説明

ナノファイバーの合糸方法及び装置

【課題】電荷誘導紡糸法により製造したナノファイバーから成る高強度でかつ形態及び力学的物性の均一な糸条を安定して製造する。
【解決手段】芯糸1を所定の直線経路2を通して供給し、直線経路2の周囲を回転する少なくとも1つの小穴3から原料溶液を流出させるとともに流出する原料溶液に電荷を帯電させ、静電爆発にて延伸させてナノファイバー7を生成し、接地され又は高電圧発生手段6にて原料溶液の帯電電荷とは逆極性の電圧を印加された電極5を直線経路2を挟んで小穴3とは略反対側の位置で小穴3と同期して回転させることで、生成されたナノファイバー7を電極5にて収集して芯糸1に絡ませ、芯糸1に規則的にナノファイバー7が巻き付いた糸条8を製造して回収するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷誘導紡糸法にてナノファイバーを製造してこれを糸条にするナノファイバーの合糸方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子物質から成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電荷誘導紡糸法(エレクトロスピニング法とも称される)が知られている。従来の電荷誘導紡糸法は、高電圧を印加した針状のノズルに高分子溶液を供給し、この針状のノズルから線状に流出する高分子溶液に電荷を帯電させることで、この電荷を帯電された線状の高分子溶液中の溶媒が蒸発するのに伴って帯電電荷間の距離が小さくなり、帯電電荷間に作用するクーロン力が大きくなり、そのクーロン力が線状の高分子溶液の表面張力より勝った時点で線状の高分子溶液が爆発的に延伸される現象が生じ、この静電爆発と称する現象が、一次、二次、場合によっては三次等と繰り返されることで、サブミクロンの直径の高分子から成るナノファイバーが製造されるものである。
【0003】
また、従来は、電荷誘導紡糸法にて生成されたナノファイバーにてウェブを製造し、人造皮革、フィルター、おむつ、生理用ナプキン、癒着紡糸剤、ワイピングクロス、人造血管、骨固定器具など多様に活用されているが、10MPa以上の力学物性を得るのが困難で広範囲な用途への利用に限界があること、このように製造されたナノファイバーのウエブを連続した糸条にして力学物性を高めようとすると、ウェブを一定長さに切断して短繊維を製造し、この短繊維から紡績糸を製造する別途の紡績工程を経なければならないという問題があることを指摘した上で、電荷誘導紡糸法にて製造されたナノファイバーのウエブを用いて連続的に糸条を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、列をなして帯電されたノズルからナノファイバーを紡糸し、ノズルと逆極性に帯電されたコレクタ内の水または有機溶媒の静的な表面上にウェブをなすように堆積させ、この堆積するウェブを、ノズルの列方向で見た一方の末端側より1cm以上離れた地点から一定の線速度で回転する回転ローラによって引き上げて連続した糸条とし、圧搾、延伸、乾燥および巻取りを行って連続した糸条を得ている。また、連続した糸条は撚糸することもできるとしている。
【0004】
また、電荷誘導紡糸法にてノズルから紡糸したナノファイバーをコレタタ上に堆積させてリボン形態のナノファイバーウェブを生成し、このリボン形態のウェブをエア撚り糸装置に通して撚り糸を製造する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特表2006−507428号公報
【特許文献2】特表2007−518891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、各ノズルから真下にナノファイバーを生成してコレクタ上のノズルに対応した位置へ静的に堆積させながら、その堆積域の広がりにより各ノズルから生成されたナノファイバー同士を絡み合わせて細帯状のウェブを形成し、このウェブの一端からナノファイバー群を引出すことでウェブの他端側に連続しているナノファイバー群を順次引き出し、連続した糸条に集束させるものであり、そのため各ノズルから紡糸されたナノファイバーの堆積が静的でほぼ同等であるのに対し、引き出し作用が引き出し側に近い堆積域に集中しやすくなる関係から、引き出し側に近い堆積域と遠い堆積域とでナノファイバーの引出し量とに差が生じる恐れがあり、その場合引出し量の差が堆積量の差を来たし、堆積量に差を生じた状態で引き出されることで連続した糸条の太さや力学物性を適正に制御するのは困難で安定しないという問題がある。さらに、引出し作用が引き出し側から遠い側の堆積域にも均等に及ぶようにするのに引出し速度を抑える必要があり大量に製造するのも困難であるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術は、エアにより撚りをかけて撚り糸を製造する点で特許文献1と異なっているが、特許文献1と基本的構成を共有していて同様の問題があり、形態や力学的物性の均一な糸を製造することができないという問題がある。また、エア撚り糸装置を通過させて撚り糸を製造するので、エア撚り糸装置における作用の安定性も問題になる。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、電荷誘導紡糸法により製造したナノファイバーから成る高強度でかつ形態及び力学的物性の均一な糸条を安定して製造することができるナノファイバーの合糸方法と装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のナノファイバーの合糸方法は、芯糸を所定の直線経路を通して供給する芯糸供給工程と、直線経路の周囲を回転する少なくとも1つの小穴から原料溶液を流出させるとともに流出する原料溶液に電荷を帯電させ、静電爆発にて延伸させてナノファイバーを生成するナノファイバー生成工程と、接地され又は原料溶液の帯電電荷とは逆極性の電圧を印加された電極を直線経路を挟んで小穴とは略反対側の位置で小穴と同期して回転させ、生成されたナノファイバーを電極にて収集して芯糸に絡ませる合糸工程と、芯糸に絡まったナノファイバーを芯糸とともに回収する回収工程とを有するものである。
【0009】
なお、原料溶液としては、各種の合成樹脂材料や核酸や蛋白質などの生体高分子などの高分子物質(本発明では、分子量が10000以上の一般的な高分子物質に限らず、分子量が1000〜10000の準高分子物質も含める)を溶媒に溶解したものが好適に適用される。また、上記高分子物質は単体物に限らず、各種高分子物質の混合物であっても良い。
【0010】
上記構成によれば、所定の直線経路に沿って芯糸を移動させつつ、直線経路の周囲を回転する小穴から原料溶液を流出させて電荷誘導紡糸法にてナノファイバーを生成するとともに、生成したナノファイバーを小穴とは直線経路を挟んで略反対側の位置で小穴と同期して回転する電極に向けて流動させることで、生成したナノファイバーは線状若しくはその周囲の小さな断面の空間内を殆ど乱れることなく電極に向かって流動しつつ芯糸に絡むために芯糸に規則正しく巻き付き、それによってナノファイバーから成る高強度でかつ形態や力学的物性の均一な糸条を安定して製造することができる。
【0011】
また、ナノファイバー生成工程で、小穴と直線経路との間の距離に比して互いに近距離に配置された複数の小穴から原料溶液を流出させてナノファイバーを生成すると、上記作用効果を損なうことなく、ナノファイバーの製造量を増加して糸条の生産性を向上することができる。
【0012】
また、合糸工程で、生成されて電極にて収集されて流動するナノファイバーが芯糸を巻き込むように、小穴の原料溶液流出方向と電極の位置を調整設定するのが好ましい。こうすることで、生成されたナノファイバーが芯糸に絡まる作用を確実にかつ安定して得ることができる。
【0013】
また、合糸工程で、芯糸を小穴の回転方向と逆方向に回転させると、ナノファイバーが芯糸により緊密に巻き付けられるので、さらに高強度の糸条を製造することができる。
【0014】
また、本発明のナノファイバーの合糸装置は、芯糸を所定の直線経路を通して供給する芯糸供給手段と、直線経路の周囲を回転する少なくとも1つの小穴を有し、小穴から原料溶液を流出させるとともに流出する原料溶液に電荷を帯電させるナノファイバー生成手段と、接地され又は原料溶液の帯電電荷とは逆極性の電圧を印加された電極と、電極を直線経路を挟んで小穴とは略反対側の位置で小穴と同期して回転させる電極回転手段と、ナノファイバーが絡まった芯糸を回収する回収手段とを備えたものである。
【0015】
この構成によれば、ナノファイバー生成手段における直線経路の周囲を回転する小穴からナノファイバーを生成し、電極回転手段にて小穴と同期して回転する電極にてそのナノファイバーを直線経路の略反対側で吸引し、芯糸供給手段にて直線経路を移動する芯糸にナノファイバーを絡ませて糸条を製造することができ、上記ナノファイバーの合糸方法を実施して、ナノファイバーから成る高強度でかつ形態や力学的物性の均一な糸条を安定して製造することができる。
【0016】
また、小穴と電極の間の直線経路の長手方向の距離は、小穴と直線経路との間の距離の1〜10倍に設定するのが好ましい。小穴と電極間には、小穴から流出した原料溶液が電荷誘導紡糸法にて延伸されたナノファイバーが生成されるのに必要な距離(例えば100〜1000mm程度)を設ける必要があり、直線経路に対して径方向にその距離をとると、芯糸に対する巻き付け角が90度近くなってしまい、糸条の引張強度を確保するのが困難になるとともに、ナノファイバーが重力の作用方向と直交する方向に長距離流動するので流動状態が不安定になり、巻き付け状態が不均一になる恐れがある。一方、直線経路の長手方向に距離を大きくとり、径方向の距離が小さくなり過ぎると、芯糸に対する巻き付け角が小さくなって芯糸に対するナノファイバーの絡みつきの程度が小さくなり、糸条としての機能が損なわれる恐れがあり、かつ生成中のナノファイバーと芯糸が干渉する恐れがある。したがって、上記のように距離設定するのが好ましい。
【0017】
また、ナノファイバー生成手段の小穴は、直線経路の周囲を回転する回転体の電極配置側の側面、若しくは外周面、又は内周面に配置することができ、原料溶液の組成、濃度、流出量、小穴の配置位置と回転速度、電極の配置位置、芯糸の移動速度等の各種製造条件に応じて最適なものを選択するのが好ましい。
【0018】
また、ナノファイバー生成手段の小穴を、小穴と直線経路との間の距離に比して互いに近距離に配置された複数の小穴にて構成すると、上記作用効果を損なうことなく、ナノファイバーの製造量を増加して糸条の生産性を向上することができる。
【0019】
また、芯糸を小穴の回転方向と逆方向に回転させる芯糸回転手段を設けると、ナノファイバーが芯糸により緊密に巻き付けられるので、さらに高強度の糸条を製造することができる。
【0020】
また、電極と直線経路との間の距離を、50mm以下に設定すると、電極に向けて吸引されて流動してくるナノファイバーを芯糸に確実に絡ませることができて好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナノファイバーの合糸方法と装置によれば、直線経路の周囲を回転する小穴からナノファイバーを生成し、小穴と同期して回転する電極にてそのナノファイバーを直線経路の略反対側で収集し、直線経路を移動する芯糸にナノファイバーを絡ませて糸条を製造することにより、ナノファイバーから成る高強度でかつ形態や力学的物性の均一な糸条を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のナノファイバーの合糸方法と装置の各実施形態について、図1〜図13を参照しながら説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
本発明のナノファイバー合糸装置の第1の実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
【0024】
まず、本実施形態におけるナノファイバー合糸方法を、図1、図2を参照して説明する。図1において、芯糸1を供給して所定の直線経路2を通して矢印aの如く移動させている状態で、小穴3を有しているノズル部材4を矢印bの如く直線経路2の周囲に回転させ、その小穴3からナノファイバーの原料溶液に電荷を帯電させて流出させ、かつ生成されたナノファイバー7を吸引する電極5を直線経路2を挟んで小穴と3は略反対側の位置で矢印cの如く小穴3と同期して回転させている。小穴3から流出する原料溶液に電荷を帯電させ、電極5にてナノファイバー7を吸引するため、本実施形態では、ノズル部材4を接地し、電極5に高電圧発生手段6にて1kV〜100kV、好適には10kV〜100kVの正(又は負、図示例は正)の高電圧を印加している。これにより、ノズル部材4と電極5間に電界が発生し、小穴3から流出する原料溶液には負(又は正)の電荷が帯電し、負(又は正)に帯電したナノファイバー7がそれとは逆極性の高電圧が印加されている電極5に吸引される。なお、ノズル部材4に高電圧発生手段(図示せず)にて負(又は正)の高電圧を印加して、流出する原料溶液及びナノファイバーに負(又は正)の電荷を帯電させるようにしても良く、その場合電極5を接地しても、若しくは電極5に高電圧発生手段6にて正(又は負)の高電圧を印加しても良い。
【0025】
この構成によれば、芯糸1が所定の直線経路2に沿って移動している状態で、直線経路2の周囲を回転する小穴3から電荷を帯電された原料溶液が流出することで、電荷誘導紡糸法にてナノファイバー7が生成されるとともに、その生成したナノファイバー7が小穴3とは直線経路2を挟んで略反対側の位置で小穴3と同期して回転している電極5に向けて、線状若しくはその周囲の小さな断面の空間内を殆ど乱れることなく流動する。こうして電極5に向けて流動するナノファイバー7が、小穴3と電極5の回転によって芯糸1と交差する位置で芯糸1に絡むため、ナノファイバー7が芯糸1に規則正しく巻き付きられ、それによってナノファイバー7から成る高強度でかつ形態や力学的物性の均一な糸条8が安定して製造される。
【0026】
芯糸1としては、繊維の種類は限定されるものではなく、木綿のような天然繊維や、ナイロンなどの合成繊維などを例示することができる。線径が1μm以下のモノフィラメントを用いるのが好適であるが、複数の繊維が束となったマルチフィラメントを採用することができる。その際の繊維の径は特に限定するものではないが、500nm以下の繊維から成る撚糸を用いることができる。
【0027】
原料溶液としては、高分子物質を溶媒に溶解したものが好適である。その高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等が好適なものとして例示でき、さらには核酸や蛋白質などの生体高分子なども例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0028】
また、使用できる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、原料溶液中の溶媒の占める割合は、60%位から98%位が好適で、使用する高分子物質の種類、溶媒の種類、生成するファイバーの径等に応じて適切に決定する。
【0029】
なお、図1の図示例では、図1(b)に示すように、ノズル部材4の小穴3の向きを直線経路2に向けるとともに、小穴3と電極5を直線経路2を中心として略直径方向に対向して配置した例を示したが、小穴3から流出して生成され、電極5に向けて吸引されるたナノファイバー7を、芯糸1に安定して絡ませるため、例えば図2、特に図2(b)に示すように、ノズル部材4を、直線経路2と交差する直径方向の中心線に対して角度αだけ回転方向の後向きに傾斜させて配置するとともに、電極5を前記中心線に対して角度βだけ回転方向後方側の位置に配置することで、小穴3及び電極5が回転していない状態では仮想線で示すようにナノファイバー7が流動するようにすることで、小穴3及び電極5の回転に伴って実線で示すように流動するナノファイバー7が芯糸1に確実に絡み、生成されたナノファイバー7が芯糸1に絡まる作用が確実にかつ安定して得られるようにするのが好ましい。
【0030】
また、芯糸1を、図2(b)の矢印dの如く、小穴3の回転方向(矢印b方向)と逆方向に回転させるようにしても良い。そうすると、構成が多少複雑になるものの、ナノファイバー7が芯糸1により緊密に巻き付けられるため、さらに高強度の糸条を製造することができて好ましい。
【0031】
次に、図3〜図6を参照してより具体的な構成を説明する。図3〜図5において、10はナノファイバー合糸装置であって、ナノファイバー7を生成する紡糸ヘッド11と、回転電極部12と、芯糸供給手段13と、回収手段14とを備えている。
【0032】
ナノファイバー生成手段としての紡糸ヘッド11は、鉛直な軸心周りに回転自在に支持された円筒容器状の回転体15の下面の適所1箇所に先端に小穴3を有するノズル部材4を装着して構成されている。回転体15の上壁には、電気絶縁性を有する上部回転筒体16の下端部が一体的に固定され、その上部回転筒体16の中間部が上部支持フレーム17にて軸受18を介して回転自在に支持されるとともに、上部回転筒体16の上部は回転手段19に接続されている。回転体15又は少なくともノズル部材4は導電性を有し、上部回転筒体16に設けた導電部材16aと軸受18を介してノズル部材4が電気的に接地されている。なお、ノズル部材4にて小穴3を構成する代わりに、回転体15に直接小穴3を形成しても良い。回転手段19は、上部回転筒体16の外周に固定された従動プーリ19aと、上部支持フレーム17に設置されたモータ19dと、モータ19dの出力軸に固定された駆動プーリ19cと、プーリ19aと19c間に巻き掛けれたベルト19bにて構成され、モータ19dにて回転体15を介して小穴3を回転させるように構成されている。小穴3の回転速度は、数100〜10000rpmに設定される。
【0033】
回転体15の中心部の貫通開口を形成する内側筒壁20は、その上部が全周にわたって開口され、回転体15の外周壁と内側筒壁20との間の環状収容空間20aに原料溶液供給手段22にて供給された原料溶液21を収容し、ノズル部材4を通して小穴3から流出させるように構成されている。原料溶液供給手段22は、貯留容器23内の原料溶液21を供給ポンプ24にて取り出し、上部回転筒体16を貫通させて回転体15内に挿入配置された溶液供給管25の先端のL字屈曲部25aから環状収容空間20a内に原料溶液21を供給するように構成されている。図示例では、原料溶液21に作用する重力と回転体15の回転による遠心力と小穴3と電極5間の電界の作用で、小穴3から原料溶液21を流出させるようにしているが、環状収容空間20a内を加圧可能な構成として、原料溶液21を圧力で押し出して流出させるようにしても良い。
【0034】
回転電極部12は、リング状の導電性の回転板26の上面の適所1箇所に上端部が略半球状に形成された短寸の電極5が配置され、この回転板26が電気絶縁性を有する下部回転筒体29の上端に一体固定され、下部回転筒体29の中間部が軸受28を介して下部支持フレーム27にて回転自在に支持され、下部回転筒体29の下部が回転駆動手段30に接続されている。電極5には、回転板26と下部回転筒体29に設けられた導電部材29aと軸受28を介して高電圧発生手段6にて発生された高電圧が印加されている。回転駆動手段30は、下部回転筒体29の外周に固定された従動プーリ30aと、下部支持フレーム27に設置されたモータ30dと、モータ30dの出力軸に固定された駆動プーリ30cと、プーリ30aと30c間に巻き掛けれたベルト30bにて構成され、モータ30dにて回転板26を介して電極5を回転駆動するように構成されている。電極5は、小穴3と同期して回転するように回転駆動される。電極5は、少なくとも頂部が、半径が数mm〜10mm程度の半球形又はそれに類似した形状で、尖った部分の無いものが好ましい。尖った部分があると、その部分からイオン風が発生し、異常放電の発生原因となるためである。
【0035】
芯糸供給手段13は、上部支持フレーム17に配設され、芯糸1を所定の速度で供給する芯糸供給リール31と、芯糸1の供給位置を直線経路2の上端に位置決めするガイドローラ32にて構成されている。回収手段14は、下部支持フレーム27に配設され、芯糸1にナノファイバー7を巻き付けて製造された糸条8を巻き取って回収する糸条巻取リール33と、直線経路2の下端を位置決めし、製造された糸条8を直線経路2から側方に取り出すためのガイドローラ34にて構成されている。かくして、ガイドローラ32、34にて、それらの間に直線経路2が設定され、この直線経路2に対して上部回転筒体16、回転体15、下部回転筒体29が同一軸芯状態となるように配設されている。なお、図2(b)に矢印dのように芯糸1を回転させるには、芯糸供給手段13と回収手段14、又は少なくとも回収手段14を直線経路2を回転中心として回転させる手段を設けることで実施できる。
【0036】
直線経路2と小穴3と電極5の配置関係を図5を参照して説明する。直線経路2と電極5の径方向の距離L1は、電極5に向けて吸引されて流動してくるナノファイバー7を芯糸1に確実に絡ませるために、50mm以下に設定するのが好ましい。しかし、小穴3の向きと配置位置によってはそれ以上に設定した方が良い場合もある。直線経路2と小穴3の径方向の距離L2は、特に限定されないが、小穴3と電極5との間の直線経路2の長手方向の距離L3と相関的に設定される。すなわち、小穴3と電極5の間で、ナノファイバーを生成するのに必要な距離(例えば100〜1000mm程度)を確保する必要があり、その上で距離L3を距離L2の1〜10倍に設定するのが好ましい。距離L2を大きくして距離L3を小さくすると、芯糸1に対するナノファイバー7の巻き付け角が90度近くなってしまい、糸条8の引張強度を確保するのが困難になるとともに、ナノファイバー7が重力の作用方向と直交する方向に長距離流動するので流動状態が不安定になり、巻き付け状態が不均一になる恐れがあり、一方距離L3を大きくして、距離L2を小さくし過ぎると、芯糸1に対するナノファイバー7の巻き付け角が小さくなって芯糸1に対するナノファイバー7の絡みつきの程度が小さくなり、糸条8としての機能が損なわれる恐れがあり、かつ生成中のナノファイバー7が芯糸1と干渉する恐れもあるためである。
【0037】
次に、制御構成を図6を参照して説明する。図6において、回転体15を所定の回転速度で回転させる回転手段19と、電極5を回転体15の小穴3と回転方向の相対位置を所定位置に位置決めしかつその位置決め状態を維持しつつ同期して回転させる回転駆動手段30と、電極5に高電圧を印加する高電圧発生手段6と、回転体15に原料溶液21を供給する原料溶液供給手段22の供給ポンプ24とを制御部41にて制御するように構成されている。制御部41は、操作部43からの作業指令により、記憶部42に記憶されている動作プログラムや操作部43から入力されて記憶している各種データに基づいて動作制御し、その動作状態や各種データを表示部44に表示する。
【0038】
本実施形態によれば、所定の直線経路2に沿って芯糸1を移動させつつ、直線経路2の周囲を回転する小穴3から原料溶液21を流出させて電荷誘導紡糸法にてナノファイバー7を生成するとともに、生成したナノファイバー7を小穴3とは直線経路2を挟んで略反対側の位置で小穴3と同期して回転する電極5に向けて流動させるようにしているので、生成されたナノファイバー7が線状若しくはその周囲の小さな断面の空間内を殆ど乱れることなく電極5に向かって流動し、かつ小穴3と電極5の同期回転に伴って流動してきたナノファイバー7が芯糸1に絡み、芯糸1に規則正しく巻き付くことになり、それによって芯糸1に巻き付いたナノファイバー7から成る高強度でかつ形態や力学的物性の均一な糸条8を安定的に製造することができる。
【0039】
具体数値例を示すと、距離L1を50mm、距離L2を100mm、距離L3を300mmとし、回転体15(小穴3)の回転速度T1、及び回転板26(電極5)の回転速度T2を、共に3000rpmとし、回転体15を接地し、電極5に高電圧発生手段6にて50kVの電圧を印加し、直線経路2に芯糸1を10mm/secの速度で供給することで、芯糸1にナノファイバー7が規則的に巻き付き、芯糸1に強固に絡んだ強度特性の高い糸条8を製造することができた。なお、芯糸1の移動速度は、生成されるナノファイバー7の量や芯糸1の周囲に巻き付ける量によって異なる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、本発明のナノファイバー合糸装置の第2の実施形態について、図7を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明においては、先行する実施形態と同一の構成要素について同一の参照符号を付して説明を省略し、主として相違点についてのみ説明する。
【0041】
上記第1の実施形態においては、回転体15の下面に単一のノズル部材4を配置して単一の小穴3からナノファイバー7を生成するようにした例を示したが、本実施形態においては、回転体15の下面に複数のノズル部材4を互いに近接して配置し、それらの小穴3からナノファイバー7を生成するようにしている。これらの小穴3は、小穴3と直線経路2との間の距離L2よりも小さい距離の範囲内に配置されている。なお、複数の小穴3の配置は、図7(a)、(b)に示すように、周方向に同一位置で径方向に配列しても、図7(c)に示すように、径方向に同一位置で周方向に配列しても、さらに周方向及び径方向に分散配置しても良い。
【0042】
本実施形態によれば、複数の小穴3からナノファイバー7を生成するので、ナノファイバー7の製造量を増加することができ、かつ複数の小穴3が近接して配置されていることで、芯糸1に対して規則的にナノファイバー7を巻き付けることができるという作用効果を損なうことがないので、糸条8の生産性を向上することができる。
【0043】
(第3の実施形態)
次に、本発明のナノファイバー合糸装置の第3の実施形態について、図8、図9を参照して説明する。
【0044】
上記第1の実施形態では、回転体15の下面にノズル部材4及びその小穴3を配置した例を示したが、本実施形態では、図8に示すように、回転体15の外周面にノズル部材4及びその小穴3を配置している。このように小穴3を回転体15の外周に配置しても、図9に示すように、小穴3と電極5を直線経路2の反対側に配置して同期回転させることで、これら小穴3と電極5の回転に伴って小穴3から電極5に向けて流動するナノファイバー7を芯糸1に絡ませて規則的に巻き付けることができて、高強度で均一な糸条8を製造することができる。なお、第2の実施形態で説明したように、回転体15の外周面に複数のノズル部材4を近接させて設けてもよい。
【0045】
(第4の実施形態)
次に、本発明のナノファイバー合糸装置の第4の実施形態について、図10を参照して説明する。
【0046】
上記第1の実施形態では、回転体15の下面にノズル部材4及びその小穴3を配置した例を示したが、本実施形態では、図10に示すように、回転体15の下部外周にテーパ部15aを形成し、このテーパ部15aに斜め下方外側に向けてノズル部材4及びその小穴3を配置している。このように小穴3を配置した構成としても、上記と同様に小穴3と電極5を直線経路2の反対側に配置して同期回転させることで、ナノファイバー7を芯糸1に絡ませて規則的に巻き付けることができて、高強度で均一な糸条8を製造することができる。なお、第2の実施形態で説明したように、回転体15の外周面に複数のノズル部材4を近接させて設けてもよい。
【0047】
(第5の実施形態)
次に、本発明のナノファイバー合糸装置の第5の実施形態について、図11〜図13を参照して説明する。
【0048】
上記第1の実施形態では、回転体15の下面にノズル部材4及びその小穴3を配置した例を示したが、本実施形態では、図11、図12に示すように、大径円筒状の回転体15を適用し、その回転体15の内周面の下部に斜め下方内側に向けてノズル部材4及びその小穴3を配置している。このように小穴3を配置した構成としても、上記と同様に小穴3と電極5を直線経路2の反対側に配置して同期回転させることで、ナノファイバー7を芯糸1に絡ませて規則的に巻き付けることができて、高強度で均一な糸条8を製造することができる。なお、本実施形態の場合には、回転体15の内周側に原料溶液21を流出させるため、回転体15内を加圧可能に構成し、原料溶液21の液面に圧力を作用させて原料溶液21を小穴3から流出させるようにするのが好ましい。
【0049】
また、図12に示したように、回転体15の内周面に単一のノズル部材4及び小穴3を配置した構成に限らず、図13に示すように、回転体15の内周面に複数のノズル部材4及び小穴3を配置した構成とすることもでき、そうするとナノファイバー7の製造量を増加することができ、糸条8の生産性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のナノファイバーの合糸方法と装置によれば、直線経路の周囲を回転する小穴からナノファイバーを生成し、小穴と同期して回転する電極にてそのナノファイバーを直線経路の略反対側で収集し、直線経路を移動する芯糸にナノファイバーを絡ませて糸条を製造することにより、ナノファイバーから成る高強度でかつ形態や力学的物性の均一な糸条を安定して製造することができるので、ナノファイバーから成る高強度で均一な糸条の生産に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるナノファイバー合糸方法の基本構成を示し、(a)は正面図、(b)は平面図。
【図2】同基本構成における他の配置構成を示し、(a)は正面図、(b)は平面図。
【図3】同実施形態に係るナノファイバー合糸装置の概略構成を示す縦断正面図。
【図4】同ナノファイバー合糸装置の概略構成を示す斜視図。
【図5】同ナノファイバー合糸装置の主要構成要素の配置構成を示す斜視図。
【図6】同ナノファイバー合糸装置の制御構成を示すプロック図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るナノファイバー合糸装置を示し、(a)は要部構成を示す斜視図、(b)は回転体の下面図、(c)は他の構成例における回転体の下面図。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るナノファイバー合糸装置の概略構成を示す斜視図。
【図9】同実施形態における主要構成要素の平面配置図。
【図10】本発明の第4の実施形態に係るナノファイバー合糸装置の概略構成を示す斜視図。
【図11】本発明の第5の実施形態に係るナノファイバー合糸装置の概略構成を示す斜視図。
【図12】同ナノファイバー合糸装置における要部構成を示す縦断正面図。
【図13】同ナノファイバー合糸装置における他の要部構成を示す縦断正面図。
【符号の説明】
【0052】
1 芯糸
2 直線経路
3 小穴
4 ノズル部材
5 電極
6 高電圧発生手段
7 ナノファイバー
8 糸条
10 ナノファイバー合糸装置
11 紡糸ヘッド(ナノファイバー生成手段)
12 回転電極部
13 芯糸供給手段
14 回収手段
15 回転体
19 回転手段
21 原料溶液
30 回転駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸を所定の直線経路を通して供給する芯糸供給工程と、直線経路の周囲を回転する少なくとも1つの小穴から原料溶液を流出させるとともに流出する原料溶液に電荷を帯電させ、静電爆発にて延伸させてナノファイバーを生成するナノファイバー生成工程と、接地され又は原料溶液の帯電電荷とは逆極性の電圧を印加された電極を直線経路を挟んで小穴とは略反対側の位置で小穴と同期して回転させ、生成されたナノファイバーを電極にて収集して芯糸に絡ませる合糸工程と、芯糸に絡まったナノファイバーを芯糸とともに回収する回収工程とを有することを特徴とするナノファイバーの合糸方法。
【請求項2】
ナノファイバー生成工程で、小穴と直線経路との間の距離に比して互いに近距離に配置された複数の小穴から原料溶液を流出させてナノファイバーを生成することを特徴とする請求項1記載のナノファイバーの合糸方法。
【請求項3】
合糸工程で、生成されて電極にて収集されて流動するナノファイバーが芯糸を巻き込むように、小穴の原料溶液流出方向と電極の位置を調整設定することを特徴とする請求項1又は2記載のナノファイバーの合糸方法。
【請求項4】
合糸工程で、芯糸を小穴の回転方向と逆方向に回転させることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載のナノファイバーの合糸方法。
【請求項5】
芯糸を所定の直線経路を通して供給する芯糸供給手段と、直線経路の周囲を回転する少なくとも1つの小穴を有し、小穴から原料溶液を流出させるとともに流出する原料溶液に電荷を帯電させるナノファイバー生成手段と、接地され又は原料溶液の帯電電荷とは逆極性の電圧を印加された電極と、電極を直線経路を挟んで小穴とは略反対側の位置で小穴と同期して回転させる電極回転手段と、ナノファイバーが絡まった芯糸を回収する回収手段とを備えたことを特徴とするナノファイバーの合糸装置。
【請求項6】
小穴と電極の間の直線経路の長手方向の距離を、小穴と直線経路との間の距離の1〜10倍に設定したことを特徴とする請求項5記載のナノファイバーの合糸装置。
【請求項7】
ナノファイバー生成手段の小穴は、直線経路の周囲を回転する回転体の電極配置側の側面、若しくは外周面、又は内周面に配置したことを特徴とする請求項5又は6載のナノファイバーの合糸装置。
【請求項8】
ナノファイバー生成手段の小穴は、小穴と直線経路との間の距離に比して互いに近距離に配置された複数の小穴にて構成したことを特徴とする請求項5又は6記載のナノファイバーの合糸装置。
【請求項9】
芯糸を小穴の回転方向と逆方向に回転させる芯糸回転手段を設けたことを特徴とする請求項5〜8の何れか1つに記載のナノファイバーの合糸装置。
【請求項10】
電極と直線経路との間の距離を、50mm以下に設定したことを特徴とする請求項5〜9の何れか1つに記載のナノファイバーの合糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−144290(P2009−144290A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323801(P2007−323801)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】