説明

ナノスケール構造体を製造するための方法および装置

試料ホルダ(3)を収容するマニピュレーションチャンバ(2)の上方に位置付けられた走査型電子顕微鏡(SEM)(1)を含む装置。マニピュレーションチャンバ(2)の壁部は2本のプローブ(4,4a)を支持し、試料ホルダ(3)は、基板(10)上に担持されたカーボンナノチューブ(10a)等の試料(5)を保持することができる。この装置は、SEM(1)の下においてプローブ(4,4a)および試料ホルダ(3)を選択的に移動させて、それらに電圧および電流を印加することができる。プローブ(4)とカーボンナノチューブ(10a)との間の接触部の両端に通る電流を制御することにより、調整された溶接部が形成される。同様に、カーボンナノチューブ(10a)を通る電流を制御することにより、ナノチューブ(10a)をアニールすることができる。プローブ(4,4a)の両方を用いることにより、カーボンナノチューブを保持して、その長さに沿った任意の位置でカーボンナノチューブを切断することができる。これにより、新規のカーボンナノチューブ構造体を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、ナノスケール構造体を製造するための方法および装置に関する。より特定的に、この発明は、ナノスケールワイヤを構造体に溶接する方法、ナノスケールワイヤをアニールする方法、およびナノスケールワイヤを切断する方法に加え、これらの方法を実施するための装置、およびこれらの方法により生産することのできるナノスケール構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
現在、ナノスケールワイヤから製造されるナノスケール構造体の潜在的資質についての研究が、極めて盛んに行なわれている。ナノスケールワイヤ、特にカーボンナノチューブは興味深い特性を有しており、ナノスケールの電子機械デバイスからなる巨大なアレイを形成する潜在的資質を有する。たとえば、カーボンナノチューブのサイズが小さいこと(数ナノメートルの直径にまで至る)、高電流密度に対する耐性能、および半導体性または金属性の電気的特性により、カーボンナノチューブは、次世代の電子デバイスにおける基幹素子の理想的な候補となっている。しかしながら、カーボンナノチューブは、現時点で、基板上に、または絡み合った束として、まとめて成長させているため、カーボンナノチューブから特定のデバイスまたは構造体を製造することに対して厳しい制約が課される。したがって、これらの材料に関する研究の大部分は、その焦点を、これらの生産方法に適した用途、たとえば、材料を補強するため、もしくはポリマー内に埋込まれた導電性ファイバを提供するための使用、またはフラットパネルディスプレイ用の電界放出チップアレイでの使用に絞っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
個々のカーボンナノチューブを選択された位置に配置して、ナノチューブとナノチューブとの電気的に高信頼性の接合部、またはナノチューブと基板との電気的に高信頼性の接合部を選択的に形成する技術は、まだ提示されていない。これまでにカーボンナノチューブから形成された、限られた数の電子デバイスは、適切な基板上に多くのナノチューブを分散させた後に従来の電気的接触を設け、その後、ナノチューブの正しい組合せおよび/または配向を見つけることに主に依存して、初歩的なデバイスを構成する。したがって、制御されかつ選択的な態様でナノチューブデバイスを製造し、操作して、特注の電子デバイスを生産するための方法を開発する必要がある。これにより、ナノチューブデバイスは、将来の電子デバイスの基盤になり得ると考えられる。それと同時に、既存の成長技術を用いて成長させたファイバを使用することにより、このことが可能になることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
この発明の第1の局面に従い、ナノスケールワイヤを構造体に溶接する方法を提供する。この方法は、
ナノスケールワイヤおよび構造体を互いに接触させて位置付けるステップと、
接触部の両端に電圧を印加し、それによって電流が接触部を通って流れて接触部を加熱し、ワイヤを構造体に溶接するステップとを含む。
【0005】
この発明の第2の局面に従い、ナノスケールワイヤを構造体に溶接するための装置を提
供する。この装置は、
ナノスケールワイヤおよび構造体を互いに接触させて位置付けるためのマニピュレータと、
接触部の両端に電圧を印加し、それによって電流が接触部を通って流れて接触部を加熱し、ワイヤを構造体に溶接するためのコントローラとを含む。
【0006】
したがって、カーボンナノチューブ等のナノスケールワイヤと、マニピュレータのプローブ等の別の構造体とを互いに接触させることができ、ワイヤと構造体との間に接触部を介して電流を通電することにより、溶接部を形成することができる。通常、接触部の電気抵抗が、ワイヤまたは他の構造体の抵抗よりも当初は高いことが、出願人により認識されている。したがって、ワイヤと構造体との間の接触部の両端に電流を通電すると、接触部は、ワイヤまたは他の構造体よりも電流による加熱を多く受けて、溶接部が形成される。
【0007】
この発明により、ワイヤまたは他の構造体に損傷を与えずに溶接部を形成することができる。しかしながら、溶接中にワイヤまたは他の構造体が損傷を受ける危険性を低下させるために、溶接中に接触部を通って流れる電流を制限することが好ましい。すなわち、好ましくはコントローラが、溶接中に接触部を通って流れる電流を制限する。電流は実際に、溶接の電流しきい値よりも低く制限され得る。この電流は一般に、溶接される特定の種類のナノスケールワイヤが過熱して破損するか、または構造上損傷を受ける前までに伝えることのできる標準的な電流よりも低く設定される。この電流は、実験により確立することができる。通常、溶接の電流限界は10μAのオーダであるが、これはワイヤの種類に大きく依存する。
【0008】
必要な電流を生じるのに、通常は、約5V未満の電圧で十分である。一例では、接触部の両端に電圧を1回のみ印加することができる。同様に、電流を予め定められた期間、たとえば約1sと約100sとの間にわたり、一定に保持することができる。このことは、実験によって、最適な溶接部を得るのに必要とされる電流および持続期間が確立されると有用であると考えられる。しかしながら、接触部の両端に2回以上電圧を印加することが好ましい。すなわち、複数の別個の期間中に接触部の両端に電圧を印加するとよい。したがって、この装置は、複数の別個の期間中に接触部の両端に電圧を印加するためのコントローラを含み得る。
【0009】
電圧をこのように繰返し印加することによって溶接部を調整し、溶接部の品質を、形成中に監視できることを出願人は認識している。より具体的には、既知の電圧または電圧波形を接触部の両端に繰返し印加して、連続した印加の際の電流を測定することにより、接触部の抵抗の減少を検出することができる。抵抗の減少は、溶接部の電気的および機械的特性が改善されたことを示し得る。さらに、抵抗の減少が止まると、溶接部が最適品質に到達していることを出願人は認識している。
【0010】
したがって、この方法が、電圧の印加中に接触部を通る電流を監視するステップを含むことが好ましい。すなわち、コントローラが、電圧の印加中に接触部を通る電流を監視することが好ましい。また、この方法が、既知の電圧が印加されたときの電流と、その電圧が再び印加されたときの、その電圧における電流とを比較するステップを含むことが好ましい。すなわち、既知の電圧が印加されたときの電流と、その電圧が再び印加されたときの、その電圧における電流とをコントローラが比較することが好ましい。このようにして、接触部の抵抗の変化を監視することができる。この比較は、異なる期間中に印加された電圧間、たとえば、電圧の連続した印加と印加との間で行なわれるものである。しかしながら、電圧が、個々の期間中に上昇および下降し、上昇中の電圧における電流と、下降中のその電圧における電流とが比較されることが好ましい。精度を高めるために、電流は、複数のそれぞれの電圧において比較され得、または、電圧と電流との関係が比較され得る

【0011】
上述のように、抵抗が実質的にさらに減少しないことが検出されると、溶接部は最適な状態にあると考えることができる。したがって、この方法が、比較により電流の実質的な差がないことが示されるまで接触部の両端に電圧を引続き印加するステップ(たとえば、別の期間中に電圧を印加するステップ)を含むことが好ましい。すなわち、この装置は、電流の実質的な差がないことをコンパレータが示すまで、接触部の両端に電圧を継続して印加する(たとえば別の期間中に電圧を印加する)コントローラを含み得る。これは、電流の差が予め設定された限界、たとえば1%未満になったときと考えることができる。
【0012】
上述のように、他の構造体は一般に、ナノスケールワイヤを操作するためのプローブ、たとえばナノスケールプローブであることが考えられる。しかしながら、他の構造体は、他のさまざまなデバイスまたは構成要素であり得る。たとえば、他の構造体は、ナノスケールワイヤ用の基板であり得る。代替的に、他の構造体は、別のナノスケールワイヤであり得る。したがって、ナノスケールワイヤを、他のナノスケールワイヤを含む他のさまざまな構造体に溶接し、溶接部を調整して、最適化された電気的かつ機械的接続を形成するこの発明の能力により、多数の新しいナノスケール構造体を形成することができる。したがって、この発明の第3の局面に従い、上述の方法を用いて生産されるナノスケール構造体を提供する。これらの構造体は、種々の異なる形態をとることができるが、上述の方法を用いて形成される1つ以上の溶接部を含むことにより特徴付けられる。
【0013】
他の構造体が可動プローブであるとき、ナノスケールワイヤがプローブに一旦溶接されると、プローブを移動させてワイヤを移動させるか、またはワイヤに歪みを加えることができる。溶接部は調整により機械的に強化されているため、溶接部が破壊することなく、プローブにより相対的に大きな力を加えることができる。さらに、溶接部が良好な電気的特性を有しているため、相対的に大きな電流をナノスケールワイヤに通電することができる。これにより、ナノスケールワイヤ自体の電気的および機械的特性をアニールにより改善できることを出願人は認識している。すなわち、この構造体はプローブであることが考えられ、この方法は、ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、プローブを介してワイヤに通電するステップを含み得る。同様に、この構造体はプローブであることが考えられ、コントローラは、ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、プローブを介してワイヤに通電することができる。
【0014】
出願人は、以下の内容が新規であると考えており、この発明の第4の局面に従い、ナノスケールワイヤをアニールする方法を提供する。この方法は、プローブをワイヤに溶接するステップと、ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、プローブを介してワイヤに通電するステップとを含む。
【0015】
同様に、この発明の第5の局面に従い、ナノスケールワイヤをアニールするための装置を提供する。この装置は、プローブをワイヤに溶接するための手段と、ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、プローブを介してワイヤに通電するためのコントローラとを含む。
【0016】
したがって、ワイヤを単に加熱することにより、ワイヤをアニールして、ワイヤの電気的および機械的特性を改善することがでる。しかしながら、プローブを移動させることによってワイヤに歪みを加えて、アニール中にワイヤを真直化するか、または曲げることができる。したがって、この方法が、プローブを移動させてワイヤに歪みを加えるステップを含むことが好ましい。プローブは、ワイヤを曲げることによりワイヤに歪みを加えることができる。代替的に、プローブは、ワイヤを真直化することによりワイヤに歪みを加えることができる。
【0017】
ナノスケールワイヤが一旦溶接および/または調整されると、それを切断することが望ましいと考えられる。たとえば、ナノスケールワイヤを、そこから切離すことが望ましい基板に取付けることができる。したがって、この方法がさらに、
ワイヤが保持される2つの位置の間の、ワイヤの長さに沿った位置に、切断プローブを位置付けるステップと、
切断プローブとワイヤとの間に電圧を印加して、ワイヤの長さに沿った位置でワイヤを切断するステップとを含むことが好ましい。
【0018】
同様に、この装置がさらに、ワイヤが保持される2つの位置の間においてワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるためのマニピュレータを含むことと、コントローラが切断プローブとワイヤとの間に電圧を印加して、ワイヤの長さに沿った位置でワイヤを切断することとが好ましい。
【0019】
出願人は、以下の内容が新規であると考えており、したがって、この発明の第6の局面に従い、ナノスケールワイヤを切断する方法を提供する。この方法は、
ワイヤが保持される2つの位置の間において、ワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるステップと、
切断プローブとワイヤとの間に電圧を印加して、ワイヤの長さに沿った位置でワイヤを切断するステップとを含む。
【0020】
同様に、この発明の第7の局面に従い、ナノスケールワイヤを切断するための装置を提供する。この装置は、
ワイヤが保持される2つの位置の間において、ワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるためのマニピュレータと、
切断プローブとワイヤとの間に電圧を印加して、ワイヤの長さに沿った位置でワイヤを切断するためのコントローラとを含む。
【0021】
2つの位置の一方が、構造体にワイヤが溶接された位置であることが考えられる。2つの位置の他方は、ワイヤが基板に接触する地点、たとえば、ワイヤを成長させた地点であることが考えられる。一般に、切断プローブは、ワイヤの長さに沿った位置でワイヤに接触するように位置付けられ、ワイヤが保持されている2つの位置の一方と切断プローブとの間にのみ電圧が印加される。その結果、電流は、切断プローブがワイヤに接触する位置と、2つの位置の一方との間のワイヤの一部のみに流れる。したがって、ワイヤのその部分のみが加熱され、残りの部分から切離される。このことを行なうため、一般に、電流は相対的に高い。たとえば、ナノスケールワイヤが破損するか、または構造上損傷を受けると推定される標準的な電流を上回る電流を通電するように、印加する電圧を制御することができる。
【0022】
代替的に、切断プローブがワイヤの長さに沿った位置においてワイヤに最も近接しながらも、ワイヤからわずかに間隔をあけて配置されるように切断プローブを位置付けることができる。電圧が印加されると、ワイヤとプローブとの間の電界により、ワイヤの長さに沿った位置においてワイヤが気化する。この場合、印加する電圧が逆転することが好ましい。
【0023】
ナノスケールワイヤを溶接し、アニールし、切断するこの発明の能力により、多数の新しいナノスケール構造体を形成することができる。したがって、この発明の第8の局面に従い、上述の方法の任意のものを用いて生産されるナノスケール構造体を提供する。
【0024】
この発明の方法は、ソフトウェア、たとえばコンピュータプログラムを少なくとも部分
的に用いて実現することができる。したがって、この発明のさらに別の局面に従い、コンピュータにインストールされたときに上述の方法を実施するように特に適合されたコンピュータソフトウェアを提供する。この発明はまた、このようなソフトウェアを含むコンピュータソフトウェアキャリアにまで及ぶ。コンピュータソフトウェアキャリアは、ROMチップ、CD ROMもしくはディスク等の物理的な記憶媒体であり得、または、ワイヤを介した電子信号か、たとえば衛星等への光学信号もしくは無線周波信号等の信号であり得る。
【0025】
ナノスケールは、1nmと1μmとの間の少なくとも1つの寸法を有することを意味するように意図される。たとえば、ナノスケールワイヤの直径は、1nmと1μmとの間であることが考えられる。実際に、上述のナノスケールワイヤがカーボンナノチューブであり、これらのチューブが一般に、約100nmまでの直径を有することが好ましい。しかしながら、この発明はカーボンナノチューブに限定されない。むしろ、ナノスケールワイヤは、ナノファイバ、ナノ粉末、ナノ粒子、ナノロッド、ナノ構造体、炭素球、および単結晶ナノワイヤであってよい。同様に、ワイヤは、より大きなミクロンまたはミリメートルの大きさであってもよい。これらのナノスケールワイヤ等は導電性であるべきであるが、無機性または有機性であってもよい。適切な無機材料の例が炭素またはシリコンであり得る。有機材料は、導電性ポリマーか、またはタンパク質ベースのファイバ、たとえばDNA、酵素、またはマイクロチャネルを含み得る。
【0026】
カーボンナノチューブへの言及は、任意の特定の方法により生産されたカーボンナノチューブに限定されない。したがって、文献に記載され、かつ、認識される任意の方法により生産されたナノチューブを、この発明の方法により操作することができる。この明細書で言及されるカーボンナノチューブが単層または多層ナノチューブのいずれかであり得、すなわち、これらのカーボンナノチューブが、カーボングラファイト材料の1つ以上の同軸状の層から構築されるものと考え得ることも理解されるべきである。また、カーボンナノチューブは、シリコンナノワイヤか、または、無機の導電性材料からなる他の任意のナノ/マイクロワイヤであってもよい。
【0027】
次に、添付の図面を参照して、この発明の好ましい実施例を例示としてのみ説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
好ましい実施例の詳細な説明
図1を参照すると、この装置は、走査型電子顕微鏡(SEM)1を備える。SEM1は、試料ホルダ3(またはSEMステージ)を収容するマニピュレーションチャンバ2(またはSEMチャンバ)の上方に位置付けられる。マニピュレーションチャンバ2の壁部は2本のプローブ4および4aを支持し、試料ホルダ3は試料5を保持することができる。試料5は、たとえば、基板10上に担持されるか、または支持体上に配置されたカーボンナノチューブ10aである。
【0029】
他の実施例では、3本以上のプローブ4および4aが設けられ、プローブ4および4aは試料ホルダ3(またはSEMステージ)上で支持される。
【0030】
この実施例において、プローブ4および4aの各々は、約5nmから約100μmの範囲の先端半径を有する、尖った器具またはマニピュレータを備える。他の実施例において、プローブ4および4aは鉤の形状を有する。タングステンは、その電気的、物理的、および機械的特性により、プローブ4および4aに特に適した材料である。しかしながら、プローブ4および4aは、タングステン以外の金属で形成することができる。実際に、プローブ4および4aは、任意の導電性材料で形成され得る。代替的に、プローブ4および4aを酸化物で被覆するか、または半導体性にして、ナノチューブの電気的特性がより広
範囲にわたって評価されるようにすることができる。
【0031】
プローブ4および4aは、マニピュレーションチャンバ2および試料ホルダ3から、ならびに、互いに電気的に絶縁されるが、マニピュレーションチャンバ2の壁部を通る外付けのワイヤ6および6aに接続される。同様に、試料ホルダ3は、試料5をマニピュレーションチャンバ2およびプローブ4および4aから電気的に絶縁しながらも、マニピュレーションチャンバ2の壁部を通る外付けのワイヤ7に試料ホルダ3を接続するように構成される。電気的に接続する目的は、プローブ4および4aならびに試料ホルダ3に電界が印加され得るようにするためと、プローブ4および4aと試料ホルダ3との間にたとえば試料5を介して形成される回路を通って電流が流れ得るようにするためである。
【0032】
この目的のため、外付けのワイヤ6、6aおよび7に電力供給装置8が接続される。電力供給装置8は、ワイヤ6、6aおよび7の任意の組合せ、したがって、プローブ4および4aおよび/または試料ホルダ3の任意の組合せの間に電圧を選択的に印加することができる。したがって、電力供給装置8は、電源(図示せず)に接続されており、電源と、異なるワイヤ6、6aおよび7との間に接続を形成するためのスイッチを含む。電力供給装置8はまた、プローブ4および4aおよび/または試料ホルダにより、たとえば試料5を介して形成される任意の回路に流れる電流を可変にかつ選択的に制限することもできる。すなわち、ワイヤ6、6aおよび7は、プローブ4および4aからプローブ4および4aに、または、プローブ4および4aから試料ホルダ3のいずれかにおいて、電位差および/または電流を提供することができる。電力供給装置8が提供することのできる電圧は、実質的に約−50Vから約+50Vの範囲内にある。電力供給装置8が提供することのできる電流は、実質的に約1×10-12Aから約1Aの範囲内にある。
【0033】
プローブ4および4aは、3軸(x,y,z)に沿った平行移動による移動が可能である。同様に、試料ホルダ3は、3軸(x,y,z)に沿った平行移動、傾動、および回転による移動が可能である。他の実施例では、プローブ4および4aと試料ホルダ3との両方に対し、異なる種類の、またはさらに別の種類の移動を提供することができる。プローブ4および4aならびに試料ホルダ3は、約10μmと約10mmとの間までの全範囲にわたり、ナノメートルの精度で移動させることができる。この実施例において、移動は、圧電アクチュエータを用いて得られるが、他の実施例では、他の種類の機械的および電気的アクチュエータを使用することができる。
【0034】
電力供給装置8と、アクチュエータの使用によるプローブ4および4aならびに試料ホルダ3の移動とを制御するように、コントロールユニット9が構成される。この実施例において、コントローラ9は、以下に示す方法を実施するように適合されたソフトウェアを実行し、そして、電力供給装置8およびアクチュエータを制御するためのインターフェイスを有するコンピュータである。コントローラ9は、電力供給装置8を制御することに加え、電力供給装置8が生成する電位差および電流を監視することができる。同様に、コントローラ9は、プローブ4および4aならびに試料ホルダ3の動きを制御することに加え、SEM1を制御することができ、かつ、画像解析ソフトウェアを用いて、SEM1が生成する画像を解析し、プローブ4および4a、試料ホルダ3、および個々のカーボンナノチューブ10aの動きをも監視することができる。これについては、より詳細に以下に説明する。
【0035】
カーボンナノチューブ10aは、さまざまな方法で調製することができ、したがって試料5は、いくつかの異なる形態のうちの1つを有し得る。たとえば、カーボンナノチューブ10aは、カーボンナノチューブ10aの束に浸した先端に付着させることができ、または、カーボンナノチューブ10aを露出するように劈開した導電性ポリマー試料に埋込むことができ、または、試料5を生産する他の任意の方法を用いて調製されて、カーボン
ナノチューブ10aが、プローブ4および4aの間で、もしくは、プローブ4および4aの一方あるいは両方と試料ホルダ3との間で電気的に接触し得る。実際にこの発明は、カーボンナノチューブ以外のナノスケールワイヤに適用可能であるが、これらのワイヤは導電性であるべきであり、基板10に取付けられる場合は、基板もまた導電性であると有用である。しかしながら、以下の実施例は、ここからカーボンナノチューブ10aを成長させる基板10を形成する触媒粒子に付着したナノチューブ10aを含む試料5に関して説明する。
【0036】
したがって、この装置は、SEM1の下においてプローブ4および4a、またはプローブ4および4aと試料ホルダ3を選択的に移動させて、それらに電圧および電流を印加することができる。これにより、個々のカーボンナノチューブ10aを選択することができ、プローブ4および4a、基板5、または別のカーボンナノチューブ10a等の他の構造体に個々のカーボンナノチューブ10aを溶接することができ、または、個々のカーボンナノチューブ10aを、その長さに沿った選択された位置で切断することができる。これらの個々のプロセスを、以下により詳細に説明する。
【0037】
カーボンナノチューブの選択
図2を参照すると、いくつかのカーボンナノチューブ10aを付着させた基板10を含む試料5が、試料ホルダ3内に保持される。プローブ4を、試料ホルダ3を基準として、したがってカーボンナノチューブ10aを基準として移動させることができる。
【0038】
コントローラ9はまず、基板10より遠位の、目標とするカーボンナノチューブ10aの端部の平面上にSEM1の焦点を合わせる。次に、プローブ4を、カーボンナノチューブ10aの端部と同じ平面に移動させ、その平面(図1のx,z平面)上でカーボンナノチューブ10aに向けて平行移動させる。この粗いアライメントが実施されると、コントローラが電力供給装置に対し、実質的に約1Vから2Vの範囲の選択電圧をプローブ4に印加させる。その際に、基板10およびナノチューブ10aは、接地、たとえば0Vに保持される。それと同時に、コントローラ9は電力供給装置8に対し、たとえばナノチューブ10aまたは基板10のいずれかを介してプローブ4と試料ホルダ3との間に流れ得る電流を、選択電流制限よりも低く、たとえば、実質的に約1μA未満にまで制限させる。選択電圧の目的は、プローブ4と、目標とするナノチューブ10aとの間に静電引力を生じることである。電流制限の目的は、万一、プローブ4がナノチューブ10aのいずれかに接触した場合に、たとえばナノチューブ10aを加熱し過ぎて気化させてしまうことにより、電流がナノチューブ10aに著しい損傷を与えるまでに至らないようにすることである。
【0039】
SEM1の被写界深度は、500nmの深度であり得る。したがって、SEM1の被写界深度を用いることは、プローブ4および目標とするカーボンナノチューブ10aが、互いに約500nm以内に位置したときに限られる。プローブが、目標とするカーボンナノチューブ10aと同じ被写界深度に入ると、コントローラ9は、不連続なステップで、プローブ4をナノチューブ10aに向けて移動させる。それと同時に、コントローラ9は、SEM1が生成する画像を用いてナノチューブ10aの位置を監視する。プローブ4と、目標とするナノチューブ10aとの間の間隔が十分に小さくなると、静電引力により、ナノチューブ10aはプローブ4の方に向かって曲がる。これにより、プローブ4の接近を注意深く監視することができる。
【0040】
ナノチューブ10aがプローブ4の方に向かって曲がるにつれ、コントローラ9は、プローブ4と試料ホルダ3との間に流れる電流を監視する。プローブ4が十分に接近してナノチューブ10aが十分に曲がると、ナノチューブ10aはプローブ4に接触する。接触が生じる前には、プローブ4と試料ホルダ3との間に、実質的に電流が流れない。しかし
ながら、ナノチューブ10aとプローブ4が接触すると、プローブ4と試料ホルダ3との間に電流が流れる。コントローラ9が電流を監視することから、コントローラ9は、プローブ4とナノチューブ10aとの間に接触が生じた正確な瞬間を特定することができ、接触が特定されると、コントローラは、基板10を基準としてプローブ4を移動させることを止める。プローブ4に印加された選択電圧もまた、停止または減少させることができる。このようにして、目標となるナノチューブ10aが選択される。
【0041】
ナノチューブ10aが一旦選択されると、プローブ4と試料ホルダ3との間に既知の電圧を印加して、流れる電流を測定することにより、その特定のナノチューブ10aの電気的特性(たとえば半導体性または金属性)が求められる。このことは、特定の用途に対してナノチューブ10aの品質およびその有用性を求めるのに役立ち得る。ナノチューブ10aが適切なものではない場合に、たとえば電流を増大させてナノチューブ10aを気化させるか、または単にプローブ4を後退させることによって接触を断つことができ、別のナノチューブ10aを選択することができる。
【0042】
ナノチューブの、プローブへの溶接
ナノチューブ10aが選択されて、ナノチューブ10aが適切であると認められた場合、電流をナノチューブ10aに通電してナノチューブ10aを加熱することができ、より重要なこととして、ナノチューブ10aの、プローブ4への接続部を加熱することができる。これにより、ナノチューブ10aをプローブ4に溶接し、ナノチューブ10aとプローブ4との間の電気的および機械的接触を改善する。
【0043】
より具体的には、ナノチューブ10aが溶接のために選択される前に、たとえば過熱および気化によって特定の試料5のナノチューブ10aが破損する電流が求められる。この実施例において、このことは、コントローラ9が試料5のナノチューブ10aを選択し、接触が一旦確立されると、電力供給装置8に対し、ナノチューブ10aが破損するまでナノチューブ10aを通って流れる電流を徐々に増大させることによって達成される。ナノチューブ10aが破損すると、電流はゼロまで急激に降下する。コントローラ9は、その電流を監視し、ナノチューブ10aを通って流れる最大電流を求める。この最大電流は通常、ナノチューブ10aが破損するか、または構造上損傷を受ける直前のものである。この電流を破損電流と呼ぶ。このプロセスは通常、2本以上のナノチューブ10aに対して繰返され、溶接の電流制限は、標準的な(たとえば最も低いか、または平均の)求められた破損電流よりも低く設定される。当然ながら、特定のタイプまたはバッチの試料5において有意な経験が得られると、信頼性の高い態様で溶接の電流制限を求めることができ、各試料5に対して新規の制限を設定する必要がなくなる。
【0044】
上述のように、ナノチューブ10aが選択されると、接触が生じた瞬間に流れる小さな電流が、接触領域においてナノチューブ10aを加熱する。より具体的には、ナノチューブ10aとプローブ4との間の接触は、電気的に見て当初は悪く、たとえば、ナノチューブ10aの残りの部分、ならびに実際にはプローブ4および基板10に比べて高い抵抗を有するため、この領域は、ナノチューブ10aの残りの部分よりも高い温度まで加熱される。その結果、接触部においてナノチューブ10aとプローブ4との間における材料が、少量だけ拡散する。しかしながら、選択中の電流制限が極めて低いため、接触部における加熱および拡散は最小限のものとなり、電気的接触は悪いままである。
【0045】
したがって、ナノチューブ10aが一旦選択されて接触が生じると、接触部が溶接されて接続を改善する。このことは、接触部両端の電圧、たとえばプローブ4と試料ホルダ3との間の電圧を、制御された態様で増大または「一定の割合で変化」させて、その電流を溶接の電流制限まで上昇させることによって達成される。一実施例において、コントローラ9は、電力供給装置8に電流を増大させ、その電流を予め定められた期間にわたって一
定のレベルに保持させる。この予め定められた期間は、実質的に約1sと100sとの間であり得る。電流は、ナノチューブ10aとプローブ4との間の接触部を加熱して、ナノチューブ10aとプローブ4との間における、材料のさらなる拡散(「相互拡散」等)を生じる。したがって、形成された溶接部は、その電気的および機械的特性が改善されている。
【0046】
別の実施例において、コントローラ9は、電力供給装置8に対し、接触部の両端、たとえばプローブ4と試料ホルダ3との間に電圧を繰返し印加させる。より具体的には、短い期間にわたり、2回以上の別個の機会において、電圧を上昇させ、その後降下させる。電圧を上昇および降下させることに伴って電流を監視することにより、電気的接続の品質が改善されたことを、たとえば、抵抗の減少として認識することができる。すなわち、電流が接触部を改善する加熱を生じる間に、電圧の印加中に接触部の両端の抵抗が変化する。したがって図3を参照すると、電流対電圧のプロットは、各電圧の印加(11a〜e)に関し、電圧を降下させたとき(曲線B等)と、電圧を上昇させたとき(曲線A等)とで異なる曲線を示す。しかしながら、接触部の電気的接続に何ら改善が見られなくなると、抵抗は著しく変化せず、電圧を上昇させたときの曲線は、電圧を下降させたときの曲線と実質的に同じになる(図3の曲線11e等を参照)。
【0047】
したがって、コントローラ9に対する第1の段階は、電力供給装置8に対し、接触部の両端に±1V等の低電圧を印加させて、約数nA等の電流が接触部の両端に流れているか否かを検出することにより、接触部が形成されるようにすることである。電流が流れている場合、コントローラ9は、プローブ4とナノチューブ10aとの間に接触が生じたと判断する。これは効果的にも、上述のとおり、選択中に目標となるナノチューブ10aとの間に接触が生じたことを確認するステップと同じである。電流が流れていない場合、ナノチューブ10aを選択するプロセスが繰返される。
【0048】
次に、コントローラ9は、電力供給装置に対し、プローブ4と試料ホルダ3との間の電圧を上昇させる。この実施例において、コントローラ9は、たとえば約0.1Vずつ電圧を段階的に上昇させる。電流は、各段階において約数ms以上の間にわたり保持される。電圧を上昇させるたびに電流を測定する。
【0049】
電圧を上昇させながらも、コントローラ9は、電力供給装置8に対し、溶接の電流限界まで電流を制限させる。この制限は一般に、約1μA以下である。同様に、コントローラ9は、溶接の電圧限界まで電圧を制限する。この溶接の電圧限界は一般に、約数ボルトである。したがって、溶接の電流限界に到達するか、または溶接の電圧限界に到達すると、コントローラ9は電力供給装置に電流の上昇を止めさせる。電流限界または電圧限界に到達すると、コントローラ9は、電力供給装置8に対し、約0.1Vずつ電圧を0Vまで段階的に降下させる。ここでもまた、電圧を降下させるたびに電流を測定する。電圧のこの上昇および降下を、調整サイクルと呼ぶことができる。
【0050】
各調整サイクルの後または調整サイクルの間に、コントローラ9は、接触部の品質を確認する。このことは、コントローラ9が、調整サイクル中に電圧を上昇させる/させたときの電流の測定値と、調整サイクル中に電圧を降下させる/させたときのそれぞれの電流の測定値とを比較することによって達成される。1つの選択された電圧における比較が行なわれると十分である。しかしながら、精度を高めるために、何回かの比較が行なわれるか、または、電圧を上昇させる/させたときの電流−電圧曲線が、電圧を降下させる/させたときの電流電圧曲線と比較される。図3で分かるように、接触が悪い場合は、上昇曲線と下降曲線とに著しい差が見られ、たとえばヒステリシスが存在する。しかしながら、接触が良好な場合、接触部の抵抗は調整サイクルの全体にわたって増大せず、上昇データ曲線と下降データ曲線とに実質的な差はない。
【0051】
したがって、サイクルの上昇期および下降期の間にそれぞれの(または一致した)電圧における電流間に予め定められた差、たとえば1%を超える差が存在する場合、コントローラ9は、別の調整サイクルを実施する。代替的に、2つの電流間または電流の組の間に差がないか、または予め定められた差よりも小さな差が存在するとコントローラ9が判断した場合、コントローラ9は、接触部の電気的接続が良好であると判断する。そして、コントローラ9は、さらに別の調整サイクルを実施しない。
【0052】
別の調整サイクルが実施されるべきであるとコントローラ9が判断した場合、コントローラ9はまた、電圧限界に到達したか、または電流限界に到達したか、のいずれにより、以前の調整サイクル中に電力供給装置が電圧の上昇を停止したのかを判断する。電圧限界に到達していた場合、電圧限界を、たとえば約1Vだけ上昇させる。電流限界に到達していた場合、電流限界を、たとえば約1μAだけ増大させる。次に、より高い電圧限界または電流限界を用いて次の調整サイクルを実施し、その結果、より高い電流が接触部に通電される。
【0053】
コントローラ9は、接触部の品質がこれ以上改善しないと判断するまで、たとえば、サイクルの上昇期および下降期の間にそれぞれの(または一致した)電圧における電流の差が、たとえば1%未満であると判断するまで、この態様で引続き調整サイクルを実施する。これにより、電流を厳密な制御下に置き、かつ、電流による過剰な加熱がナノチューブ10aに損傷を与えないようにしながら、ナノチューブ10aとプローブ4との間の接触を改善することができる。さらに、電圧を制御された態様で印加することにより、迅速かつ安全に、調整された溶接部を形成することができる。
【0054】
ナノチューブの調整
溶接部を調整するために使用される態様と同様の態様で、個々のナノチューブ10aを調整することができる。たとえば、ナノチューブ10aを触媒法により低温で成長させると、ナノチューブ10aが捩れおよびよじれを有することが公知である。この発明を用いてこれらの捩れおよびよじれを真直化し、他の種類の調整を行なうことが可能である。
【0055】
試料ホルダ3内の基板10に接続されたナノチューブ10aは、上述の方法を用いてプローブ4に溶接されると、各端部において確実に保持され、各端部において良好な電気的接続が生じる。したがって、プローブ4/ナノチューブ10aまたはナノチューブ10a/基板10の接触が損傷を受けることなく、相対的に高い電流をナノチューブ10aに通電することができる。さらに、試料ホルダ3を基準としてプローブ4を移動させて、ナノチューブ10aに機械的歪みをかけることができる。
【0056】
たとえば、ナノチューブ10aが湾曲している場合、ナノチューブ10aがプローブ4に溶接されると、コントローラ9は、基板10から離れる方向にプローブ4を移動させる。これにより、ナノチューブ10aは真直化する。次にコントローラ9は、電力供給装置8に対し、ナノチューブ10aに電流を通電させ、一定期間にわたってナノチューブ10aを加熱する。これにより、ナノチューブ10aがアニールされ、したがって、その構造がより真直なものとなる。実際に、コントローラ9は、ナノチューブ10aに電流を通電して、試料ホルダ3から離れる方向にプローブ4を徐々に移動させるのと同時に加熱を生じることができる。したがって、かなりの真直化を行なうことができる。
【0057】
別の実施例において、コントローラ9は、プローブ4を移動させて真直なナノチューブ10aに湾曲を生じるようにする。これによりナノチューブ10aは、量子ドット等の特定の電気的特性を生じ得る。
【0058】
別の実施例において、コントローラ9は、上述のように、溶接部に対する調整サイクル中に行なわれる態様と同様の態様で印加する電圧を変化させることにより、ナノチューブを加熱する。すなわち、コントローラ9は、電流を監視しながら電圧を上昇および降下させ、ナノチューブ10aの電気的特性がこれ以上改善しないと判断するまでこれを繰返す。したがって、ナノチューブ10a全体の電気的特性の、信頼性の高い改善を得ることができる。当然ながら、電圧の印加前または印加中にプローブ4を移動させて、所望のとおりナノチューブを真直化するか、または曲げることもできる。
【0059】
したがって、ナノチューブ10aを真直化するか、または曲げることなくナノチューブ10aの電気的特質または特性を改善すること、または、ナノチューブ10aをある程度真直化するか、または曲げた状態で、試料ホルダ3を基準としてプローブ4を移動させ、ナノチューブに歪みを加えて電気的特質を改善することが、いずれも可能である。
【0060】
ナノチューブの切断
ナノチューブ10aがプローブ4に溶接されると、ナノチューブ10aの長さに沿った或る部分において、または、ナノチューブ10aを基板10に付着させた端部において、ナノチューブ10aを切断することができると有用である。このことを行なうために、第1のプローブ4とは別個に移動することのできる第2のプローブ4aが用いられる。
【0061】
図4を参照すると、コントローラ9は、ナノチューブ10aを切断することが所望される地点において、第2のプローブ4aをナノチューブ10aの方に移動させる。コントローラ9は次に、第1のプローブ4および基板が0V等の接地電圧に保持された状態で、電力供給装置に対し、約1Vから2V等の選択電圧を第2のプローブ4aに印加させる。これにより、ナノチューブ10aを切断することが所望される地点が規定される。したがって、第2のプローブ4aと、第1のプローブ4に既に溶接されたナノチューブ10aとを用いて、この選択のプロセスが効果的に繰返される。
【0062】
第1のプローブ4に溶接されたナノチューブ10aの一部を残しておくことが望まれる場合、第2のプローブ4aとナノチューブ10aとの間に接触が確立されると、コントローラ9は、電力供給装置8に対し、第2のプローブ4aと試料ホルダ3との間に電圧を印加させる。この電圧により、第2のプローブ4aと基板10との間のナノチューブ10aの一部における電流は、破損電流を上回る(たとえば、通常、約数十μAから数百μAの電流を印加する)。第2のプローブ4aと第1のプローブ4との間のナノチューブ10aの一部には電流が通電しない。したがって、第2のプローブ4aと基板10との間のナノチューブ10aの一部が気化し、第2のプローブ4aと第1のプローブ4との間のナノチューブ10aの一部は無傷の状態で残り、依然として第1のプローブ4aに溶接された状態を保つ。第2のプローブ4aがナノチューブ10aに接触する地点を適宜選択することにより、ナノチューブ10aを、その長さに沿った任意の所望の地点で切断することができる。次に、ナノチューブ10aを、たとえば試料5の別の領域または別の基板10に向けて自由に移動させることができる。
【0063】
別の実施例において、第2のプローブ4aとナノチューブ10aとの間に小さな間隙をあけることができる。次に、第2のプローブ4aとナノチューブ10aとの間に交流電圧を印加し、これによって第2のプローブ4aに最も近接するナノチューブ10aのわずかな一部を気化させる。その結果、ナノチューブ10aの2つの部分、すなわち、図4に示すように、第1のプローブ4に溶接された一方と、基板10に付着させた他方とが残る。
【0064】
ナノチューブ10aの溶接およびそれらの調整に関し、このプロセスは、コントローラ9により制御することができる。最も単純な場合では、プローブ4aを手動で位置付けて、コントローラ9を用いて各先端および基板のそれぞれにおける電圧および電流を制御す
ることができる。代替的に、コントローラ9は、SEM1からの画像を用いてプローブ4および4aを位置付けることができ、切断プロセスの全体が自動化され得る。コントローラ9は、切断および短縮化のプロセスの速度および繰返し精度をいずれも著しく改善することができる。
【0065】
別の構造体へのナノチューブの溶接
上述の溶接プロセスを同様に用いて、ナノチューブ10aをプローブ4および4a以外の構造体に溶接することができる。たとえば、ナノチューブ10aを他のナノチューブ10a(たとえば図5参照)か、または他の構造体もしくは基板(図示せず)に溶接することができる。通常、ナノチューブ10aはまず、上述の溶接および切断プロセスを用いて第1のプローブ4に溶接され、基板10から切離される。それにより、ナノチューブ10aは実際に、プローブ4の延長部となる。このことは、プローブに付いたナノチューブを移動させて他のナノチューブ10aまたは基板10に接触させて、上述の溶接プロセスを用いて他のナノチューブ10aまたは基板10に溶接可能であることを意味する。実際に、ナノチューブ10aを端部同士で溶接し、異なるナノチューブからより長いナノチューブを形成することができ、また、ナノチューブを他のチューブの側面に溶接して、図5に示すように「T」形のナノチューブを形成することもできる。したがって、3つ以上の末端を有するナノチューブデバイスを形成することができる。次に、ここでもまた上述の方法を用いて、1本のナノチューブまたは溶接されたナノチューブの組合せを、他の適切な構造体または基板に溶接することができる。他の構造体または基板が導電性であり、電力供給装置8に接続され得ることが、唯一の要件である。
【0066】
上述の技術を用い、これまでに実証されてきたものよりも極めて複雑なカーボンナノチューブ10aに基づいた電子デバイスを構築することができる。同様のまたは異なるナノチューブ10aを多種多様な構成で互いに溶接し、他のデバイスに次いで接続され得る適切な基板10に溶接し、選択的にかつ高い成功率でカーボンナノチューブの電子デバイス(および関連構造)を生産することができる。他の有用な構造体の例には、走査プローブ顕微鏡の先端に対する高アスペクト比の延長部、およびマイクロマシン(MEMS: micro electrical machine system)のデバイスおよびセンサにおける機械的アクチュエータが含まれる。
【0067】
全体的に見て、上述のナノチューブの選択、溶接、および切断のプロセスは、電圧および電流を注意深く制御することと、試料ホルダ3を基準としてプローブ4および4aを移動させることとに基づく。コントローラ9は、電力供給装置8を用いて電流および電圧を制御および監視する。コントローラ9はまた、SEM画像およびアクチュエータからのフィードバックを用いて、プローブ4および4a、ナノチューブ10a、ならびに基板10の、3次元空間内における位置も確立する。したがって、これらのプロセスを、所望の通り完全にまたは部分的に自動化することができる。
【0068】
この発明の上述の実施例は、この発明をいかに実現することができるかについての単なる例示である。上述の実施例に対する改良例、変形例、および変更例を、当業者は思いつくであろう。これらの改良例、変形例、および変更例は、請求項およびその均等物で規定された発明の精神および範囲から逸脱することなく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明に従った装置の概略図である。
【図2】図1の装置を用いてカーボンナノチューブをプローブに溶接する方法の概略図である。
【図3】溶接中の電流対電圧の片対数グラフである。
【図4】図1の装置を用いてカーボンナノチューブを切断する方法の概略図である。
【図5】図1の装置を用いてカーボンナノチューブを別のカーボンナノチューブに溶接する方法の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノスケールワイヤを構造体に溶接する方法であって、
前記ナノスケールワイヤおよび前記構造体を互いに接触させて位置付けるステップと、
接触部の両端に電圧を印加し、それによって電流が前記接触部を通って流れて前記ワイヤを前記構造体に溶接するステップとを含む、方法。
【請求項2】
溶接中に前記接触部を通って流れる電流を制限するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流は、前記ナノスケールワイヤが破損するか、または構造上損傷を受けると推定される標準的な電流よりも低い電流しきい値レベルまで制限される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電流しきい値レベルは、約10μA未満である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記電圧は約5V未満である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
複数の別個の期間中に前記接触部の両端に電圧を印加するステップを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
電圧の印加中に電流を監視するステップを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
既知の電圧が印加されたときの電流と、その電圧が再び印加されたときの電流とを比較して、前記接触部の抵抗の変化を監視するステップを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
比較した電流に実質的な差がなくなるまで前記接触部の両端に電圧を引続き印加するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記構造体はナノスケールプローブである、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記構造体は別のナノスケールワイヤである、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記構造体はプローブであり、前記方法は、前記ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、前記プローブを介して前記ワイヤに通電するステップを含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
プローブをワイヤに溶接するステップと、前記ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、前記プローブを介して前記ワイヤに通電するステップとを含む、ナノスケールワイヤをアニールする方法。
【請求項14】
前記プローブは可動であり、前記方法は、前記プローブを移動させてアニール中に前記ワイヤに歪みを加えるステップを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記ワイヤを曲げることにより前記ワイヤに歪みを加えるステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ワイヤを真直化することにより前記ワイヤに歪みを加えるステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ワイヤが保持される2つの位置の間において前記ワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるステップと、
前記切断プローブと前記ワイヤとの間に電圧を印加して、前記ワイヤの長さに沿った位置で前記ワイヤを切断するステップとを含む、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ナノスケールワイヤを切断する方法であって、
ワイヤが保持される2つの位置の間において前記ワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるステップと、
前記切断プローブと前記ワイヤとの間に電圧を印加して、前記ワイヤの長さに沿った位置で前記ワイヤを切断するステップとを含む、方法。
【請求項19】
前記切断プローブは、前記ワイヤの長さに沿った位置で前記ワイヤに接触するように位置付けられ、前記電圧は、前記ワイヤが保持される前記2つの位置の一方と前記接続プローブとの間にのみ印加される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記印加された電圧は、前記ナノワイヤが破損するか、または構造上損傷を受けると推定される電流を上回る電流を通電するように制御される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記切断プローブは、前記ワイヤの長さに沿った位置において前記ワイヤに最も近接しながらも、前記ワイヤからわずかに間隔をあけて配置されるように位置付けられる、請求項18または19に記載の方法。
【請求項22】
前記印加された電圧が逆転する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ナノスケールワイヤはカーボンナノチューブである、請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
請求項1から23のいずれかに記載の方法を用いて生産されるナノスケール構造体。
【請求項25】
請求項1から12のいずれかに記載の方法を用いて、互いに溶接される2本以上のナノスケールワイヤを含む、ナノスケール構造体。
【請求項26】
請求項13から17のいずれかに記載の方法を用いてアニールされるナノスケールワイヤを含む、ナノスケール構造体。
【請求項27】
前記ナノスケールワイヤはカーボンナノチューブである、請求項24から26のいずれかに記載のナノスケール構造体。
【請求項28】
ナノスケールワイヤを構造体に溶接するための装置であって、
前記ナノスケールワイヤおよび前記構造体を互いに接触させて位置付けるためのマニピュレータと、
接触部の両端に電圧を印加し、それによって溶接中に電流が前記接触部を通って流れるようにするためのコントローラとを含む、装置。
【請求項29】
前記コントローラは溶接中に前記接触部を通って流れる電流を制限する、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記コントローラは、前記ナノスケールワイヤが破損するか、または構造上損傷を受けると推定される標準的な電流よりも低いしきい値レベルまで電流を制限する、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記電流しきい値レベルは、約10μA未満である、請求項29または30に記載の装置。
【請求項32】
前記電圧は約5V未満である、請求項28から31のいずれかに記載の装置。
【請求項33】
前記コントローラは複数の別個の期間中に電圧を印加する、請求項28から32のいずれかに記載の装置。
【請求項34】
前記コントローラは、前記電圧の印加中に電流を監視する、請求項28から33のいずれかに記載の装置。
【請求項35】
前記コントローラは、既知の電圧が印加されたときの電流と、その電圧が再び印加されたときの電流とを比較して、前記接触部の抵抗の変化を監視する、請求項28から34のいずれかに記載の装置。
【請求項36】
前記コントローラは、比較した電流に実質的な差がなくなるまで前記接触部の両端に電圧を引続き印加する、請求項35に記載の装置。
【請求項37】
前記構造体は、ナノスケールワイヤを操作するためのプローブである、請求項28から36のいずれかに記載の装置。
【請求項38】
前記構造体は別のナノスケールワイヤである、請求項28から36のいずれかに記載の装置。
【請求項39】
前記構造体はプローブであり、前記コントローラは、前記ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、前記プローブを介して前記ワイヤに通電する、請求項28から36のいずれかに記載の装置。
【請求項40】
ナノスケールワイヤをアニールするための装置であって、プローブをワイヤに溶接するための手段と、前記ワイヤを加熱してアニールを行なうのに十分な電流を、前記プローブを介して前記ワイヤに通電するためのコントローラとを含む、装置。
【請求項41】
前記プローブを移動させてアニール中に前記ワイヤに歪みを加えるためのマニピュレータを含む、請求項39または40に記載の装置。
【請求項42】
前記マニピュレータは、前記プローブを移動させて、前記ワイヤを曲げることにより前記ワイヤに歪みを加える、請求項39から41のいずれかに記載の装置。
【請求項43】
前記マニピュレータは、前記プローブを移動させて、前記ワイヤを真直化することによって前記ワイヤに歪みを加える、請求項39から41のいずれかに記載の装置。
【請求項44】
前記装置は、前記ワイヤが保持される2つの位置の間において、前記ワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるためのマニピュレータを含み、前記コントローラは
、前記切断プローブと前記ワイヤとの間に電圧を印加して、前記ワイヤの長さに沿った位置で前記ワイヤを切断する、請求項28から43のいずれかに記載の装置。
【請求項45】
ナノスケールワイヤを切断するための装置であって、
前記ワイヤが保持される2つの位置の間において前記ワイヤの長さに沿った位置に切断プローブを位置付けるためのマニピュレータと、
前記切断プローブと前記ワイヤとの間に電圧を印加して、前記ワイヤの長さに沿った位置で前記ワイヤを切断するためのコントローラとを含む、装置。
【請求項46】
前記切断プローブは、前記ワイヤの長さに沿った位置で前記ワイヤに接触するように位置付けられ、前記コントローラは、前記ワイヤが保持される前記2つの位置の一方と前記切断プローブとの間にのみ電圧を印加する、請求項44または45に記載の装置。
【請求項47】
前記コントローラは前記電圧を印加して、それにより、前記ナノスケールワイヤが破損するか、または構造上損傷を受けると推定される標準的な電流を上回る電流を通電する、請求項46に記載の装置。
【請求項48】
前記マニピュレータは、前記プローブが前記ワイヤの長さに沿った位置において前記ワイヤに最も近接しながらも、前記ワイヤからわずかに間隔をあけて配置されるように前記プローブを位置付ける、請求項44または45に記載の装置。
【請求項49】
前記印加された電圧が逆転する、請求項48に記載の装置。
【請求項50】
前記ナノスケールワイヤはカーボンナノチューブである、請求項28から49のいずれかに記載の装置。
【請求項51】
プロセッサにより処理されると請求項1から23のいずれかに記載の方法を実施するように適合される、コンピュータソフトウェア。
【請求項52】
データキャリアにより保持される、請求項51に記載のコンピュータソフトウェア。
【請求項53】
添付図面の任意のものを参照して実質的に記載された、ナノスケールワイヤを溶接し、アニールし、または切断する方法。
【請求項54】
添付の図面の任意のものを参照して実質的に説明した、ナノスケールワイヤを溶接し、アニールし、または切断するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−521213(P2006−521213A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502340(P2006−502340)
【出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000849
【国際公開番号】WO2004/076049
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(595042184)ユニバーシティ オブ サリー (7)