説明

ナノスケールの熱センサ及び加熱プローブ

【課題】水中や生体など電気を通す環境においても、数nmの精度と数マイクロ秒の応答時間で試料の熱情報の計測と試料の加熱ができ、均質に製造できるプローブを提供する。
【解決手段】導電性の有無に選らないナノ探針1が、基板4上に通常の微細加工技術で形成した基板に接しない細線部をヒーター2とする中央部分に突出して接合され、ヒーター2の両端部にある通電用端子部3a、3dと電圧計測用端子部3b、3cが、接合用リード線6a〜6dおよび通電用電極膜7a〜7dを経由し、電源8、電流計9、電圧計10に接続されることにより、ヒーター2は加熱されると同時にその抵抗値が計測される。ヒーター2に接合したナノ短針1を、試料12の表面に接触またはAFM装置等と組み合わせて走査しながら、電源8の制御とヒーター2の抵抗値の計測を行うことにより、試料12の加熱および熱情報の計測が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の熱情報を数ナノメートルの空間精度と数マイクロ秒の時間精度で検知するとともに定量的な加熱を行えるプローブ及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーを利用したセンサーや加工装置は、情報技術以外にも細胞など医学分野への応用が期待されている。特に、AFMで略称される原子間力顕微鏡は、プローブが試料上を走査することで試料の形状のナノスケールでの探知を可能とする装置であり、そのプローブに形状探知以外の機能を与えることもできるようになってきている。
【0003】
プローブとしてナノスケールの発熱プローブを用いることで、試料の表面を加熱するとともに試料の熱情報を得る装置が提案されている(特許文献1参照。)。特許文献1に記載されたものは、図4のように、発熱プローブとして導電性ナノ探針1を用いるものであり、導電性のナノ探針1と導電性ナノチューブリード線14の間に設置されたヒーター2に通電することで導電性のナノ探針1を加熱して、試料12を加熱するとともに、試料12の温度分布や熱伝導度分布を検出するものである。
【特許文献1】特開2002−243880号公報(第7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図4に示した上記の発熱プローブでは、探針として導電性の材料を用いるため、水中や生体など電気を通す環境や試料に対しては利用が困難である。また、ナノ探針1とナノチューブリード線14の間にサイズや抵抗値が定まったヒーター2を製造するのは困難であり、ヒーター2からプローブ先端へ供給される熱量が特定できないので、試料に対して定量的な加熱をすることができないという問題がある。そこで本発明は、マイクロ加工技術を用いて形成した精密なヒーターを利用することにより、上記問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、探針への通電を要することなく探針先端への定量的な加熱と熱計測を実現するための、基板上に細長い細線部と細線部の両端に通電用端子部と電圧計測用端子部が構成された金属薄膜と、微小ヒーターとなる細線部の中央部分に突出させて接合したナノ探針からなる加熱プローブであり、この加熱プローブで、微小ヒーターへの通電によりナノ探針を加熱した状態に保ち、試料の熱情報を微小ヒーターの抵抗値変化に伴う電圧変化から測定することを特徴とする熱センサであり、この熱センサにおいて、熱物性値の測定対象とするナノチューブを探針として接合し、微小ヒーターへの通電により加熱した状態で、予め熱情報が特定されている試料の測定を行い、微小ヒーターの抵抗値変化に伴う電圧変化から、同ナノチューブの熱物性値を測定することを特徴とする熱センサであり、試料表面を走査するAFM用カンチレバー先端に設置され、カンチレバー上の電極膜と接続された請求項1に記載する加熱プローブ装置であり、試料表面を走査するAFM用カンチレバー先端に設置され、カンチレバー上の電極膜と接続された請求項2に記載する熱センサ装置である。これらを課題解決のための手段とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ヒーターに接合したナノ探針を用いて、探針に通電することなく試料に対する加熱が定量的に行えると同時に、試料の温度や熱伝導度の計測もできるため、細胞内部や水中等の電気伝導性環境での加熱試験及び温度計測が可能となる。また、AFM走査機構と組み合わせて、材料表面をナノメートルオーダーで加熱を制御することによる微細加工が可能となる。また、ヒーターの製作はマイクロ加工技術を利用して行うことから、安価にプローブを提供することができる。
【実施例】
【0007】
以下、本発明における熱センサと加熱プローブの実施形態を図面を参照して説明すると、図1、図2、図3は本発明に関する熱センサ及び加熱プローブの実施形態の図である。
【0008】
図1は本発明の実施形態の概略斜視図であり、熱センサ及び加熱プローブとして用いるナノ探針1がその先端部1aを突出させた形で、その基端部1bをヒーター2に接合される。接合は、電子ビームの照射によって融着してもよいし、原子間力や別の材料を用いて接着してもよい。
【0009】
ナノ探針1は、先端の曲率半径が数ナノメートルオーダーでマイクロメートルオーダー以上の長さを有する針状の材料であり、熱伝導性の良いカーボンナノチューブが適当な例である。
【0010】
ヒーター2が設置されたヒーター基板4はカンチレバー5の先端に設置されている。ヒーター2は電極膜3とつながっており、この電極膜3は4本のリード3a、3b、3c、3dへ分割されて、それぞれが、リード線6a、6b、6c、6dを介してカンチレバー5の上の電極膜7a、7b、7c、7dと接続されている。このうち、通電用電極膜7aと通電用電極膜7dが電源8及び電流計9と接続され、電圧計測用電極膜7bと電圧計測用電極膜7cが電圧計10と接続される。これにより、ヒーター2の発熱量が制御されると同時にヒーター2の抵抗値が計測される。
【0011】
図2は本発明の実施形態の部分拡大図であり、製造過程でのばらつきが少なくなるよう、マイクロ加工技術によって白金などの金属薄膜をヒーター2の部分のみが微小な細線の形状となるよう形成するとともに、ヒーター基板のうちヒーター2の近傍の部分4aをエッチングして取り去ることで基板から浮いた形状のヒーター2を形成する。この形状により、ヒーター基板4はヒーター2への通電時でも温度一定を保つことになる。
【0012】
図3は前述のヒーター2と探針1の熱物性値を調べるための原理図であり、ヒーター2の両端は温度が一定のヒートシンク13と接合されており、探針1の先端部1aも温度一定のヒートシンク13に接合した上で、ヒーター2に通電してヒーター2の温度変化を抵抗値の変化から算出することで、探針1の熱物性値が得られる。ヒーター2の熱物性値は、図3のうちヒーター2に探針1を接合しない実施形態から得られる。
【0013】
前記によって得られた探針1とヒーター2の熱物性値から、電源8を制御しながら電流計9と電圧計10を用いてヒーターの発熱量と抵抗値を計測することで、試料への定量的な加熱と精密な熱情報の計測ができる。
【0014】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、探針、ヒーター、カンチレバーの材質、形状等は適宜変更することが可能である。さらに、本発明はその精神また主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更はすべて本発明の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本プローブ装置の概略図
【図2】本プローブ装置のヒーターの部分拡大図
【図3】ナノ探針とヒーターの熱物性値を調べるための原理図
【図4】従来のナノスケール加熱プローブ装置の概略図
【符号の説明】
【0016】
1 ナノ探針
1a ナノ探針先端部
1b ナノ探針基端部
2 ヒーター
3 電極膜
3a 通電用端子部
3b 電圧計測用端子部
3c 電圧計測用端子部
3d 通電用端子部
4 ヒーター基板
4a ヒーター基板のうちヒーター近傍のエッチングされた部分
5 カンチレバー
6a 接合用リード線
6b 接合用リード線
6c 接合用リード線
6d 接合用リード線
7a 通電用電極膜
7b 電圧計測用電極膜
7c 電圧計測用電極膜
7d 通電用電極膜
8 電源
9 電流計
10 電圧計
11 スイッチ
12 試料
13 ヒートシンク
14 導電性ナノチューブリード線
15 ホルダー
16 電極膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に細長い細線部と細線部の両端に通電用端子部と電圧計測用端子部が構成された金属薄膜と、微小ヒーターとなる細線部の中央部分に突出させて接合したナノ探針からなる加熱プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱プローブで、微小ヒーターへの通電によりナノ探針を加熱した状態に保ち、試料の熱情報を微小ヒーターの抵抗値変化に伴う電圧変化から測定することを特徴とする熱センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の熱センサにおいて、熱物性値の測定対象とするナノチューブを探針として接合し、微小ヒーターへの通電により加熱した状態で、予め熱情報が特定されている試料の測定を行い、微小ヒーターの抵抗値変化に伴う電圧変化から、同ナノチューブの熱物性値を測定することを特徴とする熱センサ。
【請求項4】
試料表面を走査するAFM用カンチレバー先端に設置され、カンチレバー上の電極膜と接続された請求項1に記載の加熱プローブ装置。
【請求項5】
試料表面を走査するAFM用カンチレバー先端に設置され、カンチレバー上の電極膜と接続された請求項2に記載の熱センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−212390(P2007−212390A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35201(P2006−35201)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)