説明

ナノスケールの結晶質シリコン粉末

20〜150m/gのBET表面積を有する凝集した結晶質シリコン粉末。該粉末は、少なくとも1の蒸気状もしくは気体状のシランおよび場合により少なくとも1の蒸気状もしくは気体状のドープ材料、不活性ガスおよび水素をホットウォール反応器中で加熱し、該反応混合物を冷却するか、または反応混合物を冷却させ、かつ生成物を粉末の形で気体状の物質から分離することにより製造され、その際、シランの割合は、シラン、ドープ材料、水素および不活性ガスの合計に対して0.1〜90質量%であり、かつその際、水素の割合は、水素、シラン、不活性ガスおよびドープ材料の合計に対して1モル%〜96モル%の範囲である。該粉末は電子部品を製造するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールの結晶質シリコン粉末、および該粉末の製造および使用を提供する。
【0002】
ホットウォール反応器中で、凝集したナノスケールのシリコン粉末を製造することができることは公知である(Roth等、Chem.Eng.Technol.24(2001)、3)。この方法の欠点は、所望の結晶質シリコンが、熱い反応器壁面上でシランの反応により形成される非晶質シリコンと一緒に生じることであることが判明している。結晶質シリコンはさらに、20m/gを下回る低いBET表面積を有し、従って一般に電子技術的な適用にとっては粗すぎる。
【0003】
さらに、ドープされたシリコン粉末が得られる方法はRoth等によって開示されていない。このようなドープされたシリコン粉末は、これらの半導体特性と共に、電子技術産業では極めて重要である。さらに、シリコン粉末が反応器壁に堆積し、かつ断熱材料として作用することが欠点である。このことにより反応器中の温度分布は変化し、従ってシリコン粉末の特性も変化する。
【0004】
本発明の対象は、従来技術の欠点を回避するシリコン粉末を提供することである。特に、該シリコン粉末は均一に変性されたものであるべきである。
【0005】
本発明はまた、この粉末を工業的な規模で、経済的に実行可能な方法で製造することができる方法を提供することでもある。
【0006】
本発明は20〜150m/gのBET表面積を有する凝集した結晶質シリコン粉末を提供することである。
【0007】
有利な実施態様では、本発明によるシリコン粉末は40〜120m/gのBET表面積を有していてもよい。
【0008】
凝集した、という表現は、第一に反応において形成され、その後の反応の過程で結合してアグリゲートを形成した、球形もしくは大部分球形の一次粒子を意味するものと理解される。成長の度合いは、方法パラメータにより影響を与えることができる。これらのアグリゲートは、その後の反応の過程でアグロメレートを形成してもよい。一般に一次粒子へと分解することができないか、または部分的に分解することができるのみであるアグリゲートと比較して、アグロメレートはアグリゲートの緩い結合を形成し、これは容易にアグリゲートへと分解することができる。
【0009】
結晶質、という表現は、粉末の少なくとも90%が結晶質であることを意味するものと理解される。結晶性のこのような度合いは、本発明による粉末の[111]、[220]および[311]信号の強度を、公知の結晶性および結晶サイズのシリコン粉末のものと比較することにより決定することができる。
【0010】
本発明の文脈では、少なくとも95%の結晶度を有するシリコン粉末、特に有利には少なくとも98%の結晶度を有するシリコン粉末が有利である。TEM画像の評価および結晶質の状態の特徴として格子線を示す一次粒子の計数は、結晶度を決定するために適切である。
【0011】
さらに、本発明によるシリコン粉末はドープされていてもよい。ドープ成分は、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ユーロピウム、エルビウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、リチウム、イッテルビウム、ゲルマニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金または亜鉛である。ドープ成分は特に有利には、特に電子部品における半導体として使用する場合には、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ユーロピウム、エルビウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムである。本発明によるシリコン粉末中に存在するこれらの元素の割合は1質量%までであってよい。一般に、ドープ成分がppmまたはppbの範囲で存在しているシリコン粉末が所望される。ドープ成分の原子1013〜1015/cmの範囲は有利である。
【0012】
さらに、本発明によるシリコン粉末が、ドープ成分としてリチウムを含有することが可能である。シリコン粉末中に存在するリチウムの割合は53質量%までであってよい。リチウム20〜40質量%までのシリコン粉末が特に有利である。
【0013】
同様に、本発明によるシリコン粉末は、ドープ成分としてゲルマニウムを含有していてもよい。シリコン粉末中に存在するゲルマニウムの割合は40質量%までである。ゲルマニウムを10〜30質量%含有するシリコン粉末は特に有利である。
【0014】
最後に、元素の鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛はシリコン粉末中のドープ成分であってもよい。これらの割合はシリコン粉末の5質量%までであってよい。
【0015】
ドープ成分は粉末中に均一に分布していてよく、あるいは一次粒子のシェルまたはコア中に富化されているか、または挿入されていてもよい。ドープ成分は有利にはシリコンの格子部位に組み込まれている。これは実質的にドープ材料の種類および反応条件に依存する。
【0016】
ドープ成分とは本発明の文脈では、本発明による粉末中に存在する元素であると理解される。ドープ材料とは、ドープ成分を得るために方法において使用される化合物であると理解される。
【0017】
本発明によるシリコン粉末は10モル%までの水素負荷率を有していてもよく、その際、1〜5モル%の範囲が特に有利である。NMR分光分析、たとえばH−MAS−NMR分光分析法またはIR分光分析はこの測定のために適切である。
【0018】
本発明はまた、
− 少なくとも1の蒸気状もしくは気体状のシランおよび場合により少なくとも1の蒸気状もしくは気体状のドープ材料および不活性ガスおよび、
− 水素、
− をホットウォール反応器中で加熱し、
− 反応混合物を冷却するか、または冷却させ、
− 反応生成物を気体状の物質から粉末の形で分離し、
− その際、シランの割合はシラン、ドープ材料、水素および不活性ガスの合計に対して0.1〜90質量%であり、
− その際、水素の割合が、水素、シラン、不活性ガスおよび場合によりドープ材料の合計に対して1モル%〜96モル%の範囲である
ことを特徴とする、本発明によるシリコン粉末を製造する方法を提供する。
【0019】
特に有利には、壁面加熱式のホットウォール反応器を使用することができ、その際、ホットウォール反応器は、供給原料の、および場合によりドープ材料の可能な変換をできる限り完全に達成することができる大きさを有する。一般に、ホットウォール反応器中での滞留時間は0.1秒〜2秒である。ホットウォール反応器中の最高温度は有利には1000℃を超えないように選択する。
【0020】
反応混合物の冷却は、例えば反応器の外部からの壁面冷却により、または急冷法で不活性ガスを導入することによって実施することができる。
【0021】
本発明の文脈でのシランは、反応の条件下でシリコン、水素、窒素および/またはハロゲンを生じるシリコン含有化合物であってよい。SiH、Si、ClSiH、ClSiH、ClSiHおよび/またはSiClを有利に使用することができ、その際、SiHが特に有利である。さらに、N(SiH、HN(SiH、HN(SiH)、(HSi)NN(SiH、(HSi)NHNH(SiH)、HNN(SiHを使用することも可能である。
【0022】
有利には、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ユーロピウム、エルビウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、リチウム、ゲルマニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛の、水素含有化合物を使用することができる。ジボランおよびホスファンまたは置換されたホスファン、例えばtBuPH、tBuP、tBuPhPおよびトリスメチルアミノホスファン((CHN)Pが特に有利である。ドープ成分としてリチウムを使用する場合、金属リチウムまたはリチウムアミドLiNHをドープ材料として使用することが最も有利であることが判明している。
【0023】
不活性ガスとして、主に窒素、ヘリウム、ネオンまたはアルゴンを使用することができ、その際、アルゴンが特に有利である。
【0024】
本発明はまた、電子部品、電子回路および電気的に活性な充填剤を製造するための本発明による粉末の使用も提供する。
【0025】
本発明によるシリコン粉末は非晶質成分を有しておらず、かつ高いBET表面積を有する。本発明による方法は、従来技術において記載されているような、反応壁へのシリコンの堆積につながらない。さらに、本発明による方法は、ドープされたシリコン粉末の製造を可能にする。
【0026】
実施例:
分析技術:BET表面積はDIN66131に従って測定される。ドープの度合いはグロー放電質量分析法(GDMS)を使用して測定される。水素負荷率はH−MAS−NMR分光分析法により測定される。
【0027】
使用される装置:
長さ200cmおよび直径6cmを有する管をホットウォール反応器として使用する。これは石英ガラスまたは石英ガラスのライナを有するSi/SiCからなる。該管を長さ100cmにわたり抵抗加熱を使用して外部から1000℃に加熱する。
【0028】
シラン1000sccm(分あたりの標準立方センチメートル;1sccm=0℃および大気圧に対するガス1cm/分)およびアルゴン3000sccmからなるSiH/アルゴン混合物(混合物1)およびアルゴンと水素それぞれ5000sccmの混合物(混合物2)を、上から2流体ノズルを介してホットウォール反応器に供給する。反応器中の圧力は1080ミリバールである。粉末化された生成物を下流のフィルターユニットで気体状の物質から分離する。
【0029】
得られた粉末は20m/gのBET表面積を有する。図3はシリコン粉末のX線回折図を示す。
【0030】
例2〜6は例1と同様に実施するが、しかしパラメータは変更する。該パラメータは第1表に記載されている。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集した結晶質シリコン粉末において、20〜150m/gのBET表面積を有することを特徴とする、凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項2】
BET表面積が40〜120m/gであることを特徴とする、請求項1記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項3】
リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ユーロピウム、エルビウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、リチウム、イッテルビウム、ゲルマニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛によりドープされていることを特徴とする、請求項1または2記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項4】
ドープ成分のリン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ユーロピウム、エルビウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウムおよびルテチウムの割合が1質量%までであることを特徴とする、請求項3記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項5】
ドープ成分のリチウムの割合が53質量%までであることを特徴とする、請求項3記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項6】
ドープ成分のゲルマニウムの割合が40質量%までであることを特徴とする、請求項3記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項7】
ドープ成分の鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金および亜鉛の割合が5質量%までであることを特徴とする、請求項3記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項8】
水素負荷率が10モル%までであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の凝集した結晶質シリコン粉末。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の凝集した結晶質シリコン粉末の製造方法において、
− 少なくとも1の蒸気状もしくは気体状のシランおよび場合により少なくとも1の蒸気状もしくは気体状のドープ材料、不活性ガスおよび、
− 水素、
− をホットウォール反応器中で加熱し、
− 反応混合物を冷却するか、または冷却させ、かつ
− 反応生成物を気体状の物質から粉末の形で分離し、
− その際、シランの割合は、シラン、ドープ材料、水素および不活性ガスの合計に対して0.1〜90質量%であり、
− その際、水素の割合は、水素、シラン、不活性ガスおよびドープ材料の合計に対して1モル%〜96モル%の範囲である
ことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の凝集した結晶質シリコン粉末の製造方法。
【請求項10】
化合物SiH、Si、ClSiH、ClSiH、ClSiHおよび/またはSiClの群からシランを選択する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
化合物N(SiH、HN(SiH、HN(SiH)、(HSi)NN(SiH、(HSi)NHNH(SiH)、HNN(SiHの群から、使用すべきシランを選択することを特徴とする、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ユーロピウム、エルビウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、リチウム、ゲルマニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛の水素を含有する化合物の群からドープ材料を選択することを特徴とする、請求項9から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ドープ材料がリチウム金属またはリチウムアミド(LiNH)であることを特徴とする、請求項9から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
不活性ガスとして窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンを使用することを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
電子部品、電子回路および電気的に活性な充填剤を製造するための、請求項1から8までのいずれか1項記載のシリコン粉末の使用。

【公表番号】特表2007−511460(P2007−511460A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540274(P2006−540274)
【出願日】平成16年11月13日(2004.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012890
【国際公開番号】WO2005/049492
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(501073862)デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】