説明

ナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法

【課題】 細孔内部へモノマーを高効率で供給して、高強度のナノシリンダー型導電性高分子材を製造する。
【解決手段】反応用細孔を有する鋳型テンプレートと、前記鋳型テンプレートに配置された電極とを含む電解重合反応器を用いて、前記反応用細孔内で、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として超臨界流体あるいは亜臨界流体を含む電解媒体を用いて電界重合を行い、ナノシリンダー形状を有する導電性高分子材を形成する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の酸化重合によって生成する導電性高分子、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等は、レドックス性やドーピング性など数々の特性を有しており、機能性材料として様々な分野での応用が期待される材料である。例えば、用途に応じた形態に成形することができれば、その導電性を活かして、電界放出ディスプレイ(FED)等における電界放出素子などに用いられる電子放出材料、配線材料、センサー、電気化学キャパシタ、ナノインプリント用モールド、プローブ顕微鏡用探針、触媒担体等の各種の用途に利用することが期待される。
【0003】
しかしながら、多くの導電性高分子はほとんどの有機溶媒に不溶であることからキャストなどによる成形ができず加工性に乏しい。そのため、用途に応じた形態の導電性高分子材を製造するために、各種の導電性高分子の合成法と合成条件が提案されてきた(特許文献1、特許文献2等参照)。
【0004】
ところで、導電性高分子の合成法は、モノマー分子に化学的酸化剤を作用させる化学重合とモノマー分子を電気化学的に酸化する電解重合に大別される。一般に前者の化学重合によって得られる導電性高分子は粒子状の沈殿物となるが、後者は電極上に薄膜として生成する。
【0005】
電解重合は、形成される導電性高分子膜の膜厚を制御しながら合成できる利点を有するが、電極界面へのモノマーの輸送が不十分であると電極上に得られる膜は粗雑なものとなってしまう。また、多孔性基板の細孔内部で電解重合を行う場合は、さらにモノマーの輸送が制限されてしまい、導電性高分子材料を細孔内部へ密に充填させることは極めて困難となる。
【0006】
例えば、配線材料やフラットパネルディスプレイなどの電子放出源としての応用が期待されているナノシリンダー型の導電性高分子材料の製造のためには、孔径がナノメートルレベルのナノ細孔を有する鋳型内部で導電性高分子を電解合成することが必要となる
【特許文献1】特開2005−200518号公報
【特許文献2】特開2007−46033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水電解液や有機電解液等の従来の媒質中においては、ナノ細孔内部へのモノマーの輸送が制限されるため、細孔内部にモノマーを充填して電解重合によりナノシリンダー型の導電性高分子材を形成することが困難である。
【0008】
そこで、本発明の課題は、前記した問題を解決し、細孔内部へモノマーを高効率で供給して、高強度のナノシリンダー型導電性高分子材を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、反応用細孔を有する鋳型テンプレートと、前記鋳型テンプレートに配置された電極とを含む電解重合反応器を用いて、前記反応用細孔内で、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として超臨界流体あるいは亜臨界流体を含む電解媒体を用いて電界重合を行い、ナノシリンダー形状を有する導電性高分子材を形成する工程を含むことを特徴とするナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法を提供する。
【0010】
このナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法では、反応媒体として超臨界流体あるいは亜臨界流体を含む電解媒体を用いて電解重合を行うことによって、細孔内部への効率的なモノマー輸送を行うことができ、非常に正確な導電性高分子のナノ細孔構造の転写を実現し、高強度を有するナノシリンダー型の導電性高分子材を製造することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記超臨界流体あるいは亜臨界流体が、3〜50MPaにおける比誘電率が2〜100であるものであることを特徴とする。
【0012】
このナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法では、反応媒体に用いる超臨界流体あるいは亜臨界流体として、3〜50MPaにおける比誘電率が2〜100であるものを用いることによって、細孔内部への効率的なモノマー輸送を行うことができ、非常に正確な導電性高分子のナノ細孔構造の転写を実現し、高強度を有するナノシリンダー型の導電性高分子材を製造することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記超臨界流体あるいは亜臨界流体が、超臨界状態あるいは亜臨界状態のトリフルオロメタンまたは1,1−ジフルオロエタンであることを特徴とする。
【0014】
このナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法では、反応媒体に用いる超臨界流体あるいは亜臨界流体として、超臨界状態あるいは亜臨界状態のトリフルオロメタンまたは1,1−ジフルオロエタンを用いることによって、細孔内部への効率的なモノマー輸送を行うことができ、非常に正確な導電性高分子のナノ細孔構造の転写を実現し、高強度を有するナノシリンダー型の導電性高分子材を製造することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記単量体が、ピロールまたはチオフェンであることを特徴とする。
【0016】
このナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法では、反応媒体として超臨界流体あるいは亜臨界状態を用いて、ピロールまたはチオフェンを細孔内部に効率的に輸送して、非常に正確な導電性高分子のナノ細孔構造の転写を実現し、高強度を有するポリピロールまたはポリチオフェンからなるナノシリンダー型の導電性高分子材を製造することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記電解重合は、5MPaを超える圧力で行うことを特徴とする。
【0018】
このナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法では、電解重合を、5MPaを超える圧力で行うことによって、細孔内部への効率的なモノマー輸送を行うことができ、非常に正確な導電性高分子のナノ細孔構造の転写を実現し、高強度を有するナノシリンダー型の導電性高分子材を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、ナノ細孔内への効率的なモノマー輸送を行うことができ、生成する導電性高分子の細孔内への充填が極めて迅速に行われることによって、非常に正確な導電性高分子のナノ細孔構造の転写を実現し、所望の強度を有するナノシリンダー型の導電性高分子材を製造することができる。例えば、細孔内への導電性高分子の充填は、従来の反応媒体を用いた場合に比して、導電性高分子の析出速度が7.5倍程度になる。
【0020】
また、得られる導電性高分子材は、ナノシリンダー1本1本の長さが揃っており、その強度も高く、鋳型テンプレートを除去しても直立したままである。そのため、本発明の方法によって得られるナノシリンダー型導電性高分子材は、導電性を有するとともに、長さの揃ったナノシリンダーが電極上に直立している特有の形態を活かして、電界放出ディスプレイ(FED)等における電界放出素子などに用いられる電子放出材料、配線材料、センサー、電気化学キャパシタ、ナノインプリント用モールド、プローブ顕微鏡用探針、触媒担体への利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法(以下、「本発明の方法」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本発明の方法は、反応用細孔を有する鋳型テンプレートと、鋳型テンプレートに蒸着された金属材料からなる電極を含む電解重合反応器を用いて、前記反応用細孔内で、単量体を、支持電解質の存在下に電解重合を行う工程を含む方法である。
【0023】
本発明の方法で用いられる電解重合反応器の具体例を図1(a)に示す。
図1(a)に示す電解重合反応器1は、反応用細孔2を有する鋳型テンプレート3と、前記鋳型テンプレート3に配置された電極4とを備えるものである。この電解重合反応重合器1をオートクレーブ等の高圧反応器に入れて電解重合を行うことによって、本発明の方法を行うことができる。
【0024】
鋳型テンプレート3は、上部から底部まで貫通する反応用細孔2を有し、反応用細孔2は、製造するナノシリンダー型導電性高分子材の形態(外径、長さ、分布密度、配置位置等)に応じて細孔径、貫通深さ、孔密度、孔位置等が選択される。この鋳型テンプレート3の具体例として、ナノポーラスアルミナやポリカーボネート製のフィルター膜等が挙げられる。また、この鋳型テンプレート3は、反応用細孔2内にナノシリンダー型導電性高分子材が形成された後、アルカリ溶液等による溶解によって除去することが容易である点で、ナノポーラスアルミナで形成されていることが好ましい。
電極4は、特に制限されず、例えば、白金、金等が用いられる。
【0025】
本発明の方法によるナノシリンダー型導電性高分子材の製造においては、まず、図1(a)に示すように、反応用細孔2を有する鋳型テンプレート3の片面に真空蒸着された白金や金などの金属材料からなる電極4とを有する電解重合反応器1を構成する。次に、この電解重合反応器1をオートクレーブ(図示せず)に入れた後、オートクレーブ内に支持電解質、反応媒体および単量体の混合物を供給して充填して、オートクレーブを密閉する。そして、オートクレーブ内の圧力を反応媒体の臨界温度・圧力近傍あるいはそれ以上に加熱および加圧して反応媒体を超臨界状態あるいは亜臨界状態にする。次に、電極4と、オートクレーブ内に配置した対極(図示せず)との間に電圧を印加して、単量体の電解重合反応を行う。これによって、図1(b)に示すように、反応用細孔2の内部にナノシリンダー型の導電性高分子材5が形成される。次に、鋳型シリンダー3を除去することによって、図1(c)に示すように、電極板4上に直立したナノシリンダー型の導電性高分子材5を得ることができる。
【0026】
この電解重合においては、反応媒体として、液体と気体の中間の拡散係数を有する超臨界流体を用いることによって、反応用細孔の電解重合反応における大きな物質移動速度と導電性高分子材を形成する単量体の効率的な輸送が行われ、反応用細孔の内部の全体にわたり核形成が充分に行われ、その後の核成長も均一に起こるため、反応用細孔の内部形状が正確に転写されたナノシリンダー型の導電性高分子材が形成される。
【0027】
本発明の方法において、反応媒体として用いられる超臨界流体あるいは亜臨界流体は、3〜50MPaにおける比誘電率が2〜100、好ましくは比誘電率が5〜100であるものである。中でも、比較的温和な条件で臨界状態となり、かつ比較的極性を有するため、支持電解質を充分に溶解し、かつ電解重合を行うために充分な電気伝導度(1.0×10-4Scm-1以上)を示すことから、超臨界状態のトリフルオロメタン(臨界点:26.2℃、4.85MPa)または1,1−ジフルオロエタン(臨界点:113.3℃、4.52MPa)を用いることが好ましい。例えば、超臨界トリフルオロメタンは、10MPa以下では低極性であるものの15MPa以上ではその比誘電率は6以上になり、支持電解質を充分に溶解し、かつ電解重合を行うに充分な電気伝導度を与える。
【0028】
本発明の方法は、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を用いて、ナノシリンダー型導電性高分子材を反応用細孔内に形成する方法である。単量体として用いられる置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物の具体例としては、未置換アニリン、アルキルアニリン類、アルコキシアニリン類、ハロアニリン類、o−フェニレンジアミン類、2,6−ジアルキルアニリン類、2,5−ジアルコキシアニリン類、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、チエノ[3,4−b]ピラジンなどを挙げることができる。本発明のナノシリンダー型導電性高分子材は、これらの単量体の中から選ばれる1種または2種以上の組み合わせからなる重合体で構成される。特に、これらの単量体の代表例として、ピロールまたはチオフェンが挙げられる。
【0029】
本発明の方法で用いられる支持電解質は、用いられる単量体および超臨界流体または亜臨界流体等に応じて適宜選択されるが、代表的なものを例示すると、四フッ化ホウ素塩化合物、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムパークロライド、テトラブチルアンモニウムパークロライド、テトラメチルアンモニウム、p−トルエンスルホン酸塩化合物、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、10−カンファースルホン酸塩化合物、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素、テトラブチルアンモニウムパークロライド、テトラヘキシルアンモニウムパークロライド、テトラヘキシルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムスルフォネート、[CH3(CH2112N(Br)(CH32、[(C18372N(CH32]Cl、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ素などが挙げられる。これらの支持電解質は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素、テトラブチルアンモニウムパークロライド、テトラヘキシルアンモニウムパークロライド、テトラヘキシルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムスルフォネート、[CH3(CH2112N(Br)(CH32、[(C18372N(CH32]Cl、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ素などが好ましい。
【0030】
支持電解質の濃度は、所望の電流密度が得られるように設定すればよいが、一般的には0.01〜1.0mol/lの範囲内に設定すれば特に問題はない。
【0031】
また、電解重合は、5MPaを超える圧力、好ましくは10MPa以上の圧力下で行われる。
【0032】
電解重合は、定電位法、定電圧法、定電流法または電位走査法のいずれを用いてもよい。中でも特に、電位差法は電解重合のモニタリングを行うことができ、かつ重合反応の制御が容易であることから有利である。電解重合における電流密度は特に限定されないが、最大で100mA/cm2程度である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1、比較例1)
片面に白金を蒸着した多孔質アルミナ膜(Whatman社、Anodisc13、膜厚:60μm、細孔径:200nm)を作用極とし、白金板電極(1×1cm)を対極とし、さらに、銀ワイヤーを参照極として備えたオートクレーブ(サファイア窓付き、容積:0.096dm)に、チオフェン9.6x10−4molと支持電解質としてテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート4.8x10−3molを加えた(チオフェン濃度:0.01mol/dm、支持電解質濃度:0.05mol/dm)。引き続き、プランジャーポンプを用いてオートクレーブ中にトリフルオロメタン(ボンベ入り)を内圧15MPaになるまで導入し、さらに水浴中でオートクレーブを50℃に加熱してフルオロホルムを超臨界状態としてピロールとテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートを溶解させた。その後、+2.6V(vs.Agワイヤー)の電位を印加して140分間電解重合を行った。
【0035】
比較例1として、アセトニトリル電解液中において、チオフェン重合を行った。
チオフェンと、支持電解質としてテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートをそれぞれ0.01mol/dm、0.05mol/dmの濃度になるようにアセトニトリルに溶解した。得られた溶液を、作用極(鋳型テンプレート)として片面に白金を蒸着したポーラスアルミナ膜(Whatman社、Anodisc13、膜厚:60μm、細孔径:200nm)を、対極として一対の白金板電極(1×1cm)を、参照極として銀ワイヤーを備えたビーカー型セルに入れて、+2.6V(vs.Agワイヤー)の電位を印加して140分間電解重合を行った。
【0036】
また、アセトニトリル(50℃;比較例1)および超臨界トリフルオロメタン(50℃,15MPa;実施例1)中のそれぞれにおける重合挙動について、各電解時間での鋳型の断面を光学顕微鏡により観察した。
【0037】
その結果、図2(a)(比較例1)および図2(b)(実施例1)の光学顕微鏡写真に示すように、電解が進むにつれて、いずれの電解媒体中でもポーラスアルミナの下部にある白金電極からポリチオフェンが成長したが、超臨界トリフルオロメタン(実施例1)中では、アセトニトリル(比較例1)中に比べて、ポリチオフェンナノシリンダーの形成が効率的に進行し、140分の電解重合によって、ポーラスアルミナの細孔入口までナノシリンダーが形成されることが明らかとなった。また、140分の定電位重合を行った時点で超臨界トリフルオロメタン中での通電量は34Cであり、アセトニトリル中での4.5Cと比較して7.5倍もの大きさになったことから、重合が大幅に促進された事がわかった。
【0038】
引き続き、実施例1および比較例1について、100分電解重合を続けた後、4M水酸化ナトリウム水溶液に12時間浸漬して作用極から鋳型テンプレートであるポーラスアルミナを溶解除去して、ポリチオフェンナノシリンダーを得た。得られたポリチオフェンナノシリンダーの形態を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。図3(a)および(b)に比較例1のポリチオフェンナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真、図3(c)および(d)に実施例1のポリチオフェンナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0039】
図3(a)および(b)に示すように、アセトニトリル中で合成したポリチオフェンナノシリンダー(比較例1)は鋳型を除去してしまうと倒れてしまった。このため、ナノシリンダーを形成している導電性高分子の密度が低いことが考えられる。一方、超臨界トリフルオロメタン中で合成したポリチオフェンナノシリンダー(実施例1)は、図3(c)および(d)に示すように、電極に対して直立していることが確認された。これは、超臨界流体の有する高い拡散性により、鋳型細孔内部だけでなくナノシリンダーの内部にまで基質が十分に供給され、密度の高い直立できるだけの強度を有するものが得られたものと考えられる。
【0040】
(実施例2、比較例2)
片面に白金を蒸着したポーラスアルミナ膜(Whatman社、Anodisc13、膜厚:60μm、細孔径:200nm)を作用極(鋳型テンプレート)として、白金板電極(1×1cm)を対極として、銀ワイヤーを参照極として備えたオートクレーブ(サファイア窓付き、容積:0.096dm)に、ピロール9.6x10−4molと、支持電解質としてのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート4.8×10−3molを加えた(ピロール濃度:0.01mol/dm、支持電解質濃度:0.05mol/dm)。引き続き、プランジャーポンプを用いてオートクレーブ中にトリフルオロメタン(ボンベ入り)を内圧15MPaになるまで導入し、さらに、水浴によりオートクレーブを50℃に加熱してフルオロホルムを超臨界状態とし、ピロールとテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートを溶解させた。その後、+2.0V(vs.Agワイヤー)の電位を印加して15分間電解重合を行った。
【0041】
比較例2として、アセトニトリル電解液中においてピロールの電解重合を行った。
ピロールと、支持電解質としてのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートをそれぞれ0.01mol/dm、0.05mol/dmの濃度になるようにアセトニトリルに溶解した。得られた溶液を作用極として片面に白金を蒸着したポーラスアルミナ膜(Whatman社、Anodisc13、膜厚:60μm、細孔径:200nm)を、対極として一対の白金板電極(1x1cm)を、参照極として銀ワイヤーを備えたビーカー型セルに入れて、+2.0V(vs.銀ワイヤー)の電位を印加して15分間電解重合を行った。
【0042】
(実施例3)
引き続き、実施例2および比較例2について、15分間電解重合を続けた後、作用極より鋳型であるポーラスアルミナを4MのNaOH水溶液に12時間浸すことで溶解除去し、ポリピロールナノシリンダーを得た。得られたポリピロールナノシリンダーの形態を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。図4(a)および(b)に比較例2のポリピロールナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真、図5(a)および(b)に実施例2のポリピロールナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0043】
アセトニトリル中で合成したポリピロールナノシリンダー(比較例2)は、電極に対して直立はしているものの長さが不揃いのものであった。一方、超臨界トリフルオロメタン中で合成したものは電極に対して直立している上、長さがしっかりと揃ったものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)〜(c)は電解重合反応器によるナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法を順を追って説明する図である。
【図2】(a)は比較例1において、0分、20分、60分、100分および140分ポリチオフェンの電解重合を行った場合の光学顕微鏡写真、(b)は実施例1において、0分、20分、60分、100分および140分ポリチオフェンの電界重合を行った場合のポリチオフェンの光学顕微鏡写真である。
【図3】(a)および(b)は、比較例1のポリチオフェンナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真、(c)および(d)は実施例1のポリチオフェンナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】(a)および(b)は、比較例2のポリピロールナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】(a)および(b)は、実施例2のポリピロールナノシリンダーの走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0045】
1 電解重合反応器
2 反応用細孔
3 鋳型シリンダー
4 電極板
5 ナノシリンダー型導電性高分子材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応用細孔を有する鋳型テンプレートと、前記鋳型テンプレートに配置された電極とを含む電解重合反応器を用いて、前記反応用細孔内で、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として超臨界流体あるいは亜臨界流体を含む電解媒体を用いて電界重合を行い、ナノシリンダー形状を有する導電性高分子材を形成する工程を含むことを特徴とするナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法。
【請求項2】
前記超臨界流体あるいは亜臨界流体が、3〜50MPaにおける比誘電率が2〜100であるものである請求項1に記載のナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界流体あるいは亜臨界流体が、超臨界状態あるいは亜臨界状態のトリフルオロメタンまたは1,1−ジフルオロエタンであることを特徴とする請求項1に記載のナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法。
【請求項4】
前記単量体が、ピロールまたはチオフェンであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法。
【請求項5】
前記電解重合は、5MPaを超える圧力で行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のナノシリンダー型導電性高分子材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−239835(P2008−239835A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83563(P2007−83563)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月16日に東京工業大学すずかけ台キャンパスG1棟820号室にて開催された東京工業大学大学院総合理工学研究科物質電子化学専攻平成18年度修士論文発表会にて「超臨界流体中における導電性高分子材料の構造制御型電解合成」と題する修士論文をもって発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】