説明

ナノチューブを用いた有機光電子デバイス電極

有機光電子デバイスで使用するための電極を提供する。この電極は、単層カーボンナノチューブの薄膜を備える。この膜は、エラストマースタンプを用いることによってデバイスの基板上に堆積させることができる。この膜上に平滑化層をスピンコーティングすることおよび/またはこの膜にドーピングして導特性を高めることによって、この膜を強化することができる。本発明による電極は、光電子デバイスにおける電極として通常使用する他の材料に匹敵する導電率、透明度、および他の特性を有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
本願は、参照によりその全体開示を本明細書に援用する、2006年7月18日に出願した米国仮特許出願第60/831,710号の利益を請求する。
【0002】
〔政府の権利〕
本発明は、Defense Advance Research Projects Agency MolApps Programによって授与された契約第N66001-04-1-8902号の下、米国政府の支援を得て行った。
【0003】
〔共同研究契約〕
特許請求の範囲に記載されている発明は、産学共同研究契約の以下の当事者、プリンストン大学、南カリフォルニア大学、Universal Display CorporationおよびGlobal Photonic Energy Corporationの1つまたは複数を代表して、および/または以下の当事者の1つまたは複数と関わって行った。本契約は、特許請求の範囲に記載されている発明が行われた日以前に効力が発生し、特許請求の範囲に記載されている発明は本契約の範囲内で取り組んだ活動の結果として行ったものである。
【0004】
本発明は、有機光電子デバイスに関する。より詳細には、本発明は、ナノチューブを組み込んだ有機光電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0005】
光電子デバイスは、材料の光学および電子特性を利用して、電磁放射を電子的に生成もしくは検出し、または周囲の電磁放射から発電をする。有機光電子デバイスの例としては、有機発光デバイス(OLED)、有機フォトトランジスタ、有機光起電力(PV)セル、および有機光検出器が挙げられる。
【0006】
本明細書中で使用する用語「有機」には、有機光電子デバイスを作製するために使用することができるポリマー材料ならびに小分子有機材料が含まれる。「小分子(small molecule)」とは、ポリマーでない任意の有機材料を指すが、「小分子」は実際には極めて大きいこともある。小分子は、状況次第で繰り返し単位を含むことができる。一般に、小分子は単一分子量の明確に定義された化学式を有するが、ポリマーは、分子ごとに異なっていてもよい化学式および分子量を有する。
【0007】
OLEDでは、デバイス全体に電圧を印加すると発光する有機薄膜を活用する。OLEDはフラットパネルディスプレイ、照明、およびバックライトなどの用途で使用するためのますます興味深い技術となりつつある。いくつかのOLED材料および構成が、参照によりそれら全体を本明細書に援用する米国特許第5844363号、米国特許第6303238号、および米国特許第5707745号に記載されている。
【0008】
OLEDデバイスは一般に、少なくとも一方の電極を通して発光するようになっており、有機光電子デバイスにおいては1つまたは複数の透明電極が有用となりうる。たとえば、電極が、酸化インジウムスズ(ITO)などの透明電極材料を含むことができる。透明上部電極(透明トップ電極)については、参照によりそれら全体を援用する米国特許第5703436号および米国特許第5707745号にさらに記載されている。下部電極(ボトム電極)を通してのみ発光することを目的としたデバイスでは、上部電極が透明である必要はなく、高い電気伝導率を有する厚い反射性の金属層を備えることができる。同様に、上部電極を通してのみ発光することを目的としたデバイスでは、下部電極が不透明および/または反射性であってもよい。電極が透明である必要がない場合には、より厚い層を使用するとより優れた導電率をもたらすことができ、反射性電極を使用すると、透明電極に向けて光を反射することによって、もう一方の電極を通して放出される光の量を増大させることができる。完全に透明なデバイスを作製することもでき、その場合両電極とも透明である。側面発光OLEDを作製することもでき、このようなデバイスでは一方または両方の電極が不透明または反射性であってもよい。
【0009】
感光性光電子デバイスは、電磁放射を電気信号または電気に変換する。有機感光性デバイスは通常、光を吸収して励起子を形成する光活性領域を少なくとも1つ備える。励起子は、後に電子と正孔とに解離することができる。「光活性領域」とは、電磁放射を吸収して、電流を生成するために解離することができる励起子を生成する感光性デバイスの一部分である。光起電力(「PV」)デバイスともよばれる太陽電池は、特に電力を生成させるために使用される感光性光電子デバイスの一種である。光伝導体セルは、吸収された光による変化を検出するためにデバイスの抵抗を監視する信号検出回路と併せて使用される感光性光電子デバイスの一種である。印加されたバイアス電圧を受けることができる光検出器は、光検出器を電磁放射にさらした際に発生する電流を測定する電流検出回路と併せて使用される感光性光電子デバイスの一種である。有機感光性デバイスについては、それらデバイスの一般的な構成、特性、材料および特徴を含め、それぞれ参照によりその全体を本明細書に援用するForrestらの米国特許第6657378号、Forrestらの米国特許第6580027号およびBulovicらの米国特許第6352777号にさらに記載されている。
【0010】
本明細書中で使用する「上部(top, トップ)」とは、基板から最も離れていることを意味し、一方「下部(bottom, ボトム)」とは基板に最も近いことを意味する。たとえば、2つの電極を有するデバイスでは、下部電極が基板に最も近い電極で、一般に作製される最初の電極である。下部電極は2つの表面、すなわち、基板に最も近い下面と、基板からより離れている上面とを有する。第1の層が第2の層「の上に配置されている」と記載されている場合、第1の層は基板からより離れて配置されている。第1の層が第2の層「と物理的に接触している」と明記されていない限り、第1の層と第2の層との間に他の層が存在していてもよい。たとえば、たとえカソードとアノードとの間に様々な有機層が存在しても、カソードがアノード「の上に配置されている」と記載することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5844363号明細書
【特許文献2】米国特許第6303238号明細書
【特許文献3】米国特許第5707745号明細書
【特許文献4】米国特許第5703436号明細書
【特許文献5】米国特許第6657378号明細書
【特許文献6】米国特許第6580027号明細書
【特許文献7】米国特許第6352777号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005-0110007号
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0224113号
【特許文献10】米国特許第6420031号明細書
【特許文献11】米国特許第6602540号明細書
【特許文献12】米国特許第6548956号明細書
【特許文献13】米国特許第6576134号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2003-0230980号
【特許文献15】米国特許第7053547号明細書
【特許文献16】米国特許出願第09/931948号
【特許文献17】米国特許第6097147号明細書
【特許文献18】米国特許第6451415号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2006-0032529号
【特許文献20】米国特許出願公開第2006-0027802号
【特許文献21】米国特許第6333458号明細書
【特許文献22】米国特許第6440769号明細書
【特許文献23】米国特許出願公開第2005-0266218号
【特許文献24】米国特許第6013982号明細書
【特許文献25】米国特許第6087196号明細書
【特許文献26】米国特許第6337102号明細書
【特許文献27】米国特許出願第10/233,470号
【特許文献28】米国特許第6294398号明細書
【特許文献29】米国特許第6468819号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Peumansら、「Efficient photon harvesting at high optical intensities in ultrathin organic double-heterostructure photovoltaic diodes」、Applied Physics Letters 76、2650-2652頁(2000)
【非特許文献2】Z. Wuら、「Transparent, Conductive Carbon Nanotube Films」、Science、2004年、第305巻、1273頁
【非特許文献3】Y. Zhouら、「A method of printing carbon nanotube thin films」、Applied Physics Letters、第88巻、123109頁(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ナノチューブを組み込んだ有機光電子デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
有機光電子デバイスで使用するための層を提供する。この層は、単層カーボンナノチューブの薄膜を備える。この膜は、エラストマースタンプを用いることによってデバイスの基板上に堆積させることができる。この膜上に平滑化層をスピンコーティングすることおよび/またはこの膜にドーピングして導電性を高めることによって、この膜を向上させることができる。この層を電極として使用すると、光電子デバイスにおいて通常使用する従来の電極に匹敵する導電率、透明度、および他の特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】例示の有機発光デバイスを示す図である。
【図2】例示の有機感光性デバイスを示す図である。
【図3A】ナノチューブ薄膜を作製するために使用する多孔アルミナろ過膜を示す図である。
【図3B】ナノチューブ薄膜を示す図である。
【図4A】エラストマースタンプを用いて基板に移したナノチューブ薄膜を示す図である。
【図4B】エラストマースタンプを用いて基板に移したナノチューブ薄膜を示す図である。
【図4C】直径2’’(5.08cm)のガラス基板上の透明な厚さ40nmの単層ナノチューブ膜を示す図である。
【図4D】ポリエステルシート上の屈曲単層ナノチューブ膜を示す図である。
【図5A】HiPCO単層ナノチューブ薄膜の斜視SEM像を示す図である。
【図5B】P3単層ナノチューブ薄膜の斜視SEM像を示す図である。
【図5C】図5Aに示すナノチューブ膜の上面SEM像を示す図である。
【図5D】図5Bに示すナノチューブ膜の上面SEM像を示す図である。
【図5E】図5Cに示す画像の拡大図である。
【図5F】図5Dに示す画像の拡大図である。
【図5G】HiPCOおよびP3ナノチューブ膜についての様々な透明度における抵抗を示す図である。
【図6A】ガラス上のP3 SWNT膜のAFM画像を示す図である。
【図6B】スピンコーティング後のP3 SWNT膜のAFM画像を示す図である。
【図6C】標準ITO膜の層のAFM画像を示す図である。
【図7A】膜厚の関数としてのP3 SWNT膜のシート抵抗を示す図である。
【図7B】膜厚の関数としてのP3 SWNT膜の電気伝導率を示す図である。
【図8A】P3 SWNT膜の透過スペクトルを示す図である。
【図8B】温度の関数としてのP3 SWNT膜のシート抵抗を示す図である。
【図9A】SOCl2インキュベーション前後のP3 SWNT膜の4プローブI-V曲線を示す図である。
【図9B】SOCl2処理前後のP3 SWNT膜の透過スペクトルを示す図である。
【図10A】SWNT膜層を有する光電子デバイスの概略図である。
【図10B】図10Aに示すデバイスのエネルギー準位図である。
【図10C】SWNT膜層を有する光電子デバイスの写真を示す図である。
【図11A】Alq3のフォトルミネセンススペクトルを示す図である。
【図11B】SWNT膜層を有するOLEDの電流-電圧曲線示す図である。
【図11C】電圧バイアスの関数としてのSWNT膜層を有するOLEDの輝度を示す図である。
【図11D】電圧バイアスの関数としてのSWNT膜層を有するOLEDの量子効率を示す図である。
【図12】プラスチック上に作製されたSWNTおよびITO透明電極の光透過スペクトルを示す図である。
【図13】SWNTおよびITO電極上にCuPc/C60/バソキュプロイン光活性領域を有するデバイスについての電流-電圧曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、例示の有機発光デバイス100を示す。図面は必ずしも原寸には比例していない。このデバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子ブロッキング層130、発光層135、正孔ブロッキング層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155およびカソード160を備えることができる。カソード160は、第1の導電層162と第2の導電層164とを有する複合カソードであってもよい。デバイス100は、説明した層を順に堆積させることによって作製することができる。
【0017】
図2は、例示の有機感光性デバイス200を示す。光活性領域250は、ドナー-アクセプタヘテロ接合を含む。デバイス200は、基板210の上に、アノード220、アノード平滑化層222、ドナー252、アクセプタ254、励起子ブロッキング層(「EBL」)256およびカソード270を備える。図示したデバイスは構成要素290に接続することができる。このデバイスが光起電力デバイスである場合、構成要素290は電力を消費するか又は蓄える抵抗型負荷である。このデバイスが光検出器である場合、構成要素290は、光検出器を光にさらした際に発生する電流を測定し、デバイスにバイアスをかけることができる電流検出回路である(たとえば、2005年5月26日に公開されたForrestらの米国特許出願公開第2005-0110007号に記載されているように)。特に明記しない限り、これらの配置および変更のそれぞれを、本願で開示する図面および諸実施形態のそれぞれにおけるデバイスに使用することができる。光活性領域が混合層またはバルク層と、ドナー層およびアクセプタ層の一方または両方とを含む場合、この光活性領域は「ハイブリッド」ヘテロ接合を備えると言われる。ハイブリッドヘテロ接合のさらなる説明については、2005年10月13日に公開されたJiangeng Xueらによる「High efficiency organic photovoltaic cells employing hybridized mixed-planar heterojunctions」という名称の米国特許出願公開第2005/0224113号を参照により本明細書中に援用する。
【0018】
光電子デバイスをその上に作製する基板110、210は、所望の構造特性をもたらす任意の適切な基板材料を含むことができる。本発明と共に使用する基板は、可撓性であっても剛性であってもよく、また透明であっても、半透明であっても、不透明であってもよい。例示的な基板材料には、プラスチック、ガラス、金属箔、および半導体材料が含まれる。たとえば、基板は、基板上に後で堆積させるデバイスを制御することができる回路をその上に作製するシリコンウエハを備えることができる。他の基板を使用することもできる。基板の材料および厚さは、所望の構造および光学特性が得られるように選択することができる。
【0019】
本明細書中で使用する用語「電極」とは、光生成電流を外部回路に送るための、またはデバイスに電流もしくは電圧をもたらすための媒体を提供する層を指す。図1および図2に示されるように、アノード115、220、およびカソード160、270は例示の電極である。電極は、金属または「金属置換物(metal substitute)」で構成することができる。本明細書中の用語「金属」は、元素として純粋な金属で構成される材料も、2種以上の元素として純粋な金属で構成される材料である金属合金も共に包含するように使用する。用語「金属代替物」とは、ドープしたワイドバンドギャップ半導体、縮退半導体、導電性酸化物、導電性ポリマーなど、通常の定義の範囲内の金属ではないが、導電率など金属様特性を有する材料を指す。電極は、単層または多層(「複合」電極)を備えることができ、透明であっても、半透明であっても、不透明であってもよい。電極および電極材料の例には、Bulovicらの米国特許第6352777号およびParthasarathyらの米国特許第6420031号に開示されている電極および電極材料が含まれ、これらの特許はそれぞれ、これらそれぞれの特徴の開示について参照により本明細書に援用される。本明細書中で使用するように、電極または他の層は、関係する波長において周囲の電磁放射の少なくとも50%を透過する場合に「透明」であると言われる。
【0020】
一部の構成においては、本発明によるデバイスは、本明細書中に記載されている電極および他の層に加えて、1つまたは複数の従来のアノードを備えることができる。本発明において使用するアノードは、正孔が輸送されるために十分な導電性を有する任意の適切なアノード材料を含むことができる。例示のアノード材料には、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化アルミニウム亜鉛(AlZnO)などの導電性金属酸化物、ならびに金属が含まれる。アノードは、下面発光型(bottom-emitting)デバイスを構築するために十分に透明であってよい。例示の透明基板とアノードとの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に堆積させた市販のITO(アノード)である。可撓性透明基板-アノードの組合せは、参照によりそれら全体を援用する米国特許第5844363号および米国特許第6602540号に開示されている。アノードは不透明および/または反射性であってもよい。デバイスの上面から出射される光の量を増大させるために、一部の上面発光型(top-emitting)デバイスには反射性アノードが好ましいことがある。アノードの材料および厚さは、所望の導電特性および光学特性が得られるように選択することができる。透明なアノードでは、特定の材料に対し、所望の導電率をもたらすよう十分厚いが所望の透明度を提供するよう十分に薄い厚さの範囲がありうる。他のアノード材料および構造を使用することもできる。
【0021】
一部の構成においては、本発明によるデバイスが、本明細書中に記載されている電極および他の層に加えて、1つまたは複数の従来のカソードを備えることができる。本発明と共に使用するカソードは、カソードが電子を伝導することができるように、当技術分野で公知の任意の適切な材料または材料の組合せを含むことができる。カソードは透明であっても不透明であってもよく、また反射性であってもよい。金属および金属酸化物が、適切なカソード材料の例である。カソードは単層であってもよいが、複合構造を有することもできる。たとえば、図1は、薄い金属層162と、より厚い導電性金属酸化物層164とを有する複合カソード160を示す。複合カソードにおいては、より厚い層164向けの好ましい材料に、ITO、IZOおよび当技術分野で公知の他の材料が含まれる。参照によりそれら全体が援用される米国特許第5703436号、米国特許第5707745号、米国特許第6548956号および米国特許第6576134号は、他の例示のカソードを開示している。他のカソード材料および構造を使用することもできる。
【0022】
様々な他の層が、本発明による光電子デバイス内に存在していてもよい。輸送層を使用して、電極または注入層から発光層へなど、ある層から別の層へと電荷キャリアを輸送することができる。正孔輸送層および電子輸送層の例は、参照によりその全体を援用するForrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号に開示されている。他の正孔および/または電子輸送層を使用することもできる。注入層材料は、このような材料が従来の輸送材料の導電率よりもかなり小さい電荷キャリア導電率を有することができるという点で、従来の輸送材料とは区別することができる。注入層は、電荷輸送機能を果たすこともできる。注入層および輸送層の詳細な説明および例は、参照によりその全体を本明細書中に援用するLuらの米国特許第7053547号に記載されている。注入層のさらなる例は、参照によりその全体を援用するLuらの米国特許出願第09/931948号に挙げられている。ブロッキング層は、必ずしも電荷キャリアおよび/または励起子を完全にブロックするわけではなく、デバイスを通る電荷キャリアおよび/または励起子の輸送を大幅に抑制するバリアを提供することができる。ブロッキング層の理論および使用、ならびに具体的なブロッキング層のさらなる例は、参照によりそれら全体を援用する米国特許第6097147号、Forrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号およびForrestらの米国特許第6451415号により詳細に記載されている。EBLについての追加の背景の説明は、Peumansら、「Efficient photon harvesting at high optical intensities in ultrathin organic double-heterostructure photovoltaic diodes」、Applied Physics Letters 76、2650-2652頁(2000)にも見ることができる。
【0023】
OLEDなどの発光デバイスにおいては、発光層が、その層に電流を流すと発光することができる有機材料を含むことができる。蛍光発光材料を含むこともできるが、好ましくは発光層が燐光発光材料を含有する。発光層が、組み合わせると所望の光スペクトルを放出することができる複数の発光材料を含むこともできる。燐光発光材料の例には、Ir(ppy)3が含まれる。蛍光発光材料の例には、DCMおよびDMQAが含まれる。ホスト材料の例には、A1q3、CBPおよびmCPが含まれる。発光およびホスト材料のさらなる例は、参照によりその全体を援用するThompsonらの米国特許第6303238号に開示されている。他の発光層材料および構造を使用することもできる。
【0024】
有機感光性光電子デバイスが、電荷移動層、電極および/または電荷再結合ゾーンを備えることもできる。電荷移動層は有機であっても無機であってもよく、また光伝導性について活性であってもなくてもよい。電荷移動層は電極と類似しているが、デバイスの外部との電気的接続がなく、光電子デバイスのある小区分(subsection)から隣接する小区分まで電荷キャリアを送るだけである。電荷再結合ゾーンは、電荷移動層と類似しているが、光電子デバイスの隣接する小区分間で電子と正孔との再結合を可能にする。電荷再結合ゾーンは、ナノクラスタ、ナノ粒子および/またはナノロッドを含む半透明金属または金属置換物の再結合中心を含むことができ、これはたとえば、再結合ゾーン材料および構造の開示についてそれぞれ参照により本明細書に援用するForrestらの米国特許第6657378号;2006年2月16日に公開されたRandらによる「Organic Photosensitive Devices」という名称の米国特許出願公開第2006-0032529号;および2006年2月9日に公開されたForrestらによる「Stacked Organic Photosensitive Devices」という名称の米国特許出願公開第2006-0027802号に記載されている。電極または電荷移動層は、ショットキー接触として働くこともできる。
【0025】
保護層および/または平滑化層を有機光電子デバイスにおいて使用することもできる。保護層についてのより詳細な説明は、参照によりその全体を援用するLuらの米国特許出願第09/931,948に見ることができる。平滑化層については、参照によりその全体を援用するForrestらの米国特許第6657378号に記載されている。
【0026】
光電子デバイスの性能は、ポリマーマトリックスにドーパント材料としてカーボンナノチューブ(CNT)を組み込むことによって高めることができる。一般に、CNTは、炭素原子の継目のない円筒形配置である。単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、原子1つ分の厚さの円筒形状のグラファイトシート(グラフェン)である。SWNTは通常ナノメートル程度の直径を有し、10,000を超える長さと直径の比を有することができる。多層ナノチューブには2つのタイプがある。第1のタイプでは、グラフェンシートが丸めた円筒形状に配置され、シートの長さが得られたナノチューブの周囲よりも長い。すなわち、シートそれ自体が重なり合い、ナノチューブ上およびナノチューブ内に多層を形成することができる。第2のタイプでは、異なる半径の複数のSWNT構造が、共通長軸を中心に同心円状に配置される。
【0027】
CNTとポリマーとの組合せはポリマーフィルムを強化することができること、および/またはモルフォロジーの変化(morphological modification)もしくはこれら2つの成分間の電子的相互作用に基づく新しい電子的特性を導入することもできることがわかっている。CNTドーピングの効果は、OLEDの発光層、電子輸送層および正孔輸送層にCNT粉末を埋め込むことによって調べられている。追加のエネルギー準位を導入すること又はホストポリマー内にキャリアトラップを形成することによって、CNTドーパントは電荷キャリアの輸送を選択的に容易にするか又はブロックすることができ、また最適化されたドーパント濃度でOLEDの性能を向上させることができる。
【0028】
連続CNT膜は、有機発光ダイオードおよび有機光起電力(OPV)デバイスを含めた一部の用途では、酸化インジウムスズ(ITO)を補完することができる。たとえば、CNT膜を破損なしに鋭角に折り曲げることができるが、対照的にITO膜は通常そのように可撓性ではない。加えて、炭素は自然界に最も豊富にある元素であるが、インジウムの世界的な生産量は限られており、このことは間もなく、増え続ける大面積透明導電性電極の需要を満たす上で困難を生じるおそれがある。CNT膜はまた、化学的処理によって調節可能な電子的特性や、表面積が大きいことおよびナノチューブの先端および表面における電界増加効果(field-enhanced effect)によるキャリア注入の増強など、さらなる利点をもたらすことができる。
【0029】
カーボンナノチューブは単層であっても多層であってもよい。多層ナノチューブは、チューブ内に同心円状に配置された複数のグラファイト層を含む。一般に単層ナノチューブ(SWNT)は、多層ナノチューブよりも優れた電気的特性を示す。バルク量で市販されているSWNTは通常、高圧一酸化炭素(HiPCO)法(Carbon Nanotechnology Inc.から入手可能なHiPCOナノチューブなど)またはアーク放電法(2つの開口端が親水性カルボキシル基と結合している精製されたアーク放電ナノチューブである、Carbon Solutions Inc.からのP3ナノチューブなど)を用いて製造されている。HiPCO SWNTを形成するためには、鉄などの触媒のクラスタを含むチャンバ中に一酸化炭素ガス流をポンプで送り込む。この触媒が一酸化炭素を炭素と酸素とに分割する。この炭素の一部は酸素と再結合して二酸化炭素を形成するが、残りの炭素は結合してナノチューブ構造となる。アーク放電プロセスでは、不活性ガスを含むチャンバ内に、炭素棒を約1mm離して端と端を突き合わせて配置する。直流を流して、2つの電極間に高温放電(アーク)を生じさせる。一方の電極の炭素表面を蒸発させ、それにより他方の電極上に小さい棒状の堆積物が形成される。通常、アーク放電法は他の成分を生じさせるため、純粋なSWNTを精製するためには一般に追加の精製が必要となる。レーザアブレーションにより合成されたナノチューブを用いて高品質のSWNT膜を生成することもできる。
【0030】
本発明によれば、光電子デバイスの少なくとも1つの電極または他の層が、SWNTの薄膜を含むことができる。エラストマースタンプを用いることによって、デバイスの基板上にこの膜を堆積させることができる。この膜上に平滑化層をスピンコーティングすること、および/またはこの膜にドーピングして導電性を高めることによって、この膜を強化することができる。本発明による電極は、光電子デバイスにおける電極として通常使用される他の材料に匹敵する導電性、透明性およびその他の特徴を有することができる。これらの電極は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも87%、少なくとも90%の透明度で500Ω/□以下、200Ω/□以下、180Ω/□以下、160Ω/□以下のシート抵抗を有することができる。
【0031】
真空ろ過法を使用して、市販のSWNTからSWNT膜を作製した。HiPCOおよびP3 SWNTを1wt%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液と混ぜ合わせて、典型的な濃度が1mg/mLである非常に濃厚なSWNT懸濁液を作製した。本明細書中で使用するSWNT「懸濁液」には、ナノチューブが全体的に均一にあるいはほぼ均一に液体内に分布している、懸濁液、分散液、コロイド分散液、およびその他の混合物が含まれる。通常ナノチューブは溶解しないが、SWNT懸濁液にSDS界面活性剤を添加して、側壁官能化(sidewall functionalization)によりSWNTの溶解度を向上させることができる。
【0032】
懸濁液を調製した後、次いでプローブソニケータ(probe sonicator)を用いて濃縮SWNT懸濁液を約10分間超音波で撹拌し、その後遠心分離を行って分解していないSWNT束と不純物とを分離した。均一なSWNT膜を作製するために、このように作った懸濁液を脱イオン水で30倍にさらに希釈し、図3Aに示すような多孔質アルミナろ過膜(Whatman、細孔径200nm)を通してろ過した。溶媒は細孔を通り抜けるため、SWNTが膜表面に取り残され、図3Bに示すように均質な灰色の層が形成された。この膜形成手法により、高濃縮SWNT懸濁液を大量に作ることができるため、これまでの方法と比較してより大きな生産効率がもたらされる。この単純さは、水性SDS溶媒へのSWNTの分散を著しく容易にしたプローブソニケータの使用に少なくとも部分的には起因すると考えられる。
【0033】
参照によりその開示全体を援用するZ. Wuら、「Transparent, Conductive Carbon Nanotube Films」、Science、2004年、第305巻、1273頁に記載されているようなこれまでの手法には、SWNT膜を剥離するために湿式化学薬品にろ過膜を溶解させることが必要となる。本発明では、ろ過膜からターゲット基板へSWNTを移すために乾式法を使用することができる。この乾式移送手法では、図4A〜図4Bに示すように、接着性で軟質の平坦なポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)エラストマースタンプを使用して、ろ過膜からSWNT膜を剥がし、次いで所望の基板上にそれを離す。SWNT膜430を、エラストマースタンプ420を用いてろ過膜410から引きはがすことができる。別の基板440にエラストマースタンプ420を適用することによって、膜430を基板440に移すことができる。参照によりその開示全体を援用するY. Zhouら、「A method of printing carbon nanotube thin films」、Applied Physics Letters、第88巻、123109頁(2006)に、類似のプロセスがさらに詳細に記載されている。プレス印刷では、接触時に穏やかな加熱(100℃で1分)を使用して、ターゲット基板の接着力を向上させることができる。この手法を用いて、ガラス(図4C)およびフレキシブルポリエステル(PE)基板(図4D)へのSWNT膜の完全な転写が実証され、OLED、有機光起電力デバイス、または他の光電子デバイス用透明導電性電極としての使用が可能となる。図4Cは、直径2’’(5.08cm)のガラス基板上の厚さ40nmの透明SWNT膜を示す。図4Dは、PEシート上の屈曲SWNT膜を示す。図4Cおよび図4Dでは、膜の透明性を示すために、表面に「USC」と印刷された1枚の紙がナノチューブ膜の下に配置されている。
【0034】
図5A〜図5Gでは、このように調製したHiPCOおよびP3 SWNT膜の表面モルフォロジーと電気伝導率とを比較する。図5Aおよび図5Bは、それぞれHiPCOおよびP3ナノチューブ製のSWNT膜の斜視(正方向から60°)SEM像である。P3 SWNT膜はかなり緻密で均質なネットワークを形成するが、HiPCOナノチューブ膜では膜表面に多くの「バンプ」が分布している。これらバンプは、おそらくHiPCO生成物中の不純物またはナノチューブ束により生じる。表面品質の違いは、HiPCOおよびP3ナノチューブの上面SEM像をそれぞれ示す図5Cおよび図5Dからも明白である。図5Eおよび図5Fはそれぞれ、図5Cおよび図5Dに示す像の拡大図を示す。HiPCO SWNT膜は、表面から突き出ているナノチューブおよび不純物のためにより高い粗さレベルを示すが、P3ナノチューブは整然と(comformally)支持基板と結合する傾向があるため、平滑な網目が形成される。さらに、P3 SWNT膜は、同様の光透過性ではHiPCOナノチューブよりもはるかに2桁以上高いシートコンダクタンス(sheet conductance)を示すことが観測された。このことは図5Gに示すデータによって実証されている。図5Gは、HiPCO(四角)およびP3(三角)ナノチューブ膜についての様々な透過率における抵抗を示す。この差異の由来は、ナノチューブ寸法、欠陥密度、抵抗不純物の存在、ナノチューブ束分離の容易さ、また金属ナノチューブと半導体ナノチューブとの相対存在量、における差異も含めた、いくつかの要因に関連している可能性がある。これら2つのタイプの市販のSWNT間の総合的な比較を表1に示す。一般に、以下で述べるように、表面平滑性、シートコンダクタンスおよび光電子デバイスの安定性を含めたすべての重要な側面において、P3 SWNT膜がHiPCOナノチューブよりも性能が優れていることがわかっている。P3膜が組み込まれたOLEDの寿命は、測定時間によって決まる下限を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
SWNT膜の表面粗さのさらなる検査を、原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて行った。図6Aは、ガラス上のP3 SWNT膜のAFM像を示し、これにより、相互に結合したSWNTの緻密で均質な網目(ネットワーク)の形成が確認される。典型的な手付かずのP3 SWNT膜の平均表面粗さは、同様の厚さ(約40nm、AFMにより段差端で測定した)を有する5種類の異なる試料について測定したところ7nm前後である。この粗度は、表1に記載されているように、11nmの典型的な粗さを有するHiPCOナノチューブに基づくナノチューブ膜の粗度と比べても遜色がない。
【0037】
さらに、P3 SWNT膜の粗さを低減し、且つOLED表面にわたって均一な発光を確実にするために、その膜上にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)をスピンコーティングして、試料表面を平滑化する。図6BのAFM像からわかるように、SWNT膜は表面平坦性の顕著な向上を示し、PEDOTのスピンコーティング(100Å)後には3.1nmと粗さ(rms)がかなり低減される。この表面粗度は、図6CのAFM像から導出した2.4nmである標準的なITO膜の表面粗度に匹敵する。
【0038】
4種の異なるP3 SWNT膜について、4プローブ直流測定を行った。図7Aは、厚さ(t)の関数としての膜のシート抵抗(RS)を示す。このシート抵抗を、σ=1/Rstと定義される電気伝導率にさらに変換した。図7Bに示すσ対tの曲線は、より大きい厚さで飽和する傾向で単調増加を示している。最も高い導電率は、120nmの膜に対して733S/cmで、吹付けによって調製した従来のP3 SWNT膜の飽和導電率(400S/cm)の約2倍高い。両値とも、SWNTロープについて通常観測される軸方向導電率10000〜30000S/cmをはるかに下回っている。これは、配列(アラインメント)が欠如し、ランダムなSWNTネットワーク中に抵抗が高いチューブ間接合(inter-tube junction)が存在するからである。SWNT膜の導電率はランダムネットワーク中の伝導チャネルの密度によって決定することができると考えられ、これは、金属性のSWNTによって形成される低抵抗チューブ間接合の濃度にしたがって増減すると予想される。半導体性-半導体性および金属性-半導体性のチューブ間接合は、相対的には、その界面に形成される高いショットキー障壁のために導電率全体にはあまり寄与しない。最初はまばらなネットワークにSWNTを添加することにより、金属性-金属性接合の濃度の著しい増大を引き起こし、その結果、薄い厚さでも導電率が増大をもたらすことができる。SWNTネットワークがますます密になるにつれて、このような導電性接合の濃度は厚膜で飽和する傾向にあり、これにより最終的には電気伝導率が飽和する。
【0039】
従来の吹付けP3 SWNT膜(400S/cm)の飽和導電率と比較すると、本発明による膜で観測される、より高い導電率(733S/cm)は、吹付け手法と比較してより密(コンパクト)なSWNTネットワークを生成することができるプレス印刷法の結果である。図8Aは、4種のSWNT膜の透過スペクトルを示す。300〜1100nmのスペクトル範囲内では、透過率が可視領域で単調増加を示し、近赤外では比較的平坦になる。20nmの膜および40nmの膜は、可視光に対して十分に高い透過率(93%および87%@520 nm)を示し、これは典型的なITO膜の透過率(約90%)に匹敵する。このSWNT膜の導電率の微視的な見方(microscopic view)も、図8Bに示した温度依存性によって支持されている。図8Bでは、40nmの膜のシート抵抗が、290Kから77Kまで温度が低下するにつれてごくわずかな増大(10%)を示す。これら非金属的挙動および弱い温度依存性は、金属性SWNTを通る直列伝導(series conduction)が接合部で小さいトンネル障壁によって妨害されるためであると考えられる。
【0040】
光電子デバイスにおける電極が、ポリマー表面にわたって均一な電位を分布させるために高い導電率を有することが多くの場合に望ましい。SWNT膜の高い透過率を維持しつつSWNT膜の導電率を高めるために、グラファイト表面およびSWNTに対して著しい反応性を有する液体有機溶媒である塩化チオニル(SOCl2)を用いて、膜に化学ドーピングを行った。SOCl2(Aldrich)中にP3 SWNT膜を12時間浸漬し、その後N2流の中で乾燥させることによって、SOCl2処理を行った。図9Aは、SOCl2インキュベーション前後に取った4プローブI-V曲線を示し、図中、処理した膜は2.4倍というコンダクタンスの著しい増大を示す。この効果はSOCl2の強い酸化性によるものと考えられ、SOCl2はSWNTの表面に吸着されると著しい電子求引能を示す。この導電率向上効果は、p型半導体SWNTに限定されない。SOCl2によって誘発される顕著な電荷移動(吸着体あたり約0.1電子)は、フェルミ準位が金属SWNTのファンホーベ特異点領域へシフトすることをも可能にし、その結果フェルミ準位での状態密度が大幅に増加すると考えられる。さらに、電気的特性の大幅な変更にもかかわらず、SOCl2による処理は、可視スペクトルにおけるSWNTの光吸収にほとんど影響を及ぼさないことを、明細書中に記載した結果が示している。このことは図9Bに示したデータによって示されており、図9Bは、SOCl2で処理した試料の透過スペクトルと未処理のP3 SWNT膜の透過スペクトルを示している。このドーピング手法を用いると、最適化された膜は、87%の透過率で約160Ω/□の典型的なシート抵抗を示す。本明細書中に記載されている方法およびシステムを用いると、75%、80%、87%、および90%の透過率で約200Ω/□、180Ω/□、160Ω/□、100Ω/□、および20Ω/□の抵抗が実現可能であると考えられる。具体的には、本発明は透過率80%で160Ω/□未満、透過率80%で100Ω/□未満、透過率90%で200Ω/□未満、透過率80%で160Ω/□未満、透過率90%で160Ω/□未満の層抵抗をもたらすことができると考えられる。本発明によるデバイスでは、他の値も実現可能となりうる。
【0041】
本発明によれば、剛性ガラス基板上であっても可撓性プラスチック基板上であっても、光電子デバイスにおける正孔注入電極に、上記の最適化されたSWNT膜を使用することができる。例示のOLEDを図10Aに示す。単一のデバイス上に複数の画素を作製するためには、まず、選択的O2プラズマエッチングによって連続SWNT膜を1.5mm幅のストライプにパターニングした。任意選択のステップとして、各SWNTストライプの端部にTi/Au電極を堆積させて、外部接続を容易にする。次いで、このSWNT膜上にPEDOTをスピンコーティングして、厚さ200Åの正孔注入緩衝層を形成した。真空中で20分間アニーリングを行った後、500ÅのN,N’-ジ-[(1-ナフタレニル)-N,N’-ジフェニル]-1,1’-ビフェニル)4,4’-ジアミン(NPD)および500Åのトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)を熱蒸発により順次堆積させ、それによってOLEDの正孔輸送層および発光層を形成させた。最後のステップでは、シャドウマスクを通して10ÅのLiFおよび1200ÅのAlを順次堆積させることによって、上部カソードを追加した。この例示のデバイスについてのエネルギー準位図を図10Bに示す。完成した(ガラス基板上の)デバイスの写真を図10Cに示す。
【0042】
図11AはAlq3のフォトルミネセンススペクトルを示し、520nmに中心がある単一ピークを有する。先に述べたように、この波長におけるSWNT電極(厚さ40nm)の透明度は約87%である。このOLEDの電流-電圧曲線をKeithley 2400ソースメータで記録した。この電流-電圧曲線を図11Bに示す。2mm2のデバイス面積を用いて導かれた電流密度は、電圧バイアスにより単調増加であるが非線形の増加を示し、20Vで0.7mA/cm2に達する。輝度の増加は、Newport光学メータ(Model 1835C)を用いて測定される電流密度の増大に伴っていた。図11Cは電圧バイアスの関数としての輝度を示し、詳細な輝度特性は、5Vのしきい値電圧、および20Vで17cd/m2の輝度を示した。図11Dは電圧バイアスの関数としての量子効率を示し、0.6V〜20Vの広いバイアス範囲内で0.21%〜0.34%で変化した。
【0043】
P3ナノチューブ膜に基づく例示のOLEDデバイスは、4〜5時間以内では発光の劣化は観測されず、高い安定性および長い寿命を示した。これは、試験時に用いた測定時間によって課せられる下限を示すが、実際には、デバイスの寿命は4〜5時間よりもはるかに長い可能性がある。対照的に、HiPCOナノチューブ膜で作製した同様のデバイスは、30秒よりも短い寿命しか示さず、その後開回路または短絡となる。この顕著な差異は、表面粗さの差異とシートコンダクタンスの差異との複合効果である。先に説明し図示したように、HiPCO膜は通常P3膜よりもはるかに粗く、HiPCO膜中の「バンプ」により局部加熱およびフィラメント形成が引き起こされ、最終的には熱損傷および短絡/開回路を生じることがある。HiPCO膜の相対的に高いシート抵抗はさらに、OLEDデバイスの信頼性を妨害することがある。というのは、HiPCOをベースとするOLEDデバイスを作動させるには、P3をベースとする対応品よりも高い電圧が必要となるからである。
【0044】
P3ナノチューブ膜に基づくデバイスでさえも、観測した電流密度および輝度が、同じ構造(ITO/500ÅのNPD/500ÅのAlq3/LiF/Al)のITOをベースとするOLEDの電流密度および輝度よりも1〜2桁低いこともわかった。このことは、ナノチューブ膜のより高いシート抵抗と、ナノチューブのより低い仕事関数(ITOについての約4.8eVと比較してナノチューブでは約4.5eV)との両方に関連している可能性があり、それが、より高い正孔注入障壁をもたらし、また、試験中に観測される抑制された電流密度および輝度の原因となりうる。
【0045】
本明細書中に記載した試験は、アーク放電ナノチューブがHiPCOナノチューブよりもはるかに均質で高導電性の網目(ネットワーク)を形成し、且つ、より長い寿命をもつ光電子デバイスをもたらすことができることを実証している。SWNT膜の表面粗さおよびシートコンダクタンスをさらに低減するためのポリマーパッシベーションおよびSOCl2ドーピングがこの膜をさらに最適化し、それにより約160Ω/□の典型的なシート抵抗、87%の透明度、およびITO基板の表面粗さに匹敵する表面粗さをもたらしうることがわかった。材料選択および得られた膜の表面粗さはその用途の成功にかなりの影響を与えるとがわかった。というのは、アーク放電ナノチューブに基づく膜は、表面粗さ、シート抵抗、および透明度を含めた様々な側面において、HiPCOナノチューブに基づく膜よりも明らかに優れているからである。
【0046】
有機光起電力デバイスにおける電極としてのSWNT膜の有効性も調べた。CuPc/C60/バソキュプロイン光活性領域を用いた蒸着ダブルヘテロ接合有機光起電力デバイスを作製した。63%(550nm)の光透過性マット上に作製したデバイスは、2.2mA/cm2の短絡電流密度(Jsc)と、100mW/cm2のAM 1.5G照明における0.32%の電力変換効率とを生じさせた。これは、71%透過性プラスチック/In2O3:Sn電極に基づく同じデバイスから得られる2.0mA/cm2のJscおよび0.37%の効率に匹敵し、このことは、SWNT電極を用いて役に立つ光起電力デバイスを作製することができることを示している。タンデムデバイスなどの電荷再結合層を用いるデバイスについては、本発明を、デバイス中の電荷結合層および/また他の層を設けるために使用することができると考えられる。いくつかの構成においては、当業者には理解されるように、光電子デバイス中の様々な層は、本明細書中には記載していない追加の加工ステップを使用することもできる。
【0047】
図12の透過率曲線は、プラスチック上に作製した透明電極の光透過率を示す。プラスチック上の高透過率SWNT(1210)、プラスチック上の低透過率SWNT(1220)、およびプラスチック上のITO(1230)についての透過率曲線が示してある。
【0048】
図12に示した光透過率を示す電極上に、CuPc/C60/バソキュプロイン光活性領域を有するデバイスを作製して、キャラクタリゼーションを行った。図13は、以下のデバイスについての電流-電圧曲線を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
これらのデバイスの電気的キャラクタリゼーションから決定される計算したパラメータを表2に示す。SWNTベースのデバイスは、ITOをコーティングしたプラスチック基板と比較して、比較的低い透過率を考慮すると、驚くほど優れた光電流密度を示す。特に、より高い透過率のSWNT膜から生成される光電流は、ITOをコーティングしたプラスチックに基づくデバイスの光電流に匹敵する。これらの全てのデバイスのVocはほぼ同じである。このことは、電極表面を不動態化し且つ短絡挙動を低減するために使用したPEDOT:PSS層の軽減効果と連結していると考えられる。SWNTベースのデバイスのフィルファクタ(FF)は、ITOをベースとするそれらデバイスの対応品と比較してわずかに低くなっているが、このことは、ITOと比較してSWNT膜のシート抵抗がより高いことにより、これらのデバイスが損失を受けることを示している。しかしながら、このFFは、SWNT膜中の隣接するナノチューブ間におそらくは存在する、電流の流れに対する大きな接触抵抗を考慮すると、驚くほど高い。
【0051】
【表3】

【0052】
フィルファクタFFは以下のように定義される。
FF={ImaxVmax}/{IscVoc}
ここで、実用では短絡電流Iscと開回路電圧Vocとが同時に得られることはないため、FFは常に1未満である。とはいえ、FFが1に近づくにつれて、デバイスの直列抵抗または内部抵抗が小さくなり、したがってデバイスは、最適条件下では負荷に対してIscとVocとのより大きな割合の積を与える。Pincがデバイスに入射する電力である場合、デバイスの電力効率ηpは、下記式によって計算することができる。
【数1】

【0053】
【表4】

【0054】
本明細書中で説明し図示した単純な層状構造は、非限定的な例として提供したにすぎず、幅広い様々な他の構造に関連して本発明の諸実施形態を使用することができることが理解される。記載されている具体的な材料および構造は本来例示としてであり、他の材料および構造を使用することもできる。本発明による作動する光電子デバイスは、設計、性能およびコスト要因に基づき、記載されている様々な層を異なるやり方で組み合わせることによって実現することもでき、または層を完全に省略することもできる。具体的には記載されていない他の層を含めることもできる。具体的に記載されている材料以外の材料を使用することもできる。本明細書中に示す例の多くは単一の材料を含むものとして様々な層を記載しているが、ホストとドーパントとの混合物やより一般的に混合物など、材料の組合せを使用することもできることが理解される。また、これらの層が様々なサブ層(sublayer、副層)を有することもできる。本明細書中で様々な層に与えられている名称は、厳密に限定的なものではない。たとえば、正孔輸送層は、正孔を輸送し正孔を発光層に注入することができるが、正孔輸送層と記載することも、または正孔注入層と記載することもできる。本発明による光電子デバイスは、カソードとアノードとの間に配置した「有機層」を有すると説明することもできる。この有機層は単一の層を備えることも、または、たとえば図1および図2に関して説明したように、異なる有機材料の複数の層をさらに備えることもできる。たとえば、参照により本明細書中に援用するForrestらの米国特許第6333458号およびPeumansらの米国特許第6440769号に開示されているように、効率を増大させるために濃縮のための構成(concentrator)または捕獲のための構成(trapping configuration)を用いることもできる。たとえば、参照により本明細書中に援用する、2005年12月1日に公開されたPeumansらによる「A periodic dielectric multilayer stack」という名称の米国特許出願公開第2005-0266218号に開示されているように、デバイスの所望の領域に光エネルギーを集中させるためにコーティングを用いるることもできる。
【0055】
他に特に規定がなければ、様々な実施形態の層のいずれも、任意の適切な方法によって堆積させることができる。有機層については、好ましい方法として、熱蒸発、参照によりそれら全体を援用する米国特許第6013982号および米国特許第6087196号に記載されているようなインクジェット、参照によりその全体を援用するForrestらの米国特許第6337102号に記載されているような有機気相堆積(OVPD)、ならびに参照によりその全体を援用する米国特許出願第10/233,470号に記載されているような有機蒸気ジェット印刷(OVJP)による堆積が挙げられる。他の適切な堆積法としては、スピンコーティングおよび他の溶液をベースとするプロセスが挙げられる。溶液をベースとするプロセスは、好ましくは窒素または不活性雰囲気中で行われる。その他の層については、好ましい方法として熱蒸発が挙げられる。好ましいパターニング法としては、マスクを通しての堆積、参照によりそれら全体を援用する米国特許第6294398号および米国特許第6468819号に記載されているような冷間圧接、インクジェットやOVJPなどの堆積法の一部を伴うパターニングが挙げられる。他の方法を使用することもできる。
【0056】
本発明の諸実施形態に従って作製したデバイスは、太陽光発電システム、太陽電池式計算機、道路標識、カメラ、携帯電話など、1つまたは複数の光起電力デバイスを備える製品を含め、フラットパネルディスプレイ、コンピュータモニタ、テレビ、ビルボード、屋内または屋外照明および/または信号用のライト、ヘッドアップディスプレイ、完全透明ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザプリンタ、電話、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダ、マイクロディスプレイ、太陽電池、光検出器、光検出器アレイ、光センサ、車両、大面積壁、劇場またはスタジアムスクリーン、標識、ならびにフォトトランジスタを含めた様々な消費者製品に組み込むことができる。パッシブマトリックスおよびアクティブマトリックスを含め、本発明に従って作製したデバイスを制御するために様々な制御機構を使用することができる。これらのデバイスの多くは、摂氏18度〜摂氏30度、より好ましくは室温(摂氏20〜25度)など人間にとって快適な温度範囲内で使用するためのものである。多くの光起電力デバイスが通常は100〜150℃以下の温度で作動する。他の温度範囲を使用することもできる。
【0057】
本発明は特定の例および好ましい諸実施形態に関して記載されているが、本発明はこれらの例および実施形態に限定されないことが理解される。したがって、当業者には明らかなように、特許請求の範囲に記載されている本発明には、本明細書中に記載されている特定の例および好ましい諸実施形態からの変形形態が含まれる。
【0058】
本明細書中に記載されている様々な諸実施形態はほんの一例にすぎず、本発明の範囲を制限するものではないことが理解される。たとえば、本明細書中に記載されている材料および構造の多くは、本発明の精神から逸脱することなく他の材料および構造と置き換えることができる。なぜ本発明が機能するのかについての様々な理論は限定的なものではないことが理解される。たとえば、電荷移動に関する理論は限定的なものではない。
【符号の説明】
【0059】
100 有機発光デバイス
110 基板
115 アノード
120 正孔注入層
125 正孔輸送層
130 電子ブロッキング層
135 発光層
140 正孔ブロッキング層
145 電子輸送層
150 電子注入層
155 保護層
160 カソード
162 第1の導電層
164 第2の導電層
200 有機感光性デバイス
210 基板
220 アノード
222 平滑化層
250 光活性領域
252 ドナー
254 アクセプタ
256 ブロッキング層
270 カソード
290 素子
410 ろ過膜
420 エラストマースタンプ
430 SWNT膜
440 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電子デバイスを作製する方法であって、
ナノチューブの懸濁液を調製するステップと;
前記懸濁液をろ過して、ろ過膜上にナノチューブの薄膜を形成するステップと;
基板の上に前記薄膜を堆積させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記基板の上に前記のナノチューブの薄膜を堆積させる前記ステップが、
エラストマースタンプを使用して、前記ろ過膜から前記薄膜を剥がすステップと;
前記基板上に前記エラストマースタンプを押し付けて、前記エラストマースタンプから前記基板へ前記薄膜を移すステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記のナノチューブの懸濁液を調製する前記ステップが、前記懸濁液を撹拌するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液が超音波で撹拌される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記懸濁液を調製する前記ステップが、前記懸濁液中で前記ナノチューブを官能化するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノチューブがアーク放電ナノチューブである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記薄膜上に平滑化層をスピンコーティングするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記薄膜が、3.1nm以下のrms粗さまで平滑化される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記薄膜にドーピングするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記薄膜に、抵抗160Ω/□以下まで導電率を向上させるドーパントをドーピングする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記薄膜をパターニングして複数の画素を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記基板の上に有機層を堆積させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記有機層の上に電極を堆積させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有機層が発光層である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記有機層が光活性層である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
アーク放電ナノチューブの薄膜を備える第1の電極と;
第2の電極と;
前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記第1の電極および前記第2の電極と電気的に接触して配置される光活性有機層と
を備えるデバイス。
【請求項17】
前記第1の電極が3.1nm以下のrms粗さを有する、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第1の電極が500Ω/□以下のシート抵抗を有する、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
前記第1の電極が少なくとも75%の透明度を有する、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記第1の電極が、160Ω/□以下のシート抵抗および少なくとも87%の透明度を有する、請求項16に記載のデバイス。
【請求項21】
前記ナノチューブが単層ナノチューブである、請求項16に記載のデバイス。
【請求項22】
前記有機層が有機発光材料を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項23】
前記有機層が有機感光性材料を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項24】
前記第1の電極がドーピングされている、請求項16に記載のデバイス。
【請求項25】
前記第1の電極がSOCl2でドーピングされている、請求項24に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A−4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12】
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【図13】
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【図10A】
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【公表番号】特表2010−515205(P2010−515205A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520826(P2009−520826)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/016334
【国際公開番号】WO2008/105804
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(502023332)ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (20)
【Fターム(参考)】