説明

ナノコンポジットポリマーの製造に有用な挿入剤非含有組成物

充填剤組成物を調製するための2工程法であって、前記充填剤組成物はナノコンポジットポリマーを調製するために有用である。第1工程は、分散液を形成するために水を含む液体中に水分散性充填剤材料を分散させる工程である。第2工程は、前記充填剤組成物を形成するために前記液体の水の少なくとも一部分を有機溶媒と置換する工程であって、前記充填剤組成物の液体の水濃度は6重量%未満であり、前記充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズは前記第1工程の分散液の代表的なフリーズドライサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノコンポジットポリマーの分野にある。より詳細には、本発明は、ナノコンポジットポリマーを製造するために有用な組成物及びそのような組成物を調製する方法の分野にある。
【背景技術】
【0002】
層間剥離もしくは剥離したカチオン交換層状材料(例えば、層間剥離した2:1の層状シリケートクレー)は、ポリマー系内の強化充填剤として使用できる。そのようなポリマー系は、充填剤の少なくとも1つの寸法が200nm未満である場合に「ナノコンポジット」として公知である。ナノコンポジットポリマーは、一般には従来の充填ポリマーに対して強化された機械的特性を有している。例えば、ナノコンポジットポリマーは、増加した弾性率、より低い密度、改良された透明度、より低い熱膨張係数、及び一部の場合には増加した衝撃靱性、つまり従来の充填剤、例えばタルクなどを使用して通常は入手できない機械的特性の組み合わせの両方を提供できる。
【0003】
カチオン交換層状材料充填剤を有するナノコンポジットポリマーの透過型電子顕微鏡写真は、典型的には、ポリマーマトリックス内における多層単位(例えば、1単位当たり1から5層)のカチオン交換層状材料の分散を示す。しかし、一般には、カチオン交換層状材料の高い層間剥離度を達成するのが望ましい。理想的には、そのような層間剥離度は単層単位のカチオン交換層状材料しか存在しないほど高度である。カチオン交換層状材料が十分に層間剥離していない場合は、ポリマーコンポジットの機械的特性の改良は、通例は、従来のミクロンサイズの充填剤がポリマー内に分散させられる場合より良好ではない。
【0004】
カチオン交換層状材料は、カチオン交換層状材料がポリマーとブレンドされる前に、カチオン交換層状材料の層間剥離を促進するための「挿入剤(intercalation agent)」として有機カチオン(通常は「オニウム」)を用いて処理されることが多い(例えば、米国特許第5,973,053号を参照されたい)。しかし、そのような挿入剤の使用は、ナノコンポジットポリマーのコストを増加させ、ポリマーのための可塑剤として機能し、それにより前記ナノコンポジットポリマーの強度、耐熱性及び安定性を制限する可能性がある。そこでそのような挿入剤の使用を排除し、それでもなおカチオン交換層状材料の十分な層間剥離度を維持しながら、より優れたバランスの取れた物理的特性の改良点を有する低コストナノコンポジットポリマーを製造できれば、それはナノコンポジットポリマーの分野における進歩である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,973,053号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の問題に対する解決策を提供する。本発明は、強靱性もしくはガラス転移温度の減少を伴わずに増加した曲げ弾性率を有するナノコンポジットポリマーを製造するために有用な、挿入剤を含まない充填剤組成物を提供する。一実施形態では、本発明は、ナノコンポジットポリマーを調製するために有用な充填剤組成物を調製するための方法であって、(a)分散液を形成するために水を含む液体中に水分散性充填剤材料を分散させる工程と;(b)前記液体の水濃度が前記充填剤組成物を形成するために6重量%未満であり、前記充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズが前記分散させる工程(a)の代表的なフリーズドライサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満であるように前記液体の水の少なくとも一部分を有機溶媒と置換する工程と、を含む方法を提供する。
【0007】
また別の実施形態では、本発明はナノコンポジットポリマーを調製するための方法であって、前記ポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するポリマーを製造するために、本発明の充填剤組成物を1つ又はそれ以上のポリマー、ポリマー成分、モノマーもしくはプレポリマーと混合する工程による方法である。
【0008】
また別の実施形態では、本発明は、エポキシナノコンポジットポリマーを製造するために有用なエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂組成物は、(a)エポキシ樹脂混合物を形成するためにエポキシ樹脂を本発明の充填剤組成物と混合する工程と;(b)前記エポキシ樹脂組成物を形成するために前記エポキシ樹脂混合物から有機溶媒の大部分を除去する工程と、によって作製されたエポキシ樹脂組成物である。
【0009】
さらにまた別の実施形態では、本発明は、エポキシナノコンポジットポリマーであって、(a)未硬化エポキシナノコンポジットポリマーを形成するためにエポキシ樹脂硬化剤を前記エポキシ樹脂組成物と混合する工程と;(b)前記エポキシナノコンポジットポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である前記充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するエポキシナノコンポジットポリマーを形成するために前記未硬化エポキシナノコンポジットポリマーを硬化させる工程と、によって製造されたエポキシナノコンポジットポリマーである。
【0010】
また別の実施形態では、本発明は、ナノコンポジットポリマーであって、前記ポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するポリマーを製造するために、本発明の充填剤組成物を1つ又はそれ以上のポリマー、ポリマー成分、モノマーもしくはプレポリマーと混合する工程によって製造されたナノコンポジットポリマーである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】本発明の組成物を用いて製造されたエポキシナノコンポジットの透過型電子顕微鏡写真である。
【図1B】図1Aのナノコンポジットのより高倍率での透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】先行技術エポキシナノコンポジットの透過電子顕微鏡写真である。
【図3】110℃で乾燥させたn−MMT、n−MMT、110℃で乾燥させたg−MMT、g−MMT及び純粋MMTについてのX線回折パターンを示す図である。
【図4】エポキシ/n−MMT、エポキシ/d−MMT、エポキシ硬化剤DDSと混合したMMT及び純粋MMTについてのX線回折パターンを示す図である。
【図5】純エポキシ、エポキシ/d−MMT及びエポキシ/n−MMTについての動的機械的分析スキャンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一実施形態では、本発明は、充填剤組成物を調製するための方法であって、前記充填剤組成物はナノコンポジットポリマーを調製するために有用であり、(a)分散液を形成するために水を含む液体中に水分散性充填剤材料を分散させる工程と;(b)前記液体の水濃度が前記充填剤組成物を形成するために6重量%未満であり、前記充填剤材料の少なくとも1つの寸法の平均サイズが前記分散させる工程(a)の代表的なフリーズドライサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満であるように前記液体の水の少なくとも一部分を有機溶媒と置換する工程と、を含む方法である。水分散性充填剤材料は、様々な組成及び形態の高アスペクト比の粒子(プレート、シート、繊維、及びリボン)、中アスペクト比の粒子及び低アスペクト比の粒子(砂様もしくは形状が球状)を含むことができる。本発明の骨子は、分散液を形成するために水(及びしばしば水だけ)を含有する液体中に水分散性充填剤材料を分散させる工程と、次に前記水の大部分を有機溶媒と置換する工程とによる、好ましくは親水性の無機コロイドからナノコンポジットポリマーを調製するために使用できる組成物への変換である。例えば、そしてそれに限定することなく、水分散性充填剤材料の水分散液の水分散性充填剤材料の濃度は遠心分離によって増加させることができ、次に本発明の充填剤組成物を形成するために前記濃縮した水分散性充填剤材料に水混和性有機溶媒を加えることができる。好ましくは、このように形成された充填剤組成物の水濃度は、より多くの有機溶媒(最初に加えられる有機溶媒と同様に水混和性であっても水混和性でなくてもよい)を添加することによって、その後に、それにより減少した水濃度を有する充填剤組成物を製造するために、例えば、それに限定することなく、遠心分離による充填剤材料の濃縮によってさらに減少させられる。さらにより低い水濃度を有する充填剤組成物は、先行文の作業を1回又は複数回繰り返すことによって調製できる。高度に好ましい充填剤材料は、カチオン交換層状材料であるが、このときカチオン交換層状材料のカチオン交換容量は有機カチオンと20%未満しか交換されていない(より好ましくは、カチオン交換層状材料のカチオン交換容量は、本質的に有機カチオンを含んでいない)。
【0013】
水分散性充填剤材料は、それらに限定することなく、天然もしくは合成のベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、サポナイト、スティーブンサイト、ノントロナイト、ソーコナイト(sauconite)、グラウコナイト、バーミキュライト、クロライト、マイカ、ハイドロマイカ、ムスコバイト、ビオタイト、フロゴパイテ、イライト、タルク、ピロフィライト、セピオライト、アタプルガイト、パリゴルスカイト、ベルチェリン、セルペンチン、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アロフェン、ヒドロタルシト、パイロオーライト、カルサイト、ウォラストナイト、様々なコロイド状ボレート、シリケート、アルミネート、ホスフェート、スルフェート、スルファイド及びハロイド、ならびに例えば、それらに限定することなく、ナトリウムシリケートもしくはナトリウムシリケート溶液(及び混合液)へ酸を加える工程、もしくは金属塩溶液に塩基を加える工程、又は金属アルコキシドを加水分解する工程によって作製される様々な合成ゾル、コロイド、ゲル及びフュームからなる群より選択できる。
【0014】
水中の水分散性充填剤材料の分散液に最初に加えられる有機溶媒は、好ましくはあらゆる比率で水と混和性である。適切な有機溶媒の例には、それに限定することなく、アルコール、ケトン、グリコール、エーテル、グリコールエーテル、グリム(グリコールジメチルエーテル)、ブタンジオール、ヘキサンジオール、アミン、ポリエーテルポリアミン、N−メチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリグリコール及びそれらの混合物が含まれる。水は、有機溶媒と水中の水分散性充填剤材料の分散液との混合液から、任意の適切な方法、例えばそれらに限定することなく、蒸留、遠心分離、濾過、透析及び蒸発などの任意の方法によって除去することができる。
【0015】
上記で考察したように、層間剥離もしくは剥離したカチオン交換層状材料(例えば、層間剥離した2:1の層状シリケートクレー)は、ポリマー系内の強化充填剤として使用できることは公知である。そのようなポリマー系は、層間剥離したカチオン交換層状材料の少なくとも1つの寸法が200nm未満である場合に「ナノコンポジット」として公知である。典型的には、ナノコンポジットポリマーの透過型電子顕微鏡検査は、層間剥離したカチオン交換層状材料の小数層もしくは単層をほとんど示さず、むしろほとんどが多層の積層カチオン交換層状材料を示す。それでもなお、そのようなナノコンポジットポリマーは、一般には従来の充填ポリマーに対して強化された機械的特性を有している。例えば、そのようなナノコンポジットポリマーは、増加した弾性率と増加した衝撃靱性の両方を提供できるが、これは従来のサイズの充填剤を用いた場合に通常入手されない機械的特性の組み合わせである。ナノコンポジットポリマーの充填剤は通常はカチオン交換層状材料であるが、上記で考察したように、充填剤が水分散性であり、そして充填剤の少なくとも1つの寸法の平均値が200nm未満である限り、本発明において任意の充填剤を使用できることを理解されたい。
【0016】
用語「カチオン交換層状材料」は、層状のオキシド、スルフィド及びオキシハライド、層状のシリケート(例えば、マガディアイト(Magadiite)及びケニヤアイト(kenyaite)など)、層状の2:1シリケート(例えば、天然及び合成のスメクタイト、ホルマイト、バーミキュライト、イライト、マイカ、及びクロライト)を意味する。カチオン交換層状材料は、それがポリマーとブレンドされた場合にカチオン交換層状材料の層間剥離を促進するために有機カチオン(通常は「オニウム」)を用いて処理されることが多い(例えば、米国特許第5,973,053号明細書を参照されたい)。従来は、層状材料は、「十分に交換」もしくは「過剰交換」されている、すなわち層状材料の交換可能なカチオンは本質的にオニウムイオンと十分に置換されている、又は層状材料の交換可能なカチオンは本質的にオニウムイオンと十分に置換されてその材料は追加のオニウムイオンを含有している。そのようなオニウムイオンの挿入剤としての使用はナノコンポジットポリマーのコストを増加させ、それら挿入剤はポリマーのための可塑剤として機能し、それにより前記ナノコンポジットポリマーの強度、耐熱性及び安定性を限定する場合がある。従って、そのような挿入剤の使用を排除できれば、それはナノコンポジットポリマーの分野における前進である。
【0017】
カチオン交換層状材料のカチオン交換容量とは、1組のカチオン(典型的には無機イオン、例えばナトリウム、カルシウムもしくは水素)とまた別の組のカチオン(無機もしくは有機のいずれか)と交換する能力を表現している。カチオン交換容量は、数種の公知の方法によって測定することができ、それらの大部分は実際に交換反応を実施し、製品を交換イオン各々の存在について分析する。従って、交換の化学量論は、モル%ベースで決定できる。様々なカチオン交換層状材料は、それらの個別構造及び単位セル組成に帰せられる相違するカチオン交換容量を有することが観察されている。
【0018】
用語「有機カチオン」は、少なくとも1つの炭化水素ラジカルを含有するカチオンを意味している。有機カチオンの例には、それらに限定することなく、ホスホニウム、アルソニウム、スルホニウム、オキソニウム、イミダゾリウム、ベンズイミダゾリウム、イミダゾリニウム、プロトン化アミン、プロトン化アミンオキシド、プロトン化ベタイン、アンモニウム、ピリジニウム、アニリニウム、ピロリウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、キノリニウム、イソキノリニウム、インドリウム、オキサゾリウム、ベンゾキサゾリウム、及びキヌクリジニウムが含まれる。有機カチオンの典型的な例は、式R(式中、R、R、RもしくはRのうちの少なくとも1つは、10個又はそれ以上の炭素原子を含有する)の第4級アンモニウム化合物である。用語「有機カチオン」には、さらに例えば、それに限定することなく、プロトン化アミンもまた含まれるが、これはカチオン交換層状材料と酸との接触、及びその後のアミンをプロトン化させるためのカチオン交換層状材料と有機アミンとの接触によって調製できる。
【0019】
また別の実施形態では、本発明は、ナノコンポジットポリマーを調製するための方法であって、前記ポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するポリマーを製造するために、本発明の充填剤組成物を1つ又はそれ以上のポリマー、ポリマー成分、モノマーもしくはプレポリマーと混合する工程による方法である。例えば、それに限定することなく、モノマーがエポキシ樹脂を含む場合は、充填剤組成物は充填剤組成物との混合物を形成するためにエポキシ樹脂と混合することができ、その混合物は次に有機溶媒を除去するために液化させ、次にエポキシナノコンポジットポリマーを製造するために硬化させることができる(用語「液化(された)」は、有機溶媒の蒸発を含んでいる)。追加の例として、及びそれに限定することなく、充填剤組成物は、充填剤組成物の有機溶媒の大部分を除去するための追加の区域を有する押出機内で溶融熱可塑性ポリマーとブレンドすることができる。
【0020】
関連実施形態では、本発明は、硬化エポキシナノコンポジットポリマーを製造するために有用なエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂組成物は、(a)エポキシ樹脂混合物を形成するためにエポキシ樹脂を本発明の充填剤組成物と混合する工程と;及び(b)前記エポキシ樹脂組成物を形成するために前記エポキシ樹脂混合物から有機溶媒を除去する工程と、によって生成されるエポキシ樹脂組成物である。本発明による硬化エポキシナノコンポジットポリマーは、未硬化エポキシナノコンポジットポリマーを形成するためにエポキシ樹脂硬化剤を上述したエポキシ樹脂組成物と混合する工程と、それに続いてエポキシナノコンポジットポリマーの代表的サンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均値を有する充填剤を含有するエポキシナノコンポジットポリマーを形成するために未硬化エポキシナノコンポジットポリマーを硬化させる工程とによって製造できる。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物を調製するために使用するエポキシ樹脂成分は、ポリエポキシドである。本発明の実施において有用なポリエポキシド化合物は、適切には1分子に付き1つ又はそれ以上の隣接エポキシ基、すなわち1分子に付き少なくとも1つの1,2−エポキシ基を有する化合物である。
【0022】
一般に、ポリエポキシド化合物は、少なくとも1つの1,2−エポキシ基を有する、飽和もしくは不飽和の脂肪族、脂環式、芳香族もしくは複素環式化合物である。ポリエポキシド化合物は、所望であれば、1つ又はそれ以上の非干渉置換基、例えばハロゲン原子、ヒドロキシ基、エーテルラジカル、低級アルキルなどで置換されてもよい。
【0023】
本発明において有用なポリエポキシド化合物は、当分野において周知である。本発明の実施において有用な、具体的なポリエポキシド化合物は、参照により本明細書に組み込まれるMcGraw−Hill社(ニューヨーク)によって1967年に発行されたHandbook of epoxy Resins by H.E. Lee and K. Neville及び米国特許第4,066,628号明細書に記載されている。
【0024】
本発明の実施において使用できる特に有用なポリエポキシド化合物は、以下の一般式、
【化1】

(式中、Rは置換もしくは未置換の芳香族、脂肪族、脂環式もしくは複素環式多価基であり、nは1から約8未満の平均値を有する)を有するポリエポキシドである。
【0025】
本発明において有用なエポキシ樹脂は、例えば、多価フェノール及び多価アルコールのグリシジルポリエーテルを含んでいてもよい。本発明の例示として本発明において使用できる公知のエポキシ樹脂の例には、例えばレゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)、ビスフェノールF、ビスフェノールK、テトラブロモビスフェノールA、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂、アルキル置換フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、クレゾール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン置換フェノール樹脂、テトラメチルビフェノール、テトラメチル−テトラブロモビフェノール、テトラメチルトリブロモビフェノール、テトラクロロビスフェノールA及びそれらの任意の組み合わせのジグリシジルエーテルが含まれる。
【0026】
本発明において特に有用なジエポキシドの例には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(一般にはビスフェノールAと呼ばれる)のジグリシジルエーテル及び2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(一般にはテトラブロモビフェノールAと呼ばれる)のジグリシジルエーテルが含まれる。任意の2つ又はそれ以上のポリエポキシドの混合物もまた本発明の実施において使用できる。
【0027】
本発明の実施において使用できる他のジエポキシドには、二価フェノールのジグリシジルエーテル、例えばそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,246,751号;第5,115,075号;第5,089,588号;第4,480,082号及び第4,438,254号に記載されているもの、又はジカルボン酸のジグリシジルエーテル、例えば米国特許第5,171,820号に記載されているものが含まれる。その他の適切なジエポキシドには、例えばαω−ジグリシジルオキシイソプロピリデン−ビスフェノール系エポキシ樹脂(商業的にはD.E.R.(登録商標)300及び600シリーズのエポキシ樹脂として公知である、Dow Chemical Company社(ミシガン州ミッドランド)の製品)が含まれる。
【0028】
本発明の実施において使用できるエポキシ樹脂には、さらにまた二価フェノールのジグリシジルエーテルと二価フェノールとの反応、又は二価フェノールとエピクロロヒドリンとの反応のいずれかによって調製されるいわゆる「固体エポキシ樹脂」(タッフィー(taffy)樹脂としても公知である)もまた含まれる。
【0029】
本発明において有用な、好ましいエポキシ樹脂には、例えば、ビスフェノールAA;4,4’−スルホニルジフェノール;4,4−オキシジフェノール;4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン;レゾルシノール;ヒドロキノン;9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;4,4’−ジヒドロキシビフェニルもしくは4,4’−ジヒドロキシ−α−メチルスチルベンのジグリシジルエーテル及び上記で言及したジカルボン酸のジグリシジルエステルが含まれる。
【0030】
本発明の実施において使用できる、他の有用なエポキシド化合物は、脂環式エポキシドである。脂環式エポキシドは、例えば、以下の一般式、
【化2】

(式中、Rは上記に規定したとおりであり、nは上記に規定したとおりである)によって示される、炭素環内の2つの隣接原子に結合した1つのエポキシ酸素を有する飽和炭素環からなる。
【0031】
脂環式エポキシドは、モノエポキシド、ジエポキシド、ポリエポキシド、又はそれらの混合物であってもよい。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,686,359号に記載された脂環式エポキシドはいずれも本発明において使用できる。例示として、本発明に使用できる脂環式エポキシドには、例えば、(3,4−エポキシシクロヘキシル−メチル)−3,4−エポキシ−シクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビニルシクロヘキセンモノオキシド及びそれらの混合物が含まれる。
【0032】
一般に、エポキシ樹脂は、20,000未満、好ましくは10,000未満、及びより好ましくは8,000未満の数平均分子量を有している。一般に、本発明において有用なエポキシ樹脂は、約200から約20,000、好ましくは約200から約10,000、及びより好ましくは約200から約8,000の平均分子量を有する。
【0033】
エポキシ樹脂のエポキシド当量は、一般に約100から約8,000及びより好ましくは約100から約4,000である。本明細書で使用する用語「エポキシド当量」は、ポリエポキシド分子の平均分子量を分子内に存在するオキシラン基の平均数で割ったものを意味する。本発明において有用な、好ましいジエポキシドは、約100から約4,000のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂である。
【0034】
本発明において使用する最も好ましいエポキシ樹脂は、約340から約900の平均分子量及び約170から約500のエポキシド当量を有する、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのグリシジルポリエーテルである。特別に好ましいのは、約340から約900の平均分子量、約170から約500のエポキシド当量を有し、さらに約0.01%から約1.0重量%又はそれ以上の鹸化可能な塩素を含有する、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのグリシジルポリエーテルである。
【0035】
一般に、エポキシ樹脂は、反応物質の重量に基づいて、約1重量%から約99重量%、より好ましくは約5重量%から約95重量%、及び最も好ましくは約10重量%から約90重量%の量で使用される。
【0036】
また別の実施形態では、本発明は、ナノコンポジットポリマーであって、前記ポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するポリマーを製造するために、本発明の充填剤組成物を1つ又はそれ以上のポリマー、ポリマー成分、モノマーもしくはプレポリマーと混合する工程によって製造されたナノコンポジットポリマーである。それらに限定することなく、ポリマーは、ポリオレフィンポリマー及びコポリマー、ポリアミドポリマー及びコポリマー、ポリエステルポリマー及びコポリマー、ポリカーボネートポリマー及びコポリマー、エポキシポリマー及びコポリマー、スチレンポリマー及びコポリマー、ならびにそれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂は、例えば、コーティング、インク、レジスト、接着剤、成形品、コンポジット、ラミネート、鋳物、ポッティング、及びカプセル材料の調製において有用である。
【実施例1】
【0038】
92.6meq/100gのカチオン交換容量を有する4gのモンモリロナイト(いわゆる純粋MMT)(Southern Clay Products社(テキサス州ゴンザレス)製の商標Cloisite Na)を一晩攪拌しながら400gの水中に分散させて第1分散液を生成する。この分散液を3時間にわたり4,400重力で遠心分離してゲル状生成物(いわゆる「g−MMT」)を生成し、これを400mLのアセトンと混合し、1時間にわたり超音波処理し、一晩混合して第2分散液を生成する。第2分散液を3時間にわたり4,400重力で遠心分離してゲル状生成物を生成し、これを400mLのアセトンと混合し、1時間にわたり超音波処理し、一晩混合して第3分散液を生成する。第3分散液を3時間にわたり4,400重力で遠心分離してゲル状生成物(いわゆる「n−MMT」)を生成し、これを400mLのアセトンと混合し、1時間にわたり超音波処理し、一晩混合して本発明の充填剤組成物を生成する。
【実施例2】
【0039】
実施例1の充填剤組成物をエポキシ樹脂(Dow Chemical Company社(ミシガン州ミッドランド)製の商標DER 332の、ビスフェノールエポキシ樹脂のジグリシジルエーテル)と超音波混合して、エポキシ樹脂混合物を形成する。アセトンの大部分をエポキシ樹脂混合物から90℃で減圧蒸留することによって除去すると、本発明のエポキシ樹脂組成物が生成される。
【実施例3】
【0040】
実施例2のエポキシ樹脂組成物を4,4’−ジアミノ−ジフェニルスルホン(DDS)硬化剤(Aldrich Chemical社、ウィスコンシン州ミルウォーキー)と混合し、テストバー鋳型内に注入し、180℃で2時間にわたり硬化させ、その後に2時間にわたり220℃で後硬化させると、4.5重量%のモンモリロナイトを含有する本発明のエポキシナノコンポジット(いわゆる「エポキシ/n−MMT」)のテストバーが製造される。図1A及び1Bは、本発明のエポキシナノコンポジットの代表的な透過型電子顕微鏡写真を示している。
【0041】
(比較例1)
エポキシ樹脂(Dow Chemical Company社(ミシガン州ミッドランド)製の商標DER 332のビスフェノールエポキシ樹脂のジグリシジルエーテル)を4,4’−ジアミノ−ジフェニルスルホン硬化剤(Aldrich Chemical社、ウィスコンシン州ミルウォーキー)と混合し、テストバー鋳型内に注入し、2時間にわたり180℃で硬化させ、次に2時間にわたり220℃で後硬化させると、充填剤を含有していないエポキシポリマー(いわゆる「純エポキシ」)のテストバーが製造される。
【0042】
(比較例2)
92.6meq/100gのカチオン交換容量を有する4gのモンモリロナイト(Southern Clay Products社(テキサス州ゴンザレス)製の商標Cloisite Na)を400mLのアセトン中に分散させるとアセトン中のモンモリロナイト分散液が生成されるので、次にこれをエポキシ樹脂(Dow Chemical Company社(ミシガン州ミッドランド)製の商標DER 332のビスフェノールエポキシ樹脂のジグリシジルエーテル)と混合すると、エポキシ樹脂混合物が形成される。アセトンの大部分をエポキシ樹脂混合物から90℃で減圧蒸留することによって除去すると、エポキシ樹脂組成物が生成される。このエポキシ樹脂組成物を4,4’−ジアミノ−ジフェニルスルホン硬化剤(Aldrich Chemical社、ウィスコンシン州ミルウォーキー)と混合し、テストバー鋳型内に注入し、180℃で2時間にわたり硬化させ、その後に2時間にわたり220℃で後硬化させると、4.5重量%のモンモリロナイトを含有するエポキシナノコンポジット(いわゆる「エポキシ/n−MMT」)のテストバーが生成される。図2は、本比較例のエポキシナノコンポジットの代表的な透過型電子顕微鏡写真を示している。
【0043】
試験
ポリマーサンプルのX線回折(XRD)パターンは、Bragg−Brentano θ−2ジオメトリー(40kV及び40mA)を備えるBruker D8回折計及びグラファイト単色光分光器を用いて記録する。g−MMTサンプル及びn−MMTサンプルについてXRDを行う場合は、サンプルからの水又はアセトン各々の蒸発を最小限に抑えるために、サンプルは商標MylarのX線フィルム(Complex Industries社、フロリダ州パームシティ)を用いて被覆した。
【0044】
透過型電子顕微鏡検査(TEM)は、100kVで作動する商標JEOL JEMの1200EX顕微鏡上で実施した。商標Reichert−Jung Ultracut−Eのマイクロトームを使用して、TEMイメージングのために室温で厚さ70から100nmのポリマーサンプルの切片を調製する。
【0045】
動的機械的分析(DMA)は、120から250℃の範囲内で商標RSA−IIIの機器(TA Instruments社製)を用いて、1Hzの固定周波数及び1段階に付き5℃ずつの温度増分を用いて実施する。分析のために0.05%の正弦波歪み振幅を選択した。タンジェントδ曲線上の最高点がサンプルのガラス転移温度(T)と見なされる。
【0046】
曲げ弾性率は、試験方法ASTM D790−96aに従って、0.127cm/分のクロスヘッド速度で商標Instronの4411型試験機を用いて測定する。各ポリマーについて5回の試験が行われ、平均値が報告される。
【0047】
一端ノッチ3点曲げ破壊靭性(DRN−3PB)は、線形弾性破壊力学(LEFM)アプローチを使用する試験方法ASTM D5045−96に従って、室温で0.127cm/分のクロスヘッド速度で商標Instron 4411型機械的試験機を用いて測定する。テストバーには宝石加工用ソーを用いて切り込みを入れ、次に液体窒素で冷却したカミソリの刃を用いて亀裂尖端を軽く叩くと、鋭い亀裂がV字型に切り開かれる。試験前には、最初の亀裂が親指の爪割れ状を確実に示すように注意を払う。亀裂の長さと試験片の幅の比率は、0.4から0.6に維持する。各ポリマーについて5回の試験を行い、平均値を報告する。
【0048】
フリーズドライサンプルのTEM分析は、水を含む液体中での充填剤のサイズ及び分散度を得るための1つの方法である。急速凍結は、好ましくは、三次元網目構造を破壊する傾向のある結晶氷形成を回避するために使用する。小滴の分散液を、ピペット、ロッドもしくはその他の適切な器具を用いて抜去し、TEMグリッド、小SEMサンプル残余もしくは銅製シルクハット型サンドイッチ(top hat sandwitch)を含む適切な担体上に配置する。担体組成物は優れた熱電導特性を有していなければならず、その質量は凍結速度を最適化するために最小に維持されなければならない。およそ10,000℃/秒の凍結速度が得るため、サンプルを適切な凍結剤、例えば液体プロパン中へ迅速に浸漬させるか、窒素スラッシュするか又は加圧凍結剤をシルクハット型サンドイッチにスプレーすることによって急速凍結させる。SEMもしくはTEMのため、液体窒素中のサンプルをクリオトランスファーステージ又はフリーズドライヤーへ移す。サンプルトランスファーステージ法のためには、コントラストもしくは露光を細かく強化するためにマトリックス凝華を使用して凍結水和状態にあるサンプルを試験することができる、又は減圧顕微鏡もしくは適切な減圧チャンバ内でサンプルをフリーズドライすることができる。画像は、好ましくは、充填剤の形状を決定して寸法を測定するために二次元もしくは三次元で記録する。好ましくは、SEM作動におけるサンプル帯電を減少させるために、典型的には低加速電圧での作動、薄い導電性金属コーティングの利用もしくは低減圧作動モード又は上記の組み合わせを含む電荷補償法を使用する。
【0049】
実験に関する考察
以下の表1は、試験したポリマーについてのガラス転移温度及び貯蔵弾性率データを列挙している。
【表1】

【0050】
以下の表2は、試験したポリマーについての破壊靭性及び曲げ弾性率を列挙している。
【表2】

【0051】
図3は、110℃で乾燥させたn−MMT、n−MMT、110℃で乾燥させたg−MMT、g−MMT及び純粋MMTについてのXRDパターンを示している。図4は、エポキシ/n−MMT、エポキシ/d−MMT、エポキシ硬化剤DDSと混合したMMT及び純粋MMTについてのXRDパターンを示している。図5は、純エポキシ、エポキシ/d−MMT及びエポキシ/n−MMTについてのDMAスキャンを示している。
【0052】
ここで図3を参照すると、純粋MMTクレーは約2θ=7.8°でギャラリー間間隔ピークを有しており、これは11.3Åの層間距離に対応する。水中の剥離したクレーナノプレートレットが遠心分離によって収集される場合は、g−MMT内には依然として一部の水が存在している。遠心分離の直後に観察されたXRDパターンは、主として非晶質に特徴的であり、これは層状構造がXRDでは検出不能な個々のナノプレートレットに剥離していることを示唆している。アセトン中のn−MMTのサンプルは、XRDパターンにおいて5.0°で相当に鋭いピーク(17.7Å)を示す。これは、溶媒交換及び遠心分離−再分散工程中に、大量のアセトン分子が崩壊したクレーギャラリーの内側に捕捉され、これが相当に大きな層間間隔をもたらすことを示している。そのような交換プロセス後、水分子の大部分はn−MMTから除去されると予想される。しかし、それでもなお、微量の残留水がMMTクレーギャラリーの内側に捕捉されたままになる可能性があることも予想される。この事実を確証するためには、g−MMT及びn−MMTをどちらも110℃で24時間にわたり乾燥させる。乾燥させたg−MMTのXRDパターンは、2θ=7.6°の位置で幅広なピーク(11.9Å)を示しており、これは、おそらく乾燥プロセス中に大部分の水分子が逃れ出ているために、純粋MMTクレーよりもわずかに大きなd−間隔を有している。極めて小量のギャラリー水分子しか層内にとどまっていないので、純粋MMTクレーと比較してわずかに大きな層間間隔が生じる。n−MMTを24時間にわたり110℃で乾燥させた後に、XRDパターンは幅広なピークを示す。しかし、このピークは約2θ=7.8°(11.3Å)に位置するので、これは純粋MMTクレーのピークとほぼ同一である。乾燥させたg−MMTのXRDと比較すると、n−MMT中の大部分の水分子は、3回の追加の遠心分離−再分散工程後には除去されている。しかし、n−MMT中には微量の水が残留していると思われるが、これは純粋クレーピークと比較して、XRDピークの幅広化によって証明される。このn−MMT中の微量の水はそれでもなお有機物親和性モノマーもしくはポリマー内でのクレーのその後の挿入及び剥離のための困難を生じさせる可能性がある。ナノコンポジットポリマー内のクレーのより最適な剥離を達成すべきである場合には、重要な用途では、n−MMT中の水をさらに除去するためにより多くの遠心分離−再分散サイクルが必要になることがある。上記のXRD分析は、g−MMTはXRDに基づくとほぼ剥離状態にあり、n−MMTはエポキシ樹脂を組み込む前にアセトンによって良好に挿入されていることを示唆している。下記に示すように、この挿入状態は、エポキシ/クレーナノコンポジットの調製において明らかに有益である。
【0053】
水性分散液中の剥離したMMTナノプレートレットが水よりはるかに高い沸点を有する水混和性有機溶媒に交換されなければならない場合は、有機溶媒は水中の剥離したMMTクレーナノプレートレットと直接的に混合できることに留意されたい。その後に、水を100℃を超える温度で混合液を加熱することによって取り除くと有機溶媒中の剥離したMMTクレーナノプレートレットを得ることができる。この場合には、n−MMTを調製するための遠心分離−再分散工程は必要とされない。
【0054】
上記に記載したように、n−MMTは主としてアセトンによって湿潤させられるが、極めて少量の水は依然として明らかに残留している。n−MMTをエポキシ樹脂と混合した後には、それは機械的攪拌及び超音波処理を用いてエポキシ中へ均質に分散させることができるが、それはエポキシモノマーがアセトンと混和性であるためである。アセトンが除去された後でさえ、クレーナノプレートレットはエポキシ中に一様に分散させることができ、目に見える相分離は検出されない。n−MMTが3回未満の反復遠心分離−再分散サイクルにおいて入手されると、アセトンが除去された後にエポキシ/n−MMTが相分離することを留意されたい。この所見は、上記のアプローチを用いて良好に分散したエポキシポリマーナノコンポジットを調製するためには、n−MMTからできる限り多くの水を除去するのが好ましいことを示唆している。
【0055】
次に図1、2及び4を参照すると、エポキシ/クレー系の形態学的特徴は、XRD及びTEMによって特徴付けられる。図4におけるXRDデータは、d−MMTがエポキシ樹脂と混合され、次にDDSを用いて硬化された後は、MMTクレーのピークが2θ=5.8°にシフトし、これは15.2ÅのMMTクレーの層間d−間隔に対応することを示している。11.3から15.2Åへ増加したこの層間間隔は、d−MMT内へのDDSの挿入によって主として誘発されると考えられる。この推測は、アセトン中のDDSが挿入したMMTクレーのXRDパターンによって支持される。この挿入された化合物は、エポキシ/d−MMTとほぼ同一の2θ位置でピークを示す。エポキシ/n−MMT系の場合には、約2θ=4.5°で広くて弱いハンプだけが示されている。この弱い回折の観察は、n−MMTがエポキシ樹脂によって挿入かつ剥離させることができるという考えを支持するが、それは層間ギャラリー内にアセトンが存在するためである。層間内に捕捉された微量の水が存在するために、一部のMMTクレー粒子は粗に挿入されたままとなる可能性があり、これはおよそ4°のXRDパターンで観察される広くて小さなハンプを生じさせる。
【0056】
次に図1A及び1Bを参照すると、大部分のMMTクレーナノプレートレットが凝集しており、厚さ約20nm及び長さ約1,000nmの寸法を有するナノ紡錘体を形成している。高アスペクト比のn−MMTは完全には個々のナノプレートレットへ剥離されないが、個々のナノプレートレットはエポキシマトリックス全体にランダムに分散している。不完全な剥離は、アセトン及びエポキシモノマーの完全な挿入を防止するn−MMTギャラリーの内側の微量の水の存在によって誘発されることがある。次に図2を参照すると、MMTクレーナノプレートレットは、図1A及び1Bに示したよりも一層高度に凝集していることが認められる。
【0057】
次に図5を参照すると、純エポキシとエポキシ/d−MMTとの間のゴム状プラトー弾性率における有意差は見られない。しかし、エポキシ/n−MMTの場合は、ゴム状プラトー弾性率は純エポキシ及びエポキシ/d−MMTのゴム状プラトー弾性率より約60%高い。ゴム状プラトー弾性率におけるこの増加は、本発明のエポキシナノコンポジット中の相当に良好に分散したn−MMTナノ紡錘体の存在に起因する。
【0058】
様々な温度での貯蔵弾性率の注意深い比較は、表1及び図5(上方の曲線)に示したように、低温ではエポキシ/d−MMT系とエポキシ/n−MMT系との間の貯蔵弾性率に差がほとんど、もしくは全くないことを示している。しかし、温度が増加するにつれて、エポキシ/n−MMTの貯蔵弾性率曲線は純エポキシ及びエポキシ/d−MMTの貯蔵弾性率曲線から分岐し始める。その差はますます大きくなり、温度がTを超えて上昇すると最大値に到達する。上記の現象は、様々な剥離したポリマーナノコンポジットにおいて一貫して観察されている。
【0059】
エポキシナノコンポジットを調製するために有機カチオン修飾MMTが使用された場合は、先行技術ではエポキシナノコンポジットのTにおける有意な減少が観察されている。Tにおけるこの低下は、一部には、硬化エポキシ網状組織における極めて多数のダングリング鎖末端の形成をもたらす、モノ官能性アミン有機重合調整剤とエポキシモノマーとの間の望ましくない反応のためである。本研究では、図5及び表1に示したように、3つのエポキシ系のT値は、実質的に同一である。さらに、3つのエポキシ系間のTの周囲のタンジェントδピーク形はほぼ同一であり、これは3つの系間の網状構造の特性がほぼ同一であることを意味している。エポキシ/クレーナノコンポジットにおける高Tの保持は、構造的及び機能的用途にとって、本発明のナノコンポジットポリマーの重要な利点であることに注意のこと。ここで表2を参照すると、エポキシ/d−MMTについての曲げ弾性率はたった15%だけ増加する。しかし、エポキシ/n−MMTについての曲げ弾性率は、室温では35%増加する。この増加は有意であり、エポキシ/d−MMTに比したエポキシ/n−MMTにおけるMMTの高度の剥離及び分散のためであるが、MMTはエポキシ/n−MMTにおいては十分には剥離しない。エポキシ/d−MMTについてのモードI限界応力の強度因子値は、KIC値が39%増加することを示している。しかし、エポキシ/n−MMT系については、破壊靱性は純エポキシの破壊靱性よりわずかに高い。エポキシ/n−MMTの場合には、全n−MMTナノプレートレットが完全に剥離しなければならない場合は、KIC値は純エポキシのKIC値と同一になると予想される。エポキシ/n−MMT中のナノ紡錘体の存在は、層間剥離による限定された亀裂偏向を引き起こす可能性がある。従って、エポキシ/n−MMTについてはKIC値の小さな増加が期待される。
【0060】
特に重要なことに、本開示は、本明細書に提示した挿入剤を含んでいないアプローチを使用することによってポリマーの弾性率を有意に強化できることを証明している。この新規なアプローチは、あらゆる高価な、また時には毒性である有機親和性表面改質剤を利用しないので、ポリマーナノコンポジットの物理的特性、例えばT及び熱安定性を保持できると予想されている。極めて重要なことに、ポリマーナノコンポジットを調製する製造コストは、大きく減少させることができ、大規模消費財用途のために魅力的になる可能性がある。
【0061】
結論
結論として、本発明を好ましい実施形態と関連付けて記載してきたが、本発明はそれによって限定されず、下記の特許請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれるすべての代替形、変形及び同等物に及ぶことが企図されることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤組成物を調製するための方法であって、前記充填剤組成物はナノコンポジットポリマーを調製するために有用であり、(a)分散液を形成するために水を含む液体中に水分散性充填剤材料を分散させる工程と;(b)前記液体の水濃度が前記充填剤組成物を形成するために6重量%未満であり、前記充填剤材料の少なくとも1つの寸法の平均サイズが、前記分散させる工程(a)の代表的なフリーズドライサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満であるように、前記液体の水の少なくとも一部分を有機溶媒と置換する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記水分散性充填剤材料は、カチオン交換層状材料であり、前記カチオン交換層状材料のカチオン交換容量は、有機カチオンと20%未満交換される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カチオン交換層状材料は、天然もしくは合成のベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、サポナイト、スティーブンサイト、ノントロナイト、ソーコナイト、グラウコナイト、バーミキュライト、クロライト、マイカ、ヒドロマイカ、ムスコバイト、ビオタイト、フロゴパイト、イライト、タルク、ピロフィリト、セピオライト、アタプルガイト、パリゴルスカイト、ベルチェリン、セルペンチン、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、ヒドロタルサイト、パイロオーライト、カルサイト、ウォラストナイト及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水分散性充填剤材料は、カチオン交換層状材料であり、前記カチオン交換層状材料のカチオン交換容量は、有機カチオンを本質的に含んでいない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カチオン交換層状材料は、天然もしくは合成のベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、サポナイト、スティーブンサイト、ノントロナイト、ソーコナイト、グラウコナイト、バーミキュライト、クロライト、マイカ、ヒドロマイカ、ムスコバイト、ビオタイト、フロゴパイト、イライト、タルク、ピロフィリト、セピオライト、アタプルガイト、パリゴルスカイト、ベルチェリン、セルペンチン、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、ヒドロタルサイト、パイロオーライト、カルサイト、ウォラストナイト及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記液体の水濃度は、3重量%未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記液体の水濃度は、1重量%未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記液体の水濃度は、0.5重量%未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記液体の水濃度は、0.1重量%未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ナノコンポジットポリマーを調製するための方法であって、前記ポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するポリマーを製造するために、請求項1から9のいずれか一項に記載の前記充填剤組成物を1つ又はそれ以上のポリマー、ポリマー成分、モノマーもしくはプレポリマーと混合する工程による方法。
【請求項11】
前記モノマーはエポキシ樹脂を含み、前記充填剤組成物は混合物を形成するために前記エポキシ樹脂と混合され、混合物は次に有機溶媒を除去するために液化され、次にエポキシナノコンポジットポリマーを製造するために硬化される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エポキシナノコンポジットポリマーを製造するために有用なエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂組成物は、(a)エポキシ樹脂混合物を形成するためにエポキシ樹脂を請求項1から9のいずれか一項に記載の充填剤組成物と混合する工程と;(b)前記エポキシ樹脂組成物を形成するために前記エポキシ樹脂混合物から有機溶媒を除去する工程と、によって作製されるエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
(a)未硬化エポキシナノコンポジットポリマーを形成するためにエポキシ樹脂硬化剤を請求項12に記載の前記エポキシ樹脂組成物と混合する工程と;(b)前記エポキシナノコンポジットポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である前記充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するエポキシナノコンポジットポリマーを形成するために前記未硬化エポキシナノコンポジットポリマーを硬化させる工程と、によって製造される硬化エポキシナノコンポジットポリマー。
【請求項14】
前記ポリマーの代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡による検査で200nm未満である充填剤の少なくとも1つの寸法の平均サイズを有する充填剤を含有するポリマーを製造するために、請求項1から9のいずれか一項に記載の前記充填剤組成物を1つ又はそれ以上のポリマー、ポリマー成分、モノマーもしくはプレポリマーと混合する工程によって製造されるナノコンポジットポリマー。
【請求項15】
前記ポリマーは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、エポキシ、スチレンポリマー、ポリウレタン、ポリ(アルキル)アクリレート、ポリアセタール、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリアリールエーテル、ポリケトン、ポリアリールケトン、ポリイミド、ポリ(ビニルハライド)、ポリ(ビニリデンハライド)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリシロキサン、シアネートポリマー、マレイミドポリマー、ビニルエステル樹脂ポリマー、及びそれらの混合物のポリマーおよびコポリマーからなる群より選択される、請求項14に記載のナノコンポジットポリマー。
【請求項16】
(a)エポキシ樹脂を請求項1から9のいずれか一項に記載の充填剤組成物と混合する工程と;(b)硬化剤及び任意で触媒、促進剤、及び加工処理添加物を混合する工程と;(c)前記混合物を基質へ適用する工程と;(d)前記溶媒を蒸発させ、前記エポキシ樹脂を硬化させる工程;及び任意で工程(a)及び(b)の後に有機溶媒を交換及び/又は添加する工程と、によって製造されるエポキシナノコンポジットコーティング。
【請求項17】
前記充填剤組成物のゲルを形成するために前記充填剤組成物から液体を除去する工程をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から9及び17のいずれか一項に記載の方法によって作製された充填剤組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−511740(P2010−511740A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539261(P2009−539261)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/024030
【国際公開番号】WO2008/143643
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509002040)ザ テキサス エー アンド エム ユニバーシティ システム (4)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】