説明

ナノファイバーの製造装置

【課題】均一で品質の安定したナノファイバーを生産性良くかつ安定して製造することができるナノファイバーの製造装置を提供する。
【解決手段】複数の小穴3を有する導電性の円筒容器1と、円筒容器1を回転駆動する回転駆動手段14と、円筒容器1に電荷を帯電させる高電圧発生手段と、円筒容器1内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液2を供給する高分子溶液供給手段とを備え、円筒容器1を所定速度で回転させながら、円筒容器1内に高分子溶液2を供給し、円筒容器1に高電圧を印加することで、小穴3から遠心力で流出した高分子溶液2に静電爆発を生じさせてナノファイバーを製造する装置において、円筒容器1内の小穴3の内側に高分子溶液2に対して毛管現象を発揮する多孔性部材4を配置し、小穴3からの高分子溶液2の垂れと固化した高分子材料が小穴3の周縁に付着するのを防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質から成るナノファイバーの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子物質から成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、エレクトロスピニング(電荷誘導紡糸)法が知られている。従来のエレクトロスピニング法では、高電圧を印加した針状のノズルに高分子溶液を供給することで、この針状のノズルから線状に流出する高分子溶液に電荷が帯電され、高分子溶液の溶媒蒸発に伴って帯電電荷間の距離が小さくなって作用するクーロン力が大きくなり、そのクーロン力が線状の高分子溶液の表面張力より勝った時点で線状の高分子溶液が爆発的に延伸される現象が生じ、この静電爆発と称する現象が、一次、二次、場合によっては三次と繰り返されることで、サブミクロンの直径の高分子から成るナノファイバーが製造されるものである。
【0003】
また、こうして製造されたナノファイバーを電気的に接地された基板上に堆積させることで、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができ、さらに厚く形成することでサブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブはフィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができるとともに、このナノファイバーから成る高多孔性ウェブを適用することによってそれぞれの性能を飛躍的に向上させることが期待できる。
【0004】
ところが、従来のエレクトロスピニング法では、1本のノズルの先から1本のナノファイバーしか製造されないので、高多孔性の高分子ウェブを生産しようとしても、生産性が上がらないため、実現できないという問題があった。そこで、ナノファイバーを多量に生成して高分子ウェブを製造する方法として、複数のノズルを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1に記載された高分子ウェブ製造装置の構成を、図5を参照して説明すると、複数のノズル41を有する紡糸部42にバレル43内の液状高分子物質をポンプ44にて送給し、高電圧発生部45からノズル41に5〜50kVの高電圧を印加し、接地又はノズル41と異なる極性に帯電させたコレクタ46上にノズル41から排出されたファイバーを堆積させてウェブを形成するとともに、形成されたウェブをコレクタ46にて移送して高分子ウェブを製造するように構成されている。また、ノズル41の先端近傍に電荷分配板47を配設してノズル41間の電気的干渉を最小化させるとともに、コレクタ46との間に高電圧を印加し、帯電したファイバーをコレクタ46に向けて付勢する電界を付与することも記載されている。
【0006】
さらに図6(a)、(b)に示すように、紡糸部42に、単一のノズルを複数設けるのではなく、複数本のノズル41からなるマルチノズル41Aを複数設けて構成し、各マルチノズル41Aからそれぞれ複数本のナノファイバーを生成させるようにすることも開示されている。
【0007】
ところが、図5や図6に示された構成で、一層生産性よく高分子ウェブを製造するため、紡糸部42におけるノズル41及び各マルチノズル41Aにおけるノズル41の配置間隔を小さくし、単位面積当たりのノズル本数を多くしようとすると、図7に示すように、各ノズル41から流出した高分子物質が同極の電荷を帯電しているため、矢印Fで示すように互いに反発し合い、中央部のノズル41からの流出が阻害されるとともに、周辺部のノズル41からの流出方向が外側に向き、コレクタ46上でのナノファイバーの堆積分布が中央部で極端に少なく、周辺部に集中してしまい、均一な高分子ウェブを製造することができないという問題がある。
【0008】
また、ノズル41の先端近傍に電荷分配板47を配設した場合、図8に示すように、ノズル41間の電気的干渉を低減させるとともに、電荷分配板47からコレクタ46に向かう電界Eが形成されることで、各ノズル41から流出した高分子物質をコレクタ46に向けて加速させる作用が得られることで、図7の場合に比して、中央部と周辺部とのナノファイバーの堆積分布の均一化をある程度図ることができる一方で、ノズル41の配置パターンがそのまま堆積分布に投影されるようになり、堆積分布の均一化に十分な効果を発揮するものではないという問題がある。
【0009】
また、ノズル41の配置密度を高くした場合、溶媒が十分に蒸発しない状態でファイバー同士が接触して互いに溶着してしまう恐れがあり、またノズル近傍の空間で蒸発した溶媒濃度が高くなって絶縁性が低下し、コロナ放電が発生してファイバーが形成されない恐れがあるという問題がある。
【0010】
また、多数のノズル41を配設した場合に、各ノズル41に対して均等に液状高分子物質を供給するのが困難であり、そのため装置構成が複雑になって設備コストが高くなるという問題がある。また、ノズル41から流出した液状高分子物質に静電爆発を起させるためには電荷を集中させる必要があり、そのため各ノズル41は細くて長い形状に形成されているが、多数の細くて長いノズル41を常に適正な状態に維持するためのメンテナンスも極めて困難であるという問題がある。
【0011】
そこで、本出願人は、先に図9に示すような構成のナノファイバーの製造装置を提案している(特願2006−185833号参照)。図9において、円筒状の回転容器51には、高電圧発生手段53にて、1〜100kVの高電圧が印加され、内部に収容された高分子溶液52に電荷を帯電させるように構成されている。回転容器51の周面には、直径が0.1〜2mm程度の小穴54が数mmピッチ間隔で多数形成され、かつ回転容器51を高速で回転駆動するように構成されている。
【0012】
具体構成としては、回転容器51の軸芯部を貫通させた中心軸体59の両端部を回転容器51の両側に立設された支持部材58に固定し、回転容器51を軸受60を介して中心軸体59の回りに回転自在に支持し、かつ駆動モータ61、駆動プーリ62、従動プーリ63及びベルト64からなる回転駆動手段65にて回転容器51を回転駆動するように構成されている。支持部材58、58間には、回転容器51の下部に適当距離あけて対向するように電気的に接地されたコレクタ66が配設され、このコレクタ66と回転容器51との間に高電圧発生手段53が介装され、回転容器51に高電圧を印加するとともに、回転容器51とコレクタ66間に大きな電位差を付与し、帯電したナノファイバーがコレクタ66に向けて移動してその上に堆積するように構成されている。また、中心軸体59は一端が閉鎖された中空軸からなり、その中空部が高分子溶液52の供給通路67を構成しており、その下部に軸芯方向に適当間隔置きに配置形成された材料供給口68から回転容器51内にほぼ均等に所定量の高分子溶液52を供給するように構成されている。
【0013】
このような構成のナノファイバーの製造装置によれば、回転容器51を高速で回転させると、高分子溶液52に遠心力が作用して各小穴54から高分子溶液52が線状に流出するとともに、その線状の高分子溶液52が遠心力の作用で延伸されて細い高分子線状体が生成される。この高分子線状体がさらに遠心力の作用で大きく延伸されるとともにその溶媒が蒸発することで、高分子線状体の径が細くなり、その結果帯電されていた電荷が集中し、そのクーロン力が高分子溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーが効率的に製造される。
【0014】
また、回転容器51には小穴54を高密度に多数配設することができるので、多量のナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて効率的に製造することができ、また小穴54から流出した高分子溶液52をまず遠心力で延伸させるので、小穴54を極端に小さくする必要がなく、かつ上記のように電荷を集中させるために長く形成する必要もないので、回転容器51に小穴54を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴54を設けていてもメンテナンスを簡単に行うことができる。
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、図9に示したナノファイバーの製造装置の構成では、回転容器51に形成した小穴54の径が、高分子溶液52の粘度に鑑みて相対的に小さい場合には、図10(a)に示すように、高分子溶液52の小穴54の周縁での流出が滞り、滞った高分子溶液52の溶媒が蒸発して小穴54の周縁に固化した高分子材料70が付着し、ナノファイバーの製造工程中に徐々に小穴54が塞がって行き、均一なナノファイバーを安定して製造することができなくなるという問題があることが判明した。また、逆に、小穴54の径が高分子溶液52の粘度に鑑みて相対的に大きい場合には、図10(b)に示すように、高分子溶液52が小穴54から垂れてしまい、ナノファイバーにならなかった高分子の塊がコレクタ66上に堆積してしまう恐れがあるという問題があった。
【0016】
具体例を示すと、回転容器51の直径が100mm、回転速度が3000rpm、高分子溶液52の高分子材料がPVA(ポリビニルアルコール)、溶媒が水で、PVAの濃度が5%の場合、小穴54の径dを0.3mmにしたときには、図10(a)に示すように、高分子溶液52が垂れることはないが、小穴54が徐々に塞がってしまい、小穴54の径dを0.5mmとしたときには、図10(b)に示すように、高分子溶液52が小穴54から垂れてしまい、ナノファイバーを形成できないという問題が生じた。
【0017】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、均一で品質の安定したナノファイバーを生産性良くかつ安定して製造することができるナノファイバーの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のナノファイバーの製造装置は、回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器に電荷を帯電させる高電圧発生手段と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の小穴の内側に配置された多孔性部材とを備え、回転容器を所定速度で回転させながら、回転容器内に高分子溶液を供給し、回転容器に高電圧を印加するようにしたものである。
【0019】
この構成によれば、回転容器内で電荷を帯電された高分子溶液が複数の小穴から線状に流出して遠心力の作用で延伸されるので細長いノズルは不要であり、また電界干渉に左右されないために小穴を高密度に配設しても確実かつ効果的に延伸され、その後延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発し電荷が集中することで一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、複数の小穴から流出した線状の高分子溶液からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーを効率的に製造することができる。また、小穴を高密度に配設することができるので、多量のナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて効率的に製造することができ、また小穴から流出した高分子溶液をまず遠心力で延伸させるので、小穴を極端に小さくする必要がなく、かつ回転容器に小穴を設けるだけで良いので、回転容器を容易かつ安価に製作できるとともに、多数の小穴を設けていてもメンテナンスを簡単に行うことができる。さらに多孔性部材を配置しているので、この多孔性部材が供給された高分子溶液に対して毛管現象を発揮することで、小穴の径を大きく設定しても高分子溶液が多孔性部材に適切に保持されて垂れる恐れがなく、かつ多孔性部材は回転容器内でその全体が常に高分子溶液に浸漬している状態となっているので、高分子溶液の溶媒が蒸発して多孔性部材や小穴の周縁に固化した高分子材料が付着する恐れもなく、回転容器の全ての小穴から均一で品質の安定したナノファイバーを長期にわたって安定して製造することができ、簡単な構成にて品質の良いナノファイバーを生産性良くかつ安定して製造することができる。
【0020】
また、回転容器を、周面に複数の小穴を有する円筒容器にて構成すると、円筒容器の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができるとともに、形状・構成が簡単であるため設備コストの低廉化を図ることができる。
【0021】
また、円筒容器の内周に接して筒状の多孔性部材を嵌合配置し、円筒容器の少なくとも一方の端に着脱可能な蓋体を配置すると、多孔性部材に目詰まりが発生したとき、又はその前に、円筒容器の蓋体を取り外すことで多孔性部材を容易に交換することができ、簡単なメンテナンス作業によって均一で品質の安定したナノファイバーを安定して製造することができる。
【0022】
また、高分子溶液供給手段が貫通する回転自在な支持リングに円筒容器の一端を着脱可能に嵌合させ、円筒容器の他端に回転駆動手段にて回転駆動される回転部材を離間可能に押圧させると、回転部材を円筒容器の他端から離間させることで、円筒容器を簡単に取り外すことができ、円筒容器自体又は円筒容器内の筒状の多孔性部材の交換を容易にかつ短時間で行うことができ、メンテナンス作業が一層簡単になる。
【0023】
また、多孔性部材は、連続気泡を有する発泡合成樹脂などで構成してもよいが、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、金属、炭素繊維、パルプ繊維から選ばれた1種又は複数種の繊維又は線材にて構成されていると、高分子溶液に対して適切な毛管現象を発揮する多孔度と各種溶媒に対する化学的耐久性と機械的耐久性を有するものを容易に選択できるので好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のナノファイバーの製造装置によれば、回転容器内で電荷を帯電された高分子溶液が複数の小穴から線状に流出されて遠心力で延伸され、その後延伸されるとともに溶媒が蒸発することで径が細くなって電荷が集中し、数次にわたって静電爆発により爆発的に延伸されることで、サブミクロンの直径を有するナノファイバーを効率的に製造することができ、さらに小穴の内側に多孔性部材を配置しているので、小穴の径を大きく設定しても高分子溶液が毛管現象にて多孔性部材に適切に保持されて垂れる恐れはなく、かつ多孔性部材は回転容器内でその全体が常に高分子溶液に浸漬している状態となっているので、高分子溶液の溶媒が蒸発して多孔性部材や小穴の周縁に固化した高分子材料が付着する恐れもなく、回転容器の全ての小穴から均一で品質の安定したナノファイバーを長期にわたって安定して製造することができ、簡単な構成にて品質の良いナノファイバーを生産性良くかつ安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のナノファイバーの製造装置の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0026】
図1、図2において、1は回転容器としての、直径が50〜400mmの円筒容器で、その軸芯回りに30〜3000rpmの回転速度で回転駆動される。回転容器1内には、その一端からナノファイバーの材料である高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液2が供給される。円筒容器1には、高電圧発生手段(図示せず)にて1kV〜100kV、好適には10kV〜100kVの高電圧が印加され、内部に収容された高分子溶液2に電荷を帯電させるように構成されている。
【0027】
高分子溶液2を構成する高分子物質としては、ポリフッ化ビニリデン(FVDF)、ポリフッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール(PVA)等の石油系ポリマーや、バイオポリマーなどの様々な高分子、それらの共重合体や混合物などが適用可能であり、溶媒はこれら高分子物質を溶解する任意の溶媒を適用できる。
【0028】
円筒容器1の周面には、図3(a)、(b)に示すように、直径が0.1〜2mm程度の小穴3が数mmピッチ間隔で多数形成され、かつこの円筒容器1の内周面に接して、高分子溶液2に対して毛管現象を発揮する円筒状の多孔性部材4が配置されている。多孔性部材4としては、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、金属、炭素繊維、パルプ繊維から選ばれた1種又は複数種の繊維又は線材にて構成したものが、高分子溶液2に対して適切な毛管現象を発揮する多孔度と各種溶媒に対する化学的耐久性と機械的耐久性を有するものを容易に選択できるので好適である。
【0029】
次に、円筒容器1の支持・回転駆動機構の具体構成を説明する。5は、円筒容器1の支持フレームで、円筒容器1の軸芯方向両側に支持部材5a、5bが立設されている。円筒容器1の一側の支持部材5aには、高分子溶液供給手段としても機能する中空支軸6が固定されている。中空支軸6はその先端部が円筒容器1内に挿入され、その中空部が高分子溶液2の供給通路7を構成している。中空支軸6の外周には軸受9を介して支持リング8が回転自在に配設されている。支持リング8の円筒容器1側の端部には嵌合筒部8aが突設され、円筒容器1の一端が嵌合して同一軸心状態で支持されている。
【0030】
円筒容器1の他側の支持部材5bには、円筒容器1と同一軸心状態に配置された円柱状の回転体10が軸受11を介して回転自在に支持されている。回転体10の円筒容器1側の端部には、回転体10と一体回転するとともに円筒容器1の軸心方向に出退可能な回転部材12が設けられ、かつこの回転部材12を矢印で示すように円筒容器1に向けて突出付勢する付勢手段13が設けられている。回転体10は、支持部材5bの外側面に取付けられた駆動モータ15と、その出力軸に固定された駆動プーリ16と、回転体10の外周に固定された従動プーリ17と、これら駆動プーリ16と従動プーリ17間に巻回されたベルト18とから成る回転駆動手段14にて回転駆動可能に構成されている。
【0031】
円筒容器1の一端には、中空支軸6が貫通するリング状蓋体19が着脱可能に装着され、このリング状蓋体19の外側面に凹入形成された嵌合穴19aに支持リング8の嵌合筒部8aが着脱可能に密接嵌合されている。円筒容器1の他端には、閉鎖蓋体20が着脱可能に装着され、この閉鎖蓋体20の外側面に凹入形成された嵌合凹部20aに回転部材12が離脱可能に密接嵌合されている。なお、支持リング8の嵌合筒部8aとリング状蓋体19の嵌合穴19aとの嵌合部、及び回転部材12と閉鎖蓋体20の嵌合凹部20aとの嵌合部を、円筒容器1の中央側に向けてテーパするテーパ面に形成すると、精度の良い芯出しができて好適である。
【0032】
このような構成によって、円筒容器1の一端のリング状蓋体19に支持リング8の嵌合筒部8aを嵌合させ、円筒容器1の他端の閉鎖蓋体20に回転部材12を嵌合させて付勢手段13にて押し付けた状態で、回転駆動手段14にて回転体10を回転駆動することで、円筒容器1をその軸心回りに回転させることができる。また、回転部材12を付勢手段13に抗して退入させることで、回転部材12が閉鎖蓋体20から離脱し、さらに円筒容器1を他端側に移動させることで、リング状蓋体19が支持リング8から離脱して円筒容器1を取り外すことができる。また、取り外した円筒容器1の両端のリング状蓋体19と閉鎖蓋体20を取り外して、一方の端から筒状の多孔性部材4を押すことによって、多孔性部材4を取り出すことができる。
【0033】
以上の構成において、高分子溶液供給手段としての中空支軸6の供給通路7を通して所定量の高分子溶液2を円筒容器1内に供給し、円筒容器1に対して高電圧発生手段(図示せず)から所定の高電圧を印加することで、円筒容器1内に収容された高分子溶液2に電荷を帯電させる。この状態で回転駆動手段14にて円筒容器1を高速回転させることで、電荷を帯電された高分子溶液2が遠心力の作用によって、図4(b)に示すように、複数の小穴3から線状に流出して高分子線状体30が形成される。この高分子溶液線状体30がさらに遠心力で大きく延伸され、その後延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発することで一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的にさらに延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、複数の小穴3から流出した高分子溶液線状体30からサブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーが製造される。
【0034】
ここで、円筒容器1の小穴3から流出して形成された高分子溶液線状体30がまず遠心力で大きく延伸されるので、小穴3の直径を0.1〜2mm程度とすることができて、極端に小さくする必要がなく、また最初に静電爆発を発生させる場合とは異なって電荷を集中させる必要がないため、小穴3は細長いノズルに形成する必要がなく、また電界干渉に左右されないために高密度に配設しても確実かつ効果的に延伸させることができるので、多量のナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて効率的に製造することができる。また、円筒容器1の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができ、高い生産性を確保することができるとともに、形状・構成が簡単であるため設備コストの低廉化を図ることができる。また、小穴3は長く形成する必要がないので、円筒容器1の外周壁に単純に小穴3を設けるだけで良く、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴3を設けていてもメンテナンスも簡単である。
【0035】
さらに、小穴3の内側に多孔性部材4が配置されているので、この多孔性部材4が高分子溶液2に対して毛管現象を発揮することによって、小穴3の径dを大きく設定しても、図4(a)に示すように、高分子溶液2が多孔性部材4に適切に保持されて小穴3から不用意に垂れる恐れがない。例えば、従来例で説明したように、高分子材料がPVA、溶媒が水から成り、PVAの濃度が5%の高分子溶液2を用いた場合に、小穴3の径dを0.5mm以上に設定しても、円筒容器1がナノファイバーを形成できる所定の回転速度に達する前に、小穴3から高分子溶液2が多量に垂れてしまってナノファイバーを形成することができないということはない。しかも、多孔性部材4は円筒容器1内でその全体が常に高分子溶液2に浸漬している状態となっているので、高分子溶液2の溶媒が蒸発して多孔性部材4や小穴3の周縁に固化した高分子材料が付着する恐れもなく、円筒容器1の全ての小穴3から均一で品質の安定したナノファイバーを長期にわたって安定して製造することができ、簡単な構成にて品質の良いナノファイバーを生産性良くかつ安定して製造することができる。
【0036】
また、多孔性部材4は目詰まりを生じる可能性があるため、多孔性部材4に目詰まりが発生したとき、又はその前に定期的に、多孔性部材4又は円筒容器1の全体を交換する必要がある。本実施形態では、上述のように、回転部材12を付勢手段13に抗して退入させることで、円筒容器1を回転部材12と支持リング8の間から取り外し、円筒容器1の全体を交換することができる。また、取り外した円筒容器1の両端のリング状蓋体19と閉鎖蓋体20の少なくとも一方を取り外し、円筒容器1の内周に嵌合されている筒状の多孔性部材4を取り出し、多孔性部材4だけを交換することもできる。交換後は、容易に元の状態に組み付けることができる。
【0037】
かくして、円筒容器1自体、若しくは内部の多孔性部材4を容易にかつ短時間で交換することができるため、簡単なメンテナンス作業によって均一で品質の安定したナノファイバーを安定して製造することができる。
【0038】
なお、上記構成において、回転容器1の直径を100mm、小穴3の径dを0.5mm、回転速度を2000〜3000rpmに設定してナノファイバーを製造する場合に、動粘度が50〜2000mm2 /sの範囲の高分子溶液2を用いることで、上記作用に関して好適な結果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のナノファイバーの製造装置によれば、回転容器内で電荷を帯電された高分子溶液が複数の小穴から線状に流出して遠心力で延伸された後数次にわたって静電爆発により爆発的に延伸されることでナノファイバーが効率的に製造され、さらに小穴の内側に配置された多孔性部材により小穴の径を大きく設定しても毛管現象にて高分子溶液が小穴から垂れる恐れはなくかつ多孔性部材は常に高分子溶液に浸漬している状態となっていることで多孔性部材や小穴の周縁に固化した高分子材料が付着する恐れもなく、長期にわたって安定して均一で品質の安定したナノファイバーを製造することができるので、各種高分子ナノファイバーの製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態におけるナノファイバー製造装置の斜視図。
【図2】同実施形態のナノファイバー製造装置の縦断正面図。
【図3】同実施形態の蓋体を除いた円筒容器と多孔性部材を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A矢視断面図。
【図4】同実施形態における小穴と多孔性部材の作用を示し、(a)は円筒容器非回転時の断面図、(b)は円筒容器回転時の断面図。
【図5】従来例の高分子ウェブの製造装置の概略構成図。
【図6】同従来例の他の構成例の要部構成を示し、(a)は正面図、(b)は部分拡大下面図。
【図7】同従来例における問題点の説明図。
【図8】同従来例における更なる問題点の説明図。
【図9】本発明に先行して開発したナノファイバー製造装置の縦断正面図。
【図10】図9のナノファイバー製造装置における問題点の説明図。
【符号の説明】
【0041】
1 円筒容器(回転容器)
2 高分子溶液
3 小穴
4 多孔性部材
6 中空支軸(高分子溶液供給手段)
8 支持リング
12 回転部材
13 付勢手段
14 回転駆動手段
19 リング状蓋体
20 閉鎖蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されるとともに回転軸芯から径方向に距離をあけて複数の小穴を有する導電性の回転容器と、回転容器を回転駆動する回転駆動手段と、回転容器に電荷を帯電させる高電圧発生手段と、回転容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、回転容器内の小穴の内側に配置された多孔性部材とを備え、回転容器を所定速度で回転させながら、回転容器内に高分子溶液を供給し、回転容器に高電圧を印加するようにしたことを特徴とするナノファイバーの製造装置。
【請求項2】
回転容器を、周面に複数の小穴を有する円筒容器にて構成したことを特徴とする請求項1記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項3】
円筒容器の内周に接して筒状の多孔性部材を嵌合配置し、円筒容器の少なくとも一方の端に着脱可能な蓋体を配置したことを特徴とする請求項2記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項4】
高分子溶液供給手段が貫通する回転自在な支持リングに円筒容器の一端を着脱可能に嵌合させ、円筒容器の他端に回転駆動手段にて回転駆動される回転部材を離間可能に押圧させたことを特徴とする請求項2又は3記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項5】
多孔性部材は、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、金属、炭素繊維、パルプ繊維から選ばれた1種又は複数種の繊維又は線材にて構成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のナノファイバーの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−127726(P2008−127726A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317004(P2006−317004)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】