説明

ナノファイバーの製造装置

【課題】円筒容器を簡単に着脱できるとともに高い芯出し精度の取付状態が得られ、かつ安定して強固な支持状態を得ることができるナノファイバーの製造装置を提供する。
【解決手段】周面に複数の小穴2を有する導電性の円筒容器1と、円筒容器1を回転駆動するモータ9と、円筒容器1内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液12を供給する高分子溶液供給手段と、円筒容器1との間でナノファイバーを生成する場を形成するコレクタ22と円筒容器1との間に高電圧を印加して電界を発生させる高電圧発生手段23とを備えたナノファイバーの製造装置において、モータ9に連結されかつ回転自在に支持された回転軸7の先端部と、円筒容器1の一端壁の軸芯部に設けた結合ボス部4とを、テーパ嵌合により同心状態に芯出した状態で着脱可能に結合して円筒容器1を支持し、円筒容器1の他端に高分子溶液12を供給する開口6を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質から成るナノファイバーの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子物質から成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電荷誘導紡糸法(エレクトロスピニング法)が知られている。従来の電荷誘導紡糸法では、高電圧を印加した針状のノズルに高分子溶液を供給するように構成されており、針状のノズルから線状に流出した高分子溶液に電荷が帯電されることで、高分子溶液の溶媒蒸発に伴って帯電電荷間の距離が小さくなって作用するクーロン力が大きくなり、そのクーロン力が線状の高分子溶液の表面張力より勝った時点で線状の高分子溶液が爆発的に延伸される現象が生じ、この静電爆発と称する現象が、一次、二次、場合によっては三次等と繰り返されることで、サブミクロンの直径の高分子から成るナノファイバーが製造されるものである。
【0003】
こうして製造されたナノファイバーを電気的に接地されたコレクタ上に収集・堆積させることで、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができ、さらに厚く形成することでサブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブは、フィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができるとともに、このナノファイバーから成る高多孔性ウェブを適用することによってそれぞれ性能を飛躍的に向上させることが期待できる。
【0004】
ところで、従来の電荷誘導紡糸法では1本のノズルの先から1本から数本程度のナノファイバーしか製造されないので、ナノファイバー製造の生産性が上がらないという問題があった。そこで、ナノファイバーを多量に生成する方法として、複数のノズルを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、一層生産性良くナノファイバーを製造するため、ノズルの配置間隔を小さくし、単位面積当たりのノズル本数を多くしようとすると、各ノズルから流出した高分子物質が同極の電荷を帯電しているため、互いに反発し合って中央部のノズルからの流出が阻害されるとともに、周辺部のノズルからの流出方向が外側に向き、コレクタ上でのナノファイバーの堆積分布が中央部で極端に少なく、周辺部に集中してしまい、均一な高分子ウェブを製造することができないという問題があった。
【0006】
このような問題を解消するため、本出願人は先に、周面に複数の小穴を有する導電性の円筒容器の一端面に同一軸芯状に回転筒体を固定してその回転筒体を回転駆動可能に支持し、回転筒体内に挿通した溶液供給管を通して高分子溶液供給手段にて円筒容器内に高分子溶液を供給し、円筒容器に対してその軸心方向他端側に間隔をあけて配置した導電性のコレクタと円筒容器の間に高電圧を印加するとともに、回転筒体を回転駆動して円筒容器を回転させ、高分子溶液を小穴から線状に流出させるとともに電荷を帯電させ、線状の高分子溶液を遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノファイバーを生成し、コレクタ上にナノファイバーを収集・堆積させるように構成したものを提案している(特願2006−317003号参照)。
【0007】
一方、円筒容器を高速で回転させて遠心力で内部の流体を流出させる技術分野には遠心分離装置があり、その構成として、図7に示すように、円筒容器51の上端を、軸受53にて回転自在に支持されるとともに回転駆動手段54に連結された回転軸52に結合し、円筒容器51の下端に形成した開口55から、固形分を含有する原料液を供給するとともに、分離した固形物を排出するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。なお、図7において、56は開口55から円筒容器51内に原料液を供給する供液管、57は円筒容器51内で遠心力にて固形分と分離された原料液の上澄液を排出する分離液排出口、58は円筒容器51の内周に分離されて堆積・捕集された固形分を開口55から流動させて排出するために固形分に向けて洗浄ノズル59から洗浄液を吹き付ける洗浄管、60は分離液を回収する環状回収ホッパー、61は開口55から排出された固形分を回収する回収ホッパーである。
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【特許文献2】特開平4−135662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記本出願人の先願に係る遠心力を利用したナノファイバーの製造装置において、実用化に向けて検討を重ねる過程で次のような課題があることが判明した。まず、円筒容器の周面に設けた複数の小穴から高分子溶液を流出させるので、その小穴に目詰まりを発生することがあり、定期的に清掃を行う必要があるため、円筒容器を容易に取り外せる構造とする必要がある。また、大きな遠心力が得られるように円筒容器を高速回転させるため、取付後に煩雑な調整作業を行わずに回転中心が高精度に芯出しされる必要がある。しかも、円筒容器の何れか一方の端面には高分子溶液を供給する開口を形成するために片持支持する必要があり、片持支持構成でも長期にわたって安定して強固に支持できる構造にする必要がある。
【0009】
しかしながら、上記本出願人が先に提案したナノファイバーの製造装置の構成や、特許文献2に記載された遠心分離装置の技術をナノファイバーの製造装置に適用した構成においては、回転筒体や回転軸と円筒容器が一体的に固定されているので、このような課題を解決することはできないという問題がある。
【0010】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、円筒容器を簡単に着脱できるとともに高い芯出し精度の取付状態が得られ、かつ安定して強固な支持状態を得ることができるナノファイバーの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のナノファイバーの製造装置は、周面に複数の小穴を有する導電性の円筒容器と、円筒容器の回転駆動手段と、円筒容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、円筒容器との間でナノファイバーを生成する場を形成する物体又は部材と円筒容器との間に高電圧を印加して電界を発生させる高電圧発生手段とを備えたナノファイバーの製造装置において、回転駆動手段に連結されかつ回転自在に支持された回転軸の先端部と、円筒容器の一端壁の軸芯部に設けた結合ボス部とを、テーパ嵌合により同心状態に芯出した状態で着脱可能に結合して円筒容器を支持し、円筒容器の他端に高分子溶液を供給する開口を設けたものである。
【0012】
この構成によれば、円筒容器の他端の開口から供給された高分子溶液が円筒容器の複数の小穴から遠心力の作用によって線状に流出するとともに印加された電界にて電荷が帯電する。この線状に流出して帯電した高分子溶液が、遠心力の作用によってさらに延伸されて径が細くなるとともに溶媒が蒸発することで、電荷の集中による静電爆発にて爆発的に延伸される。かくして、サブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーを簡単かつコンパクトな構成にて多量に効率的に製造することができる。また、前記小穴の目詰まりを防止する清掃など、円筒容器のメンテナンスを行う場合に、回転軸から円筒容器のみを取り外すことができ、簡単に円筒容器を着脱してメンテナンスを行うことができ、かつ作業後には、回転軸の先端部に円筒容器の一端壁の結合ボス部をテーパ嵌合させて取付けることで、簡単に精度良く回転軸心の芯出しをした状態で取付けることができるとともに、長期にわたって芯ずれを発生する恐れのない、強固で安定した支持状態を得ることができる。
【0013】
なお、流出した高分子溶液に電荷を帯電させる電界を発生するには、円筒容器との間でナノファイバーを生成する場を構成する物体又は部材が地球又は地球に接地されたコレクタなどの部材である場合には、円筒容器に接地電位に対して正又は負の高電圧を印加する構成とすれば良い。また、円筒容器との間でナノファイバーを生成する場を構成するコレクタなどの部材に接地電位に対して正又は負の高電圧を印加する場合には、円筒容器を接地する構成としても、逆極性の高電圧を印加する構成としても良い。また、小穴は回転容器の周壁に直接穴を開けたものに限らず、回転容器の周壁に装着したノズル部材にて構成しても良いことは言うまでもない。また、開口の外周部に円筒容器内の余剰の高分子溶液を外部に流出させる堰を設けて、円筒容器内に常に一定量の高分子溶液が収容され、一定の遠心力が作用するようにするのが好適である。さらに、堰を構成する部材に質量を持たせると、一端を支持された円筒容器の遊端部に質量(マス)を有することで、円筒容器を芯ぶれを生じずに安定して高速回転させるのに寄与する。
【0014】
また、回転軸を、円筒容器の他端の開口から円筒容器内に挿入配置し、円筒容器の一端壁内面に結合ボス部を突設すると、円筒容器内に回転軸を挿入することで、円筒容器の他端側に、回転軸の支持・回転駆動機構及び高分子溶液の供給機構を配設して、円筒容器の一端側を開放した空間とすることができ、生成されたナノファイバーを円筒容器の一端側に流動させることができる。
【0015】
また、回転軸の先端部にテーパ部が形成されかつ端面にねじ穴が形成され、結合ボス部にはテーパ部が嵌合するテーパ穴部とその奥端から外面に貫通する貫通穴が形成されていると、テーパ部をテーパ穴部に嵌合させ、貫通穴を通してボルトをねじ穴に螺合させることで、ボルトにて円筒容器と回転軸を締結固定することができ、回転軸に対する円筒容器の取付作業が簡単な作業で完了することができる。
【0016】
また、結合ボス部に、テーパ穴部に連続してその最大径以上の内径を有する円筒穴部を設け、回転軸に、先端部のテーパ部と軸芯方向に間隔をあけて円筒穴部に嵌合する嵌合部を設けると、テーパ部とテーパ穴部の嵌合位置と、嵌合部と円筒穴部の嵌合位置との、間隔あけて位置する2箇所で、円筒容器が回転軸にて2点支持されるので、より強固に安定して支持することができる。
【0017】
また、嵌合部の外周に弾性体を配置した構成としても良く、そうすると弾性体にて寸法公差を吸収して、より安定して支持することができる。特に、円筒容器の他端へのマスの配設と組み合わせると、回転軸芯の芯出しがより効果的に行われて好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のナノファイバーの製造装置によれば、回転軸の先端部と円筒容器の結合ボス部とを着脱可能に結合した構成としているので、円筒容器の小穴の清掃など、円筒容器のメンテナンスを行う場合に、回転軸から円筒容器のみを取り外すことができ、簡単に円筒容器を着脱してメンテナンスを行うことができ、かつ作業後には、回転軸の先端部に円筒容器の一端壁の結合ボス部をテーパ嵌合させて取付けることで、簡単に精度良く回転軸心の芯出しをした状態で取付けることができるとともに、長期にわたって芯ずれを発生する恐れのない、強固で安定した支持状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のナノファイバーの製造装置の各実施形態について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
まず、本発明のナノファイバーの製造装置の第1の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0021】
図1において、1は直径が30〜400mmの円筒容器であり、周壁に直径が0.1〜2mm程度の小穴2が数mmピッチ間隔で多数形成されている。円筒容器1の一端は閉鎖され、その閉鎖壁3の軸芯部内面に結合ボス部4が突設されている。円筒容器1の他端内周には環状堰5が設けられ、その内側に開口6が形成されている。環状堰5は、外径D1が円筒容器1の内径に対応し、内径D2は、(D1−D2)/2が、所定の堰の高さ寸法hとなるように設定され、かつ軸芯方向の寸法tが円筒容器1の周壁を形成している板材に比して大きい寸法に設定された、質量(マス)のあるリング状の部材にて構成されている。
【0022】
円筒容器1の他端の開口6から円筒容器1の軸芯位置を貫通して一端の閉鎖壁3に向けて回転軸7が挿入され、その先端部が結合ボス部4に結合されている。回転軸7は、支持筒体9の一端部に配設された軸受部8にて水平軸芯回りに回転自在に支持されている。支持筒体9の他端部にはモータ10が配設され、モータ10の出力軸と回転軸7の他端とが軸継手7aを介して連結され、モータ10にて回転軸7を介して円筒容器1をその軸芯回りに回転駆動可能に構成されている。支持筒体9は、支持フレーム11の上部に配設されている。
【0023】
支持フレーム11上には、ナノファイバーの材料である高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液12を収容した収容容器13が配置され、収容容器13内の高分子溶液12を、供給ポンプ15にて吸入管14を通して吸引し、先端部が開口6を通して円筒容器1内に挿入された高分子溶液供給手段としての溶液供給管16にて円筒容器1内に所定流量で送給するように構成されている。
【0024】
高分子溶液12を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0025】
使用できる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0026】
円筒容器1内に高分子溶液12を供給しつつモータ10にて円筒容器1を回転させることで、過剰に供給された高分子溶液12が環状堰5を越して外部に流出し、円筒容器1の内周全周に均一に上記環状堰5の高さ寸法hに対応する厚さの高分子溶液12の層が形成される。支持筒体9の一端部外周に、円筒容器1の他端部外周を取り囲むように回収手段17が取り付けられている。この回収手段17にて円筒容器1から外部に流出した高分子溶液12を回収し、回収した高分子溶液12を戻し管17aを介して収容容器13に戻すように構成されている。
【0027】
収容容器13には、高分子溶液12の液面レベルを検出する液面センサ18が設けられ、検出した液面レベルが一定レベルに低下すると、貯留容器19から収容容器13に向けてギヤポンプなどの補給ポンプ20にて送給管21を通して高分子溶液12を送給し、収容容器13内の高分子溶液12の液面レベルをほぼ一定範囲内に維持するように構成されている。これによって消費された高分子溶液12に相当する量の高分子溶液12が自動的に補給される。
【0028】
円筒容器1の一端側の側方には、適当距離あけて対向するように導電性を有するコレクタ22が配設され、高電圧発生手段23にて発生させた負(又は正)の1kV〜100kV、好適には10kV〜100kVの高電圧が印加されている。一方、円筒容器1は接地手段25にて接地電位とされている。この円筒容器1とコレクタ22との間の大きな電位差によってそれらの間に電界が形成され、この電界によって、上記のようにナノファイバーが生成されるとともに、生成されたナノファイバーがコレクタ22に向けて流動し、コレクタ22上に収集・堆積される。このように円筒容器1とコレクタ22間に高電圧を印加することで、円筒容器1とコレクタ22の間に、例えば2m程度の距離が離れていても、生成されたナノファイバーをコレクタ22上に収集・堆積させることができる。なお、高電圧発生手段23としては、スイッチ(SW)23aにて必要に応じて任意にオン・オフ切替できるものが好適である。
【0029】
また、支持筒体9の円筒容器1とは反対側の側部に送風ファン25が配設され、この送風ファン25にて形成された矢印で示す気体流Wによって、円筒容器1から流出・延伸されて生成されたナノファイバーをコレクタ22に向けて流動させるとともに、蒸発した溶媒をナノファイバーを生成する場から速やかに排除してナノファイバーの生成作用を促進するように構成されている。
【0030】
次に、上記回転軸7の先端部と結合ボス部4の結合構成について、図2を参照して説明する。図2において、回転軸7の先端部にテーパ部26が形成されるとともに、その先端面の軸心部にねじ穴27が形成されている。また、結合ボス部4にはテーパ部26が嵌合するテーパ穴部28が形成されるとともに、その奥端から外面に貫通する貫通穴29が形成されている。円筒容器1を回転軸7に取付けるときには、回転軸7のテーパ部26を結合ボス部4のテーパ穴部28にテーパ嵌合させ、その状態でボルト30を貫通穴29を通してねじ穴27に螺合してボルト30にて締結固定する。
【0031】
次に、制御構成を図3を参照して説明する。図3において、モータ9と、供給ポンプ15と、高電圧発生手段23が制御部31にて制御される。制御部31は、操作部32からの作業指令により、記憶部33に記憶されている動作プログラムや操作部32から入力されて記憶している各種データに基づいて動作制御し、その動作状態や各種データを表示部34に表示する。
【0032】
以上の構成において、供給ポンプ15にて所定量の高分子溶液12を円筒容器1内に供給し、円筒容器1をモータ9にて高速で回転駆動させると、円筒容器1内の高分子溶液12に遠心力が作用して各小穴2から線状に流出し、さらに遠心力の作用で延伸されて細い高分子線状体が生成される。この高分子線状体は、円筒容器1の周囲に形成されている電界の作用を受けて電荷を帯電するとともに高分子溶液12の溶媒が蒸発することで高分子線状体の径が細くなる。それに伴って、帯電した電荷が集中し、そのクーロン力が高分子溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発等が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有する高分子物質から成るナノファイバーが効率的に生成される。
【0033】
ここで、円筒容器1内に供給された過剰の高分子溶液12は、円筒容器1の一端の環状堰5から直接円筒容器1外に円滑に流出するので、円筒容器1内の内周には、略一定の厚さhの高分子溶液12の層が応答性良く均一に形成される。このように円筒容器1内の高分子溶液12の量が常にほぼ一定に制御されるので、円筒容器1内の高分子溶液12に一定の遠心力が作用し、円筒容器1の小穴2から押し出される高分子溶液12に作用する遠心力が一定し、高分子溶液12を均一に線状に流出させることができ、その結果均一なナノファイバーを製造することができる。また、円筒容器1から流出した高分子溶液12は回収手段17を介して収容容器13に回収されて再使用される。
【0034】
こうして生成されたナノファイバーは、電界の作用及び気体流Wによりコレクタ22に向けて流動し、コレクタ22上に収集・堆積し、高多孔質の高分子ウェブが形成される。また、気体流Wにより、上記ナノファイバーの生成工程で蒸発した溶媒が、ナノファイバーを生成する場から速やかに排除されるので、溶媒の蒸発が促進され、より効率的にナノファイバーが生成される。
【0035】
また、円筒容器1の全周から均一に多量のナノファイバーを一度に製造することができるので、高い生産性を確保することができるとともに、円筒容器1の形状・構成が簡単であるため設備コストの低廉化を図ることができる。また、小穴2を長く形成する必要がないので、容易かつ安価に製作でき、かつ多数の小穴2を設けていてもメンテナンスも簡単である。
【0036】
そして、回転容器1の小穴2の目詰まりを防止する清掃など、円筒容器1のメンテナンスを行う場合には、回転軸7に対して円筒容器1が着脱自在に取付けられているので、円筒容器1のみを着脱してメンテナンスを行うことができる。また、作業後には、回転軸7の先端部のテーパ部26に、円筒容器1の一端の閉鎖壁3の内面に設けた結合ボス部4のテーパ面28を嵌合させることで、簡単に精度良く回転軸心の芯出しをした状態で取付けることができるとともに、長期にわたって芯ずれを発生する恐れのない、強固で安定した支持状態を得ることができる。
【0037】
また、回転軸7を、円筒容器1の他端の開口6から円筒容器1内に挿入配置し、円筒容器1の一端の閉鎖壁3の内面に結合ボス部4を突設しているので、円筒容器1の他端側に、回転軸7の支持・回転駆動機構及び高分子溶液12の供給機構を配設して、円筒容器1の一端側を開放した空間とすることができ、生成されたナノファイバーを円筒容器1の一端側に流動させることができる。
【0038】
また、回転軸7の先端部にテーパ部26を、その先端面にねじ穴27を形成し、結合ボス部4にはテーパ部26が嵌合するテーパ穴部28とその奥端から外面に貫通する貫通穴29を形成して、テーパ部26をテーパ穴部28に嵌合させ、貫通穴29を通してボルト30をねじ穴27に螺合させることで、ボルト30にて円筒容器1と回転軸7を締結固定するようにしているので、回転軸7に対する円筒容器1の取付作業が簡単な作業で完了することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第2の実施形態について、図4を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明では、先行する実施形態と同一の構成要素については同一の参照符号を付して説明を省略し、主として相違点についてのみ説明する。
【0040】
上記第1の実施形態では、回転軸7の先端部のテーパ部26と結合ボス部4のテーパ穴部28のテーパ嵌合部の1点で円筒容器1を嵌合支持するようにした例を示したが、本実施形態では、図4(a)に示すように、結合ボス部4に、テーパ穴部28に連続してその最大径と同一径またはそれ以上の内径を有する円筒穴部35を設け、回転軸7には、先端部のテーパ部26との間に小径軸部36を介して軸芯方向に間隔をあけて円筒穴部35に嵌合する嵌合部37を設けている。円筒容器1を回転軸7に取付けるときには、図4(b)に示すように、回転軸7のテーパ部26と嵌合部37を、それぞれ結合ボス部4のテーパ穴部28と円筒穴部35に嵌合させ、その状態でボルト30を貫通穴29を通してねじ穴27に螺合してボルト30にて締結固定する。
【0041】
本実施形態によれば、テーパ部26とテーパ穴部28の嵌合位置と、嵌合部37と円筒穴部35の嵌合位置の、間隔あけて位置する2箇所で、円筒容器1が回転軸7に2点支持されるので、円筒容器1をより強固に安定して支持することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第3の実施形態について、図5を参照して説明する。
【0043】
上記第2の実施形態では、結合ボス部4の円筒穴部35に、回転軸7と一体の嵌合部37を嵌合させる例を示したが、本実施形態では、図5に示すように、円筒穴部35より小径の嵌合部38を設けてその外周にOリングやパッキンなどの弾性体39を配置し、その弾性体39を円筒穴部35に嵌合させるようにしている。この本実施形態の構成によれば、弾性体39にて寸法公差を吸収して、高速回転時の芯振れを無くしてより安定して支持することができる。
【0044】
(第4の実施形態)
次に、本発明のナノファイバーの製造装置の第4の実施形態について、図6を参照して説明する。
【0045】
上記第1〜3の実施形態では、円筒容器1の周面の小穴2は、円筒容器1の周壁に単純に穴を開けて形成したものを例示したが、図6に示すように、円筒容器1の周壁に短寸のノズル40を装着若しくは一体的に突出形成し、そのノズル穴41にて小穴2を構成しても良い。
【0046】
なお、以上の各実施形態の説明では、円筒容器1を接地し、コレクタ22に高電圧を印加するようにした例を示したが、ナノファイバーを生成するには、円筒容器1とコレクタ22の間に高い電位差を付与してそれらの間に電界を発生させれば良いので、より強い電界を発生するために、円筒容器1を単に接地するのではなく、円筒容器1に対して別の高電圧発生手段(図示せず)にてコレタクタ22に対する印加電圧とは逆極性の高電圧を印加するようにしてもよい。また、円筒容器1側に高電圧を印加し、コレクタ22を接地電位としても良い。しかし、上記実施形態のように円筒容器1を接地し、コレクタ22に高電圧を印加する構成によれば、回転機構や高分子溶液供給機構を、高電圧に対する絶縁構造とする必要がないので、構成が簡単でかつ安全性が向上するので好ましい。さらに、以上の説明では、円筒容器1とコレクタ22間に高電圧を印加すると説明したが、要するに、円筒容器1の周面の小穴から流出する高分子溶液に帯電するように構成すれば良いのである。
【0047】
また、上記実施形態では、円筒容器1の一端側の側方に送風ファン25を配設した例を示したが、送風ファン25は必ずしも設けなくて良い。また、円筒容器1に高電圧を印加する場合に、送風ファン25に代えて、若しくは送風ファン25とともに、反射電極(図示せず)を配設し、円筒容器1の小穴から流出する高分子溶液の帯電と同極の高電圧を印加するようにしても良い。また、反射電極を送風ファン25と併用して配設する場合、反射電極は金網状にして送風が通過させるようにする。このように反射電極(図示せず)を設けると、反射電極とコレクタ22の間の電界の作用で、生成されたナノファイバーをより強く円筒容器1の他端側の側方に向けて流動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のナノファイバーの製造装置によれば、回転容器の小穴の目詰まりの発生に対して簡単かつ作業効率良くメンテナンス作業を行うことができるので、高品質のナノファイバーを生産性良く製造するのに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態のナノファイバーの製造装置の縦断正面図。
【図2】同実施形態における円筒容器と回転軸の結合部の詳細構成を示す断面図。
【図3】同実施形態の制御構成を示すブロック図。
【図4】本発明の第2の実施形態のナノファイバーの製造装置における円筒容器と回転軸の結合部の詳細構成を示し、(a)、(b)は結合工程の断面図。
【図5】本発明の第3の実施形態のナノファイバーの製造装置における円筒容器と回転軸の結合部の詳細構成を示す断面図。
【図6】本発明の第4の実施形態の円筒容器の部分断面図。
【図7】従来例の遠心分離装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0050】
1 円筒容器
2 小穴
3 閉鎖壁(一端壁)
4 結合ボス部
6 開口
7 回転軸
10 モータ(回転駆動手段)
12 高分子溶液
16 溶液供給管(高分子溶液供給手段)
22 コレクタ
23 高電圧発生手段
26 テーパ部
27 ねじ穴
28 テーパ穴部
29 貫通穴
35 円筒穴部
37 嵌合部
38 嵌合部
39 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面に複数の小穴を有する導電性の円筒容器と、円筒容器の回転駆動手段と、円筒容器内に溶媒に高分子物質を溶解した高分子溶液を供給する高分子溶液供給手段と、円筒容器との間でナノファイバーを生成する場を形成する物体又は部材と円筒容器との間に高電圧を印加して電界を発生させる高電圧発生手段とを備えたナノファイバーの製造装置において、回転駆動手段に連結されかつ回転自在に支持された回転軸の先端部と、円筒容器の一端壁の軸芯部に設けた結合ボス部とを、テーパ嵌合により同心状態に芯出した状態で着脱可能に結合して円筒容器を支持し、円筒容器の他端に高分子溶液を供給する開口を設けたことを特徴とするナノファイバーの製造装置。
【請求項2】
回転軸は、円筒容器の他端の開口から円筒容器内に挿入配置され、円筒容器の一端壁内面に結合ボス部が突設されていることを特徴とする請求項1記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項3】
回転軸の先端部にテーパ部が形成されかつ端面にねじ穴が形成され、結合ボス部にはテーパ部が嵌合するテーパ穴部とその奥端から外面に貫通する貫通穴が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項4】
結合ボス部に、テーパ穴部に連続してその最大径以上の内径を有する円筒穴部を設け、回転軸に、先端部のテーパ部と軸芯方向に間隔をあけて円筒穴部に嵌合する嵌合部を設けたことを特徴とする請求項3記載のナノファイバーの製造装置。
【請求項5】
嵌合部の外周に弾性体を配置したことを特徴とする請求項4記載のナノファイバーの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−7716(P2009−7716A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171876(P2007−171876)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】