説明

ナノギャップ電極を有する検出素子及びこれを用いた検出方法

【課題】 極微量の化学物質、特にDNAの構成物質である核酸化合物との水素結合相互作用を直接電流変化として捉えることを可能とするナノギャップ電極を有する検出素子及び検出方法を提供する
【解決手段】
検出対象物化学物質と、結合する部位を有するセンサー分子を、ナノギャップ電極表面に結合させた検出対象化学物質の検出素子であって、センサー分子は、一方の端部にナノギャップ電極表面に固定化するための部分構造及び他方の端部に検出対象化学物質と結合するレセプター部分構造を有するワイヤ状分子であり、かつ、分子長が2ナノメートル以下であって、前記電極のギャップ巾が最大10ナノメートル以下であることを特徴とする化学物質の検出素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノギャップ電極を有する検出素子及びこれを用いたチミンの検出方法に関する。詳しくは、分子認識結果を直接電流変化として捉える事によって化学物質を検出する検出素子及び検出方法である。
【背景技術】
【0002】
化学物質のセンシング技術は従来の分析化学の延長線を超えて急速に発達している。
特に、DNAなどの特定の物質を高感度化には遺伝子工学や生命化学分野では重要であり、1fmol(1×10−15モル)のペプチドが検出できる質量分析装置や、一分子からの蛍光検出も可能な単分子蛍光計測装置が市販されている。(例えばScientific Analysis Instruments社製 MALDITof/Tof-MS/MS質量分析器、オリンパス社製単分子蛍光計測装置MF20型(商品名))。
このほかに、核酸塩基の検出については、塩基と特異的に結合する機能性分子のスペクトル変化、電気化学的変化として捉える提案が学術雑誌に報告されている。しかし、上記の従来技術では、大がかりな装置や高価な装置を必要とし、目的の塩基類の検出には多くの時間を要し、迅速、高感度、簡便な目的物質のセンシングには適していなかった。
【0003】
また、ナノギヤップ電極問にアフィニティーセンサーを配置し、これと相補的に結合可能なパートナー化合物を導電性微粒子上に修飾した仲介粒子が特異的に電極間に結合配置されることにより、導電性変化が起こることを利用する新しいセンサーも提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、上記導電性微粒子を仲介して目的物を検出する方法は、比較的簡便な方法に近づいているが、ホスト分子あるいはゲスト分子のいずれかを金等の導電性微粒子に前もって結合して置く必要があり、迅速な方法とは言い難かった。
【0005】
さらに、数ナノメートルサイズの物質を直接検出する方法としては、スキャニング型のトンネル電流顕微鏡がある。このタイプの顕微鏡は高感度、高解像度で分子を観測できるが、単結晶や単分子膜等の規則性構造のある表面上にある物質の検出に限定されることや探針をミクロンメートル単位の面積範囲をスキャニングし無ければならない等、迅速な方法と言い難かった。
【0006】
本発明者らは10ナノメートル以下のナノギャップ電極間に核酸塩基化合物と水素結合可能な部位を持つ機能性センサー分子類(特許文献2参照)をナノギャップ電極に架橋した素子を用いて形成結果を直接電気伝導度の変化として捉えることのできることを見いだしている。しかしながら、数ナノメートルから10ナノメートル程度の間隔を持つ電極に架橋できる3ナノメートルから10ナノメートル程度センサー分子の合成は多段階反応を必要とし、多大な労力を必要とした。
【特許文献1】特開2002−533698号公報
【特許文献2】特願2005−065072
【特許文献3】特開2004−259748号公報
【特許文献4】特開2005−79335号公報
【特許文献5】特開2005−175164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するため、合成が簡単な2ナノメートル程度のセンサー化合物を用いて極微量の化学物質、特にDNAの構成物質である核酸化合物との水素結合相互作用を直接電流変化として捉えることを可能とするナノギャップ電極を有する検出素子及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、10ナノメートル以下のギャップを持つ電極に2ナノメートル以下のセンサー分子を非架橋状態で表面修飾し、検出対象物質が結合した時、非結合状態で流れていたトンネル電流が増加する現象を見いだし、本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、
検出対象物の化学物質と、結合する部位を有するセンサー分子を、ナノギャップ電極表面に結合させた化学物質の検出素子であって、センサー分子はナノギャップ電極表面に固定化するための部分構造及び検出対象物の化学物質と結合するレセプター部分構造からなり、かつ、分子長が2ナノメートル以下であって、前記電極のギャップ巾が最大10ナノメートル以下であることを特徴とする化学物質の検出素子である。
また、本発明においては、センサー分子を、式(1)
【化11】

とすることができる。

さらに、本発明においては、センサー分子を、式(2)
【化12】

とすることができる。
【0009】
また、本発明においては、ナノギャップ電極を、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルから選ばれる金属の一つとすることができる。
またさらに、本発明は、前記電極の検出対象物質をチミンとすることができる。
さらに、本発明は、検出対象物の化学物質と、結合する部位を有するセンサー分子を、ナノギャップ電極表面に結合させた化学物質の検出素子であって、センサー分子はナノギャップ電極表面に固定化するための部分構造及び検出対象物の化学物質と結合するレセプター部分構造からなり、前記電極のギャップ巾が最大10ナノメートル以下であることを特徴とする化学物質の検出素子を用いて、検出対象物の化学物質を捕捉し、捕捉前と捕捉後のギャップ電極間の電気抵抗値変化として検出する化学物質の検出方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の新規なセンサー素子構造は、ギャップ電極間の電気抵抗値変化を直接検出することにより、検出対象物の化学物質をダイレクトに検知することができる。代表的な検出対象物の化学物質はチミンであり、核酸塩基の1つであるチミン化合物と特異的に水素結合し、かつギャップ電極に容易に合成できるセンサー化合物を非架橋構造で結合させる事により、トンネル電流型顕微鏡では必須なスキャニングを省くことにより、従来の検出法よりも迅速かつ鋭敏に標的物質を検出しうる核酸塩基センサーを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の化学物質センサーの原理図である。
図1−aは検出前の図である。Aは導電性の電極である。その間隔はトンネル電流が測定できる程度の間隔を持つ。電極表面には導電性を持つ分子(B)が化学的に結合している。センサー分子の末端には検出対象と特異的に結合可能なレセプター部位を持つ(C)。
図1−bは検出対象物質(D)が図1−aのセンサー電極に結合した状態を示している。図1−aの電極はナノメートルスケールの間隔を持つことから、STMの原理に使用されているトンネル電流が観測されている。トンネル電流量は測定物質間の距離の関数であり、短いほど多く流れる。図1−bの状態、すなわち検出対象化合物(D)がセンサー部位に結合するとセンサー部位を含めた電極間の距離が短くなる。その結果、図1−aの状態より図1−bの状態がより多くのトンネル電流が流れることになり、特定の化学物質(D)を検出できる事になる。
このセンサー構造を使用すれば、今までの探針でトンネル電流の変化の分布図を作成する必要が無く、高感度、迅速に化学物質を検出できることが可能である。
【0012】
ギャップ電極は分子サイズオーダーのギャップを持つ電極であり、センサー化合物との共有結合形成を可能とする材料ならば使用可能であるが、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルから選ばれる金属の一つが良く、金電極が最も望ましい。すなわち、本発明者らにより既に分子サイズのギャップを持つ電極構造の製造方法および該方法により製造された電極構造を有する分子素子に関する特許文献(特許文献3〜5参照)のなかで述べられたナノギャップ電極構造が望ましい。
【0013】
使用する電極のギャップ巾は、使用するセンサー分子と検出対象とする化学物質の分子サイズで最適巾が決定されるが、架橋型のセンサー系とは異なり、トンネル電流が測定可能な範囲に近接すればよいのでその融通性は高い。実際に使用される巾としてはギャップ電極の作成歩留まりおよびセンサー分子の合成の容易さから、最大10nm以下の金製のギャップ電極が望ましい。
【0014】
前記ナノギャップ電極に化学結合可能なセンサー分子の構造は式(1)又は式(2)で表される。
【化13】


【化14】

【0015】
式中の(アセチル基で保護されたチオール基(アセチルチオ基)は取扱中に酸化によりジスルフィド誘導体に変化を防ぐためにアセチル基で保護してある。この保護基は使用直前もしくはin situで脱保護して用いることができる。式(1)又は式(2)のフェニレンエチニレンユニットは電極に固定化した時、導電性をできるだけ高める、剛直な鎖であることから電極間の距離をせばめて導電性の向上に寄与できることから選ばれた。さらに、ここで使用されている2,6−ジアミドピリジン誘導体はチミン類の人工レセプターとして広く利用されている化合物である。なお、式(1)は公知の化合物であり、式(2)の化合物合成法は発明者らが7th International Synposium on Polymers and Advanced Technorojies(2003, Florida, USA) にて発表済みであり、既知化合物である。
【実施例1】
【0016】
以下に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
(式(2)の化合物のギャップ電極への修飾およびブチルチミンによる導電性変化の測定)

<1>式(2)の化合物およびピロリジンを塩化メチレン溶液(0.1mM/L)を調製し、この溶液にナノギャップ電極を室温、24時間、浸積した。修飾反応後、電極はエタノールにて良く洗浄して電気測定に使用した。
<2>この修飾済電極を1.0mM/LのN−ブチルチミン溶液に1時間、浸積し、
<3>余分のブチルチミンを除く目的でエタノール中、1時間浸積した。
<2>と<3>の操作を繰り返し、各々の段階でI−V曲線を測定し、V=0付近での抵抗値を算出した。
図2に得られた結果の一例を示す。図2のBuT+およびBuT−は、それぞれブルチミンを結合させた状態およびブチルチミンを洗浄した状態を示している。
図2から、ブチルチミンを結合させるとギャップ電極の抵抗が低くなり、ブチルチミンを取ると抵抗値が上昇した。すなわち、検出対象のブチルチミンの存在に対応した電気的応答が得られた。
【実施例2】
【0017】
(アミノピリジンを有する分子ワイヤ(新規化合物I)の製造)

市販の2−アミノ−5−ヨードピリジン(0.100g)とアセチル基で保護したフェニレンエチニレン化合物(0.138g)、
【化15】


を2mLのトルエンに溶解後、触媒としてテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0.0263g)およびトリフェニルフォスフィン(23.8mg)ヨウ化銅(8.66mg)、2mLのトリエチルアミンを加え、窒素下で3日、40℃加熱撹拌する。反応終了後、シリカゲル−塩化メチレン−酢酸エチルのカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、0.117g(収率70.3%)で化合物1を得た。
構造確認はESI質量分析(アセトニトリル溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z = 368.10[M]
実測値 m/z =410.2[M+CHCN+H]
H−NMR(重クロロホルム) δ:8.28(d, J=1.7Hz, 1H), 7.57(dd, J=8.5Hzと1.7Hz, 1H) 7.55(d, J=8.4Hz, 2H), 7.51-7.46(m, 4H), 7.40(d, J=8.4Hz, 2H), 6.46(d, J=8.5Hz, 1H), 4.61(br, 2H), 2.44(s, 3H)
【0018】
新規化合物Iの導電性測定結果
<1>新規化合物Iおよびピロリジンの塩化メチレン溶液(0.1mM/L)を調製し、この溶液にナノギャップ電極を室温、24時間、浸積した。修飾反応後、電極はエタノールにて良く洗浄して電気測定に使用した。
<2>この修飾済電極を1.0mM/LのN−ブチルチミン溶液に1時間、浸積後、余分のブチルチミンを除く目的でジクロロエタンにて洗浄した。
<3>N−ブチルチミンを脱離させる目的で、エタノール中、1時間浸積した。
<2>と<3>の操作を繰り返し、各々の段階でI−V曲線を測定し、V=0付近での抵抗値を算出した。図3に得られた結果の一例を示す。図3の+BuTおよび−BuTは、それぞれN−ブルチミンを結合させた状態およびN−ブチルチミンを洗浄した状態を示している。
図3から、N−ブチルチミンを結合させるとギャップ電極の抵抗が低くなり、N−ブチルチミンを取ると抵抗値が上昇した。すなわち、検出対象のブチルチミンの存在に対応した電気的応答が得られた。

【実施例3】
【0019】
(チミンと等価なウラシル基を有する分子ワイヤ(新規化合物II)の製造)
市販の5−ブロモウラシル(0.314g)とアセチル基で保護したフェニレンエチニレン化合物(0.500g)、
【化16】

を15mLのDMFに溶解後、触媒としてテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0.190g)およびトリフェニルフォスフィン(0.173g)ヨウ化銅(0.0626g)、5mLのトリエチルアミンを加え、窒素下で1日、70℃加熱撹拌する。反応終了後、シリカゲル−塩化メチレン−メタノール混合溶媒のカラムクロマトグラフィーにて精製を行う。さらに、SEPHADEX LH-20−テトラヒドロフランとエタノール混合溶媒のゲルクロマトグラフィーにて精製を行い、0.0551g(収率8.7%)で化合物IIを得た。
構造確認はESI質量分析(アセトニトリル溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z =384.08[M]
実測値 m/z =427.0[M+Na+HO]
H−NMR(DMSO−d) δ:11.40(br, 2H), 7.95(s, 1H), 7.65(d, J=8.6Hz, 2H), 7.60(d, J= 8.6, 2H), 7.51-7.48(m, 4H), 2.47(s, 3H)
【0020】
新規化合物IIの導電性測定結果
<1>新規化合物IIおよびピロリジンのジクロロエタン−エタノール(1:1)混合溶液(0.1mM/L)を調製し、この溶液にナノギャップ電極を室温、2日間、浸積した。修飾反応後、電極はエタノールにて良く洗浄して電気測定に使用した。
<2>この修飾済電極を0.5mM/Lのアデニン溶液に1時間、浸積後、余分のアデニンを除く目的でジクロロエタンにて洗浄した。
<3>アデニンを脱離させる目的で、エタノール中、1時間浸積した。
<2>と<3>の操作を繰り返し、各々の段階でI−V曲線を測定し、V=0付近での抵抗値を算出した。図4に得られた結果の一例を示す。図4の+adenineおよび−adenineは、それぞれアデニンを結合させた状態およびアデニンを洗浄した状態を示している。
図4から、アデニンを結合させるとギャップ電極の抵抗が低くなり、アデニンを取ると抵抗値が上昇した。すなわち、検出対象のアデニンの存在に対応した電気的応答が得られた。


【実施例4】
【0021】
シトシンを有する分子ワイヤ(新規化合物III)の製造
新規化合物IIIは次の行程に従い製造した。各工程の実施例を示す。
【化17】

【0022】
(行程1 中間体(3a)の製造)
3-ヨード安息香酸クロリド
(5.00g)、シトシン (0.695g) を脱水ピリジン(15mL)中、室温・窒素下で、1時間攪拌した。同量のシトシンを追加した後、5日間反応を続けた。氷冷下、1N-HCl(50mL)をゆっくり加え1時間攪拌、生じた固体を濾過し50mLの熱エタノール-水(50/50=v/v)で洗浄した。固体を80mLの熱エタノール-水に分散・攪拌・濾過の過程を数回繰り返した後、真空乾燥した(60℃、12時間)。収量3.83g(収率約90%)。構造確認はESI質量分析(エタノール溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z =340.97[M]
実測値 m/z =364.06[M+Na]
H−NMR(DMSO−d) δ:〜11.5(br,, 2H), 8.35(s, 1H), 7.99(d, 8.4Hz, 1H), 7.97(d, J=8Hz, 1H), 7.88(d, J=6.8Hz, 1H), 7.31(dd, J=7.6Hz, 8Hz, 1H), 7.12(br, 1H),
【0023】
(行程2 中間体(3b)の製造)
3a(3.40g)、トリメチルシリルアセチレン(10mL)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(0.6g)、トリフェニルホスフィン(0.25g)、ジイソプロピルエチルアミン(10mL)を50mLのN,N-ジメチルアセタミド中で混合し、窒素下で攪拌しながらヨウ化銅(I)(1g)を投入した(反応温度60℃)。反応液が赤茶透明状態を経て、黄色固体が生成したところで20mLのN,N-ジメチルアセタミドを加え、温度を50℃としてさらに5時間反応させた。生じた固体を減圧濾過して集め、50mLのクロロホルムで洗浄・乾燥し、白色固体1.48gを得た。先の濾液を減圧蒸留により濃縮し、150mLのクロロホルムを加えることにより固体を析出した。固体を濾別、クロロホルム50mLで洗浄・乾燥し、目的物の3b、0.94gを得た。合計収量 2.42g(収率約78%)。構造確認はESI質量分析(エタノール溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z =311.11[M]
実測値 m/z =334.94[M+Na]
H−NMR(DMSO−d) δ:〜11.5(br, 2H), 8.09(s, , 1H), 8.00(d, 8.0Hz, 1H), 7.88(d, J=6.8Hz, 1H), 7.67(d, J=7.6Hz, 1H), 7.51(dd, J=7.6Hz, 8.0Hz, 1H), 7.10(br, 1H), 0.25(s, 9H)
【0024】
(行程3 中間体(3c)の製造)
3b(1.47g)を乾燥テトラヒドロフラン150mLに分散し、バス温度を−10℃に下げ、穏やかに攪拌しながら4.5mLの1Mフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウムテトラヒドロン溶液を、シリンジで注入した。温度を保ちながら6時間反応した後、水1.0mL(過剰量)を加えさらに3時間攪拌を続けた。生じた白色固体を濾別、30mLの冷メタノールで洗浄、真空下乾燥し、0.323gの目的物を得た。先の濾液を30mLまで濃縮、水30mLを加えた後、メタノール分を留去することによりさらに固体を得た。固体を濾別、冷水で洗浄後、真空乾燥し目的物0.67gを得た。合計収量0.993g (収率約83%)。構造確認はESI質量分析(エタノール溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z =239.07[M]
実測値 m/z =242.30[M+H]
H−NMR(DMSO−d) δ:〜11.5(br, 2H), 8.09(s, 1H), 8.01(d, 8.0Hz, 1H), 7.88(d, 6.8Hz, 1H), 7.70(d, J=7.6Hz, 1H), 7.52(dd, J=7.6Hz, 8.0Hz, 1H), 4.32(s, 1H),
【0025】
(行程4 新規化合物IIIの製造)
3c(0.989g)、パラアセチルチオヨードベンゼン(1.15g,等モル量)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.212g)、トリフェニルホスフィン(0.055g)、ジイソプロピルエチルアミン(4mL)を、20mLのN,N-ジメチルアセタミド中で混合し、窒素置換後攪拌しながらヨウ化銅(I)(0.202g)を投入し、温度40℃で24時間反応を行った。生成した茶色固体を濾過により取り除き、濾液を15mLまで濃縮、クロロホルム50mLを投入して新たな固体を析出した。これをクロロホルム洗浄・乾燥し、3cの粗製物0.46gを得た。粗製物50mgをソックスレー抽出器におき、テトラヒドロフラン50mLで10時間抽出、冷却後生じた白色固体を濾別、最少量のテトラヒドロフランで洗浄後、真空乾燥した。このソックスレー抽出操作を繰り返すことにより、粗製物0.32gから精製物0.152gを得た。収率9%以上。構造確認はESI質量分析(エタノール溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z =389.08[M]
実測値 m/z =412.49[M+Na]
H−NMR(DMSO−d) δ:〜11.5(br, 2H), 8.22(s, 1H), 8.04(d, 8.0Hz, 1H), 7.80(d, J=7.6Hz, 1H), 7.68(d, J=8.4Hz, 2H), 7.58(dd, J=7.6Hz, 8.0Hz, 1H), 7.50(d, J=8.8Hz, 1H), 7.10(br, 1H), 2.47(s, 3H)
【0026】
新規化合物IIIの導電性測定結果
<1>新規化合物IIIおよびピロリジンのジクロロエタン−DMSO(4:1)混合溶液(0.2mM/L)を調製し、この溶液にナノギャップ電極を室温、3時間、浸積した。修飾反応後、電極はエタノールにて良く洗浄して電気測定に使用した。
<2>この修飾済電極を0.5mM/Lのアシクロビル溶液に1時間、浸積後、余分のアシクロビルを除く目的でジクロロエタンにて洗浄した。
<3>アシクロビルを脱離させる目的で、エタノール中、1時間浸積した。
<2>と<3>の操作を繰り返し、各々の段階でI−V曲線を測定し、V=0付近での抵抗値を算出した。図5に得られた結果の一例を示す。図5の+アシクロビルおよび−アシクロビルは、それぞれアシクロビルを結合させた状態およびアシクロビルを洗浄した状態を示している。
図5から、アシクロビルを結合させるとギャップ電極の抵抗が低くなり、アシクロビルを取ると抵抗値が上昇した。すなわち、検出対象のアシクロビルの存在に対応した電気的応答が得られた。

【実施例5】
【0027】
(3−アミノシクロヘキサノンを有する分子ワイヤ(新規化合物IV)の製造)
4−アミノチオフェノール(1.35g)とジメドン(1.50g)の混合物にトルエン(200mL)とパラトルエンスルホン酸(0.04g)を加え、130℃、8時間撹拌した。100℃、減圧下でトルエン(50mL)を留去後、ヘキサン(200mL)を加え、析出した固体を集めた。これをエタノール(50mL)に溶解し、シクロヘキサン(400mL)に注ぎ、析出した淡黄色固体、化合物4を1.40g(収率53%)を得た。
構造確認はESI質量分析(エタノール溶液)およびH−NMR測定より行った。
ESI質量分析: 計算値 m/z = 247.10[M]
実測値 m/z =248.0[M+H]
316.0[M+Na+EtOH]
H−NMR(CDCl) δ:ca.11.5(br, 2H), 8.22(s, 1H), 8.04(d, 8.0Hz, 1H), 7.80(d, J=7.6Hz, 1H), 7.68(d, J=8.4Hz, 2H), 7.58(dd, J=7.6Hz, 8.0Hz, 1H), 7.50(d, J=8.8Hz, 2H), 2.47(s, 3H)
【0028】
化合物4導電性測定結果
<1>化合物4のジクロロエタン溶液(0.2mM/L)を調製し、この溶液にナノギャップ電極を室温、16時間、浸積した。修飾反応後、電極はエタノールにて良く洗浄して電気測定に使用した。
<2>この修飾済電極を0.5mM/Lの5−フルオロシトシン(F−Cyt)溶液に1時間、浸積後、余分のF−Cytを除く目的でジクロロエタンにて洗浄した。
<3>F−Cytを脱離させる目的で、エタノール中、1時間浸積した。
<2>と<3>の操作を繰り返し、各々の段階でI−V曲線を測定し、V=0付近での抵抗値を算出した。図4に得られた結果の一例を示す。図4の+F−Cytおよび−F−Cytは、それぞれF−Cytを結合させた状態およびF−Cytを洗浄した状態を示している。
図4から、F−Cytを結合させるとギャップ電極の抵抗が低くなり、F−Cytを取ると抵抗値が上昇した。すなわち、検出対象のF−Cytの存在に対応した電気的応答が得られた。

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のセンサー素子構造、化学物質の分子認識センサー、分子素子などナノテクノロジー分野およびバイオ・環境分野における高感度分子認識センサーとして有用性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のセンサー素子の検出原理の説明図
【図2】実施例1の検出結果
【図3】実施例2の検出結果
【図4】実施例3の検出結果
【図5】実施例4の検出結果
【図6】実施例5の検出結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物化学物質と、結合する部位を有するセンサー分子を、ナノギャップ電極表面に結合させた検出対象化学物質の検出素子であって、センサー分子は、一方の端部にナノギャップ電極表面に固定化するための部分構造及び他方の端部に検出対象化学物質と結合するレセプター部分構造を有するワイヤ状分子であり、かつ、分子長が2ナノメートル以下であって、前記電極のギャップ巾が最大10ナノメートル以下であることを特徴とする化学物質の検出素子。

【請求項2】
センサー分子が、式(1)
【化1】

である請求項1に記載した化学物質の検出素子。
【請求項3】
センサー分子が、式(2)
【化2】

である請求項1に記載した化学物質の検出素子。
【請求項4】
ナノギャップ電極が、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルから選ばれる金属の一つである請求項1〜3のいずれかひとつに記載された化学物質の検出素子。
【請求項5】
前記電極の検出対象物質がチミンである請求項2〜4のいずれかひとつに記載された化学物質の検出素子。
【請求項6】
検出対象物化学物質と、結合する部位を有するセンサー分子を、ナノギャップ電極表面に結合させた検出対象化学物質の検出素子であって、センサー分子は、一方の端部にナノギャップ電極表面に固定化するための部分構造及び他方の端部に検出対象化学物質と結合するレセプター部分構造を有するワイヤ状分子であり、かつ、分子長が2ナノメートル以下であって、前記電極のギャップ巾が最大10ナノメートル以下であることを特徴とする化学物質の検出素子を用いて、検出対象物の化学物質を捕捉し、捕捉前と捕捉後のギャップ間のトンネル電流を検出する化学物質の検出方法。
【請求項7】
一対の電極と、各電極の表面にそれぞれ固定されたセンサー分子からなる検出素子であって、該センサー分子は、電極表面に固定するための部位と、長さの調節可能な直線上の剛直なn個の鎖部位と被検出対象物質と結合するレセプター部位とを備えたワイヤ状分子であり、センサー分子と対向したセンサー分子間のレセプター部位間は、所定のギャップを有し、レセプター部位に被検出対象物質が捕捉されたことを、ギャップ間距離の変化のトンネル電流を測定してなる検出素子。
【請求項8】
一般式
【化3】

において、
【化4】

で表される新規化合物I。

【請求項9】
一般式
【化5】

において、
【化6】

で表される新規化合物II。
【請求項10】
一般式
【化7】

において、
【化8】

で表される新規化合物III。
【請求項11】
一般式
【化9】

において、
【化10】

で表される新規化合物IV。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−32393(P2008−32393A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190407(P2006−190407)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会講演予稿集CD−ROM」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギ ー・産業技術総合開発機構 委託研究「ナノ機能合成プロジェクト」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの。
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】