説明

ナノファイバーの製造方法

【課題】一旦紡糸させた繊維、特に熱溶融せず、また有機溶媒にも溶解しないパラ系アラミドポリマーからなる繊維等にも適用できる、ナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】パラ系アラミド繊維からなる短繊維、織布や不織布などの繊維集合体に、ドライアイス粒または液化炭酸を衝突させ、該繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法である。前記のナノファイバー製造方法により、ナノファイバーを含むナノファイバー繊維集合体が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバーの製造方法に関し、詳細には、一旦紡糸させた繊維からなる繊維集合体の少なくとも一部を、ドライアイスと衝突させることによりナノファイバー化させることが可能な、ナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単繊維直径がナノオーダーである有機繊維よりなるナノファイバーは、ナノ構造による特異な機能発現が期待されることから、近年注目されている。例えば、ナノファイバーは通常の繊維と比較して比表面積が非常に大きいことから、従来の繊維が有するポリマー固有の性質のほかに、優れた吸着特性や接着特性、ナノオーダーでの空孔制御や高度な分子組織化に由来する機能、あるいは優れた生体適合性といった新機能が発現する。そのため、これらの機能を活用することで、従来にない新素材の開発が期待できる。
【0003】
例えば、ナノファイバーは、再生医療用材料、ウェアラブルエレクトロニクスセンサー、バイオ・ケミカルハザード防御フィルター、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用高性能アクチュエーター、人工筋肉、安全防災用材料、対細菌・化学物質用衣料、内装材、電池セパレータ、スポーツ衣料、高性能フィルター、燃料電池用キャパシター、二次電池用電極材料、ハードディスク用研磨布、ワイピングクロス、防音材などへの応用が期待されている。
【0004】
ナノファイバーを製造する方法としては、(A)海島型複合繊維から海成分を除去し、島成分よりなるナノサイズのフィブリルを得る方法、(B)エレクトロスピニング法、または(C)エレクトロブロー法のように電界場中で紡糸することで発生するクーロン力によりナノサイズまで延伸する方法、が知られている。
【0005】
(A)海島型複合繊維からナノファイバーを得る方法として、例えば、海成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した改質ポリエステル、島成分がポリエステルである海島型複合繊維を用いて編地を得た後、苛性ソーダ水溶液で海成分である改質ポリエステルを溶解除去することで、直径が10〜1000nmで繊維長が1mm程度のナノファイバーを得る方法(特許文献1)、あるいは、特許文献1で得られるナノファイバー化した編地を高圧水で噴射処理することにより、ナノファイバーがばらけた状態で存在するナノファイバーを含む編地を得る方法(特許文献2)が開示されている。
【0006】
(B)エレクトロスピニング法によるナノファイバーの製造法は、電界場中での紡糸により生成したナノファイバーをコレクターと呼ばれる装置上に堆積させることで直接ウェブを形成できるという利点があるが、製造速度が遅いという問題点があり、工業的規模の紡糸法としては採用されて来なかった。しかし、最近になって、エレクトロスピニング法は、種々の高分子の溶融物や溶液に適用ができ、径が数ナノメートルの繊維からなるウェブの製造も可能であることが報告されたことから、再び注目を浴び、1998年ごろから日本、米国およびドイツを中心にあらたな技術開発が始まった(「ナノファイバーテクノロジーを用いた高度産業発掘戦略」、宮本達也監修、(株)シーエムシー出版、発行日2004年2月)。
【0007】
エレクトロスピニング法によるウェブの製造は、以下の原理による。すなわち、高分子溶液を極細ノズルから押し出す際に高電圧を印加することで、高分子溶液の表面に電荷が誘発され蓄積される。蓄積された電荷はお互いに反発し合うので、この反発力が溶液の表面張力に打ち克った時点で、荷電した溶液がジェットとして噴射される。噴射されたジェットは、その体積に比べて表面積が大きいので、溶媒が効率良く蒸発する。溶媒の蒸発により溶液の体積が減少することで電荷密度が更に高まり、反発力がより増大し、更に細いジェットへと分裂して行くことで、ナノサイズの単繊維径からなるフィラメントが生成する。このフィラメントを、集合体として、コレクターと呼ばれる捕集装置上に捕集することでウェブが形成される。
【0008】
エレクトロスピニング法によりナノファイバーからなるウェブを製造する方法として、例えば、特許文献3には、揮発性の高い溶媒を用い高分子溶液を加温することで吐出量を増加させ、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンあるいはポリイミドの微細繊維よりなる高分子ウェブを効率よく製造する方法が開示されている。また、特許文献4、特許文献5には、塩化リチウムを添加したN,N−ジメチルホルムアミドを溶媒とするポリメタフェニレンイソフタルアミドの溶液を用いて、単繊維径が30〜500nmのナノファイバーからなる不織布を得る方法が開示されている。
【0009】
(C)エレクトロブローン法では、エレクトロスピニング法と同様、高分子溶液を極細ノズルから押し出す際に高電圧を印加するが、その際に、高分子溶液の押し出しノズルの周囲から圧縮ガスを同時に噴射することにより、ナノファイバーからなるウェブを得る方法が開示されている。特許文献6では、ポリエチレンオキシドの水溶液を用いて空気を噴射する方法により、繊維径が100〜700nmのナノファイバーからなるウェブを得ている。また特許文献7では、ポリアクリロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液またはポリフッ化ビニリデンのアセトン溶液を用いて、窒素またはアルゴンガスを噴射し、平均直径が1000nm未満のナノファイバーよりなるウェブを得ている。
【0010】
しかしながら、上記の方法はいずれもナノファイバー生産用の特殊装置を必要とし、また、対象繊維が熱溶融する繊維、あるいは有機溶媒に溶解する繊維に限られ、多種多様な繊維種のナノファイバーを得ることはできない。例えば、パラ系アラミド繊維のように熱溶融せず有機溶媒にも溶解しない繊維では、ナノオーダーの繊維径を有するナノファイバーを糸から製造する方法は、今のところ知られていない。特許文献8には、製織または製編したパラ系アラミド繊維布帛に、ノズル噴射圧5〜30MPa程度の高圧流体処理を施し、繊維をマイクロフィラメント化したものを、多層積層体に用いることにより、突き刺し抵抗性かつ耐切創性に優れ、ごわごわ感がなく作業性に優れた防護衣料を提供できることが開示されているが、ナノファイバーは得られていない。
【0011】
一方、パラ系アラミドポリマーは熱溶融せず、また、実質的な溶媒は濃硫酸のみであるため、該ポリマーを濃硫酸に溶解した溶液を液晶紡糸することで繊維が製造される。しかしながら、パラ系アラミドポリマーからの微細直径のナノファイバーを製造する方法としては、前記の、海島型複合繊維からのナノファイバーの製造方法では、使用されるポリマーは熱溶融することが必要であるため、熱溶融しないパラ系アラミドポリマーには適用できない。また、エロクトロスピニングあるいはエレクトロブローンによるナノファイバーの製造法では、使用されるポリマーは、揮発性溶媒に溶解することが必要である。しかし、パラ系アラミドポリマーの実質的溶媒である濃硫酸は極めて沸点が高く、しかも分解して亜硫酸ガスを発生するため、安全性や装置上の問題等があり、好ましい方法ではない。
【0012】
また、特許文献9および特許文献10には、アラミドパルプを製造する技術が開示されている。しかし、重合時の剪断力によりゲル状の樹脂を微細化するこれらの方法では、掛けられる剪断力に限界があり、ナノオーダーまで微細化することはできない。また、該方法は、重合工程または紡糸工程と連動して行われる必要があるため、アラミド糸屑などのリサイクル糸には不適であった。
【0013】
一方、繊維あるいは織物等の繊維集合体の表面加工方法として、微細粒子を吹付ける方法が開示されている(特許文献11、12)。これらの文献には、微細な金属粉やセラミック粉、ドライアイス粒を含む圧送気体を、繊維や布の表面に吹付ける加工法が開示されている。この方法は、表面を荒らすことで布地を柔らかくする、表面を毛羽立たせる、あるいは逆に表面の毛羽を取り除くといった表面加工が目的であり、繊維を分裂させて細くすることを狙ったものではない。
【0014】
非特許文献1のフィブリル[fibril]の項には、以下の記載がある。“繊維(ガラス繊維や金属繊維などを除く)の直径方向に衝撃力を加えると、繊維の長さ方向に平行に亀裂が生じる。繊維に亀裂が発生して、より細かな繊維に分裂する現象をフィブリル化といい、分裂した繊維をフィブリル(小繊維)という。フィブリルは、各繊維材料に固有のもっとも細い繊維であるミクロフィブリルが集合して形成されると考えられている。液晶ポリマーからなる高強度繊維は、フィブリル化しやすい。”しかし、非特許文献1は、繊維がフィブリル化することを開示してはいるが、生成したフィブリルの繊維径などに関する記載はなく、ナノファイバーを製造する具体的な技術を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−107160号公報
【特許文献2】特開2007−291567号公報
【特許文献3】特開2002−249966号公報
【特許文献4】特開2008−013872号公報
【特許文献5】特開2008−013873号公報
【特許文献6】特表2008−525669号公報
【特許文献7】特表2008−519169号公報
【特許文献8】特開2007−321262号公報
【特許文献9】米国特許第4,511,623号明細書
【特許文献10】米国特許第4,876,040号明細書
【特許文献11】特開2000−054255号公報
【特許文献12】特開平10−219525号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】平成14(2002)年3月25日発行、「繊維の百科事典」(丸善発行、宮田清蔵編集委員長)、フィブリル[fibril]の項目
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、一旦紡糸させた繊維、特に熱溶融せず、また有機溶媒にも溶解しないパラ系アラミドポリマーからなる繊維等にも適用できる、ナノファイバーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、高配向した繊維集合体にドライアイス粒を衝突させることにより、ポリマーを熱溶融することなく、また溶媒を用いることなく、繊維がフィブリル化し、ナノファイバーが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)繊維集合体にドライアイス粒または液化炭酸を衝突させ、該繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法。
(2)ドライアイス粒の大きさが2mm以下である、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(3)ドライアイス粒を、加圧された気体でノズルから噴射して衝突させる、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(4)ドライアイス粒を噴射する際の、ノズルの噴射孔と繊維集合体との距離が、10mm〜150mmである、上記(3)に記載のナノファイバーの製造方法。
(5)繊維集合体が、短繊維の集合体である、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(6)繊維集合体を構成する繊維が、高配向繊維である、上記(1)に記載のナノファイバーの製造方法。
(7)高配向繊維が、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、メタ系アラミド繊維またはポリビニルアルコール系繊維である、上記(6)に記載のナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリマーを熱溶融することなく、また溶媒を用いることなく、ナノファイバー化していない繊維集合体からナノファイバーを得ることができる。織布や不織布などから得られるナノファイバーは、繊維径が非常に細く、かつ、製造されるナノファイバー繊維集合体は加工性に優れている。そのため、本発明で得られるナノファイバー繊維集合体を用いることにより、ナノレベルで異物を濾過できる不織布や、ウイルスなど微細な異物を除去でき通気性に優れる手術用手袋等の繊維製品を得ることができる。
【0021】
また、本発明の方法は、紡糸後の繊維を原料とする方法であり、アラミド糸屑などのリサイクル糸にも適用できるため、実用的価値が非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の織布から製造したナノファイバー繊維集合体のSEM写真である。
【図2】実施例1で用いた織布のナノファイバー化処理前のSEM写真である。
【図3】比較例1のサンドブラスト法処理後の繊維集合体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のナノファイバーの製造方法において、「繊維集合体」とは、繊維が集合したものを言い、織布(織物)、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物、フィラメント糸、あるいは短繊維の集合体が挙げられる。ここで、「短繊維の集合体」とは、フィラメント糸のカットファイバー、ステープル、パルプなどフィラメント糸ではない繊維状物質を言う。使用する短繊維は、使用済みの製品からリサイクルしたものでもよい。繊維集合体としては、前記のフィラメント糸および/または短繊維を用いて製造した、織布(織物)、不織布、撚糸、コード、撚糸、撚紐、編物などが用いられる。これらの繊維集合体のうち、フィブリル化が容易である点からは、短繊維の集合体、織布、不織布、コード、撚糸または撚紐が好ましい。
【0024】
また、本発明で言う「ナノファイバー繊維集合体」とは、上記の繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部がフィブリル化し、フィブリルの直径が1000nm未満のナノファイバーとなっている繊維集合体を言う。
一方、厚み方向すべてがナノファイバーであると、防護衣料等に使用した場合、十分な強度が発揮できない場合が生じる。ナノファイバー層の厚みは使用目的により任意に調整が可能である。
【0025】
本発明のナノファイバーの製造方法では、繊維を用いて公知の方法により製造された、織布、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物、フィラメント糸、または、短繊維の集合体などを原料として用いる。織布の織成方法(織り方)としては、例えば、平織、綾織、からみ織、朱子織、三軸織、横縞織、斜文織などが挙げられるが、特に限定されるものではない。不織布としては、例えば、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布などが挙げられるが、特に限定されるものではない。編物の編成方法(編み方)も特に限定されるものではない。これらの織布や編物などを形成する繊維は、フィラメント糸、スパン糸、紡績糸のいずれでもよい。
【0026】
次いで、上記の繊維集合体に対し、ドライアイス粒あるいは液化炭酸を衝突させて繊維に衝撃力を与え、繊維を長さ方向にフィブリル化させて、ナノファイバーを製造する。繊維集合体として、織布、不織布、コード、撚糸、撚紐、編物などの繊維製品およびフィラメント糸を用いた場合は、繊維集合体の少なくとも一部がナノファイバー化されたナノファイバー繊維集合体となる。また、繊維集合体として、短繊維の集合体を用いた場合は、繊維製品やフィラメント糸を用いた場合よりもナノファイバー繊維集合体に占めるナノファイバーの比率が増加する。
【0027】
ドライアイス粒を衝突させる方法としては、繊維集合体に対して、ノズルから空気、窒素などの加圧された気体でドライアイス粒を噴射し、繊維をフィブリル化させる方法、または、タンブラー装置などを用いて、繊維集合体とドライアイス粒を衝突させて繊維をフィブリル化させる方法などが挙げられる。また、より簡便な方法として、ドライアイス粒と短繊維あるいはその集合体とを攪拌機付きのタンク内で混合撹拌する方法や、密閉容器の中にドライアイス粒と短繊維あるいはその集合体とを入れ、振とう機で振とうさせる方法も有効である。液化炭酸を衝突させる方法としては、液化炭酸をスプレーにより霧状にし、空気中の水分を核にドライアイスを形成する直接ドライアイス製造スプレー法などがある。
【0028】
ドライアイス粒の大きさは、2mm以下であるのが好ましく、より好ましくは1mm以下である。ドライアイス粒が細かいほど、ナノフィブリル化の効率が高くなるので好ましいが、粒径の下限は、噴射圧力損失および現状でのドラアイス製造技術から限界がある。ドライアイス粒が大きすぎるとアスペクト比が小さくなる傾向がある。
【0029】
加圧された気体でドライアイス粒をノズルから噴射して衝突させる場合は、ドライアイス粒を噴射する際の、ノズルの噴射孔と繊維集合体との距離が、10mm〜150mmであることが好ましい。噴射孔と繊維集合体との距離が近すぎると、ドライアイス衝突時の衝撃が強くなりすぎ、繊維軸方向での切断が生じる結果、アスペクト比が小さくなり、遠すぎるとドライアイスの衝突時の衝撃が小さくなりすぎるためナノファイバーが形成されにくくなる。噴射は、公知の装置および方法に従えばよい。加圧気体は空気が一般的であり、この際の空気圧は、ゲージ圧で0.01〜1MPa程度が好ましい。また、ドライアイス粒の衝突操作を繰り返し行う方法は、比較的弱い衝撃力でも均一にナノフィブリル化処理ができるので好ましい方法である。
【0030】
本発明で用いる繊維としては、パラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(登録商標)」、テイジン・アラミド社製「トワロン」);コポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製「テクノーラ(登録商標)」)等)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績社製「ザイロン」等)、セルロース系繊維(レンチング社製「リヨセル」等)などの非熱可塑性繊維、全芳香族ポリエステル繊維(クラレ社製「ベクトラン」等)、ポリケトン繊維(旭化成社製「サイバロン」等)、超高分子量ポリエチレン繊維(東洋紡績社製「ダイニーマ」、ハネゥエル社製「スペクトラ」等)、メタ系アラミド繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」、帝人テクノプロダクツ社製「コーネックス」))、ポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製「クラロン」)などが挙げられ、これらの繊維は高配向繊維であるため好ましい繊維である。前記のポリケトン繊維としては、繰り返し単位の95質量%以上が1−オキソトリメチレンにより構成されるポリケトン(PK)繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維などでもよい。これらの繊維を用いて繊維集合体を作製する場合は、これらの繊維を2種以上併用することもできる。
【0031】
上記の繊維の中でも、耐切創性及び耐熱耐アルカリ性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく、パラ系アラミド繊維の中でもフィブリル化しやすいポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が、特に好ましい。
【0032】
ナノファイバー化処理する前の繊維集合体を構成する繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、0.1〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは0.2〜10dtex、特に好ましくは0.4〜5dtexである。0.1dtex未満もしくは10dtexを超える場合は、製糸効率が低いため経済性に劣る。
【0033】
繊維は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定される引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維であることが好ましく、より好ましくは15cN/dtex以上である。なお、繊維が高強度であるほど配向度が高くなる傾向があるため、ナノファイバーを製造し易くなる。また、上記の繊維は、高強度かつ高弾性率の繊維であることがより好ましく、該弾性率は、JIS L 1013(1999)に基づいて測定される引張弾性率が400cN/dtex程度以上であることが望ましい。
【0034】
本発明で製造されるナノファイバーは、高配向繊維集合体にドライアイスの昇華圧力(衝撃力)が加えられることで、高配向した繊維がその長さ方向にフィブリル化して形成されるので、エレクトロスピニング法では得られ難い、高配向のナノファイバーとなる。
【0035】
繊維集合体としてフィラメント糸を用いた場合は、短繊維の集合体を用いた場合に比べて、繊維長の長いナノファイバーが形成される傾向はあるが、衝撃力によって繊維が長さ方向にフィブリル化すると同時に切断され易くなるため、10cmを超える繊維長のナノファイバーを得ることは困難である。一般的に、不織布として利用できる繊維の繊維長が0.1mm以上であることを考慮すると、高配向繊維のカットファイバーや、短繊維の集合体を原料に用いても、不織布を形成するのに十分な長さのナノファイバーが得られる。
【0036】
また、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として織布、不織布はナノファイバー化処理により直接繊維構造体が作成できるので好ましい形態である。防護衣料等の強度が必要な用途には織布が好ましく、フィルター等には不織布が好ましい場合がある。また、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として、コードはナノファイバーを表面層に有する繊維集合体またはナノファイバーで起毛された繊維構造体が作成できるので、タイヤまたはゴム補強用途に好ましい。更に、ナノファイバー化処理する前の繊維集合体として撚糸はナノファイバーを連続不離一体構造を有する繊維集合体が作成でき、これを加工して織布または不織布の形態に利用できるので、熱可塑性樹脂含浸されたFRP用途に好ましい場合がある。
【0037】
本発明において、ドライアイス粒を繊維集合体に衝突させることで、繊維集合体を構成する繊維がフィブリル化する作用は、ジルコニウムなどの無機粒子による衝撃力とは異なる作用によりもたらされる。本発明で用いるドライアイス粒の硬度は2.0mohs(モース硬度)であり、ジルコニウムなどの無機粒子に比べて硬度が低く、遙に対象物を傷つけない粒子である。したがって、ドライアイスの働きは、繊維集合体と衝突する時の衝撃力によりもたらされるものではなく、寧ろ、繊維集合体と衝突して昇華することで、固体状態の880倍まで体積が膨張することにより、気化した二酸化炭素ガスが繊維間隙あるいはさらに分子間に入り込んでゆくことで、繊維軸に対して垂直方向の力が掛かり、その結果、繊維が長さ方向に分裂してフィブリル化するものと推定される。
【0038】
パラ系アラミド繊維などの高配向繊維から形成される繊維集合体においては、繊維軸方向にアラミド分子鎖が強く配向しており、繊維軸に垂直な方向は分子間力や水素結合等の弱い結合力で結合していると推定される。そのため、上記のドライアイスの作用により、繊維の長さ方向の分裂が、より繊維の内部まで進行し、ナノオーダーのレベルまでフィブリル化するものと考えられる。
【0039】
本発明の製造方法によれば、フィブリルの直径(平均繊維径)が20nm以上、1000nm未満のナノファイバーが得られ、その平均繊維長は0.1mm以上、10cm以下である。ナノファイバーは、繊維集合体の少なくとも一部に形成されているので、本発明の製造方法によれば、ナノファイバー繊維集合体が製造される。得られるフィブリルの平均繊維径が20nm以上であるため、取扱い操作性および製造効率がよい。一般に、ウイルスの大きさは20〜970nm、細菌の大きさは1〜5μmであるので、20nm以上あれば通気性と衛生性を両立できる。一方、フィブリルの平均繊維径が1000nm以上になると、不織布にした場合、ナノレベルの濾過が難しくなりウイルスなど微細な異物を除去できなくなる恐れがある。
【0040】
このようにして得られたナノファイバー繊維集合体は、繊維径が非常に細いナノファイバーを少なくとも一部に含んでいるため、ナノレベルで微細な異物を除去でき、通気性に優れている。さらに、高強度高弾性繊維を用いたナノファイバー繊維集合体は高強度であり、特に、非熱可塑性の高強度高弾性繊維は強度、弾性率および耐熱性に優れているため、得られるナノファイバー繊維集合体は高強度、高弾性率、高耐熱性である。
【0041】
なお、上記の方法で製造されたナノファイバー繊維集合体には、さらに、常法の染色加工、撥水加工、親水加工等の各種機能を付与する後処理加工を施してもよい。
【0042】
本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、これらの機能を活用して、バイオ・ケミカルハザード防御フィルターや超高精密濾過材等の高性能フィルター、対細菌・化学物質用衣料や防風性・防水性に優れたスポーツ衣料等の衣料材料、ワイピングクロス、ハードディスク研磨布、医療用創傷包帯や組織培養支持体、人工筋肉等の再生医療用材料、燃料電池・二次電池のセパレータや電解質膜、センサー等のウェアラブルエレクトロニクス材料、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用材料、高性能アクチュエーター、安全防災用材料、内装材、防音材等の繊維製品として好適に用いることができる。
【0043】
本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、フィルム添加剤、有機・無機ガラス、樹脂や塗料の充填材としても好適に用いることができる。繊維径が小さいため、透明度を損なわない充填材となりうる。
【0044】
また、本発明の製造方法で得られるナノファイバー繊維集合体は、短繊維の集合体、織布、不織布、撚紐などを原料として製造されうるが、不織布を用いて製造されたナノファイバー繊維集合体(以下、「ナノファイバー繊維不織布」という)は、上記のナノフィブリル化処理によって繊維の交絡状態が乱されている。したがって、このようなナノファイバー繊維不織布を、公知の不織布製造方法で再度処理することもできる。
【実施例】
【0045】
以下に、好ましい実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[測定方法]
(1)平均繊維径
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて30〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、無作為に選出した10箇所のフィブリル化した繊維の直径を実測し、平均値(d)を算出した。
【0047】
(2)平均繊維長
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて30〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、表層に位置するフィブリル化した繊維の長さを実測し、平均値(L)を算出した。
【0048】
(3)ポリマーの固有粘度(I.V.)
I.V.(dl/g)=ln(ηrel )/c
(式中、cはポリマー溶液の濃度(溶媒100mL中0.5gのポリマー)であり、ηrel (相対粘度)は、毛細管粘度計を用いて30℃で測定した時にポリマー溶液が示す流れ時間とその溶媒が示す流れ時間との間の比率である。)
溶媒としては、濃硫酸(96%HSO)を用いて測定した。
【0049】
(4)ドライアイス粒の大きさ
高分解能ビデオカメラ撮影により、噴射するドライアイス粒の大きさを計測した。
【0050】
(実施例1)
総繊度が1110dtex、単繊維繊度1.7dtex、フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用い、平織織布を作製した。「ケブラー」は、引張強度20.3cN/dtex、引張弾性率490cN/dtexのものを用いた。この平織織布(目付278g/m)に、ドライアイスブラスト機DSC−1(協同インターナショナル社製)を用いて、粒径1.0μmのドライアイス粒を、空気圧0.6MPaで、1分間吹き付けた。
【0051】
吹き付け処理後の織布(ナノファイバー繊維集合体)表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図1に示した。
【0052】
比較のために、ドライアイス吹き付け処理前の織布表面のSEM写真を、図2に示した。
【0053】
図1および図2からわかるとおり、本発明の製造方法によれば、繊維が非常に細かくフィブリル化しており、ナノフィブリル化したナノファイバー集合体を得ることができた。得られたナノファイバー集合体は、通気性にも優れるものであった。
【0054】
(実施例2)
ドライアイス粒の粒径を0.3μm、空気圧を0.4MPaとした以外は、実施例1と同様に処理を行った。
【0055】
(実施例3)
カット長51mm、繊度1.7dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))ステープルを、ローラーカードを通してウェブに形成し、クロスレーヤで積層してウェブとし、このウェブを100本/cmの密度でニードルパンチを施して目付280g/mの不織布を作製した。この不織布を用いた以外は、実施例2と同様に処理を行った。
【0056】
(実施例4)
総繊度1670dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標))を10cmで35回転撚ったフィラメント2本組からなる撚紐を用いた以外は、実施例2と同様に処理を行った。
【0057】
(比較例1)
実施例1で作製した平織織布の表面を、ジルコニウム粒子(株式会社不二製作所製)で1分間サンドブラスト処理した。処理後の織布表面のSEM写真を、図3に示した。
【0058】
ドライアイス粒の硬度は2.0mohs(モース硬度)であり、ジルコニウム等の硬く重量のある無機粒子に比べて、遥かに対象物を傷つけない粒子である。ジルコニウム粒子の方が、対象物に与える衝撃性は高いが、図1と図3を比較すると明らかなように、ドライアイス粒の方がナノファイバー化に優れていることがわかる。本発明の製造方法によれば、ジルコニウム粒子によるサンドブラスト処理に比べて、繊維が非常に細かくフィブリル化したナノファイバー繊維集合体を得ることができた。
【0059】
上記の実施例1〜4で製造したナノファイバー繊維集合体における、フィブリル化した繊維の性状を表1にまとめて示した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から、ナノファイバーの平均繊維径が約200〜800nmで、平均繊維長が1〜2mm程度の新規なパラ系アラミドナノファイバーが得られていることがわかる。また、得られたナノファイバーの固有粘度(すなわち、ナノファイバー処理後のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度)は表1に示すように5.5であった。ナノファイバー化処理前のポリパラフェニレンテレフタルアミドの固有粘度が5.6であることから、ナノファイバー化処理による固有粘度低下率は2%であり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドは劣化していないことがわかる。
【0062】
また、表1の結果から、繊維集合体にドライアイス粒を吹き付ける際の空気圧、またはドライアイス粒の粒径を制御することにより、各種繊維形態からなるナノファイバー繊維集合体が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により製造されるナノファイバー繊維集合体は、不織布あるいは織布などの形態で、バイオ・ケミカルハザード防御フィルター等の高性能フィルター、複合材料、耐熱絶縁材料、軽量車両用材料、安全防災用材料、対細菌・化学物質用衣料、内装材、電池セパレータ、スポーツ衣料、高効率燃料電池用、二次電池用電極材料超高性能キャパシター、ハードディスク用研磨布、ワイピングクロス、防音材など各種繊維製品に幅広く利用できる。特に、消防隊員、警察官、医者、プラントエンジニア等が着用する防護服に好ましく利用できる。
【0064】
本発明により製造されるナノファイバー繊維集合体は、フィルム、樹脂、ガラス、塗料などの添加材として幅広く利用できる。特に、フィルム、樹脂、ガラスの強化材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体にドライアイス粒または液化炭酸を衝突させ、該繊維集合体を構成する繊維の少なくとも一部をナノファイバー化させることを特徴とする、ナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
ドライアイス粒の大きさが2mm以下である、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
ドライアイス粒を、加圧された気体でノズルから噴射して衝突させる、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
ドライアイス粒を噴射する際の、ノズルの噴射孔と繊維集合体との距離が、10mm〜150mmである、請求項3に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
繊維集合体が、短繊維の集合体である、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
繊維集合体を構成する繊維が、高配向繊維である、請求項1に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
高配向繊維が、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、メタ系アラミド繊維またはポリビニルアルコール系繊維である、請求項6に記載のナノファイバーの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−216023(P2010−216023A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61855(P2009−61855)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】