説明

ナノサイズシリカ粒子を含有する歯科材料

【課題】強度があり透光性の歯科材料を得るための、硬化性樹脂と、その樹脂中に分散したナノサイズシリカ粒子とを含む歯科材の提供。
【解決手段】アクリレート、メタクリレート、またはエポキシ、あるいはそれらの組み合わせであってよい硬化性樹脂と、硬化性樹脂中に分散したシリカ粒子とを含む歯科材料であって、シリカ粒子は平均直径が約200nm未満であり、歯科材料の重量の約40重量%を超える量で存在する歯科材料。この歯科材料は、重金属酸化物をさらに含む場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概して本発明は、硬化性樹脂中に分散したナノサイズ粒子を含有する歯科材料に関する。これらの材料は、修復材、接着剤、セメント、矯正装置、ミルブランク(mill blank)、および補綴材料として使用することができる。より詳細には、本発明は、高強度および高い透光性を歯科材料に付与するばらばらのナノサイズシリカ粒子を含有する歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料への要求が広範囲であるのに対し、歯科材料への要求は一般に独特のものである。健康上の理由から、歯科材料は口腔環境での使用に適しているべきである。ある場合では、歯科材料の強度および耐久性が十分な性能を得るために重要となる。例えば、一般には咀嚼力が大きい歯列位置で実施される歯科作業では、高強度で高耐久性であることが望ましい。別の場合では、審美的な特性または品質(例えば、光沢や透光性)が非常に望まれている。このようなことは、歯の修復または充填を比較的近距離で見ることができる位置で行われる歯科作業の場合に多い。
【0003】
通常、歯科材料の強度は充填剤を添加することによって得られる。一般に、機械的強度特性のより高い歯科材料には、より大きな寸法の粒子(すなわち直径が約0.4μmを超える)が充填または添加されている。これらの材料は、ハイブリッド複合材料と呼ばれることが多い。しかしながら、これらの複合材料の欠点の1つは、光沢および審美性に欠ける傾向があることである。大型粒子を有する複合材料のもう1つの欠点は、歯磨きを繰り返すと(口腔衛生に必要である)、硬化した樹脂が磨耗し、大きな充填剤粒子が露出し、表面に光沢がなく美観を損なうようになることである。これは後に歯垢の蓄積の原因となることもある。
【0004】
充填剤量を増加させることで、歯科材料の強度を増すこともできる。しかしながら、これによって視覚的な不透明性が増大し、そのため透光性および審美的品質が低下することがある。
【0005】
カナダ特許出願第2,202,732号は、液体の有機分散剤中の表面改質シリカ粒子ゾルを含む重合性歯科材料を教示している。このシリカ粒子は歯科材料の約35重量%を占める。
【0006】
未硬化歯科材料のレオロジー的性質が良好であれば、歯科開業医にとって好都合である。これによって開業医は、歯科材料を所望の位置で容易に操作し配置して、適切に接触させて解剖学的形態にしてから、硬質化または硬化させることができる。ヒュームドシリカの形態であることがほとんどであるナノメートルサイズ(「ナノサイズ」)シリカ粒子を重合性歯科樹脂中に分散させたものが存在する。DeGussaより商品名OX−50(DeGussa AG(Hanau、ドイツ))で入手可能なヒュームドシリカ材料が広く使用されてきた。しかしながら、樹脂中に高充填率で分散させたヒュームドシリカから製造した材料は、歯科用には実用的ではないダイラタント組成物となる。広く認識されている歯科参考図書であるCraigによる「Restorative Dental Materials(修復用歯科材料)」第8版(1989年)は、高充填ヒュームドシリカ材料レオロジー的性質の劣る材料が得られるのが一般的であると教示している(例えばCraigの256ページを参照されたい)。したがって、所望の強度が得られるように無機成分(粒子)含有率が調整された従来の材料は、望ましくないダイラタント材料となることが多い。
【0007】
ダイラタントレオロジーを克服するためにあらかじめ重合させた粒子を混入する方法も実施されている。しかしながら、これらの方法では得られる材料が低強度となる場合がある。
【0008】
歯科材料は、周囲の歯列と良く調和し本物そっくりに見えることが一般に望まれている。一般に歯科材料の審美性は、歯と類似した色彩/濃淡を有する材料を製造することで実現される。歯科材料の一種であるマイクロフィル(microfill)は、歯の外観をより良く再現するための優れた光沢を有する傾向にある。「マイクロフィル」の一例が、商品名SILUX PLUS(3M Co.(St.Paul、ミネソタ))で市販されている。しかしながらマイクロフィルは、ハイブリッド複合材料または「マクロフィル(macrofill)よりも機械的強度が劣るのが一般的である。
【0009】
したがって、高強度で高い審美性が望まれる用途で現在実施されている方法では、医師は高い物理的強度を有する材料の土台を最初形成した後にミクロフィル層を上に重ねる必要が生じることが多い。高強度で高い審美性を有する1種類の材料が提供されれば好都合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、強度があり透光性の歯科材料を得るための、硬化性樹脂と、その樹脂中に分散したナノサイズシリカ粒子とを含む歯科材を提供する。シリカ粒子は平均直径が約200nm未満であり、歯科材料の全重量の約40重量%を超える量で存在する。
【0011】
「硬化性」とは、加熱による溶剤除去、加熱による重合、化学的架橋、放射線誘導重合または架橋などによって硬化または固化させることができる材料を意味する。
【0012】
「樹脂中に分散した」とは、シリカ粒子がばらばらで会合していない(すなわち非塊状化および非凝集)粒子として樹脂中に存在することを意味する。
【0013】
本発明の歯科材料は、歯科用接着剤、人工歯冠、前方または後方充填材、鋳造材料、キャビティライナー、セメント、コーティング組成物、ミルブランク、矯正装置、修復材、補綴材料、およびシーラントなどに使用することができる。
【0014】
本発明の態様の1つでは、硬化性樹脂はアクリレート、メタクリレート、またはエポキシ、あるいはそれらの組み合わせであってよい。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、放射線不透過性を付与するために歯科材料に重金属を混入することができる。
【0016】
歯の表面付近または表面上に歯科材料を配置する工程と、材料の形状を変化させる工程と、材料を硬化させる工程とを含む歯科材料の使用方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、硬化性樹脂と、その樹脂中に分散したナノサイズ(すなわち平均直径が200nm未満)シリカ充填剤とを含有する歯科材料を提供する。シリカ充填剤は、高強度と高い透光性との両方が得られる量で使用される。任意に、材料に放射線不透過性を付与するために重金属酸化物を材料に混入することができる。
【0018】
本発明の歯科材料は、例えば歯科用接着剤、人工歯冠、前方または後方充填材、鋳造材料、キャビティライナー、セメント、コーティング組成物、ミルブランク、矯正装置、修復材、補綴材料、およびシーラントとして使用することができる。好ましい態様では、本発明の歯科材料は歯科修復材である。本発明の修復材は、口腔内に直接配置してその場で硬化(硬質化)させることができるし、あるいは、口腔外で本発明の修復材から補綴装置を製造した後、これを口腔内に接着して固定することもできる。
【0019】
本発明の歯科材料は、化学硬化性、熱硬化性、または光硬化性の組成物であってよい。光硬化性材料は適切な開始剤系を有するべきである。化学硬化性材料は自己硬化が可能である(例えばレドックス開始剤を使用)。別の方法として本発明の材料は、自己硬化と光硬化の組み合わせによって硬化させることもできる。
【0020】
歯科材料にナノサイズシリカ粒子を充填することによって、高強度と高い透光性が得られることが分かった。本発明の規定量のナノサイズシリカ粒子を含有する歯科材料は、未硬化状態で特に望ましい取扱(レオロジー)特性を有し、硬化状態で非常に高い強度を有し、さらに審美性も備える。
【0021】
強度は、圧縮強さや直径引張強さなどの機械的測定によって特徴づけることができる。歯科材料の圧縮強さが大きいと、歯の補修、置換、および修復部分での咀嚼によってかかる力に対して好都合である。直径引張強さ(DTS)は、材料に引張応力を生じさせる圧縮力に耐える歯科材料の性能を意味する。各強度測定の試験は、後述の実施例において記載している。
【0022】
硬化した場合の本発明の歯科材料は、圧縮強さが少なくとも約35MPaであり、より好ましくは本発明の材料の圧縮強さは少なくとも約200MPaであり、最も好ましくは本発明の材料の圧縮強さは少なくとも約350MPaである。
【0023】
本発明の硬化歯科材料の直径引張強さは、好ましくは少なくとも約15MPaであり、より好ましくは少なくとも約40MPaであり、最も好ましくは少なくとも約60MPaである。
【0024】
態様の1つでは、幾分主観的な性質であるが(しかし歯科産業ではよく知られている)歯科材料の審美性は、視覚的不透明度測定によって定量化されることが好ましい。視覚的不透明度は歯科材料の透光性の程度の指標であり、視覚的不透明度が低いと硬化した歯科材料が本物のような光沢を有するため望ましい。本発明の歯科材料の視覚的不透明度は、好ましくは約0.05〜0.4であり、より好ましくは約0.05〜0.35であり、最も好ましくは約0.05〜0.25である。
【0025】
本発明の材料は比較的多量のナノサイズシリカ粒子が充填されているが、なお良好なレオロジー的性質を有することが分かった。これらの性質ならびに強度は、表面改質剤を使用して粒子表面を処理することによって向上させることができる。表面処理(表面改質)によって、粒子の分散性が向上し、マトリックスとの接合性も向上する。
【0026】
一般に、開業医は、時間の節約につながるので歯科材料の取扱性が良好であることを望んでいる。例えば、医師が材料を口腔内に配置し、材料のコンターリング(contouring)およびフェザーリング(feathering)を行った後に、材料が硬化するまで成形した形状が変化しないことを医師が望むばあいが多いので、歯の修復作業では歯科材料が急激に落下しないことが望ましい。修復作業に使用される材料が十分に高い降伏応力を有するのであれば一般に急激な落下は起らず、すなわち重力の応力下でこの材料は流動しない。材料の降伏応力とは、材料の流動が起こるために必要な最小応力のことであり、C.W.Macosko著「Rheology Principles,Measurements,and Applications(レオロジーの原理、測定、および応用)」(VCH Publishers,Inc.,New York,1994)の92ページに記載されている。If重力による応力が材料の降伏応力より小さければ、材料は流動しない。しかしながら、重力による応力は、配置される歯科材料の質量ならびに形状によって変動する。
【0027】
「コンターリング」は、自然な歯科解剖学的に似せるために構造材料を成形する工程(歯科用機器を使用)を意味する。コンターリングを容易にするためには、材料は、歯科用機器で操作した後で形状を維持するのに十分高粘度であるべきであるが、材料の成形が困難となるほど高粘度であるべきではない。「フェザーリング」は、本来の歯列と材料が調和するように歯科材料の厚さを減少させて薄膜にする工程を意味する。これは、操作する材料と本来の歯列の境界部分で歯科用機器を使用して実施される。形状または表面形状がさらに変化するのを防止するために配置した機器に歯科材料が固着しないことも望まれている。
【0028】
本発明の歯科材料が修復材である好ましい実施態様では、本発明の歯科材料は急激な落下がほとんどまたはまったくなく、窩洞形成などに容易に適合し、コンターリングおよびフェザーリングが容易であることが好ましい。好ましくは、本発明の歯科材料は配置した機器に固着せず、それによって歯の構造の修復などの歯科手技での使用が全体的に迅速かつ容易になるので好都合となる。
【0029】
驚くべきことに本発明の歯科材料は、改良された望ましいずり減粘挙動を有することが可能なことを発見した。すなわち、本発明の歯科材料は高応力下では低粘度となり、低応力下では高粘度となることができる。高応力下で低粘度となるために、開業医は歯の表面に材料をフェザーリングして歯科材料を削り取ることができる。好都合なことに、低応力下で高粘度であるために、歯の輪郭に一致するように医師が材料を成形した後で材料はその形状を維持することができる(すなわち急激に落下したりしない)。
【0030】
シリカは硬化性樹脂マトリックス内部に分散している。本発明の歯科材料に使用されるシリカ粒子は好ましくは平均直径が約200nm未満であり、より好ましくは粒子の平均直径が約100nm未満である。これらの測定はTEM(透過型電子顕微鏡検査)法に基づいて行われることが好ましく、この方法では、図1に示されるような粒子の集団を分析することによって平均粒径が求められる。粒径好ましい測定方法は後述の試験方法の項で記載する。図1は、硬化性樹脂中に分散した好ましいシリカ粒子を示している。シリカ粒子の平均表面積は、好ましくは約15m2/gを超え、より好ましくは約30m2/gを超える。
【0031】
樹脂中に分散した後では、シリカ粒子はばらばら(独立)で会合していない(すなわち、非塊状、非凝集)状態となる。本明細書で使用する場合「塊状」は、電荷または極性によって通常は粒子が互いに弱く結合していることを意味しており、より小さな部分に破壊することができる。本明細書で使用する場合「凝集」は残留化合物の処理などによって多くの場合粒子が互いに強く結合していることを意味しており、より小さな部分に凝集体を分解することは非常に困難である。
【0032】
本発明の歯科材料に使用されるシリカ粒子は、実質的に球状であり実質的に非多孔質であることが好ましい。シリカは実質的に純粋であることが好ましいが、アンモニウムイオンやアルカリ金属イオンなどの少量の安定化イオンを含有することができる。
【0033】
好ましいナノサイズシリカは、Nalco Chemical Co.(Naperville、イリノイ)より製品名NALCO COLLOIDAL SILICAで市販されている。例えば、好ましいシリカ粒子は、NALCO製品1040、1042、1050、1060、2327、および2329を使用して得ることができる。硬化性樹脂にカチオン開始系が使用される好ましい実施態様では、出発シリカは酸性(例えばNalco 1042)であることが好ましい。
【0034】
上述のナノサイズシリカ粒子以外に、任意にヒュームドシリカを本発明の材料に加えることができる。好適なヒュームドシリカとしては、例えば、DeGussa AG(Hanau、ドイツ)より商品名AEROSILシリーズOX−50、OX−130、OX−150、およびOX−200で販売される製品、およびCabot Corp(Tuscola、イリノイ)より商品名CAB−O−SIL M5で販売される製品が挙げられる。
【0035】
歯科材料中に充填する前にナノサイズシリカ粒子を表面処理することによって、樹脂中で安定な分散体が得られる。本明細書で使用される場合「安定な」は、標準的周囲条件(例えば、室温(約20〜22度)、大気圧で、極度の電磁力は存在しない条件)において約24時間などのある期間静置した後に塊状化しない歯科材料を意味する。好ましくは、表面処理によってナノサイズ粒子が安定化され、それによって粒子が硬化性樹脂中によく分散し、実質的に均一な組成物が得られる。さらに、シリカは表面の少なくとも一部が表面処理剤で改質され、それによって、硬化中の硬化性樹脂と安定化粒子との共重合等の反応が可能となることが好ましい。
【0036】
本発明のシリカ粒子は、樹脂相溶化表面処理剤で処理されることが好ましい。特に好ましい表面処理剤または表面改質剤としては、樹脂と重合可能なシラン処理剤が挙げられる。好ましいシラン処理剤としては、γ−メタクリルオキシルプロピルトリメトキシシラン(商品名A−174として市販され、Witco OSi Specialties(Danbury、コネティカット)より市販される)、およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名G6720として入手可能な製品であり、United Chemical Technologies(Bristol、ペンシルバニア)より入手可能である)が挙げられる。
【0037】
あるいは、表面改質剤を組み合わせたものも有用となることもあり、この場合、表面改質剤の少なくとも1種類は硬化性樹脂と共重合可能な官能基を有する。例えば重合性基は、エチレン系不飽和基や、開環重合が起こりやすい環状基であってもよい。エチレン系不飽和重合性基は、例えばアクリレート基またはメタクリレート基、あるいはビニル基であってもよい。開環重合が起こりやすい環状官能基は一般に酸素、硫黄、または窒素などのヘテロ原子を含有し、好ましくはエポキシドなどの酸素含有3員環である。硬化性樹脂とは一般に反応しないその他の表面改質剤を、分散性またはレオロジー的性質を向上させるために使用することができる。この種のシランの例としては、例えば、アルキルまたはアリールポリエーテル、アルキル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアリール、またはアミノアルキル官能基性のシランが挙げられる。
【0038】
シリカ粒子の表面処理後、これらを適当な硬化性樹脂と混合して、本発明の歯科材料を製造することができる。シリカ粒子は歯科材料の全重量の約40重量%(wt.%)を超える量で存在することが好ましい。より好ましくはシリカ粒子は約40重量%〜約90重量%の量で存在し、最も好ましくはシリカ粒子は約50重量%〜約75重量%の量で存在する。
【0039】
任意に、放射線不透過性歯科材料を得るために、本発明の歯科材料に重金属酸化物を加えることができる。放射線不透過性を付与するのに有効な量の重金属酸化物が存在するのが好ましい。本明細書で使用される場合、「放射線不透過性」は、従来方法で標準的歯科用X線装置を使用して歯の構造から硬化した歯科材料を区別できることを意味する。歯科材料が放射線不透過性であると、歯の状態の診断にX線が使用される場合に好都合である。例えば、放射線不透過性材料を使用すれば、充填材周辺の歯の組織に形成されうる二次性齲食の検出が可能となる。放射線不透過性の所望の程度は、個々の用途、およびX線フィルムを評価する医師の予想によって変動しうる。
【0040】
原子番号が約28を超える重金属の酸化物が好ましい。重金属酸化物は、これを分散させて硬化させた樹脂が望ましくない色彩または濃淡とならないように選択するべきである。例えば、鉄およびコバルトは、歯科材料の中間色の歯の色が暗くコントラストの強い色彩となるので好ましくない。最も好ましくは、重金属酸化物は原子番号が30を超える金属の酸化物である。好適な金属酸化物は、イットリウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、タングステン、ビスマス、モリブデン、スズ、亜鉛、ランタニド元素(すなわち、原子番号が57〜71(両端の数を含む)である元素)、およびセリウムの酸化物、ならびにそれらの組み合わせである。最も好ましくは、原子番号が30を超え72未満である重金属の酸化物が、任意に本発明の材料に加えられる。特に好ましい放射線不透過性金属酸化物としては、酸化ランタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化セリウム、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
重金属酸化物成分ならびにその他の添加剤は、シリカ表面上の粒子またはシリカ粒子と混合された粒子、あるいはシリカ粒子表面尾少なくとも一部のコーティング層などの種々の形態で本発明の歯科材料に混入することができる。好ましくは、重金属酸化物成分は、ゾルまたは個々の粒子として供給される。
【0042】
有効量のナノサイズ重金属酸化物粒子を本発明の歯科材料に混入することによって、透光性でありX線不透明度が高く項屈折率の材料を得ることができることを発見した。重金属酸化物粒子の平均直径は、好ましくは約100nm未満である。最も好ましくは、これらの粒子の平均直径は約70nm未満であり、より好ましくは約60nm未満である。重金属酸化物粒子は凝集していてもよい。そのような場合は、凝集粒子の平均直径は約200nm未満であることが好ましく、より好ましくは約90nm未満である。
【0043】
非凝集状態の重金属酸化物粒子の好ましい供給源は、溶液中に分散した粒子を有するゾルである。米国特許第5,037,579号(Matchett)に開示されるジルコニアゾルは、本発明の歯科材料に使用すると好適である好ましい重金属酸化物である。
【0044】
別の好ましいジルコニアゾルが、本発明と同じ日に出願され代理人整理番号第55200USA5A号を有するKolbによる米国特許出願、発明の名称「Zirconia Sol and Method of Making Same(ジルコニアゾルおよびその製造方法)」に開示されている。出願番号第55200USA5A号のジルコニアゾルは、平均一次粒子径が約20nm以下、より好ましくは平均一次粒子径が約7〜20nmの範囲の複数の単結晶ジルコニア粒子を含む。本明細書で使用される場合、用語「一次粒子径」は非凝集状態の単結晶ジルコニア粒子の粒径を意味する。一次粒子径は表題「クリスタリット粒径および結晶形含有率」の試験方法によって測定され、この手順は後述の「試験方法」の項に記載している。
【0045】
出願番号第55200USA5A号に開示されるように、このジルコニアゾルは結晶性の高いジルコニア粒子を含む。結晶ジルコニアは非晶質ジルコニアよりも屈折率が高くX線散乱能力も高いため、このことは重要である。ジルコニア粒子の結晶性は、結晶化度などを使用して定量化することができる。結晶化度は、試料材料のX線散乱強度を、カルシウム安定化酸化ジルコニウムなどの結晶性が既知の標準物質のX線散乱強度で割った値から計算される。ジルコニア粒子の結晶化度の具体的な試験手順は、表題「結晶化度手順」で、後述の「試験方法」の項に記載している。ジルコニアゾルの場合、ジルコニア粒子の結晶化度は約0.65以上である。最も好ましくは、ジルコニア粒子の結晶化度は約0.75以上であり、最も好ましくは約0.85以上である。
【0046】
ジルコニア粒子の結晶部分において、主な結晶格子形態は、立方晶系と正方晶系であり、少量の単斜晶相も存在する。X線回折を使用して立方晶系と正方晶系の結晶格子構造を別々の定量するのは困難なため、これら二つを合わせて考え、本明細書では立方晶および正方晶複合晶系と記載する。具体的には、ジルコニア粒子は、約70%以上の立方晶および正方晶複合晶系結晶格子構造を含む。最も好ましくは、ジルコニア粒子は約75%以上の立方晶および正方晶複合晶系結晶格子構造を含み、最も好ましくは約85%以上の立方晶および正方晶複合晶系結晶格子構造を含む。各場合で、結晶相の残りの部分は単斜晶系結晶格子構造である。
【0047】
非常に寸法が小さいために、ジルコニア粒子は主に立方晶系と正方晶系の結晶格子相として存在し、有効量の結晶相安定剤を使用する必要がない。本明細書で使用される場合、用語「結晶相安定剤」は、ジルコニアを立方晶系および/または正方晶系の結晶格子構造に安定化させるために加えることができる物質を意味する。具体的には、結晶相安定剤は、立方晶相および/または正方晶相が単斜晶相に転移するのを抑制する機能を果たす。結晶相安定剤としては、例えばMgOやCaOなどのアルカリ土類酸化物、希土類酸化物(すなわちランタニド類)、およびY23が挙げられる。「有効量」とは、立方晶相および/または正方晶相から単斜晶相にジルコニアが転移するのを抑制するのに必要な結晶相安定剤の量を意味する。好ましい実施態様では、ジルコニア粒子は約1重量%未満の結晶相安定剤を含み、より好ましくは約0.1重量%未満の結晶相安定剤を含む。
【0048】
出願番号第55200USA5A号のジルコニアゾルの場合、ジルコニアの一次粒子は実質的に非会合(すなわち、非凝集および非塊状)形態で存在する。ゾル中の一次粒子間の会合の程度の定量的測度は分散指数である。本明細書で使用される場合、「分散指数」は、流体力学的粒径を一次粒子径で割った値として定義される。一次粒子径は、後述の試験手順「クリスタリット粒径および結晶形含有率」に記載されるX線回折技術を使用して求められる。流体力学的粒径は、後出の「試験方法」の項に記載される「光子相関分光法」(PCS)で測定される水相中のジルコニア粒子の重量平均粒径を意味する。一次粒子が会合している場合は、PCSによってジルコニアゾル中の一次粒子の凝集体および/または塊状体の粒径の測定値が得られる。粒子が会合していない場合は、PCSによって一次粒子の粒径値が求められる。したがって、ゾル中の一次粒子間の会合が減少するにつれて分散指数の値は1に近づく。上記ジルコニアゾルでは、一次ジルコニア粒子は実質的に非会合形態で存在するため、ジルコニアゾルの分散指数は約1〜3の範囲であり、好ましくは約1〜2.5の範囲であり、最も好ましくは約1〜2の範囲である。
【0049】
出願番号第55200USA5A号にさらに教示されるように、ポリエーテル酸ジルコニウム塩の調製に好適な出発物質としては、ジルコニウムカルボン酸塩、およびカルボン酸で置換可能な対イオンを有する塩基性ジルコニウム塩などの塩基性ジルコニウム塩が挙げられる。カルボン酸で置換可能な対イオンを有する塩基性ジルコニウム塩の代表例としては、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、および炭酸ジルコニウムが挙げられる。塩基性ジルコニウム塩は、ジルコニウム上の陽イオン電荷の少なくとも一部が水酸化物陰イオンまたはO2-陰イオンで相殺されるジルコニウム塩である。塩基性ジルコニウム塩中の酸素含有量が水酸化物イオンまたはO2-に由来するかどうかを実際に測定するのは困難であるため、この酸素含有量を単に酸素として表現するのが一般的である。例えば、後出の式(1)は簡略化のために結合水を除いて表したものであり、ポリエーテル酸ジルコニウム塩の調製の出発物質として好適となりうるジルコニウム化合物の一般式を表している。
ZrO(4-n/2)(X)n (1)
式中、Xはカルボン酸で置換可能な対イオンであり、
nは0.5〜4の範囲である。
【0050】
カルボン酸で置換可能な対イオンの代表例としては、酢酸イオン、ギ酸イオン、およびプロピオン酸イオンなどのカルボン酸イオン、ならびに硝酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオンなどのその他の対イオン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。ジルコニウムアルコキシドは正式にはジルコニウム塩ではないが、最初に好適な酸と反応させて塩基性ジルコニウム塩を生成した後でポリエーテル酸ジルコニウム生成の出発物質として使用することができる。
【0051】
好ましい出発物質は、一般式ZrO(4-n/2)(CH3COO)n(式中nは約1〜2の範囲である)を有する塩基性酢酸ジルコニウムの水溶液またはゾルである。水溶液の場合、おそらく酢酸ジルコニウムは多核ジルコニウム錯陽イオンとして存在する。酢酸ジルコニウムの調製方法は当技術分野で公知である(例えば、W.B.Blumenthalの「The Chemical Behavior of Zirconium(ジルコニウムの化学的挙動)」(D.Van Nostrand Company(Princeton、ニュージャージー))311〜338ページを参照されたい)。好適な酢酸ジルコニウム溶液は、約5〜40重量%をZrO2が占め、約5〜40重量%の範囲が酢酸塩である。好ましい酢酸ジルコニウムゾル出発物質は、20重量%のZrO2でZrO1.25(C2321.5を含み、Nyacol Products Corp.(Ashland、マサチューセッツ)より商品名「Nyacol ZrO2(Ac)」で市販されている。
【0052】
出願番号第55200USA5A号の好ましい方法では、ポリエーテル酸ジルコニウム塩は、水溶液でジルコニウム塩をポリエーテルカルボン酸と反応させることによって調製される。現在の理解ではポリエーテルカルボン酸は、加水分解反応中に生成するジルオニア粒子の会合(すなわち塊状化および/または凝集)を防止する機能を果たすと考えられている。このため、この方法で生成するジルコニア粒子は実質的に会合しない。
【0053】
出願番号第55200USA5A号において改質剤としての使用に好適なポリエーテルカルボン酸は、ポリエーテル末端を有する水溶性モノカルボン酸(すなわち1分子当り1つのカルボン酸基を含有する)である。ポリエーテル末端は、一般式−O−R−を有する二官能性アルコキシ基の繰り返しを含む。好ましいR基は、一般式−Cn2n−を有し、例えばメチレン、エチレン、およびプロピレン(n−プロピレンおよびi−プロピレンを含む)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。R基の組み合わせは、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーなどとして存在することもできる。
【0054】
好ましい種類の一価のポリエーテル基は一般に式(3):
CH3−[O−(CH2yx−X-COOH (3)
で表すことができ、式中、
Xは二価の有機架橋基であり、
xは約1〜10の範囲であり、
yは約1〜4の範囲である。
Xの代表例としては-X2-(CH2n-が挙げられ、式中X2は−O−、−S−、−C(O)O−、−C(O)NH−であり、nは約1〜3の範囲である。
【0055】
好ましいポリエーテルカルボン酸の例としては、化学構造CH3O(CH2CH2O)2CH2COOHを有する2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(以下MEEAA)および化学構造CH3OCH2CH2OCH2COOHを有する2−(2−メトキシエトキシ)酢酸(以下MEAA)が挙げられる。MEAAとMEEAAはAldrich Chemical Co.(Milwaukee、ウィスコンシン)よりそれぞれカタログ番号40,701−1および40,700−3で市販されている。2種類以上のポリエーテルカルボン酸の混合物の使用も本発明の範囲内である。
【0056】
反応順序(1):
ZrO(4-n/2)(X)n+aR2−COOH→ZrO(4-n/2)(X)n-a(R2COO)a+aHX (1)
に従うポリエーテルカルボン酸とジルコニウム塩の反応によって、一般式ZrO(4-n/2)(X)n-a(R2COO)aを有するポリエーテル酸ジルコニウム塩が生成し、一般式HXを有するほぼ化学量論量の酸を遊離(すなわち放出)する。例えば、ジルコニウム塩が酢酸ジルコニウム(ZrO(4-n/2)(C232n)を含む場合、ポリエーテル酸ジルコニウム塩生成の結果としてほぼ化学量論量の酢酸(C232H)が放出される(反応順序1a参照)。
ZrO(4-n/2)(C232n+aR2−COOH→ZrO(4-n/2)(C232n-a(R2COO)a+aC232H (1a)
【0057】
酸がジルコニウム原子と結合するので、ジルコニウムとカルボン酸の塩は水相中で解離しない。カルボン酸によって塩は水溶性となる。疎水性酸(例えばアルキル酸)とジルコニウムが結合すると、塩は水に不溶性となる。実際、プロピオン酸やアクリル酸などの少量の酸を加えるだけで水に不溶性となる。対照的に、出願番号第55200USA5A号で使用されているポリエーテル酸ではより高分子量の酸を使用しながら、ポリエーテル酸ジルコニウム塩の水溶性を維持することができる。このため、水相中に溶解するポリエーテル酸ジルコニウム塩を熱水処理することができる。
【0058】
通常、ジルコニウム塩出発物質を基準にすると、ポリエーテルカルボン酸はジルコニウム塩中に約2.5〜5.0ミリモル/ZrO2グラム当量の範囲の量が加えられる。好ましい酢酸ジルコニウム出発物質(すなわちNyacol ZrO2(Ac))の場合、この範囲では約20〜50%の酢酸基が置換される。好ましくは、添加されるポリエーテルカルボン酸の量は、得られるジルコニア粒子の会合を防止するのに必要な最小量に制限される。これによって、ポリエーテル酸ジルコニウム塩の生成中に放出される酸の量が最小限に維持される。添加されるポリエーテルカルボン酸量は、例えばポリエーテルカルボン酸の分子量、濃度、加水分解反応の時間、および温度などの要因に依存する。
【0059】
出願番号第55200USA5A号のさらなる教示によると、通常ポリエーテルカルボン酸はジルコニウム塩水溶液に添加され、得られる溶液は室温で約30〜60分間撹拌される。ポリエーテルカルボン酸分子はジルコニウム塩と反応して、酸基の少なくとも一部が置換してジルコニウム塩と結合する。置換した酸基は遊離酸として溶液中に放出される。通常はポリエーテル酸ジルコニウム塩の生成する酸の少なくとも一部を除去することが好ましく、より好ましくは実質的にすべての酸が除去される。酸の除去によって、ポリエーテル酸ジルコニウム塩の生成の方向への反応平衡のシフトが可能なことに注意すべきである。過剰の酸を除去するための好適な方法は当技術分野で公知であり、例えば乾燥または蒸留が挙げられる。遊離酸が低沸点(例えば<約175℃)である場合、水相が蒸発してポリエーテル酸ジルコニウム塩が残留するまで溶液を加熱することによって酸を除去することができる。次に、加水分解が起こる前にポリエーテル酸ジルコニウム塩を水に溶解させる必要がある。
【0060】
ポリエーテル酸ジルコニウム塩の生成後で、好ましくは遊離酸を除去した後、次の段階は、ポリエーテル酸ジルコニウム塩を結晶ジルコニア粒子に転化させるのに十分な条件下でポリエーテル酸ジルコニウム塩水溶液を加水分解することである。例えば、ポリエーテル酸ジルコニウム塩が酢酸塩から誘導される場合(反応順序1a参照)、加水分解段階は一般的な反応順序(2a):
ZrO(4-n/2)(C232n-a(R2COO)a→酸改質ZrO2
(n−a)C232H+aR2COOH (2a)
に従う。加水分解反応によって酸改質ジルコニア粒子が生成し、副産物として遊離カルボン酸(すなわちC232HおよびR2COOH)も生成する。従って、得られるジルコニアゾルは酸改質ジルコニア粒子と、2種類のカルボン酸の水中の混合物とを含む。酸改質ジルコニア粒子とは、酸成分の少なくとも一部がジルコニア粒子の表面に吸着していることを意味する。
【0061】
ポリエーテル酸ジルコニウム塩溶液の加水分解反応は任意の好適な反応容器中で実施することができる。通常この反応は高温高圧下で実施されるので、一般にオートクレーブが好ましい種類の反応容器である。好ましい反応容器の例は、Parr Instruments Co.(Moline、イリノイ)より市販されるPressure Reactor Series #4520である。
【0062】
出願番号第55200USA2A号の方法の操作では、ポリエーテル酸ジルコニウム塩水溶液が最初に反応容器に装入される。ポリエーテル酸ジルコニウム塩溶液の濃度は通常0.5〜3重量%のZrO2の範囲内であり、好ましくは1〜2重量%のZrO2の範囲内である。しかしながらこの濃度は、その他の反応条件に依存してより広範囲で変動しうる。次にポリエーテル酸ジルコニウム塩溶液を、ジルコニア粒子に転化させるのに十分な温度まで加熱する。好ましい加水分解温度は約140〜250℃の範囲であり、より好ましくは約150〜200℃の範囲である。通常、反応容器は所望の加水分解温度に数時間にわたって加熱される。その他考慮すべき点として、ポリエーテルカルボン酸の劣化および/または分解を最小限にするために好適な加水分解温度または温度範囲を選択することができる。反応容器内で維持される圧力は自己圧力(すなわち反応温度における水の蒸気圧)であってもよいし、好ましくは窒素などの不活性気体などで反応容器を加圧することもできる。好ましい圧力範囲は約1〜30bar(100〜3000kPa)である。反応容器の加圧によって、得られるジルコニアゾルの性質に悪影響を与えうる反応容器内でのポリエーテル酸ジルコニウム塩溶液の還流を減少させたりなくしたりすることができると思われる。通常、加水分解時間は加水分解温度と塩溶液の濃度とによって変動する。通常は、加水分解反応が実質的に終了するまで熱が加えられる。一般に、所要時間は約175℃の温度で約16〜24時間であるが、より長いまたは短い時間が好適となる場合もある。この反応は、X線回折を使用して得られるジルコニア粒子を調べるか、あるいはIR分光法またはHPLCを使用して水相中の遊離酸量を調べることによって監視することができる。加水分解の終了後、圧力容器を冷却し、得られたジルコニアゾルが反応容器から取り出される。上記手順はバッチ式方法であるが、連続的方法で加水分解を実施することも本発明の範囲内である。
【0063】
出願番号第55200USA5A号のジルコニアゾルは、蒸発や限外ろ過などの当技術分野で公知の方法を使用して液相の少なくとも一部を除去することによって濃縮することができる。好ましい方法では、ロータリーエバポレーターを使用して約10〜40重量%のZrO2までジルコニアゾルが濃縮される。
【0064】
出願番号第55200USA5A号の方法に従って調製したジルコニアゾルは、通常望まれる量よりも過剰の酸を含有することが多い(反応順序2a参照)。ジルコニアゾルと有機マトリックス材料(例えば有機モノマー)を混合することが望ましい場合、通常はゾル中に存在する遊離酸の少なくとも一部、より好ましくは実質的に全部を除去する必要がある。通常この酸は、乾燥、透析、沈殿、イオン交換、蒸留、またはダイアフィルトレーションなどの従来方法によって除去することができる。
【0065】
加水分解反応中に遊離酸が生成するため、ジルコニアゾルが調製されたときのpHは通常約1.8〜2.2の範囲である。透析を使用してゾルのpHを増加させることができる。透析量に依存するが、透析したゾルのpHは通常約1〜4.5またはそれ以上となる。ゾルのpHは酸(例えば濃HClおよび氷酢酸)および/または塩基(例えばアンモニア水溶液)を添加することによって調整することもできる。アンモニア水溶液を添加することで、透明なゾルのpHが少なくとも6〜7となる。
【0066】
ジルコニア粒子表面に吸着する酸の比率を実質的に変化させずに遊離酸を除去するために、透析法、イオン交換法、およびダイアフィルトレーション法を使用することができる。あるいは、過剰の酸の除去とゾルの濃縮は、最初に水と遊離酸をゾルから蒸発させて乾燥粉末を得ることによって実施することもできる。次にこの乾燥粉末を所望量の水に再分散させて、実質的に過剰の酸を含有しない濃縮ゾルを得ることができる。しかしながら、この方法は、ジルコニア粒子表面に吸着した酸の比率が、より高沸点の酸のより低沸点の酸に対する比率が増加する方向で変化する場合があるので注意が必要である。
【0067】
任意に、ジルコニアゾル生成後に、ゾルのジルコニア粒子からポリエーテルカルボン酸基を除去したり置換させたりすることができる。ポリエーテルカルボン酸基の除去は、ジルコニウムゾルを添加することが望まれる有機マトリックス材料とポリエーテル基が非相溶性である場合などに好都合となりうる。ポリエーテルカルボン酸基の置換は、ジルコニア粒子のポリエーテル酸を酢酸などのカルボン酸で置換する方法などによって実施することができる。ジルコニア粒子上のポリエーテルカルボン酸基がカルボン酸に置換される。置換後、遊離したポリエーテルカルボン酸は、透析やダイアフィルトレーションなどの当技術分野で公知の方法を使用してゾルから除去することができる。
【0068】
重金属酸化物粒子を表面処理することによって、安定化したナノサイズ重金属酸化物粒子の供給が容易になる。安定化によって重金属酸化物粒子が硬化性樹脂中によく分散するようになるので、所望の透光性が得られ、さらに所望の機械的性質(例えば強度)および放射線不透過性も得られる。表面処理剤は、所望の硬化性樹脂中への分散性、および/または所望の硬化性樹脂との表面改質重金属酸化物粒子の反応性が得られる官能基を含有するように選択されることが好ましい。好ましくは、金属酸化物粒子は酸性化合物で処理される。好適な表面処理酸としては、例えばカルボン酸類、ホスホン酸類、および、スルホン酸類が挙げられる。最も好ましくは、酸性化合物の混合物を使用して表面安定化が実施される。あるいは、1種類以上が重合性官能基を有する酸性化合物の混合物を使用することが好ましい場合もある。最も好ましくは、酸性基はホウ素、炭素、リン、および硫黄のオキシ酸から誘導される。例えば、カルボン酸はジルコニアおよびセリアの粒子の表面に特によく吸着することが分かった。
【0069】
酸の混合物を重金属酸化物粒子の表面処理(改質)に使用することが好ましい。好ましくは、酸は構造R−COOHを含み、式中のRはエチレン系不飽和を含有する有機基である。Rは分岐鎖でも直鎖でもよく、(例えばヘテロ原子で)置換されていてもよい。Rは通常約1〜50個の炭素原子を含有し、好ましくは約2〜20個の炭素原子を含有する。このような酸の特に好ましい基としては、末端エチレン系不飽和を有するR基が挙げられる。
【0070】
酸の組み合わせを粒子表面に吸着させることによって、強度、分散性、および安定性を付与する所望の表面改質を行うことができる。好ましい方法では、ジルコニア粒子を水に分散させ、酢酸を表面に吸着させる。表面改質は、吸着した酢酸を、最終材料に良好な分散性および高強度が付与されるように選択した酸の組み合わせで置換することを含む。
【0071】
表面処理(改質)に好適な親水性で非反応性の酸としては、2−[2−(2−メトキシ)エトキシ]エトキシ酢酸(MEEAA)、モノ(ポリエチレングリコール)スクシネート、モノ(ポリエチレングリコール)マレエートが挙げられる。これらの酸は、本発明の硬化歯科材料中の粒子の分散性を良好にする。
【0072】
表面改質基を硬化性樹脂と共重合させることによって、強度を大幅に向上する。好ましくは、これは反応性表面改質剤を使用して行われる。表面処理に好適な親水性で反応性の酸としては、2−ヒドロキシメチル−2−[(N−メタクリルオキシエチル)カルバモイルメチル]プロピオン酸(PAMA)、モノ(アクリルオキシポリエチレングリコール)スクシネート、およびモノ(アクリルオキシポリエチレングリコール)マレエートが挙げられる。その他の好適な反応性酸としては、2,2−ビス[(N−メタクリルオキシエチル)カルバモイルメチル]プロピオン酸(PDMA)、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチルアクリレート、コハク酸モノ−2−(メタクリルオキシ)エチル、およびマレイン酸モノ−2−(メタクリルオキシ)エチルが挙げられる。
【0073】
これらの酸の組み合わせは、有機相溶性および反応性が付与されることでも望ましい。重金属酸化物の表面処理に有用なその他の好適な酸混合物としては、オレイン酸、ステアリン酸、およびオクタン酸などの脂肪族カルボン酸、メトキシフェニル酢酸および3,4,5−トリエトキシ安息香酸などの芳香族非反応性酸、ならびにイタコン酸、トルエンスルホン酸、リン酸メタクリル酸エチレングリコール、これらの酸の塩、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0074】
本発明の歯科材料は硬化性樹脂を含む。これらの樹脂は好ましくは、硬化してポリマー網目構造を形成することができる熱硬化性樹脂が一般的であり、例としては、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましくは硬化性樹脂は、1種類以上のマトリックス形成性のオリゴマー、モノマー、またはポリマー、あるいはそれらの混合物から調製される。
【0075】
本発明の歯科材料が歯科用コンポジット材料である好ましい実施態様では、使用に好適な重合性樹脂としては、口腔環境での使用に好適となるのに十分な強度、加水分解安定性、および非毒性を有する硬化性有機樹脂が挙げられる。このような樹脂の例としては、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、カルバモイルイソシアヌレート樹脂、およびエポキシ樹脂、例えば米国特許第3,066,112号、第3,539,533号、第3,629,187号、第3,709,866号、第3,751,399号、第3,766,132号、第3,860,556号、第4,002,669号、第4,115,346号、第4,259,117号、第4,292,029号、第4,308,190号、第4,327,014号、第4,379,695号、第4,387,240号、および第4,404,150号に記載の樹脂、ならびにこれらの混合物および誘導体が挙げられる。
【0076】
好ましい硬化性樹脂の一種は、フリーラジカル活性官能基を有する材料であり、1つ以上のエチレン系不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーが挙げられる。別の種類としては、硬化性樹脂は、カチオン活性官能基を含有する種類の樹脂から得られる材料であってもよい。さらに別の種類としては、カチオン硬化性樹脂とフリーラジカル重合性樹脂の両方を含む硬化性樹脂混合物が、本発明の歯科材料で使用される場合もある。
【0077】
フリーラジカル活性官能基を有する硬化性樹脂の種類では、本発明での使用に好適な材料は、少なくとも1つのエチレン系不飽和結合を含有し、付加重合を進行させることができる。このようなフリーラジカル重合性材料としては、モノ、ジ、またはポリアクリレートおよびメタクリレート、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸アリル、グリセロールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、ビスフェノールAのメタクリル酸ジグリシジルエステル(「Bis−GMA」)、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジエチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、およびトリヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;分子量200〜500のポリエチレングリコールのビスアクリレートおよびビスメタクリレート、米国特許第4,652,274号に記載されるようなアクリル化モノマーの共重合性混合物、ならびに米国特許第4,642,126号に記載されるようなあるリルかオリゴマー;ならびにスチレン、フタル酸ジアリル、コハク酸ジビニル、アジピン酸ジビニル、およびフタル酸ジビニルなどのビニル化合物が挙げられる。これらのフリーラジカル重合性材料の2種類以上の混合物も希望するのであれば使用することができる。
【0078】
フリーラジカル重合(硬化)の場合、放射線、熱、またはレドックス/自己硬化化学反応によって重合を開始する系から開始系を選択することができる。フリーラジカル活性官能基の重合を開始することができる開始剤の種類としては、フリーラジカル生成光開始剤が挙げられ、任意に光増感剤または促進剤と併用される。一般に、このような開始剤は、200〜800nmの間の波長を有する光エネルギーに曝露することによって付加重合のためのフリーラジカルを生成することができるものであってもよい。
【0079】
種々の可視または近赤外光開始剤系を、本発明で有用なフリーラジカル重合性材料の光重合に使用することができる。例えば、フリーラジカル重合(硬化)では、光開始系は、米国特許第4,071,424号に記載されるようなアミンとα−ジケトンの2成分系によって重合が開始する系から選択することができる。あるいは、米国特許第5,545,676号に記載されるような三成分すなわち三元光開始剤系と樹脂を組み合わせることもできる。
【0080】
三元光開始剤系では、第1の成分はヨードニウム塩、すなわちジアリールヨードニウム塩である。このヨードニウム塩は好ましくはモノマー中に溶解性であり、増感剤および供与体の存在下で溶解させた場合に貯蔵安定性である(すなわち自発的に重合を促進しない)。したがって、特定のヨードニウム塩の選択は、選択した特定のモノマー、ポリマー、またはオリゴマー、増感剤、および供与体によってある程度依存しうる。好適なヨードニウム塩は、米国特許第3,729,313号、第3,741,769号、第3,808,006号、第4,250,053号、および第4,394,403号に記載されている。ヨードニウム塩は、単塩(例えば、Cl-、Br-、I-、またはC45SO3-などの陰イオンを含有する)であってもよいし、あるいは金属錯塩(例えば、SbF5OH-またはAsF6-を含有する)であってもよい。希望するのであればヨードニウム塩の混合物を使用することもできる。好ましいヨードニウム塩としては、塩化ジフェニルヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジフェニルヨードニウム、およびテトラフルオロホウ酸ジフェニルヨードニウムなどのジフェニルヨードニウム塩が挙げられる。
【0081】
三元光開始剤系の第2の成分は増感剤である。この増感剤はモノマーに対して溶解性であることが望ましく、400〜1200nm、より好ましくは400〜700nm、最も好ましくは400〜約600nmの波長範囲内付近の光を吸収することができる。増感剤は、米国特許第3,729,313号に記載の試験手順を使用して2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンを増感することもできる。好ましくは、この試験に合格すること以外に、増感剤はある程度貯蔵安定性を考慮することによって選択される。したがって、特定の増感剤の選択は、選択した特定のモノマー、オリゴマー、またはポリマー、ヨードニウム塩、および供与体によってある程度依存しうる。
【0082】
好適な増感剤としては、以下の分類の化合物を挙げることができる:ケトン類、クマリン染料(例えばケトクマリン類)、キサンテン染料、アクリジン染料、チアゾール染料、チアジン染料、オキサジン染料、アジン染料、アミノケトン染料、ポルフィリン類、芳香族多環式炭化水素、p−置換アミノスチリルケトン化合物、アミノトリアリールメタン類、メロシアニン類、スクアリリウム染料、およびピリジニウム染料。ケトン類(例えばモノケトン類またはα−ジケトン類)、ケトクマリン類、アミノアリールケトン類、およびp−置換アミノスチリルケトン化合物が好ましい増感剤である。高い感受性が要求される用途では、ジュロリジニル部分を含有する増感剤を使用することが好ましい。深部の硬化(例えば高充填コンポジット材料の硬化)が要求される用途では、光重合で照射される所望の波長における吸光係数が約1000未満、より好ましくは約100未満である増感剤を使用することが好ましい。あるいは、放射線照射によって励起波長の光の吸収によって還元される染料を使用することもできる。
【0083】
例えば、好ましい種類のケトン増感剤は、式:
ACO(X)b
を有し、式中、XはCOまたはCR56であり、R5とR6は同種でも異種でもよく、水素、アルキル、アルカリール、またはアラルキルとなることができ、bは0または1であり、AとBは同種でも異種でもよく、置換(1つ以上の非干渉性置換基を有する)または未置換のアリール基、アルキル基、アルカリール基、またはアラルキル基となることができるか、あるいはAとBを合わせたものが、置換または未置換の脂環式、芳香環、複素環式芳香環、または縮合芳香環となりうる環状構造を形成することができる。
【0084】
上式の好適なケトンとしては、2,2−、4,4−、または2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ジ−2−ピリジルケトン、ジ−2−フラニルケトン、ジ−2−チオフェニルケトン、ベンゾイン、フルオレノン、カルコン、ミヒラー(Michler)のケトン、2−フルオロ−9−フルオレノン、2−クロロチオキサントン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、1−または2−アセトナフトン、9−アセチルアントラセン、2−、3−、または9−アセチルフェナントレン、4−アセチルビフェニル、プロピオフェノン、n−ブチロフェノン、バレロフェノン、2−、3−、または4−アセチルピリジン、3−アセチルクマリンなどのモノケトン(b=0)が挙げられる。好適なジケトンとしては、アントラキノン、フェナントレンキノン、o−、m−、およびp−ジアセチルベンゼン、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−、1,7−、および1,8−ジアセチルナフタレン、1,5−、1,8−、および9,10−ジアセチルアントラセンなどのアラルキルジケトンが挙げられる。好適なα−ジケトン(b=1およびX=CO)としては、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、2,3−ヘキサンジオン、3,4−ヘキサンジオン、2,3−ヘプタンジオン、3,4−ヘプタンジオン、2,3−オクタンジオン、4,5−オクタンジオン、ベンジル、2,2’−、3,3’−、および4,4’−ジヒドロキシベンジル、フリル、ジ−3,3’−インドリルエタンジオン、2,3−ボルナンジオン(カンファーキノン)、ビアセチル、1,2−シクロヘキサンジオン、1,2−ナフタキノン、アセナフタキノンなどが挙げられる。
【0085】
三元開始剤系の第3の成分は供与体である。好ましい供与体としては、例えばアミン類(アミノアルデヒドおよびアミノシランを含む)、アミド類(ホスホルアミドを含む)、エーテル類(チオエーテルを含む)、尿素類(チオ尿素を含む)、フェロセン、スルフィン酸類およびそれらの塩、フェロシアン化物塩、アスコルビン酸およびその塩、ジチオカルバミン酸およびその塩、キサントゲン酸塩、エチレンジアミン四酢酸の塩、およびテトラフェニルボロン酸の塩が挙げられる。供与体は、未置換であってもよいし、1つ以上の非干渉性置換基で置換されていてもよい。特に好ましい供与体は、窒素原子、酸素原子、リン原子、または硫黄原子などの電子供与原子と、電子供与原子に対してα位の炭素原子またはケイ素原子と結合した引抜き可能な水素原子とを含む。多種多様な供与体が米国特許第5,545,676号に開示されている。
【0086】
あるいは、本発明で有用なフリーラジカル開始剤としては、欧州特許出願第173567号、米国特許第4,737,593号、および英国特許第2,310,855号に記載されるようなアシルホスフィンホスフィド類が挙げられる。このようなアシルホスフィンホスフィド類は、一般式
(R92−P(=O)−C(=O)−R10
を有し、式中の各R9は個別に、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアラルキルなどのヒドロカルビル基であってよく、これらの任意のものはハロ基、アルキル基、またはアルコキシ基で置換されてもよく、あるいは2つのR9基が結合して、リン原子と共に環構造を形成することができ、式中のR10は、ヒドロカルビル基、S−、O−、またはN−含有5または6員複素環基、または−Z−C(=O)−P(=O)−(R92基であり、式中のZは、2〜6個の炭素原子を有するアルキレンまたはフェニレンなどの2価のヒドロカルビル基を表す。
【0087】
本発明で有用な好ましいアシルホスフィンオキシドは、R9基およびR10基がフェニル、あるいは低級アルキル置換フェニル、または低級アルコキシ置換フェニルであるアシルホスフィンオキシドである。「低級アルキル」および「低級アルコキシ」は、1〜4個の炭素原子を有するそのような基を意味する。最も好ましくは、アシルホスフィンオキシドはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURETM 819、Ciba Specialty Chemicals(Tarrytown、ニューヨーク))である。
【0088】
第3級アミン還元剤をアシルホスフィンオキシドと併用することができる。本発明で有用な代表的な第3級アミンとしては、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチルおよびメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルが挙げられる。開始剤は、触媒的有効量で使用することができ、例えば、存在するエチレン系不飽和化合物の重量を基準にして約0.1〜約5重量%のアシルホスフィンオキシドと、存在するエチレン系不飽和化合物の重量を基準にして約0.1〜約5重量%の第3級アミンとを使用することができる。
【0089】
400nm〜1200nmの波長で放射線照射した場合にフリーラジカル反応を開始させることができる市販のホスフィンオキシド光開始剤としては、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの重量比25:75混合物(IRGACURETM 1700、Ciba Specialty Chemicals)、2−ベンジル−2−(N,N−ジメチルアミノ)−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン(IRGACURETM 369、Ciba Specialty Chemicals)、ビス(η5−2,4−lシクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタン(IRGACURETM 784 DC、Ciba Specialty Chemicals)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの重量比1:1混合物(DAROCURTM 4265、Ciba Specialty Chemicals)、およびホスフィン酸エチル−2,4,6−トリメチルベンジルフェニル(LUCIRINTM LR8893X、BASF Corp.(Charlotte、ノースカロライナ))が挙げられる。
【0090】
本発明の歯科材料に別の選択として使用することができる別種のフリーラジカル開始剤系としては、ホウ酸陰イオンと相補的な陽イオン染料とを含むイオン性染料−対イオン複合開始剤の種類が挙げられる。
【0091】
ホウ酸塩光開始剤は、例えば、米国特許第4,772,530号、第4,954,414号、第4,874,450号、第5,055,372号、および第5,057,393号に記載されており、これらの開示内容を本明細書に援用する。
【0092】
これらの光開始剤に有用なホウ酸陰イオンは一般に、式
1234-
で表すことができ、式中、R1、R2、R3、およびR4は独立に、アルキル基、アリール基、アルカリール基、アリル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂環式基、および飽和または不飽和複素環式基となることができる。好ましくはR2、R3、およびR4はアリール基であり、より好ましくはフェニル基であり、好ましくはR1はアルキル基であり、より好ましくは第2級アルキル基である。
【0093】
陽イオン対イオンとしては、陽イオン染料、第4級アンモニウム基、遷移金属配位錯体などを挙げることができる。対イオンとして有用な陽イオン染料としては、陽イオン性のメチン染料、ポリメチン染料、トリアリールメチン染料、インドリン染料、チアジン染料、キサンテン染料、オキサジン染料、またはアクリジン染料を挙げることができる。より具体的には、これらの染料として陽イオン性のシアニン染料、カルボシアニン染料、ヘミシアニン染料、ローダミン染料、およびアゾメチン染料を挙げることができる。有用な陽イオン染料の具体例としては、メチレンブルー、サフラニンO、およびマラカイトグリーンが挙げられる。対イオンとして有用な第4級アンモニウム基としては、トリメチルセチルアンモニウム、セチルピリジニウム、およびテトラメチルアンモニウムを挙げることができる。その他の親有機性陽イオンとしては、ピリジニウム、ホスホニウム、およびスルホニウムを挙げることができる。使用することができる感光性遷移金属配位錯体としては、コバルト、ルテニウム、オスミウム、亜鉛、鉄、およびイリジウムと、ピリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、3,4,7,8−テトラメチルフェナントロリン、2,4,6−トリ(2−ピリジル−s−トリアジン)、および関連配位子などの配位子との錯体が挙げられる。
【0094】
フリーラジカル活性官能基の重合を開始させることができるさらに別の種類の開始剤としては、酸化物とアミンの組み合わせなどの従来の化学開始剤系が挙げられる。熱酸化還元反応に依拠するこれらの開始剤は、「自己硬化触媒」と呼ばれることが多い。これらの開始剤は通常2成分系で供給され、これらの反応物質は互いに別々に保管され、使用直前に混合される。
【0095】
さらに別の方法では、フリーラジカル活性基の硬化または重合を開始させるために熱を使用することができる。本発明の歯科材料に好適な熱源の例としては、誘導、対流、および輻射が挙げられる。熱源は、通常条件または加圧条件において少なくとも40℃〜15℃の温度を発生可能であるべきである。この手順は、口腔環境の外部で材料の重合を開始する場合に好ましい。
【0096】
本発明の歯科材料に有用な、フリーラジカル活性官能基の重合開始が可能なさらに別の開始剤の種類は、フリーラジカルを生成する熱開始剤を含む種類である。例としては、過酸化ベンゾイルや過酸化ラウリルなどの過酸化物、ならびに2,2−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物が挙げられる。
【0097】
本発明の歯科材料に有用な硬化性樹脂の別の種類は、カチオン活性官能基を含むことができる。カチオン活性官能基を有する材料としては、カチオン重合性のエポキシ樹脂、ビニルエーテル類、オキセタン類、スピロ−オルトカーボネート類、スピロ−オルトエステル類などが挙げられる。
【0098】
カチオン活性官能基を有する好ましい材料はエポキシ樹脂である。このような材料は、開環によって重合可能なオキシラン環、すなわち式
【化1】

の基を有する有機化合物である。このような材料としては、モノマーのエポキシ化合物、およびポリマー型のエポキシドが挙げられ、これらは脂肪族、脂環式、芳香族、または複素環式であってよい。これらの材料は一般に平均で1分子当り少なくとも1つの重合性エポキシ基を有し、好ましくは1分子当り少なくとも約1.5個、より好ましくは少なくとも約2個の重合性エポキシ基を有する。ポリマーエポキシドとしては、末端エポキシ基を有する線状ポリマー(例えばポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、骨格オキシラン単位を有するポリマー(例えばポリブタジエンポリエポキシド)、およびペンダントエポキシ基を有するポリマー(例えばメタクリル酸グリシジルポリマーまたはコポリマー)が挙げられる。エポキシドは純粋化合物であってもよいし、あるいは1分子当り1、2またはそれを超える数のエポキシ基を含有する化合物の混合物であってもよい。1分子当りのエポキシ基の「平均」数は、エポキシ含有材料の全エポキシ基数を、存在するエポキシ含有分子の総数で割ることで求められる。
【0099】
これらのエポキシ含有材料は、低分子量モノマー材料から高分子量ポリマーまで多様であり、これらの主鎖および置換基の性質も一般に非常に多様となる。許容しうる置換基の例としては、ハロゲン、エステル基、エーテル、スルホン酸基、シロキサン基、ニトロ基、リン酸基などが挙げられる。エポキシ含有材料の分子量は約58〜約100,000またはそれを超える分子量まで変動しうる。
【0100】
有用なエポキシ含有材料としては、エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどのシクロヘキサンオキシド基を含有する材料が挙げられ、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、およびアジピン酸ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)が挙げられる。このような性質の有用なエポキシドのより詳細な一覧として米国特許第3,117,099号を参照することができ、この記載内容を本明細書に援用する。
【0101】
本発明の組成物に有用なさらにべつのエポキシ含有材料としては、式
【化2】

のグリシジルエーテルモノマーが挙げられ、式中、R’はアルキルまたはアリールであり、nは1〜6の整数である。例としては、多価フェノールを過剰のクロロヒドリン(例えばエピクロロヒドリン)と反応させることによって得られる多価フェノールのグリシジルエーテル(例えば2,2−ビス−(2,3−エポキシプロポキシフェノール)−プロパンのジグリシジルエーテル)のジグリシジルエーテルが挙げられる。この種類のエポキシドのさらに別の例は米国特許第3,018,262号(この記載内容を本明細書に援用する)、およびLeeおよびNeville著「Handbook of Epoxy Resins(エポキシ樹脂ハンドブック)」(McGraw−Hill Book Co.、New York(1967))に記載されている。
【0102】
さらに別の種類のエポキシ樹脂は、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートなどのアクリル酸エステルまたはグリシドールと、1種類以上の共重合性ビニル化合物とのコポリマーを含有する。このようなコポリマーの例は、1:1スチレン−グリシジルメタクリレート、1:1メチルメタクリレート−グリシジルアクリレート、および62.5:24:13.5メチルメタクリレート−アクリル酸エチル−グリシジルメタクリレートである。
【0103】
その他の有用なエポキシ樹脂は公知であり、エピクロロヒドリン類、プロピレンオキシド、スチレンオキシドなどのアルキレンオキシド、ブタジエンオキシドなどのアルケニルオキシド、グリシッド酸エチルなどのグリシジルエステルなどのエポキシドを含有する。
【0104】
種々のエポキシ含有材料の混合物も考慮される。このような混合物の例としては、低分子量(200未満)、中間分子量(約200〜10,000)、およびより高分子量(約10,000を超える)などの2つ以上の重量平均分子量分布のエポキシ含有化合物が挙げられる。これに加えてあるいはこれとは別に、エポキシ樹脂は、脂肪族と芳香族、あるいは極性と非極性などの官能性など異なる化学的性質を有するエポキシ含有材料の混合物を含有してもよい。
【0105】
本発明で使用可能な市販のエポキシ樹脂は多数存在する。特に、容易に入手可能なエポキシドとしては、オクタデシレンオキシド、エピクロロヒドリン、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシドール、メタクリル酸グリシジル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(例えば、Shell Chemical Co.より商品名「Epon 828」、「Epon 825」、「Epon 1004」、および「Epon 1010」で入手可能なもの、ならびにDow Chemical Co.より商品名「DER−331」、「DER−332」、および「DER−334」で入手可能なもの)、ビニルシクロヘキセンジオキシド(例えば、Union Carbide Corp.の「ERL−4206」)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(例えば、Union Carbide Corp.の「ERL−4221」または「CYRACURE UVR 6110」または「UVR 6105」)、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキセンカルボキシレート(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−4201」)、アジピン酸ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−4289」)、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−0400」)、ポリプロピレングリコールを修飾して得た脂肪族エポキシ(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−4050」および「ERL−4052」)、ジペンテンジオキシド(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−4269」)、エポキシ化ポリブタジエン(例えばFMC Corp.の「Oxiron 2001」)、エポキシ官能性を有するシリコーン樹脂、難燃性エポキシ樹脂(例えばDow Chemical Co.より入手可能である臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂の「DER−580」)、フェノールホルムアルデヒドノボラックの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(例えばDow Chemical Co.の「DEN−431」および「DEN−438」)、およびレゾルシノールジグリシジルエーテル(例えばKoppers Company,Inc.の「Kopoxite」)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−4299」または「UVR−6128」)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン(例えばUnion Carbide Corp.の「ERL−4234」)、ビニルシクロヘキセンモノオキシド1,2−エポキシヘキサデカン(例えばUnion Carbide Corp.の「UVR−6216」)、アルキルグリシジルエーテル、例えば、アルキルC8〜C10グリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 7」)、アルキルC12〜C14グリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 8」)、ブチルグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 61」)、クレシルグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 62」)、p−terブチルフェニルグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 65」)、多官能性グリシジルエーテル、例えば、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 67」)、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 68」)、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 107」)、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 44」)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 48」)、脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 84」)、ポリグリコールジエポキシド(例えばShell Chemical Co.の「HELOXY Modifier 32」)、ビスフェノールFエポキシド(例えばCiba−Geigy Corp.の「EPN−1138」または「GY−281」)、9,9−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]フルオレノン(例えばShell Chemical Co.の「Epon 1079」)が挙げられる。
【0106】
1種類以上のエポキシ樹脂を互いに混合して使用することも本発明の範囲内である。異なる種類の樹脂が任意の比率で存在することができる。
【0107】
任意に、一価アルコールおよび多価アルコールを、エポキシ樹脂の鎖延長剤として本発明の硬化性組成物に加えることができる。本発明で使用されるヒドロキシル含有材料は、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのヒドロキシル基を有する任意の有機材料であってよい。
【0108】
好ましくは、ヒドロキシル含有材料は、2つ以上の第1級または第2級脂肪族ヒドロキシル基(すなわち、ヒドロキシル基が非芳香族炭素原子と直接結合している)を含有する。ヒドロキシル基は末端に配置していてもよいし、あるいはポリマーまたはコポリマーのペンダント基であってもよい。ヒドロキシル含有有機材料の分子量は、非常に低分子量(例えば32)から非常に高分子量(例えば100万以上)までを変動しうる。好適なヒドロキシル含有材料は、低分子量(すなわち約32〜200)、中間分子量(すなわち約200〜10,000)、または高分子量(すなわち約10,000を超える)であってよい。本明細書で使用される場合、すべての分子量は重量平均分子量である。
【0109】
ヒドロキシル含有材料は、室温でのカチオン硬化に実質的に干渉しない別の官能基を任意に含有することができる。したがって、ヒドロキシル含有材料は非芳香族であってもよいし、芳香族官能基を含有することもできる。最終的なヒドロキシル含有材料が室温でのカチオン硬化に実質的に干渉しない限りは、ヒドロキシル含有材料は任意に窒素、酸素、硫黄などのヘテロ原子を分子主鎖中に含有することができる。例えば、ヒドロキシル含有材料は、天然または合成のセルロース系材料から選択することができる。当然ながら、ヒドロキシル含有材料は、熱的または光分解的に不安定となりうる基も実質的に含有せず、すなわち、約100℃より低温、または光共重合性組成物に望ましい硬化条件中に使用されうる化学線の存在下で、材料が分解したり揮発成分を放出したりしない。有用なヒドロキシル含有材料は、例えば米国特許第5,856,373号(この記載内容を本明細書に援用する)に記載されている。
【0110】
本発明の組成物に使用されるヒドロキシル含有有機材料の量は、ヒドロキシル含有材料のエポキシドに対する相溶性、ヒドロキシル含有材料の当量および官能基数、最終硬化組成物に望まれる物理的性質、光硬化に望まれる速度などの要因によって広範囲を変動しうる。
【0111】
種々のヒドロキシル含有材料の混合物が本発明の歯科材料に有用な場合もある。このような混合物の例としては、低分子量(200未満)、中間分子量(約200〜10,000)、およびより高分子量(約10,000を超える)などの2つ以上の分子量分布のヒドロキシル含有化合物が挙げられる。これに加えてあるいはこれとは別に、ヒドロキシル含有材料は、脂肪族と芳香族、あるいは極性と非極性などの官能性など異なる化学的性質を有するヒドロキシル含有材料混合物を含むことができる。さらに別の例として、2種類以上の多官能性ヒドロキシ材料の混合物、または1種類以上の1官能性ヒドロキシ材料と多官能性ヒドロキシ材料の混合物を使用することができる。
【0112】
カチオン活性官能基を含む硬化性樹脂の場合、放射線、熱、またはレドックス/自己硬化化学反応によって重合を開始する系から開始系を選択することができる。例えば、エポキシの重合は、酸無水物やアミン類などの熱硬化剤を使用することによって行われる。特に有用な酸無水物硬化剤の例はcis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物である。
【0113】
別の方法で好ましいものとしては、カチオン活性官能基を含む樹脂の開始系は、光活性化される開始系である。触媒および光開始剤の産業で認識されている広範な種類のカチオン光活性化基を本発明の実施に使用することができる。光活性化カチオン核、光活性化カチオン部分、および光活性化カチオン有機化合物は当技術分野で公知の種類の材料であり、例えば米国特許第4,250,311号、第3,708,296号、第4,069,055号、第4,216,288号、第5,084,586号、第5,124,417号、第4,985,340号、第5,089,536号、および第5,856,373号に記載されている。
【0114】
カチオン硬化性材料は、前述の3成分すなわち三元光開始剤系と組み合わせることができる。3成分開始剤系は、米国特許出願第08/838,835号(現在は許可されている)および米国特許第5,998,495号にも記載されている。
【0115】
カチオン硬化性樹脂を硬化する場合、有用な芳香族ヨードニウム錯塩(すなわち三元光開始剤の第1の成分)の例としては、テトラフルオロホウ酸ジフェニルヨードニウム、テトラフルオロホウ酸ジ(4−メチルフェニル)ヨードニウム、テトラフルオロホウ酸フェニル−4−メチルフェニルヨードニウム、テトラフルオロホウ酸ジ(4−ヘプチルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(3−ニトロフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(4−クロロフェニル)ヨードニウム、テトラフルオロホウ酸ジ(ナフチル)ヨードニウム、テトラフルオロホウ酸ジ(4−トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジフェニルヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロヒ酸ジフェニルヨードニウム、テトラフルオロホウ酸ジ(4−フェノキシフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸フェニル−2−チエニルヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸3,5−ジメチルピラゾリル−4−フェニルヨードニウム、ヘキサフルオロアンチモン酸ジフェニルヨードニウム、テトラフルオロ2,2’−ジフェニルヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(2,4−ジクロロフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(4−ブロモフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(4−メトキシフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(3−カルボキシフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(3−メトキシカルボニルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(3−メトキシスルホニルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(4−アセトアミドフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジ(2−ベンゾチエニル)ヨードニウム、およびヘキサフルオロアンチモン酸ジフェニルヨードニウム(DPISbF6)が挙げられる。
【0116】
本発明の組成物への使用に好適な芳香族ヨードニウム錯塩の中で、ヘキサフルオロリン酸ジアリールヨードニウムとヘキサフルオロアンチモン酸ジアリールヨードニウムが特に好ましい塩である。これらの塩は、一般により速く反応を促進し、他の錯イオンの有機ヨードニウム塩よりも不活性有機溶媒への溶解性が高いので好ましい。
【0117】
前述したように、三元光開始剤系の第2および第3の成分は、それぞれ増感剤と電子供与体である。本発明の歯科材料のカチオン重合に有用な増感剤は、フリーラジカル硬化材料に関して前述した増感剤である。同様に、本発明の材料のカチオン重合に有用な電子供与体としては、フリーラジカル硬化材料に関して前述した電子供与体が挙げられる。しかしながら、カチオン硬化材料の場合、電子供与体は、米国特許出願第08/838,835号(現在は許可されている)および米国特許第5,998,495号に記載の要求を満たし、重合性組成物に対して溶解性であることが好ましい。選択した重合性材料、ヨードニウム塩、および増感剤の貯蔵安定性および性質などの他の要因を考慮して、供与体を選択することもできる。本発明の系で有用となりうる供与体化合物の種類は、米国特許第5,545,676号に記載される供与体の一部から選択することができる。
【0118】
一般に供与体は、アルキル芳香族ポリエーテルまたはN−アルキルアリールアミノ化合物であり、この場合アリール基は1つ以上の電子吸引基で置換される。好適な電子吸引基の例としては、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ケトン基、アルデヒド基、スルホン酸基、スルホネート基、およびニトリル基が挙げられる。
【0119】
N−アルキルアリールアミノ供与体化合物の好ましい種類は、次の構造式:
【化3】

で表すことができ、式中、各R1は独立に、H、あるいは1つ以上のハロゲンで置換されたアルキル、−CN、−OH、−SH、C1-18アルコキシ、C1-18アルキルチオ、C3-18シクロアルキル、アリール、COOH、COOC1-18アルキル、(C1-18アルキル)0-1−CO−C1-18アルキル、SO32、CN、または1つ以上の電子吸引基で任意に置換されたアリール基であるか、あるいはR1基が結合して環を形成することができ、Arは1つ以上の電子吸引基で置換されたアリールである。好適な電子吸引基としては、−COOH、−COOR2、−SO32、−CN、−CO−C1-18アルキル基、および−C(O)H基が挙げられ、式中R2はC1-18直鎖、分岐、または環状のアルキル基となることができる。
【0120】
アリールアルキルポリエーテルの好ましい種類は、次の構造式:
【化4】

を有し、式中、n=1〜3、各R3は独立に、H、または1つ以上のハロゲンで任意に置換されたC1-18アルキル、−CN、−OH、−SH、C1-18アルコキシ、C1-18アルキルチオ、C3-18シクロアルキル、アリール、置換アリール、−COOH、−COOC1-18アルキル、−(C1-18アルキル)0-1−COH、−(C1-18アルキル)0-1−CO−C1-18アルキル、−CO−C1-18アルキル、−C(O)H、または−C2-18アルケニル基であり、各R4は、1つ以上のハロゲンで任意に置換されたC1-18アルキル、−CN、−OH、−SH、C1-18アルコキシ、C1-18アルキルチオ、C3-18シクロアルキル、アリール、置換アリール、−COOH、−COOC1-18アルキル、−(C1-18アルキル)0-1−COH、−(C1-18アルキル)0-1−CO−C1-18アルキル、−CO−C1-18アルキル、−C(O)H、または−C2-18アルケニル基となることができる。
【0121】
上述の各式において、アルキル基は直鎖または分岐であってよく、シクロアルキル基は好ましくは3〜6個の環炭素原子を有するが、指定数の炭素原子を上限としてさらにアルキル基で置換されてもよい。アリール基は炭素環式アリールまたは複素環式アリールであってよいが、好ましくは炭素環式であり、より好ましくはフェニル環である。
【0122】
好ましい供与体化合物としては、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、3−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノベンゾイン、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド、4−ジメチルアミノベンゾニトリル、および1,2,4−トリメトキシベンゼンが挙げられる。
【0123】
カチオン重合のための別の光開始剤系としては、米国特許第4,985,340号(この記載内容を本明細書に引用する)に開示されるものから選択される金属水素化物または金属アルキル官能性を実質的に含有しない有機金属錯陽イオンの使用が含まれ、これは式:
[(L1)(L2)M]+q
を有し、式中、
Mは、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Pd、Pt、およびNi、好ましくはCr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Pd、およびNi、最も好ましくはMnおよびFeからなる群より選択される金属を表し;
1は、置換および未置換のシクロペンタジエニル、シクロヘキサジエニル、およびシクロヘプタトリエニル、シクロヘプタトリエン、シクロオクタテトラエン、置換または未置換アレーン化合物および2〜4個の縮合環を有する化合物から選択される複素環式化合物および芳香族化合物、ならびに、例えば、ポリスチレン、ポリ(スチレン−コ−ブタジエン)、ポリ(スチレン−コ−メタクリル酸メチル)、ポリ(α−メチルスチレン)などのフェニル基;ポリ(ビニルシクロペンタジエン)のシクロペンタジエン基;ポリ(ビニルピリジン)のピリジン基などのポリマー単位、からなる群より選択される同種または異種の配位子となりうる1または2個の環状多価不飽和配位子を表し、それぞれはMの原子価殻に3〜8個の電子を供与することができ;
2は、一酸化炭素、ケトン、オレフィン、エーテル、ニトロソニウム、ホスフィン類、亜リン酸エステル、ならびにヒ素およびアンチモンの関連誘導体、有機ニトリル、アミン、アルキン、イソニトリル、二窒素の群より選択される同種または異種の配位子となりうる偶数の電子を供与する0個または1〜3個の非陰イオン性配位子を表し、但し、Mに供与される全電子電荷によって錯体の全残留正電荷がqとなり;
qは1または2の整数であり、錯体陽イオンの残留電荷である。
【0124】
有機金属塩は当技術分野において公知であり、欧州特許第094,914号、ならびに米国特許第5,089,536号、第4,868,288号、および第5,073,476号(これらの記載内容を本明細書に援用する)などに記載されるようにして調製することができる。
【0125】
好ましい陽イオンの例としては:
ジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ジドデシルフェニルヨードニウム、(4−オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウム、およびビス(メトキシフェニル)ヨードニウム;
トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、および1,4−フェニレン−ビス(ジフェニルスルホニウム);
ビス(η5−シクロペンタジエニル)鉄(1+)、ビス(η5−メチルシクロペンタジエニル)鉄(1+)、
(η5−シクロペンタジエニル)(η5−メチルシクロペンタジエニル)鉄(1+)、およびビス(η5−トリメチルシリルシクロペンタジエニル)鉄(1+);
ビス(η6−キシレン)鉄(2+)、ビス(η6−メシチレン)鉄(2+)、ビス(η6−ズレン)鉄(2+)、ビス(η6−ペンタメチルベンゼン)鉄(2+)、およびビス(η6−ドデシルベンゼン)鉄(2+);
(η5−シクロペンタジエニル)(η6−キシレン)鉄(1+)(一般には(CpFeXy)(1+)と略記される)、
(η5−シクロペンタジエニル)(η6−トルエン)鉄(1+)、
(η5−シクロペンタジエニル)(η6−メシチレン)鉄(1+)、
(η5−シクロペンタジエニル)(η6−ピレン)鉄(1+)、
(η5−シクロペンタジエニル)(η6−ナフタレン)鉄(1+)、および
(η5−シクロペンタジエニル)(η6−ドデシルフェニル)鉄(1+)
が挙げられる。
【0126】
あるいは、本発明で有用な硬化性樹脂は、カチオン活性およびフリーラジカル活性官能基の両方を1つの分子内に含有することもできる。このような分子は、ジエポキシドまたはポリエポキシドを1当量以上のエチレン系不飽和カルボン酸と反応させることなどによって得ることができる。このような材料の例は、UVR−6105(Union Carbideより入手可能)と1当量のメタクリル酸の反応生成物である。エポキシとフリーラジカル活性官能基を有する市販の材料としては、Cyclomer M−100、M−101、またはA−200などのダイセル化学(日本)より入手可能な「Cyclomer(サイクロマー)」シリーズ、およびRadcure Specialtiesより入手可能なEbecryl−3605が挙げられる。
【0127】
光開始剤化合物は、樹脂系の硬質化または硬化を開始またはその速度増加に有効な量で本発明の歯科材料に加えられることが好ましい。本発明に有用な光重合性組成物は、前述したように安全光条件下で単に成分を混合することによって調製される。希望するならこの混合物を調製する場合に好適な不活性溶剤を使用することができる。本発明の組成物の成分とほとんど反応しない任意の溶剤を使用することができる。好適な溶剤の例としては、アセトン、ジクロロメタン、およびアセトニトリルが挙げられる。重合させる液体材料を、別の重合させる液体または固体材料の溶剤として使用することができる。無溶剤組成物は、単に芳香族ヨードニウム錯塩と増感剤を、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂−ポリオール混合物に、そのまま溶解させるかあるいは溶解促進のため穏やかに加熱して溶解させることによって調製することができる。
【0128】
ゾル(粒子)と硬化性樹脂とを混合するために種々の方法を使用することができる。この調製の目的は、粒子の表面改質を促進すること、ならびに水、過剰な溶剤および/または副産物の塩を除去することである。
【0129】
一般に、本発明の歯科材料の製造方法は、粒子の表面改質後に粒子を硬化性樹脂に混入することを含む。この表面改質工程は、無機ゾルを表面改質剤と混合することを含む。任意に、この時点でメトキシプロパノールなどの共溶剤を添加することもできる。共溶剤は、表面改質剤および表面改質粒子の溶解性を向上させることができる。続いて無機ゾルと表面改質剤とを含む混合物を室温または高温で、混合しながらまたは混合せずに反応させる。好ましい方法では、混合物を約85℃で約24時間反応させることができ、これによって表面改質ゾルが得られる。組成物の材料に重金属化合物が加えられる場合の好ましい方法では、任意の重金属酸化物の表面処理は、粒子表面への酸性分子の吸着を含むことが好ましい場合がある。重金属酸化物の表面改質は室温で実施することが好ましい。
【0130】
シリカ単独または重金属酸化物との混合物である表面改質粒子は、次に種々の方法によって硬化性樹脂に混入することができる。態様の1つでは、溶剤置換手順が使用され、この手順では、硬化性樹脂を表面改質ゾルに加えた後、蒸発によって水および共溶剤(使用した場合)を除去することによって、硬化性樹脂中に分散した粒子が得られる。蒸発工程は、蒸留、ロータリーエバポレーター、またはオーブン乾燥などによって行うことができる。
【0131】
別の態様では、表面改質粒子を水と非混和性の溶剤で抽出した後に、希望するなら溶媒置換することができる。
【0132】
あるいは、シリカと硬化性樹脂を混合するもう1つの方法は、改質した粒子を乾燥させて粉末にした後、樹脂材料を加えて粒子を分散させることを含む。この方法における乾燥工程は、例えばオーブン乾燥または噴霧乾燥などの系に好適な従来手段によって行うことができる。噴霧乾燥法が使用される場合、入口温度は好ましくは約200℃であり、出口温度は好ましくは約85℃〜100℃の間である。別の態様では、従来のオーブン乾燥を、約70℃〜90℃の間で約2〜4時間実施することができる。
【0133】
あるいは、さらに別の態様では、表面改質粒子をろ過して固形分を得ることができ、これを乾燥させて粉末にすることができる。この方法は、表面処理が水性媒体と非相溶性であるために表面改質水性ゾルの粒子が塊状化している場合に好ましい。次に、乾燥しろ過した粒子に硬化性樹脂を加えることによって本発明の歯科材料が得られる。
【0134】
本発明の歯科材料は、口腔環境での使用に好適な別の補助剤を任意に含むことができ、そのような補助剤としては例えば、着色剤、香味料、抗菌剤、芳香剤、安定剤、粘度調整剤、およびフッ化物放出材料が挙げられる。例えば、フッ化物放出ガラスを本発明の材料に加えることによって、口腔などで使用する場合にフッ化物を長期間にわたって放出させることができる。フルオロアルミノケイ酸ガラスが特に好ましい。米国特許第5,332,429号に記載されるシラノール処理フルオロアルミノケイ酸ガラス充填剤が特に好ましい。その他の好適な補助剤としては、蛍光および/または乳光を付与する物質が挙げられる。
【0135】
本発明の硬化性樹脂および充填剤を含む本発明の歯科材料を使用する好ましい方法では、本発明の材料を歯の表面付近または表面上に配置した後、開業医または作業所の操作によって材料の形状を変化させ、続いて樹脂を硬化させる。これらの工程は順次実施することができるし、あるいは異なる順序で実施することもできる。例えば、歯科材料がミルブランクまたは補綴材料である場合の好ましい実施態様では、材料の形状を変化させる前に硬化工程を終了させるのが一般的である。補綴材料およびミルブランクの場合には、材料の形状の変化は、手持ち式器具を使用するカービングまたは手動操作、あるいは機械またはCAD/CAM切削装置などのコンピューター援用装置の使用などの種々の方法によって実施することができる。任意に、仕上工程で、歯科材料の研磨、仕上、またはコーティングの適用を行うことができる。
【0136】
以下の実施例は説明のために構成されたものであって、本発明の範囲を限定するものではない。他に明記しない限りは、すべての部およびパーセンテージは重量を基準としている。
【0137】
試験方法
平均粒径測定
約80nmの厚さの試料を、炭素安定化ホルムバール基材を有する200メッシュ銅製グリッド(Structure Probe,Inc.の一部門のSPI Supplies(West Chester、ペンシルバニア))上に配置する。透過型電子顕微鏡写真(TEM)をJEOL 200CX(JEOL,Ltd.(昭島、日本)、販売はJEOL USA,Inc.)を200kVで使用して撮影する。約50〜100粒子の集団サイズを測定することができ、平均直径が求められる。
【0138】
直径引張強さ(DTS)および圧縮強さ(CS)試験
それぞれISO試験手順4049(1988)のADA(「American Dental Association(米国歯学会)」)規格第9番およびADA規格第27番に従ってすべてのDTS試験およびCS試験を行った。具体的には、圧縮強さ(「CS」)および直径引張強さ(「DTS」)の測定の場合、組成物を内径4mmのガラス管に詰込み、シリコンゴム栓でふたをして、約0.28MPaで15分間軸方向に圧縮した後、2つの対向して配置するVisilux 2TM(3M Co(St.Paul、ミネソタ)装置に80秒間曝露して光硬化させた。次に、Dentacolor XS装置(Kulzer,Inc.(ドイツ))を使用して各試料に90秒間放射線照射した。硬化した試料をダイヤモンドソーを使用して切断し、CS測定用の長さ8mmの円筒形プラグとDTS測定用の長さ2mmの円筒形プラグを製造した。これらのプラグを37℃の水中で24時間保管した。InstronTM(Instron 4505、Instron Corp.(Canton、マサチューセッツ))を使用して各組成物のCS値およびDTS値を測定した。
【0139】
これらの試料の圧縮強さ(CS)は、10kNロードセルを使用してInstronで測定した。長さ約8mmで直径4mmの硬化コンポジッドのシリンダー試料を全部で5個製造した。
【0140】
これらの試料の直径引張強さ(DTS)は、10kNロードセルを使用してInstronで測定した。長さ約2mmで直径4mmの硬化コンポジッドのシリンダー試料を全部で5個製造した。
【0141】
視覚的不透明度および放射線不透過性試験
厚さ1mmで直径20mmの円板状コンポジット試料に、円板から6mmの距離で両側に60秒間Visilux 2TM(3M Co(St.Paul、ミネソタ))硬化用ライトを照射して硬化させた。次に、以下のようにして硬化コンポジット試料の視覚的不透明度と放射線不透過性を評価した。
【0142】
可視光フィルターを取り付けたMacBeth透過濃度計Model TD−903(MacBethより入手可能(MacBeth、Newburgh、ニューヨーク)を使用して円板の厚さ方向を透過する光の透過率を測定することによって、硬化コンポジット試料の直接光透過率を測定した。
【0143】
放射線不透過性測定については、ISO試験手順4049(1988)に準拠した手順を使用した。具体的には、Gendex GX−770歯科用X線(Milwaukee、ウィスコンシン)装置を7mAおよびピーク電圧70kVで距離約400mmで使用して、硬化コンポジット試料を0.73秒間放射線に曝露した。X線ネガは、Air Techniques Peri−Pro自動フィルム現像機(Hicksville、ニューヨーク)を使用して現像した。
【0144】
クリスタリット粒径および結晶形含有率
米国特許出願第55200USA5A号による乾燥ジルコニア試料を、乳鉢と乳棒を使用して手で粉砕して粒径を小さくした。表面に両面テープを接着しておいた顕微鏡用スライドガラスに十分な量の試料をスパチュラで配置し、スパチュラの刃の部分でテープに試料を押し付けてテープ上の接着剤に押し込んだ。スパチュラの刃の端で試料領域をすくい取ることによって余分な試料を除去すると、接着剤に接着した粒子の薄層が残留した。すくい取った後に残留する弱く接着した材料は、顕微鏡用スライドガラスを硬質面に向けて強くたたくことで除去した。同様の手順で、コランダム(Linde 1.0μmアルミナ研磨粉、ロット番号C062、Union Carbide(Indianapolis、インディアナ))の試料も製造し、回折計の装置の広がりの較正に使用した。
【0145】
銅Kα放射線とInel CPS120(Inel Inc(Stratham、ニューハンプシャー))散乱放射線位置敏感型検出器とを備えた回折計を使用して、X線回折スキャンを得た。この検出装置は0.03°(2θ)の公称角分解能を有し、0〜115°(2θ)の散乱データが得られる。X線発生器は40kVおよび10mAに設定して作動させ、固定入射ビームスリットを使用した。6°の固定取出(入射)角で60分間データを集めた。数個のコランダム試料のそれぞれで3つの異なる領域について、コランダム標準試料のデータ収集を行った。薄層試料搭載スライドの3つの異なる領域でデータを集めた。
【0146】
ICDD粉末回折データベース(1〜47セット、International Center for Diffraction Data(Newton Square、ペンシルバニア))に含まれる基準回折パターンと得られた回折ピークを比較して同定し、ジルコニアの結晶形の立方晶系/正方晶系(C/T)または単斜晶系(M)のいずれに帰属した。各ジルコニア結晶形の量は相対的基準によって評価し、最も強い回折ピークを有するジルコニアの結晶形を相対強度値100とした。最高強度ラインを基準にして、残りのジルコニア結晶形のそれぞれの最も強いラインを評価して1〜100の間の値を付けた。
【0147】
コランダムで観察された回折極大値のピーク幅をプロファイルフィッティングによって求めた。これらのデータに多項式をフィッティングさせて、コランダム試験範囲内のすべてのピーク位置における装置の広がりを評価するのに使用する連続関数を得ることによって、平均コランダムピーク幅とコランダムピーク位置(2θ)の間の関係を求めた。ジルコニアで観察された回折極大値におけるピーク幅は、観察された回折ピークのプロファイルフィッティングによって求めた。後述のピーク幅は、存在することが分かったジルコニア相:
立方晶系/正方晶系(C/T):(111)
単斜晶系(M):(−111)および(111)
に基づいて評価した。
【0148】
α1およびKα2波長成分を考慮したPearson VIIピーク形状モデルと線形バックグラウンドモデルを使用して角度の単位を有する半値全幅(FWHM)としてピーク幅を求めた。プロファイルフィッティングは、JADE(バージョン3.1、Materials Data Inc.(Livermore、カリフォルニア))回折ソフトウェアセットを使用して行った。試料ピーク幅は、同じ薄層試料スライドで得られる3つの別々の収集データから求めた。
【0149】
コランダム装置較正による装置の広がりの値と、単位をラジアンに変換した較正ピーク幅とから補間することによって、試料ピークにおける装置の広がりの補正を行った。補正した試料ピーク幅(β)を使用し、シェラー(Scherrer)の式を適用することによって初晶(クリスタリット)サイズを求めた。立方晶/正方晶相(C/T)および単斜晶相(M)の相加平均を計算した。
β=[計算ピークFWHM−装置広がり](ラジアンに変換)
クリスタリットサイズ(D)=Kλ/β(cosθ)
式中:K=形状因子(この場合は0.9)、
λ=波長(1.540598Å)、
β=装置広がりを補正した後の計算ピーク幅(単位ラジアン)、および
θ=1/2ピーク位置(散乱角)。
立方晶/正方晶平均クリスタリットサイズ=
[D(111)area1+D(111)area2+D(111)area3]/3
単斜晶平均クリスタリットサイズ=
[D(−111)area1+D(−111)area2+D(−111)area3
D(111)area1+D(111)area2+D(111)area3]/6
クリスタリットサイズは以下の形式で報告する:
[C/Tクリスタリットサイズ](C/Tの部数)+[Mクリスタリットサイズ]Mの部数)
加重平均=[(%C/T)(C/Tサイズ)+(%M)(Mサイズ)]/100
式中:%C/T=ZrO2ゾルの立方晶および正方晶クリスタリット含有量の寄与する%結晶化度;
C/Tサイズ=立方晶および正方晶クリスタリットサイズ;
%M=ZrO2ゾルの単斜晶系クリスタリット含有量の寄与する%結晶化度;
Mサイズ=単斜晶クリスタリットサイズ。
【0150】
結晶化度
ボールミルおよび/または炭化ホウ素製乳鉢と乳棒を使用した手による粉砕で相標準物質(酸化ジルコニウム、カルシウム安定化Z−1083、ロット番号173077−A−1、CERAC Inc(Milwaukee、ウィスコンシン))の粒径を減少させ、325メッシュふるいを通るようにした。0.400gの試料と、0.100gの質量標準物質(結晶化度を測定する試料に混入する物質であって、試料中に存在するこの物質量を基準にしてX線強度値の規格化を行う)からなる個々の混合物を調製した。タングステン金属粉末(<3μm)を質量標準物質として使用した。試料の混合物にエタノールを加えメノウ製乳鉢と乳棒で混合し、窒素気流下で乾燥させた。結晶化度の基準とするために、相標準物質で構成される同様の混合物を調製した。乾燥させた混合物をスパチュラと小さいはけを使用して乳鉢と乳棒から取り出し、個々の試料容器に移した。各試料の一部を、面一に搭載したガラスインサートを有する試料ホルダー上にエタノールスラリーとして調製した。銅Kα放射線、可変入射スリット、固定出口スリット、黒鉛製回折ビームモノクロメーター、および散乱放射線の比例計数管を備える垂直型Bragg−Bretano回折計(Philips Electronic Instruments(Mahwah、ニュージャージー)製造)を使用して、各試料および相標準物質の混合物について複数回のX線回折スキャン(試料と標準物質の両方で最小限または10スキャン)を得た。0.04°間隔で25〜55°(2θ)についてスキャンを実施した。カウント統計値を向上させるために、標準物質混合物では8秒間の停止時間を使用し、試料混合物では20秒間の停止時間を使用した。X線発生器(Spellman High Voltage Electronics Corporation(Hauppage、ニューヨーク))は40kVおよび20mAの設定で作動させた。ジルコニア相とタングステン相で観察された回折最大値のピーク面積を、25〜55°(2θ)の散乱角範囲内で観察された回折ピークのプロファイルフィッティングによって求めた。存在することが分かったジルコニア相:
立方晶系(C)(111)、(200)、および(220)
正方晶系(T)(101)、(002)/(110)、および(112)/(200)
単斜晶系(M)(−111)、(111)、(002)、(020)、および(200)
に基づいて後出のピーク面積を評価した。
【0151】
内部質量標準物質のX線散乱は、立方晶タングステン(110)のピーク面積測定から求めた。Pearson VIIピーク形状モデルと線形バックグラウンドモデルはすべての場合に使用した。プロファイルフィッティングはJADE(バージョン3.1、Materials Data Inc.(Livermore、カリフォルニア))回折ソフトウェアセットを使用して行った。先に略述したジルコニアピークのピーク面積を合計して、各試料の全ジルコニア散乱強度値[(ジルコニア面積)sample]ならびに標準試料の全ジルコニア散乱強度値[(ジルコニア面積)standard]を求めた。これらの全ジルコニア散乱強度値をそれぞれの立方晶タングステン(110)ピーク面積で割って、各試料の比[Rsample]と相標準物質の比[Rstandard]を求めた。試料と標準物質のそれぞれの複数回の測定から得られた個々の値を使用してRsampleとRstandardの相加平均を計算する。各試料の結晶化度[Xc]をRsample(mean)のRstandard(mean)に対する比として計算した。
sample(i)=[(全ジルコニア面積)sample]/[(タングステン面積)sample
standard(i)=[全ジルコニア面積)standard]/[(タングステン面積)standard
sample(mean)=[ΣRsample(i)]/Nsample
式中、Nsample=試料のスキャン数
standard(mean)=[ΣRstandard(i)]/Nstandard
式中、Nstandard=標準物質ののスキャン数
c=Rsample(mean)/Rstandard(mean)
【0152】
光子相関分光法
この試験は、ゾル中の好適な重金属酸化物の粒径を測定するために使用した。Coulter N4 Submicron Particle Sizer(Coulter Corporation(Miami、フロリダ)より入手可能)を使用して光子相関分光法によってジルコニア粒子の重量平均粒径を求めた。シリンジで圧力をかけて希薄ジルコニアゾル試料を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をガラスキュベットに移した。キュベットの残りの容積には水を満たし、ふたをし、繰返し上下をひっくり返して気泡を除去した。キュベットはよく拭いて指紋とほこりを除去してから測定を行った。適切な濃度のゾルをサンプリングするために光散乱強度を測定した。強度が高すぎる場合は、キュベット内容物の一部を取り出し、残った内容物を水で希釈した。強度が低すぎる場合は、ろ過したゾルをさらに数滴試料に加えて、キュベットを繰返しひっくり返して溶液を混合した。データ取得前に、試料室温度を5分間25℃で平衡化させた。供給されたソフトウェアを使用して角度90°におけるSDP分析(1.0nm〜1000nm)を実施した。この分析は25個ずつのデータで実施した。計算には以下の値を使用した:水の屈折率=1.333、水の粘度0.890cP、およびジルコニア粒子の屈折率=1.9。データ取得は3:20分間の間すぐに行った。記載のPCS数は、この手順の結果の重量分析に基づいた平均直径である。
【0153】
【表1】

【表2】

【0154】
実施例
予備的実施例
樹脂A
成分:重量%
bisGMA:48.58
TEGDMA:49.57
EDMAB:0.6
CPQ:0.25
Tinuvin−p:0.98
樹脂B
成分:重量%
bisGMA:24.18
UDMA:33.85
bisEMA6:33.85
TEGDMA:4.84
CPQ:0.2
DPIHFP:0.5
EDMAB:1.0
BHT:0.1
Norbloc 7966:1.5
【0155】
充填剤A:ヒュームドシリカ
以下のようにして処理ヒュームドシリカOX−50(DeGussa(Hanau、ドイツ))を製造した。3312gのMeOHと720g脱イオン水の溶液を1分間予備混合した。氷酢酸1024gをゆっくりと水に加え、続いて4968gのA−174食塩水を加えた。上記溶液を1時間混合した。加水分解段階の終了時には、溶液は透明となった。この溶液は加水分解後30分以内に使用した。上記溶液と20700gのOX−50粉末を約40分間混合し、得られた処理充填剤を直ちに乾燥したトレイに移し、67℃で3.75時間乾燥させた後、さらに100℃で1.25時間乾燥させた。乾燥した充填剤を、振動ふるい装置(Vortisiv V/S 10010(Salem、オハイオ))に取り付けた74μmナイロンふるいにかけた。
【0156】
充填剤B:ナノサイズジルコニア
14.95gのMEEAAを米国特許第5037579号のジルコニアゾル210gと互いに混合して充填剤Bを調製した。ジルコニアの平均粒径を、前述の光子相関分光法(PCS)を使用して測定すると約60nmであった。2分間十分に混合すると均一な混合物を得た。次に24.36gのPAMAを25gのエタノールに溶解した溶液をビーカーに加えた。電磁撹拌棒を使用して内容物を60分間十分に混合した後に、Buchi噴霧乾燥機(Buchi/Brinkmann Mini Spray Dryer Model 190、Brinkmann Instruments,Inc.(Westbury、ニューヨーク))を入口温度200℃および出口温度85〜100℃で使用して噴霧乾燥した。
【0157】
充填剤C:ナノサイズシリカ
250gのNalco 2329、281.0gのメトキシ−2−プロパノール、および3.72gのA174を完全に混合して充填剤Cを調製した。Nalco 2329は2Lビーカーに計り取った。アルコールとシランは1Lビーカーに計り取り、互いを混合した。かき混ぜながらゆっくりとアルコール溶液をシリカゾルに加えた(1〜2分間)。得られた混合物を80℃で16時間反応させて、改質シリカゾルを得た。水1kgを改質シリカゾルに加えた。入口温度200℃および出口温度85〜100℃でBuchi噴霧乾燥機を使用してこの混合物を噴霧乾燥した。
【0158】
実施例1
それぞれ67%の充填剤Aまたは充填剤Cを、33%の樹脂Aと完全に混合して、2種類の歯科材料1Aおよび1Bを製造した。制御ひずみレオメーター(モデルARES、Rheometric Scientific、ニュージャージー)を使用して材料の粘度を測定した。2つの平行板(直径25mm)の間に間隙1mmで材料試料を配置した。剪断速度を0.0125s-1で開始し0.0937s-1まで対数的に8段階の剪断速度段階で粘度測定を実施した。
【0159】
ヒュームドシリカの充填剤Aを歯科材料の充填剤として単独で使用した場合には、おおむねずり減粘挙動は見られなかった。対照的に、歯科材料が充填剤Cを含有する場合は、ずり減粘挙動が見られた。
【0160】
【表3】

【0161】
実施例2
表7に示されるように充填剤Cの量を変動させて樹脂Bと混合し、3種類の材料を製造した。これらの材料を硬化させ、前述のDTS、VO、およびCS法に従って材料の機械的性質を評価した。
【0162】
【表4】

【0163】
実施例3
実施例3A〜3Dの充填剤を製造するために、表3に記載されるように種々の量のA174(シラン)を、250gのNalco 2329ゾルと281gのメトキシプロパノールの混合物に加えた。Nalco 2329は2Lのビーカーに計り取った。アルコールとシランは1Lビーカーに計り取り、互いに混合した。かき混ぜながらゆっくりとアルコール溶液をシリカゾルに加え(1〜2分間)、約80℃の温度で約16時間維持した。各シラン処理シリカゾルを69gの樹脂Aと混合し、得られた改質有機ゾルを85〜90℃のオーブンで4時間加熱することによって、4種類のシラン処理シリカゾルの溶媒置換を行った。
【0164】
得られた4種類の改質有機ゾルと充填剤Bを完全に混合して、各材料の最終組成が31.5重量%の樹脂A、45.5重量%の紫蘭処理シリカ、および23重量%の充填剤Bとなる材料を製造した。これら4種類の材料を前述の視覚的不透明度およびDTS法に従って硬化させた。視覚的不透明度およびDTSのデータを表3に示す。
【0165】
【表5】

【0166】
実施例4
ScotchbondTM接着剤(3M Co.,St.(Paul、ミネソタ)を充填剤Cと完全に混合して実施例4Aを製造した。同じ接着剤を充填剤BおよびCと混合して実施例4Bを製造した。表4に、各材料の成分の濃度を示している。
【0167】
これら2種類の接着剤の象牙質およびエナメル質に対する接着強さを、以下の手順によって評価した。接着剤組成物1種類当り、同様の年齢および外観の5つのウシ歯を環状アクリル円板に部分的に埋め込んだ。裏材料が紙のグレード120の炭化ケイ素研磨材を宝石用ホイールに取り付けたものを使用して、象牙質とエナメル質を露出させるために各歯の露出部分が平坦になりアクリル円板と平行となるように研削した。この工程中および後の研削および研磨工程中は、歯を連続的に水洗した。裏材料が紙のグレード600炭化ケイ素研磨材を宝石用ホイールに取り付けたものを使用して、歯の研削および研磨をさらに行った。
【0168】
研磨した歯は蒸留水中に保管し、研磨後2時間以内に試験に使用した。研磨した歯を水から取り出し、水をふき取って乾燥させた。ScotchbondTMキット7540S(3M Co.(St.Paul、ミネソタ))を使用し、ScotchbondTMエッチング液を研磨したそれぞれの歯の表面にはけで塗布し、15秒間静置し、蒸留水で洗浄し、続いて水をふき取って乾燥させた。ScotchbondTMプライマー1滴を研磨した各歯の表面にはけで塗布し、直後に圧縮空気を5秒間吹付けて乾燥させた。
【0169】
接着剤4A〜4Bを各歯の表面に塗布し、Visilux 2TM歯科用硬化光を10秒間照射して硬化させた。4mmの貫通する穴を有する厚さ2mmのTEFLON(登録商標)(E.I.Dupont Nemours(Wilmington、デラウェア))シートからあらかじめ製造した型を準備した各歯に押し付け、型の穴の中心軸が歯の表面と直交するようにした。各型の穴にZ100を充填し、Visilux 2TM歯科用硬化光を40秒間照射して硬化させた。
【0170】
歯と型は37Cの蒸留水中で約24時間保管した。次に型を注意深く歯から取り外すと、成形されたボタン状修復材が各歯に取り付けられた状態で残った。
【0171】
ホルダーに取り付けたアクリル円板をInstron装置のジョーに固定し、研磨した歯の表面が引張方向と平行に向かうように取り付けて、接着強さの評価を行った。矯正用ワイヤ(直径0.44mm)の輪を研磨した歯の表面に隣接する修復材ボタンのまわりに配置した。この矯正用ワイヤの末端をInstron装置の引張ジョーに固定し、接着剤に剪断応力がかかるようにした。クロスヘット速度を2mm/分として、接着剤(あるいは象牙質またはボタン)が破壊されるまで接着剤に応力をかけた。良好な接着性が観察された。
【0172】
【表6】

【0173】
実施例5
表5に5A〜5Dで示されるゾル、メトキシプロパノール、およびシランを丸底フラスコに加え、ロータリーエバポレーターに取り付けた。5Aと5Bについては、混合物を45℃で約2時間混合した。5Cと5Dについては、混合物を90℃で約1時間混合した。5Eについては、混合物を45℃で約1時間撹拌した。
【0174】
5Aについては、試料を減圧し(約400mmHg)、約109gの混合物が残留するまで大部分の水を除去した。表5に記載のUVR−6105を、アルコールとシランとシリカの混合物に加え、エポキシが溶解するまでロータリーエバポレーターで回転させた。再び減圧し、温度を65℃まで上昇させた。減圧は約1時間続けると、この時点でロータリーエバポレーターの冷却コイル状に残留濃縮物は見られなかった。材料5Aは約40重量%のシリカを含有し、目視検査では透明であった。
【0175】
5Bについては、試料を減圧し(約400mmHg)、約67gの混合物が残留するまで大部分の水を除去した。表5に記載のUVR−6105を、アルコールとシランとシリカの混合物に加え、エポキシが溶解するまでロータリーエバポレーターで回転させた。再び減圧を行った。減圧を約1時間続けると、この時点でロータリーエバポレーターの冷却コイル状に残留濃縮物は見られなかった。この材料は約52重量%のシリカを含有し、目視検査では透明であった。
【0176】
5Cについては、試料を減圧し(約400mmHg)、約109gの混合物が残留するまで大部分の水を除去した。表5に記載のUVR−6105、Heloxy 48、およびGY281を、アルコールとシランとシリカの混合物に加え、エポキシが溶解するまでロータリーエバポレーターで回転させた。再び減圧を行った。減圧を約1時間続けると、この時点でロータリーエバポレーターの冷却コイル状に残留濃縮物は見られなかった。この材料は約50.8重量%のシリカを含有し、目視検査では透明であった。
【0177】
5Dについては、試料を減圧し(約400mmHg)、約120gの混合物が残留するまで大部分の水を除去した。表5に記載のUVR−6105およびGY281を、アルコールとシランとシリカの混合物に加え、エポキシが溶解するまでロータリーエバポレーターで回転させた。温度55℃において再び減圧を行った。減圧を約1時間続けた後、90℃まで5分間温度を上昇させた。この時点でロータリーエバポレーターの冷却コイル状に残留濃縮物は見られなかった。この材料は約40.0重量%のシリカを含有し、目視検査では透明であった。
【0178】
各材料について、エポキシ樹脂成分の重量を基準にして2重量%のCD1012、0.1重量%のEDMAB、および0.6重量%のカンファーキノンで構成される開始剤成分を材料と完全に混合した。材料5A〜5Dには3M Visilux 2TM歯科用硬化光を10〜20秒間照射した。材料5Eには3M Visilux 2TM歯科用硬化光を20秒間照射した。3M Visilux 2TMに曝露した後の、各材料の外観および硬化したかどうかの判断を表6に示す。
【0179】
【表7】

【0180】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】300,000倍の倍率で撮影した本発明の歯科材料の好ましい実施態様のTEM(透過型電子顕微鏡写真)のデジタル画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)硬化性樹脂と、
b)前記樹脂中に分散させたシリカ粒子と、
を含み、前記シリカ粒子は、平均直径が約200nm未満であり、前記歯科材料の重量を基準にして約40重量%を超える量で存在する歯科材料。
【請求項2】
前記歯科材料の重量を基準にして、前記シリカ粒子が約40重量%を超え約90重量%未満の量で存在する請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
前記歯科材料の重量を基準にして、前記シリカ粒子が約50重量%を超え約75重量%未満の量で存在する請求項1に記載の歯科材料。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均直径が約100nm未満である請求項1に記載の歯科材料。
【請求項5】
硬化後の前記材料の視覚的不透明度値が約0.4未満である請求項1に記載の歯科材料。
【請求項6】
硬化後の前記材料の視覚的不透明度値が約0.35未満である請求項1に記載の歯科材料。
【請求項7】
硬化後の前記材料の視覚的不透明度値が約0.25未満である請求項1に記載の歯科材料。
【請求項8】
硬化後の前記材料の直径引張強さが約15MPaを超える請求項1に記載の歯科材料。
【請求項9】
硬化後の前記材料の直径引張強さが約40MPaを超える請求項1に記載の歯科材料。
【請求項10】
硬化後の前記材料の直径引張強さが約60MPaを超える請求項1に記載の歯科材料。
【請求項11】
硬化後の前記材料の圧縮強さが約35MPaを超える請求項1に記載の歯科材料。
【請求項12】
硬化後の前記材料の圧縮強さが約200MPaを超える請求項1に記載の歯科材料。
【請求項13】
硬化後の前記材料の圧縮強さが約350MPaを超える請求項1に記載の歯科材料。
【請求項14】
前記硬化性樹脂が、アクリレート、メタクリレート、エポキシ、およびそれらの混合物からなる群より選択される請求項1に記載の歯科材料。
【請求項15】
前記樹脂を硬化させるための開始剤をさらに含む請求項1に記載の歯科材料。
【請求項16】
重金属酸化物をさらに含む請求項1に記載の歯科材料。
【請求項17】
前記重金属酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化亜鉛、酸化イッテルビウム、酸化ビスマス、およびそれらの混合物からなる群より選択される請求項16に記載の歯科材料。
【請求項18】
前記重金属酸化物が立方晶または正方晶酸化ジルコニウムである請求項16に記載の歯科材料。
【請求項19】
前記材料が、歯科修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルブランク、歯科補綴材料、矯正装置、歯科鋳造材料、および歯科用コーティングからなる群より選択される請求項1に記載の歯科材料。
【請求項20】
ヒュームドシリカをさらに含む請求項1に記載の歯科材料。
【請求項21】
a)表面改質剤をシリカ粒子と混合する工程と、
b)前記表面改質シリカ粒子を硬化性樹脂と混合する工程と、
c)前記樹脂を硬化させる工程と、
を含み、前記シリカ粒子は、前記樹脂中に分散し、平均直径が約200nm未満であり、前記歯科材料の全重量の約40重量%を超える量で存在する、歯科材料の製造方法。
【請求項22】
前記シリカ粒子が、前記歯科材料の全重量の約40重量%を超え約90重量%未満の量で存在する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記シリカ粒子が、前記歯科材料の全重量の約50重量%を超え約75重量%未満の量で存在する請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記シリカ粒子の平均直径が約100nm未満である請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記硬化性樹脂が、アクリレート、メタクリレート、エポキシ、およびそれらの混合物からなる群より選択される請求項21に記載の方法。
【請求項26】
d)前記樹脂を硬化させるための開始剤を混合する中間工程をさらに含み、前記工程d)は前記樹脂を硬化させる前に実施される請求項21に記載の方法。
【請求項27】
e)前記硬化性樹脂中に重金属酸化物を混合する中間工程をさらに含み、前記工程e)は前記樹脂を硬化させる前に実施される請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記重金属酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化亜鉛、酸化イッテルビウム、酸化ビスマス、およびそれらの混合物からなる群より選択される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記重金属酸化物が立方晶または正方晶酸化ジルコニウムである請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記材料が、歯科修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルブランク、歯科補綴材料、矯正装置、歯科鋳造材料、および歯科用コーティングからなる群より選択される請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記材料がヒュームドシリカをさらに含む請求項21に記載の方法。
【請求項32】
a)請求項1に記載の前記歯科材料を歯の表面付近または表面上に配置する工程と、
b)前記材料の形状を変化させる工程と、
c)前記材料を硬化させる工程と、
を含む請求項1に記載の前記歯科材料の使用方法。
【請求項33】
工程a)、b)、およびc)が順次実施される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記硬化性樹脂の仕上を行う工程をさらに含む請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記歯科材料がミルブランクであり、形状を変化させる前記工程b)が前記材料のカービングによって実施される請求項33に記載の方法。
【請求項36】
a)硬化性樹脂と、
b)前記樹脂を硬化させるための開始剤と、
c)前記樹脂中に分散させたシリカ粒子と、
を含み、前記歯科材料の重量を基準にして前記シリカ粒子が約40重量%を超え約90重量%未満の量で存在する歯科材料。
【請求項37】
前記硬化性樹脂が、アクリレート、メタクリレート、エポキシ、およびそれらの混合物からなる群より選択される請求項36に記載の歯科材料。
【請求項38】
酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化亜鉛、酸化イッテルビウム、酸化ビスマス、およびそれらの混合物からなる群より選択される重金属酸化物をさらに含む請求項36に記載の歯科材料。
【請求項39】
前記材料が、歯科修復材、歯科用接着剤、歯科用ミルブランク、歯科補綴材料、矯正装置、歯科鋳造材料、および歯科用コーティングからなる群より選択される請求項36に記載の歯科材料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−178807(P2011−178807A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−107644(P2011−107644)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【分割の表示】特願2001−532727(P2001−532727)の分割
【原出願日】平成12年2月25日(2000.2.25)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】