び印刷技術に関し、特許文献16にて開示されている。
【0015】
ナノ粒子の製造方法及びナノ粒子による掻き傷コーティングに関し、特許文献17にて開示されている。
【0016】
日焼け防止剤へのTiO−ナノ粒子の使用に関し、特許文献18にて開示されている。
【0017】
平均粒子径が10〜20nmであるナノ粒子のWC−粉末への使用に関し、特許文献19に開示されている。なお、そこでは、ガス状態にてこれらのナノ粒子が生じることに関する記載が存在する。
【0018】
ナノ粒子を核酸の検出に使用する技術に関し、特許文献20にて開示されている。
【0019】
半導体−ナノ粒子の化学発光及び光学的記録の分野への使用に関し、特許文献21にて開示されている。
【0020】
例えば銀−又は銀合金ナノ粉末の製造は、PVD−処理にて行われる。
【0021】
ナノ粒子の製造において、蒸発及び凝集に基づくPVDプラズマ−処理を行う技術に関し、例えば特許文献22にて開示されている。
【0022】
また、特許文献23において、ナノ結晶質原料の製造に関し、開示されている。そこでは、二価の酸化物が原料として用いられ、異なる反応条件を用いることにより異なる材料を製造する技術が開示されている。
【特許文献1】国際公開WO01/04252号公報
【特許文献2】国際公開WO01/03650号公報
【特許文献3】国際公開WO03/018495号公報
【特許文献4】国際公開WO03/18498号公報
【特許文献5】国際公開WO03/18499号公報
【特許文献6】国際公開WO03/050052号公報
【特許文献7】国際公開WO03/062163号公報
【特許文献8】国際公開WO03/018496号公報
【特許文献9】ドイツ連邦共和国特許DE4323143号公報
【特許文献10】アメリカ合衆国特許US5,641,347号公報
【特許文献11】ドイツ連邦共和国特許DE4443173号公報
【特許文献12】欧州特許出願公開EP0997132号公報
【特許文献13】ドイツ連邦共和国特許出願公開DE19907038号公報
【特許文献14】アメリカ合衆国特許US5070045号公報
【特許文献15】アメリカ合衆国特許出願公開US20040067208号公報
【特許文献16】アメリカ合衆国特許出願公開US20040052957号公報
【特許文献17】ドイツ連邦共和国特許出願公開DE0001022009A1号公報
【特許文献18】ドイツ連邦共和国特許出願公開DE000069600059号公報
【特許文献19】アメリカ合衆国特許出願公開US20040042953号公報
【特許文献20】アメリカ合衆国特許出願公開US20030148282号公報
【特許文献21】アメリカ合衆国特許出願公開US20030064532号公報
【特許文献22】アメリカ合衆国特許US4642207号公報
【特許文献23】アメリカ合衆国特許US5874684号公報
【非特許文献1】「エレクトロニクス」(H.D.Junge,A.Moschwitz,VCH−Verlag,1993,S.89)
【非特許文献2】LL.Hensch,J.Wilson,An Introduction to Bioceramics,World Scientific Publ.,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、多成分ガラス粉末の処置方法を確立することであり、それにより、多様な分野に適用可能となる。更には、従来のガラス粉末と比較して改善された活性を示す多成分ガラスの提供が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記課題は、ガラス粉末、特に少なくとも三つの元素から構成される多成分ガラスの粉末であり、そのガラス粉末の平均粒子径が1μm以下、望ましくは0.1μm以下、更に望ましくは50nm以下、特に望ましくは10nm以下である多成分ガラスにより解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
望ましい実施態様として、前記ガラスは四元素以上、更に望ましくは五元素以上、特に望ましくは六元素以上から構成される。
【0026】
酸化物ガラスの成分として用いられる酸化物成分は、例えばSiO又はBが挙げられる。前記の場合、ガラス組成物の構成元素はSi、B又はOとなる。多成分ガラスとは、例えば成分としてSiO及びBにより構成されるガラスを指す。SiO及びBを成分として構成されるガラスは、合計三元素を含む。すなわち、この場合には、三元素により構成される二成分がその調製にて必要となる。
【0027】
本発明は、粒子径が1μm以下のガラス粉末であり、ナノガラスと称され、SiO及び/又はB及び/又はPの基本骨格を有するガラス粉末を含む。前記基本骨格の割合又はその基本骨格の合計は、前記多成分ガラスが一つ以上の基本骨格を有する場合は、望ましくは30〜95重量%、より望ましくは30〜80重量%、更に望ましくは40〜75重量%、特に望ましくは50〜70重量%である。前記ガラスの主要な基本骨格は、ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス又はリン酸ガラスからなる群から選択することができる。
【0028】
Na、K、Li、Csなどのアルカリイオンは、ガラス組成物のネットワーク中を遊離する物質として使用することができる。前記アルカリイオンの濃度の合計は、0〜50重量%、望ましくは0〜30重量%である。前記アルカリイオンはまた、前記ガラスに反応性を与え、前記ガラス中のアルカリイオンによりネットワークが中断される。例えば、ガラスのマトリックス中に存在する、例えばZn又はAgのような抗菌性イオンの遊離を促進することができる。
【0029】
又は、前記アルカリイオンの代わりに、例えばMg、Ca、Sr、Baのようなアルカリ土類金属イオンを、合計0〜50重量%含ませることができる。前記アルカリ土類金属イオンは同様にネットワーク中を遊離する物質として機能し、ガラスに反応性を与える。そのような役割には、特にCaが望ましい。特定のバイオアクティブガラスを用いた場合、Caイオンの存在により、水性溶媒において粒子表面にミネラル層、いわゆるハイドロキシアパタイト層が形成される。前記多成分ガラスは、更に酸化アルミニウムを含ませることができる。酸化アルミニウムは、ガラスの化学的安定性及び結晶構造安定性に顕著に影響を与える。Al濃度は、望ましくは0〜25重量%である。
【0030】
更に前記ガラスの基本骨格の成分中に、酸化亜鉛を主要なガラス成分として含めることができる。前記ガラス中の前記Znイオンの存在により、前記アルカリ金属−又はアルカリ土類金属イオンを安定に支持しつつ遊離させることが可能となり、それによる抗菌性効果を与える。前記ZnO濃度は、通常原材料の当初の組成中0〜25重量%である。更に、亜鉛の添加によりガラスの化学的安定性を向上させることができる。
【0031】
また、前記多成分ガラスに酸化チタン及び/又は酸化ジルコニウムを添加することができる。これらの補助添加物により、ガラスの屈折率を正確に設定することが可能となる。特にTiOの添加により、UV保護効果を得ることもできる。
【0032】
前記ナノ粉末がガラスセラミックナノ粉末である場合、TiO又はZrOの添加により、細胞培養の用途に使用することが可能となる。
【0033】
更に、TiO又はZrOの添加により、ナノ粉末の化学的安定性が望ましいものとなる。
【0034】
ZrOの添加により、特に加水分解安定性が改善され、それは特に吸水性のナノ粉末においては重要である。更にTiO及びZrOの添加により、屈折率の調整の他に弾性的性質(E−Moduls:ヤング率)も最適な形に調整することが可能となる。
【0035】
望ましくはTiO濃度は0〜25重量%であり、ZrOの濃度は0〜30重量%である。
【0036】
前記ナノガラス粉末の屈折率の改善は、タンタル−及び/又はタングステン酸化物によっても可能である。
【0037】
更に、Znの代わりに、Ag、Cu又はIをガラスに添加することにより、抗菌性効果を得ることができる。AgO、CuO、ZnO、Iの合計濃度は、15重量%以下、望ましくは10重量%以下、より望ましくは5重量%以下である。
【0038】
Au、Ptのような貴金属も、金属の又は金属酸化物の形態において、10重量%以下、望ましくは5重量%以下、特に望ましくは2重量%以下含有させることができる。
【0039】
例えばCr、Mn、Ni、V、Ce、Fe、V又はCoのような着色イオンを、合計10重量%(酸化物ベース)まで含ませることができる。
【0040】
例えばEu、Ce、Sm、Nd、Er、Sm、Ybのような希土類イオンを、適当な濃度で更に添加することもできる。
【0041】
フッ化物を前記ガラスに添加し、溶解促進剤とすることもできる。
【0042】
Nb、La、Pb及びBiの酸化物は、主に光の屈折及び拡散の性質に影響を与える。
【0043】
例えばBa、Cs、Laのような元素の添加により、放射線の透過性を低くすることが可能となる。
【0044】
また、例えばSnO、As、Sbのような清澄剤も、通常の濃度にて、歯科用途、医療用途及び化粧品用途に使用されるナノガラスを除く、ナノガラス粉末に含めることができる。
【0045】
上記で言及したAu、Ag、Pt、Cuは、酸化物の状態ではなく金属の状態において、前記ガラスのマトリックスに利用することができる。
【0046】
更に放射性元素も含めることができる。
【0047】
また、特定の実施態様において、窒化物又は窒素酸化物を出発材料として添加することができ、それにより適切な窒化物又は窒素酸化物ナノガラスが形成される。前記窒化物ナノガラス又は窒素酸化物ナノガラスの有利性は、酸化物ガラスよりも機械的特性に優れることである。
【0048】
上記のように、本発明を構成するナノ粉末は、平均粒径が1μm以下、望ましくは200nm以下、より望ましくは100nm以下、更に望ましくは50nm以下、最も望ましくは20nm以下である。特に望ましい実施態様では、粒径が5nm以下である。更に特殊な実施態様では、ナノ粒子は2nm以下である。
【0049】
歯科材料に使用される従来の無機の充填物質のBET比表面積は、通常4〜65m/gである。
【0050】
それに対して、前記ナノ粒子のBET比表面積は、50m/g以上、望ましくは100m/g以上、より望ましくは500m/g以上、最も望ましくは900m/g以上である。
【0051】
本発明のナノガラスの、体積に対する高い表面積により、表面特性とは別にバルク特性においてもますます有利な役割を演じることができる。すなわち、前記自由度の高い表面の存在により、それ自体では不活性のガラスでも、抗菌性ケイ酸ガラスのように予想外の高い活性、特に例えば水性溶媒又は有機化合物中での高いイオン遊離性、前記粉末の高い抗菌性効果が得られる。
【0052】
前記粒子は、使用の際、粉末及び懸濁液の状態に調製するのが望ましい。
【0053】
また、非結晶質、結晶−非結晶混合又は結晶質のガラスナノ粒子及びガラスセラミックナノ粒子として調製することができる。これらの相転移は、予備的な製造工程又は工程後において行うことができる。
【0054】
歯科分野における充填剤としての使用に際し、その表面を、例えばメタクリルオキシプロピル−トリ−メトキシシランのような有機シランにより修飾するのが望ましい。
【0055】
使用される前記の有機シランは、有機樹脂が結合できる機能性有機側鎖として機能し、更にガラス表面にも同様に結合することができるように調製するのが望ましい。それにより、一方では有機樹脂のマトリックスの均一性が得られ、他方では機械的安定性を向上させることができる。また、歯科用添加剤として、「MEMO」の商品名(Degussa社)で公知の3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを使用することができる。更に、例えばアミノ基、グリシドオキシル基、メルカプト基、ビニル基、アリール基などの様々な機能性側鎖を、それに適応する適切なスペーサーと共に使用することにより同様に施すことができる。
【0056】
La、Ba、Sr、Y、Yb、Nb、Zr、Zn元素のイオンの使用は、歯科ガラスのレントゲン透過性の低下にとって有用である。
【0057】
多成分ガラス及び多成分ガラスセラミックを含む本発明のナノ粉末は、以下の分野、例えばUV−A及び/又はUV−BなどのUV−ブロッカーとなる化粧料、歯科充填剤、オーラルケア、光学ポリマー、窯業の材料、抗菌性添加剤、活性成分又は活性成分の輸送体としての医療分野、浄水装置の分野、ガラスはんだの分野、顔料として、三次元構造のラピッドプロトタイピングによる積層造形、燃料電池、研磨剤、触媒、UV保護、艶出し加工、紡績、熱可塑性プラスチック、塗料及びラッカー;表面技術においては接着防止、ひび割れ防止、反射防止、曇り止め、掃除の簡便化、腐食保護;セラミック技術分野においては例えばガラス又はガラスセラミックの原料、結晶の製造、光学ガラスセラミック、光学セラミック及び光学ポリマーの製造、レーザー技術、圧力技術、バイオテクノロジーにおいては蛍光マーカー、発光素材、接着剤、ポリマー(例えばコンポジット、熱可塑性、モノマー)の分野においてはコンタクトレンズ、印刷用紙、照明装置、印刷技術、膜技術の分野に適用可能である。
【0058】
更に、前記ナノガラスを、エレクトロニクス分野、例えば接合用ガラスはんだ又は半導体素子用の不動態ガラスに適用することが可能である。
【0059】
前記ナノ粒子の製造は、例えばPVD処理(物理気相成長法)により行われる。前記PVD処理は蒸着技術として知られている。そのようなPVD処理に関しては、H.D.Junge及びG.Muller、VDI−Lexikon Elektrotechnik,1994,S.26〜27、又はVDI−Lexikon,“Werkstofftechnik”VDI−Verlag,1993,S.810〜811並びにS5〜6に記載されている。それらの文献において、膨大な量の利用可能な添加剤を開示している。PVD処理により、あらゆるガラスの材料がプラズマ状に蒸発する。前記の蒸発した材料は冷たい表面、例えば基層表面にて分解され、新たにガラス状に構成される。それにより、本発明の多成分ガラス又は多成分ガラスセラミックのナノ粒子となる。上記開示の方法により、更にナノガラスセラミック又はナノガラス(いずれも混合反応を含む)が生じる。また、そのように生じたナノガラスを更にセラミック加工しても良い。また、ナノ粒子の製造においてはゾル−ゲル工程を補助的に用いても良い。
【0060】
更に前記の開示されたPVD処理はまた、CVD処理と組み合わせることもできる。CVD処理(Chemical Vapor Deposition)は、ガス相における化学的分離として公知である。CVD処理に関しては、VDI−Lexikon“Werkstofftechnik”,VDI−Verlag,1993,S.139並びにS.5〜6に記載されており、そこには膨大な量の利用可能な添加剤が開示されている。
【0061】
ナノ粒子の製造においてなされる更なる処理は、火炎熱分解である。火炎熱分解において、反応性ガスが火炎中に導入される。その火炎中にて、前記ナノ粒子が形成され、更に冷たい領域にて分離する。更にガスを形成する原料は、前記火炎熱分解により液体の原料となることができる。
【0062】
更に、前記の開示された処理方法、特にPVD処理においては、非酸化的なガスの供給が行われ、それにより窒化物又は酸化物ナノガラスを調製することができる。
【0063】
開示された前記のナノガラス又はナノガラスセラミックの製造方法は、特に上記で開示されたPVD処理が適用される。前記PVD処理において、特にプラズマ処理、特に高周波による蒸発又は電子照射による蒸発を組み合わせたプラズマ処理が適用される。前記プラズマ処理により、前記原料がプラズマ状に蒸発する。
【0064】
背景技術として公知のPVD処理の出発材料として、金属又は金属酸化物が使用される。
【0065】
特に、粒子径1μm以下の本発明の多成分ガラスの製造の出発材料として、既に調製された多成分ガラスを使用するのが望ましい。多成分ガラスを出発材料として使用すると、異なる重量割合及び粒子径分布にて多成分ガラスを調製することができる。
【0066】
多成分ガラスを原材料として使用することにより、適当なイオン組成を有する原料を調製することができる。PVD処理により、原料としての多成分ガラスが部分的に加熱され、これらの原料が選択的に蒸発し、その後その原料が粒子径1μm以下の本発明のガラス粉末又はガラスセラミック粉末として分離する。開示されたように、例えば棒状又は粉末状の出発材料が受け皿となり、そこへプラズマ状の蒸発物が付着し、そのガス流中でそれによるナノ粒子が分離する。
【0067】
PVD処理の有利性は、急速な冷却により、結晶化し易いガラスの場合でも非結晶構造のガラスとして分離することができることである。これにより、標準溶解条件にて安定化して調製されないガラスを原料とすることができ、その結果、従来の溶解方法及び粉砕方法によっても、微小な非結晶質ガラス粉末の調製が可能となる。
【0068】
異なる反応性ガスを導入することにより、表面のイオン修飾及び最終的な組成イオンの調整が可能となる。例えば酸化性のガスの導入により、酸化物ガラスを分離することができ、あるいは非酸化性のガスの導入により、例えば窒素酸化物ガラスを分離することができる。
【0069】
本発明のガラスは非常に小さい粒子径であるため、ひび割れの架橋結合剤、又は接着剤として光学的用途、UV又はIR吸収、絶縁、光反射、耐火性材料、高密度材料、光沢材料、顔料、並びに静電的な分野に使用される。
【0070】
更なる利用分野として、燃料電池のための多孔質電極、セラミック−金属結合用の硬質はんだ又は低融点はんだが挙げられる。特に、ガラス−ガラス、ガラス−金属、ガラス−セラミック又はガラス−結晶間での結合はんだの分野にて有用である。更に、個々のガラス、セラミック、ガラスセラミック、結晶、金属同士を、そのはんだにより結合することも可能である。
【0071】
また、本発明のナノ粒子は、電気泳動的に、多孔質体の表面を有するように分離することができる。
【0072】
背景技術にて開示された無機の非金属の抗菌剤は、粒子径が1μm以上のものとしてのみ調製、使用することができる。したがって抗菌剤としての効果は低いものとなる。
【0073】
意外なことに、本発明のナノ粒子により、活性、特に抗菌性効果を非常に強化することができた。ここで、前記の高い有効性は、例えばAg、Zn、Cuのような配合された活性成分に由来するというよりは、ガラス表面における膜電位及び局所的に高いpHに由来する。その効果を高められた表面により、抗菌性において相乗効果を得ることができる。反対に金属の抗菌性ナノ粉末、例えば銀−ナノ粉末の場合、その有利性として、酸素が結合するとわずかに色の変化が生じ、またその銀はその抗菌性にとって効果的な酸化状態で存在することである。ガラス又はガラスセラミックのナノ粒子は、そのような組成にて、水性の反応系において完全に溶解するように調節することができる。
【0074】
本発明には膨張率ゼロのナノ粉末も含まれ、それらは特に焼結及び充填物質への使用に適する。特に望ましいのは、そのような焼結工程により膨張率ゼロのナノ粉末物質が形成されることである。本発明のナノ粒子を用いることにより、焼結温度を下げ、非常に高い最終濃度及び非常に低い多孔性を有する状態を形成することができ、それ自身が低い分散性及び高い透明性を有することとなる。
【0075】
また、本発明のナノ粒子から、光学ガラスを粘性焼結により調製することができる。
【0076】
前記ナノガラスは、陶磁器の原料としても使用可能である。その陶磁器の原料中に前記ナノガラスを添加することにより、そのナノ粒子の多様性に由来する多様な機能を、陶磁器の表面に付与することが可能となる。それらの非常に高い表面活性に基づき、小さな結晶構造を有する特殊な構造を生じさせることが可能となる。また、前記陶磁器の結晶化により、ガラスの状態を表面又は内部にも付与することが可能となる。前記陶磁器の非常に高い表面による更なる有利性は、ナノ結晶構造を、焼結により得られた素材全体(表面の結晶化と同様、内部の結晶化も)に生じさせることができることである。すなわちこれは、ナノ結晶を有する焼結ガラスセラミックの調製方法である。
【0077】
その高い表面活性により、ナノガラス粉末はまた、高い融点の材料に対する焼結促進剤として使用することもできる。他の添加剤としては、温度感受性材料又は半製品の結合に使用される。それが有する高い表面活性により、はんだ温度を低下させることができる。
【0078】
ナノ粒子を含むガラスはんだは、特にレーザー焼結及びレーザーはんだ付けにより、望ましい低温及び電圧負荷条件下で行われる。
【0079】
本発明のナノガラスの更なる有利性は、結晶質のセラミック状ナノガラス粒子と比較し、光学的利用において、広範囲な分野に適用できることである。前記ガラスの望ましい性質としては、例えば光の伝達、屈折率、分散及び部分分散性が挙げられる。ポリマーとナノガラスの混合物により、ポリマー−ガラス−コンポジットの調製が可能となり、それにより光学的パラメーターを非常に正確なものとすることができる。前記ガラスの化学的組成の多様性及び製造中及び製造後に実行される適切な表面修飾により、分散能力のような性質を加えることができる。その性質は、例えばナノ粒子をモノマー中に分散させるのに必要となる。
【0080】
すなわち前記ナノ粒子の微小な粒子径により、モノマー中に50重量%以上の高充填率で使用することが可能で、モノマーの粘性に影響を与えることなく、ガラス由来のナノ粉末の使用により、例えば添加剤の屈折率を調節することや、低い縮合重合の高分子ポリマーの調製が可能となる。高い充填率のポリマーにおいて、例えばチンダル現象などの光学的効果を顕著に生じさせたり、又は回避したりすることができる。
【0081】
一般的なセラミック顔料を使用できないとき、及び有機色素材料を毒性的な理由又は化学的、熱的又はUV安定性の理由から使用できないときは、有色ガラスを使用してポリマーを着色することが可能となる。
【0082】
本発明のナノガラス粉末の更なる使用分野は、いわゆるラピッドプロトタイピング、すなわち、例えば細胞工学又は三次元の人工歯根の製造の分野における三次元プロトタイピングの製造であり、そこにおいて、細胞培養の成長に必要となる成分の輸送の役割を果たす。
【0083】
前記ナノガラス粉末及びナノガラスセラミック粉末は、高い生物学的活性を有するため、インプラント材料、インプラントのコーティング材料又は薬物輸送にも使用することができる。炎症抑制及び抗菌特性を有するため、本発明のナノガラス又はナノガラス粉末はそれ自体で活性成分として機能することができる。あるいは、前記活性成分をガラスの内部に、又は前記活性成分をガラス表面に付与することが可能である。そのようなシステムはいわゆる「リリースシステム」の代表的なものといえる。
【0084】
また、例えばLGA及び/又はPGAなどのコンポジット材料、並びにそのコポリマーを、生物学的原料、特に細胞工学的原料に使用する際にも適用可能である。LGA及びPGAは生分解性ポリマーとして公知である。
【0085】
また、化粧品分野への本発明のナノ粒子の使用も可能である。特に化粧品に添加することにより、UV保護効果及び/又は光散乱効果が得られる。
【0086】
また、抗酸化、炎症抑制、抗菌性、再ミネラル化効果を伴わせて、本発明のガラスナノ粒子及び/又はガラスセラミックナノ粒子を製造することが可能である。ある一定の材料を組み合わせることにより、例えば血行促進のための磁性体ナノ粒子を生産することが可能となる。
【0087】
また、前記ガラスの化学的組成の多様性により、ガラス又はガラスセラミックのナノ粒子の、例えば硬度、ヤング率、密度などの機械的特性、化学的安定性(例えば水、アルカリ、酸に対する)、又は電気的特性を適宜調整することが可能となる。更にその粒子径を調節することにより、組成及び/又は表面修飾により生じる膜電位を調節することが可能となる。
【実施例】
【0088】
以下の実施例に基づき、本発明を例証する。
表1において、ガラス又はガラスセラミック製造用の出発ガラスの組成が重量%の単位で示され、それに基づき、本発明に記載の処理を行い、ナノガラス又はナノガラスセラミックの粒子を製造することができる。例えば、表1記載のガラス組成物をPVD処理に出発ガラスとして用い、例えば電子線照射により蒸発させることができる。PVD処理により分離するナノガラス又はナノガラスセラミック粒子のガラス組成は、適切な処理を行うことにより、本質的に出発ガラスの組成物と一致する。
【0089】
(ガラス組成物)
【表1】

【0090】
それらに添加される一般的な清澄剤としては、例えばSn、NaCl、As、Sb、As、Sbが挙げられ、その一般的な添加量としては総重量に対して0〜4重量%が望ましい。
【0091】
以下にナノガラス粉末及びその使用に関する実施例を示す。
【0092】
実施例1はナノガラス粉末に関するもので、ポリマーマトリックスに適用され、抗菌性効果をポリマー−ナノガラスのコンポジット材料に供給するものである。実施例1として、表1の例2記載のナノガラス粉末(粒子径1μm以下)を0.1重量%の割合でポリスチロールマトリックスに導入し、平板として押し出し成型した。その表面の抗菌性効果を、ASTMに準じて試験した。その結果、試験微生物(E.coli、Candida Albicans)の増殖が2ログ段階以上減少していることを確認した。
【0093】
実施例2として、表1の例1記載のバイオアクティブナノガラス粉末(粒子径1nm以下)を0.1重量%の割合で制汗デオドラント剤に配合した。その結果、顕著な発汗減少効果が得られた。
【0094】
実施例3として、本発明のナノガラス粉末を50重量%の割合で歯科樹脂に配合した。なお、典型的な歯科樹脂に関しては、EP公開0475239号公報及びそこで引用された文献に開示されている。前記ナノガラスの粉末は表1記載の例4のガラス組成物である。その平均粒子径は1μm以下である。
【0095】
実施例4として、高融点ガラス(例えばSchott社製のガラス(番号8330))にナノ粉末を添加し、それにより焼結温度が低下した。
【0096】
実施例5として、70体積%のナノガラス粉末(表1の例9に記載の組成物(粒子径1μm以下))に対し30体積%の不活性の充填物質(例えば菫青石)を混合して、ガラスはんだの延性を調整した。それにより、同じ混合比率の元の原料と比較して、50℃低い溶解温度のナノコンポジットガラスはんだが得られた。
【0097】
実施例6として、それぞれ5、10、20重量%の割合でナノ粉末(屈折率n=1.9を示す鉛ケイ酸塩ガラス組成物)をフッ化物ポリマーに添加し、ポリマー−ガラスコンポジットを調製した。フッ化物ポリマーに添加するそのナノ粉末の割合に従い、コンポジット材料の屈折率が高くなった。
【0098】
実施例7として、5重量%の割合でナノガラス粉末(粒子径1μm以下で、2重量%のTiOを含む)を日焼け防止用乳液に添加し、それによりUV保護効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも三つの元素からなる多成分ガラスを含むガラス粉末又はガラスセラミック粉末であり、その平均粒子径が、1μm、望ましくは0.1μm以下、特に望ましくは10nm以下である、ガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項2】
前記ガラス粉末又はガラスセラミック粉末が、三つより多い元素からなる、請求項1に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項3】
前記ガラス粉末又はガラスセラミック粉末が、四つより多い元素からなる、請求項1または2に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項4】
前記ガラス粉末又はガラスセラミック粉末が、五つより多い元素からなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項5】
前記ガラス粒子若しくはガラスセラミック粒子、又は前記ガラス粉末若しくはガラスセラミック粉末ナノ粒子を製造するための出発材料自身が、以下の組成(重量%、酸化物ベース)、すなわち:
SiO 0〜90
0〜90
0〜90
NaO 0〜30
LiO 0〜30
O 0〜30
CaO 0〜30
MgO 0〜40
CsO 0〜40
BaO 0〜40
SrO 0〜40
Al 0〜30
TiO 0〜20
ZnO 0〜30
Nb 0〜40
La 0〜40
PbO 0〜70
Bi 0〜70
WO 0〜30
ZrO 0〜40
Yb 0〜40
0〜40
F 0〜10
AgO 0〜5
CuO 0〜10
であり、前記のSiO+B+Pの合計が25重量%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項6】
前記組成(重量%、酸化物ベース)が以下の組成、すなわち:
SiO 50〜80
0〜15
0〜20
NaO 0〜10
LiO 1〜15
O 0〜15
CaO 0〜15
MgO 0〜15
BaO 0〜5
SrO 0〜5
Al 0〜30
TiO 0〜10
ZnO 0〜10
ZrO 0〜10
F 0〜10
通常用いられる清澄剤 通常の比率
を含む、請求項5に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項7】
ガラス組成物中にPが40〜80重量%含まれる、請求項5に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項8】
ガラス組成物中にBが30〜80重量%含まれる、請求項5に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項9】
ガラス組成物中にSiOが20〜95重量%含まれる、請求項5に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項10】
ガラス組成物中にCaOが4〜30重量%含まれる、請求項5から9のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項11】
ガラス組成物中にNaOが4〜30重量%含まれる、請求項5から9のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項12】
ガラス組成物中にSiOが40〜80重量%、及びBが5〜50重量%含まれる、請求項5から9のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項13】
ガラス組成物中にAg、Cu、Zn又はIが含まれる、請求項1から12のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項14】
前記ガラス粉末又はガラスセラミック粉末が、炎症抑制効果を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項15】
ガラス粉末又はガラスセラミック粉末が、PVD処理により調製される、請求項1から14のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末。
【請求項16】
以下の群、すなわち:
オーラルケア、歯科用充填剤、医薬関連品、焼結技術、抗菌性成分、ポリマーの充填物質、化粧品、ガラスはんだ、表面加工、歯科用セラミック、医療製品、不動態材料、活性有機物質による表面加工、浸透性ガラス、又は光触媒、からなる群から選択される一つ又は二つ以上の分野への、請求項1から15のいずれか一項に記載のガラス粉末又はガラスセラミック粉末の使用。

【公表番号】特表2008−500935(P2008−500935A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513794(P2007−513794)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005633
【国際公開番号】WO2005/115936
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】