説明

ナノグラフェン及びその製造方法

【課題】寸法、形状、構造、純度の安定性が高い高機能のナノグラフェンを提供することである。
【解決手段】内部を還元雰囲気に保持しうる反応容器1と、反応容器内に配置された触媒としての金属基板2と、金属基板を加熱するヒーター6と、反応容器内に炭化水素を供給する炭化水素供給手段5と、気相成長により金属基板上に生成される炭素繊維を掻き取る掻き取り手段4と、掻き取った炭素繊維を回収する回収容器7と、反応容器内のガスを排気する排気手段8と、炭素繊維を液相中で分散させて解体する分散・解体手段を具備した装置を用いて得られるナノグラフェンであって、1層のグラフェン層または重なり合った複数層のグラフェン層からなり、1〜470nmの直径を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1層のグラフェン層からなる、或いは数層〜100層のグラフェン層が重なり合った、ナノグラフェンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノグラファイト及びナノグラフェン等の微細炭素の製造方法として、天然黒鉛であるグラファイトを粘着テープで機械的に剥離し更に粘着テープで剥がす方法がある。また、同じく天然黒鉛を酸溶液中で処理することにより酸化グラファイトを合成してグラファイトを膨潤させ、超音波照射や遠心分離等で酸化グラフェン片を剥離し、回収した酸化グラフェン片を乾燥後、還元して酸素含有基を除去して生成する方法がある。
【0003】
また、別の手段として、炭素を含有するガスを選択した触媒と400℃〜1200℃程度の温度で一定接触させて製造する熱CVD法やマイクロ波プラズマCVD法等の化学気相成長法(CVD法)やSiC加熱法によりグラフェンシートを作製した後、触媒表面やSiC基板から剥離したグラフェンシートを微粉砕することによっても得ることができる。
【0004】
しかしながら、何れの方法でも均一なナノサイズのナノグラフェンを得ることが難しく、また製造コストが高くなる等の問題がある。
【0005】
ナノグラフェンは、多くの工業的用途において急速に重要性を増し、用途研究がなされている。例えば、水素の吸蔵や吸着・脱着、リチウムの吸蔵や吸着・脱着、触媒作用、窒素酸化物の吸着吸蔵などがあるが、いまだに工業的な実現が乏しいのが現状である。その理由の一つとして、構造的に均一なナノグラフェンを量産できないことが挙げられる。
【0006】
しかして、寸法、形状、構造、純度などで安定性の高いナノグラフェンが低コストで効率よく量産することができるようになれば、ナノグラフェンの特性を生かしたナノテクノロジー製品を低コストで大量に供給することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−95509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施形態の目的は、寸法、形状、構造、純度の安定性が高い高機能のナノグラフェン及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、内部を還元雰囲気に保持しうる反応容器と、前記反応容器内に配置された触媒としての金属基板と、前記金属基板を加熱する加熱手段と、前記反応容器内に炭化水素を供給する炭化水素供給手段と、気相成長により前記金属基板上に生成される炭素繊維を掻き取る掻き取り手段と、掻き取った炭素繊維を回収する回収容器と、前記反応容器内のガスを排気する排気手段と、前記炭素繊維を液相中で分散させて解体する分散・解体手段を具備した装置を用いて得られるナノグラフェンであって、1層のグラフェン層または重なり合った複数層のグラフェン層からなり、1〜470nmの直径を有することを特徴とするナノグラフェンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るナノグラフェンの製造装置の基本構成図。
【図2】図1の製造装置において、金属基板への微細炭素の堆積、掻き取りまでの工程順を示す説明図。
【図3】第2の実施形態に係るナノグラフェンの製造装置の概略図。
【図4】実施形態に係る微細炭素繊維の電子顕微鏡写真。
【図5】実施形態に係る微細炭素繊維の電子顕微鏡写真。
【図6】実施形態に係る微細炭素繊維の電子顕微鏡写真。
【図7】実施形態に係る微細炭素繊維の電子顕微鏡写真。
【図8】実施形態に係る微細炭素繊維の構造を模式的に画いた説明図。
【図9】実施形態に係る微細炭素繊維のTG/DTA曲線。
【図10】実施形態に係る分散解体工程を模式的に画いた説明図。
【図11】実施形態に係る分散解体工程を模式的に画いた説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係るナノグラフェンの製造装置について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るナノグラフェンの製造装置について図1,図2(A)〜(C)を参照して説明する。ここで、図1は前記製造装置の全体を示す説明図、図2(A)〜(C)は金属基板への微細炭素繊維の積層、掻き取りまでを工程順に示す説明図である。
【0012】
図中の符号1は、内部を還元雰囲気に保持しうる反応容器を示す。この反応容器1内には、金属基板(触媒)2と、この金属基板2上に生成される微細炭素繊維3を掻き取りする掻き取り部品4が配置されている。前記反応容器1には、反応容器1内に炭化水素を供給する炭化水素供給手段5が接続されている。前記反応容器1の外側には、金属基板2を加熱する加熱手段としてのヒーター6、微細炭素繊維3を回収する回収容器7、反応容器1内のガスを排気する排気手段8が配置されている。なお、図中の符号9は、図示しない液相に外力を加えて、液相中の炭素繊維を分散させる分散・解体手段としての超音波振動子を示す。この超音波振動子は図示しない電源に接続されている。
【0013】
図1の製造装置では、炭化水素としてエタノールを用いているが、エチレン、プロパン、メタン、一酸化炭素、ベンゼン、トルエンなどでも良い。金属基板2としては、エタノール原料との相性がもっとも良い鉄基板を用いている。但し、鉄を成分とする構造用炭素鋼板、ステンレス304鋼板でも良い。触媒となる金属基板の表面には通常酸化膜が形成されているので、その膜を除外して表面を活性化させた。活性化させる方法として、表面の磨きと酸処理を施した。
【0014】
次に、上記製造装置の作用を図1及び図2(A)〜(C)を参照して説明する。
まず、図2(A)の状態で反応容器1の温度を600℃〜750℃、好ましくは670℃に調整して、エタノールを350℃で予備加熱して反応容器1内に注入した。原料のエタノールは、反応容器1内で熱分解してガスとなり、金属基板2に炭素原子が取り込まれる。次に、金属基板2中の炭素が飽和状態になると、カーボンが金属基板2から析出し結晶状に成長すると考えられる。その結晶状に生成したのが微細炭素繊維3である(図2(B)参照)。
【0015】
次に、金属基板2に数十分かけて生成した微細炭素繊維3を、図2(C)に示すように掻き取り部品4で掻き落とし、反応容器外の回収容器7に回収した。掻き取りは金属基板2に0〜5mm程度の厚さで残るように掻きとり、再び成長した微細炭素繊維3を掻き取りして繰り返した。このように、微細炭素繊維3の生成と掻き取りが繰り返し行われる。金属基板2に掻き残した微細炭素繊維があっても、金属基板2に炭化水素の供給が十分なされているため、微細炭素繊維の生成量は長期間一定を保つことができる。
【0016】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るナノグラフェンの製造装置について図3を参照して説明する。但し、図1、図2と同部材は同符号を付して説明を省略する。
図中の符号11は、内部を還元雰囲気に保持しうるとともに、外気と遮断可能な円筒状の縦型反応容器を示す。この反応容器11の内側には、当該反応容器11と同軸の円筒状の金属基板(触媒)12が配置されている。前記反応容器11には、金属基板12の表面に生成された微細炭素繊維3を掻き取る掻き取り機構が配置されている。ここで、掻き取り機構は、駆動装置13と、この駆動装置13に軸支された矢印A方向に回転可能な主軸14と、この主軸14に取り付けられた螺旋状の掻き取り羽根15とから構成されている。前記反応容器11には、当該反応容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段16が接続されている。なお、図2中の符号17は、反応容器11の上部で主軸14の周囲に配置されたシール部材を示す。なお、図3の製造装置における炭化水素、金属基板の材料などは図1の場合と同様である。但し、触媒となる金属基板12は炭素繊維生成過程で減肉されるので、一定期間の後に新しい基板と取り替えることができる構造となっている。
【0017】
次に、図3の製造装置の作用について説明する。
まず、反応容器11の温度を600℃〜750℃、好ましくは670℃に調整して、エタノールを350℃に予備加熱して反応容器11内に注入した。原料のエタノールは、炉内で熱分解してガスとなり、金属基板12に炭素原子が取り込まれる。次に、金属基板12中の炭素が飽和状態となるとカーボンが金属基板12から析出し結晶状に成長すると考えられる。その結晶状に生成成長したのが微細炭素繊維3である。
【0018】
次に、金属基板12に数十分かけて成長した微細炭素繊維3を掻き取り羽根15で掻き落とし、反応容器外の回収容器7に回収した。掻き取りは、金属基板12に0〜5mm程度の厚さで残るように金属基板12と掻き取り羽根15の先端間の距離を調整している。ここで、螺旋状の掻き取り羽根15は、駆動装置13で0.01〜0.05rpmの速度で矢印A方向に回転して連続的に掻き取るか、もしくは20〜60分毎に間欠掻き取りする。その結果、微細炭素繊維3が掻き取られ、その後再び成長した微細炭素繊維3は再び掻き取られ連続生成を続けることができる。また、掻き残した微細炭素繊維があっても、十分に金属基板に炭化水素の供給がなされているため、微細炭素繊維の生成量は長期間一定を保つことができる。
【0019】
以上、微細炭素繊維の製造装置および製造方法について説明してきたが、これより、生成した微細炭素繊維の寸法、形状、構造、純度について説明する。
図4は、微細炭素繊維の電子顕微鏡写真である。図4において、繊維状に絡み合って見えるのが炭素繊維である。図5は、図4を拡大した繊維直径が100〜300nmの大きさの炭素繊維の電子顕微鏡写真である。図6(A),(B)は透過型電子顕微鏡写真で、図6(A)より触媒微粒子より両側にカーボン繊維が成長している様子がわかる。また、図6(B)は図6(A)のB部を拡大したもので、図6(B)より微細炭素繊維は結晶化したグラフェン片が積層した構造であることが判る。さらに、図7(A),(B)は微細炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真で触媒粒子とやや離れた箇所のカーボン構造である。図7(A)の四角(□)で囲まれた部分をC,D部と拡大し、図7(B)のD部拡大写真にはグラフェンのおおよその向きを白い筋線で画いている。
【0020】
このことから、本実施形態の装置で製造する微細炭素繊維は、クラフェンが長手方向に多層に重なり合った、直径100〜300nmの線状グラファイトナノカーボンファイバー(GNF)であることが判った。さらに分析すると、グラフェン間の距離は0.3〜0.4nm、そのグラフェンが重なり合って平均結晶厚さ3〜10nmの結晶子を構成し、結晶子が多層に重なり合って直径100〜300nmの線状GNFを構成していることが判った。
【0021】
図8(A)〜(D)は、その構造を模式的に画いた図である。ここで、図8(A)はGNF21の断面、図8(B)はグラフェンの塊(結晶子)22の断面、図8(C)はグラフェン分散片23の断面、図8(D)はグラフェン24を示す。
【0022】
下記表1は、微細炭素繊維の直径を測定し、4つのサンプルについて分布を示したものである。表1より、直径100〜300nmの範囲に太さが分布していることが判る。また、表1より、平均直径は151.5〜198.9nmで、およそ150〜200nmがもっとも多い直径となっていることが判る。他のデータも含めると直径は80〜470nmで、好ましくは130〜300nmである。
【表1】

【0023】
図9は、上記実施形態で得られた微細炭素繊維(下記表2のサンプル1(n=2))の温度と温度差、温度差の微分(時間変化)及び重量変化との関係を示す特性図である。温度は、1000℃までのデータである。図9において、(a)は加熱時の微細炭素繊維の重量変化(TG)を示す曲線、(b)は加熱時の試料と基準物質の温度差(DTA)を示す曲線、(c)は示差熱電対で検出する温度差の時間に対する変化(DDTA)を示す曲線である。図9より、熱分解の開始温度(耐熱温度)が616℃であり、重量減少割合が1000℃において94.1%であることが判る。
【0024】
本手法により、4サンプルの測定を行った結果を下記表2に示す。表2より、熱分解開始温度(耐熱温度)が540℃から616℃に分布している。また、他のデータも含めると、耐熱温度は530〜630℃であり、好ましくは540〜620℃である。さらに、表2より、重量減少率(純度)はおおよそ94%以上であった。また、他のデータを含めると90〜97%であり、好ましくは94〜97%であった。残渣物は1000℃で燃えない成分で、例えば触媒などが想定される。
【表2】

【0025】
なお、上記実施形態に係る製造装置は基板に炭素繊維を成長させることから、触媒金属が炭素繊維側に必要最低限だけ移行するため、純度が極めて高くなる。また、連続生成が可能なことから大量生産を実現でき、工業的普及を可能にできる。
以上、微細炭素繊維の製造方法、及び生成した微細炭素繊維の寸法、形状、構造、純度について説明してきた。次に、微細炭素繊維を分散、解体したナノグラフェンの製造方法について説明する。
【0026】
図10(A)〜(E)に微細炭素繊維の分散解体工程を模式的に画いた説明図を示す。
図10(A)は、生成炉から出てきた後の無数に生成する繊維形状のGNF21が絡み合って凝集している状態を示す。図10(B)は、図10(A)の凝集したGNF21を液相中で分散させて絡まりを解いた状態を示す。図10(C)は、前記製造装置で生成したGNF1本(図10(B)のX部)の拡大模式図を示す。図10(D)は図10(C)のGNF21をスライスして解体したナノグラフェン(数層〜100層程度が積層)を示す。図10(E)は、図10(D)の積層しているナノグラフェンを更に解体して単層にしたナノグラフェンを示す。図10(F)は、図10(E)のナノグラフェンを面上から見た図を示す。前記微細炭素繊維は、樹脂や塗料、金属等に適量添加すると、導電性や機械強度等の特性向上が期待できるが、絡まったまま添加しても基材中で偏在してしまい、その特性を十分に引き出すことができない。
【0027】
微細炭素繊維を構成する堆積しているグラフェンは、横方向の6員環平面内ではSP2共有結合で強固に結合しているが、グラフェン層間は共有結合では無く、それよりも結合力が弱い分子間力で結合している。繊維状のGNFが解れた状態から更に処理し続ける、或いは何らかの他の処理を施すと、グラフェン層間の分子間力が切れて解体され、数層〜100層が堆積したナノグラフェン(図10(D))が、更にはグラフェンが1層(図10(E))のナノグラフェンが生成する。
【0028】
図11(A)〜(E)は、微細炭素繊維に触媒由来の金属微粒子が残留している場合の分散解体工程を模式的に画いた説明図を示す。図11(A)は、生成炉から出てきた後の無数に生成する繊維形状のGNF21が絡み合って凝集している状態を示す。図11(B)は、図11(A)の凝集したGNF21を液相中で分散させて絡まりを解いた状態を示す。図11(C)は、前記製造装置で生成したGNF1本(図11(B)のX部)の拡大模式図を示し、符号25は触媒由来の金属微粒子を示す。図11(D)は図11(C)のGNF21をスライスして解体したナノグラフェンを示す。ここで、金属微粒子25は、溶解、自然沈降、遠心分離、磁力等で除去される。図11(E)は、図11(D)の積層しているナノグラフェンを更に解体して単層にしたナノグラフェンを示す。前記金属微粒子25は、酸性溶液中で溶解したり、自然沈降や遠心分離等の重力を利用した方法、または磁気分離等の電磁気的な手段で分離・除去し、解体で得られたナノグラフェンの炭素純度を上げることができる。これにより、ナノグラフェンの電気特性等の機能を向上させることが出来る。
【0029】
ここで、生成した微細炭素繊維を分散・解体する具体的な実施形態について説明する。
(第3の実施形態)
上記で説明したように、生成したGNFは直径80〜470nmで、グラフェン片が積層して微細炭素繊維を構成している。GNFが絡み合っている微細炭素繊維凝集体を、硝酸(HNO)(2mol/L)と硫酸(HSO)(5mol/L)、および過マンガン酸カリウム(KMnO)(0.15mol/L)の混合水溶液中に、5重量%添加する。
【0030】
これをスターラーで攪拌しながら24時間酸化処理すると、絡み合って凝集しているGNFは解れ、更には微細炭素繊維を構成する炭素のところどころでランダムに、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基等の酸素含有基(化学修飾基)が付加し、グラフェン層間が拡大して親水化した酸化グラフェン積層物が得られる。この時点で、グラフェン層間に存在していた触媒金属粒子は混合溶液中に拡散し、同時に酸によって溶解されるため除去することが出来る。この酸化グラフェン積層物を水中に分散して、超音波を照射すると、グラフェン層間に水分子が浸透してグラフェン層の剥離が進行し、剥離された酸化グラフェンが得ることができる。なお、超音波の照射の代わりに攪拌を行ってもよい。
【0031】
酸化グラフェンを分散させた水溶液を加熱して水分除去して酸化グラフェン粉末を得た後、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で300〜1000℃で加熱すると、温度が高い程酸素含有基の脱離が進んでπ電子共役系が回復しグラフェンが積層した微細炭素が生成する。
【0032】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、GNFを解体する例を示す。
本実施形態としては、分散解体溶媒として水を選定し、極性部位があるため水と相溶性を有し、かつ低極性の微細炭素繊維との相性が良い、含酸素エーテル系化合物(非イオン界面活性剤)であるCHO−(COCO)n−CH,CO−(COCO)n−Cの混合液を分散剤に選定した。ここで上記分子式のnは、「( )」の構造がn個続くことを示し、平均分子量数1000〜数万程度の液状の分散剤である。
【0033】
水中に微細炭素繊維凝集体5重量%、上記構造の混合分散剤を5重量%ずつ添加し、50〜60℃に加温しながら2時間穏やかに攪拌して微細炭素の分散液を作製した。絡まって凝集していた微細炭素繊維は分散されると共に、微細炭素繊維を構成しているグラフェン積層体まで解体された。
【0034】
ナノグラフェン積層体まで解体することにより、グラフェン層間に挟まって存在していた触媒微粒子は分散液中に分散遊離して存在している。
触媒微粒子の分離手段として、高速の遠心分離70000rpmで金属微粒子とナノグラフェンを比重差で分離し、触媒粒子が除去された上澄液を回収してナノグラフェン分散液を得た。
【0035】
上記手段で解体されたナノグラフェン分散液中のナノグラフェンの平均粒子径をレーザ散乱式の粒度分布計で測定したところ、50%積算体積粒子径D50で約200nmであった。また電子顕微鏡で観察したところ、ナノグラフェンは粒子状になっていて、グラフェンが複数層重なっていることが確認できた。
【0036】
なお、第4の実施形態において、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤の他、陽イオン界面活性剤、または陰イオン界面活性剤、または両性イオン界面活性剤、またはこれらの複数成分を用いることができる。
【0037】
また、非イオン性界面活性剤を用いた場合、微細炭素繊維と界面活性剤分子を、炭素鎖や炭素環で構成される界面活性剤分子の微極性部位との静電引力で吸着させる作用と、界面活性剤分子の極性部位同士の静電引力や斥力によって絡まっている微細炭素同士が引き剥がされ、積層しているグラフェンが解体される。一方、イオン性界面活性剤を用いた場合、微細炭素と界面活性剤分子を、炭素鎖や炭素環で構成される界面活性剤分子の非イオン性部位との静電引力で吸着させる作用と、界面活性剤分子のイオン性部位同士の電気的引力や斥力によって絡まっている微細炭素繊維同士が引き剥がされ、更には積層しているグラフェンが解体される。
【0038】
上記実施形態で生成した、グラフェンが1層、或いは数層〜100層積層したナノグラフェンは、光電子移動度の高さを利用した電子部品、化学的な鋭敏性や化学反応を利用した化学センサーや水素貯蔵材料、機械的強度の高さを利用したメカニカルセンサ、光透過性や電導性を利用したレーザ部材や透明電極、高電流密度耐性を利用した配線材料など新たな応用分野が期待できる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1,11…反応容器、2,12…金属基板(触媒)、3…微細炭素繊維、4…掻き取り部品、5…炭素原料供給手段、6…ヒーター、7…回収容器、8…排気手段、9…超音波振動子、13…駆動装置、15…掻き取り羽根、21…グラファイトナノカーボンファイバー(GNF)、22…グラフェン塊、23…グラフェン分散片、24…グラフェン、25…金属微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を還元雰囲気に保持しうる反応容器と、前記反応容器内に配置された触媒としての金属基板と、前記金属基板を加熱する加熱手段と、前記反応容器内に炭化水素を供給する炭化水素供給手段と、気相成長により前記金属基板上に生成される炭素繊維を掻き取る掻き取り手段と、掻き取った炭素繊維を回収する回収容器と、前記反応容器内のガスを排気する排気手段と、前記炭素繊維を液相中で分散させて解体する分散・解体手段を具備した装置を用いて得られるナノグラフェンであって、1層のグラフェン層または重なり合った複数層のグラフェン層からなり、1〜470nmの直径を有することを特徴とするナノグラフェン。
【請求項2】
内部を還元雰囲気に保持しうる筒状の反応容器と、前記反応容器内に該反応容器と同軸状に配置された,触媒としての筒状の金属基板と、前記金属基板を加熱する加熱手段と、前記反応容器内に炭化水素を供給する炭化水素供給手段と、前記反応容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、気相成長により前記金属基板の内壁上に生成される炭素繊維を掻き取る螺旋状の掻き取り羽根を有する掻き取り手段と、掻き取った炭素繊維を回収する回収容器と、反応容器内のガスを排気する排気手段と、前記炭素繊維を液相中で分散させて解体する分散・解体手段を具備した装置を用いて得られるナノグラフェンであって、1層のグラフェン層または重なり合った複数層のグラフェン層からなり、1〜470nmの直径を有することを特徴とするナノグラフェン。
【請求項3】
前記分散・解体手段は、前記炭素繊維を酸性溶液中で酸化処理して酸素を含有した化学修飾基を炭素に置換あるいは付加してグラフェン間距離を拡げ、グラフェン積層物まで解体する手段と、前記グラフェン積層物から炭素に置換あるいは付加していた化学修飾基を取り外してπ電子共役系を回復する手段からなることを特徴とする請求項1または2記載のナノグラフェン。
【請求項4】
前記分散・解体手段は、
液相中で前記炭素繊維とイオン性界面活性剤を混合する混合手段と、
前記炭素繊維と炭素鎖や炭素環で構成される界面活性剤分子を、界面活性剤分子の非イオン性部位との静電引力で吸着させる作用と、界面活性剤分子のイオン性部位同士の電気的引力及び斥力によって絡まっている炭素繊維同士を引き剥がし、更には積層しているグラフェンを解体する手段からなることを特徴とする請求項1または2記載のナノグラフェン。
【請求項5】
前記分散・解体手段は、
液相中で前記炭素繊維と非イオン性界面活性剤を混合する混合手段と、
前記炭素繊維と界面活性剤分子を、界面活性剤分子の炭素鎖や炭素環で構成される非極性部位との静電引力で吸着させる作用と、界面活性剤分子の極性部位同士の静電引力や斥力によって絡まっている炭素繊維同士を引き剥がし、更には積層しているグラフェンを解体する手段からなることを特徴とする請求項1または2記載のナノグラフェン。
【請求項6】
分散させた前記炭素繊維を解体した後、触媒として使用され炭素繊維中に残留していた分散液中の残留金属粒子を分離除去する手段を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載のナノグラフェン。
【請求項7】
内部を還元雰囲気に保持しうる反応容器と、前記反応容器内に配置された触媒としての金属基板と、前記金属基板を加熱する加熱手段と、前記反応容器内に炭化水素を供給する炭化水素供給手段と、気相成長により前記金属基板上に生成される炭素繊維を掻き取る掻き取り手段と、掻き取った炭素繊維を回収する回収容器と、前記反応容器内のガスを排気する排気手段と、前記炭素繊維を液相中で分散させて解体する分散・解体手段を具備した装置を用い、重なり合った多層のグラフェン層からなり、80〜470nmの直径を有する炭素繊維から、1層のグラフェン層または重なり合った複数層のグラフェン層からなり、1〜470nmの直径を有するナノグラフェンを製造することを特徴とするナノグラフェンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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