説明

ナノチューブの含有量が高い熱硬化性複合材料の製造方法

【課題】15〜60重量%のナノチューブを含む複合材料の製造方法と、得られた複合材料と、複合製品の製造でのその使用。
【解決手段】(a)液体状態の少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む液体のポリマー組成物と、ナノチューブと、必要に応じて用いられるレオロジー調節剤とをコンパウンディング装置中に導入し、(b)上記コンパウンディング装置中で上記ポリマー組成物とナノチューブとを混合して複合材料を形成し、(c)得られた複合材料を、必要な場合にはペレットに成形した後に、回収する段階から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂とナノチューブ、特にカーボンナノチューブとをベースにした複合材料(コンポジット)の製造方法と、得られた複合材料と、その複合製品製造での使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂のような熱硬化性材料は優れた耐食性、耐溶剤を有し、多くの基材に良く接着し、熱可塑性プラスチックより優れた熱安定性を有するということは知られている。さらに、ある種の用途、特に電子装置のパッケージのための静電シールドを製造する場合には熱硬化性樹脂に電気伝導性を付与し、および/または、機械特性を改善することが有用になる。そのためにカーボンナノチューブ(CNT)のような導電性充填材を入れることができる。
【0003】
この導電性充填材は熱硬化性樹脂の硬化前に入れなければならない。しかし、熱硬化性樹脂中に極めて絡み合った構造を有するCNTを入れようとしても、CNTは凝集塊を形成するため、凝集塊を解くためにボールミルや強剪断混合機を使用する必要がある。さらに、CNTを添加すると樹脂の粘度が高くなるため、現在のところ実際に熱硬化性樹脂中へ添加できるCNTの添加量は1.5または2重量%に限定される。
【0004】
特許文献1(米国特許第US-5744235号明細書)にはガラス製のカーボン繊維、カーボンまたはcarburizesシリコンの口ひげ(ウィスカ)、カーボン小繊維またはシリカの粒子またはカーボンブラックのような充填材をマトリックスの金属、セラミックまたは有機樹脂、例えばエラストマー、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂中に含む複合材料の製造方法が記載されている。この製造方法は(a) 充填材をマトリックス中に混合する段階と、(b) 得られた混合物に剪断力を加えて出発時の凝集塊の寸法の1/1000以下の寸法まで小さくする段階とを含む。(b) 段階は従来のボールミルで実行される。しかし、この方法では気相触媒法(Catalyst Chemical Vapor Deposition)で作られたカーボンナノチューブを有機マトリックス中に均一に分散するような寸法まで小さくすることはできない。
【0005】
特許文献2(国際特許第WO 2009/018193号公報)にはエポキシ樹脂と、両性補強材と、無機ナノ充填材(nanocharge)と、任意成分の硬化剤とを含む組成物が記載されている。ナノ充填材の含有量はエポキシ樹脂の重量の0.1〜50重量%である。使用可能なナノ充填材としてカーボンナノチューブも挙げられているが、この特許に記載の唯一の実施例はシリカのナノ粒子を2.5重量%加えたものだけである。この文献に記載の方法で実際に5重量%以上のCNTを含む複合材料を作ることは不可能であり、CNTを少なくとも25重量%含む混合物−マスターバッチはとても無理である。
【0006】
熱硬化性重合体/CNT複合材を製造するのに提案されている他の解決策は混練装置を使用する方法である。
【0007】
特許文献3(フランス国特許第FR 2 893 947号公報)にはCNTを極めて多種の化合物A、特に熱硬化性樹脂と接触(特に含浸)させた粉末組成物が記載されている。この特許の実施例6では「Rheocordマイクロ混練機」中でCNT(50重量%)をDER(登録商標)332型熱硬化性樹脂と混練する。
【0008】
特許文献4(米国特許公開第2007/238826号明細書)に記載の熱硬化性樹脂材料の製造方法では、適当な粘度(実際には15ポアズ以上)のCNTと熱硬化性樹脂との組成物を押出し成形する。樹脂は液体または固体の形にすることができ、押出し成形は単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機または共混練機(Co-mixer Bus、登録商標)で行なうことができる。
【0009】
この特許の実施例1では組成物の5重量%のCNTを含浸した後に溶融状態でEPON(登録商標)1001F樹脂を二軸スクリュー押出し機に入れる。この方法を最適に実行するためには混合物の粘度を低く(4,4ポアズ)にすることが記載されている。実施例2では15重量%のCNTで予備含浸した後に固体の形でEPON(登録商標)1009F樹脂を二軸スクリュー押出し機に入れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第US 5744235号明細書
【特許文献2】国際特許第WO 2009/018193号公報
【特許文献3】フランス国特許第FR 2 893 947号公報
【特許文献4】米国特許公開第2007/238826号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、簡単に取り扱うことができ、複合部材を形成するポリマーマトリックス中に希釈できるマスターバッチ(マスター混合物)または予備複合材料を製造するために、熱硬化性樹脂中にCNTを高含有率で簡単かつ均一に分散させることができる工業スケールで使用可能な手段を提供するというニーズが依然として残っている。
【0012】
本発明者は、液体状態の熱硬化性樹脂をコンパウンディング装置中に導入し、このコンパウンディング装置でナノチューブと混合することによって上記ニーズは満足されるということを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の対象は下記(a)〜(c)の段階から成る15〜60重量%のナノチューブを含む複合材料の製造方法にある:
(a)液体状態の少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む液体のポリマー組成物と、ナノチューブと、必要に応じて用いられるレオロジー調節剤とをコンパウンディング装置中に導入し、
(b)上記コンパウンディング装置中で上記ポリマー組成物とナノチューブとを混合して複合材料を形成し、
(c)得られた複合材料を、必要な場合にはペレットに成形した後に、回収する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「コンパウンディング装置(dispositif compoundage)」とは、複合材料を製造するために熱可塑性ポリマーと添加剤とを溶融状態で混合するためにプラスチック工業界で従来使用されてきた機器を意味する。この機器ではポリマー組成物と添加剤とが強い剪断力で混合される。例としてはステータ(固定子)に取付けた歯 (dents) と噛み合うように取付けられた羽根 (ailettes) を備えたロータ(回転子)を有する共回転(co-rotative)2軸スクリュー押出機または共混練機(co-malaxeur)が挙げられる。溶融した材料は一般に物理的に固まった固体の形、例えばペレット、糸、バンドまたはフィルムの形で機器から出る。
【0015】
本発明で使用可能な共混練機の例はBUSS社から市販の共混練機BUSS(登録商標)MDK46やBUSS(登録商標)MKSまたはMXシリーズで、これら全てには羽根が備えたスクリューシャフトを有し、このスクリューシャフトは複数の部分から成ることができる加熱スリーブ内に配置され、この加熱スリーブの内部壁には混練用の歯が備えられており、この歯は上記羽根と共同して混練物質に剪断力を与える。スクリューシャフトはモーターによって回転され、軸線方向へ振動運動が与えられる。この共混練機の出口開口に、例えばスクリュー押出機またはポンプからなるペレット製造装置を備えることができる。
【0016】
本発明で使用する共混練機のスクリューのL/D比は7〜22、例えば10〜20であるのが好ましい。また、共押出機のL/D比は15〜56、例えば20〜50にするのが有利である。
【0017】
本発明者は、本発明方法を用いることでナノチューブ、特にCNTを少なくとも15重量%含む複合材料、特にマスターバッチ混合物(melanges-maitres)を得ることができ、このマスターバッチ混合物はペレットの形で成形センターへバッグに入れて輸送する際にハンドルが容易にできるということを確認した。この複合材料は、一般に金型中に注入する必要がある従来の熱硬化性樹脂の複合材とは違って(または逆に)、従来の熱可塑性材料の加工に使われる方法、例えば押出し成形、射出成形または圧縮成形で成形できる。
【0018】
「熱硬化性樹脂(resine thermodurcissable)」とは一般に熱、触媒またはこれらを組合せた作用下に硬化して熱硬化樹脂となる材料を意味し、三次元ネットワークを形成する共有結合によって結合した種々のポリマー鎖を含む材料から成る。この熱硬化性樹脂はその性質から非溶融かつ不溶性で、ガラス遷移温度(Tg)以上に加熱すると軟化はできるが、一度形状を付与した後には、後で熱しても形は変えられない。
【0019】
本発明で使用可能な熱硬化性樹脂には不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリウレタン、シアノアクリレートおよびポリイミド、例えばマレイミド樹脂、アミノ樹脂(メラミンのようなアミンと、グリオキサールまたはホルムアルデヒドのようなアルデヒドとの反応で得られる)およびこれらの混合物があるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
不飽和ポリエステルは不飽和化合物(例えば無水マレイン酸またはフマル酸)を含むジカルボン酸と、プロピレングリコールのようなグリコールとの縮合重合で得られる。これは一般にスチレンのような反応モノマー中に希釈した後に、一般に重金属塩またはアミンの存在下、過酸化物または触媒を使用するか、光開始剤、イオン線またはそれらを組合せた方法を用いて、ポリエステルに存在する不飽和基と反応させて硬化する。
【0021】
ビニルエステルはエポキシと(メタ)アクリル酸との反応生成物である。これらはスチレン溶解(ポリエステル樹脂と同様な方法)した後または有機的過酸化物を使用して硬化することができる。
【0022】
エポキシ樹脂は一つ以上のオキシラン基、例えば1分子当り2〜4の有機オキシラン基を含む材料である。多官能性の場合、この樹脂は末端エポキシ基を有する直鎖ポリマーとなるか、その骨格がエポキシ基を含むか、骨格にエポキシ基がペンダントしたものとなる。一般に硬化剤として酸無水物またはアミンを必要とする。
【0023】
このエポキシ樹脂はビスフェノールAのようなビスフェノールとエピクロロヒドリンとの反応で得ることができる。その変形例としてはアルキル−および/またはアルケニルグリシジルエーテルまたはエステル;置換されていてもよいモノおよびポリフェノールのポリグリシジルエーテル、特にポリグリシジルエーテルビスフェノールA;ポリオールのポリグリシジル・エーテル;酸脂肪族または芳香族ポリカルボン酸のポリグリシジルエーテル;ポリカルボン酸のポリグリシジルエステル;ノボラックのポリグリシジルエーテルがある。さらに他の変形例としてはエピクロロヒドリンと芳香族ジアミンとの反応生成物、芳香族モノまたはジアミンのグリシジル誘導体が挙げられる。また、脂環式エポキシを使用することもできる。本発明ではビスフェノールA(またはDGEBA)、FまたはA/Fのジグリシジルエーテルを使用するのが好ましい。DGEBA樹脂を使用するのが特許請求の範囲に好ましい。
【0024】
本発明で熱硬化性樹脂中に混合されるナノチューブはカーボンナノチューブ(以下、CNT)、または、硼素または燐または窒素をベースにしたナノチューブ、またはこれらの元素を複数含むナノチューブ、または、少なくともこれらの元素の一つとカーボンとを組合せたナノチューブにすることができる。カーボンナノチューブを使用するのが有利である。これはカーボンから得られる五角形、六角形および/または7角形に規則正しく配置された原子から成る管状、中空および閉じた特殊な結晶構造を有している。一般に、CNTは巻かれた一層または複数層のグラファイト層から成る。従って、単壁ナノチューブ(Single Wall NanotubesまたはSWNT)と多重壁ナノチューブ(Multi Wall NanotubesまたはMWNT)とがある。二重壁ナノチューブは下記非特許文献1に記載の方法で製造できる。また、多重壁ナノチューブは下記特許文献5に記載の方法で製造できる。本発明では多重壁ナノチューブを使用するのが好ましい。
【非特許文献1】FLAHAUT et al. in Chem. Com. (2003), 1442
【特許文献5】国際特許第WO 03/02456号公報
【0025】
本発明で使用するナノチューブの平均直径は一般に0.1〜200nm、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.4〜50nm、さらに好ましくは1〜30nmであり、その長さは0.1μm以上、好ましくは0.1〜20μm、例えば約6μmで、その長さ/直径比は10以上であるのが好ましく、一般には100以上である。このナノチューブは「VGCF」(気相化学蒸発で得られるカーボンまたは気相成長繊維、Vapor Grown Carbon Fibers)とよばれるナノチューブである。その比表面積は100〜300 m2/gで、その見掛け密度は0.01〜0.5g/cm3、特に0.07〜0.2g/cm3である。多重壁カーボンナノチューブは例えば5〜15の層を有し、好ましくは7〜10の層を有する。
【0026】
粗カーボンナノチューブは例えばアルケマ(ARKEMA)社からグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100の名称で入手できる。
【0027】
ナノチューブは本発明方法で使用する前に精製および/または処理(特に酸化処理)および/または粉砕することができる。また、アミノ化のような溶液で化学処理したり、カップリング剤と反応させて官能化することもできる。
【0028】
ナノチューブの粉砕はボールミル、研摩ミル、ハンマーミル、ナイフカッター、気体ジェット、その他のナノチューブのもつれたネットワークの寸法を減少させることができる公知の装置を用いて冷間または加熱下で実行できる。この段階の粉砕は気体のジェット、特にエアージェット破砕機で行なうのが好ましい。
【0029】
ナノチューブの精製は、製造方法に起因する無機および金属の不純物残渣を除去するために、硫酸またはその他の酸の溶液を用いた洗浄で行なうことができる。硫酸に対するナノチューブの重量比は1:2〜1:3にすることができる。たの精製操作は90〜120℃で例えば5〜10時間で実行できる。この操作の後に水ですすぎ、精製済みナノチューブを乾燥するのが有利である。含まれる鉄および/またはマグネシウムおよび/またはアルミニウムを除去するためのナノチューブの他の精製方法としては1.000℃以上の温度で熱処理する方法がある。
【0030】
ナノチューブの酸化反応は、0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させることで有利に実行できる。次亜塩素酸ナトリウムに対するナノチューブの重量比は1:0.1〜1:1である。この酸化反応は60℃以下の温度、好ましくは室温で、数分から24時間の時間実行するのが好ましい。この酸化反応操作の後に酸化済みナノチューブの濾過および/または遠心分離、洗浄および乾燥段階を行なうのが有利である。
【0031】
しかし、本発明方法では粗ナノチューブを粗の状態で使用するのが好ましい。
【0032】
さらに、本発明方法では下記特許文献6に記載のような再生可能な資源特に植物起源の原材料から得られるナノチューブを使用するのが好ましい。
【特許文献6】フランス国特許第FR 2 914 634号公報
【0033】
本発明方法で使用するナノチューブの量は複合材料の全重量に対して15〜60重量%、好ましくは20〜50重量%である。使用するナノチューブの正確な量は、その複合材料を複合部品へ直接成形するのか、マトリックスポリマーに希釈して使用するマスターバッチ混合物にするのかによって、上記範囲内で変えることができる。
【0034】
本発明によるマスターバッチ混合物はエポキシ樹脂、好ましくはビスフェノールAのグリシジルエーテル中にカーボンナノチューブを20〜30重量%、好ましくは25重量%含む。このマスターバッチ混合物はアルケマ(ARKEMA)社からグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)CS1−25の名称で入手できる。
【0035】
本発明方法を用いることでナノチューブを予め含浸する段階を必要とせずに、極めて単簡単な方法で複合材料を作ることができる。ナノチューブは熱硬化性樹脂の射出帯域とは別の供給ホッパーを介してまたはそれと混合してコンパウンディング装置に導入することができる。
【0036】
本発明方法の最初の段階で熱硬化性樹脂は液体状態でコンパウンディング装置へ供給される。「液体」とはコンパウンディング装置へ樹脂をポンプで輸送できることを意味し、好ましくは動的粘度が0.1〜30Pa.s、好ましくは0.1〜15Pa.sであることを意味する。使用する樹脂は室温(23℃)で上記粘度を有するか、コンパウンディング装置へ注入する前に加熱されて上記の粘度にすることができる。この場合、その融点は100℃を越えないのが好ましい。
【0037】
また、一種または複数のレオロジー調節剤、例えば反応性または非反応性の溶剤を加えることによって樹脂の粘度を上記範囲内に調節することもできる。これは熱硬化性樹脂を含むポリマー組成物に含めることができる。
【0038】
樹脂の動的粘度は液体状態、溶融状態または固体状態のポリマーの粘度特性を求める一般的方法をベースにして測定する。サンプルを変形する(応力を加える)。大抵は固体の場合にはサイン曲線状に張力、圧縮力、曲げ力または捻り力を加え、液体の場合には剪断力を加える。こうして加えた変形応力に対するサンプルの応答を力または合成トルクで評価するか、加えた応力に対する変形量で評価する。粘度特性はモジュール、粘度で表すか、流動関数または緩和関数で表す。流動物の場合にはサンプルに反復応力および/または変形を加えて剪断勾配の関数で挙動を特定する。
【0039】
この測定には下記要素を備えた粘度計を使用する:
(1)ケースまたは温度調節系(テストを窒素ガスおよび/または液体にするか、空気にするかで雰囲気を選択する)
(2)中央制御装置
(3)空気および窒素の流量調節および乾燥システム
(4)測定ヘッド
(5)装置を管理する情報処理システムとデータ処理装置
(6)サンプル保持具
【0040】
使用可能な装置としてはアントンパール(Anton Paar)社のレオメータ装置RDA2、RSA2、DSR200、ARES、REMを挙げることができる。
【0041】
サンプルの寸法は粘度の関数で定義され、選択した「サンプル−ウンイド(porte-echantillon)」系の幾何形状を限定する。
【0042】
熱硬化性樹脂の動的弾性の実験と測定を行なう場合には使用した粘弾性測定装置の使用マニュアルに記載の段階を正確に追って実行する。特に、変形と応力との間の関係をリニアー(線形粘弾性)にする。
【0043】
レオロジー調節剤となる化合物の例はアクリルブロックコポリマー、例えばポリ(メチルメタクリレート)/ポリ(ブチルアクリレート)/ポリ(メチルメタクリレート)のトリブロックコポリマーである。これはアルケマ(ARKEMA)社からナノストレングス(Nanostrength、登録商標)M52Nの名称で入手できる。この種のコポリマーはエポキシ樹脂での使用に特に適しており、粉末の形で導入でき、粘度を増加させるに攪拌下で可溶化できる。このコポリマーはコンパウンディング装置での剪断時に機械的エネルギーの変換を容易にしてナノチューブの分散性を改善し、しかも、熱硬化性樹脂からペレットを形成するのを容易にする。また、ポリスチレン/1,4-ポリブタジエン/ポリ(メチルメタクリレート)のコポリマーを使用することもできる。これもアルケマ(ARKEMA)社からナノストレングス(Nanostrength、登録商標)の名称で入手できる。
【0044】
レオロジー調節剤の他の例は、分岐鎖の多いC10カルボン酸のグリシジルエステルのような分岐した脂肪酸のグリシジルグリシジルエステルであり、これはエクソン(HEXON)社からカルデュラ(Cardura、登録商標)E10Pの名称で市販されている。この化合物は粘度を下げる効果の他にエポキシ樹脂の硬化剤ともに化学反応する。コンパウンディングの終わりに添加することで、媒体冷却時のエポキシ樹脂が架橋するリスクを減らすことができる。
【0045】
本発明で使用するポリマー組成物にはレオロジ調節剤の他に、各種の添加剤、例えばナノチューブ以外のグラファイトベースの充填材(特にfullerenes)、シリカまたは炭酸カルシウム;UV遮断剤、例えば二酸化チタン;難燃剤;これらの混合物を含むことができる。ポリマー組成物はさらに、少なくとも一種の熱硬化性樹脂の溶剤を含むことができる。さらに、発泡剤、特にアゾジカルボン酸ジアミンをベースにした組成物を含むことができる。これはランクセス(LANXESS)社からゲニトン(Genitron、登録商標)の名称で市販されており、コンパウンディング時に140〜200℃で分解して複合材料中にキュビティーを形成し、それによって後のマトリックスポリマー中への導入が容易になる。他に使用可能な添加剤は熱硬化性樹脂の硬化剤であるが、その活性温度はコンパウンディング温度以上でなければならない。
【0046】
一般に、コンパウンディング段階は使用するポリマーに応じた温度、一般にはポリマーのメーカが記載した温度で実行される。例えば、コンパウンディング温度は30℃〜260℃、特に80℃〜120℃で行なうことができる。
【0047】
本発明方法の終りに得られる複合材料は、冷却後に、有利な固体の形をしており、直ちに使用できる。本発明の他の対象は上記方法で得られた複合材料にある。
【0048】
本発明のこの複合材料はそのままで使用できる。すなわち、硬化剤を活性化させるために140〜150℃に処理した後に、射出成形、押出成形、圧縮成形または型付け等の適当な方法で成形できる。硬化剤の活性化はコンパウンディング段階中(活性温度がコンパウンディング温度より高い場合)に複合材料に加えるか、成形直前に複合材料に加えることができる。
【0049】
本発明の実施例では、本発明の複合材料をフィルム、プレインプレグネ材料、リボン、異形断面材、帯体またはファイバーの製造で使用出きる。すなわち、コンパウンディング装置の出口に複合材料の成形装置を設けることができる。
【0050】
本発明の変形例では、本発明の複合材料をマスターバッチ混合物として使用できる。すなわち、ポリマー中に希釈し、成形し、熱処理することで複合物品にすることができる。この場合でも、硬化剤はコンパウンディング時またはポリマー材料の配合時またはポリマー材料の成形時に導入できる。この実施例では、本発明の最終的な複合製品はナノチューブを0.001重量%〜10重量%、一般には0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜2重量%含むことができる。
【0051】
本発明のさらに他の対象は、上記複合材料の複合製品の製造および/またはマトリックスポリマーに電気特性、機械特性および/または熱的特性の少なくとも一つを付与するための使用にある。
【0052】
本発明のさらに他の対象は、下記から成る複合製品の製造方法にある:
(1)上記方法で複合材料を製造し、
(2)得られた複合材料をポリマーのマトリックス中に導入する。
【0053】
一般に、マトリックスポリマーは傾斜(コ)ポリマー、ブロック(コ)ポリマー、ランダム(コ)ポリマーまたはシーケンス(コ)ポリマーの中から選択される熱硬化性の単独重合ポリマーまたはコポリマーを少なくとも一種を含む。本発明では上記の熱硬化性樹脂の中の選択される少なくとも一種を使用するのが好ましい。
【0054】
マトリックスポリマーはさらに、上記の熱硬化性樹脂用の少なくとも一種の硬化剤および/または硬化触媒と、充填材または補強材の各種のアジュバンドおよび添加剤、例えば滑剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、抗真菌剤、耐火剤および溶剤を含むことができる。
【0055】
ペレットにする際には、本発明の複合材料を先ず最初にマトリッイクスポリマー中に数時間、例えば一晩漬け、必要に応じて加熱、例えば約80℃に加熱して、残りのマトリックスポリマー中へ導入する前にペレットを軟化させておくのが好ましい。この場合、加熱手段としてCNTの抵抗容量を利用したマイクロ波や誘導加熱が使用でき、マトリックスポリマーの芯まで迅速に加熱できる。次いで、複合材料に大きな剪断力を加え、特にロータ/ステータ装置を用いて大きな剪断力を加えるのが好ましい。その後にマトリックスポリマーの添加剤を混合物に加えることができる。
【0056】
本発明のこの実施例では、マスターバッチ混合物を製造するのに使用する、マスターバッチ混合物の供給装置と上記マトリックスポリマーの供給装置とを有するコンパウンディング装置に他の供給装置を連結することができる。この場合、この他の装置は形成された複合製品を成形するダイを備えることができる。
本発明は、以下に記載の実施例からより良く理解できよう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
実施例1
エポキシ樹脂をベースにしたマスターバッチ混合物の製造
押出しスクリューおよび造粒装置を備えた共混練機BUSS MDK 46(L/D=11)の第一ホッパーにカーボンナノチューブ[アルケマ(ARKEMA)社からグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100]と、アクリルコポリマー[アルケマ(ARKEMA)社のナノストレングス(Nanostrength)M52N]の粉末とを導入する。この共混練機の第1帯域へ80℃で液体の形をしたエポキシ樹脂(DGEBAまたはビスフェノールAのジグリシジルエーテル)を注入する。共混練機の温度分布は以下の通り:帯域1=120℃、帯域2=120℃、スクリュー=80℃。吐出流量は15kg/時に調整した。
共混練機の出口で、ナノチューブを35重量%、エポキシ樹脂を45重量%、アクリルコポリマーを20重量%含むマスターバッチ混合物のペレットを得た。
このペレットは130〜140℃に加熱可能な機器中でマトリックスポリマーを希釈できた。
【0058】
実施例2
エポキシ樹脂をベースにしたマスターバッチ混合物の製造
実施例1と同じ共混練機を使用して、カーボンナノチューブを25重量%、エポキシ樹脂を70重量%、反応性希釈剤(エクソン(HEXON)社のCordura E10P)を5重量%含む組成物を作った。
ナノチューブは共混練機をの最初の供給ホッパーへ供給した。エポキシ樹脂は共混練機の第1帯域へ80℃で注入し、反応性希釈剤は共混練機の第2帯域へ40℃で注入した。混連後、取出用押出機の出口で70〜80℃でダイ出口から固体の複合材料を得た。それを造粒せずに直接包装した。
このマスターバッチ混合物を室温で熱硬化性組成物中に希釈して複合製品を成形した。
上記マスターバッチ混合物を上記熱硬化性組成物の液体成分中に数時間、プレ含浸することでは上記熱硬化性組成物中への導入が容易になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の段階から成る15〜60重量%のナノチューブを含む複合材料の製造方法:
(a)液体状態の少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む液体のポリマー組成物と、ナノチューブと、必要に応じて用いられるレオロジー調節剤とをコンパウンディング装置中に導入し、
(b)上記コンパウンディング装置中で上記ポリマー組成物とナノチューブとを混合して複合材料を形成し、
(c)得られた複合材料を、必要な場合にはペレットに成形した後に、回収する。
【請求項2】
コンパウンディング装置が共回転2軸スクリュー押出機で、この2軸スクリュー押出機のスクリューのL/D比が好ましくは15〜56、さらに好ましくは20〜50である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コンパウンディング装置が共回転混練機で、この共回転混練機のスクリューのL/D比が好ましくは7〜22、さらに好ましくは10〜20である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記ポリマー組成物が不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリウレタン、シアノアクリル酸およびポリイミド、例えばビス−マレイミド樹脂、アミノ樹脂(メラミンのようなアミンとグリオキサールまたはホルムアルデヒドのようなアルデヒドとの反応で得られる)およびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ナノチューブがカーボンナノチューブである請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複合材料が複合材料の全重量に対して20〜50重量%のナノチューブを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で得られる複合材料。
【請求項8】
請求項7に記載の複合材料の、複合製品の製造および/またはポリマー材料に電気特性、機械特性および/または熱特性の少なくとも一つを付与するための使用。
【請求項9】
請求項7に記載の複合材料の、フィルム、プレインプレグネ材料、リボン、異形断面材、帯体またはファイバーの製造での使用。
【請求項10】
(1)請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で複合材料を製造し、(2)得られた複合材料をポリマーのマトリックス中に導入することから成る、複合製品の製造方法。

【公開番号】特開2010−222581(P2010−222581A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66078(P2010−66078)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】